以下、図面を参照して本開示に係る内燃機関の制御装置の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1は、本開示に係る内燃機関の制御装置の一実施形態を示す概略図である。本実施形態の内燃機関の制御装置100は、たとえば、自動車などの車両のエンジン210を制御する電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)によって構成され、または、そのECUの一部を構成する。ECUは、たとえば、マイクロコントローラであり、図示を省略する中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)、ROMやフラッシュメモリなどの記憶装置、その記憶装置に記憶された各種のコンピュータプログラムおよびデータ、タイマー、周辺機器との通信を行う入出力部を含む。
図1に示す例において、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、自動車などの車両に搭載されて動力を発生させるエンジン210およびその周辺機器を含むエンジンシステム200を制御対象としている。エンジンシステム200は、たとえば、内燃機関であるエンジン210と、そのエンジン210に接続された吸気流路および排気流路と、を備えている。エンジン210の吸気流路には、エアフローセンサ201と、ターボ過給機202と、エアバイパス弁203と、インタークーラー204と、過給温度センサ205と、スロットル弁206と、吸気マニホールド207と、過給圧センサ208と、流動強化弁209とが設けられている。
また、エンジン210は、たとえば、吸気バルブ211と、排気バルブ212と、開閉位置センサ213,214と、燃料噴射弁215と、点火プラグ216と、ノックセンサ217と、クランク角度センサ218と、可変圧縮比機構219と、を備えている。また、エンジン210の排気流路には、たとえば、ウェイストゲート弁220と、空燃比センサ221と、排気浄化触媒222と、排気再循環(Exhaust Gas Recirculation:EGR)管223と、EGRクーラー224と、EGR温度センサ225と、EGR弁226と、差圧センサ227と、が設けられている。
エアフローセンサ201は、たとえば、温度センサ、流量センサ、および湿度センサを備え、吸気流路に取り込まれた空気の温度、流量、および湿度を測定し、測定結果を内燃機関の制御装置100へ出力する。ターボ過給機202は、コンプレッサ202aとタービン202bを備え、排気流路を流れる気体によってタービン202bを回転させ、タービン202bの回転によってコンプレッサ202aを回転させ、吸気流路に取り込まれた空気をエンジン210へ圧送する。
エアバイパス弁203は、たとえば、吸気流路のターボ過給機202をバイパスするバイパス流路に設けられ、内燃機関の制御装置100からの制御信号によって開閉され、コンプレッサ202aとスロットル弁206との間の空気の圧力が過剰に上昇するのを防止する。たとえば、過給状態で吸気マニホールド207が急激に閉止された場合は、内燃機関の制御装置100の制御にしたがってエアバイパス弁203が開かれる。これにより、コンプレッサ202aの下流の圧縮された空気がバイパス流路を通ってコンプレッサ202aの上流に逆流し、過給圧が低下する。
インタークーラー204は、コンプレッサ202aによって断熱圧縮されて温度が上昇した吸入空気を冷却して温度を低下させる。過給温度センサ205は、インタークーラー204によって冷却された吸入空気の温度(過給温度)を測定し、測定結果を内燃機関の制御装置100へ出力する。スロットル弁206は、たとえば、過給温度センサ205の下流に設けられ、内燃機関の制御装置100の制御により開度が制御されることで、エンジン210のシリンダへ流入する吸入空気量を制御する。スロットル弁206は、たとえば、車両のドライバーによるアクセルペダルの踏量とは独立して、内燃機関の制御装置100からの制御信号により弁開度の制御が可能なバタフライ弁により構成される。
吸気マニホールド207はスロットル弁206の下流に設けられ、過給圧センサ208が組み付けられている。過給圧センサ208は、吸気マニホールド207における吸入空気の圧力すなわち過給圧を測定して、測定結果を内燃機関の制御装置100へ出力する。
なお、吸気マニホールド207とインタークーラー204とを一体化させてもよい。この場合、コンプレッサ202aからエンジン210のシリンダへ至る吸気流路の容積を低減することができ、車両の加減速の応答性を向上させることができる。
流動強化弁209は、吸気マニホールド207の下流に設けられ、吸入空気に偏流を生じさせ、エンジン210のシリンダ内の混合気の流れに生じる乱れを強化する。吸気バルブ211および排気バルブ212は、それぞれ、内燃機関の制御装置100によって制御され、弁開閉位置の位相を連続的に可変とするための可変動弁機構を備えている。開閉位置センサ213,214は、それぞれ、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構に設けられ、吸気バルブ211および排気バルブ212の開閉位置の位相を検知して内燃機関の制御装置100へ出力する。
燃料噴射弁215は、たとえば、エンジン210のシリンダに設けられ、シリンダ内に直接的に燃料を噴射する直接噴射式である。なお、燃料噴射弁215は、吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射式であってもよい。点火プラグ216は、エンジン210のシリンダに設けられ、シリンダのヘッド内に露出させた電極部のスパークによってシリンダ内の可燃混合気を引火する。ノックセンサ217は、エンジン210のシリンダブロックに設けられ、燃焼室内で発生するノックの有無を検出する。
クランク角度センサ218は、エンジン210のクランク軸に組み付けられ、クランク軸の回転角度に応じた信号を、クランク軸の回転速度を示す信号として、燃焼周期ごとに内燃機関の制御装置100へ出力する。可変圧縮比機構219は、エンジン210のクランク機構に設けられ、エンジン210の運転状態に応じて、内燃機関の制御装置100の制御により、圧縮比を変化させることにより、熱効率を最適状態に維持しつつ、最大出力を向上させることができる。
ウェイストゲート弁220は、たとえば、排気流路のターボ過給機202をバイパスするバイパス流路に設けられ、内燃機関の制御装置100からの制御信号によって開度が制御される電動式の弁である。たとえば、過給圧センサ208によって測定された過給圧に基づいて、内燃機関の制御装置100がウェイストゲート弁220の開度を調整することで、排ガスの一部が排気流路のバイパス流路を通過し、排ガスがターボ過給機202のタービン202bに与える仕事を減じることができる。その結果、過給圧を目標圧に保持することができる。
空燃比センサ221は、たとえば、排気流路のウェイストゲート弁220の下流に設けられ、排ガスの酸素濃度すなわち空燃比を測定し、測定結果を内燃機関の制御装置100へ出力する。排気浄化触媒222は、たとえば、排気流路の空燃比センサ221の下流に設けられ、排ガス中の一酸化炭素、窒素化合物および未燃炭化水素等の有害排出ガス成分を触媒反応によって浄化する。
EGR管223は、排気流路の排気浄化触媒222よりも下流側の部分と、吸気流路のターボ過給機202のコンプレッサ202aよりも上流側の部分とを接続し、排気浄化触媒222を通過した排ガスの一部をコンプレッサ202aの上流側の吸気流路に還流させる。EGRクーラー224は、EGR管223に設けられ、EGR管223を通過する排ガスを冷却する。EGR温度センサ225は、たとえば、EGRクーラー224とEGR弁226との間に設けられ、EGR管223を流れる排ガスの温度を測定して、内燃機関の制御装置100へ出力する。
EGR弁226は、たとえば、EGR温度センサ225と吸気流路との間に設けられ、内燃機関の制御装置100によって開度が制御され、排気流路から吸気流路へ還流させる排ガスの流量を制御する。差圧センサ227は、EGR管223に設けられ、EGR弁226の上流側と下流側に設置され、EGR弁226の上流側の排ガスの圧力と、EGR弁226の下流側の排ガスの圧力との差圧を測定し、内燃機関の制御装置100へ出力する。
内燃機関の制御装置100は、たとえば、前述のように、エンジンシステム200を構成する各種のセンサや、エンジンシステム200の各部を駆動するアクチュエータに接続されている。内燃機関の制御装置100は、たとえば、スロットル弁206、可変動弁機構を備えた吸気バルブ211および排気バルブ212、燃料噴射弁215、EGR弁226等のアクチュエータの動作を制御する。また、内燃機関の制御装置100は、各種のセンサから入力された信号に基づいてエンジン210の運転状態を検知し、その運転状態に応じて決定したタイミングで点火プラグ216を点火する。
このエンジン210の点火プラグ216の点火時期の制御誤差は、ノッキング、燃焼効率の悪化、または燃焼変動などの不具合を生じさせるおそれがある。本実施形態の内燃機関の制御装置100は、以下に説明する構成により、従来よりも点火時期の制御誤差を低減して、ノッキング、燃焼効率の悪化、または燃焼変動などの不具合を防止する。
