以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一の要素同士、又は相当する要素同士には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
本実施形態に係る積層型素子の製造方法においては、加工対象物(一例として半導体ウェハの積層体)にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1~図6を参照して説明する。
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
レーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4、図5及び図6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面であってもよい。
ちなみに、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に、加工対象物1の内部に位置する集光点P近傍にて特に吸収される。これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。この場合、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一方、加工対象物1の表面3に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、表面3に位置する集光点P近傍にて特に吸収され、表面3から溶融され除去されて、穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)。
改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある。加工対象物1の材料が単結晶シリコンである場合、改質領域7は、高転位密度領域ともいえる。
溶融処理領域、屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、及び、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1は、結晶構造を有する結晶材料からなる基板を含む。例えば加工対象物1は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、及び、サファイア(Al2O3)の少なくとも何れかで形成された基板を含む。換言すると、加工対象物1は、例えば、窒化ガリウム基板、シリコン基板、SiC基板、LiTaO3基板、又はサファイア基板を含む。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。また、加工対象物1は、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料からなる基板を含んでいてもよく、例えばガラス基板を含んでいてもよい。
実施形態では、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することにより、改質領域7を形成することができる。この場合、複数の改質スポットが集まることによって改質領域7となる。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分である。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物1の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することができる。また、実施形態では、切断予定ライン5に沿って、改質スポットを改質領域7として形成することができる。
[第1実施形態]
引き続いて、第1実施形態に係る積層型素子の製造方法の一例について説明する。この製造方法は、半導体ウェハの積層体を構成する積層工程を含み、積層工程により構成された積層体を上記の加工対象物1としてレーザ加工を行う。そこで、まず、積層体の構成、及び、製造される積層型素子の一例について説明する。
