以下、実施形態による緩衝器を、車両(例えば、4輪自動車)に搭載される減衰力調整式油圧緩衝器に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ説明する。なお、添付図面(図1ないし図6、図10、図11)は、設計図に準ずるような正確性をもって描かれた図面である。
図1ないし図9は、第1の実施形態を示している。図1において、緩衝器1は、例えば、自動車等の車両用の油圧緩衝器である。緩衝器1は、例えば、コイルばねからなる懸架ばね(図示せず)と共に車両用のサスペンション装置を構成する。なお、以下の説明では、緩衝器1の軸方向の一端側を「下端」側とし、軸方向の他端側を「上端」側として説明するが、緩衝器1の軸方向の一端側を「上端」側とし、軸方向の他端側を「下端」側としてもよい。
緩衝器1は、図示しないコントローラからの制御指令に応じて減衰力の調整が可能なユニフロー型の減衰力調整式油圧緩衝器として構成されている。即ち、緩衝器1は、外筒2と、内筒4と、ピストン5と、ピストンロッド8と、ロッドガイド9と、中間筒12と、ボトムバルブ13と、減衰力調整装置17とを備えている。緩衝器1の減衰力は、コントローラからの制御指令に応じて減衰力調整装置17により可変に調整される。
外筒2は、有底筒状に形成されており、緩衝器1の外殻を構成している。外筒2は、一端側となる下端側がボトムキャップ3を溶接することにより閉塞され、他端側となる上端側が径方向内側に屈曲されたかしめ部2Aとなっている。かしめ部2Aと内筒4との間には、ロッドガイド9およびシール部材10が設けられている。一方、外筒2の下部側には、中間筒12の接続口12Cと同心に開口2Bが形成されている。外筒2の下部側には、開口2Bと対向して減衰力調整装置17が取付けられている。ボトムキャップ3には、例えば車両の車輪側に取付けられる取付アイ3Aが設けられている。
外筒2内には、外筒2と同軸上に内筒4が設けられている。内筒4の下端側は、ボトムバルブ13に嵌合して取付けられている。内筒4の上端側は、ロッドガイド9に嵌合して取付けられている。シリンダとしての内筒4(および外筒2)内には作動液(作動流体)としての油液が封入されている。作動液としては油液、オイルに限らず、例えば添加剤を混在させた水等を用いてもよい。
内筒4は、外筒2との間に環状のリザーバ室Aを形成(画成)している。即ち、リザーバ室Aは、内筒4と外筒2との間に設けられている。リザーバ室A内には、作動液体である油液と共にガスが封入されている。このガスは、例えば、大気圧状態の空気であってもよく、また、圧縮された窒素ガス等の気体を用いてもよい。リザーバ室Aは、ピストンロッド8の進入および退出を補償する。内筒4の長さ方向(軸方向)の途中位置には、ロッド側油室Cを環状油室Dに常時連通させる油穴4Aが径方向に穿設されている。
ピストン5は、内筒4内に摺動可能に挿嵌されている。即ち、ピストン5は、内筒4内に摺動可能に設けられている。ピストン5は、内筒4内を2室(即ち、一側室となるボトム側油室Bと他側室となるロッド側油室C)に区画(画成、離隔)している。ピストン5は、ピストンロッド8に連結されている。ピストン5には、ロッド側油室Cとボトム側油室Bとを連通可能とする油路5A,5Bがそれぞれ複数個、周方向に離間して形成されている。
ここで、ピストン5の下端面には、伸長側のディスクバルブ6が設けられている。伸長側のディスクバルブ6は、ピストンロッド8の伸長行程(伸び行程)でピストン5が上向きに摺動変位するときに、ロッド側油室C内の圧力がリリーフ設定圧を越えると開弁し、このときの圧力を、各油路5Aを介してボトム側油室B側にリリーフする。リリーフ設定圧は、例えば、減衰力調整装置17がハードに設定されたときの開弁圧より高い圧に設定されている。
ピストン5の上端面には、ピストンロッド8の縮小行程(縮み行程)でピストン5が下向きに摺動変位するときに開弁し、これ以外のときには閉弁する縮み側逆止弁7が設けられている。逆止弁7は、ボトム側油室B内の油液がロッド側油室Cに向けて各油路5B内を流通するのを許し、これとは逆向きに油液が流れるのを阻止する。逆止弁7の開弁圧は、例えば、減衰力調整装置17がソフトに設定されたときの開弁圧より低い圧に設定され、実質的に減衰力を発生しない。この実質的に減衰力を発生しないとは、例えば、ピストン5やシール部材10のフリクション以下の力であり、車の運動に対し影響しない。
ロッドとしてのピストンロッド8は、内筒4内を軸方向に延びている。ピストンロッド8の下端側は、内筒4内に挿入されている。ピストンロッド8は、ナット8A等によりピストン5に固着して設けられている。ピストンロッド8の上端側は、ロッドガイド9を介して外筒2および内筒4の外部に突出している。即ち、ピストンロッド8は、ピストン5に連結されて内筒4の外部へ延出されている。なお、ピストンロッド8の下端をさらに延ばしてボトム部(例えば、ボトムキャップ3)側から外向きに突出させ、所謂、両ロッドとしてもよい。即ち、内筒4は、少なくともその一端からピストンロッド8が突出している。
内筒4の上端側には、段付円筒状のロッドガイド9が設けられている。ロッドガイド9は、内筒4の上側部分を外筒2の中央に位置決めすると共に、その内周側でピストンロッド8を軸方向に摺動可能にガイドする。ロッドガイド9と外筒2のかしめ部2Aとの間には、環状のシール部材10が設けられている。シール部材10は、例えば、中心にピストンロッド8が挿通される孔が設けられた金属製の円輪板にゴム等の弾性材料を焼き付けることにより構成されている。シール部材10は、弾性材料の内周がピストンロッド8の外周側に摺接することにより、ピストンロッド8との間をシールする。
シール部材10には、下面側にロッドガイド9と接触するように延びるチェック弁としてのリップシール10Aが形成されている。リップシール10Aは、油溜め室11とリザーバ室Aとの間に配置されている。リップシール10Aは、油溜め室11内の油液等がロッドガイド9の戻し通路9Aを介してリザーバ室A側に向け流通するのを許し、逆向きの流れを阻止する。
