以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
-全体構成-
図1は、本実施形態に係る加減速度制御装置1を模式的に示すシステム構成図である。この加減速度制御装置1は、操作ストローク内に減速領域と加速領域とを有するアクセルペダル20の操作により加速制御および減速制御を行うことが可能なワンペダルモードと、アクセルペダル20の操作により加速制御を行い、且つ、ブレーキペダル30の操作により減速制御を行う通常モードと、を有していて、ユーザーによるスイッチ等の切替え操作に応じて、ワンペダルモードと通常モードとを切替え可能に構成されている。
なお、ワンペダルモードと通常モードとを切替える「スイッチ等の切替え操作」としては、インストゥルメントパネル(図示せず)に設けられたスイッチ(図示せず)の切替え操作や、Bレンジが選択されることでワンペダルモードとなる、シフトレンジの切替え操作等を挙げることができる。
加減速度制御装置1は、例えば電気自動車(図示せず)に搭載されるものであり、図1に示すように、目標加減速度演算装置10と、アクセルペダル20の操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ21と、ブレーキペダル30の操作量を検出するブレーキペダルポジションセンサ31と、車輪駆動用の電動モータ3(図3参照)を統括的に制御する駆動トルクマネージャ40と、電子制御ブレーキ5(図4参照)を統括的に制御するブレーキマネージャ50と、を備えている。目標加減速度演算装置10は、CAN(controller area network)などを介して、これらアクセルペダルポジションセンサ21、ブレーキペダルポジションセンサ31、駆動トルクマネージャ40およびブレーキマネージャ50と接続されている。
アクセルペダルポジションセンサ21は、アクセルペダル20の近傍に配設されている。アクセルペダルポジションセンサ21は、アクセルペダル20の踏み込みストローク量(以下、「アクセルペダル操作量Accp」ともいう。)に応じた電気信号を目標加減速度演算装置10に向けて出力するように構成されている。
ブレーキペダルポジションセンサ31は、ブレーキペダル30の近傍に配設されている。ブレーキペダルポジションセンサ31は、ブレーキペダル30の踏み込みストローク量(以下、「ブレーキペダル操作量Abp」ともいう。)に応じた電気信号を目標加減速度演算装置10に向けて出力するように構成されている。本実施形態のブレーキペダル30は、減速領域しかない通常のブレーキペダルと実質的に同一であるが、ワンペダルモードにおいては、後述の如く、アクセルペダル20の減速領域において発生可能な最大減速度よりも大きい減速度を発生させるために操作される。
図2は、目標加減速度演算装置10の一例を模式的に示す機能ブロック図である。目標加減速度演算装置10は、CPU(Central Processing Unit)を中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に、ROM(Read Only Memory)や、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)や、各種データの通信を行う入出力ポート等を含んでいる。ROMには、目標加減速度演算装置10が実行するプログラムやその際に必要な各種データ(例えば、後述する各種マップ)が記憶されている。
目標加減速度演算装置10には、アクセルペダルポジションセンサ21からアクセル操作量信号が入力される。目標加減速度演算装置10は、図2に示すように、AC-Gマップ処理部22において、アクセルペダル操作量Accp(%)と目標加減速度At(m/s2)との関係を定義したマップ(以下、「AC-Gマップ」という)(図5(a)参照)に従って、アクセルペダル操作量Accpに応じた目標加減速度Atを決定する。
このAC-Gマップ処理部22で決定された目標加減速度Atは、次の出力軸トルク変換部23において、出力軸トルクTos(N・m)に変換される。この出力軸トルクTosは、走行抵抗トルク演算部24にて演算された走行抵抗トルクTrr(N・m)と足し合わせられて、最終的な目標出力軸トルクTtos(N・m)として制駆動分配部26に入力される。
