以下、本開示を実施するための形態について説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
本開示において、検出対象となる試料中の試料核酸、本開示のプローブ及びプライマーを含む本明細書に記載される全ての核酸配列又はヌクレオチド配列への言及は、特に断らない限り、それらの相補配列、及び当該核酸配列又はヌクレオチド配列とその相補配列とから形成される二本鎖についても言及できるものとする。
本開示において、「核酸」とは、全ての種類のDNA及びRNAを意味する。本開示において、「核酸」と「ヌクレオチド」とは、互換的に使用する場合がある。
本開示において「Tm」又は「Tm値」とは、二本鎖DNAの50%が解離して一本鎖DNAになる温度をいい、一般に、260nmにおける吸光度が吸光度全上昇分の50%に達した時点の温度と定義される。二本鎖核酸、例えば二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度が加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって解離が完了したと判断できる。Tm値は、この現象に基づき設定される。
本開示において、Tm値は、以下に詳細を説明する蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いて測定することができる。
本明細書においてTm値を算出する場合、得られたTm値は、特に断らない限り、ソフトウェア「Meltcalc 99 free」(http://www.meltcalc.com/)を用い、設定条件:Oligoconc[μM]0.2、Na eq.[mM]50の条件で算出した値とする。このソフトウェアは、当業界で公知のものであり、Clinical Chemistry Vol.54, No.6, pp.990-999 (2008)等でもプローブの設計に使用されている。
本開示において、「5’末端から数えてN番目(ただし、Nは自然数)」という場合、ヌクレオチド配列の5’末端にある塩基を1番目として数える。
また、本開示において、たとえば「ヒトBRAF遺伝子のコード領域のN番目の塩基(ただし、Nは自然数)」とは、ヒトBRAFのタンパク質をコードする1番目の塩基から数えてN番目の塩基を意味する。これは、コード領域(すなわち、エキソン)がイントロンによって分断されていても同様に適用される。すなわち、イントロンが存在していたとしても、ヒトBRAFタンパク質をコードする塩基配列のみを数え上げてN番目に位置すれば足りることを意味する。それゆえ、たとえば「ヒトBRAF遺伝子のコード領域のN番目の塩基」は、cDNA配列又はmRNA配列のみならず、スプライシング前の塩基配列や、ゲノム配列おいても同様に適用され、ヒトBRAFタンパク質をコードする配列のみを数え上げてN番目に位置することを意味する。
なお、本明細書において、塩基配列の文脈で使用される「コード領域」とは、タンパク質に翻訳される塩基配列の領域をいう。
本開示において、「オリゴヌクレオチド」の構成単位としては、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、人工核酸等が挙げられる。前記人工核酸としては、DNA、RNA、RNAアナログであるLNA(Locked Nucleic Acid);ペプチド核酸であるPNA(Peptide Nucleic Acid);架橋化核酸であるBNA(Bridged Nucleic Acid)等が挙げられる。
前記オリゴヌクレオチドは、前記構成単位のうち、一種類の構成単位から構成されてもよいし、複数種類の構成単位から構成されてもよい。
本開示においてハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法等に従って行うことができる。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
本明細書において、「変異」とは、野生型の塩基配列の一部の塩基が置換、欠失、重複又は挿入されることによって生じる新たな塩基配列を意味する。
本開示において、「ヒトBRAF」とは、ヒト由来のBRAFを意味し、ヒト由来のBRAFのゲノム配列、mRNA配列、cDNA配列、及びタンパク質の全てを包含する概念である。より具体的には、ヒトBRAFのゲノム配列は、アクセッションナンバー:NG_007873.3(REGION: 5001..195753)で表され、ヒトBRAF遺伝子のmRNA配列は、アクセッションナンバー:NM_004333.6で表され、ヒトBRAFのcDNA配列は、アクセッションナンバー:CCDS5863.1で表され、ヒトBRAFのタンパク質のアミノ酸配列は、アクセッションナンバー:004324.2で表される。
本開示において、「ヒトBRAFのV600E変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸(E)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1799番目の塩基であるチミン(T)がアデニン(A)に置換された変異(T1799A変異)に起因するものである。
本開示において、「ヒトBRAFのK601E変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の601番目のアミノ酸であるリジン(K)がグルタミン酸(E)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1801番目の塩基であるアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異(A1801G変異に起因するものである。
本開示において、「ヒトBRAFのV600E2変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸(E)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1799番目の塩基であるチミン(T)及び1800番目の塩基であるグアニン(G)がいずれもアデニン(A)に置換された変異(TG1799_1800AA変異)に起因するものである。
