以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
[実施形態]
図1〜図9を参照して本発明に係るガスセンサの劣化診断装置の一実施形態について説明する。本実施形態では、内燃機関(エンジン)の排出ガス(被検出ガス)中の特定ガス成分の濃度を検出するガスセンサの一例として、排出ガス中のNOx濃度を計測するNOxセンサ24,30を挙げて説明する。
図1に示されるように、エンジン排気系ESには、SCU(Sensor Control Unit)40が設けられている。SCU40は、ECU(Engine Control Unit)10とCAN(Controller Area Network)バス50を介して繋がっており、ECU10と情報通信を行っている。ECU10は、ディーゼルエンジン20及びそれに繋がるエンジン排気系ESを制御する装置である。ECU10は、ディーゼルエンジン20の挙動を制御する機能を有している。ECU10は、アクセル開度及びエンジン回転速度に基づいて燃料噴射弁の開度を調整する。SCU40は、限界電流式のNOxセンサ24,30を用い、エンジン排気系ESを流れる内燃機関の排出ガス中の酸素(O2)濃度を検出すると共に、特定ガス成分の濃度としてのNOx(窒素酸化物)濃度を検出する。
エンジン排気系ESには、ディーゼルエンジン20側から順に、ディーゼル酸化触媒コンバータ22と、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒コンバータ28と、が設けられている。ディーゼル酸化触媒コンバータ22は、ディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)221と、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)222と、を有している。
ディーゼル酸化触媒コンバータ22は、排出ガスに含まれる有害物質を酸化又は還元により浄化するものであって、特に炭素などからなる粒子状物質(PM)を捕集する装置である。
ディーゼル酸化触媒221は、主としてセラミック製の担体と、酸化アルミニウム、二酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムを成分とする酸化物混合物、並びに白金、パラジウム、ロジウムといった貴金属触媒で構成されている。ディーゼル酸化触媒221は、排出ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物などを酸化させ浄化する。また、ディーゼル酸化触媒221は、触媒反応の際に発生する熱により排出ガス温度を上昇させる。
ディーゼルパティキュレートフィルタ222は、多孔質セラミックに白金やパラジウムなどの白金族触媒が担持され、ハニカム構造体で形成される。ディーゼルパティキュレートフィルタ222は、排出ガス中に含まれる粒子状物質をハニカム構造体の隔壁に堆積させる。堆積した粒子状物質は、燃焼によって酸化され浄化される。この燃焼には、ディーゼル酸化触媒221における温度上昇や、添加剤による粒子状物質の燃焼温度低下が利用される。
SCR触媒コンバータ28は、ディーゼル酸化触媒コンバータ22の後処理装置としてNOxを窒素と水に還元する装置であって、選択還元型の触媒であるSCR281を有する。SCR281は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持した触媒が例示できる。SCR281は、触媒温度が活性温度域にあり、さらに、還元剤としての尿素が添加されているときにNOxを還元浄化するものである。尿素添加のため、SCR触媒コンバータ28の上流側には、尿素添加インジェクタ26が設けられている。
本実施形態では、ディーゼル酸化触媒コンバータ22と尿素添加インジェクタ26との間にNOxセンサ24が、SCR触媒コンバータ28の下流側にNOxセンサ30がそれぞれ配置されている。
NOxセンサ24で検出されるNOx濃度と、NOxセンサ30で検出されるNOx濃度とに基づき尿素添加インジェクタ26からSCR触媒コンバータ28に対して添加される尿素の量が決定される。より具体的には、NOxセンサ24においてSCR触媒コンバータ28通過前の排出ガスから検出されるNOx濃度に基づいて添加する尿素の量が決定される。また、NOxセンサ30においてSCR触媒コンバータ28を通過した後の排出ガスから検出されるNOx濃度が極力小さい値となるようにフィードバックし、添加する尿素の量を補正する。このように決定された量の尿素が、尿素添加インジェクタ26からSCR281に対して添加されることで、SCR281において排出ガス中のNOxが適正に還元される。このように、排出ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物は、NOxセンサ24及びNOxセンサ30を通過した後、テールパイプ(不図示)から外部に排出される。
NOxセンサ24及びNOxセンサ30が出力する電流は、SCU40が検出している。SCU40は、NOxセンサ24,30から検出した電流値からNOx濃度の算出や上記の尿素添加インジェクタ26の制御などを行い、必要なデータをECU10に送信している。ECU10及びSCU40は、CAN(Controller Area Network)バス50に繋がっており、CANバス50を介して情報通信を行っている。
SCU40は、CPU、RAM、ROM、入出力ポート、及び記憶装置を含むものである。NOxセンサ24とNOxセンサ30とは同一の構成であるため、NOxセンサ24を例にとってその構成を説明し、併せてSCU40の構成についても説明する。
図2及び図3に示されるように、NOxセンサ24は、第1本体部241aと、第2本体部241bと、固体電解質体244と、拡散抵抗体245と、ポンプ電極251と、ヒータ247と、センサ電極252と、モニタ電極253と、共通電極250と、を備えている。
