以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
以下においては、一例として、大気圧よりも減圧された雰囲気においてワークを加熱して、ワークの表面に有機膜を形成する加熱処理装置を説明する。しかしながら、本発明は、これに限定されるわけではない。例えば、本発明は、大気圧よりも減圧された雰囲気においてワークを加熱して、ワークの表面に無機膜などを形成する加熱処理装置に適用することができる。あるいは、本発明は、大気圧よりも減圧された雰囲気においてワークを加熱して、ワークの表面を処理する加熱処理装置に適用することができる。
また、加熱前のワークは、例えば、基板と、基板の上面に設けられた溶液と、を有するものであってもよいし、基板のみであってもよい。以下においては、一例として、加熱前のワークが、基板と、基板の上面に設けられ、有機材料と溶媒とを含む溶液と、を有する場合を説明する。なお、溶液には、溶液が仮焼成されて半硬化状態(流れない状態)のものも含まれる。
図1は、本実施の形態に係る加熱処理装置1を例示するための模式断面図である。
なお、図1中のX方向、Y方向、およびZ方向は、互いに直交する三方向を表している。本明細書における上下方向は、Z方向とすることができる。
加熱前のワーク100は、基板と、基板の上面に設けられた溶液と、を有する。
基板は、例えば、ガラス基板や半導体ウェーハなどとすることができる。ただし、基板は、例示をしたものに限定されるわけではない。
溶液は、例えば、有機材料と溶剤を含んでいる。有機材料は、溶剤により溶解が可能なものであれば特に限定はない。溶液は、例えば、ポリアミド酸を含むワニスなどとすることができる。ただし、溶液は、例示をしたものに限定されるわけではない。
なお、有機材料と溶媒を含む溶液が塗布されたワーク100を加熱した際に気化する物質を「気化した物質」と呼ぶ。また、気化した物質が由来の固体を「チャンバの内壁に付着した固体」あるいは、「気化した物質が固体となったもの」と呼ぶ。
図1に示すように、加熱処理装置1には、例えば、チャンバ10、排気部20、処理部30、冷却部40、防着部50、再気化物質排出部60、およびコントローラ70が設けられている。
チャンバ10は、大気圧よりも減圧された雰囲気を維持可能な気密構造を有している。チャンバ10は、箱状を呈している。チャンバ10の外観形状には特に限定はない。チャンバ10の外観形状は、例えば、直方体とすることができる。チャンバ10は、例えば、ステンレスなどの金属から形成することができる。
Y方向において、チャンバ10の一方の端部は、開口している。チャンバ10の開口は、例えば、ワーク100の搬入および搬出を行うために設けられている。チャンバ10の開口は、図示しない開閉扉により開閉可能となっている。図示しない駆動装置により、開閉扉がチャンバ10に押し付けられる。その結果、開閉扉によってチャンバ10の開口が気密となるように閉鎖される。図示しない駆動装置により、開閉扉がチャンバ10から離隔する。その結果、チャンバ10の開口を介したワーク100の搬入または搬出が可能となる。
また、Y方向において、チャンバ10の他方の端部も開口させることができる。チャンバ10の他方の端部の開口は、図示しない蓋により開閉可能とすることができる。蓋は、例えば、Oリングなどのシール材を介して、チャンバ10の他方の端部にネジ止めすることができる。チャンバ10の他方の端部が開口していれば、例えば、チャンバ10の他方の端部側からメンテナンスなどの作業が可能となる。
チャンバ10の外壁には冷却部11を設けることができる。冷却部11には、図示しない冷却水供給部が接続されている。冷却部11は、例えば、ウォータージャケット(Water Jacket)とすることができる。冷却部11が設けられていれば、チャンバ10の外壁温度が所定の温度よりも高くなるのを抑制することができる。
排気部20は、チャンバ10の内部を排気する。排気部20は、例えば、第1の排気部21、第2の排気部22、および第3の排気部23を有する。
第1の排気部21は、例えば、チャンバ10の天井面に設けられた排気口12に接続されている。第1の排気部21は、チャンバ10に設けられた排気口12を介して、チャンバ10の内部を排気する。
第1の排気部21は、例えば、排気ポンプ21aと、圧力制御部21bとを有する。
排気ポンプ21aは、大気圧から所定の圧力まで粗引き排気を行う排気ポンプとすることができる。そのため、排気ポンプ21aは、後述する排気ポンプ22aよりも排気量が多い。排気ポンプ21aは、例えば、ドライ真空ポンプなどとすることができる。
圧力制御部21bは、排気口12と排気ポンプ21aとの間に設けられている。圧力制御部21bは、チャンバ10の内圧を検出する図示しない真空計などの出力に基づいて、チャンバ10の内圧が所定の圧力となるように制御する。圧力制御部21bは、例えば、APC(Auto Pressure Controller)などとすることができる。
第2の排気部22は、例えば、チャンバ10の天井面に設けられた排気口13に接続されている。第2の排気部22は、チャンバ10に設けられた排気口13を介して、チャンバ10の内部を排気する。
第2の排気部22は、例えば、排気ポンプ22aと、圧力制御部22bとを有する。
排気ポンプ22aは、排気ポンプ21aによる粗引き排気の後、さらに低い所定の圧力まで排気を行う。排気ポンプ22aは、例えば、高真空の分子流領域まで排気可能な排気能力を有する。例えば、排気ポンプ22aは、ターボ分子ポンプ(TMP:Turbo Molecular Pump)などとすることができる。
圧力制御部22bは、排気口13と排気ポンプ22aとの間に設けられている。圧力制御部22bは、チャンバ10の内圧を検出する図示しない真空計などの出力に基づいて、チャンバ10の内圧が所定の圧力となるように制御する。圧力制御部22bは、例えば、APCなどとすることができる。
第3の排気部23は、排気口12と第1の排気部21の圧力制御部21bとの間に接続されている。第3の排気部23は、工場の排気系に接続されている。第3の排気部23は、例えば、ステンレスなどの配管とすることができる。第3の排気部は、排気口12と工場の排気系との間にバルブ25が設けられている。第3の排気部は、ファンなどの送風機をバルブ25と工場の排気系との間に有していてもよい。第3の排気部が送風機を有していれば、チャンバ10内のガスを強制的に排出することが可能となる。
なお、以上においては、排気口12および排気口13がチャンバ10の天井面に設けられる場合を例示したが、これに限定されない。排気口12および排気口13は、例えば、チャンバ10の底面に設けることができる。排気口12および排気口13がチャンバ10の天井面、または底面に設けられていれば、チャンバ10の内部に、チャンバ10の天井面、または底面に向かう気流を形成することができる。この様な気流が形成されれば、有機材料を含む気化した物質を、気流に乗せてチャンバ10の外部に排出し易くなる。そのため、気化した物質に起因する異物が、ワーク100に付着するのを抑制することができる。