図7は、加工対象物としての積層体を示す平面図である。図8は、図7に示された積層体の一部を拡大して示す概略平面図である。図9は、図8のIX-IX線に沿っての概略断面図である。図7~9に示されるように、積層体10(加工対象物1)は、アクティブ領域11と、切断領域12と、を含む。アクティブ領域11は、オリエンテーションフラット6に沿った第1方向D1と、第1方向D1に交差(直交)する第2方向D2と、に沿って2次元状に配列されている。切断領域12は、第1方向D1及び第2方向D2に交差(直交)する第3方向D3からみて、アクティブ領域11を囲うように格子状に形成されている。
積層体10は、第3方向D3に沿って互いに積層された複数(ここでは10個)の半導体ウェハ20を含む。半導体ウェハ20は、それぞれ、半導体基板21と回路層22とを有する。半導体基板21は、表面21sと裏面21rとを含む。回路層22は、表面21s上に形成されており、表面21sに沿って2次元状に配列された複数の機能素子23を含む。1つのアクティブ領域11は、第3方向D3に沿って1列に積層された複数(ここでは10個)の機能素子23を含むように、全ての半導体ウェハ20にわたって設定されている。この製造方法においては、積層体10を切断領域12において切断することにより、それぞれのアクティブ領域11が切り出される。
そのために、積層体10には、上述した切断予定ライン5として、第1方向D1に沿った切断予定ライン5aと、第2方向D2に沿った切断予定ライン5bと、が設定されている。切断予定ライン5a,5bは、第1方向D1及び第2方向D2のそれぞれに沿って互いに隣り合う機能素子23の間を通るように切断領域12に設定されている。より具体的には、切断領域12には、回路層22において、機能素子23を囲うように環状のストリート部25が設けられており、且つ、機能素子23及びストリート部25を囲うように格子状の金属配線部26が設けられている。金属配線部26は、例えばTEG配線である。
そして、切断予定ライン5aは、第2方向D2に沿って互いに隣り合う機能素子23の間においてストリート部25を通りつつ、第1方向D1に沿って互いに隣り合うストリート部25の間において金属配線部26を通るように、第1方向D1に沿って設定されている。また、切断予定ライン5bは、第1方向D1に沿って互いに隣り合う機能素子23の間においてストリート部25を通りつつ、第2方向D2に沿って互いに隣り合うストリート部25の間において金属配線部26を通るように、第2方向D2に沿って設定されている。なお、ここでは、回路層22においては、機能素子23とストリート部25との間に、金属製のガードリング27が設けられている。また、図8においては、積層体10の表層の半導体基板21の図示が省略されている。
ここで、積層体10は、半導体ウェハ20として、後述する半導体メモリとしての機能素子23を含む半導体ウェハ20Aと、半導体メモリのドライバICとしての機能素子23を含む半導体ウェハ20Bと、を有する。ここでは、積層体10は、その積層方向(第3方向D3)における一端10a及び他端10bを有し、一端10aを構成する半導体ウェハ20のみが半導体ウェハ20Bである。そして、他端10bを構成する半導体ウェハ20を含む他の半導体ウェハ20は、半導体ウェハ20Aである。
引き続いて、積層型素子15について説明する。積層型素子15は、主に、上述した切断予定ライン5a,5bに沿った積層体10の切断によりアクティブ領域11が切り出されることにより製造される。したがって、積層型素子15は、それぞれ、互いに一列に積層された複数(積層体10における半導体ウェハ20の数と同数)の半導体基板21及び回路層22を含む。積層型素子15においては、1つの回路層22が1つの機能素子23を含む。
したがって、積層型素子15の全体にあっては、回路層22の数と同数の機能素子23が含まれる。機能素子23同士は、例えば、半導体基板21及び回路層22に形成された貫通電極(不図示)を介して電気的に接続されている。機能素子23は、DRAMといった半導体メモリのための機能素子、及び、半導体メモリのドライバICのための機能素子を含む。貫通電極は、例えばTSV(Through-Silicon Via)構造によって形成される。貫通電極は、各層の機能素子23等(例えば半導体メモリ及びドライバIC)に対する電源供給用いられる。なお、積層型素子15は、例えば、磁界伝送により高速無線通信を行うための回路(不図示)をさらに有しており、当該回路を用いて信号の送受信を行うことができる。
