以下、本発明に係る移動端末試験装置、及び移動端末試験方法の実施形態について図面を用いて説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る測定装置1の構成について、図1~図4を参照して説明する。測定装置1は、本発明の移動端末試験装置を構成する。本実施形態に係る測定装置1は、全体として図1に示すような外観構造を有し、かつ、図2に示すような機能ブロックにより構成されている。図1、図2において、OTAチャンバ50についてはその側面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
測定装置1は、例えば、図1に示す構造を有するラック構造体90の各ラック90aに前述したそれぞれの構成要素を載置した態様で運用される。図1においては、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、OTAチャンバ50を載置した例を示している。
図2に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25、OTAチャンバ50を有している。
これらの構成について、ここでは、便宜的に、OTAチャンバ50から先に説明する。図1、図2に示すように、OTAチャンバ50は、例えば、長方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成され、内部空間51に、アンテナ110を有するDUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56を収容している。
OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられている。これにより、OTAチャンバ50は、内部空間51内に配置される各要素(DUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56)が外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を規制する機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
OTAチャンバ50の内部空間51に収容されるもののうち、DUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、IEEE802.11adや5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
本実施形態において、DUT100のアンテナ110は、例えば、5G NRの通信規格に準拠した規定の周波数帯の無線信号を使用するものである。DUT100は、本発明における被試験対象、移動端末を構成する。
OTAチャンバ50の内部空間51において、DUT100は、DUT走査機構56の一部機構により保持されている。DUT走査機構56は、OTAチャンバ50の内部空間51における筐体本体部52の底面52aに、鉛直方向に延在して設けられている。DUT走査機構56は、性能試験を行うDUT100を保持しつつ、該DUT100に対する後述の全球面走査(図5、図6参照)を実施するものである。
DUT走査機構56は、図1に示すように、ターンテーブル56a、支柱部材56b、DUT載置部56c、駆動部56eを有している。ターンテーブル56aは、円盤形状を有する板部材で構成され、アジマス軸(鉛直方向の回転軸)を中心に回転する構成(図3参照)を有する。支柱部材56bは、ターンテーブル56aの板面上に垂直方向に延びるように配置される柱状部材により構成されている。
DUT載置部56cは、支柱部材56bの上端近傍にターンテーブル56aと平行に配置され、DUT100を載置する載置トレイ56dを有している。DUT載置部56cは、ロール軸(水平方向の回転軸)を中心に回転可能な構成(図3参照)を有している。
駆動部56eは、例えば、図3に示すように、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gと、を有する。駆動部56eは、駆動モータ56fと駆動モータ56gとによって、アジマス軸とロール軸とをそれぞれの回転方向に回転させる機構を備えた2軸ポジショナにより構成されている。このように、駆動部56eは、載置トレイ56dに載置されたDUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させることができるものである。以下、駆動部56eを含むDUT走査機構56全体を2軸ポジショナと称することもある(図3参照)。駆動部56e、駆動モータ56f、56gは、それぞれ、本発明における駆動手段、第1の回転駆動手段、第2の回転駆動手段を構成する。載置トレイ56dは、本発明における被試験対象載置部を構成する。
DUT走査機構56では、載置トレイ56dに載置(保持)されているDUT100を、例えば、球体(図5の球体B参照)の中心O1に配置したと仮定し、球体表面の全ての方位に対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる全球面走査を行うものである。DUT走査機構56におけるDUT走査の制御は、後述するDUT走査制御部16よって行われる。DUT走査機構56、及びDUT走査制御部16は、本発明における走査手段を構成する。
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50の筐体本体部52の底面52aの所要位置に、適宜な保持具(図示せず)を用いて取り付けられている。試験用アンテナ5の取り付け位置は、底面52aに設けられた開口67aを介してリフレクタ7から見透しが確保できる位置となっている。試験用アンテナ5は、DUT100のアンテナ110と同じ規定(NR規格)の周波数帯の無線信号を使用するものである。
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50内でのDUT100のNRに関連する測定に際し、NRシステムシミュレータ20からDUT100に対する試験用信号の送信、及び該試験用信号を受信したDUT100から送信される被測定信号の受信を行う。試験用アンテナ5は、その受光面がリフレクタ7の焦点位置Fとなるように配置されている。なお、試験用アンテナ5をその受光面がDUT100に向き適切な受光ができるように配置できる場合には、リフレクタ7は必ずしも必要ない。
リフレクタ7は、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。リフレクタ7は、DUT100のアンテナ110により送受信される無線信号(試験用信号、及び被測定信号)を、試験用アンテナ5の受光面へと折り返す電波経路を実現する。
次に、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20の構成について説明する。
図2に示すように、統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20に対して、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して相互に通信可能に接続されている。また、統合制御装置10は、OTAチャンバ50における被制御系要素、例えば、DUT走査制御部16にもネットワーク19を介して接続されている。
統合制御装置10は、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を統括的に制御するものであり、例えば、パーソナル・コンピュータ(PC)により構成される。なお、DUT走査制御部16は、OTAチャンバ50に付随して独立に設けられる(図2参照)他、図3に示すように、統合制御装置10に設けられていてもよい。以下では、統合制御装置10が図3に示す構成を有するものとして説明する。