なお、走行抵抗トルクTrrは、走行抵抗トルク演算部24において、車速に基づいて算出してもよい。この際、走行抵抗トルクTrrは、路面μ(タイヤと道路の間の摩擦力)および/または道路勾配(道路の路面勾配)などの各種因子によって補正されてもよい。この場合には、路面μに影響を与え得る雨や雪などの天気情報が併せて考慮されてもよい。また、道路勾配についても、如何なる手法により検出されてもよく、例えば、ナビゲーション装置の地図データに含まれうる道路勾配情報を利用して検出されてもよいし、または、外部の情報提供センターから提供される道路勾配情報を利用して検出されてよい。
次の制駆動分配部26では、目標出力軸トルクTtosを駆動出力軸トルクと制動出力軸トルクとに分配し、当該目標出力軸トルクTtosを実現する目標駆動出力軸トルクTtdos(N・m)と目標制動出力軸トルクTtbos(N・m)を決定する。このようにして得られた目標駆動出力軸トルクTtdosは、駆動トルクマネージャ40に入力される。
目標制動出力軸トルクTtbosは、車輪軸トルク変換部28にて目標制動車輪軸トルクTtbws(N・m)に変換され、制動トルク調停部36を経てブレーキマネージャ50に入力される。制動トルク調停部36では、アクセルペダル20の減速領域における目標制動車輪軸トルクTtbwsと、ブレーキペダル30の操作による要求制動トルクTrb(N・m)との調停が行われ、最終的な目標制動トルクTbt(N・m)が決定される。このようにして得られた目標制動トルクTbtは、ブレーキマネージャ50に入力される。
なお、要求制動トルクTrbは、BS-Gマップ処理部32で決定される目標減速度Gt(m/s2)を制動トルク変換部34にて制動トルクに変換することで得られる。目標減速度Gtは、BS-Gマップ処理部32において、ブレーキペダル操作量Abp(mm)と目標減速度Gtとの関係を定義したBS-Gマップ(図6参照)に従って決定される。なお、制動トルク調停部36における調停態様、および、BS-Gマップ処理部32で用いられるBS-Gマップの詳細については後述する。
図3は、駆動トルクマネージャ40の一例を模式的に示す機能ブロック図である。駆動トルクマネージャ40は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に、ROMや、RAMや、各種データの通信を行う入出力ポート等を含んでいる。駆動トルクマネージャ40では、図3に示すように、目標モータトルク演算部41において、目標駆動出力軸トルクTtdosに応じた目標モータトルクTtm(N・m)が決定され、当該目標モータトルクTtmに基づいて、電動モータ3の制御が実行される。
図4は、ブレーキマネージャ50の一例を模式的に示す機能ブロック図である。ブレーキマネージャ50は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に、ROMや、RAMや、各種データの通信を行う入出力ポート等を含んでいる。ブレーキマネージャ50では、図4に示すように、目標各輪制動圧演算部51において目標制動トルクTbtに応じた目標制動圧Ptbが演算され、制動圧制御ブロック53を介して電子制御ブレーキ5の制御が実行される。
なお、電子制御ブレーキ5としては、電動モータ駆動式のマスタシリンダや、電動モータ駆動式のVSC(Vehicle Stability Control)アクチュエータや、電動モータ3の回生ブレーキ等を挙げることができる。
-AC-Gマップ-
図5は、AC-Gマップ処理部で用いられるAC-Gマップを模式的に示す図であり、同図(a)はワンペダルモードにおけるAC-Gマップであり、同図(b)は通常モードにおけるAC-Gマップである。
〈ワンペダルモード〉
図5(a)に示すワンペダルモード用のAC-Gマップには、0≦アクセルペダル操作量Accp<AC1の範囲(アクセルペダル20の浅い操作領域)において減速領域(目標加減速度At<0)が設けられ、AC2≦アクセルペダル操作量Accpの範囲(アクセルペダル20の深い操作領域)において加速領域(目標加減速度At>0)が設けられている。また、AC1≦アクセルペダル操作量Accp<AC2の範囲において、目標加減速度Atが0となる不感帯領域が設けられている。すなわち、減速領域と加速領域との間には、図5(a)に示すように、境界領域として不感帯領域が設けられている。
なお、不感帯領域を設定することは任意である。不感帯領域を設定した場合、不感帯領域では、アクセルペダル操作量Accpの変化と共に目標加減速度Atが緩やか変化するか若しくは全く変化しないので、アクセルペダル操作量Accpの変化に対する目標加減速度Atの変化量が小さくなり、アクセルペダル20の僅かな操作に過敏に応答することが防止される。
