JP7249737B2 - 発酵乳の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、発酵乳及びその製造方法に関する。
近時、消費者の健康志向を受け、無脂肪ないし低脂肪の発酵乳や、高たんぱく質の発酵乳が製造・販売されている。これらの発酵乳の技術的課題として、発酵後の組織が固く、粗雑であり、ぼそぼそした食感になることや、液状に加工した場合の食感が滑らかでなく、ざらつきが感じられることが挙げられる。したがって、滑らかでかつ柔らかい食感の発酵乳を製造できる方法が望まれている。
上記の課題に関連する従来技術として、特許文献1には、発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼを添加して発酵させることにより発酵乳の物性を改良する方法が開示されている。
特許文献2には、低分子化したペクチンを酸性蛋白食品に配合することにより低粘度化する方法が開示されている。
特許文献3には、ヨーグルトミックスに、パーオキシダーゼと、ホエー蛋白濃縮物及び/又はホエー蛋白単離物を配合して発酵することにより、すぐれた食感を呈する発酵乳を製造する方法が記載されている。
特許文献4には、発酵後の固形状ヨーグルトにプロテアーゼD3を作用させることにより、食感が良好なドリンクタイプヨーグルトを製造する方法が開示されている。
国際公開第2015/041194号 特開2001-61409号公報 特開平6-276933号公報 特開2004-180553号公報
特許文献1~3に開示された方法は、製造工程や副原料の追加が必要であるため、より簡易な製造方法に対する必要性が存在する。
特許文献4に開示されている方法は、ドリンクヨーグルトの製造に限定されており、発酵後に酵素反応を行う追加の工程が必要であった。
本発明の課題は、口どけが良く滑らかな食感を呈する発酵乳を製造できる新規な製造方法を提供することである。
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究を行った結果、発酵乳ミックスを乳酸菌及びプロテアーゼの存在下で発酵させることにより、口どけが良く滑らかな食感を呈する発酵乳を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の発酵乳の製造方法等を提供できる。
1.発酵乳ミックスを乳酸菌及びプロテアーゼの存在下で発酵させることにより発酵乳を得る、発酵乳の製造方法。
2.(1)発酵乳ミックスを調製する工程、
(2)前記発酵乳ミックスを殺菌処理に供する工程、及び、
(3)前記殺菌処理後の発酵乳ミックスに乳酸菌スターター及びプロテアーゼを添加して発酵させる工程
を含む発酵乳の製造方法。
3.前記発酵乳の脂肪含量が0.5重量%未満である、1又は2に記載の発酵乳の製造方法。
4.前記発酵乳のたんぱく質含量が3.5重量%以上である、1~3のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
5.前記プロテアーゼの量が、前記発酵乳ミックスの重量に対して、0.1~20U/gである、1~4のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
6.前記発酵乳が固形状発酵乳である、1~5のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
7.前記発酵乳が液状発酵乳である、1~5のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
本発明によれば、口どけが良く滑らかな食感を呈する発酵乳を製造できる製造方法を提供することができる。
以下、本発明の発酵乳及びその製造方法の実施形態について説明する。
[発酵乳の製造方法]
本発明の発酵乳の製造方法は、発酵乳ミックスを乳酸菌及びプロテアーゼの存在下で発酵させることにより発酵乳を得るものである。
本発明の発酵乳の製造方法によれば、口どけが良く滑らかな食感を呈する発酵乳を製造できる。
本発明において、「発酵乳」とは、例えば、日本の食品衛生法に基づく省令である「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令、昭和26年12月27日厚生省令第52号)で定義されている「発酵乳」等が挙げられる。この省令において、「発酵乳」は、「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したものをいう」と定義されている。したがって、本発明において、「発酵乳」には、例えば、ヨーグルト等の固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、糊状発酵乳(ソフトタイプヨーグルト)、液状発酵乳(ドリンクタイプヨーグルト)等が含まれる。
本発明において、「発酵乳ミックス」とは、発酵乳の原材料の混合物をいうものとする。発酵乳ミックスは、少なくとも原料乳を含む。
