JP7236740B2 - 木製窓構造 - Google Patents

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Description

本発明は、木製窓構造に関し、特に防火性に優れた木製窓構造に関するものである。
木材を主材料とした木製サッシによる窓構造(木製窓構造)は、アルミニウムなどの金属製サッシを用いた窓構造に比べて暖かみがあり、優れた加工性によって豊かなデザインを実現することができる。その一方、木製サッシは金属製サッシに比べて防火性能を高めることが難しい。
特許文献1では、木材を使用した防火サッシが開示される。この防火サッシは、木材のサッシ枠体と窓框体に、2枚のフロートガラスの間に無機質系フィルムを挟んで接着した合わせガラスの外側ガラスと、厚ガラスの内側ガラスとを一定の間隔をあけて組み合わせた二重ガラスを装着し、外側ガラスと、内側ガラスの2枚のガラスとの隙間にアルゴンガスを充填した構造を適用している。
特許文献2では、耐火剤処理液を含浸した桐材を用い、防火性に優れると共に美観溢れる木肌を維持した桐製の木製サッシが開示される。この木製サッシでは、桐材を乾燥して含水率を9%以下にした後、当該桐材を液温40~70℃の耐火剤溶液中に減圧下30~40torrで6~12時間浸漬し、次に常圧に戻し、その後所定圧力毎に段階的に圧力を付与し最高10気圧まで加圧した状態で6~12時間浸漬して、続いて上記桐材を上記耐火剤液から取り出し、常温で20~30日間乾燥させ、更にまた50~80℃で6~12時間乾燥して、含水率を18%以下にした桐材によって木製サッシの枠体を製作している。
特開2006-169818号公報 特開2007-063749号公報
近年、間伐材として多くのスギが伐採されており、その利用法に期待が寄せられている。特に日本では間伐材としてのスギは豊富で安価であり、このようなスギの利用範囲を拡大することによって、林業を中心とした地域産業の活性化が期待される。このような状況のなか、本願発明者は、木製サッシの材料としてスギを利用することに着目し、木製窓構造の開発を行った。
ここで、窓構造の防火性能には、建築基準法に定める認定基準がある。例えば、防火設備では、所定の加熱曲線によって加熱して20分間非加熱面に火炎を出さないこと、といった遮炎性能が求められる。しかし、スギは樹脂や油脂を多く含むため、他の木材に比べて延焼防止効果が高くない。このため、スギを用いた木製の窓枠部とガラス部とを組み合わせた木製窓構造において、建築基準法の認定基準を満たすような十分な防火性能を得ることは困難である。
本発明は、スギを用いた木製の窓枠部とガラス部との組み合わせであっても十分な防火性能を得ることができる木製窓構造を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、スギを用いた木製の窓枠部と、窓枠部に嵌め込まれたガラス部と、を備えた木製窓構造である。この木製窓構造において、ガラス部は、互いに内外の最表面であって所定の空間を介して配置された第1ガラス板および第2ガラス板と、第1ガラス板の周縁部分と第2ガラス板の周縁部分との間に設けられた封止樹脂と、を有し、第1ガラス板は結晶化ガラスであり、第2ガラス板は非結晶化ガラスであることを特徴とする。
このような構成によれば、木材のなかでも密度および熱伝導率の低いスギを用いることで、窓枠部の低重量化および断熱性向上を図ることができる。また、第1ガラス板および第2ガラス板によってガラス部での結露の抑制および高い断熱効果を得ることができる。
防火性能としては、非結晶化ガラスである第2ガラス板の側が加熱面であった場合、たとえ第2ガラス板が破損しても結晶化ガラスである第1ガラス板によって非加熱面への火炎の出現を防止することができる。一方、結晶化ガラスである第1ガラス板の側が加熱面であった場合、第1ガラス板から第2ガラス板に伝わる熱の分布が均一化され、非加熱面である第2ガラス板の側に火炎が出現するほどの破損を発生させずに済む。
