以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
第1実施形態について説明する。本実施形態に係る制御装置10は、排出ガスセンサ100の制御を行うための装置として構成されている。図1には、排出ガスセンサ100が設けられる車両の排気系が模式的に示されている。同図に示されるように、当該車両の内燃機関EGには、内燃機関EGから排出された排出ガスを外部に導くための排気配管20が接続されている。排出ガスセンサ100は、排出ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を測定するためのものであって、排気配管20の途中となる位置に設けられている。尚、本実施形態においては、排出ガスセンサ100の検知対象となる成分は上記の通り窒素酸化物なのであるが、例えばアンモニアのように、窒素酸化物以外の成分であってもよい。
排気配管20の途中には、排出ガスセンサ100のほか、酸化触媒コンバータ22が設けられている。酸化触媒コンバータ22は、排出ガスに含まれる有害物質を浄化するものである。酸化触媒コンバータ22の内部には酸化触媒(不図示)が収容されている。酸化触媒は、主としてセラミック製の担体と、酸化アルミニウム、二酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムを成分とする酸化物混合物、並びに白金、パラジウム、ロジウムといった貴金属触媒で構成されている。酸化触媒は、排出ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物などを酸化させ浄化する。酸化触媒コンバータ22の内部には、上記の酸化触媒に加えて、微小粒子を捕捉するためのパティキュレートフィルタが収容されていてもよい。
制御装置10の制御対象である排出ガスセンサ100は、排気配管20のうち、酸化触媒コンバータ22の下流側となる位置に設けられており、当該位置における排出ガスの窒素酸化物の濃度を測定するものとなっている。
排出ガスセンサ100で測定された窒素酸化物の濃度は、制御装置10に伝えられる。制御装置10は、測定された窒素酸化物の濃度に基づいて、内燃機関EGの各種制御を行う。当該制御には、例えば、内燃機関EGにおける点火タイミングを調整する制御等が含まれる。
このように、本実施形態に係る制御装置10は、後に説明する排出ガスセンサ100の制御のほか、内燃機関EGの制御をも行う装置として構成されている。つまり、制御装置10は所謂「エンジンECU」としての機能をも有している。このような態様に換えて、制御装置10が、排出ガスセンサ100の制御を行うための専用の装置として構成されており、エンジンECUとは別の制御装置となっているような態様であってもよい。この場合、制御装置10は、エンジンECUと通信を行うことにより、エンジンECUが行う内燃機関EGの制御に寄与することとなる。
図2乃至図4を参照しながら、排出ガスセンサ100の具体的な構成について説明する。図2では、排出ガスセンサ100のうち排気配管20の内部に配置されている部分の断面が模式的に示されている。図2における左側、すなわち拡散抵抗体140が配置されている側の端部が、排気配管20の内部で突出する排出ガスセンサ100の先端部分に該当する。
排出ガスセンサ100は、固体電解質体110と、本体部120、130とを備えている。
固体電解質体110は板状の部材であって、酸化ジルコニア等の固体電解質材料によって構成されている。固体電解質体110は、所定温度以上の活性状態になると酸素イオン伝導性を有するようになる。固体電解質体110には、ポンプセル150、センサセル160、及びモニタセル170がそれぞれ形成されているのであるが、これら複数のセルについては後述する。
本体部120、130は、いずれも板状の部材であって、アルミナを主成分とする絶縁体材料によって構成されている。本体部120、130は、上記の固体電解質体110を間に挟むように配置されている。固体電解質体110の一方側に配置された本体部120のうち、固体電解質体110側の面の一部は、固体電解質体110とは反対側に向けて凹状に後退している。これにより、本体部120と固体電解質体110との間には空間が形成されている。当該空間は、測定対象である排出ガスが導入される空間となっている。以下では、当該空間のことを「測定室121」とも表記する。
排出ガスセンサ100の先端部分には拡散抵抗体140が配置されている。測定室121は、この拡散抵抗体140を介して外部(つまり排気配管20の内側)に開放されている。拡散抵抗体140は、多孔質又は細孔が形成されたアルミナ等のセラミック材料からなっている。拡散抵抗体140の作用により、測定室121内に引き込まれる排出ガスの流量が律せられる。拡散抵抗体140を通って測定室121に流入した排出ガスは、後述のポンプセル150やセンサセル160、モニタセル170へと供給される。
固体電解質体110の他方側に配置された本体部130のうち、固体電解質体110側の面の一部は、固体電解質体110とは反対側に向けて凹状に後退している。これにより、本体部130と固体電解質体110との間にも空間が形成されている。当該空間の一部(不図示)は、排気配管20の外側である大気に開放されている。つまり、当該空間は大気が導入される空間となっている。以下では、当該空間のことを「大気室131」とも表記する。
固体電解質体110のうち測定室121に接している方の面には、ポンプ電極111と、センサ電極112と、モニタ電極113と、がそれぞれ形成されている。ポンプ電極111は、固体電解質体110のうち拡散抵抗体140寄りとなる位置に形成されている。センサ電極112及びモニタ電極113は、固体電解質体110のうち、ポンプ電極111を間に挟んで拡散抵抗体140とは反対側となる位置に形成されている。センサ電極112及びモニタ電極113は、図2において紙面奥行方向に沿って並ぶように配置されている(図3を参照)。
