以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
本実施形態における車両のブレーキ装置1は、図1に示すように、マスタシリンダ2、ブレーキブースタ3、ホイールシリンダ4、ブレーキアクチュエータ5及びリザーバタンク6を備えている。マスタシリンダ2は、シリンダ本体21、及び、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23と、を含んで構成されている。ブレーキブースタ3は、例えば、負圧式の倍力装置であり、運転者による踏力を倍力して第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に伝達する。リザーバタンク6は、シリンダ本体21に対して、シール部材(例えば、Oリング等)により、液密に組み付けられている。
ホイールシリンダ4は、各輪に設けられたホイールシリンダ41、ホイールシリンダ42、ホイールシリンダ43及びホイールシリンダ44から構成される。各ホイールシリンダ41~44は、ブレーキアクチュエータ5(以下、単に「アクチュエータ5」とも称呼する。)を介して、マスタシリンダ2に接続されている。ホイールシリンダ41は、車両の左後輪RLに配置されている。ホイールシリンダ42は、車両の右後輪RRに配置されている。ホイールシリンダ43は、車両の左前輪FLに配置されている。ホイールシリンダ44は、車両の右前輪FRに配置されている。これにより、ホイールシリンダ4は、流体としてのブレーキフルードがマスタシリンダ2又は後述するポンプ100によって加圧されてアクチュエータ5を介して供給されると、左後輪RL、右後輪RR、左前輪FL及び右前輪FRに制動力を発生させる。
アクチュエータ5は、詳細な図示を省略するが、各ホイールシリンダ41~44に対応して設けられた管路、電磁弁及び逆止弁等を有している。これにより、アクチュエータ5は、図示を省略する制御装置(マイクロコンピュータ)によって電磁弁が連通状態又は遮断状態に切替制御されると、マスタシリンダ2によって加圧されたブレーキフルードを各ホイールシリンダ41~44に供給したり、内蔵するポンプ100によって加圧されたブレーキフルードを調圧して各ホイールシリンダ41~44に供給したりする。尚、アクチュエータ5の作動については、本発明に直接関係しないので、その詳細な説明を省略する。
車両のブレーキ装置1においては、運転者がブレーキペダル7を踏み込むと、マスタシリンダ2に気密的に連結された負圧式のブレーキブースタ3により踏力が倍力され、シリンダ本体21内の第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が押圧される。押圧された第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、例えば、車両前後方向(軸線方向)にて前方に向けて前進し、それぞれ、マスタシリンダ2(より詳しくはシリンダ本体21)の内部にリザーバタンク6から供給されたブレーキフルードを加圧する。これにより、マスタシリンダ2においては、マスタシリンダ圧が発生し、マスタシリンダ圧がアクチュエータ5を介して各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
又、車両のブレーキ装置1においては、例えば、自動ブレーキ機能の制動時や、走行中又は制動時の車両の挙動を修正するために、アクチュエータ5に内蔵したポンプ100を作動させる。これにより、ポンプ100は、例えば、自動ブレーキ機能の作動時においては、マスタシリンダ2を介してリザーバタンク6に貯留されているブレーキフルードを吸引し、吸引したブレーキフルードを加圧してポンプ圧を発生させる。そして、ポンプ圧は、アクチュエータ5によって調圧されて、各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
(1.ポンプ100の構成の詳細)
次に、ポンプ100の構成を詳細に説明する。ポンプ100は、所謂、ピストンポンプであり、図2に示すように、ポンプ100のハウジング101の内部に、第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とを設けて構成されている。ハウジング101には、第二ポンプ機構120の第二ポンプ室121に連通する吸入ポート102と、第一ポンプ室111に連通する吐出ポート103とが形成されている。
第一ポンプ機構110は、ハウジング101の内部に形成される容積が可変の第一ポンプ室111と、一端が第一ポンプ室111に臨みハウジング101の内部に軸線方向スライド可能に組み付けたピストン112と、第一ポンプ室111の入口部に設けた第一吸入口113と、第一ポンプ室111の出口部に設けた第一吐出口114と、を備えている。第一ポンプ機構110は、ピストン112の軸線方向スライドに伴って第一ポンプ室111の容積が増減することに応じて、第一吸入口113から流体であるブレーキフルードを第一ポンプ室111に吸入し第一吐出口114からブレーキフルードを吐出ポート103に吐出する。
