図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
第1実施形態
図1において、車両用空調装置1は、車両60に搭載されている。車両60は、例えばガソリン駆動のエンジンを搭載した自動車である。ただし、車両60としては、走行用モータを搭載した電気自動車や、エンジンとモータの両方を搭載したハイブリッド自動車なども採用可能である。車両用空調装置1は、取り込まれた空気の温度を調整して車室内に吹き出す。言い換えると、車両用空調装置1は、車室内の暖房運転や冷房運転や除湿運転などの空調運転を行う装置である。車両用空調装置1は、車両60の前方に配されたフロントエアコン1aと車両60の後方に配されたリアエアコン1bとを備えている。ただし、フロントエアコン1aの搭載位置は車両60の前方に限られない。例えば、フロントエアコン1aを車両60の天井側や床面側に搭載してもよい。リアエアコン1bの搭載位置は車両60の後方に限られない。例えば、リアエアコン1bを車両60の天井側や床面側に搭載してもよい。また、フロントエアコン1aとリアエアコン1bとを車両60の前方に並べて配置するなどしてもよい。
フロントエアコン1aは、車両60のフロントウィンドウに空調風を吹き出すデフロスタ吹き出し口25を備えている。車両用空調装置1は、前席61の上部に空調風を吹き出すフロントフェイス吹き出し口35を備えている。フロントエアコン1aは、前席61の下部に前方から空調風を吹き出すフロントフット吹き出し口45を備えている。フロントエアコン1aは、後席62の下部に前方から空調風を吹き出すリアフット吹き出し口55を備えている。フロントフェイス吹き出し口35は、フロント吹き出し口の一例を提供する。フロントフット吹き出し口45は、フロント吹き出し口の一例を提供する。
リアエアコン1bは、後席62の上部や前席61と後席62との中間の位置に空調風を吹き出すリアフェイス吹き出し口135を備えている。リアフェイス吹き出し口135は、車両60の天井に沿って延びるダクトに複数形成されている。リアフェイス吹き出し口135は、ルーフ吹出し口とも呼ばれる。リアエアコン1bは、後席62の下部に後方から空調風を吹き出すリアフット吹き出し口145を備えている。リアフェイス吹き出し口135は、リア吹き出し口の一例を提供する。リアフット吹き出し口145は、リア吹き出し口の一例を提供する。
車両60は、前席61と後席62とを備えている。前席61は、車両60の進行方向において、後席62よりも前方に位置している。前席61は、運転席と助手席とを有している。後席62は、車両60の進行方向において、前席61よりも後方に位置している。後席62は、右後席と左後席が並んで配置されている。前席61は、車両60の進行方向において前を向いた前向き状態である。前向き状態は、前席61が車両60の進行方向である前方を向いている第1状態を提供する。車両60が運転手の操作によって走行している状態においては、前席61が前向き状態である。車両60に搭載される座席は、前後に2列に並んだ前席61と後席62とに限られない。例えば、後席62を2列分設けて3列シートとするなどしてもよい。
図2において、前席61は、車両60の進行方向において後ろを向いた後ろ向き状態である。前席61が後ろ向き状態であって、後席62は前方を向いている。このため、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員とが向かい合って座っている状態である。後ろ向き状態は、前席61が車両60の進行方向とは反対の向きである後方を向いている第2状態を提供する。車両60が運転手の操作によらずに走行している自動運転中や、車両60が走行していない駐車中などにおいては、前席61は前向き状態と後ろ向き状態とのどちらの状態も実現可能である。
前席61は、前席61をなす座面と背もたれとを一体に回転させることで前向き状態と後ろ向き状態とに向きを切り替えることができる。前席61の回転は、前席61の座面の中央を回転軸としており、その回転軸の軸方向は、上下方向と一致する方向である。したがって、地面に対して座面が水平な状態を維持して回転する。ここで、後ろ向き状態には、車両60の進行方向に対して180度回転した反転状態だけでなく、進行方向に対して90度から270度までの範囲の角度で回転した状態が含まれる。例えば、2つの前席61と2つの後席62との合計4つの座席を有する車両60において、4つの座席からそれぞれ等距離に位置する中心部分にそれぞれの座席が向くように、斜めの角度に座席を回転させた状態も、前席61における後ろ向き状態に含まれる。
前席61を前向き状態と後ろ向き状態とに切り替える方法は、上述した方法に限られない。例えば、前席61をなす座面は回転せず、背もたれを座面の後方にある状態と座面の前方にある状態とに切り替える構成としてもよい。この場合、背もたれが座面の後方にある状態が前席61の前向き状態であり、背もたれが座面の前方にある状態が前席61の後ろ向き状態である。
前席61の後ろ向き状態において、前席61に着座している乗員の足元に前席方向センサ65が設けられている。前席方向センサ65は、車両60の床面に設けられた重量センサである。前席61に乗員が着座している状態で、前席方向センサ65が所定値以上の重量を検知している場合には、前席61が後ろ向き状態であると判断して、前席61が後ろ向き状態であることを示す信号を出力する。一方、前席方向センサ65で所定値以上の重量を検知していない場合には、前席61が前向き状態であると判断して、前席61が前向き状態であることを示す信号を出力する。
前席61の向きを判断する方法は、上述した方法に限られない。前席方向センサ65として重量センサの代わりに赤外線センサを用いて、乗員の足の有無を赤外線の変化量として検知することで、前席61の前向き状態と後ろ向き状態とを判断してもよい。あるいは、前席方向センサ65を、前席61に設けられた角度センサとして、前席61の座面と背もたれとが一体に回転した角度を検知することで、前席61の前向き状態と後ろ向き状態とを判断してもよい。また、前席方向センサ65を備えず、車両60の空調操作などに用いる操作パネルに前席方向スイッチ75を設けて、乗員による前席方向スイッチ75の操作によって、前席61の向きを判断するようにしてもよい。あるいは、複数の検知方法を併用して前席61の向きを検知するようにしてもよい。
フロントフェイス吹き出し口35は、前席61が前向き状態の時に前席61に着座している乗員の上半身に向けて空調風を吹き出す。言い換えると、フロントフェイス吹き出し口35は、前席61よりも前方の空間に向かって空調風を吹き出す。一方、前席61が後ろ向き状態の時には、前席61において乗員が着座している面とは反対側の面である背面側の背もたれ部分に空調風を吹き出すこととなる。すなわち、後ろ向き状態の前席61に着座している乗員に対して直接空調風を吹き出すことができない。
フロントフット吹き出し口45は、前席61が前向き状態の時に前席61に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。言い換えると、フロントフット吹き出し口45は、前席61よりも前方の空間に向かって空調風を吹き出す。一方、前席61が後ろ向き状態の時には、前席61において乗員が着座している面とは反対側の面である背面側に空調風を吹き出すこととなる。すなわち、後ろ向き状態の前席61に着座している乗員に対して直接空調風を吹き出すことができない。フロントフット吹き出し口45は、前席61の前向き状態と後ろ向き状態とのどちらの状態においても、前席61の背もたれよりも進行方向の前方に位置している。