本発明において、原料乳としては、牛乳、殺菌乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、クリーム、バター、バターミルク、乳清、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、乳清たんぱく質濃縮物(WPC)、乳清たんぱく質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン(α-La)、β-ラクトグロブリン(β-Lg)等が挙げられる。
本発明において、発酵乳ミックスを調製するための他の材料は、当技術分野において既知の任意の材料を使用できるが、例えば、砂糖、甘味料、糖類、香料、水等が挙げられる。また、必要に応じて、ゼラチン、寒天、ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のゲル化剤、増粘剤、安定剤等を使用してもよい。
本発明において、プロテアーゼとしては、中性プロテアーゼを用いることができる。中性プロテアーゼの場合、発酵によって乳のpHが低下することによりpH5.0程度で失活するため、本発明の製造方法により製造される発酵乳中においてプロテアーゼは失活している状態となる。
本発明で使用するプロテアーゼはエンド型の中性プロテアーゼが好ましい。エンド型のプロテアーゼは、タンパク質を大まかに分解し、低分子化する作用を有する。
プロテアーゼは、微生物、細菌、植物等を含む、非常に広範囲の生物から単離されている。好ましいプロテアーゼは、価格や反応性の観点から、微生物又は細菌由来のプロテアーゼである。例えば、このようなプロテアーゼとしては、バチルス属(Bacillus)又はペニバチルス属(Paenibacillus)、ジオバチルス属(Geobacillus)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rhizopus)、リゾムコール属(Rhizomucor)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する微生物由来のプロテアーゼ、乳酸菌由来のプロテアーゼ等が挙げられる。本発明において好ましいプロテアーゼは、ペニバチルス属(Paenibacillus)由来のプロテアーゼであり、具体的には、Paenibacillus polymyxa、Paenibacillus macerans、Paenibacillus pabuli、Paenibacillus peoriae、Paenibacillus thiaminolyticus、Paenibacillus validus、Paenibacillus glucanolyticus、Paenibacillus kobensis、Paenibacillus lautus、Paenibacillus alginolyticus、Paenibacillus alvei、Paenibacillus amylolyticus、Paenibacillus chitinolyticus、Paenibacillus chondroitinus、Paenibacillus curdlanolyticus、Paenibacillus durus、Paenibacillus ehimensis、Paenibacillus sp.からなる群から選択される微生物(細菌)に由来するプロテアーゼである。しかし、本発明で使用するプロテアーゼは微生物由来に限らず、植物等由来であってもよい。
本明細書において、たんぱく質には、カゼインたんぱく質と乳清たんぱく質が含まれるものとする。カゼインたんぱく質としては、例えば、α-カゼインや、β-カゼイン等が挙げられ、乳清たんぱく質としては、例えば、α-ラクトアルブミンや、β-ラクトグロブリン、血清アルブミン等が挙げられる。
本発明の発酵乳の製造方法の一態様は、以下の工程(1)~(3)を含む。
(1)発酵乳ミックスを調製する工程
(2)前記発酵乳ミックスを殺菌処理に供する工程
(3)前記殺菌処理後の発酵乳ミックスに乳酸菌スターター及びプロテアーゼを添加して発酵させる工程
本発明の発酵乳の製造方法の一態様では、工程(1)として、発酵乳ミックスを調製する。
発酵乳ミックスは、原料乳及び他の材料を混合することにより調製できる。混合条件は、特に限定されず、任意に決定すればよい。
調製した発酵乳ミックスは、必要に応じて、均質化処理に供してもよい。均質化処理の条件は、特に限定されず、任意に決定すればよい。
本発明の発酵乳の製造方法の一態様では、工程(1)の後、工程(2)として、発酵乳ミックスを殺菌処理に供する。
殺菌処理は、特に限定されないが、通常、加熱処理により殺菌する。加熱処理の条件は、発酵乳ミックスが熱による変性しないことを条件として、特に限定されず、当技術分野において通常選択される条件を使用できる。
本発明の発酵乳の製造方法の一態様では、工程(2)の後、工程(3)として、殺菌処理後の発酵乳ミックスに乳酸菌スターター及びプロテアーゼを添加して発酵させる。