図10の(a)は、図9の領域A1の拡大図であって、半導体メモリのための機能素子23を有する回路層22、及び対応する半導体基板21を示す拡大断面図である。図10の(b)は、図9の領域A2の拡大図であって、ストリート部25、及び対応する半導体基板21の拡大断面図である。図10の(a)に示されるように、機能素子23は、複数のメモリセル22aを含む。メモリセル22aとメモリセル22aの周囲の領域は、例えば、SiO2膜等の層間絶縁膜、配線層等から構成されている。半導体基板21における機能素子23に対応する部分には、表面21sから裏面22r側に拡がる第1導電型領域(例えば、P-well)21a,21b、及び、第2導電型領域(例えば、N-well)21cと、第1導電型領域21aを囲うように拡がる第2導電型領域(例えば、Deep N-well)21dと、が形成されている。第1導電型領域21aは、メモリセル22aに対応する位置に形成されている。半導体基板21は、例えばシリコン基板である。
一方、図10の(b)に示されるように、ストリート部25においては、回路層22は、半導体基板21の表面21s上に順に積層された絶縁層28,29を含む。絶縁層28は、例えばシリコン酸化物(例えばSiO2)からなる。絶縁層29は、例えばシリコン窒化物(例えばSiN)からなる。第1方向D1における積層型素子15の寸法は、例えば10mm程度である。第2方向D2における積層型素子15の寸法は、例えば10mm程度である。第3方向D3における積層型素子15の寸法は、例えば300μm程度である。
引き続いて、第1実施形態に係る積層型素子の製造方法の各工程について説明する。まず、上述した積層体10を構成する積層工程を行う。より具体的には、まず、図11の(a)に示されるように、半導体ウェハ20Bとして、第1ウェハ30を用意する(第1接合工程)。第1ウェハ30の回路層22は、ドライバICとしての機能素子23を含む。また、第1ウェハ30の回路層22は、ストリート部25において、表面21f上に順に積層された絶縁層31,32を含む。
絶縁層31は、例えばシリコン酸化物(例えばSiO2)からなる。絶縁層32は、例えばBlack Diamond系のLow-k膜である。第1ウェハ30の半導体基板21の厚さは、一例として600μm以上800μm以下程度である。また、第1ウェハ30の回路層22の厚さは、例えば3以上13μm以下程度である。
続いて、図11の(b)に示されるように、半導体ウェハ20Aとして、第2ウェハ40を用意する(第1接合工程)。ここでは、第2ウェハ40の回路層22は、半導体メモリとしての機能素子23を含む。また、第2ウェハ40の回路層22は、ストリート部25において、絶縁層28,29を含む。第2ウェハ40の半導体基板21の厚さは、一例として600μm以上800μm以下程度である。また、第2ウェハ40の回路層22の厚さは、例えば3μm以上13μm以下程度である。
続いて、第2ウェハ40を第1ウェハ30に積層して接合する(第1接合工程)。ここでは、第1ウェハ30の回路層22に、第2ウェハ40の回路層22を直接接合する。また、このとき、第1ウェハ30の機能素子23のそれぞれと第2ウェハ40の機能素子23のそれぞれとが、表面21s及び裏面21rに交差する第3方向D3に沿って互いに対応するようにする。すなわち、第1ウェハ30の機能素子23のそれぞれと第2ウェハ40の機能素子23のそれぞれとが、第3方向D3に沿って並ぶようにする(換言すれば、第3方向D3に沿って互いに対向するようにする)。なお、直接接合の一例としては、常温接合等が挙げられる。
続いて、図12の(a)に示されるように、第2ウェハ40の半導体基板21を研削する(研削工程)。ここでは、裏面21r側から半導体基板21を研削し、半導体基板21(すなわち第2ウェハ40)を薄化する。ここでは、例えば半導体基板21の厚さが3μm以上13μm以下程度となるように(一例として回路層22の厚さと同程度となるように)、半導体基板21を研削する。これにより、第2ウェハ40の全体の厚さを、例えば6μm以上26μm以下程度とする。この研削により形成される新たな裏面21rは、直接接合が可能な程度の平面度とされる(一例として鏡面化される)。
続いて、図12の(b)に示されるように、半導体ウェハ20Aとして、第3ウェハ50を用意する(第2接合工程)。続いて、第3ウェハ50を第2ウェハ40に接合する(第2接合工程)。ここでは、第2ウェハ40の半導体基板21に、第3ウェハ50の回路層22を直接接合する。また、このとき、第2ウェハ40の機能素子23のそれぞれと第3ウェハ50の機能素子23のそれぞれとが、第3方向D3に沿って互いに対応するようにする。
