JP7229491B1 - 学習装置および推定システム - Google Patents

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Abstract

【課題】痛みをより適切に推定できる痛み推定学習モデルを生成する学習装置および推定システムを提供する。【解決手段】学習装置は、被験者の痛みを推定するための痛み推定学習モデルを生成する。前記痛み推定学習モデルは、所定の測定項目に係る時系列生体データに基づき、痛みの状況を推定するための学習済みモデルであり、前記学習装置は、複数の第1被験者のそれぞれについて、前記測定項目の時系列生体データである第1生体データと、痛みの状況を表す時系列データである痛みデータとを取得し、各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて安定期を決定し、各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて前記安定期におけるベースラインを決定し、各前記第1被験者について第1差分データを決定し、前記第1差分データは、前記安定期において前記第1生体データと前記ベースラインとの差分を表す時系列データであり、各前記第1被験者の前記第1差分データおよび前記痛みデータに基づき、機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する。【選択図】図1

Description

本発明は学習装置および推定システムに関し、とくに被験者の痛みを推定するものに関する。
作業現場や医療現場などの状況下において、管理対象者が発話出来ないケース、または上手く言葉にできないケース等があり、自分が感じる痛みを管理者に伝達できない場合がある。例えば集中治療室(以下、ICUという)において、患者側が気管切開等により発話出来ないケース、または鎮静されているため上手く言葉にできないケース等があり、自分が感じる痛みを医療従事者に伝達できない患者が存在する。
このようなケースの患者の痛みを評価する場合、医療従事者による、表情や刺激反応に基づく痛みの観察評価(BPS(Behavioral Pain Scale)、CPOT(Critical-Care Pain Observation tool))、等)が実施されるが、医療従事者は常に多忙のため、観察評価は1日に数回以下の頻度で実施せざるを得ず、患者の痛みにタイムリーに対応することは困難である。たとえば、患者の痛みは刻々と変化するため、様態およびタイミングによってはその痛みを確認できず、処置が遅れ患者の負担が継続するリスクがある。従来の運用では、痛みの観察評価の間に発生している患者の痛み全てを、医療従事者が知るすべがないという問題が生じている。
それにより、患者は独りで痛みに耐え忍ぶ時間が発生し、精神的・肉体的に辛い思いをせざるを得ない。また、最悪の場合には痛みが慢性化し、患者のICU在室の長期化や、入院期間の長期化に繋がる。この場合には、在室日数が長期化し、それに伴って医療コストが増大するため、ICU経営が悪化する可能性がある。
このため、適切に痛みを推定することが重要となっている。
従来技術として、特許文献1では、ウェアラブルセンサとGPSを用いて疲労、普通、元気などの感情を推定している。対象が健常者である場合には、このような幅広い感情情報の取得には大きな意義がある。
別の従来技術として、特許文献2では、ユーザの音声、表情及び動作などの情報を分析し、現在の感情に至った原因の推定及び推定結果に基づくフィードバックを行う。
特許第6388824号公報 特許第4794846号公報
しかしながら、従来の技術では、痛みを適切に推定することができないという課題があった。
たとえば特許文献1の技術は、健常者のデータを扱うので、痛み推定の根拠としては不適であり、患者の痛みというネガティブな感情について適切に検知することは困難である。また、特許文献1では加速度と身体状態との関係を学習する推定装置を利用するが、痛み推定の対象者は安静を余儀なくされている場合が多く、特許文献1の方法の実施に必要な加速度データの取得が望めない。
特許文献2の技術は、音声、表情及び動作を自由に表現できない状況にある患者には不適である。また、表情を継続的に取得する場合はカメラを用いる必要があり、患者に「常に撮影されている」というストレスを与えてしまい、最悪の場合には精神疾患を引き起こす可能性がある。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、痛みをより適切に推定することができる痛み推定学習モデルを生成する学習装置および推定システムを提供することを目的とする。
本発明に係る学習装置の一例は、
被験者の痛みを推定するための痛み推定学習モデルを生成する、学習装置であって、
前記痛み推定学習モデルは、所定の測定項目に係る時系列生体データに基づき、痛みの状況を推定するための学習済みモデルであり、
前記学習装置は、
複数の第1被験者のそれぞれについて、前記測定項目の時系列生体データである第1生体データと、痛みの状況を表す時系列データである痛みデータとを取得し、