ポンプ電極111及びモニタ電極113は、Pt-Au合金(白金-金合金)によって形成されている。これらはいずれも、酸素に対して活性であり、かつ窒素酸化物に対して不活性な電極となっている。一方、センサ電極112は、Pt(白金)やRh(ロジウム)等の貴金属によって形成されており、酸素に対して活性であり、且つ窒素酸化物に対しても活性な電極となっている。
固体電解質体110のうち大気室131に接している方の面には、共通電極114が形成されている。共通電極114は、図3のように固体電解質体110に対し垂直な方向に沿って見た場合において、ポンプ電極111、センサ電極112、及びモニタ電極113の全てに重なるような範囲に形成されている。共通電極114はPt(白金)を主成分とする材料によって形成されている。
固体電解質体110が高温の活性状態となっているときに、ポンプ電極111と共通電極114との間に電圧が印加されると、測定室121の排出ガスに含まれる酸素がポンプ電極111において分解され、酸素イオンとなって固体電解質体110を通過する。これにより、測定室121から大気室131へと酸素が排出される。つまり、ポンプ電極111、共通電極114、及び固体電解質体110のうちポンプ電極111と共通電極114との間に挟まれた部分は、排出ガスから酸素を排出するためのポンプセル150として機能する部分となっている。ポンプセル150は、本実施形態における「第1セル」に該当する。
上記のような酸素の排出が行われているときには、ポンプ電極111と共通電極114との間に電流が流れる。当該電流の値は、排出ガスから排出される酸素の量に比例した値であって、且つ、排出ガスの酸素濃度に比例した値となる。つまり、ポンプセル150は、排出ガスの酸素濃度に応じた大きさの電流を出力するものということができる。制御装置10は、上記電流の値に基づいて、測定室121に存在する排出ガスの酸素濃度を取得することができる。
ポンプ電極111と共通電極114との間に印加される電圧のことを、以下では「ポンプセル電圧」とも称する。また、ポンプセル電圧が印加された状態で、ポンプ電極111と共通電極114との間に流れる電流のことを、以下では「ポンプセル電流」とも称する。
固体電解質体110が高温の活性状態となっているときに、センサ電極112と共通電極114との間に電圧が印加されると、測定室121の排出ガスに含まれる酸素及び窒素酸化物がセンサ電極112において分解され、いずれも酸素イオンとなって固体電解質体110を通過する。その結果、センサ電極112と共通電極114との間には、センサ電極112の近傍における酸素及び窒素酸化物の濃度に応じた電流が流れることとなる。当該電流の値は制御装置10によって取得される。
つまり、センサ電極112、共通電極114、及び固体電解質体110のうちセンサ電極112と共通電極114との間に挟まれた部分は、排出ガスに含まれる残留酸素及び窒素酸化物の濃度に応じた大きさの電流を、電圧が印加された状態において出力するセンサセル160として機能する部分となっている。センサセル160によって窒素酸化物および残留酸素の濃度が測定される排出ガスは、ポンプセル150において酸素が排出された後の排出ガスである。センサセル160は、本実施形態における「第2セル」に該当する。
センサ電極112と共通電極114との間に印加される電圧のことを、以下では「センサセル電圧」とも称する。また、センサセル電圧が印加された状態で、センサ電極112と共通電極114との間に流れる電流のことを、以下では「センサセル電流」とも称する。
固体電解質体110が高温の活性状態となっているときに、モニタ電極113と共通電極114との間に電圧が印加されると、測定室121の排出ガスに含まれる酸素がモニタ電極113において分解され、酸素イオンとなって固体電解質体110を通過する。その結果、モニタ電極113と共通電極114との間には、モニタ電極113の近傍における酸素の濃度に応じた電流が流れることとなる。当該電流の値は制御装置10によって取得される。
つまり、モニタ電極113、共通電極114、及び固体電解質体110のうちモニタ電極113と共通電極114との間に挟まれた部分は、排出ガスに含まれる残留酸素の濃度に応じた大きさの電流を出力するモニタセル170として機能する部分となっている。モニタセル170によって残留酸素の濃度が測定される排出ガスは、ポンプセル150において酸素が排出された後の排出ガスである。
モニタ電極113と共通電極114との間に印加される電圧のことを、以下では「モニタセル電圧」とも称する。また、モニタセル電圧が印加された状態で、モニタ電極113と共通電極114との間に流れる電流のことを、以下では「モニタセル電流」とも称する。
このように、ポンプセル150の下流側となる位置には、ポンプセル150によって酸素が排出された後の排出ガスに含まれる、残留酸素の濃度に応じた大きさの電流を出力するモニタセル170と、ポンプセル150によって酸素が排出された後の排出ガスに含まれる、残留酸素及び窒素酸化物の濃度に応じた大きさの電流を出力するセンサセル160と、が配置されている。
拡散抵抗体140を通って測定室121に流入した排出ガスは、ポンプセル150に沿って流れた後、センサセル160及びモニタセル170のそれぞれに供給される。図4では、このような排出ガスの流れが複数の矢印で模式的に示されている。矢印AR10で示されるのは、拡散抵抗体140を通って測定室121に流入した後、ポンプセル150によって排出される酸素の流れである。ポンプセル150では、排出ガスに含まれる酸素の殆どが除去されるのであるが、酸素を完全に除去することは難しい。このため、僅かな量の酸素が、センサセル160及びモニタセル170のそれぞれに到達することとなる。矢印AR11で示されるのはセンサセル160に到達する酸素の流れであり、矢印AR12で示されるのはモニタセル170に到達する酸素の流れである。