上記の木製窓構造において、第2ガラス板は、低放射ガラスであることが好ましい。これにより、スギを用いた木製窓構造であっても、結露抑制、断熱効果、高い防火性能とともに、熱の通過抑制効果を高めることができる。
上記の木製窓構造において、窓枠部の表面にガラス化膜が設けられていることが好ましい。これにより、スギを用いた木製の窓枠部そのものの耐火性を向上させることができる。
上記の木製窓構造において、屋内側から屋外側へ延出する出先部分を有し、窓枠部の下方に窓枠部を支持する窓台がさらに設けられていてもよい。これにより、窓台を含む木製窓構造において、結露抑制および断熱効果を得ることができる。また、例えばスギの窓台を用いた場合であっても結晶化ガラスによる第1ガラス板と、非結晶化ガラスによる第2ガラス板とのガラス部の組み合わせにより、高い防火性能を得ることができる。
上記の木製窓構造において、窓枠部は、建物の躯体の屋内側から取り付けられるようになっていることが好ましい。ガラス部を備えることで重量物となる窓枠部を躯体に取り付けるにあたり、屋外からの取り付け施工は困難である。建物の屋内側から窓枠部を取り付けることができると、重量物であっても容易に施工することができる。また、メンテナンスや窓の交換工事の際に外部に足場を設ける必要がなく、屋内で工事を完結することができる。
本発明によれば、スギを用いた木製の窓枠部であっても十分な防火性能を得ることができる木製窓構造を提供することが可能になる。
本実施形態に係る木製窓構造を例示する模式斜視図である。 (a)および(b)は、本実施形態に係る木製窓構造を例示する模式図である。 木製窓構造の具体例を示す模式断面図である。 ガラス部の模式断面図である。 窓枠部の取り付けについて説明する模式断面図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
(木製窓構造の基本構成)
図1は、本実施形態に係る木製窓構造を例示する模式斜視図である。
図2(a)および(b)は、本実施形態に係る木製窓構造を例示する模式図である。
図2(a)には正面図が示され、図2(b)には図2(a)のA-A線断面図が示される。
なお、説明の都合上、建物の外壁、断熱材、内装材などは図示を省略している。
図1に示すように、本実施形態に係る木製窓構造1は、スギを用いた木製の窓枠部10と、窓枠部10に嵌め込まれたガラス部30と、を備える。また、本実施形態では、窓枠部10の下方に窓枠部10を支持する窓台20が設けられる。
窓枠部10は、縦枠11および横枠12によって矩形状に組まれている。なお、縦枠11および横枠12のそれぞれの構成は、窓のタイプ(内開き、外開き、内倒し、引き違い、はめ殺しなど)によって異なる。
本実施形態では、窓枠部10として木材のスギが用いられる。本実施形態において窓枠部10に用いられるスギには、無垢材および集成材が含まれる。また、木材の一部(体積で50%未満)にスギ以外の木材が用いられる場合や、補強や固定等のために金属や樹脂の部材を用いる場合も含まれる。
窓枠部10は、一対の柱2、まぐさ3および窓台20によって構成される矩形状の開口に嵌め込まれる。すなわち、窓枠部10は窓台20の上に載せられた状態で、縦枠11が柱2に固定され、上側の横枠12がまぐさ3に固定される。
窓枠部10に嵌め込まれるガラス部30は、第1ガラス板31、第2ガラス板32および封止樹脂35を有する。第1ガラス板31および第2ガラス板32は、互いに内外の最表面であって所定の空間を介して配置される。ガラス部30は、2枚のガラス板(第1ガラス板31および第2ガラス板32)による複層ガラス構造である。
封止樹脂35は、第1ガラス板31の周縁部分と第2ガラス板32の周縁部分との間に設けられる。封止樹脂35は2枚のガラス板の周縁部分を取り囲むように設けられ、2枚のガラス板の間の空間を設定するとともに、空間内の機密性を保つものである。
本実施形態では、このようなガラス部30において、第1ガラス板31には結晶化ガラスが用いられ、第2ガラス板32には非結晶化ガラスが用いられる。ガラス部30の詳細については後述する。
