JP7223896B2 - 歯付ベルト及び歯付ベルト伝動装置 - Google Patents

歯付ベルト及び歯付ベルト伝動装置 Download PDF

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Description

本発明は、比較的高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる歯付ベルトに関する。
風力発電機は、弱風時には効率向上、強風時には効率低下のために、風車のブレードのピッチ(ブレードを軸回転させる歯付プーリの角度)を変更し、風車の回転速度を調整する(図1参照)。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3には、ブレードのピッチの制御を歯付ベルトによる駆動(噛み合い伝動)方式で行う態様が開示されている。
それらの態様では、駆動用の歯付ベルトはブレードの根元付近に設置されるので、強風時にブレードの根元付近が小刻みに揺れる現象が往々に発生する。この場合、その影響で歯付ベルトの駆動におけるベルト歯とプーリとの噛み合いが小刻みに進退運動(往復運動)をすることになる。このような進退運動においては、歯付ベルトの歯底部がプーリに強く押し付けられていると、小刻みに激しく擦られるため、ベルト歯底部が著しく摩耗する。さらには、ベルト歯に埋設された心線の摩耗や切断にまで進展するとベルト強力が低下し、最終的にはベルト切断に到る場合がある。
一般に、歯付ベルトを用いる噛み合い伝動機構では、昇降搬送装置のように、駆動プーリの回転速度や往復運動が所定(一定)の条件で行われることになるが、風力発電機用途では風の動きに任せた成り行きの条件で駆動プーリの回転や往復運動が行われる。そのため、一般的な用途とは異なった特異的な設計が必要になり、特に、当該用途の歯付ベルトには、小刻みな進退運動(正逆回転による往復運動)に対する歯底部の耐摩耗性や、強風にも耐用できる高度な強度が求められる。
当該用途において、歯付ベルトのベルト歯底部の摩耗を抑制する手段として、特許文献4には、ベルト歯の先端はプーリ歯底部と接触し、プーリ歯の先端はベルト歯底部と接触せず、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間に間隙Sが設けられる歯付ベルト伝動装置が開示されている。
中国実用新案第202370752号明細書 米国特許第8684693号明細書 国際公開第2013/156497号 特開2018-204790号公報
上記プーリ歯の先端とベルト歯底部との間に間隙Sを設けた態様(特許文献4の図1参照)では、歯付ベルトとプーリとの噛み合いにおいて、ベルト歯部の先端部(歯先部)のみがプーリと接触し、ベルト歯底部がプーリと接触することなく動力伝達を行う方式(歯先伝動方式)であるため、小刻みな進退運動(正逆回転による往復運動)が行われる用途でも、ベルト歯底部の摩耗を抑制することができる。
しかし、本来の噛み合い伝動は、動力伝達の効率や、ベルト歯部の耐久性の面では、歯先部とベルト歯底部とが共にプーリと接触して噛み合うことが望ましい。すなわち、ベルト歯底部がプーリと接触しない方式は、耐摩耗性には効果があるものの、動力伝達やベルト歯部の耐久性の面では不利な態様である。
その一方、近年では、風力発電機の分野では、風力発電機の大型化(発電容量の大容量化)が進められ、それに対応して歯付ベルトには一段と高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達が求められている。そのため、特許文献4で開示される歯底部がプーリと接触しない方式(歯先伝動方式)では、高張力条件での動力伝達に追従できず、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様が必要になっている。
さらには、風力発電機の分野では、その設置場所が従来の陸上から海洋上へと変わりつつある。海洋上に設置される場合には、塩水に対する防錆性が求められる。
しかし、特許文献4で開示される態様では、ベルト歯底部において心線(スチールコード)が歯底面に露出する位置に配置されているため、塩水によりスチールコードに錆が生じる虞がある。また、ベルト歯底部が補強布(66ナイロン織布)で被覆される態様も開示されているが、補強布が吸水した水分でスチールコードに錆びが生じる虞がある。従って、心線(スチールコード)の防錆性を確保するための改善が必要となった。
本発明は、近年の風力発電機の大型化(発電容量の大容量化)に伴う高い負荷環境(高張力な条件)での動力伝達に適応でき、且つ、海洋上設置(洋上風力発電)に伴う防錆性にも適応できる歯付ベルト及び歯付ベルト伝動装置を提供することを目的とする。
本発明は、背部と、
前記背部に、ベルト長手方向に埋設された、スチール繊維を含む撚りコードからなる心線と、
前記背部の内周側に、前記ベルト長手方向に沿って形成された、複数のベルト歯と、
前記ベルト歯間に形成されるベルト歯底部と前記心線との間に設けられた、カバー層と、を備え、
前記カバー層は、厚みが0.2~1.0mmの範囲内であり、
前記背部、前記ベルト歯、及び、前記カバー層は、熱可塑性エラストマーで一体的に形成されていることを特徴とする、歯付ベルトである。
上記構成によれば、ベルト歯底部と心線との間(心線の内周側)に、厚み0.2~1.0mmのカバー層を設けることで、スチール繊維を含む撚りコードからなる心線が、ベルト歯底部の表面に位置しないため(心線が直接露出せず、且つ、心線の位置をベルト歯底部から隔離できる)、プーリとの噛み合いの際に、ベルト歯底部とプーリ歯の先端部とが接触しても、心線の摩耗や切断が抑制される。特に、小刻みな進退運動(正逆回転による往復運動)に対しても、カバー層があれば、心線の摩耗や切断から保護することができる。
また、心線が全面的に熱可塑性エラストマーに埋設されていることから、心線がベルト歯底部の表面と接したり露出したりする部分がなく、心線(スチール繊維を含む撚りコード)と水分との接触を妨げられるので、水分に対する防錆性を確保することができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記ベルト歯間のピッチが14mm以上であり、前記ベルト歯の高さが5mm以上であることを特徴としてもよい。
上記構成によれば、ベルト歯間のピッチ(歯ピッチ)が歯付ベルトのスケールを表す指標として規格等で規定されている中で、歯ピッチ(すなわち、ベルト歯)を大きくすることで、比較的高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる用途での耐荷重を満足するための、歯付ベルトと歯付プーリとの噛み合い性や、ベルト歯の剪断力を確保できる。このため、比較的大型の部類に属する歯付ベルトにおいて、耐久性、耐摩耗性、動力伝達性能、防錆性を確保することができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトが、前記ベルト歯間に噛合するように外周に複数のプーリ歯が形成された、複数の歯付プーリの間に、
前記ベルト歯の先端部が、前記プーリ歯間に形成されるプーリ歯底部に接触し、
かつ、前記プーリ歯の先端部が、前記ベルト歯底部に接触するように巻き掛けられることを特徴としてもよい。
上記構成によれば、ベルト歯の先端部がプーリ歯底部と接触し、かつ、プーリ歯の先端部がベルト歯底部と接触して、ベルト歯に掛かる負荷(歯荷重)をベルト歯底部にも分散させることで、動力伝達やベルト歯の耐久性の面で有利な態様で噛み合い伝動を行うことができる。これにより、特に大型(大容量)の風力発電機のように、比較的高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる歯付ベルトにおいて、高張力条件での動力伝達に追従でき、且つ心線の耐摩耗性も確保することができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにかかる張力が、外的要因により変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmとなる環境で使用されることを特徴としてもよい。
例えば、風力発電機に搭載されるブレードピッチを調整する歯付ベルト伝動装置のように、強風時に、風力発電機のブレードの根元付近が小刻みに揺れ、その影響で歯付ベルトの駆動におけるベルト歯とプーリとの噛み合いが小刻みに進退運動(往復運動)したり、突発的に歯付ベルトに大きな張力がかかる現象が起こったとしても(その際に歯付ベルトにかかる張力(負荷)を想定)、それに耐えられる歯付ベルトを確保することができる。
また、本発明の1つは、上記歯付ベルトと、
当該歯付ベルトの前記ベルト歯間に噛合するように、外周に複数のプーリ歯が形成された、複数の歯付プーリと、を備え、
前記ベルト歯の先端部が、前記プーリ歯間に形成されるプーリ歯底部に接触し、かつ、前記プーリ歯の先端部が、前記ベルト歯底部に接触するように、前記複数の歯付プーリ間に巻き掛けられ、噛み合い伝動を行う歯付ベルト伝動装置である。