図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、測定装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20、及び信号処理部25を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)11aと、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)11bと、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)11c、外部I/F部11d、入出力ポート(図示せず)等を有する。
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25、及びDUT走査機構(2軸ポジショナ)56の駆動部56eとそれぞれ通信可能に接続されている。入出力ポートには、操作部12、表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
呼接続制御部14は、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25を介して試験用アンテナ5を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われることを契機に、呼接続制御による呼の確立後のNRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信し、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して試験用信号を送信させる制御、及び信号受信指令を送信し、試験用アンテナ5を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
DUT走査制御部16は、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御することにより、DUT載置部56cの載置トレイ56dに載置されているDUT100の全球面走査を行わせるものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、DUT走査制御テーブル16aが用意されている。DUT走査制御テーブル16aは、例えば、DUT100の全球面走査に係る球座標系(図5(a)参照)における各角度標本点PS(図5(b)参照)の座標、各角度標本点PSの座標に対応付けられた駆動モータ56f及び56gの駆動データ、及び各角度標本点PSでの停止時間(測定時間)などが関係付けられた制御データを格納している。駆動モータ56f及び56gが例えばステッピングモータの場合には、上記駆動データとして例えば駆動パルス数が格納される。
DUT走査制御部16は、DUT走査制御テーブル16aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT走査制御テーブル16aに記憶されている制御データに基づき、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御する。これにより、DUT載置部56cに載置されるDUT100の全球面走査が行われる。全球面走査では、球座標系における角度標本点PSごとにDUT100のアンテナ110のアンテナ面が該角度標本点PSに向いて規定の時間(上記停止時間)だけ停止し、その後、次の角度標本点PSに移動する動作(DUT100の走査)が、全ての角度標本点PSを対象にして順次実施される。
信号解析制御部17は、DUT100の全球面走査時に、試験用アンテナ5が受信したNR、LTEに関連する無線信号を、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25を介して取り込み、指定測定項目の信号として解析処理(測定処理)するものである。
受信感度試験制御部18は、NRシステムシミュレータ20の信号発生部21aから送信した試験用信号をDUT100で受信させてその受信感度を測定する受信感度試験を複数回実行させ、複数回の受信感度試験の測定結果を試験結果として集計する制御を行う。受信感度試験制御部18は、本発明の受信感度試験実行手段を構成している。
受信感度試験制御部18は、図3に示すように、試験条件設定部18b、スループット測定部18c、低下状態判定部18d、出力レベル可変設定部18e、測定結果出力部18fを有している。試験条件設定部18b、スループット測定部18c、低下状態判定部18d、出力レベル可変設定部18e、測定結果出力部18fは、それぞれ、本発明の試験条件設定手段、スループット測定手段、低下判定手段、出力レベル設定手段、測定結果出力手段を構成している。
試験条件設定部18bは、受信感度試験の試験条件を設定する機能部である。試験条件設定部18bが設定する試験条件として、初期ステップレベル(initial step level)SL0、スタート出力レベル(Starting output level)OL0、エラートレランスレベルEL(Error tolerance of boundary level)、接続断判定用閾値DT(Connection drop threshold)などが挙げられる。初期ステップレベルSL0は受信感度試験に際してステップ的に変動させる試験用信号の出力レベルのステップ変動幅の初期値を示す。スタート出力レベルOL0は、受信感度試験を開始する際のDUT100の出力レベル(1回目の送受信の際の出力レベル)を示す。エラートレランスレベルELは、受信感度試験を次回も継続して行うか否かを判定するための前回と今回の試験用信号の出力レベルの変動幅(所定値)を示す。DTは、この値よりも値を下げてしまうと呼接続の切断をきたす(Call Dropしてしまう)という、底の値の設定値である。図7におけるアルゴリズムでは、大きなステップで出力レベルを下げていくので、これ以上行くとCall Dropしてしまうから下げない、という閾値が必要になる。この値は、ユーザが事前に設定することが可能である。
スループット測定部18cは、受信感度試験ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定する機能部である。スループット測定部18cは、例えば、試験用信号の送信に合わせてその伝送レートもDUT100に送信し、その後、DUT100が試験用信号の受信結果(受信伝送レート)をNRシステムシミュレータ20側に報知してくるのに合わせ当該受信伝送レートからスループットを測定する構成であってもよい。
低下状態判定部18dは、スループット測定部18cによるスループットの測定結果が急峻に低下する特性(図13参照)に関する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する機能を有する。この機能を実現するために、スループットの測定結果が急峻低下領域内のある割合まで低下した状態であるか否かを判定するための判定条件が、例えば、試験条件設定部18bによって予め設定されている。低下状態判定部18dは、測定されたスループットが判定条件によって示される急峻低下領域内にあるか否かに応じて低下した状態であるか否かを判定するようになっている。低下した状態であるか否かを判定する判定条件としては、例えば、1回目の試験信号の送受信によりスループット測定部18cにより測定されたスループットの値を100%とするときに、95%を超えて99%以下の範囲を設定する例が挙げられる。これにより、測定されたスループットが設定した範囲内にあるときに低下した状態であると判定することができ、上記範囲よりも高い割合である場合には低下した状態ではないと判定することができる。ここで上記判定条件は、前述の如く1回目の試験信号の送受信により測定されたスループットの値を100%(基準値)とし、該基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲とするのに限らず、基準値に対する他の割合範囲を設定するようにしてもよい。
