本開示による地図データ作成方法及び地図データ作成装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
実施例1における地図データ作成方法及び地図データ作成装置は、自動運転モードを選択すると目標軌跡が生成され、この目標軌跡に沿って走行するように速度及び舵角(車両運動)が制御される自動運転車両に適用したものである。実施例1の構成を、「運転システムの全体システム構成」、「自動運転コントローラの制御ブロック構成」、「車両運動コントローラの制御ブロック構成」、「車線情報データ作成部の制御ブロック構成」、「車線情報データ作成処理構成」に分けて説明する。
図1に基づいて、運転システム100の全体システム構成を説明する。
自動運転車両(以下「車両」という)に適用された運転システム100は、図1に示すように、車載センサ1と、ナビゲーション装置2と、車載制御ユニット3と、アクチュエータ4と、HMIモジュール5と、を備えている。
車載センサ1は、車両周辺の物体や道路形状等の周辺環境、車両の状態等を認識するために車両に搭載された各種のセンサである。この車載センサ1は、外部センサ11、GPS受信機12、内部センサ13を有する。なお、車載センサ1では、複数の異なるセンサを用いて必要な情報を取得するセンサフュージョンを行ってもよい。
外部センサ11は、車両周辺の環境情報を検出する検出機器である。外部センサ11は、カメラ、レーダー(Radar)、ライダー(LIDER:Laser Imaging Detection and Rangin)等から構成される。なお、カメラ、レーダー及びライダーは、必ずしも重複して備える必要はない。
カメラは、画像データを取得するための撮像機器である。このカメラは、例えば、前方認識カメラ、後方認識カメラ、右方認識カメラ、左方認識カメラ等を組み合わせることにより構成され、撮影した画像や映像の解析を人工知能や画像処理用プロセッサを用いてリアルタイムで行う。これにより、カメラでは、自車走行路上物体・車線・自車走行路外物体(道路構造物、先行車、後続車、対向車、周囲車両、歩行者、自転車、二輪車)・自車走行路(道路白線、道路境界、停止線、横断歩道)・道路標識(制限速度)等を検知できる。なお、単眼カメラでは一般的に対象物までの距離の計測はできないが、複眼カメラを用いて異なる視点から同時に撮影を行うことによって、対象物までの距離を計測することも可能となる。
レーダーは、電波や超音波等を利用して距離データを取得する装置である。ここで、「レーダー」とは、電波を用いたレーダーと、超音波を用いたソナーと、を含む総称であり、例えば、レーザーレーダー、ミリ波レーダー、超音波レーダー、レーザーレンジファインダー等を用いることができる。また、ライダーは、光を利用して距離データを取得する装置である。
レーダーやライダーは、車両の周囲に電波や光等を送信し、対象物で反射された電波や光等を受信することで、反射点である対象物までの距離や方向を検出する。これにより、レーダーやライダーでは、自車走行路上物体・自車走行路外物体(道路構造物、先行車、後続車、対向車、周囲車両、歩行者、自転車、二輪車)等の位置を検知できると共に、各物体までの距離を検知できる。
GPS受信機12は、3個以上のGPS衛星から信号を受信して、車両の位置を示す位置データを取得するための装置である。このGPS受信機12は、GNSSアンテナ12aを有し、自車位置の緯度及び経度を検出する。なお、「GNSS」は「Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム」の略称であり、「GPS」は「Global Positioning System:グローバル・ポジショニング・システム」の略称である。また、GPS受信機12による信号受信が不良のときには、内部センサ13やオドメーター(車両移動量計測装置)を利用してGPS受信機12の機能を補完してもよい。
内部センサ13は、車両の速度・加速度・姿勢データ等の車両情報を検出する検出機器である。この内部センサ13は、例えば6軸慣性センサ(IMU:Inertial Measurement Unit)を有し、車両の移動方向、向き、回転を検出することができる。さらに、この内部センサ13の検出結果に基づいて移動距離や移動速度などを算出できる。6軸慣性センサは、前後、左右、上下の三方向の加速度を検出できる加速度センサと、この三方向の回転の速さを検出できるジャイロセンサを組み合わせることで実現される。
さらに、この車載センサ1では、不図示の外部データ通信器との間で無線通信を行うことで、必要な情報を外部から取得してもよい。すなわち、外部データ通信器が、例えば、他車両に搭載されたデータ通信器の場合、自車両と他車両の間で車車間通信を行う。この車車間通信により、他車両が保有する様々な情報から必要な情報を取得することができる。また、外部データ通信器が、例えば、インフラストラクチャ設備に設けられたデータ通信器の場合、自車両とインフラストラクチャ設備の間でインフラ通信を行う。このインフラ通信により、インフラストラクチャ設備が保有する様々な情報から必要な情報を取得することができる。この結果、例えば、自動運転コントローラ31が有する地図データでは不足する情報や変更された情報がある場合に必要な地図データを補うことができる。また、車両が走行を予定している経路上での渋滞情報や走行規制情報等の交通情報を取得することもできる。
ナビゲーション装置2は、ナビ用地図データや施設情報データを内蔵し、目的地までの経路を案内する装置である。このナビゲーション装置2では、目的地が入力されると、車両の現在地(或いは任意に設定された出発地)から目的地までの案内経路を算出する。算出された案内経路の情報は、ナビ用地図データと合成されてHMIモジュール5のディスプレイパネルに表示される。なお、「ナビ用地図データ」は、道路の二次元の位置情報(緯度、経度)が設定された地図データである。また、目的地は、車両の乗員が車内で設定してもよいし、ユーザ端末(例えば、携帯電話、スマートフォン等)によってユーザが設定した目的地を無線通信を介して車両で受信し、受信した目的地を用いてもよい。また、案内経路は、車両に備わるナビゲーション装置2で算出してもよいが、車外のコントローラを用いたナビゲーション装置により算出してもよい。
車載制御ユニット3は、CPUやメモリを備えており、車載センサ1によって検出された各種の検出情報や、ナビゲーション装置2によって生成された案内経路情報、必要に応じて適宜入力されるドライバー入力情報等を統合処理する。また、この車載制御ユニット3は、車両運動制御時の演算に使用する車線情報の再現に用いる車線情報データを作成する地図データ作成装置である。この車載制御ユニット3は、車両運動を制御するための制御指令値を演算する自動運転コントローラ31及び車両運動コントローラ32と、車線情報データ作成部33(コントローラ)と、を有している。