また、本発明は、上記歯付ベルト伝動装置において、当該歯付ベルトにかかる張力が、外的要因により変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmとなる環境で使用されることを特徴としてもよい。
本発明によれば、近年の風力発電機の大型化(発電容量の大容量化)に伴う高い負荷環境(高張力な条件)での動力伝達に適応でき、且つ、海洋上設置(洋上風力発電)に伴う防錆性にも適応できる歯付ベルト及び歯付ベルト伝動装置を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る歯付ベルト伝動装置の説明図である。 本発明の一実施形態に係る歯付ベルト伝動装置の一部を示す、ベルト長手方向に沿った(図3の矢印方向Iから見た)側面図である。 本発明の一実施形態に係る歯付ベルトのベルト幅方向に沿った断面図である。 (a)歯付ベルトのベルト長手方向に沿った断面図である。(b)歯付ベルトのベルト長手方向に沿った断面の写真図である。(c)歯付ベルトのベルト幅方向に沿った断面の写真図である。 本発明の一実施形態に係る歯付ベルトの製造方法を説明するための概略図である。 走行試験で用いた走行試験機を示す概略図である。 歯付ベルトの歯型(G14M、G20M)の説明図である。
(歯付ベルト伝動装置1)
本発明に係る歯付ベルト伝動装置1は、高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達に好適に使用される。高い負荷環境の指標としては、歯付ベルト10にかかる張力が常時変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmの張力がかかる使用環境で使用される。別の指標では、歯付ベルト10にかかるトルクが常時変動し、最大で15kN・m~45kN・mとなる使用環境で使用される。
例えば、歯付ベルト伝動装置1の用途としては、風力発電機において、自然界で発生する常時変化する風向や風力(常風から強風まで)に応じた高い負荷環境で、ブレードの角度調整を行うベルト式駆動装置が挙げられる。
具体的には、図1に示すように、ベルト式駆動装置として使用される、歯付ベルト伝動装置1は、駆動プーリ30、歯付プーリ50(従動プーリ)及びアイドラプーリ40と、これらに巻回された歯付ベルト10を主な構成としている。そして、駆動プーリ30の回転動力が、歯付プーリ50に伝達され、歯付プーリ50の回転に連動するブレードを軸回転させることにより、風力発電機のブレードのピッチ(角度)を変更する。
なお、歯付ベルト伝動装置1は、風力発電機におけるベルト式駆動装置として使用されることに限定されず、同様の特性が要求される任意の駆動装置において使用可能である。
(歯付ベルト10)
次に、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10について図面を参照して説明する。
本実施形態の歯付ベルト10は、有端状の噛み合い伝動ベルトであり、図2~図4に示すように、複数の心線11と、複数の心線11をベルト長手方向に埋設した背部12と、背部12の内周側にベルト長手方向に沿って形成された複数のベルト歯13と、ベルト歯13とベルト歯13との間に形成される、複数のベルト歯底部14とを有する。
複数のベルト歯13は、ベルト厚み方向(ベルト歯13の高さ方向)に背部12と対向し、ベルト長手方向に互いに離隔して配置されている。
ベルト歯13とベルト歯底部14とは、ベルト長手方向に交互に形成されている。ベルト歯底部14は、ベルト長手方向に隣接する2つのベルト歯13の間に形成された凹部の底部である。
ベルト歯底部14において、複数の心線11がベルト歯底部14の表面に露出しないように、ベルト歯底部14と心線11との間(心線11の内周側)にはカバー層121が設けられている。背部12、複数のベルト歯13、及び、カバー層121は、熱可塑性エラストマーで一体的に形成されている。カバー層121の厚みT(ベルト厚み方向の高さ)は、0.2~1.0mmであり、特に0.3~0.6mm程度が好ましい。
なお、歯付ベルト10は、図2~図4に示す形態又は構造に限定されない。例えば、複数のベルト歯13は、歯付プーリ50のプーリ歯53と噛み合い可能であればよく、ベルト歯13の断面形状(歯付ベルト10のベルト長手方向の断面形状)は台形状に限定されず、例えば、半円形、半楕円形、多角形(三角形、四角形(矩形など)など)などであってもよい。
また、ベルト長手方向に隣り合うベルト歯13の間隔(歯ピッチP13)は、例えば14~25mmであることが好ましい。歯ピッチP13の数値は、ベルト歯13のスケール(ベルト歯13のベルト長手方向の長さ、及び、ベルト歯13の歯高さ)の大きさにも対応している。すなわち、歯ピッチP13が大きいほど、相似的にベルト歯13のスケールも大きくなる。特に高い負荷が作用する用途ではスケールの大きいベルト歯13が必要とされ、歯ピッチP13が14mm以上であってもよく、20mm以上がさらに好ましい。なお、通常、図2で示すピッチライン(PL)上での、隣り合うベルト歯13の間隔(距離)を歯ピッチP13とする。また、ベルト歯底部14からPLまでの距離をPLD(Pitch Line Differential)という。また、ベルト歯13のベルト厚み方向(ベルト歯13の高さ方向)の中央位置Oにおけるベルト長手方向の幅を、ベルト歯13の幅(W13)とする(図2参照)。
本実施形態において、歯付ベルト10は、以下の要件を満足している。
・ベルト幅W=20~300mm
・ベルト全厚H=9~16mm
・背部12の厚みH12=4mm以上
・カバー層121の厚みT=0.2~1.0mm
・各ベルト歯13の高さH13=5~12mm
・ベルト歯13のピッチP13(ピッチラインPL上の距離)=14~25mm
・ベルト幅1mmあたりのベルト強力=1kN以上(好ましくは2.0kN以上、5.0kN以下)
ベルト歯13のピッチP13が歯付ベルト10のスケールを表す指標として規格等で規定されている中で、歯ピッチP13(すなわち、ベルト歯13)を大きくすることで、比較的高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる用途での耐荷重を満足するための、歯付ベルト10と歯付プーリ50との噛み合い性や、ベルト歯13の剪断力を確保できる。このため、比較的大型の部類に属する歯付ベルト10において、耐久性、耐摩耗性、動力伝達性能、防錆性を確保することができる。
(心線11)
各心線11は、スチールコード(スチール繊維(素線)を撚り合せたコード)からなる。スチールコードは、スチール繊維のみで構成されるコードに限定されず、例えば、アラミド繊維やカーボン繊維などの他の繊維を組み合わせた撚りコードであってもよい。複数の心線11は、ベルト長手方向にそれぞれ延在し、ベルト幅方向に配列されている。なお、図2では、心線11のベルト厚み方向の中心位置をピッチラインPLとして記載している。このピッチラインPLとは、歯付ベルト10が歯付プーリ50の外周に沿って曲げられてもベルト長手方向に伸縮せずに同じ長さを保つ、歯付ベルト10のベルト長手方向の基準線である。
(心線配列の密度について)
各心線11は、背部12に、ベルト長手方向に沿って、ベルト幅方向に所定の間隔dを空けて並列に埋設されている。即ち、心線11は、図3に示すように、背部12に、ベルト幅方向に所定の間隔dを空けて配列されている。より詳細には、ベルト幅方向に隣り合う心線11と心線11との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)が、13%以上50%以下の範囲になるように、心線11は背部12に埋設されているのが好ましい。なお、ベルト幅方向に隣り合う心線11と心線11との間隔dの合計値には、歯付ベルト10の端と心線11との間隔も含まれる(両端部分)。即ち、ベルト幅方向に隣り合う心線11と心線11との間隔dの合計値は、「ベルト幅W」の値から「心線径Dの合計(心線径D×心線の本数)」の値を減算した値である。従って、ベルト幅方向に隣り合う心線11と心線11との間隔d(心線11同士の間隔d)の合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)は、下記「数1」で算出した値である。
Figure 0007223896000001
ベルト幅方向に隣り合う心線11と心線11との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)が小さな値になるほど、心線11と心線11との間隔dが小さくなることから、心線配列の密度の程度が大きくなる(密になる)といえる。心線配列の密度の程度が大きくなる(密になる)ほど、ベルトの単位幅あたりに配設される心線の本数が多くなるため、ベルトの強力が大きくなる。
本実施形態において、心線11及び心線配列の密度は、以下の要件を満足している。
・各心線11の直径D=1.5mm以上(好ましくは2.3~7.0mm)