既に述べたように、ポンプ電極111及びモニタ電極113は、いずれも窒素酸化物に対して不活性な電極となっている。このため、測定室121に流入した排出ガスに含まれる窒素酸化物は、ポンプセル150やモニタセル170によっては排出されず、そのままセンサセル160のセンサ電極112に到達することとなる。矢印AR20で示されるのは、このようにセンサセル160に到達する窒素酸化物の流れである。
図4に示されるように、センサセル160には窒素酸化物(矢印AR20)と残余の酸素(矢印AR11)との両方が到達する。このため、センサセル電流の大きさは、排出ガスに含まれる窒素酸化物及び酸素の濃度を示すものとなっている。
一方、モニタセル電流の大きさは、排出ガスに含まれる酸素の濃度を示すものとなっている。従って、センサセル電流の値から、モニタセル電流の値を差し引いて得られる電流値は、窒素酸化物のみの濃度を示すものとなる。このような排出ガスセンサ100では、排出ガスに含まれる酸素の影響を抑制し、窒素酸化物の濃度を正確に測定することが可能となっている。
図2に示されるように、本体部130にはヒーター180が埋設されている。ヒーター180は、本体部130の内側において発熱し、ポンプセル150、センサセル160、及びモニタセル170のそれぞれを加熱するためのものである。ヒーター180によって、固体電解質体110が活性となる温度に保たれる。ヒーター180の出力は制御装置10によって調整される。
図2を参照しながら、制御装置10の構成について説明する。制御装置10は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムとして構成されている。制御装置10は、その機能を表すブロック要素として、濃度検知部11と、内燃機関制御部12と、第1セル制御部13と、第1取得部14と、第2取得部15と、記憶部16と、劣化率算出部17と、を備えている。
濃度検知部11は、モニタセル電流及びセンサセル電流のそれぞれに基づいて、排出ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を検知する部分である。既に述べたように、濃度検知部11による窒素酸化物の濃度の検知は、センサセル電流の値からモニタセル電流の値を差し引いて得られる電流値に基づいて行われる。
内燃機関制御部12は、濃度検知部11によって検知された窒素酸化物の濃度に基づいて、内燃機関EGの制御を行う部分である。内燃機関制御部12は、排出ガスセンサ100によって検知される窒素酸化物の濃度が0に近づくように、内燃機関EGの燃料噴射量等を調節する。既に述べたように、制御装置10が排出ガスセンサ100の制御を行うための専用の装置として構成されており、エンジンECUとは別の制御装置となっているような態様であってもよい。この場合、内燃機関制御部12はエンジンECUの一部として構成されることとなる。
第1セル制御部13は、ポンプセル電圧を変化させることにより、第1セルであるポンプセル150による酸素の排出を制御する部分である。排出ガスセンサ100による窒素酸化物の濃度検知が行われているとき、すなわち通常時においては、第1セル制御部13はポンプセル電圧を概ね一定の値に維持する。一方、後に説明する劣化率の算出が行われる際には、第1セル制御部13はポンプセル電圧を一時的に低下させる。
第1取得部14は、第2セルから出力される電流の変化の傾き、すなわち、センサセル電流の変化の傾きを取得する処理を行う部分である。第2取得部15は、第2セルから出力される電流の収束値、すなわち、センサセル電流の収束値を取得する処理を行う部分である。第1取得部14により取得された傾き、及び、第2取得部15により取得された収束値は、後に説明する劣化率の算出に用いられる。
記憶部16は、制御装置10に設けられた不揮発性の記憶装置であり、具体的にはフラッシュメモリである。記憶部16には、劣化率の算出を行うために必要となる情報が予め記憶されている。当該情報の具体的な内容については後に説明する。
劣化率算出部17は、排出ガスセンサ100の劣化率を算出する処理を行う部分である。「劣化率」とは、排出ガスセンサ100で生じている劣化の度合いを示す指標であって、排出ガスセンサ100の劣化が進行するほど大きな値として算出されるものである。本実施形態では、劣化率は0%から100%までの範囲のいずれかの値、として算出される。劣化率の具体的な算出方法については後に説明する。
劣化率算出部17によって算出される劣化率は、例えば、排出ガスセンサ100が正常か否かを判定するための指標として用いられる。算出された劣化率が所定値を超えた場合には、車両に設けられた警告灯を点灯させ、乗員に対し交換等の対応を促すことができる。排出ガスセンサ100で取得される窒素酸化物の濃度の値を、劣化率を用いて補正することとしてもよい。
劣化率を算出するために行われる処理の概要について説明する。図5(A)に示されるのは、劣化率の算出が行われる際における、ポンプセル電圧の時間変化の例である。図5(B)に示されるのは、ポンプセル電流の時間変化の例である。図5(C)に示されるのは、センサセル電流の時間変化の例である。
図5に示される例では、通常時の制御、つまり窒素酸化物濃度を測定するための処理が時刻t0において一時的に停止されており、時刻t0から、劣化率を算出するための処理が開始されている。時刻t0においては、ポンプセル150に印加される電圧が、当初のVP1から、これよりも低いVP0へと変更されている(図5(A))。当該処理は第1セル制御部13によって行われる。その結果、ポンプセル150による酸素の排出は、時刻t0以降においては一時的に抑制された状態となる。
