本発明の実施形態による窒化ガリウム(GaN)材料100について説明する。また、GaN材料100に対する陽極酸化を用いたエッチング(光電気化学(PEC)エッチングともいう)について説明する。PECエッチングは、GaN材料100を加工する方法として用いることができ、また、GaN材料100の特性を評価する方法として用いることができる。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10(基板10ともいう)を例示する。図1(a)~1(g)は、ボイド形成剥離(VAS)法を用いて基板10を製造する工程を示す概略断面図である。まず、図1(a)に示すように、下地基板1を用意する。下地基板1として、サファイア基板が例示される。
次に、図1(b)に示すように、下地基板1上に下地層2を形成する。下地層2は、例えば、低温成長されたGaNで構成されたバッファ層と、GaNの単結晶層と、の積層で構成される。バッファ層および単結晶層は、例えば有機金属気相成長(MOVPE)により形成される。ガリウム(Ga)原料として例えばトリメチルガリウム(TMG)が用いられ、窒素(N)原料として例えばアンモニア(NH3)が用いられる。バッファ層の厚さ、単結晶層の厚さは、それぞれ、例えば20nm、0.5μmである。
次に、図1(c)に示すように、下地層2上に金属層3を形成する。金属層3は、例えば、チタン(Ti)を厚さ20nm蒸着することで形成される。
次に、図1(d)に示すように、熱処理により、金属層3を窒化してナノマスク3aを形成するとともに、下地層2にボイドを形成してボイド含有層2aを形成する。当該熱処理は、例えば以下のように行われる。下地層2および金属層3が形成された下地基板1を、電気炉内に投入し、ヒータを有するサセプタ上に載置する。そして、下地基板1を、水素ガス(H2ガス)または水素化物ガスを含む雰囲気中で加熱する。具体的には、例えば、窒化剤ガスとして20%のNH3ガスを含有するH2ガス気流中において、所定の温度、例えば850℃以上1,100℃以下の温度で、20分間の熱処理を行う。
当該熱処理により、金属層3が窒化されることで、表面に高密度の微細孔を有するナノマスク3aが形成される。また、ナノマスク3aの微細孔を介して下地層2の一部がエッチングされることで、下地層2中にボイドが生じ、ボイド含有層2aが形成される。このようにして、下地基板1上に形成されたボイド含有層2aおよびナノマスク3aを有するボイド形成基板4が作製される。
当該熱処理は、以下のように行われることが好ましい。当該熱処理は、ボイド含有層2a中に占めるボイドの体積比率である「ボイド化率(体積空隙率)」が、下地基板1上で周方向に均等になるように行われる。具体的には、例えば、下地基板1を載置するサセプタを回転させることで、周方向に均等な熱処理を行う。また例えば、下地基板1の面内でヒータの加熱具合を調節することで、成長基板の温度分布を周方向に均等にする。さらに、当該熱処理は、ボイド含有層2aのボイド化率が、下地基板1の中心側から外周側に向けて径方向に滑らかに増加するように行われる。具体的には、例えば、下地基板1の面内でヒータの加熱具合を調節することで、下地基板1の温度を中心側から外周側に向けて径方向に単調に高くする。
次に、図1(e)に示すように、ボイド形成基板4のナノマスク3a上に、結晶体6を成長させる。結晶体6は、気相法、具体的にはハイドライド気相成長(HVPE)法により成長させる。ここで、HVPE装置200について説明する。図2は、HVPE装置200を例示する概略構成図である。
HVPE装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、処理対象であるボイド形成基板4を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器203の一端には、成膜室201内へ塩酸(HCl)ガス、NH3ガス、窒素ガス(N2ガス)を供給するガス供給管232a~232cが接続されている。ガス供給管232cには水素(H2)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a~232dには、上流側から順に、流量制御器241a~241d、バルブ243a~243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に保持されたボイド形成基板4に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b、232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に保持されたボイド形成基板4に向けて供給するノズル249b、249cがそれぞれ接続されている。気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上に保持されたボイド形成基板4を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
結晶体6の成長処理は、HVPE装置200を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器233a内に原料としてGaを収容する。また、サセプタ208上にボイド形成基板4を保持する。そして、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へH2ガスとN2ガスとの混合ガスを供給する。そして、成膜室201内が所望の成膜温度、成膜圧力に到達し、また、成膜室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行うことにより、ボイド形成基板4に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH3ガスとを供給する。
結晶体6の成長処理の処理条件としては、以下が例示される。
成長温度Tg:980~1,100℃、好ましくは1,050~1,100℃
成膜室201内の圧力:90~105kPa、好ましくは90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:4~20
N2ガスの分圧/H2ガスの分圧:1~20
当該成長処理において、ボイド含有層2aを起点として成長を開始したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現れることで、ナノマスク3a上に初期核が形成される。初期核が、厚さ方向(縦方向)および面内方向(横方向)に成長し、面内で互いに結合することで、GaN単結晶からなる連続膜の結晶体6が形成される。初期核が形成されなかった領域では、ナノマスク3aと結晶体6との間に、ボイド含有層2aのボイドを起因とする空隙5が形成される。ボイド含有層2aのボイド化率を上述のように制御したことで、空隙5は、周方向に均等に、また、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成される。
当該成長処理では、ボイド形成基板4上に結晶体6を成長させることで、例えばストライプマスクを用いたELO(Epitaxially Lateral Overgrowth)のような、初期核の発生密度を不均一に分布させることで局所的に転位密度が非常に高い(例えば1×107/cm2以上である)転位集中領域を生じさせる方法と比べて、初期核の発生密度の分布を均一にできる。このため、面内における最大の転位密度を低く(例えば1×107/cm2未満に)抑制できる。
さらに、当該成長処理では、ボイド化率の低い径方向中心側ほど、ボイド含有層2aから成長したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現れやすいため、初期核が早い時期に形成されやすい。換言すると、ボイド化率の高い径方向外側ほど、ボイド含有層2aから成長したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現われにくいため、初期核が遅い時期に形成されやすい。これに伴い、初期核の成長と結合を、径方向中心側から外側に向かってだんだんと進行させることができるため、各初期核を大きく成長させやすい。また、このような初期核の成長と結合は、周方向に均等に進行させることができる。この結果、結晶体6における面内均一性等の結晶品質を、より高めることができる。
成長させる結晶体6の厚さは、結晶体6から少なくとも1枚の自立した基板10が得られる厚さ、例えば0.2mm以上の厚さであることが好ましい。成長させる結晶体6の厚さの上限は、特に制限されない。
次に、図1(f)に示すように、結晶体6をボイド形成基板4から剥離させる。この剥離は、結晶体6の成長中において、あるいは、結晶体6の成長後に成膜室201内を冷却する過程において、結晶体6がナノマスク3aとの間に形成された空隙5を境にボイド形成基板4から自然に剥離することで行われる。
結晶体6が成長する際に結合した初期核間に、互いに引き合う力が働くことで、結晶体6には引張応力が導入されている。当該引張応力に起因して、剥離した結晶体6は、成長側表面が凹むように反る。これにより、剥離した結晶体6を構成するGaN単結晶のc面は、結晶体6の主面6sの中心の法線方向に垂直な仮想面に対して、凹の球面状に湾曲する。ここで「球面状」とは、球面近似される曲面状のことを意味している。また、ここでいう「球面近似」とは、真円球面または楕円球面に対して所定の誤差の範囲内で近似されることを意味している。
空隙5が、周方向に均等で、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成されていることにより、結晶体6を、ボイド形成基板4の外周側から中心側に向けて、かつ、周方向に均等に剥離させることができる。これにより、結晶体6の反り形状に合った自然な剥離を行うことができるため、剥離に起因する不要な応力の発生を抑制できる。以上のように、本製造方法では、ボイド化率を上述のように制御しつつVAS法により結晶成長を行うことで、面内均一性等の結晶品質がより高められた結晶体6を得ることができる。
所定厚さの結晶体6を成長させた後、成長処理に用いた各種ガスの供給を停止し、成膜室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。成膜室201内を搬出作業が可能な温度にまで低下させた後、成膜室201内からボイド形成基板4および結晶体6を搬出する。
次に、図1(g)に示すように、結晶体6に、機械加工(例えばワイヤーソーによる切断)および研磨を適宜施すことで、結晶体6から1枚または複数枚の基板10を得る。図1(g)に例示する基板10の主面10sに対して最も近い低指数の結晶面はc面である。
以上のようにして、基板10が製造される。基板10は、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されている(転位密度が1×107/cm2以上の領域を有しない)ことに加え、高い面内均一性を有する。基板10の転位密度が抑制されていることは、具体的には例えば以下のような条件で表される。基板10の主面10s内で、カソードルミネッセンス(CL)法により、3mm角の測定領域中で、1箇所当たり直径500μmの大きさの観察領域を走査して、10箇所程度の測定を行う。このとき、最大の転位密度は、1×107/cm2未満、好ましくは例えば5×106/cm2以下である。平均的な転位密度は、好ましくは例えば3×106/cm2以下である。最小の転位密度は、特に制限されない。最小の転位密度に対する最大の転位密度の比は、最小の転位密度が低いほど大きくなり得るが、目安としては、例えば100倍以下、また例えば10倍以下である。
本願発明者は、第1実施形態によるGaN材料100である基板10は、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料であるとの知見を得た。PECエッチング、および、形成される凹部の内面の平坦性については、詳細を後に説明する。PECエッチングにより凹部が形成される面(被エッチング面ともいう)として、例えば主面10sが用いられる。
基板10には、不純物が添加されてもよい。不純物が添加される場合、図2に示すHVPE装置200に、当該不純物を含有するガスを供給するためのガス供給管等が追加されてよい。不純物は、例えば、基板10に導電性を付与するための不純物であり、例えばn型不純物である。n型不純物としては、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)が用いられる。例えばSiが添加される場合、Si原料としては例えばジクロロシラン(SiH2Cl2)が用いられる。不純物は、また例えば、基板10に半絶縁性を付与するための不純物であってよい。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、併せて第1実験例についても説明する。第2実施形態では、図3に示すように、GaN材料100として、基板10と、基板10上にエピタキシャル成長されたGaN層20(エピ層20ともいう)と、を有する積層体30(エピ基板30ともいう)を例示する。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