・各心線11の強力=2.0kN以上(好ましくは7.0~40kN)
・心線11のピッチP11=1.8mm以上(好ましくは2.8~8.5mm)
・心線11同士の間隔d=0.2~3.0mm(好ましくは0.3~1.7mm)
・心線11同士の間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合=13~50%(好ましくは13~31%)
・ベルト歯底部14からPLまでの距離PLD=1.35~4.50mm
ここで、歯付ベルトの耐荷重を満足できる条件としては、ベルト強力のほか、歯付ベルト10と歯付プーリ50との噛み合い性や、ベルト歯13の剪断力も重要になる。すなわち、ベルト歯13が小さいとベルト歯13のジャンピング(歯飛び)が生じ、ベルト歯13の剪断力が小さいと早期の歯欠けが生じるなど、走行(進退運動)に支障が生じる場合がある。このような事象は、ベルト歯13のスケールの選択が大きく影響することから、ベルト強力とベルト歯13のスケールとのバランス関係が重要になる。そこで、左記バランス関係を考慮して、ベルト歯13のスケールと心線11との適切な関係(数値)を上記関係にすることにより、比較的高い負荷環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる用途での耐荷重を満足することができる。
(背部12、ベルト歯13、及び、カバー層121)
背部12、複数のベルト歯13、および、カバー層121は、熱可塑性エラストマーで一体的に形成されている。背部12、複数のベルト歯13、および、カバー層121を構成する熱可塑性エラストマーは、例えば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等であってもよく、またこれらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。特には、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好適に用いられる。ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを構成するポリウレタンの種類としては、ポリエーテル型ポリウレタン、ポリエステル型ポリウレタン、又は、ポリカーボネート型ポリウレタンであってもよい。熱可塑性エラストマーの硬度は30~70°(JIS K6253:2012に準拠,D型硬度計で測定)であってもよく、好ましくは40~70°、さらに好ましくは50~60°である。
(歯付プーリ50)
歯付プーリ50は、図1及び図2に示すように、歯付ベルト10のベルト歯13に噛合するように外周に設けられた複数のプーリ歯53と、隣接する2つのプーリ歯53の間に形成される複数のプーリ歯底部54とを有する。
プーリ歯53とプーリ歯底部54とは、巻き掛けられる歯付ベルト10のベルト長手方向に沿って交互に形成されている。プーリ歯底部54は、ベルト長手方向に隣接する2つのプーリ歯53の間に形成された凹部の底部である。
歯付プーリ50において、隣接する2つのプーリ歯53の間に形成された凹部に、ベルト歯13が嵌る。また、ベルト長手方向に隣接する2つのベルト歯13の間に形成された凹部に、プーリ歯53が嵌る。そして、歯付プーリ50と歯付ベルト10とが噛み合う際には、ベルト歯13の先端部はプーリ歯底部54と接触し、プーリ歯53の先端部はベルト歯底部14と接触する。
このように、ベルト歯13の先端部がプーリ歯底部54と接触し、かつ、プーリ歯53の先端部がベルト歯底部14と接触して、ベルト歯13に掛かる負荷(歯荷重)をベルト歯底部14にも分散させることで、動力伝達やベルト歯13の耐久性の面で有利な態様で噛み合い伝動を行うことができる。これにより、特に大型(大容量)の風力発電機のように、比較的高い負荷(高トルク)環境に対応した高張力条件での動力伝達性能が求められる歯付ベルト10において、高張力条件での動力伝達に追従でき、且つ心線11の耐摩耗性も確保することができる。
上記構成の歯付ベルト10及び歯付ベルト伝動装置1によれば、ベルト歯底部14と心線11との間(心線11の内周側)に、厚み0.2~1.0mmのカバー層121を設けることで、スチール繊維を含む撚りコードからなる心線11が、ベルト歯底部14の表面に位置しないため(心線11が直接露出せず、且つ、心線11の位置をベルト歯底部14から隔離できる)、歯付プーリ50との噛み合いの際に、ベルト歯底部14とプーリ歯53の先端部とが接触しても、心線11の摩耗や切断が抑制される。特に、小刻みな進退運動(正逆回転による往復運動)に対しても、カバー層121があれば、心線11の摩耗や切断から保護することができる。
また、心線11が全面的に熱可塑性エラストマーに埋設されていることから、心線11がベルト歯底部14の表面と接したり露出したりする部分がなく、心線11(スチール繊維を含む撚りコード)と水分との接触を妨げられるので、水分に対する防錆性を確保することができる。
また、歯付ベルト伝動装置1を、風力発電機のように、自然界で発生する常時変化する風向や風力(常風から強風まで)に応じた高い負荷環境(歯付ベルト10にかかる張力が、外的要因により変動する環境)で、ブレードの角度調整を行うベルト式駆動装置に使用した場合、歯付ベルト10にかかる張力が常時変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmの張力がかかる使用環境で使用される。別の指標では、歯付ベルト10にかかるトルクが常時変動し、最大で15kN・m~45kN・mとなる使用環境で使用される。このような環境で、強風時に、風力発電機のブレードの根元付近が小刻みに揺れ、その影響で歯付ベルト10の駆動におけるベルト歯13と歯付プーリ50との噛み合いが小刻みに進退運動(往復運動)したり、突発的に歯付ベルト10に大きな張力がかかる現象が起こったとしても、それに耐えられる歯付ベルト10及び歯付ベルト伝動装置1を提供することができる。
(歯付ベルトの製造方法)
次いで、歯付ベルト10の製造方法の一例について説明する。
歯付ベルト10は、例えば、図5に示すような製造装置60により製造される。製造装置60は、成形ドラム61と、成形ドラム61の上下に近接して配置されたプーリ62,63と、成形ドラム61と水平方向に対向して配置されたプーリ64と、プーリ62~64に巻回された無端状の金属バンドである押圧バンド65と、熱可塑性エラストマーを押し出す押出ヘッド66と、心線供給装置(図示略)と、カバー層用シート供給装置(図示略)とを有する。
成形ドラム61の外周面には、ベルト歯13を形成するための溝が、周方向に所定の間隔で形成されている。プーリ64は、成形ドラム61に対して水平方向に移動可能であり、押圧バンド65に所定の張力を付与する。押圧バンド65は、成形ドラム61の外周面に半周程度巻き付くように配置されており、プーリ64からの張力の付与によって成形ドラム61の外周面に押圧されている。
カバー層用シート装置(図示略)は、予め熱可塑性エラストマーをシート状に成形したカバー層用シート15を、成形ドラム61の外周面に供給する。心線供給装置(図示略)は、成形ドラム61の軸方向に並ぶ複数の心線11を、成形ドラム61の外周面に供給されるカバー層用シート15の外周面側に供給する。押出ヘッド66は、加熱により溶融した状態の熱可塑性エラストマーを、成形ドラム61の外周面に供給された、カバー層用シート15及び心線11の外周面側に供給する。
成形ドラム61の外周面に供給された溶融状態の熱可塑性エラストマー、複数の心線11、及び、カバー層用シート15は、成形ドラム61の回転に伴い、成形ドラム61と押圧バンド65との間に巻き込まれる。このとき、押圧バンド65の押圧力によって、熱可塑性エラストマーが成形ドラム61の外周面に形成された溝内に充填され、当該溝内にベルト歯13が形成される。また、このとき、供給されたカバー層用シート15は、ベルト歯底部14となる部位では、成形ドラム61の外周面と複数の心線11との間に配置され、それ以外の部位では、供給された溶融状態の熱可塑性エラストマーと混在して配置される。また、成形ドラム61の外周面に配置されたカバー層用シート15と押圧バンド65との間に、複数の心線11を埋設した背部12が形成される。そして、押圧バンド65の押圧力によって熱可塑性エラストマーを成形ドラム61の外周面に強く押し付けつつ、熱可塑性エラストマーを冷却して固化させる。押圧バンド65が成形ドラム61から離れた部分で、歯付ベルト10が連続して取り出される。以上の熱可塑材料が溶融状態から冷却固化する一連の成形過程で、カバー層用シート15(熱可塑性エラストマー)は、溶融状態で供給されたベルト歯13や背部12を形成する熱可塑性エラストマーと一体化する。
上述の製造方法で、熱可塑性エラストマーを用いて、実施例1~41、比較例1~14、及び、参考例1~6に係る歯付ベルトを製造し、それらの歯付ベルトの防錆性、及び歯付ベルト伝動装置における走行性能を検証した。実施例1~41、比較例1~14、及び、参考例1~6に係る各歯付ベルト伝動装置の構成及び検証結果を、表1~表11に示す。