続いて、図13の(a)に示されるように、第3ウェハ50の半導体基板21を、その裏面21r側から研削し、半導体基板21(すなわち第3ウェハ50)を薄化する。ここでは、第2ウェハ40の場合と同様に、例えば半導体基板21の厚さが3μm以上13μm以下程度となるように(一例として回路層22の厚さと同程度となるように)、半導体基板21を研削する。これにより、第3ウェハ50の全体の厚さを、例えば6μm以上26μm以下程度とする。この研削により形成される新たな裏面21rは、直接接合が可能な程度の平面度とされる(一例として鏡面化される)。
その後、図13の(b)に示されるように、第2接合工程と同様に、複数(例えば7つ)の半導体ウェハ20Aを順次積層、接合、及び研削し、積層体10を構成する。これにより、例えば、ドライバICとしての機能素子23を含む1つの半導体ウェハ20A(第1ウェハ30)と、半導体メモリとしての機能素子23を含む複数(ここでは9つ)の半導体ウェハ20B(第2ウェハ40、第3ウェハ50、及び、それ以降のウェハ)と、が積層され、複数(ここでは10個)の半導体ウェハ20からなる積層体10が得られる。
図13の(b)においては、後のレーザ光照射工程に備えて、上記のように得られた積層体10を反転した状態において保持具Hにより保持している。すなわち、ここでは、積層体10の他端10bが保持具H側に向けられると共に、一端10aを含む第1ウェハ30が最も保持具Hと反対側に望み、その半導体基板21の裏面21rが露出されている。なお、以降の工程の説明においては、積層体10の積層構造を省略し、アクティブ領域11と切断領域12とを代表的に図示する。
引き続いて、積層体10にレーザ光Lを照射することにより、積層体10に改質領域7及び亀裂9を形成するレーザ光照射工程を行う。すなわち、図14に示されるように、第1ウェハ30の半導体基板21に対して、機能素子23の間を通るように設定された切断予定ライン5a,5bに沿ってレーザ光Lを照射することにより、切断予定ライン5a,5bに沿って改質領域7を形成すると共に、積層体10の積層方向(第3方向D3)に沿って改質領域7から亀裂9を伸展させる。この工程について、より具体的に説明する。
この工程では、まず、図14の(a)に示されるように、第1ウェハ30の半導体基板21の裏面21rをレーザ光入射面としつつ、第1ウェハ30の半導体基板21の内部にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。その状態において、レーザ光Lを照射しながらレーザ光の集光点Pを切断予定ライン5a,5bのそれぞれに沿って相対移動させる(スキャンする)。これにより、第1ウェハ30の半導体基板21の内部に、改質領域7としての第1改質領域71が切断予定ライン5a,5bに沿って形成される。これと共に、第1改質領域71から生じた亀裂9が第3方向D3に沿って部分的に伸展する。
続いて、図14の(b)に示されるように、第1ウェハ30の半導体基板21の裏面21rをレーザ光入射面としつつ、第1ウェハ30の半導体基板21の内部にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。このとき、集光点Pの位置を、第1改質領域71を形成するときの集光点Pの位置よりも裏面21r側(レーザ光入射面側)とする。その状態において、レーザ光Lを照射しながらレーザ光Lの集光点Pを切断予定ライン5a,5bのそれぞれに沿って相対移動させる(スキャンする)。
これにより、第1ウェハ30の半導体基板21の内部に、改質領域7としての第2改質領域72が切断予定ライン5a,5bに沿って形成される。ここでは、第2改質領域72は、集光点Pの位置の違いに対応して、第1改質領域71と裏面21rとの間に形成される。第2改質領域72の形成により、第3方向D3に沿って亀裂9をさらに伸展させ、亀裂9が積層体10の両端(一端10a及び他端10b)に至るようにする(すなわち、所謂フルカットの状態とする)。このときのレーザ光Lの照射条件については、後に詳述する。