出力レベル可変設定部18eは、スループット測定部18cによるスループットの測定結果と予め設定された所定の閾値(スループット閾値)との比較結果に応じて、次回の前記受信感度試験における試験用信号の出力レベルを上昇(レベルアップ)または下降(レベルダウン)方向に、かつ、前後する回数の受信感度試験間での試験用信号の出力レベルが異なるように可変設定する機能部である。
測定結果出力部18fは、可変設定後の出力レベルを有する試験用信号による今回の受信感度試験の試験結果(スループットの測定結果)と前回の受信感度試験の試験結果間の試験結果変動幅が試験条件設定部18bにより設定された変動幅(EL)の範囲を超えているときには次回の受信感度試験(スループット測定)に進み、試験結果変動幅が変動幅(EL)内となったときには当該試験結果を出力する機能部である。
NRシステムシミュレータ20は、図4に示すように、信号発生部21a、送受信部21f、信号測定部21b、制御部21c、操作部21d、表示部21eを有している。NRシステムシミュレータ20は、本発明の信号発生器を構成する。
信号発生部21aは、試験用信号の元となる信号(ベースバンド信号)を発生する。送受信部21fは、信号発生部21aが発生した信号から各通信規格の周波数に対応した試験用信号を生成して信号処理部25に送出するとともに、信号処理部25から送られてくる被測定信号からベースバンド信号を復元するRF部の機能を果たす。信号測定部21bは、送受信部21fで復元されたベースバンド信号に基づいて被測定信号の測定処理を行う。
制御部21cは、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21f、操作部21d、表示部21eの各機能部を統括的に制御する。操作部21dは、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部21eは、各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
上述した構成を有する測定装置1では、OTAチャンバ50の内部空間51内で、DUT走査機構56(2軸ポジショナ)の載置トレイ56dにDUT100を載置し、該DUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させながら(ポジショナの角度を変更しながら)、DUT100の無線信号に関するEIRP-CDF、EIS-CDF、TRP等の測定項目の測定を行うことができる。
ここで、上述した各測定項目を測定する際に必要とされる、2軸ポジショナの角度変更によるDUT100の角度制御(全球面走査)について図5、図6を参照して説明する。
一般に、DUT100を対象とする放射電力測定に関しては、等価等方輻射電力(EIRP)を測定する方法と、全放射電力(TRP)を測定する方法が知られている。EIRPは、例えば、図5(a)に示す球座標系(r,θ,φ)の各測定点(θ,φ)で測定した電力値である。これに対し、TRPは、上記球座標系(r,θ,φ)の全ての方位、すなわち、DUT100の全球面走査の中心O1(以下、基準点)から等距離にある球面上の予め規定した複数の角度標本点PS(図5(b)参照)でのEIRPを測定し、その総和を求めたものである。
本実施形態において、全放射電力(TRP)を算出するための分割数Nθ及びNφは、それぞれ、例えば、12に設定されている。これにより、本実施形態においては、角度標本数(N)は、N=132(=(12-1)×12)として求められる。こうして求められた132個の角度標本点PSは、球体Bの表面上に表すと図5(b)に示すような位置となる。
本実施形態に係る測定装置1では、図5(b)に示すように、球座標系(r,θ,φ)の基準点から等距離の132ポイントの位置でそれぞれEIRPが測定され、さらに全てのポイント位置でのEIRPが加算される。そして、上記各EIRPの加算結果、すなわち、132ポイントの全ての角度標本点PSでのEIRPの総和に基づいて、DUT100の全放射電力(TRP)が求められる。
TRP測定に際し、統合制御装置10は、DUT走査機構56を駆動制御することでDUT100の全球面走査を実施する。DUT100の全球面走査において、統合制御装置10は、駆動モータ56fの駆動/非駆動を繰り返しつつターンテーブル56aをアジマス軸中心に回転駆動する一方で、駆動モータ56gの駆動/非駆動を繰り返しつつ載置トレイ56dをロール軸中心に回転駆動させる。その際、統合制御装置10は、アンテナ110のアンテナ面が1つの角度標本点PSを向くタイミングごとに駆動モータ56f及び駆動モータ56gを非駆動とするように制御する。このDUT100の全球面走査制御により、載置トレイ56dに載置されているDUT100は、アンテナ110が球座標系(r,θ,φ)を規定する球体Bの中心である基準点の位置に保たれたまま、アンテナ110のアンテナ面が球体Bの全ての角度標本点PSを順次向く(指向する)ように、基準点を中心に回転駆動される。
図6に示すように、上記球座標系(r,θ,φ)系における特定の角度標本点PS(1点)の位置には、試験用アンテナ5が配置されている。上述した全球面走査において、DUT100は、アンテナ110のアンテナ面が試験用アンテナ5の受光面に順次に向くように駆動(走査)される。これにより、試験用アンテナ5は、全球面走査が行われるDUT100のアンテナ110との間でTRP測定のための信号の送受信を行うことが可能となる。ここで送受信される信号は、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して送信される試験用信号と、該試験用信号を受信したDUT100がアンテナ110より送信する信号であって、試験用アンテナ5を介して受信される被測定信号である。
統合制御装置10では、図5(b)に示す球座標系(r,θ,φ)系において、DUT100があるθの角度を保ったままφ方向の各角度標本点PSを通過するように走査されるのに合わせて、NRシステムシミュレータ20を駆動して信号発生部21a、送受信部21fより上記試験用信号を発生させ、該試験用信号を、信号処理部25を介して試験用アンテナ5から送信させる。ここでDUT100は、アンテナ110で上記試験用信号を受信すると、当該試験用信号の受信に対応した応答信号を送出する。
統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20をさらに駆動し、DUT100が上記試験用信号の受信に応答して送信し、試験用アンテナ5で受信された信号を、信号処理部25から送受信部21fを介して信号測定部21bに被測定信号として受信させる。さらに統合制御装置10は、受信した被測定信号に基づいてEIRPの測定に係る信号処理を行わせるように信号測定部21bを駆動制御する。こうしたEIRPの測定制御を、θの角度を変えて全ての角度標本点PSを通過するDUT100の全球面走査に合わせ実施することで、NRシステムシミュレータ20では、NRに対応して球座標系(r,θ,φ)系の全ての角度標本点PSについてのEIRPを測定することができる。また、統合制御装置10は、全ての角度標本点PSについてのEIRP測定値の総和であるTRPを求めることができる。