Figure 0007223896000002
Figure 0007223896000003
Figure 0007223896000004
Figure 0007223896000005
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Figure 0007223896000009
Figure 0007223896000010
Figure 0007223896000011
Figure 0007223896000012
[使用した材料]
熱可塑性エラストマー1:ポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマー[Covestro製Desmopan 3055DU]
熱可塑性エラストマー2:ポリエーテル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマー[Covestro製Desmopan 9852DU]
熱可塑性エラストマー3:ポリアミド系熱可塑性エラストマー[(株)T&K TOKA製TPAE-617C]
心線1:スチールコード、素線84本、直径2.5mm、強力7.2kN
心線2:スチールコード、素線84本、直径3.3mm、強力11kN
心線3:スチールコード、素線133本、直径4.3mm、強力22kN
心線4:スチールコード、素線133本、直径6.4mm、強力36kN
心線5:スチールコード、素線49本、直径1.6mm、強力3.0kN
[検証方法]
(歯付ベルトの強力)
実施例1~41、比較例1~14、及び、参考例1~6に係る各歯付ベルトから、試験片を採取し、各試験片について、アムスラー引張試験機を用いて引張試験(引張速度50mm/min)を行い、歯付ベルトが破断する強度(破断強度)を測定し、単位幅あたりの破断強度を算出してベルト強力(kN/mm)とした。試験片の寸法は、実施例1~13、40、41、比較例1~8、及び、参考例1、2、6では幅20mm、長さ500mm、実施例14~38、比較例9~14、及び、参考例3~5では幅25mm、長さ500mmとした。また、実施例39では幅35mm、長さ500mmとした。
(防錆性)
実施例1~41、比較例1~14、及び、参考例1~6に係る各歯付ベルトの防錆性を確認するため、塩水噴霧試験を行った。なお、比較例1~4は歯付ベルトが同一物であるので、代表して比較例4の歯付ベルトを試験体とした。同様に、比較例5~8では代表して比較例8、比較例9~11では代表して比較例11、比較例12~14では代表して比較例14、の歯付ベルトを試験体とした。
実施例1~41、比較例4、8、11、14、及び、参考例1~6で製造した各歯付ベルトから、外観確認用の試験片と、ベルト強度測定用の試験片を採取し、各試験片についてISO9227-2012で定める中性塩害試験法に準じて塩水噴霧試験を行い、720時間経過後の外観(錆の発生)を確認した。さらに、720時間経過後のベルト強力(破断強度)を測定し、試験前のベルト強力に対する強力の低下率を算出した(表1~表11の「ベルト強力」及び「強力低下率」の項目参照)。
また、表1~表11の「防錆性」の評価において、「◎」は錆の発生がないこと、「○」は実用的な耐久寿命に問題のない程度(強力低下率5%以下)の錆が生じたこと、「×」は実用不可能な程度(強力低下率5%超え)に顕著に錆が生じたことを意味する。
なお、塩水噴霧試験は、5%NaCl溶液(pH値6.5~7.2)を用い、温度35±2℃の条件で行った。また、外観確認用の試験片の寸法は、実施例1~13、40、41、比較例1~8、及び、参考例1、2、6では幅20mm、長さ50mm、実施例14~38、比較例9~14、及び、参考例3~5では幅25mm、長さ50mmとした。また、実施例39では幅35mm、長さ50mmとした。
また、ベルト強度測定用の試験片の寸法は、実施例1~13、40、41、比較例1~8、及び、参考例1、2、6では幅20mm、長さ750mm、実施例14~38、比較例9~14、及び、参考例3~5では幅25mm、長さ750mmとした。また、実施例39では幅35mm、長さ750mmとした。
(走行性能)
実施例1~41、比較例4、8、11、14、及び、参考例1~6に係る各歯付ベルトから試験片10xを採取し、図6に示すように、試験片10xの両端に錘71及び錘72をそれぞれ吊り下げて、走行試験機70の駆動プーリ73、従動プーリ74及び平プーリ75(直径=160mm)に巻回した。そして、所定の移動距離で、120万サイクル(図6に示す矢印の方向の1往復で1サイクル)で繰り返し走行を行い、走行試験後のベルト歯及びベルト歯底部の状態を評価した(表1~表11の「ベルト歯の状態」「ベルト歯底部の状態」の項目参照)。表1~表11の「ベルト歯の状態」および「ベルト歯底部の状態」の評価において、「◎」は摩耗がないこと、「○」は実用的な耐久寿命に問題のない程度の摩耗が生じたこと、「×」は実用不可能な程度に顕著に摩耗が生じたことを意味する。
また、走行試験後のベルト強力(破断強度)を測定し、走行試験前のベルト強力に対する強力の低下率を算出した(表1~表11の「ベルト強力(走行後)」及び「強力低下率」の項目参照)。
なお、120万サイクルに到達する前に、ベルトが走行不能な故障の状態に達した場合は、寿命と判断し、走行試験を打ち切った(表1~表11の「ベルトの故障」の項目参照)。
以上の走行試験は、各歯付ベルトにかかる張力を3水準(7.0kN、8.0kN、11.2kN)で変量し、低張力から高張力までの条件での、各歯付ベルトの耐用性を比較した。張力の水準は、以下の表12に示すように、錘71及び錘72の荷重を変量して設定した。また、各水準において、駆動プーリ73および従動プーリ74の歯数、および1サイクルの移動距離を変更した。
Figure 0007223896000013
走行試験の結果から、実施例1~41、比較例4、8、11、14、及び、参考例1~6に係る各歯付ベルトに対して、以下の表13に示した基準によりA~Dのランク付けをして、表1~表11の「判定」の項目に記載した。なお、A~Dのランクのうち、120万サイクルを完走して顕著な故障も生じないA、Bランクの歯付ベルトは優良なレベルでの実用的に使用可能な製品であるが、100万サイクル以上の走行が可能であったCランクの歯付ベルトも、使用条件によっては実用的に使用可能な製品(合格レベル)と位置づけた。
Figure 0007223896000014
[検証結果]
〈表1における比較検証〉
表1では、特許文献4に記載の歯付ベルトと同等のスケール(ベルト歯のピッチ14mm、ベルト幅20mm:歯型G14M 図7参照)で、同等の心線1(直径D=2.5mm、強力7.2kN)を用いた歯付ベルトについて、(A)心線が歯底部の表面(または補強布)と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける歯付ベルト伝動装置(特許文献4の実施例1、3、6、20~22)と、(B)心線の内周側にカバー層を設けた歯付ベルトにおいて、間隙Sを設けずベルト歯底部がプーリ歯と接触する歯付ベルト伝動装置と、(C)上記(A)の歯付ベルトにおいて、間隙Sを設けずベルト歯底部がプーリ歯と接触する歯付ベルト伝動装置と、を比較するために、実施例1~3および比較例1~8の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例1~3)
実施例1~3の歯付ベルト伝動装置は、上記(B)の心線の内周側にカバー層を設けた歯付ベルトにおいて、間隙Sを設けずベルト歯底部がプーリ歯と接触する態様であり、カバー層の厚みを0.2mm(実施例1)、0.5mm(実施例2)、0.8mm(実施例3)として変量している。いずれの歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、実施例1および実施例3では、設定張力が低い(7.0kN、8.0kN)条件ではBランクであったが、高張力(11.2kN)条件ではCランクであった。それに対し、実施例2では、低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。
すなわち、カバー層の厚みが0.5mmの歯付ベルトでは、最も高い張力条件(11.2kN)でも実用可能であるが、カバー層の厚みが0.2mmや0.8mmの歯付ベルトでは、8kN程度の高張力条件までは実用可能であるが、最も高い張力条件(11.2kN)では実用不可能である。この結果から、カバー層の厚みは0.5mm程度(0.4~0.6mm程度)が好適であると云える。特に高張力な条件においては、カバー層の厚みが小さいと、カバー層の摩耗により、走行中に心線がベルト歯底部に露出して、心線の摩耗が進行して心線の破断に至りやすい。一方、カバー層の厚みが大きいと、歯付ベルトに掛かる応力(歯荷重)をベルト歯が集中して受けやすくなり、歯欠けによる故障に至りやすい。
実施例1~3の歯付ベルト伝動装置は、高張力条件での動力伝達に適応でき、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様であった。