これに伴い、ポンプセル電流は、当初のIP0から、これよりも低いIP1へと低下している(図5(B))。ポンプセル電流がこのように減少したことは、ポンプセル150を通過してセンサセル160へと到達する酸素の量が、時刻t0以降においては増加したことを意味する。このため、図5(C)の線L10に示されるように、センサセル電流は時刻t0から増加し始めており、最終的には概ね一定の値に収束している。
その後の時刻t3では、ポンプセル電圧が元の値VP1に戻される(図5(A))。それに伴い、ポンプセル電流の値は上昇しIP2となっている。IP2は、元の値であるIP0に等しくなることもあるが、それまでにおける内燃機関の状態変化等により、IP0とは僅かに異なる値となることが多い。
時刻t3以降は、センサセル160へと到達する酸素の量が減少する。これに伴い、センサセル電流の値は時刻t3以降において減少している(図5(C))。このように、劣化率を算出するにあたっては、ポンプセル150による酸素の排出が一時的に抑制される。図5においては、ポンプセル150による酸素の排出が一時的に抑制される期間が「期間TM0」として示されている。
図5(C)の線L10は、センサセル160に劣化が生じていない正常時における、センサセル電流の時間変化を示している。一方、同図の線L11は、センサセル160に劣化が生じているときにおける、センサセル電流の時間変化を示している。
線L10と線L11とを比較すると明らかなように、時刻t0以降におけるセンサセル電流の変化の傾きは、センサセル160に劣化が生じている場合には、正常時に比べて小さくなる。また、センサセル160の劣化の度合いが大きくなるほど、上記の傾きは小さくなる傾向がある。このため、時刻t0以降のセンサセル電流の変化の傾きに基づけば、劣化率を算出することができる。例えば、センサセル電流の変化の傾きと劣化率との対応関係を、予めマップとして作成しておけば、当該マップを参照することにより、センサセル電流の変化の傾きに基づいて劣化率を算出することができる。
しかしながら、センサセル電流の変化の傾きと、劣化の度合いを示す劣化率と、の対応関係は、常に同じなのではなく、劣化の原因によって変化する。これについて、図6を参照しながら説明する。
図6の線L20は、図5(C)の線L10と同様に、センサセル160に劣化が生じていないときにおけるセンサセル電流の時間変化を示すものである。線L21は、センサセル160のセンサ電極112で被毒劣化が生じているときにおける、センサセル電流の時間変化を示すものである。「被毒劣化」とは、ポンプセル150のポンプ電極111の成分が蒸散し、下流側のセンサ電極112に付着することにより、センサセル160の性能が低下してしまう劣化のことである。本実施形態の場合には、ポンプ電極111に含まれるAu(金)が蒸散することにより、上記のような被毒劣化が生じ得る。
線L21に示されるように、センサセル160において被毒劣化が生じた場合には、期間TM0におけるセンサセル電流の変化の傾きは、正常時(線L20)に比べて小さくなる。ただし、ポンプセル150による酸素の排出が抑制されてから、しばらく時間が経過した後のセンサセル電流の収束値は、正常時における収束値と概ね同じとなる。
図6の線L22は、センサセル160のセンサ電極112で凝集劣化が生じているときにおける、センサセル電流の時間変化を示すものである。「凝集劣化」とは、センサセル160のセンサ電極112が温度の影響により凝集し、その表面積が低下してしまうことにより、センサセル160の性能が低下してしまう劣化のことである。
線L22に示されるように、センサセル160において被毒劣化が生じた場合には、期間TM0におけるセンサセル電流の変化の傾きは、正常時(線L20)に比べて小さくなるものの、その変化量は僅かである。一方、ポンプセル150による酸素の排出が抑制されてから、しばらく時間が経過した後のセンサセル電流の収束値は、正常時における収束値に比べると小さくなる。
このように、本発明者らは、センサセル160において被毒劣化が生じた場合には、センサセル電流の変化の傾きが低下し、センサセル160において凝集劣化が生じた場合には、センサセル電流の収束値が低下する、という知見を得ている。
従来においては、センサセル160の劣化の原因に寄らず、センサセル電流の変化の傾きのみに基づいて劣化率の算出が行われていた。このため、例えば、凝集劣化が生じていた場合に、センサセル電流の変化の傾きは僅かしか低下しないことに起因して、劣化率が小さい、すなわちセンサセル160において劣化がほとんど生じていない、との誤判定がなされてしまう可能性があった。
そこで、本実施形態に係る制御装置10では、センサセル電流の変化の傾きと、センサセル電流の収束値と、の両方に基づいて、劣化率算出部17が劣化率を算出することとしている。これにより、被毒劣化及び凝集劣化のいずれが生じた場合であっても、劣化率を正確に算出することが可能となっている。
劣化率を算出するために行われる処理の具体的な内容について説明する。図7に示されるのは、ポンプセル150による酸素の排出が一時的に抑制される期間TM0における、センサセル電流の変化の一例である。制御装置10は、このようなセンサセル電流の変化の波形を、所定の周期でサンプリングすることにより取得する。
図7では、時刻t3におけるセンサセル電流の値がIS3として示されている。このIS3は、期間TM0の最後となるタイミングにおけるセンサセル電流の値である。期間TM0は、センサセル電流の値が概ね一定値に収束するまでの期間として予め設定された期間であって、3秒間から10秒間までのいずれかに設定されていることが好ましい。上記のIS3は、ポンプセル150による酸素の排出が抑制されてから、しばらく時間が経過して収束した後におけるセンサセル電流の値、すなわち、センサセル電流の「収束値」に該当する。以下では、IS3のことを「収束値IS3」とも称する。制御装置10の第2取得部15は、期間TM0の終了タイミングで取得されたセンサセル電流の値を、収束値IS3として取得する。
