実施例1における旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置は、ドライバ操作によって運転走行する前輪駆動のマニュアル運転車両(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「姿勢制御ECUの制御ブロック構成」、「旋回姿勢制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例1の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置が適用されたマニュアル運転車両A1のシステム構成を示す。図1に基づいて全体システム構成を説明する。
マニュアル運転車両A1は、図1に示すように、駆動輪として左前輪61Lと右前輪61Rを備え、従動輪として左後輪62Lと右後輪62Rを備える前輪駆動車である。駆動輪である左前輪61Lと右前輪61Rへは、モータやエンジンなどによる走行用駆動源63及び変速機64からの駆動トルクが左ドライブシャフト65Lと右ドライブシャフト65Rを経由してそれぞれ入力される。
マニュアル運転車両A1の左前輪61Lと右前輪61Rは、図1に示すように、駆動輪であると共にドライバ操作に伴ってタイヤが転舵する転舵輪でもある。左前輪61Lと右前輪61Rへは、ドライバからステアリングホイール66へ操舵入力があると、ステアリング機構67を介して左右前輪61L,61Rへ転舵トルクが入力される。
左前輪61Lと右前輪61Rには、それぞれFL油圧ブレーキ68LとFR油圧ブレーキ68Rを有する。左後輪62Lと右後輪62Rには、それぞれRL油圧ブレーキ69LとRR油圧ブレーキ69Rを有する。これらの油圧ブレーキ68L,68R,69L,69Rは、各ブレーキ油圧を4輪独立にて制御するブレーキアクチュエータ70に接続されている。そして、電動オイルポンプやソレノイド減圧弁やソレノイド増圧弁などを有するブレーキアクチュエータ70の動作制御を行うコントローラとして、図1に示すように、姿勢制御ECU71を備えている。
姿勢制御ECU71は、RL車輪速センサ72、RR車輪速センサ73、操舵角センサ74、車体スリップ角センサ75、等から検出された情報を入力する。RL車輪速センサ72は、左後輪車輪速Vrlを検出する。RR車輪速センサ73は、右後輪車輪速Vrrを検出する。操舵角センサ74は、ステアリングホイール66の中立舵角位置からの操舵角δを検出する。車体スリップ角センサ75は、GPSなどにより実車体スリップ角βを検出する。なお、実施例1では、左後輪車輪速Vrlと右後輪車輪速Vrrの平均値による車輪速度を「車速V」の情報として用いている。
姿勢制御ECU71では、車両重心位置を通る車両前後方向の車体中心線と、車両重心位置を起点として引かれる瞬間的な車両進行方向とがなす角度である車体スリップ角の情報を用いて旋回姿勢制御を行う。即ち、カーブ走行でのコーナーであるか否かを判定し、車体スリップ角の規範モデルによる旋回特性を、コーナーイン旋回特性と定常旋回特性とコーナーアウト旋回特性とで変更する。カーブ走行中、旋回特性を変更した規範モデルを用いて目標車体スリップ角β*を算出し、実車体スリップ角βの情報を取得する。そして、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じた旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ70へ出力する。
[姿勢制御ECUの制御ブロック構成]
図2は、姿勢制御ECU71(コントローラ)の制御ブロック構成を示す。以下、図2に基づいて姿勢制御ECU71の制御ブロック構成を説明する。なお、前輪コーナリングパワー値を「前輪Cp値」といい、後輪コーナリングパワー値を「後輪Cp値」という。
姿勢制御ECU71は、図2に示すように、旋回G推定部711と、コーナーイン判定部712と、コーナーアウト判定部713と、RrCp減少補正部714と、FrCp減少補正部715と、RrCp増加補正部716と、を備えている。さらに、目標車体スリップ角算出部717と、実車体スリップ角情報取得部718と、ブレーキモーメント算出部719と、制御指令出力部720と、を備えている。
旋回G推定部711は、操舵角δと車速Vを入力し、これら入力情報と旋回Gの規範モデル1を用い、旋回するときに車両前後方向に直交する方向に作用する加速度である目標旋回Gを推定算出する。ここで、「規範モデル1」とは、旋回Gの規範モデルとして予め用意されているもので、操舵角δと車速Vを代入することで目標旋回Gを推定算出する運動方程式であらわされる。
コーナーイン判定部712は、旋回G推定部711により推定算出された目標旋回Gを入力し、目標旋回Gの変化量Δ|Gy|を算出し、目標旋回Gの変化量Δ|Gy|が増加する場合(Δ|Gy|>0)、カーブ走行でのコーナーイン領域と判定する。
コーナーアウト判定部713は、旋回G推定部711により推定算出された目標旋回Gを入力し、目標旋回Gの変化量Δ|Gy|を算出し、目標旋回Gの変化量Δ|Gy|が減少する場合(Δ|Gy|<0)、カーブ走行でのコーナーアウト領域と判定する。
RrCp減少補正部714は、コーナーイン判定部712からのコーナーイン領域判定フラグを入力すると、後述する車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値の減少補正量を算出する。このとき、目標旋回Gの単位時間当たりの増加量が大きいほど、後輪Cp値の減少補正量を大きな値にする。この後輪Cp値の減少補正により、コーナーイン判定領域でのコーナーインの旋回特性が、定常旋回特性よりも旋回内向きになるオーバーステア寄りの旋回特性に変更される。
ここで、「旋回内向きの特性」とは、規範モデル2のスタビリティファクタ値が定常値よりも小さい(又は負の方向に増加)方向に変化することであり、オーバーステア寄りの旋回特性となることである。なお、後輪Cp値の減少補正に代え、或いは、後輪Cp値の減少補正と共に、前輪Cp値の増加補正を行っても良く、何れの場合もオーバーステア寄りの旋回特性に変更される。
FrCp減少補正部715は、減少補正した後の後輪Cp値に基づいて限界車速Vcを計算する。そして、現在車速Vが限界車速Vcに近い、又は、限界車速Vcを超えていると、オーバーステア対策として、計算される限界車速Vcが現在車速Vより高くなるように前輪Cp値の減少補正量を算出する。
RrCp増加補正部716は、コーナーアウト判定部713からのコーナーアウト領域判定フラグを入力すると、後述する車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値の増加補正量を算出する。このとき、目標旋回Gの単位時間当たりの減少量が大きいほど、後輪Cp値の増加補正量を大きな値にする。この後輪Cp値の増加補正により、コーナーアウト判定領域でのコーナーアウト特性が、定常旋回特性よりも旋回外向きになるアンダーステア寄りの旋回特性に変更される。
ここで、「旋回外向きの特性」とは、規範モデル2のスタビリティファクタ値が定常値よりも大きい(又は正の方向に増加)方向に変化することであり、アンダーステア寄りの旋回特性となることである。なお、後輪Cp値の増加補正に代え、或いは、後輪Cp値の増加補正と共に、前輪Cp値の減少補正を行っても良く、何れの場合もアンダーステア寄りの旋回特性に変更される。
目標車体スリップ角算出部717は、車体スリップ角の規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した規範モデル2(=定常規範モデル)を予め用意しておく。そして、コーナーイン判定に基づいてRrCp減少補正部714から後輪Cp値の減少補正量が入力されると、規範モデル2による定常旋回特性を、後輪Cp値の減少補正によってオーバーステア寄りの旋回特性に変更する。一方、コーナーアウト判定に基づいてRrCp増加補正部716から後輪Cp値の増加補正量が入力されると、規範モデル2による定常旋回特性を、後輪Cp値の増加補正によってアンダーステア寄りの旋回特性に変更する。さらに、カーブ走行中、操舵角δと車速Vを入力し、これら入力情報と旋回特性を変更した規範モデル2を用いて目標車体スリップ角β*を算出する。但し、RrCp減少補正部714やFrCp減少補正部715やRrCp増加補正部716から前輪Cp値や後輪Cp値の補正量入力が無い場合は、カーブ走行中、旋回特性変更無しの規範モデル2を用いて目標車体スリップ角β*を算出する。
実車体スリップ角情報取得部718は、車体スリップ角センサ75からの検出値に基づいて実車体スリップ角βの情報を取得する。車体スリップ角センサ75では、例えば、GPSにより自車位置変化による自車の方角が認識されると、重心点を通る車体中心線と車両進行方向(=自車の方角)とのズレ角度により実車体スリップ角βを検出する。なお、実車体スリップ角βは、車体スリップ角速度β’を積分演算することによって取得しても良い。ここで、車体スリップ角速度β’は、
(車体スリップ角速度β’)=(ヨーレイトγ)-(横加速度Gy)/(車速V)
の式を用いて推定算出する。
ブレーキモーメント算出部719は、目標車体スリップ角算出部717からの目標車体スリップ角β*と、実車体スリップ角情報取得部718からの実車体スリップ角βとを入力する。そして、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じた車両重心点回りのブレーキモーメントを算出する。