(比較例1~4)
比較例1~4の歯付ベルトは、心線(スチールコード)の内周側のカバー層が無く、ベルト歯底部を含む内周面が補強布で覆われた態様である。これらの歯付ベルトでは、心線がベルト歯底部表面(補強布)と接する位置にある。塩水噴霧試験では、心線に錆が発生し、ベルト強力の低下も見られ、防錆性が得られなかった。これらの歯付ベルトでは、補強布によって心線はベルト歯底部表面には露出していないが、水分を吸収した補強布と接するため、心線(スチールコード)に錆が生じた。この態様の歯付ベルトは、塩水(水分)に対する心線の防錆性に不利な態様である。
また、比較例1~3の歯付ベルト伝動装置は、特許文献4の実施例1、3、6に相当し、上記(A)の、心線が歯底部表面(補強布)と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様であり、間隙Sを0.25mm(比較例1)、0.5mm(比較例2)、0.8mm(比較例3)として変量している。走行性能については、いずれも低張力(7.0kN)条件ではAまたはBランクであったが、張力8.0kNの条件では間隙Sが大きい比較例3ではCランクとなり、最も高い張力(11.2kN)条件ではいずれも早期故障(歯欠け)でDランクとなった。
すなわち、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様では、低い張力条件(7.0kN程度)では実用可能であるが、間隙Sが大きいと8.0kNの高張力条件で実用不可能となり、最も高い張力条件(11.2kN)では間隙Sの大きさに関わらず実用不可能である。この結果から、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様では、プーリ歯と噛み合う際にベルト歯底部がプーリ歯と接触しないために、ベルト歯が歯付ベルトに掛かる応力を集中して受ける(ベルト歯底部がプーリ歯に接している場合はベルト歯とベルト歯底部に応力が分散する)。そのため、特に高張力な条件においては、ベルト歯が受ける応力が特段に大きくなり、早期に歯欠けによる故障に至る。このような、ベルト歯底部がプーリ歯と接触しない方式(歯先伝動方式)では、高張力条件での動力伝達に追従できず、動力伝達性や歯部の耐久性に不利な態様であるといえる。
また、比較例4の歯付ベルト伝動装置は、特許文献4の比較例1に相当し、上記(C)の、心線が歯底部表面(補強布)と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設けない(ベルト歯底部がプーリ歯と接触する)態様である。走行性能については、低張力(7.0kN)条件でも、ベルト歯底部の摩耗によりCランクとなり、さらなる高張力条件では早期故障(心線破断)でDランクとなった。この態様では、心線の内周側にカバー層が無く、補強布が配置されるにすぎないうえに、ベルト歯底部がプーリ歯と接触するため、補強布の摩耗により、走行中に心線がベルト歯底部に露出して、心線の摩耗が進行して心線の破断に至った。
(比較例5~8)
比較例5~8の歯付ベルトは、心線(スチールコード)の内周側にカバー層や補強布が無く、心線がベルト歯底部表面と接する位置にある態様である。塩水噴霧試験では、心線に錆が発生し、ベルト強力の低下も見られ、防錆性が得られなかった。これらの歯付ベルトでは、心線の一部がベルト歯底部表面と接しているため、ベルト歯底部表面に付着した水分により心線(スチールコード)に錆が生じた。この態様の歯付ベルトは、塩水(水分)に対する心線の防錆性に不利な態様である。
また、比較例5~7の歯付ベルト伝動装置は、特許文献4の実施例20~22に相当し、上記(A)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様であり、間隙Sを0.25mm(比較例5)、0.5mm(比較例6)、0.8mm(比較例7)として変量している。走行性能については、いずれも低張力(7.0kN)条件ではAまたはBランクであったが、張力8.0kNの条件では間隙Sが大きい比較例7ではCランクとなり、最も高い張力(11.2kN)条件ではいずれも早期故障(歯欠け)でDランクとなった。
これらの結果からも、前述のように、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様では、低い張力条件(7.0kN程度)では実用可能であるが、間隙Sが大きいと8.0kNの高張力条件で実用不可能となり、最も高い張力条件(11.2kN)では間隙Sの大きさに関わらず実用不可能であることがわかる。このような、ベルト歯底部がプーリ歯と接触しない方式(歯先伝動方式)では、高張力条件での動力伝達に追従できず、動力伝達性やベルト歯の耐久性に不利な態様であるといえる。
また、比較例8の歯付ベルト伝動装置は、特許文献4の比較例2に相当し、上記(C)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設けない(ベルト歯底部がプーリ歯と接触する)態様である。走行性能については、低張力(7.0kN)条件でも、ベルト歯底部の摩耗によりCランクとなり、さらなる高張力条件では早期故障(心線破断)でDランクとなった。この態様では、心線の内周側にカバー層も補強布も無く、ベルト歯底部がプーリ歯と接触するため、走行中にベルト歯底部に露出する心線の摩耗が進行して心線の破断に至った。
〈表2における比較検証〉
表2では、実施例2の歯付ベルト(心線のピッチ3.2mm、心線の本数6本、ベルト強力2.18kN/mm)において、心線のピッチを2.5mm(参考例1)、2.8mm(実施例5)、4.0mm(実施例4)として変量した場合の比較を行うため、実施例2、4、5および参考例1の歯付ベルトの構成を記載している。また、表2では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例2と同等で、且つベルト歯のスケールが実施例2よりも大きい実施例6、7の歯付ベルトの構成も記載している。さらに、表2では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例2と同等であるが、ベルト歯のスケールが実施例2よりも小さい参考例2の歯付ベルトの構成も記載している。
(実施例4、5および参考例1)
実施例2よりも心線ピッチを小さくして心線が7本に増加(心線配列の密度が増加)した実施例5ではベルト強力が増加した(ベルト強力2.53kN/mm)。
一方、実施例2よりも心線ピッチを大きくして心線が5本に減少(心線配列の密度が減少)した実施例4ではベルト強力が減少した(ベルト強力1.18kN/mm)。
実施例4、5の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、実施例5では、実施例2と同等に低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。実施例4では低張力(7.0kN、8.0kN)条件でBランク、高張力(11.2kN)条件では120万サイクル到達前(100万サイクル)に心線破断が生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
心線ピッチを限界まで小さくして心線を隙間なく配列した参考例1ではベルト強力が最も増加(ベルト強力2.88kN/mm)したが、走行性能は、どの張力条件でも早期故障(ベルト輪断)によりDランクとなった。隣り合う心線同士の間隔dが0となると、心線と心線との間に熱可塑性エラストマーが流れ込まず、心線の周囲が熱可塑性エラストマーで固持されない。そのため、ベルト走行により隣り合う心線同士の間で分断が生じ、ベルトの輪断に至った。
以上の結果から、心線のピッチが2.8~4.0mm、ベルト幅1mmあたりのベルト強力が1.18~2.53kN/mmの範囲では実用可能であることが確認できた。
(実施例6、7)
実施例6、7は、実施例2の歯ピッチ14mm(歯型G14M)の歯付ベルトに対して、ベルト歯を歯ピッチ20mm(歯型G20M)、25mm(歯型G25M)のスケールに変更している。
実施例6、7の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例2と同等に低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。
(参考例2)
参考例2は、実施例2の歯ピッチ14mm(歯型G14M)の歯付ベルトに対して、ベルト歯を歯ピッチ8mm(歯型S8M)のスケールに変更している。すなわち、実施例2と同等の心線を配列して同等のベルト強力を保持するが、ベルト歯のスケールが小さい例である。
参考例2の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。しかし、走行性能については、低張力(7.0kN)条件においても早期故障(歯欠け)によりDランク(実用不可)となった。
従って、実用的にはベルト歯のスケールが歯ピッチ14mm以上であることが好ましいと云える。