処理部30は、例えば、フレーム31、加熱部32(第1の加熱部の一例に相当する)、支持部33、均熱部34、均熱板支持部35、および、カバー36を有する。
処理部30の内部には、処理領域30aおよび処理領域30bが設けられている。処理領域30a、30bは、ワーク100に処理を施す空間となる。ワーク100は、処理領域30a、30bの内部で支持部33によって支持される。処理領域30bは、処理領域30aの上方に設けられている。なお、2つの処理領域が設けられる場合を例示したがこれに限定されるわけではない。1つの処理領域のみが設けられるようにすることもできるし、3つ以上の処理領域が設けられるようにすることもできる。本実施の形態においては、一例として、加熱処理装置1の内部に2つの処理領域が設けられる場合を例示する。しかしながら、加熱処理装置1の内部に、1つの処理領域、および、3つ以上の処理領域が設けられる場合も同様に考えることができる。
処理領域30a、30bは、加熱部32と加熱部32との間に設けられている。処理領域30a、30bは、均熱部34(上部均熱板34a、下部均熱板34b、側部均熱板34c、側部均熱板34d)により囲まれている。
後述するように、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bは、複数の板状の部材が複数の均熱板支持部35によって支持されることで形成される。そのため、処理領域30aとチャンバ10の内部の空間は、上部均熱板34a同士の間、および下部均熱板34b同士の間などに設けられた隙間を介して繋がっている。したがって、チャンバ10の内壁と処理部30との間の空間の圧力が減圧されると、処理領域30aの内部の空間も減圧される。処理領域30bは、処理領域30aと同様の構造であるので、説明は省略する。
チャンバ10の内壁と処理部30との間の空間の圧力が減圧されていれば、処理領域30a、30bから外部に放出される熱を抑制することができる。すなわち、加熱効率や蓄熱効率を向上させることができる。そのため、後述するヒータ32aに印加する電力を低減させることができる。また、ヒータ32aに印加する電力を低減させることができれば、ヒータ32aの温度が所定の温度以上となるのを抑制することができる。その結果、ヒータ32aの寿命を長くすることができる。
また、蓄熱効率が向上するので、処理領域30a、30bの温度を迅速に上昇させることができる。そのため、急激な温度上昇を必要とする処理にも対応が可能となる。また、チャンバ10の外壁の温度が高くなるのを抑制することができる。そのため、冷却部11を簡易なものとすることができる。
フレーム31は、加熱部32、支持部33、均熱部34、均熱板支持部35、および、カバー36をチャンバ10内で固定する役割を有する。また、フレーム31は、チャンバ10の内部空間をチャンバ10と処理部30との二重構造とする役割を有する。フレーム31は、細長い板材や形鋼などからなる骨組み構造を有している。フレーム31の外観形状には特に限定はない。フレーム31の外観形状は、例えば、直方体とすることができる。フレーム31は、断熱材を介してチャンバ10に固定することができる。フレーム31は、熱伝導率の良い材料とすることができる。フレーム31は、例えば、ステンレスなどの金属とすることができる。
加熱部32は、複数設けられている。加熱部32は、処理領域30a、30bの下部、および処理領域30a、30bの上部に設けることができる。処理領域30a、30bの下部に設けられた加熱部32は、下部加熱部となる。処理領域30a、30bの上部に設けられた加熱部32は、上部加熱部となる。下部加熱部は、上部加熱部と対向している。なお、複数の処理領域が上下方向に重ねて設けられる場合には、下側の処理領域に設けられた上部加熱部は、上側の処理領域に設けられた下部加熱部と兼用することができる。
加熱部32は、チャンバ10の内部に設けられ、ワーク100を加熱する。
例えば、処理領域30aに支持されたワーク100の下面(裏面)は、処理領域30aの下部に設けられた加熱部32により加熱される。処理領域30aに支持されたワーク100の上面(表面)は、処理領域30aと処理領域30bとにより兼用される加熱部32により加熱される。
処理領域30bに支持されたワーク100の下面(裏面)は、処理領域30aと処理領域30bとにより兼用される加熱部32により加熱される。処理領域30bに支持されたワーク100の上面(表面)は、処理領域30bの上部に設けられた加熱部32により加熱される。
この様にすれば、加熱部32の数を減らすことができる。その結果、消費電力の低減、製造コストの低減、省スペース化などを図ることができる。
複数の加熱部32のそれぞれは、少なくとも1つのヒータ32aと、一対のホルダ32bを有する。なお、以下においては、複数のヒータ32aが設けられる場合を説明する。 ヒータ32aは、棒状を呈し、一対のホルダ32bの間をY方向に延びている。複数のヒータ32aは、X方向に並べて設けることができる。複数のヒータ32aは、例えば、等間隔に設けることができる。ヒータ32aは、例えば、シーズヒータ、遠赤外線ヒータ、遠赤外線ランプ、セラミックヒータ、カートリッジヒータなどとすることができる。また、各種ヒータを石英カバーで覆うこともできる。
なお、本明細書においては、石英カバーで覆われた各種ヒータをも含めて「棒状のヒータ」と称する。また、「棒状」のヒータの断面形状には限定がない。「棒状」のヒータの断面形状には、例えば、円柱状や角柱状なども含まれる。
また、ヒータ32aは、例示をしたものに限定されるわけではない。ヒータ32aは、大気圧よりも減圧された雰囲気においてワーク100を加熱することができるものであればよい。すなわち、ヒータ32aは、放射による熱エネルギーを利用するものであればよい。
加熱部32における複数のヒータ32aの仕様、数、間隔などは、加熱する溶液の組成(溶液を加熱する温度)、ワーク100の大きさなどに応じて適宜決定することができる。複数のヒータ32aの仕様、数、間隔などは、シミュレーションや実験などを行うことで適宜決定することができる。
また、複数のヒータ32aが設けられた空間は、ホルダ32b、上部均熱板34a、下部均熱板34b、側部均熱板34c、および側部均熱板34dにより囲まれている。上部均熱板34a同士の間、下部均熱板34b同士の間には隙間が設けられている。しかしながら、上記の隙間は、小さい。そのため、複数のヒータ32aが設けられた空間は、ほぼ閉鎖された空間となる。したがって、後述する冷却部40から、複数のヒータ32aが設けられた空間に冷却ガスを供給することで、複数のヒータ32a、上部均熱板34a、下部均熱板34b、側部均熱板34c、および側部均熱板34dを冷却することができる。