リアフット吹き出し口55は、前席61の座面の下方に位置しており、その位置から後方に向かって空調風が吹き出すように構成されている。リアフット吹き出し口55は、後席62に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。言い換えると、リアフット吹き出し口55は、前席61よりも後方の空間に向かって空調風を吹き出す。すなわち、リアフット吹き出し口55は、前席61が前向き状態である場合には後席62の乗員に対して空調風を吹き出し可能な吹き出し口である。一方、前席61が後ろ向き状態の時には、前席61に着座している乗員及び後席62に着座している乗員の両方の足元に向けて空調風を吹き出すこととなる。すなわち、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員との両方の乗員に対して直接空調風を吹き出すことができる。
リアフット吹き出し口55は、後ろ向き状態の前席61の後端部よりも前方に位置している。また、リアフット吹き出し口55は、前向き状態の前席61の背もたれよりも進行方向の前方に位置しており、後ろ向き状態の前席61の背もたれよりも進行方向の後方に位置している。
リアフット吹き出し口55から前席61の座面の中心部分までの距離は、リアフット吹き出し口55から後席62の座面の中心部分までの距離よりも近い。すなわち、リアフット吹き出し口55は、後席62よりも前席61に近い位置に配されている。
リアエアコン1bにおけるリアフェイス吹き出し口135は、後席62に着座している乗員の上半身や前席61と後席62との間に向けて空調風を吹き出す。言い換えると、リアフェイス吹き出し口135は、前席61よりも後方の空間に向かって空調風を吹き出す。すなわち、リアフェイス吹き出し口135は、前席61が前向き状態である場合に後席62の乗員に対して空調風を吹き出し可能な吹き出し口である。一方、前席61が後ろ向き状態の時には、前席61に着座している乗員及び後席62に着座している乗員の両方に向けて空調風を吹き出すこととなる。すなわち、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員との両方の乗員に対して空調風を作用させることができる。
リアエアコン1bにおけるリアフット吹き出し口145は、後席62に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。言い換えると、リアフット吹き出し口145は、前席61よりも後方の空間に向かって空調風を吹き出す。すなわち、リアフット吹き出し口145は、前席61が前向き状態である場合には後席62の乗員に対して空調風を吹き出し可能な吹き出し口である。一方、前席61が後ろ向き状態の時には、前席61に着座している乗員及び後席62に着座している乗員の両者に向けて空調風を吹き出すこととなる。すなわち、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員との両方の乗員の足元に対して空調風を作用させることができる。
図3において、フロントエアコン1aは、内部に空気が流れる空気経路が形成されているフロント空調ケース2aを備えている。フロント空調ケース2aは、空調運転に用いる各種装置を内部に収納している。
フロントエアコン1aは、送風機7と蒸発器9とヒータコア10とを備えている。送風機7は、フロント空調ケース2a内に空気を流すための装置である。蒸発器9は、内部に冷媒が流れており、冷媒が液体から気体に気化する際の気化熱を周囲の空気から奪うことで空気を冷却する熱交換器である。ヒータコア10は、内部に高温のエンジン冷却水が流れており、エンジン冷却水の熱を用いて周囲の空気を加熱する熱交換器である。ただし、ヒータコア10に代えて、電力を消費して空気を加熱する電気ヒータなどを用いてもよく、ヒータコア10と電気ヒータとの両方のヒータを併用してもよい。ヒータコア10の上流側には、エアミックスドア11が設けられている。エアミックスドア11は、ヒータコア10を通過する流路とヒータコア10を通過しない流路の開閉の割合を調整することで、空調風をヒータコア10で加熱する量を調整している。
フロント空調ケース2aには、内気導入口3と外気導入口4との2つの空気の取り込み口が形成されている。フロントエアコン1aは、内気導入口3と外気導入口4とを開閉する内外気切り替えドア5を備えている。内外気切り替えドア5は、内気導入口3を開いて外気導入口4を閉じることで空調風を車内で循環させる内気モードを実現する。内外気切り替えドア5は、内気導入口3を閉じて外気導入口4を開くことで空調風を車外から取り込む外気モードを実現する。
フロント空調ケース2aには、フロントウィンドウに向けて空調風を吹き出すためのデフロスタ吹き出し口25が設けられている。フロント空調ケース2aは、蒸発器9やヒータコア10を通過して温度が変化した空調風をデフロスタ吹き出し口25に導くデフロスタダクト22を備えている。デフロスタダクト22の入口付近には、デフロスタダクト22の開閉を行うデフロスタドア21が設けられている。デフロスタドア21は、デフロスタ吹き出し口25からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。
フロント空調ケース2aには、前向き状態の前席61に着座している乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すためのフロントフェイス吹き出し口35が設けられている。フロント空調ケース2aは、蒸発器9やヒータコア10を通過して温度が変化した空調風をフロントフェイス吹き出し口35に導くフロントフェイスダクト32を備えている。フロントフェイスダクト32の入口付近には、フロントフェイスダクト32の開閉を行うフロントフェイスドア31が設けられている。フロントフェイスドア31は、フロントフェイス吹き出し口35からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。
フロント空調ケース2aには、前向き状態の前席61に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出すためのフロントフット吹き出し口45が設けられている。フロント空調ケース2aには、後席62に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出すためのリアフット吹き出し口55が設けられている。フロント空調ケース2aは、蒸発器9やヒータコア10を通過して温度が変化した空調風をフロントフット吹き出し口45やリアフット吹き出し口55に導くフットダクト42を備えている。フットダクト42の入口付近には、フットダクト42の開閉を行うフットドア41が設けられている。フットドア41は、フロントフット吹き出し口45やリアフット吹き出し口55からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。
フットダクト42において、フロントフット吹き出し口45に空調風を導くダクトが、フロントフットダクト44である。一方、フットダクト42において、リアフット吹き出し口55に空調風を導くダクトが、リアフットダクト54である。フロントフットダクト44の入口付近には、フロントフットダクト44の開閉を行うフロントフットドア43が設けられている。フロントフットドア43は、フロントフット吹き出し口45からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。フロントフットドア43は、吹き出し変更装置を提供する。
