JP7260090B2 - 自律神経調節剤及び該自律神経調節剤を含有する気体経鼻投与剤 - Google Patents

自律神経調節剤及び該自律神経調節剤を含有する気体経鼻投与剤 Download PDF

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Description

本発明は、ラベンダーの中でも特定の1品種から、かつ、特定の抽出方法を用いて得られる抽出物、を含有する自律神経調節剤、該自律神経調節剤を含有する気体経鼻投与剤、及び、該自律神経調節剤の製造方法に関するものである。
植物からの抽出物は、精神症状の対症療法として利用できることが知られている。
特許文献1には、精油成分であるβ-セクレターゼ阻害剤を含有する老人性痴呆症の予防又は治療薬が記載されており、かかる精油成分はクローブ油やティーツリー油に含まれるとしている。
また、特許文献2には、セージ精油を有効成分として含む嗅覚機能改善剤が記載されており、認知症患者に投与すれば有効であるとされている。
このように、植物からの抽出物は、その香りが人体に感覚的に受容されることで、様々な作用を有すると考えられているが、その作用については、官能的なものが多く、医学的、科学的な検証に欠けるものが多かった。
また、その用途についても、アロマセラピー用であり、医学的・科学的な基礎的実験に基づいて用途を限定したものではなかった。
医学的・科学的な基礎的実験に基づいたものとして、特許文献3には、種々の植物からの抽出物を被験者に嗅がせて、大脳の場所毎の血流量を近赤外分光分析法(NIRS)で定量化して、脳の局所的な機能調整に役立てる方法が記載されているが、ラベンダーに特化したものではなかった。
植物からの抽出物(植物由来成分)には、抗菌作用、鎮痛作用、抗炎症作用等、様々な効果を有すことが明らかになっている(非特許文献1)。
また、これらの中には、抗ストレス作用、認知症改善作用等、脳神経系に作用するものがあり、近年では芳香成分を吸入する芳香浴という形で、アロマセラピーに利用されている。
一方、花が紫色である一般的なラベンダー(Lavandula Angustifolia)(以下、「真正ラベンダー」と略記する)は、抗炎症作用や抗うつ作用があることが報告されており(非特許文献2)、また、殺菌作用があることが報告されている(非特許文献3)。
このように、真正ラベンダーは、アロマセラピーの分野では、鎮静作用を有する植物として知られている。
近年、自律神経(交感神経、副交感神経)の調節、ストレスの軽減、精神の安定化等は、極めて重要な課題になっているにも関わらず、植物からの抽出物(植物由来成分)について、医学的測定、分析的測定、ヒトに直結した測定等によって裏付けられた技術は少なく、そのような剤が望まれていた。
特開2010-254607号公報 特開2013-014537号公報 特開2015-061827号公報
Rimbault M, et al. RNA profiles of rat olfactory epithelia: individual and age related variations. BMC Genomics. 2;10:572 (2009) 植野壽夫ら、日本食品科学工学会誌、59:435-441 (2012) 甲田雅一ら、日本アロマセラピー学会誌、1: 5-15 (2002)
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、前記問題点を解決し、科学的測定結果(エビデンス)に裏付けられた自律神経調節剤を提供することにあり、自律神経の調節の中でも、更に特定の機能を有することで、剤として特定の用途を見出して、かかる用途限定の剤を提供することにある。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ラベンダーの中でも特にある品種において、かつ特定の方法で得た抽出物において、自律神経調節の効果が特に著しいことを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ラベンダーの品種である美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)から、低温真空抽出法を用いて得られる抽出物を含有することを特徴とする自律神経調節剤を提供するものである。
また、本発明は、脳神経沈静化剤である上記の自律神経調節剤を提供するものである。
また、本発明は、抗ストレス剤である上記の自律神経調節剤を提供するものである。
また、本発明は、副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤である上記の自律神経調節剤を提供するものである。
また、本発明は、上記の自律神経調節剤を、水若しくは有機溶媒で希釈されて、又は、希釈されずに単身で、含有することを特徴とする気体経鼻投与剤を提供するものである。
また、本発明は、上記の自律神経調節剤、の製造方法であって、
低温真空抽出法を用い、かつ実質的に抽出媒体も水蒸気も使用せずに、外部から熱を加えつつ減圧し、45℃以下を維持しながら、ラベンダーの品種である美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)を固液分離し、抽出物を回収することを特徴とする自律神経調節剤の製造方法を提供するものである。
本発明は、前記問題点と課題を解決し、ラベンダーの中でも特にある特定の品種からの抽出物が、一般的なラベンダーである真正ラベンダーからの抽出物より、自律神経調節活性が高いことを見出してなされたものである。
具体的には、ラベンダーの一種である美郷雪華からの抽出物において、自律神経調節活性の中でも「前頭葉の血流量の抑制を含む脳神経沈静化」が、真正ラベンダーと同等又は同等以上に測定された。より詳しくは、逆方向の「前頭葉の血流量の増加と言った脳神経賦活化」された人数が、真正ラベンダー抽出物の場合より有意に減少し、賦活化した人の数に比較して、沈静化した人の数が有意に増加した(実施例1参照)。
この「前頭葉の血流量」の結果(NIRSによる測定結果)は、美郷雪華からの抽出物の方が、脳神経沈静化剤として優れていることを示している。
抗酸化物質(の抗酸化力)の定量値であるBAP値(Biological Antioxidant Potential)の上昇が、美郷雪華からの抽出物の方が、真正ラベンダーからの抽出物より小さかった(実施例2参照)。