制御指令出力部720は、ブレーキモーメント算出部719により算出した車両重心点回りのブレーキモーメントを入力する。そして、入力されるブレーキモーメントが得られる旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ70へ出力する。ここで、旋回姿勢制御指令とは、例えば、右転回する旋回姿勢制御を行う場合は、右前輪61Rと右後輪62Rのみにブレーキモーメントの大きさに応じたブレーキ油圧を供給し、重心点回りの車両右転回挙動を促すブレーキモーメントを与える。
[旋回姿勢制御処理構成]
図3は、姿勢制御ECU71(コントローラ)による旋回姿勢制御処理の流れを示す。以下、旋回姿勢制御処理構成をあらわす図3の各ステップについて説明する。
ステップS1では、スタートに続き、車輪速度V(=車速V)を検出する。ステップS2では、操舵角δを検出する。
ステップS3では、ステップS2での操舵角δの検出に続き、操舵角δと車速Vと旋回Gの規範モデル1とを用い、目標旋回Gを推定算出し、ステップS4へ進む。
ステップS4では、ステップS3での目標旋回Gの算出に続き、所定の単位時間で目標旋回Gが変化した目標旋回Gの変化量Δ|Gy|を算出し、ステップS5へ進む。
ステップS5では、ステップS4での目標旋回Gの変化量Δ|Gy|の算出に続き、変化量Δ|Gy|が、Δ|Gy|>0(増加)であるか否かを判断する。YES(Δ|Gy|>0)の場合はステップS6へ進み、NO(Δ|Gy|≦0)の場合はステップS13へ進む。
ステップS6では、ステップS5でのΔ|Gy|>0であるとの判断に続き、オーバーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値を減少補正し、ステップS7へ進む。
ここで、後輪Cp値の減少補正量は、図4の右側特性に示すように、目標旋回Gの単位時間当たりの増加側変化量Δ|Gy|が大きいほど、後輪Cp値の減少補正率を比例的に小さくする。このとき、強オーバーステアや車両姿勢の急変を予め避けるため、増加側変化量Δ|Gy|が増加側限界量Δ|+Gyo|を超えると、減少補正量をΔ|Gy|=0での後輪Cp補正率から-5%程度までに抑えて補正制限する。
なお、「車体スリップ角の規範モデル2」の一例を、図5に示す2自由度の簡単な車両モデルを用いて説明する。運動方程式は、車両質量をm、車速をV、車体スリップ角速度をβ’、ヨーレイトをγ、前輪タイヤから発生する横向きの力をFf、後輪タイヤから発生する横向きの力をFrとすると、
mV(β’+γ)=Ff+Fr …(1)
の式であらわされる。さらに、前輪タイヤのスリップ角をβf、後輪タイヤのスリップ角をβrとすると、
Ff=-2・Kf・βf Fr=-2・Kr・βr …(2)
の式であらわされる。この式(2)において、“比例定数Kf”が“前輪Cp値”であり、“比例定数Kr”が“後輪Cp値”である。
前輪タイヤスリップ角βfと後輪タイヤスリップ角βrは、車体スリップ角をβ、車速をV、操舵角をδ、重心点から前輪までの距離をlf、重心点から後輪までの距離をlrとすると、
βf=β+(lf/V)γ-δ βr=β-(lr/V)γ …(3)
の式であらわされる。そして、(1)式に(2),(3)の式を代入した運動方程式が、前輪Cp値(=Kf)と後輪Cp値(=Kr)を有し、操舵角δと車速Vを代入することで目標車体スリップ角β*が算出される「車体スリップ角の規範モデル2」になる。
ステップS7では、ステップS6での後輪Cp値の減少補正に続き、後輪Cp値の減少補正後のステア特性(=旋回特性)を計算し、ステップS8へ進む。
ここで、後輪Cp値の減少補正後のステア特性の計算は、図6に示すように、前輪実舵角と車速Vを用い、車速Vの上昇に対して旋回半径が一定になる、又は、車速Vの上昇に対して前輪実舵角が一定になるニュートラルステア特性(=NS特性)を基準とする。なお、前輪実舵角としては、操舵角センサ74により検出される操舵角δを用いる。
ステップS8では、ステップS7での後輪Cp減少補正後のステア特性の計算に続き、計算されたステア特性がオーバーステア特性(OS特性)であるか否かを判断する。YES(オーバーステア特性である)の場合はステップS9へ進み、NO(オーバーステア特性でない)の場合はステップS16へ進む。
ここで、「オーバーステア特性」とは、図6に示すように、車速Vの上昇に対して旋回半径が小さくなるステア特性、又は、車速Vの上昇に対して前輪実舵角が小さくなるステア特性をいう。
ステップS9では、ステップS8でのオーバーステア特性であるとの判断に続き、そのときの限界車速Vcを計算し、ステップS10へ進む。
ここで、「限界車速Vc」とは、図6に示すように、オーバーステア特性の車両において車速Vの増加と共に旋回半径が減少するとき、理論上、旋回半径がゼロとなる臨界速度をいう。この限界車速Vcは、図5に示すように、前輪コーナリングパワーCpf、補正後輪コーナリングパワーCpr*、車両質量m、重心点から前輪までの距離lf、重心点から後輪までの距離lr、前輪と後輪との距離lを用いた式により計算される。
ステップS10では、ステップS9での限界車速Vcの計算に続き、現在車速Vが限界車速Vcに近い、又は、現在車速Vが限界車速Vcを超えているか否かを判断する。YES(車速条件成立)の場合はステップS11へ進み、NO(車速条件不成立)の場合はステップS16へ進む。
ここで、現在車速Vが限界車速Vcに近いと判断するとき、限界車速閾値(限界車速Vc-α)を設定することができ、現在車速Vが限界車速閾値になると、現在車速Vが限界車速Vcに近いと判断する。なお、マージンαとしては、例えば、3km/h程度とする。
ステップS11では、ステップS10での車速条件成立であるとの判断に続き、現在車速Vが限界車速Vc未満となる前輪Cp値(=前輪補正Cp)を算出し、ステップS12へ進む。
ここで、前輪Cp値は、オーバーステア特性の車両において、限界車速Vcを超えると車両挙動が不安定になるため、現在車速V、又は、安全マージンを考慮した車速Vを限界車速Vcの式に代入した図5に示す前輪補正Cpの式により算出する。
ステップS12では、ステップS11での前輪Cp値の算出に続き、後輪Cp値が減少補正された規範モデル2の前輪Cp値を、オーバーステア対策としてステップS11で算出された前輪Cp値に減少補正し、ステップS16へ進む。
ステップS13では、ステップS5でのΔ|Gy|≦0であるとの判断に続き、変化量Δ|Gy|が、Δ|Gy|<0(減少)であるか否かを判断する。YES(Δ|Gy|<0)の場合はステップS14へ進み、NO(Δ|Gy|=0)の場合はステップS15へ進む。
ステップS14では、ステップS13でのΔ|Gy|<0であるとの判断に続き、アンダーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値を増加補正し、ステップS16へ進む。
ここで、後輪Cp値の増加補正量は、図4の左側特性に示すように、目標旋回Gの単位時間当たりの減少側変化量Δ|Gy|が大きいほど、後輪Cp値の増加補正率を比例的に大きくする。このとき、強アンダーステアや車両姿勢の急変を予め避けるため、減少側変化量Δ|Gy|が減少側限界量Δ|-Gyo|を超えると、増加補正量をΔ|Gy|=0での後輪Cp補正率から+5%程度までに抑えて補正制限する。
ステップS15では、ステップS13でのΔ|Gy|=0であるとの判断に続き、ニュートラルステア特性を維持するように、車体スリップ角の規範モデル2の前輪Cp値と後輪Cp値の補正量をゼロとし、ステップS16へ進む。
ステップS16では、S6又はS12又はS14又はS15のCp値の補正処理に続き、補正処理後の規範モデル2を用い、目標車体スリップ角β*を算出し、ステップS17へ進む。
ステップS17では、ステップS16での目標車体スリップ角β*の算出に続き、車体スリップ角センサ75により実車体スリップ角βを検出し、ステップS18へ進む。
ステップS18では、ステップS17での実車体スリップ角βの検出に続き、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントを算出し、ステップS19へ進む。
ステップS19では、ステップS18でのブレーキモーメントの算出に続き、算出したブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御を実行し、エンドへ進む。
次に、「背景技術と課題解決対策」を説明する。そして、実施例1の「旋回姿勢制御作用」を説明する。
[背景技術と課題解決対策]
旋回姿勢制御を行う背景技術としては、車体スリップ角やヨーレイトなどによる所定の規範モデルを持ち、規範モデルそのものについては旋回特性を変更することなく、車速や操舵角で旋回特性を変えるというものが知られている。
しかし、コーナーへの進入と脱出ではドライバの行きたい方向(=ステア特性)は変わる。これに対し、背景技術として知られている手法は、コーナーへの進入域とコーナーからの脱出域とで切り分け、ステア特性を変更する構成とはなっていないために対応できない、という課題があった。
このような背景技術に対し、例えば、定常旋回特性を最適化した車体スリップ角の規範モデルに対し、コーナー入口ではより内側に車両を向けるアシストをし、旋回姿勢として旋回回頭性を高めたいという要求がある。一方、コーナー出口では、逆に直進に向け外側に向けるアシストをし、旋回姿勢として旋回安定性を高めたいという要求がある。