〈表3における比較検証〉
表3では、実施例2の歯付ベルトにおいて、熱可塑性エラストマーをポリエステル型ポリウレタン系からポリエーテル型ポリウレタン系(実施例8)、ポリアミド系(実施例9)に変更した場合の比較を行うため、実施例2、8、9の歯付ベルトの構成を記載している。
また、表3では、実施例2の歯付ベルトにおいて、ポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの硬度を50°から30°(実施例10)、40°(実施例11)、60°(実施例12)、70°(実施例13)に変量した場合の比較を行うため、実施例2、10~13の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例8、9)
実施例2の歯付ベルトにおけるポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーをポリエーテル型ポリウレタン系に変更した実施例8、ポリアミド系に変更した実施例9でも、ベルト強力は実施例2と同等であった。実施例8、9の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例2と同等に低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。
(実施例10~13)
実施例2よりも熱可塑性エラストマーの硬度を小さくした実施例10、11、および硬度を大きくした実施例12、13でも、ベルト強力は実施例2と同等であった。実施例10~13の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。
走行性能については、硬度を大きくした実施例12では、実施例2と同等に低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。さらに硬度が大きい実施例13では、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までBランクであった。一方、硬度を小さくした実施例11では、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までBランクであった。さらに硬度が小さい実施例10では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件でBランク、高張力(11.2kN)条件では100万サイクルで歯欠けが生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
〈表4における比較検証〉
表4では、特許文献4に記載の歯付ベルトよりも高強力な仕様の歯付ベルトとして、ベルト歯のピッチ14mm、ベルト幅25mmで、心線2(直径D=3.3mm、強力11kN)を用いた歯付ベルト(歯型G14M 図7参照)について、上記の(A)~(C)の比較を行うため、実施例14~17および比較例9~11の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例14~17)
実施例14~17の歯付ベルト伝動装置は、上記(B)の心線の内周側にカバー層を設けた歯付ベルトにおいて、間隙Sを設けずベルト歯底部がプーリ歯と接触する態様であり、カバー層の厚みを0.2mm(実施例14)、0.3mm(実施例15)、0.5mm(実施例16)、0.8mm(実施例17)として変量している。いずれの歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、実施例14および実施例17では、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までBランクであった。それに対し、実施例15および実施例16では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。
すなわち、カバー層の厚みが0.5mmの歯付ベルトに限らず、カバー層の厚みが0.2mmや0.8mmの歯付ベルトでも、最も高い張力条件(11.2kN)まで実用可能であった。特に、カバー層の厚みが0.3~0.5mm程度(0.25~0.6mm程度)の歯付ベルトが好適であると云える。実施例14~17の歯付ベルト伝動装置は、高張力条件での動力伝達に適応でき、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様である。
(比較例9~11)
比較例9~11の歯付ベルトは、心線(スチールコード)の内周側にカバー層や補強布が無く、心線がベルト歯底部表面と接する位置にある態様である。塩水噴霧試験では、心線に錆が発生し、ベルト強力の低下も見られ、防錆性が得られなかった。
また、比較例9~10の歯付ベルト伝動装置は、上記(A)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様であり、間隙Sを0.5mm(比較例9)、0.8mm(比較例10)として変量している。走行性能については、いずれも低張力(7.0kN)条件ではBランクであったが、張力8.0kNの条件では間隙Sが大きい比較例10ではCランクとなり、最も高い張力(11.2kN)条件ではいずれも早期故障(歯欠け)でDランクとなった。
また、比較例11の歯付ベルト伝動装置は、上記(C)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設けない(ベルト歯底部がプーリ歯と接触する)態様である。走行性能については、低張力(7.0kN)条件でも、ベルト歯底部の摩耗によりCランクとなり、さらなる高張力条件では早期故障(心線破断)でDランクとなった。
表4に示す結果から、より高強力な仕様の歯付ベルト[ベルト歯のピッチ14mm、ベルト幅25mm、心線2(直径D=3.3mm、強力11kN)]においても、表1に示す歯付ベルトと同様の傾向が見られ、本発明の態様が、高張力条件での動力伝達に適応でき、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様であることが検証できた。
〈表5における比較検証〉
表5では、実施例16の歯付ベルト(心線のピッチ3.9mm、心線の本数6本、ベルト強力2.65kN/mm)において、心線のピッチを4.8mm(実施例18)、3.3mm(参考例3)として変量した場合の比較を行うため、実施例16、18および参考例3の歯付ベルトの構成を記載している。また、表5では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例16と同等で、且つベルト歯のスケールが実施例16よりも大きい実施例19、20の歯付ベルトの構成も記載している。さらに、表5では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例16と同等であるが、ベルト歯のスケールが実施例16よりも小さい参考例4の歯付ベルトの構成も記載している。
(実施例18および参考例3)
実施例16よりも心線ピッチを大きくして心線が5本に減少(心線配列の密度が減少)した実施例18ではベルト強力が減少した(ベルト強力2.20kN/mm)。
実施例18の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、低張力(7.0kN)条件でAランク、高張力(8.0kN、11.2kN)条件では120万サイクル到達前(100~110万サイクル)に心線破断が生じてCランクとなり、使用条件によっては実用可能な水準であった。
心線ピッチを限界まで小さくして心線を隙間なく配列した参考例3ではベルト強力が最も増加(ベルト強力3.08kN/mm)したが、走行性能は、どの張力条件でも早期故障(ベルト輪断)によりDランクとなった。隣り合う心線同士の間隔dが0となると、心線と心線との間に熱可塑性エラストマーが流れ込まず、心線の周囲が熱可塑性エラストマーで固持されない。そのため、ベルト走行により隣り合う心線同士の間で分断が生じ、ベルトの輪断に至った。
以上の結果から、心線のピッチが3.9~4.8mm、ベルト幅1mmあたりのベルト強力が2.20~2.65kN/mmの範囲では実用可能であることが確認できた。
(実施例19、20)
実施例19、20は、実施例16の歯ピッチ14mm(歯型G14M)の歯付ベルトに対して、ベルト歯を歯ピッチ20mm(歯型G20M)、25mm(歯型G25M)のスケールに変更している。
実施例19、20の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例16と同等に低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。
(参考例4)
参考例4は、実施例16の歯ピッチ14mm(歯型G14M)の歯付ベルトに対して、心線の構成や配列密度を同等にしたまま、ベルト歯のスケールを小さくした歯ピッチ8mm(歯型S8M)の歯付ベルトとしている。すなわち、実施例16とベルト強力が同等であるが、ベルト歯のスケールが小さい例である。