自動運転コントローラ31では、車載センサ1やナビゲーション装置2からの入力情報や高精度地図データ等に基づき、目標車速プロファイルや目標軌跡を多段の階層処理により生成する。ここで、「目標軌跡」とは、車両を自動で走行させる際の目標となる軌跡であり、例えば、車両が存在する車線の中で走行するための軌跡や、車両周囲の走行可能な領域(走行可能領域)内で走行するための軌跡、障害物回避のための緊急操舵時の軌跡等を含む。生成された目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報は車両運動コントローラ32に出力される。生成された目標軌跡の情報は、高精度地図データと合成されてHMIモジュール5のディスプレイパネルに表示してもよい。
車両運動コントローラ32では、目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報やドライバーによる入力情報(以下「ドライバー入力」という)に基づいて、車両を目標に応じて走行させるための制御指令値(速度制御指令値及び操舵制御指令値等)を演算する。演算された制御指令値はアクチュエータ4に出力される。なお、車両運動コントローラ32では、ドライバー入力の有無によって走行モードを調停し、調停結果に応じた制御指令値を演算する。例えば、自動運転モードの選択中でドライバー入力が無い場合は、目標軌跡に沿って走行することを目標にして車両を走行させる制御指令値を出力する。一方、ドライバー入力が生じた場合は、ドライバー入力を目標にして車両を走行させる制御指令値を出力する。
車線情報データ作成部33では、車線情報の再現に用いる車線情報データを作成する。車線情報データは、地図上の緯度経度を規定するデータ点を並べた点列によって示され、車線情報は、この車線情報データに含まれる点列を直線で繋いでいくことで再現される。ここで、「車線情報」とは、車線の境界線、車線中心線、道路境界線等、目標軌跡を生成する際に自車が走行可能な範囲である走行可能領域を設定する際に必要となる情報である。
すなわち、車線情報データ作成部33は、自己位置及び行動計画の情報を取得し、自己位置からの所定の演算区間における自車の行動計画に基づいて、演算区間内に自車の車両挙動が大きく変化する注視領域を設定する。さらに、設定した注視領域の中から、点列の間隔を注視領域以外の非注視領域よりも狭くする密表示区域を選択する。そして、演算区間を示す基準地図データのデータ点数を上限としたデータ点数の点列であって、密表示区域を非注視領域の点列の間隔よりも狭くした点列によって演算区間の車線情報データを作成する。なお、車線情報データ作成部33で作成された車線情報データは、自動運転コントローラ31に有する走行領域設定部317(図2参照)に出力される。
アクチュエータ4は、車両を走行又は停止させるための制御アクチュエータであり、速度制御アクチュエータ41と、操舵制御アクチュエータ42と、を有する。なお、走行とは、車両の加速走行/定速走行/減速走行をいう。
速度制御アクチュエータ41は、車載制御ユニット3から入力された速度制御指令値に基づいて駆動輪へ出力する駆動力又は制動力を制御する。速度制御アクチュエータ41としては、例えば、エンジン車の場合にエンジンを用い、ハイブリッド車の場合にエンジンとモータ/ジェネレータを用い、電気自動車の場合にモータ/ジェネレータを用いる。また、制動力のみを制御するアクチュエータとしては、例えば、油圧ブースタや電動ブースタやブレーキ液圧アクチュエータやブレーキモータアクチュエータ等を用いる。
操舵制御アクチュエータ42は、車載制御ユニット3から入力された操舵制御指令値に基づいて操舵輪の転舵角を制御する。なお、操舵制御アクチュエータ42としては、ステアリングシステムの操舵力伝達系に設けられる操舵モータ等を用いる。
HMIモジュール5は、車両の乗員(ドライバーを含む)と車載制御ユニット3との間で情報の出力及び入力をするためのインターフェイスである。HMIモジュール5は、例えば、ステアリング、アクセル、ブレーキ、乗員に画像情報を表示するためのディスプレイパネル、音声出力のためのスピーカ、乗員が入力操作を行うための操作ボタンやタッチパネル等から構成される。
図2に基づいて、自動運転コントローラ31の制御ブロック構成を説明する。
自動運転コントローラ31は、図2に示すように、高精度地図データ記憶部311と、自己位置算出部312と、周辺環境認識部313と、走行環境認識部314と、を備えている。そして、目標軌跡を生成する階層処理部として、行動計画計算部315と、車両挙動計算部316と、走行領域設定部317と、目標軌跡生成部318と、を備えている。
高精度地図データ記憶部311は、車外に存在する静止物体の三次元の位置情報(経度、緯度、高さ)が設定された高精度三次元地図データ(以下「HDマップ」という)が格納された車載メモリである。静止物体には、例えば、横断歩道、停止線、各種標識、分岐点、道路標示、信号機、電柱、建物、看板、車道やレーンの中心線、区画線、路肩線、道路と道路のつながり等さまざまな要素が含まれる。さらに、この高精度地図データ記憶部311には、地図上の緯度経度を規定するデータ点を等間隔に並べた点列によって車線情報を示した基準地図データが格納されている。高精度地図データ記憶部311からは、自己位置算出部312へHDマップ情報が出力され、車線情報データ作成部33へ基準地図データが出力される。
自己位置算出部312は、入力情報に基づいて地図上の自車の位置(自己位置)を算出する。自己位置を算出することで、現在自車が存在する車線の情報及び位置情報を取得することができる。ここで、自己位置算出部312には、車載センサ1からのセンサ情報と、高精度地図データ記憶部311からのHDマップ情報等が入力される。そして、この自己位置算出部312は、例えば、入力されたセンサ情報とHDマップ情報とをマッチングして自己位置を推定する。自己位置算出部312からは、走行環境認識部314へ自己位置情報が出力される。
周辺環境認識部313は、入力情報と、車両周辺環境の刻々と変化する動的な情報をデータベース化した動的周辺環境情報(ローカルモデル)とに基づき、車両の周辺環境を認識する。ここで、「動的な情報」とは、例えば交通規制情報、道路工事情報、広域気象情報等を含む準静的データ、例えば事故情報、渋滞情報、狭域気象情報等を含む準動的データ、例えば周辺車線情報、歩行者情報、信号機情報等を含む動的データである。これらの動的な情報は階層化され、各データの更新頻度を異ならせている。周辺環境認識部313には、車載センサ1からのセンサ情報(車両周辺の環境情報)等が入力される。そして、この周辺環境認識部313は、動的周辺環境情報を用い、入力された車両周辺の環境情報を解析し、周辺環境認識情報を演算する。周辺環境認識部313からは、走行環境認識部314と走行領域設定部317へ周辺環境認識情報が出力される。