外筒2と内筒4との間には、セパレータチューブとなる中間筒12が配設されている。中間筒12は、例えば、内筒4の外周側に上,下の筒状シール12A,12Bを介して取付けられている。中間筒12は、内筒4の外周側を全周にわたって取囲むと共に軸方向に延びて配置されている。中間筒12は、内筒4との間に軸方向に延びる環状油室Dを形成している。環状油室Dは、リザーバ室Aとは独立した油室となっている。環状油室Dは、内筒4に形成した径方向の油穴4Aによりロッド側油室Cと常時連通している。中間筒12の下端側には、減衰力調整バルブ18の筒形ホルダ20が取付けられる接続口12Cが設けられている。
ボトムバルブ13は、内筒4の下端側に位置してボトムキャップ3と内筒4との間に設けられている。ボトムバルブ13は、ボトムキャップ3と内筒4との間でリザーバ室Aとボトム側油室Bとを区画(画成、離隔)するバルブボディ14と、バルブボディ14の下面側に設けられた縮小側のディスクバルブ15と、バルブボディ14の上面側に設けられた伸び側逆止弁16とにより構成されている。バルブボディ14には、リザーバ室Aとボトム側油室Bとを連通可能とする油路14A,14Bがそれぞれ周方向に間隔をあけて形成されている。
縮小側のディスクバルブ15は、ピストンロッド8の縮小行程でピストン5が下向きに摺動変位するときに、ボトム側油室B内の圧力がリリーフ設定圧を越えると開弁し、このときの圧油(圧力)を、各油路14Aを介してリザーバ室A側にリリーフする。リリーフ設定圧は、例えば、減衰力調整装置17がハードに設定されたときの開弁圧より高い圧に設定されている。
伸び側逆止弁16は、ピストンロッド8の伸長行程でピストン5が上向きに摺動変位するときに開弁し、これ以外のときには閉弁する。逆止弁16は、リザーバ室A内の油液がボトム側油室Bに向けて各油路14B内を流通するのを許し、これとは逆向きに油液が流れるのを阻止する。逆止弁16の開弁圧は、例えば、減衰力調整装置17がソフトに設定されたときの開弁圧より低い圧に設定され、実質的に減衰力を発生しない。
次に、緩衝器1の発生減衰力を可変に調整するための減衰力調整装置17について説明する。なお、図3、図4および図6は、図2で右側を上側にして符号を付している。即ち、図1および図2の左右方向は、図3、図4および図6の上下方向に対応する。
図1に示すように、減衰力調整装置17は、基端側(図1の左端側)がリザーバ室Aと環状油室Dとの間に介在して配置され、先端側(図1の右端側)が外筒2の下部側から径方向外向きに突出するように設けられている。減衰力調整装置17は、中間筒12内の環状油室Dからリザーバ室Aへと流れる圧油(油液)の流通を減衰力調整バルブ18により制御し、このときに発生する減衰力を可変に調整する。即ち、減衰力調整バルブ18は、後述の設定圧可変バルブ23の開弁圧が減衰力可変アクチュエータ(ソレノイド27)で調整されることにより、発生減衰力が可変に制御される。減衰力調整装置17は、内筒4内のピストン5の摺動によって生じる作動流体(油液)の流れを制御して減衰力を発生させる。
ここで、減衰力調整バルブ18は、基端側が外筒2の開口2Bの周囲に固着され先端側が外筒2から径方向外向に突出するように設けられたバルブケース19、基端側が中間筒12の接続口12Cに固定されると共に先端側が環状のフランジ部20Aとなってバルブケース19の内側に隙間をもって配設された筒形ホルダ20、バルブケース19内に配置され筒形ホルダ20のフランジ部20Aに当接するバルブ部材21、バルブ部材21の弁座21Aに離着座するメインのディスクバルブからなる設定圧可変バルブ23、設定圧可変バルブ23に対して背圧を作用させる背圧室となるパイロット室24、パイロット室24内のパイロット圧(背圧)をソレノイド27への通電(電流値)に応じて可変に設定し、設定圧可変バルブ23の開弁圧を調節するパイロット弁部材25、パイロット弁部材25が離着座するパイロットボディ33を含んで構成されている。
設定圧可変バルブ23は、パイロット室24からのパイロット圧(背圧)によりバルブ部材21の弁座21Aに着座する方向(即ち、閉弁方向)の圧力を受圧している。即ち、設定圧可変バルブ23は、筒形ホルダ20の入口(環状油室D)側の圧力を受圧し、この圧力がパイロット室24側のパイロット圧(背圧)とメインのディスクバルブの剛性による開弁圧を超えると、バルブ部材21の弁座21Aから離座して開弁する。
この場合、設定圧可変バルブ23は、パイロット室24内のパイロット圧(背圧)がパイロット弁部材25を介して調節されることにより、開弁圧が可変に設定される。設定圧可変バルブ23がバルブ部材21の弁座21Aから離座(開弁)したときには、環状油室D(中間筒12)側からの圧油がバルブ部材21内の第1通路26を介して設定圧可変バルブ23の外側へと流出し、筒形ホルダ20のフランジ部20Aとバルブケース19との間から外筒2の開口2Bを介してリザーバ室A側へと流通する。
ここで、バルブ部材21内の第1通路26は、ピストン5の移動により内筒4内のロッド側油室C(=環状油室D)からリザーバ室Aへ作動流体が流通する流路である。設定圧可変バルブ23は、第1通路26に設けられ、作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブである。パイロット室24は、メインバルブである設定圧可変バルブ23に対して閉弁方向に圧力を作用させる背圧室である。
ソレノイド27は、減衰力調整バルブ18と共に減衰力調整装置17を構成し、減衰力可変アクチュエータとして用いられている。図2に示すように、ソレノイド27は、外部からの通電により磁力を発生する筒状のコイル28と、コイル28の内周側に配置されたステータコア29と、ステータコア29の内周側で軸方向へ移動可能に設けられた可動鉄心としてのプランジャ30と、プランジャ30の中心側に一体に設けられた作動ピン31と、コイル28の外周を覆うカバー部材32とを含んで構成されている。
カバー部材32は、磁性材料からなるヨークを構成し、コイル28の外周側で磁気回路を形成するものである。作動ピン31は、プランジャ30内を軸方向(図2中の左右方向)に貫通して延び、左側の突出端には、減衰力調整バルブ18のパイロット弁部材25が固定されている。即ち、パイロット弁部材25の内側には、ソレノイド27の作動ピン31が嵌合されている。パイロット弁部材25は、プランジャ30および作動ピン31と一体的に水平方向(左,右方向)に変位する。