ポンプ電極251と共通電極250と固体電解質体244の一部とによって、排気ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル246が形成されている。モニタ電極253と共通電極250と固体電解質体244の一部とによって、モニタ電極253と共通電極250との間に流れる酸素イオン電流に基づいて測定室242における酸素濃度を検出するモニタセル248が形成されている。センサ電極252と共通電極250と固体電解質体244の一部とによって、センサ電極252と共通電極250との間に流れる酸素イオン電流に基づいて測定室242における所定のガス成分の濃度(NOx濃度)を検出するためのセンサセル249が形成されている。
固体電解質体244は板状の部材であって、酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質材料によって構成されている。第1本体部241aと第2本体部241bとは、固体電解質体244を挟んで配置されている。第1本体部241aには、固体電解質体244側から後退するように設けられた凹部が形成されており、その凹部は測定室242(ガス室)として機能している。測定室242の一側面は開放されており、その開放された一側面に拡散抵抗体245が配置されている。拡散抵抗体245は、多孔質材料又は細孔が形成された材料からなっている。拡散抵抗体245の作用により、測定室242内に引き込まれる排出ガスの速度が律せされる。測定室242は、固体電解質体244の第1主面244aの側に形成されて排出ガスが導入される。
第2本体部241bにも、固体電解質体244側から後退するように設けられた凹部が形成されており、その凹部は大気室243(基準ガス室)として機能している。大気室243の一側面は開放されている。固体電解質体244側から大気室243内に引き込まれる気体は大気に放出される。大気室243は、固体電解質体244の第2主面244bの側に形成されて基準ガスが導入される。
固体電解質体244の測定室242側に臨む面(第1主面244a)であって、拡散抵抗体245側には陰極側となるポンプ電極251が設けられている。固体電解質体244の大気室243に臨む面(第2主面244b)であって、ポンプセル246と対応する位置に陽極側となる共通電極250が設けられている。共通電極250は、センサ電極252及びモニタ電極253と対応する領域までカバーするように設けられている。
ポンプ電極251と共通電極250との間に電圧が印加されると、測定室242内の排出ガス中に含まれる酸素が陰極側のポンプ電極251に接触して酸素イオンとなる。この酸素イオンは、陽極側の共通電極250に向かって固体電解質体244内を流れ、共通電極250において電荷を放出して酸素となり、大気室243から大気中に排出される。
なお、ポンプ電極251と共通電極250との間に印加する電圧が高いほど、ポンプセル246によって排出ガス中から排出される酸素の量は多くなる。逆にポンプセル246と共通電極250との間に印加する電圧が低いほど、ポンプセル246によって排出ガス中から排出される酸素の量は減る。従って、ポンプ電極251と共通電極250との間に印加する電圧を増減することで、後段のセンサセル249及びモニタセル248に流れる排出ガス中の残留酸素の量を増減させることができる。本実施形態では、ポンプセル246に印加される電圧をポンプセル印加電圧Vpとも表記する。また、印加電圧Vpに応じて出力される電流をポンプセル出力電流Ipとも表記する。
固体電解質体244の測定室242側に臨む面であって、ポンプ電極251を挟んで拡散抵抗体245とは反対側(ポンプ電極251よりもガスの流れ方向の下流側)には陰極側となるモニタ電極253が設けられている。固体電解質体244の大気室243に臨む面であって、モニタ電極253と対応する位置に陽極側となる共通電極250が設けられている。
モニタセル248は、ポンプセル246によって酸素が排出された排出ガス中に残留する酸素濃度を検出する。モニタ電極253と共通電極250との間に電圧が印加されると、ポンプセル246によって酸素が排出された排出ガス中に含まれる残留酸素が陰極側のモニタ電極253セル249に接触して酸素イオンとなる。この酸素イオンは、陽極側の共通電極250に向かって固体電解質体244内を流れ、共通電極250において電荷を放出して酸素となり、大気室243から大気中に排出される。この際の電荷は、SCU40電流Imとして検出され、この電流Imに基づいて、排出ガス中の残留酸素濃度を算出し得る。
固体電解質体244の測定室242側に臨む面であって、ポンプ電極251を挟んで拡散抵抗体245とは反対側(ポンプ電極251よりもガスの流れ方向の下流側)には陰極側となるセンサ電極252が設けられている。固体電解質体244の大気室243に臨む面であって、センサ電極252と対応する位置に陽極側となる共通電極250が設けられている。セ
センサ電極252は、Pt−Rh合金(白金−ロジウム合金)からなり、NOxに対して強い還元性を有している。センサ電極252に接触したNOxは、N2とO2とに還元分解される。センサ電極252と共通電極250との間に電圧が印加されると、分解されたO2は、陰極側のセンサ電極252から電荷を受け取って酸素イオンとなる。この酸素イオンは、陽極側の共通電極250に向かって固体電解質体244内を流れ、共通電極250において電荷を放出して酸素となり、大気室243から大気中に排出される。この際の電荷は、SCU40により電流Isとして検出され、この電流Isに基づいて、排出ガス中のNOxの濃度及び残留酸素濃度を算出し得る。センサ電極252及び共通電極250からなるセンサセル249は、ポンプセル246によって酸素が排出された排出ガス中のNOx濃度または残留酸素濃度を検出する。なお、排出ガス中のNOx濃度や酸素濃度に応じてセンサセル249から出力される電流をセンサセル出力電流Isとも表記する。