各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて安定期を決定し、
各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて前記安定期におけるベースラインを決定し、
各前記第1被験者について第1差分データを決定し、前記第1差分データは、前記安定期において前記第1生体データと前記ベースラインとの差分を表す時系列データであり、
各前記第1被験者の前記第1差分データおよび前記痛みデータに基づき、機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する。
一例において、
前記学習装置は、
各前記第1被験者について、12時間分の前記第1生体データに基づいて前記安定期を決定し、前記安定期は12時間より短い所定時間の期間であり、
前記第1差分データは、各前記測定項目についてAOC値およびAUC値を含み、
前記AOC値は、当該測定項目の測定値が前記ベースラインを上回る時刻における、前記測定値と前記ベースラインとの差分の総和であり、
前記AUC値は、当該測定項目の測定値が前記ベースラインを下回る時刻における、前記測定値と前記ベースラインとの差分の総和であり、
前記学習装置は、痛みの状況が表された時刻を起点とする過去前記所定時間の期間において、各前記測定項目に係る前記AOC値および前記AUC値を含むデータと、前記痛みの状況とを関連付けて教師データを生成し、前記教師データを用いた機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する。
一例において、
前記所定時間は1時間であり、
前記学習装置は、
1時間の第1期間分の前記第1生体データを、各前記測定項目について20分ごとに3つのブロックに分割し、
3つの前記ブロックについてフリードマン検定を行うことにより、各前記ブロック間に有意差があるか否かを判定し、
各前記ブロック間に有意差がない場合に変動率を算出し、ここで前記変動率は、前記第1期間分の標準偏差を前記第1期間分の平均値で除した値であり、
すべての前記測定項目について、有意差がなく、かつ前記変動率が所定の閾値を下回る場合に、前記第1期間は安定期であると決定し、
前記第1期間の各前記測定項目の値に基づき、季節調整モデルを用いて、各前記測定項目について前記ベースラインを決定する。
本発明に係る推定システムの一例は、
上述の学習装置と、
痛みを推定する推定装置と、
を備える、推定システムであって、
前記推定装置は、
第2被験者について、前記測定項目の時系列生体データである第2生体データを取得し、
前記第2生体データに基づき、前記痛み推定学習モデルを用いて、第2被験者の痛みの状況を推定する。
本発明に係るプログラムの一例は、コンピュータを、上述の学習装置として機能させる。
本発明に係る学習装置および推定システムによれば、痛みをより適切に推定することができる痛み推定学習モデルが生成される。
本発明の実施例1に係る推定システムの構成例。 図1の患者データベースの構成例。 図1の生体データベースの構成例。 図1の看護記録データベースの構成例。 図1の生体データ取得部の動作の例。 図1の看護記録部の動作の例。 図1の学習部の動作の例。 図1の生体データベースの具体例。 フリードマン検定の具体例。 季節調整モデルを利用する具体例。 AOC値およびAUC値の説明図。 痛みデータの具体例。 痛み兆候存在期間の例。 特徴量の算出方法の具体例。 機械学習に用いられる教師データに含まれる変数の具体例。 図1の推定部の動作の例。 第2生体データに基づいて決定される特徴量の具体例。 図1の推定結果データベースの構成例。 図1のデータ可視化部による表示内容の例。 図1の推定システムの運用の流れの例。
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施例1]
まず、実施例1の概要を説明する。実施例1に係る推定システムは、医療従事者により実施されてきた従来の評価結果を目的変数とし、患者から自動取得される生体データを説明変数とし、教師データを作成して学習することで、これまで医療従事者が実施していた経験に基づく判断を機械的に再現できるように構成されている。
図1に示すように、患者の生体データは、生体データ取得部S1にて自動取得され、生体データベースD2に格納される。医療従事者による評価結果は、看護記録部S2にて手動にて取得され、看護記録データベースD3に格納される。患者データベースD1に格納された患者情報と、生体データベースD2、看護記録データベースD3に格納された結果をサーバ20側にて吸い上げ、学習部S3にて機械学習を行う。
学習済みモデルをクライアント30にインストールし、推定部S4を生成する。痛みを推定したい患者の情報(生体データ、鎮静度スコア、性別、年齢層)がクライアント30側に渡されると、推定部S4の推定に従い痛み指数が計算される。なお、鎮静度スコア、性別、年齢層は、たとえば医療従事者が入力することができる。