乳酸菌スターターとしては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)の他に、ラクトバチルス・アシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(L. amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L. buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス(L. casei subsp. rhamnosus)、ラクトバチルス・クリスパタス(L. crispatus)、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(L. delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L. fermentum)、ラクトバチルス・ガリナラム(L. gallinarum)、ラクトバチルス・ガセリ(L. gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L. helveticus)、ラクトバチルス・ヘルベチカス・サブスピーシーズ・ユーグルティ(L. helveticus subsp. jugurti)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(L. johnsonii)、ラクトバチルス・ケフィア(L. kefir)、ラクトバチルス・オリス(L. oris)、バチルラクトス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ(L. paracasei subsp. paracasei)、ラクトバチルス・パラプランタラム(L. paraplantarum)、ラクトバチルス・ペントサス(L. pentosus)ラクトバチルス・プランタラム(L. plantarum)、ラクトバチルス・ロイテリ(L. reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(L. salivalius)、ラクトバチルス・ゼアエ(L. zeae)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B. adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマーリス(B. animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウム・グロボサム(B. globosum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(B. lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(B. pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・ズイス(B. suis)等、発酵乳の製造に一般的に用いられる乳酸菌や酵母から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
スターターは、バルクスターターを調製して発酵乳ミックスに添加することができ、バルクスターターの添加量は、0.5~5%とすることができ、1~3%が好ましい。
バルクスターターは、脱脂粉乳を殺菌後、スターターに使用する菌体を添加し、発酵することにより、調製することができる。この発酵温度は30~45℃が好ましく、37~43℃が特に好ましい。この発酵は、pHが4.0~5.0となるまで行うことが好ましく、pHが4.3~4.8となるまで行うことがより好ましい。
プロテアーゼの添加量は、発酵乳ミックスの重量に対して、0.1~20U/gであることが好ましく、0.2~2.0U/gであることが特に好ましい。
本明細書において、「U」は、プロテアーゼの酵素活性の単位(Unit)であり、以下に活性測定法を説明する。
0.6重量%ミルクカゼイン水溶液5mL(pH7.5、2mM酢酸カルシウム含有50mMトリス塩酸緩衝液)に酵素溶液1mL(50U/mL、2mM酢酸カルシウム含有50mMトリス塩酸緩衝液)を添加し、30℃で10分間反応後、トリクロロ酢酸溶液5mLを加えて反応を停止させる(トリクロロ酢酸溶液:無水酢酸ナトリウム1.8%(w/v)、トリクロロ酢酸1.8%(w/v)、酢酸1.98%(w/v)を蒸留水に溶解後、pH4.0に調整した溶液。)。さらに30℃で30分間静置し、ろ過後、275nmの吸光度を測定する。
以上の条件下で1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量を1Uとする。
スターター及びプロテアーゼを添加する際の発酵乳ミックスの温度は、通常、30~45℃である。
発酵温度は、通常、30~45℃であり、好ましくは、37~45℃である。
発酵の進行は、pHを測定することにより、確認することができる。pH4.0~5.0まで発酵することが好ましく、pH4.3~4.8まで発酵することが特に好ましい。
得られた発酵乳カードは、フィルターによる破砕や均質機による均質化によって、液状発酵乳とすることができる。
[発酵乳]