さらに統合制御装置10は、OTAチャンバ50内で2軸ポジショナ(DUT走査機構56)の角度を変更しながら行うDUT100の性能試験、具体的には、例えば、EIRP-CDF、EIS-CDF、TRP等の測定項目の測定の実施に先立って、NRシステムシミュレータ20における試験用信号の出力レベル(電力レベル)を、例えば、3GPP規格によって規定された適正なレベルに調整する出力レベル制御機能を有している。この出力レベル制御機能によって、上記各項目の測定に際してDUT100が最大の能力を発揮できる試験用信号の出力レベルのサーチが行われる。このため、NRシステムシミュレータ20による上述した出力レベル制御機能は、DUT100にとっての受信感度を探る受信感度試験に係る制御機能という見方もできる。受信感度試験に係る制御機能は、統合制御装置10の制御部11に設けられる受信感度試験制御部18によって実現される。
(受信感度試験の時間短縮手法について)
統合制御装置10において、受信感度試験制御部18は、信号発生器であるNRシステムシミュレータ20とDUT100との間で試験用信号を複数回送受信することによりDUT100の受信感度試験の制御を実施する。この制御においては、受信感度試験中の各回の試験用信号の送受信に合わせてスループットが測定され、該スループットの測定値とスループット閾値との比較結果に応じて試験用信号の出力レベルをレベルダウン、若しくはレベルアップさせていきながら、適宜なスループットの値(測定結果)が得られる出力レベルに収束させていくようになっている。
このような受信感度試験の試験時間を短縮する方法の一例としては、初回に設定した出力レベルから測測定回数が増えるごとに順次一定レベルずつ変化(リニアに変化)させていく(図15の試験結果表示領域135b参照)のではなく、試験用信号の出力レベルに関してレベルダウン、若しくはレベルアップを繰り返し実行しながら、該出力レベルをノンリニアに変動させるように制御する方法が考えられる。
本実施形態に係る測定装置1は、DUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御することが前提であり、その制御に係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループットのそれぞれの測定値との関係を図10の表図、及び図11のグラフとして示している。
図10に示す表図において、左から1、3~5列目には本実施形態に係る試験用信号の出力レベル制御のデータ例を示している。また、この表図において、左から1、2列目には本実施形態と比較する意味での既存の試験用信号の出力レベル制御のデータ例を示している。同様に、図11に示すグラフでは、図10における本実施形態に係る試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C1(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)、符号C2(測定回数とスループットの関係を示すグラフ)で示し、図10における既存の試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C3(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)で示している。
図10に示す表図の左から1、2列目のデータ例と、図11に示すグラフの特性C3に着目すると、既存の試験用信号の出力レベル制御においては、例えば、1回目から3回目までは試験用信号の出力レベルを測定1回ごとに10dB間隔で順次下げていき、4回目以降は、それぞれ、出力レベルを前の回の半分のレベルに順次上げる、または下げるパターンでのレベル可変制御が行われている。そして、前回との出力レベル差が予め設定したエラートレランスレベルELより小さくなる試験終了条件(図7のステップS5参照)を満足するまで、試験回数として図中P31~P39で示す合計9回のステップ数を費やすようになっている。このことは、上述した試験終了条件を満たすようになるまで、単に、スループットの測定結果とスループット閾値を比較し、その比較結果だけで試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御するだけでは、所望の出力レベルを達成するまでの時間の時間短縮効果には限界があることを明示している。
(受信感度試験において新た採用するパラメータ)
そこで本実施形態では、受信感度試験に採用するパラメータとして、スループットの測定結果とスループット閾値との比較結果に加え、該測定されたスループットの値が基準として定めた値(100パーセント)に対してどの割合まで低下した状態にあるかをさらに加味してから出力レベルの可変設定を実施することで受信感度試験の測定回数を低減するようにしている。
従来装置のDUTの受信感度試験に係るスループットの測定値の試験用信号の出力レベルに対する変動特性のグラフを図13に示している。図13にグラフによって示す変動特性は、図7に示す出力レベル可変設定制御において、チェックポイント(Check Point:CP)として導入するステップS7でのスループット測定値の低下状態判定条件を採用する根拠となるものである。図13において、符号a1はスループットの急峻に低下する急峻低下領域を示している。図13に示すグラフは、従来装置におけるDUT100の受信感度試験結果(図15参照)から導き出されたものであり、急峻低下領域a1においてはスループットの測定値が急峻に低下することを表している。この例では、例えば、1回目のスループットの測定値を100%とするときに、スループットの測定値が99%以下になると、その後のスループットの測定値は急峻に低下することを表している。
このようなスループットの変動特性に鑑み、本実施形態では、DUT100の受信感度試験中のスループット測定値を監視し、スループット測定値が急峻に低下する状況にあるか否かを予め設定した判定条件を用いてチェックするチェックポイント(CP)を設けている。そして、このCP(図7のステップS7に相当する)において上記判定条件を満たしている場合、つまりスループットの測定値が急峻低下領域a1内の値であるときには、次の回の試験用信号の出力レベルの設定(同、ステップS8b参照)において、スループット測定値が急峻に低下する状況下での設定パターン(図7のステップS8a参照)とは異なる特有の設定パターンを適用するようにしている。
本実施形態で適用する特有の設定パターンは、スループットの測定値が図13のグラフにおける急峻低下領域a1内の値まで低下した状態にあっては、受信感度試験に係る試験用信号の送受信の回数を極力低減し、エラートレランスレベルELによる受信感度試験の終了条件(図7のステップS5参照)にいち早く到達し得るような設定パターンであることが条件となる。
本実施形態では、上述した特有の設定パターンの一例として、CPにおいて上記判定条件を満たしている場合(図7のステップS7でYES)には、前の回の出力レベルOL(OLpre)からエラートレランスレベルELの2倍の値(2EL)をレベルダウンさせた値を次の回の試験用信号の出力レベルOL(OL(n))として設定するパターン(図7のステップS8b参照)を採用している。
この特有の設定パターンに基づく出力レベルの設定は、スループットの測定結果が閾値を超えているとの比較結果が得られ、かつ、該スループットの測定結果(測定値)が急峻低下領域a1内の値であるときの例である。この特有の設定パターンに基づく出力レベルの設定に関連して、本実施形態では、その後、スループットの測定結果が閾値より小さいとの比較結果が得られたときには、前の回の出力レベルOL(OLpre)からエラートレランスレベルELの値をレベルアップさせた値を次の回の試験用信号の出力レベルOL(OL(n))として設定するパターン(図8(b)参照)も併用するようになっている。