そこで、本発明者は、カーブ走行中、コーナー入口側での要求旋回特性とコーナー出口側での要求旋回特性が異なることから、旋回姿勢を規定する車体スリップ角による規範モデルによる旋回特性そのものを変更する点に着目した。即ち、車両の旋回情報(操舵角δ、車速V)を検出する。旋回情報と、車体中心線と車両進行方向とがなす車体スリップ角βの規範モデル2とにより、目標車体スリップ角β*を算出し、目標車体スリップ角β*の情報を用いて旋回姿勢制御を行う姿勢制御ECU71による車両の旋回姿勢制御方法を以下の手順を有する方法としている。車両の旋回情報(目標旋回G)を検出する。旋回情報(目標旋回G)により、カーブ走行でのコーナーインであるか否かを判定する。コーナーインであると判定した場合は、所定のコーナーイン旋回特性(オーバーステア寄り特性)となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル2を変更する。一方、コーナーアウトであると判定した場合は、所定のコーナーアウト旋回特性(アンダーステア寄り特性)となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル2を変更する方法を採用した。よって、課題解決対策による車両の旋回姿勢制御方法では、下記の作用を示すことができる。
・ドライバの操舵角δからの転舵要求に基づいて、目標旋回Gが計算できるが、この目標旋回Gの変化量Δ|Gy|が増加傾向の場合、コーナー入口と判断できる。
・目標車体スリップ角β*を計算するための規範モデル2において、後輪Cp値を下げることで、オーバーステア寄りの旋回特性の目標挙動を算出することができる。
・上記目標旋回Gの変化量Δ|Gy|の増加度合いに応じて、後輪Cp値の下げ量を決定することで、ゆるいカーブの入り口では少しオーバーステア寄り、急なターンインではより強くオーバーステア寄りの目標車体スリップ角β*を算出できる。
・ただし、高車速域でのコーナー走行するとき、オーバーステア特性にすると旋回挙動を不安定にする場合がある。そこで、補正後の後輪Cp値で計算される限界車速Vcに現在車速Vが近づいたら、前輪Cpを下げる。この結果、限界車速Vcが上がるため、旋回挙動が不安定な状態に陥ることなく内向き姿勢を実現できる。
・目標車体スリップ角β*を計算するための規範モデル2において、後輪Cp値を上げることで、アンダーステア寄りの旋回特性の目標挙動を算出することができる。
・ドライバの操舵角δからの転舵要求から、目標旋回Gが計算できるが、この目標旋回Gの変化量Δ|Gy|が減少傾向の場合、コーナー出口と判断できる。
・上記目標旋回Gの変化量Δ|Gy|の減少度合いに応じて、後輪Cp値の上げ量を決定することで、ゆるいカーブの出口では少しアンダーステア寄り、急なターンアウトではより強くアンダーステア寄りの目標車体スリップ角β*を算出できる。
上記のように、カーブ走行中、コーナーインとコーナーアウトとで規範モデル2の旋回特性を変更することで適切な旋回姿勢を実現することができる。特に、実施例1のように、車体スリップ角の規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した規範モデル2を用意し、コーナーイン特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更し、コーナーアウト特性をアンダーステア寄りの旋回特性に変更する。そして、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差をブレーキモーメント制御で実行する場合には、コーナー走行シーンにおいて、コーナー入口側とコーナー出口側を含むコーナー全領域にて適切な旋回姿勢が実現される。以下、実施例1での旋回姿勢作用を図7に基づいて説明する。
まず、規範モデルの旋回特性を変更しない場合は、図7の破線に示すように、コーナーインでドライバによる切り込み操作が遅れると、旋回軌跡がコーナーの外側に膨らむ軌跡になる。そして、コーナーアウトでドライバによる切り戻し操作が遅れると、旋回軌跡がコーナーの内側に向く軌跡になる。
これに対し、規範モデルの旋回特性を変更する場合は、図7の実線に示すように、コーナーイン判定領域Bにおいて、規範モデル2がオーバーステア寄りの旋回特性に変更されることで、狙った旋回軌跡に沿った旋回姿勢になる。つまり、ドライバによる切り込み操作が遅れても、オーバーステア寄りの旋回特性への変更により、旋回軌跡がコーナーの外側に膨らむのが抑えられる。
そして、規範モデルの旋回特性を変更する場合は、図7の実線に示すように、コーナー中間判定領域Cにおいて、規範モデル2が定常旋回特性を最適化したモデルに復帰することで、狙った旋回軌跡に沿った旋回姿勢になる。
さらに、規範モデルの旋回特性を変更する場合は、図7の実線に示すように、コーナーアウト判定領域Dでアンダーステア寄りの旋回特性に変更されることで、狙った旋回軌跡に沿った旋回姿勢になる。つまり、ドライバによる切り戻し操作が遅れても、アンダーステア寄りの旋回特性への変更により、旋回軌跡がコーナーの内側に向くのが抑えられる。
さらに、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差をブレーキモーメント制御で実行している。このため、コーナー走行中、ドライバ操作による操舵角(Steering angle)の変化幅である操舵量を低減することができる。この点は、図8の矢印Eで示す規範モデル2の旋回特性を変更する場合の操舵角特性と図8の矢印Fで示す規範モデルの旋回特性を変更しない場合の操舵角特性の対比により裏付けられる。
加えて、コーナー走行中、車体スリップ角(Slip angle)の変化幅である車体スリップ角変化量が低減し、狙った走行軌跡への高い追従性を発揮することができる。この点は、図8の矢印Gで示す規範モデル2の旋回特性を変更する場合の車体スリップ角特性と図8の矢印Hで示す規範モデルの旋回特性を変更しない場合の車体スリップ角特性の対比により裏付けられる。
[旋回姿勢制御作用]
次に、図3のフローチャートに基づき、旋回姿勢制御処理作用を説明する。
まず、Δ|Gy|>0であり、後輪Cp補正後のステア特性がオーバーステア特性ではないときは、図3のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S16→S17→S18→S19→エンドへと進む流れが繰り返される。
よって、Δ|Gy|>0によりコーナーイン判定領域であるときは、S6において、オーバーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値が減少補正される。次のS16では補正後の規範モデル2により目標車体スリップ角β*が算出され、S17では実車体スリップ角βが検出され、S18では目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントが算出される。最後のS18では、算出されたブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御が実行される。
Δ|Gy|>0であり、後輪Cp補正後のステア特性がオーバーステア特性であるが、車速条件が不成立であるときは、図3のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S9→S10へと進む。そして、S10からS16→S17→S18→S19→エンドへと進む流れが繰り返される。
よって、コーナーイン判定領域であり、オーバーステア特性であるが車速条件が不成立であるときは、S6において、オーバーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値が減少補正される。そして、S16では補正後の規範モデル2により目標車体スリップ角β*が算出され、S17では実車体スリップ角βが検出され、S18では目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントが算出される。最後のS18では、算出されたブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御が実行される。
一方、Δ|Gy|>0であり、後輪Cp補正後のステア特性がオーバーステア特性であって車速条件が成立するときは、図3のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S9→S10→S11→S12へと進む。そして、S12からS16→S17→S18→S19→エンドへと進む流れが繰り返される。
よって、コーナーイン判定領域であり、オーバーステア特性であって車速条件が成立するときは、S6において、オーバーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値が減少補正される。加えて、S12において、オーバーステア対策として限界車速Vcを上げるように、車体スリップ角の規範モデル2の前輪Cp値が減少補正される。そして、S16では補正後の規範モデル2により目標車体スリップ角β*が算出され、S17では実車体スリップ角βが検出され、S18では目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントが算出される。最後のS18では、算出されたブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御が実行される。