この結果は、美郷雪華からの抽出物の方が、真正ラベンダーからの抽出物より、抗ストレス剤として優れていることを示している。
唾液中のコルチゾール濃度の減少が、真正ラベンダーと同様に測定された(実施例3参照)。
この結果は、美郷雪華からの抽出物の方も、真正ラベンダーからの抽出物と同様に、抗ストレス剤として優れていることを示している。
また、加速度脈波と心拍間変動度の測定から「吸引前後の副交感神経の変化率(副交感神経の活動度)」を求めたところ、美郷雪華からの抽出物の方が、真正ラベンダーからの抽出物より高くなった(実施例4参照)。
このことは、美郷雪華からの抽出物が、副交感神経活動量増加剤として、従来の真正ラベンダーからの抽出物より優れていることを示している。従来の真正ラベンダーからの抽出物は、一般にも沈静化方向のハーブであるとは言われているが、美郷雪華からの抽出物の方が従来品よりその効果が大きく、副交感神経活動量増加剤として優れている。
更に、加速度脈波と心拍間変動度の測定から「交感神経の吸引前後の変化率(交感神経の活動度)」を求めたところ、美郷雪華からの抽出物では、意外にも該変化率が1倍より大きく(実施例では約4倍)、交感神経の活動度が増加したことが認められた(実施例4参照)。なお、真正ラベンダーでは、交感神経の吸引前後の変化率は不変(実施例では約1倍)であった。
前記したように、従来、ラベンダーは「沈静化方向のハーブ」として一般に知られているが、美郷雪華はラベンダーの一種であるにも関わらず、意外にも、美郷雪華からの抽出物は交感神経の活動度を増加させた。
このことは、美郷雪華からの抽出物が、交感神経活動量増加剤として有用であることを示している。
美郷雪華からの抽出物が、副交感神経の活動量も交感神経の活動量も増加させたと言うことは、美郷雪華からの抽出物が、副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる「交感神経活動量増加剤」として優れていて、かかる用途があることを示している。
副交感神経と交感神経の両方を同時に有意に活性化させる物質は、現在のところ殆ど知られておらず、その点からも、本発明の「交感神経活動量増加剤としての自律神経調節剤」は極めて有用である。
副交感神経の活動量が増加すると、体外・体内への分泌液が増え、胃腸の動きが良くなり、心拍数が減り、末梢血管が弛緩し、血圧が下がり、気管が締め付けられ、膀胱・直腸・肛門の筋肉が緩み、排尿・排便がなされ、リラックス感が得られ、緊張感が解れ、眠くなる等と言われている。一方、交感神経の活動量が増加すると上記と逆の方向のことが起ると言われている。
一方、スポーツ選手等が、奇跡的ともいえる素晴らしいプレイをしたときに、スポーツ心理学では、「ゾーンの状態にある」とも表現され、所謂「ツボにはまった状態」に選手はなっていると言われている。緊張状態にから一気にリラックスすると、セロトニン、ドーパミン等の物質が分泌されて、リラックス状態の脳が集中力を発揮する状態になり、「ゾーン」になるとも言われている。
本発明の美郷雪華からの抽出物は、副交感神経と交感神経の活動量が同時に増加させるので、スポーツ、頭脳競技(ゲーム)、芸術等の分野で、ヒトをゾーンの状態にすると考えられる。
従って、本発明の「交感神経活動量増加剤である自律神経調節剤」は、ゾーン状態現出剤ともいえる。ここで、「ゾーン」の定義は一般的に明確ではあるが、もし不明確な部分があれば、その定義は上記にも従う。
美郷雪華からの抽出物は、真正ラベンダーからの抽出物とは、臭い(香り)が全く異なる。その含有成分として含有量が比較的多い成分化合物でも該組成比が全く異なり、分析(検知)できない微量成分については、含有比と共にその存否すらも異なると推認される。
美郷雪華からの抽出物を含有する剤としての機能・物性は、真正ラベンダーからのものからは予想がつかない。
本発明の自律神経調節剤に含有される抽出物は、低温真空抽出法を用いて得られるものであることが必須である。他の抽出方法で得られるものは前記性能が何れも劣る。
主たる抽出中、45℃を超える温度に美郷雪華をおくと、前記性能が得られ難い。
また、水蒸気蒸留法で用いられる水蒸気;超臨界抽出法で用いられる流体;有機溶剤;水;等の抽出媒体を、抽出前又は抽出中に有意に(故意に)加えると、前記性能が得られ難い。
更に、低温真空抽出法の中でも、「温度、圧力、抽出速度、減圧装置(減圧法)等、種々の好ましい条件を付加した低温真空抽出法」で抽出・固液分離すると、前記効果がより増長される。
本発明の自律神経調節剤は、噴霧、蒸発等によって、霧化又は気化して投与することが好ましく、水若しくは有機溶媒で希釈されて、又は、希釈せずに単身で、それを含有する気体経鼻投与剤として優れている。
真正ラベンダーと美郷雪華の外観を示す写真である。 真正ラベンダーと美郷雪華にそれぞれ含まれる主要な成分の含有量の比較を示す表である。 本発明における低温真空抽出法の抽出工程に用いられる装置の一形態を示す概略図である。 本発明における低温真空抽出法の抽出工程に用いられる装置の他の形態を示す概略図である。 水蒸気蒸留法の抽出工程に用いられる装置の一形態を示す概略図である。 近赤外分光分析法(NIRS)による測定の原理を示す図である。 近赤外分光分析法(NIRS)で脳機能を測定する方法と測定結果の一例を示す図である。 A:脳機能を測定中の外観。 B、C:大脳の前頭葉の活性化・沈静化を示す図。 図Bと図Cにおいて、右側のメジャー(尺度)は、上に行く程実際には赤くなっていて、活性化していることを示し、下に行く程実際には青くなっていて、沈静化していることを示す。他のNIRS測定結果の図9、10においても同様である。 近赤外分光分析法(NIRS)による測定に使用した試香紙(ムエット)の写真である。 実施例1において、近赤外分光分析法(NIRS)で脳機能を測定したうちの6人の測定結果である(「HO」は対照)。 実施例1において、近赤外分光分析法(NIRS)で脳機能を測定したうちの他の5人の測定結果である(「HO」は対照)。 実施例1の結果をまとめた表である。 実施例2、3における唾液の採取方法を示す図である。 (a)採取具の外観。 (b)唾液の採取方法を示す図。 実施例2で唾液のBAP値を測定する際、及び、実施例3で唾液中のコルチゾールの定量をする際に、噴霧・吸入(経鼻投与)の方法・時期と唾液の採取時期を示す図である。 美郷雪華及び真正ラベンダーからの抽出物を吸入させた(投与した)ときの唾液のBAP値を、投与前のBAP値との比(倍率)で示したグラフである(実施例2)。 美郷雪華及び真正ラベンダーからの抽出物を吸入させた(投与した)ときの唾液中のコルチゾール量を、投与前のコルチゾール量との比(倍率)で示したグラフである(実施例3)。 実施例4で、自立神経系の測定に用いた装置と測定チャート例を示す写真である。 (a)加速度脈波と心拍間変動度の測定装置。 (b)心拍間変動(RR)の測定チャート例。 美郷雪華及び真正ラベンダーからの抽出物を吸入させた(投与した)ときの副交感神経と交感神経の活動量を、吸入(投与)前の活動量からの比率(倍率)で示すグラフである。