ここで、センサセル249は、経年劣化等の影響によって、排出ガス中の計測対象ガスの濃度が同一であっても、その出力であるセンサセル出力電流Isが変化する傾向がある。この傾向について図4を参照して説明する。図4には、(a)ポンプセル印加電圧Vp、(b)ポンプセル出力電流Ip、(c)センサセル出力電流Isの時間推移が模式的に示されている。図4では、時刻t0においてポンプセル印加電圧VpがVp0からVp1にステップ状に低減され、これによりポンプセル出力電流IpがIp0からIp1へステップ状に低減すると共に、ポンプセル246を通過した排出ガスの残留酸素濃度が増大される。その後、センサセル249では、排出ガス中の残留酸素濃度の増大に応じて、センサセル出力電流Isが過渡応答を経て定常値まで増大する。
図4(c)には、ポンプセル印加電圧Vpのステップ状の低減に応じたセンサセル出力電流Isの過渡応答特性が、NOxセンサ製造時の特性(初期特性)と、NOxセンサ劣化時の特性(劣化後特性)の2種類で示されている。図4(c)に示すように、センサセルに供給される排出ガスが同一の酸素濃度である場合でも、センサセル出力電流Isの初期特性と劣化時特性に差異が生じる。より詳細には、第一に、劣化時特性の定常値は初期特性の定常値より低減する傾向がある。第二に、劣化時特性の立ち上がりは初期特性のものより遅くなる傾向がある。例えば、過渡変化中の任意の時刻t1,t2の間の特性の傾きをみると、劣化時特性の傾きAは、初期特性の傾きA0より緩くなる。これらの傾向は、センサセルの劣化が進むほど顕著になる。
そこで本実施形態に係るNOxセンサの制御装置では、このようなセンサセル249の出力特性を利用して、ポンプセル印加電圧Vpを意図的にステップ状に低減させたときのセンサセル出力電流Isの過渡変化時の傾きに基づいて、NOxセンサの劣化量(センサセル249の劣化率)を推定する劣化検出機能を実施する。また、本実施形態に係るNOxセンサの制御装置では、劣化検出機能の検出結果に基づきエミッション悪化による異常を判断する異常判断機能を実施することができる。これらの機能は、すべてをSCU40が実施する構成でもよいし、ECU10が実施する構成でもよいが、劣化検出機能をSCU40が実施し、異常判断機能をECU10が実施する構成がより好ましい。本実施形態では、このようにECU10とSCU40とを併用する構成を例示して説明する。なお、エミッションとは、NOxセンサが検出するNOxだけではなく、HCやCO等も含む。
劣化検出機能をSCU40が実施し、異常判断機能をECU10が実施する構成が好ましい理由は以下のとおりである。劣化検出機能は、ポンプセル246の印加電圧Vpをステップ状に下げるのに応じて変動するセンサセル249の出力を監視すればよいので、SCU40単体で行うことができる。ただし、エンジン排ガスのNOxが変動する状況下で劣化検出機能を実施する場合、センサセル249自体が排ガスの影響を受けて出力が変動するために、センサセル249の反応量は、ポンプセル印加電圧Vpの低下に伴って反応したO2によるものなのか、そもそもの排ガスのNOxに反応したものかの判断がし難い場合がある。また、エミッション悪化の判断は、NOxセンサの劣化度合いだけでなく、エンジンの運転状態や他のセンサにより検出された各種情報などを総合的に考慮することが好ましい。したがって、ECU10が異常判断機能を実施するのが好ましい。
また、本実施形態に係るNOxセンサの制御装置は、劣化検出機能の検出結果に基づきセンサ出力の補正量を学習する学習機能も実施できる。本実施形態では、SCU40がこの学習機能を実施する。
SCU40は、上記の劣化検出機能を実施するための機能ブロックとして、図5に示すように印加電圧切替部41と、劣化率算出部42と、を備える。また、SCU40は、上記の学習機能を実施するための機能ブロックとして出力補正部43を備える。ECU10は、上記の異常判断機能を実施するための機能ブロックとして、図5に示すように異常判断部11を備えている。
印加電圧切替部41は、ポンプセル246へ印加するポンプセル印加電圧Vpを切り替える要素である。本実施形態では、印加電圧切替部41は、劣化検出機能の実施時に、ポンプセル印加電圧VpをVp1からVp0までステップ状に低減させる。
劣化率算出部42は、印加電圧切替部41によるポンプセル印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル249の出力の過渡変化時の傾きに基づいて、センサセル249の劣化率を算出する。
出力補正部43は、センサセル出力電流Isを補正してセンサセル出力を生成する要素であって、劣化率算出部42により算出された劣化率に基づき、センサセル出力の補正量を学習する。
異常判断部11は、SCU40の劣化率算出部42により算出されたセンサセル249劣化率に基づき、エンジン排気系ESのエミッション悪化を判断する。異常判断部11は、好ましくは、センサセル249の劣化率の他に、NOxセンサ24,30の出力、他のセンサ類からECU10が取得する各種センサ情報、エンジンの運転状態等を総合的に考慮することにより、エミッション悪化の有無を精度良く判断することができる。
本実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ24,30)の制御装置は、主にSCU40の劣化検出機能(印加電圧切替部41、劣化率算出部42)を備えて構成され、さらに、SCU40の学習機能(出力補正部43)またはECU10の異常判断機能(異常判断部11)を備えることもできる。
次に、図6のフローチャートを参照して上記の劣化検出機能の動作について説明する。図6のフローチャートは、SCU40により例えば所定周期ごとに実施される。
