以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
(第1の実施の形態)
(硫化水素濃度推定装置の構成)
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る硫化水素濃度推定装置100は、光を放射する発光部102と、発光部102に電力を供給する電源部104と、光を検知する光検知部106と、制御部108と、記憶部110と、タイマ112と、光反射部114とを含む。硫化水素濃度推定装置100は、各部を作動させるための電源(図示せず)、並びに、制御部108に対する指示を入力するためのコンピュータ用キーボード及びマウス等の操作装置(図示せず)をも含む。発光部102、光検知部106及び光反射部114は、硫化水素が発生し得る環境に設置された電気機器内に配置される。なお、電気機器内に限定されず、発光部102から放射された光が光検知部106により検出される状態であればよく、発光部102、光検知部106及び光反射部114は、環境光を遮蔽できる環境に配置されていればよい。電源部104、制御部108、記憶部110及びタイマ112の配置場所は任意であり、監視対象である電気機器内に配置されても、電気機器外に配置されてもよい。
発光部102は、例えば発光ダイオード(以下、LEDという)により実現される。発光部102は、LEDに限らず、所定時間(例えば0.1~数秒程度)、所定方向に、所定強度の光を安定して出力できる発光素子であればよい。発光部102の放射光の波長は、光検知部106により検知され得る波長であればよく、任意である。発光部102の放射光は、例えば、可視光線、赤外線又は紫外線等である。電源部104は、制御部108による制御を受けて、発光部102に、発光部102を点灯させるための電力を供給する。
光検知部106は、例えばフォトトランジスタにより実現される。光検知部106は、フォトトランジスタに限らず、光を検知し、その強度(光量)に応じた大きさの電気信号(例えば電圧、電流)を出力できる素子であればよい。光検知部106は、発光部102の放射光の中心波長を、検出感度の中心付近に有することが好ましい。
光反射部114は、L字形部材116及び銀Agを含む。L字形部材116の、発光部102側の直交する2つの表面120及び122には銀Agが配置されている。表面120及び122の全面に銀Agが配置されていても、一部に銀Agが配置されていてもよい。例えば、表面120及び122は銀メッキされている。これにより、図1において点線で示したように、発光部102から照射される光は銀Agにより反射されて光検知部106に入射される。L字形部材116は断面L字形に形成されており、発光部102から光検知部106への光路を比較的狭い空間に収めることができる。L字形部材116は、2つの表面120及び122が約90°を成すように配置されていればよく、L字形とはそのような形状も含む意味である。例えば、L字形部材116は、金属板の折り曲げ加工により形成できる。L字形部材116は、2つの平面部材を略直交するように接合したものであってもよい。発光部102、光検知部106及び光反射部114は、光検知系を構成する。
発光部102及び光検知部106は、例えば、LED及びフォトトランジスタを1つのパッケージに収容した素子であるフォトリフレクタにより実現できる。これにより、部品点数を低減でき、光検知系をコンパクトに形成できる。
制御部108は、CPU(Central Processing Unit)であり、電源部104の出力を制御して、発光部102を点灯又は消灯させる。例えば、制御部108が電源部104に対してハイレベル(例えば5V)の信号を出力すると、電源部104は発光部102に電力を供給する。これにより、発光部102が点灯する。制御部108が電源部104に対してローレベル(例えば0V)の信号を出力すると、電源部104は発光部102への電力供給を停止する。これにより、点灯していた発光部102は消灯する。
また、制御部108は、所定のタイミングで、光検知部106の出力信号を取得する。例えば、光検知部106がA/D変換機能を有していれば、制御部108は、光検知部106から出力されるデジタルデータを取得する。光検知部106がアナログ信号を出力すれば、制御部108は、入力されるアナログ信号を所定の時間間隔でサンプリングして、デジタルデータを生成する。
記憶部110は、制御部108から入力されるデータを記憶する揮発性又は不揮発性のメモリである。タイマ112は、制御部108からの要求を受けて、現在時刻を出力する。
上記したように、発光部102から放射される光は、表面120上の銀Agにより反射され、再度表面122上の銀Agにより反射されて発光部102の光軸と略平行に戻り、光検知部106により検知される。光検知部106により測定される光量は、光反射部114の銀Agの状態に応じて変化する。銀Agが硫化水素により腐食されると光の反射率が低下するので、測定値はより小さくなる。光反射部114の銀Agの腐食の程度は、周囲環境の硫化水素濃度、及び、電気機器内に光反射部114が設置されてからの時間経過に応じて増大する。したがって、定期的に、制御部108により電源部104を制御して発光部102を点灯させた状態で、光検知部106により検出される光量を測定すれば、銀Agの腐食状態の変化を観測できる。
発光部102にLEDを用い、光検知部106にフォトトランジスタを用いた光検知系の回路の例を図2に示す。図2を参照して、発光部102は、端子140及び142の間に直列接続されたLED130及び抵抗R1を含む。図2において、光反射部114の銀Agを便宜上平板で示す。光検知部106は、端子144及び146の間に直列接続されたフォトトランジスタ132、抵抗R2及びR3を含む。端子142及び146を接地した状態で、発光部102の端子140及び142間に電源部104から直流電圧を印加することにより、LED130が光を放射する。光検知部106は、端子144及び146の間に所定の直流電圧が印加された状態で、フォトトランジスタ132に光(銀Agにより反射された発光部102の放射光)が入射すると、フォトトランジスタ132はオンして電流が流れる(端子144及び146の間に電流が流れる)。制御部108は、それに伴う電圧降下により測定端子134に生じる電圧(以下、発生電圧という)を測定する。フォトトランジスタ132を流れる電流値はフォトトランジスタ132に入射する光量に依存するので、測定端子134で測定される発生電圧はフォトトランジスタ132に入射する光量を表す。なお、抵抗R1、R2及びR3は、LED130及びフォトトランジスタ132に応じた適切な抵抗値を有していればよい。抵抗R1、R2及びR3は、可変抵抗器であってもよい。