第2実施形態は、基板10およびエピ層20に、それぞれ、n型不純物が添加されている場合を例示する。基板10およびエピ層20の構造は、特に制限されないが、例えば以下が例示される。基板10には、n型不純物として、例えば、Siが1×1018/cm3以上1×1019/cm3以下の濃度で添加されている。エピ層20には、例えば、Siが3×1015/cm3以上5×1016/cm3以下の濃度で添加されている。エピ基板30を半導体装置の材料として用いる際、基板10は電極とのコンタクト層、エピ層20はドリフト層としての使用が想定され、エピ層20には、耐圧向上の観点から、基板10よりも低濃度のn型不純物が添加されているとよい。基板10の厚さは、特に制限されないが、例えば400μmである。エピ層20の厚さは、例えば、10μm以上30μm以下である。エピ層20は、n型不純物濃度が異なる複数のGaN層の積層で構成されていてもよい。
エピ層20は、基板10の主面10s上に、例えばMOVPEにより成長される。Ga原料としては例えばTMGが用いられ、N原料としては例えばNH3が用いられ、Si原料としては例えばモノシラン(SiH4)が用いられる。エピ層20は、基板10の結晶性を引き継いで成長するので、基板10と同様に、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されていることに加え、高い面内均一性を有する。
本願発明者は、第2実施形態によるGaN材料100であるエピ基板30は、以下の第1実験例で詳細を説明するように、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料であるとの知見を得た。
ここで、第1実験例に沿って、PECエッチング、および、PECエッチングによって形成される凹部の内面の平坦性について説明する。図4は、PECエッチングに用いられる電気化学セル300を例示する概略構成図である。容器310に、電解液320が収容されている。電解液320としては、例えば、界面活性剤としてSigmaChemical製、Triton(登録商標)X-100が1%添加された0.01Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が用いられる。
カソード電極330として、例えばプラチナ(Pt)コイルが用いられる。カソード電極330は、電解液320中に配置されている。アノード電極340として、GaN材料100が用いられる。容器310は開口311を有しており、シーリングリング312が、開口311を取り囲み容器310とGaN材料100との間に介在するように、配置されている。シーリングリング312の、容器310と反対側の開口313が、GaN材料100により塞がれるように、GaN材料100が配置されている。これにより、GaN材料100は、シーリングリング312の穴内に充填された電解液320と接触する。GaN材料100(アノード電極340)には、電解液320と接触しないように、オーミック接触プローブ341が取り付けられている。
カソード電極330と、アノード電極340に取り付けられたオーミック接触プローブ341との間は、配線350により接続される。配線350の途中に、電圧源360が挿入されている。電圧源360は、カソード電極330とアノード電極340との間に、所定のタイミングで所定のエッチング電圧を印加する。
容器310の外部に光源370が配置されている。光源370は、所定のタイミングで所定の照射強度の紫外(UV)光371を放出する。光源370としては、例えば水銀キセノン(Hg-Xe)ランプ(例えば、浜松ホトニクス(株)製、LIGHTNINGCURE(登録商標)L9566-03)が用いられる。容器310に、UV光371を透過させる窓314が設けられている。光源370から放射されたUV光371が、窓314、電解液320、容器310の開口311、および、シーリングリング312の開口313を介して、GaN材料100(アノード電極340)に照射される。容器310に、ポンプ380が取り付けられている。ポンプ380は、所定のタイミングで、容器310内の電解液320を攪拌する。
アノード電極340にUV光371が照射されることで、アノード電極340およびカソード電極330では、それぞれ以下の反応が進行する。アノード電極340では、UV光371の照射で発生したホールによりGaNがGa
3+とN
2とに分解され(化1)、さらにGa
3+がOH
-基によって酸化されることで(化2)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)が生成する。生成されたGa
2O
3が、電解液320であるNaOH水溶液により溶解されることで、アノード電極340が、つまりGaN材料100が、エッチングされる。このようにして、PECエッチングが行われる。
(アノード反応)
(カソード反応)
第1実験例において具体的には、アノード電極340となるGaN材料100として、エピ基板30を用いた。より詳細には、エピ基板30のエピ層20側を電解液320と接触させた状態でエピ層20にUV光371を照射することにより、エピ層20を陽極酸化させてエッチングした。つまり、被エッチング面としてエピ層20の主面20sを用いた。
第1実験例では、基板10として、Si濃度が1~2×1018/cm3のGaN基板を用いた。基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が9×1015/cm3で厚さ13μmのGaN層とをMOVPEで成長させることで、エピ層20を形成した。エピ基板30の全体のサイズは、直径2インチ(5.08cm)とし、エピ層20が電解液320と接触してエッチングされる領域のサイズ、つまりシーリングリング312の穴の開口313のサイズは、直径3.5mmとした。
被エッチング面における照射強度は9mW/cm2とした。UV光照射およびエッチング電圧印加を同時に13秒間行った後、UV光照射およびエッチング電圧印加を9秒間停止するように、UV光照射およびエッチング電圧印加を、間欠的に繰り返した。つまり、パルス陽極酸化を行った。エッチング電圧を0V、1V、2Vおよび3Vと変化させることで、PECエッチングによって形成される凹部の底面の平坦性がどのように変化するか調べた。以下、図5~13を参照して、第1実験例の結果について説明する。
なお、各種材料に対してPECエッチングを行う市販の装置においては、エッチング電圧として3V超の高い電圧が設定されることが通常である。本実験例は、3V以下の低いエッチング電圧範囲を対象としている点で、特徴的である。
図5は、PECエッチングのシーケンスを示すタイミングチャートである。上述のように、UV光照射(Lumpと示す)およびエッチング電圧印加(Vetchと示す)を同時に13秒間行った後、UV光照射およびエッチング電圧印加を9秒間停止するように、UV光照射およびエッチング電圧印加を、間欠的に繰り返す。UV光照射およびエッチング電圧印加が停止されている期間に、より詳しくは当該期間の前半の5秒間に、ポンプ380により電解液320を攪拌する(Pumpと示す)。
図5の下部に、エッチング電圧が0V、1V、2Vおよび3Vの場合のエッチング電流を示す。どのエッチング電圧においても、UV光の照射期間には、エッチング電流が流れ、UV光の停止期間には、エッチング電流が流れない。UV光の照射期間において、エッチング電圧が0Vであっても、上述のアノード反応に従ってOH-基がアノード電極340に到達することで、エッチング電流が流れる。エッチング電圧が増加するほど、アノード電極340にOH-基を引き付ける駆動力が増すため、エッチング電流が増加する。
図6は、陽極酸化により消費された単位面積当たりの電荷量と、エッチング深さとの関係を示すグラフである。エッチング電圧が0Vの結果を四角のプロットで示し、エッチング電圧が1Vの結果を三角のプロットで示し、エッチング電圧が2Vの結果を菱形のプロットで示し、エッチング電圧が3Vの結果を円形のプロットで示す。このようなプロットの仕方は、後述の図7でも同様である。
エッチング深さは、段差計(Sloan,Dettak
3 ST)により測定した。エッチング深さは、消費された電荷量に対して線形に変化していることがわかる。エッチング深さW
rは、ファラデーの法則により、
と表される。ここで、MはGaNの分子量、zはGaN1mol当たりの陽極酸化に必要な価数、Fはファラデー定数、ρはGaNの密度、Jはエッチング電流密度である。式(1)より、1molのGaNを陽極酸化するために必要なホールは、z=5.3~6.8molである。Ga
2O
3生成(化1および化2)のみであれば、z=3molとなる。そのため、この結果は、アノード電極340において、Ga
2O
3生成に加え酸素ガス生成も起こり、ホールが消費されていることを示している。
図7は、エッチング深さと、形成された凹部の底面における算術平均線粗さRa(本明細書において、これを単に「線粗さRa」と称することがある)との関係を示すグラフである。線粗さRaは、触針式段差計(Sloan,Dettak3ST)により測定した。触針式段差計による測定において、線粗さRaは、評価長さ500μmのうち、基準長さを100μmとして算出した。つまり、線粗さRaを求めるための測定長さは、100μmとした。図7において、代表的にエッチング電圧1Vの結果が拡大して示されており、エッチング電圧0V、2Vおよび3Vの結果が、エッチング電圧1Vの結果と併せて、右下部に縮小して示されている。
エッチング深さが0μm以上10μm以下の範囲において、いずれの深さにおいても、エッチング電圧1Vの線粗さRaが、顕著に小さいことがわかる。例えば、エッチング深さ10μmにおいて、エッチング電圧2Vの線粗さRaが150nm程度であるのに対し、エッチング電圧1Vの線粗さRaは8nm程度であり、10nm以下と非常に小さい。つまり、エッチング電圧1Vにおいて、形成された凹部の底面の平坦性が顕著に高いことがわかる。なお、凹部が深いほど、底面の平坦性が低下する傾向が観察される。
図8は、エッチング深さ2μmの場合の、エッチング電圧と、線粗さRaとの関係を示すグラフ(図7のエッチング深さ2μmの結果をプロットし直したもの)である。図9は、図8のエッチング電圧1Vの近傍を拡大したグラフである。
線粗さRaは、エッチング電圧0V、1V、2Vおよび3Vにおいて、それぞれ、17nm、3.5nm、40nmおよび70nmである。エッチング電圧1Vでは、線粗さRaが5nm以下の非常に平坦な底面が得られている。この結果から、線粗さRaが例えば15nm以下となるエッチング電圧は、0.16V以上1.30V以下の範囲の電圧と見積もられ、線粗さRaが例えば10nm以下となるエッチング電圧は、0.52V以上1.15V以下の範囲の電圧と見積もられる。
図10(a)~10(c)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2Vおよび1Vの場合に形成された凹部の底面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。図10(d)は、エッチングなしの場合の表面のSEM像である。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。
図11(a)~11(d)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2V、1Vおよび0Vの場合に形成された凹部の底面の光学顕微鏡像である。各像の左部に示された円形状の領域が、エッチングされた領域すなわち凹部を示す。エッチング電圧1Vにおいて、例えば500μm角以上の、また例えば1mm角以上の広い領域に亘って、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。
図12(a)~12(d)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2V、1Vおよび0Vの場合に形成された凹部の底面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の5μm角の測定領域(評価領域)に対してAFMにより測定された算術平均面粗さRaは、2.6nmである。なお、エッチング電圧0Vでは、比較的平坦性の高い領域と比較的平坦性の低い領域とが混在するムラが観察される。これは、エッチング電圧が印加されないことで、OH-基の供給されやすさ、つまりGa2O3の生成されやすさが領域によりばらついて、エッチングされやすい領域とエッチングされにくい領域とが生じるためではないかと推測される。
図13は、PECエッチングによりGaN材料のフォトルミネッセンス(PL)特性がどのように変化するかを示すグラフであり、エッチングなしの場合、および、エッチング電圧が0V、1V、2Vおよび3Vの場合の、PL発光スペクトルを示す。PL発光スペクトルのGaNのバンド端(3.4eV程度)におけるピーク強度を、バンド端ピーク強度と呼ぶ。どのエッチング電圧におけるバンド端ピーク強度も、エッチングなしの場合のバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有している。つまり、どのエッチング電圧を用いても、陽極酸化に起因するバンド端ピーク強度の変化率(減少率)は、10%未満である。このように、PECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えずに、GaN材料を加工できる手法であることが示された。
第1実験例の結果は、以下のようにまとめられる。エッチング電圧を0V、1V、2Vおよび3Vと変化させて、PECエッチングによりGaN材料100に凹部を形成する場合、凹部の底面の平坦性は、エッチング電圧1Vで最も高い。エッチング電圧が例えば2Vまたは3Vと過度に高いと、激しいエッチングが生じることで、凹部の底面の平坦性が低くなると推測される。一方、エッチング電圧が0Vと過度に低いと、エッチングされやすい領域とエッチングされにくい領域とが生じることで、凹部の底面の平坦性が低くなると推測される。