ステップS101では、印加電圧切替部41により、劣化検出機能の実施条件が成立しているか否かが判定される。本ステップの実施条件とは、SCU40の劣化検出機能を実施可能な状態を示す条件であり、具体的には、SCU40が、劣化検出機能を実施可能な状態に設定する旨の指令をECU10から受信していることを条件として設定することができる。ECU10は、例えば、排出ガスの量が比較的安定しているエンジン20の所定の運転環境下のときにこの指令をSCU40に送信できる。所定の運転環境下とは、例えば、フューエルカット運転中、イグニションオフ(IG/OFF)状態、またはソークタイマ作動中を上げることができる。特にイグニションオフのときを実施条件とすることが望ましい。イグニションオフ時には、エンジンが停止しておりエンジン排気系ESにおいて排出ガスの流れが無くなるため、ガス環境が安定しており劣化検出機能を安定して行うことが可能となるからである。ステップS101の判定の結果、劣化検出機能の実施条件が成立している場合には(ステップS101のYes)ステップS102に進み、劣化検出機能の実施条件が成立していない場合には(ステップS101のNo)本制御フローを終了する。
ステップS102では、劣化率算出部42により、ポンプセル出力電流Ip0が検出される。本ステップで検出される電流は、ポンプセル印加電圧の変更前の電流である。ステップS102の処理が完了するとステップS103に進む。
ステップS103では、印加電圧切替部41により、ポンプセル印加電圧がVp0からVp1へステップ状に低減させる制御が行われる。図4(a)のタイムチャートでは時刻t0においてこの制御が行われる。なお、本ステップにおいてポンプセル印加電圧Vpを低減させる際の電圧変化の波形は、後述する初期値B0(ステップS108参照)を計測したときのものと同一となるように、所定の波形が用いられることが好ましい。この電圧変化の所定波形としては、例えば図4(a)に示すようなステップ波形など、任意のものを用いることができる。ステップS103の処理が完了するとステップS104に進む。
ステップS104では、センサセル出力電流の始点P1及び終点P2検出される。始点P1及び終点P2は、ステップS103にて行われた印加電圧切替部41によるポンプセル印加電圧の切り替えに応じた過渡応答中の任意の2つのタイミングにおけるセンサセル出力である。始点P1は、過渡応答中の時刻t1におけるセンサセル出力電流Is1を示し、終点P2は、過渡応答中の時刻t2におけるセンサセル出力電流Is2を示す。始点P1の時刻t1は、終点P2の時刻t2より早い。
ここで、始点P1及び終点P2を設定できる範囲は、印加電圧切替部41によるポンプセル印加電圧の切り替え後、かつ、センサセル249の出力が安定する前の所定期間内である。
図7に示すように、始点P1の検出タイミングは、例えば以下の3点から選択できる。
(1)ポンプセル印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるポンプセル出力電流Ipのテーリング最下点PLとなるとき(図7中の点P11)
(2)ポンプセル印加電圧Vpの切り替えの後に所定時間E1(第1の所定時間)が経過したとき(図7中の点P12)
(3)ポンプセル印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるセンサセル出力変動量の初期値の5%まで到達したとき(図7中の点P13)
ここで、「センサセル249の出力変動量の初期値」とは、NOxセンサ24,30の製造時において今回と同様のポンプセル印加電圧Vpの切り替え(Vp0→Vp1へ低減)を行ったときの、センサセル249の出力の切り替え前の基準値(図7の線L0)と切り替え後の定常値との偏差である。「初期値の5%まで到達したとき」とは、図7に示すように、出力変動量の初期値の5%分だけ基準値から上積みした値(図7の線L1)までセンサセル出力電流Isが到達したとき、である。なお、「5%」とは、単なる一例であって、少なくとも下記(5)にて設定されるものより小さいパーセンテージであればよく、5%以外の任意の割合(第1の所定パーセンテージ)を設定することができる。
また、図7に示すように、終点P2の検出タイミングは、例えば以下の2点から選択できる。
(4)ポンプセル印加電圧Vpの切り替えの後に所定時間E2(第2の所定時間)が経過したとき(図7中の点P21)
(5)ポンプセル印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるセンサセル出力変動量の初期値の95%まで到達したとき(図7中の点P22)
ここで、「初期値の95%まで到達したとき」とは、図7に示すように、出力変動量の初期値の95%分だけ基準値から上積みした値(図7の線L2)までセンサセル出力電流Isが到達したとき、である。なお、「95%」とは、単なる一例であって、少なくとも上記(3)にて設定されるものより大きいパーセンテージであればよく、95%以外の任意の割合(第2の所定パーセンテージ)を設定することができる。
なお、劣化診断の早期処理を考慮すると、始点P1及び終点P2は共に可能な限り早く設定するのが好ましく、図7を参照して説明した上記の具体例(1)〜(5)のなかでは、始点P1を上記(1)に設定し、終点P2を上記(4)に設定するのが最も好ましい。ステップS104の処理が完了するとステップS105に進む。
ステップS105では、劣化率算出部42により、ポンプセル出力電流Ip1が検出される。本ステップで検出される電流は、ポンプセル印加電圧の変更後の電流である。ステップS105の処理が完了するとステップS106に進む。
ステップS106では、劣化率算出部42により、ステップS104にて検出した始点P1及び終点P2を用いて、センサセル249の出力の過渡変化時の傾きAが算出される。傾きAは、例えば下記の(1)式により算出される。
ここで、ΔIsは、始点P1のセンサセル出力電流Is1と、終点P2のセンサセル出力電流Is2との偏差である。Δtは、始点P1の時刻t1と終点P2の時刻t2との偏差である。なお、図4に示す初期特性における傾きA0も、上記(1)式を用いて算出できる。ステップS106の処理が完了するとステップS107に進む。
ステップS107では、劣化率算出部42により、ステップS106にて算出された傾きAが正規化される。劣化率算出部42は、下記(2)式に示すように、ポンプセル印加電圧Vpの切り替えに伴うポンプセル出力電流Ipの変動量を用いて、ステップS106にて算出された傾きAを除すことにより正規化し、正規化された傾きBを算出する。