本発明の発酵乳は、上記説明した本発明の発酵乳の製造方法により製造されたものである。
本発明の発酵乳は、口どけが良く滑らかな食感を呈する。
本発明の発酵乳の一態様は、固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、又は液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)等であることができる。また、無脂肪、高たんぱく、高無脂乳固形分(以下、「高SNF」ともいう)の特徴のうちひとつ又はふたつ以上の特徴を有するものであることができる。
本発明において、無脂肪とは、発酵乳中の脂肪含量が0.5重量%未満であることをいうものとする。
また、本発明において、高たんぱくとは、発酵乳中のたんぱく質含量が5重量%以上であることをいうものとする。
また、本発明において、高SNFとは、発酵乳中の無脂乳固形分含量が15重量%以上であることをいうものとする。
具体的には、本発明の発酵乳の一態様は、無脂肪の固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、無脂肪の液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)、無脂肪・高たんぱくの固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、無脂肪・高たんぱくの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)、無脂肪・高SNFの固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、無脂肪・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)、無脂肪・高たんぱく・高SNFの固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)、又は無脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)であることができる。
本発明の一態様において、無脂肪・高たんぱくの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)の場合、発酵乳中において、脂肪含量は、好ましくは0重量%以上0.5重量%未満であり、より好ましくは0重量%以上0.3重量%以下であり、無脂乳固形分含量は、好ましくは8.0重量%以上12.0重量以下であり、より好ましくは9.0重量%以上11.0重量以下であり、たんぱく質含量は、好ましくは5.0重量以上9.0重量以下であり、より好ましくは5.0重量%以上7.0重量%以下であり、カゼインたんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは3.5重量%以上7.0重量%以下であり、乳清たんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上3.0重量%以下である。
本発明の一態様において、無脂肪の固形状発酵乳( セットタイプヨーグルト)の場合、発酵乳中において、脂肪含量は、好ましくは0重量%以上0.5重量%未満であり、より好ましくは0重量%以上0.3重量%以下であり、無脂乳固形分含量は、好ましくは8.0重量%以上12.0重量以下であり、より好ましくは9.0重量%以上11.0重量以下であり、たんぱく質含量は、好ましくは3.0重量以上9.0重量以下であり、より好ましくは3.0重量%以上7.0重量%以下であり、カゼインたんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは2.0重量%以上7.0重量%以下であり、乳清たんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上3.0重量%以下である。
本発明の一態様において、無脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)の場合、発酵乳中において、脂肪含量は、好ましくは0重量%以上0.5重量%未満であり、より好ましくは0重量%以上0.3重量%以下であり、無脂乳固形分含量は、好ましくは12.0重量%以上20.0重量以下であり、より好ましくは15.0重量%以上18.0重量以下であり、たんぱく質含量は、好ましくは5.0重量以上10.0重量以下であり、より好ましくは5.0重量%以上8.0重量%以下であり、カゼインたんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは3.5重量%以上8.0重量%以下であり、乳清たんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上3.0重量%以下である。