エッチング電圧が1V程度であると、適度なエッチングが生じることで、凹部の底面の平坦性が高くなると推測される。具体的には、例えば、形成される凹部の底面の線粗さRaを15nm程度以下とする目安として、エッチング電圧を0.16V以上1.30V以下の範囲の電圧とすることが好ましい。また例えば、形成される凹部の底面の線粗さRaを10nm程度以下とする目安として、エッチング電圧を0.52V以上1.15V以下の範囲の電圧とすることが好ましい。
このように、第1実験例では、1V程度のエッチング電圧で、平坦性の高いPECエッチングを行うことができた。1V程度のエッチング電圧は、PECエッチングに通常用いられる例えば3V超のエッチング電圧と比べて、非常に低い。このような低いエッチング電圧でPECエッチングが行えるためには、まず、被エッチング面内におけるGaN材料100の転位密度が十分に低い(例えば、転位密度が最大でも1×107/cm2未満である、つまり、転位密度が1×107/cm2以上の領域を有しない)ことが好ましいと考えられる。転位密度が過度に高い(例えば1×107/cm2以上である)領域は、UV光照射により発生したホールをトラップすることで、陽極酸化を阻害するからである。さらに、このような低いエッチング電圧で平坦性の高いエッチングを行うためには、陽極酸化のされやすさのばらつきが抑制されるように、被エッチング面内におけるGaN材料100の面内均一性が高いことが好ましい。
このような考察を踏まえると、PECエッチングで形成される凹部の底面の線粗さRaは、GaN材料100の特性(転位密度の低さおよび面内均一性)を評価する指標として用いることができる。第1、第2実施形態によるGaN材料100、つまり基板10およびエピ基板30は、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成することができるGaN材料として特徴付けられる。具体的には、第1、第2実施形態によるGaN材料100は、UV光を照射しながらエッチング電圧を1Vとして行うPECエッチングにより深さ2μmの凹部を形成すると想定した場合に、当該凹部の底面が、線粗さRaが好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下の平坦な面に形成される程度に、転位密度が低く、面内均一性が高いGaN材料である。
なお、GaN材料100のエッチングなしの表面は、線粗さRaが例えば0.5nmである程度に平坦である。つまり、GaN材料100にPECエッチングにより凹部が形成された部材(GaN部材ともいう)において、凹部の外側の上面であるエッチングなしの表面は、線粗さRaが例えば0.5nmである程度に平坦である。線粗さRaが、上述のように、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下であることは、GaN部材(GaN材料100)の凹部の外側の表面(エッチングなしの表面)での線粗さRaに対して、凹部の底面での線粗さRaが、好ましくは30倍以下、より好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下であることを示す。なお、エッチング深さが2μmよりも浅い凹部の底面は、エッチング深さが2μmの凹部の底面よりも平坦といえる。したがって、このような条件は、エッチング深さ2μmの凹部に限らず、エッチング深さ2μm以下の凹部が形成される場合について、適合する。
なお、上述のようなPECエッチングで形成された凹部の底面は、エッチングに起因するGaN結晶のダメージが少ない。これにより、GaN部材(GaN材料100)について、凹部の底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、凹部の外側の表面(エッチングなしの表面)におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する。
ここで述べた評価方法では、「凹部」として、底面のある凹部、つまりGaN材料100を貫通しない構造の形成を想定しているが、PECエッチングで実際の加工を行う際には、「凹部」として、GaN材料100を貫通する構造を形成してもよい。
第1実験例で明らかにされたエッチング電圧の条件は、第1、第2実施形態によるGaN材料100に対するPECエッチングに限らず、GaN材料の転位密度が十分に低い(例えば1×107/cm2未満である)領域に対するPECエッチングにおいて、凹部内面の平坦性を向上させるための目安として有用と考えられる。つまり、GaN材料の転位密度が例えば1×107/cm2未満である領域に、UV光を照射しながらエッチング電圧を印加して行うPECエッチングで凹部を形成する際に、エッチング電圧を0.16V以上1.30V以下の範囲とすることが好ましく、エッチング電圧を0.52V以上1.15V以下の範囲とすることがより好ましい。このような目安は、凹部底面の平坦性が損なわれやすい、例えば深さ1μm以上、また例えば深さ2μm以上の深い凹部を形成する場合に、特に有用である。なお、浅い(例えば深さ1μm未満の)凹部を形成する際にも、このような目安は有用であり、このような目安を用いることで、より平坦性の高い凹部底面を形成することができる。エッチング深さが浅いほど、凹部底面の平坦性は高くなるからである。
平坦性を向上させるために、このようなPECエッチングは、UV光の照射およびエッチング電圧の印加を間欠的に繰り返す態様で行われることが好ましい。また、UV光の照射およびエッチング電圧の印加が停止されている期間に、PECエッチングに用いる電解液を攪拌することがより好ましい。
第1実験例では、PECエッチングで形成された凹部の底面の平坦性を評価したが、底面が平坦に形成されることは、エッチング条件が適度であることを意味し、側面も平坦に形成されることを示す。つまり、上述のような条件でPECエッチングを行うことで、形成される凹部の内面の平坦性を向上させることができる。
平坦性が高いエッチング条件において、PECエッチングのエッチングレートは、例えば24.9nm/minである。エッチングレートと所望のエッチング深さとに基づいて、エッチング時間を見積もることができる。なお、平坦性が特に問題とならない場合であれば、PECエッチングの最大のエッチングレートは、例えば175.5nm/minまで速くすることができる。
第1実験例では、被エッチング面におけるUV光の照射強度を9mW/cm2とした。UV光の照射強度のよく用いられる一般的な値として、例えば、マスクアライナにおける照射強度として、例えば50mW/cm2が挙げられ、また例えば20mW/cm2が挙げられる。第1実験例は、被エッチング面における照射強度が例えば50mW/cm2以下、また例えば20mW/cm2以下である実施しやすい条件で行われている。
なお、第1実験例では、電解液として濃度0.01MのNaOH水溶液を用いたが、電解液の濃度は適宜調整されてもよい。例えば、濃度を0.01Mより薄く(例えば0.003M程度に)することで、エッチングレートは低下するものの、エッチングの平坦性のさらなる向上が図られる。また例えば、エッチングの適度な平坦性が損なわれない範囲で、濃度を0.01Mより濃く(例えば0.02M以下に)してもよい。
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、図14(a)に示すように、GaN材料100として、GaN基板10とエピ層20とを有するエピ基板30を例示する。エピ層20の構造が、第2実施形態と異なり、第3実施形態のエピ層20は、n型不純物が添加されたGaN層21n(エピ層21nともいう)と、p型不純物が添加されたGaN層21p(エピ層21pともいう)とを有する。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
基板10およびエピ層20(エピ層21nおよび21p)の構造は、特に制限されないが、例えば以下が例示される。基板10およびエピ層21nについては、それぞれ、第2実施形態で説明した基板10およびエピ層20と同様な構造が例示される。p型不純物としては、例えばマグネシウム(Mg)が用いられる。エピ層21pは、例えば、Mgが2×1017/cm3以上5×1018/cm3以下の濃度で添加され厚さが300nm以上600nm以下のGaN層と、Mgが1×1020/cm3以上3×1020/cm3以下の濃度で添加され厚さが10nm以上50nm以下のGaN層と、の積層で構成される。
エピ層20(エピ層21nおよび21p)は、基板10の主面10s上に、例えばMOVPEにより成長される。エピ層21nの成長は、第2実施形態で説明したエピ層20の成長と同様である。エピ層21pは、Ga原料として例えばTMG、N原料として例えばNH3、Mg原料として例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いて、成長される。エピ層21nおよび21pは、基板10の結晶性を引き継いで成長するので、基板10と同様に、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されていることに加え、高い面内均一性を有する。第3実施形態によるGaN材料100であるエピ基板30は、第1、第2実施形態によるGaN材料100と同様に、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料である。
図14(b)は、エピ基板30に対するPECエッチングを示す。被エッチング面として、エピ層20の主面20sが用いられる。主面20s内のエッチングされるべき領域22が電解液320と接触するように、エピ基板30を電気化学セル300にセットする。そして、領域22にUV光371を照射しながらエッチング電圧を印加することにより、PECエッチングを行う。本例では、エピ層21pを貫通させエピ層21nを途中の厚さまで掘ることで、凹部40を形成する。凹部40の側面23に、エピ層21pとエピ層21nとで構成されるpn接合23pnが露出する。エッチング電圧を上述のように1V程度とすることで、平坦性の高い側面23上にpn接合23pnを形成することができる。主面20s内の、領域22の外側に配置されたエッチングを行わない領域は、ハードマスク等のマスク41で覆ってエッチングを防止するとよい。凹部40の側面の不要なエッチング(サイドエッチング)を抑制するため、マスク41を遮光性とし、また、UV光371の直進性を高くするとよい。
第3実施形態のように、エピ層20が、p型不純物が添加されたエピ層21pを有する場合、エピ層21pのp型不純物を活性化させる活性化アニールは、以下の理由により、PECエッチングの後に行うことが好ましい。エピ層21pがp型導電層であると、エピ層21p自体がホールを有するため、UV光371の照射なしでもPECエッチングが進行しやすい。これに起因して、エピ層21nとエピ層21pとでエッチングのされやすさがばらつく。また、エピ層21pのサイドエッチングが生じやすくなるので、凹部40の側面23の平坦性が損なわれやすい。したがって、エピ層21pをp型導電層とする前に、つまり、活性化アニールを行う前に、PECエッチングを行うことが、平坦性向上の観点から好ましい。換言すると、活性化アニールは、PECエッチングの後に行うことが好ましく、PECエッチングの際のエピ層21pには、活性化アニールが施されていないことが好ましい。
図14(c)は、活性化アニールを示す。活性化アニールにより、エピ層21nのn型不純物を活性化してエピ層21nをn型導電層とするとともに、エピ層21pのp型不純物を活性化してエピ層21pをp型導電層とする。活性化アニールは、公知の技術を適宜用いて行うことができる。
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、第2実験例に沿って説明する。第4実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10とエピ層20とを有するエピ基板30であって、n型不純物が添加されたエピ層21nおよびp型不純物が添加されたエピ層21pを有するエピ層20を備えるエピ基板30を例示する(図14(a)参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第2実験例では、GaN材料100に円筒状凸部を形成するPECエッチングを行った。つまり、円筒状凸部外側のGaNを除去するPECエッチングを行うことで、円筒状凸部を残した。
基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が2×1016/cm3で厚さ10μmのGaN層と、をMOVPEで成長させることで、エピ層21nを形成した。エピ層21n上に、Mg濃度が5×1018/cm3で厚さ500nmのGaN層と、Mg濃度が2×1020/cm3で厚さ20nmのGaN層と、をMOVPEで成長させることで、エピ層21pを形成した。エピ層21p上に、厚さ50nmのTi層により、直径90μmの円形状のマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を深さ20μm以上PECエッチングすることで、円筒状凸部を形成した。
本実験例では、エピ層21pの活性化アニール後にPECエッチングを行った。これは、エピ層21pがサイドエッチングされやすい状況において、どの程度のサイドエッチングが生じるか確認するためである。当該活性化アニールは、N2ガス中において850℃で30分間加熱することにより行った。