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
本発明の自律神経調節剤は、ラベンダーの品種である美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)から、低温真空抽出法を用いて得られる抽出物を含有することを特徴とする。
<抽出対象である美郷雪華>
美郷雪華(みさとせっか)は、平成17年6月に、秋田県仙北郡美郷町にある美郷町ラベンダー園で新たに発見され、平成25年2月に、農林水産省に品種登録された新品種のラベンダーである(農林水産省品種登録番号第22259号)。
日本中又は世界中に一般的に存在する通常のラベンダー(Lavandula Angustifolia)(以下、「真正ラベンダー」と略記する)との外見上の相違点として、真正ラベンダーの花は淡い紫色であるのに対し、この美郷雪華は、白色の花を付けるのが特徴である(図1参照)。
真正ラベンダー、及び、該新品種のラベンダー(美郷雪華)から得られた抽出物について、ガスクロマトグラフィーを用いて成分分析を行ったところ、含有成分の種類については両者間で類似するものが多いものの、その含有率には大きな相違が見られた(図2参照)。
また、抽出物の香りも、両者で全く異なるものである。
本願の出願時において、該新品種のラベンダー(美郷雪華)は、殆ど美郷町の中だけに自生している。
本発明において、かかる新品種のラベンダーを、「美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)」、又は、単に、「美郷雪華」と略記する。
美郷雪華のどの部分から抽出したものでも本発明の剤として効果を発揮するが、好ましくは花から抽出することである。花の付いた部分の茎を切り取り、花と「該花と共に切り取られた茎」の両方から抽出することも、作業が省略できるので好ましい。
また、乾燥品からは水相(水層)が得られないので、抽出対象(原料)は、美郷雪華の完全には乾燥していない未乾燥品が好ましい。
<抽出法である低温真空抽出法>
本発明の剤は、ラベンダーの品種である美郷雪華から、低温真空抽出法を用いて得られる抽出物を含有する。
本発明における「低温真空抽出法」とは、抽出対象41を50℃以下に保ちつつ、減圧することによって、抽出対象41から抽出物の蒸気を取り出し、冷却することで液体を得る抽出法のことを言う。本発明において、抽出対象(以下「原料」と略記することもある)は美郷雪華である。
本発明における「低温真空抽出法」は、実質的に抽出媒体も水蒸気も使用せずに、外部から熱を加えつつ減圧して固液分離して、そのうち液体部分を回収することが好ましい。
実質的に使用しない抽出媒体とは、水;アルコール類等の有機溶媒;二酸化炭素等の超臨界流体・亜臨界流体;等が挙げられる。上記水蒸気とは、水蒸気蒸留法で使用するような水蒸気等のことを言う。
ここで「実質的に使用しない」とは、抽出対象(原料)の5質量%以下しか使用しないことを言い、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下しか使用しないことであり、特に好ましくは全く使用しないことである。
低温真空抽出法によれば、抽出媒体が残留しないので天然成分だけの抽出物が製造できる、抽出媒体の臭いが残らない、含有成分が熱分解しない、含有成分が散逸しない、細胞水が散逸しない抽出物が得られる、実際に本発明の前記効果を他の抽出法による抽出物より好適に奏し易い、抽出残渣も有効利用できる、等の点から好ましい。
美郷雪華を低温真空抽出法で抽出すると、主に水性抽出物が得られる。該「水性抽出物」には、精油とも言われる油性成分が溶解していて水溶液として均一になっている場合も、少量の油性成分が上層に分離していて撹拌すると均一に分散する場合も含まれる。油性成分(精油)が上層に分離している場合は、撹拌等を行って均一な抽出物として使用することもできるし、油性成分を除いて、本発明における「抽出物」として使用することもできる。
本発明おける抽出物は、美郷雪華の細胞水を含むものであり、従って、該抽出物は全て美郷雪華と言う天然物(植物)由来のものである。また、低温真空抽出法で抽出すると熱による変質が起らないので、完全に天然物(植物)のままである。なお、「細胞水」とは、植物細胞に含まれる細胞内液のことである。
本発明における抽出物は、美郷雪華を撹拌羽根で破砕しながら撹拌し、該破砕・撹拌下に外部から熱を加えつつ減圧して抽出する工程を有する抽出法により抽出されるものであることが更に好ましい。
なお、本発明における「美郷雪華から低温真空抽出法で得られた抽出物」には、極めて多くの有効成分が含有されているところ、それらの成分を同定すること、それらの成分から本発明の効果を奏する有効成分を同定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でない(「不可能・非実際的事情」がある)。
従って、本発明における「美郷雪華から低温真空抽出法で得られた抽出物」については、成分製造方法(抽出方法)で特定する以外に方法がない。図2は、美郷雪華と真正ラベンダーの違いの概略を示したものであり、図2に記載された成分だけで、本発明における抽出物を表現することはできない。
上記抽出は、外部から抽出媒体を加えずに、外部からの加熱と、細胞水の蒸発熱による冷却とで、抽出対象(原料)である美郷雪華が5℃以上45℃以下の温度を維持するようにしてなされるものであることが、変質がなく、全て天然物であり、それらによって前記した本発明の効果が得られるために好ましい。より好ましくは10℃以上45℃以下であり、更に好ましくは20℃以上42℃以下であり、特に好ましくは30℃以上38℃以下である。