窓台20は、窓枠部10の下側を支える板状の支持板21を備える。支持板21は窓枠部10の幅よりもわずかに広い幅と、窓枠部10の奥行きよりも長い奥行きとを有する。支持板21には、玄晶石や御影石などの石材や、杉などの木材を板状物にしたものが用いられる。本実施形態では、支持板21は一対の柱2に設けられた切り欠き部分に挿入され、柱2の所定の高さに配置されている。支持板21は屋外側に突出する出先部分201を有する。出先部分201は、柱2よりも屋外側に出っ張る部分である。これにより、窓台20は、屋内側から屋外側へ延出するように設けられる。
支持板21の上面21aには、窓の奥行き方向に延在する上面溝部210が設けられる。上面溝部210は、支持板21の上面21aにおける屋内側の途中から屋外側の端部まで直線的に設けられた溝である。上面21aには複数本の上面溝部210が互いに平行に設けられていてもよい。本実施形態では、左右にそれぞれ3本(計6本)の上面溝部210が設けられる。
複数の上面溝部210が設けられている場合、これらの上面溝部210を互いに連通させる連通溝部220を設けてもよい。連通溝部220は、支持板21の上面21aにおける窓の幅方向に延在し、各上面溝部210の屋内側の端部を繋げるように設けられる。
本実施形態にかかる木製窓構造1において、窓台20によって窓枠部10を支持した状態で、窓枠部10の縦枠11における外側面11sの下方延長上および柱2における内側面2sの下方延長上の少なくともいずれかに上面溝部210が配置されるようになっている。本実施形態では、縦枠11の外側面11sおよび柱2の内側面2sのいずれについてもその下方延長上に上面溝部210が配置されている。言い換えると、上面溝部210の上に窓枠部10の縦枠11の外側面11sが位置し、上面溝部210の上に柱2の内側面2sが位置するようになっている。
複数本の上面溝部210が設けられている場合、同じ(1本)の上面溝部210の上に縦枠11の外側面11sと柱2の内側面2sとが位置していてもよいし、異なる上面溝部210のそれぞれの上に縦枠11の外側面11sと柱2の内側面2sとが位置していてもよい。また、左右の縦枠11の外側面11sおよび左右の柱2の内側面2sのそれぞれについて上面溝部210の上に配置されていてもよい。
このように、上面溝部210の上に縦枠11の外側面11sや柱2の内側面2sが位置していることで、窓枠部10の縦枠11や柱2の内側面2sに沿って水滴等が垂れた場合、その水滴等が下方の窓台20の上面溝部210に入り、上面溝部210を伝って出先部分201(屋外)の方向へ流れていく。これにより、水滴等が窓台20の横から壁に伝わることを抑制することができる。
また、複数本の上面溝部210が設けられていることで、施工の際に窓台20と窓枠10との相対的な位置が多少ずれたり、相対的な位置関係の調整が必要になったりした場合でも、いずれかの上面溝部210の上に外側面11sや内側面2sを配置することができる。また、複数本の上面溝部210が設けられることで、縦枠11の正面11fの下方延長上や柱2の正面2fの下方延長上にも上面溝部210が配置されることになる。これにより、縦枠11の正面11fや柱2の正面2fに沿って垂れる水滴等があっても、上面溝部210で受けて屋外へ排出できるようになる。
支持板21の下面21bには、窓の幅方向に延在する下面溝部230が設けられていてもよい。下面溝部230は支持板21の幅方向に渡り直線状に設けられた溝である。下面溝部230は出先部分201に設けられる。これにより、支持板21の下面21bに沿って流れる水滴等が下面溝部230で捕獲される。例えば、上面溝部210の屋外側から排出される水滴等が支持板21の下面21bに回り込んだ場合でも、下面溝部230で捕獲されて壁側まで達しない。これにより、水滴等が下面21bに回り込んで壁に伝わることを抑制することができる。