推定部S4にて計算された結果は、データ可視化部P1にてリアルタイムに可視化される。たとえば痛み指数が時系列グラフで表示される。また、時間別の痛み指数の履歴が表示される。
推定部S4による推定の結果は推定結果データベースD4へ時系列の形で格納される。この結果は、後に研究者により分析されることを想定し、外部からアクセス可能な状態とすることができる。
次に、実施例1をより詳細に説明する。以下、図1を用いて、実施例1に係る推定システムの構成例を説明する。推定システムは、データシステム10と、サーバ20と、クライアント30とを備える。
サーバ20は、学習モデルおよび教師データに基づき、機械学習によって学習済みモデルを生成する。本実施例に係る学習済みモデルは、被験者の痛みを推定する痛み推定学習モデルである。クライアント30は、痛みを推定する推定装置として機能し、サーバ20によって生成された痛み推定学習モデルおよび被験者データに基づき、痛みを推定する。
データシステム10、サーバ20、クライアント30は、コンピュータによって構成され、互いに通信可能に接続される。各コンピュータは公知のコンピュータとしてのハードウェア構成を有し、たとえば演算手段および記憶手段を備える。演算手段はたとえばプロセッサを含み、記憶手段はたとえば半導体メモリ装置および磁気ディスク装置等の記憶媒体を含む。記憶媒体の一部または全部が、過渡的でない(non-transitory)記憶媒体であってもよい。
また、コンピュータは入出力手段を備えてもよい。入出力手段は、たとえばキーボードおよびマウス等の入力装置と、ディスプレイおよびプリンタ等の出力装置と、ネットワークインタフェース等の通信装置とを含む。
各コンピュータの記憶手段はプログラムを記憶してもよい。プロセッサがこのプログラムを実行することにより、各コンピュータは本実施例において説明される機能を実現してもよい。すなわち、これらのプログラムは、コンピュータを、データシステム10、サーバ20、またはクライアント30として機能させてもよい。
本実施例ではデータシステム10、サーバ20、クライアント30がそれぞれ独立した単一のコンピュータによって構成されるが、これらのうち2以上が共通のコンピュータによって構成されてもよく、これらのうちいずれかが2以上のコンピュータによって構成されてもよい。
データシステム10は、生体データ取得部S1および看護記録部S2としての機能を備え、患者データベースD1、生体データベースD2および看護記録データベースD3を格納する。たとえば、生体データ取得部S1が生体データベースD2を生成し、看護記録部S2が看護記録データベースD3を生成する。なお、図1では生体データ取得部S1を2箇所に示しているが、これは入力データの種類が異なることを表す。
図2に、患者データベースD1の構成例を示す。患者データベースD1は、複数の患者について、その患者を識別する患者IDに、その患者の氏名(患者名)と、性別と、年齢とを関連付ける。患者データベースD1の内容は、たとえば医療従事者によってデータシステム10に入力される。
図3に、生体データベースD2の構成例を示す。生体データベースD2は、複数の患者(第1被験者)について、各患者に関する生体データを格納する。生体データベースD2は、患者IDおよび測定時刻(「記録日時」)の組に、その患者についてその時刻に測定された生体データを関連付ける。生体データベースD2のデータには時刻が含まれているので、生体データは時系列生体データであるということができる。生体データは定期的(たとえば1分おき)に測定されたデータであることが好ましい。この場合には、生体データは1人の患者の測定項目1つにつき720個生成される。
生体データは、所定の測定項目に係るものであり、本実施例では、測定項目は以下のものを含む。
‐ABP_S(収縮期血圧。すなわち血圧測定時の最高血圧)
‐ABP_M(平均血圧。(収縮期血圧-拡張期血圧)÷3+拡張期血圧で求められる)
‐ABP_D(拡張期血圧。すなわち血圧測定時の最低血圧)
‐RESP(呼吸数)
‐PR(脈拍。たとえば手首の脈波から測定されたもの)
‐HR(心拍。たとえば胸部の心電図から計算されたもの)
生体データベースD2の内容は、たとえば患者に取り付けられたセンサ等によって測定され、生体データ取得部S1を介してデータシステム10に入力される。
図4に、看護記録データベースD3の構成例を示す。看護記録データベースD3は、各患者に関する痛みの状況を格納する。看護記録データベースD3は、患者IDおよび観察時刻(「記録日時」)の組に、その患者についてその時刻に観察された痛みの状況を関連付ける。痛みの状況は、たとえば観察種別および観察結果を含む。
観察種別は、たとえば痛みの状況を観察するための方式を表し、例としてRASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)、CPOT、CAM-ICU、等を用いることができる。観察結果は、各方式に従って観察される痛みの程度を表す。
看護記録データベースD3に係る情報は、たとえば医療従事者によって適宜観察され、看護記録部S2を介してデータシステム10に入力される。