図2は、本実施形態の内燃機関の制御装置100の機能ブロック図である。詳細については後述するが、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、以下の構成を備えることを主な特徴としている。
本実施形態の内燃機関の制御装置100は、たとえば、少なくとも内燃機関であるエンジン210の回転速度RS、負荷L、およびその他の特定の変数Vを含む三以上の変数を入力とし、エンジン210の制御量CVを出力とするニューラルネットワークモデル110を備えている。ニューラルネットワークモデル110は、特定の変数Vの基準値Vrを入力とする第1ニューラルネットワークモデル111と、特定の変数Vの現在値Vpを入力とする第2ニューラルネットワークモデル112と、を有する。内燃機関の制御装置100は、第1ニューラルネットワークモデル111の出力OUT1と、第2ニューラルネットワークモデルの出力OUT2との差分ΔOUTまたは比率R_OUTを補正量として、回転速度RSおよび負荷Lに基づいて算出された制御量CVの基準値CVrを補正する。
なお、本実施形態において、内燃機関であるエンジン210の制御量CVは、たとえば、最適点火時期である。最適点火時期は、たとえば、ミニマム・アドバンス・フォア・ベスト・トルク(MBT)またはノッキングが生じる限界点火時期であるトレースノック時期である。
また、本実施形態において、内燃機関であるエンジン210の特定の変数Vは、たとえば、可変圧縮比機構219の操作量、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量、エンジン210の冷却水温、EGR管223による排気再循環率、流動強化弁209の操作量、エンジン210の燃料のオクタン価、吸気温度、吸気湿度、燃料噴射時期、燃料噴射割合、または、空燃比である。
以下、本実施形態の内燃機関の制御装置100の構成をより詳細に説明する。図2に示す例において、内燃機関の制御装置100は、たとえば、前述のニューラルネットワークモデル110に加えて、たとえば、基準マップ120と、判定ニューラルネットワークモデル130とを備えている。基準マップ120は、エンジン210の回転速度RSおよび負荷Lを入力として、エンジン210の制御量CVの基準値CVrを出力するように構成されている。判定ニューラルネットワークモデル130は、エンジン210の回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値Vpを入力とし、適合領域の領域内であるか領域外であるかの判定結果DRを出力するように構成されている。
図3Aから図3Cは、ニューラルネットワークモデル110の一例の説明図である。ニューラルネットワークモデル110は、人間の脳神経回路の仕組みを模した数学モデルであり、モデルを構成する各ニューロン(ユニット)には、重みとバイアスが設定されている。また、ニューロンには活性化関数と呼ばれる関数が定義されている。以下の式(1)および式(2)にその一例を示す。なお、式(1)において、wは重みであり、bはバイアスである。
z=w1・a1+w2・a2+・・・+Wn・an+b ・・・(1)
a=f(z) ・・・(2)
図3Bおよび図3Cに示すように、ニューラルネットワークモデル110は、入力層Liと、中間層Lmと、出力層Loとの各層を備える。これら各層は、複数のニューロンで構成されている。ニューロンの数や中間層Lmの数を増加させることで、より複雑な入出力の非線形関係を近似することができる。
図3Aの右のグラフに示すように、活性化関数y=f(x)として、たとえば、ロジスティック関数f_logや線形関数f_linが適宜選択されて設定される。ニューラルネットワークモデル110は、たとえば、中間層Lmの活性化関数y=f(x)としてロジスティック関数f_logが設定され、出力層Loの活性化関数y=f(x)として線形関数f_linが設定されている。近似精度とモデル規模との間にはトレードオフの関係があり、近似精度とモデル規模の双方の要求を満足するように、近似精度とモデル規模が設定される。
図3Bに示す教師あり学習のように、たとえば、エンジン210の回転速度RS、負荷Lおよび特定の変数Vなど、エンジン210の運転状態を入力層Liに設定する。また、たとえば、MBTやトレースノック時期などの最適点火時期を含む制御量CVを出力層Loに設定する。そして、各ニューロンの重みwとバイアスbを機械学習することによって、エンジン210の運転状態の入出力関係を近似することができる。機械学習のアルゴリズムには、誤差逆伝播法を適用できる。
以上のように、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、ニューラルネットワークモデル110は、入力層Li、中間層Lm、および出力層Loを備えた多層ニューラルネットワークモデルである。そして、入力層Liの各ユニットに、少なくとも、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vが設定され、中間層Lmの各ユニットに、重みw、バイアスb、および活性化関数y=f(x)が設定され、出力層Loのユニットに、制御量CVが設定されている。
これにより、図2および図3Cに示すように、学習済みのニューラルネットワークモデル110は、回転速度RS、負荷Lおよびその他の特定の変数Vを入力とし、最適点火時期などの制御量CVを出力OUT1,OUT2とする演算を行うことができる。
図4は、図2に示す基準マップ120の一例の説明図である。基準マップ120は、前述のように、たとえば、エンジン210の回転速度RSおよび負荷Lを入力として、エンジン210の制御量CVの基準値CVrを出力するように構成されている。ここで、本実施形態の内燃機関の制御装置100では、エンジン210の負荷Lとして、たとえば、充填効率が規定されている。充填効率は、エンジン210のシリンダの容積相当の標準状態の空気質量に対する一サイクルでシリンダに吸入される空気質量の割合である。
図4に示す例において、基準マップ120は、エンジン210の回転速度RSと、エンジン210の負荷Lである充填効率とに応じて、エンジン210の制御量CVの基準値CVrが規定されたテーブルである。換言すると、基準マップ120は、横軸をエンジン210の回転速度RSとし、縦軸をエンジン210の負荷Lである充填効率とし、エンジン210の制御量CVの基準値CVrとしての点火時期制御量が規定された二次元のマップである。
このような構成により、基準マップ120は、エンジン210の回転速度RSと、エンジン210の負荷Lである充填効率とを入力とし、エンジン210の制御量CVの基準値CVrを出力するように構成されている。ここで、基準値CVrは、たとえば、基準条件での点火時期制御量である。また、基準条件とは、エンジン210の回転速度RSおよび負荷Lで規定された各種デバイスの状態および標準大気条件である。
図5Aから図5Cは、図2に示す判定ニューラルネットワークモデル130の一例の説明図である。図5Aは、横軸を入力パラメータA、縦軸を入力パラメータBとして、ニューラルネットワークモデル110による学習領域である内挿領域IAと、非学習領域である外挿領域EAとの判定方法の一例を説明するグラフである。入力パラメータA、Bは、たとえば、図2の判定ニューラルネットワークモデル130に入力される回転速度RS、負荷L、特定の変数Vのうちのいずれか二つのパラメータである。
一般に、ニューラルネットワークモデル110は回帰モデルであり、教師データの内挿領域IAの予測能力は高い一方で、外挿領域EAの予測能力は低い。そのため、誤差を低減するためには、外挿領域EAの演算結果を適切に除外する必要がある。図5Aに示す例において、領域a、領域b、および領域dのように各入力パラメータA,Bの下限値A_min,B_minの外側に位置する場合、または、各入力パラメータA,Bの上限値の外側に位置する場合には、外挿領域EAであることが判定できる。
しかし、図5Aに示す例において、領域cのように各入力パラメータA,Bの下限値A_min,B_minの内側に位置するか、上限値の内側に位置するが、適合領域の外側に位置する場合、入力パラメータA,Bの下限値A_min,B_min、または上限値だけでは内挿領域IAと外挿領域EAを判定できない。そのため、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、適合領域である内挿領域IAと、非適合領域である外挿領域EAを判定する判定ニューラルネットワークモデル130を備えている。
図5Bおよび図5Cに示すように、判定ニューラルネットワークモデル130の中間層Lmおよび出力層Loの活性化関数y=f(x)には、ロジスティック関数f_logを設定する。判定ニューラルネットワークモデル130は、あらかじめ全入力条件に対して出力層Loに未学習状態を意味する(0.0)を設定して学習する。さらに、MBT、トレースノックなどの点火時期を学習する際のエンジン210の運転状態を入力層Liに設定し、出力層Loに学習済みであることを意味する(1.0)を設定し学習する。