建物において、窓枠部10や柱2に結露や水滴などの水分が付着すると、水滴等は窓枠部10の縦枠11における外側面11sや、柱2の内側面2sに沿って下方に垂れていく。この水滴等が窓台20に達した場合、通常では窓台20の縁から外壁に沿って垂れることになる。これが外壁に付着して水垢によるシミの原因となる。また、アルミサッシ等は躯体に取り付ける際、露出したアルミ部材より結露が発生して躯体内結露の発生の原因となる。一方、金属に比べて熱伝導率の低い木材は、躯体内結露を抑制し建物の寿命を延ばすことができる。
本実施形態に係る窓台20を用いることで、窓枠部10に付着した水滴等は窓台20の上面溝部210に沿って出先部分201から屋外へ排出され、窓台20の縁から壁に沿って垂れることを抑制できる。これにより、水垢によるシミの発生を抑制することができる。上面溝部210に入った水滴等を屋外へ効率良く排出するため、上面溝部210は屋内側から屋外側に向けて下がるように設けられていることが好ましい。上面溝部210をこのように傾斜させるため、上面溝部210の底面を傾斜させてもよいし、支持板21を傾斜させてもよいし、上面21aを傾斜させてもよい。
(窓枠部へのスギの適用)
本実施形態では、窓枠部10の木材としてスギを用いている。ここで、樹種における密度の一例は以下の通りである。
・スギ(約380kg/m
・カラマツ(約500kg/m
・ブナ(約650kg/m
・ミズナラ(約680kg/m
また、樹種における熱伝導率の一例は以下の通りである。
・スギ(約0.087W/m・K)
・カラマツ(約0.11W/m・K)
・ブナ(約0.14W/m・K)
・ミズナラ(約0.14W/m・K)
このように、木材のなかでもスギは密度および熱伝導率ともに低く、窓枠部10に適用することで低重量化および断熱性向上を図ることができる。
その一方、スギは他の木材に比べて樹脂や油脂を多く含むため、延焼防止効果の点で有利とは言えない。
建材で用いられるようなある程度の太さを備えた木材が燃えた場合、表面に炭化層が形成されるだけで芯部分は残る状態となる。本願発明者は、このように完全に燃え切らない木材であっても、炎症防止効果の高くないスギを窓枠部10に用いて木製窓構造1を構成する場合、ガラス部30の構造や封止樹脂35との関係から、防火性能に差が生じることについて知見を得た。
そして、本願発明者は、スギを窓枠部10の材料として用いる場合の低重量化および断熱性向上というメリットを得つつ、特定のガラス部30との組み合わせによれば木製窓構造1の全体で効果的に防火性能を高めることができる点を見出した。
(ガラス部の詳細)
本実施形態に係る木製窓構造1で用いられるガラス部30は、第1ガラス板31と第2ガラス板32とが所定の空間を介して互いに平行配置された複層ガラス構造を備える。本実施形態では、第1ガラス板31および第2ガラス板32による2枚の複層ガラス構造となっている。第1ガラス板31および第2ガラス板32のどちらが屋内側または屋外側であってもよい。図示する例では、第1ガラス板31が屋外側、第2ガラス板32が屋内側に配置される。
第1ガラス板31として用いられる結晶化ガラスは、ガラスを再加熱して結晶を析出させたものである。結晶化ガラスは透光性を有し、熱膨張係数がほぼゼロという性質を有する。結晶化ガラスは、例えば800℃に加熱した状態で水をかけて急冷しても割れない。これにより、例えば火災発生時の高温に耐えつつ、放水で急冷しても割れることがなく、例えば消化放水時に起こりやすいガラスの割れによる火災拡大(バックドラフトなど)を抑制することができる。
第2ガラス板32として用いられる非結晶化ガラスは、結晶化されていないガラスである。非結晶化ガラスとしては、例えば、一般的な窓に使用されるフロート板ガラス(ソーダ石灰ガラスなど)、一般的な耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラスなど)が挙げられる。
なお、第2ガラス板32としては、板ガラスの表面に低放射(Low-Emissivity)膜を形成した低放射ガラス(Low-Eガラス)を用いることが好ましい。低放射膜としては、例えば、透明誘電体膜、赤外線反射膜および透明誘電体膜をこの順で有する積層膜が挙げられる。透明誘電体膜としては、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物の膜が挙げられる。赤外線反射膜としては、例えば、Ag等の金属膜、F添加SiO等の半導体膜が挙げられる。