走行環境認識部314は、入力情報と、車両走行環境の刻々と変化する動的な情報をデータベース化した動的走行環境情報(ワールドモデル)とに基づき、車両の走行環境を認識する。ここで、「動的走行環境情報(ワールドモデル)」とは、車両の自己位置を中心として「動的周辺環境情報(ローカルモデル)」よりも環境認識領域を拡大して取得される動的な情報をいう。走行環境認識部314には、車載センサ1からのセンサ情報と、ナビゲーション装置2からの案内経路情報と、自己位置算出部312からの自己位置情報と、周辺環境認識部313からの周辺環境認識情報等が入力される。そして、この走行環境認識部314は、動的走行環境情報を用い、算出した自己位置を基準とした所定範囲のHDマップの上に走行環境認識情報を演算する。走行環境認識部314からは、行動計画計算部315へ走行環境認識情報が出力される。
行動計画計算部315は、目的地までの案内経路上における自車の行動計画を計算する。ここで「行動計画」とは、自車が案内経路に沿って走行する際に自車が走行する車線(以下「目標車線」という)の情報を含む経路情報である。すなわち、行動計画計算部315は、自車が案内経路に沿って走行するときに遭遇する事象(例えば、車線変更や障害物回避等)を抽出し、それらの事象に対応しながら走行する際に走行すべき車線を求める。この行動計画計算部315には、ナビゲーション装置2からの案内経路情報及びナビ地図データ情報と、走行環境認識部314からの走行環境認識情報等が入力される。そして、この行動計画計算部315は、経路案内情報から判断した目的地の方向や、走行環境認識情報から判断した自車の周囲環境の状況から行動計画を演算する。行動計画計算部315からは、車両挙動計算部316及び車線情報データ作成部33へ行動計画情報が出力される。
車両挙動計算部316は、自車が行動計画に則って走行するときに生じる車両挙動(車両の動作)、つまり、自車が目標車線を走行するときに生じる車両挙動(車両の動作)の制御パラメータ及びその制御量を計算する。ここで、「車両挙動」とは、発進、停止、加速、減速、右左折等の車両の動作である。この車両挙動は、車両の速度、加減速度、操舵量或いは転舵量等の制御パラメータを介して制御される。車両挙動計算部316には、行動計画計算部315からの行動計画情報等が入力される。車両挙動計算部316からは、走行領域設定部317及び車線情報データ作成部33へ車両挙動情報が出力される。なお、「車両挙動情報」とは、車両挙動の制御パラメータ及びその制御量を含む情報である。
走行領域設定部317(第2コントローラ)は、自車が行動計画に則って走行するとき、つまり、自車が目標車線を走行するときに自車が走行可能な領域(走行可能領域)を設定する。なお、この「走行可能領域」は、自車の車両運動制御に使用する演算値であり、走行可能領域を設定することは、自車の車両運動制御に使用する演算値を演算することに相当する。
ここで、走行領域設定部317には、周辺環境認識部313からの周辺環境認識情報と、車両挙動計算部316からの車両挙動情報と、車線情報データ作成部33からの車線情報データ等が入力される。そして、この走行領域設定部317は、車両挙動情報と車両の周辺環境情報とを照合して走行可能領域を設定する。例えば、車両周辺に障害物等の物体が存在するときには、当該物体との接触を回避するような走行可能領域が設定される。走行領域設定部317からは、目標軌跡生成部318へ走行可能領域情報が出力される。さらに、この走行領域設定部317では、走行可能領域を設定するときに使用する車線情報を再現するため、車線情報データ作成部33から入力される車線情報データを用いる。
目標軌跡生成部318は、設定された走行可能領域内を通過する目標軌跡を生成する。ここで、目標軌跡生成部318には、走行領域設定部317からの走行可能領域情報等が入力される。そして、この目標軌跡生成部318は、現在の車両の位置から任意に設定した目標位置までの間、走行可能領域内を走行することを拘束条件として、幾何学的な手法により目標軌跡を生成する。なお、目標軌跡生成部318は、例えば複合クロソイド曲線を用いて目標軌跡を生成したり、安全性や法令順守、走行効率などの基準を満たした走行が可能な目標軌跡を生成したりしてもよい。目標軌跡生成部318からは、車両運動コントローラ32へ目標軌跡情報が出力される。
また、目標軌跡生成部318では、目標軌跡に対する目標車速プロファイルを生成する。目標車速プロファイルとは、目標軌跡に沿って走行する時の時系列的な目標車速である。目標軌跡の曲率に合わせて目標車速プロファイルを生成することで、車両が目標軌跡に沿って走行するように車両運動を制御するができる。すなわち、例えば、目標軌跡の曲率が大きいシーンでは、乗員に大きな車両挙動を与えないために目標車速を低く設定し、目標軌跡の曲率が小さいシーンでは、曲率が大きいシーンと比較して目標車速プロファイルを高く設定してもよい。それに対して、先に目標車速プロファイルを算出し、その後、目標車速プロファイルに合わせて目標軌跡を生成してもよい。例えば、目標車速が高い場合は、曲率の小さい目標軌跡を生成し、反対に目標車速が低い場合は、曲率の大きい目標軌跡を生成してもよい。
図2に基づいて、車両運動コントローラ32の制御ブロック構成を説明する。
車両運動コントローラ32は、図2に示すように、入力情報調停部321と、規範モデル設定部322と、挙動制御部323と、タイヤ力演算部324と、指令演算部325と、を備えている。
入力情報調停部321は、ドライバー入力の有無によって自動運転コントローラ31からの入力情報に基づいて制御指令値を演算するのか、又はドライバー入力を目標にして制御指令値を演算するのかを調停する。ここで、入力情報調停部321には、自動運転コントローラ31からの目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報が入力される。また、HMIモジュール5を介してドライバー入力が生じた場合には、このドライバー入力が入力される。そして、この入力情報調停部321は、ドライバー入力情報があるときには、ドライバー入力に基づいて設定される目標車速及び目標舵角の情報を規範モデル設定部322へ出力する。また、ドライバー入力情報がないときには、自動運転コントローラ31からの目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報に基づいて設定される目標車速及び目標舵角の情報を規範モデル設定部322へ出力する。
規範モデル設定部322は、任意に設定可能な数式で表され、車両を走行させるときに車両に生じる運動の規範モデルを設定する。すなわち、規範モデル設定部322には、入力情報調停部321からの目標車速や目標舵角等の情報が入力される。そして、この規範モデル設定部322は、入力情報を規範モデルである数式に代入することによって規範モデル値を算出する。ここで、規範モデル値とは、例えば、ヨーレート規範モデルを用いたときの目標ヨーレートや、横加速度規範モデルを用いたときの目標横加速度、車体スリップ角規範モデルを用いたときの目標車体スリップ角等をいう。規範モデル設定部322からは、挙動制御部323へ規範モデル値情報が出力される。