ここで、気化した物質が、加熱されたワーク100の温度よりも低い温度の物に接触すると、気化した物質は、接触した物に熱を奪われる。そのため、気化した物質が冷却されて固体となりやすい。しかしながら、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bは、加熱部32によって加熱されている。そのため、気化した物質が、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bに付着するのを抑制することができる。また、前述したように、チャンバ10の内部には、チャンバ10の天井面(または、底面)に向かう気流が形成されている。そのため、気化した物質は、この気流に乗ってチャンバ10の外に排出される。
したがって、気化した物質がワーク100に付着するのを抑制することができる。また、本実施の形態の加熱処理装置1は、ワーク100の両面側から加熱部32によってワーク100を加熱することができる。そのため、処理部30において温度が低い部分が生じることを抑制することができる。したがって、気化した物質がワーク100に付着するのを一層抑制することができる。また、ワーク100がワーク100の両側から加熱部32によって加熱されることで、ワーク100の加熱が容易となる。
一対のホルダ32bは、X方向(例えば、処理領域30a、30bの長手方向)に延びている。一対のホルダ32bは、Y方向において、互いに対向している。一方のホルダ32bは、フレーム31の、開口側の端部に固定されている。他方のホルダ32bは、フレーム31の、開口側とは反対側の端部に固定されている。一対のホルダ32bは、例えば、ネジなどの締結部材を用いてフレーム31に固定することができる。一対のホルダ32bは、ヒータ32aの端部近傍の非発熱部を保持する。一対のホルダ32bは、例えば、細長い金属の板材や形鋼などから形成することができる。一対のホルダ32bの材料には特に限定はないが、耐熱性と耐食性を有する材料とすることが好ましい。一対のホルダ32bの材料は、例えば、ステンレスなどとすることができる。
支持部33は、チャンバ10の内部に設けられ、ワーク100を支持する。例えば、支持部33は、上部加熱部と下部加熱部との間にワーク100を支持する。支持部33は、複数設けることができる。複数の支持部33は、処理領域30aの下部、および、処理領域30bの下部に設けられている。複数の支持部33は、棒状体とすることができる。
複数の支持部33の一方の端部(上方の端部)は、ワーク100の下面(裏面)に接触する。そのため、複数の支持部33の一方の端部の形状は、半球状などとすることが好ましい。複数の支持部33の一方の端部の形状が半球状であれば、ワーク100の下面に損傷が発生するのを抑制することができる。また、ワーク100の下面と複数の支持部33との接触面積を小さくすることができる。そのため、ワーク100から複数の支持部33に伝わる熱を少なくすることができる。
ワーク100は、大気圧よりも減圧された雰囲気において、放射による熱エネルギーにより加熱される。そのため、上部加熱部からワーク100の上面までの距離、及び下部加熱部からワーク100の下面までの距離は、放射による熱エネルギーがワーク100に到達できる距離となっている。
複数の支持部33の他方の端部(下方の端部)は、例えば、一対のフレーム31の間に架け渡された複数の棒状部材または板状部材などに固定することができる。この場合、複数の支持部33は、棒状部材などに着脱可能に設けることが好ましい。この様にすれば、メンテナンスなどの作業が容易となる。
複数の支持部33の数、配置、間隔などは、ワーク100の大きさや剛性(撓み)などに応じて適宜変更することができる。
複数の支持部33の材料には特に限定はないが、耐熱性と耐食性を有する材料とすることが好ましい。複数の支持部33の材料は、例えば、ステンレスなどとすることができる。
均熱部34は、複数の上部均熱板34a、複数の下部均熱板34b、複数の側部均熱板34c、および、複数の側部均熱板34dを有する。複数の上部均熱板34a、複数の下部均熱板34b、複数の側部均熱板34c、および、複数の側部均熱板34dは、板状を呈している。
複数の上部均熱板34aは、上部加熱部において下部加熱部側(ワーク100側)に設けられている。複数の上部均熱板34aは、複数のヒータ32aと離隔して設けられている。すなわち、複数の上部均熱板34aの上側表面と複数のヒータ32aの下表面との間には隙間が設けられている。複数の上部均熱板34aは、X方向に並べて設けられている。複数の上部均熱板34a同士の間には隙間が設けられている。隙間が設けられていれば、熱膨張による寸法差を吸収することができる。そのため、上部均熱板34a同士が干渉して変形が生じるのを抑制することができる。また、前述したように、この隙間を介して、処理領域30a、30bの空間の圧力を減圧することができる。
複数の下部均熱板34bは、下部加熱部において上部加熱部側(ワーク100側)に設けられている。複数の下部均熱板34bは、複数のヒータ32aと離隔して設けられている。すなわち、複数の下部均熱板34bの下側表面と複数のヒータ32aの上側表面との間には隙間が設けられている。複数の下部均熱板34bは、X方向に並べて設けられている。複数の下部均熱板34b同士の間には隙間が設けられている。隙間が設けられていれば、熱膨張による寸法差を吸収することができる。そのため、下部均熱板34b同士が干渉して変形が生じるのを抑制することができる。また、この隙間を介して、処理領域30a、30bの空間の圧力を減圧することができる。
側部均熱板34cは、X方向において、処理領域30a、30bの両側の側部のそれぞれに設けられている。側部均熱板34cは、カバー36の内側に設けることができる。
側部均熱板34dは、Y方向において、処理領域30a、30bの両側の側部のそれぞれに設けられている。
前述したように、複数のヒータ32aは、棒状を呈し、所定の間隔を空けて並べて設けられている。ヒータ32aが棒状である場合、ヒータ32aの中心軸から放射状に熱が放射される。この場合、ヒータ32aの中心軸と加熱される部分との間の距離が短くなるほど加熱される部分の温度が高くなる。そのため、複数のヒータ32aに対して対向するようにワーク100が保持された場合には、ヒータ32aの直上または直下に位置するワーク100の領域は、複数のヒータ32a同士の間の空間の直上または直下に位置するワーク100の領域よりも温度が高くなる。すなわち、棒状を呈する複数のヒータ32aを用いてワーク100を直接加熱すると、加熱されたワーク100の面内において温度分布のばらつきが生じる。
ワーク100の面内において温度分布のばらつきが生じると、形成された有機膜の品質が低下するおそれがある。例えば、温度が高くなった部分に泡が発生したり、温度が高くなった部分において有機膜の組成が変化したりするおそれがある。