図7に示されるIS1は、収束値IS3の所定割合の値として設定されたセンサセル電流の値である。この「所定割合」の値は、0%から50%までの何れかの値として設定されることが好ましい。図7では、センサセル電流の値がIS1に到達したタイミングが、時刻t1として示されている。また、図7のグラフ上には、時刻t1に対応する点P1が示されている。
図7に示されるIS2は、収束値IS3の所定割合の値として設定されたセンサセル電流の値である。この「所定割合」の値は、30%から100%までの何れかの値として設定されることが好ましい。図7では、センサセル電流の値がIS2に到達したタイミングが、時刻t2として示されている。また、図7のグラフ上には、時刻t2に対応する点P2が示されている。
制御装置10の第1取得部14は、時刻t1から時刻t2までの期間におけるセンサセル電流の値の変化の傾きを、「傾きA1」として算出する。傾きA1は、点P1と点P2とを結ぶ直線の傾きであって、
A1=(IS2-IS1)/(t2-t1)
の式により算出される。
本実施形態では上記のように、傾きA1が、所定の期間における傾きとして算出される。このような態様に替えて、傾きA1が、所定のタイミングにおける傾きとして算出されてもよい。所定のタイミングにおける傾きとは、例えば、センサセル電流の変化を示すグラフにおける、特定の時点における微分係数のことである。すなわち、上記の「所定の期間」の長さを極限まで0に近づけた上で、傾きA1が算出されることとしてもよい。
劣化率算出部17は、傾きA1に基づいて、排出ガスセンサ100で生じている劣化の度合いを示す指標の一つである「第1劣化率」を算出する。第1劣化率は、センサセル160において生じている被毒劣化の程度を示す指標として用いられる。第1劣化率は0%から100%までの値をとるものであり、センサセル160において生じている被毒劣化の程度が大きいほど、大きな値として算出される。
制御装置10の記憶部16には、図8のようなマップが記憶されている。図8のマップは、傾きA1に基づいて、第1劣化率を算出するためのものである。
図8の縦軸に示されるのは第1劣化率である。図8の横軸に示されるのは、傾きA1を、A1の基準値で除することにより得られる「第1指標」である。「A1の基準値」とは、排出ガスセンサ100で劣化が生じていないときに取得される、傾きA1の初期値である。図8の横軸に示される第1指標は、第1取得部14により取得される傾きA1を示す指標、ということができる。このように、制御装置10の記憶部16には、第1取得部14により取得される傾きA1を示す第1指標と、第1劣化率との対応関係が、図8のようなマップとして予め記憶されている。尚、このような対応関係は、マップではなく数式として記憶されていてもよい。
劣化率算出部17は、収束値IS3に基づいて、排出ガスセンサ100で生じている劣化の度合いを示す指標のもう一つである「第2劣化率」を算出する。第2劣化率は、センサセル160において生じている凝集劣化の程度を示す指標として用いられる。第2劣化率は0%から100%までの値をとるものであり、センサセル160において生じている凝集劣化の程度が大きいほど、大きな値として算出される。
制御装置10の記憶部16には、更に図9のようなマップも記憶されている。図9のマップは、収束値IS3に基づいて、第2劣化率を算出するためのものである。
図9の縦軸に示されるのは第2劣化率である。図9の横軸に示されるのは、収束値IS3を、収束値IS3の基準値で除することにより得られる「第2指標」である。「収束値IS3の基準値」とは、排出ガスセンサ100で劣化が生じていないときに取得される、収束値IS3の初期値である。図9の横軸に示される第1指標は、第2取得部15により取得される収束値IS3を示す指標、ということができる。このように、制御装置10の記憶部16には、第2取得部15により取得される収束値IS3を示す第2指標と、第2劣化率との対応関係が、図9のようなマップとして予め記憶されている。尚、このような対応関係は、マップではなく数式として記憶されていてもよい。
劣化率算出部17は、図7に示されるようなセンサセル電流の波形を取得した後、図8の対応関係を参照することによって第1劣化率を算出し、図9の対応関係を参照することによって第2劣化率を算出する。その後、第1劣化率及び第2劣化率のうち、大きい方の値を、最終的な劣化率として算出する。
このように、本実施形態では、第1取得部14により取得された傾きA1と、第2取得部15により取得された収束値IS3と、の両方に基づいて、劣化率算出部17が劣化率を算出する。このため、被毒劣化及び凝集劣化のいずれが生じた場合であっても、劣化率を正確に算出することができる。
劣化率算出部17は、第1取得部14により取得された傾きA1に基づいて第1劣化率を算出し、第2取得部15により取得された収束値IS3に基づいて第2劣化率を算出し、第1劣化率及び第2劣化率に基づいて劣化率を算出する。具体的には、劣化率算出部17は、第1劣化率及び第2劣化率のうち大きい方の値を劣化率として算出する。
被毒劣化及び凝集劣化のいずれかが生じると、第1劣化率及び第2劣化率のうち少なくとも一方の値が大きくなる。このため、例えば、凝集劣化のみが生じており、第1劣化率が正常時と同様の小さな値となっている場合であっても、大きくなった方の第2劣化率に基づいて、劣化率を正確に算出することができる。
記憶部16には、第1取得部14により取得される傾きA1を示す第1指標と、第1劣化率との対応関係(図8)、及び、第2取得部15により取得される収束値IS3を示す第2指標と、第2劣化率との対応関係(図9)、のそれぞれが記憶されている。このため、最終的な劣化率の算出に用いられる第1劣化率及び第2劣化率のそれぞれを、容易に算出することが可能となっている。