フロントフットドア43とフロントフットダクト44とフロントフット吹き出し口45とは、車両60の左右方向に離れた位置に2つ設けられている。すなわち、運転席側にフロントフットドア43Rとフロントフットダクト44Rとフロントフット吹き出し口45Rとを備え、助手席側にフロントフットドア43Lとフロントフットダクト44Lとフロントフット吹き出し口45Lとを備えている。
リアフットダクト54とリアフット吹き出し口55とは、車両60の左右方向に離れて2つ設けられている。すなわち、右側の席にリアフットダクト54Rとリアフット吹き出し口55Rとを備え、左側の席にリアフットダクト54Lとリアフット吹き出し口55Lとを備えている。
フロントエアコン1aは、吹き出し口モードとしてデフロスタモード、フェイスモード、フットモード、バイレベル(B/L)モード、フットデフロスタ(F/D)モードの5つのモードを備えている。
デフロスタモードは、デフロスタ吹き出し口25から空調風を吹き出すモードである。デフロスタモードにおいては、デフロスタドア21が開状態となり、フロントフェイスドア31とフットドア41とは閉状態となる。デフロスタモードは、フロントウィンドウの曇りを解消する場合に用いられる。
フェイスモードは、フロントフェイス吹き出し口35から空調風を吹き出すモードである。フェイスモードにおいては、フロントフェイスドア31が開状態となり、デフロスタドア21とフットドア41とは閉状態となる。フェイスモードは、冷房運転時によく用いられる。
フットモードは、主にフロントフット吹き出し口45とリアフット吹き出し口55から空調風を吹き出すモードである。フットモードにおいては、フットドア41が開状態となり、フロントフェイスドア31は閉状態となり、デフロスタドア21は、わずかに開いた小開状態となる。フットモードは、暖房運転時によく用いられる。
バイレベル(B/L)モードは、フロントフェイス吹き出し口35とフロントフット吹き出し口45とリアフット吹き出し口55の各吹き出し口から略等しい量の空調風を吹き出すモードである。バイレベル(B/L)モードにおいては、フロントフェイスドア31とフットドア41とが開状態となり、デフロスタドア21は閉状態となる。バイレベル(B/L)モードは、冷房と暖房との中間温度の空調運転時によく用いられる。
フットデフロスタ(F/D)モードは、フロントフット吹き出し口45とリアフット吹き出し口55とデフロスタ吹き出し口25との各吹き出し口から略等しい量の空調風を吹き出すモードである。フットデフロスタ(F/D)モードにおいては、フットドア41とデフロスタドア21とが開状態となり、フロントフェイスドア31は閉状態となる。フットデフロスタ(F/D)モードは、フットモードでの暖房運転中にフロントウィンドウが曇ってしまう場合によく用いられる。
図4において、リアエアコン1bは、内部に空気が流れる空気経路が形成されているリア空調ケース2bを備えている。リア空調ケース2bは、空調運転に用いる各種装置を内部に収納している。
リアエアコン1bは、送風機107と蒸発器109とヒータコア110とを備えている。送風機107は、リア空調ケース2b内に空気を流すための装置である。蒸発器109は、内部に冷媒が流れており、冷媒が液体から気体に気化する際の気化熱を周囲の空気から奪うことで空気を冷却する熱交換器である。ヒータコア110は、内部に高温のエンジン冷却水が流れており、エンジン冷却水の熱を用いて周囲の空気を加熱する熱交換器である。ただし、ヒータコア110に代えて、電力を消費して空気を加熱する電気ヒータなどを用いてもよく、ヒータコア110と電気ヒータとの両方のヒータを併用してもよい。ヒータコア110の上流側には、エアミックスドア111が設けられている。エアミックスドア111は、ヒータコア110を通過する流路とヒータコア110を通過しない流路の開閉の割合を調整することで、空調風をヒータコア110で加熱する量を調整している。
リア空調ケース2bには、後席62に着座している乗員の上半身や前席61と後席62の中間位置に向けて空調風を吹き出すためのリアフェイス吹き出し口135が設けられている。リア空調ケース2bは、蒸発器109やヒータコア110を通過して温度が変化した空調風をリアフェイス吹き出し口135に導くリアフェイスダクト132を備えている。リアフェイスダクト132の入口付近には、リアフェイスダクト132の開閉を行うリアフェイスドア131が設けられている。リアフェイスドア131は、リアフェイス吹き出し口135からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。
リア空調ケース2bには、後席62に着座している乗員の足元に向けて空調風を吹き出すためのリアフット吹き出し口145が設けられている。リア空調ケース2bは、蒸発器109やヒータコア110を通過して温度が変化した空調風をリアフット吹き出し口145に導くリアフットダクト142を備えている。リアフットダクト142の入口付近には、リアフットダクト142の開閉を行うリアフットドア141が設けられている。リアフットドア141は、リアフット吹き出し口145からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整する装置である。
リアエアコン1bは、吹き出し口モードとしてフェイスモード、フットモード、バイレベル(B/L)モードの3つのモードを備えている。
フェイスモードは、リアフェイス吹き出し口135から空調風を吹き出すモードである。フェイスモードにおいては、リアフェイスドア131が開状態となり、リアフットドア141は閉状態となる。リアエアコン1bのフェイスモードは、冷房運転時によく用いられる。
フットモードは、リアフット吹き出し口145から空調風を吹き出すモードである。フットモードにおいては、リアフットドア141が開状態となり、リアフェイスドア131は閉状態となる。リアエアコン1bのフットモードは、暖房運転時によく用いられる。
バイレベル(B/L)モードは、リアフェイス吹き出し口135とリアフット吹き出し口145から略等しい量の空調風を吹き出すモードである。バイレベル(B/L)モードにおいては、リアフェイスドア131とリアフットドア141とが開状態となる。リアエアコン1bのバイレベル(B/L)モードは、冷房と暖房との中間温度の空調運転時によく用いられる。
図5は、制御システムを示す図である。この明細書における制御装置(ECU)は、電子制御装置(Electronic Control Unit)である。制御装置は、コンピュータまたはマイクロコンピュータとも呼ばれる。制御装置は、制御対象を制御するための制御システムを提供する。この明細書における少なくとも1つの機能は、その機能を提供するように構成された少なくとも1つの制御装置によって提供される。「制御装置」は、少なくともハードウェアを含む。「制御装置」は、記憶媒体に記録されたソフトウェアを含む場合がある。「制御装置」は、ハードウェアのみによって提供される場合がある。制御装置は、if-then-else形式と呼ばれる複数の論理、または機械学習によってチューニングされた学習済みモデル、例えばニューラルネットワークによって提供される。
この明細書における少なくとも1つの機能は、少なくとも1つの「制御装置」によって提供される。「制御装置」は、データ通信装置によってリンクされた複数の「制御装置」を含む場合がある。「制御装置」は、(1)ハードウェアがソフトウェアを実行することより上記機能を達成する場合と、(2)ハードウェアによって上記機能を達成する場合と、(3)上記(1)の部分と上記(2)の部分との両方の組み合わせにより上記機能を達成する場合とを含む。