ソレノイド27のプランジャ30には、コイル28への通電(電流値)に比例した軸方向の推力が発生し、パイロット室24内のパイロット圧(背圧)は、パイロット弁部材25の変位によりオリフィス38Aを通過する流量を変化させてパイロットオリフィス38Aの差圧を調整することで可変する。従って、プランジャ30の推力に対応して可変に設定される。即ち、パイロット室24内の圧力に抗して開弁する設定圧可変バルブ23の開弁圧は、ソレノイド27への通電に応じてパイロット弁部材25を軸方向に変位させることにより調節される。換言すると、設定圧可変バルブ23の開弁圧は、コントローラでソレノイド27のコイル28に通電する電流値を制御して、パイロット弁部材25を軸方向に変位させることにより増減される。このため、緩衝器1の発生減衰力は、ソレノイド27への通電(電流値)に比例した設定圧可変バルブ23の開弁圧に応じて可変に調整することができる。
ここで、パイロット弁部材25は、パイロットボディ33の弁座部34に離着座する。パイロットボディ33には、弁座部34の内側に位置して貫通孔35が設けられている。パイロットボディ33とバルブ部材21との間には、パイロットピン36が挟持されている。パイロットピン36は、軸方向中間部に大径部37を有すると共に径方向中央部に軸方向に延びる中心孔38を有する段付円筒状に形成されている。パイロットピン36の中心孔38には、パイロットオリフィスとなるオリフィス38Aが設けられている。パイロットピン36は、軸方向の一側がバルブ部材21の径方向中央部に設けられた貫通孔21Bに嵌合しており、軸方向の他側がパイロットボディ33の貫通孔35に嵌合している。
パイロットピン36の中心孔38およびパイロットボディ33の貫通孔35は、バルブ部材21の第1通路26と並列に設けられた第2通路に相当する。そして、第2通路(より具体的には、パイロットボディ33の貫通孔35)に制御弁となるパイロット弁部材25が離着座可能に設けられている。また、後述する周波数感応バルブ41のディスク部材42には、第2通路(より具体的には、パイロットピン36の中心孔38)からパイロット室24に作動流体を導入する導入通路54が設けられている。
ところで、車両のばね下からばね上への高周波振動の伝達を低減し、乗り心地のさらなる改善を図るために、ユニフロー型の減衰力可変ダンパ(減衰力調整式緩衝器)に周波数感応バルブを組み合わせることが提案されている。しかし、低周波での減衰力の立ち上がり応答性を確保しつつ、周波数感応バルブの追加によるスペースの増大を抑制できることが望まれている。即ち、前述の特許文献1には、減衰力調整バルブ(メインバルブ)の背圧室(パイロット室)に作用する周波数感応バルブ(フリーバルブ)を備えた減衰力調整式油圧緩衝器が記載されている。周波数感応バルブは、加振周波数に応じて減衰力調整バルブ(メインバルブ)の背圧室(パイロット室)のパイロット圧力を調整し、これにより減衰力の周波数感応特性を得ることができる。
ここで、特許文献1の技術によれば、低周波作動時の減衰力の立ち上がり応答性を確保するために、周波数感応バルブは、可動部となるディスクと、ディスクと一体に設けられたシールリップ(シール部)と、ディスクのばね特性を補完するためのコイルスプリング(ばね部材)とを有している。しかし、特許文献1の周波数感応バルブ(フリーバルブ)のディスクには、減衰力調整バルブ(メインバルブ)と対向する側にシールリップが設けられており、かつ、ディスクのシールリップと反対側には、コイルスプリングが設けられている。このため、周波数感応バルブの基本長(軸方向長さ)が長くなる可能性があり、小型に構成しようとすると、周波数特性の設定の自由度が制限される可能性がある。
そこで、実施形態では、図3に示すように、周波数感応バルブ41の可動部となるディスク部材42に対し減衰力調整バルブ18の設定圧可変バルブ23とは反対側に、シール部材となるOリング47を配置している。この場合、Oリング47には、減衰力調整バルブ18のパイロット室24をシール(封止)するシール部材としての機能と、ディスク部材42のばね特性を補完するばね部材としての機能とを持たせている。さらに、図4に示すように、ディスク部材42は、内周側を固定とすると共に、ディスク部材42の設定圧可変バルブ23側の座面49の外径D1を、これとは反対側の座面50の外径D2より大きくしている。そして、この反対側の座面50の径方向外側に、この座面50の外径D2よりも大きな外径D3の座面51を有するバルブシート部52を設けている。バルブシート部52(座面51)は、ディスク部材42が自由状態でディスク部材42と所定の距離L離間している。実施形態では、このような構成により、周波数感応バルブ41の基本長(軸方向長さ)の増加を抑えながら、周波数感応バルブ41の可動部(ディスク部材42)のばね特性の設定の自由度を大きくできる。換言すれば、減衰力可変特性に合わせた周波数特性の設定の自由度を大きくできる。
以下、実施形態の周波数感応バルブ41について、詳しく説明する。
周波数感応部である周波数感応バルブ41は、減衰力調整装置17に内蔵されている。即ち、周波数感応バルブ41は、減衰力調整バルブ18と一体的に設けられている。この場合、周波数感応バルブ41は、減衰力調整バルブ18のパイロット室24側に設定圧可変バルブ23と対向して設けられている。換言すれば、周波数感応バルブ41は、減衰力調整バルブ18のパイロットボディ33に組み込まれている。周波数感応バルブ41は、減衰力調整バルブ18(設定圧可変バルブ23)のパイロット室24に作用する。即ち、周波数感応バルブ41は、加振周波数に応じてパイロット室24のパイロット圧力を調整する。
ここで、減衰力調整バルブ18のパイロットピン36は、バルブ部材21との間で設定圧可変バルブ23を挟持している。パイロットピン36は、パイロットボディ33との間で周波数感応バルブ41のディスク部材42を挟持している。パイロットボディ33は、パイロット弁部材25が離着座する弁座部34と、弁座部34からパイロット弁部材25側に向けて屈曲しつつ外径側に広がる環状板部39と、環状板部39の外径側から設定圧可変バルブ23側に向けて軸方向に延びる円筒部40とを備えている。環状板部39には、パイロット弁部材25側の油室と周波数感応バルブ41の可変室48とを接続する接続孔39Aが設けられている。そして、パイロットピン36とパイロットボディ33との間には、高周波の振動に対して減衰力を低減する周波数感応バルブ41のディスク部材42が設けられている。