図15(a)は、円筒状凸部を俯瞰したSEM像である。図15(b)は、円筒状凸部を側方から見たSEM像である。図16は、マスクおよびpn接合部の近傍を拡大して示すSEM像である。これらのSEM像より、本実施形態のPECエッチングにより、マスクに応じた所望の形状を有する構造体を、精密に作製できることがわかる。
深さ20μm以上のエッチングを行ったにも係らず、厚さ50nmのTiマスクはほぼ減少していない。このことから、エッチング選択比は少なくとも400(=20μm/50nm)以上であると見積もられる。また、Tiマスク直下のエピ層21pにおけるサイドエッチング幅は、516nmと見積もられ、1μm以下に抑えることができている。PECエッチングのマスク材料としては、UV光を遮光する材料として例えば金属材料が好ましく用いられ、より具体的にはTi、クロム(Cr)等が好ましく用いられる。PECエッチングが抑制されるマスク材料を用いることで、マスクの厚さを薄くすることができ、マスクの厚さは、例えば、200nm以下であってよい。
円筒状凸部の側面は、おおよそ、円筒状凸部の上面に対して垂直であり、円筒の側面形状の滑らかな曲面に形成されており、周方向に均質である。また、円筒状凸部の外側の底面、つまりPECエッチングで形成された底面は、非常に平坦である。
なお、詳細にみると、当該側面には、円筒状凸部の厚さ(高さ)方向に沿って、つまり、PECエッチングの進行方向に沿って延びる筋状の細かな凹凸が形成されている。このような筋状の凹凸も、周方向に均質であって、特に異方性は見られない。
なお、当該側面は、GaN結晶のc面とおおよそ直交する面である。本願発明者は、GaN結晶のc面と直交する面を、熱燐酸硫酸でエッチングした場合、a面がエッチングされやすく、m面がエッチングされにくいため、m面が露出しやすいという知見を得ている。図23は、a面と、当該a面に直交するm面とで側面が構成された矩形状のGaN材料を熱燐酸硫酸でエッチングした実験結果を示す光学顕微鏡写真である。図23の右方部がa面のエッチング結果を示し、図23の左方上部がm面のエッチング結果を示す。したがって、円筒状凸部の側面が、仮に、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成された面であるとすると、側面のうち、a軸方向と直交する部分は、複数のm面がジグザグ状に連なることで平均的にa軸方向と直交するような面で構成され、m軸方向と直交する部分は、単一のm面で平坦に構成されることとなる。つまり、このような側面は、周方向に沿ってみたとき、a軸方向と直交する部分の構造と、m軸方向と直交する部分の構造とが異なる異方性を示し、また、周方向全体として、m面がジグザグ状に連なった粗い(角張った)面となる。本実験例による円筒状凸部の側面は、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成される側面と比べて、周方向における異方性が抑制され、粗さが小さい(滑らかな)面である。なお、このような特徴は、円筒形状以外、例えば角柱形状等の凸部の側面についても同様である。
図16からわかるように、pn接合部では、サイドエッチング幅が小さくなっており、pn接合部が外側に張り出した形状が形成されている。これは、pn接合部において、ホールのライフタイムが短く、PECエッチングが生じにくいことを反映している。なお、本実験例は、エピ層21pの活性化アニール後にPECエッチングを行った場合を例示している。エピ層21pの活性化アニール前にPECエッチングを行うことで、エピ層21pにおけるサイドエッチング幅を減少させることができるため、pn接合部の張り出しを抑制することができる。
<第5実施形態>
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、第3実験例に沿って説明する。第5実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10と、n型不純物が添加されたエピ層20と、を有するエピ基板30を例示する(図3参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第3実験例では、GaN材料100に円筒状凹部を形成するPECエッチングを行った。
基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が1.5×1016/cm3で厚さ5.8μmのGaN層とをMOVPEで成長させることで、エピ層20を形成した。エピ層20上に、厚さ50nmのTi層により、直径1μm、5μm、10μmおよび20μmの円形開口を有するマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を深さ7.7μmPECエッチングすることで、円筒状凹部を形成した。
図17は、円筒状凹部を俯瞰したSEM像である。PECエッチングで形成された凹部の側面および底面について、第2実験例で説明した凸部と同様の特徴が観察される。つまり、凹部の側面は、おおよそ、凹部外側の上面に対して垂直であり、円筒の側面形状の滑らかな曲面に形成されており、周方向に均質である。また、凹部の底面は、非常に平坦に形成されている。また、詳細にみると、当該側面には、凹部の厚さ(深さ)方向に沿って延びる筋状の細かな凹凸が、周方向に均質に形成されている。また、当該側面は、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成される側面と比べて、周方向における異方性が抑制され、粗さが小さい(滑らかな)面である。
図17のSEM像において、直径20μmの凹部の底面内に、離散的に分布する小さな突起部が観察される。当該突起部同士の間の領域は、当該突起部と比べて平坦な面で構成されている。当該凹部の底面は、おおよそc面に沿った面である。本願発明者は、当該突起部の中心に、SEMのカソードルミネッセンス像により、暗点が観察されることを確認している。このことから、当該突起部は転位に対応し、転位においてホールのライフタイムが短くPECエッチングが生じにくいことで、当該突起部が形成されたものと考えられる。なお、第2実験例のように凸部を形成した場合における、凸部の外側の底面は、PECエッチングで形成された底面であるので、同様な特徴を有してよい。
上述のように、本実施形態のPECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えない加工手法であるため(図13参照)、本実施形態のPECエッチングで形成される側面および底面のダメージは抑制される。このため、SEMのカソードルミネッセンス像において、底面に観察される転位に起因する暗点と比べて、底面の当該転位の外側の領域が明るく観察され、当該暗点と比べて、側面が明るく観察される。
また、本実施形態のPECエッチングで形成される側面および底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、マスクで保護されエッチングされない表面(凹部が形成される場合は当該凹部の外側の上面、または、凸部が形成される場合は当該凸部の上面)におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する。
<第6実施形態>
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は、第4実験例に沿って説明する。第6実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10と、n型不純物が添加されたエピ層20と、を有するエピ基板30を例示する(図3参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第4実験例では、GaN材料100に溝状凹部(トレンチ)を形成するPECエッチングを行った。
エピ層20の構造は、第3実験例(第5実施形態)と同様である。エピ層20上に、厚さ50nmのTi層により、幅1.4μm、2.8μmおよび5.6μmの直線状開口を有するマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を目標値として深さ7.7μmPECエッチングすることでトレンチを形成する実験と、GaN材料100を目標値として深さ33μmPECエッチングすることでトレンチを形成する実験と、を行った。
図18(a)~18(c)は、目標値が深さ7.7μmのトレンチの長さ方向と直交する断面を示すSEM像である。トレンチの長さ方向、つまりマスク開口の長さ方向は、m軸と平行であり、断面は、m面の劈開面である。図18(a)は、マスク開口幅1.4μmのトレンチのSEM像であり、図18(b)は、マスク開口幅2.8μmのトレンチのSEM像であり、図18(c)は、マスク開口幅5.6μmのトレンチのSEM像である。
マスク開口幅1.4μm、2.8μmおよび5.6μmのトレンチの深さの実測値は、それぞれ、7.55μm、7.85μmおよび7.65μmであり、いずれも、目標値7.7μmとほぼ等しい。この結果より、本実験例では、トレンチの深さの目標値が例えば8μm程度であれば、エッチング中に一定のエッチングレートを維持できており、エッチング深さのエッチング時間による制御が容易であることがわかった。
図19(a)~19(c)は、目標値が深さ33μmのトレンチの長さ方向と直交する断面を示すSEM像である。図18(a)~18(c)と同様に、断面は、m面の劈開面である。図19(a)は、マスク開口幅1.4μmのトレンチのSEM像であり、図19(b)は、マスク開口幅2.8μmのトレンチのSEM像であり、図19(c)は、マスク開口幅5.6μmのトレンチのSEM像である。
マスク開口幅5.6μmのトレンチの深さは、32.9μmであり、目標値33μmとほぼ等しい。これに対し、マスク開口幅2.8μmおよび1.4μmのトレンチの深さは、それぞれ28.6μmおよび24.3μmであり、目標値33μmと比べて浅い。トレンチの深さが目標値と比べて浅くなる傾向は、マスク開口幅が狭くなるほど顕著である。これは、トレンチの深さの目標値が例えば30μm程度に深くなると、マスク開口幅が狭くなることに起因する、トレンチ底部近傍にUV光が到達しにくくなる影響が大きくなって、エッチングレートが減少するからと考えられる。なお、UV光の平行性を高めることで、このようなエッチングレート減少の抑制が可能ではないかと考えられる。
図18(a)等のSEM像からわかるように、マスク直下でトレンチ開口の縁が横方向に後退しており、換言すると、トレンチ開口の縁上にマスクが庇状に張り出しており、サイドエッチングが生じている。
図20は、第4実験例で形成されたトレンチのアスペクト比と、エッチング深さとの関係を示すグラフである。トレンチ等の凹部のアスペクト比は、凹部の上端の幅Wに対するエッチング深さ(凹部の深さ)Wrの比(=Wr/W)で定義される。凹部の上端の幅Wは、マスク開口幅Wmaskと、マスク直下における片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを2倍した値と、の和(=Wmask+2Wside-etching)で表される。
なお、図20には、マスク開口幅を同様な値としてPECエッチングで形成した他の凹部の結果も示す。第4実験例のトレンチ(図18(a)~図19(c))の結果を、塗りつぶしたプロットで示し、他の凹部の結果を白抜きのプロットで示す。マスク開口幅が1.4μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、円形のプロットで示す。マスク開口幅が2.8μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、四角形のプロットで示す。マスク開口幅が5.6μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、三角形のプロットで示す。マスク開口幅Wmaskが1.4μm、2.8μmおよび5.6μmであって、片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを0.7μmと想定した場合の、アスペクト比とエッチング深さWrとの関係を、それぞれ、実線、破線および点線で示す。
第4実験例の目標値が深さ7.7μmのトレンチについて、マスク開口幅が1.4μmの場合の深さは7.55μmでアスペクト比は3.1であり、マスク開口幅が2.8μmの場合の深さは7.85μmでアスペクト比は2.1であり、マスク開口幅が5.6μmの場合の深さは7.65μmでアスペクト比は1.2である。第4実験例の目標値が深さ33μmのトレンチについて、マスク開口幅が1.4μmの場合の深さは24.3μmでアスペクト比は7.3であり、マスク開口幅が2.8μmの場合の深さは28.6μmでアスペクト比は7.1であり、マスク開口幅が5.6μmの場合の深さは32.9μmでアスペクト比は4.4である。
実測値のプロットは、おおよそ、サイドエッチング幅を0.7μmと想定した場合の線上に分布している。このことから、サイドエッチング幅は、エッチング深さが深くなっても(例えば5μm以上、また例えば10μm以上となっても)0.7μm程度で一定に維持され、1μm以下に抑制できていることがわかる。また、サイドエッチング幅は、マスク開口幅が変わっても、0.7μm程度で一定に維持されることがわかる。