(硫化水素濃度の推定方法)
図2に示した回路を硫化水素が発生し得る環境に設置し、所定のタイミングで発生電圧を測定し、時系列データを取得する。例えば、実施例として後述する図12に示すようなデータを取得する。測定開始時には、光反射部114の銀Agは腐食されていない状態(以下、初期状態ともいう)である。測定開始からの経過時間T(単位は日)に測定された発生電圧をY(T)とし、次式により硫化水素濃度の推定値C(単位はppb)を算出する。
C=-(ΔY/ΔT)/L ・・・(式1)
式1において、ΔY(日)は、経過時間T及びT-ΔTにおける発生電圧Yの差、即ちΔY=Y(T)-Y(T-ΔT)であり、Lは定数である。実施例として後述するように、濃度・日数積に対する発生電圧のグラフは、濃度・日数積が比較的小さい範囲においては直線で近似でき、その傾き(係数Lに対応)は一定値である。式1は、この知見に基づいている。
発生電圧Yは相対値として評価すればよく、例えば、光反射部114の銀Agの初期状態において測定された発生電圧Yの値が“130”になるように、図2の回路が調整された場合、L=0.075である。図2の回路の調整は、抵抗R1~R3のいずれかの値を調整することにより行われる。
なお、式1により得られる推定値Cが有効である(硫化水素濃度を表している)と言えるためには、後述するように、硫化水素濃度(ppb)と経過時間(日)との積Sが所定のしきい値以下であることが必要である。上記したように、光反射部114の銀Agの初期状態において測定された発生電圧Yが“130”になるように、図2の回路が調整されていた場合、しきい値は1300(ppb・日)であり、S≦1300 であることが必要である。Sがしきい値を超える(S>1300)期間においては、式1により算出された推定値Cは有効ではない(硫化水素濃度を表していない)。
(硫化水素濃度の推定動作)
以下に、図3を参照して、図1の硫化水素濃度推定装置100により、電気機器の設置環境における硫化水素濃度の推定値を推定する処理に関して説明する。図3に示した処理は、制御部108が、予め記憶部110に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。発光部102及び光検知部106は、図2に示した回路を構成しており、硫化水素濃度推定装置100の光検知系は、電気機器(配電盤等)の内部(外部の光が入らない暗所)に配置されているとする。また、光反射部114の銀Agの初期状態において測定された発生電圧が“130”になるように、図2の回路が予め調整されているとする。
記憶部110には、測定を実行する時刻を特定するための情報(以下、測定時刻情報という)、所定のしきい値Th1、式1のパラメータ(L、K(日))、及び、メッセージが記憶されているとする。測定時刻情報は、どのようなタイミングで測定を行うかに応じて指定されていればよく、任意である。例えば、一定の時間間隔で測定を行う場合、測定時刻情報は、開始時刻及び時間間隔Δtであればよい。予め指定された時刻に測定を行う場合、測定時刻情報は、時刻を直接表す情報であればよい。ここでは、1時間毎に測定を行うとする(Δt=1(時間))。
図2に示した回路が上記したように予め調整されているので、L=0.075である。Kは、式1のΔTに対応し、経過時間の差を日単位で表したものである。ここでは、K=3(日)及びK=10(日)の2つの値が、記憶部110に記憶されているとする。しきい値Th1は、算出された値が硫化水水素の推定値として有効であるか否かを判定するために使用される。図2の回路が上記したように予め調整されているので、Th1=1300(ppb・日)である。
ステップ300において、制御部108は、タイマ112から現在時刻を取得し、記憶部110に記憶されている測定時刻情報を参照して、測定時刻になったか否かを判定する。測定時刻になったと判定された場合、制御はステップ302に移行する。そうでなければ、制御はステップ322に移行する。
ステップ302において、制御部108は、発光部102を点灯させ、測定端子134の発生電圧を測定する。測定された発生電圧は、測定開始からの経過時間Tと対応させて記憶部110に記憶される。その後、制御部108は発光部102を消灯し、制御はステップ304に移行する。ステップ302は繰返し実行されるので、一連の時系列データが記憶部110に記憶される。
ステップ304において、制御部108は、特異点を除去できるか否かを判定する。除去可能と判定された場合、制御はステップ306に移行する。そうでなければ、制御はステップ322に移行する。電気機器の点検時等に扉が開けられると、機器内部に外部からの光が入り、光検知系にも光が照射された状態になることがある。そのような状態で、発生電圧の測定タイミングになり測定が実行されると、測定値は本来の値よりも大きくなる。また、結露等により、測定値が本来の値よりも小さくなることもある。硫化水素濃度を精確に推定するには、これらの測定異常値を特異点として除去することが好ましい。特異点を除去するには、例えば、移動中央値を代表値とすることができる。具体的には、時系列データにおいて、連続する所定数(例えば、25個(24時間の測定回数))のデータを大きさの順に並べた場合に中央に位置する値(中央値)を、代表値とする。即ち、移動中央値を算出するには、所定数の測定データが必要であるので、所定数の測定データが得られるまでは、特異点を除去するとは判定されない。
ステップ306において、制御部108は、ステップ302で測定された一連の時系列データから特異点を除去する。具体的には、制御部108は、最新の測定データ(最後にステップ302が実行されて測定されたデータ)から連続する所定数の過去の測定データを対象として移動中央値を求め、その移動中央値を、最新の測定データの測定時刻と対応させて、記憶部110に記憶する。その後、制御はステップ308に移行する。上記したように、移動中央値を求める処理が一度可能になれば、その後は、新たに測定データが取得される度に、ステップ308が実行される。したがって、ステップ302により測定された時系列データから、特異点が除去された時系列データが記憶部110に記憶される。特異点が除去されたデータ(発生電圧)をY(T)で表す。
ステップ308において、制御部108は、硫化水素濃度の推定処理を実行するか否かを判定する。推定処理は、データ測定タイミングと同じ間隔(例えば1時間)で実行されても、異なる時間間隔(例えば1日)で実行されてもよい。推定を実行すると判定された場合、制御はステップ310に移行する。そうでなければ、制御はステップ322に移行する。なお、後述するように、硫化水素濃度の推定処理を実行するためには、K日間を超える測定データが必要である。したがって、K日間を超える測定データが記憶部110に記憶されるまでは、硫化水素濃度の推定処理を実行するとは判定されない。