本開示において、「ヒトBRAFのV600K変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の600番目のアミノ酸であるバリン(V)がリジン(K)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1798番目の塩基であるグアニン(G)及び1799番目の塩基であるチミン(T)がいずれもアデニン(A)に置換された変異(GT1798_1799AA変異)に起因するものである。
本開示において、「ヒトBRAFのV600R変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の600番目のアミノ酸であるバリン(V)がアルギニン(R)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1798番目の塩基であるグアニン(G)及び1799番目の塩基であるチミン(T)がそれぞれアデニン(A)及びグアニン(G)に置換された変異(GT1798_1799AG変異)に起因するものである。
本開示において、「ヒトBRAFのV600D変異」とは、野生型のヒトBRAFのアミノ酸配列の600番目のアミノ酸であるバリン(V)がアスパラギン酸(D)に置換された変異をいう。この変異は、野生型のヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1799番目の塩基であるチミン(T)及び1800番目の塩基であるグアニン(G)がそれぞれアデニン(A)及びチミン(T)に置換された変異(TG1799_1800AT変異)に起因するものである。
なお、本開示において、「V600変異」とは、上記したV600E変異、V600E2変異、V600K変異、V600R変異及びV600D変異の総称である。
本開示において、「cDNA」とは、mRNAの相補DNA鎖(一本鎖)、mRNAの相補DNA鎖の相補DNA鎖(一本鎖)、及びmRNAの相補DNA鎖とmRNAの相補DNA鎖の相補DNA鎖とにより形成される二本鎖、のいずれを指称することもできる。cDNAは、公知の方法で、mRNAから逆転写することにより得ることができる。
典型的には、「コード領域」を含む文脈において使用される「cDNA」は、mRNAの相補DNA鎖の相補DNA鎖(一本鎖)を意味する。
<ヒトBRAFのV600変異検出用プローブ>
本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブは、配列番号1に示す塩基配列において、5’末端から数えて19番目に位置するアデニンが、シトシンともチミンとも相補的でない塩基に置換されているとともに、3’末端のシトシンが蛍光色素で標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチドである。このヒトBRAFのV600変異検出用プローブは、好ましくは配列番号2又は配列番号3に示す塩基配列を有する。
本開示において、配列番号1に示す塩基配列は「tttggtctagctacagTgAaatc」である。
配列番号1に示す塩基配列は、野生形ヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1783番目~1805番目の23塩基である。この塩基配列の5’末端から数えて17番目に大文字で示すチミン(T)は野生形ヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1799番目の塩基である。また、この塩基配列の5’末端から数えて19番目に大文字で示すアデニン(A)は野生形ヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1801番目の塩基である。本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブにおいては、このアデニン(A)がシトシンともチミンとも相補的でない塩基、たとえばシトシン(C)若しくはチミン(T)、若しくはシトシン(C)及びチミン(T)の混合塩基、又はその他シトシン及びチミンと水素結合を形成し得ない塩基(たとえば、シトシン若しくはチミンの修飾塩基又はイノシン)に置換されている。このような、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブの塩基配列を以下、「置換配列」と総称する。
本開示において、配列番号2に示す塩基配列は「tttggtctagctacagTgCaatc」である。
本開示において、配列番号3に示す塩基配列は「tttggtctagctacagTgTaatc」である。
配列番号2及び配列番号3に示す塩基配列はいずれも、上記した置換配列の例であり、ヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1783番目~1805番目の23塩基(すなわち、配列番号1の塩基配列)を基にしているが、1801番目が本来アデニン(A)であるところ、配列番号2では大文字で示すシトシン(C)に置換され、また、配列番号3では3’末端側の大文字で示すチミン(T)に置換されている。なお、配列番号2及び配列番号3において、各々の塩基配列の5’末端から数えて17番目に大文字で示すチミン(T)は、配列番号1と同様、いずれも野生型ヒトBRAFのcDNA配列のコード領域における1799番目の塩基である。
ここで、野生型ヒトBRAFでは、上記したように、cDNA配列のコード領域の1799番目の塩基はチミン(T)であり、1801番目の塩基はアデニン(A)である。よって、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブはいずれも、野生型のヒトBRAFとは1801番目の1塩基のみがミスマッチである。
また、ヒトBRAFのV600E変異では、上記したように、cDNA配列のコード領域の1799番目の塩基はアデニン(A)に置換されているが、1801番目の塩基はアデニン(A)のままである。よって、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブはいずれも、V600E変異のヒトBRAFとは1799番目及び1801番目の2塩基がミスマッチである。
そして、ヒトBRAFのK601E変異では、上記したように、cDNA配列のコード領域の1799番目の塩基はチミン(T)のままであるが、1801番目の塩基はグアニン(G)に置換されている。よって、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブは、野生型のヒトBRAFとは1801番目の1塩基のみがミスマッチである。