本実施の形態に係る加熱処理装置1には、前述した複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bが設けられている。そのため、複数のヒータ32aから放射された熱は、複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bに入射する。複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bに入射した熱は、これらの内部を面方向に伝搬しながらワーク100に向けて放射される。その結果、ワーク100の面内において温度分布のばらつきが生じるのを抑制することができる。結果として、形成された有機膜の品質を向上させることができる。
複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bは、入射した熱を面方向に伝搬させる。そのため、これらの材料は、熱伝導率の高い材料とすることが好ましい。複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bは、例えば、アルミニウム、銅、ステンレスなどとすることができる。なお、アルミニウムや銅などの酸化しやすい材料を用いる場合には、酸化しにくい材料を含む層を表面に設けることが好ましい。
複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bから放射された熱の一部は、処理領域の側方に向かう。そのため、処理領域の側部には、前述した側部均熱板34c、34dが設けられている。側部均熱板34c、34dに入射した熱は、側部均熱板34c、34dの内部を面方向に伝搬する。このとき、側部均熱板34c、34dに入熱した熱の一部がワーク100に向けて放射される。そのため、ワーク100の加熱効率を向上させることができる。
側部均熱板34c、34dの材料は、前述した上部均熱板34aおよび下部均熱板34bの材料と同じとすることができる。
なお、以上においては、複数の上部均熱板34aおよび複数の下部均熱板34bが、X方向に並べて設けられる場合を例示した。しかしながら、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bは、これに限定されない。上部均熱板34aおよび下部均熱板34bの少なくとも一方は、単一の板状部材とすることもできる。
複数の均熱板支持部35は、X方向に並べて設けられている。均熱板支持部35は、X方向において、上部均熱板34a同士の間の直下に設けることができる。複数の均熱板支持部35は、ネジなどの締結部材を用いて一対のホルダ32bに固定することができる。一対の均熱板支持部35は、上部均熱板34aの両端を着脱自在に支持する。なお、複数の下部均熱板34bを支持する複数の均熱板支持部35も同様の構成を有することができる。
一対の均熱板支持部35により、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bが支持されていれば、熱膨張による寸法差を吸収することができる。そのため、上部均熱板34aおよび下部均熱板34bが変形するのを抑制することができる。
カバー36は、複数の板状の部材より形成される。カバー36は、フレーム31の上面、底面、および側面を覆っている。すなわち、カバー36によりフレーム31の内部が覆われている。ただし、チャンバ10の開口を開閉する開閉扉側に設けられるカバー36は、例えば、開閉扉に固定することができる。
カバー36は処理領域30a、30bを囲っている。しかしながら、カバー36の、フレーム31の上面と側面の境目、フレーム31の側面と底面の境目、開閉扉の付近には、隙間が設けられている。具体的には、カバー36の、フレーム31の上面に設けられた板状の部材とフレーム31の側面に設けられた板状の部材との間には、隙間が設けられる。カバー36の、フレーム31の側面に設けられた板状の部材とフレーム31の底面に設けられた板状の部材との間には、隙間が設けられる。カバー36の、フレーム31の上面、フレーム31の側面、およびフレーム31の底面に各々設けられた板状の部材と、カバー36の、開閉扉に設けられた板状の部材との間には、隙間が設けられる。
また、フレーム31の上面および底面に設けられるカバー36の、板状の部材は複数に分割されている。また、分割された板状の部材同士の間には隙間が設けられている。すなわち、処理部30(処理領域30a、処理領域30b)の内部空間は、これらの隙間を介して、チャンバ10の内部空間に連通している。そのため、処理領域30a、30bの圧力が、チャンバ10の内壁とカバー36との間の空間の圧力と同じとなるようにすることができる。カバー36は、例えば、ステンレスなどから形成することができる。
また、少なくとも1つのヒータ32aを、側部均熱板34cとカバー36との間に、側部均熱板34cおよびカバー36と離隔させて設けることもできる。
また、側部均熱板34cの外側に、少なくとも1つのヒータ32aを設ければ、側部均熱板34cを介してワーク100を加熱することができる。そのため、ワーク100の加熱効率をさらに向上させることができる。また、側部均熱板34cの外側にヒータ32aを設ければ、側部均熱板34cおよびカバー36が側部均熱板34cの外側に設けられたヒータ32aによって加熱される。そのため、気化した物質が固体となって、側部均熱板34cおよびカバー36に付着するのを抑制することができる。そのため、チャンバ10の内壁に付着した固体に起因するメンテナンスの軽減を図ることができる。
冷却部40は、加熱部32が設けられた領域に冷却ガスを供給する。この場合、冷却部40は、冷却ガスにより、処理領域30a、30bを囲む均熱部34を冷却する。冷却された均熱部34は、高温状態にあるワーク100を間接的に冷却することができる。また、冷却部40は、ワーク100に冷却ガスを供給して、高温状態にあるワーク100を直接的に冷却することもできる。また、冷却部40は、ワーク100を、間接的および直接的に冷却することもできる。
冷却部40は、ノズル41、ガス源42、およびガス制御部43を有する。
ワーク100を間接的に冷却する場合には、図1に示すように、ノズル41は、複数のヒータ32aが設けられた空間に接続することができる。ノズル41は、例えば、側部均熱板34cやフレーム31などに取り付けることができる。この場合、例えば、図1に示すように、X方向において、処理部30の一方の側にノズル41を設けることができる。あるいは、処理部30の両側にノズル41を設けることもできる。なお、ノズル41の数や配置は適宜変更することができる。例えば、複数のノズル41を並べて設けることもできる。
ワーク100を直接的に冷却する場合には、ノズル41は、処理領域30a、30bに設けることができる。
ガス源42は、ノズル41に冷却ガスを供給する。ガス源42は、例えば、高圧ガスボンベ、工場配管などとすることができる。また、ガス源42は、複数設けることもできる。