図5に、生体データ取得部S1の動作の例を示す。生体データ取得部S1は、患者に取り付けられた各種センサからデータを受け付け(ステップ101)、受け付けたデータを生体データベースD2に格納する(ステップ102)。
図6に、看護記録部S2の動作の例を示す。看護記録部S2は、医療従事者(たとえば看護師)からの入力を受け付け(ステップ111)、受け付けたデータを看護記録データベースD3に格納する(ステップ112)。
図1に示すように、サーバ20は学習装置として機能し、とくに学習装置としての機能は学習部S3によって実現される。サーバ20は学習モデルを格納し、後述のように患者データベースD1、生体データベースD2および看護記録データベースD3に基づいて機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成する。
図7に、学習部S3の動作の例を示す。学習部S3は、生体データベースD2から、所定時間(たとえば患者がICUに入室した時点から12時間)分の生体データを取得する(ステップ121)。このように、学習部S3は、複数の患者(第1被験者)のそれぞれについて、各測定項目の時系列データ(第1生体データ)を取得する。
次に、学習部S3は、取得した生体データからノイズを削除してもよい(ステップ122)。ノイズを削除するための具体的な処理は、当業者が適宜設計可能である。
次に、学習部S3は、各患者についてベースラインを計算する(ステップ123)。ベースラインを決定するための具体的処理の例を、図8~図10を用いて以下に説明する。
図8に、生体データベースD2の具体例を示す。学習部S3は、いずれかの測定項目についてデータの量が不足している場合には、その患者を処理から除外してもよい。たとえば、学習部S3は、各患者の各測定項目(たとえば図8において一点鎖線で示すABP_S)について、12時間のうち90%以上の時刻についてデータが存在している場合のみ(1分ごとにデータを測定している場合には、648回の測定データが存在している場合のみ)その患者のデータを利用してもよい。
次に、学習部S3は、各患者について、12時間分の生体データに基づき、安定期を決定する。安定期とは、12時間より短い所定時間の期間であり、本実施例では1時間の長さを有する。安定期の意義について、以下に説明する。
痛みの反応があった場合、各種生体データに変化(血圧上昇、心拍数の増加、脈拍の増加、呼吸数の増加、等)が現れる。生体データの変化の程度は各患者で一律ではないため、各患者において異常と考えられる生体データの変化に着目するのが好ましい。
異常な生体データの変化であると判断するためには、正常な状態における生体データの変化と、実際に測定された変化の状況とを比較して判断するのが好ましい。しかし、本実施例のターゲットフィールドであるICUは、疾患のある患者のみが入る場所であり、正常な状態を知ることは難しい。
そのため、たとえば統計的手法と閾値によって安定期の定義を行い、安定期の測定値と実測値との差分を計算して特徴量とすることで、痛み反応による異常な生体データの変化を求めると好適である。本実施例では、安定期は、フリードマン検定の結果および変動率に基づいて決定される。
フリードマン検定とは、3群以上の対応のあるデータについて、ノンパラメトリックで代表値の差を検定する手法である。
図9を用いて、フリードマン検定の具体例を説明する。まず、12時間分のデータのうち、1時間の第1期間分(たとえば処理開始時点では12時間のうち最初の1時間分)の生体データを、各測定項目について20分ごとに3つのブロックに分割し、Aブロック、BブロックおよびCブロックを生成する。
学習部S3は、Aブロック、BブロックおよびCブロックについてフリードマン検定(たとえばp値<0.05)を行うことにより、各ブロック間に有意差があるか否かを判定する。有意差がある場合には、判定中の第1期間は安定期ではないと決定し、判定対象の期間を20分だけ後にずらして再度同様の判定を行う。
有意差がない場合には、さらに変動率による判定を行う。学習部S3は、3つのブロックを連結して1時間のデータとし、このデータから変動率を算出する。変動率は、たとえば第1期間分の標準偏差を第1期間分の平均値で除した値である。
学習部S3は、変動率と所定の閾値とを比較する。閾値は、たとえば測定項目ごとに決定され、具体例として以下のように決定される。
‐血圧について閾値0.15。この閾値は、高血圧患者の血圧の通常範囲140~159に基づいて偏差を約20とし、20/((140+159)/2)の値を約0.15として求められた値である。
‐心拍および脈拍について閾値0.3。この閾値は、正常心拍範囲65~85に基づいて偏差を20とし、20/((65+85)/2)≒0.3として求められた値である。
‐呼吸数について閾値0.4。この閾値は、正常呼吸数範囲12~18から偏差を6とし、6/((12+18)/2)=0.4として求められた値である。
学習部S3は、当該患者の第1期間におけるすべての測定項目について変動率が閾値を下回る場合に、判定中の第1期間は安定期であると決定する。いずれかの測定項目について変動率が閾値以上である場合には、判定中の第1期間は安定期ではないと決定し、判定対象の期間を20分だけ後にずらして、再度フリードマン検定から実施する。