挙動制御部323は、車両運動の実値を規範モデル値に収束させ、車両の挙動を安定させる車速指令値及び舵角指令値を演算する。挙動制御部323には、規範モデル設定部322から規範モデル値情報が入力され、車載センサ1からセンサ情報が入力される。そして、この挙動制御部323は、規範モデル値(例えば、目標ヨーレート)と車両運動の実値(例えば、実ヨーレート)との偏差を算出し、この偏差を小さくする車速指令値及び舵角指令値を演算する。これにより、車両が目標軌跡に沿って走行するように車両運動を制御することができる。挙動制御部323からは、タイヤ力演算部324へ車速指令値及び舵角指令値の情報が出力される。
タイヤ力演算部324は、挙動制御部323にて求めた車速指令値及び舵角指令値を達成させる各タイヤの最適なタイヤ力を演算する。タイヤ力演算部324には、挙動制御部323から車速指令値及び舵角指令値の情報が入力される。そして、このタイヤ力演算部324は、入力された指令値を達成するタイヤ力(タイヤ縦力とタイヤ横力)を演算する。これにより、車両が目標軌跡に沿って走行するように車両運動を制御することができる。タイヤ力演算部324からは、指令演算部325へ各タイヤにおけるタイヤ力情報が出力される。
指令演算部325は、入力されたタイヤ力を各タイヤに発生させる制御指令値(速度制御指令値及び操舵制御指令値)を演算する。すなわち、指令演算部325には、タイヤ力演算部324からタイヤ力情報が入力される。そして、この指令演算部325は、タイヤ力情報に対応する速度制御指令値及び操舵制御指令値を演算する。指令演算部325からは、アクチュエータ4へ指令値情報が出力される。
図2に基づいて、車線情報データ作成部33の制御ブロック構成を説明する。
車線情報データ作成部33は、図2に示すように、注視領域設定部331と、疎密決定部332と、を備えている。
注視領域設定部331は、自己位置及び行動計画の情報を取得し、取得した行動計画の情報に基づいて自己位置からの所定の演算区間内に注視領域を設定する。ここで、「注視領域」とは、行動計画に基づいて計算された車両挙動に大きな変化が生じると予測される領域である。なお、演算区間において注視領域以外の領域は「非注視領域」となる。また、演算区間は、自己位置から自車前方の任意の地点までの所定区間である。
すなわち、注視領域設定部331には、自己位置算出部312から自己位置情報が入力され、行動計画計算部315から行動計画情報が入力され、車両挙動計算部316から車両挙動情報が入力される。そして、この注視領域設定部331は、自己位置から任意地点までの所定の演算区間を設定し、当該演算区間の行動計画の情報を取得する。また、注視領域設定部331は、当該演算区間の行動計画上の車両挙動の情報(車両挙動の制御パラメータ及びその制御量(加減速度、操舵量等))を取得する。
そして、自車が存在する車線(自車が走行中の自車線)から逸脱する行動計画がある場合、注視領域設定部331は、この自車線からの逸脱開始地点と自車線への復帰地点の自己位置からの距離の情報を取得する。そして、この開始地点と復帰地点の間の領域を「車両挙動の大きく変化する領域」として注視領域に設定する。なお、自車線から逸脱する行動計画とは、例えば、自車線上の障害物(駐停車車両等)を回避する行動計画や、分岐車線又は合流車線への移動、隣車線への車線変更を行う行動計画、道路外から道路への進入や道路から道路外への退出を行う行動計画等である。
さらに、注視領域設定部331は、自車の車両挙動の変化が予め設定した閾値以上になる行動計画がある場合、車両挙動の変化開始地点と変化収束地点の自己位置からの距離の情報を取得する。そして、この開始地点と収束地点の間の領域を「車両挙動の大きく変化する領域」として注視領域に設定する。ここで、「車両挙動の変化が閾値以上になる」とは、自車のステアリングの操舵角度(或いは転舵輪の転舵角度)の変化量又は車速の変化量、或いは自車のステアリングの操舵角度(或いは転舵輪の転舵角度)の変化速度又は車速の変化速度の少なくとも一つが閾値以上に変化することである。具体的には、小R旋回、交差点での右左折、Uターン、減速・停車等の車両挙動が生じるとき、当該車両挙動の変化が閾値以上になる可能性が高い。注視領域設定部331は、注視領域の情報を疎密決定部332へ出力する。
疎密決定部332は、注視領域設定部331によって演算区間内に設定された注視領域の中から、点列の間隔を非注視領域よりも狭くする密表示区域を選択する。そして、密表示区域の点列の間隔を非注視領域の点列の間隔よりも狭くした点列によって演算区間の車線情報データを作成する。また、作成される演算区域の車線情報データのデータ点数は、演算区間を示す基準地図データのデータ点数を上限とする。ここで「密表示区域」とは、自車の自動走行による走行を継続する際に必要となる区域であり、自動走行を行う際に車線情報の再現度が低くても問題のない区域よりも優先して選択される。さらに、自車が自車線から逸脱する行動計画のときには、この密表示区域は、自車線と、自車線に隣接する隣車線を含む区域とする。
すなわち、疎密決定部332には、高精度地図データ記憶部311から演算区域の基準地図データが入力され、行動計画計算部315から行動計画情報が入力され、注視領域設定部331から注視領域情報が入力される。そして、この疎密決定部332は、基準地図データと行動計画情報に基づいて、行動計画上で自車の走行に必要な車線情報を示す基準地図データを抽出する。なお、このとき抽出される基準地図データは、データ点が基準間隔で等間隔に並んだ点列である。そして、疎密決定部332は、抽出した基準地図データのデータ点数を演算し、この演算によって求められたデータ点数を、疎密決定部332にて作成する車線情報データのデータ点数の上限とする。
次に、疎密決定部332は、演算区間内に設定した注視領域の全域を密間隔(第2間隔)の点列とするために必要なデータ点数を演算する。続いて、疎密決定部332は、自己位置に最も近接した注視領域の始点から、自車の進行方向に沿って、演算区間内の注視領域を密間隔の点列で示すことが可能な最大限の区域を密表示区域に選択する。このとき、疎間隔(第1間隔)の点列で非注視領域を示すことを前提する。さらに、このときに演算区間を示すデータ点数の上限は、基準地図データから抽出した「行動計画上で自車の走行に必要な車線情報」を示す等間隔の点列のデータ点数である。
そして、疎密決定部332では、密表示区域に選択した区域を密間隔の点列で表示し、非注視領域を含む密表示区域以外の区域を疎間隔の点列で表示した車線情報データを作成し、走行領域設定部317に出力する。
ここで、「基準間隔の点列」とは、制限速度で走行したときに所定時間(例えば10秒)で到達する距離を所定数(例えば20)で等分した間隔(基準間隔)でデータ点を並べた点列である。また、「密間隔の点列」とは、例えば上記「基準間隔」の半分の間隔(密間隔)でデータ点を並べた点列である。一方、「疎間隔の点列」とは、例えば上記「基準間隔」の倍の間隔(疎間隔)でデータ点を並べた点列である。
図3に基づいて、車線情報データ作成処理構成を説明する。なお、車線情報データ作成処理において、ステップS1からステップS6までの各処理は注視領域設定部331にて実行する。また、ステップS7からステップS13までの各処理は疎密決定部332にて実行する。この車線情報データ作成処理は、車両の走行中、所定の間隔で繰り返して実行される。