本発明の一態様において、高脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)の場合、発酵乳中において、脂肪含量は、好ましくは5.0重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは5.0重量%以上8.0重量%以下であり、無脂乳固形分含量は、好ましくは12.0重量%以上20.0重量以下であり、より好ましくは15.0重量%以上18.0重量以下であり、たんぱく質含量は、好ましくは5.0重量以上10.0重量以下であり、より好ましくは5.0重量%以上8.0重量%以下であり、カゼインたんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは3.5重量%以上8.0重量%以下であり、乳清たんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上3.0重量%以下である。
本発明の一態様において、固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)の場合、発酵乳中において、脂肪含量は、好ましくは1.0重量%以上5.0重量%以下であり、より好ましくは2.0重量%以上4.0重量%以下であり、無脂乳固形分含量は、好ましくは8.0重量%以上12.0重量以下であり、より好ましくは8.0重量%以上10.0重量以下であり、たんぱく質含量は、好ましくは3.0重量以上9.0重量以下であり、より好ましくは3.0重量%以上7.0重量%以下であり、カゼインたんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは2.0重量%以上7.0重量%以下であり、乳清たんぱく質含量は、好ましくは0重量%以上9.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上2.5重量%以下である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。
試験例1:無脂肪・高たんぱくの液状発酵乳
[液状発酵乳の調製]
表1に示す配合にしたがって、脱脂粉乳、砂糖、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、乳清たんぱく質濃縮物(WPC)、水を混合して、発酵乳ミックスを調製した。得られた発酵乳ミックス中において、無脂乳固形分含量は9.65重量%、脂肪分含量は0.14重量%、たんぱく質含量は5.0重量%(うち、カゼインたんぱく質は3.6重量%、乳清たんぱく質は1.4重量%)であった。
発酵に用いる乳酸菌バルクスターターは、95℃で10分間熱処理して殺菌した脱脂粉乳10重量%水溶液に、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013株(受託番号:NITE BP-02411)、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus OLS3290株(受託番号:FERM BP-019638)の混合スターターを0.3重量%添加し、40℃にてpHが4.5になるまで発酵することにより調製した。
調製した発酵乳ミックスを、均質機を用い75℃、圧力15MPa(流量135L/h)にて均質化し、95℃達温の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理後、発酵乳ミックスを43℃に冷却し、表1に示す配合にしたがって、乳酸菌バルクスターター、プロテアーゼ(合同酒精株式会社)を添加し、43℃で静置して発酵させた。表1中、プロテアーゼの配合量は、発酵乳の原材料全体の重量に対する重量割合(単位:重量%)(上段)と、発酵乳の原材料全体の重量に対する酵素活性(単位:U/g)(下段)を示す。pHが4.5になるまで発酵させた後、得られた発酵乳カードをフィルター(60メッシュ)に通過させることにより破砕し、10℃に冷却して、液状の発酵乳(ドリンクヨーグルト)を得た。
Figure 0007249737000001
[液状発酵乳の評価]
プロテアーゼの添加濃度を変化させて調製した実施例1~4の液状発酵乳、及び、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例1の液状発酵乳について、粘度及び粒子径を測定し、官能評価を行った。結果を表2に示す。
発酵乳の粘度(mPa・s)は、B型粘度計TVB-10(東機産業)を用いて測定した。3号(M22)ローターを用いて、10℃において60rpmで30秒回転させた後の値を計測した。
発酵乳の粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2200(島津製作所)を用いて粒度分布を体積基準で測定し、粒子径の中央値(μm)とした。発酵乳の粒子径は、試料中の脂質やたんぱく質の粒子の大きさを示すもので、粒子径が大きいと、ざらつきのある食感を呈する原因となると考えられる。
官能評価は、調製した発酵乳を試食して風味(食感)を評価した。具体的には、一般パネル5人が、実施例1~4及び比較例1の発酵乳をそれぞれ70gずつ食し、舌先や口腔内での食感について、5点:非常に滑らか、4点:滑らか、3点:発酵乳として許容できる程度に滑らか、2点:ざらつき、粉っぽさを感じる、1点:非常にざらつき、粉っぽさを感じる、の5段階の評点で評価した。評点の平均値を表2に示す。