このような学習を行うことで、学習済みの運転条件の近傍では(1.0)に近い値を出力し、学習していない運転条件では(0.0)に近い値を出力するロジスティック回帰型の判定ニューラルネットワークモデル130を構築することができる。たとえば、図2に示すように、この判定ニューラルネットワークモデル130を用いることで、図5Aに示す領域cのように、各入力パラメータA,Bの下限値A_min,B_minまたは上限値の内側に位置し、内挿領域IAの外側に位置する場合でも、内挿領域IAと外挿領域EAとを判定することができる。
図6は、判定ニューラルネットワークモデル130の入力パラメータA,Bが非学習領域である外挿領域EAに位置する場合の出力層Loの演算方法の説明図である。全学習条件の入力パラメータA,Bに対する中間層Lmの最終層すなわち出力層Loの一層前の層の各ユニット値の頻度分布から、ユニット毎の最小値Minおよび最大値Maxが規定される。判定ニューラルネットワークモデル130の入力パラメータA,Bが学習領域である内挿領域IA内に存在する限りにおいては、中間層Lmの最終層の各ユニットの値は、上記ユニット毎の最大値Maxと最小値Minの間の範囲に存在すると考えられる。
判定ニューラルネットワークモデル130の入力パラメータA,Bが非学習領域である外挿領域EAに位置すると判断された場合には、中間層Lmの最終層の各ユニットの値を診断する。ユニットの値が最大値Max以上の値を示す場合には、最大値Maxを設定し、最小値Min以下の値を示す場合は最小値Minを設定する。換言するとロジスティック回帰型ニューラルネットワークモデルである判定ニューラルネットワークモデル130が学習条件の範囲外であることを示す指標を出力した場合に、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層を構成するユニットの値を、各々のユニットの最大値Maxおよび最小値Minに基づく上下限値の範囲に制限する。この様に上下限値で処理することによって、入力パラメータA,bが外挿領域EAに位置する場合においても、ニューラルネットワークモデル110が異常な値を出力することを適切に防止することができる。
このように、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vを入力とし、ニューラルネットワークモデル110の学習条件の範囲内であるか否かの指標を出力するロジスティック回帰型ニューラルネットワークモデルである判定ニューラルネットワークモデル130を備えている。また、判定ニューラルネットワークモデル130の中間層Lmおよび出力層Loの活性化関数y=f(x)としてロジスティック関数f_logを設定している。
また、判定ニューラルネットワークモデル130は、たとえば、中間層Lmの各ユニットの値と、中間層Lmの各ユニットの最大値Maxと最小値Minとの比較に基づいて、ニューラルネットワークモデル110を診断する診断部としての機能を備えてもよい。この場合、診断部としての判定ニューラルネットワークモデル130は、ニューラルネットワークモデル110の演算実行時に診断結果を出力してもよい。
以下、本実施形態の内燃機関の制御装置100の動作を説明する。
図1に示すように、内燃機関の制御装置100は、たとえば、エンジンシステム200を構成する各種のセンサから出力された測定結果を入力として、エンジン210の回転速度RS、負荷Lおよび特定の変数Vを算出する。より詳細には、内燃機関の制御装置100は、たとえば、特定の変数Vの基準値Vrと現在値Vpを算出する。
ここで、負荷Lは、たとえば、エンジン210の充填効率である。また、特定の変数Vは、たとえば、エンジン210の可変圧縮比機構219の操作量、可変動弁機構の操作量、冷却水温、排気再循環率、流動強化弁209の操作量、燃料のオクタン価、吸気温度、吸気湿度、燃料噴射時期、燃料噴射割合、および、空燃比からなる群から選択される一以上の変数である。
次に、図2に示すように、内燃機関の制御装置100は、算出した回転速度RSおよび負荷Lを入力として、基準マップ120により制御量CVの基準値CVrを算出する。より具体的には、図4に示すように、基準マップ120は、入力された回転速度RSと負荷Lに応じた制御量CVの基準値CVrを出力する。
内燃機関の制御装置100は、算出した回転速度RS、負荷Lおよび特定の変数Vの基準値Vrを入力として、第1ニューラルネットワークモデル111により点火時期の目標値(基準値)の推定値を演算して出力する(出力OUT1)。また、内燃機関の制御装置100は、算出した回転速度RS、負荷Lおよび特定の変数Vの現在値Vpを入力として、第2ニューラルネットワークモデル112により現在の点火時期の推定値を演算して出力する(出力OUT2)。
さらに、内燃機関の制御装置100は、第1ニューラルネットワークモデル111の出力OUT1と、第2ニューラルネットワークモデル112の出力OUT2との差分ΔOUTまたは比率R_OUTを算出する。そして、内燃機関の制御装置100は、算出した出力OUT1と出力OUT2の差分ΔOUTまたは比率R_OUTを補正量として、回転速度RSおよび負荷Lに基づいて基準マップ120により算出した点火時期である制御量CVの基準値CVrを補正する。
一般に、ニューラルネットワークモデルを用いる場合、そのニューラルネットワークモデルの近似精度で、基準条件での制御量の誤差を極力低減させようとすると、モデルの規模が過大となり、演算負荷が増大するという課題がある。
これに対し、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、回転速度RSおよび負荷Lを入力として基準マップ120によって点火時期である制御量CVの基準値CVrを演算する。そして、この制御量CVの基準値CVrを、回転速度RSおよび負荷L以外の特定の変数Vの基準値Vrと現在値Vpとを入力とするニューラルネットワークモデル110の出力OUT1と出力OUT2の差分ΔOUTまたは比率R_OUTによって補正する。
すなわち、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、基準条件では、ニューラルネットワークモデル110による補正量はゼロとなり、基準マップ120の出力である制御量CVの基準値CVrが採用される。これにより、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、基準条件において制御量CVの精度を最も高くすることができ、トレードオフ関係にあるモデルの演算規模とモデルの精度との両立を実現することができる。
また、図2に示す例において、内燃機関の制御装置100は、判定ニューラルネットワークモデル130を備えている。判定ニューラルネットワークモデル130は、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値Vpを入力とし、ニューラルネットワークモデル110の学習条件の範囲内であるか否かの指標を出力するロジスティック回帰型ニューラルネットワークモデルである。また、図5Aおよび図5Bに示すように、この判定ニューラルネットワークモデル130の中間層Lmおよび出力層Loの活性化関数y=f(x)として、たとえば、ロジスティック関数f_logが設定されている。
このような構成により、判定ニューラルネットワークモデル130は、回転速度RS、負荷L(充填効率)および特定の変数Vの現在値Vpを入力として、図5Aに示すように適合領域の領域内(内挿領域IA)であるか、適合領域の領域外(外挿領域EA)であるかの判定を行う。以下、図7を参照して、ニューラルネットワークモデル110および判定ニューラルネットワークモデル130の動作の一例を説明する。
図7は、内燃機関の制御装置100の処理の流れを説明するフローチャートである。処理P1において、内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110の入力値として、たとえば、回転速度RS、負荷L、および特定の変数V(現在値Vpおよび基準値Vr)を取得する。次に、処理P2において、内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110に入力された値を、図6に示すように、予め学習時に規定した最大値Maxおよび最小値Minで基準化する。この基準化を行うことによって、ニューラルネットワークモデル110に非学習領域(外挿領域EA)の入力パラメータが入力されることが防止される。
次に、処理P3において、内燃機関の制御装置100は、判定ニューラルネットワークモデル130により、入力された値が学習領域(内挿領域IA)であるか、非学習領域(外挿領域EA)であるかを判定する外挿判定処理を実施する。この処理P3において、判定ニューラルネットワークモデル130により、入力された値が、内挿領域IAに存在する(NO)と判定されると、処理P4へ進む。
処理P4において、内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110による演算を行った後、後述する処理P8を実行する。一方、処理P3において、判定ニューラルネットワークモデル130により、入力された値が外挿領域EAに存在する(YES)と判定されると、内燃機関の制御装置100は処理P5を実施する。