アクセルペダル20の非操作位置(アクセルペダル操作量Accp=0)は、減速領域に属している。そして、減速領域は、アクセルペダル20の非操作位置で最も大きな減速度が発生するように設定されており、図5(a)に示す例では、アクセルペダル20の非操作位置に対して最大目標減速度G1maxが設定されている。減速領域および加速領域では、図5(a)に示すように、アクセルペダル操作量Accpに対する目標加減速度Atの変化勾配が0より十分大きい所定の値(ただし、一定勾配である必要はなく、可変値でもよい)に設定される。一方、不感帯領域では、目標加減速度Atの変化勾配が略0に設定されている。
このように、ワンペダルモードでは、1つのペダル(アクセルペダル20)に対する操作により車両の加速のみならず減速も実現されるので、制動操作時にアクセルペダル20からブレーキペダル30への踏み変えが必要な一般的な構成に比して、空走距離を低減して車両の制動能力を高めることができる。これにより、例えば山道の走行中や渋滞中など、加速操作と減速操作とを頻繁に繰り返すような走行環境に対して好適である。
また、ワンペダルモードでは、図5(a)に示すように、不感帯領域において目標加減速度Atの変化勾配が0に設定された場合には、アクセルペダル20がある程度操作されても、AC1≦アクセルペダル操作量Accp<AC2の範囲内であれば、車両の加減速度が実質的に変化しないので、定常走行(比較的長時間に亘る一定速度走行)が可能な走行環境に対しても好適である。
〈通常モード〉
これに対し、通常モード用のAC-Gマップには、アクセルペダル操作量Accpの全ての範囲(アクセルペダル20の全ストローク)に亘って加速領域(目標加減速度At>0)が設定されており、アクセルペダル操作量Accpの上昇に従って目標加減速度Atが上昇していく。
それ故、アクセルペダル20の非操作位置では、加速度=0および減速度=0が発生することになる。つまり、本実施形態では、ワンペダルモードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する減速度(惰行減速度)が、通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する減速度(惰行減速度)よりも大きな値に設定されている。
なお、通常モードにおいては、目標加減速度演算装置10は、図2に示すのと同様に、AC-Gマップ処理部22において、通常モード用のAC-Gマップに従って、アクセルペダル操作量Accpに応じた目標加減速度Atを決定する。目標加減速度Atは、続く出力軸トルク変換部23において、出力軸トルクTosに変換される。この出力軸トルクTosは、走行抵抗トルク演算部24にて演算された走行抵抗トルクTrrと足し合わせられ、最終的な目標出力軸トルクTtosとして制駆動分配部26に入力される。このようにして得られた目標出力軸トルクTtosは、ワンペダルモードとは異なり、制駆動分配部26による分配を介さずに、そのまま目標駆動出力軸トルクTtdosとして駆動トルクマネージャ40に入力される。なお、駆動トルクマネージャ40の処理については上述と同様であるので説明を省略する。
また、通常モードでは、目標加減速度演算装置10は、図2に示すのと同様に、BS-Gマップ処理部32において、ブレーキペダル操作量Abpと目標減速度Gtとの関係を定義したBS-Gマップに従って、目標減速度Gtを決定する。目標減速度Gtは、制動トルク変換部34にて要求制動トルクTrbに変換され、ワンペダルモードとは異なり、調停を介さずに、そのままブレーキマネージャ50に入力される。この入力を受けた際のブレーキマネージャ50の処理については上述と同様であるので説明を省略する。
このように、通常モードでは、ユーザーは、2つのペダル(アクセルペダル20およびブレーキペダル30)を踏み替えながら、加速操作または減速操作を行うことになる。通常モードでは、アクセルペダル20に付与された所定ストローク内に加速領域のみが設定されるので、同一ストローク内に加速領域および減速領域の双方が設定されるワンペダルモードに比して、アクセルペダル20の単位操作量当たりの目標加速度の変化勾配を小さくすることができる。したがって、通常モードでは、2つのペダルを踏み替えなければならない反面、アクセルペダル20またはブレーキペダル30の僅かな操作に過敏に応答して加速または減速が行われることがなく、それぞれのペダルの操作性は良好となる。この点から、通常モードは、例えば町乗り走行など、通常的な頻度で2つのペダルを踏み替えが生ずるような走行環境に対して好適である。
-BS-Gマップ-