ステップ310において、制御部108は、記憶部110から1つKを読出す。その後、制御はステップ312に移行する。
ステップ312において、制御部108は、記憶部110に記憶されている特異点が除去されたデータY(T)の中から1つのデータを特定し、そのデータからK日前のデータY(T-K)を特定し、2つのデータの差ΔY(T)=Y(T)-Y(T-K)を算出する。制御部108は、算出されたΔY(T)を記憶部110に記憶する。ステップ312の処理は、繰返し実行されるので、同じKを用いて既に硫化水素濃度が推定された時刻のデータは対象外とされる。その後、制御はステップ314に移行する。差ΔY(T)を算出するには、K日間を超える測定データが必要である。
ステップ314において、制御部108は、記憶部110からステップ312で算出されたΔY(T)を読出し、上記の式1によりC(T)を算出し、経過時間Tにおける硫化水素濃度の推定値として、記憶部110に記憶する。その後、制御はステップ316に移行する。これにより、測定時刻(経過時間T)における硫化水素濃度の推定値C(T)の時系列データが記憶部110に記憶される。
ステップ316において、制御部108は、推定処理が完了したか否かを判定する。上記したように、記憶部110には2つのKが記憶されているので、各Kに関してステップ310~314が実行された後に、完了したと判定される。そうでなければ、制御はステップ310に戻り、制御部108は別のKを記憶部110から読出して、ステップ312及び314を実行する。これにより、K毎に、硫化水素濃度の推定値C(T)の時系列データが記憶部110に記憶される。
ステップ318において、制御部108は、最後にステップ306が実行されて記憶部110に記憶されたデータ(発生電圧)Yがしきい値Th1(例えば、30)よりも大きいか否かを判定する。データYが、しきい値Th1よりも大きいと判定された場合、制御はステップ322に移行する。そうでなければ、制御はステップ320に移行する。
ステップ318は、算出された硫化水素濃度の推定値の有効性を判定する処理である。上記したように、式1により計算された硫化水素濃度の推定値が有効であるためには、濃度・日数積SがS≦1300であることが必要である。したがって、濃度・日数積Sを繰返し計算し、計算値Sとしきい値(例えば、1300)とを比較してもよいが、ここでは、より簡便な方法を用いる。式1を変形すると、C×ΔT×L=-ΔY となる。C×ΔT=1300(濃度測定可能範囲を定めるしきい値)、L=0.075とすると、-ΔY=1300×0.075=97.5(約100)となる。即ち、濃度・日数積が1300になると、測定値Yは、銀Agの初期状態における発生電圧から約100低下していると言える。銀Agの初期状態における発生電圧の値を130としているので、測定値Yが30(=130-100)まで低下していれば、濃度・日数積は1300を超えていると言える。したがって、ステップ318において、ステップ306により決定されたデータ(移動中央値)をしきい値Th1(=30)と比較することにより、算出された硫化水素濃度の推定値の有効性を判定できる。
なお、ステップ322に移行する前に、制御部108は、硫化水素濃度の推定値C(T)の時系列データを提示する。例えば、硫化水素濃度をモニターするために、最新の硫化水素濃度を数字で提示する。また、硫化水素濃度の時系列データをグラフとして提示してもよい。上記したように、ステップ318の判定結果がYES(Y>30)であれば、濃度・日数積Siが1300以下であり、算出されたC(T)は、硫化水素濃度の推定値として有効であるので、ユーザ(管理者)は、硫化水素濃度の変化に応じて、機器保全のための対策を適宜行うことができる。
ステップ320において、制御部108は、記憶部110から所定のメッセージを読出し、提示する。上記したように、Y>Th1でなければ、光反射部114の銀Agの腐食が進み、算出されたC(T)は硫化水素濃度の推定値として有効ではない。したがって、例えば、測定を継続するには光反射部114の交換が必要である旨を提示する。硫化水素濃度推定装置100が音響出力装置又は画像表示装置を備えていれば、メッセージを音響又は画像として提示できる。硫化水素濃度推定装置100から外部の音響出力装置又は画像表示装置に、提示するメッセージを表すデータを出力してもよい。
ステップ322において、制御部108は、終了の指示を受けたか否かを判定する。終了の指示を受けた場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御はステップ300に戻り、上記の処理を繰返す。終了の指示は、例えば、硫化水素濃度推定装置100の電源をオフする操作により行われる。
以上により、電気機器が設置された環境における硫化水素濃度を常時監視可能になる。即ち、光反射部114の銀Agの腐食状態に応じて、光検知部106により検出される光量(測定端子134に発生する電圧)が変化する。したがって、硫化水素濃度推定装置100は、予め定められたタイミングで、発光部102を点灯させて測定端子134に発生する電圧を測定することを所定の期間繰返すことにより、式1を用いて、光反射部114が配置された電気機器の周囲環境における硫化水素濃度を自動的に推定できる。硫化水素濃度の推定値を提示することによい、電気機器の性能低下、故障等が生じる前に、対策を取ることができ、電気機器を適切に管理できる。
硫化水素濃度推定装置100は比較的簡単な機器構成であり、安価な装置として実現できる。L字形部材116を銀メッキすることにより、光反射部114を容易且つ安価に実現できる。
光反射部114をL字形に形成することにより、上記したように、光検知系をコンパクトに形成できる。さらに、発光部102からの光が光反射部114の反射面に斜めに入射するので、光が反射する部分の面積を大きくできる。より広い面積における銀Agの変色による影響を発生電圧に反映させることができるので、測定データが安定する。
銀Agの腐食を光の反射率の変化(発生電圧の変化)として観測することにより、硫化水素濃度を精度よく推定できる。測定結果(発生電圧)が電気信号であるので、容易に遠隔監視が可能になる。また、硫化水素濃度推定装置100は、算出される推定値が有効でなくなれば、光反射部114の交換が必要である旨のメッセージ等を提示するので、光反射部114を交換するだけで、容易に観測を継続でき、硫化水素濃度の推定精度が高い状態に維持できる。