第1ガラス板31および第2ガラス板32による複層ガラスによってガラス部30での結露の抑制および高い断熱効果を得ることができる。さらに、複層ガラスのうちの第2ガラス板32として低放射ガラス(Low-Eガラス)を用いることで、スギを用いた木製の窓枠部10を備えた窓構造であっても、結露抑制、断熱効果とともに、熱の通過抑制効果を高めることができる。
(木製窓構造の具体例)
図3は、木製窓構造の具体例を示す模式断面図である。
図3では、図2(b)のB-B線断面図が示される。なお、図3に示す木製窓構造1は、内開き窓の例である。
図3に示す木製窓構造1においては、スギを用いた窓枠部10として、固定枠101と可動枠102とを備えている。可動枠102は、固定枠101に蝶番(図示せず)を介して取り付けられており、固定枠101に対して開閉可能になっている。固定枠101は窓台20の上に載置された状態で柱2やまぐさ3にスクリューネジなどで固定される。
内開き窓では可動枠102の内側にガラス部30が嵌め込まれる。ガラス部30の一方面の周縁部分が可動枠102の延出部分102aに当接し、他方面の周縁部分が押さえ枠102bによって押さえられる。これにより、ガラス部30は延出部分102aと押さえ枠102bとの間で挟み込まれる。
(ガラス部の具体例)
図4は、ガラス部の模式断面図である。
ガラス部30は、結晶化ガラスによる第1ガラス板31と、非結晶化ガラスによる第2ガラス板32と、封止樹脂35とを有する。非結晶化ガラスが低放射ガラス(Low-Eガラス)の場合、第2ガラス板32の表面に低放射膜32fが設けられる。
封止樹脂35は、第1ガラス板31の周縁部分と第2ガラス板32の周縁部分との間に設けられる。封止樹脂35は、両ガラス板の間に所定間隔の空間Sを設けるためのスペーサ351と、スペーサ351と両ガラス板との間を接着する接着樹脂352とを備える。スペーサ351の内側には吸湿剤353が設けられている。
第1ガラス板31および第2ガラス板32のそれぞれの厚さは3mmから4mm程度である。また、空間Sの幅は14mmから16mm程度である。封止樹脂35の接着樹脂352としては、ブチルゴムが用いられる。
(防火性能)
本実施形態に係る木製窓構造1の窓枠部10には木材のスギが用いられる。この木製窓構造1における防火性能は、建築基準法の防火設備の基準を満たす。
先に説明したように、一般的に木材のなかでもスギは樹脂や油脂を多く含むため、他の木材に比べて延焼防止効果が高くない。したがって、窓枠部10にスギを用いて防火設備の基準を満たすようにすることは非常に困難である。
本願発明者は、窓枠部10にスギを用いた場合の防火対策について様々な開発および検証を行った結果、本実施形態に係る木製窓構造1において防火設備の基準を満たす性能を発揮できることを見出した。
ガラス部30の構成としては、結露抑制および断熱効果を得るために複層ガラスを用いること、および網入りガラスを用いないことを前提とした。ここで、網無しガラスは防火性として不利である。一般的に、網無しで2枚のガラス板を合わせた複層ガラスにおいて耐熱性を高めるためには、2枚のガラス板を耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラス)で構成することが考えられる。この2枚の耐熱ガラスを適用した複層ガラスをスギの窓枠部10に取り付けて、建築基準法における防火性能を評価するための燃焼試験(以下、単に「燃焼試験」と言う。)を行った。
燃焼試験の結果、防火設備の要件(20分間の遮炎性能)は満たさなかった。
これは、スギと接するガラス(耐熱ガラス)との熱伝導率の差が大きいため、加熱側のガラス面においてスギと接する縁部分と、スギと接しない中央部分とで大きな熱分布が発生し、20分経過前に加熱側のガラスに割れが発生したと考えられる。