ここで、ΔIpは、ステップS102にて検出されたポンプセル印加電圧の変更前のポンプセル出力電流Ip0と、ステップS105にて検出されたポンプセル印加電圧の変更後のポンプセル出力電流Ip1との偏差である。ステップS107の処理が完了するとステップS108に進む。
ステップS108では、劣化率算出部42により、ステップS107にて正規化された傾きBと、初期値B0との比に基づいて、センサセル249の劣化率Cが算出される。ここで、初期値B0は、NOxセンサ24,30の製造時(すなわち、センサセル249が図4(c)に示す初期特性を示す状態)において、今回と同様のポンプセル印加電圧Vpの切り替え(Vp0→Vp1へ低減)を行い、上記(1)式、(2)式を用いて算出された正規化された傾きの初期値である。また、正規化された傾きBと、初期値B0との比B/B0は、図4(c)に示す劣化後特性及び初期特性における過渡応答速度の比率を意味するものである。比B/B0は、センサセル249に導入された酸素に対する「反応速度比」と表すことができる。
この反応速度比B/B0は、図8に示すように、センサセル249の出力特性の劣化率C[%]と相関関係にある。より詳細には、反応速度比B/B0が大きくなるほど、すなわちセンサセル249の劣化後特性と初期特性との間の差異が少なくなるほど、劣化率Cは小さくなり、センサセル249の劣化度合いが小さくなる。一方、反応速度比B/B0が小さくなるほど、すなわちセンサセル249の劣化後特性と初期特性との間の差異が大きくなるほど、劣化率Cは大きくなり、センサセル249の劣化度合いが大きくなる。したがって、劣化率算出部42は、反応速度比B/B0を用いて劣化率Cを算出することができる。劣化率算出部42は、算出した劣化率Cの情報を、出力補正部43と、ECU10の異常判断部11に出力する。ステップS108の処理が完了すると本制御フローを終了する。
次に、図9及び図10を参照して上記の学習機能の動作について説明する。上述したように、NOxセンサ24,30のセンサセル249は、経年劣化等の影響によって、排出ガス中のNOx濃度が同一であっても、その出力であるセンサセル出力電流Isが変化する傾向がある。この傾向について図9に示す。図9の横軸は、センサセル249に導入された排出ガス中のNOx濃度を示し、図9の縦軸は、このNOx濃度に応じてセンサセル249が出力するセンサセル出力電流Isを示す。また、図9には、NOxセンサ製造時におけるNOx濃度とセンサセル出力との間の特性(初期特性)と、センサセル249の劣化率がC[%]の場合の特性(現特性)との2種類の特性が図示されている。
図9に示すように、NOx濃度とセンサセル出力との特性は、初期特性の傾きα0が最も大きく、現特性の傾きα1は劣化率Cに応じて減少する傾向がある。現特性の傾きα1は、劣化率Cと初期特性の傾きα0を用いて下記の(3)式で表すことができる。
本実施形態の学習機能では、このような劣化率Cと特性の傾きα1との関係を利用して、現特性を初期特性に戻す方向にセンサセル出力を補正する。言い換えると、劣化検出機能にて算出した劣化率Cを用いて、センサセルの出力の補正量(後述する補正係数k)を学習する。
図10のフローチャートに沿って学習機能の動作の手順を説明する。図10のフローチャートは、SCU40の出力補正部43により例えば所定周期ごとに実施される。
ステップS201では、劣化率算出部42により算出されたセンサセル249の劣化率Cの情報が取得される。ステップS201の処理が完了するとステップS202に進む。
ステップS202では、ステップS201にて取得した劣化率Cを用いて補正係数kが算出される。補正係数kは、図9に示した現特性を初期特性に戻すために現在のセンサセルの劣化率Cに応じて適宜調整される、センサ出力電流Isの補正量である。補正係数kは、図9に示す現特性の傾きα1と、初期特性の傾きα0との比に基づき調整され、傾きα1が傾きα0に対して相対的に小さくなるほど大きくなるように設定される。補正係数kは、このようなα1とα0との関係と、上記(3)式に基づき、例えば下記の(4)式で算出できる。
ステップS202の処理が完了するとステップS203に進む。
ステップS203では、ステップS202にて算出された補正係数kを用いてセンサセル出力が補正される。出力補正部43は、例えば下記の(5)式に示す補正式を用いてセンサセル出力の補正を行う。
ここで、Dは、補正後のセンサセル出力を示し、図9の初期特性と同等のNOx濃度との対応関係をもつ。α0は、図9の初期特性の傾きを示し、予めSCU40が記憶している固定値である。Isは、現特性のセンサセル249から検出されたセンサセル出力電流を示し、Imは、モニタセル248から検出されたモニタセル出力電流を示す。SCU40は、出力補正部43により算出された補正後のセンサセル出力Dを用いてNOx濃度を算出することにより、センサセルの劣化度合いの影響を受けずに精度良くNOx濃度を検出することができる。ステップS203の処理が完了すると本制御フローを終了する。
次に、本実施形態に係るNOxセンサ24,30の制御装置の効果について説明する。
本実施形態に係るNOxセンサ24,30の制御装置としてのSCU40は、印加電圧Vpに応じてエンジンの排出ガスの酸素濃度を調整するポンプセル246と、ポンプセル246により酸素濃度が調整された後の排出ガスからNOx濃度を検出するセンサセル249と、を有するNOxセンサ24,30の動作を制御するための制御装置として機能する。SCU40は、劣化検出機能の実施の際に、ポンプセル246の印加電圧Vpを切り替える印加電圧切替部41と、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル249の出力の過渡変化時の傾きAに基づいて、センサセル249の劣化率Cを算出する劣化率算出部42と、を備える。