第一ポンプ室111は、ハウジング101の内部に組み付けられたシリンダ部材115に形成されている。ピストン112は、一端側が、例えば、樹脂等で形成されてシリンダ部材115に液密に挿入され、他端側の外周はシール部材116によってハウジング101との間を液密にシールされている。又、ピストン112の外周には、後述する圧力維持機構130を構成する環状部材131の係脱部131aと係脱するように、大径とされた周状凸部112aが設けられている。
又、第一ポンプ機構110は、第一ポンプ室111の第一吸入口113に設けられた吸入弁と、第一ポンプ室111の第一吐出口114に設けられた吐出弁と、を備えている。尚、吸入弁及び吐出弁については、図2に示すように、周知の構造のボール弁であるため、これらの弁に関する詳細な説明は省略する。
又、第一ポンプ機構110は、ピストン112を駆動する偏心カム117と、ピストン112の復帰スプリング118と、を備えている。偏心カム117は、ハウジング101に設けられた大気室104に配置されている。偏心カム117は、駆動軸(図示省略)に取り付けられており、偏心カム117が駆動軸回りに回転することにより、ピストン112を第一ポンプ室111に向けて押し動かす。復帰スプリング118は、シリンダ部材115の内部に配置されている。復帰スプリング118は、偏心カム117によって第一ポンプ室111に向けて移動したピストン112を大気室104に向けて復帰させる。
従って、ピストン112は、偏心カム117及び復帰スプリング118によって軸線方向に往復運動する。そして、ピストン112が往復運動することにより、第一ポンプ室111の容積が増減し、ブレーキフルードの吸入及び吐出が行われる。尚、以下の説明において、第一ポンプ室111の容積が増加してブレーキフルードを吸入する工程を「吸入工程」と称し、第一ポンプ室111の容積が減少してブレーキフルードを吐出する工程を「吐出工程」と称呼する。
第二ポンプ機構120は、ハウジング101の内部における大径部101aに形成されて第二吸入口として機能する吸入ポート102と連通する第二ポンプ室121と、第二ポンプ室121と連通すると共に第一ポンプ機構110の第一ポンプ室111の第一吸入口113に連通する第二吐出口122と、第二ポンプ室121の内部に配された弁機構としての弁部123と、を備えている。ここで、第一ポンプ室111の内径d1及びピストン112の外径d3とする場合、第二ポンプ室121(より詳しくは、大径部101a)の内径d2を(d12+d32)1/2よりも大きく設定することにより、第二ポンプ室121の容積を第一ポンプ室111の最大容積よりも大きくすることができる。
弁部123は、後述する圧力維持機構130の環状部材131に設けられた支持部131bに支持されていて、第二ポンプ室121の軸線に沿って相対移動可能に組み付けられてピストン112の動きに追従可能な環状のフィードリング123aを備えている。フィードリング123aは、後述する圧力維持機構130のシール部材132と接離可能とされている。これにより、弁部123即ちフィードリング123aは、第二ポンプ室121の内部において、吸入ポート102(第二吸入口)側に吸入室121aを形成すると共に第二吐出口122側に吐出室121bを形成する。
弁部123は、吸入工程においてフィードリング123aが第一ポンプ室111の容積の増加に連動して第二ポンプ室121の軸線に沿って第二ポンプ室121即ちハウジング101に対して吐出室121b側へ相対移動することにより吐出室121bの容積が減少する際には、フィードリング123aとシール部材132とが当接して吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断する。一方、弁部123は、吐出工程においてフィードリング123aが第一ポンプ室111の容積の減少に連動して第二ポンプ室121の軸線に沿って第二ポンプ室121即ちハウジング101に対して吸入室121a側へ相対移動することにより吐出室121bの容積が増加する際には、フィードリング123aとシール部材132とが離間して吸入室121aと吐出室121bとを連通させる。
フィードリング123aは、耐油性のあるゴム材料や耐油性のある軟質樹脂等から形成されたカップシールであり、外周縁がハウジング101(大径部101a)の周壁面に接触してシールする。フィードリング123aは、図3に示すように、テーパ孔によって形成される内径拡大部123a1が設けられている。内径拡大部123a1を形成するテーパ孔は、後述する圧力維持機構130のシール部材132に対面する側が拡径した孔である。尚、フィードリング123aの吐出室121bに対面する側の内径は、圧力維持機構130の環状部材131の支持部131bの外径よりも大きくなるように設定されている。このように、フィードリング123aが内径拡大部123a1を有することにより、吸入室121aから吐出室121bにブレーキフルードが流れる際の流路の断面積が拡大され、その結果、吐出室121bに対するブレーキフルードの吸入抵抗を低減することができる。尚、フィードリング123aは、必ずしも内径拡大部123a1を有していなくても良い。