参考例4の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。しかし、走行性能については、低張力(7.0kN)条件においても早期故障(歯欠け)によりDランク(実用不可)となった。
従って、実用的にはベルト歯のスケールが歯ピッチ14mm以上であることが好ましいと云える。
〈表6における比較検証〉
表6では、実施例16の歯付ベルトにおいて、熱可塑性エラストマーをポリエステル型ポリウレタン系からポリエーテル型ポリウレタン系(実施例21)、ポリアミド系(実施例22)に変更した場合の比較を行うため、実施例16、21、22の歯付ベルトの構成を記載している。
また、表6では、実施例16の歯付ベルトにおいて、ポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの硬度を50°から30°(実施例23)、40°(実施例24)、60°(実施例25)、70°(実施例26)に変量した場合の比較を行うため、実施例16、23~26の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例21、22)
実施例16の歯付ベルトにおけるポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーをポリエーテル型ポリウレタン系に変更した実施例21、ポリアミド系に変更した実施例22でも、ベルト強力は実施例16と同等であった。実施例21、22の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例16と同等に低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。
(実施例23~26)
実施例16よりも熱可塑性エラストマーの硬度を小さくした実施例23、24、および硬度を大きくした実施例25、26でも、ベルト強力は実施例16と同等であった。実施例23~26の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。
走行性能については、硬度を大きくした実施例25では、実施例16と同等に低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。さらに硬度が大きい実施例26では、低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。一方、硬度を小さくした実施例24では、低張力(7.0kN)条件ではAランクであり、高張力(8.0kN、11.2kN)条件でもBランクであった。さらに硬度が小さい実施例23では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件でBランク、高張力(11.2kN)条件では100万サイクルで歯欠けが生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
〈表7における比較検証〉
表7では、さらに高スケールで高強力な仕様の歯付ベルトとして、ベルト歯のピッチ20mm、ベルト幅25mmで、心線3(直径D=4.3mm、強力22kN)を用いた歯付ベルト(歯型G20M 図7参照)について、上記の(A)~(C)の比較を行うため、実施例27~29および比較例12~14の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例27~29)
実施例27~29の歯付ベルト伝動装置は、上記(B)の心線の内周側にカバー層を設けた歯付ベルトにおいて、間隙Sを設けずベルト歯底部がプーリ歯と接触する態様であり、カバー層の厚みを0.2mm(実施例27)、0.5mm(実施例28)、1.0mm(実施例29)として変量している。いずれの歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、実施例27および実施例29では、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までBランクであった。それに対し、実施例28では、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。
すなわち、カバー層の厚みが0.2~1.0mmの歯付ベルトにおいて、最も高い張力条件(11.2kN)まで実用可能であった。特に、カバー層の厚みが0.5mm程度(0.4~0.6mm程度)の歯付ベルトが好適であると云える。実施例27~29の歯付ベルト伝動装置は、高張力条件での動力伝達に適応でき、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様である。
(比較例12~14)
比較例12~14の歯付ベルトは、心線(スチールコード)の内周側にカバー層や補強布が無く、心線がベルト歯底部表面と接する位置にある態様である。塩水噴霧試験では、心線に錆が発生し、ベルト強力の低下も見られ、防錆性が得られなかった。
また、比較例12~13の歯付ベルト伝動装置は、上記(A)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設ける態様であり、間隙Sを0.5mm(比較例12)、0.8mm(比較例13)として変量している。走行性能については、いずれも低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までBランクであった。
また、比較例14の歯付ベルト伝動装置は、上記(C)の、心線が歯底部表面と接する位置にある歯付ベルトを用い、プーリ歯の先端とベルト歯底部との間の間隙Sを設けない(ベルト歯底部がプーリ歯と接触する)態様である。走行性能については、低張力(7.0kN)条件でも、ベルト歯底部の摩耗によりCランクとなり、さらなる高張力条件でもCランクとなった。
表7に示す結果から、より高スケールで高強力な仕様の歯付ベルト[ベルト歯のピッチ20mm、ベルト幅25mmで、心線3(直径D=4.3mm、強力22kN)]においても、表1に示す歯付ベルトと同様に、本発明の態様が、高張力条件での動力伝達に適応でき、動力伝達性や歯部の耐久性に有利な態様であることが検証できた。
〈表8における比較検証〉
表8では、実施例28の歯付ベルト(心線のピッチ6.0mm、心線の本数4本、ベルト強力3.67kN/mm)において、心線のピッチを7.3mm(実施例30)、4.9mm(実施例31)として変量した場合の比較を行うため、実施例28、30、31の歯付ベルトの構成を記載している。また、表8では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例28と同等で、且つベルト歯のスケールが実施例28よりも大きい実施例32の歯付ベルトの構成も記載している。さらに、表8では、ベルト強力(心線の構成や配列密度)が実施例28と同等であるが、ベルト歯のスケールが実施例28よりも小さい参考例5の歯付ベルトの構成も記載している。
(実施例30、31)
実施例28よりも心線ピッチを小さくして心線が5本に増加(心線配列の密度が増加)した実施例31ではベルト強力が増加した(ベルト強力4.48kN/mm)。
一方、実施例28よりも心線ピッチを大きくして心線が3本に減少(心線配列の密度が減少)した実施例30ではベルト強力が減少した(ベルト強力2.75kN/mm)。
実施例30、31の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、実施例31では、実施例28と同等に低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。実施例30では低張力(7.0kN)条件でAランク、高張力(8.0kN、11.2kN)条件では120万サイクル到達前(110~118万サイクル)に心線破断が生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
以上の結果から、心線のピッチが4.9~7.3mm、ベルト幅1mmあたりのベルト強力が2.75~4.48kN/mmの範囲では実用可能であることが確認できた。
(実施例32)
実施例32は、実施例28の歯ピッチ20mm(歯型G20M)の歯付ベルトに対して、ベルト歯を歯ピッチ25mm(歯型G25M)のスケールに変更している。
実施例32の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例28と同等に低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。
(参考例5)
参考例5は、実施例28の歯ピッチ20mm(歯型G20M)の歯付ベルトに対して、心線の構成や配列密度を同等にしたまま、ベルト歯のスケールを小さくした歯ピッチ8mm(歯型S8M)の歯付ベルトとしている。すなわち、実施例28とベルト強力が同等であるが、ベルト歯のスケールが小さい例である。