図6は、BS-Gマップ処理部32で用いられるBS-Gマップの一例を模式的に示す図である。BS-Gマップには、図6に示すように、加速領域が実質的になく、ブレーキペダル操作量Abpの全ての範囲(ブレーキペダル30の全ストローク)に亘って減速領域(目標加減速度At≦0)が設定されている。ブレーキペダル操作量Abpが0では目標加減速度Atが実質的に0であり、ブレーキペダル操作量Abpの上昇に従って目標減速度Gtが上昇(目標加減速度Atが下降)していく。
ここで、図6に示すBS-Gマップと図5(a)に示すAC-Gマップと対比すると、BS-Gマップは、AC-Gマップにおける最大目標減速度G1maxよりも大きい最大目標減速度Gmaxを有している。これは、アクセルペダル20で発生可能な減速度よりも大きな減速度がブレーキペダル30により発生可能であること意味する。
本実施形態では、必要な減速度のダイナミックレンジをブレーキペダル30で賄うことで、アクセルペダル20が受け持つ減速範囲を小さくすることができるので(最大目標減速度G1maxを小さくすることができるので)、アクセルペダル20の僅かな操作での過敏な応答を防ぐことができ、これにより、アクセルペダル20の操作性が向上する。
ブレーキペダル30が操作されると、上述の如く、BS-Gマップ処理部32においてBS-Gマップに従って、ブレーキペダル操作量Abpに応じた目標減速度Gtが決定される。ブレーキペダル30が操作されている状態では、アクセルペダル20が操作されていないことになるが、この場合でも、ワンペダルモードでは、AC-Gマップ処理部22において、アクセルペダル操作量Accp=0に対応する最大目標減速度G1maxが決定される。これらの2つの目標減速度は、最終的に制動トルク調停部36での調停を経て、目標駆動出力軸トルクTtdosとして駆動トルクマネージャ40に入力される。
このように、本実施形態は、アクセルペダル20の非操作時に発生する減速要求とブレーキペダル30の操作により発生する減速要求とを調停する制動トルク調停部36を有するので、アクセルペダル20の非操作位置で発生する制動力を維持しつつ、ブレーキペダル30の操作により要求される制動力を発生させることができる。これにより、本実施形態では、非常時等のような急制動時、運転者がアクセルペダル20を離してブレーキペダル30を踏み込む過程において、アクセルペダル20を離してブレーキペダル30を踏み込むまでは、アクセルペダル20の非操作位置に対応する制動力が発生し、ブレーキペダル30を踏み込んでからは、当該ブレーキペダル30による制動力を発生させることができるので、高い制動力が発生するまでに空白期間がなく、制動能力が著しく向上する。
図7は、制動トルク調停部36において実現される調停態様を模式的に示す説明図である。図7には、運転者がアクセルペダル20を離してブレーキペダル30を踏み込む過程における目標減速度Gtの変化態様が時系列で示されており、図7(a)には、AC-Gマップに従って決定される目標減速度Gaの変化履歴が、アクセルペダル20の操作履歴と共に示されており、図7(b)には、BS-Gマップに従って決定される目標減速度Gbの変化履歴が、ブレーキペダル30の操作履歴と共に示されている。
図7(c)には、目標減速度Gaおよび目標減速度Gbに基づいて最終的に決定される最終目標減速度Gfの変化履歴が示されている。なお、図2に示す例では、制動トルク調停部36は、これらの目標減速度Gaおよび目標減速度Gbをトルク変換した後に調停しているが、図7(c)に示す最終目標減速度Gfの出力履歴と、制動トルク調停部36の目標駆動出力軸トルクTtdosの出力履歴とは、変換式で一対一の関係にあり、実質的な差異はない。したがって、以下の説明では、最終目標減速度Gfの変化態様は、制動トルク調停部36の調停態様を示しているものとして理解される。
図7では、時刻t0が、アクセルペダル20の踏み込みが解除される過程における、アクセルペダル20の操作量が減速領域に入った時点を、時刻t1が、アクセルペダル20の踏み込みが完全に解除された時点をそれぞれ表す。したがって、図7(a)に示すように、時刻t1までは、アクセルペダル操作量Accpの減少に伴って目標減速度Gaが増加し、アクセルペダル20の踏み込み解除時刻t1以降、アクセルペダル20からの減速要求である目標減速度Gaは、最大目標減速度G1maxで一定値となる。
また、図7では、時刻t2が、ブレーキペダル30の踏み込みが開始された時点を、時刻t3が、目標減速度Gbが目標減速度Gaを上回った時点を、時刻t4が、ブレーキペダル30のある一定位置までの踏み込みが完了した時点をそれぞれ表している。図7(b)に示すように、時刻t2から、ブレーキペダル30からの減速要求である目標減速度Gbが発生し始め、その後の更なるブレーキペダル操作に伴って目標減速度Gbが徐々に増加し、時刻t4からブレーキペダル操作が解除されるまで(解除時点は図示せず)一定値に維持される。