Δ|Gy|<0であるときは、図3のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S13→S14→S16→S17→S18→S19→エンドへと進む流れが繰り返される。
よって、Δ|Gy|<0によりコーナーアウト判定領域であるときは、S14において、アンダーステア寄りの旋回特性にするように、車体スリップ角の規範モデル2の後輪Cp値が増加補正される。次のS16では補正後の規範モデル2により目標車体スリップ角β*が算出され、S17では実車体スリップ角βが検出され、S18では目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントが算出される。最後のS18では、算出されたブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御が実行される。
Δ|Gy|=0であるときは、図3のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S13→S15→S16→S17→S18→S19→エンドへと進む流れが繰り返される。
よって、Δ|Gy|=0によりコーナー中間判定領域であるときは、S15において、車体スリップ角の規範モデル2のコーナリングパワーが補正されない。次のS16では補正無しの規範モデル2(定常規範モデル)により目標車体スリップ角β*が算出され、S17では実車体スリップ角βが検出され、S18では目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差に応じたブレーキモーメントが算出される。最後のS18では、算出されたブレーキモーメントを得るブレーキモーメント制御が実行される。
このように、実施例1では、コーナーイン旋回特性を、定常旋回特性よりも旋回内向きになるオーバーステア寄りの旋回特性とする。よって、コーナーインでは、規範モデル2に対してより内側に車両を向けるアシストが行われる。このため、コーナー走行シーンにおいて、コーナー入口での旋回姿勢要求に合致した旋回回頭性が実現される。
実施例1では、車体スリップ角の規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した規範モデル2(定常規範モデル)を用意する。そして、コーナーイン特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更する際、規範モデル2をあらわす運動方程式に有する後輪Cp値の減少補正により行う。よって、車体スリップ角の規範モデルとして用意された規範モデル2の後輪Cp値の減少補正を行うだけで、オーバーステア寄りの旋回特性に変更される。このため、複数の規範モデルを用意する必要がなく、用意した1つの規範モデル2のCp値を補正するだけの簡単な構成により、コーナーインの旋回特性がオーバーステア寄りの特性に変更される。
実施例1では、旋回するときに車両前後方向に直交する方向に作用する加速度である旋回Gの情報を取得する。そして、カーブ走行において旋回Gが増加しているとコーナーインであると判定し、旋回Gの単位時間当たりの増加量が大きいほど、後輪Cp値の減少補正量を大きくする減少補正を行う。よって、旋回Gが増加するとコーナーインであると判定されるだけでなく、旋回Gの単位時間当たりの増加量(=旋回Gの増加速度)により後輪Cp値の減少補正量が算出される。このため、コーナーイン判定の入力情報と補正量算出の入力情報を分けることなく、一つの旋回Gの情報を取得するだけで、旋回Gの増加により精度良くコーナーインが判定されると共に、旋回Gの増加速度に応じた適切な後輪Cp値の減少補正量が算出される。
実施例1では、減少補正した後の後輪Cp値に基づいて限界車速Vcを計算する。そして、現在車速Vが限界車速Vcに近い、又は、限界車速Vcを超えていると、計算される限界車速Vcが現在車速Vより高くなるように前輪Cp値の減少補正を行う。即ち、コーナーインの旋回特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更する場合、高速でのカーブ走行において、車両挙動が不安定な状態に陥るおそれがある。これに対し、後輪Cp値の減少補正によりコーナーイン特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更したとき、車両挙動が不安定になるのが未然に防止される。
実施例1では、コーナーアウト旋回特性を、定常旋回特性よりも旋回外向きになるアンダーステア寄りの旋回特性にする。よって、コーナーアウトでは、規範モデル2に対してより外側に車両を向けるアシストが行われる。このため、コーナー走行シーンにおいて、コーナー出口での旋回姿勢要求に合致した旋回安定性が実現される。
実施例1では、車体スリップ角の規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した規範モデル2(定常規範モデル)を用意する。そして、コーナーアウト特性をアンダーステア寄りの旋回特性に変更する際、規範モデル2をあらわす運動方程式に有する後輪Cp値の増加補正により行う。よって、車体スリップ角の規範モデルとして用意された規範モデル2の後輪Cp値の増加補正を行うだけで、アンダーステア寄りの旋回特性に変更される。このため、複数の規範モデルを用意する必要がなく、用意した1つの規範モデル2のCp値を補正するだけの簡単な構成により、コーナーアウトの旋回特性がアンダーステア寄りの特性に変更される。
実施例1では、旋回するときに車両前後方向に直交する方向に作用する加速度である旋回Gの情報を取得する。そして、カーブ走行において旋回Gが減少しているとコーナーアウトであると判定し、旋回Gの単位時間当たりの減少量が大きいほど、後輪Cp値の増加補正量を大きくする増加補正を行う。よって、旋回Gが減少するとコーナーアウトであると判定されるだけでなく、旋回Gの単位時間当たりの減少量(=旋回Gの減少速度)により後輪Cp値の増加補正量が算出される。このため、コーナーアウト判定の入力情報と補正量算出の入力情報を分けることなく、一つの旋回Gの情報を取得するだけで、旋回Gの減少により精度良くコーナーアウトが判定されると共に、旋回Gの減少速度に応じた適切な後輪Cp値の増加補正量が算出される。
実施例1では、目標車体スリップ角β*が算出されると、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じて車両重心点回りのブレーキモーメントを算出する。そして、車両重心点回りのブレーキモーメントを得る旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ70へ出力する。よって、コーナー走行での車両重心点回りのモーメントが、舵角モーメントより制御応答速度が速いブレーキモーメントにより得られる。このため、規範モデル2の旋回特性の変更に対し、これを反映して応答良く旋回特性が所望の特性に変更される。
実施例1の制御が適用される車両は、ドライバ操舵によりカーブ走行するマニュアル運転車両A1である。このため、コーナー走行シーンにおいて、車両重心点回りのモーメントを得る旋回姿勢がブレーキモーメントにより分担され、ドライバ操作による操舵量が低減される。
以上説明したように、実施例1のマニュアル運転車両A1の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置にあっては、下記に列挙する効果を奏する。
(1) 車両の旋回情報(操舵角δ、車速V)を検出し、旋回情報と、車体中心線と車両進行方向とがなす車体スリップ角βの規範モデル(規範モデル2)とにより、目標車体スリップ角β*を算出し、目標車体スリップ角β*の情報を用いて旋回姿勢制御を行うコントローラ(姿勢制御ECU71)による車両の旋回姿勢制御方法において、
車両の旋回情報(目標旋回G)を検出し、
旋回情報(目標旋回G)により、カーブ走行でのコーナーインであるか否かを判定し、
コーナーインであると判定した場合は、所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル(規範モデル2)を変更する(図2)。
このため、カーブ走行中、コーナーインであると判定した場合、規範モデルの変更により所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*が算出されることで、カーブ走行中のコーナーインにおいて適切な旋回姿勢を実現する車両(マニュアル運転車両A1)の旋回姿勢制御方法を提供することができる。
(2) 所定のコーナーイン旋回特性を、定常旋回特性よりも旋回内向きになるオーバーステア寄りの旋回特性とする(図7)。
このため、コーナー走行シーンにおいて、コーナー入口での旋回姿勢要求に合致した旋回回頭性を実現することができる。
(3) 車体スリップ角βの規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した定常規範モデル(規範モデル2)を用意し、