先に述べたように、ポンプセル150のポンプ電極111は、Pt-Au合金によって形成されており、金を含有している。金は比較的その融点が低いので、ポンプセル150の温度上昇に伴って金の一部が蒸散し、下流側にあるセンサセル160のセンサ電極112に付着してしまうことがある。
このように、センサセル160の電極が金を含有している構成の排出ガスセンサ100では、金の蒸散に伴うセンサセル160の被毒劣化が特に生じやすい。このため、以上に説明したような劣化率算出部17による劣化率の算出方法を採用するメリットが特に大きい。
本実施形態に係る排出ガスセンサ100は、ポンプセル150のポンプ電極111と、センサセル160のセンサ電極112とが、同じ測定室121の中に配置されている。すなわち、同一の空間内に配置されている。「同一の空間内に配置されている」とは、ポンプ電極111が配置されている空間と、センサ電極112が配置されている空間との間が、例えば多孔質体のような構造物によって仕切られていないことを意味する。
このような構成の排出ガスセンサ100では、ポンプセル150から蒸散したAuのような被毒物質が、下流側にあるセンサセル160の電極に直接到達しやすく、センサセル160の被毒劣化が生じやすい。このため、以上に説明したような劣化率算出部17による劣化率の算出方法を採用するメリットが特に大きい。
以上に述べたような劣化率の算出を実現するために、制御装置10により実行される具体的な処理の流れについて、図10を参照しながら説明する。図10に示される一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に、制御装置10によって繰り返し実行されるものである。
当該処理の最初のステップS01では、車両のイグニッションスイッチがOFFとなっているか否かが判定される。イグニッションスイッチがONとなっている場合には、劣化率の算出を行うことなく、図10に示される一連の処理を終了する。
イグニッションスイッチがONとなっており、内燃機関EGから排出ガスが排出されているときには、排出ガスセンサ100の周囲における酸素濃度が変動している可能性がある。このような状況の下では、センサセル電流の変化の傾きが、劣化率以外の要因によって変化してしまうため、センサセル電流の変化の傾きに基づいて劣化率を精度良く算出することが難しい。そこで、本実施形態では、イグニッションスイッチがONのときには劣化率の算出が禁止されることとしている。
ステップS01において、イグニッションスイッチがOFFとなっている場合には、ステップS02に移行する。ステップS02では、所定の環境条件が成立しているか否かが判定される。「環境条件」とは、劣化率の算出を行うために必要な条件として、予め設定されたものである。本実施形態では、排出ガスセンサ100の周囲における酸素濃度の値が所定範囲内であり、且つ、同酸素濃度の変動幅の大きさが所定値以下であることが、環境条件として設定されている。尚、「排出ガスセンサ100の周囲における酸素濃度」は、ポンプセル電流の値に基づいて取得することができる。
環境条件が成立していない場合には、センサセル電流の変化の傾きに基づいて劣化率を精度良く算出することが難しい。このため、この場合には劣化率の算出を行うことなく、図10に示される一連の処理を終了する。環境条件が成立している場合にはステップS03に移行する。
ステップS03では、ポンプセル電流の値を取得する処理が行われる。ここで取得されるポンプセル電流の値は、ポンプセル150による酸素の排出の抑制が開始される直前におけるポンプセル電流の値、すなわち、図5(B)におけるIP0の値として取得されるものである。
ステップS03に続くステップS04では、第1セル制御部13により、ポンプセル150による酸素の排出の抑制が開始される。先に述べたように、ここでは、ポンプセル電圧が、当初のVP1から、これよりも低いVP0へと変更される。これにより、期間TM0が開始されることとなる。以降においては、センサセル電流の変化の波形、及びポンプセル電流の変化の波形が、それぞれ所定の周期で制御装置10によりサンプリングされる。
このサンプリングは、図5(B)に示される時刻t0から、時刻t4までの期間において行われる。時刻t4は、期間TM0が終了してポンプセル電圧がVP1に戻された後、ポンプセル電流の値が安定するタイミングとして予め設定されている。本実施形態では、劣化診断時においてセンサセル電流の値が収束する期間、すなわち時刻t0から時刻t3までの期間TM0の長さが、3秒間から10秒間までのいずれかに設定されており、時刻t0から時刻t4までの期間の長さが、15秒間から30秒間までのいずれかに設定されている。つまり、本実施形態では、期間TM0よりも長い期間に亘りサンプリングが実行される。
ステップS04に移行した時点から、上記のサンプリング期間が経過すると、サンプリングを停止すると共に、ステップS05に移行する。ステップS05では、サンプリングされたポンプセル電流の変化の波形から、図5(B)に示されるIP1及びIP2の値が取得される。尚、IP1は、期間TM0が終了する直前におけるポンプセル電流の値である。
更にステップS05では、サンプリングされたセンサセル電流の変化の波形から、図7に示されるIS1、IS2、及びIS3のそれぞれの値が取得される。それぞれの値の意味及びそれぞれの値が取得されるタイミングは、図7を参照しながら先に述べた通りである。これらのうち少なくともIS3を取得する処理は、第2取得部15によって行われる。