制動トルク調停部36は、2つの目標減速度Gaおよび目標減速度Gbの和を最終目標減速度Gfとして決定する(すなわち、Gf=Ga+Gb)。したがって、本実施形態では、図7(c)で実線にて示すように、目標減速度Gbが発生し始める時刻t2以降は、ブレーキペダル30の操作による目標減速度Gbと、アクセルペダル20の非操作位置に係る目標減速度Gaとを足し合わせたものが、最終目標減速度Gfとして決定される。
-モード連動切替え制御-
図11および図12は、ワンペダルモードでの目標減速度と通常モードでの目標減速度との関係を模式的に示す説明図である。なお、図11(a)および図12(a)はアクセルペダル20による目標減速度を示し、図11(b)および図12(b)はブレーキペダル30による目標減速度を示し、図11(c)および図12(c)は最終目標減速度を示している。なお、図11では、ワンペダルモードを実線で、また通常モードを破線で示しているのに対し、図12では、逆に、ワンペダルモードを破線で、また通常モードを実線で示している。また、時刻t1はアクセルペダル20の踏み込みが完全に解除された時点を、時刻t2はブレーキペダル30の踏み込みが開始された時点を、時刻t4はブレーキペダル30の踏み込みが完了した時点を、それぞれ示している。
上述の如く、本実施形態では、ワンペダルモードは、アクセルペダル20の深い操作領域で加速制御を行う一方、浅い操作領域で減速制御を行うとともに、アクセルペダル20を離した非操作位置で最大目標減速度G1maxが発生するように構成されている。また、ワンペダルモードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する減速度は、通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する減速度(=0)よりも大きな値に設定されている。換言すると、ワンペダルモードにおける惰行減速度は高く、通常モードにおける惰行減速度は低く設定されている。さらに、アクセルペダル20の操作だけで全減速度領域に対応する減速度を出力することは困難であることから、ワンペダルモードにおいても、上述の如く、ブレーキペダル30の操作にて減速度をサポートするようにしている。
しかしながら、ブレーキペダル30の操作により発生する制動力は、ワンペダルモードであろうと、通常モードであろうと、同じ大きさに設定されるのが一般的である。このため、ワンペダルモードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する相対的に大きな減速度を基準として、ブレーキペダル30の操作によるサポート(制動力)を小さく設定すると、通常モードではブレーキの効きが弱いと感じるため、ユーザーに不安感や違和感を与えるおそれがある。
具体的には、図11(a)に示すアクセルペダル20による目標減速度を基準として、図11(b)に示すように、ブレーキペダル30による目標減速度を相対的に小さく設定すると、ワンペダルモードについては図11(c)の実線で示すような最終目標減速度が生じる一方、通常モードについては図11(c)の破線で示すような最終目標減速度が生じることになる。この場合、ワンペダルモードでは例えば時刻t3において最適な目標減速度G0が生じたとしても、通常モードでは同じ時刻t3において目標減速度G0よりも小さい目標減速度Gnしか生じないため、ユーザーがブレーキの効きが弱いと感じてしまい、不安感や違和感を覚えてしまうのである。
逆に、通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する相対的に小さな減速度を基準として、ブレーキペダル30の操作によるサポート(制動力)を大きく設定すると、ワンペダルモードではブレーキが効き過ぎるため、コントロール性が悪化するおそれがある。
具体的には、通常モードにおけるアクセルペダル20による目標減速度(=0)を基準として、図12(b)に示すように、ブレーキペダル30による目標減速度を相対的に大きく設定すると、通常モードについては図12(c)の実線で示すような最終目標減速度が生じる一方、ワンペダルモードについては図12(c)の破線で示すような最終目標減速度が生じることになる。この場合、通常モードでは例えば時刻t3において最適な目標減速度G0が生じたとしても、ワンペダルモードでは同じ時刻t3において目標減速度G0よりも大きい目標減速度G1が生じてしまうため、ブレーキが効き過ぎてしまい、コントロール性が悪化するのである。