図18(a)~18(c)と図19(a)~19(c)とを比較するとわかるように、エッチング深さが浅いほど、サイドエッチングに起因したトレンチ側面の傾斜が大きくなる傾向が見られる。つまり、対向する側面同士を平行に近づける観点からは、エッチング深さを深くする方がよいといえる。マスク直下のサイドエッチング幅を上述のように0.7μmとし、トレンチ底部の幅をマスク開口幅と等しいとしておおよその見積もりを行うと、以下のようにいえる。サイドエッチング幅に起因する側面の傾きを5°以下とするためにはエッチング深さを8μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを4°以下とするためにはエッチング深さを10μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを3°以下とするためにはエッチング深さを13.5μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを2°以下とするためにはエッチング深さを20μm以上とすることが好ましい。なお、PECエッチング後に側面を水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などで処理することで、垂直な側面を形成しても良い。
従来技術では、GaNのドライエッチングによるトレンチの形成が試みられている。しかし、従来技術で得られているトレンチは、アスペクト比が最大で3程度であり、深さが最大で3μm程度である。ドライエッチングでは、マスク材料に対するGaNのエッチング選択比を高くすることが困難であるため、深さが例えば5μm以上の深いトレンチを形成することができない。従来技術では、深いトレンチを形成できないため、アスペクト比が例えば5以上である高アスペクト比のトレンチは得られていない。また、ドライエッチングは、エッチングされたGaNの表面に大きなダメージを生じさせるという問題も有する。
本願発明者は、第4実験例において、本実施形態のPECエッチングを用いることにより、GaN材料100に、深さが5μm以上であるトレンチを形成することに成功した。また、アスペクト比が5以上の高アスペクト比のトレンチを形成することに成功した。具体的には、深さが24.3μmでアスペクト比が7.3のトレンチ(マスク開口幅1.4μm、図19(a)参照)と、深さが28.6μmでアスペクト比が7.1のトレンチ(マスク開口幅2.8μm、図19(b)参照)と、を形成することができた。
PECエッチングでは、サイドエッチングが生じる。エッチング深さに応じてサイドエッチング幅が広がっていけば、アスペクト比を高めることは困難である。本願発明者は、第4実験例において、本実施形態のPECエッチングによれば、エッチング深さが深くなっても(例えば5μm以上、また例えば10μm以上となっても)、サイドエッチング幅をほぼ一定に維持できる、という新たな知見を得た。そして、サイドエッチング幅をほぼ一定に維持できるという知見を利用することで、エッチング深さに比例してアスペクト比を高めることができ、アスペクト比が例えば5以上の高アスペクト比のトレンチを形成することが可能である、という新たな知見を得た(図20参照)。なお、当該知見によれば、アスペクト比が例えば10以上のトレンチを形成することも可能となる。
ただし、上述のように、エッチング深さを深くすることはマスク開口幅が狭くなるにつれて難しくなる、という新たな知見も得られている(図19(a)、19(b)参照)。具体的には、例えば、マスク開口幅が5.6μm(図19(c)参照)から2.8μm(図19(b)参照)の間で、エッチング深さを深くしにくくなっている。両側のサイドエッチング幅(1.4μm)を加算した実際のトレンチの幅は、マスク開口幅5.6μmの場合は7μmで、マスク開口幅2.8μmの場合は4.2μmである。このため、トレンチの幅が、例えば6μm以下、また例えば5μm以下であると、深いトレンチを形成しにくく、アスペクト比を高めることが難しいといえる。本実験例によれば、トレンチの幅が、例えば6μm以下、また例えば5μm以下であっても、アスペクト比が例えば5以上のトレンチを形成することが可能である、ということがわかった。
なお、高アスペクト比の凹部形成について、溝状凹部(トレンチ)を例示して説明したが、凹部の上端の平面形状(開口形状)は適宜変更されてもよく、本実施形態のPECエッチングは、溝状凹部(トレンチ)以外の凹部、例えば円筒状凹部、角柱状凹部等の凹部を、例えば5以上、また例えば10以上の高アスペクト比で形成することに用いてもよい。アスペクト比を規定するための凹部の上端の幅としては、例えば最短部の幅を用いてよい。
アスペクト比の上限は特に制限されないが、エッチング深さの上限は、GaN材料100の厚さである。本実施形態のPECエッチングで形成される凹部は、GaN材料100を貫通する(底面を有しない)構造を含んでもよく、GaN材料100を貫通する凹部のエッチング深さは、GaN材料100の厚さとなる。なお、GaN材料100を貫通させる用途としては、例えば貫通孔の形成用途が挙げられ、また例えばGaN材料100を複数に分割(分離)する用途が挙げられる。なお、貫通孔のアスペクト比は、エッチング深さをGaN材料の厚さとして、底面を有する凹部と同様に定義される。
なお、従来技術では、高さが5μm以上の凸部(例えばリッジ等)も形成されておらず、アスペクト比が5以上の高アスペクト比の凸部(例えばリッジ等)も形成されていない。本実施形態のPECエッチングは、高さが5μm以上の凸部の形成に用いることもでき、アスペクト比が例えば5以上、また例えば10以上の凸部の形成に用いることもできる(図22(b)参照)。リッジ等の凸部のアスペクト比は、凸部の上端の幅Wに対するエッチング深さ(凸部の高さ)Wrの比(=Wr/W)で定義される。凸部の上端の幅Wは、マスク幅Wmaskと、マスク直下における片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを2倍した値と、の差(=Wmask-2Wside-etching)で表される。凸部の上端の平面形状は適宜選択されてよい。アスペクト比を規定するための凸部の上端の幅としては、例えば最短部の幅を用いてよい。
トレンチ形成に関する上述の考察より、凸部を形成する場合についても、本実施形態のPECエッチングによるマスク直下のサイドエッチング幅は、エッチング深さまたはマスク幅にほぼ依らずに、0.7μm程度で一定に維持され、1μm以下に抑制される。また、サイドエッチング幅に起因する側面の傾きを抑制するための条件は、トレンチ形成に関し考察した条件と同様である。
なお、本実施形態のPECエッチングは、アスペクト比が例えば5未満の凹部または凸部を形成する場合であっても、好適に用いられてよい。上述のように、本実施形態のPECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えない加工手法であるため、アスペクト比によらず、任意の凹部または凸部の形成に好適である。
<第7実施形態>
次に、第7実施形態について説明する。第7実施形態では、例えば直径2インチ以上の大径を有するGaN材料100の被エッチング面の全面に対するPECエッチングを行う技術について説明する。
第2実施形態(第1実験例)で説明したPECエッチング(図4および(化1)~(化4)参照)では、UV光371の照射によりアノード電極340(GaN材料100)においてホールと対で発生した電子が、配線350を介してカソード電極330に供給されることで、カソード反応(化4)により消費される。配線350は、電解液320と接触しないように(短絡しないように)配置されたオーミック接触プローブ341を介して、アノード電極340(GaN材料100)に取り付けられている。このような態様のPECエッチングでは、オーミック接触プローブ341を電解液320と接触させないような、シール構造が必要となる。
大径のGaN材料100の被エッチング面の全面に対するシール構造を形成することは煩雑であるので、このようなシール構造を省略できれば好ましい。そこで、本実施形態では、オーミック接触プローブ341、配線350、および、カソード電極330が省略された態様のPECエッチングについて検討する。オーミック接触プローブ341、配線350、および、カソード電極330が省略された態様のPECエッチングを、以下、無電極PECエッチングともいい、これに対し、オーミック接触プローブ341、配線350、および、カソード電極330を使用する態様のPECエッチングを、以下、有電極PECエッチングともいう。
図24(a)~24(d)は、第7実施形態による無電極PECエッチング態様を例示する概略図である。図24(a)を参照する。GaN材料100(以下、ウエハ100ともいう)を用意する。ウエハ100は、例えば直径2インチ以上の大径(大面積)を有する。ウエハ100の構造は、適宜選択されてよい。ウエハ100は、例えば、図1(g)に示したような基板そのものでもよいし、また例えば、図3あるいは図14(a)に示したような、基板とエピタキシャル成長層との積層体であってもよい。ウエハ100の被エッチング面である表面100sに、互いに離隔して配置された複数の、被エッチング領域111~113が画定されている。
被エッチング領域111~113は、後述のように、エッチング液420中に浸漬された状態(エッチング液420と接触した状態)でUV光431が照射されることにより、GaN材料100がエッチングされる領域である。ウエハ100の表面100s上に、UV光431を遮光する遮光性のマスク41が形成されている。マスク41は、被エッチング領域111~113を露出させる開口を有する。ここでは、3つの被エッチング領域111~113を例示するが、被エッチング領域の個数は、必要に応じて適宜変更されてよい。また、各被エッチング領域111等の形状および大きさ、複数の被エッチング領域111等の表面100s上における配置、等は、必要に応じて適宜変更されてよい。
図24(b)を参照する。容器410内に、エッチング液420を用意する。エッチング液420は、第2実施形態(第1実験例)で説明した電解液320と同様な電解液と、当該電解液に溶解されたペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)と、を含む。当該電解液は、上述のように、例えば、NaOH水溶液である。なお、当該電解液に、界面活性剤が添加されていてもよい。本実施形態の無電極PECエッチングに用いられるエッチング液420は、水酸化物イオン(OH-)およびペルオキソ二硫酸イオン(S2O8
2-)を含む。これに対し、第2実施形態の有電極PECエッチングに用いられるエッチング液(つまり電解液320)は、水酸化物イオン(OH-)は含むが、ペルオキソ二硫酸イオン(S2O8
2-)は含まない。
図24(c)を参照する。マスク41が形成されたウエハ100を、ウエハ100の表面100sがエッチング液420の表面420sと平行になるように(水平になるように)、表面100sがエッチング液420中に浸漬された状態で、容器410内に収納する。本実施形態の無電極PECエッチングでは、ウエハ100の全体がエッチング液420中に浸漬されてよいため、上述のようなシール構造を設けずにエッチングを行うことができる。ここで、ウエハ100の表面100sとエッチング液420の表面420sとが「平行」とは、ウエハ100の表面100sとエッチング液420の表面420sとのなす角が、0°±2°の範囲内にあることをいう。
なお、容器410内にエッチング液420を収納し、その後に容器410内にウエハ100を収納する手順で、容器410内にウエハ100およびエッチング液420が収納された状態としてもよいし、容器410内にウエハ100を収納し、その後に容器410内にエッチング液420を収納する手順で、容器410内にウエハ100およびエッチング液420が収納された状態としてもよい。容器410内にエッチング液420を用意する工程と、容器410内にウエハ100を収納する工程とは、必要に応じ、どちらの手順で行われてもよい。
図24(d)を参照する。ウエハ100およびエッチング液420が静止した状態で、光照射装置430から、UV光431を、ウエハ100の表面100sに照射する。UV光431としては、波長が365nmより短いUV光が用いられる。UV光431は、被エッチング領域111~113の表面のそれぞれに対して、エッチング液420の表面420s側から、つまり上側から、垂直に照射される。ここで、被エッチング領域111~113の表面に対して、つまりウエハ100の表面100sに対して「垂直」とは、UV光431がウエハ100の表面100sに対してなす角が、90°±2°の範囲内にあることをいう。
なお、「UV光431をウエハ100の表面100sに照射する」とは、「UV光431をウエハ100の表面100sに向けて照射する」という意味であり、同様に、「UV光431をウエハ100に照射する」とは、「UV光431をウエハ100に向けて照射する」という意味である。マスク41上に照射されたUV光431であっても、ウエハ100の表面100sに向けて照射されたUV光431、または、ウエハ100に向けて照射されたUV光431である。
本実施形態の無電極PECエッチングでは、以下の反応(化5)~(化7)が生じ、第2実施形態の有電極PECエッチングにおけるカソード反応(化4)が、(化7)に置き換わることで、GaN材料100においてホールと対で発生した電子が、消費される。したがって、第2実施形態の有電極PECエッチングで使用したカソード電極330を省略することができ、これに伴い、配線350およびオーミック接触プローブ341も省略することができる。GaN材料100におけるアノード反応(化1)~(化3)は、無電極PECエッチングと有電極PECエッチングとで同様である。このようにして、本実施形態の無電極PECエッチングによって、GaN材料100をエッチングすることができる。