次に、ガラス部30として、3枚のガラス板を合わせた複層ガラスについて検証した。3枚のガラス板のうち、中央に結晶化ガラス、両側に低放射ガラス(Low-Eガラス)を用いた。この複層ガラスをスギの窓枠部10に取り付けて、燃焼試験を行った。
現時点において、3枚のガラス板でガラス部30を構成する木製窓構造では、燃焼試験における防火設備の要件を満たさなかった。
一般に、中央に結晶化ガラス、両側に低放射ガラス(Low-Eガラス)を用いた3枚の複層ガラスを用いると、十分な防火性能を発揮できると考えられる。しかし、2枚の耐熱ガラスの場合と同様に、スギと接するガラス(低放射ガラス)との熱伝導率の差が大きいため、加熱側のガラス面においてスギと接する縁部分と、スギと接しない中央部分とで大きな熱分布が発生し、20分経過前に加熱側のガラスに割れが発生したと考えられる。
さらに、3枚の複層ガラスの場合、加熱側のガラス面の熱分布が中央の結晶化ガラスを介して非加熱面側のガラス(低放射ガラス)に伝わり、非加熱面側のガラスや、非加熱面側のガラスと中央の結晶化ガラスとの間に設けられた封止樹脂に影響を与える。
ここで、中央に結晶化ガラスが用いられていれば熱による割れが発生せず、たとえ加熱面側のガラスが割れても、非加熱面への火炎の出現を免れると考えられる。しかし、加熱側のガラスが割れて、部分的な破壊や割れによるずれ落ちが発生すると、中央の結晶化ガラスが不均一に加熱されることになる。すなわち、加熱面側のガラスの一部が崩落し、一部で崩落を免れたような状態では、中央の結晶化ガラスが受ける熱に大きな分布が生じる。この熱の分布が非加熱面側のガラスに伝わり、非加熱面側のガラスも割れて、部分的な破壊や割れによるずれ落ちが発生する。これにより、封止樹脂35の材料(例えばブチル)の昇華によって発生したガス(例えばイソプレンやイソブチレン)に引火して、非加熱面への火炎の出現に至る。
本願発明者は、実際の燃焼試験に基づき、窓枠部10にスギを用い、複層ガラスの封止材料として封止樹脂35を用いた場合の火炎出現のメカニズムから、本実施形態に係る木製窓構造1に至った。
すなわち、本実施形態に係る木製窓構造1では、スギによる窓枠部10を用いた防火対応のため、少なくとも次の2点をポイントとしている。
(1)ガラス部30を、2枚の複層ガラスとして、第1ガラス板31を結晶化ガラス、第2ガラス板32を非結晶化ガラス(例えば、低放射ガラス)とする。
(2)第1ガラス板31と第2ガラス板32との間を封止樹脂35で封止する。
このガラス部30をスギによる窓枠部10に嵌め込んで、燃焼試験を行った。
燃焼試験の結果、防火設備の要件(20分間の遮炎性能)を満たした。
燃焼試験において、非結晶化ガラス(低放射ガラス)である第2ガラス板32の側を加熱面とした場合、第2ガラス板32は熱によって破損することになるが、結晶化ガラスである第1ガラス板31は破損しないため、非加熱面への火炎の出現を防止することができる。
一方、燃焼試験において、結晶化ガラスである第1ガラス板31の側を加熱面とした場合、スギと接するガラス(結晶化ガラス)との熱伝導率の差が大きくても結晶化ガラスは熱膨張係数がほぼゼロのため歪による割れは発生しない。このため、第1ガラス板31は板形状まま維持され、第1ガラス板31から第2ガラス板32に伝わる熱の分布が均一化される。
ここで、第1ガラス板31の熱が第2ガラス板32に伝わり、第2ガラス板32に熱によるひび割れが生じても、第2ガラス板32に伝わる熱の分布が均一化されているため崩落するような割れや、割れ箇所がずれ落ちるような破損には至らない。したがって、たとえ封止樹脂35の加熱昇華によるガスに引火が発生しても、非加熱面である第2ガラス板32の側への火炎の出現には至らない。
つまり、本実施形態に係る木製窓構造1では、第1ガラス板31および第2ガラス板32のどちらが加熱面になったとしても、防火設備の要件(20分間の遮炎性能)を満たすことができる。
ここで、木製窓構造1の防火特性をさらに高めるため、スギを用いた窓枠部10の表面(スギの表面)にガラス化膜を設けることが好ましい。ガラス化膜は、例えばガラス塗料を窓枠部10の表面に塗布することで形成される。ガラス塗料は、常温でガラス化する塗料である。ガラス化膜を形成することで、スギを用いた木製の窓枠部10であっても耐火性および耐候性を向上させることができる。