つまり、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブはいずれも、野生型ヒトBRAF及びK601E変異BRAFとは1塩基ミスマッチであるが、V600E変異BRAFとは2塩基ミスマッチとなる。
すなわち、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブは、V600E変異BRAFよりも、野生型ヒトBRAF及びK601E変異BRAFに対してよりパーフェクトマッチに近い。これにより、上記した置換配列、たとえば、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブは、野生型ヒトBRAF及びK601E変異BRAFとの間ではより結合力が強くTm値がより高くなるのに対し、V600E変異BRAFとの間ではより結合力が弱くTm値がより低くなる。本開示は、このTm値の差異に基づき、操作が簡便で、高価な装置を必要とせず、かつ高感度でBRAF遺伝子のV600E変異を、野生型及びK601E変異と峻別することを可能としている。
なお、上記した置換配列の例として、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を有するプローブを任意の比率で混合したものも本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブとして使用可能である。
ここで、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブの合成は、例えば、Applied Biosystems社製DNA合成機model 380Bを使用し、ホスホアミダイト法を用いて(Tetrahedron Letters(1981),22,1859参照)、常法に従って合成することができ、あるいは、プライマー合成を受託する企業(例えば、株式会社日本遺伝子研究所など)に合成を依頼することもできる。
オリゴヌクレオチドの3’末端を蛍光色素で標識する方法は、例えば、過剰量の蛍光標識したヌクレオチドを基質としてPCRのポリメラ-ゼ反応溶液に含有させる方法などが挙げられる。あるいは、蛍光標識オリゴヌクレオチドは、蛍光標識オリゴヌクレオチド合成を受託する企業(例えば、J-Bio21センター(日鉄住金環境株式会社)など)に合成を依頼することもできる。
本開示の蛍光色素は、特に制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン及びその誘導体、並びにポリメチン色素誘導体からなる群から選択される蛍光色素が挙げられる。市販の蛍光色素としては、例えば、Pacific Blue(登録商標、モレキュラープローブ社製)、TAMRA(登録商標、モレキュラープローブ社製)、BODIPY FL(登録商標、モレキュラープローブ社製)、FluorePrime(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Cy3及びCy5(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商品名、ミリポア社製)、FAM(登録商標、ABI社製)等が挙げられる。
上記したローダミンの誘導体は、5-カルボキシテトラメチルローダミンであることが望ましい。この5-カルボキシテトラメチルローダミンとは、上記したTAMRAの一般名称である。上記したTAMRAのような蛍光標識オリゴヌクレオチドは、相補配列にハイブリダイズしていない場合には蛍光を発し、相補配列にハイブリダイズしてハイブリッドを形成した場合には蛍光が減少(例えば、消光)する。
このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般に蛍光消光プローブと称される。蛍光消光プローブは、オリゴヌクレオチドの3’末端又は5’末端の塩基が蛍光色素で標識化され、標識化される塩基は、シトシン(C)である。この場合、蛍光消光プローブがハイブリダイズする検出目的配列において、蛍光消光プローブの末端塩基Cと対をなす塩基又は当該対をなす塩基から1~3塩基離れた塩基がグアニン(G)となるように、蛍光消光プローブの塩基配列を設計することが好ましい。このような蛍光消光プローブは、一般にグアニン消光プローブと称され、いわゆるQ Probe(登録商標)としても知られている。
このようなグアニン消光プローブが検出目的配列にハイブリダイズすると、蛍光色素で標識化された末端のシトシン(C)が検出目的配列におけるグアニン(G)に近づくことによって、蛍光色素の発光が弱くなる(蛍光強度が減少する)という現象を示す。このようなグアニン消光プローブを使用すれば、シグナルの変動に基づき、グアニン消光プローブが標的配列とハイブリダイズしているか解離しているかを容易に確認することができる。蛍光色素は、通常、ヌクレオチドのリン酸基に結合することができる。
従って、蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いて形成されたハイブリッドの蛍光のシグナル(例えば、蛍光強度)を解析することにより、二本鎖であるハイブリッドが一本鎖へ解離した割合、及びTm値などを測定することができる。
蛍光色素は、特定の波長で発光するため、そのような波長を蛍光強度の検出に利用することができる。例えば、下記の蛍光色素において好ましい検出波長は、以下の通りである。Pacific Blue(検出波長:450nm~480nm)、TAMRA(検出波長:585nm~700nm)、及びBODIPY FL(検出波長:515nm~555nm)。
なお、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブは、このV600変異が生ずる部位を含んだ塩基配列をPCR反応によって増幅することが可能なフォワードプライマー及びリバースプライマーと組み合わせたキットとして提供することもできる。
<ヒトBRAFのV600変異の検出方法>