この構成により、センサセル249の劣化を応答性としてみることができる。言い換えると、図4を参照して説明したように、ポンプセル印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル249の出力の過渡応答特性は、センサセル249の劣化度合いに応じて変化する傾向がある。本実施形態では、この過渡応答特性のうち過渡変化時の傾きAを利用することにより、過渡応答特性の変化に基づく劣化度合いの把握が可能となり、センサセル249の劣化率Cを精度良く算出できる。また、過渡変化時の傾きAに基づき劣化率を求めるため、過渡応答が定常値に安定する前に検出できるので、劣化判断に要する時間が短く、迅速に劣化診断を行うことができる。以上より、本実施形態は上記構成によりセンサ出力の劣化診断を適切に行うことができる。
また、本実施形態において、印加電圧切替部41は、劣化検出機能の実施の際に、ポンプセル246の印加電圧Vpを通常使用時のVp0から所定値Vp1までステップ状に低減させる。この構成により、劣化検出機能の実施によるポンプセル246への負荷がなく、ポンプセル246の素子損傷(ブラックニング)や電極劣化の懸念が無いため、常に最適な劣化診断が可能となる。なお、「ブラックニング」とは、具体的には、固体電界質であるZrO2の酸素イオンが電界によって抜けて酸素欠陥の状態になることにより、ZrO2の外観が黒化して強度等の特性が劣化することを意味する。
また、本実施形態において、劣化率算出部42は、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル249の出力の過渡変化時の傾きAと初期値との比に基づいて、センサセルの劣化率を算出する。この構成により、過渡変化時の傾きAを初期値(センサ製造時の過渡変化時の傾き)と比較することで、初期状態からの劣化度合いを精度良く推定することができる。
また、本実施形態において、劣化率算出部42は、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル249の出力の過渡変化時の傾きAを算出し、算出した傾きAを印加電圧の切り替えに伴うポンプセルの出力変動量ΔIpを用いて除すことにより傾きAを正規化し、正規化された傾きBと、正規化された初期値B0との比に基づいて、センサセル249の劣化率Cを算出する。
この構成により、ポンプセル246の動作の差異の影響を無くすように正規化した上で過渡変化時の傾き(正規化後の傾きB)を初期値と比較することで、初期状態からの劣化度合いをより一層精度良く推定することができる。
また、本実施形態において、劣化率算出部42は、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替え後、かつ、センサセル249の出力が安定する前の所定期間内における任意の2つのタイミングにおけるセンサセル249の出力を始点P1及び終点P2として検出し、始点P1と終点P2を結ぶ線分の傾きをセンサセル249の出力の過渡変化時の傾きAとして算出する。
この構成により、センサセル出力の過渡応答中の任意の区間を設定して過渡変化時の傾きAを算出できるので、劣化検出機能の自由度を向上できると共に、劣化率の推定精度を高めることができる。
また、本実施形態において、劣化率算出部42が検出する始点P1としては、(1)印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるポンプセル246の出力(ポンプセル出力電流Ip)のテーリング最下点PLとなるとき(図7の点P11)、(2)印加電圧Vpの切り替えの後に第1の所定時間E1が経過したとき(図7の点P12)、または、(3)印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるセンサセル249の出力変動量の初期値の5%まで到達したとき(図7の点P13)、のいずれかの時点におけるセンサセル249の出力Isを含む。また、劣化率算出部42が検出する終点P2としては、(4)印加電圧Vpの切り替えの後に第2の所定時間E2が経過したとき(図7の点P21)、または、(5)印加電圧Vpの切り替えに応じて生じるセンサセル249の出力変動量の初期値の95%まで到達したとき(図7の点P22)のいずれかの時点における前記センサセルの出力を含む。
この構成により、上記(1)〜(3)の中から始点P1と選択し、上記(4)〜(5)から終点P2を選択することにより、センサセルの劣化度合いに応じた過渡応答特性の変化を検出しやすいように傾きAを算出することが可能となるので、劣化率の推定精度をより一層高めることができる。
また、本実施形態において、NOxセンサ24,30は、エンジン20の排気系ESに設置され、エンジン20の排出ガス中からNOx濃度を検出するよう構成される。そして、排出ガスの量が安定しているエンジン20の所定の運転環境下(例えば、フューエルカット運転中、イグニションオフ状態、またはソークタイマ作動中)において、SCU40の印加電圧切替部41が劣化検出機能に係る印加電圧Vpを切り替えを行い、劣化率算出部42が劣化率の算出を行う。
この構成により、劣化検出機能の実施中に生じるセンサセル249の出力変動が、排出ガス中のNOx濃度の変動の影響をほとんど受けず、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替えを主な影響とするものにできるので、劣化率算出部42が算出するセンサセル出力の過渡変化時の傾きAとセンサセルの劣化度合いとの相関性を高めることができ、劣化率の推定精度をより一層高めることができる。
また、本実施形態において、上記の排出ガスの量が安定しているエンジン20の所定の運転環境は、特にイグニションオフ時を含むのが好ましい。所定の運転環境の具体例としては、例えばフューエルカット運転中、イグニションオフ時、ソークタイマ作動中が挙げられる。このうち、イグニションオフ時とソークタイマ作動中は、ガス環境が安定しやすいため、フューエルカット運転中よりも検出精度が良い。しかしながら、ソークタイマは搭載されている車両が限定されるため、運転条件としては、イグニションオフ時が最も望ましい。