冷却ガスは、加熱されたワーク100と反応し難いガスとすることが好ましい。冷却ガスは、例えば、窒素ガス、炭酸ガス(CO2)、希ガスなどとすることができる。希ガスは、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスなどである。冷却ガスが窒素ガスであれば、ランニングコストの低減を図ることができる。炭酸ガスは加熱されると、一酸化炭素と酸素に分解されるので、酸素がワーク100と反応するおそれがある。しかしながら、ワーク100の温度が100℃以下であれば、炭酸ガスの分解が抑制される。そのため、ワーク100の温度が100℃以下であれば、冷却ガスとして炭酸ガスを用いることもできる。ヘリウムガスの熱伝導率は高いので、冷却ガスとしてヘリウムガスを用いれば、冷却時間の短縮を図ることができる。
冷却ガスの温度は、例えば、室温(例えば、25℃)以下とすることができる。
ガス制御部43は、ノズル41とガス源42との間に設けられている。ガス制御部43は、例えば、冷却ガスの供給と停止や、冷却ガスの流速および流量の少なくともいずれかの制御を行うことができる。
また、冷却ガスの供給タイミングは、ワーク100に対する加熱処理が完了した後とすることができる。なお、加熱処理の完了とは、有機膜が形成される温度を所定時間維持した後とすることができる。
例えば、冷却ガスの供給タイミングは、有機膜が形成された直後とすることができる。あるいは、チャンバ10の内圧を大気圧に戻す途中に冷却ガスを供給することもできる。更に、チャンバ10の内圧を大気圧に戻した後に冷却ガスを供給することもできる。この場合、冷却ガスは、チャンバ10の内圧を大気圧に戻すベントガスとして用いてもよい。
有機膜が形成された直後においては、チャンバ10の内圧が大気圧よりも低い。すなわち、チャンバ10の内部にガスが少ない状態となっている。そのため、冷却ガスを処理領域30a、30bの内部に少しずつ供給すると、処理領域30a、30b内の圧力がチャンバ10の内部の圧力よりも高い状態となる。チャンバ10内の圧力が大気圧と同程度となるまで、冷却ガスGを処理領域30a、30bの内部に少しずつ供給する。このようにすることで、チャンバ10内に存在する気化した物質が固体となったもの、および、後述する再び気化した物質などが処理領域30a、30bの内部に飛散するのを抑制することができる。そして、チャンバ10内の圧力が大気圧と同程度となったら、冷却ガスGの供給量を増加させる。このようにすることで、チャンバ10内に存在する気化した物質が固体となったもの、および、再び気化した物質などが処理領域30a、30bの内部に飛散するのを抑制しつつ、ワーク100を急速かつ均一に冷却することができる。
また、冷却ガスの供給タイミングが、有機膜が形成された直後、または、チャンバ10の内圧を大気圧に戻す途中とすれば、冷却時間と、大気圧に戻す時間を重複させることができる。すなわち、実質的な冷却時間の短縮を図ることができる。
また、冷却ガスの供給タイミングが、チャンバ10の内圧を大気圧に戻す途中や、チャンバ10の内圧を大気圧に戻した後であれば、チャンバ10の内部にガスがある。そのため、対流による放熱を利用することができる。
防着部50は、気化した物質を冷却して、気化した物質を固体とし、防着部50自身に気化した物質が固体となったものを付着させる。このようにすることで、チャンバ10の内部に気化した物質が固体となったものが付着することを防止する役割を果たす。また、防着部50は、防着部50に付着した気化した物質が固体となったものをチャンバ10内で再び気化させる機能も有する。例えば、複数の防着板51、複数のスペーサ52、および複数のヒータ53(第2の加熱部の一例に相当する)を有する。
複数の防着板51は、板状を呈する。防着板51は、気化した物質を冷却して固体とし、防着板51自身に気化した物質が固体となったものを付着させる。気化した物質が固体となったものを防着板51に付着させることで、チャンバ10の内部に気化した物質が固体となったものが付着することを防止する役割を有する。そのため、複数の防着板51は、チャンバ10の内壁と、処理部30(カバー36)との間に設けられている。例えば、防着板51は、チャンバ10のX方向における両側の内壁に着脱可能に取り付けることができる。また、防着板51は、チャンバ10のY方向における両側の内壁に着脱可能に取り付けることができる。また、防着板51は、チャンバ10のZ方向における両側の内壁に、着脱可能に取り付けることができる。複数の防着板51の平面形状は、チャンバ10の、防着板51が取り付けられる内壁の形状と同じとすることができる。複数の防着板51の平面形状は、例えば、四角形とすることができる。また、防着板51は、気化した物質が固体となったものに熱を伝えて再び気化させる役割も有する。そのため、複数の防着板51は、例えば、耐熱性、耐食性、および熱伝導率が高い材料から形成することが好ましい。複数の防着板51は、例えば、ステンレスなどから形成することができる。
なお、気化した物質が固体となったものが防着部50によって再び気化した物質を「再び気化した物質」と呼ぶ。
複数のスペーサ52は、防着板51とチャンバ10との間の熱の受け渡しを抑制する役割を有する。そのため、複数のスペーサ52は、複数の防着板51と、チャンバ10の内壁との間に設けられている。複数のスペーサ52は、例えば、柱状や板状を呈する。防着板51およびチャンバ10は、スペーサ52の高さ(厚み)だけ離隔する。そのため、防着板51と、チャンバ10の内壁との間に空間が形成される。ワーク100を加熱する場合、チャンバ10内は減圧される。そのため、防着板51と、チャンバ10の内壁との間に形成された空間は、減圧空間となる。したがって、真空断熱効果によって防着板51とチャンバ10との間の熱の受け渡しが抑制される。後述する通り、冷却工程において、防着板51は、気化した物質が固体となったものを再び気化させる。この際に、防着板51は、ヒータ53によって加熱される。そのため、真空断熱効果によって防着板51とチャンバ10との間の熱の受け渡しが抑制されることが好ましい。複数のスペーサ52は、軸方向に貫通する孔を有する。複数のスペーサ52は、例えば、円筒状や円環状を呈したものとすることができる。例えば、防着部50は、スペーサ52を介して、チャンバ10の内壁にネジ止めすることができる。
複数のスペーサ52は、例えば、耐熱性および耐食性が高く、熱伝導率の低い材料から形成することが好ましい。複数のスペーサ52は、例えば、セラミックスなどの無機材料から形成することができる。なお、スペーサ52を介して防着部50をチャンバ10の内壁にネジ止めするためのネジも耐熱性および耐食性が高く、熱伝導率の低い材料から形成することが好ましい。
ヒータ53は、防着板51を加熱する。ヒータ53は、例えば、前述したヒータ32aと同様とすることができる。ヒータ53は、1つの防着板51に対して、少なくとも1つ設けることができる。ヒータ53は、例えば、防着板51とチャンバ10の内壁との間に設けることができる。ヒータ53は、例えば、防着板51およびチャンバ10の内壁の少なくともいずれかに設けられた図示しないブラケットに取り付けることができる。ヒータ53は、防着板51と接触させてもよいし、防着板51と離隔させて設けてもよい。また、本実施の形態の加熱処理装置1の場合、ヒータ53は、チャンバ10の内壁と離隔させて設けることができる。この様にすれば、ヒータ53により防着板51を加熱した際に、チャンバ10の壁面の温度が高くなるのを抑制することができる。また、防着板51には不図示の温度計を設けることができる。