所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように定常規範モデル(規範モデル2)を変更する際、定常規範モデル(規範モデル2)をあらわす運動方程式に有する後輪コーナリングパワー値の減少補正を行う(図3)。
このため、複数の規範モデルを用意する必要がなく、用意した1つの定常規範モデル(規範モデル2)の後輪コーナリングパワー値を補正するだけの簡単な構成により、コーナーイン旋回特性をオーバーステア寄りの特性に変更することができる。
(4) 車体スリップ角βの規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した定常規範モデル(規範モデル2)を用意し、
所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように定常規範モデル(規範モデル2)を変更する際、定常規範モデル(規範モデル2)をあらわす運動方程式に有する後輪コーナリングパワー値の減少補正と前輪コーナリングパワー値の増加補正との少なくとも一方の補正により行う(図3)。
このため、複数の規範モデルを用意する必要がなく、用意した1つの定常規範モデル(規範モデル2)の2つのコーナリングパワー値の少なくとも一方を補正するだけの簡単な構成により、コーナーイン旋回特性をオーバーステア寄りの特性に変更することができる。
(5) 旋回するときに車両前後方向に直交する方向に作用する加速度である旋回Gの情報を取得し、
カーブ走行において旋回Gが増加しているとコーナーインであると判定し、
旋回Gの単位時間当たりの増加量が大きいほど、後輪コーナリングパワー値の減少補正量を大きくする減少補正を行う(図4)。
このため、入力情報を分けることなく、一つの旋回Gの情報を取得するだけで、旋回Gの増加により精度良くコーナーインを判定することができると共に、旋回Gの増加速度に応じた適切な後輪コーナリングパワー値の減少補正量を算出することができる。
(6) 減少補正した後の後輪コーナリングパワー値に基づいて限界車速Vcを計算し、
現在車速Vが限界車速Vcに近い、又は、限界車速Vcを超えていると、前輪コーナリングパワー値の減少補正を行う(図6)。
このため、後輪Cp値の減少補正によりコーナーイン特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更したとき、車両挙動が不安定になるのを未然に防止することができる。
(7) 車両の旋回情報(操舵角δ、車速V)を検出し、旋回情報と、車体中心線と車両進行方向とがなす車体スリップ角βの規範モデル(規範モデル2)とにより、目標車体スリップ角β*を算出し、目標車体スリップ角β*の情報を用いて旋回姿勢制御を行うコントローラ(姿勢制御ECU71)による車両の旋回姿勢制御方法において、
車両の旋回情報(目標旋回G)を検出し、
旋回情報(目標旋回G)により、カーブ走行でのコーナーアウトであるか否かを判定し、
コーナーアウトであると判定した場合は、所定のコーナーアウト旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル(規範モデル2)を変更する(図2)。
このため、カーブ走行中、コーナーアウトであると判定した場合、規範モデルの変更により所定のコーナーアウト旋回特性となる目標車体スリップ角β*が算出されることで、カーブ走行中のコーナーアウトにおいて適切な旋回姿勢を実現する車両(マニュアル運転車両A1)の旋回姿勢制御方法を提供することができる。
(8) 所定のコーナーアウト旋回特性を、定常旋回特性よりも旋回外向きになるアンダーステア寄りの旋回特性とする(図7)。
このため、コーナー走行シーンにおいて、コーナー出口での旋回姿勢要求に合致した旋回安定性を実現することができる。
(9) 車体スリップ角βの規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した定常規範モデル(規範モデル2)を用意し、
所定のコーナーアウト旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように定常規範モデル(規範モデル2)を変更する際、定常規範モデル(規範モデル2)をあらわす運動方程式に有する後輪コーナリングパワー値の増加補正と前輪コーナリングパワー値の減少補正との少なくとも一方の補正により行う(図3)。
このため、複数の規範モデルを用意する必要がなく、用意した1つの定常規範モデル(規範モデル2)の2つのコーナリングパワー値の少なくとも一方を補正するだけの簡単な構成により、コーナーアウト旋回特性をアンダーステア寄りの特性に変更することができる。
(10) 旋回するときに車両前後方向に直交する方向に作用する加速度である旋回Gの情報を取得し、
カーブ走行において前記旋回Gが減少しているとコーナーアウトであると判定し、
旋回Gの単位時間当たりの減少量が大きいほど、後輪コーナリングパワー値の増加補正量、もしくは、前輪コーナリングパワー値の減少補正量を大きくする補正を行う(図4)。
このため、入力情報を分けることなく、一つの旋回Gの情報を取得するだけで、旋回Gの増加により精度良くコーナーアウトを判定することができると共に、旋回Gの減少速度に応じた適切なコーナリングパワー値の補正量を算出することができる。
(11) 目標車体スリップ角β*が算出されると、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じて車両重心点回りのブレーキモーメントを算出し、
車両重心点回りのブレーキモーメントを得る旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ70へ出力する(図3)。
このため、規範モデルの旋回特性の変更に対し、これを反映して応答良く旋回特性を所望の特性に変更することができる。
(12) 車両は、ドライバ操舵によりカーブ走行するマニュアル運転車両A1である(図1)。
このため、コーナー走行シーンにおいて、車両重心点回りのモーメントを得る旋回姿勢がブレーキモーメントにより分担され、ドライバ操作による操舵量を低減することができる。
(13) 車両の旋回情報(操舵角δ、車速V)を検出し、旋回情報と、車体中心線と車両進行方向とがなす車体スリップ角βの規範モデル(規範モデル2)とにより、目標車体スリップ角β*を算出し、目標車体スリップ角β*の情報を用いて旋回姿勢制御を行うコントローラ(姿勢制御ECU71)を備える車両の旋回姿勢制御装置において、
コントローラ(姿勢制御ECU71)は、
車両の旋回情報(目標旋回G)を検出する旋回情報検出部(旋回G推定部711)と、
旋回情報(目標旋回G)により、カーブ走行でのコーナーインであるか否かを判定するコーナーイン判定部711と、
コーナーインであると判定した場合は、所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル(規範モデル2)を変更する旋回特性変更部(RrCp減少補正部714)と、を有する(図2)。
このため、カーブ走行中、コーナーインであると判定した場合、規範モデルの変更により所定のコーナーイン旋回特性となる目標車体スリップ角β*が算出されることで、カーブ走行中のコーナーインにおいて適切な旋回姿勢を実現する車両(マニュアル運転車両A1)の旋回姿勢制御装置を提供することができる。
(14) 車両の旋回情報(操舵角δ、車速V)を検出し、旋回情報と、車体中心線と車両進行方向とがなす車体スリップ角βの規範モデル(規範モデル2)とにより、目標車体スリップ角β*を算出し、目標車体スリップ角β*の情報を用いて旋回姿勢制御を行うコントローラ(姿勢制御ECU71)を備える車両の旋回姿勢制御装置において、
コントローラ(姿勢制御ECU71)は、
車両の旋回情報(目標旋回G)を検出する旋回情報検出部(旋回G推定部711)と、
旋回情報(目標旋回G)により、カーブ走行でのコーナーアウトであるか否かを判定するコーナーアウト判定部713と、
コーナーアウトであると判定した場合は、所定のコーナーアウト旋回特性となる目標車体スリップ角β*を算出するように、規範モデル(規範モデル2)を変更する旋回特性変更部(RrCp増加補正部716)と、を有する(図2)。
このため、カーブ走行中、コーナーアウトであると判定した場合、規範モデルの変更により所定のコーナーアウト旋回特性となる目標車体スリップ角β*が算出されることで、カーブ走行中のコーナーアウトにおいて適切な旋回姿勢を実現する車両(マニュアル運転車両A1)の旋回姿勢制御装置を提供することができる。
実施例2は、本発明の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置を、自動運転車両に適用した例である。
実施例2における旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置は、自動運転モードを選択すると目標軌跡が生成され、生成された目標軌跡に沿って走行するように速度及び舵角による車両運動が制御される自動運転車両(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動運転コントローラの制御ブロック構成」、「車両運動コントローラの制御ブロック構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図9は、実施例2の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置が適用された自動運転車両A2のシステム構成を示す。図9に基づいて全体システム構成を説明する。