上記した係数L及びK(=ΔT)の値は、一例であり、上記の値に限定されない。光反射部114の銀Agの初期状態において測定された発生電圧が“130”以外の値になるように、図2の回路が予め調整されていれば、係数Lは上記と異なる値となる。また、例えば、K(日)は環境中の硫化水素濃度に応じて、1以上15以下の間の実数であればよい。また、推定値の有効性を判定するためのしきい値Th1も、上記の値に限定されない。より高い精度が要求される場合には、しきい値Th1として、上記の値よりも大きい値を使用すればよい。
上記では2つのKを用いる場合を説明したが、これに限定されない。3つ以上のKを用いてもよい。予め、硫化水素濃度の高低がある程度分かる場合には、それに応じた1つのKを設定すればよい。
また、測定時間間隔、及び、移動中央値の算出に用いるデータ数は、上記の値に限定されない。測定時間間隔は、1分以上1時間以下の値であり、移動中央値の算出に用いるデータ数は半日以上2日以下の間に測定されたデータを用いてもよい。
上記では、測定データから特定点を除去するために、移動中央値を用いる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、移動中央値に代えて、移動平均値を用いてもよい。さらに、単純な移動平均値ではなく、連続する複数の測定データを大きい順に並べて、その中央付近の平均値を用いてもよい。例えば、連続する25個の測定データを対象とする場合、11番目~15番目の測定データの平均値を用いることができる。
上記では、ステップ318において、測定データY(特異点除去後)がしきい値Th1(例えば、30)よりも大きくない場合に、硫化水素濃度の推定値が有効でないと判定したが、これに限定されない。測定データY(特定点除去後)から算出される値を用いてもよい。例えば、発生電圧の初期値(130)に対する測定値Yの比率(Y/130)が所定値(例えば、30/130≒0.23)より大きくない場合に、硫化水素濃度の推定値が有効でないと判定することもできる。
(第1変形例)
上記では、L字形部材116の表面120及び122に銀Agを配置して、発光部102の放射光を反射する場合を説明したが、これに限定されない。図4に示すように、表面120及び122の一方の面にのみ銀Agが配置されていてもよい。例えば、図4の(a)は、水平の表面120上に銀Agが配置(例えば銀メッキ)された構成を示す。表面120の全面に銀Agが配置されていても、一部に銀Agが配置されていてもよい。図4の(b)は、鉛直の表面122上に銀Agが配置(例えば銀メッキ)された構成を示す。表面122の全面に銀Agが配置されていても、一部に銀Agが配置されていてもよい。図4の(a)及び(b)のいずれの場合にも、銀Agが配置されていない面は、光を反射するように鏡面仕上げされており、硫化水素により腐食されないことが好ましい。
(第2変形例)
上記では、L字形部材116の表面に直接銀Agを配置する場合を説明したが、これに限定されない。銀メッキされた平板を用いた構成であってもよい。例えば、図5に示すように、L字形部材116の上に銀メッキ板124が配置される構成とすることができる。銀Agが配置されていない表面122は、光を反射するように鏡面仕上げされており、硫化水素により腐食されないことが好ましい。このような構成により、上記したように、濃度・日数積がしきい値を超えて、算出される推定値Cが有効でないと判定された場合には、銀メッキ板124を交換するだけで容易に測定を再開できる。
(第3変形例)
上記では、断面L字形のL字形部材116及び銀Agを含む光反射部114を用いる場合を説明したが、これに限定されない。光反射部114に代えて、図6に示したように、平板126及び銀Agを含む光反射部118を用いてもよい。平板126の一方の平面には銀Agが配置(例えば銀メッキ)され、発光部102から放射された光は銀Agにより1回反射され、光検知部106により検出される。
第2変形例及び第3変形例のように、発光部102の放射光を銀Agにより1回だけ反射させることにより、銀Agが腐食され変色した場合に、反射光の減衰量が小さくなり過ぎることを抑制できる。発光部102の放射光が、腐食され変色した銀Ag(硫化銀)によって2回反射されると、光検知部106に入射する光量は小さくなり過ぎる。したがって、測定される発生電圧も小さくなり過ぎ、測定精度が低下する。第2変形例及び第3変形例のように構成することにより、測定精度の低下を抑制でき、硫化水素濃度の推定値の精度低下を抑制できる。
(第4変形例)
図1、図4及び図5においては、発光部102の上方に光検知部106を配置する場合を説明したが、これに限定されない。図1、図4及び図5において、発光部102及び光検知部106の位置を入替え、発光部102を光検知部106の上方に配置してもよい。
(第2の実施の形態)
プリント基板を硫化水素に暴露した場合に発生する典型的な不具合として、次の(1)及び(2)が知られている。
(1)硫化銅がプリント基板のパターン(配線、ランド等)からその周囲に進展(腐食進展)し、隣のパターンまで至り、短絡する。
(2)プリント基板のパターン内部の断面全体が硫化し、その部分の抵抗値が上昇する。
過去の不具合を調査した結果、大部分のケースで不具合(2)よりも不具合(1)が先に発生することが確認された。したがって、不具合(1)が発生する前に、その予兆を検出できれば好ましい。第2の実施の形態においては、硫化水素が発生し得る環境に設置された電気機器等に含まれるプリント基板等が硫化水素により腐食されることにより、配線が短絡する等の不具合(1)が発生するリスク(以下、硫化水素による不具合リスクという)を検出することを目的とする。
図7に、硫化水素環境におけるプリント基板の腐食の程度を示す。具体的には、模擬プリント基板を濃度が異なる複数の硫化水素環境に暴露し、暴露開始からの経過時間に応じて、腐食進展距離を測定した。縦軸は、腐食進展距離(μm)であり、横軸は、腐食進展距離の測定時の硫化水素濃度と、暴露開始から測定時までの経過日数との積(濃度・日数積(ppb・日))である。
通常、プリント配線のパターン間距離は100μm以上あるので、腐食進展距離が20μ程度までであれば、絶縁劣化(短絡等)に至ることはない。即ち、図7において、下向きの矢印で示したように、腐食進展距離が20μm以下であれば、不具合が発生するリスクはないと考えられる。一方、上向きの矢印で示したように、腐食進展距離が50μm以上になると、不具合が発生するリスクは高くなる。図7に示した測定結果から、濃度・日数積が約15000ppb・日以下であれば、腐食進展距離が20μm以下であることが分かる(斜線領域参照)。したがって、安全を見込んで、濃度・日数積が約10000ppb・日になる時期を検出できれば好ましい。