本発明は、本発明の自律神経調節剤の製造方法であって、
低温真空抽出法を用い、かつ、実質的に抽出媒体も水蒸気も使用せずに、外部から熱を加えつつ減圧し、45℃以下を維持しながら、ラベンダーの品種である美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)を固液分離し、抽出物を回収することを特徴とする自律神経調節剤の製造方法でもある。
<<低温真空抽出法の抽出装置と抽出条件>>
図3、4は、美郷雪華から抽出物を得るために用いられる低温真空抽出法の装置、すなわち本発明の自律神経調節剤の製造方法における抽出工程に用いられる装置、の一形態を示す概略図である。なお、図3ではバルブ等は省略してある。また、本発明の範囲内であれば、本発明の自律神経調節剤は、実際に図3、4に示された装置で抽出されたものには限定されない。
容器21は、原料41である美郷雪華を収容し、撹拌羽根23で撹拌し、所定の温度範囲(該温度は原料である美郷雪華の温度を言う)を維持しながら、熱を加えつつ減圧して抽出するものであり、冷却器22は容器21から出る蒸気を冷却する装置である。
容器21の周囲には、容器21の内部及び原料41に熱を加える加熱装置24がある。容器21には冷却装置が設けられていてもよい(図示せず)。容器21の上部には、美郷雪華の投入口と該投入口を塞ぐ蓋が設けられており、容器21の最下部の中央には、固液分離(抽出)後の美郷雪華の抽出残渣(固体44)を取り出す排出口26が設けられている。
容器21には、吸引される蒸気の排気口25が設けられ、この排気口25には前記冷却器22につながる配管27が接続されている。
限定はされないが、抽出対象(原料)41を撹拌羽根23で破砕しながら撹拌し、該破砕・撹拌下に抽出を行うことも好ましい。抽出対象41を破砕しながら撹拌する場合の撹拌羽根23には、可動刃を具備することが好ましい(図示せず)。
このようにしながら抽出することで、新鮮な破砕面ができたら、そこから直ぐに抽出が可能になるので、有効成分の熱分解、酸化等による変性をより防ぐことができ、装置に投入する前に破砕してしまった場合の破砕面からの、有効成分の蒸発等による散逸を防ぐことができる。
容器21には、該容器21内の真空度を計測する真空計32、温度計33等の測定計が設置されており、抽出時における容器21内の圧力(減圧度)と温度を測定し、抽出対象(原料)41である美郷雪華の温度も間接的に測定するために設けられ、また、抽出の開始と終了を判定するために設けられている。
抽出操作は、例えば、下記のように行なわれる。
作業開始に当り、冷却ユニットに冷却水が充填される。原料41である美郷雪華を投入口から容器21内に投入して蓋を閉じる。
撹拌を開始し、加熱装置24に加熱用蒸気を供給することにより、外部から熱を加える。容器21に加えられた熱は、原料41である美郷雪華に伝達され、美郷雪華が撹拌されることにより抽出が促進される。この抽出は、可動刃によって(又は固定刃と組み合わせて)破砕されて小さくなることによって更に促進される。
その際、加熱装置24に送り込む加熱用蒸気の温度や量を調節して、美郷雪華自体の温度を、後記する好ましい範囲にする。
エゼクタ(ejector)、真空ポンプ等の減圧装置35で吸引することにより、容器21内の気体、すなわち抽出物の蒸気及び空気は、配管27を通じて吸引され、容器21内の美郷雪華に含まれている成分と細胞水の蒸発が始まる。
その際、減圧装置35で吸引する量や吸引力を調節して、抽出時の圧力(減圧度)を後記する好ましい範囲にする。また、主に「水の蒸発熱による冷却」によって温度範囲を後記する好適範囲に維持する。
工業的に実施可能な(現実的な)「排気容量と減圧度の関係」から、減圧装置35は水を用いたエゼクタが好ましい。水を用いたエゼクタは、減圧度(真空度)は高くならないが、排気容量を大きくできるので、本発明における減圧装置35として好適である。水エゼクタの水としては冷却水を用いることがより好ましく、更にエゼクタは横型エゼクタであることが、上記点から特に好ましい。
容器21内の「美郷雪華に含まれる成分の蒸気」及び「細胞水の主成分である水の蒸気(水蒸気)」等の有効成分の蒸気は、配管27を通して吸引されて冷却器22に導入され、冷却・液化されて、回収液となって回収槽34内に溜まる。
回収槽34に、回収液である、「水相(水層)43、及び、存在しないこともあるが油相(油層)42」が所定量まで貯まったら、減圧装置35での吸引を停止し、バルブと弁を適宜開閉して回収液を回収する。
美郷雪華からの抽出物の場合、殆どが水性抽出物である。ただ、油層(精油)42が分離している場合は、要すれば静置して分液をして油層(精油)42を取り除き、水層43のみを抽出物として回収してもよいし、油層(精油)42を均一に水層43に分散させて全て回収してもよい。
本発明においては、ディフューザー用、マスク用等として好適に使用できる点;自律神経の種々の調節に特に効果的である点;等から、該抽出物としては水相(水層)43を使用することが特に好ましい。
水性抽出物は、油性抽出物(精油等)に比べて、本発明の自律神経調節剤としての効果に優れる他にも、1回の抽出工程でより多くの量を回収できる;油性抽出物(精油等)に比べて匂いが薄いが、比較的心地よく感じる匂いである;容器21や部品等の洗浄が容易である;等の点で、油性抽出物(精油等)より優れている。
抽出(固液分離)時の抽出対象物41の温度(範囲)は上記した範囲である。該抽出は、「外部からの加熱」と、主に「細胞水等の蒸発熱による冷却」とで、前記した所定の(好ましい)温度範囲を維持するようにしてなされることが、本発明の前記効果を得るために好ましい。
低温真空抽出法を用いる場合、上記抽出の減圧度は特に限定されないが、101.3kPa(1気圧)に対し、80kPa以上低い圧力を維持しつつ行うことが好ましい。より好ましくは、101.3kPa(1気圧)に対し、85kPa以上低い圧力を維持しつつ行うことであり、特に好ましくは、90kPa以上低い圧力であり、更に好ましくは、95kPa以上低い圧力である。
また、1kPa[1気圧(101.3kPa)に対して、-100.3kPa]以上10kPa[1気圧(101.3kPa)に対して、-91.3kPa]以下に維持しつつ行うことが好ましい。より好ましくは2kPa[1気圧に対して、-99.3kPa]以上9kPa[1気圧に対して、-92.3kPa]以下であり、特に好ましくは3kPa[1気圧に対して、-98.3kPa]以上8kPa[1気圧に対して、-93.3kPa]以下である。