処理P5において、内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層の各ユニットの値を診断する。より具体的には、内燃機関の制御装置100は、たとえば、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層の各ユニットの値が、規定された最大値Max以上であるか、または最小値Min以下であるかを判定する。
次に、処理P6において、内燃機関の制御装置100は、前の処理P5において各ユニットの値が最大値Max以上であることを診断した場合、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層の各ユニットに最大値Maxを設定する。また、処理P6において、内燃機関の制御装置100は、前の処理P5において各ユニットの値が最小値Min以下であることを診断した場合、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層の各ユニットに最小値Minを設定する。
次に、処理P7において、内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110の出力層Loの演算を行った後、処理P8を実行する。処理P8では、ニューラルネットワークモデル110の演算結果として出力OUT1と出力OUT2を出力する。
以上のように、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、少なくともエンジン210の回転速度RS、負荷L、およびその他の特定の変数Vを含む三以上の変数を入力とし、エンジン210の制御量CVを出力とするニューラルネットワークモデル110を備えている。このニューラルネットワークモデル110は、特定の変数Vの基準値Vrを入力とする第1ニューラルネットワークモデル111と、特定の変数Vの現在値Vpを入力とする第2ニューラルネットワークモデル112と、を有している。そして、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、第1ニューラルネットワークモデル111の出力OUT1と第2ニューラルネットワークモデル112の出力OUT2との差分ΔOUTまたは比率R_OUTを補正量として、回転速度RSおよび負荷Lに基づいて算出された制御量CVの基準値CVrを補正する。また、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、エンジン210の制御量CVは、たとえば、最適点火時期である。
このような構成により、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vなどの補正変数同士の交互作用影響が大きい制御量CV、たとえばMBTまたはトレースノック時期などの最適点火時期であっても、ニューラルネットワークモデル110によって制御量CVを精度良く補正することができる。さらに、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、基準条件において、回転速度RSと負荷Lに基づく基準マップ120の出力である制御量CVの基準値CVrが採用される。したがって、本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、大規模なニューラルネットワークモデル近似を必要とせず、演算負荷と制御量CVの精度とのトレードオフの関係を両立することができる。なお、制御量CVは、最適点火時期に限定されず、エンジン210の他の制御量であってもよい。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、エンジン210の特定の変数Vは、たとえば、可変圧縮比機構219の操作量、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量、冷却水温、排気再循環率(EGR率)、流動強化弁209の操作量、燃料のオクタン価、吸気温度、吸気湿度、燃料噴射時期、燃料噴射割合、または、空燃比である。
以下、図8から図12を参照し、可変圧縮比機構219の操作量、EGR率、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量、ならびに冷却水温を例に挙げて、エンジン210の回転速度RS、負荷L、およびその他の特定の変数Vの関係について説明する。
図8は、可変圧縮比機構219による圧縮比制御を実施する運転領域を説明するグラフである。図8において、回転速度RSを横軸とし、負荷Lとしての充填効率を縦軸として、エンジン210の運転領域が規定されている。内燃機関の制御装置100は、比較的に充填効率が低い低負荷かつ低回転速度の運転領域において、可変圧縮比機構219の操作量を制御して、比較的に高い圧縮比の高圧縮比領域HCRでエンジン210を運転する。
これにより、エンジン210のシリンダ内の燃焼エネルギを効率よく運動エネルギに変換して、高い熱効率を実現できる。
一方、エンジン210の充填効率が高い比較的に高負荷の運転領域では、圧縮比を高くすると、ノッキングと呼ばれる不正燃焼が生じ易くなる。ノッキングを防止するために、点火時期を遅角化すると熱効率が悪化する。すなわち、過剰な高圧縮比化は、むしろ熱効率の悪化の原因となる。そのため、内燃機関の制御装置100は、充填効率が高い比較的に高負荷の運転領域において、可変圧縮比機構219の操作量を制御して、相対的に低圧縮比の低圧縮比領域LCRでエンジン210を運転する。これにより、ノッキングと熱効率の悪化を抑制し、熱効率と出力を両立することができ、エンジン210の運転状態に基づいて適切に圧縮比を制御することができる。したがって、エンジン210の全体の熱効率を向上させることができる。
このように、内燃機関の制御装置100は、エンジン210の回転速度RSと負荷Lである充填効率とに基づいて、可変圧縮比機構219の操作量を制御し、エンジン210の圧縮比を定常目標状態に制御する。しかしながら、可変圧縮比機構219は応答遅れを伴うため、回転速度RSと負荷Lとが同一である運転条件であっても、その直前の状態に応じて異なる圧縮比を示す場合がある。
たとえば、運転状態が高圧縮比領域HCRに設定される低負荷条件から中圧縮比領域MCRに設定される中負荷条件(非過給域NSCR)を経て、高圧縮比領域HRCの高負荷条件(過給域SCR)に移行する加速条件において、可変圧縮比機構219の応答遅れにより、圧縮比が定常目標状態より高圧縮比側に設定される。この場合、ノッキングを生じるおそれがあるため、エンジン210の点火時期は、可変圧縮比機構219の操作量に基づく現在の圧縮比に応じて適切に補正制御する必要がある。
本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、前述の図2に示す構成を備えることで、エンジン210の特定の変数Vとして可変圧縮比機構219の操作量を用い、可変圧縮比機構219の操作量に基づく現在の圧縮比に応じてエンジン210の点火時期を適切に補正制御することができる。
図9は、EGRを導入する運転領域を説明するグラフである。図9では、図8と同様に、回転速度RSを横軸とし、負荷Lとしての充填効率を縦軸として、エンジン210の運転領域が規定されている。エンジン210の運転領域は、非過給域NSCRと過給域SCRとに大別される。内燃機関の制御装置100は、非過給域NSCRにおいてスロットル弁206の開度を制御し、過給域においてスロットル弁206を開いてウェイストゲート弁220の開度を制御することで、過給圧を制御して充填効率を制御する。このように、非過給域NSCRと過給域SCRとの間で、エンジン210のトルクを調整する手段を切り替えることによって、エンジン210に生じるポンプ損失を低減でき、低燃費運転を実現することができる。
さらに、本実施形態の内燃機関の制御装置100の制御対象であるエンジンシステム200は、EGR管223、EGRクーラー224、EGR温度センサ225、EGR弁226、および差圧センサ227を含むEGRシステムを備えている。EGRシステムは、たとえば、エンジン210の非過給域NSCRの比較的に高負荷の条件から過給域SCRにおいて、排気浄化触媒222を通過してEGRクーラー224によって冷却された排ガスをエンジン210シリンダに還流する。これにより、エンジン210のシリンダ内に吸入されるガスを不活性ガスである排ガスで希釈し、高負荷の条件で生じやすいノックと呼ばれる不正燃焼を抑制することができる。ノックを抑制することで、点火時期を適切に進角制御することが可能となり、低燃費運転を実現することができる。
このように、EGRは、内燃機関の制御装置100により、エンジン210の回転速度および負荷に基づいてEGR弁226の開度を制御することで、定常目標のEGR率に制御される。一方、内燃機関の制御装置100は、凝縮水が生成する低温度条件では、EGRを停止する。図1に示す様に、EGRシステムはエンジン210のシリンダから離れた位置に設けられるため、EGR弁226を制御しても、直ちにシリンダ内のEGR率を目標値に制御できない。