この開示に記載の制御部及びその手法は、(1)コンピュータプログラムにより具体化された少なくとも1つの機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。または、この開示に記載の制御部及びその手法は、(2)専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。または、この開示に記載の制御部及びその手法は、(3)コンピュータプログラムを実行するプロセッサと1つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
「制御装置」の一例は、少なくともプログラムを格納したメモリと、このプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサとを備えるコンピュータである。この場合、コンピュータは、CPU:Central Processing Unit、またはGPU:Graphics Processing Unitなどと呼ばれる少なくとも1つのプロセッサコアを備える。メモリは、記憶媒体とも呼ばれる。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラムおよび/またはデータ」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリ、磁気ディスク、または光学ディスクなどによって提供される。プログラムは、それ単体で、またはプログラムが格納された記憶媒体として流通する場合がある。
「制御装置」の一例は、多数の論理ユニットを含むデジタル回路、またはアナログ回路を含むコンピュータである。この場合、コンピュータは、ロジック回路アレイ、例えば、ASIC:Application-Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、PGA:Programmable Gate Array、CPLD:Complex Programmable Logic Deviceなどと呼ばれる。デジタル回路は、「プログラムおよび/またはデータ」を格納したメモリを備える場合がある。
ハードウェアプロセッサは、(1)コンピュータプログラムを読み込み、実行するプロセッサコア、(2)ASIC、FPGA等を含むロジック回路アレイ、または、(3)上記(1)と(2)との組み合わせを含む。
制御装置と信号源と制御対象物とは、多様な要素を提供する。それらの要素の少なくとも一部は、機能を実行するためのブロックと呼ぶことができる。別の観点では、それらの要素の少なくとも一部は、構成として解釈されるモジュール、またはセクションと呼ぶことができる。さらに、制御システムに含まれる要素は、意図的な場合にのみ、その機能を実現する手段とも呼ぶことができる。
図5において、車両用空調装置1を制御する空調制御部80は、前席方向センサ65と空調用センサ71と空調用スイッチ72と前席方向スイッチ75と接続されている。前席方向センサ65は、前席61が前向き状態であるか後ろ向き状態であるかの信号を空調制御部80に向けて出力する。空調制御部80は、前席61の向きの情報を空調運転に反映させることとなる。
空調用センサ71は、外気温センサや内気温センサや日射量センサや蒸発器温度センサなどからなるセンサである。外気温センサは、車外の温度を測定するセンサである。内気温センサは、車室内の温度を測定するセンサであって、車室内の前方における内気温を測定する温度センサと、車室内の後方における内気温を測定する温度センサとの2つの温度センサを有している。日射量センサは、車両60が受けている日射量を測定するセンサである。蒸発器温度センサは、フロントエアコン1aに用いられる蒸発器9の表面温度を測定する温度センサと、リアエアコン1bに用いられる蒸発器109の表面温度を測定する温度センサとの2つの温度センサを有している。空調制御部80は、空調用センサ71から空調に用いる各種の情報を取得する。
空調用スイッチ72は、乗員によって操作されるスイッチであって、空調運転のオンオフの切り替えスイッチや、設定温度の切り替えスイッチや、内気モードと外気モードとの切り替えを行うスイッチなどが含まれる。空調用スイッチ72には、フロントエアコン1aにおけるフェイスモードなどの5つの吹き出しモードのうち、どのモードで空調運転を行うかを選択するスイッチが含まれている。空調用スイッチ72には、リアエアコン1bにおけるフェイスモードなどの3つの吹き出しモードのうち、どのモードで空調運転を行うかを選択するスイッチが含まれている。ただし、オートモードで空調運転を行う場合には、乗員による操作で吹き出しモードなどを切り替えるのではなく、自動で切り替えが行われる。空調制御部80は、空調用スイッチ72を用いて乗員が設定した空調設定に基づいて空調運転を行うこととなる。
前席方向スイッチ75は、前席61が前向き状態であるか後ろ向き状態であるかの信号を空調制御部80に向けて出力する。前席方向スイッチ75は、前席方向センサ65による検知結果から前席61が前向き状態であるか、後ろ向き状態であるかを乗員に対して報知する。ただし、前席方向スイッチ75の表示内容が実際の前席61の状態と異なる場合には、乗員の手によって前席方向スイッチ75を操作することで表示を変更可能である。すなわち、例えば前席61が前向き状態であるにも関わらず前席方向スイッチ75が後ろ向き状態であることを表示している場合には、乗員が前席方向スイッチ75を操作して前席61が前向き状態であることを入力する。ただし、前席方向センサ65を備えていない場合などには、乗員による操作のみで表示を切り替えるようにしてもよい。
空調制御部80には、フロントエアコン1aとリアエアコン1bとが接続されている。空調制御部80は、フロントエアコン1aの内外気切り替えドア5の開閉を切り替えることで、内気モードと外気モードとの切り替えを行う。空調制御部80は、フロントエアコン1aの送風機7やリアエアコン1bの送風機107のオンオフや回転数を制御することで空調運転における風量を調整する。空調制御部80は、フロントエアコン1aのエアミックスドア11やリアエアコン1bのエアミックスドア111の開度を制御することで空調風の温度を調整する。
空調制御部80は、デフロスタドア21を切り替えることで、デフロスタ吹き出し口25から吹き出す空調風の量を調整している。空調制御部80は、フロントフェイスドア31を切り替えることで、フロントフェイス吹き出し口35から吹き出す空調風の量を調整している。空調制御部80は、フットドア41を切り替えることで、フロントフット吹き出し口45とフロントエアコン1aのリアフット吹き出し口55とから吹き出す空調風の量を調整している。空調制御部80は、フロントフットドア43を切り替えることで、フロントフット吹き出し口45から吹き出す空調風の量を調整している。空調制御部80は、リアフェイスドア131を切り替えることで、リアフェイス吹き出し口135から吹き出す空調風の量を調整している。空調制御部80は、リアフットドア141を切り替えることで、リアエアコン1bのリアフット吹き出し口145から吹き出す空調風の量を調整している。