以上に述べたDUT100の受信感度試験の時間短縮手法、該受信感度試験において新たに加味するパラメータ(スループット測定値の変動特性)を踏まえ、以下、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10によるDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可変設定制御動作について図7~図12を参照して説明する。
図7は、上記出力レベル可変設定制御動作の流れを示すフローチャートである。図7において、ステップS7の処理は、上述したCPに対応するタイミングで実施されるものであり、ステップS4で測定されたスループットが急峻に低下する状態(図13の急峻低下領域a1参照)にあるか否かを判断するための判定条件として、例えば、スループット測定値が基準値(例えば、1回目の送受信により測定されたスループットの値。1回目の送受信の際には測定されたスループットの値を100%として記憶しておく。)に対して95%を超えて99%以下であるという条件を適用している。また、ステップS8bは、ステップS7で上記判定条件を満足すると判定された場合(ステップS7でYES)に上述した特有の設定パターンを適用して行う次の回の出力レベルの設定処理、すなわちレベルダウン処理(b)に相当している。レベルダウン処理(b)の詳細は、図8(b)に示されている。
また、図7において、ステップS9aの処理は、試験用信号のレベルアップ処理(図7のステップS9参照)に際して上述したCPに準じたチェック箇所にて実施されるものであり、ステップS4で測定されたスループットが上述のレベルダウン処理とは別の判定条件を用いて急峻に低下する状態にあるか否かを判断するための処理ステップである。ステップS9aにおいては、急峻に低下する状態にあるか否かを判断するための判定条件として、例えば、スループット測定値が上記基準値に対して80%を超えているという条件を適用している。この判定条件を満たす場合(ステップS9aでYES)には、レベルアップ処理(A)が行われ、この判定条件を満たしていないとき(ステップS9aでNO)には、出力レベル(OL)のレベルアップ処理(B)、またはレベルアップ処理(C)が実施されるようになっている。
図7に示すフローチャットに沿ったDUT100の受信感度試験を開始するにはまず、統合制御装置10の制御部11における受信感度試験制御部18によって試験条件の設定を行う(ステップS1)。具体的に、試験条件設定部18bは、操作部12での操作入力を受け付けることにより、例えば、上述した初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0、エラートレランスレベルEL、接続断判定閾値DT、スループットの急峻低下領域の判定条件(ステップS7、S9a参照)のそれぞれの値を設定する。
ステップS1における試験条件の設定内容は、DUT100がスタート出力レベルOL0で動作している状態から1回目のスループットの測定を開始し、次回以降は前回の出力レベルから変動幅を初期ステップレベルの幅だけ低下させた出力レベルでスループットを測定し、測定されたスループットが閾値(スループット閾値)より大きい場合は試験用信号の出力レベルを下げる処理(出力レベル(OL)ダウン処理(A)、(B)参照)と、スループットがスループット閾値以上の場合には試験用信号の出力レベルを上げる処理(OLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)と、を繰り返し実施ししながら、n回目の測定で試験用信号のステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下となった状態を判定して測定を終了させる運用を想定したものである。さらにその運用においては、CP(図7のステップS7参照)を設けてスループット測定値が急峻に低下する状況にあるか否かを予め設定した判定条件を用いてチェックし、ここでスループット測定値が急峻に低下する状況にある場合には、上述した特有の設定パターンを適用して次の回の試験用信号の出力レベルの設定を行う(同、ステップS8b参照)ことが前提となっている。
ステップS1で設定するスタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0としては、それぞれ、例えば、-75dBm、10dBを想定している。エラートレランスレベルELは、例えば、0.2dBを想定している。接続断判定閾値DTは、例えば、-90dBmを想定している。また、スループットの急峻低下領域の判定条件としては、例えば、スループット測定値が上述した基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という条件を想定している。
ステップS1での試験条件の設定が完了した後、統合制御装置10の受信感度試験制御部18は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS2)、N回目の測定に係るパラメータの設定、及びそれ以前に例えばOLレベルダウン処理を行うステップS8(ステップS8a、S8bを含む)やOLレベルアップ処理を行うステップS9で設定された出力レベルOLの値などの読み込む処理を行う(ステップS3)。引き続き受信感度試験制御部18は、ステップS3で設定された(若しくは、読み取られた)測定に係るパラメータに基づいて試験用信号を送信させつつDUT100のスループットに関するn回目の測定を行うように制御する(ステップS4)。
ステップS3、S4の制御(スループット測定制御)の具体例として、受信感度試験制御部18は、1回目の測定に関するパラメータとしては、ステップS1での試験条件の設定に基づいて、例えば、スタート出力レベルOL0を設定し、DUT100をスタート出力レベルOL0で駆動制御させつつスループット測定を実施する。
次いで受信感度試験制御部18は、今回のスループット測定に係る前の回(前回)のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS1で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS5)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルELよりも大きいと判定された場合(ステップS5でYES)、受信感度試験制御部18は、ステップS6へ移行し、スループット測定及びステップレベルのサーチ制御を続行する。なお、1回目のスループット測定に際しては、上述したようにスタート出力レベルOL0の試験用信号の送信から開始されており、前回の測定に対するSLの変化幅を有しないため、ステップS5の処理がスルーされてステップS6へと進む。
ステップS6において、受信感度試験制御部18は、ステップS4で測定したDUT110のスループット(測定値)と予め設定したスループット閾値(Throughput threshold)とを比較し、スループットがスループット閾値以上か否かを判定する。ここではスループット閾値を95%とし、スループットが95%以上は許容範囲内(PASS)、95%を下回った場合を許容範囲外(FAIL)とする。
ここで、スループットの測定値がスループット閾値以上であると判定されると(ステップS6で「PASS」の状態)、次いで低下状態判定部18dは、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS7)。ここでスループットの測定値が上記基準値に対して99%を超えており、上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS7でNO)、受信感度試験制御部18は、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベル(出力レベル)ダウン処理(A)を実行する(ステップS8a)。OLレベルダウン処理(A)では、図8(a)に示すように、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(OL(n)から初期ステップレベルSL0のステップで出力レベルを下げる処理を実行する。なお、1回目の出力レベルOL(1)としては、OL(1)=OL0が設定される。