前述したように、気化した物質が、加熱されたワーク100の温度よりも低い温度の物に接触すると、気化した物質が冷却されて固体となり、当該物に付着する。チャンバ10の内壁の温度と、防着板51の温度は、加熱されたワーク100の温度よりも低い。そのため、気化した物質が、チャンバ10の内壁および防着板51に付着しやすい。しかしながら、防着板51は、気化した物質が発生する処理部30と、チャンバ10の内壁との間に設けられている。そのため、仮に、気化した物質が固体となったとしても、大部分が防着板51に付着し、チャンバ10の内壁に付着する固体の量を少なくすることができる。
再気化物質排出部60は、再び気化した物質をチャンバ10の外部に排出することを促進させる役割を有する。また、再気化物質排出部60は、再び気化した物質が処理部30の内部に流入することを抑制する役割も有する。再気化物質排出部60は、処理部30と防着板51との間の空間にガスGを供給して、排気口12、13に向かう気流を形成する。 再気化物質排出部60は、例えば、複数のノズル61、ガス源62、およびガス制御部63を有する。
複数のノズル61は、防着板51と、処理部30(ワーク100が支持された領域)と、の間に、ガスGを供給する。複数のノズル61は、チャンバ10の、排気口12、13が設けられた壁面と対向する壁面の側に設けることができる、例えば、図1に示すように、排気口12、13がチャンバ10の天井に設けられている場合には、複数のノズル61は、チャンバ10の底側に設けることができる。例えば、排気口12、13がチャンバ10の底部に設けられている場合には、複数のノズル61は、チャンバ10の天井側に設けることができる。
Z方向から見て、複数のノズル61は、処理部30の周縁に沿って並べて設けることができる。複数のノズル61の数や間隔は、処理部30の大きさなどに応じて適宜変更することができる。複数のノズル61の数や間隔は、例えば、予め実験やシミュレーションを行うことで求めることができる。
ガス源62は、ノズル61にガスGを供給する。ガス源62は、例えば、高圧ガスボンベ、工場配管などとすることができる。また、ガス源62は、複数設けることもできる。
ガスGは、加熱されたワーク100と反応し難いガスとすることが好ましい。ガスGは、例えば、窒素ガス、炭酸ガス(CO2)、希ガスなどとすることができる。希ガスは、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスなどである。前述したように、ワーク100の温度が100℃以下であれば、炭酸ガスの分解が抑制される。そのため、ワーク100の温度が100℃以下であれば、ガスGとして炭酸ガスを用いることもできる。
この場合、ガスGは、前述した冷却ガスと同じとすることもできるし、異なるものとすることもできる。ガスGを、冷却ガスと同じとする場合には、ガス源62およびガス源42のいずれかを設けるようにすることもできる。
ガスGの温度は、例えば、室温(例えば、25℃)以上とすることができる。なお、ガスGの温度が再び気化した物質の温度に対して低くなり過ぎると、後述する冷却工程において、再び気化した物質が冷却されて固体となるおそれがある。そのため、ガスGの温度を制御するヒータなどをさらに設けるようにしてもよい。
ガス制御部63は、複数のノズル61とガス源62との間に設けられている。ガス制御部63は、例えば、ガスGの供給と停止や、ガスGの流速および流量の少なくともいずれかの制御を行うことができる。
コントローラ70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算部と、メモリなどの記憶部とを備えている。コントローラ70は、例えば、コンピュータなどとすることができる。コントローラ70は、記憶部に格納されている制御プログラムに基づいて、加熱処理装置1に設けられた各要素の動作を制御する。
例えば、コントローラ70は、処理領域30a、30bに設けられた不図示の温度計の検出値に基づいて、ヒータ32aに供給する電力量を制御する。また、コントローラ70は、防着板51に設けられた不図示の温度計の検出値に基づいて、ヒータ53に供給する電力量を制御する。
例えば、コントローラ70は、チャンバ10内および処理領域30a、30bに設けられた不図示の真空計の出力に基づいて、チャンバ10内に供給する冷却ガスの供給量、チャンバ10内に供給するガスGの供給量、を制御する。
次に、加熱処理装置1の動作について例示をする。
図2は、ワーク100の処理工程を例示するためのグラフである。
図2に示すように、有機膜の形成工程は、昇温工程と、加熱処理工程と、冷却工程とを
含む。
まず、不図示の開閉扉がチャンバ10の一方の端部から離隔し、ワーク100がチャンバ10の内部空間に搬入される。チャンバ10の内部空間にワーク100が搬入されると、排気部20によりチャンバ10の内部空間が所定の圧力まで減圧される。
チャンバ10の内部空間が所定の圧力まで減圧されると、ヒータ32aに電力が印加される。すると、図2に示すように、ワーク100の温度が上昇する。ワーク100の温度が上昇する工程を昇温工程と呼ぶ。本実施形態では、昇温工程が二回(昇温工程(1)、(2))実施される。なお、所定の圧力は、溶液中のポリアミド酸がチャンバ10の内部空間に残留する酸素と反応しない圧力であればよい。すなわち、所定の圧力は、溶液中のポリアミド酸が酸化されない圧力であればよい。所定の圧力は、例えば、1×10-2Pa~100Paとすればよい。つまり、第2の排気部22で排気することは、必ずしも必要ではない。第1の排気部21で排気が開始され、チャンバ10の内部空間の圧力が10Pa~100Paの範囲内の圧力となったら、加熱部32が、ワーク100の加熱を開始するようにしてもよい。
コントローラ70の記憶部は、昇温工程後の加熱処理工程における所定の温度および昇温工程の時間を予め記憶している。また、演算部は、昇温工程の時間内に所定の温度となるように制御する。具体的には、コントローラ70は、昇温工程(1)および昇温工程(2)において、不図示の温度計の検出値に基づいて、ヒータ32aに供給する電力量を制御する。
昇温工程の後、加熱処理工程が行われる。加熱処理工程は、所定の温度を所定時間維持する工程である。本実施形態では、加熱処理工程(1)および加熱処理工程(2)を設けることができる。
加熱処理工程(1)は、例えば、第1の温度でワーク100を所定時間加熱し、溶液に含まれている水分やガスなどを排出させる工程とすることができる。第1の温度は、例えば、100℃~200℃とすればよい。所定の時間は、例えば、15min~60minとすればよい。本実施形態では、加熱処理工程(1)は、200℃を15min維持した。