本実施形態に係る木製窓構造1の仕様の一例は以下の通りである。なお、以下に示す仕様の木製窓構造1は、いずれも防火設備の要件(20分間の遮炎性能)を満たしている。
(仕様1)
構造名:複層ガラス入り(網無し)、木製内開き・内倒し窓(片側常閉)
ガラス部30のサイズ…高さ約2390mm、幅約1695mm
第1ガラス板31の材料/厚さ…結晶化ガラス/4mm厚
第2ガラス板32の材料/厚さ…低放射ガラス(Low-Eガラス)/4mm厚
空間Sの幅…16mm
封止樹脂35の接着樹脂352…ブチルゴム
窓枠部10のガラス化膜…あり
窓台20の材料…スギ
(仕様2)
構造名:複層ガラス入り(網無し)、木製内開き・内倒し窓
ガラス部30のサイズ…高さ約2390mm、幅約1240mm
第1ガラス板31の材料/厚さ…結晶化ガラス/4mm厚
第2ガラス板32の材料/厚さ…低放射ガラス(Low-Eガラス)/4mm厚
空間Sの幅…16mm
封止樹脂35の接着樹脂352…ブチルゴム
窓枠部10のガラス化膜…あり
窓台20の材料…スギ
(仕様3)
構造名:複層ガラス入り(網無し)、木製FIX窓
ガラス部30のサイズ…高さ約2390mm、幅約1240mm
第1ガラス板31の材料/厚さ…結晶化ガラス/4mm厚
第2ガラス板32の材料/厚さ…低放射ガラス(Low-Eガラス)/4mm厚
空間Sの幅…16mm
封止樹脂35の接着樹脂352…ブチルゴム
窓枠部10のガラス化膜…あり
窓台20の材料…スギ
木製窓構造1としてスギの窓台20によって木製の窓枠部10を支持する場合、窓枠部10の窓台20と接する部分と、木製の柱2やまぐさ3と接する部分とで熱特性に差が生じやすい。このようなスギの窓台20を備えた木製窓構造1では、スギの窓台20を備えていない構造に比べ、燃焼試験におけるガラス面での熱分布(窓台20に近位な部分と遠位な部分との温度分布の差)が大きくなりやすい。
このため、スギの窓台20を用いることで、燃焼試験において防火設備の要件を満たさなかった2つの例(2枚の複層ガラス(耐熱ガラス/耐熱ガラス)の場合と、3枚の複層ガラス(低放射ガラス/結晶化ガラス/低放射ガラス)の場合)では、熱分布の不均一による不具合が顕著に現れると考えられる。
一方、本実施形態のようなガラス部30の構成(2枚の複層ガラス(結晶化ガラス/非結晶化ガラス))を採用することで、スギの窓台20を備えた木製窓構造1であっても、非加熱面への火炎の出現を抑制することができる。また、窓台20によって窓枠部10を支持する構成では、窓台20と窓枠部10との間に隙間が生じやすい。このため、この隙間において熱分布が発生しやすく、延焼を招きやすい。つまり、窓台20を備えた窓構造は、防火性能として不利であると考えられる。しかし、本実施形態では、窓台20によって窓枠部10を支持する構成であっても、上記のように防火設備の要件を満たしている。
(窓枠部の取り付け)
次に、窓枠部10の取り付けについて説明する。
図5は、窓枠部の取り付けについて説明する模式断面図である。
窓枠部10は、一対の柱2、まぐさ3および窓台20によって構成される矩形状の開口に嵌め込まれる。本実施形態に係る木製窓構造1の窓枠部10は、建物の屋内側から躯体(柱2およびまぐさ3)に取り付けられるようになっている。すなわち、ガラス部30が嵌め込まれた窓枠部10を躯体に取り付けるには、屋内側から窓枠部10を窓台20の上に載せ、上側の固定枠101を突き当て用の柱に当たるまで押し込む。この状態で固定枠101を柱2やまぐさ3にスクリューネジなどで固定する。