各種ドア装置は、サーボモータを備えており、空調制御部80は、サーボモータの駆動制御によって各種ドア装置の開閉制御を行っている。ただし、各種ドア装置は開状態と閉状態との2つの状態だけでなく開状態と閉状態との中間の開度である小開状態も設定可能である。すなわち、各種ドア装置は吹き出し口などの開口における開度を任意に絞ることができる装置である。
車両用空調装置1の制御について以下に説明する。図6において、車両用空調装置1の運転が開始されると、ステップS101で空調運転に関する情報を初期化する。すなわち、外気温などの情報が無い状態としてからステップS102に進む。
ステップS102では、データの読み込みを行う。読み込みを行うデータとしては、空調用センサ71で取得した外気温、内気温、日射量、蒸発器温度といった情報や、空調用スイッチ72の操作結果である設定温度や設定風量などの情報や、前席61の向きに関する情報などがあげられる。データの読み込みは、フロントエアコン1aとリアエアコン1bとの両方に関して行う。データの読み込みが完了した後、ステップS103に進む。
ステップS103では、読み込んだデータに基づいて、目標吹き出し口温度であるTAOを算出する。ここで、フロントエアコン1aにおける目標吹き出し口温度であるTAOfとリアエアコン1bにおける目標吹き出し口温度であるTAOrをそれぞれ算出する。ただし、フロントエアコン1aとリアエアコン1bとの両方を運転する場合にはTAOfとTAOrとの両方を算出するが、フロントエアコン1aのみを運転する場合には、TAOfのみを算出することとなる。一方、リアエアコン1bのみを運転する場合には、TAOrのみを算出することとなる。TAOfとTAOrの算出に用いられる演算式の一例を順番に以下に示す。
(数式1)
TAOf=Ksetf×Tsetf-Krf×Trf-Kam×Tam-Ks×Ts+Cf
ここで、Ksetfはフロントエアコン1aの設定温度ゲイン、Krfはフロントエアコン1aの車室内温度ゲイン、Kamは外気温ゲイン、Ksは日射量ゲインである。Tsetfは乗員が空調用スイッチ72を用いて入力したフロントエアコン1aの設定温度、Trfは空調用センサ71を用いて測定した車室前方の内気温、Tamは空調用センサ71を用いて測定した外気温、Tsは空調用センサ71を用いて測定した日射量である。Cfは、全体にかかる補正用の定数である。
(数式2)
TAOr=Ksetr×Tsetr-Krr×Trr-Kam×Tam-Ks×Ts+Cr
ここで、Ksetrはリアエアコン1bの設定温度ゲイン、Krrはリアエアコン1bの車室内温度ゲイン、Kamは外気温ゲイン、Ksは日射量ゲインである。Tsetrは乗員が空調用スイッチ72を用いて入力したリアエアコン1bの設定温度、Trrは空調用センサ71を用いて測定した車室後方の内気温、Tamは空調用センサ71を用いて測定した外気温、Tsは空調用センサ71を用いて測定した日射量である。Crは、全体にかかる補正用の定数である。TAOfとTAOrを算出した後、ステップS104に進む。
ステップS104では、算出されたTAOに対応して各種の演算を行う。ここで、各種の演算には、吹き出しモードの選択、吸い込みモードの選択、エアミックスドア11、111の開度の制御、送風機7、107で発生させる風量の設定が含まれる。各種の演算が完了した後、ステップS111に進む。
ステップS111では、前席61が後ろ向き状態であるか否かを判断する。前席61が後ろ向き状態であるか否かの判断は、前席方向スイッチ75から出力される信号に基づいて行う。前席方向スイッチ75から出力された信号が前向き状態を示す信号であれば、前席61は前向き状態であると判断し、前席方向スイッチ75から出力された信号が後ろ向き状態を示す信号であれば、前席61は後ろ向き状態であると判断する。ただし、前席方向スイッチ75を備えない場合には、前席方向センサ65で検知した前席61の向きに基づいて後ろ向き状態であるか否かの判断を行ってもよい。前席61が後ろ向き状態であると判断した場合には、ステップS112に進む。一方、前席61が後ろ向き状態でないと判断した場合、すなわち前席61が前向き状態であると判断した場合には、ステップS130に進む。
ステップS112では、内気温と設定温度との温度差が所定温度差未満であるか否かを判定する。すなわち、フロントエアコン1aの設定温度と車室内前方における内気温との温度差を算出して、その温度差が所定温度差未満であるか否かを判定する。ただし、フロントエアコン1aの設定温度と車室内前方における内気温との温度差と、リアエアコン1bの設定温度と車室内後方における内気温との温度差との平均値をとるなどして車室内全体の温度差が所定温度差未満であるか否かを判定してもよい。
所定温度差は、任意の値に設定できる。例えば、所定温度差を10℃、設定温度を20℃に設定した暖房運転の場合、内気温が10℃以下の温度である時に内気温と設定温度との温度差が所定温度差以上であると判断することとなる。また、所定温度差を10℃、設定温度を25℃に設定した冷房運転の場合、内気温が35℃以上の温度である時に内気温と設定温度との温度差が所定温度差以上であると判断することとなる。
内気温と設定温度との温度差が所定温度差未満である場合には、すでに車室内がある程度設定温度に近い状態であると判断できる。すなわち、空調運転にそれほど大きな出力が必要ないと判断して、ステップS120に進む。内気温と設定温度との温度差が所定温度差以上である場合には、まだ車室内が設定温度から離れた温度であると判断できる。すなわち、空調運転に大きな出力が必要であると判断してステップS130に進む。
ステップS120では、低出力モードでフロントエアコン1aを出力する。低出力モードは、フロントエアコン1aが車室内を空調する能力を意図的に低下させる代わりに、フロントエアコン1aで使用するエネルギーを削減するモードである。低出力モードでは、例えば、フロントエアコン1aから吹き出される風量を通常モードの制御に比べて少なくするために、送風機7の回転数を低くする。低出力モードの制御方法は、上述の方法に限られない。例えば、送風機7の回転数は通常モードと同様とし、送風機7の駆動時間を短くしてもよい。例えば、暖房運転に用いる電気式ヒータへの通電量を低下させてフロントエアコン1aから吹き出される空調風の温度を調整して出力を低下させてもよい。フロントエアコン1aの低出力モードは、フロント第2モードの一例を提供する。低出力モードでフロントエアコン1aを出力した後、ステップS141に進む。
ステップS130では、通常モードでフロントエアコン1aを出力する。通常モードは、車両用空調装置1にあらかじめ設定されている空調運転の制御に対して、特別な補正を加えないモードである。フロントエアコン1aの通常モードは、フロント第1モードの一例を提供する。通常モードでフロントエアコン1aを出力した後、ステップS141に進む。
ステップS141では、空調運転をオフとする要求があるか否かを判断する。空調運転をオフとする要求としては、例えば、乗員による空調用スイッチ72の操作によって空調運転を切る要求がなされた場合があげられる。あるいは、乗員によるイグニッションボタンの操作により、車両60を駆動する動力が絶たれた場合などについても空調運転をオフとする要求がある場合として判断される。空調運転をオフとする要求がある場合には、空調運転を終了させる。空調運転をオフとする要求がない場合、すなわち空調運転を維持する場合には、現在の空調運転を継続しながらステップS102に戻って一連のフローを繰り返す。