そこで、本実施形態では、ブレーキペダル30の同じ操作量に対する、通常モードにおける目標減速度を、ワンペダルモードにおける目標減速度よりも大きな値に設定するように、BS-Gマップ処理部32を構成している。
具体的には、目標加減速度演算装置10のROMには、図8に示すように、BS-Gマップとして、ワンペダルモードに対応する目標減速度MAP1と、通常モードに対応する目標減速度MAP2という2種類のマップが記憶されており、BS-Gマップ処理部32は、アクセルペダル20の踏み込みが解除された際に選択されているモードに応じて、ブレーキペダル30の操作時に参照するマップを切替えるように構成されている。
なお、図8は、ブレーキペダル操作量Abpの上昇に従って目標減速度Gtが上昇していくように描かれている。また、図8に示すように、通常モードに対応する目標減速度MAP2は、ブレーキペダル操作量Abpの全域において、ワンペダルモードに対応する目標減速度MAP1よりも大きな値に設定されている。
このような構成により、ワンペダルモードにおいて、ユーザーがアクセルペダル20を離すとともにブレーキペダル30を踏んだ場合には、ワンペダルモードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する相対的に大きな減速度に対し、相対的に小さな値に設定された目標減速度MAP1に基づく減速度が付加されることになる。このように、ワンペダルモードにおけるアクセルペダル20の非操作による相対的に大きな減速度に対し、ブレーキペダル操作による相対的に小さな減速度が付加されることから、ブレーキが効き過ぎることがなく、高いコントロール性を提供することができる。
他方、通常モードにおいて、ユーザーがアクセルペダル20を離すとともにブレーキペダル30を踏んだ場合には、通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する相対的に小さな減速度(=0)に対し、相対的に大きな値に設定された目標減速度MAP2に基づく減速度が付加されることになる。このように、通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作による相対的に小さな減速度(=0)に対し、ブレーキペダル操作による相対的に大きな減速度が付加されることから、ブレーキの効きが弱いと感じることがなく、ユーザーに安心感を提供することができる。
しかも、ワンペダルモードおよび通常モードにおけるアクセルペダル20の非操作位置で発生する減速度を検出し、それに応じてブレーキペダル30の操作による目標減速度Gtを決定するのではなく、選択されたモードに応じてブレーキペダル30の操作による目標減速度Gtを決定することから、制御を簡略化することができる。
なお、請求項との関係では、本実施形態の目標加減速度演算装置10が、「ブレーキペダルの操作量に応じて目標減速度を決定する目標減速度決定手段」に相当する。
-制御ルーチン-
次に、本実施形態におけるモード連動切替え制御の手順を図9のフローチャートに沿って説明する。なお、図9に示すフローチャートは、イグニッションONでSTARTとし、イグニッションOFFになるまで繰り返される。
先ず、ステップS1では、目標加減速度演算装置10が、ブレーキONか否か、すなわち、ブレーキペダル30が踏み込まれたか否かを判定する。このステップS1での判定がNOの場合には、そのままRETURNする。一方、このステップS1での判定がYESの場合には、次のステップS2に進む。
次のステップS2では、目標加減速度演算装置10が、現在のモード(アクセルペダル20の踏み込みが解除された時点、または、ブレーキペダル30が踏み込まれた時点での選択されているモード)がワンペダルモードか否かを判定する。具体的には、目標加減速度演算装置10は、インストゥルメントパネルに設けられたスイッチの操作位置や、シフトレンジがBレンジになっているか否か等により、ワンペダルモードか否かを判定する。このステップS2での判定がYESの場合、すなわち、ワンペダルモードが選択されている場合には、ステップS3に進む。
次のステップS3では、目標加減速度演算装置10(BS-Gマップ処理部32)が、ブレーキペダル操作量Abpの全域において目標減速度MAP2よりも小さく設定されている、ワンペダルモード(惰行減速度(高))に対応する目標減速度MAP1を選択し、ステップS4へ進む。
次のステップS4では、目標加減速度演算装置10(BS-Gマップ処理部32)が、ステップS3で選択された目標減速度MAP1に従い、ブレーキペダル操作量Abpに基づいて目標減速度Gtを決定した後、ステップS5へ進む。次のステップS5では、目標加減速度演算装置10(制動トルク変換部34)が、ステップS4で決定された目標減速度Gtを要求制動トルクTrbに変換した後、ステップS6へ進む。