第1の実施の形態と同様に硫化水素濃度を算出し(図3のステップ314参照)、それを用いて濃度・日数積を算出し、その値を所定のしきい値Th2(例えば、10000(ppb・日))と比較することにより、不具合リスクの予兆を検出することが考えられる。しかし、上記したように、硫化水素濃度を精度よく算出できるのは、濃度・日数積が約1300ppb・日までである。それに対して、後述するように、第2の実施の形態においては、電気機器が設置された環境の硫化水素濃度を算出することなく、不具合リスクの予兆を自動的に検出できる。
(不具合リスク検出装置の構成)
図8を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る不具合リスク検出装置200は、光を放射する発光部202と、発光部202に電力を供給する電源部104と、光を検知する光検知部206と、制御部208と、記憶部110と、タイマ112と、光反射部114とを含む。不具合リスク検出装置200は、図1に示した硫化水素濃度推定装置100において、発光部102、光検知部106及び制御部108がそれぞれ発光部202、光検知部206及び制御部208で代替されたものである。発光部202、光検知部206及び制御部208以外の構成は硫化水素濃度推定装置100と同じである。したがって、以下においては、重複説明を繰返さず、主として異なる点に関して説明する。
発光部202は、例えばLEDにより実現される。発光部202は、LEDに限らず、所定時間(例えば0.1~数秒程度)、所定方向に、所定強度の光を安定して出力できる発光素子であればよい。発光部202は、赤色光(例えば、光の中心波長630nm)を放射する。
光検知部206は、例えばフォトトランジスタにより実現される。光検知部206は、フォトトランジスタに限らず、発光部202の放射光を検知し、その強度(光量)に応じた大きさの電気信号(例えば電圧、電流)を出力できる素子であればよい。光検知部206は、発光部202の放射光の中心波長630nmを、検出感度の中心付近に有することが好ましい。
発光部202、光検知部206及び光反射部114は、光検知系を構成する。不具合リスク検出装置200の光検知系は、電気機器内のプリント基板900の近くに配置される。不具合リスク検出装置200の検知系は、硫化水素濃度推定装置100の検知系と同様の回路により実現される。発光部202にLEDを用い、光検知部206にフォトトランジスタを用いた光検知系の回路の例を図9に示す。図9は、図2と同様の回路である。図9は図2と異なり、LED230は赤色光を放射し、フォトトランジスタ232はLED230から放射される赤色光を検知する。
制御部208は、硫化水素濃度推定装置100の制御部108と同様に、CPUであり、電源部104の出力を制御して、発光部202の点灯を制御し、光検知部206により光を検出する。制御部208が制御部108と異なる点は、制御部108が硫化水素濃度の推定値を算出したのに対して、制御部208は硫化水素による不具合リスクを検出することである。
(不具合リスクの検出動作)
以下に、図10を参照して、図8の不具合リスク検出装置200により実行される、電気機器のプリント基板における、硫化水素による不具合リスクを検出する処理に関して説明する。上記したように、濃度・日数積が約10000ppb・日になる時期を検出することにより、硫化水素による不具合リスクを検出する。実施例として後述するように、硫化水素の濃度・日数積が約10000(ppb・日)になる頃には、赤色光を照射して測定した発生電圧のグラフに極大点が生じ、その後、発生電圧は20~30日間にわたって減少する、という知見が得られた。これに基づき、この極大点を検出することにより、硫化水素の濃度・日数積が約10000になったことを検出する。
図10に示した処理は、制御部208が、予め記憶部110に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。発光部202及び光検知部206は、図9に示した回路を構成しており、不具合リスク検出装置200の光検知系は、電気機器(配電盤等)の内部(外部の光が入らない暗所)に配置されているとする。また、光反射部114の銀Agの初期状態において測定された発生電圧が“130”になるように、図9の回路が予め調整されているとする。
不具合リスク検出装置200の記憶部110には、硫化水素濃度推定装置100と同様に、測定時刻情報、パラメータ(L、K(日))及びメッセージが記憶されているとする。ここでは、1時間毎に測定を行うとする(Δt=1(時間))。L及びKは、それぞれ0.075及び10(日)である。なお、メッセージの内容は、後述するように硫化水素濃度推定装置100とは異なる。
ステップ400において、制御部208は、タイマ112から現在時刻を取得し、記憶部110に記憶されている測定時刻情報を参照して、測定時刻になったか否かを判定する。測定時刻になったと判定された場合、制御はステップ402に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。
ステップ402において、制御部208は、発光部202を点灯させ、測定端子134の発生電圧を測定する。測定された発生電圧は、測定開始からの経過時間Tと対応させて記憶部110に記憶される。その後、制御部208は発光部202を消灯し、制御はステップ404に移行する。ステップ402は繰返し実行されるので、一連の時系列データが記憶部110に記憶される。
ステップ404において、制御部208は、ステップ304(図3参照)と同様に、特異点を除去できるか否かを判定する。除去可能と判定された場合、制御はステップ406に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。
ステップ406において、制御部208は、ステップ306(図3参照)と同様に、ステップ402で測定された一連の時系列データから特異点を除去する。その後、制御はステップ408に移行する。これにより、ステップ402により測定された時系列データから、特異点が除去された時系列データが記憶部110に記憶される。特異点が除去されたデータ(発生電圧)をY(T)で表す。
ステップ408において、制御部208は、リスク判定処理を実行するか否かを判定する。リスク判定処理は、データ測定タイミングと同じ間隔(例えば1時間)で実行されても、異なる時間間隔(例えば1日)で実行されてもよい。リスク検出処理を実行すると判定された場合、制御はステップ410に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。なお、後述するように、リスク判定処理を実行するためには、K日間を超える測定データが必要である。したがって、K日間を超える測定データが記憶部110に記憶されるまでは、リスク判定処理を実行するとは判定されない。