被エッチング領域111~113は、ウエハ100の表面100s上に分散して配置されている。ウエハ100が大径となることで、被エッチング領域111~113が配置された全体的な範囲は広くなる。被エッチング領域111~113が配置された全体的な範囲が広くなることに起因して、被エッチング領域111~113を、均一にエッチングすることが難しくなる。本実施形態では、以下に説明するようにして、被エッチング領域111~113に対するエッチングの均一性を高めることができる。
ウエハ100は、その表面100sがエッチング液420の表面420sと平行になるように、容器410内に収納される。このようにして、すべての被エッチング領域111~113について、エッチング液420の表面420sからの距離(深さ)を、つまり、被エッチング領域111~113の上方に配置されたエッチング液420の厚さを、等しくすることができる。これにより、被エッチング領域111~113の上方に配置されたエッチング液420から拡散により供給される、各被エッチング領域111~113へのOH-およびS2O8
2-(またはSO4
-*)の供給状態のばらつきを抑制できるため、ウエハ100の表面100s内でのエッチングの均一性を高めることができる。加えて、ウエハ100の表面100sとエッチング液420の表面420sとを平行にする利点としては、(化6)におけるUV光431の吸収によるSO4
-*の供給を均一化する点が挙げられる。
ウエハ100の表面100sからエッチング液420の表面420sまでの距離Lは、例えば、5mm以上100mm以下であることが好ましい。距離Lが過度に短いと、被エッチング領域111~113の上方に配置されたエッチング液420から拡散により供給される、各被エッチング領域111~113へのOH-およびS2O8
2-(またはSO4
-*)の供給状態のばらつきが大きくなりやすい。このため、距離Lは、例えば5mm以上とすることが好ましい。また、距離Lが過度に長いと、容器410が過度に大きくなり、またエッチング420の量も過度に多くなる。このため、距離Lは、例えば100mm以下とすることが好ましい。加えて、SO4
-*の供給の観点からは、距離Lが過度に短いと、ウエハ100の表面100sでのUV光431の吸収が支配的になり電子が過剰になってしまう。一方、距離Lが過度に長いと、エッチング液420中で(化6)の反応によりUV光431の大部分が吸収されることで、ウエハ100にホールを充分に供給できなくなるため、(化1)の反応の陽極酸化を行うことができない。このため、距離Lは、ウエハ100にホールを供給しつつ、エッチング液420中に過剰な電子を除去することができる量のSO4
-*が存在する様に、調整されることが好ましい。このような観点からも、距離Lは、例えば、5mm以上100mm以下であることが好ましい。なお、マスク41の厚さは、上述のように例えば200nm以下と薄いため、ウエハ100の表面100sからエッチング液420の表面420sまでの距離Lは、マスク41の表面からエッチング液420の表面420sまでの距離と考えてもよい。
UV光431は、ウエハ100およびエッチング液420が静止した状態で照射される。これにより、各被エッチング領域111~113へのOH-およびS2O8
2-(またはSO4
-*)の供給状態がエッチング液420の動きに起因してばらつくことを抑制できるため、ウエハ100の表面100s内でのエッチングの均一性を高めることができる。
UV光431は、被エッチング領域111~113の表面のそれぞれに対して、垂直に照射される。これにより、被エッチング領域111~113のそれぞれに形成される凹部121~123の深さ方向を垂直に揃えることができるため、ウエハ100の表面100s内でのエッチングの均一性を高めることができる。
ここで、第6実施形態(第4実験例)の図18(a)~18(c)および図19(a)~19(c)を参照する。図18(a)~18(c)に示す浅いトレンチと、図19(a)~図19(c)に深いトレンチとを比べると、図19(a)~図19(c)に示す深いトレンチにおいて、深さ方向の垂直方向からのずれ(傾斜)が目立ちやすい。このような傾斜は、図19(a)~図19(c)に示す浅いトレンチでは、目立ちにくい。このことから、大まかな見積もりとして、形成される凹部の深さが、例えば8μm以上、また例えば10μm以上である場合に、本実施形態のような垂直照射を行うことがより好ましい。
被エッチング領域111~113のそれぞれに照射されるUV光431は、形成される凹部121~123のそれぞれの深い位置まで効率的に光照射を行うこと等の観点から、すべての光線の方向が垂直に揃った平行光であることがより好ましいが、平行光でなくとも(収束光または拡散光であっても)許容される。「垂直に照射される」とは、被エッチング領域111~113のそれぞれに照射されるUV光431において、垂直に照射される成分の強度が最も高いことをいう。
各被エッチング領域111~113におけるエッチング条件を等しくするために、UV光431の各被エッチング領域111~113における照射強度は、等しいことが好ましい。また、各被エッチング領域111~113におけるエッチング深さを等しくするために、UV光431の各被エッチング領域111~113における積算照射エネルギーは、等しいことが好ましい。照射強度は、W/cm2単位で表され、照射エネルギーは、J/cm2単位で表される。積算照射エネルギーとは、各被エッチング領域111~113においてPECエッチングが完了する(凹部121~123の形成が完了する)までに照射されたUV光431の照射エネルギーの総量をいう。照射強度および照射エネルギーについて、「等しい」とは、最小の値に対する最大の値の比が、好ましくは130%以下、より好ましくは120%以下、さらに好ましくは110%以下であるように、ばらつきが小さいことをいう。
本実施形態によるPECエッチング方法は、PECエッチングによりウエハ100に各種構造を形成する、構造体の製造方法として、好ましく利用される。このような構造体の製造方法に用いられる、構造体の製造装置である、PECエッチング装置400は、図24(d)に示すように、容器410と、光照射装置430と、制御装置440と、を有する。制御装置440は、PECエッチング装置400が有する光照射装置430等の各種装置が所定の動作を行うように当該各種装置を制御するためのプログラムおよびデータ等が格納された記憶装置と、記憶装置からプログラム等を読み出して実行するCPUと、を有し、例えばパーソナルコンピュータで構成される。なお、光照射装置430と制御装置440とを合わせた装置を、光照射装置と捉えてもよい。
光照射装置430は、UV光を出射する光源と、当該光源から出射されたUV光をウエハ100に照射されるように導く光学装置と、を有する。なお、光源から出射されたUV光をそのままウエハ100に照射する場合、当該光学装置は省略されてもよい。光源としては、GaNのPECエッチングを可能とするように、波長が365nmより短いUV光を含有する光を出射する光源が用いられ、例えば、プラズマ発光光源、紫外発光ダイオード(LED)、紫外レーザ、紫外ランプ等が好ましく用いられる。ここで、プラズマ発光光源とは、プラズマ発光で発生した紫外線を、蛍光体により所定波長の光に変換する光源をいう。光学装置は、UV光431が所定の条件でウエハ100に照射されるように、必要に応じて、各種の光学部材を含んでよい。各種の光学部材としては、例えば、各種レンズ、各種ミラー、ウエハ100上の照射断面内で所定の照射強度分布を得るための強度分布調整器、所定の照射断面形状を得るための断面整形器、照射断面をウエハ100上において所定位置に移動させる走査器、平行光を得るための平行化光学系、ウエハ100上に間欠的に光照射を行うためのチョッパ、照射される光の波長を調整するフィルタ等を含んでよい。なお、例えばデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を用いて、ウエハ100に照射されるUV光431の照射断面形状を、所定のパターンに整形してもよい。
図25(a)および25(b)は、本実施形態によるPECエッチング態様を例示するタイミングチャートであり、ウエハ100へのUV光431の照射態様を示す。図25(a)に示す第1例では、被エッチング領域111~113に、UV光431を同時に照射する。このような照射態様では、例えば、すべての被エッチング領域111~113を内包する大きさの照射断面を有し、当該照射断面内での照射強度分布が均一化されたUV光431を照射することが好ましい。これにより、各被エッチング領域111~113に照射されるUV光431の照射強度を等しくすることができる。またこれにより、各被エッチング領域111~113に照射されるUV光431の積算照射エネルギーを等しくすることができる。
本例では、被エッチング領域111~113に、UV光431が同時に照射されるため、後述の第2例による照射態様と比べて、凹部121~123の形成が完了するまでに要する時間を短縮することができる。
各被エッチング領域111~113に対して、UV光431は、間欠的に照射されることが好ましい。これにより、UV光431の照射期間に生成されたGa2O3が、UV光431の非照射期間に溶解されることが、繰り返される。つまり、Ga2O3をごく薄く形成し、ごく薄く形成されたGa2O3を溶解させる、という工程が、繰り返される。これにより、UV光431を連続的に照射することでGa2O3を厚く形成し、厚く形成されたGa2O3のすべてを一度に溶解させる、という工程を行う場合と比べて、エッチングで形成される表面の平坦性を高めることができる。このような間欠照射は、例えば、光源のスイッチのオンとオフを切り替えることで行ってもよいし、また例えば、チョッパを用いて行ってもよい。間欠照射における1パルス分の照射期間、および、隣接するパルス間に配置される非照射期間を、それぞれどのくらいの長さとするかは、実験により適宜定めることができる。なお、間欠照射を行うことで、照射期間中にウエハ100に蓄積された電子を、非照射期間を利用して非輻射再結合等により消費することもできる。
図25(b)に示す第2例では、被エッチング領域111~113に、UV光431を非同時に照射する。このような照射態様では、例えば、ウエハ100の表面100s上で、UV光431の照射断面を走査する。当該走査は、ウエハ100の表面100sに対する垂直照射が維持されるように、行われる。
本例では、出力が小さい光源、つまり、広い照射断面では充分な照射強度が得られないような光源であっても、充分な照射強度が得られる狭い照射断面を走査するように用いることで、大径のウエハ100に対するPECエッチングに用いることができる。
第2例においても、第1例で説明したように、間欠的な照射を行うことが好ましい。なお、第2例では、走査に伴って非照射期間が挿入されるため、各被エッチング領域111~113への照射は、間欠的となる。
<第8実施形態>
次に、第8実施形態について説明する。PECエッチングに伴って、(化1)に示すように窒素ガス(N2ガス)が発生し、(化3)に示すように酸素ガス(O2ガス)が発生し、(化4)または(化7)に示すように水素ガス(H2ガス)が発生する。このため、エッチング液420中に、N2ガス、O2ガスおよびH2ガスの少なくともいずれかを含有する気泡130が発生する。ウエハ100の被エッチング領域111等に、気泡130が過度に付着した状態でUV光431が照射されると、気泡130による光散乱等に起因して、被エッチング領域111等への適正な光照射を行うことが難しくなる。
また、PECエッチングに利用されたエッチング液420は、PECエッチングに伴う各種の反応に起因して劣化する。エッチング液420が過度に劣化すると、PECエッチングを適正に進行させられなくなる。
第8実施形態では、ウエハ100に付着した気泡130の除去を行うPECエッチング態様について説明する。また、エッチング液420の補充を行うPECエッチング態様について説明する。第7実施形態と同様に、無電極PECエッチングについて例示する。
第8実施形態において、具体的には、気泡130の除去を、エッチング液420の流れを発生させることで行う態様について説明する。また、エッチング液420の流れを発生させることで、気泡130の除去とともに、エッチング液420の補充を行う態様について説明する。
図26(a)および26(b)は、第8実施形態によるPECエッチング態様を例示する概略図である。本実施形態のPECエッチング装置400は、第7実施形態によるPECエッチング装置400に、ポンプ500、タンク501、外部流路502、バルブ513、および、層流発生部材(層流発生機構、層流発生装置)531が追加された構成を有する。図26(a)は、側面方向から見た容器410の断面構造を概略的に示し、図26(b)は、上面方向から見た容器410の上面構造を概略的に示す。なお、図26(b)では、図示を容易にするために、PECエッチング装置400を構成する装置の一部を省略している。
本実施形態の容器410には、発生されるエッチング液420の流れ421の上流側の端部と、下流側の端部とに、それぞれ開口417、418が設けられている。容器410の下流側の開口418と、上流側の開口417と、をつなぐように、外部流路502が設けられている。容器410と外部流路502とにより、エッチング液420が循環する流路が構成される。外部流路502の途中に、ポンプ500が配置されている。上流側の開口417から下流側の開口418に向けて容器410内を横切る流れ421を、ポンプ500が発生させることで、エッチング液420の循環が行われる。