このようにして安定期が決定される。次に、学習部S3は、各患者について、生体データに基づいて安定期におけるベースラインを決定する。本実施例では、学習部S3は、第1期間の各測定項目の値に基づき、季節調整モデルを用いて、各測定項目についてベースラインを決定する。
季節調整モデルとは、非定常の時系列データをいくつかの成分に分解する方法である。本実施例では、周期成分と誤差成分を除去するためのフィルタとして利用する。季節調整モデルの詳細は、『時系列解析入門』(北川源四郎、岩波書店、2005年)に記載される。
図10を用いて、季節調整モデルを利用する具体例について説明する。図10(a)は測定された生体データを示し、たとえば図8のABP_Sに対応する。図10(b)(c)(d)は季節調整モデルによる分割の結果を示し、図10(b)はトレンド成分を示し、図10(c)は周期成分を示し、図10(d)は誤差成分を示す。このうちトレンド成分として抽出された図10(b)に示すデータ(とくに一点鎖線により示す)が、ベースラインとして用いられる。
用いるべき具体的な季節調整モデルおよび具体的な利用方法は、当業者が公知技術等に基づき適宜設計することができる。
このようにして、図7のステップ123においてベースラインを決定した後、学習部S3は、各患者について、安定期の差分データ(第1差分データ)を決定する(ステップ124)。この第1差分データは、安定期において生体データとベースラインとの差分を表す時系列データである。本実施例では、第1差分データは、各測定項目についてAOC(Area Over Curve)値およびAUC(Area Under Curve)値を含む。
図11を用いて、AOC値およびAUC値について説明する。AOC値は、当該測定項目の測定値がベースライン200を上回る時刻における、測定値とベースライン200との差分の総和であり、すなわちAOC201(薄いパターンで示す)の面積に対応する。同様に、AUC値は、当該測定項目の測定値がベースライン200を下回る時刻における、測定値とベースライン200との差分の総和であり、すなわちAUC202(濃いパターンで示す)の面積に対応する。
なお、説明の簡明のため、図11ではベースライン200を定数としているが、実際にはベースライン200は時間に関して変化する関数であってもよい。また、図11では、測定値がベースライン200を上回る時刻(時間帯)の一部のみAOC201として示しているが、実際には測定値がベースライン200を上回る時刻の全部がAOC値に寄与する。AUC値も同様である。
このようにして、各患者の安定期について、各測定項目について算出されたAOC値およびAUC値は、後述するように、機械学習における特徴量として用いられる。
学習部S3は、図7のステップ121~124と並行して、ステップ125を実行する。ステップ125において、学習部S3は、各患者について、看護記録データベースD3から痛みの状況を表す時系列データ(痛みデータ)を取得する。痛みデータはたとえばCPOTによる観察結果を表す。
図12に、痛みデータの具体例を示す。この例では、2つの時刻についてCPOTによる観察結果が記録されており、それぞれ異なる痛みの状況が表されている。例として、観察結果が「0」であるデータは痛みがないことを表し、観察結果が「2」であるデータは痛みがあることを表す。
学習部S3は、ステップ121~124において計算された各患者の第1差分データと、ステップ125において取得された痛みデータとに基づき、機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する。この処理の具体例について、以下に説明する。
学習部S3は、痛みの状況が表された時刻を起点として、以下の処理を行う。痛みの状況はたとえばCPOTによって評価される。「痛みの状況が表された時刻」とは、たとえば図12に示される2つの時刻を意味する。以下では、図12において一点鎖線で示すデータ、すなわち「2018/07/15 18:10:00」のデータを例として説明する。
学習部S3は、痛みの状況が表された時刻を起点とする過去所定時間の痛み兆候存在期間を決定する。痛み兆候存在期間の長さは、安定期と同じ長さであり、本実施例では1時間である。学習部S3は、痛み兆候存在期間の生体データを取得する(ステップ126)。
図13に、痛み兆候存在期間の例を示す。「2018/07/15 18:10:00」を起点として、過去1時間の期間を一点鎖線で示す。なお、この例では痛み兆候存在期間は起点時刻を含まないが、起点時刻を含むように設定してもよい。学習部S3は、痛み兆候存在期間に基づいて特徴量を決定する。
図14に、特徴量の算出方法の具体例を示す。学習部S3は、痛み兆候存在期間の生体データからベースラインを減算する(x-ベースライン)。式1に示すように、計算結果が正の値となったものについて、[x-ベースライン]の値を積算した値を算出し(ステップ127)、これから安定期のAOC値を減算することにより、DiffAOCを算出する(ステップ128)。同様に、式2に示すように、計算結果が負の値となったものについて、[x-ベースライン]の絶対値を積算した値を算出し(式中のバー記号は符号の反転を意味する)(ステップ127)、これから安定期のAUC値を減算することにより、DiffAUCを算出する(ステップ128)。