本開示のヒトBRAFのV600変異の検出方法は、上記したヒトBRAFのV600変異検出用プローブを試料中の一本鎖核酸と接触させて、前記ヒトBRAFのV600変異検出用プローブと前記一本鎖核酸とのハイブリッドを形成させる工程、前記ハイブリッドを含む試料溶液の温度を変化させることにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づくシグナルの変動を測定する工程、前記シグナルの変動に基づいて、前記ハイブリッドのTm値を決定する工程、及び、前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、ヒトBRAF遺伝子の変異の存在を検出する工程、を含む。
前記試料としては、たとえば、生体から採取した固形組織、血液、喀痰、気管支洗浄液又は胸水である。生体から採取した固形組織としては、たとえば、患者より切除した患部又は生検した固形組織が挙げられる。このような試料から核酸を単離して、本開示のヒトBRAFのV600変異の検出方法に供される。試料からの核酸の単離は定法に従って行うことができる。
また、生体試料に含まれるDNAを遺伝子増幅法により増幅させた増幅産物を試料として用いてもよい。あるいは、生体試料に含まれるRNAから逆転写PCR反応によりcDNAを生成し、このcDNAを遺伝子増幅法により増幅させた増幅産物を試料として用いてもよい。
核酸増幅法は、特に制限されない。核酸増幅法としては、PCR法、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等が挙げられ、中でもPCR法が好ましい。
核酸の増幅において、増幅反応液における試料の添加割合は特に制限されない。具体例として、上記試料が生体試料(例えば、全血試料)の場合、添加割合の下限は、0.01体積%以上であることが好ましく、0.05体積%以上であることがより好ましく、0.1体積%以上であることがさらに好ましい。また、上記試料が生体試料(例えば、全血試料)の場合、添加割合の上限は、2体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以下であることがさらに好ましい。
また、ヒトBRAFのV600変異検出用プローブを用いた光学的検出を行う場合、上記反応液における生体試料の添加割合は、例えば、0.1体積%~0.5体積%に設定することが好ましい。この範囲であれば、例えば、変性による沈殿物等の発生による影響を十分に防止でき、光学的手法による測定精度を向上できる。また、生体試料中の夾雑物によるPCRの阻害も十分に抑制されるため、増幅効率をより一層向上できることも期待される。
また、核酸増幅反応の開始前に、上記反応液にさらにアルブミンを添加することが好ましい。このようなアルブミンの添加によって、例えば、沈殿物又は濁りの発生による影響をより一層低減でき、かつ、増幅効率もさらに向上する。
上記反応液におけるアルブミンの添加割合は、例えば、0.01質量%~2質量%であり、好ましくは0.1質量%~1質量%であり、より好ましくは0.2質量%~0.8質量%である。アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、ラット血清アルブミン、ウマ血清アルブミン等が挙げられ、特に制限されない。これらのアルブミンはいずれか1種類を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
核酸増幅法としてのPCR法については、このV600変異が生ずる部位を含んだ塩基配列をPCR反応によって増幅することが可能なフォワードプライマー及びリバースプライマーを適宜設計した上で合成し、定法に従って行うことができる。
以下、増幅についてPCR法を例に挙げて説明するが、本開示は、この例に制限されない。
まず、鋳型(テンプレート)核酸、本開示のヒトBRAFのV600変異が生ずる部位を含んだ塩基配列を増幅可能なフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むPCR反応液を調製する。
PCR反応液における各種プライマーの添加割合は、特に制限されない。フォワードプライマー及びリバースプライマーの合計の添加割合は、0.01μmol/L~50μmol/Lであることが好ましく、0.5μmol/L~5μmol/Lであることがより好ましい。
また、フォワードプライマー及びリバースプライマー添加割合は、いずれも0.05μmol/L~50μmol/Lであることが好ましく、0.5μmol/L~5μmol/Lであることがより好ましい。
PCR反応液におけるフォワードプライマーセット及びリバースプライマーの含有比率は特に限定されない。増幅効率及び野生型又は変異型への特異性を高くする観点から、フォワードプライマー及びリバースプライマーの合計モル量に対する比は、1:1~1:10であることが好ましく、1:2~1:5であることがより好ましく、1:3~1:4.5であることがさらに好ましい。
PCR反応液におけるその他の組成成分は、特に制限されず、従来公知の成分が挙げられ、その割合も特に制限されない。他の組成成分としては、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸(dNTP)等のヌクレオチド、溶媒等が挙げられる。PCR反応液において、各組成成分の添加順序は何ら制限されない。
DNAポリメラーゼは特に制限されない。例えば、従来公知の耐熱性細菌由来のポリメラーゼが使用できる。具体例としては、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来DNAポリメラーゼ(米国特許第4889818号明細書及び米国特許第5079352号明細書を参照)(Taqポリメラーゼ(商品名))、テルムス・テルモフィラス(Thermus thermophilus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第91/09950号を参照)(rTth DNA polymerase)、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第92/9689号を参照)(Pfu DNA polymerase;Strategene社製)、テルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来DNAポリメラーゼ(欧州特許第0455430号明細書を参照)(Vent(商標);New England Biolabs社製)等が商業的に入手可能である。中でも、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼが好ましい。
PCR反応液中のDNAポリメラーゼの添加割合は、目的核酸を増幅する目的で当業界において通常用いられる割合であればよい。