ステップS120において、フロントエアコン1aを低出力モードとする意義について以下に説明する。前席61の後ろ向き状態においては、フロントフェイス吹き出し口35から吹き出される空調風が前席61の背もたれに吹き付けられてしまう。このため、前席61に着座している乗員にフロントフェイス吹き出し口35から吹き出される空調風を直接作用させる場合に比べて乗員が空調の効果を実感しにくい。フロントエアコン1aのフロントフット吹き出し口45から吹き出される空調風は、床面に吹き付けられてしまう。このため、前席61に着座している乗員にフロントフット吹き出し口45から吹き出される空調風を直接作用させる場合に比べて乗員が空調の効果を実感しにくい。したがって、前席61が後ろ向き状態である場合には、フロントエアコン1aによる空調制御では、前席61が前向き状態である場合に比べて乗員が空調効果を実感しにくい。
一方、空調風の吹き出しに伴う騒音は、前席61の向きによらず車室内に響きやすい。特に、前席61を後ろ向き状態とした場合には、前席61の乗員と後席62の乗員との間で会話を楽しんでいるなど、騒音が気になりやすい状況であることが想定される。よって、低出力モードによって低騒音で間接的に車室内の空調を行うことで、高い静音性や低振動などの空調温度以外の快適性を高めて効率的に空調運転を行うことができる。
また、リアエアコン1bは、前席61の後ろ向き状態においても、空調風を後席62の乗員に直接吹き付けることができる。このため、フロントエアコン1aとリアエアコン1bとを併用運転している場合には、リアエアコン1bでの空調運転を継続することで、快適な空調運転を維持しやすい。
低出力モードにおいて、フロントフェイスドア31とフロントフットドア43と閉状態とし、フットドア41を開状態とすることで、リアフット吹き出し口55のみに空調風が吹き出される構成としてもよい。あるいは、リアフット吹き出し口55からの空調風の吹き出し量がフロントフェイス吹き出し口35やフロントフット吹き出し口45からの空調風の吹き出し量よりも多くなる構成としてもよい。これによると、フロントエアコン1aにおいて、乗員に対して空調効果を実感させにくい吹き出し口からの空調風の吹き出しを制限して、乗員に対して空調効果を実感させやすい吹き出し口からの空調風の吹き出しを多く確保できる。このため、前席61が後ろ向き状態である場合において、効率的な空調運転を提供しやすい。
上述した実施形態によると、前席61が後ろ向き状態であることを示す信号を空調制御部80が取得した場合には、低出力モードでフロントエアコン1aを運転制御する。このため、前席61の後ろ向き状態において、乗員に対して空調効果を実感させにくいフロントエアコン1aで消費するエネルギーを低減できる。したがって、前席61の後ろ向き状態において、効率的な空調を実現可能な車両用空調装置1を提供できる。
フェイスモード実行される機会の多い冷房運転において、無駄な空間への冷風の吹き出しを低減することは有用である。特に、圧縮機をエンジンで駆動するのではなく、電力を消費して駆動する電動圧縮機を用いて冷房を行うハイブリッド自動車や電気自動車に適用する場合には、冷房に必要な電力をおさえることによる冷房性能の向上が非常に重要である。フットモードで実行される機会の多い暖房運転において、無駄な空間への暖風の吹き出しを低減することは有用である。特に、ヒータコア10に代えて電力を消費して空気を加熱する電気ヒータを用いて暖房を行うハイブリッド自動車や電気自動車に適用する場合には、暖房に必要な熱量をおさえることによる暖房性能の向上が非常に重要である。
内気温と設定温度との差が所定温度差未満の場合には、フロントエアコン1aを低出力モードで運転制御し、内気温と設定温度との差が所定温度差以上の場合には、前席61が後ろ向き状態であってもフロントエアコン1aを通常モードで運転制御する。このため、内気温が設定温度から大きく離れている場合には、フロントエアコン1aを低出力モードとはせず、内気温を設定温度に近づけることを優先する。したがって、フロントエアコン1aを低出力モードで運転する場合に比べて内気温を設定温度に素早く近づけやすい。
低出力モードにおいて、フロントエアコン1aの送風機7の出力を低下させることで、フロントエアコン1aによる空調能力を低下させている。このため、空調風を乗員に対して直接作用させにくく、吹き出し風量の差による快適性の違いを実感しにくい状態において、静音性などの快適性を高めることで、車室内を快適な状態としやすい。ここで、風量を多く確保するために送風機7の回転数を高くし過ぎると、送風機7の作動音や空調風がダクトや吹き出し口を通過する際の騒音や振動が大きくなってしまう。これにより、空調温度は快適な温度であったとしても、騒音や振動によって車室内の快適性が損なわれることになる場合がある。しかしながら、低出力モードにおいて送風機7の出力を低下させることで、騒音や振動などによって車室内の快適性が損なわれることを抑制できる。
リアフット吹き出し口55は、前席61が後ろ向き状態である場合に、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員との両方に空調風を吹き出す。このため、前席61に着座している乗員と後席62に着座している乗員との両方に対して同時に空調風を吹き出して快適な空調を提供することができる。
リアフット吹き出し口55は、車両60の前方から後方に向かって空調風を吹き出している。このため、リアフット吹き出し口55にルーバーを設けるなどして吹き出し方向を変えるような部品を備えた場合に比べて、空調風の流れにおける圧力損失を小さくしやすい。したがって、送風機7で消費するエネルギーを低減しやすく、車両用空調装置1において生じる騒音や振動を低減しやすい。
車両用空調装置1は、前席61が前向き状態であるか後ろ向き状態であるかを乗員の操作によって入力する前席方向スイッチ75を備えている。このため、前席方向センサ65を備えることなく、空調制御部80が前席61の向きの情報を取得して、空調制御を適切に変更することができる。
車両用空調装置1は、前席61が前向き状態であるか後ろ向き状態であるかを検知する前席方向センサ65を備えている。このため、乗員の操作によらず前席61の向きを検知して、空調制御を適切に変更することができる。
前席方向センサ65と前席方向スイッチ75との両方を備えている場合には、乗員によって操作される前席方向スイッチ75による信号を前席方向センサ65による信号よりも優先する。言い換えると、前席方向センサ65ではなく前席方向スイッチ75に基づいて前席61が前向き状態であるか後ろ向き状態であるかを判断する。このため、前席方向センサ65で前席61の方向を誤検知した場合であっても、乗員の操作によって修正することができる。
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、リアエアコン1bの運転要求の有無を判定して、フロントエアコン1aの運転制御を変更している。また、暖房運転中か冷房運転中かによって異なる低出力モードでフロントエアコン1aを運転制御している。また、自動運転中か駐車中かによって、異なる低出力モードでフロントエアコン1aを運転制御している。また、フロントエアコン1aが低出力モードの場合に、リアエアコン1bを高出力モードで出力している。
車両用空調装置1の制御のうち、上述した実施形態とは異なる制御を行う部分について以下に説明する。図7において、ステップS111で前席61が後ろ向き状態であると判定された場合、ステップS213に進む。一方、前席61が前向き状態であると判定された場合、ステップS130に進む。