このようにして、1つの測定項目から、2つの特徴量としてDiffAOCおよびDiffAUCが生成される。
次に、学習部S3は、他の特徴量を決定して教師データを生成する(ステップ129)。
図15に、機械学習に用いられる教師データに含まれる変数の具体例を示す。変数Patient_idは整数であり、患者IDを表し、変数Timeは時刻であり、痛みの状況が表された時刻を表す。なお、本実施例では、変数Patient_idおよび変数Timeは学習には用いられない。
変数Pain_Existenceは整数であり、痛みの状況(たとえば痛みの有無)を表し、たとえばCPOTによる評価が2以下であれば0(痛みがない)であり、評価が3以上であれば1(痛みがある)である。この変数は目的変数であり、機械学習における解(正解)として用いられる。
以下の変数は説明変数であり、機械学習における特徴量として用いられる。
‐変数ARTD+は浮動小数点数であり、拡張期血圧における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数ARTD-は浮動小数点数であり、拡張期血圧における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数ARTM+は浮動小数点数であり、平均血圧における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数ARTM-は浮動小数点数であり、平均血圧における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数ARTS+は浮動小数点数であり、収縮期血圧における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数ARTS-は浮動小数点数であり、収縮期血圧における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数PR+は浮動小数点数であり、脈拍における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数PR-は浮動小数点数であり、脈拍における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数HR+は浮動小数点数であり、心拍における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数HR-は浮動小数点数であり、心拍における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数RESP+は浮動小数点数であり、呼吸数における安定期からの差分(AOC値)を表す。
‐変数RESP-は浮動小数点数であり、呼吸数における安定期からの差分(AUC値)を表す。
‐変数RASSは浮動小数点数であり、最新の鎮静度スコアを表す。鎮静度スコアは、本実施例ではRASSの評価結果によって表される。なお、本実施例では、最新の鎮静度スコアが記録された時刻が、痛みの状況が表された時刻から3時間以上前である場合には、そのデータを学習に用いない。
‐変数Eraは整数であり、年齢層を表す。
‐変数Gender_Mは整数であり性別を表す。
なお、図15の説明変数のうち、変数RASSはたとえば看護記録データベースD3から取得することができ、変数Eraおよび変数Gender_Mはたとえば患者データベースD1から取得することができる。これら以外の説明変数は、上述のようにステップ128において算出することができる。
このように、学習部S3は、ステップ129において、痛みの状況が表された時刻を起点とする過去1時間の期間において、各測定項目に係るAOC値およびAUC値を含むデータと、痛みの状況とを関連付けて教師データを生成する。
次に、学習部S3は、教師データを用いた機械学習によって、痛み推定学習モデルを生成し、推定部S4にインストールする(ステップ130)。機械学習に用いる具体的な学習モデルは当業者が適宜設計することができるが、本実施例ではランダムフォレストを用いる。
この痛み推定学習モデルは、痛みの状況を推定するための学習済みモデルとして用いることができ、痛み指数計算部として機能する。より具体的には、図15に示す説明変数に対応する各変数の入力に基づいて、痛みの状況を推定し、出力する。出力される痛みの状況は、たとえば0~1の範囲内の実数である。
図1に示すように、クライアント30は推定装置として機能し、とくに推定装置としての機能は推定部S4によって実現される。
図16に、推定部S4の動作の例を示す。推定部S4は、痛み推定の対象となる特定の患者(第2被験者)について、測定項目の時系列生体データである生体データ(第2生体データ)を取得する(ステップ141)。この第2生体データの形式および生成方法は、図3等に示す第1生体データと同一とすることができる。