このように、ここでは、積層体10における積層方向(第3方向D3)の両端に亀裂9が至るように改質領域7を形成する。すなわち、レーザ光照射工程においては、第1ウェハ30の半導体基板21に対して、裏面21r側からレーザ光Lを照射して改質領域7としての第1改質領域71を形成する(第1レーザ光照射工程)。そして、第1ウェハ30の半導体基板21に対して、裏面21r側からレーザ光Lを照射して第1改質領域71と裏面21rとの間に改質領域7としての第2改質領域72を形成することにより、積層体10の両端に至るように亀裂9を伸展させる(第2レーザ光照射工程)。
続いて、図15の(a)に示されるように、第1ウェハ30の半導体基板21を裏面21r側から研削することにより、改質領域7(第1改質領域71及び第2改質領域72)を除去する(改質領域除去工程)。ここでは、例えば半導体基板21の厚さが200μm程度となるように、半導体基板21を研削する。第1ウェハ30の半導体基板21の厚さを他の半導体基板21よりも厚く残すのは、第1ウェハ30の半導体基板21が積層型素子15においてサポート基板となるためである。
その後、図15の(b)に示されるように、積層体10をエキスパンドテープ等の拡張可能な支持部材Sにより支持した状態とする。このとき、第1ウェハ30の半導体基板21の裏面21rを支持部材S側に配置する。その状態において、支持部材Sを拡張することにより積層体10に対して亀裂9が開く方向に応力を印加し、切断予定ライン5a,5bに沿って積層体10を切断する(切断工程)。これにより、積層体10からアクティブ領域11が切り出され、複数の積層型素子15が得られる。そして、各切断予定ライン5a,5bに沿って積層体10が切断されることにより得られた複数の積層型素子15を互いに離間させ、各積層型素子15をピックアップする(ピックアップ工程)。
以上説明したように、第1実施形態に係る積層型素子15の製造方法においては、半導体ウェハ20の積層体10の構成に際して、半導体ウェハ20の半導体基板を研削して薄化する研削工程を実施する。これにより、薄化された積層体10を得ることができる。上述したように、このような積層体10の切断にブレードダイシングを利用すると、チッピングにより歩留まりの低下が顕著となる。これに対して、この方法にあっては、半導体ウェハ20の半導体基板21に対して、切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを照射することにより、改質領域7を形成すると共に改質領域7から積層方向に亀裂9を伸展させる。これにより、半導体ウェハ20の接合界面でのチッピングを抑制しつつ積層体10を切断することができる。よって、この方法によれば、積層型素子15の薄化及び歩留まりの向上の両立が可能となる。
また、第1実施形態に係る積層型素子15の製造方法は、レーザ光照射工程の後に、改質領域7が形成された半導体基板21を研削することにより、改質領域7を除去する改質領域除去工程をさらに備えている。このため、抗折強度が向上する。さらに、本実施形態に係る積層型素子15の製造方法は、レーザ光照射工程及び改質領域除去工程の後に、積層体10に応力を印加することにより、切断予定ライン5に沿って積層体10を切断する切断工程をさらに備えるので、積層体10を確実に切断できる。
ここで、第1実施形態に係る積層型素子15の製造方法においては、レーザ光照射工程において、積層体10における積層方向の両端(一端10a及び他端10b)に亀裂9が至るように(すなわち、積層体10のフルカットを生じさせように)改質領域7を形成する。そのために、レーザ光照射工程は、半導体基板21に対して、裏面21r側からレーザ光Lを照射して改質領域7としての第1改質領域71を形成する第1レーザ光照射工程と、半導体基板21に対して、裏面21r側からレーザ光Lを照射して第1改質領域71と裏面21rとの間に改質領域7としての第2改質領域72を形成することにより、積層体10の両端に至るように亀裂9を伸展させる第2レーザ光照射工程と、を有している。
この点について詳細に説明する。図14に示されるレーザ光照射工程においては、積層体10にフルカットを生じさせるためのレーザ光Lの照射条件を制御することができる。ここでは、半導体基板21がシリコンからなる場合について説明する。積層体10にフルカットを生じさせるためには、まず、半導体基板21におけるレーザ光入射面である裏面21rの反対の表面21sから第1改質領域71の表面21s側の端部の距離(以下、「下端距離BL」という)を、ある程度大きくした状態において、尚且つ、第2改質領域72を形成したときに第1改質領域71から表面21s側に延びる亀裂9(初亀裂)が、表面21sに至るようにする。