ステップS213では、リアエアコン1bの運転要求があるか否かを判定する。リアエアコン1bの運転要求がある場合には、少なくともリアエアコン1bによって空調運転を実施可能であると判断して、ステップS214に進む。一方、リアエアコン1bの運転要求がない場合には、フロントエアコン1aのみで空調運転を実施していることとなる。フロントエアコン1aの単独運転中において、フロントエアコン1aの出力が低下する補正を加えると、快適な空調温度を保つように空調運転が行われていることを乗員が実感できるようになるまでに多大な時間を要する場合がある。したがって、フロントエアコン1aの出力を通常モードのまま出力すべきであると判断して、ステップS130に進む。
ステップS214では、暖房運転中であるか否かを判定する。暖房運転中であるか否かの判定は、設定温度と内気温との温度差から判断する。すなわち、設定温度に対して現在の内気温が低い場合には、暖房運転中であると判断する。一方、設定温度に対して現在の内気温が高い場合には、冷房運転中であると判断する。暖房運転中であると判定した場合には、ステップS221に進む。一方、暖房運転中ではないと判定した場合には、冷房運転中であると判断してステップS222に進む。
ステップS221では、暖房用低出力モードでフロントエアコン1aを出力する。暖房用低出力モードは、暖房運転中においてエアコン出力を通常モードに比べて低く設定したモードである。フロントエアコン1aの暖房用低出力モードは、フロント第2モードの一例を提供する。暖房用低出力モードの一例を以下に説明する。図8において、横軸は、空調用センサ71を用いて測定した車室前方の内気温である。縦軸は、フロントエアコン1aの送風機7のブロワレベルの補正量である。ここで、ブロワレベルは最大風量から風量ゼロまでを30レベルに分割した場合を想定している。自動運転中における特性は、グラフに実線で示している。駐車中における特性は、グラフに一点鎖線で示している。
自動運転中における暖房用低出力モードの一例を以下に説明する。フロントエアコン1aの設定温度よりも内気温が10℃以上低い場合には、ブロワレベルの補正量は0である。すなわち、設定温度と目標温度との値が大きく離れているため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードと同等として暖房運転を行う。これにより、素早く内気温を上昇させることを優先する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が5℃よりも小さい場合には、ブロワレベルの補正量は-5である。すなわち、設定温度と目標温度との値が近いため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて5レベル分低下させる。これにより、乗員が空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aから吹き出される風量を低下させて、送風に伴って発生する騒音や振動を低減する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が10℃よりも小さく5℃以上ある場合には、ブロワレベルの補正量は0から-5である。この状態においては、内気温が設定温度に近づくほどフロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる量が大きくなる。
暖房用低出力モードによるブロワレベルの補正によって、ブロワレベルが1未満の値や負の値となった場合には、ブロワレベルを0とみなして送風機7を停止させる。この場合、フロントエアコン1aの暖房運転が停止することとなる。このため、フロントエアコン1aに設けられている空調用センサ71ではなく、リアエアコン1bに設けられている空調用センサ71を用いてリアエアコン1b単独での暖房運転を実行する。
駐車中における暖房用低出力モードの一例を以下に説明する。フロントエアコン1aの設定温度よりも内気温が10℃以上低い場合は、ブロワレベルの補正量は0である。すなわち、設定温度と目標温度との値が大きく離れているため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードと同等にする。これによって、素早く内気温を上昇させることを優先する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が5℃よりも小さい場合には、ブロワレベルの補正量は-3である。すなわち、設定温度と目標温度との値が近いため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる。これにより、乗員が空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aから吹き出される風量を低下させて、送風に伴って生じる騒音や振動を低減する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が10℃よりも小さく5℃以上ある場合には、ブロワレベルの補正量は0から-3である。この状態では、内気温が設定温度に近づくほどフロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる量が大きくなる。
自動運転中における暖房用低出力モードの補正量と、駐車中における暖房用低出力モードの補正量は異なる。より詳細には、駐車中における暖房用低出力モードの補正量は、自動運転中における暖房用低出力モードの補正量よりも小さい。自動運転中においては、走行に伴って発熱しているエンジンの熱が多く、ヒータコア10による暖房能力が駐車中における暖房能力に比べて高くなりやすい。一方、駐車中においては、エンジンの熱が少なく、ヒータコア10による暖房能力が自動運転中における暖房能力に比べて低くなりやすい。したがって、自動運転中においては、駐車中に比べて少ない風量でも大きな暖房能力を得られやすい。よって、自動運転中における暖房用低出力モードは、駐車中における暖房用低出力モードに比べて、送風機7のブロワレベルをより大きく低下させることができる。
上述の通り、通常モードよりも出力を低下させた暖房用低出力モードでフロントエアコン1aを出力した後、ステップS226に進む。
ステップS222では、冷房用低出力モードでフロントエアコン1aを出力する。冷房用低出力モードは、冷房運転中においてエアコン出力を通常モードに比べて低く設定したモードである。フロントエアコン1aの冷房用低出力モードは、フロント第2モードの一例を提供する。冷房用低出力モードの一例を以下に説明する。図9において、横軸は、空調用センサ71を用いて測定した車室前方の内気温である。縦軸は、フロントエアコン1aの送風機7のブロワレベルの補正量である。自動運転中における特性は、グラフに実線で示している。駐車中における特性は、グラフに一点鎖線で示している。
自動運転中における冷房用低出力モードの一例を以下に説明する。フロントエアコン1aの設定温度よりも内気温が10℃以上高い場合には、ブロワレベルの補正量は0である。すなわち、設定温度と目標温度との値が大きく離れているため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードと同等として冷房運転を行う。これにより、素早く内気温を低下させることを優先する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が5℃よりも小さい場合には、ブロワレベルの補正量は-5である。すなわち、設定温度と目標温度との値が近いため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる。これにより、乗員が空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aから吹き出される風量を低下させて、送風に伴って発生する騒音や振動を低減する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が10℃よりも小さく5℃以上ある場合には、ブロワレベルの補正量は0から-5である。この状態においては、内気温が設定温度に近づくほどフロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる量が大きくなる。