ステップ410において、制御部208は、記憶部110からKを読出す。その後、制御はステップ412に移行する。
ステップ412において、制御部208は、記憶部110に記憶されている特異点が除去されたデータY(T)の中から1つのデータを特定し、そのデータからK日前のデータY(T-K)を特定し、2つのデータの差ΔY(T)=Y(T)-Y(T-K)を算出する。制御部208は、算出されたΔY(T)を記憶部110に記憶する。その後、制御はステップ414に移行する。差ΔY(T)を算出するには、K日間を超える測定データが必要である。
ステップ414において、制御部208は、ステップ414により算出されたΔY(T)と、係数Lとを記憶部110から読出し、次式により傾きα(T)を算出する。
α(T)=-(ΔY(T)/K)/L ・・・(式2)
制御部208は、経過時間T毎に、α(T)を算出し記憶部110に記憶する。その後、制御はステップ416に移行する。これにより、経過時刻Tにおけるα(T)の時系列データが記憶部110に記憶される。ステップ414は繰返し実行されるが、新たに測定されたデータを用いてα(T)が算出され、算出済みのα(T)を再度算出することはしない。
ステップ416において、制御部208は、リスク判定処理を実行する。具体的には、制御部208は、図11のフローチャートにより示される処理を実行する。
ステップ500において、制御部208は、記憶部110に記憶されているY(T)の中から極大点を検出し、最新の極大点を特定する情報のみを残す。具体的には、制御部208は、傾きα(T)の時系列データを記憶部110から読出し、α(T)の符号(以下、極性という)が正(プラス)から負(マイナス)に変化する点を検出する。α(T)は、Y(T)の時系列データの1次微分係数に相当するので、α(T)の極性が正から負に変化する点は、Y(T)が極大値になる点(極大点)に相当する。ステップ500は繰返し実行されるが、前回ステップ500が実行されてから新たに算出されたα(T)を処理対象とし、既に処理済みのα(T)は処理対象とはしない。なお、α(T)の極性が正から負に変化する点が、Y(T)の極大点にどの程度一致するかは、Kの値に依存するが、リスク検出のためには、ある程度近ければよい。
極大点は複数検出され得る。極大点が検出されない場合もある。制御部208は、検出された極大点と、既に記憶部110に記憶されている極大点とを含めて、最新の(最も経過時間が大きい)極大点のみを残す。即ち、極大点が1つ又は複数検出された場合、極大点を特定する情報(例えば、経過時間)が記憶部110に記憶されていれば、それを削除し、最新の極大点を特定する情報を記憶部110に記憶する。極大点が検出されず、極大点を特定する情報が記憶部110に記憶されていれば、その情報を記憶部110に記憶したままにする。
ステップ502において、制御部208は、極大点が存在するか否かを判定する。具体的には、制御部108は、記憶部110に極大点を特定する情報が記憶されているか否かを判定する。記憶されていれば、極大点ありと判定され、制御はステップ504に移行する。そうでなければ、制御は図10のフローチャートに戻り、ステップ418に移行する。
ステップ504において、制御部208は、ステップ502により特定された極大点に関して、その極大点の後の所定の観察期間U(例えば、20日間)において、α(T)の極性が反転しているか否かを判定する。極性の反転があると判定された場合、制御はステップ506に移行する。そうでなければ、制御はステップ508に移行する。極大点の後の観察期間Uの一部にα(T)が存在しない(測定データがなくα(T)が未算出である期間がある)場合、算出されているα(T)に関して、極性の反転の有無を判定する。なお、極大点の後に、α(T)の極性が反転していれば、その点は極小点(Y(T)が極大値になる点)である。即ち、極大点の後の観察期間Uにおいて、α(T)の極性が反転しているか否かを判定することは、極小点の有無を判定することと言える。
ステップ506において、制御部208は、記憶部110に記憶されている極大点を特定する情報を削除する。その後、制御はステップ418(図10)に移行する。
ステップ508において、制御部208は、極大点の後の観察期間Uが経過したか否かを判定する。経過したと判定された場合、制御はステップ510に移行する。そうでなければ、制御はステップ418(図10)に移行する。
ステップ510において、制御部208は、記憶部110に記憶されている極大点をリスク点と決定し、決定されたことを表す情報を記憶部110に記憶する。例えば、制御部208は、記憶部110に設けられた所定のフラグ(以下、リスクフラグという)を、初期値と異なる値に設定する。その後、制御はステップ418(図10)に移行する。リスク点とは、硫化水素による腐食によりプリント基板に不具合が発生する可能性が高くなる時期を意味し、上記したように、硫化水素の濃度・日数積が約10000(ppb・日)になる時期(経過時間)を意味する。リスク点(極大点)は、不具合が発生する可能性が高くなる予兆と言える。
図10に戻り、ステップ418において、制御部208は、リスク点が検出されたか否かを判定する。具体的には、制御部208はリスクフラグに初期値と異なる値が設定されているか否かを判定する。リスクフラグが初期値と異なる値であれば、リスク点が検出されたと判定し、制御はステップ420に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。
ステップ420において、制御部208は、記憶部110から所定のメッセージを読出し、提示する。上記したように、リスク点が検出された場合、プリント基板のパターンの腐食が進み、プリント基板に不具合が発生する可能性が高くなる。したがって、例えば、電気機器内のプリント基板に不具合が発生する可能性が高くなっている旨を提示する。また、記憶部110に記憶されている極大点(リスク点)を特定する情報(経過時間)から、リスク点が発生した日を特定し、その日をメッセージと共に提示してもよい。不具合リスク検出装置200が音響出力装置又は画像表示装置を備えていれば、メッセージを音響又は画像として提示できる。不具合リスク検出装置200から外部の音響出力装置又は画像表示装置に、提示するメッセージを表すデータを出力してもよい。