圧力(特に上限)が上記範囲であると(減圧度が上記範囲であると)、水の沸点を勘案し低い温度での有効成分の抽出が可能になるので、有効成分の熱による変性・分解が防止でき、十分に有効成分を抽出できる。また、抽出時間を短くできるので、有効成分の分解・逸失が抑制され、また、不必要な時間のロスがなく経済的である。
容器21の体積が小さいときは、減圧度を上記より低くできる真空ポンプは存在する。しかし、工業的に実施しようとすると、低温真空抽出法の場合、主に水の蒸発熱で美郷雪華を冷却して温度範囲を前記範囲に維持するために排気容量が大きい必要がある。現実的な「排気容量と減圧度の関係」から、すなわち減圧装置35が実際に存在しなくてはならない等の点から、減圧度(特に圧力の下限)は上記範囲が好ましい。
<<他の抽出法との比較>>
植物から芳香成分等の機能性成分を抽出する方法として現在多く使われているのは、溶剤抽出法や水蒸気蒸留法(図5)等である。
このうち、溶剤抽出法は、溶剤の残留があり、自律神経調節剤として悪影響を及ぼす。なお、該溶剤には水も含まれる。
また、水蒸気蒸留法は、植物から水蒸気によって精油成分を得る方法であり、安全性の高い伝統的な技術であるが、100℃前後の高温に晒されるため、本来植物が有している成分が分解される。また、精油と共に抽出される大量の芳香蒸留水は、高温で含有成分が変質しているため、各種の自律神経調節剤としては使用できない。また、成分抽出後の残渣は特に活用方法がなく、産業廃棄物として投棄されている。
美郷雪華から抽出物を得るために用いた低温真空抽出法は、他の抽出方法の問題点が解決されており、前記したような種々の効果を奏するが、更に、(重複するものも含め)以下のような利点がある。
(1)50℃以下の低温で抽出するため、酵素等の熱に弱い成分を自然に近い形で取り出すことができる。
(2)溶剤や水蒸気等を使用しないので、100%美郷雪華由来の天然有効成分の抽出が可能である。
(3)有機溶媒の残存の心配がなく、安心性・安全性・機能性が共に高い。
(4)含有成分の抽出濃度が他の抽出法に比べると高い。
<自律神経調節剤>
自律神経は、多くの機序により調節がなされている。従って、自律神経調節剤としての用途の中には複数の用途が存在する。
本発明の自律神経調節剤は、特に、大脳皮質の前頭葉の血流を抑制し脳神経を沈静化させる効果に優れているので、脳神経沈静化剤及び前頭葉血流抑制剤としての用途に好適である。
また、ストレスがどの程度あるかの評価値である、唾液中のBAP値(Biological Antioxidant Potential)や、コルチゾールの分泌量に影響を与えるので、抗ストレス剤としての用途に好適である。
また、副交感神経の活動量を増加させるので、副交感神経活動量増加剤としての用途に好適であり、交感神経の活動量を増加させるので、交感神経活動量増加剤としての用途に好適であり、副交感神経の活動量の増加と交感神経の活動量の増加とを同時に行うので、このような機能を有し両方の活動量を増加させる自律神経調節剤としての用途に好適である。
上記のうち、前頭葉血流抑制効果、抗ストレス効果、及び、副交感神経活動量増加効果は、真正ラベンダーからの抽出物においてもある程度は認められている。しかし、実施例の結果等から分かるように、美郷雪華からの抽出物は、細かい具体的な点で優れた点が多い。
美郷雪華からの抽出物は、特に、副交感神経活動量増加剤として、真正ラベンダーからの抽出物に比べて優れている。また、真正ラベンダーからの抽出物には、次の用途はあり得ないが(知られていないが)、美郷雪華からの抽出物には、交感神経活動量増加剤としての用途も新たに存在する。
以下、本発明の上記した用途の剤をまとめて、「本発明の剤」と略記することがある。
<<脳神経沈静化剤及び前頭葉血流抑制剤>>
本発明の自律神経調節剤は、近赤外分光分析法(NIRS)を用いて、非侵襲的に大脳皮質の特に前頭葉の血流量の大小を測定し脳活動に関する知見を得た。図6と図7にその原理と測定法を示す。NIRSは、非侵襲的に大脳回ごとに脳機能をマッピングすることができ、その解析・画像化は、「光機能画像法」の原理を応用している。
脳が活動すると、血液中の酸素化ヘモグロビンは神経細胞に酸素供給する。NIRSは、近赤外光を用いてその変化(脳表面の酸素状態変化)を捉える。
図6に示したように、頭表から近赤外光を脳内に照射し、大脳皮質で吸収・散乱を起こした光を、頭表上の光ファイバで集光・検出し、この検出光の変化で脳活動(脳活性(賦活)化と脳沈静化)を測定する。
NIRS装置の、測定時の様子と、実際に得られる画像データ例を図7に示す。NIRS脳機能測定装置(図7A)を頭部に装着した対象者に対し、美郷雪華又は真正ラベンダーからの抽出物を噴霧した試香紙(ムエット)(図8参照)を用いて吸引させ、この間の前頭葉の脳神経活動を経時的に測定する。対照として精製水を含ませた試香紙でも測定する。
実施例(特に実施例1)にも示したように、美郷雪華からの抽出物は、自律神経調節剤として、特に前頭葉血流抑制剤及び脳神経沈静化剤として、真正ラベンダーと同等又はそれ以上の効果を有している。
<<抗ストレス剤>>
<<<BAP値>>>
ストレスと関連するとされるBAP(Biological Anti-oxidant Potential)値を測定し、本発明の自律神経調節剤が抗ストレス剤として有効であることを確認した。
BAP値は、抗酸化力値とも言われ、唾液中の抗酸化物質の抗酸化力に比例した値である。ストレスがかかると、唾液中の抗酸化物質の量が増え、抗酸化力が上がり、ストレスを緩和しようとするので、BAP値が上がる。
抗酸化物質の量は、三価鉄塩を特定のチオシアン酸塩誘導物溶液に溶解すると三価鉄イオンの機能で赤く呈色するが、該赤色が測定試料中の抗酸化物質の作用で二価鉄イオンに還元されて脱色する際の吸光度の変化をモニターすることで求められる。
<<<コルチゾール量>>>
更に、ストレスと関連するとされる唾液中のコルチゾールの量を測定し、本発明の自律神経調節剤が抗ストレス剤として有効であることを確認した。
ストレスがあると、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が下垂体前葉に作用し、下垂体前葉からは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が副腎皮質に作用する。その結果、コルチゾールが分泌されて唾液中のコルチゾールが増加する。