ヌクレオシド三リン酸としては、通常、dNTP(例えば、dATP、dGTP、dCTP、dTTP、dUTP等)が挙げられる。PCR反応液中のdNTPの添加割合は、目的核酸を増幅する目的で当業界において通常用いられる割合であればよい。
溶媒としては、Tris-HCl、Tricine、MES(2-morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropanesulfonic acid)、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、CAPS(N-cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)等の緩衝液が挙げられ、典型的な実施態様においては、市販のPCR用緩衝液やPCRキットに付属の緩衝液等をそのまま使用すればよい。
また、PCR反応液には、グリセロール、ヘパリン、ベタイン、NaN3、KCl、MgCl2、MgSO4等が含まれていてもよい。
PCRは、通常、二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離(解離工程)、プライマーの鋳型核酸へのアニーリング(アニーリング工程)、DNAポリメラーゼによるプライマーからの核酸配列の伸長(伸長工程)の3工程を含む。各工程の条件は特に制限されない。解離工程の条件は、例えば、90℃~99℃、1秒間~120秒間が好ましく、92℃~95℃、1秒間~60秒間がより好ましい。アニーリング工程の条件は、例えば、40℃~70℃、1秒間~300秒間が好ましく、50℃~70℃、5秒間~60秒間がより好ましい。また、伸長工程の条件は、例えば、50℃~80℃、1秒間~300秒間が好ましく、50℃~80℃、5秒間~60秒間がより好ましい。サイクル数も特に制限されない。3工程を1サイクルとして、例えば、30サイクル以上が好ましい。上限は特に制限されない。
例えば、合計100サイクル以下、好ましくは70サイクル以下、より好ましくは50サイクル以下である。各工程の温度変化は、例えば、サーマルサイクラー等を用いて自動的に制御すればよい。なお、アニーリング工程と伸長工程とを同じ温度条件とし、2工程でPCRを行ってもよい。
以上のようにして、ヒトBRAFのV600変異が生ずる部位を含んだ塩基配列についての増幅産物を得ることができる。
このようにして得られた増幅産物は、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブとハイブリダイズさせて、ハイブリッドを形成させることができる。
ハイブリッド形成工程では、上記増幅工程で得られた増幅産物の一本鎖増幅核酸と、ヒトBRAFのV600変異が生ずる部位を含んだ塩基配列にハイブリダイズ可能な本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブとのハイブリッドを形成させる。上記一本鎖増幅核酸は、例えば、反応液を加熱し、上記増幅工程で得られた増幅産物である二本鎖増幅核酸を解離することで調製することができる。
本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブを反応液に添加するタイミングは特に制限されない。例えば、増幅工程前、増幅工程の開始時、増幅工程の途中、及び増幅工程後のいずれであってもよい。中でも、増幅工程前又は増幅工程の開始時に添加することが、増幅反応とハイブリダイゼーションとを連続的に行うことができるため好ましい。すなわち、上記増幅工程と上記ハイブリッド形成工程とが同時に進行することが、処理効率の観点から好ましい。
上記反応液におけるヒトBRAFのV600変異検出用プローブの添加割合は特に制限されない。例えば、ヒトBRAFのV600変異検出用プローブを10nmol/L~400nmol/Lの範囲となるように添加することが好ましく、20nmol/L~200nmol/Lの範囲となるように添加することがより好ましい。
上記一本鎖増幅核酸とヒトBRAFのV600変異検出用プローブとのハイブリダイゼーションの手法及び条件には、特に制限はない。二本鎖増幅核酸を解離して一本鎖増幅核酸にすること、一本鎖核酸同士をハイブリダイズすることを目的として当業界で既知の条件をそのまま適用すればよい。
例えば、解離における加熱温度は、上記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85℃~95℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、1秒間~10分間であり、好ましくは1秒間~5分間である。また、解離した一本鎖増幅核酸と本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブとのハイブリダイズは、例えば、解離後、解離における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件は、例えば40℃~50℃である。
ここで、上記増幅工程において、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブと、上記したフォワードプライマー及びリバースプライマーとを共存させる場合であっても、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブの3’末端のシトシンが蛍光色素で標識されているため、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブ自体がDNAポリメラーゼの反応対象となって伸長することはない。
また、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブと同じ配列を有するが蛍光標識されていないプローブを併用してもよい。これにより、例えば、検出する蛍光強度を調節することができる等の利点が得られる。このような未標識プローブは、その3’末端にリン酸基が付加されていてもよい。
次に、ハイブリッドを含む試料溶液の温度を変化させることにより、ハイブリッドを解離させ、ハイブリッドの解離に基づくシグナルの変動を測定する。