ステップS05に続くステップS06では、図5(B)に示されるΔIPを算出する処理が行われる。図5(B)に示される点線DL1は、時刻t0から時刻t4までの期間において、ポンプセル電流の値がIP0からIP2へと一定の傾きで変化した場合における、当該変化を示す直線である。当該直線は、ポンプセル電圧の値が仮にVP1のまま一定に維持されていた場合における、ポンプセル電流の値の変化を示すもの、ということができる。ポンプセル電流の変化量であるΔIPは、このように定義される点線DL1と、時刻t3の直前におけるポンプセル電流の値(つまりIP1)との差として算出される。このΔIPは、ポンプセル150による酸素の排出が抑制される量に相当するものである。ΔIPは、期間TM0の開始に伴い、センサセル160に到達する酸素の増加量に相当するもの、ということもできる。
ステップS06に続くステップS07では、ステップS05で算出された各値に基づいて、傾きA1の値が算出される。先に述べた通り、傾きA1の値は、A1=(IS2-IS1)/(t2-t1)の式を用いて算出される。当該処理は、第1取得部14によって行われる。
ステップS07に続くステップS08では、第1指標及び第2指標が算出される。先に述べた通り、第1指標は、傾きA1を、A1の基準値で除することにより算出される。第2指標は、収束値IS3を、収束値IS3の基準値で除することにより算出される。
ステップS08に続くステップS09では、劣化率算出部17により、第1劣化率及び第2劣化率のそれぞれを算出する処理が行われる。劣化率算出部17は、ステップS09で算出された第1指標と、図8の対応関係とを参照することで、第1劣化率を参照する。また、ステップS09で算出された第2指標と、図9の対応関係とを参照することで、第2劣化率を参照する。
ステップS09に続くステップS10では、ステップS09で算出された第1劣化率及び第2劣化率に基づいて、劣化率算出部17が最終的な劣化率を算出する。具体的には、第1劣化率及び第2劣化率のうち大きい方の値を劣化率として算出する。これにより、被毒劣化及び凝集劣化のいずれが生じている場合であっても、劣化率が正確に算出される。
第2実施形態について説明する。本実施形態では、制御装置10により実行される処理の内容においてのみ第1実施形態と異なっている。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図11に示される一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に、制御装置10によって繰り返し実行されるものであって、図10に示される処理に替えて実行されるものである。尚、図11のうち、ステップS01からステップS09までの処理は、図10に示されるものと同じである。
ステップS09において、第1劣化率及び第2劣化率の算出が行われると、本実施形態ではステップS21に移行する。ステップS21では、ステップS09で算出された第1劣化率及び第2劣化率に基づいて、劣化率算出部17が最終的な劣化率を算出する。具体的には、第1劣化率及び第2劣化率の合計値を劣化率として算出する。例えば、第1劣化率が15%として算出され、第2劣化率が15%として算出されていた場合には、最終的な劣化率は30%として算出される。
仮に、センサセル160において被毒劣化及び凝集劣化の両方が同時に生じている場合には、一方のみが生じている場合に比べて、排出ガスセンサ100を交換する必要性がより大きいということができる。そこで、本実施形態では、上記のように第1劣化率及び第2劣化率の合計値を劣化率として算出することしている。これにより、センサセル160において被毒劣化及び凝集劣化の両方が同時に生じている場合には、最終的な劣化率が比較的大きな値として算出されるので、センサセル160の交換をより早期に促す等の対応をとることが可能となる。
第3実施形態について説明する。本実施形態では、制御装置10により実行される処理の内容においてのみ第1実施形態と異なっている。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図12に示される一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に、制御装置10によって繰り返し実行されるものであって、図10に示される処理に替えて実行されるものである。尚、図12のうち、ステップS01からステップS09までの処理は、図10に示されるものと同じである。
ステップS09において、第1劣化率及び第2劣化率の算出が行われると、本実施形態ではステップS31に移行する。ステップS31では、第1劣化率と第2劣化率との差の絶対値が、所定値以下であるか否かが判定される。第1劣化率と第2劣化率との差の絶対値が所定値以下である場合には、ステップS32に移行する。
ステップS32に移行したということは、センサセル160において、被毒劣化及び凝集劣化のいずれも生じていないか、もしくはこれらが同時に生じている可能性が高いということである。この場合、劣化率算出部17は、第1劣化率及び第2劣化率の合計値を劣化率として算出する。これにより、第2実施形態で説明したものと同様の効果を奏することができる。
ステップS31において、第1劣化率と第2劣化率との差の絶対値が所定値を超えていた場合には、ステップS33に移行する。ステップS33に移行したということは、センサセル160において、被毒劣化及び凝集劣化のいずれか一方のみが生じている可能性が高いということである。そこで、ステップS33では、劣化率算出部17は、第1劣化率及び第2劣化率うち大きい方の値を劣化率として算出する。これにより、生じている劣化の原因に応じた正確な劣化率を算出することが可能となる。
このように、本実施形態に係る劣化率算出部17は、第1劣化率と第2劣化率との差の絶対値が所定値以下であれば、第1劣化率と前記第2劣化率との合計値を劣化率として算出し(ステップS32)、第1劣化率と第2劣化率との差の絶対値が所定値を超えていれば、第1劣化率及び第2劣化率のうち大きい方の値を劣化率として算出する(ステップS33)ように構成されている。