そのため、回転速度RSおよび負荷Lが同一の条件でも、異なるEGR率を示す場合がある。すなわち、EGRが停止した低負荷の条件からEGRを導入する高負荷の条件へ移行する加速時においてEGR弁226を開く際に、吸気管内の空気の流れによるEGRの応答遅れによって、シリンダ内のEGR率が定常目標状態より低くなることがある。この場合、エンジン210の点火時期を過進角してノッキングを生じるおそれがあるため、現在のシリンダ内のEGR率に応じて、エンジン210の点火時期を適切に補正制御する必要がある。
本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、前述の図2に示す構成を備えることで、エンジン210の特定の変数VとしてEGR率を用い、EGR率に応じてエンジン210の点火時期を適切に補正制御することができる。
図10Aから図10Cは、位相可変機構を備えた吸気バルブ211および排気バルブ212のリフトパターンを説明する図である。内燃機関の制御装置100は、図10Aに示すデフォルト条件DEFにおいて、吸気バルブ211および排気バルブ212のリフトパターンを、上死点TDCの近傍で排気バルブ212が閉じるとともに、吸気バルブ211が開くタイミングに設定する。
また、内燃機関の制御装置100は、図10Bに示すオーバーラップ条件OLCにおいて、破線で示すデフォルト条件DEFのリフトパターンを基準として、吸気バルブ211のリフトパターンを進角するとともに、排気バルブ212のリフトパターンを遅角させる。内燃機関の制御装置100により、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構をこのように制御することで、吸気バルブ211と排気バルブ212の両方が同時に開くオーバーラップ期間を設けることができる。
排気流路の圧力が吸気流路の圧力よりも高い場合に、図10Bに示すように、吸気バルブ211と排気バルブ212のリフトパターンにオーバーラップ期間を設けることで、既燃ガスを吸気流路に逆流させる内部EGRを実施することができる。また、吸気圧力が排気圧力より大きい場合に吸気バルブ211と排気バルブ212のリフトパターンにオーバーラップ期間を設けることで、エンジン210のシリンダ内の既燃ガスを排気流路へ掃気することができる。
図10Cに示す吸排気遅閉じ条件DELでは、破線で示すデフォルト条件を基準として、吸気バルブ211のリフトパターンを遅角するとともに、排気バルブ212のリフトパターンを遅角させる。制御装置100により、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構をこのように制御することで、排気バルブ212の閉じ時期を下死点BDCよりも遅角側に設定することができ、実効圧縮比を減少させることができる。このように実効圧縮比を減少させることで、ミラーサイクルを実現できる。
また、排気バルブ212を吸気バルブ211と同様に遅角化させることで、排気バルブ212の閉弁後に吸気バルブ211が開弁するまでの期間である、負のオーバーラップの発生を防止する。負のオーバーラップの発生を防止することで、エンジン210のポンプ損失を低減できるだけでなく、排気バルブ212の開弁時期を下死点BDC近傍に設定することができるので、膨張比を最大化させることができる。なお、吸気バルブ211および排気バルブ212のリフトパターンを制御する方法は、可変動弁機構を用いる方法に限定されない。すなわち、カムの切り替え式の可変バルブシステムやリフト可変システムにおいても、同様の効果を奏することができる。
図11は、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量の制御を説明するグラフである。図11では、図8および図9と同様に、回転速度RSを横軸とし、負荷Lとしての充填効率を縦軸として、エンジン210の運転領域が規定されている。
図11に示す低回転速度かつ高負荷の運転領域において、図10Aに示すデフォルト条件DEFを基準として、吸気バルブ211を進角するとともに、排気バルブ212を遅角させることで、図10Bに示すオーバーラップ条件OLCに設定する。
ターボ過給機202を備えたエンジンシステム200では、低回転速度かつ高負荷の運転領域で吸気流路の圧力が排気流路の圧力よりも高くなる。そのため、この運転領域で吸気バルブ211と排気バルブ212のリフトパターンをオーバーラップさせることで、エンジン210のシリンダ内の残留既燃ガスを掃気することができる。エンジン210のシリンダ内の既燃ガスを掃気することで、新気をより多くシリンダ内に吸入することができるだけでなく、シリンダ内のガスの温度を低下させることができる。これにより、不正燃焼であるノッキングを防止することができる。
以上の効果から、低回転速度かつ高負荷の運転領域で、吸気バルブ211および排気バルブ212のリフトパターンをオーバーラップ条件OLCに設定することで、ターボ過給機202を備えたエンジンシステム200におけるエンジン210の加速性を大幅に向上させることができる。
図11に示すように、低回転速度かつ低負荷(低充填効率)の運転領域では、デフォルト条件DEFを基準として、吸気バルブ211を遅角するとともに、排気バルブ212を遅角させ、吸排気遅閉じ条件DELに設定する。このように、内燃機関の制御装置100によって吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構を制御することで、実効圧縮比の減少と膨張比の増加によるミラーサイクルを実現でき、エンジン210の熱効率を向上させることができる。
また、図11に示すように、高回転速度の運転領域においても、内燃機関の制御装置100によって、吸気バルブ211および吸気バルブ211の可変動弁機構を、吸排気遅閉じ条件DELに設定する。高回転速度の運転領域では、吸気ガスの慣性効果により、吸気バルブ211および排気バルブ212の位相を遅角化するほど、エンジン210のシリンダ内の吸入空気量を増加させることができる。したがって、高回転速度の運転領域では、吸排気遅閉じ条件DELに設定することで、エンジン210の最大出力を向上させることができる。
以上のように、吸気バルブ211および排気バルブ212のリフトパターンの位相は、内燃機関の制御装置100により、エンジン210の回転速度RSおよび負荷Lに基づいて、可変動弁機構の操作量を制御することで、定常目標位相に制御される。しかしながら、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構は、応答遅れを伴うため、回転速度RSおよび負荷Lが同一の条件でも、直前の状態に応じて異なる位相を示す場合がある。
すなわち、吸気バルブ211が遅角状態に設定される低負荷の運転領域から、吸気バルブ211を遅角してオーバーラップ条件OLCに設定する高負荷の運転領域へ移行する加速状態では吸気バルブ211の動作に遅れが生じる。この吸気バルブ211の動作の遅れによって、エンジン210のシリンダ内へのEGRによる掃気が、定常目標状態まで十分に行われず、点火時期を過進角してしまい、ノッキングを生じるおそれがある。そのため、点火時期は、現在の吸気バルブ211および排気バルブ212の位相に応じて、適切に補正制御する必要がある。
本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、前述の図2に示す構成を備えることで、エンジン210の特定の変数Vとして、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量を用いることができる。これにより、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量に基づく現在の吸気バルブ211および排気バルブ212の位相に応じてエンジン210の点火時期を適切に補正制御することができる。
また、エンジンシステム200を構成する各種デバイスの目標制御量は、たとえば、エンジン210の冷却水の温度に基づいて異なる値が設定される。より具体的には、冷却水の温度は、エンジン210の始動直後に大気温のレベルから昇温し、暖気条件においてサーモスタットにより一定温度に制御される。冷却水の温度が低いときには、エンジン210のシリンダの壁面による熱損失が大きく、暖気条件と比較してノッキングが生じにくい。そのため、点火時期は、高負荷の条件でより進角側に補正されるように設定される。
図12は、本実施形態の内燃機関の制御装置100とは異なる比較形態の内燃機関の制御装置において用いられる補正マップ120a,120b,120c,120d,・・・の一例を示す図である。前述のように、エンジン210が基準条件以外の条件で運転される場合には、図4に示すような基準マップ120によって求められる点火時期を用いることができない。そのため、従来の内燃機関の制御装置は、たとえば、図4に示すような基準マップ120に加えて、図12に示すように、エンジン210の回転速度RSと、負荷Lである充填効率とに応じて、制御量CVである点火時期が規定された複数の補正マップ120a,120b,120c,120d,・・・を用いる必要がある。