次のステップS6では、目標加減速度演算装置10(制動トルク調停部36)が、アクセルペダル20の減速領域における目標制動車輪軸トルクTtbwsと、ステップS5で変換された、ブレーキペダル30の操作による要求制動トルクTrbとの調停を行い、ステップS7において最終的な目標制動トルクTbtを決定した後、ステップS8に進む。
これらに対し、ステップS2での判定がNOの場合、すなわち、通常モードが選択されている場合には、ステップS11に進む。次のステップS11では、目標加減速度演算装置10(BS-Gマップ処理部32)が、ブレーキペダル操作量Abpの全域において目標減速度MAP1よりも大きく設定されている、通常モード(惰行減速度(低))に対応する目標減速度MAP2を選択し、ステップS12へ進む。
次のステップS12では、目標加減速度演算装置10(BS-Gマップ処理部32)が、ステップS11で選択された目標減速度MAP2に従い、ブレーキペダル操作量Abpに基づいて目標減速度Gtを決定した後、ステップS13へ進む。
次のステップS13では、目標加減速度演算装置10(制動トルク変換部34)が、ステップS12で決定された目標減速度Gtを要求制動トルクTrbに変換した後、ステップS8に進む。なお、通常モードの場合には、調停が行われないので、変換された要求制動トルクTrbが最終的な目標制動トルクTbtとなる。
次のステップS8では、ブレーキマネージャ50(目標各輪制動圧演算部51)が、ステップS7またはステップS13において決定された目標制動トルクTbtに応じた目標制動圧Ptbを算出した後、ステップS9へ進む。
次のステップS9では、ブレーキマネージャ50(制動圧制御ブロック53)が、目標制動圧Ptbを電子制御ブレーキ5へ出力した後、ステップS10へ進み、電子制御ブレーキ5が減速度を発生させた後、RETURNする。
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
上記実施形態では、電気自動車に本発明を適用したが、これに限らず、例えばハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両、エンジン車両等に本発明を適用してもよい。
また、上記実施形態では、惰行減速度(高)と惰行減速度(低)との2水準としたが、これに限らず、例えば3水準以上の惰行減速度を設定してもよい。例えば、惰行減速度(高)と惰行減速度(中)と惰行減速度(低)との3水準とする場合には、図10に示すように、ブレーキペダル操作量Abpの全域において、目標減速度MAP3と、目標減速度MAP3よりも小さく設定されている目標減速度MAP2と、目標減速度MAP2よりも小さく設定されている目標減速度MAP1という3種類のマップを設定する。そうして、惰行減速度(高)には目標減速度MAP1を、惰行減速度(中)には目標減速度MAP2を、惰行減速度(低)には目標減速度MAP3を、といった具合に、惰行減速度の高低と目標減速度MAPの大小とを反比例させればよい。
さらに、上記実施形態では、電子制御ブレーキ5のみを含むブレーキシステムに本発明を適用したが、これに限らず、例えば、従来の負圧型ブレーキ装置を含むブレーキシステムに本発明を適用してもよい。この場合には、例えば、負圧型ブレーキ装置の特性(減速度)を、ワンペダルモード(惰行減速度(高))に合わせてチューニングするとともに、通常モード(惰行減速度(低))では、ユーザーによるペダル操作量に合わせて、VSCアクチュエータを作動させて、キャリパ(図示せず)へ作用させる油圧を助勢するようにすればよい。
また、電子制御ブレーキ5に代えて、トラック等で採用されている圧縮エアを用いたブレーキ助勢システムを採用してもよい。この場合には、例えば、圧縮エアを送る量を規定するマップ等を、ワンペダルモードと通常モードとで変えることで、上記実施形態と同様の制御が可能となる。
さらに、上記実施形態では、ブレーキペダルポジションセンサ31でブレーキペダル30の操作量を検出するようにしたが、これに限らず、例えば、マスタシリンダ(図示せず)のストロークに応じた信号を出力するマスタシリンダストロークセンサや、マスタシリンダ圧を検出する油圧センサや、ブレーキペダル30の踏面に掛かる踏力を検出する踏力センサ等でブレーキペダル30の操作量を検出するようにしてもよい。
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。