ステップS1では、自己位置算出部312にて算出した地図上の自車の位置である自己位置の情報を取得し、ステップS2へ進む。
ステップS2では、ステップS1での自己位置情報の取得に続き、自己位置から自車前方の所定地点までの演算区間を設定し、ステップS3へ進む。
ステップS3では、ステップS2での演算区間の設定に続き、行動計画計算部315にて計算された演算区間内の行動計画の情報を取得し、ステップS4へ進む。これにより、注視領域設定部331は、演算区間における自車の行動計画を把握する。
ステップS4では、ステップS3での行動計画情報の取得に続き、車両挙動計算部316から行動計画上の車両挙動の情報を取得し、ステップS5へ進む。これにより、注視領域設定部331は、演算区間における自車の車両挙動の制御パラメータ及びその制御量を把握する。
ステップS5では、ステップS4での車両挙動情報の取得に続き、ステップS2にて設定した演算区間内に注視領域を設定する必要があるか否かを判断する、YES(注視領域設定必要)の場合にはステップS6へ進む。NO(注視領域設定不要)の場合には、注視領域を設定することなくステップS12へ進む。ここで、ステップS3にて取得した行動計画に、少なくとも自車が走行中の自車線から逸脱する行動計画が含まれている場合や、操舵角度又は車速の少なくとも一方の変化量が予め設定した閾値以上の行動計画が含まれている場合には、注視領域の設定が必要であると判断する。
ステップS6では、ステップS5での注視領域の設定必要との判断に続き、演算区間内に注視領域を設定し、ステップS7へ進む。ここで、演算区間内で車両挙動が変化する領域を注視領域として設定する。具体的には、演算区間内で自車が走行中の自車線から逸脱する行動計画となる領域を、車両挙動が変化する領域として注視領域に設定する。また、演算区間内で自車の操舵角度又は車速の少なくとも一方の変化量が予め設定した閾値以上の行動計画となる領域を、車両挙動が変化する領域として注視領域に設定する。
ステップS7では、ステップS6での注視領域の設定に続き、ステップS3にて取得した行動計画上で自車の走行に必要な車線情報を示す基準地図データを、高精度地図データ記憶部311から抽出する。
ステップS8では、ステップS7での基準地図データの抽出に続き、ステップS7にて抽出された基準地図データのデータ点数を演算し、この「行動計画上で自車の走行に必要な車線情報を示す基準地図データ」を示すデータ点の総数(データ点数)を車線情報データのデータ点数の上限に設定し、ステップS9へ進む。ここで、車線情報データを示すデータ点数を、「行動計画上で自車の走行に必要な車線情報を示す基準地図データ」におけるデータ点数よりも少ない数とすることで、走行領域設定部317に入力されるデータ量を抑制し、走行領域設定部317での演算負荷を軽減することができる。
ステップS9では、ステップS8のデータ点数の上限設定に続き、演算区間内に設定した注視領域の全域を密間隔の点列によって示すために必要なデータ点の総数を演算し、ステップS10へ進む。
ステップS10では、ステップS9での注視領域を密間隔の点列にするために必要なデータ点数の演算に続き、演算区間内に設定した非注視領域の全域を疎間隔の点列によって示すために必要なデータ点の総数を演算し、ステップS11へ進む。
ステップS11では、ステップS10での非注視領域を疎間隔の点列にするために必要なデータ点数の演算に続き、ステップS6にて設定した注視領域の中から密間隔の点列とする密表示区域を選択し、ステップS12へ進む。ここでは、注視領域の中でも自車の自動走行を継続させるために必要な区域を密表示区域として選択する。「自車の自動走行の継続に必要な区域」とは、自車を自動運転コントローラ31からの制御指令に基づいて走行させる自動走行中に走行可能領域を適切に設定し、継続して自動走行を行うために必要な区域である。具体的には、疎間隔の点列で非注視領域を示すと共に、ステップS8にて設定したデータ点数を上限としたデータ点数で演算区間を示すことを前提とした上で、自己位置に最も近接している注視領域の始点から自車の進行方向に沿って順に密間隔の点列で示すことが可能な最大限の注視領域を密表示区域に選択する。
つまり、ステップS11では、まず、ステップS8にて設定した「データ点数の上限(基準地図データのデータ点数)」から、ステップS10にて演算した「非注視領域を疎間隔の点列で示す際に必要なデータ点数」を差し引き「密表示可能データ点数」を求める。続いて、ステップS9にて演算した「注視領域を密間隔の点列で示す際に必要なデータ点数」から「密表示可能データ点数」を差し引いて「データ点数差」を求める。そして、「データ点数差」がゼロを超過(注視領域を密間隔の点列で示す際に必要なデータ点数>密表示可能データ点数)の場合には、注視領域の全域を密間隔で表示できないため、以下の第1条件から第3条件を拘束条件として、注視領域の全域を密間隔で示す第1区域と疎間隔で示す第2区域の二つに分け、第1区域を密表示区域として選択する。すなわち、第1条件は、自己位置に最も近い注視領域の始点から自車の進行方向に沿って密間隔の点列とすることである。第2条件は、第1区域をできるだけ長く確保すること、つまり最大限密間隔で示す区域とすることである。第3条件は、第1区域のデータ点数と、第2区域のデータ点数の合計を「密表示可能データ点数」とすることである。一方、「データ点数差」がゼロ以下の場合(注視領域を密間隔の点列で示す際に必要なデータ点数≦密表示可能データ点数)には、注視領域の全域を密間隔で表示できるため、演算区間内に設定した注視領域の全域を密表示区域に選択する。
ステップS12では、ステップS11での密表示区域の選択又はステップS5での注視領域設定不要との判断に続き、演算区間の車線情報データを作成し、ステップS13へ進む。ここで、密表示区域が選択された場合には、選択された密表示区域を密間隔の点列とし、非注視領域を含む密表示区域以外の区域を疎間隔の点列とした点列によって、演算区間の車線情報データを作成する。一方、注視領域設定が不要と判断された場合には、所定の均等間隔(例えば、基準間隔α)の点列によって、演算区間の車線情報データを作成する。
ステップS13では、ステップS12での車線情報データの作成に続き、作成した車線情報データを走行領域設定部317に出力し、エンドへ進む。
以下、「データ点の点列による車線情報の再現における課題」を説明する。
自動運転車両において自動運転モードを選択すると、自動運転コントローラ31にて目標車速プロファイル及び目標軌跡を生成する。そして、ドライバー入力が生じなければ、車両運動コントローラ32にて制御指令値が演算され、自車は目標軌跡に沿って走行していく。ここで、目標軌跡を生成する際、走行領域設定部317によって、自車が走行することができる走行可能領域を設定する。このとき、走行領域設定部317では、自車周辺の車線情報を用いるが、この車線情報は、地図上の緯度経度を規定するデータ点Dを並べた点列を直線で繋いでいくことで再現される。