Figure 0007249737000002
表2に示すように、粒子径中央値が19.1μm、10℃における粘度が1200mPa・sである比較例1の発酵乳の食感は、粒子径中央値が15μm超と大きいため、強いざらつきが感じられた。このことから、プロテアーゼを添加せずに調製した無脂肪・高たんぱくドリンクヨーグルトは、粒子径が大きくなるため、ざらつき、粉っぽさが強く、実施例と比較して、風味が大きく劣っていた。
これに対して、プロテアーゼを添加して調製した実施例1~4の発酵乳では、粒子径中央値が15μm以下と小さく、ざらつき、粉っぽさが抑えられており、滑らかな食感であった。食感にざらつきを感じず滑らかであった。実施例2~4の発酵乳の風味は、実施例1と比較して、さらに滑らかな食感であった。
以上より、プロテアーゼを添加して発酵させることにより、粘度及び粒子径が低減され、これらの物性が改良されることで、無脂肪・高たんぱくの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)にみられるざらつきや粉っぽさが抑えられ、食感が改良されることが確認できた。
試験例2:無脂肪の固形状発酵乳
[固形状発酵乳の調製]
表3に示す配合にしたがって、脱脂粉乳、乳清たんぱく質単離物(WPI)、水を混合して、発酵乳ミックスを調製した。得られた発酵乳ミックス中において、無脂乳固形分含量は10.2重量%、脂肪分含量は0.14重量%、たんぱく質含量は3.9重量%(うち、カゼインたんぱく質は2.8重量%、乳清たんぱく質は1.1重量%)であった。
乳酸菌バルクスターターは、95℃で10分間熱処理して殺菌した脱脂粉乳10重量%水溶液に、「明治ブルガリアヨーグルトLB81」(株式会社明治)より分離したブルガリア菌とサーモフィラス菌を接種して、40℃にてpHが4.5になるまで発酵することにより調製した。
調製した発酵乳ミックスを、95℃達温の条件で殺菌処理に供した。殺菌処理後、発酵乳ミックスを43℃に冷却し、表3に示す配合にしたがって、乳酸菌バルクスターター、プロテアーゼ(合同酒精株式会社)を添加し、発酵用の容器に充填し、43℃で静置して発酵させた。表3中、プロテアーゼの配合量は、発酵乳の原材料全体の重量に対する重量割合(単位:重量%)(上段)と、発酵乳の原材料全体の重量に対する酵素活性(単位:U/g)(下段)を示す。pHが4.5になるまで発酵させた後、10℃に冷却して、固形状の発酵乳(セットタイプヨーグルト)を得た。
Figure 0007249737000003
[固形状発酵乳の評価]
プロテアーゼを添加して調製した実施例5の固形状発酵乳、及び、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例2の固形状発酵乳について、硬度及び流動性を測定し、官能評価を行った。結果を表4に示す。
硬度(ヨーグルトカードテンション、CT)は、ネオカードメーターME305(アイテクノエンジニアリング)の測定マニュアルにしたがって測定した。すなわち、本発明における発酵乳の「硬度」とは、温度5℃~10℃に冷却した試料に、スプリングを介して定速荷重(100g)を加えた時の、変形により生ずる歪みを、ロードセルにより計測し、破断した時の荷重を硬度として測定する。その単位はg(グラム)である。
流動性は、容器に充填し調製した発酵乳を、容器の蓋をしないまま横に倒した状態で静置し、容器から発酵乳が流れ出るまでの時間(分)を計測して評価した。結果を表4に示す。
官能評価は、調製した実施例5及び比較例2の発酵乳を試食して風味(食感)を評価した。具体的には、一般パネル5人が、実施例5及び比較例2の発酵乳をそれぞれ70gずつ食し、舌先や口腔内での食感について評価した。
Figure 0007249737000004
プロテアーゼを添加して発酵させた実施例5の発酵乳は、5人のパネラーすべてが、プロテアーゼを添加せずに発酵させた比較例2の発酵乳と比較して食感が大きく異なり、実施例5が圧倒的に滑らかな食感であったと評価した。
比較例2の発酵乳は、硬く、食感が重いものであった。
以上より、プロテアーゼを添加して発酵させることにより、無脂肪の固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)の硬度が低減され、食感が柔らかく、滑らかになる効果を確認できた。
試験例3:無脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳
[液状発酵乳の調製]
表5に示す配合にしたがって、脱脂粉乳、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、水を混合して、発酵乳ミックスを調製した。得られた発酵乳ミックス中において、無脂乳固形分含量は16.22重量%、脂肪分含量は0.17重量%、たんぱく質含量は6.1重量%(うち、カゼインたんぱく質は4.9重量%、乳清たんぱく質は1.2重量%)であった。