周波数感応バルブ41は、フリーバルブとして構成されている。即ち、周波数感応バルブ41は、ディスク部材42と、ディスク部材42の外径側に位置してパイロット室24と反対側に設けられたリテーナ46と、このリテーナ46とパイロットボディ33の円筒部40の内周面との間をシールすると共にリテーナ46を介してディスク部材42をパイロット室24側に向けて押圧するOリング47とを備えている。ディスク部材42は、例えば、3枚のディスク43,44,45により構成されている。
ディスク部材42(ディスク43,44,45)は、パイロット室24を形成するパイロットボディ33(円筒部40)に対して移動可能に設けられている。ディスク部材42は、パイロットボディ33の円筒部40内をパイロット室24と可変室48とに区画している。ディスク部材42は、パイロット室24の体積を変化させる。即ち、ディスク部材42は、パイロット室24を形成するハウジングとしてのパイロットボディ33(円筒部40)に対して移動可能にパイロット室24内に設けられている。そして、ディスク部材42は、自身の移動(変形、撓み)によりパイロット室24の体積を変化させる。
ディスク部材42の外周側には、パイロット室24とは反対側に設けられたリテーナ46を介してOリング47の反力が作用する。即ち、Oリング47は、ディスク部材42に対しパイロット室24に向けて付勢する方向に反力を作用させる。また、Oリング47は、ディスク部材42の外周側とパイロットボディ33の円筒部40の内周側との間をシールする。即ち、Oリング47は、パイロットケースの内面となるパイロットボディ33(円筒部40)の内周面とリテーナ46の外周面との間に面圧を作用して、パイロット室24のシールを兼ねている。
シール部材としてのOリング47は、ディスク部材42に対してパイロット室24と反対側に設けられている。そして、Oリング47は、ディスク部材42の外周とパイロットボディ33(円筒部40)の内周との間をシールする。これにより、Oリング47は、ディスク部材42を付勢するばね部材としての機能とパイロット室24をシールするシール部材としての機能とを有している。この場合、リテーナ46は、鍔付き円筒状に形成されており、円筒部46Aと鍔部46Bとを有している。また、パイロットボディ33(円筒部40)の内側には、段差面40Aが形成されている。Oリング47は、リテーナ46の円筒部46Aの外周面と鍔部46Bの側面とパイロットボディ33の円筒部40の内周面と段差面40Aとに囲まれた環状空間内に配置されている。
ディスク部材42は、内周側がパイロットピン36の大径部37とパイロットボディ33の環状板部39との間に固定支持されている。この場合、ディスク部材42の内周側の座面49,50のそれぞれの外径D1,D2は、次のように設定されている。即ち、パイロット室24側の環状の座面49の外径D1(座面径D1、支持径D1ともいう)は、パイロット室24と反対側の環状の座面50の外径D2(座面径D2、支持径D2または固定支持径D2ともいう)よりも大きく設定されている(D1>D2)。
また、ディスク部材42に対してパイロット室24と反対側には、ディスク部材42から所定の距離Lを開けて、ディスク部材42の内周側の座面49,50の外径D1,D2よりも大きな外径D3の環状の座面51を有するバルブシート部52が設けられている。即ち、ディスク部材42は、内周側が固定支持されるとともに、パイロット室24側の座面径D1が内周側の固定支持径D2よりも大きくなっている。そして、ディスク部材42に対してパイロット室24と反対側には、ディスク部材42の内周側の固定支持径D2より外周側となる位置にディスク部材42と所定の距離Lを離間してシート面となる座面51が設けられている(D3>D1>D2)。
図5に(A)から順番に示すように、ディスク部材42は、リテーナ46側から順に、第1ディスクとしての補助ディスク43と、第2ディスクとしての中間ディスク44と、第3ディスクとしての導入ディスク45とにより構成されている。ディスク部材42は、これら3枚のディスク43,44,45を積層することにより構成されている。補助ディスク43は、ディスク部材42全体としてのばね特性にはできるだけ影響を与えず、パイロット圧が上昇したときに、ディスク部材42全体としての耐圧強度を高めるように、周方向に延びるスリット43Bを有している。
また、補助ディスク43には、ディスク部材42全体が撓むことにより中間シートとなるバルブシート部52の座面51に当接したときに、この座面51の内周側と外周側とで圧力差を発生することを抑制するための別のスリット43Cも設けられている。この別のスリット43Cは、座面51と対応する位置に設けられた半径方向に延びるスリットであり、座面51と当接したときに座面51の内径側と外径側との間を連通する。
中間ディスク44は、補助ディスク43と導入ディスク45との間に位置して両者に挟持されている。導入ディスク45には、中心孔45Aの外径側から径方向に延びるスリット45Bが設けられている。このスリット45Bは、パイロット室24への連通オリフィスを構成している。即ち、3枚のディスク43,44,45は、いずれも、パイロットピン36が挿入される中心孔43A,44A,45Aを有している。そして、中心孔43A,44A,45Aとパイロットピン36の外周面との間には、環状の隙間53が設けられている。即ち、ディスク43,44,45の内周側には、パイロットピン36の外周面との間で隙間53が形成される。そして、この隙間53は、パイロット流路となる第2通路(パイロットピン36の中心孔38)から連通オリフィス(導入ディスク45のスリット45B)につながる連通路を構成している。