自動運転車両A2は、図9に示すように、車載センサ1と、ナビゲーション装置2と、車載制御ユニット3と、アクチュエータ4と、HMIモジュール5と、を備えている。
車載センサ1は、自車周辺の物体や道路形状等の周辺環境、自車の状態等を認識するために自車に搭載された各種のセンサである。この車載センサ1は、外部センサ11、GPS受信機12、内部センサ13を有する。なお、車載センサ1では、複数の異なるセンサを用いて必要な情報を取得するセンサフュージョンを行ってもよい。
外部センサ11は、自車周辺の環境情報を検出する検出機器である。この外部センサ11は、カメラ、レーダー(Radar)、ライダー(LIDER:Laser Imaging Detection and Rangin)等から構成される。なお、カメラ、レーダー及びライダーは、必ずしも重複して備える必要はない。
カメラは、画像データを取得するための撮像機器である。このカメラは、例えば、前方認識カメラ、後方認識カメラ、右方認識カメラ、左方認識カメラ等を組み合わせることにより構成され、撮影した画像や映像の解析を人工知能や画像処理用プロセッサを用いてリアルタイムで行う。これにより、カメラでは、自車走行路上物体・車線・自車走行路外物体(道路構造物、先行車、後続車、対向車、周囲車両、歩行者、自転車、二輪車)・自車走行路(道路白線、道路境界、停止線、横断歩道)・道路標識(制限速度)等を検知できる。なお、単眼カメラでは一般的に対象物までの距離の計測はできないが、複眼カメラを用いて異なる視点から同時に撮影を行うことによって、対象物までの距離を計測することも可能となる。
レーダーは、反射信号を利用して距離データを取得する装置である。ここで、「レーダー」とは、電波を用いたレーダーと、超音波を用いたソナーと、を含む総称であり、例えば、レーザーレーダー、ミリ波レーダー、超音波レーダー、レーザーレンジファインダー等を用いることができる。また、ライダーは、光を利用して距離データを取得する装置である。
レーダーやライダーは、自車の周囲に電波等の信号や光を送信し、対象物で反射された電波等の信号や光を受信することで、反射点である対象物までの距離や方向を検出する。これにより、レーダーやライダーでは、自車走行路上物体・自車走行路外物体(道路構造物、先行車、後続車、対向車、周囲車両、歩行者、自転車、二輪車)等の位置を検知できると共に、各物体までの距離を検知できる。
GPS受信機12は、3個以上のGPS衛星から信号を受信して、自車の位置を示す位置データを取得するための装置である。このGPS受信機12は、GNSSアンテナ12aを有し、自車位置の緯度及び経度を検出する。
なお、「GNSS」は「Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム」の略称であり、「GPS」は「Global Positioning System:グローバル・ポジショニング・システム」の略称である。また、GPS受信機12による信号受信が不良のときには、内部センサ13やオドメーター(車両移動量計測装置)を利用してGPS受信機12の機能を補完してもよい。
内部センサ13は、自車の速度・加速度・姿勢データ等の自車情報を検出する検出機器である。この内部センサ13は、例えば、6軸慣性センサ(IMU:Inertial Measurement Unit)を有し、自車の移動方向、向き、回転を検出することができる。さらに、内部センサ13の検出結果に基づいて移動距離や移動速度などを算出できる。6軸慣性センサは、前後、左右、上下の三方向の加速度を検出できる加速度センサと、この三方向の回転の速さを検出できるジャイロセンサを組み合わせることで実現される。なお、内部センサ13には、車輪速センサやヨーレイトセンサやアクセル操作量センサ、等の必要なセンサを含むことができる。
さらに、この車載センサ1では、不図示の外部データ通信器との間で無線通信を行うことで、必要な情報を外部から取得してもよい。即ち、外部データ通信器が、例えば、他車に搭載されたデータ通信器の場合、自車と他車の間で車車間通信を行う。この車車間通信により、他車が保有する様々な情報から必要な情報を取得することができる。また、外部データ通信器が、例えば、インフラ設備に設けられたデータ通信器の場合、自車とインフラ設備の間でインフラ通信を行う。このインフラ通信により、インフラ設備が保有する様々な情報から必要な情報を取得することができる。この結果、例えば、自動運転コントローラ31が有する地図データでは不足する情報や変更された情報がある場合に必要な地図データを補うことができる。また、自車が走行を予定している経路上での渋滞情報や走行規制情報等の交通情報を取得することもできる。
ナビゲーション装置2は、地図データや施設情報のデータを内蔵し、目的地までの経路を案内する装置である。このナビゲーション装置2では、目的地が入力されると、自車の現在地(或いは任意に設定された出発地)から目的地までの案内経路が生成される。生成された案内経路の情報は、地図データと合成されてHMIモジュール5のディスプレイパネルに表示される。尚、目的地は、車両の乗員が車内で設定したものを用いてもよく、もしくはユーザーの端末(例えば、携帯電話、スマートフォン)によりユーザーが設定した目的地を、無線通信を介して車両で受信し、受信した目的地を用いてもよい。また案内経路は、車両に備わるコントローラを用いたナビゲーション装置によりで算出してもよく、もしくは車外のコントローラを用いたナビゲーション装置により算出するようにしてもよい。
車載制御ユニット3は、CPUやメモリを備えており、車載センサ1によって検出された各種の検出情報や、ナビゲーション装置2によって生成された案内経路情報、必要に応じて適宜入力されるドライバ入力情報を統合処理する。そして、この車載制御ユニット3は、階層処理により車両運動を制御するコントローラである。なお、「階層処理」とは、入力情報に対して複数の処理を順に(階層的に)実行して最終的な出力情報を演算することであり、上位階層の処理にて出力された出力値(演算値)が下位階層の処理での入力値となる関係になる。
この車載制御ユニット3は、車両運動を制御するための制御指令値を演算する自動運転コントローラ31と、車両運動コントローラ32と、を有している。ここで、第1制御周期(例えば、70msec程度)にて演算を行う自動運転コントローラ31によって上位階層の処理を行い、第1制御周期よりも短い第2制御周期(例えば、10msec程度)にて演算を行う車両運動コントローラ32によって下位階層の処理を行う。
自動運転コントローラ31では、車載センサ1やナビゲーション装置2からの入力情報や高精度地図データ等に基づき、目標車速プロファイルや目標軌跡を多段の階層処理により生成する。ここで、「目標軌跡」とは、自車を自動運転走行させる際の目標となる軌跡であり、例えば、車両が位置する車線の中での走行するための軌跡や、車両周囲の走行可能領域を算出し、走行可能領域の中での走行するための軌跡や、障害物回避のための緊急操舵時の軌跡などを含む。生成された目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報は車両運動コントローラ32に出力される。生成された目標軌跡の情報は、高精度地図データと合成されてHMIモジュール5のディスプレイパネルに表示されるようにしてもよい。
車両運動コントローラ32では、目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報やドライバによる入力情報(以下、「ドライバ入力」という)に基づいて、自車を走行させるための制御指令値を多段の階層処理により演算する。演算された制御指令値はアクチュエータ4に出力される。なお、車両運動コントローラ32では、ドライバ入力の有無によって走行モードを調停し、調停結果に応じた制御指令値を演算する。例えば、自動運転モードの選択中でドライバ入力が無い場合は、目標軌跡に沿って自車を自動運転走行させる制御指令値を出力する。一方、自動運転走行中にドライバ入力が介入した場合やマニュアル運転モードを選択した場合は、ドライバ入力を目標にして自車を走行させる制御指令値を出力する。
アクチュエータ4は、車両を走行又は停止させるための制御アクチュエータであり、速度制御アクチュエータ41と、操舵制御アクチュエータ42と、ブレーキアクチュエータ43と、を有する。なお、走行とは、車両の加速走行/定速走行/減速走行をいう。
速度制御アクチュエータ41は、車載制御ユニット3から入力された速度制御指令値に基づいて駆動輪へ出力する駆動トルク又は制動トルクを制御する。速度制御アクチュエータ41としては、例えば、エンジン車の場合にエンジンを用い、ハイブリッド車の場合にエンジンとモータ/ジェネレータを用い、電気自動車の場合にモータ/ジェネレータを用いる。
操舵制御アクチュエータ42は、車載制御ユニット3から入力された操舵制御指令値に基づいて操舵輪の転舵角を制御する。なお、操舵制御アクチュエータ42としては、ステアリングシステムの操舵力伝達系に設けられる操舵モータ等を用いる。
ブレーキアクチュエータ43は、車載制御ユニット3から入力された停止指令値に基づいて制動トルクを付与すると共に、車載制御ユニット3から入力されたブレーキモーメント指令値に基づいて4輪独立に制動トルクを制御するアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ43としては、例えば、ブレーキ油圧アクチュエータやブレーキモータアクチュエータ等を用いる。