より具体的には、図12に示す例において、補正マップ120aは、たとえば冷却水の温度に応じた補正マップであり、補正マップ120bは、たとえば、圧縮比すなわち可変圧縮比機構219の操作量に応じた補正マップである。また、補正マップ120cは、たとえばEGR率に応じた補正マップであり、補正マップ120dは、たとえば、吸気バルブ211および排気バルブ212の可変動弁機構の操作量に応じた補正マップである。また、従来の内燃機関の制御装置では、制御量CVの精度を向上させるために、補正マップとして、流動強化弁209の操作量、燃料のオクタン価、吸気温度、吸気湿度、燃料噴射時期、燃料噴射割合、空燃比などを考慮する必要がある。しかし、補正マップの数を増加させると、制御量CVの精度が向上する反面、内燃機関の制御装置が大規模化、複雑化するという課題がある。
図13Aから図13Cは、それぞれ、回転速度が同一で、圧縮比と冷却水の温度との少なくとも一方が異なる条件における充填効率と点火時期との関係を示すグラフである。図13Aは、基準条件における充填効率と点火時期との関係を示している。図13Bは、基準条件よりも高圧縮比の第1補正条件における充填効率と点火時期との関係を示している。図13Cは、基準条件よりも高圧縮比かつ冷却水の温度が高い第2補正条件における充填効率と点火時期との関係を示している。
図13Aに示す基準条件において、トレースノック時期TKLおよびMBTは、ノッキングを防止するために、エンジン210の負荷Lである充填効率が増加するほど遅角側に設定される。図13Bに示すように、基準条件よりも高圧縮比の第1補正条件のトレースノック時期TKL1とMBT(MBT1)は、ともに基準条件のトレースノック時期TKLおよびMBTよりも遅角側に設定される。これは、エンジン210のシリンダ内のガスの高温化および高圧化により、燃焼速度および自着火反応速度が促進されるからである。
また、図13Cに示すように、基準条件よりも高圧縮比かつ冷却水の温度が高い第2補正条件のトレースノック時期TKL2、基準条件のトレースノック時期TKLに対して、第1補正条件のトレースノック時期TKL1よりもさらに遅角側に設定される。また、第2補正条件のMBT(MBT2)は、基準条件のトレースノック時期TKLに対して、第1補正条件のトレースノック時期TKL1と同様に遅角側に設定される。これは、自着火反応速度促進に与える冷却水温の影響が、燃焼速度の促進効果に対して大きく表れることに起因している。
このように、エンジン210の回転速度RS、負荷L、およびその他の特定の変数Vが、エンジン210の制御量CVに対する補正量に与える影響は、変数Vによって変化する交互作用効果をもつ非線形性を呈する。そのため、エンジン210の制御量CVに対する補正量の演算では、各補正量の線形和で演算可能な部分と、交互作用を考慮した非線形関数による演算が必要な部分とに適切に分類することが重要である。
ここで、図2、および図3Aから図3Cに示すように、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、ニューラルネットワークモデル110は、入力層Li、中間層Lm、および出力層Loを備えた多層ニューラルネットワークモデルである。そして、入力層Liの各ユニットに、少なくとも、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vが設定され、中間層Lmの各ユニットに、重みw、バイアスb、および活性化関数y=f(x)が設定され、出力層Loのユニットに、制御量CVが設定されている。また、本実施形態の内燃機関の制御装置100において、ニューラルネットワークモデル110は、たとえば、中間層Lmの活性化関数y=f(x)としてロジスティック関数f_logが設定され、出力層Loの活性化関数y=f(x)として線形関数f_linが設定されている。
この構成により、エンジン210の運転状態を入力層Liに、MBT、トレースノックなどの点火時期を出力層Loにそれぞれ設定し、各ニューロンの重みwとバイアスbを教師あり機械学習することによって、入出力関係を近似することができる。したがって、本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、図12に示すような多数の補正マップ120a,120b,120c,120d,・・・を必要とせず、内燃機関の制御装置100の小規模化および簡略化と、制御量CVの高精度化とのトレードオフの関係を両立することができる。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、図2、図5Aから図5C、図6および図7に示すように、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vを入力とし、ニューラルネットワークモデル110の学習条件の範囲内であるか否かの指標を出力するロジスティック回帰型ニューラルネットワークモデルである判定ニューラルネットワークモデル130を備える。この判定ニューラルネットワークモデル130の中間層Lmおよび出力層Loの活性化関数y=f(x)としては、たとえばロジスティック関数l_logが設定される。そして判定ニューラルネットワークモデル130が学習条件の範囲外であることを示す指標を出力した場合に、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmの最終層を構成するユニットの値を、各々のユニットの最大値Maxおよび最小値Minに基づく上下限値の範囲に制限する。
このように、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110の学習領域である内挿領域IAの領域外(外挿領域EA)と判定される場合は、ニューラルネットワークモデル110の使用許可の範囲外とみなし、ニューラルネットワークモデル110の出力に上下限処理を施すことができる。したがって、本実施形態の内燃機関の制御装置100によれば、エンジン210の点火時期である制御量CVの補正を適切に実施することができる。
なお、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、たとえば、ニューラルネットワークモデル110の実行時に診断結果を出力する診断部を備えてもよい。この診断部は、ニューラルネットワークモデル110の中間層Lmのユニットの値と、中間層Lmの各々のユニットの最大値および最小値との比較に基づいて、ニューラルネットワークモデル110を診断する。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100は、前述のように、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vを入力とし、ニューラルネットワークモデル110の学習条件の範囲内であるか否かの指標を出力するロジスティック回帰型ニューラルネットワークモデルである判定ニューラルネットワークモデル130を備えている。この場合、実施形態1の内燃機関の制御装置100は、ニューラルネットワークモデル110の学習時に、判定ニューラルネットワークモデル130の学習を実行してもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、従来よりも点火時期の制御誤差を低減することが可能な内燃機関の制御装置100を提供することができる。
(実施形態2)
以下、図1、図3Aから図3C、図4から図6、および図8から図11を援用し、図14から図17を参照して、本開示に係る内燃機関の実施形態2を説明する。
図14は、本開示に係る内燃機関の制御装置の実施形態2を示す概略図である。本実施形態の内燃機関の制御装置100Aは、主に、ニューラルネットワークモデル110の数と、判定ニューラルネットワークモデル130に代えてニューラルネットワークモデル学習部140を有する点で、前述の実施形態1に係る内燃機関の制御装置100と異なっている。本実施形態の内燃機関の制御装置100Aのその他の点は、前述の実施形態1に係る内燃機関の制御装置100と同様であるので、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態の内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、二組以上の第1ニューラルネットワークモデル111A,111Bおよび第2ニューラルネットワークモデル112A,112Bを備えている。
一方の第1ニューラルネットワークモデル111Aは、たとえば、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの基準値VrAとしてのノックセンサ217または図示を省略する筒内圧力センサの出力を入力とし、制御量CVである点火時期を出力OUT1Aとして出力する。また、一方の第2ニューラルネットワークモデル112Aは、たとえば、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値VpAとしてのノックセンサ217または図示を省略する筒内圧力センサの出力を入力とし、制御量CVである点火時期を出力OUT2Aとして出力する。