ポンプ500は、ウエハ100の表面100sに沿ったエッチング液420の流れ421を発生させる流れ発生装置の一例であり、ウエハ100の表面100sに沿った一方向の流れ421を発生させる。ポンプ500は、流れ421を発生させることで、ウエハ100に付着した気泡130を、ウエハ100から除去する(剥離させる)気泡除去装置の一例でもある。ポンプ500は、制御装置440に制御されることで、所定の動作を行う。なお、ポンプ500と制御装置440とを合わせた装置を、ポンプと捉えてもよい。
バルブ513は、外部流路502を通ってエッチング液420が循環できる状態と、循環できない状態と、を切り替える。バルブ513は、制御装置440に制御されることで、所定の動作を行う。なお、バルブ513と制御装置440とを合わせた装置を、バルブと捉えてもよい。
層流発生部材531は、ウエハ100よりも上流側、例えば、容器410の上流側の開口517とウエハ100との間に配置されており、層流発生部材531により、ウエハ100に向けて、層流である流れ421が供給される。層流発生部材531としては、層流を発生できる部材であれば特に制限なく用いることができ、例えば、整流作用を有するメッシュ状部材が用いられる。層流発生部材531を、流れ発生装置の一部と捉えてよい。
容器410は、窪み413を有し、窪み413内にウエハ100が載置される。窪み413は、載置されたウエハ100の表面100sが、容器410の窪み413の外側における底面の高さとほぼ等しくなるような深さに形成されている。これにより、容器410の窪み413の外側における底面と、載置されたウエハ100の表面100sとの段差に起因して、層流である流れ421が乱されることが、抑制される。容器410の平面形状は、例えば、上流側の開口417からウエハ100の載置部に向けて徐々に幅が広くなり、ウエハ100の載置部から下流側の開口418に向けて徐々に幅が狭くなるような形状とする。これにより、層流である流れ421が、容器410の平面形状に起因して乱されることが、抑制される。
第7実施形態では、ウエハ100およびエッチング液420が静止した状態で、UV光431を照射する態様を例示した。これに対し、本実施形態では、エッチング液420が流れている(動いている)状態で、UV光431を照射する態様を例示する。本実施形態では、エッチング液420が動いている状態ではあるが、層流として均一に流れている状態であるので、各被エッチング領域111~113へのOH-およびS2O8
2-(またはSO4
-*)の供給状態がばらつくことが、抑制される。これにより、流れ421の中であってもウエハ100の表面100s内でのエッチングの均一性が損なわれることが抑制された状態で、PECエッチングを行うことができる。
外部流路502の途中に、タンク501が配置されている。タンク501に収納された新しいエッチング液420が、ポンプ500により、流れ421に混入された状態で、容器410内に供給される。このようにして、容器410内にエッチング液420が補充される。新しいエッチング液420の供給に伴い、容器410内から排出された古いエッチング液420は、廃棄(回収)されるようにしてよい。なお、エッチング結果に大きく影響しない(各種成分の濃度を大幅には変化させない)程度であれば、新しいエッチング液420の供給に伴い、容器410内のエッチング液420が増えるようにしてもよい。ポンプ500およびタンク501は、エッチング液補充装置の一例である。タンク501からの新しいエッチング液420の補充は、間欠的に行われてもよいし、連続的に行われてもよい。タンク501からの新しいエッチング液420の補充タイミングおよび補充量の少なくとも一方は、制御装置440により制御されてよい。
図27は、第8実施形態によるPECエッチング態様の一例を示すタイミングチャートであり、ウエハ100へのUV光431の照射態様と、ポンプ500の動作態様と、を示す。(バルブ513を開いた状態で、)ポンプ500を常時動作させることで、層流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、光431の照射を行う。第7実施形態で説明したように、光431を間欠照射することで、エッチングの平坦性を高めることができる。
第8実施形態によれば、流れ421により気泡130を除去しつつ、流れ421に起因してエッチングの均一性が損なわれることを流れ421を層流とすることにより抑制した状態で、PECエッチングを行うことができる。また、流れ421に新しいエッチング液420を混入することで、エッチング液420の補充を行うこともできる。このように、流れ421を発生させつつPECエッチングを行うことで、PECエッチングに伴う気泡の除去等を、効率的に行うことができる。
<第8実施形態の変形例>
次に、第8実施形態の変形例について説明する。図28は、本変形例によるPECエッチング装置400を上面方向から見た概略図である。本変形例のPECエッチング装置400は、第8実施形態によるPECエッチング装置400に、加振装置450が追加された構成を有する。
加振装置450は、ウエハ100に振動を与えることで、つまり、ウエハ100を介して気泡130に振動を与えることで、ウエハ100に付着した気泡130を、ウエハ100から除去する(剥離させる)。加振装置450としては、例えば、超音波発生装置が用いられる。加振装置450は、気泡除去装置の一部と捉えてよい。加振装置450は、制御装置440に制御されることで、所定の動作を行う。なお、加振装置450と制御装置440とを合わせた装置を、加振装置と捉えてもよい。ここでは容器410の外面上に加振装置450を取り付ける設置態様を例示しているが、加振装置450の設置態様はこれに限定されない。例えば、容器410の底面にウエハ100の支持台を設け、当該支持台に加振装置450を設けてもよい。
図29は、本変形例によるPECエッチング態様の一例を示すタイミングチャートであり、ウエハ100へのUV光431の照射態様と、ポンプ500および加振装置450の動作態様と、を示す。ポンプ500を常時動作させることで、層流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、光431を間欠的に照射することは、第8実施形態と同様である。
本変形例では、光431の間欠照射における、非照射期間(光431がウエハ100の表面100sに照射されていない期間)に、加振装置450を動作させることで、ウエハ100に振動を与える。より詳細には、非照射期間のうちPECエッチングが進行していない期間に、ウエハ100に振動を与えることが好ましい。ウエハ100に振動が与えられている期間は、ウエハ100の表面100sの近傍でのエッチング液420の動きが乱れるため、当該期間にPECエッチングが進行すると、エッチングの平坦性を損ねやすい。本変形例のように、ウエハ100への振動を、PECエッチングが進行していない非照射期間に与えることで、ウエハ100への振動に起因してエッチングの平坦性を損ねることが、抑制される。
また、図29に示す例のタイミングチャートでは、光431の非照射期間において、ウエハ100に振動を与えた後、所定期間を待ってから、ウエハ100の表面100sへの光照射を再開している。当該所定期間は、ウエハ100に振動を与えることに起因して乱れたエッチング液420の流れ421が、層流に戻るのを待つ期間として設けられている。これにより、光照射が再開された後に、層流の流れ421中でPECエッチングを進行させることができるので、エッチングの平坦性を高めることができる。
本変形例によれば、流れ421による気泡除去に加えて、加振装置450がウエハ100に振動を与えることで、ウエハ100に付着した気泡130を、より確実に除去することができる。
<第9実施形態>
次に、第9実施形態について説明する。第9実施形態では、エッチングレートを高めたPECエッチング態様について説明する。
図30(a)および30(b)は、第9実施形態によるPECエッチング態様を例示する概略図である。本実施形態のPECエッチング装置400は、第7実施形態によるPECエッチング装置400に、ポンプ500、タンク501、外部流路502、バルブ513、および、乱流発生部材(乱流発生機構、乱流発生装置)532が追加された構成を有する。つまり、第9実施形態のPECエッチング装置400は、第8実施形態のPECエッチング装置400の層流発生部材531に替えて、乱流発生部材532を設けた構成を有する。図30(a)は、側面方向から見た容器410の断面構造を概略的に示し、図30(b)は、上面方向から見た容器410の上面構造を概略的に示す。なお、図30(b)では、図示を容易にするために、PECエッチング装置400を構成する装置の一部を省略している。
乱流発生部材532は、ウエハ100よりも上流側、例えば、容器410の上流側の開口517とウエハ100との間に配置されており、乱流発生部材532により、ウエハ100に向けて、乱流である流れ421が供給される。乱流発生部材532としては、乱流を発生できる部材であれば特に制限なく用いることができ、例えば、突起状部材が用いられる。乱流発生部材531を、流れ発生装置の一部と捉えてよい。
第8実施形態では、層流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、UV光431を照射する態様を例示した。これに対し、本実施形態では、乱流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、UV光431を照射する態様を例示する。
本実施形態では、乱流の混合作用を利用することで、各被エッチング領域111~113へのエッチング液420からのOH-およびS2O8
2-(またはSO4
-*)の供給レートを高めることができるため、エッチングレートを向上させることができる。また、流れ421を乱流とすることで、気泡130の除去も、より効果的に行うことができる。ただし、流れ421を乱流とすることで、第8実施形態と比べて、エッチングの均一性および平坦性は低下する。このため、本実施形態は、エッチングの均一性および平坦性は特に問題とならずにエッチングレートを高めることが望ましいエッチング、例えば、貫通孔の形成、ウエハ100の切断といった、ウエハ100の全厚さを貫通させるようなエッチングに、好適に用いられる。なお、後述の他の実施形態で説明するような、ウエハ100の表面部分がPECエッチング可能である態様において、本実施形態の方法が、PECエッチング可能な部分の全厚さを貫通させる用途で用いられてもよい。
図31は、第9実施形態によるPECエッチング態様の一例を示すタイミングチャートであり、ウエハ100へのUV光431の照射態様と、ポンプ500の動作態様と、を示す。(バルブ513を開いた状態で、)ポンプ500を常時動作させることで、乱流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、光431の照射を行う。本実施形態では、ウエハ100の表面100sに光431が連続照射されてよい。これにより、間欠照射と比べて、エッチングレートをより高めることができる。
第9実施形態によれば、乱流である流れ421により、気泡130をより効果的に除去しつつ、高いエッチングレートで、PECエッチングを行うことができる。なお、第8実施形態と同様に、流れ421に新しいエッチング液420を混入することで、エッチング液420の補充を行うこともできる。
乱流である流れ421を、ウエハ100の表面100sに沿った一方向の流れ421として供給することで、乱流の条件をある程度一定に保つことが容易になる。これにより、エッチングレート等の条件をおおよそ一定としてPECエッチングを行うことが容易になる。
<第9実施形態の変形例>
次に、第9実施形態の変形例について説明する。図32は、本変形例によるPECエッチング装置400を上面方向から見た概略図である。本変形例のPECエッチング装置400は、第9実施形態によるPECエッチング装置400に、第8実施形態の変形例で説明したような、加振装置450が追加された構成を有する。
図33は、本変形例によるPECエッチング態様の一例を示すタイミングチャートであり、ウエハ100へのUV光431の照射態様と、ポンプ500および加振装置450の動作態様と、を示す。ポンプ500を常時動作させることで、乱流であるエッチング液420の流れ421を発生させつつ、光431を連続的に照射することは、第9実施形態と同様である。本変形例では、加振装置450も常時動作させて、ウエハ100に連続的に振動を与える。つまり、光431をウエハ100の表面100sに照射しながら、ウエハ100に振動を与える。これにより、振動の付与による気泡除去を、より効果的に行うことができる。
本変形例によれば、流れ421による気泡除去に加えて、加振装置450がウエハ100に振動を与えることで、ウエハ100に付着した気泡130を、より確実に除去することができる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態および変形例を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
上述のPECエッチングは、GaN材料を用いた半導体装置の製造方法の一部として、好ましく利用することができる。例えば、第2実施形態のGaN材料100(エピ層20がn型不純物の添加されたGaN層で構成されたエピ基板30)を用いてショットキーバリアダイオードを製造する際の構造形成方法として、利用することができる。