また、本実施形態において、NOxセンサ24,30が、排出ガスが導入される測定室242を有し、ポンプセル246及びセンサセル249が測定室242に設けられる。この構成により、測定室242の酸素濃度を調整するポンプセル246と、酸素濃度を検出するセンサセル249とが同じ測定室242内に設けられることにより、ポンプセルの印加電圧の切り替えに応じてセンサセル249の過渡変化を敏感に生じさせることができるので、劣化率の算出をより一層迅速に行うことができる。
また、本実施形態に係るNOxセンサ24,30の制御装置としてのSCU40は、劣化率算出部42により算出された劣化率Cに基づき、センサセル249の出力の補正量(補正係数k)を学習する出力補正部43を備える。この構成により、センサセル249の劣化度合いに応じて適切にセンサ出力を補正することができるので、NOxセンサによるNOx濃度の検出精度を向上できる。
また、本実施形態に係るNOxセンサ24,30の制御装置としてのECU40は、SCU40の劣化率算出部42により算出された劣化率Cに基づき、エミッション悪化を判断する異常判断部11を備える。センサセル249の劣化度合いが増せばNOxセンサによるNOx濃度の検出精度が低下する虞があり、エミッション悪化の一因となりうる。異常判断部11が、判断材料の一つとしてセンサセル249の劣化度合いに関する高精度な情報を考慮することにより、エミッション悪化の発生有無をより一層高精度に判断することが可能となる。
ここで、本実施形態と、先行技術文献として開示した特許文献1(特開2009−175013号公報)に記載される従来の劣化診断手法との相違点について説明する。
特許文献1では、ポンプセル印加電圧を切り替えた際のセンサセル出力の初期値と安定後の値との間の変化量に基づき、センサセルの劣化診断が行われる。この場合、センサセル出力の過渡応答が収束するまで待つ必要があるため、劣化診断に時間がかかる、劣化診断の機会が少なくなる、などのデメリットがある。これに対し本実施形態では、ポンプセル印加電圧を切り替えた際のセンサセル出力の過渡変化時の傾きAに基づいて劣化診断が行われる。このため、センサセル出力の過渡応答が収束する前に劣化診断をすることが可能となり、特許文献1の手法と比較して、劣化診断に要する時間を短くでき、劣化診断の機会を増やすことができる。
また、特許文献1では、ポンプセル印加電圧を通常制御時よりも高く切り替える。この場合、ポンプセルの電極劣化や素子損傷(ブラックニング)の可能性がある、などのデメリットがある。これに対し本実施形態では、ポンプセル印加電圧を通常制御時より低く切り替える。このため、ポンプセル246への負荷がなく、ポンプセル246の電極劣化や素子損傷の懸念が無いため、常に最適な劣化診断が可能となる。
また、特許文献1では、センサセル出力の変化量ΔIsをポンプセル印加電圧Vpの変化量で除算することにより、劣化診断の判定値が算出される。一方、本実施形態では、センサセル出力の変化量ΔIsをポンプセル出力電流の変化量ΔIpで除算することにより、特性劣化率Cの算出に用いる正規化傾きBが算出される。どちらもO2漏れ量の規格化を狙っているが、本実施形態のポンプセル出力電流の変化量ΔIpを用いる手法の方が、漏れ量をより正確に示すことができる。また、同じ電圧変化量でも個々のセンサや、同じセンサでも初期/劣化後ではO2漏れ量が異なるため、特許文献1のように印加電圧量Vpによる規格化では、この漏れ量の差異を帳消しできない。そのため、本実施形態にように電流変化量ΔIpで規格化した方が、O2漏れ量の規格化の精度を向上できる。
さらに、特許文献1の手法は劣化診断のみを行うのに対して、本実施形態の手法は劣化診断だけでなく、センサセル出力の出力補正も適切に行うことができる。
[変形例]
次に図11〜図14を参照して上記実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態では、劣化率算出部42が過渡変化時の傾きAの算出に用いる始点P1及び終点P2として、過渡応答中の任意の2点を選択する構成を例示したが、この代わりに、複数のセンサセル出力を平均化して始点P1及び終点P2を算出する構成でもよい。この場合、例えば図11に示すように、始点P1を含む所定の始点期間F1及び終点P2を含む所定の終点期間F2において、それぞれ複数のセンサセル249の出力を平均化処理して、平均化されたセンサセル出力Is1_ave,Is2_aveを算出する。そして、平均化処理により算出された始点P1(Is1_ave,t1)及び終点P2(Is2_ave,t2)を用いて傾きAを算出する。これにより、過渡応答中のセンサセル出力Isのばらつきの影響を低減でき、劣化診断の精度を向上できる。
上記実施形態では、劣化率算出部42は、印加電圧切替部41によるポンプセル印加電圧の切り替え処理が1回実行されたときにセンサセル出力の過渡変化時の傾きAを1回だけ算出し、この1つの傾きAを用いて劣化率Cを算出する。これに対して、図12に示すように、印加電圧切替部41が印加電圧の切り替えを複数回実行し、劣化率算出部42がセンサセル出力の過渡変化時の傾きA1〜A3を複数回算出し、これらの複数回の傾きA1〜A3に基づいてセンサセル249の劣化率Cを算出する構成としてもよい。図12には、(a)ポンプセル出力電流Ip、(b)センサセル出力電流Isの時間遷移が示されている。ポンプセル出力電流Ipの挙動は、ポンプセル印加電圧Vpの挙動に連動するものである。図12(a)に示すように、ポンプセル246は、ポンプセル印加電圧Vpを所定値Vp1(図4(a)参照)に下げるサイクル1と、ポンプセル印加電圧Vpを上げて通常電圧Vp0(図4(a)参照)に戻すサイクル2とを繰り返す。このとき、図12(b)に示すように、センサセル出力はポンプセル印加電圧Vpの増減に応じて過渡応答を繰り返す。劣化率算出部42は、ポンプセル246がサイクル1の状態のときに上記の劣化検出機能を実行し、センサセル249の複数回の過渡変化時の傾きA1,A2,A3を算出することができる。劣化率算出部42は、これらの複数回の傾きA1〜A3を劣化率Cの算出に用いることで、劣化検出機能の頑強性を向上でき、劣化判定などの誤診断を防ぐことができる。