即ち、隙間53および導入ディスク45のスリット45Bは、第2通路からパイロット室24に作動流体を導入する導入通路54を構成している。また、ディスク43,44,45の外周側には、それぞれ3個所に突起部43D,44B,45Cが設けられている。各突起部43D,44B,45Cは、パイロットボディ33(円筒部40)の内周面に摺動可能に当接し、これにより、ディスク43,44,45は、パイロットケースとなるパイロットボディ33(円筒部40)の内周に対して径方向の位置決めがされる。このように、ディスク部材42には、パイロットピン36内の油路である第2通路(パイロットピン36の中心孔38)とパイロット室24とを接続する連通路(隙間53)および連通オリフィス(導入ディスク45のスリット45B)が設けられている。
フリーバルブである周波数感応バルブ41は、ピストンロッド8および/または内筒4の振動周波数に応じてパイロットボディ33の円筒部40内を移動または停止するように相対変位する。これにより、周波数感応バルブ41は、パイロット室24の内圧を周波数に応じて調整する。即ち、高周波微振幅の入力時は、連通オリフィスとなる導入ディスク45のスリット45Bを通じてパイロット室24に圧力が作用することによりディスク部材42が撓み、パイロット室24の体積が増加する。これにより、パイロット室24の圧力が下がり、設定圧可変バルブ23が開きやすくなり、減衰力を低く抑えることができる。このときのディスク部材42の撓みとパイロット室24の圧力との関係は、後述の図7のA特性およびB特性に対応する。これに対して、低周波大振幅の入力時は、導入ディスク45のスリット45Bを通じてパイロット室24に圧力が作用すると、ディスク部材42が撓み、Oリング47が圧縮される。これにより、ディスク部材42に作用する力が増加し、ディスク部材42が撓みにくくなることにより、パイロット室24の圧力の低下が止まる。この結果、設定圧可変バルブ23が開きにくくなり、減衰力は高い特性を維持する。このときのディスク部材42の撓みとパイロット室24の圧力との関係は、図7のC特性に対応する。
図7は、周波数感応バルブ41のパイロット室24の圧力(パイロット室圧力)とディスク部材42の撓み量(ディスク撓み)との関係を示す特性線図である。図7中のA特性は、Oリング47の反力により、ディスク部材42がパイロット室24側の座面径D1を支点にパイロット室24側に撓んだ状態であり、このときは、ディスク部材42のばね定数は大きな値となる。A特性の状態では、微小な圧力変動に対し、ディスク部材42の動きを制限して、パイロット圧の変動を抑制することができる。
図7中のB特性は、パイロット圧により、ディスク部材42は、内周側の固定支持径D2を支点に撓み、中間シートとなるバルブシート部52の座面51に当接するまで、低いばね定数を維持する。B特性は、内周側の固定支持径D2、ディスク43,44,45の曲げ剛性、Oリング47の圧縮剛性により調整が可能であり、B特性により減衰力の周波数特性の可変率(例えば、図9の「減衰力可変率」参照)を調整できる。また、連通オリフィス(導入ディスク45のスリット45B)と併せて、周波数特性のカットオフ周波数を調整することができる。
図7中のC特性は、ディスク部材42が中間シートとなるバルブシート部52の座面51に当接してから、ディスク43,44,45の曲げ剛性の増加とOリング47の圧縮剛性の増加により非線形に剛性が上昇する領域である。このC特性により、周波数感応バルブ41(ディスク部材42)の可動範囲を制限して、周波数感応バルブ41(ディスク部材42)の過剰な動きによる、減衰力応答性の悪化を抑制することができる。これらA特性、B特性、C特性は、ディスク43,44,45の板厚、枚数、座面径D1,D2,D3、バルブシート部52の段差(隙間L)、Oリング47のばね特性等により調整が可能である。
また、Oリング47のばね特性は、Oリング47の硬度、線径、締め代の他に、Oリング47が当接する部位の形状によっても調整が可能である。図6中の(A)、(B)と図7中の実線61および破線62は、リテーナ46,46′およびパイロットボディ33の円筒部40,40′の形状と特性との関係を示している。即ち、図7中の実線61は図6中の(A)の形状の特性に対応し、図7中の破線62は図6中の(B)の形状の特性に対応する。例えば、図6中の(B)は、Oリング47との当接面、即ち、リテーナ46′の円筒部46A′と鍔部46B′の連続部およびパイロットボディ33の円筒部40′の外周面と段差面40A′との連続部に、Rまたはテーパにより傾斜を与えている。この場合は、図7中の破線62の特性となり、Oリング47の軸方向のばね定数を低減し、可動部となるディスク43,44,45のストロークを大きくとることができる。
実施形態による緩衝器1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
緩衝器1を自動車等の車両に実装するときには、例えば、ピストンロッド8の上端側が車両の車体側に取付けられ、ボトムキャップ3に設けられた取付アイ3A側が車輪側に取付けられる。また、ソレノイド27は、車両のコントローラ等に接続される。車両の走行時には、路面の凹凸等により、上,下方向の振動が発生すると、ピストンロッド8が外筒2から伸長、縮小するように変位し、減衰力調整装置17等により減衰力を発生することができ、車両の振動を緩衝することができる。このとき、コントローラによりソレノイド27のコイル28への電流値を制御し、パイロット弁部材25の開弁圧を調整することにより、緩衝器1の発生減衰力を可変に調整することができる。
例えば、ピストンロッド8の伸び行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁7が閉じる。ピストン5のディスクバルブ6の開弁前には、ロッド側油室Cの油液が加圧され、内筒4の油穴4A、環状油室D、中間筒12の接続口12Cを通じて減衰力調整バルブ18に流入する。このとき、ピストン5が移動した分の油液は、リザーバ室Aからボトムバルブ13の伸び側逆止弁16を開いてボトム側油室Bに流入する。なお、ロッド側油室Cの圧力がディスクバルブ6の開弁圧力に達すると、該ディスクバルブ6が開き、ロッド側油室Cの圧力をボトム側油室Bにリリーフする。