従って、唾液中のコルチゾールの減少が見られれば、ストレスがないときと同様の状態であると言える。
美郷雪華からの抽出物を嗅がせると、唾液中のコルチゾール量が減少した(図15参照)。このことは、美郷雪華からの抽出物には、抗ストレス作用があることを示している。
<<<BAP値とコルチゾール量のまとめ>>>
実施例(特に実施例2、3)に示したように、美郷雪華からの抽出物は、自律神経調節剤として、特に抗ストレス剤として、真正ラベンダーと同等又はそれ以上の効果を有している。
<<副交感神経活動量増加剤及び交感神経活動量増加剤>>
加速度脈波と心拍間変動度を測定し、本発明の自律神経調節剤が、副交感神経活動量増加剤、交感神経活動量増加剤、及び、副交感神経の活動量と交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤として有効であることを確認した。
対象者の指先に脈圧センサーを装着し、加速度脈波と心拍間変動度を測定した。測定後、抽出物を吸入させ、吸入後、再度、脈圧センサーを装着し、加速度脈波と心拍間変動度を測定した。
これらの測定結果から、測定装置付属のソフトウエアを用いて、交感神経と副交感神経の活動度を自動算出した。
同様の実験を真正ラベンダー抽出物について行い、両者の差異を検討したところ、美郷雪華からの抽出物の方が、真正ラベンダーからの抽出物より、副交感神経の活動量の増加が大きかった。
しかも、美郷雪華からの抽出物だけで、交感神経活動量の増加が見られた。このことから、美郷雪華からの抽出物は、ラベンダー全般が有する副交感神経活動量の増加効果に加えて、意外にも交感神経活動量の増加効果をも有することが分かった。
従って、美郷雪華からの抽出物は、副交感神経活動量と交感神経活動量を同時に増加させることから、存在自体が稀である「副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤」として使用可能である。
実施例(特に実施例4)に示したように、美郷雪華からの抽出物は、自律神経調節剤として、特に、副交感神経活動量増加剤、交感神経活動量増加剤、及び、「副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤」として何れも、真正ラベンダーより高い効果を有している。
<気体経鼻投与剤>
本発明は、前記の自律神経調節剤を、水若しくは有機溶媒で希釈されて、又は、希釈されずに単身で、含有することを特徴とする気体経鼻投与剤でもある。
水若しくは有機溶媒で希釈すると、ディフューザー用、マスクにおける含浸用、含浸ゲル・ビーズ等として使用し易くなる場合がある。ただし、全て美郷雪華由来のものとするためには希釈しないで用いることが好ましい。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
<研究倫理、被験者>
本発明の実施例は、星薬科大学の研究倫理委員会の承認を得て行われた。
下記実施例の被験者については以下の通りである。
<<属性>>
所属:星薬科大学に所属する学部学生
人数:下記実施例1~4にそれぞれ記載の人数
年齢:20~24歳
ただし、当該実施例について十分な説明を受け、内容を理解した上で本人による文書同意が得られる者に限った。また、以下の項目に該当する者は除外した。
<<被験者からの除外基準>>
(1)副鼻腔炎、鼻中隔湾曲症、感冒後鼻粘膜障害等の嗅覚に影響を受ける疾患を有する者
(2)喘息等の呼吸器疾患を有する者
(3)脳梗塞、脳血管疾患、精神病、認知症等、試験に影響のある重篤な疾患の罹患歴又は現病歴がある者
(4)食生活が極度に不規則な者、又は、生活リズムが不規則な者
(5)当該臨床試験に参加中、試験終了後4週間以内、又は、当該試験の参加同意後に、他の医薬品又は健康食品の臨床試験に参加する予定のある者
(6)医師が本試験への参加が不適当と判断した者
調製例1
<美郷雪華から低温真空抽出法による固液分離(抽出)>
ラベンダーの一品種である「美郷雪華」は、秋田県美郷町にある美郷町ラベンダー園で栽培されたものを用いた。抽出(固液分離)の原料として、美郷雪華の花と、花が直接ついている茎とを、該茎の下部から切断して使用した。
図3、図4に示した2種の装置を用いて、それぞれ原料1kgから抽出(固液分離)した。抽出(固液分離)条件は以下とした。
(1)原料の温度:30~40℃
(2)容器内の設定温度:35~40℃
(3)圧力:101.3kPa(1気圧)に対し、93~97kPaだけ低い圧力
(4)撹拌羽根の回転数:4rpm(回転/分)
回収槽34に溜まった回収液は、殆どが均一な水相(水層)43であり、僅かにその上部に油相(油層)42が存在することもあった。その液全部(全回収液)を目的の抽出物とした。なお、油性成分の多くは水相(水層)43に溶解していると考えられる。
比較調製例1
<真正ラベンダーから低温真空抽出法による固液分離(抽出)>
調製例1において、「美郷雪華」に代えて「真正ラベンダー」を使用した以外は、調製例1と同様にして抽出物を得た。
比較調製例2
<真正ラベンダーからの抽出物>
真正ラベンダーからの抽出物である、市販品である「Lavandula Angustifolia Chemotype Essential Oil(PRANAROM社製)を購入して準備した。
比較調製例3
<美郷雪華から水蒸気蒸留法による抽出>
原料は調製例1と同様のものを用いた。
図5に示した装置を用い、100℃の水蒸気で、常法に従って抽出した。
回収槽に溜まった回収液は、水相(水層)とその上部に油相(油層)が存在した。油相(全部)と境界部の若干の液体を回収した、使用時には撹拌して均一な抽出物とした。
得られた抽出物の主成分は、油相(油層)の油性成分であり、所謂「精油」と言われているものであった。
比較調製例4
<美郷雪華から溶剤抽出法による固液分離(抽出)>
原料は調製例1と同様のものを用いた。
原料の3倍量の40℃の、水/エタノール混合溶剤を抽出媒体として用いて、常法に従って抽出した(図示せず)。
得られた抽出液から、抽出媒体を、40℃以下で減圧留去して抽出物を得た。
得られた抽出物には、抽出媒体を減圧留去する際に、「共沸される等して同時に留去されてしまった有効成分」を含んでおらず、また、若干の外部から加えた水、エタノール等の抽出溶媒を含むものであった。