HMIモジュール5は、車両の乗員(ドライバを含む)と車載制御ユニット3との間で情報の出力及び入力をするためのインターフェイスである。HMIモジュール5は、例えば、ステアリング、アクセル、ブレーキ、乗員に画像情報を表示するためのディスプレイパネル、音声出力のためのスピーカ、乗員が入力操作を行うための操作ボタンやタッチパネル等から構成される。
[自動運転コントローラの制御ブロック構成]
自動運転コントローラ31は、図2に示すように、高精度地図データ記憶部311と、自己位置推定部312と、周辺環境認識部313と、走行環境認識部314と、を備えている。そして、目標軌跡を生成する階層処理部として、走行車線演算部316と、動作決定部317と、走行領域設定部318と、目標軌跡生成部319と、を備えている。
高精度地図データ記憶部311は、車外に存在する静止物体の三次元の位置情報(経度、緯度、高さ)が設定された高精度三次元地図データ(以下、「HDマップ」という)が格納された車載メモリである。静止物体には、例えば、横断歩道、停止線、各種標識、分岐点、道路標示、信号機、電柱、建物、看板、車道やレーンの中心線、区画線、路肩線、道路と道路のつながり等さまざまな要素が含まれる。
自己位置推定部312は、入力情報に基づいて自車の現在地(自己位置)を推定する。ここで、自己位置推定部312には、車載センサ1からのセンサ情報と、高精度地図データ記憶部311からのHDマップ情報等が入力される。そして、この自己位置推定部312は、例えば、入力されたセンサ情報とHDマップ情報とをマッチングして自己位置を推定する。自己位置推定部312からは、走行環境認識部314へ自己位置情報が出力される。
周辺環境認識部313は、入力情報と、自車周辺環境の刻々と変化する動的な情報をデータベース化した動的周辺環境情報(ローカルモデル)とに基づき、自車の周辺環境を認識する。ここで、「動的な情報」とは、例えば、交通規制情報、道路工事情報、広域気象情報等を含む準静的データ、例えば、事故情報、渋滞情報、狭域気象情報等を含む準動的データ、例えば、周辺車両情報、歩行者情報、信号情報等を含む動的データである。これらの動的な情報は階層化され、各データの更新頻度を異ならせている。周辺環境認識部313には、車載センサ1からのセンサ情報(自車周辺の環境情報)等が入力される。そして、この周辺環境認識部313は、動的周辺環境情報を用い、入力された自車周辺の環境情報を解析し、周辺環境認識情報を演算する。周辺環境認識部313からは、走行環境認識部314と走行領域設定部318へ周辺環境認識情報が出力される。
走行環境認識部314は、入力情報と、自車走行環境の刻々と変化する動的な情報をデータベース化した動的走行環境情報(ワールドモデル)とに基づき、自車の走行環境を認識する。ここで、「動的走行環境情報(ワールドモデル)」とは、自車の自己位置を中心として「動的周辺環境情報(ローカルモデル)」よりも環境認識領域を拡大して取得される動的な情報をいう。走行環境認識部314には、車載センサ1からのセンサ情報と、ナビゲーション装置2からの案内経路情報と、高精度地図データ記憶部311からのHDマップ情報と、自己位置推定部312からの自己位置情報と、周辺環境認識部313からの周辺環境認識情報等が入力される。そして、この走行環境認識部314は、動的走行環境情報を用い、推定された自車の現在地を基準とした所定範囲のHDマップの上に走行環境認識情報を演算する。走行環境認識部314からは、動作決定部317へ走行環境認識情報が出力される。
走行車線演算部316は、目的地までの案内経路上において、自車が走行すべき走行車線(以下、「目標車線」という)を演算する。ここで、走行車線演算部316には、ナビゲーション装置2からの案内経路情報と、高精度地図データ記憶部311からのHDマップ情報等が入力される。そして、走行車線演算部316は、経路案内情報から判断した目的地の方向やHDマップから目標車線を演算する。走行車線演算部316からは、次の階層の動作決定部317へ目標車線情報が出力される。
動作決定部317は、目標車線に沿って自動運転により走行する際に自車が遭遇する事象の抽出し、それら事象に対する「自車の動作」を決定する。ここで、「自車の動作」とは、発進、停止、加速、減速、右左折等の目標車線に沿って走行するために必要となる自車の動きである。
動作決定部317には、走行環境認識部314からの走行環境認識情報と、走行車線演算部316からの目標車線情報等が入力される。そして、この動作決定部317は、目標車線と自車周辺の走行環境とを照合し、適切な自車の動作を決定する。 走行領域設定部318は、目標車線に沿って車両を走行させることができる走行可能領域を設定する。ここで、走行領域設定部318には、高精度地図データ記憶部311からのHDマップ情報と、周辺環境認識部313からの周辺環境認識情報と、動作決定部317からの自車動作決定情報等が入力される。そして、この走行領域設定部318は、自車の動作情報と自車の周辺環境情報とを照合し、自車が走行することが可能な領域を設定する。例えば、自車周辺に障害物等の物体が存在するときには、当該物体との接触を回避するような走行可能領域が設定される。走行領域設定部318からは、次の階層の目標軌跡生成部319へ走行可能領域情報が出力される。
目標軌跡生成部319は、設定された走行可能領域内において目標軌跡を生成する。ここで、目標軌跡生成部319には、走行領域設定部318からの走行可能領域情報等が入力される。そして、この目標軌跡生成部319は、現在の自車の位置から任意に設定される目標位置まで、走行可能領域内を走行することを拘束条件とし、幾何学的な手法により目標軌跡を生成する。なお、目標軌跡生成部319は、例えば複合クロソイド曲線を用いて目標軌跡を生成してもよい。また、目標軌跡生成部319は、安全、法令順守、走行効率などの基準を満たした走行が可能な目標軌跡を生成してもよい。目標軌跡生成部319からは、車両運動コントローラ32へ目標軌跡情報が出力される。
ここで、目標軌跡生成部319は、目標軌跡に対する目標車速プロファイルを生成するようにしてもよい。目標車速プロファイルとは、目標軌跡に沿って走行する時の時系列的な目標車速である。これにより、目標軌跡の曲率に合わせて目標車速プロファイルを生成することができる。例えば、曲率が大きいシーンでは、乗員に大きな車両挙動を与えないために目標車速を低く設定し、曲率が小さいシーンでは、曲率が大きいシーンと比較して目標車速プロファイルを高く設定するようにしてもよい。それに対して、先に目標車速プロファイルを算出し、その後、目標車速プロファイルに合わせて目標軌跡を生成するようにしてもよい。例えば、目標車速が高い場合は、曲率が小さくなるように軌跡を生成し、反対に目標車速が低い場合は、曲率が大きくなるように目標軌跡を生成するようにしてもよい。尚、目標車速プロファイルを生成する際、推定される路面の摩擦係数が低いほど車速の変化勾配(加速勾配、減速勾配)を抑えるパラメータとして路面μ値情報を用いるようにしてもよい。
[車両運動コントローラの制御ブロック構成]
車両運動コントローラ32は、図2に示すように、入力情報調停部321と、姿勢制御判定部322と、規範モデル設定部323と、挙動制御部324と、タイヤ力演算部325と、指令演算部326と、姿勢制御部327と、を備えている。
入力情報調停部321は、ドライバ入力の有無によって自動運転コントローラ31からの入力情報に基づいて制御指令値を演算するのか、ドライバ入力を目標にして制御指令値を演算するのかを調停する。ここで、入力情報調停部321には、自動運転コントローラ31からの目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報が入力され、HMIモジュール5を介してドライバによる操舵角の情報が入力される。入力情報調停部321では、車両運動コントローラ32の処理にて用いる車速及び操舵角の入力情報を以下のように調停する。自動運転モードの選択中でドライバ入力が無い場合は、車速及び操舵角の入力情報として、自動運転コントローラ31からの目標車速プロファイル及び目標軌跡の情報に基づいて設定される目標車速及び目標舵角の情報を用いる。一方、自動運転走行中にドライバ入力が介入した場合やマニュアル運転モードを選択した場合は、車速及び操舵角の入力情報として、ドライバ入力に基づく実車速及び実操舵角の情報を用いる。
姿勢制御判定部322は、ドライバ操舵角による転舵要求、又は、自動運転コントローラ31からの旋回要求に基づき、ブレーキモーメントによる旋回姿勢制御が必要かどうかを判定する。例えば、ドライバ入力により転舵要求があった場合、例えば、操舵角速度が閾値より小さい転舵要求であると旋回姿勢制御必要無しと判定し、操舵角速度が閾値より大きい転舵要求であると旋回姿勢制御が必要と判定する。自動運転コントローラ31からの旋回要求があった場合、例えば、旋回半径が大きな目標軌跡の旋回要求であると旋回姿勢制御必要無しと判定する。そして、旋回半径が小さい目標軌跡による旋回要求、S字目標軌跡による旋回要求、障害物を迂回して回避する旋回要求、などであると旋回姿勢制御が必要と判定する。
姿勢制御判定部322において旋回姿勢制御が必要無しと判定されると、通常制御判定フラグを立て、規範モデル設定部323以降の処理へ進む。一方、姿勢制御判定部322において旋回姿勢制御が必要と判定されると、姿勢制御判定フラグを立て、姿勢制御部327の処理へ進む。