ハイブリッドの解離状態を示すシグナルの測定は、260nmの吸光度測定でもよいが、標識した蛍光色素の波長に応じて適宜設定することが好ましい。標識した蛍光色素に応じた波長とすることで、検出感度を高めることができる。例えば、蛍光色素として、Pacific Blueを用いる場合には、検出波長が450nm~480nmであることが好ましく、TAMRAを用いる場合には、検出波長が585nm~700nmであることが好ましく、BODIPY FL用いる場合には、検出波長が515nm~555nmであることが好ましい。
上記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動は、反応液の温度を変化させて行う。例えば、一本鎖増幅核酸と本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブとのハイブリッドを含む上記反応液を加熱し、温度上昇に伴うシグナルの変動を測定する。前述のように、例えば、末端のC塩基が標識化された標識化プローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖増幅核酸とハイブリダイズした状態では蛍光が減少(又は消光)し、解離した状態では蛍光を発する。したがって、例えば、蛍光が減少(又は消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定することにより、解離に基づくシグナルの変動を測定することができる。
シグナルの変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温~85℃、好ましくは25℃~70℃であってよく、終了温度が40℃~105℃であってよい。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば0.1℃/秒~20℃/秒であってよく、好ましくは0.3℃/秒~5℃/秒である。
なお、以上の説明では、上記蛍光強度測定工程においてハイブリッドを加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度変動を測定するものとしたが、ハイブリッド形成時における蛍光強度の変動を測定するようにしてもよい。つまり、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブを含む反応液の温度を降下させてハイブリッドを形成する際に、温度降下に伴う蛍光強度の変動を測定してもよい。
具体例として、単独で蛍光強度を示し、かつハイブリッド形成により蛍光強度を示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖増幅核酸と標識化プローブとが解離している状態では蛍光を発するが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光が減少(又は消光)する。したがって、例えば、反応液の温度を徐々に降下させて、温度降下に伴う蛍光強度の減少を測定することで、ハイブリッドの解離に基づくシグナルの変動を測定することができる。
次に、このシグナルの変動に基づいて、ハイブリッドのTm値を決定する。
Tm値の決定は、例えば、以下のようにして行うことができる。例えば、末端のC塩基が標識化された標識化プローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、得られた蛍光強度の変動から、各温度における単位時間当たりの蛍光強度変化量を算出する。変化量を(-d(蛍光強度増加量)/dt)とする場合は、例えば、最も低い値を示す温度をTm値として決定することができる。また、変化量を(d(蛍光強度増加量)/dt)とする場合は、例えば、最も高い値を示す温度をTm値として決定することができる。
そして、このTm値に基づいて、試料中の一本鎖核酸における、ヒトBRAF遺伝子のV600変異の存在を検出する。例えば、ヒトBRAFのV600変異検出用プローブの、試料中の一本鎖核酸とのハイブリッドにおけるTm値が、対照としての野生型ヒトBRAFの塩基配列とのハイブリッドにおけるTm値よりも3℃以上、望ましくは5℃以上低ければ、試料中の一本鎖核酸における検出目的配列は、V600変異を被っていると判断される。
ここで、典型的な実施態様において、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブを用いた場合、数あるヒトBRAFのV600変異のうち、V600E変異を始め、少なくともV600E2変異、V600K変異、V600R変異及びV600D変異においては、野生型BRAFと比較して上記したTm値は3℃以上低い。一方、K601E変異においては、野生型BRAFとのTm値の差異は3℃に満たず、ほぼ同一である。よって、本開示のヒトBRAFのV600変異検出用プローブは、少なくとも上記したV600変異を、野生型はもちろん、K601E変異からも峻別することが可能となっている。
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
<プローブの検証>
[プローブ]
それぞれ配列番号2、4及び5に示す塩基配列を有し、3’末端のシトシンが蛍光色素5-TAMRAで標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブP1、P3及びP4を日鉄住金環境株式会社に製造委託して人工的に合成したものを得た。これらプローブの塩基配列を下記表1に示す。
ここで、プローブP1の塩基配列は、野生型ヒトBRAFの対応塩基配列に対し、1801番目の塩基であるアデニン(A)を、上記表1中にて大文字で示すシトシン(C)に置換した以外は完全一致である。
また、プローブP3の塩基配列は、前記特許文献1に「SEQ ID NO.2」(同文献の配列番号2)として開示されている塩基配列(配列番号6)の塩基配列の3’末端を1塩基伸長して得た3’末端のシトシン(C)を蛍光色素5-TAMRAで標識したものであり、野生型ヒトBRAFの対応塩基配列と完全一致である。
さらに、プローブP4の塩基配列は、前記特許文献2に「General probe」(同文献の配列番号3)として開示されている塩基配列(配列番号7)の塩基配列の3’末端を3塩基伸長して得た3’末端のシトシン(C)を蛍光色素5-TAMRAで標識したものであり、野生型ヒトBRAFの対応塩基配列と完全一致である。
なお、上記表1中の各プローブの塩基配列において大文字で示しているチミン(T)はV600E変異において塩基置換を被る1799番目の塩基に対応する塩基である。