第4実施形態について説明する。本実施形態では、制御装置10により実行される処理の内容においてのみ第1実施形態と異なっている。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
本実施形態では、第1指標と劣化率との対応関係が、記憶部16に複数記憶されている。これら複数の対応関係には、図13の線L31に示される第1の対応関係と、線L32に示される第2の対応関係とが含まれている。劣化率算出部17は、これら複数の対応関係の中から、状況に応じた適切な対応関係を1つ選択し、選択された対応関係を用いて劣化率を算出する。
線L31に示される第1の対応関係は、センサセル160において被毒劣化が生じている可能性が高い場合に用いられるものである。線L32に示される第2の対応関係は、センサセル160において凝集劣化が生じている可能性が高い場合に用いられるものである。劣化率算出部17は、収束値IS3を示す第2指標に基づいて、これらの対応関係のうちの1つを選択する。
具体的には、第2指標が所定の閾値以上である場合には、センサセル160において被毒劣化が生じている可能性が高いため、劣化率算出部17は第1の対応関係(線L31)を選択し、これを用いて劣化率を算出する。一方、第2指標が上記の閾値未満である場合には、センサセル160において凝集劣化が生じている可能性が高いため、劣化率算出部17は第2の対応関係(線L32)を選択し、これを用いて劣化率を算出する。
図13の線L31、32のように、本実施形態の記憶部16に記憶されている複数の対応関係のそれぞれは、収束値IS3を示す第2指標の値に対応するもの、ということができる。このように、本実施形態に係る記憶部16には、第1取得部14により取得される傾きA1を示す第1指標と、劣化率との対応関係が、第2取得部により取得される収束値IS3を示す指標毎に複数記憶されている。
以上に述べたような劣化率の算出を実現するために、制御装置10により実行される具体的な処理の流れについて、図14を参照しながら説明する。図14に示される一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に、制御装置10によって繰り返し実行されるものであって、図10に示される処理に替えて実行されるものである。尚、図14のうち、ステップS01からステップS08までの処理は、図10に示されるものと同じである。
ステップS08において、第1指標及び第2指標のそれぞれを算出する処理が行われた後は、本実施形態ではステップS41に移行する。ステップS41では、ステップS08で算出された第2指標が、閾値以上であるか否かが判定される。第2指標が閾値以上であった場合にはステップS42に移行する。ステップS42に移行したということは、収束値IS3の値が比較的大きく、劣化が生じていない場合の初期値に近い値に維持されているということである。この場合、図6の線L21の例のように、センサセル160において被毒劣化が生じている可能性が高い。このため、劣化率算出部17は、第1の対応関係を選択する。その後、劣化率算出部17は、選択された第1の対応関係を用いて、ステップS08で算出された第1指標に対応する劣化率を、最終的な劣化率として算出する。
ステップS41において、第2指標が閾値未満であった場合には、ステップS043に移行する。ステップS43に移行したということは、収束値IS3の値が比較的小さく、劣化が生じていない場合の初期値に比べると低下しているということである。この場合、図6の線L22の例のように、センサセル160において凝集劣化が生じている可能性が高い。このため、劣化率算出部17は、第2の対応関係を選択する。その後、劣化率算出部17は、選択された第2の対応関係を用いて、ステップS08で算出された第1指標に対応する劣化率を、最終的な劣化率として算出する。
以上のように、本実施形態の劣化率算出部17は、第2取得部15により取得された収束値IS2に基づいて対応関係を1つ選択し、当該対応関係に基づいて前記劣化率を算出する。具体的には、劣化率算出部17は、第2取得部15により取得された収束値IS3を示す指標と、所定の閾値と、の大小関係に基づいて、対応関係を1つ選択する。これにより、生じている劣化の原因に応じた適切な対応関係に基づいて、劣化率を正確に算出することが可能となる。
凝集劣化が生じているときには、被毒劣化が生じているときに比べて、傾きA1の低下量は小さい。この点に鑑みれば、図13の例のように、第2の対応関係(線L32)に示される劣化率の値が、第1の対応関係(線L31)に示される劣化率の値よりも大きくなるように、それぞれの対応関係が設定されることが好ましい。
尚、対応関係を選択するために用いられる指標、すなわち、「第2取得部により取得された収束値を示す指標」としては、本実施形態のように第2指標を用いてもよいのであるが、これとは異なる指標が用いられてもよい。例えば、取得された収束値IS2と、「収束値IS3の基準値」との差の絶対値が、第2取得部により取得された収束値を示す指標として用いられてもよい。この場合、図14のステップS41では、上記の絶対値が所定の閾値以下であるときに、ステップS42に移行し、それ以外の場合にはステップS43に移行することとなる。
記憶部16に記憶されている対応関係の数は、本実施形態のように2つであってもよいが、3つ以上であってもよい。この場合も、劣化率算出部17は、第2取得部により取得された収束値を示す指標に基づいて、複数の対応関係うちの1つを選択し、これを用いて劣化率を算出すればよい。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
本開示に記載の制御装置及び制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。