また例えば、エピ層20のn型領域内にトレンチを形成し、トレンチ内にp型のエピ層を再成長させる(充填する)ことで、スーパージャンクション(SJ)構造を製造する際の構造形成方法として、利用することができる(図22(a)参照)。なお、導電型を反転させ、p型のエピ層20に形成されたトレンチ内に、n型のエピ層を再成長(充填)させてもよい。
さらに、第3実施形態のGaN材料100(エピ層20がn型不純物の添加されたGaN層とp型不純物が添加されたGaN層とを有するエピ基板30)を用いてpn接合ダイオードまたはトランジスタを製造する際の構造形成方法として、上述のPECエッチングを利用することができる。例えばメサ構造の形成に利用することができ、また例えばレーザダイオードのリッジ構造の形成に利用することができる。
なお、例えば、ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードを製造する場合のように、npの積層構造のうち表層のp型GaN層のみをPECエッチングで除去するような加工を行ってもよい。
エピ層20の構造は、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、導電型不純物の添加されていないGaN層を有していてもよいし、また例えば、npn等の積層構造であってもよい。なお、積層構造を有するエピ層20の特定の層のみにPECエッチングを行ってもよい。GaN基板としては、第1実施形態で説明した基板10に限らず、転位密度が十分に低い(例えば1×107/cm2未満である)領域を有するGaN基板が好ましく用いられる。基板10の導電性は、適宜選択されてよい。
例えば、トレンチゲート構造のMISFETは、以下のように製造される。エピ層20の積層構造をnpn(またはpnp)とし、PECエッチングによりエピ層20に凹部40を形成し、凹部40の側面23上に、トランジスタの動作部となるnpn接合(またはpnp接合)を形成する。凹部40内に絶縁ゲート電極を形成し(図22(a)参照)、さらに、npnの積層構造の各n層(またはpnpの積層構造の各p層)と電気的に接続するソース電極とドレイン電極とを形成する。本製造方法によれば、半導体装置の動作部となるnpn接合(またはpnp接合)が配置されるMIS界面を、PECエッチングにより、少ないダメージで平坦性高く形成できるので、高い動作性能の半導体装置を簡便に製造することができる。
なお、GaN材料100を用いて半導体装置を作製する場合の電極構造は、基板10の導電特性に応じて異なってよい。例えば、基板10の表(おもて)面上に形成されたn型GaN層と電気的に接続される電極の構造は、以下のようなものである。例えば、n型導電性基板10を用いて発光ダイオード(LED)を製造する場合、当該電極は、基板10の裏面上に形成されてよい。これに対し、例えば、半絶縁性基板10を用いてGaN-高電子移動度トランジスタ(HEMT)を製造する場合、当該電極は、n型GaN層上に、つまり基板10の表面側に、形成されることとなる。
上述のPECエッチングは、ダイオード、トランジスタ等の半導体装置に限らず、より一般的に、GaN材料を用いた構造体の製造方法として、好ましく利用されてよい。上述のような利用態様に加えて、さらに、例えば、GaN材料で形成されたウエハのダイシングに用いられてもよく、また例えば、GaNを用いた微小電気機械システム(MEMS)の部品形成に用いられてもよい。GaN材料の主面全面のエッチングに用いられてもよい。
底面を有する凹部、または、凸部を形成する場合のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された側面および底面の両方が露出することもある。また、GaN材料を貫通させる場合(貫通孔形成、GaN材料の分割等)のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された側面のみが露出することもある。また、全面エッチングの場合のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された底面のみが露出することもある。
貫通孔形成、GaN材料の分割等のように、GaN材料を貫通させるエッチングを行った場合、エッチング後のGaN材料は、PECエッチングで形成された側面が全厚さに亘って露出した領域を有する。当該側面は、PECエッチングの痕跡として、第4、第5実施形態で説明したような性状を有することとなる。また、全面エッチングを行った場合、エッチング後のGaN材料は、PECエッチングで形成された底面が全面に亘って露出した領域を有する。当該底面は、PECエッチングの痕跡として、第4、第5実施形態で説明したような性状を有することとなる。
図21は、貫通孔形成、GaN材料の分割等のように、GaN材料100を貫通させるPECエッチングを行う状況を例示する概略図である。このような場合、貫通に伴って電解液が漏れないように、GaN部材100の底面および側面に、必要に応じてシール部材42が設けられてよい。
なお、上述の実施形態では、大面積であって複数の構造を作り込みやすいc面から、深さ方向にPECエッチングする場合を例示したが、この例示は、他の結晶面から深さ方向にPECエッチングする応用を妨げるものではない。
上述のPECエッチングを利用して製造された構造体は、PECエッチングで形成された構造を有するGaN部材と、他の部材と、が組み合わされて構成されたものであってもよい。なお、PECエッチングで形成された構造を有するGaN部材上に、当該PECエッチングに用いられたマスクが形成されている(残っている)状態(図18(a)等参照)は、最終的な構造体を得るための中間構造体として捉えることができる。なお、上述のPECエッチングで形成された凹部の内側に何等かの部材が充填されることで構造体の外面に当該凹部が露出していなくても、構造体は当該凹部を有する。また、上述のPECエッチングで形成された凸部の外側に何等かの部材が充填されることで構造体の外面に当該凸部が露出していなくても、構造体は当該凸部を有する。図22(a)は、PECエッチングで形成された凹部40の内側に充填部材50が充填された状況を例示する概略図である。図22(b)は、PECエッチングで形成された凸部45の外側に充填部材50が充填された状況を例示する概略図である。
なお、第2実施形態で説明した第1実験例より、有電極PECエッチングにおける(飽和)電流密度は、過度な気泡発生を抑制する観点から、3mA/cm2以下に抑えることが好ましいという知見も得られている。
第7~第9実施形態、および、それらの変形例において、無電極PECエッチングについて説明した。無電極PECエッチングでは、カソード電極が不要となるため、エッチング対象であるウエハ100が導電性を有さなくてもよい。したがって、ウエハ100の全厚さがGaNで構成されていなくともよく、ウエハ100の少なくとも表面(被エッチング面)が、GaNで構成されていればよい。このため、これらの実施形態および変形例で説明した無電極PECエッチングは、サファイア基板、炭化シリコン(SiC)基板、シリコン(Si)基板等の異種基板上に成長されたGaN層のエッチングに、適用されてもよい。
なお、(PECエッチングされる材料で全厚さが構成された)ウエハ100に貫通構造を形成する際には、シール構造が不要となる無電極PECエッチングを用いることが、より好ましい。
上述のPECエッチングは、GaNのPECエッチングに限らず、少なくとも表面がIII族窒化物結晶で構成されたウエハ100に対するPECエッチングを行うために、適用されてよい。
III族窒化物が含有するIII族元素は、アルミニウム(Al)、Gaおよびインジウム(In)のうちの少なくとも1つである。ウエハ100に照射されるUV光431としては、波長が365nmより短いUV光が用いられる。GaNのPECエッチングを基準として、Alを含有する場合は、より短波長のUV光を用いればよく、Inを含有する場合は、より長波長のUV光も利用可能となる。
III族窒化物におけるAl成分またはIn成分に対するPECエッチングの考え方は、Ga成分について(化1)および(化2)を参照して説明した考え方と同様である。つまり、UV光照射によりAlの酸化物またはInの酸化物を生成させ、これらの酸化物を溶解させることで、PECエッチングを行うことができる。
なお、第7~第9実施形態、および、それらの変形例において、ウエハ100上に被エッチング領域111等を露出させる開口を有するマスク41を形成する態様を例示した。UV光431の照射断面を、被エッチング領域111等のみを照射する照射断面に整形する(パターニングする)ことで、原理的には、マスクレスでのPECエッチングを行うことも可能である。照射断面の整形には、例えばDMDを用いることができる。
以上の説明では、Ga2O3をアルカリ性溶液で溶解させるPECエッチングを例示し、アルカリ性溶液としてNaOH水溶液を例示したが、PECエッチングに用いられるアルカリ溶液としては、水酸化カリウム(KOH)水溶液等を用いてもよい。なお、Ga2O3を酸性溶液で溶解させることでPECエッチングを行うことも可能である。PECエッチングに用いられる酸性溶液としては、リン酸(H3PO4)水溶液等を用いてよい。無電極PECエッチングに用いられるエッチング液としては、エッチングされるIII族窒化物が含有するIII族元素の酸化物の生成に用いられる酸素を含むアルカリ性または酸性のエッチング液であって、さらに、ペルオキソ二硫酸イオン(S2O8
2-)等の(電子を受け取る)酸化剤を含むエッチング液を用いることができる。無電極エッチングに用いられる酸化剤としては、過マンガン酸イオン(MnO4-)等を用いてもよい。
なお、第8実施形態、第9実施形態およびそれらの変形例では、静止したウエハ100に対してエッチング液420を動かすことで、ウエハ100の表面100sに沿ったエッチング液420の流れを発生させる態様を例示した。ただし、ウエハ100の表面100sに沿ったエッチング液420の流れを発生させる態様は、このようなものに限らず、例えば、静止したエッチング液420に対してウエハ100を動かすことで当該流れを発生させる態様でもよいし、また例えば、動いているウエハ100に対してエッチング液420を動かすことで当該流れを発生させる態様でもよい。つまり、ウエハ100の表面100sに沿ったエッチング液420の流れとは、ウエハ100に対するエッチング液420の相対的な流れ(動き)を意味する。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
少なくとも表面がIII族窒化物結晶で構成されたウエハを、エッチング液中に浸漬された状態で用意する工程と、
前記ウエハの前記表面に沿った前記エッチング液の流れを発生させつつ、波長が365nmより短い光を、前記ウエハの表面に照射する工程と、
を有する構造体の製造方法。
(付記2)
前記エッチング液の流れとして、前記ウエハの前記表面に沿った一方向の流れを発生させる、付記1に記載の構造体の製造方法。
(付記3)
前記エッチング液の流れとして、層流を発生させる、付記1または2に記載の構造体の製造方法。
(付記4)
前記光を、前記ウエハの表面に、間欠的に照射する、付記3に記載の構造体の製造方法。
(付記5)
前記光が前記ウエハの表面に照射されていない期間に、前記ウエハに振動を与える、付記4に記載の構造体の製造方法。
(付記6)
前記ウエハに振動を与えた後、所定期間を待ってから、前記ウエハの表面への前記光の照射を再開する、付記5に記載の構造体の製造方法。
(付記7)
前記エッチング液の流れとして、乱流を発生させる、付記1または2に記載の構造体の製造方法。
(付記8)
前記光を、前記ウエハの表面に、連続的に照射する、付記7に記載の構造体の製造方法。
(付記9)
前記光を前記ウエハの表面に照射しながら、前記ウエハに振動を与える、付記8に記載の構造体の製造方法。
(付記10)
前記エッチング液の流れに、新しいエッチング液を混入することで、エッチング液の補充を行う、付記1~9のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
(付記11)
前記エッチング液は、前記III族窒化物結晶が含有するIII族元素の酸化物の生成に用いられる酸素を含むアルカリ性または酸性のエッチング液であって、さらに、酸化剤を含む、付記1~10のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
(付記12)
前記ウエハは、前記表面が前記エッチング液の表面と平行になるように、前記エッチング液中に浸漬されている、付記1~11のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
(付記13)
前記光を、前記ウエハの表面に、垂直に照射する、付記1~12のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
(付記14)
少なくとも表面がIII族窒化物結晶で構成されたウエハを、エッチング液中に浸漬された状態で収納する容器と、
波長が365nmより短い光を、前記ウエハの表面に照射する光照射装置と、
前記ウエハの前記表面に沿った前記エッチング液の流れを発生させる流れ発生装置と、
を有する構造体の製造装置。
(付記15)
前記流れ発生装置は、前記エッチング液の流れとして、前記ウエハの前記表面に沿った一方向の流れを発生させる、付記14に記載の構造体の製造装置。
(付記16)
前記流れ発生装置は、層流発生部材を有し、前記エッチング液の流れとして、層流を発生させる、付記14または15に記載の構造体の製造装置。
(付記17)
前記流れ発生装置は、乱流発生部材を有し、前記エッチング液の流れとして、乱流を発生させる、付記14または15に記載の構造体の製造装置。