他方の第1ニューラルネットワークモデル111Bは、たとえば、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの基準値VrBとしての図示を省略する筒内圧力センサまたはクランク角度センサ218の出力を入力とし、制御量CVである点火時期を出力OUT1Bとして出力する。また、他方の第2ニューラルネットワークモデル112Bは、たとえば、回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値VpBとしての図示を省略する筒内圧力センサまたはクランク角度センサ218の出力を入力とし、制御量CVである点火時期を出力OUT2Bとして出力する。
内燃機関の制御装置100Aは、基準マップ120の出力である制御量CVの基準値CVrに対する第1の補正量として、第1ニューラルネットワークモデル111Aの出力OUT1Aと第2ニューラルネットワークモデル112Aの出力OUT2Aとの差分ΔOUTAを算出する。また、内燃機関の制御装置100Aは、基準マップ120の出力である制御量CVの基準値CVrに対する第2の補正量として、第1ニューラルネットワークモデル111Bの出力OUT1Bと第2ニューラルネットワークモデル112Bの出力OUT2Bとの差分ΔOUTBを算出する。
内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、内燃機関であるエンジン210のノックセンサ217または筒内圧力センサの出力である特定の変数Vの現在値VpAに基づいて、最適点火時期であるトレースノック時期の教師データTDAを演算する。また、内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、エンジン210の筒内圧力センサまたはクランク角度センサ218の出力である特定の変数Vの現在値VpBに基づいて最適点火時期であるMBTの教師データTDBを演算する。
ニューラルネットワークモデル学習部140は、たとえば、モデル選定部141と、モデル学習部142とを備える。モデル選定部141は、たとえば、第1ニューラルネットワークモデル111Aの出力OUT1Aと第2ニューラルネットワークモデル112Aの出力OUT2Aとの差分ΔOUTAの絶対値を入力とする。また、モデル選定部141は、たとえば、第1ニューラルネットワークモデル111Bの出力OUT1Bと第2ニューラルネットワークモデル112Bの出力OUT2Bとの差分ΔOUTBの絶対値を入力とする。そして、モデル選定部141は、入力されたこれら差分ΔOUTAの絶対値および差分ΔOUTBの絶対値に基づいて、制御量CVに誤差を発生させる要因となっているニューラルネットワークモデル110を特定し、または各々のニューラルネットワークモデル110の寄与度を算出する。
モデル学習部142は、たとえば、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値VpAを入力変数に設定し、トレースノック時期を教師データTDAとして出力変数に設定する。これにより、モデル学習部142は、たとえば学習許可フラグFがONの場合に、モデル選定部141によって選定されたニューラルネットワークモデル110、たとえば、第1ニューラルネットワークモデル111Aおよび第2ニューラルネットワークモデル112Aの重みwとバイアスbを学習する。
また、モデル学習部142は、たとえば、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vの現在値VpBを入力変数に設定し、MBTを教師データTDBとして出力変数に設定する。これにより、モデル学習部142は、モデル選定部141によって選定されたニューラルネットワークモデル110、たとえば、第1ニューラルネットワークモデル111Bおよび第2ニューラルネットワークモデル112Bの重みwとバイアスbを学習する。
なお、モデル学習部142の学習アルゴリズムとしては、たとえば誤差逆伝播法を適用することができる。ニューラルネットワークモデル学習部140は、たとえば誤差逆伝播法で学習されたニューラルネットワークモデル110のパラメータである重みwとバイアスbを、モデル選定部141によって選定されたニューラルネットワークモデル110に反映させる。
ここで、図15Aおよび図15Bを参照して、内燃機関の制御装置100によるMBTの教師データTDBの取得方法の一例を説明する。図15Aは、図1に示す吸気マニホールド207およびエンジン210の周辺の拡大図である。図15Bの上のグラフは、横軸をクランク角度とし、縦軸を筒内圧力とするグラフであり、図15Bの下のグラフは、横軸をクランク角度とし、縦軸を熱発生率とするグラフである。
エンジン210の燃焼タイミングに関わる各種の物理量は、クランク角度に対するエンジン210のシリンダ内の圧力、すなわち筒内圧力に基づいて算出することができる。図15Bに示すように、筒内圧力の情報として筒内圧力が最大になる時期を規定することができ、その時期が、たとえば、上死点TDC後、約13度の近傍となるように点火時期を設定すると、熱効率が最大値を示す。
たとえば、現在の点火時期に対し、筒内圧力センサ217aによって計測された最大の筒内圧力となる時期θ1が目標とする時期θtよりも進角側にある場合には、MBTが真値に対して進角側に誤差を発生していると考えられる。この場合、誤差分Δθを加味したMBTを教師データTDBに設定する。遅角側の誤差についても同様の考え方で教師データTDBを設定することができる。
筒内圧力が最大になる時期以外のエンジン210の燃焼タイミングに関わる物理量としては、たとえば燃焼質量50%時期、90%時期などの燃焼質量割合時期、熱発生率ピークタイミング、瞬時トルクピークタイミングなどが挙げられる。熱発生率や燃焼質量割合は、筒内圧力センサ217aの検出値と、筒内容積すなわちエンジン210のシリンダの容積に基づいて、以下の式(3)で表される熱発生率演算式によって算出することができる。なお、式(3)において、Vはシリンダの容積、kは比熱比、pはシリンダ内の圧力(筒内圧力)、θはクランク角度である。瞬時トルクピークタイミングについては、クランク角度センサの時間変化挙動より導出することが可能である。
次に、図16Aから図16Cを参照して、内燃機関の制御装置100Aによるトレースノック時期の教師データTDAを取得方法の一例を説明する。図1に示すノックセンサ217の出力を用いてトレースノック時期の教師データTDAを取得する場合には、ノックセンサ217の出力に基づいて、ノッキングにともなうエンジン210のシリンダブロックの振動を検出する。このシリンダブロックの振動は、燃料噴射弁215の動作や、吸気バルブ211および排気バルブ212の動作に起因するノッキング以外の信号成分が含まれるため、検出ウィンドウを設定する。
図16Aは、図15Aに示す筒内圧力センサ217aを用いてトレースノック時期の教師データTDAを取得する方法を説明するグラフである。筒内圧力センサ217aの出力を用いてトレースノック時期の教師データTDAを取得する場合には、ノックによる異常な波形WAを検知するために、筒内圧力センサ217aの出力に対し、図16Bに示すように、正常な燃焼波形を除去するための高域通過フィルタによる処理を施す。
次に、前述の検出ウィンドウ内のノックセンサ217の出力または高域通過フィルタ処理が施された筒内圧力センサ217aの出力に対し、高速フーリエ変換などの信号処理を施す。これにより、図16Cに示すように、ノックセンサ217の出力または筒内圧力センサ217aの出力に対し、周波数ごとにパワーを算出し、ノック振動成分に関わる周波数のパワーの積算値からノック発生の有無とノック強度を算出することができる。
最後に、たとえば図16Dに示すようなノック強度に応じた点火時期のリタード量RETの関係に基づいて、現在の点火時期に対して真のトレースノックがどの時期に存在するかを知ることができる。この真のトレースノック時期を教師データTDAとしてニューラルネットワークモデル110のパラメータを学習することができる。
以下、図17を参照して本実施形態の内燃機関の制御装置100Aの動作を説明する。
図17は、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aの処理の流れを示すフローチャートである。
内燃機関の制御装置100Aは、まず、処理P1において、エンジンシステム200を構成する各種のセンサの出力に基づいて、内燃機関の制御装置100Aが出力する制御量CVに基づいて制御されたエンジン210の燃焼状態を検知する。
処理P1において、エンジン210の燃焼状態を検知するセンサとしては、たとえば、筒内圧力センサ217a、ノックセンサ217、クランク角度センサ218などを例示することができる。また、エンジン210の燃焼状態としては、シリンダ内の圧力が最大となる時期である最大筒内圧タイミングや、ノック強度を例示することができる。