コントローラ70は、不図示の温度計により、ワーク100の温度をモニターし、ワーク100が上記温度となるようにヒータ32aへの電力の供給量を制御している。加熱処理工程(1)を実施することで、溶液に含まれている水分やガスが完成品である有機膜に含まれることを防ぐことができる。
加熱処理工程(1)においてワーク100から気化するガスの中には、冷却されて固体となり、チャンバ10の内部に付着する物質が含まれている。気化した物質は、ワーク100から気化した後、排気口12あるいは、排気口13に向かってチャンバ10内を漂う。気化した物質は、チャンバ10内を漂う間に防着板51に衝突する。
防着板51は、昇温工程(1)の開始から加熱処理工程(2)が完了するまでの時間T1の間、ヒータ53によって加熱されない。なお、昇温工程(1)の開始から加熱処理工程(2)が完了するまでの間、ヒータ32aによる加熱は行われている。しかしながら、チャンバ10の内部は、減圧空間である。そのため、対流による熱伝達がほとんどない。また、輻射による熱伝達も均熱板34a~34cとカバー36によって遮られる。そのため、ヒータ32aの熱が防着板51に伝わることは、ほとんどない。
したがって、防着板51の温度は、昇温工程(1)の開始から加熱処理工程(2)が完了するまでの時間T1の間、後述の第3の温度と同じ温度となる。防着板51の温度は、例えば、50℃~120℃となる。防着板51の温度は、気化した物質の温度よりも低い。そのため、気化した物質が防着板51に衝突すると、気化した物質が冷却される。結果的に、気化した物質は、防着板51に固体となって付着する。
なお、溶液の成分などによっては、複数の第1の温度を設定し、加熱処理工程(1)を複数回実施することもできる。あるいは、加熱処理工程(1)を省くこともできる。加熱処理工程(1)を省いた場合、昇温工程(1)から加熱処理工程(2)へと進む。このとき、昇温工程(1)の間に気化した物質が発生する。しかしながら、防着板51は、加熱されていない。そのため、気化した物質は、防着板51に固体となって付着する。
加熱処理工程(2)は、溶液が塗布された基板(ワーク100)を、所定の圧力および温度で所定時間維持し、有機膜を形成する工程である。第2の温度は、イミド化が起きる温度とすればよい。第2の温度は、例えば、300℃以上とすればよい。所定の時間は、例えば、15min~60minとすればよい。本実施形態では、分子鎖の充填度の高い有機膜を得るため、加熱処理工程(2)は、500℃を15min維持した。
コントローラ70は、不図示の温度計により、ワーク100の温度をモニターし、ワーク100が上記温度となるようにヒータ32aへの電力の供給量を制御している。
冷却工程は、有機膜が形成されたワーク100の温度を低下させる工程である。本実施形態では加熱処理工程(2)の後に行われる。ワーク100は、搬出可能な温度まで冷却される。例えば、搬出されるワーク100の温度が常温であれば、ワーク100の搬出が容易である。ところが、加熱処理装置1においては、ワーク100は、連続的に加熱処理される。そのため、ワーク100を搬出するたびにワーク100の温度を常温にすると、次のワーク100を昇温させる時間が長くなる。すなわち、生産性が低下するおそれがある。搬出するワーク100の温度は、例えば、50℃~120℃とすればよい。この搬出
温度を第3の温度とする。
コントローラ70は、第2の排気部22の圧力制御部22bを閉じる。そして、冷却部40を制御して、加熱部32が設けられた領域内に冷却ガスを供給する。このようにする、間接的および直接的にワーク100の温度を低下させる。コントローラ70は、冷却部40を制御すると同時に、防着部50のヒータ53および再気化物質排出部60を制御する。
コントローラ70は、ヒータ53に電力を供給することで防着板51を加熱する。コントローラ70は、防着板51に設けられた不図示の温度計の検出値に基づいて、防着板51に付着した、気化した物質が固体となったものが再び気化する温度となるまで防着板51を加熱する。そして、時間T2の間、その温度を維持する。本実施形態では、防着板51の温度が200℃となるまで防着板51を加熱した。防着板51の加熱時間(時間T2)は、15min~30minである。本実施形態では、防着板51の加熱時間(時間T2)は、20minとした。このようにすることで、防着板51に付着した気化した物質が固体となったものが防着板51から気体となって脱離する。
なお、気化した物質が固体となったものが気体となる温度は、気化した物質が固体となったものの種類(例えば、溶液に含まれている有機材料の種類)などに応じて変化する。そのため、防着板51を加熱する際の温度は、例えば、予め実験やシミュレーションを行うことで求めることが好ましい。
また、コントローラ70は、冷却部40を制御すると同時に再気化物質排出部60を制御して、チャンバ10内にガスGを供給する。コントローラ70は、チャンバ10内の不図示の真空計と処理部30内の不図示の真空計との検出値を比較する。コントローラ70は、比較した結果からし、処理部30内の圧力がチャンバ10内における他の領域の圧力よりも高い値を維持するよう、ガスGの供給量を制御する。ガスGは、処理部30と防着板51との間の空間に、排気口12、13に向かう気流を形成する。ガスGは、ガスGの温度を制御するヒータなどにより、100℃程度まで加熱されることが好ましい。加熱されたガスGをチャンバ10内に供給することで、防着板51の加熱を妨げることを抑制することができる。
防着板51から再び気化した物質は、ガスGによって生成された気流と共に排気口12から排出される。
防着板51の加熱が完了したら、コントローラ70は、ヒータ53への電力の供給およびチャンバ10内へのガスGの供給を停止する。そして、コントローラ70は、第1の圧力制御部21bを閉じ、冷却ガスの供給量を増加させる。
コントローラ70は、処理領域30a、30bに設けられた不図示の温度計の検出値が第3の温度となるまで冷却ガスの供給を維持する。コントローラ70は、チャンバ10内の圧力を検出する図示しない真空計の検出値が大気圧と同じ圧力となったら、第3の排気部23のバルブ25を開け、冷却ガスを常時排気する。
処理領域30a、30bに設けられた不図示の温度計の検出値が第3の温度となったら、不図示の開閉扉がチャンバ10の一方の端部から離隔する。そして、チャンバ10の一方の端部から加熱処理されたワーク100が搬出される。上記ワーク100を搬出した後、次のワーク100がチャンバ10内に搬入される。そして、上記の有機膜の形成工程が繰り返される。
なお、ワーク100の搬出・搬入の際、チャンバ10内の温度は、第3の温度に維持されている。第3の温度は、チャンバ10の内壁に気化した物質が固体となったものが付着しない温度よりも低い。そのため、チャンバ10内の温度をチャンバ10の内壁に気化した物質が固体となったものが付着しない温度とする場合と比べると、ワーク100の生産に必要となる電力量を低減することができる。