参考例5の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。しかし、走行性能については、低張力(7.0kN)条件においても早期故障(歯欠け)によりDランク(実用不可)となった。
〈表9における比較検証〉
表9では、実施例28の歯付ベルトにおいて、熱可塑性エラストマーをポリエステル型ポリウレタン系からポリエーテル型ポリウレタン系(実施例33)、ポリアミド系(実施例34)に変更した場合の比較を行うため、実施例28、33、34の歯付ベルトの構成を記載している。
また、表9では、実施例28の歯付ベルトにおいて、ポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの硬度を50°から30°(実施例35)、40°(実施例36)、60°(実施例37)、70°(実施例38)に変量した場合の比較を行うため、実施例28、35~38の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例33、34)
実施例28の歯付ベルトにおけるポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマーをポリエーテル型ポリウレタン系に変更した実施例33、ポリアミド系に変更した実施例34でも、ベルト強力は実施例28と同等であった。実施例33、34の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能についても、実施例28と同等に低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。
(実施例35~38)
実施例28よりも熱可塑性エラストマーの硬度を小さくした実施例35、36、および硬度を大きくした実施例37、38でも、ベルト強力は実施例28と同等であった。実施例35~38の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。
走行性能については、硬度を大きくした実施例37では、実施例28と同等に低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。さらに硬度が大きい実施例38では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。一方、硬度を小さくした実施例36では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件ではAランクであり、高張力(11.2kN)条件でもBランクであった。さらに硬度が小さい実施例35では、低張力(7.0kN、8.0kN)条件でBランク、高張力(11.2kN)条件では100万サイクルで歯欠けが生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
〈表10における比較検証〉
表10では、さらに高強力な仕様の歯付ベルトとして、ベルト歯のピッチ20mm、ベルト幅35mmで、心線4(直径D=6.4mm、強力36kN)を用いた、実施例39の歯付ベルト(歯型G20M)の構成を記載している。
(実施例39)
実施例39の歯付ベルト伝動装置は、カバー層の厚みを0.5mmとした実施例28に準じた態様であり、心線の構成と配列を変更している。
実施例39の歯付ベルトは心線ピッチ8.1mm(心線の本数4本、ベルト強力4.11kN/mm)としている。実施例39の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、低張力(7.0kN)から高張力(11.2kN)の条件までAランクであった。
〈表11における比較検証〉
表11では、特許文献4に記載の歯付ベルトとベルト歯のスケールは同等(歯ピッチ14mm、歯型G14M)であるが、低強力な仕様の歯付ベルトとして、心線5(直径D=1.6mm、強力3.0kN)を用いた歯付ベルトについて、実施例40、41および参考例6の歯付ベルトの構成を記載している。
(実施例40、41および参考例6)
実施例40、41、参考例6の歯付ベルト伝動装置は、カバー層の厚みを0.5mmとした実施例2に準じた態様であり、心線の構成と配列を変更している。
実施例40の歯付ベルトは心線ピッチ2.1mm(心線の本数9本、ベルト強力1.35kN/mm)、実施例41の歯付ベルトは心線ピッチ1.8mm(心線の本数10本、ベルト強力1.50kN/mm)としている。
実施例40、41の歯付ベルトも、塩水噴霧試験では心線に錆が発生せず、ベルト強力の低下も小さく、防錆性に優れていた。走行性能については、低張力(7.0kN、8.0kN)条件でBランク、高張力(11.2kN)条件では100万サイクルで心線破断が生じてCランクとなった。いずれの例も使用条件によっては実用可能な水準であった。
心線ピッチを限界まで小さくして心線を隙間なく配列した参考例6ではベルト強力が最も増加(ベルト強力1.65kN/mm)したが、走行性能は、どの張力条件でも早期故障(ベルト輪断)によりDランクとなった。
以上の結果から、ベルト歯底部と前記心線との間に厚み0.2~1.0mmのカバー層を設けることで、ベルト歯のスケールや、ベルト強力(心線の構成や配列密度)の水準を幅広く変化させた各仕様の歯付ベルト及び歯付ベルト伝動装置において、高い負荷環境(高張力な条件)での動力伝達に適応でき、且つ、海洋上設置(洋上風力発電)に伴う防錆性にも適応できることが確認できた。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
・本発明に係る歯付ベルト伝動装置は、風力発電機におけるブレードの角度調整装置、昇降搬送装置等として使用されることに限定されず、任意の装置として使用可能である。
・歯付ベルトは、オープンエンド、エンドレスのいずれであってもよい。
1 歯付ベルト伝動装置
10 歯付ベルト
11 心線
12 背部
121 カバー層
13 ベルト歯
14 ベルト歯底部
50 歯付プーリ
53 プーリ歯
54 プーリ歯底部

Claims (8)

  1. 背部と、
    前記背部に、ベルト長手方向に埋設された、スチール繊維を含む撚りコードからなる心線と、
    前記背部の内周側に、前記ベルト長手方向に沿って形成された、複数のベルト歯と、
    前記ベルト歯間に形成されるベルト歯底部と前記心線との間に設けられた、カバー層と、を備えた歯付ベルトであり
    前記心線の強力は、2.0kN以上であり、
    前記心線は、ベルト幅方向に所定の間隔を空けて配列されており、前記ベルト幅方向に隣り合う前記心線同士の間隔及び当該歯付ベルトの端と前記心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、13~31%の範囲内にあり、
    前記カバー層は、厚みが0.2~1.0mmの範囲内であり、
    前記背部、前記ベルト歯、及び、前記カバー層は、熱可塑性エラストマーで一体的に形成されていることを特徴とする、歯付ベルト。
  2. 前記ベルト歯間のピッチが14mm以上であり、前記ベルト歯の高さが5mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の歯付ベルト。
  3. ベルト幅1mmあたりのベルト強力が1kN以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
  4. 前記カバー層の厚みは、0.4~0.6mmの範囲内であることを特徴とする、請求項1~3の何れかにに記載の歯付ベルト。
  5. 前記ベルト歯間に噛合するように外周に複数のプーリ歯が形成された、複数の歯付プーリの間に、
    前記ベルト歯の先端部が、前記プーリ歯間に形成されるプーリ歯底部に接触し、
    かつ、前記プーリ歯の先端部が、前記ベルト歯底部に接触するように巻き掛けられることを特徴とする、請求項1~4の何れかに記載の歯付ベルト。
  6. 当該歯付ベルトにかかる張力が、外的要因により変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmとなる環境で使用される、請求項5に記載の歯付ベルト。
  7. 請求項1~4の何れかに記載の歯付ベルトと、
    当該歯付ベルトの前記ベルト歯間に噛合するように、外周に複数のプーリ歯が形成された、複数の歯付プーリと、を備え、
    前記ベルト歯の先端部が、前記プーリ歯間に形成されるプーリ歯底部に接触し、かつ、前記プーリ歯の先端部が、前記ベルト歯底部に接触するように、前記複数の歯付プーリ間に巻き掛けられ、噛み合い伝動を行うことを特徴とする、歯付ベルト伝動装置。
  8. 当該歯付ベルトにかかる張力が、外的要因により変動し、常態で0.30kN/mm以上であり、最大で0.80~1.10kN/mmとなる環境で使用される、請求項7に記載の歯付ベルト伝動装置。
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