また、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲(急峻低下領域a1)内にあり、上記判定条件を満たしていることが低下状態判定部18dにより判定された場合(ステップS7でYES)、受信感度試験制御部18は、OLレベルダウン処理(B)を実行する(ステップS8b)。OLレベルダウン処理(B)では、図8(b)に示すように、前回の出力レベル(OLpre)をPASS判定時における最も小さい出力レベル(LowestPassOL)と定義したうえで、次の回のOLレベル(OL(n))を、前回の出力レベル(OLpre)からエラートレランスレベルELの2倍に相当するレベル(2EL)を下げた値(OLpre-2EL)に設定する処理を実行する。
ステップS8a、またはステップS8bの処理を実行した後、受信感度試験制御部18は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS2)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS3)。これにより、ステップS8aの処理後には、前回のOLレベルから初期ステップレベルSL0=10dBだけレベルダウンさせたOLレベルが設定されるとともに、ステップS8bの処理後には、前回のOLレベルから2ELに相当する値をレベルダウンさせたOLレベルが設定され、それぞれ、当該設定されたOLレベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定が実施される(ステップS4)。
一方、上記ステップS6でスループット(測定値)がスループット閾値以下であると判定されると(ステップS6で「FAIL」の状態)、次いで受信感度試験制御部18は、ステップS9aでの判定処理を実行し、さらにその判定結果に基づいて試験用信号の出力レベルを上げるOLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)のいずれかを実行する(ステップS9)。
ステップS6で「FAIL」と判定された後、受信感度試験制御部18はまず、スループットの測定値が上記基準値に対して80%を超えているという判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS9a)。
ここでスループットの測定値が上記基準値に対して80%を超えており、上記判定条件を満たしていると判定された場合(ステップS9aでYES)、受信感度試験制御部18は、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベルアップ処理(A)を実行する(ステップS9b)。
OLレベルアップ処理(A)では、前回の出力レベル(OLpre)をFAIL判定時における最も小さい出力レベル(LowestFailOL)と定義したうえで、次の回のOLレベル(OL(n))を、前回の出力レベル(OLpre)からエラートレランスレベルELに相当するレベル(EL)を上げた値(OLpre+EL)に設定する処理を実行するようになっている。
これに対し、スループットの測定値が上記基準値に対して80%以下で上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS9aでNO)、受信感度試験制御部18は、これまでに一度でもPASSしたことがあるか否かをチェックする(ステップS9c)。ここで一度でもPASSしたことがあると判定された場合(ステップS9cでYES)、OLレベルアップ処理(B)を実行する(ステップS9b)。OLレベルアップ処理(B)では、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(OL(n)からステップレベルSLの1/2のステップで出力レベルを上げる処理を実行する。
また、一度もPASSしたことがないと判定された場合(ステップS9cでNO)、OLレベルアップ処理(C)を実行する(ステップS9c)。OLレベルアップ処理(C)では、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回の出力レベルOL(OL(n)からステップレベルSL0のステップで出力レベルを上げる処理を実行する。
ステップS9の処理、すなわちOLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)のいずれかの処理を実行した後、受信感度試験制御部18は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS2)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS3)。これにより、ステップS9の処理後には、前回のOLレベルからエラートレランスレベルELに相当する値をレベルアップさせたOLレベルが設定され、該設定されたOLレベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定が実施される(ステップS4)。
ステップS4でのスループット測定の実行後、受信感度試験制御部18は、今回のスループット測定に係る前回のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS1で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS5)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下であると判定された場合(ステップS5でNO)、受信感度試験制御部18は、スループット測定及びステップレベルのサーチを停止し(ステップS10)、その後、一連の測定動作を終了する。
ステップS10において、測定結果出力部18fは、測定動作を終了したときのスループット測定回数をN回として、1回目からN回目までのスループット測定結果の変遷を示す情報等、それまでの測定結果を含む測定画面130a(図14参照)を表示部13に表示する。
図7に示した一連の測定制御によれば、CPに当たる処理タイミング(ステップS7参照)でスループットの測定値が基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲内という判定条件を満たすか否かを判定し、スループットの測定値が当該判定条件を満たしているときには、ステップS8bに進み、当該判定条件を満たしていないときのステップS8aでの設定パターンには依存しない特有の設定パターンにより前回のOLレベルから2ELに相当する値をレベルダウンさせるレベルダウン処理(B)を実行する。レベルダウン処理(B)は、受信感度試験に係る試験用信号の送受信回数を低減し、エラートレランスレベルELによる受信感度試験の終了条件(ステップS5参照)を満たす状態により少ないスループット測定回数で到達するように作用する。
以下、その作用について図9から図12を参照して検証する。
図9は、本実施形態に係る測定装置1による出力レベル可変設定制御(図7参照)により測定回数に応じて設定される試験用信号の出力レベルと関連パラメータのデータ例を示している。図9の例においては、例えば全部で4回の測定回数のそれぞれに対応して、その回の試験用信号の出力レベル、測定されたスループット、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定結果、前回の測定と今回の測定間の出力レベルの変動幅、次の回の出力レベルの設定処理種別、次の回の試験用信号の出力レベルとの関係が示されている。