ここで、ワーク100を加熱した際に、ワーク100から有機材料と溶媒を含む溶液が気化する。気化した物質は、加熱されたワーク100よりも温度の低いチャンバ10の内壁に固体となって付着する場合がある。チャンバ10の内壁に付着した固体が、チャンバの内壁から剥がれると、パーティクルとなってワークの表面に付着するおそれがある。
そのため、定期的に、あるいは必要に応じて、チャンバの内壁に付着した固体を除去するメンテナンスが必要となる。メンテナンスの間は、ワークの加熱処理が行えない。そのため、メンテナンスの時間が長くなったり、メンテナンスの回数が多くなったりすれば生産性が大きく低下することになる。
本実施形態の加熱処理装置1は、チャンバの内壁に、着脱可能に設けられた防着板と、防着板51を加熱可能なヒータ53とを備え、昇温工程(1)~加熱処理工程(2)までの間、防着板51は加熱されず、冷却工程において、防着板51は加熱される。
このようにすることで、昇温工程(1)~加熱処理工程(2)までの間に発生した、気化した物質が固体となったものが防着板51に付着する。結果的に、チャンバ10の内壁に気化した物質が固体となったものが付着することを防ぐことができる。
また、冷却工程において、防着板51を加熱することで、防着板51に付着した、気化した物質が固体となったものを防着板51から再び気化させることができる。そのため、チャンバ10の内壁に付着した固体に起因するメンテナンス回数の軽減を図ることができる。
また、前述したように、防着板51は、チャンバ10の内壁に着脱可能に取り付けられている。そのため、仮に、気化した物質が固体となって防着板51の表面に残留したとしても、気化した物質が固体となったものが付着した防着板51をチャンバ10の内壁から容易に取り外すことができる。そして、新しい防着板51、または、気化した物質が固体となったものを除去済みの防着板51を、チャンバ10の内壁に取り付ける。このようにすることで、ワーク100の加熱処理を再開させることができる。
すなわち、防着板51が、チャンバ10の内壁に着脱可能に設けられていれば、チャンバ10の内壁に付着した固体に起因するメンテナンスの時間および回数を軽減することができる。
また、図2に示すように、昇温工程(1)~加熱処理工程(2)までの間の処理時間T1と防着板51を加熱する時間T2を比較すると、防着板51を加熱する時間T2の方が短い。したがって、チャンバを加熱して、気化した物質がチャンバの内壁に固体となって付着するのを抑制する加熱処理装置に比べて、本実施の形態の加熱処理装置1の方がワークの生産に必要となる電力量を減少させることができる。
また、本実施形態の加熱処理装置1は、冷却工程において、防着板51を加熱する間、加熱部32が設けられた領域内に冷却ガスを供給することと、第1の排気部21によってチャンバ10内を減圧することを実行している。このようにすることで、ワーク100の周囲に冷却ガスが僅かに供給される。そのため、処理領域30a、30b内の圧力がチャンバ10内の他の領域と比較して高い圧力となる。したがって、防着板51から再び気化した物質が処理部30内に流入することを防ぐことができる。
また、本実施形態の加熱処理装置1は、再気化物質排出部60を備える。再気化物質排出部60が設けられていれば、処理部30と防着板51との間の空間に、排気口12、13に向かう気流を形成することができる。そのため、処理部30と防着板51との間の空間にある再び気化した物質を、再気化物質排出部60によって形成された気流により、排気口12、13に導くことができる。すなわち、ヒータ53により、防着板51から再び気化した物質がノズル61から排気口12、13に向かうガスGの気流により、チャンバ10の外部へ排出されるのが促進される。そのため、防着板51から再び気化した物質が処理部30内に流入することを抑制することができる。すなわち、再気化物質排出部60によって形成された気流により防着板51と、処理部30(ワーク100が支持された領域)と、の間に、エアカーテンが形成される。
以上、実施の形態について例示をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
例えば、加熱処理装置1の形状、寸法、配置などは、例示をしたものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
例えば、昇温工程(1)~加熱処理工程(2)までの間、チャンバ10のZ方向における内壁(天井面および底面)に設けられた防着板51の温度をワーク100から気化する物質が気化する温度以上にしてもよい。この様にすれば、チャンバ10のZ方向における内壁に設けられた防着板51が気化した物質から熱を奪わない。そのため、チャンバ10のZ方向における内壁に設けられた防着板51と、処理部30との間にある気化した物質が固体となり難くなる。したがって、気化した物質を気体の状態のままチャンバ10の側面側に流出させることができる。つまり、チャンバ10の側面に設けられた防着板51に気化した物質が固体となったものがより付着する。
前述したように、冷却工程において、再気化物質排出部60によってチャンバ10の側面側には気流が形成される。このため、チャンバ10の側面に設けられた防着板51から再び気化した物質を気流に乗せてチャンバ10の外部に排出することができる。
そのため、再び気化した物質が処理部30内に流入することをより防ぎつつ、チャンバ10の外部への再び気化した物質の排出が促進される。また、チャンバ10のZ方向における内壁に設けられた防着板51に付着する、気化した物質が固体となったものの量を大幅に少なくすることができる。そのため、前述した防着板51の交換回数を大幅に少なくすることができる。したがって、チャンバ10の内壁に付着した固体に起因するメンテナンスの軽減をさらに図ることができる。
例えば、防着板51を冷却するための冷却部を防着板51に設けても良い。このようにすることで、たとえ加熱処理工程(2)で防着板51が処理部30からの放射による熱エネルギーによって有機材料と溶媒を含む溶液がワーク100から気化する温度以上の温度まで加熱されたとしても、防着板51の温度を有機材料と溶媒を含む溶液が気化する温度以下となるまで防着板51を冷却することができる。したがって、加熱処理工程(2)において防着板51に気化した物質が固体となったものがより付着しやすくすることができる。
例えば、ノズル61に対して複数のガス源62およびガス制御部63を設けても良い。このようにすることで、ガスGの種類や温度を適宜変更することができる。
例えば、本実施形態では、コントローラ70は、防着板51の加熱が完了したら、チャンバ10内へのガスGの供給を停止した。しかし、前述のように、複数のガス源62およびガス制御部63を設けることで、常温のガスGをチャンバ10内へ供給することができる。このようにすることで、冷却ガスと協働してチャンバ10内を冷却することが可能となる。したがって、冷却工程の時間を短縮することができる。