ここでは、一例として、厚さが775μmの半導体基板21に対して下端距離BLを200μm以上とした状態において、初亀裂が表面21sに至るようにする。これにより、200μm以上伸展して表面21sに至った初亀裂の影響により、亀裂9が積層体10の端部までさらに伸展し、フルカットが生じる。そのためには、レーザ光Lの波長を1170nm以上1800nm以下の範囲とすることができる。
レーザ光Lの波長が1170nm以上であれば、ノンドープ且つ欠陥無しの理想的なシリコンにおいて、レーザ光Lの内部透過率が理論上100%となる。一方、レーザ光Lの波長が1800nm以下であれば、半導体基板21において確実に2光子吸収を生じさせて改質領域7を形成可能である。さらに、レーザ光Lのパルス幅を350nsec以上とし、パルスエネギーを25μJ以上とし、パルスピッチを6.5μm以上45μm以下とすることにより、より確実にフルカットを生じさせ得る。
下端距離BLが200μm以上である第1改質領域71から延びる初亀裂が表面21sに至ったレーザ光Lの照射条件の例(すなわち、積層体10にフルカットを生じさせ得る条件の例)を示す。
[第1例]
レーザ光Lの波長:1500nm。
パルス幅:500nsec。
パルス周波数:40kH。
集光用レンズ105下の出力値:1.48w。
パルスエネルギー:37。0μJ。
パルスピッチ:15μm。
半導体基板21の厚さ:779μm。
第1改質領域71の表面21sからの距離(下端距離BL):262μm。
第2改質領域72の表面21sからの距離:370μm。
第1改質領域71の形成時の集光用レンズ105の移動距離Dz1:142μm。
第2改質領域72の形成時の集光用レンズ105の移動距離Dz2:112μm。
[第2例]
レーザ光Lの波長:1342nm。
パルス幅:350nsec。
パルス周波数:60kH。
集光用レンズ105下の出力値:2.60w。
パルスエネルギー:43.3μJ。
パルスピッチ:8.30μm。
半導体基板21の厚さ:625μm。
第1改質領域71の表面21sからの距離(下端距離BL):218μm。
第2改質領域72の表面21sからの距離:346μm。
第1改質領域71の形成時の集光用レンズ105の移動距離Dz1:92μm。
第2改質領域72の形成時の集光用レンズ105の移動距離Dz2:60μm。
なお、移動距離Dz1は、半導体基板21の裏面21r(レーザ光入射面)に集光点Pを形成するような集光用レンズ105の初期位置から、第1改質領域71を形成するための位置に集光点Pを形成するように集光用レンズ105を第3方向D3に沿って移動させた距離である(図14の(a)参照)。同様に、移動距離Dz2は、集光用レンズ105を、初期位置から第2改質領域72を形成するための位置に集光点を形成するように第3方向D3に沿って移動させた距離である(図14の(b)参照)。
以上のように積層体10にフルカットを生じさせることにより、積層体10を確実に切断可能として歩留まりをさらに向上可能である。また、積層体10の反りを抑制することができる。積層体10の反りを抑制することにより、上述したように、改質領域7を除去するように半導体基板21を研削することが可能となる。これにより、抗折強度が向上する。
ここで、上記の観点とは別の観点からも、下端距離BLを200μm以上とすることができる。すなわち、下端距離BLを小さくすると、半導体基板21のレーザ光入射面である裏面21rの反対の表面21s側への漏れ光によって、表面21s側にダメージが生じるおそれがある。このように、レーザ光入射面とは反対側の面に生じるダメージを「スプラッシュダメージ」と称する。図16は、下端距離とスプラッシュダメージとの関係を示す表である。図16の例では、半導体基板21のレーザ光入射面と反対側の端面(表面21s)にSn膜を形成してスプラッシュダメージを観察した。
図16の表の「ダメージ」の欄の「あり」及び「なし」は、レーザ光Lの集光点Pの直下の位置(切断予定ライン5に対応する位置)にダメージがあるか否かを示しており、「距離」の欄は、当該位置からスプラッシュダメージが生じた位置までの最大の距離である。図16に示されるように、下端距離BLが107μm以上では、集光点Pの直下の位置でのダメージが生じなくなる。一方、スプラッシュダメージが生じるか否かの下端距離BLの閾値は、189μmと220μmとの間に存在する。このように、スプラッシュダメージの低減の観点からも、下端距離BLを200μm以上とすることができる。これにより、デバイス特性の劣化を抑制できる。