圧力維持機構130は、図2に示すように、環状部材131、シール部材132及び付勢部材としてのスプリング133を備えている。環状部材131及びシール部材132は、ピストン112に対して相対移動可能とされている。
環状部材131は、耐油性のある樹脂材料或いは金属材料から形成されており、図4に示すように、係脱部131a及び支持部131bを有している。係脱部131aは、ピストン112の外周に設けられた周状凸部112aに対して係脱可能とされている(図6及び図7を参照)。係脱部131aは、環状部材131の周方向に沿って離間して複数設けられている。互いに隣接する係脱部131aの間にはスリットが形成されており、吐出室121bから吐出されるブレーキフルードが第一ポンプ室111に向けて流れるようになっている。支持部131bは、弁部123のフィードリング123aの内径よりも小さい外径を有するようにテーパ状に形成されており、フィードリング123aを軸線に沿って相対移動可能となるように支持している。
シール部材132は、耐油性のあるゴム材料や耐油性のある軟質樹脂等から形成されており、図2に示すように、環状部材131に対して、第二ポンプ室121の吸入室121a側に配置されている。シール部材132は、図5に示すように、ピストン112の外周面(より詳しくは、周状凸部112aと同等の外径を有する大径部分の外周面)に締め代を有して組み付けられると共に、相対移動可能なフィードリング123aの内径拡大部123a1側の端部と接離するように形成されている。これにより、シール部材132はフィードリング123aと共に弁部123を構成する。
スプリング133は、環状部材131と共にシール部材132を、第二ポンプ室121の吐出室121bに向けて付勢する。これにより、環状部材131は係脱部131aがピストン112の周状凸部112aに押圧されると共にシール部材132はフィードリング123a及び環状部材131に対して押圧される。ここで、スプリング133の付勢力の大きさは、復帰スプリング118がピストン112を復帰させる際の付勢力の大きさよりも小さく設定されることが好ましい。
(2.ポンプ100の作動)
次に、ポンプ100の作動について、第一ポンプ機構110の第一ポンプ室111がブレーキフルードを吸入する吸入工程から説明する。吸入工程の開始時点においては、図2に示すように、前回の吐出工程により、ピストン112は、偏心カム117によってこれ以上第一ポンプ室111に向けて移動することができず、第一ポンプ室111の容積が最小容積となる地点である上死点に位置している。そして、ピストン112は、偏心カム117の回転と共に復帰スプリング118の付勢力が作用することによって偏心カム117に向けて、即ち、これ以上偏心カム117に向けて移動することができず、第一ポンプ室111の容積が最大となる地点である下死点(図7を参照)に向けて移動を開始する。これにより、第一ポンプ室111の容積は、ピストン112の下死点への移動に伴って、最小容積から増加し始める。
ピストン112が移動を開始すると、第二ポンプ機構120においては、図6に示すように、圧力維持機構130の環状部材131及びシール部材132がスプリング133の付勢力によって、ピストン112の下死点への移動に追従して移動する。一方、弁部123のフィードリング123aは、大径部101aに接触しているため、静止している。そして、シール部材132が下死点側に移動し、フィードリング123aに当接する。
即ち、この状態においては、図6に示すように、フィードリング123aとシール部材132とが接触して弁部123が閉状態になる。又、フィードリング123aの外周面が第二ポンプ室121(ハウジング101の大径部101a)の周壁面に接触しシールされ、且つ、シール部材132の内周面とピストン112の外周面とが接触しシールされていることにより、吸入室121aと吐出室121bとの連通が遮断される。
このように、吸入室121aと吐出室121bとの連通が遮断された状態において圧力維持機構130がフィードリング123aと共に下死点に向けたピストン112に追従して移動すると、吐出室121bに満たされたブレーキフルードは加圧される。そして、加圧されたブレーキフルードは、図6にて太矢印により示すように、加圧されて第二吐出口122から第一ポンプ機構110の第一吸入口113に向けて吐出される。第一ポンプ機構110においては、ピストン112の下死点への移動に伴って第一ポンプ室111の容積が増加して室内の圧力が低下することに加え加圧されたブレーキフルードが供給されることにより、第一吸入口113の吸入弁(ボール弁)が開状態になる。従って、第二ポンプ室121の吐出室121bから吐出されたブレーキフルードが第一ポンプ室111に吸入される。