ステップ422において、制御部208は、終了の指示を受けたか否かを判定する。終了の指示を受けた場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御はステップ400に戻り、上記の処理を繰返す。終了の指示は、例えば、不具合リスク検出装置200の電源をオフする操作により行われる。
以上により、電気機器が配置された周囲環境の硫化水素濃度を算出することなく、電気機器内のプリント基板における不具合リスクを自動的に検出できる。即ち、硫化水素の濃度・日数積が約10000ppb・日になる頃に発生する極大点、即ち不具合リスクの予兆を自動的に常時監視でき、硫化水素濃度が変化しても、不具合リスクの予兆を精度よく検出できる。不具合リスク予兆を検出することにより、電気機器の性能低下、故障等が生じる前に、対策を取ることができ、電気機器を適切に管理できる。
不具合リスク検出装置200は比較的簡単な機器構成であり、安価な装置として実現できる。L字形部材116を銀メッキすることにより、光反射部114を容易且つ安価に実現できる。
銀Agの腐食を光の反射率の変化(発生電圧の変化)として観測することにより、硫化水素による不具合リスクの予兆を精度よく検出できる。測定結果(発生電圧)が電気信号であるので、容易に遠隔監視が可能になる。
上記では、算出されたα(T)の時系列データを記憶する場合を説明したが、これに限定されない。極大点の検出、及び、極大点がリスク点であるか否かは、α(T)の極性(符号)のみにより判定されるので、少なくともα(T)の極性の時系列データを記憶しておけばよい。
上記した係数L、K及び観察期間Uの値は、一例であり、上記の値に限定されない。K(日)は、5以上20以下の間の実数であればよい。上記したように、α(T)の極性が分かればよいので、係数Lは、0以外の任意の定数(実数)であればよい。係数Lとして負の値を使用する場合には、リスク判定の処理において、極性の判定において、正と負とを入替えて判定すればよい。観察期間Uは、上記した値(20日)に限定されない。観察期間Uは、20日以上30日以下の値であればよい。
第1の実施の形態に関して上記した第1~第4の変形例は、第2の実施の形態においても可能である。
以下に、第1の実施の形態に関する実験結果を示し、本発明の有効性を示す。図2に示した回路構成の光検知系を採用した硫化水素濃度推定装置(図1参照)を用いて、異なる3つの環境において測定を行った。
光検知系には、図5(第2変形例)に示した構成を採用した。L字形部材に載置する銀メッキされた平板を複数作製した。銀メッキは、硬質・光沢銀メッキとし、厚さ3μmに形成した。銀の純度は約99%である。硬質の銀メッキとしたので、銀以外に微量の添加物が含まれている。光源には、中心波長630nmの赤色LEDを用いた。光検知系の回路において抵抗R1として可変抵抗器を用いた。各環境において、実験を開始する前に、上記したように、初期状態(無腐食状態)の銀メッキ板を用いて、発生電圧の測定値(AD変換後の値)が約“130”(誤差±3)になるように抵抗R1の値を調整した。
11月19日から翌年の3月末頃まで、1時間毎に測定を行った結果を図12の(a)~(c)に示す。図12の(a)~(c)はそれぞれ、硫化水素濃度が約200ppb(高濃度)、約15ppb(低濃度)及び約1ppb(ほぼゼロ濃度)である環境における測定データを示す。示されている測定データは、上記したように、実測値の時系列データから、連続する25個のデータの移動中央値を用いて特異点を除去したものである。各環境の硫化水素濃度は、エコチェッカIIを用いて測定した。いずれのグラフも、縦軸は、発生電圧(相対値)であり、横軸は測定日(年を省略した月日表示)であり、経過時間(日)に対応する。
各環境の測定データ(発生電圧(相対値))に関して、上記したように濃度・日数積Sを求め、濃度・日数積S(ppb・日)を横軸として測定データをプロットし、図13に示すグラフを生成した。図13の(a)~(c)のグラフは、それぞれ図12の(a)~(c)に示した測定データから生成された。濃度・日数積Sの算出に用いた日数は、測定開始からの経過日数である。濃度・日数積Sの算出に用いた硫化水素濃度は、上記したように、エコチェッカIIを用いて測定した。具体的には、各環境にエコチェッカIIを設置して約1か月毎に交換し、回収したエコチェッカIIを富士通クオリティ・ラボ株式会社に分析依頼して硫化水素濃度(目安濃度)を得た。得られた硫化水素濃度は、エコチェッカIIが設置された期間における硫化水素の平均濃度と言える。したがって、濃度・日数積Sにおいて、各エコチェッカIIから得られた硫化水素濃度(目安濃度)を、そのエコチェッカIIを設置した期間における硫化水素濃度とした。
図13の(a)~(c)の各々には、発生電圧をYとして、下記の式3の直線を破線で示している。
Y=130-0.075S ・・・(式3)
図13の(a)~(c)から、濃度・日数積Sが0~約1300ppb・日の範囲において、破線の直線は、測定データをほぼ再現できていることが分かる。即ち、上記したように、濃度・日数積Sが比較的小さい範囲(S≦1300(ppb・日))においては、発生電圧Yは、濃度・日数積Sに対して線形に変化し、その傾きは、硫化水素濃度に依存しないことが確認された。
したがって、上記の式1により、硫化水素濃度を推定できることが分かる。濃度・日数積Sは、硫化水素濃度Cと日数Tの積(C×T)であるので、T=T1及びT=T1+ΔTの各々における発生電圧をY1及びY1+ΔYで表すと、式3から、次の2式が得られる。
Y1=130-0.075×(C×T1)
Y1+ΔY=130-0.075×(C×(T1+ΔT))
したがって、ΔY=-0.075×(C×ΔT)であり、これを変形すると、
C=-(ΔY/ΔT)/0.075 となる。
ここで、直線の傾き0.075をLで表すと、上記の式1となる。
図14の(a)~(c)は、各環境の測定データ(発生電圧(相対値))に関して、上記の式1を用いて、硫化水素濃度Cを算出した結果を示す。図14の(a)~(c)のグラフは、それぞれ図12の(a)~(c)に示した測定データから生成された。式1において、L=0.075とした。Kに関しては、濃度・日数積Sが1300ppb・日を超えないように、異なる値を用いた。具体的には、図12の(a)に示した測定データ(高濃度)に関しては、K=3(日)とし、図12の(b)及び(c)に示した測定データに関しては、K=10(日)とした。
上記したように、測定開始は11月19日であるが、図14の(a)においては、特異点の除去に1日、濃度推定のために3日(K=3)を要しているので、11月13日からの算出値が示されている。図14の(a)から、11月19日~11月26日の7日間の測定結果を反映した硫化水素濃度の推定値は約250~360ppbである。一方、エコチェッカIIによる11月19日~12月20日の1カ月間の硫化水素濃度の平均値は200ppbであった。これらの値の差異は、測定期間の違いによるものと考えられ、概ね硫化水素濃度の推定ができていることが分かる。