規範モデル設定部323は、任意に設定可能な運動方程式で表され、自車を走行させるときに生じる車両運動の規範モデルを設定する。即ち、姿勢制御判定部322にて通常制御判定フラグが立てられると、入力情報調停部321からの車速及び操舵角の情報が入力される。そして、この規範モデル設定部323は、入力情報を規範モデルである運動方程式に代入することによって規範モデル値を算出する。ここで、「規範モデル値」とは、例えば、ヨーレイト規範モデルを用いたときの目標ヨーレイトや、横加速度規範モデルを用いたときの目標横加速度、車体スリップ角規範モデルを用いたときの目標車体スリップ角、等をいう。規範モデル設定部323からは、挙動制御部324へ目標ヨーレイト等の規範モデル値の情報が出力される。
挙動制御部324は、規範モデル設定部323から規範モデル値の情報を入力し、自車運動の実値を規範モデル値に収束させ、規範モデルの車両挙動に追従させる車速指令値及び舵角指令値を演算する。例えば、規範モデル値が目標ヨーレイトの場合、自車で発生している実ヨーレイトとの偏差を算出し、この偏差を小さくする車速指令値及び舵角指令値を演算する。このとき、この挙動制御部324では、主にフィードバック制御系によって演算を行う。そして、挙動制御部324からは、タイヤ力演算部325へ車速指令値と舵角指令値の情報が出力される。
タイヤ力演算部325は、挙動制御部324から車速指令値及び舵角指令値を入力すると、車速指令値及び舵角指令値を達成させる各タイヤの最適なタイヤ力(タイヤ縦力とタイヤ横力)を演算する。タイヤ力演算部325からは、指令演算部326へ各タイヤにおけるタイヤ力情報が出力される。
指令演算部326は、タイヤ力演算部325から入力されたタイヤ力情報に基づいて、各タイヤに発生させる指令値(速度制御指令値及び操舵制御指令値)を演算する。指令演算部326からは、アクチュエータ4へ指令値情報が出力される。
姿勢制御部327は、実施例1での姿勢制御ECU71と同じ制御機能を発揮する。即ち、姿勢制御判定部322にて姿勢制御判定フラグが立てられると、入力情報調停部321からの車速及び操舵角の情報が入力される。そして、カーブ走行でのコーナーであるか否かを判定し、車体スリップ角の規範モデルによる旋回特性を、コーナーイン旋回特性と定常旋回特性とコーナーアウト旋回特性とで変更する。カーブ走行中、旋回特性を変更した規範モデルを用いて目標車体スリップ角β*を算出し、実車体スリップ角βの情報を取得する。そして、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じたブレーキモーメントを算出し、算出したブレーキモーメントを得る旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ43へ出力する。
次に、旋回姿勢制御作用を説明する。実施例2では、車両が、自動運転走行する自動運転車両A2である。そして、旋回特性を変更した規範モデルを用いて目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βとの偏差に応じたブレーキモーメントを算出し、算出したブレーキモーメントを得る旋回姿勢制御指令をブレーキアクチュエータ43へ出力する。
即ち、自動運転走行中の場合、マニュアル運転走行中とは異なり、ドライバがステアリング操作やアクセル操作に関与していないため、自動運転走行中は旋回姿勢の変化に対するドライバや乗員の感度が、マニュアル運転走行中よりも敏感になる。よって、自動運転走行中の場合、マニュアル運転走行中よりも高い旋回姿勢応答性や旋回姿勢安定性が要求される。
これに対し、自動運転走行中、コーナー走行シーンにおいて、コーナー入口側では車両挙動がより早く定常旋回状態に安定化し、コーナー出口側では車両挙動の安定性を保つようにブレーキモーメントによる旋回姿勢制御が行われる。このため、コーナー走行シーンにおいて、ドライバや乗員にとって安定した旋回姿勢による旋回特性が実現され、ドライバや乗員にとって違和感を与えることのない快適な自動運転走行が達成される。なお、他の作用については、実施例1と同様の作用を示すので説明を省略する。
以上説明したように、実施例2の自動運転車両A2の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置にあっては、実施例1の(1)~(11),(13)~(14)の効果に加え、下記の効果を奏する。
(15) 車両は、目標軌跡に沿って自動運転走行する自動運転車両A2である(図9)。
このため、コーナー走行シーンにおいて、ドライバや乗員にとって安定した旋回姿勢による旋回特性が実現され、ドライバや乗員にとって違和感を与えることのない快適な自動運転走行を達成することができる。
以上、本開示の車両の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1,2では、コーナーイン判定部712とコーナーアウト判定部713を有する例を示した。しかし、図11の構成案1に示すように、コーナー判定部721を有するものであっても良い。この場合、コーナー走行シーンにおいて、コーナーと判定されると、RrCp補正部722によりコーナーインからコーナーアウトに向けて規範モデル2の後輪Cpが減少から増加へと変化させる補正とされる。また、図11の構成案2に示すように、コーナーアウト判定部713のみを有するものであっても良い。この場合、RrCp増加補正部716によりコーナーアウト判定領域にて規範モデル2の後輪Cpを増加する補正とされる。さらに、図11の構成案3に示すように、コーナーイン判定部712のみを有するものであっても良い。この場合、RrCp減少補正部714によりコーナーイン判定領域にて規範モデル2の後輪Cpを減少する補正とされる。なお、オーバーステア対策としてFrCp減少補正部715を有する。
実施例1,2では、車体スリップ角の規範モデルとして、定常旋回特性を最適化した規範モデル2を用意し、コーナーイン特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更し、コーナーアウト特性をアンダーステア寄りの旋回特性に変更する例を示した。しかし、車体スリップ角の規範モデルとしては、例えば、図11の構成案3の場合、アンダーステア寄りの旋回特性を有するモデルを用意し、コーナーイン判定領域でのみ規範モデルの旋回特性をオーバーステア寄りの旋回特性に変更するだけでも良い。また、車体スリップ角の規範モデルとして、例えば、図11の構成案2の場合、オーバーステア寄りの旋回特性を有するモデルを用意し、コーナーアウト判定領域でのみ規範モデルの旋回特性をアンダーステア寄りの旋回特性に変更するだけでも良い。何れの場合も変更しない判定領域での旋回特性は、予め用意された規範モデルによる初期設定の旋回特性となり、コーナーインとコーナーアウトとで規範モデルの旋回特性が変更されることになる。
実施例1,2では、車体スリップ角の規範モデルとして、1つの規範モデルを用意し、前輪Cp値又は後輪Cp値の補正により旋回特性を変更する例を示した。しかし、車体スリップ角の規範モデルとしては、規範モデルに有するコーナリングパワー値以外の変数を修正する例としても良い。また、車体スリップ角の規範モデルとして、2つの規範モデル(オーバーステア寄りの旋回特性による規範モデル、アンダーステア寄りの旋回特性による規範モデル)、或いは、これに1つの規範モデル(ニュートラルステア特性による規範モデル)を加えた3つの規範モデルを用意しても良い。この場合、コーナーインかコーナーアウトかで用意された複数の規範モデルの中から一つの規範モデルを切り替えにより選択することで、コーナーインとコーナーアウトとで規範モデルの旋回特性が変更されることになる。
実施例1,2では、目標車体スリップ角β*と実車体スリップ角βの偏差をブレーキモーメント制御で実行する例を示した。しかし、目標車体スリップ角と実車体スリップ角の偏差により重心点回りのモーメントのうち、一部をブレーキモーメント制御で分担し、残りを舵角モーメント制御により分担する例としても良い。また、目標車体スリップ角と実車体スリップ角の偏差により重心点回りのモーメントの大きさが閾値以下であれば、舵角モーメント制御により分担し、閾値を超えるとブレーキモーメント制御により分担する例としても良い。
実施例1では、本開示の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置を、ドライバ操作によるマニュアル運転走行するマニュアル運転車両A1に適用する例を示した。実施例2では、本開示の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置を、目標軌跡に沿って走行するように速度及び舵角による車両運動が制御される自動運転車両A2に適用する例を示した。しかし、本開示の旋回姿勢制御方法及び旋回姿勢制御装置は、マニュアル運転車両や自動運転車両に限らず、自動ブレーキ機能や定速走行制御機能や車線逸脱防止機能等を備える運転支援車両に対しても適用することができる。運転支援車両の場合、車両の周囲の状況を検出するセンサと、車両の周囲の状況に基づいて車両を走行させるための軌跡を算出する走行支援コントローラを備え、算出される車両の軌跡を、旋回姿勢制御における車両の旋回情報とする。