一方、ピストンロッド8の縮み行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁7が開き、ボトムバルブ13の伸び側逆止弁16が閉じる。ボトムバルブ13(ディスクバルブ15)の開弁前には、ボトム側油室Bの油液がロッド側油室Cに流入する。これと共に、ピストンロッド8が内筒4内に浸入した分に相当する油液が、ロッド側油室Cから減衰力調整バルブ18に流入する。このとき、ボトム側油室B内の圧力がボトムバルブ13(ディスクバルブ15)の開弁圧力に達すると、ボトムバルブ13(ディスクバルブ15)が開き、ボトム側油室Bの圧力をリザーバ室Aにリリーフする。
ピストンロッド8の伸び行程においても縮み行程においても、ロッド側油室C内の圧油は、ピストン5の変位に伴って内筒4内から油穴4Aを介して環状油室D内へと流出し、環状油室D内の圧油は中間筒12の接続口12Cを介して減衰力調整装置17側に流通する。このとき、減衰力調整装置17では、減衰力調整バルブ18の設定圧可変バルブ23の開弁前は、パイロットピン36のオリフィス38Aとパイロット弁部材25の開弁圧力とによって減衰力が発生し、設定圧可変バルブ23の開弁後は、該設定圧可変バルブ23の開度に応じて減衰力が発生する。この場合、ソレノイド27のコイル28への通電によってパイロット弁部材25の開弁圧力を調整することにより、減衰力を制御することができる。
即ち、コイル28への通電電流を小さくしてプランジャ30の推力を小さくすると、パイロット弁部材25の開弁圧力が低下し、ソフト側の減衰力が発生する。一方、コイル28への通電電流を大きくしてプランジャ30の推力を大きくすると、パイロット弁部材25の開弁圧力が上昇し、ハード側の減衰力が発生する。このとき、パイロット弁部材25の開弁圧力によって、その上流側の導入通路54(隙間53、導入ディスク45のスリット45B)を介して連通するパイロット室24の内圧が変化する。これにより、パイロット弁部材25の開弁圧力を制御することにより、設定圧可変バルブ23の開弁圧力を同時に調整することができ、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
また、高周波微振幅の入力時は、連通オリフィスとなる導入ディスク45のスリット45Bを通じてパイロット室24に圧力が作用することによりディスク部材42が撓み、パイロット室24の体積が増加する。これにより、パイロット室24の圧力が下がり、設定圧可変バルブ23が開きやすくなり、減衰力を低く抑えることができる。これに対して、低周波大振幅の入力時は、導入ディスク45のスリット45Bを通じてパイロット室24に圧力が作用すると、ディスク部材42が撓み、Oリング47が圧縮される。これにより、ディスク部材42に作用する力が増加し、ディスク部材42が撓みにくくなることにより、パイロット室24の圧力の低下が止まる。この結果、設定圧可変バルブ23が開きにくくなり、減衰力は高い特性を維持する。
図8および図9は、減衰力特性と周波数特性の一例を示している。即ち、図8は、ピストン速度と減衰力との関係の一例を示しており、図9は、周波数と減衰力との関係の一例を示している。ソレノイド27に印加する電流値に応じて、ハード(HARD)とソフト(SOFT)との間で減衰力特性を変化させることができる。この場合、図9に示すように、周波数特性は、減衰力の高いハード特性ほど、加振周波数上昇時の減衰力可変率は大きな値となる。このように、第1の実施形態では、低周波入力に対しては、電流値に応じた減衰力を発生し、ばね上の制振性、ばね下の制振性、操縦安定性の向上が図れる。これと共に、高周波入力に対しては、減衰力を低くして、ばね上への振動伝達を低減することができる。従って、減衰力制御バルブである減衰力調整バルブ18に周波数感応部である周波数感応バルブ41を付加することで、乗り心地と操縦安定性とを高い次元で両立できる。
以上のように、第1の実施形態では、周波数感応バルブ41の可動部となるディスク部材42に対してパイロット室24と反対側にシール部材となるOリング47を配置している。このため、Oリング47に、パイロット室24をシール(封止)するシール部材としての機能に加えて、ディスク部材42のばね特性を補完するばね部材としての機能も持たせることができる。これにより、周波数感応バルブ41の基本長(軸方向長さ)が長くなることを抑制でき、周波数感応バルブ41を小型に構成できる。しかも、周波数感応バルブ41の可動部となるディスク部材42は、減衰力制御バルブとなる設定圧可変バルブ23(メインバルブ)のパイロット室24に作用する。このため、1つの周波数感応バルブ41で伸長と縮小との両方向の減衰力の周波数特性を制御(調整)することができる。
第1の実施形態では、Oリング47は、ディスク部材42に対しパイロット室24に向けて付勢する方向に反力を作用させる。このため、パイロット室24の微小な圧力変動に対してディスク部材42の動きを制限でき、パイロット圧の変動を抑制できる。また、ディスク部材42は、パイロット室24側の座面径D1が固定支持径D2よりも大きく、また、固定支持径D2より外周側となる位置にディスク部材42と離間してバルブシート部52(シート面となる座面51)が設けられている。このため、ディスク部材42は、パイロット室24とは反対側に撓むにつれて、接触する支点径が変化する。即ち、ディスク部材が撓むにつれて、ディスク部材42の支持径が固定支持径D2からバルブシート部52(シート面となる座面51)の支持径D3に変化する。このため、この支持径D2,D3の変化の程度を調整することにより、周波数感応特性を調整することができる。これにより、周波数感応特性の設定の自由度を大きくできる。
次に、図10ないし図11は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、減衰力調整バルブに流路形成部材(位相補正デバイス)を設けたことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