[第2実施形態]
引き続いて、第2実施形態に係る積層型素子の製造方法の一例について説明する。この製造方法においては、半導体ウェハ20の積層体を構成する積層工程の前に、準備工程が行われる。すなわち、ここでは、まず、図17の(a)に示されるように、サポート基板60を用意する(準備工程)。サポート基板60は、ガラス基板又は半導体基板等の任意の基板である。サポート基板60は、例えば、研削前の半導体基板21の厚さと同程度の厚さ(例えば600μm以上800μm以下程度の厚さ)を有する。続いて、図17の(b)に示されるように、半導体ウェハ20Aとして、第1ウェハ70を用意する(準備工程)。続いて、第1ウェハ70の回路層22をサポート基板60の表面50aに接合する(準備工程)。この接合には、例えば樹脂接合を用いることができる。
続いて、図18の(a)に示されるように、第1ウェハ70の半導体基板21を研削する。ここでは、裏面21r側から半導体基板21を研削し、半導体基板21(すなわち第1ウェハ70)を薄化する。ここでは、例えば半導体基板21の厚さが3μm以上13μm以下程度となるように(一例として回路層22の厚さと同程度となるように)、半導体基板21を研削する。これにより、第1ウェハ70の全体の厚さを、例えば6μm以上26μm以下程度とする。この研削により形成される新たな裏面21rは、直接接合が可能な程度の平面度とされる(一例として鏡面化される)。
続いて、積層工程が行われる。すなわち、図18の(b)に示されるように、半導体ウェハ20Aとして、第2ウェハ80を用意する(第1接合工程)。これと共に、上述したように、サポート基板60に接合された第1ウェハ70を用意する(第1接合工程)。続いて、第2ウェハ80を第1ウェハ70に接合する(第1接合工程)。ここでは、第1ウェハ70の半導体基板21に、第2ウェハ80の回路層22を直接接合する。また、このとき、第1ウェハ70の機能素子23のそれぞれと第2ウェハ80の機能素子23のそれぞれとが、第3方向D3に沿って互いに対応するようにする。
続いて、図19の(a)に示されるように、第2ウェハ80の半導体基板21を研削する(研削工程)。ここでは、裏面21r側から半導体基板21を研削し、半導体基板21(すなわち第2ウェハ80)を薄化する。ここでは、第1ウェハ70の場合と同様に、例えば半導体基板21の厚さが3μm以上13μm以下程度となるように(一例として回路層22の厚さと同程度となるように)、半導体基板21を研削する。これにより、第2ウェハ80の全体の厚さを、例えば6μm以上26μm以下程度とする。この研削により形成される新たな裏面21rは、直接接合が可能な程度の平面度とされる(一例として鏡面化される)。
続いて、図19の(b)及び図20の(a)に示されるように、半導体ウェハ20Aとしての第2ウェハ80の積層、接合、及び、研削を、上記の第1接合工程及び研削工程と同様にして繰り返し行うことにより、サポート基板60上に積層された複数(ここでは9つ)の半導体ウェハ20Aを含む積層体を構成する。
続いて、図20の(b)に示されるように、半導体ウェハ20Bとして、第3ウェハ90を用意すると共に、第2ウェハ80の機能素子23のそれぞれと第3ウェハ90の機能素子23のそれぞれとが互いに対応するように、第2ウェハ80の半導体基板21に第3ウェハ90の回路層22を直接接合する(第2接合工程)。これにより、本実施形態に係る積層体10が得られる。ここでの積層体10は、第1実施形態に係る積層体10と比較して、半導体基板21と回路層22とが積層体10の全体にわたって交互に積層されている点で相違している。
その後、図14に示されるように、第1実施形態に係るレーザ光照射工程と同様に、積層体10にレーザ光Lを照射することにより、積層体10に改質領域7(第1改質領域71及び第2改質領域72)及び亀裂9を形成するレーザ光照射工程を行う。ただし、本実施形態においては、第3ウェハ90の半導体基板21に対して、機能素子23の間を通るように設定された切断予定ライン5a,5bに沿ってレーザ光Lを照射することにより、切断予定ライン5a,5bに沿って改質領域7を形成すると共に、積層体10の積層方向(第3方向D3)に沿って改質領域7から亀裂9を伸展させる。