実施例1
<脳神経沈静化剤、前頭葉血流抑制剤としての評価>
大脳(皮質)、特に前頭葉の脳神経活動に与える作用を測定した。
脳機能測定装置は、NIRS(Near-infrared Spectroscopy)近赤外分光分析装置「SMARTNIRS(登録商標)」(株式会社島津製作所製)を用い、該装置の説明書に従って測定した。本明細書において、該(脳機能測定)装置を、単に、「NIRS」と略記することがある。
図7Aのように、測定プローブ等を内蔵した測定器具を頭部に装着した被験者に対し、上記調製例1(美郷雪華)及び比較調製例1、2(真正ラベンダー)で得られた抽出物をそれぞれ噴霧して得た「図8に示したような試香紙(ムエット)」を用いて、5分間吸引させた(すなわち、気体経鼻投与した)。
対照として、精製水(HO)を噴霧して得た試香紙(ムエット)を用いて5分間吸引させた。
「ムエット」とは、白い厚手の紙で短冊状に切られたものであって、先端に試料を付けて嗅ぐために使用する専用のものである(図8)。
この間の被験者の前頭葉脳の神経活動を、NIRSを用いて経時的に測定した。
図9及び図10に、A~Kの11人の被験者のNIRSによる測定結果を示す。赤色は前頭葉の血流が増加し、前頭葉の賦活化(活性化)が起っていることを示し、青色は前頭葉の血流が抑制され(低下し)、前頭葉の沈静化が起っていることを示す。
図9及び図10の右側のメジャー(尺度)は、上に行く程、赤くなっていて賦活化(活性化)していることを示し、下に行く程、青くなっていて沈静化していることを示す。
なお、比較調製例1の「真正ラベンダーからの抽出物」と、比較調製例2の市販品のそれとは、ほぼ同様であった。
その結果、真正ラベンダーからの抽出物吸入時では、精製水吸入時に比べて、4名(A,D,E,G)が賦活化傾向にあり、1名(F)が変化なし、6名(B,C,H,I,J,K)が沈静化傾向にあった。
一方、美郷雪華からの抽出物吸入時では、2名(C,D)が賦活化傾向、3名(E,H,J)が変化なし、6名(A,B,F,G,I,K)が沈静化傾向にあった(図9、10)。
図11に、精製水(HO)と比較して、賦活化(活性化)した人数、沈静化した人数、及び、変化しなかった人数のまとめを示す。
図11に示すように、何れの抽出物吸入時においても、半数以上で沈静化傾向にあり、その点では、ラベンダー抽出物には、脳神経沈静化効果や、前頭葉血流抑制効果があり、美郷雪華と真正ラベンダーで大きな差は認められなかった。
しかし、逆方向の「前頭葉の血流量が増加した人数」が、美郷雪華抽出物の場合は、真正ラベンダー抽出物の場合より有意に減少した(4人→2人)。このことから、美郷雪華からの抽出物は、真正ラベンダーからの抽出物に比べ、脳神経沈静化をより大きく惹起することが分かった。
実施例2
<抗ストレス剤としての評価>
<<唾液中のBAP値の測定>>
まず、試験開始前に、唾液採取チューブ(サリベットコットン(図12(a)))を用い、図12(b)に示した方法で、被験者から唾液を採取した。
その後、超音波による振動で液体を霧状にして室内に充満させるディフューザー(図13)を用いて、上記調製例1(美郷雪華)及び比較調製例1、2(真正ラベンダー)で得られた抽出物を、室内に30分間噴霧した。
図13に、測定フロー(唾液採取のスケジューリング)を示したように、噴霧直後に(吸入前)、及び、更に30分間噴霧後(吸入後)に、それぞれの被験者から唾液を採取した。その後、被験者に更に30分間座位で安静にしてもらい(吸入30分後)、それぞれの被験者から唾液を採取した。
この採取した唾液を試料として、ストレスと関連するとされるBAP(Biological Anti-oxidant Potential)値を測定した。ストレスが加わると、ストレスを緩和しようとするので、唾液中の抗酸化物質の量が増え(抗酸化力が上がり)、BAP値が上がる。
BAP値の測定装置としては、フリーラジカル解析装置、FREE Carrio Duo(株式会社ウイスマー製)を使用した。
吸入前のBAP値に対する、「吸入後」及び「吸入30分後」のBAP値の比を、図14に示す。図14中の「*」は、P<0.05vs.美郷雪華(吸入後)である。
美郷雪華からの抽出物、真正ラベンダーからの抽出物、何れにおいても、吸入後にBAP値は増加し、吸入30分後には減少した。この結果は、美郷雪華抽出物も、真正ラベンダー抽出物も、何れもストレスに対しそれを抑制する効果を有していることを示唆している。言い換えると、美郷雪華からの抽出物も、真正ラベンダーからの抽出物も、抗ストレス剤として優れていることを示唆している。
また、真正ラベンダーからの抽出物吸入後のBAP値の増加は、美郷雪華からの抽出物吸入後に比べて統計的に有意に増加した(*:P<0.05)。
このことは、この吸入試験によって生じる被験者のストレスが、真正ラベンダー抽出物吸入後より、美郷雪華抽出物吸入後の方が、低くなっていることを示している。
なお、比較調製例1の「真正ラベンダーからの抽出物」と比較調製例2のそれは、ほぼ同様であった。
実施例3
<抗ストレス剤としての評価>
<<唾液中のコルチゾール量の測定>>
ストレス度合いの指標となる唾液中のコルチゾールを定量した。コルチゾールは副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、ストレスによって、唾液中の濃度が増加することが知られている。
実施例2と同様に、図13に示した測定フロー(唾液採取のスケジューリング)に従い、噴霧直後に(吸入前)、及び、更に30分間噴霧後(吸入後)に、それぞれの被験者から唾液を採取した。その後、被験者に更に30分間座位で安静にしてもらい(吸入30分後)、それぞれの被験者から唾液を採取した。
被験者8人より、唾液採取チューブを用いて採取した唾液を試料として、唾液中のコルチゾールを、Cortisol EIA Kit, Expanded Range, High Sensitivity, Salivary(フナコシ株式会社製)を用いて定量した。
結果を図15に示す。「*」:P<0.05vs.美郷雪華(吸入前)、「#」:P<0.05vs.ラベンダー(吸入前)
その結果、図15に示すように、美郷雪華抽出物、真正ラベンダー抽出物の何れにおいても、吸入前に比べて、吸入後、吸入30分後に、唾液中コルチゾール量は、統計的に有意に減少した。また、美郷雪華抽出物と真正ラベンダー抽出物に統計的な差はなかった。