また、図14の(b)及び(c)においては、特異点の除去に1日、濃度推定のために10日(K=10)を要しているので、11月30日からの算出値が示されている。図14の(b)から、硫化水素濃度の推定値は9~18ppbであることが分かる。図14の(c)から、硫化水素濃度の推定値は0~2ppbであることが分かる。したがって、いずれも、エコチェッカIIによる硫化水素濃度(それぞれ約15ppb及び約1ppb)とほぼ一致している。したがって、硫化水素濃度推定装置を用いて2週間程度の期間、発生電圧を測定することにより、硫化水素濃度によらず、環境の硫化水素濃度を精度よく推定できることが確認できた。
以下に、第2の実施の形態に関する実験結果を示し、本発明の有効性を示す。図15は、図9に示した回路構成の光検知系を採用した硫化水素による不具合リスク検出装置(図8参照)を用いて、高濃度(50~200ppb)の硫化水素環境において測定を行った結果を示す。
光検知系には、図5(第2変形例)に示した構成を採用した。L字形部材に載置する銀メッキされた平板を、実施例1と同様に作製した。光源には、中心波長630nmの赤色LEDを用いた。光検知系の回路において抵抗R1として可変抵抗器を用いた。各環境において、実験を開始する前に、上記したように、初期状態(無腐食状態)の銀メッキ板を用いて、発生電圧の測定値(AD変換後の値)が約“130”(誤差±3)になるように抵抗R1の値を調整した。
11月19日から翌年の3月末頃まで、1時間毎に測定を行った。示されている測定データは、実測値の時系列データから、連続する25個のデータの移動中央値を用いて特異点を除去したものである。環境の硫化水素濃度は、エコチェッカIIを用いて測定した。縦軸は、発生電圧(相対値)であり、横軸は測定日(年を省略した月日表示)であり、経過時間(日)に対応する。
図15に示した測定データ(発生電圧)には、符号A及びBを付した矢印で示しているように2つの極大点(それぞれ、極大点A及びBという)が存在する。
図15に示した測定データに関して、上記したように濃度・日数積Sを求め、濃度・日数積S(ppb・日)を横軸として測定データをプロットし、図16に示すグラフを生成した。濃度・日数積Sの算出に用いた日数は、測定開始からの経過日数である。濃度・日数積Sの算出に用いた硫化水素濃度は、上記したように、エコチェッカIIを用いて測定した。具体的には、各環境にエコチェッカIIを設置して約1か月毎に交換し、回収したエコチェッカIIを富士通クオリティ・ラボ株式会社に分析依頼して硫化水素濃度(目安濃度)を得た。濃度・日数積Sにおいて、各エコチェッカIIから得られた硫化水素濃度(目安濃度)を、そのエコチェッカIIを設置した期間における硫化水素濃度とした。
図16において、図15における極大点A及びBに対応する点を、同じ符号A及びBを付して示す。図16において、濃度・日数積Sが約10000ppb・日になる少し前に、符号Bで示した点が存在している。したがって、図15における極大点Bを検出すれば、濃度・日数積が約10000ppb・日になる時期を検出でき、プリント基板における硫化水素による不具合リスクを検出できることが分かる。なお、この現象は、銀の腐食の進行に伴い、銀(硫化銀)の色が例えば、銀色→茶色→青色→黒色と変化することによるものと考えられる。即ち、青色に変化する過程で色が薄くなる現象が観測され、一時的に赤色LEDの放射光の反射率が上昇し(発生電圧が増大し)、その後、黒色に変色することにより、反射率は所定の期間(20~30日間)以上継続して低下する(発生電圧が減少する)。
図15においては、極大点Bの前に極大点Aが存在するので、単に極大点を検出する処理によっては、最初の極大点Aが検出されてしまう。それに対して、図11に示したリスク判定処理により、極大点Aを除外し、極大点Bを検出できる。即ち、図11のステップ500により、測定開始後、最初に極大点Aが検出されるが、ステップ504~508により、極大点Aは除外され、極大点Bが検出される。図17を参照して、具体的に示す。
図17は、図15に示した測定データに関して、K=10、L=0.075とし、上記の式2により算出した発生電圧の傾きαを示す。図17において、特異点の除去に1日、傾きαの算出のために10日(K=10)を要しているので、11月30日からの算出値が示されている。なお、図17において、測定日12月1日~12月21日の間に、グラフが連続していない部分(傾きが示されていない部分)が存在するが、これは、その間の傾きが-20未満又は20超であるためである。
図17において、図15の極大点A及びBの位置(測定日)を符号A及びBを付して示す。極大点においては、接線の傾きが0であり、その前後において接線の傾きの符号(極性)が変わるが、図17に示した傾きαは、接線を近似するものであり、10日(K=10)間隔の2つの測定データの差ΔYを用いて、上記したように式2により算出されている。図15に示した極大点Aに関しては、その前後で測定データが大きく変化しているので、図17においては、符号Cを付した矢印で示す横軸(測定日)上の点(以下、点Cという)として現れている。一方、図15に示した極大点Bは、比較的なだらかに変化している部分の極大点であり、図17においても、ほぼ同じ位置に現れている。
式2により算出される傾きαが、図17に示したように変化するので、図11に示したステップ500により、極大点Aに対応する点Cが検出され、記憶部110に記憶される。しかし、その後、観察期間(20日間)内に、傾きαの極性が正から負に変化するので(符号D参照)、ステップ504及び506により、極大点Aに対応する点Cは除外(記憶部110から削除)される。その後、ステップ500により、極大点Bに対応する点が検出され、その後、観察期間(20日間)において傾きαの極性は変化しない。したがって、ステップ510により、極大点Bがリスク点として決定される。即ち、濃度・日数積が約10000ppb・日になる時期を、不具合リスクの予兆として検出できる。
なお、極大点Bがリスク点として決定されるのは、極大点Bが発生してから観察期間(例えば、20日)が経過したときである。その間に、プリント基板は硫化水素により腐食される。しかし、極大点Bは濃度・日数積S=10000ppb・日になる頃に発生するので、極大点Bから観察期間以内であれば、濃度・日数積Sが、不具合が発生する可能性が高くなる約15000ppb・日以上になることはない。
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。