周波数感応バルブ41は、高周波入力に対し減衰力を低減して、振動の伝達特性を改善することができる。しかし、周波数感応バルブ41は、可動部となるディスク部材42、リテーナ46およびOリング47によるパイロット室24の体積変化を伴うことから、高周波数での減衰力の低下に遅れ(位相遅れ)が生じる可能性がある。これにより、振動伝達の低減に対する減衰力の低減の効果が低下する可能性がある。そこで、第2の実施形態では、絞り通路71を形成する流路形成部材72を設け、絞り通路71でのオイル慣性力により遅れを補正(位相補正)する。即ち、第2の実施形態では、周波数感応バルブ41に流路形成部材72を組み合わせることにより、高周波入力時の遅れ(位相遅れ)を改善する。これにより、周波数感応による減衰力の低減効果を、振動の伝達低減の効果として十分に得ることができる。
第2の実施形態では、減衰力調整バルブ18のバルブ部材73に位相補正デバイスとなる流路形成部材72が組み付けられている。これにより、流路形成部材72は、他側室となるロッド側油室Cとリザーバ室Aとの間に設けられている。即ち、流路形成部材72は、ロッド側油室Cとリザーバ室Aとの間を接続する油路74に設けられている。油路74は、「環状油室D(ロッド側油室C)に繋がる筒形ホルダ20内の油路75(図2参照)」と「リザーバ室Aに繋がるバルブケース19内の油路76(図2参照)」との間の流路である。油路74は、ピストン5の移動によって油液(作動流体)の流れが生じる流路である。
減衰力調整バルブ18のバルブ部材73は、第1部材としての有底筒状の筒部材77と、第2部材としての円板状の蓋部材78とを有している。そして、流路形成部材72は、筒部材77と蓋部材78との間に設けられている。即ち、バルブ部材73(筒部材77および蓋部材78)は、流路形成部材72を収納する収納部材に相当する。筒部材77の底部79には、中心孔79A、および、中心孔79Aから径方向外方に延びる導入溝79Bが設けられている。蓋部材78には、パイロットピン80が接続される中心孔78A、設定圧可変バルブ23が離着座する環状弁座78B、設定圧可変バルブ23によって開閉される環状油室78Cを形成する環状凹部78D、および、環状凹部78Dに開口する貫通孔78Eが設けられている。前述の第1の実施形態では、パイロットピン36の中心孔38にパイロットオリフィスとなるオリフィス38Aが設けられている。これに対して、第2の実施形態のパイロットピン80には、オリフィスが設けられていない。第2の実施形態では、第1の実施形態のようなパイロットピン36のオリフィス38Aに代えて、流路形成部材72による絞り通路71が設けられている。
流路形成部材72は、2枚のディスク81,82を積層することにより渦巻状の絞り通路71となる連通路を形成している。即ち、流路形成部材72は、積層されて絞り通路71を形成する導入ディスク81と通路ディスク82とを有している。流路形成部材72、即ち、導入ディスク81および通路ディスク82は、バルブ部材73の筒部材77と蓋部材78との間に挟持される。
導入ディスク81は、周方向に延びる貫通溝81Aと、通路ディスク82の有底溝82Aの開口側を塞ぐ閉塞部81Bとを有している。即ち、導入ディスク81の外径側には、それぞれ周方向に延びる3個の貫通溝81Aが形成されており、貫通溝81Aから外れた部分が閉塞部81Bとなっている。一方、通路ディスク82は、周方向に延びる渦巻状の有底溝82Aを有している。具体的には、通路ディスク82は、導入ディスク81の貫通溝81Aに対応する位置に導入口となる横溝82Bが設けられている。通路ディスク82は、横溝82Bを始点としてこの横溝82Bから周方向に伸びつつ径方向内側に向けて渦巻状に延びる有底溝82Aを有している。
この場合、有底溝82Aは、図11に示すように、通路ディスク82の径方向外側に位置する外径側端部82Cから最も径方向内側に位置する内径側端部82Dまで、3周半、即ち、1260°周方向(時計方向)に延びている。内径側端部82D、即ち、通路ディスク82の中心には、貫通孔82Eが設けられている。通路ディスク82の有底溝82Aの開口は、導入ディスク81の閉塞部81Bによって塞がれることにより、渦巻状に延びる絞り通路71を形成している。また、通路ディスク82の外径側には、導入ディスク81の貫通溝81Aの溝幅と同程度の長さを有する突起部82Fが周方向に等間隔に離間する複数個所(3個所)に設けられている。これにより、筒部材77と通路ディスク82との間に径方向の隙間(油路空間)が形成され、導入ディスク81の貫通溝81Aを通過した油液が通路ディスク82の横溝82Bを介して有底溝82Aに導入される。また、貫通溝81Aを通過した油液は、環状油室78Cにも導入される。
有底溝82Aの断面は、例えば、図10に示すように矩形状とすることができる。しかし、これに限らず、図示は省略するが、例えば、溝幅が底部に向けて小さくなるように側面が傾斜した断面台形状の有底溝、底部が円弧状となった断面U字状の有底溝、断面半円弧状の有底溝等、各種の有底溝を採用することができる。図11に(A)から順番に示すように、流路形成部材72は、バルブ部材73の蓋部材78側から順に、通路ディスク82、導入ディスク81を積層することにより構成されている。これにより、パイロット室24に作動流体を導入する導入通路54より内筒4側に、同一平面上で中心からの距離を変化させながら連続して(複数周)旋回する渦巻状の流路となる絞り通路71を設けている。なお、絞り通路71の旋回周、換言すれば、絞り通路71の通路長(有底溝82Aの長さ)は、必要な減衰力の遅れの補正効果が得られるように適宜調整することができる。また、有底溝82Aの断面積の形状、通路ディスク82の枚数等も、必要に応じて調整することができる。
第2の実施形態は、上述の如き流路形成部材72を減衰力調整バルブ18のバルブ部材73に内蔵した(流路形成部材72と減衰力調整バルブ18とを一体にした)もので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。特に、第2の実施形態では、導入通路54より内筒4側に渦巻状の流路となる絞り通路71を設けている。このため、高周波入力に対し周波数感応バルブ41の効果により減衰力が低減したときに生じる減衰力の遅れ(位相遅れ)を、渦巻状の絞り通路71内のオイル慣性力により補正することできる。これにより、乗り心地、音振性能のさらなる向上を図ることができる。