ここで、車線情報を再現する点列の間隔が狭い場合では、データ点Dを繋ぐ直線の長さが短くなり、点列によって再現される車線情報の再現度が高まる。一方、点列の間隔が広い場合では、データ点Dを繋ぐ直線の長さが長くなり、点列によって再現される車線情報の再現度は低下する。しかし、データ点数が同一の場合、データ点Dの間隔が狭い点列で再現される車線情報の距離は、データ点Dの間隔が広い点列で再現される車線情報の距離よりも短くなってしまう。つまり、点列のデータ点数と点列の間隔をそれぞれ一定値に固定すると、車線情報の再現度と、車線情報の再現可能な距離との間にトレードオフが生じる。
そのため、点列のデータ点数を固定したまま、点列の間隔を可変する(点列間隔の狭い領域と点列間隔の広い領域を設定する)ことで、車線情報の再現度を必要に応じて向上しつつ、車線情報の再現可能な距離を確保することができる。
これに対し、例えば、行動計画に基づいて交差点内で右折や左折を行う地点では、減速、旋回、加速、一時停止といった車両挙動の変化が発生する。また、車線の分岐や合流地点では、車線を跨ぐ横方向への移動や合流後の加速といった車両挙動の変化が生じる。そして、行動計画において車線変更を行う地点でも、車線を跨ぐ横方向への移動という車両挙動の変化が生じる。さらに、自車線上の障害物を回避する行動計画では、障害物の手前での減速や停車、回避のための横方向への移動、自車線(元の車線)に戻るための横方向への移動、車線復帰後の加速といった車両挙動の変化が生じる。このような車両挙動の変化が生じる地点では、走行可能領域を適切に設定し、車両挙動を精度よく制御しなければならない。すなわち、行動計画に基づいて車両挙動の変化が生じると判断される地点では、車線情報の再現度を高める必要がある。
しかしながら、道路形状(道路曲率)に応じて点列の間隔を可変する場合では、減速や加速、横方向への移動等の車両挙動を伴う地点での車線情報の再現度を高めることができない。つまり、道路形状に基づいて点列間隔の疎密が決められた車線情報データでは、行動計画に応じて車線情報の再現度を高める必要がある地点における車線情報の再現度を、適切に高めることができないという課題が生じる。
図4~図8を用いて、実施例1の車線情報データ作成作用を説明する。
実施例1の運転システム100では、車線情報データ作成部33によって、走行可能領域を設定するときに必要となる車線情報を再現するための車線情報データを作成する。
すなわち、車線情報データ作成部33の注視領域設定部331は、図3に示すフローチャートのステップS1、ステップS2、ステップS3、ステップS4を順に実行する。これにより、注視領域設定部331は、図4に示すように、自車Vの現在地(自己位置A)から自車前方の任意地点Bまでの演算区間における行動計画(図4において斜線Xで示す)と、この行動計画に沿って自車Vが走行するときの車両挙動を把握する。なお、図4では、行動計画を帯状の斜線Xによって表現しているが、地図情報とのマッチングが可能な情報であれば、行動計画を示す情報形態はこれに限らない。例えば、「自己位置Aから20m先の地点から35m先の地点の間で車線変更」、「国道1号線を40m走行後、駅前交差点を右折」等の条件情報であってもよい。
続いて、注視領域設定部331は、ステップS5を実行し、行動計画(斜線X)に基づいて「注視領域の設定が必要」と判断した場合には、ステップS6を実行する。すなわち、図5に示すように、注視領域設定部331は、自己位置Aから任意地点Bまでの演算区間内に、この演算区間内で車両挙動が変化する領域(自車線から逸脱する行動計画となる領域又は操舵角度や車速の変化量が閾値以上となる行動計画となる領域)である注視領域Yを設定する。図5に示す例では、停車車両V1を回避する障害物回避領域Y1や、分岐路に車線変更する車線変更領域Y2が、自車線から逸脱する行動計画となる領域として注視領域Yに設定される。また、旋回半径の小さい小R旋回領域Y3が、操舵角度や車速の変化量が閾値以上となる行動計画となる領域として注視領域Yに設定される。
なお、注視領域設定部331は、例えば障害物回避領域Y1のように、自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画に基づいて注視領域Yを設定するときには、自車線と、自車線に隣接する隣車線を含む領域を注視領域Yに設定する。
演算区間内に注視領域Yを設定した後、疎密決定部332は、ステップS7、ステップS8を順に実行する。すなわち、疎密決定部332は、高精度地図データ記憶部311から、行動計画(図4及び図5において斜線Xで示す)上で自車Vの走行に必要な車線情報を示す基準地図データM1を抽出する。この基準地図データM1は、図6に示すように、データ点Dが基準間隔αで等間隔に並んだ点列によって示される。そして、疎密決定部332は、この抽出した基準地図データM1におけるデータ点数を演算し、求めたデータ点数を車線情報データのデータ点数の上限に設定する。
続いて、疎密決定部332はステップS9を実行し、図7に示すように、注視領域Yの全域(Y1~Y3)を密間隔βの点列によって示すために必要なデータ点数を演算する。さらに、疎密決定部332はステップS10を実行し、非注視領域(演算区間内の注視領域以外の領域)を疎間隔γ(図8参照)の点列によって示すために必要なデータ点数を演算する。
そして、疎密決定部332はステップS11を実行し、注視領域Y(Y1~Y3)の中から密間隔βの点列によって示す密表示区域Zを選択する。ここで、密表示区域Zは、注視領域Y(Y1~Y3)の中でも、自車Vの自動走行の継続に必要な区域とする。
すなわち、疎密決定部332は、疎間隔γの点列で非注視領域を示すと共に、行動計画上で自車Vの走行に必要な車線情報を示す基準地図データM1におけるデータ点数を上限として演算区間を示すことを前提とする。その上で、自己位置Aに最も近接している注視領域Y(障害物回避領域Y1)の始点から順に、自車Vの進行方向に沿って密間隔βを採用した場合に、演算区間内において自動運転制御を実施可能な間隔で点列を配置できるか判定する。このとき、演算区間内の注視領域Yをできるだけ密間隔βの点列で示すこととし、演算区間内の注視領域Yを疎間隔γよりも狭い密間隔βの点列で示すことが可能な最大限の区域を、自車Vの自動走行の継続に必要な区域として密表示区域Zに選択する。
この結果、図8に示す例では、注視領域Y(Y1~Y3)のうち、自己位置Aに最も近接した障害物回避領域Y1の全域において密間隔βの点列の採用を決定した後、障害物回避領域Y1の次に自己位置Aに近接している車線変更領域Y2の途中まで密間隔βの点列の採用を決定した時点で、密間隔βの点列を決定した領域以外の領域における点列間隔が、自動運転制御を実施可能な限界となったことを示している。つまり、図8では、障害物回避領域Y1の全域と、障害物回避領域Y1の次に自己位置Aに近接している車線変更領域Y2の始点から途中までの区域が密表示区域Zに選択される。
また、この密表示区域Zは、図8に示すように、障害物を回避する行動計画や、車線変更を行う行動計画のように自車Vが自車線から逸脱する行動計画のとき、自車線と、自車線に隣接する隣車線を含む区域とする。