複層ガラスであるガラス部30を嵌め込んだ窓枠部10は重量物となる。このような窓枠部を躯体に取り付けるにあたり、屋外からの取り付け施工は困難である。建物の屋内側から窓枠部10を取り付けることができることで、重量物であっても容易に施工することができる。屋内側から取り付けられるため、建物の高層階であっても足場を使うことなく取り付け作業を行うことが可能となる。また、メンテナンスや窓の交換工事の際にも外部に足場を設ける必要がなく、屋内で工事を完結することができる。また、屋内側からの取り付け作業で済むため、外壁を壊すことなく窓の交換を行うことができる。さらに、日常の清掃も容易に行うことができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、スギを用いた木製の窓枠部とガラス部との組み合わせであっても、十分な防火性能を得ることができる木製窓構造を提供することが可能となる。
なお、上記に本実施形態およびその適用例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、前述の各実施形態またはその適用例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
1…木製窓構造
2…柱
2f…正面
2s…内側面
3…まぐさ
10…窓枠部
11…縦枠
11f…正面
11s…外側面
12…横枠
20…窓台
21…支持板
21a…上面
21b…下面
30…ガラス部
31…第1ガラス板
32…第2ガラス板
32f…低放射膜
35…封止樹脂
101…固定枠
102…可動枠
102a…延出部分
102b…押さえ枠
201…出先部分
210…上面溝部
220…連通溝部
230…下面溝部
351…スペーサ
352…接着樹脂
353…吸湿剤
S…空間

Claims (10)

  1. スギを用いた木製の窓枠部と、
    前記窓枠部に嵌め込まれたガラス部と、を備える木製窓構造であって、
    前記窓枠部は、内開きおよび内倒し可能に設けられ、
    前記ガラス部は、
    互いに内外の最表面であって所定の空間を介して配置された第1ガラス板および第2ガラス板と、
    前記第1ガラス板の周縁部分と前記第2ガラス板の周縁部分との間に設けられた封止樹脂と、を有し、
    前記第1ガラス板は、結晶化ガラスであり、
    前記第2ガラス板は、非結晶化ガラスである、木製窓構造。
  2. 前記第2ガラス板は、低放射ガラスである、請求項1記載の木製窓構造。
  3. 前記窓枠部の表面にガラス化膜が設けられた、請求項1または請求項2に記載の木製窓構造。
  4. 前記ガラス部は、前記第1ガラス板および前記第2ガラス板による2枚の複層ガラス構造である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の木製窓構造。
  5. 前記2枚の複層ガラス構造における前記第2ガラス板は低放射ガラスである、請求項4記載の木製窓構造。
  6. 前記第2ガラス板の表面には、透明誘電体膜、赤外線反射膜および透明誘電体膜を有する積層膜が設けられた、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の木製窓構造。
  7. 前記封止樹脂は、スペーサと、前記スペーサの内側に設けられた吸湿剤と、前記スペーサと前記第1ガラス板および前記第2ガラス板のそれぞれとの間に接着する接着樹脂と、を備える、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の木製窓構造。
  8. 前記接着樹脂はブチルゴムである、請求項記載の木製窓構造。
  9. 前記窓枠部の下側を支える窓台をさらに備え、
    前記窓台は、スギを用いた木製または石材の支持板を有し、
    前記支持板は、屋内側から屋外側へ延出する出先部分を有し、前記窓枠部の幅よりもわずかに広い幅と、前記窓枠部の奥行きよりも長い奥行きとを有する、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の木製窓構造。
  10. 前記窓枠部は、建物の躯体の屋内側から取り付けられた、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の木製窓構造。
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