発酵に用いる乳酸菌バルクスターターは、95℃で10分間熱処理して殺菌した脱脂粉乳10重量%水溶液に、「明治ブルガリアヨーグルトLB81」(株式会社明治)より分離したブルガリア菌とサーモフィラス菌を接種して、40℃にてpHが4.5になるまで発酵することにより調製した。
調製した発酵乳ミックスを、95℃達温の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理後、発酵乳ミックスを40℃に冷却し、表5に示す配合にしたがって、乳酸菌バルクスターター、プロテアーゼ(合同酒精株式会社)を添加し、発酵用の容器に充填し、40℃で静置して発酵させた。表5中、プロテアーゼの配合量は、発酵乳の原材料全体の重量に対する重量割合(単位:重量%)(上段)と、発酵乳の原材料全体の重量に対する酵素活性(単位:U/g)(下段)を示す。pHが4.55になるまで発酵させた後、得られた発酵乳カードを均質機により圧力15MPa(流量135L/h)で均質化し、10℃に冷却して、液状の発酵乳(ドリンクヨーグルト)を得た。
Figure 0007249737000005
[液状発酵乳の評価]
プロテアーゼを添加して調製した実施例6の液状発酵乳、及び、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例3の液状発酵乳について、硬度及び流動性を測定し、官能評価を行った。結果を表6に示す。
発酵乳の粘度(mPa・s)は、B型粘度計TVB-10(東機産業)を用いて測定した。2号(M21)ローターを用いて、10℃において60rpmで30秒回転させた後の値を計測した。
発酵乳の粒子径は、試験例1と同様に測定した。
Figure 0007249737000006
プロテアーゼを添加して調製した実施例6の液状発酵乳は、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例3の液状発酵乳と比較して、粘度が低く、粒子径中央値が小さかった。
以上より、プロテアーゼを添加して発酵させることにより、無脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)において、物性の改良の効果が確認できた。
試験例4:高脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳
[液状発酵乳の調製]
表7に示す配合にしたがって、脱脂粉乳、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、クリーム、水を混合して、発酵乳ミックスを調製した。得られた発酵乳ミックス中において、無脂乳固形分含量は17.20重量%、脂肪分含量は5.29重量%、たんぱく質含量は7.9重量%(うち、カゼインたんぱく質は6.3重量%、乳清たんぱく質は1.6重量%)であった。
発酵に用いる乳酸菌バルクスターターは、95℃で10分間熱処理して殺菌した脱脂粉乳10重量%水溶液に、「明治ブルガリアヨーグルトLB81」(株式会社明治)を製造するために使用している乳酸菌の混合菌を0.15重量%添加し、40℃にてpHが4.5になるまで発酵することにより調製した。
調製した発酵乳ミックスを、均質機を用い75℃、圧力15MPa(流量135L/h)にて均質化し、130℃、2秒の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理後、発酵乳ミックスを43℃に冷却し、表7に示す配合にしたがって、乳酸菌バルクスターター、プロテアーゼ(合同酒精株式会社)を添加し、43℃で静置して発酵させた。表7中、プロテアーゼの配合量は、発酵乳の原材料全体の重量に対する重量割合(単位:重量%)(上段)と、発酵乳の原材料全体の重量に対する酵素活性(単位:U/g)(下段)を示す。pHが4.2になるまで発酵させた後、得られた発酵乳カードを、均質機を用い圧力15MPa(流量135L/h)で均質化し、10℃に冷却して、液状の発酵乳(ドリンクヨーグルト)を得た。
Figure 0007249737000007
[液状発酵乳の評価]
プロテアーゼを添加して調製した実施例7の液状発酵乳、及び、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例4の液状発酵乳について、粘度及び粒子径を測定した。結果を表8に示す。
発酵乳の粘度は、B型粘度計TVB-10(東機産業)を用いて測定した。測定試料の粘度域に合わせ4号(M23)ローター又は2号(M21)ローターを用いて、10℃において60rpmで30秒回転させた後の値を計測した。
発酵乳の粒子径は、試験例1と同様に測定した。
Figure 0007249737000008
以上より、プロテアーゼを添加して発酵させることにより、粘度及び粒子径が低減され、高脂肪・高たんぱく・高SNFの液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)において物性の改良の効果が確認できた。
試験例5:固形状発酵乳
[固形状発酵乳の調製]
表9に示す配合にしたがって、牛乳、脱脂粉乳、水を混合して、発酵乳ミックスを調製した。得られた発酵乳ミックス中において、無脂乳固形分含量は9.67重量%、脂肪分含量は3.05重量%、たんぱく質含量は3.5重量%(うち、カゼインたんぱく質は2.8重量%、乳清たんぱく質は0.7重量%)であった。