図11には、本実施形態に係る測定装置1によるDUT100の受信感度試験に係る測定回数と試験用信号の出力レベルに関する特性C1、及び測定回数とスループット(測定値)に関する特性C2が示されている。特性C1、C2は、それぞれ、図10に示すデータ例(左から1、3~5列目参照)に基づくものである。すなわち、図11において、特性C1は、符号P11~P14で示す全部で4回のスループット測定(出力レベル可変設定)が行われて受信感度試験が終了した例を挙げている。
図11における特性C1、並びに図9、図10(左から1、2~3列目参照)に示されるように、本実施形態に係る測定装置1では、1回目は特性C1の測定点P11においてDUT100を出力レベルOL(1)=-75dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも高い値となって許容範囲内(PASS)の判定であったため、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定処理に移行する。ここで、スループット測定値が急峻低下領域a1の領域外につき当該判定条件を満たしていないとの判定結果(「NO」)が得られ、OLレベルダウン処理(A)(図7のステップS8a参照)へと進む。
OLレベルダウン処理(A)では、出力レベルOL(1)=-75dBmからステップレベルSL(1)としての初期ステップレベルSL0(=-10dB)をレベルダウンさせる設定が実施され、2回目の出力レベルOL(2)として、(OL(1)-SL(1))=-85dBmが設定される。
続いて2回目は特性C1の測定点P12においてDUT100を出力レベルOL(2)=-85dBmとして試験を続行し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも高い値となって許容範囲内(PASS)の判定であったため、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定処理に移行する。ここで、スループット測定値が急峻低下領域a1の領域内の値であって当該判定条件を満たしているとの判定結果(「YES」)が得られ、OLレベルダウン処理(B)(図7のステップS8b、図8(b)参照)に移行する。
OLレベルダウン処理(B)では、出力レベルOL(2)=-85dBmからエラートレランスレベルELの2倍の値である2EL=0.4dBをレベルダウンさせる設定が行われ、3回目の出力レベルOL(3)として、(OL(2)-2EL)=-85.4dBmが設定される。
続いて3回目は特性C1の測定点P13においてDUT100を出力レベルOL(3)=-85.4dBmとして試験を続行し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも低い値となって許容範囲外(FAIL)の判定となったことによりOLレベルアップ処理(A)(図7のステップS9b参照)に移行する。
OLレベルアップ処理(A)では、出力レベルOL(3)=-85.4dBmからエラートレランスレベルELの値である0.2dBをレベルアップさせる設定が行われ、4回目の出力レベルOL(4)として、(OL(3)+EL)=-85.2dBmが設定される。
続いて4回目は特性C1の測定点P14においてDUT100を出力レベルOL(4)=-85.2dBmとして試験を続行する。その際、今回の出力レベルOL(4)と3回目のときに設定された出力レベルOL(3)と差(絶対値)が(85.2-85.4)=0.2dBであり、当該差の値がエラートレランスレベルEL以下となって、出力レベルの可変設定制御(受信感度試験)の終了条件(SL(n)≧EL;図7のステップS5でNO)を満たし、当該受信感度試験が終了となる。
特性C1、並びに図9、図10(左から1、3~5列目参照)に示されるように、本実施形態に係る測定装置1では、CPにてスループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるか否かをチェックし、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときには、次の回の出力レベルを設定する際のレベルダウン処理(図7のステップS8b参照)、及びレベルアップ処理(図7のステップS9参照)についてはエラートレランスレベルEL単位で実施することで、4回の測定で受信感度試験を実現することができる。
これに対し、上述したCPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入していない既存の試験用信号の出力レベル制御においては、例えば、図11に特性C3(合わせて、図10の左から1、2列目参照)として示すように、受信感度試験を終えるまでに測定点P31~P39を経た合計9回の測定が必要となる。本実施形態に係るCPと、図7のステップS8bでのレベルダウン処理、及び図7のステップS9bでのレベルアップ処理を導入した試験用信号の出力レベル制御によれば、既存の試験用信号の出力レベル制御に対して2.25(=9/4)倍の測定回数の低減効果が見込めることとなる。
CPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入した本実施形態に係る出力レベルの可変設定制御(図7参照)における出力レベルと測定されたスループットに関する特性の一例を図12に示している。図12に示すグラフによれば、CPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入したことにより、2回目の測定点のスループット測定値が急峻に低下する点で、スループットの高い点を省略することができていることが理解できる。
図14は、本実施形態に係る測定装置1によるDUT100の受信感度試験結果の表示例を示す図である。図7に示すフローチャートに沿ったDUT100の受信感度試験動作制御中、統合制御装置10の表示部13には、例えば、図14に示す画面構成を有するにおける測定画面130aが表示されている。測定画面130aは、DUT100のスループット(受信感度)の測定結果を測定回数に対応して表示する試験結果表示領域130bを有している。本実施形態に係る測定装置1によれば、測定画面130a上の試験結果表示領域130bには、図11に示す特性C1のステップレベルSLの変動を伴う4回のスループット測定の測定結果が、図中上から下方向への時間経過に合わせて時間順に配列された態様で表示されている。
本実施形態に係る測定装置1によるDUT100の受信感度試験結果の表示例と比較する意味で、従来装置におけるDUT100の受信感度試験結果の表示例を図15に示している。図15に示すように、従来装置の測定画面135aは試験結果表示領域135bを有し、当該試験結果表示領域135bには、ステップレベルSLのリニアな変動を伴う、例えば、10回のスループット測定の測定結果が、図中上から下方向への時間経過に合わせて時間順に配列された態様で表示されている。
なお、上記実施形態では、単一面での測定(EIS測定)について特化した受信感度試験動作制御を例示したが、本実施形態は、全球面の測定(TRP測定:図5参照)に関する受信感度試験にも適用できるものである。
また、上記実施形態では、測定装置1の外部に統合制御装置10を設けたシステム構成例を開示しているが、本発明は、測定装置1に統合制御装置10の制御機能を設けた構成であってもよい。
上述したように、本実施形態に係る測定装置1は、試験用信号を発生するNRシステムシミュレータ20と、NRシステムシミュレータ20から被試験対象への試験用信号の送受信を繰り返し行って被試験対象であるDUT100の受信感度を測定(算出)する受信感度試験を実行させる受信感度試験制御部18と、を有し、DUT100を試験する構成である。