次に、処理P2において、内燃機関の制御装置100Aは、制御量CVの誤差の発生を判定する。この処理P2において、内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、エンジン210の燃焼状態を示す数値が、あらかじめ設定された所定のしきい値以上になるような乖離状態を示した場合に誤差が発生したこと(YES)を判定し、処理P3を実行する。
一方、処理P2において、内燃機関の制御装置100Aが誤差が発生していないこと(NO)を判定すると、後述する処理P9を実行する。
処理P3において、内燃機関の制御装置100Aは、学習を行う条件であるか否かを判定する。たとえば、エンジンシステム200が過渡状態にある場合、ニューラルネットワークモデル110の学習が正常に実施できないことが想定される。そのため、この処理P3において、内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、エンジンシステム200が過渡状態にあると判定した場合に、ニューラルネットワークモデル110の学習が禁止されていること(NO)を判定し、後述する処理P9を実行する。一方、この処理P3において、内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、エンジンシステム200が定常状態にあると判定した場合に、ニューラルネットワークモデル110の学習が許可されていること(YES)を判定し、処理P4を実行する。
処理P4において、内燃機関の制御装置100Aは、ニューラルネットワークモデル110の出力層Loに設定する教師データTDA,TDBを演算する。トレースノック時期の教師データTDAとしては、前述の図16Dに示すように、ノック強度に対する点火時期の遅角量であるリタード量RETを現在のトレースノック時期に加味した目標点火時期θtを用いることができる。
また、MBTの教師データTDBとしては、現在の最大筒内圧タイミングと目標とする最大筒内圧タイミングとの差分、すなわち、図15Bに示す筒内圧力センサ217aによって計測された最大の筒内圧力となる時期θ1と、目標とする時期θtとの誤差分Δθを、現在のMBTに加味した値を用いることができる。なお、真のMBTを検出する方法としては、たとえば燃焼質量50%時期、90%時期などの燃焼質量割合時期、熱発生率ピークタイミング、瞬時トルクピークタイミングなどを用いることも可能である。
次に、処理P5において、内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、図14に示すモデル選定部141により、制御量CVである点火時期に誤差を発生しているニューラルネットワークモデル110を、補正量である差分ΔOUTA,ΔOUTBの絶対値の大小関係に基づいて特定し、または寄与度を算出する。
次に、処理P6から処理P8において、内燃機関の制御装置100Aは、ニューラルネットワークモデル学習部140により、ニューラルネットワークモデル110に対して、オンボード学習を実行する。ニューラルネットワークモデル110の入力層Liに、教師データとして、回転速度RS、負荷L(充填効率)、特定の変数Vの基準値VrA,VrBを設定し、同モデルの出力層Loにはセンサの検出値にもとづく真のMBT、トレースノック時期を設定する。ニューラルネットワークモデル110の学習アルゴリズムとしては、誤差逆伝播法を適用する。ニューラルネットワークモデル学習部140は、誤差逆伝播法で学習されたニューラルネットワークモデル110のパラメータ(重みwおよびバイアスb)を当該ニューラルネットワークモデル110へ反映し、処理P9を実行する。
処理P9において、内燃機関の制御装置100Aは、点火時期制御モデルを構成する各ニューラルネットワークモデル110に最新のパラメータを設定する。このように、ニューラルネットワークモデル110のパラメータを、エンジンシステム200を構成するセンサの出力に基づいてオンボードで学習することで、エンジン210およびエンジンシステム200の特性の経時変化や個体毎のばらつきに起因した定常的な制御誤差を適切に補正することができる。
次に、処理P10において、内燃機関の制御装置100Aは、ニューラルネットワークモデル110のパラメータをセンサの出力を用いてオンボードで学習した結果に基づいて、内燃機関、すなわち、エンジン210またはエンジンシステム200の特性の経時劣化の度合を診断する。たとえば、MBTが所定値よりも進角側に学習された場合には、燃焼速度が想定以上に緩慢化している異常状態または異常状態に至る予兆とみなすことができるため、内燃機関の制御装置100Aは、その予兆を通知するための診断結果を出力する。また、トレースノック時期が所定値よりも遅角側に学習された場合には、ノック発生が想定以上に顕著化している異常状態または異常状態に至る予兆とみなすことができるため、内燃機関の制御装置100Aは、その予兆を通知するための診断結果を出力する。
以上説明したように、本実施形態によれば、前述の実施形態1と同様に、従来よりも点火時期の制御誤差を低減することが可能な内燃機関の制御装置100Aを提供することができる。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aは、ニューラルネットワークモデル110の重みwとバイアスbを学習するためのニューラルネットワークモデル学習部140を備えている。さらに、内燃機関の制御装置100Aは、内燃機関であるエンジン210のノックセンサ217または筒内圧力センサ217aの出力に基づいて最適点火時期であるトレースノック時期の教師データTDAを演算する。そして、ニューラルネットワークモデル学習部140は、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vを入力変数に設定し、トレースノック時期を教師データTDAとして出力変数に設定する。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aは、ニューラルネットワークモデル110の重みwとバイアスbを学習するためのニューラルネットワークモデル学習部140を備えている。さらに、内燃機関の制御装置100Aは、内燃機関であるエンジン210の筒内圧力センサ217aまたはクランク角度センサ218の出力に基づいて最適点火時期であるMBTの教師データTDBを演算する。そして、ニューラルネットワークモデル学習部140は、少なくとも回転速度RS、負荷L、および特定の変数Vを入力変数に設定し、MBTを教師データTDBとして出力変数に設定する。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aにおいて、ニューラルネットワークモデル学習部140は、トレースノック時期がしきい値よりも遅角側に学習された場合に、異常状態または異常に至る予兆であることを診断し、診断結果を出力する。また、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aにおいて、ニューラルネットワークモデル学習部140は、MBTがしきい値よりも進角側に学習された場合に、異常状態または異常に至る予兆であることを診断し、診断結果を出力する。さらに、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aにおいて、ニューラルネットワークモデル学習部140は、内燃機関であるエンジン210またはエンジンシステム200が過渡状態であるか否かを判定し、過渡状態であると判定された場合に、学習を禁止する。
以上のような構成により、現在の点火時期の制御量CVにもとづいて内燃機関であるエンジン210が制御された際の燃焼状態を、筒内圧力センサ217a、ノックセンサ217、クランク角度センサ218などのセンサによって検知することができる。これにより、現在の制御量CVと真の制御状態との乖離度合を、間接的に検出することができる。また、補正パラメータである特定の変数V毎にニューラルネットワークモデル110を備え、補正量である差分ΔOUTA、差分ΔOUTBの絶対値の大小関係に基づいて学習対象とするニューラルネットワークモデル110を選定する構成とすることで、学習に要する演算負荷を低減することができる。
また、本実施形態の内燃機関の制御装置100Aは、たとえば、内燃機関であるエンジン210の燃焼状態を検知するセンサの出力と、補正量である差分ΔOUTA、差分ΔOUTBによって補正された制御量CVの基準値との差異がしきい値以上である場合に、補正量に基づいて学習対象となるニューラルネットワークモデル110を選定して学習を実行するニューラルネットワークモデル学習部140を備えてもよい。
以上、図面を用いて本開示に係る内燃機関の制御装置の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
たとえば、前述の実施形態では、ニューラルネットワークモデルの出力に最適点火時期(MBT時期またはトレースノック時期)を設定する構成としているが、本開示に係る内燃機関の制御装置はこれに限定されない。たとえば、ニューラルネットワークモデルの出力として、図示トルク、排ガス温度、排ガス組成を設定し、内燃機関の制御装置を推定手段として用いることもできる。