発酵に用いる乳酸菌スターターは、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013株(受託番号:NITE BP-02411)、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus OLS3290株(受託番号:FERM BP-019638)を使用した。
調製した発酵乳ミックスを、95℃達温の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理後、発酵乳ミックスを43℃に冷却し、表9に示す配合にしたがって、乳酸菌スターター、プロテアーゼ(合同酒精株式会社)を添加し、発酵用の容器に充填し、43℃で静置して発酵させた。表9中、プロテアーゼの配合量は、発酵乳の原材料全体の重量に対する重量割合(単位:重量%)(上段)と、発酵乳の原材料全体の重量に対する酵素活性(単位:U/g)(下段)を示す。pHが4.5になるまで発酵させた後、得られた発酵乳カードを均質機により圧力15MPa(流量135L/h)で均質化し、10℃に冷却して、固形状の発酵乳(セットタイプヨーグルト)を得た。
Figure 0007249737000009
[固形状発酵乳の評価]
プロテアーゼを添加して調製した実施例8~10の固形状発酵乳、及び、プロテアーゼを添加せずに調製した比較例5の固形状発酵乳について、試験例1と同様に粒子径を測定した。結果を表10に示す。
Figure 0007249737000010
以上より、プロテアーゼを添加して発酵させることにより、固形状発酵乳(セットタイプヨーグルト)において粒子径が低減され、物性の改良の効果が確認できた。
本発明によれば、風味の良好な無脂肪及び/又は高たんぱく質の発酵乳を製造できる。

Claims (12)

  1. (1)発酵乳ミックスを調製する工程、
    (2)前記発酵乳ミックスを殺菌処理に供する工程、及び、
    (3)前記殺菌処理後の発酵乳ミックスに乳酸菌スターター及びエンド型の中性プロテアーゼを添加して発酵させる工程
    を含む液状発酵乳の製造方法であって、
    前記液状発酵乳中の粒子径中央値が15μm以下であり、かつ、たんぱく質含量が5重量%以上である前記製造方法。
  2. 前記液状発酵乳中のたんぱく質含量が6.1重量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記液状発酵乳中のたんぱく質含量が10重量%以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記液状発酵乳中のカゼインたんぱく質含量が10重量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記液状発酵乳中の乳清たんぱく質含量が10重量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
  6. 前記液状発酵乳の脂肪含量が5重量%以上10重量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
  7. 前記液状発酵乳の無脂乳固形分含量が12重量%以上20重量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
  8. (1)発酵乳ミックスを調製する工程、
    (2)前記発酵乳ミックスを殺菌処理に供する工程、及び、
    (3)前記殺菌処理後の発酵乳ミックスに乳酸菌スターター及びエンド型の中性プロテアーゼを添加して発酵させる工程
    を含む固形状発酵乳の製造方法であって、
    前記固形状発酵乳中の粒子径中央値が16.9~23.6μmであり、かつ、たんぱく質含量が3.0重量%以上9.0重量%以下である前記製造方法。
  9. 前記発酵乳ミックスが、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、乳清たんぱく質濃縮物(WPC)、及び乳清たんぱく質単離物(WPI)のうち少なくとも一種を含む、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
  10. 前記工程(2)において、前記乳酸菌スターターと前記エンド型の中性プロテアーゼを前記殺菌処理後の発酵乳ミックスに同時に添加して発酵させる、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
  11. 前記液状発酵乳又は前記固形状発酵乳の脂肪含量が0.5重量%未満である、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
  12. 前記プロテアーゼの量が、前記発酵乳ミックスの重量に対して、0.1~20U/gである、請求項1~11のいずれかに記載の製造方法。
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