第2生体データは、たとえば少なくとも1時間分が取得される。教師データ生成の際(図7等)には12時間分のデータを取得していたが、実際の運用を考えた場合には、推定を行うまでに12時間分のデータを蓄積するのは、推定処理を開始するのが遅くなる可能性があるため、ステップ141ではより短い1時間分で実施可能にしておくと好適である。当然ながら、1時間を超える期間の生体データが存在する場合には、その全体を取得してもよい。
次に、推定部S4は、第2生体データからノイズを削除してもよい(ステップ142)。ノイズを削除するための具体的な処理は、当業者が適宜設計可能である。
次に、推定部S4は、第2生体データに基づいて安定期を決定する(ステップ143)。安定期の決定は、第1生体データ(ステップ123)と同様にして行うことができる。なお、ステップ123では、第1生体データについて、判定中の期間(第1期間)が安定期でないと判定された場合には、第1期間を20分だけ後にずらして再判定を行ったが、ステップ143では、第1期間をより短い時間(たとえば1分)だけ後にずらして再判定を行うと、推定処理をより迅速に開始でき好適である。
次に、推定部S4は、推定に用いる特徴量を決定する(ステップ144)。特徴量は、教師データの特徴量(ステップ125~129)と同様にして決定することができる。
図17に、第2生体データに基づいて決定される特徴量の具体例を示す。各変数の意味は、第1生体データに基づく特徴量(図15)と同様であるので説明を省略する。
次に、推定部S4は、第2生体データに基づき(より具体的には、この特徴量に基づき)、痛み推定学習モデルを用いて、患者(第2被験者)の痛みの状況を推定する(ステップ145)。本実施例では、教師データの正解は整数(0または1)であるが、学習モデルにランダムフォレストを用いているので、痛みの状況を表す値として推定される値は0~1の範囲内の実数となる。本実施例では、この値を100倍した値(0~100の範囲内の実数)を整数に丸めたものを痛み指数とする。
次に、推定部S4は、推定された痛み指数を推定結果データベースD4に保存する(ステップ146)。
図18に、推定結果データベースD4の構成例を示す。推定結果データベースD4は、患者IDおよび記録日時(すなわち推定が行われた時刻)の組に、推定された痛み指数を関連付ける。
さらに、推定結果データベースD4は、痛み指数の標準偏差を含んでもよい。標準偏差は、たとえば過去1時間において推定された痛み指数の標準偏差を表す。この標準偏差が小さい場合は、痛み指数が一定期間持続していることを示し、標準偏差が大きい場合は、一定期間内で痛み指数にブレが生じていることを示す。
また、推定結果データベースD4は、1時間分のトレンドを表す情報を含んでもよい。トレンドは、痛み指数の変化を近似する1次関数(最小二乗法等で決定される)の傾きによって表される。このトレンドによって、痛み指数が上昇しつつあるか、下降しつつあるか、横ばいであるかを判断することができる。
このようにして推定結果データベースD4が生成される。推定結果データベースD4は、図1に示すように研究者による利用に供することができる。
ステップ146と並行して、推定部S4は、推定された痛み指数をユーザに提示する(ステップ147)。この提示はたとえばデータ可視化部P1を介して行われる。
図19に、データ可視化部P1による表示内容の例を示す。データ可視化部P1は、推定された痛み指数(「Pain index」)の最新値300を表示する。また、データ可視化部P1は、推定された痛み指数の変化をグラフ301およびテーブル302として表示する。テーブル302において、大きい値の痛み指数については着色して表示されてもよい(図19の例ではセルをパターンで表している)。
このような可視化により、ベッドサイドの医療従事者は、患者の現在の痛み指数およびその変化を把握することができ、適切な処置をとることができる。
図20に、上述の推定システムの運用の流れの例を示す。患者データベースD1は、ベッドサイドの既存の医療機器と同期して自動的に生成される。
(1)センサ等が1分おきに生体データを収集する。(2)学習部S3が安定期を決定する。(3)学習部S3がデータを加工し、特徴量を決定する。(4)学習部S3が看護記録データベースD3(医療従事者による手動入力であってもよい)から特徴量を追加する。(5)推定部S4が痛み指数を推定する。(6)データ可視化部P1が痛み指数を可視化する。(7)医療従事者が結果を確認する。(8)必要に応じ、医療従事者がベッドサイドへ訪問し、診断および/またはケアを実施する。
上述の実施例1において、以下のような変形を施すことができる。安定期の長さは1時間に限らない。また、ステップ121(図7)において取得される生体データ(第1生体データ)は、安定期以上の長さの期間のデータであればよく、12時間分に限らない。