以上、上記表1に示すように、上記各プローブは、5’末端のチミン(T)塩基の数が相違している点、及び、プローブP1において1801番目の塩基が大文字で示すようにシトシン(C)で置換されている点を除き、同一の塩基配列を有している。
[相補鎖]
上記各プローブの相補鎖として、それぞれ配列番号8、9及び10に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドC1、C2及びC3を日鉄住金環境株式会社に製造委託して人工的に合成したものを得た。これら相補鎖の塩基配列を下記表2に示す。
ここで、上記相補鎖C1、C2及びC3はそれぞれ、野生型ヒトBRAF、V600E変異BRAF及びK601E変異BRAFの各コード領域の1774~1823番目の塩基配列に対する相補鎖である。ここで、V600E変異BRAFにおいては、1799番目の塩基がチミン(T)からアデニン(A)に置換されているので、これに相補的な上記相補鎖C2においてはこの置換されたアデニン(A)に対応して上記表2にて大文字で示すチミン(T)となっている。また、K601E変異BRAFにおいては、1801番目の塩基がアデニン(A)からグアニン(G)に置換されているので、これに相補的な上記相補鎖C3においてはこの置換されたグアニン(G)に対応して上記表2にて大文字で示すシトシン(C)となっている。
そして、下記表3に示す組成で反応液を調製し、下記表4に示す温度条件でTm値の測定を行った。すなわち、反応液を95℃で1秒間加熱してプローブと相補鎖と一旦乖離させた後、40℃60秒間で再びプローブと相補鎖とをハイブリダイズさせ、そして、3秒間に1℃の割合で反応液を75℃まで加熱し、プローブと相補鎖とを乖離させた。なお、Tm値の測定は、自動遺伝子解析装置(商品名i-densy、アークレイ社製)を用いて行った。
Tm値の測定結果を図1、図3及び図5に示す。図1は、プローブP1と各相補鎖との間の乖離曲線である。図3は、プローブP3と各相補鎖との間の乖離曲線である。図5は、プローブP4と各相補鎖との間の乖離曲線である。図1、図3及び図5においてはそれぞれ、プローブと野生型BRAF相補鎖(C1)との乖離曲線は実線(WT)で、プローブとV600E変異BRAF相補鎖(C2)との乖離曲線は破線(V600E)で、及びプローブとK601E変異BRAF相補鎖(C3)との乖離曲線は一点鎖線(K601E)にて示している。各乖離曲線のピークは、プローブと相補鎖との乖離が最も多く発生している温度に相当し、この温度がTm値である。
[プローブP1]
まず、図1に示すように、プローブP1は、野生型BRAF相補鎖(C1)とのTm値が59℃、及び、K601E変異BRAF相補鎖(C3)とのTm値が58℃とほぼ同じであった。これに対し、プローブP1とV600E変異BRAF相補鎖(C2)とのTm値は53℃であり、C1及びC3とのTm値より5℃以上低い値となっていた。
ここで、図2は、プローブP1と、各相補鎖との間で、相補的な塩基対を対応させて示したものである。本図に示すように、プローブP1と相補鎖C1との間では、P1において大文字で示すシトシン(C)の位置で、相補鎖の対応する位置のチミン(T)とミスマッチが生じている。また、プローブP1と相補鎖C3との間では、同じくP1において大文字で示すシトシン(C)の位置で、A1801G変異に伴う相補的なシトシン(C)とミスマッチが生じている。これらに対し、プローブP1と相補鎖C2との間では、同じくP1において大文字で示すシトシン(C)の位置に加え、大文字で示すチミン(T)の位置において、T1799A変異に伴う相補的なチミン(T)とミスマッチが生じている。
つまり、プローブP1と相補鎖C1との間、及び、プローブP1と相補鎖C3との間ではいずれも1塩基でミスマッチが生じているのに対し、プローブP1と相補鎖C2との間では2塩基でミスマッチが生じている。これに伴い、プローブP1と相補鎖C2との間のTm値が、プローブP1と相補鎖C1との間のTm値及びプローブP1と相補鎖C3との間のTm値より低くなっているものと推察される。
以上によって、プローブP1は、Tm値の差異によって、V600E変異を、野生型及びK601E変異と峻別することが可能なプローブであることが判明した。
[プローブP3]
次に、図3に示すように、プローブP3は、野生型BRAF相補鎖(C1)とのTm値が65℃であったのに対し、V600E変異BRAF相補鎖(C2)とのTm値が59℃、また、K601E変異BRAF相補鎖(C3)とのTm値が58℃と、いずれもC1とのTm値より6℃以上低く、C2とのTm値とC3とのTm値とはほぼ同じであった。
これは、図4に示すように、プローブP3と相補鎖C1との間ではミスマッチは生じていないのに対し、プローブP3と相補鎖C2との間、及び、プローブP31と相補鎖C3との間ではいずれも1塩基のミスマッチが生じているためであると推察される。
以上によってプローブP3は、野生型とのTm値の差異は判別できるものの、V600E変異とK601E変異との峻別が不可能なプローブであることが判明した。
[プローブP4]
そして、図5に示すように、プローブP4は、野生型BRAF相補鎖(C1)とのTm値が66℃であったのに対し、V600E変異BRAF相補鎖(C2)とのTm値が60℃、また、K601E変異BRAF相補鎖(C3)とのTm値も60℃と、いずれもC1とのTm値より6℃低く、C2とのTm値とC3とのTm値とはほぼ同じであった。
これもまた、図6に示すように、プローブP4と相補鎖C1との間ではミスマッチは生じていないのに対し、プローブP4と相補鎖C2との間、及び、プローブP4と相補鎖C3との間ではいずれも1塩基のミスマッチが生じているためであると推察される。
以上によってプローブP4も、野生型とのTm値の差異は判別できるものの、V600E変異とK601E変異との峻別が不可能なプローブであることが判明した。
[プローブについて小括]
以上のまとめとして、各プローブと各相補鎖との間のTm値を下記表5に示す。