なお、印加電圧切替部41は、図12に示すサイクル1及びサイクル2の繰り返し動作を、排出ガスの量が安定している所定の運転環境(例えば、フューエルカット運転中、イグニションオフ状態、またはソークタイマ作動中)を継続して満たす単一区間において行うことができる。劣化率算出部42は、この単一区間の複数回のサイクル1において、複数回のセンサセル出力の過渡変化時の傾きA1〜A3を算出し、これらの傾きA1〜A3に基づいてセンサセル249の劣化率Cを算出することができる。上述のとおり、本実施形態の劣化検出機能では、過渡変化時の傾きに基づいて劣化率を算出するため、劣化診断を迅速に行うことができ、一回の診断に要する時間が短くで済むので、一度の機会に複数回の診断を行うことが可能であり、効率的かつ高精度に劣化診断を行うことができる。
また、劣化率算出部42は、排出ガスの量が安定している所定の運転環境において、過去に同一の運転環境下において算出したセンサセル出力の過渡変化時の傾きの過去値を用いて劣化率Cを算出することもできる。例えば、図12(b)の例に併せて説明すると、劣化率算出部42が所定の運転環境下で、印加電圧切替部41による印加電圧Vpの切り替えに応じたセンサセル出力の過渡変化時の傾きA3を算出する。このとき、過去に同一の運転環境下において算出した傾きの過去値A1,A2を読み出す。そして、今回の処理で算出した傾きA3と、読み出した過去値A1,A2に基づいて、センサセル249の劣化率Cを算出する。
また、劣化率算出部42は、図12を参照して説明したように複数回のセンサセル出力の過渡変化時の傾きに基づき劣化率の算出を行う場合には、例えば、算出した複数の傾きを平均化処理して用いることができる。同様に、図6のステップS108にて劣化率Cの算出に用いる反応速度比B/B0の複数回の算出値を平均化処理して用いることができる。図13には、複数回の反応速度比B/B0が符号Gで表されている。図中のnは、任意の算出回数を示す。図13に示すように、例えば5回分の反応速度比Gの平均値G_aveを算出して劣化率Cの算出に用いることができる。ここで、N+5回目のデータG(n+5)を例にとると、n+5回目から直近の過去4回分のデータG(n+1),G(n+2),G(n+3)、G(n+4)の全部を含めて5個のデータの平均値G_ave(n+5)が算出される。なお、平均化処理に用いるデータは、直近の連続するデータに限られず、例えば明らかに異質なデータが間引きされた一部のデータのみを用いることもできる。例えば、図13のN回目のデータG(n)の平均値G_ave(n)、及び、N+1回目のデータG(n+1)の平均値G_ave(n+1)では、他のデータと明らかに異質なN+3番目のデータG(n+3)を除外して平均化処理が行われている。
また、印加電圧切替部41は、劣化検出機能を実施する運転環境が、例えばイグニションオフ状態などエンジン20が停止している状態の場合には、ポンプセル印加電圧を通常電圧Vp0から所定値Vp1に低減させる動作の代わりに、ポンプセル246へのポンプセル印加電圧Vpの印加を停止させることにより、ポンプセル印加電圧Vpの切り替えを行うこともできる。これにより、劣化検出機能の実施時には、SCU40からポンプセル246へ電源供給をする必要がないため、燃費悪化を抑制できる。
また、上記実施形態では、単一の測定室242内にポンプセル246及びセンサセル249が共に設けられる構成のNOxセンサ24,30を例示したが、この構成には限られない。例えば、NOxセンサが複数の測定室を備え、ポンプセル及びセンサセルがそれぞれ別の測定室に設けられる構成であってもよい。このような構成の一例を図14に示す。図14に示すNOxセンサ110のセンサ素子110aは、排気導入口を有する第1チャンバ14と、この第1チャンバ14と絞り部15を介して連通される第2チャンバ16とを備える。両チャンバ14,16が上記実施形態の測定室242に相当する。ポンプセル31は、一対の電極32,33を有し、そのうち一方の電極32が第1チャンバ14内に露出するよう設けられている。モニタセル34は、対向配置される電極36と共通電極38とを有し、電極36が第2チャンバ内に露出するよう設けられている。同様に、センサセル35は、モニタセル34と隣接して設けられ、対向配置される電極37と共通電極38とを有し、電極37が第2チャンバ内に露出するよう設けられている。このように、ポンプセル31及びセンサセル35がそれぞれ別の測定室(第1チャンバ14、第2チャンバ16)に設けられる構成においても、上記実施形態の劣化検出機能などの各機能を実施することができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
上記実施形態では、センサセル249の劣化検出機能を実施する際に、ポンプセル印加電圧をVp0からVp1へステップ状に低減させる構成を例示したが、ポンプセル246の印加電圧の切り替えに応じてセンサセル249の出力が過渡変化を生じればよく、例えばポンプセル印加電圧をステップ状に増加させる構成とすることも可能である。同様に、ポンプセル印加電圧Vpを切り替える際の電圧変化の波形は、ステップ波形に限定されず、センサセル249の出力に過渡変化を生じさせることができる任意のものを用いることができる。
上記実施形態では、傾きAを正規化した値Bとこれに対応する初期値B0との比に基づきセンサセル249の劣化率Cを算出する構成を例示したが、これに限られない。例えば、傾きAを正規化せずに、傾きAと初期特性の傾きA0との比に基づき劣化率Cを求めることもできるし、傾きAと傾きA0とを比率以外の手法により比較することで劣化率Cを求める構成でもよい。また、傾きAを初期特性の傾きA0以外の他の閾値と比較したり、関数を用いるなど、初期値との比較以外の手法で劣化率Cを求める構成でもよい。