なお、第2の実施形態では、絞り通路71を形成する流路形成部材72の通路ディスク82として有底溝82Aを有する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、通路ディスクの有底溝を貫通溝としてもよい。この場合、必要に応じて、貫通溝を閉塞するための閉塞ディスクを別に設けることができる。
第1の実施形態および第2の実施形態では、周波数感応部となる周波数感応バルブ41のディスク部材42として3枚のディスク43,44,45により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ディスク部材は、例えば、1枚のディスクまたは2枚のディスクにより構成してもよいし、4枚以上のディスクにより構成してもよい。
第1の実施形態および第2の実施形態では、メインバルブとなる設定圧可変バルブ23をロッド側油室C(他側室)からリザーバ室Aへ作動流体が流通する第1通路26に設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、メインバルブをボトム側油室(一側室)からリザーバ室へ作動流体が流通する通路に設ける構成としてもよい。または、メインバルブをロッド側油室C(他側室)からリザーバ室Aへ作動流体が流通する通路とボトム側油室(一側室)からリザーバ室へ作動流体が流通する通路の両方にそれぞれ設ける構成としてもよい。
第1の実施形態では、外筒2と内筒4とからなる複筒式の緩衝器1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、単筒式の筒部材(シリンダ)からなる緩衝器に適用してよい。この場合は、メインバルブをロッド側油室(他側室)から一側室へ作動流体が流通する流路と一側室から他側室へ作動流体が流通する流路の両方にそれぞれ設ける構成とする。このことは、第2の実施形態についても同様である。
また、各実施形態では、緩衝器の代表例として自動車に取付ける緩衝器を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、鉄道車両に取付ける緩衝器に適用してもよい。また、自動車、鉄道車両等の車両に限らず、振動源となる種々の機械、構造物、建築物等に用いる各種の緩衝器に適用することができる。さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態に基づく緩衝器として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、緩衝器は、作動流体が封入され、少なくともその一端からロッドが突出しているシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、前記ロッドに連結されると共に前記シリンダ内を一側室と他室側とに区画するピストンと、前記シリンダに設けられ、前記ロッドの侵入および退出を補償するリザーバ室と、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の前記一側室と前記他室側とのうちの一方の室から前記リザーバ室へ作動流体が流通する第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられ、作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、前記メインバルブに対して閉弁方向に圧力を作用させるパイロット室と、前記第2通路から前記パイロット室に作動流体を導入する導入通路と、前記第2通路に設けられた制御弁と、前記パイロット室を形成するハウジングに対して移動可能に前記パイロット室内に設けられ、移動により前記パイロット室の体積を変化させるディスク部材と、前記ディスク部材に対して前記パイロット室と反対側に設けられ、前記ディスク部材の外周と前記ハウジングの内周との間をシールするシール部材と、を備える。
この第1の態様によれば、周波数感応バルブの可動部となるディスク部材に対してパイロット室と反対側にシール部材を配置している。このため、シール部材に、パイロット室をシール(封止)するシール部材としての機能に加えて、ディスク部材のばね特性を補完するばね部材としての機能も持たせることができる。これにより、周波数感応バルブの基本長(軸方向長さ)が長くなることを抑制でき、周波数感応バルブを小型に構成できる。しかも、周波数感応バルブの可動部となるディスク部材は、減衰力制御バルブとなるメインバルブのパイロット室に作用する。このため、1つの周波数感バルブで伸長と縮小との両方向の減衰力の周波数特性を制御(調整)することができる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記シール部材は、前記ディスク部材に対し前記パイロット室に向けて付勢する方向に反力を作用させる。この第2の態様によれば、パイロット室の微小な圧力変動に対してディスク部材の動きを制限でき、パイロット圧の変動を抑制できる。
第3の態様としては、第1の態様または第2の態様において、前記ディスク部材は、内周側が固定支持されるとともに、前記パイロット室側の座面径が前記内周側の固定支持径よりも大きくなっており、前記ディスク部材に対して前記パイロット室と反対側には、前記ディスク部材の前記内周側の固定支持径より外周側となる位置に前記ディスク部材と所定の距離を離間してシート面が設けられている。
この第3の態様によれば、周波数感応バルブの可動部となるディスク部材が撓むにつれて、このディスク部材が接触する支点径が変化する。即ち、ディスク部材が撓むにつれて、ディスク部材の支持径が固定支持径からシート面の支持径に変化する。このため、この支持径の変化の程度を調整することにより、周波数感応特性を調整することができる。これにより、周波数感応特性の設定の自由度を大きくできる。
第4の態様としては、第1の態様ないし第3の態様のいずれかにおいて、前記第2通路の前記導入通路より前記シリンダ側には、同一平面上で中心からの距離を変化させながら連続して旋回する渦巻状の流路を設ける。この第4の態様によれば、高周波入力に対し周波数感応バルブの効果により減衰力が低減したときに生じる減衰力の遅れ(位相遅れ)を、渦巻状の流路により補正することできる。これにより、乗り心地、音振性能のさらなる向上を図ることができる。