以上より、プローブP3及びプローブP4はいずれも、V600E変異をK601E変異と区別することが不可能であるが、プローブP1は、V600E変異を、野生型のみならずK601E変異とも峻別することが可能であることが分かった。このプローブP1の塩基配列は、野生型のcDNA配列に準拠し、この配列の1801番目の塩基に相当するアデニン(A)がシトシン(C)に置換されている。このシトシン(C)は、野生型の相補鎖におけるチミン(T)、V600E変異の相補鎖におけるチミン(T)、及びK601E変異の相補鎖におけるシトシン(C)のいずれとも相補的でない塩基が選ばれている。この置換は、1801番目の塩基において野生型、V600E変異及びK601E変異のいずれともミスマッチを起こさせることで、結果としてA1801G変異を無効化することに成功している。また、プローブP1において1799番目の塩基であるチミン(T)は、野生型の相補鎖及びK601E変異の相補鎖におけるアデニン(A)とは相補的であるが、V600E変異の相補鎖のチミン(T)とは相補的でないため、V600E変異を野生型からもK601E変異からも峻別することが可能となっている。
<他のV600変異>
次に、上記プローブP1を用いて、V600E変異以外の他の変異の検出を試みた。
[相補鎖]
プローブP1の相補鎖として、上記で使用した配列番号8の相補鎖C1(野生型)及び配列番号9の相補鎖C1(V600E変異)に加えて、それぞれ配列番号11~配列番号14に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドC4~C7を日鉄住金環境株式会社に製造委託して人工的に合成したものを得た。これら相補鎖の塩基配列を下記表6に示す。
ここで、上記相補鎖C1及びC2はそれぞれ、前記表2の説明で言及したとおりである。上記相補鎖C4はV600E2変異BRAF遺伝子に由来し、この相補鎖においては、TG1799_1800AA変異によって、これに相補的なチミン(T)2個で上記大文字のように置換されている。上記相補鎖C5はV600K変異BRAF遺伝子に由来し、この相補鎖においては、GT1798_1799AA変異によって、これに相補的なチミン(T)2個で上記大文字のように置換されている。上記相補鎖C6はV600R変異BRAF遺伝子に由来し、この相補鎖においては、GT1798_1799AG変異によって、これに相補的なチミン(T)及びシトシン(C)で上記大文字のように置換されている。上記相補鎖C7はV600D変異BRAF遺伝子に由来し、この相補鎖においては、TG1799_1800AT変異によって、これに相補的なチミン(T)及びアデニン(A)で上記大文字のように置換されている。
そして、下記表7に示す組成で反応液を調製し、PCRによって増幅を行いつつ、プローブP1を各相補鎖とハイブリダイズさせた。
その後、前記表4に示す温度条件でTm値の測定を行った。すなわち、反応液を95℃で1秒間加熱してプローブと相補鎖と一旦乖離させた後、40℃60秒間で再びプローブと相補鎖とをハイブリダイズさせ、そして、3秒間に1℃の割合で反応液を75℃まで加熱し、プローブと相補鎖とを乖離させた。なお、Tm値の測定は、自動遺伝子解析装置(商品名i-densy、アークレイ社製)を用いて行った。
Tm値の測定結果を図7に示す。図7は、プローブP1と各相補鎖との間の乖離曲線である。図7においては、プローブP1と野生型BRAF相補鎖(C1)との乖離曲線は実線(WT)で、プローブP1とV600E変異BRAF相補鎖(C2)との乖離曲線は太い破線(V600E)で、プローブP1とV600E2変異BRAF相補鎖(C4)との乖離曲線は細い破線(V600E2)で、プローブP1とV600K変異BRAF相補鎖(C5)との乖離曲線は太い一点鎖線(V600K)で、プローブP1とV600R変異BRAF相補鎖(C6)との乖離曲線は細い一点鎖線(V600K)で、プローブP1とV600D変異BRAF相補鎖(C7)との乖離曲線は太い点線(V600D)で、及び相補鎖の代わりに蒸留水を用いた陰性対照における曲線は細い点線(DW)で、それぞれ示している。各乖離曲線のピークは、プローブと相補鎖との乖離が最も多く発生している温度に相当し、この温度がTm値である。プローブP1と各相補鎖との間のTm値及び野生型(WT)とのTm値の差(ΔTm)を下記表8に示す。
以上より、V600E変異、V600E2変異、V600K変異、V600R変異及びV600D変異のいずれも、野生型よりTm値が低かった。そして、V600E2変異、V600K変異、V600R変異及びV600D変異におけるΔTmはV600E変異より大きかった。以上より、少なくとも上記V600変異はプローブP1により、野生型及びK601E変異から峻別することが可能であることが分かった。
<プローブP2>
前記プローブP1の他に、配列番号3に示す塩基配列を有し、3’末端のシトシンが蛍光色素5-TAMRAで標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブP2を日鉄住金環境株式会社に製造委託して人工的に合成したものを得た。このプローブの塩基配列は下記のとおりである。
P2:tttggtctagctacagTgTaatc-(TAMRA)(配列番号3)
ここで、プローブP2の塩基配列は、野生型ヒトBRAFの対応塩基配列に対し、1801番目の塩基であるアデニン(A)を、上記にて3’末端側で大文字で示すチミン(T)に置換した以外は完全一致である。この置換されたチミン(T)は、前記プローブP1において対応する位置にあるシトシン(C)と同様、野生型の相補鎖におけるチミン(T)、V600E変異の相補鎖におけるチミン(T)、及びK601E変異の相補鎖におけるシトシン(C)のいずれとも相補的でない塩基としての意義を有する。よって、この置換は、プローブP1の場合と同様、1801番目の塩基において野生型、V600E変異及びK601E変異のいずれともミスマッチを起こさせることで、結果としてA1801G変異を無効化しつつ、1799番目の塩基であるチミン(T)が、プローブP1と同様に、野生型の相補鎖及びK601E変異の相補鎖におけるアデニン(A)とは相補的であるが、V600E変異の相補鎖のチミン(T)とは相補的でないことで、V600E変異を野生型からもK601E変異からも峻別することを可能とすることが強く推認される。
このことを検証するため、前記した、ソフトウェア「Meltcalc 99 free」にて、プローブP2の塩基配列と、前記表6に示した各V600変異の相補鎖C1、C2及びC4~C7の配列、並びに前記表2に示したK601E変異の相補鎖C3とのTm値を計算した。その結果を下記表9に示す。
上記表9から、プローブP2と各V600変異の相補鎖とのTm値は、野生型のTm値よりも6℃以上低くなった。一方、プローブP2とK601E変異とのTm値は、野生型のTm値よりも1.5℃しか低くなっていなかった。よって、プローブP2は、BRAF遺伝子における各V600変異を、野生型及びK601E変異に対して十分峻別可能であることが強く示唆された。