そして、ステップS12を実行し、図8に示すように、疎密決定部332は、密表示区域Zを密間隔βの点列とし、密表示区域Z以外の領域(非注視領域と、密表示区域Zに選択されなかった注視領域Y)を疎間隔γの点列によって演算区間を示した車線情報データM2を作成する。なお、図8に示す例において、「密表示区域Zに選択されなかった注視領域Y」とは、小R旋回領域Y3の全域と車線変更領域Y2の途中から終点までの区域である。その後、ステップS13を実行して、疎密決定部332は、作成した車線情報データM2を走行領域設定部317に出力する。
このように、実施例1の車線情報データ作成部33では、自己位置Aからの任意地点Bまでの所定の演算区間における自車Vの行動計画(斜線X)に基づいて、演算区間内に注視領域Y(Y1~Y3)を設定する。そして、演算区間を示す基準地図データM1のデータ点数を上限とした点列であって、注視領域Yの少なくとも一部(密表示区域Z)の点列の間隔を、注視領域Y以外の非注視領域の点列の間隔(疎間隔γ)よりも狭くした密間隔βの点列によって演算区間を示す車線情報データM2を作成する。
これにより、密間隔βの点列による注視領域Yの一部(密表示区域Z)では、データ点Dを繋ぐ直線の長さが非注視領域よりも短くなる。よって、注視領域Yの一部(密表示区域Z)において非注視領域よりも車線情報の再現度を向上し、高精度の車線情報を得ることができる。つまり、車線情報データ作成部33は、自車Vの行動計画(斜線X)に基づいて点列間隔を変化させることで、行動計画(斜線X)に応じて必要となる地点(注視領域Y)での車線情報の再現度が高い車線情報データM2を作成できる。
なお、ステップS5を実行した際、行動計画に基づいて「注視領域の設定が不要」と判断した場合には、車線情報データ作成部33は、道路形状に拘らず所定の均等間隔の点列によって車線情報データを作成する。
そして、この車線情報データ作成部33の注視領域設定部331は、行動計画(斜線X)に基づいて演算区間内の自車Vの車両挙動を算出する。そして、演算区間内において、車両挙動が変化する領域を注視領域Yとして設定する。
つまり、車両挙動が変化する領域が注視領域Yとなって、非注視領域よりも間隔が狭い点列で示されることになる。そのため、車両挙動が変化する領域における車線情報の再現度を高めることができる。
さらに、注視領域設定部331は、演算区間内で自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画となる領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2)を、車両挙動が変化する領域として注視領域Yに設定する。また、この車線情報データ作成部33は、記演算区間内で自車Vの操舵角度又は車速の少なくとも一方の変化量が予め設定した閾値以上の行動計画となる領域(小R旋回領域Y3)を、車両挙動が変化する領域として注視領域Yに設定する。
そのため、自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画となる領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2)や、操舵角度や車速の変化量が閾値以上となる行動計画となる領域(小R旋回領域Y3)が、非注視領域よりも間隔が狭い点列で示されることになる。これにより、これらの領域における車線情報の再現度を高めることができる。
また、車線情報データ作成部33の疎密決定部332は、注視領域Yの中から、点列の間隔を非注視領域よりも狭くする密表示区域Zを選択する。そのため、演算区間を示す車線情報データM2のデータ点数が固定されていても、必要に応じて適切な地点での車線情報の再現度を高めることができる。つまり、車線情報の再現度の向上と、車線情報を再現可能な距離の確保との両立を図ることができる。
さらに、この密表示区域Zは、自車Vの自動走行の継続に必要な区域としている。そのため、自動走行に必要な区域での車線情報の再現度を高めることができ、目標軌跡の生成に必要な走行可能領域を適切に設定することができる。
また、疎密決定部332は、予め設定した疎間隔γの点列で非注視領域を示すことを前提とし、自己位置Aに最も近接している注視領域Y(障害物回避領域Y1)の始点から自車Vの進行方向に沿って、順に演算区間内の注視領域Yを疎間隔γよりも狭い密間隔βの点列で示すことが可能な最大限の区域を、自車Vの自動走行の継続に必要な区域として密表示区域Zに選択する。これにより、自動走行に必要な区域での車線情報の再現度を高めると共に、演算区間の全域の車線情報を再現することが可能な車線情報データM2を作成することができる。
なお、実施例1では、演算区間内に設定された複数の注視領域Y(Y1~Y3)のうち、少なくとも自己位置Aに最も近接している注視領域Y(障害物回避領域Y1)の全域を密表示区域Zに選択している。これにより、自己位置Aに直近の注視領域Y(障害物回避領域Y1)を密間隔βの点列で示すことが可能となる。よって、この自己位置Aに直近の注視領域Y(障害物回避領域Y1)における車線情報の再現度を高めることができる。
さらに、車線情報データ作成部33では、自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画(例えば、障害物回避領域Y1)のとき、自車線と、自車線に隣接する隣車線を含む区域を密表示区域Zとする。これにより、障害物を回避するような自車線から逸脱する行動計画が生じる領域では、隣車線を再現するための車線情報データの点列間隔も密間隔βとすることができる。よって、自車Vを自動走行させる際に必要とする車線情報を適切に再現することができる。
そして、車線情報データ作成部33は、車線情報データM2を作成した後、自車Vの車両運動制御に使用する走行可能領域を設定する走行領域設定部317に車線情報データM2を出力する。よって、走行領域設定部317では、行動計画(斜線X)に基づいて点列間隔が変化した車線情報データM2を用いて走行可能領域を設定することができる。よって、目標軌跡の生成を適切に行うことができ、車両運動制御を精度よく行うことができる。
以上説明してきたように、実施例1の地図データ作成方法及び地図データ作成装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)地図上の緯度経度を規定するデータ点Dを並べた点列によって示され、車線情報を再現する際に用いる車線情報データM2を作成するコントローラ(車載制御ユニット3)による地図データ作成方法において、地図上の自車Vの位置である自己位置Aの情報を取得する。また、自己位置Aからの所定の演算区間における自車Vの行動計画(斜線X)の情報を取得する。続いて、行動計画(斜線X)に基づいて演算区間内に注視領域Yを設定する。そして、注視領域Yの少なくとも一部の点列の間隔を、注視領域以外の非注視領域の点列の間隔よりも狭くした点列によって演算区間の車線情報データM2を作成する。これにより、自車Vの行動計画(斜線X)に応じて必要となる地点(注視領域Y)での車線情報の再現度が高い車線情報データM2を作成できる。