ここでも、積層体10における積層方向の両端(一端10a及び他端10b)に亀裂9が至るように改質領域7を形成する。そして、図15に示されるように、第1実施形態に係る切断工程と同様に、亀裂9が開く方向に積層体10に応力を印加することにより、切断予定ライン5a,5bに沿って積層体10を切断する切断工程を行う。これにより、積層体10から複数の積層型素子15が切り出される。また、第1実施形態と同様に、ピックアップ工程を行う。なお、本実施形態に係る積層型素子の製造方法は、積層工程の後であってレーザ光照射工程の前、または、レーザ光照射工程の後に、積層体10からサポート基板60を除去するサポート基板除去工程をさらに備えてもよい。ただし、サポート基板除去工程は、切断工程の前に行われる。以上の第2実施形態に係る積層型素子の製造方法によっても、第1実施形態に係る効果と同様の効果を奏することが可能である。
以上の実施形態は、本発明に係る積層型素子の製造方法の一実施形態について説明したものである。したがって、本発明に係る積層型素子の製造方法は、上記の実施形態に限定されず、各請求項の要旨を変更しない範囲において、任意の変形が可能である。
例えば、半導体基板21において機能素子23に対応する部分(より詳細には、当該部分のうち、第2導電型領域21dに対して裏面21r側の領域)には、裏面21rに露出するようにゲッタリング領域4を形成してもよい。ゲッタリング領域は、半導体基板21の内部において、重金属等の不純物を集めて捕獲するゲッタリング効果を発揮する領域である。ゲッタリング領域は、レーザ光の照射によって半導体基板21が改質された領域(密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域)であり、例えば溶融処理領域である。ゲッタリング領域4は、機能素子23(より詳細には、メモリセル22a)に対向していれば、連続的に形成されていてもよいし、或いは、断続的に形成されていてもよい。
ゲッタリング領域を形成する場合には、レーザ光のパルス幅を、改質領域7を形成するためのレーザ光Lのパルス幅よりも短くすることができる。これにより、改質領域7よりもサイズが小さく且つ改質領域7よりも亀裂を発生させ難いゲッタリング領域を形成することができる。
ゲッタリング領域は、例えば次のような手順によって形成され得る。すなわち、図11の(b)に示されるように、第2ウェハ40を第1ウェハ30に積層して接合した後に、第2ウェハ40の半導体基板21の裏面21rをレーザ光入射面として半導体基板21にレーザ光を照射することによりゲッタリング領域を形成する。その後、図12の(a)に示されるように半導体基板21を研削することにより、ゲッタリング領域を残存させつつ半導体基板21を薄化する。このとき、ゲッタリング領域を裏面21rに露出させる。これにより、半導体基板21において機能素子23に対応する部分には、裏面21rに露出するようにゲッタリング領域が形成される。このようなゲッタリング形成工程を、各半導体ウェハ20の積層後であって研削前に行うことができる。
なお、上記実施形態において、2つの半導体ウェハ20の接合に際し、それぞれの機能素子23が互いに対応するように積層している。一方の半導体ウェハ20の各機能素子23と他方の半導体ウェハ20の各機能素子とが互いに対応するとは、1つのアクティブ領域11において、一方の半導体ウェハ20の少なくとも1つの機能素子23と、他方の半導体ウェハ20の少なくとも1つの機能素子23と、が所定の位置関係を有することを意味する。したがって、例えば、機能素子23のメモリセル22a同士が一対一に対応する場合に限定されず、一対多に対応する場合もある。また、メモリセル22a同士が一対一に対応する場合であっても、第3方向D3に沿って並ぶ場合に限らず、第1方向D1及び第2方向D2における位置が互いに異なる場合もある。
また、上記実施形態においては、回路層22を半導体基板21や別の回路層22に直接接合する一例について説明した。回路層22を直接接合する場合には、回路層22の表面に対して平坦化処理を施し得るが、この平坦化処理としては、回路層22の表面の絶縁膜等を平坦化処理する場合に加えて、回路層22の表面に樹脂等からなる平坦化膜を形成する場合等がある。すなわち、回路層22は、膜状の他の層が介在する状態において、半導体基板21や回路層22に接合される場合もある。したがって、回路層22の接合は、上記の直接接合の例に限定されない。