受信感度試験制御部18は、所定のエラートレランスレベルEL、及び初期ステップレベルSL0を設定する試験条件設定部18bと、送受信ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定するスループット測定部18cと、測定されたスループットが、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する低下状態判定部18dと、スループットの測定結果が所定の閾値を超えているか否かの比較結果と、低下状態判定部18dによる低下した状態であるか否かの判定結果に応じて試験用信号の出力レベルを前の回よりも異なるように設定する設定処理であって、低下した状態であると判定された場合には、試験用信号の出力レベルを前の回に対してエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせる処理を含む設定処理を行う出力レベル可変設定部18eと、前の回との出力レベルとの変動幅が試験条件設定部18bにより設定されたエラートレランスレベルELを超えているときには送受信を続行し、前の回との出力レベルとの変動幅がエラートレランスレベルELの範囲内となったときには当該試験結果を出力する測定結果出力部18fと、を有している。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、測定されたスループットが急峻低下領域a1内の割合まで低下した状態において、試験用信号の出力レベルをエラートレランスEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせながら前回と今回の出力レベルの変化幅のチェックが実行される。これにより、スループットが急峻低下領域a1内の予め設定された割合まで低下した状態を意識することなく全期間を通して初期ステップレベル由来のステップ変動幅で出力レベルのレベルダウン、またはレベルアップを実行する場合に比べて、送受信の回数を減らことができ、測定時間の大幅な短縮が可能となる。
また、本実施形態に係る測定装置1において、低下状態判定部18dは、スループットの測定結果が所定の閾値を超えているとの判定結果が得られたときに、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する処理を実行し、出力レベル可変設定部18eは、スループットの測定結果が閾値を超えているとの比較結果が得られたときには、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かの判定結果に応じて、試験用信号の出力レベルを、前の回からエラートレランスレベルELの2倍の値をレベルダウンさせる処理と、前の回から初期ステップレベルSL0に対応する値をレベルダウンさせる処理をそれぞれ実行するとともに、スループットの測定結果が閾値を超えていないとの上記比較結果が得られたときには、前の回からエラートレランスELの値をレベルアップさせる処理を実行する構成である。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、測定されたスループットが急峻低下領域内の予め設定された割合まで低下した状態において、前の回からエラートレランスレベルELの2倍の値をレベルダウンさせた出力レベルでの送受信と、前の回からエラートレランスレベルELの値をレベルアップさせた出力レベルでの送受信が連続して実施され、その間のステップ変動幅が設定されたエラートレランスレベルEL以下となって直ちに測定が終了となる。これにより、受信感度試験の試験結果を極めて短時間で得ることが可能になる。
また、本実施形態に係る測定装置1において、試験条件設定部18bは、1回目の送受信によりスループット測定部18cにより測定されたスループットの値を基準値(100%)とし、低下した状態であるか否かを判定する判定条件として、95%を超えて99%以下の割合の範囲を設定し、低下状態判定部18dは、測定されたスループットが上記割合の範囲内にあるか否かに応じて低下した状態であるか否かを判定するようにしている。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、測定されたスループットが急峻な低下を示す95%を超えて99%以下の割合の範囲内の値であるときには、初期ステップレベル変由来のステップ変動幅で出力レベルのレベルダウン、またはレベルアップ処理を行うことをやめて送受信の回数を減らすことができ、測定時間も大幅に短縮することができる。
また、本実施形態に係る測定装置1は、内部空間51を有するOTAチャンバ50と、内部空間51内でDUT100の方位を連続的に可変するようにDUT100を駆動走査するDUT走査機構56と、をさらに有し、受信感度試験は、内部空間51内でOTA測定環境におけるDUT走査機構56の走査の対象となる全方位について行う構成を有している。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、OTA環境下で全ての方位について受信感度測定を行わなければならない状況下においても、CPを導入することによって、送受信の回数を減らして受信感度試験の大幅な時間短縮が図れる。
また、本実施形態に係る測定装置1に適用される移動端末試験方法は、NRシステムシミュレータ20から被試験対象への試験用信号の送受信を繰り返し行って受信感度を算出する試験を実行させることにより、被試験対象であるDUT100を試験(受信感度試験)する移動端末試験方法であって、所定のエラートレランスレベルEL、及び初期ステップレベルSL0を設定する試験条件設定ステップ(S1)と、送受信ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定するスループット測定ステップ(S4)と、測定されたスループットが、スループットが急峻に低下する急峻低下領域a1内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する低下判定ステップ(S7)と、スループットの測定結果が所定の閾値を超えているか否かの比較結果と、低下判定ステップによるスループットが急峻低下領域a1内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かの判定結果に応じて試験用信号の出力レベルを前の回よりも異なるように設定する設定処理であって、スループットが低下した状態であると判定された場合には、試験用信号の出力レベルを前の回に対してエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせる処理を含む設定処理を行う出力レベル設定ステップ(S8b、S9)と、前の回との出力レベルとの変動幅が試験条件設定ステップにより設定されたエラートレランスレベルELを超えているときには送受信を続行し、前の回との出力レベルとの変動幅がエラートレランスレベルELの範囲内となったときには当該試験結果を出力する測定結果出力ステップ(S10)と、を含んでいる。
この構成により、本実施形態に係る移動端末試験方法は、測定されたスループットが急峻低下領域a1内の割合まで低下した状態において、試験用信号の出力レベルをエラートレランスEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせながら前回と今回の出力レベルの変化幅のチェックが実行される。これにより、スループットが急峻低下領域a1内の予め設定された割合まで低下した状態を意識することなく全期間を通して初期ステップレベル由来のステップ変動幅で出力レベルのレベルダウン、またはレベルアップを実行する場合に比べて、送受信の回数を減らことができ、測定時間の大幅な短縮が可能となる。