安定期の判定を省略してもよく、その場合にはすべての期間が安定期であるものとして扱ってもよい。また、安定期の判定について、フリードマン検定を行う際のブロックの数は3に限らない。また、フリードマン検定以外の検定手法を用いてもよい。同様に、安定期の判定に変動率を用いる必要はなく、また、変動率を用いる場合には、標準偏差を平均値で除した値以外の値を変動率として算出してもよい。
安定期に基づいてベースラインを決定する方法は、図10のような季節調整モデルを用いるものに限らない。たとえば安定期における各測定項目の中央値をベースラインとしてもよい。その場合にはベースラインは各安定期について固定された定数となる。
学習モデルはランダムフォレスト以外のものを用いてもよく、たとえばディープラーニングを用いてもよい。
教師データおよび推定に用いる特徴量は、AOC値およびAUC値に限らない。各測定項目の測定値に基づいて得られる他の特徴量を用いることも可能である。また、推定により出力される値(痛み指数)の形式は任意に変更可能であり、2値(たとえば0または1)とすることも可能である。
10…データシステム
12…正常呼吸数範囲
20…サーバ(学習装置)
30…クライアント(推定装置)
200…ベースライン
201…AOC
202…AUC
300…痛み指数の最新値
301…グラフ
302…テーブル
D1…患者データベース
D2…生体データベース
D3…看護記録データベース
D4…推定結果データベース
P1…データ可視化部
S1…生体データ取得部
S2…看護記録部
S3…学習部
S4…推定部

Claims (5)

  1. 被験者の痛みを推定するための痛み推定学習モデルを生成する、学習装置であって、
    前記痛み推定学習モデルは、所定の測定項目に係る時系列生体データに基づき、痛みの状況を推定するための学習済みモデルであり、
    前記学習装置は、
    複数の第1被験者のそれぞれについて、前記測定項目の時系列生体データである第1生体データと、痛みの状況を表す時系列データである痛みデータとを取得し、
    各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて安定期を決定し、
    各前記第1被験者について、前記第1生体データに基づいて前記安定期におけるベースラインを決定し、
    各前記第1被験者について第1差分データを決定し、前記第1差分データは、前記安定期において前記第1生体データと前記ベースラインとの差分を表す時系列データであり、
    各前記第1被験者の前記第1差分データおよび前記痛みデータに基づき、機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する、
    学習装置。
  2. 請求項1に記載の学習装置であって、
    前記学習装置は、
    各前記第1被験者について、12時間分の前記第1生体データに基づいて前記安定期を決定し、前記安定期は12時間より短い所定時間の期間であり、
    前記第1差分データは、各前記測定項目についてAOC値およびAUC値を含み、
    前記AOC値は、当該測定項目の測定値が前記ベースラインを上回る時刻における、前記測定値と前記ベースラインとの差分の総和であり、
    前記AUC値は、当該測定項目の測定値が前記ベースラインを下回る時刻における、前記測定値と前記ベースラインとの差分の総和であり、
    前記学習装置は、痛みの状況が表された時刻を起点とする過去前記所定時間の期間において、各前記測定項目に係る前記AOC値および前記AUC値を含むデータと、前記痛みの状況とを関連付けて教師データを生成し、前記教師データを用いた機械学習によって痛み推定学習モデルを生成する、
    学習装置。
  3. 請求項2に記載の学習装置であって、
    前記所定時間は1時間であり、
    前記学習装置は、
    1時間の第1期間分の前記第1生体データを、各前記測定項目について20分ごとに3つのブロックに分割し、
    3つの前記ブロックについてフリードマン検定を行うことにより、各前記ブロック間に有意差があるか否かを判定し、
    各前記ブロック間に有意差がない場合に変動率を算出し、ここで前記変動率は、前記第1期間分の標準偏差を前記第1期間分の平均値で除した値であり、
    すべての前記測定項目について、有意差がなく、かつ前記変動率が所定の閾値を下回る場合に、前記第1期間は安定期であると決定し、
    前記第1期間の各前記測定項目の値に基づき、季節調整モデルを用いて、各前記測定項目について前記ベースラインを決定する、
    学習装置。
  4. 請求項1~3のいずれか一項に記載の学習装置と、
    痛みを推定する推定装置と、
    を備える、推定システムであって、
    前記推定装置は、
    第2被験者について、前記測定項目の時系列生体データである第2生体データを取得し、
    前記第2生体データに基づき、前記痛み推定学習モデルを用いて、第2被験者の痛みの状況を推定する、
    推定システム。
  5. コンピュータを、請求項1~3のいずれか一項に記載の学習装置として機能させるプログラム。
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