冷房用低出力モードによるブロワレベルの補正によって、ブロワレベルが1未満の値や負の値となった場合には、ブロワレベルを0とみなして送風機7を停止させる。この場合、フロントエアコン1aの冷房運転が停止することとなる。このため、フロントエアコン1aに設けられている空調用センサ71ではなく、リアエアコン1bに設けられている空調用センサ71を用いてリアエアコン1b単独での冷房運転を実行する。より具体的には、フロントエアコン1aの蒸発器9に設けられている蒸発器温度センサではなく、リアエアコン1bの蒸発器109に設けられている蒸発器温度センサを用いて冷房運転を行う。蒸発器温度センサの切り替えによって、空調運転の強度が大きく変化する場合には、単位時間当たりの変化量を通常よりも小さくしてもよい。これによると、空調運転を徐変させることができるため、乗員が空調運転の変化を違和感として感じにくい。あるいは、車両用空調装置1における空調運転の急変に対して、車両用空調装置1が故障したと錯覚させにくい。
駐車中における冷房用低出力モードの一例を以下に説明する。フロントエアコン1aの設定温度よりも内気温が10℃以上高い場合は、ブロワレベルの補正量は0である。すなわち、設定温度と目標温度との値が大きく離れているため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードと同等にする。これによって、素早く内気温を低下させることを優先する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が5℃よりも小さい場合には、ブロワレベルの補正量は-3である。すなわち、設定温度と目標温度との値が近いため、フロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる。これにより、乗員が空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aから吹き出される風量を低下させて、送風に伴って生じる騒音や振動を低減する。また、フロントエアコン1aの設定温度と内気温との温度差が10℃よりも小さく5℃以上ある場合には、ブロワレベルの補正量は0から-3である。この状態では、内気温が設定温度に近づくほどフロントエアコン1aの送風機7の送風量を通常モードに比べて低下させる量が大きくなる。
自動運転中における冷房用低出力モードの補正量と、駐車中における冷房用低出力モードの補正量は異なる。より詳細には、駐車中における冷房用低出力モードの補正量は、自動運転中における冷房用低出力モードの補正量よりも小さい。自動運転中においては、走行に伴って走行風により冷凍サイクルをなす凝縮器が冷却されやすく、蒸発器9による冷房能力が駐車中における冷房能力に比べて安定して高くなりやすい。一方、駐車中においては、凝縮器が冷却されにくく、蒸発器9による冷房能力が自動運転中における冷房能力に比べて低くなりやすい。したがって、自動運転中においては、駐車中に比べて少ない風量でも大きな冷房能力を得られやすい。よって、自動運転中における冷房用低出力モードは、駐車中における冷房用低出力モードに比べて、送風機7のブロワレベルをより大きく低下させることができる。
上述の通り、通常モードよりも出力を低下させた冷房用低出力モードでフロントエアコン1aを出力した後、ステップS226に進む。
ステップS226では、高出力モードでリアエアコン1bを出力する。高出力モードは、リアエアコン1bが車室内を空調する能力を増加させるモードである。高出力モードは、前席61が前向き状態のリアエアコン1bの出力モードであるリア第1モードに比べて空調能力を高めたモードである。高出力モードでは、例えば、リアエアコン1bから吹き出される風量を通常モードの制御に比べて多くするために、リアエアコン1bの送風機107の回転数を高くする。リアエアコン1bを高出力モードとすることで、フロントエアコン1aの出力を低下させた分を補うことができる。すなわち、乗員が空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aからの出力を低下させる代わりに、乗員が空調効果を実感しやすいリアエアコン1bからの出力を増加させる。リアエアコン1bの高出力モードは、リア第2モードの一例を提供する。高出力モードでリアエアコン1bを出力した後、ステップS141に進む。
上述した実施形態によると、自動運転中は、駐車中に比べて低出力モードにおいてフロントエアコン1aの空調能力を低下させる量を大きくしている。すなわち、自動運転中における低出力モードは、駐車中における低出力モードに比べて空調能力を低下させる量が大きい。このため、走行状態であるか否かで空調能力が変化しやすい車両用空調装置1において、空調能力を低下させる量を適切に制御して、フロントエアコン1aで消費されるエネルギーを適切に低減できる。
リアエアコン1bが運転していない場合には、前席61が後ろ向き状態であることを示す信号を空調制御部80が取得した場合であっても、フロントエアコン1aを通常モードで運転制御する。このため、フロントエアコン1aのみで空調運転を行う必要がある場合に、フロントエアコン1aを低出力モードで運転することによって空調能力が低下し過ぎることを抑制できる。
フロントエアコン1aとリアエアコン1bとの併用運転中であって、前席61が後ろ向き状態であることを示す信号を空調制御部80が取得した場合に、通常モードに比べて出力を高くした高出力モードでリアエアコン1bを運転制御している。このため、フロントエアコン1aの出力が低下した分をリアエアコン1bの出力を高めることで補うことができる。言い換えると、車両用空調装置1全体の空調能力のうち、空調効果を実感しにくいフロントエアコン1aの割合を下げて、空調効果を実感しやすいリアエアコン1bの割合を上げている。したがって、車両用空調装置1全体で消費するエネルギーの量を大きく変えることなく、乗員に快適な空調を実感させやすい。
他の実施形態
フロントフェイスドア31をセンターフェイスドアとサイドフェイスドアとの2種類のドアを備える構成としてもよい。この場合、センターフェイスドアは、フロントフェイス吹き出し口35のうち、左右方向の略中央の位置に設けられるセンターフロントフェイス吹き出し口からの空調風の吹き出し量を調整するドアである。サイドフェイスドアは、フロントフェイス吹き出し口35のうち、左右方向に離れた両側の位置に設けられるサイドフロントフェイス吹き出し口からの空調風の吹き出し量を調整するドアである。フロントフェイスドア31を閉状態とする場合において、センターフェイスドアとサイドフェイスドアとの両方を閉状態としなくてもよい。例えば、センターフェイスドアを閉状態とし、サイドフェイスドアをわずかに開いた小開状態とした場合であっても、フロントフェイスドア31の閉状態に含まれる。
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。