以上より、美郷雪華抽出物は、真正ラベンダー抽出物と同程度の抗ストレス作用があることが明らかになった。この結果は、美郷雪華からの抽出物も、真正ラベンダーからの抽出物と同様に、抗ストレス剤として優れていることを示唆している。
実施例4
<副交感神経活動量及び交感神経活動量の測定>
被験者の指先に、Lifescore Quick(WINフロンティア株式会社製)の脈圧センサーを装着し(図16(a))、加速度脈波及び心拍間変動度を測定した。
測定後、美郷雪華からの抽出物を噴霧した試香紙(ムエット)(図8)を用いて、該抽出物を5分間吸入させた(気体経鼻投与した)。
吸入後、再度、脈圧センサーを装着し、加速度脈波及び心拍間変動度を測定し、この前後の加速度脈波及び心拍間変動度の変化から、美郷雪華からの抽出物が自律神経系に与える作用を算定した。心拍変動(RR間隔)を時間と周波数で自律神経の活動を分析した(図16(b))。
具体的には、これら加速度脈波及び心拍間変動度の(変化の)値から、Lifescore Quickソフトウエアで、副交感神経、交感神経の活動量を自動算出した。
これによって、吸入前に対する吸入後の、副交感神経活動量増加と交感神経活動量増加を求めた。被験者11人の、交感神経、副交感神経について吸入前後の変化率(比率)を求め、11人の被験者で平均値を求めた。
また、同様の実験を、比較調製例1、2で得られた真正ラベンダー抽出物についても行い、両者の差異を検討した。
結果を図17に示す。5分間の真正ラベンダーからの抽出物の吸引により、交感神経の活動量は殆ど変化がなかったが(1倍であったが)、副交感神経の活動はわずかに増加した。
一方、美郷雪華からの抽出物の吸引により、副交感神経と交感神経の何れも、活動量の増加が認められた。
また、美郷雪華からの抽出物で見られた副交感神経活動量の増加量は、統計的に有意な差はなかったものの、真正ラベンダーからの抽出物で見られた副交感神経活動量の増加量より大きかった。
しかも、美郷雪華からの抽出物では、吸入前に対して、交感神経活動量の増加が見られた(4倍)。このことは、美郷雪華からの抽出物は、ラベンダー全般が有する副交感神経活動量の増加効果に加えて、交感神経活動量の増加効果をも有することが分かった。
従って、美郷雪華からの抽出物は、副交感神経活動量を増加させ、交感神経活動量をも増加させることから、「副交感神経活動量増加剤」、「交感神経活動量増加剤」、及び、「副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤」として優れていることが示唆された。
なお、比較調製例1の「真正ラベンダーからの抽出物」と比較調製例2のそれは、ほぼ同様であった。
比較例1
比較調製例1及び比較調製例2で調製した「真正ラベンダーからの抽出物」の測定結果は、上記実施例1~4に比較として記載した通りである。
比較調製例3及び比較調製例4に記載した、低温真空抽出法以外の抽出方法で抽出した抽出物を上記実施例1~4と同様に評価したところ、何れの「自律神経調節に関する性能」も、調製例1において低温真空抽出法で抽出した抽出物より劣っていた。
本発明の自律神経調節剤に含有されている美郷雪華からの抽出物は、美郷雪華の細胞水をそのままの状態で含み、また従来の真正ラベンダーからの抽出物とは、分かっているだけでも異なる成分組成を有する。また、低温で減圧下に抽出され、好ましくは外部から抽出媒体を混入させないので、熱分解(成分)もなく、全て植物由来であり、安全性が極めて高い。
従って、本発明の自律神経調節剤は、健常人にも疾患を有する人にも有用であるため、医薬品、介護、介護用品、医療、医療品、医薬部外品、化粧料、入浴剤、トイレタリー等の製造・使用分野等において広く利用されるものである。
21 容器
22 冷却器
23 撹拌羽根
24 加熱装置
25 排気口
26 排出口
27 配管
32 真空計
33 温度計
34 回収槽
35 減圧装置
41 抽出対象(原料)
42 油相(油層)
43 水相(水層)
44 抽出残渣(固体)

Claims (10)

  1. 温真空抽出法を用い、かつ、抽出媒体も水蒸気も使用せずに、外部から熱を加えつつ減圧し、細胞水の蒸発熱で45℃以下を維持しながら、ラベンダーの品種である美郷雪華(農林水産省品種登録番号第22259号)の完全には乾燥していない未乾燥品を固液分離し、水性の抽出物を回収することを特徴とする自律神経調節剤の製造方法。
  2. 前記自律神経調節剤が脳神経沈静化剤である請求項1に記載の自律神経調節剤の製造方法
  3. 前記自律神経調節剤が前頭葉血流抑制剤である請求項1又は請求項2に記載の自律神経調節剤の製造方法
  4. 前記自律神経調節剤が抗ストレス剤である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法
  5. 前記自律神経調節剤が副交感神経活動量増加剤である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法
  6. 前記自律神経調節剤が交感神経活動量増加剤である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法
  7. 前記自律神経調節剤が、副交感神経及び交感神経の活動量を同時に増加させる交感神経活動量増加剤である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法
  8. 上記固液分離を、101.3kPa(1気圧)に対し、80kPa以上低い圧力を維持しつつ行う請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法。
  9. 少なくとも主たる固液分離中は、1kPa以上10kPa以下の圧力を維持する請求項1ないし請求項8の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法。
  10. 請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の自律神経調節剤の製造方法を用いて製造された自律神経調節剤を、水若しくは有機溶媒で希釈、又は、希釈せずに単身で、含有させることを特徴とする気体経鼻投与剤の製造方法

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