(2)行動計画(斜線X)に基づいて計算された演算区間内の自車Vの車両挙動の情報を取得する。そして、演算区間内で車両挙動が変化する領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2、小R旋回領域Y3)を注視領域Yとして設定する。これにより、演算区間内での車両挙動が変化する領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2、小R旋回領域Y3)における車線情報の再現度を高めることができる。
(3)演算区間内で自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画となる領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2)を、車両挙動が変化する領域として注視領域Yに設定する。これにより、自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画となる領域(障害物回避領域Y1、車線変更領域Y2)における車線情報の再現度を高めることができる。
(4)演算区間内で自車Vの操舵角度又は車速の少なくとも一方の変化量が予め設定した閾値以上の行動計画となる領域(小R旋回領域Y3)を、車両挙動が変化する領域として注視領域Yに設定する。これにより、操舵角度や車速の変化量が閾値以上となる行動計画となる領域(小R旋回領域Y3)における車線情報の再現度を高めることができる。
(5)注視領域Yの中から、点列の間隔を非注視領域よりも狭くする密表示区域Zを選択する。これにより、車線情報の再現度の向上と、車線情報の再現可能な距離の確保との両立を図ることができる。
(6)密表示区域Zは、自車Vの自動走行の継続に必要な区域とする。これにより、自車Vを自動走行で走行させるために必要な区域での車線情報の再現度を高め、自動走行を継続させることができる。
(7)演算区間内に注視領域Yが複数存在するときには、少なくとも自己位置Aにもっと近接している注視領域Y(障害物回避領域Y1)を、自車の自動走行の継続に必要な区域として密表示区域Zに設定する。これにより、自己位置Aの直近の注視領域Y(障害物回避領域Y1)における車線情報の再現度を高めることができ、自動走行を適切に継続することができる。
(8)予め設定した第1間隔(疎間隔γ)の点列で非注視領域を示すことを前提とし、自己位置Aに最も近接している注視領域(障害物回避領域Y1)の始点から自車Vの進行方向に沿って、演算区間内の注視領域Yを第1間隔(疎間隔γ)よりも狭い第2間隔(密間隔β)の点列で示すことが可能な最大限の区域を、自車Vの自動走行の継続に必要な区域として密表示区域Zに選択する。これにより、自動走行に必要な区域での車線情報の再現度を高めると共に、演算区間の全域の車線情報を再現することが可能な車線情報データM2を作成することができる。
(9)密表示区域Zは、自車Vが走行中の自車線から逸脱する行動計画(障害物回避領域Y1)のとき、自車線と、自車線に隣接する隣車線を含む区域とする。これにより、自車線から逸脱する行動計画であっても、必要な車線情報を適切に再現することができる。
(10)車線情報データM2を作成した後、自車Vの車両運動制御に使用する演算値を演算(走行可能領域を設定)する第2コントローラ(走行領域設定部317)に車線情報データM2を出力する。これにより、車両運動制御に使用する演算値を演算する際、行動計画(斜線X)に基づいて点列間隔が変化した車線情報データM2を用いることができ、車両運動制御を精度よく行うことができる。
(11)地図上の緯度経度を規定するデータ点Dを並べた点列によって示され、車線情報を再現する際に用いる車線情報データM2を作成するコントローラ(車線情報データ作成部33)を備えた地図データ作成装置において、コントローラ(車線情報データ作成部33)は、注視領域設定部331と、疎密決定部332と、を備える。ここで、注視領域設定部331は、地図上の自車Vの位置である自己位置Aと、自己位置Aからの所定の演算区間における自車Vの行動計画(斜線X)との情報を取得し、行動計画(斜線X)に基づいて演算区間内に注視領域Yを設定する。疎密決定部332は、注視領域Yの少なくとも一部の点列の間隔を、注視領域以外の非注視領域の点列の間隔よりも狭くした点列によって演算区間の車線情報データM2を作成する。これにより、自車Vの行動計画(斜線X)に応じて必要となる地点(注視領域Y)での車線情報の再現度が高い車線情報データM2を作成できる。
以上、本開示の地図データ作成方法及び地図データ作成装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、注視領域Yの中から密表示区域Zを選択する際、疎間隔γの点列で非注視領域を再現することを前提に、自己位置Aに最も近い注視領域Y(障害物回避領域Y1)の始点から密間隔βの点列で示すことが可能な最大限の区域を密表示区域Zに選択する例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、演算区間内に複数の注視領域Yが存在するときは、自己位置Aに最も近接している注視領域(障害物回避領域Y1)のみを自車Vの自動走行の継続に必要な区域として密表示区域Zに選択してもよい。この場合、障害物回避領域Y1以外の注視領域Yである車線変更領域Y2や小R旋回領域Y3は、密表示区域Zに選択されない。これにより、密表示区域Zを容易に選択することができ、この密表示区域Zを選択するための演算負荷を軽減することができる。
また、実施例1では、基準地図データM1の点列を基準間隔αとし、この基準間隔αを、制限速度で走行したときに所定時間で到達する距離を所定数で等分した間隔とする。また、密表示区域Zの点列を密間隔βとし、この密間隔βを基準間隔αの半分の間隔とする。さらに、非注視領域を含む密表示区域Z以外の点列を疎間隔γとし、この疎間隔γを基準間隔αの倍の間隔とする例を示したがこれに限らない。密表示区域Zの点列の間隔が非注視領域の点列の間隔よりも狭ければよいため、基準間隔αと密間隔βを同一間隔とし、疎間隔γを基準間隔αの倍の間隔としてもよい。また、基準間隔αと疎間隔γを同一間隔とし、密間隔βを基準間隔αの半分の間隔としてもよい。さらに、密間隔βと疎間隔γを、基準間隔αとは無関係に設定してもよい。
また、密間隔βを、領域ごとに決まる車両挙動の変化量に応じて決定してもよい。さらに、疎間隔γは、道路形状に応じて決定してもよい。
さらに、実施例1では、車線情報データ作成部33にて作成する演算区間の車線情報データM2のデータ点数の上限を、当該演算区間の基準地図データのデータ点数とする例を示した。しかし、例えば、演算区間の基準地図データのデータ点数よりも少ないデータ点数を上限として演算区間の車線情報データM2を作成してもよい。さらに、演算区間内の注視領域Yの全域を密間隔βの点列で示すため、演算区間の基準地図データのデータ点数を超過したデータ点数を上限として演算区間の車線情報データM2を作成してもよい。