尚、圧力維持機構130と共にフィードリング123aがピストン112に追従して移動することにより、第二ポンプ室121の吐出室121bの容積が減少する一方で吸入室121aの容積は増加する。従って、吸入工程においては、吸入ポート102(第一吸入口)を介して、第二ポンプ室121の吸入室121aにブレーキフルードが吸入される。
そして、ピストン112の下死点に向けた移動が継続すると、第一ポンプ室111にブレーキフルードが満たされて、第二ポンプ室121の吐出室121bからブレーキフルードを吐出しにくくなる。このように、吐出室121bからブレーキフルードが吐出しにくい状態において吐出室121bの容積が減少する場合、吐出室121bの内部の圧力が増加する。これにより、吐出室121bの内部の圧力の増加に起因して発生する抗力が、吐出室121bの容積が減少する際に発生する押力即ちスプリング133の付勢力によって移動する圧力維持機構130のシール部材132及びフィードリング123a即ち弁部123に作用する。
そして、図7に示すように、吐出室121bの内部の圧力増加に起因して発生する抗力が発生すると、圧力維持機構130及びフィードリング123aはピストン112に追従することなくピストン112よりも遅れて移動する。つまり、圧力維持機構130及びフィードリング123aは、ピストン112に追従することなく、ピストン112の動きと独立してピストン112より遅い速度で移動する。これにより、吐出室121bの内部の圧力の増加速度は遅くなり、吐出室121bの内部を予め設定された所定圧力よりも小さい状態で維持する。
このとき、圧力維持機構130は、例えば、吐出室121bの圧力が所定圧力よりも大きくなる状況が生じた場合には、例えば、環状部材131及びシール部材132がフィードリング123aと共にスプリング133の付勢力に抗して下死点に向けての移動をより遅くし(停止する場合も含む)、即ち、必要に応じて吐出室121bの容積の減少をより遅らせることにより、吐出室121bの内部の圧力を所定圧力よりも小さい状態となるように維持することができる。即ち、圧力維持機構130は、吐出室121bの容積の減少を遅らせる容積徐変機構を有する。尚、所定圧力は、例えば、吐出室121bから第一ポンプ室111に向けてブレーキフルードを供給する際の必要圧力に応じて決定される。
ここで、ピストン112は、圧力維持機構130及びフィードリング123aの移動速度低下(停止する場合も含む)に拘わらず、下死点に向けて移動を継続している。従って、第一ポンプ室111の容積は最大容積に向けて増加を続けている。この場合、圧力維持機構130及びフィードリング123aによって吐出室121bの内部の圧力が所定圧力よりも小さい状態で維持されており、且つ、第一ポンプ室111の容積が増加を続けているため、吐出室121bから第一ポンプ室111に向けてブレーキフルードが供給される。従って、第一ポンプ室111には、ピストン112の下死点への移動に伴い、第一ポンプ室111の容積に応じた必要十分なブレーキフルードが供給される。そして、図7に示すように、ピストン112は、下死点までの移動を完了する。このように、ピストン112が下死点まで移動すると、第一ポンプ室111の容積は最大容積になっており、且つ、吐出室121bから吐出されたブレーキフルードで満たされた状態即ち充填された状態になる。つまり、吸入性能が向上する。
次に、第一ポンプ機構110の第一ポンプ室111に吸入したブレーキフルードを吐出ポート103から吐出する吐出工程について説明する。吐出工程においては、上述した吸入工程により、ピストン112は、図7に示すように、下死点に位置している。そして、ピストン112は、偏心カム117が回転することによって、下死点から上死点に向けて移動を開始する。これにより、第一ポンプ室111の容積は、ピストン112の上死点への移動に伴って、最大容積が減少し始める。
ここで、ピストン112が上死点に向けて移動することにより、ブレーキフルードが充填された第一ポンプ室111においてはブレーキフルードが加圧される。そして、ブレーキフルードが加圧されることにより、第一吐出口114の吐出弁(ボール弁)が開状態になる。従って、第一ポンプ室111の第一吐出口114から吐出されたブレーキフルードは、ハウジング101に設けられた吐出ポート103から各ホイールシリンダ41~44に吐出される。
このとき、第二ポンプ機構120においては、上述したように、第二ポンプ室121の吐出室121bの内部の圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持するため、図7に示すように、ピストン112の周状凸部112aに対して環状部材131の係脱部131aが離間した(脱した)状態になっている。又、フィードリング123aは、吐出室121bの内部の圧力によってシール部材132に当接しており、その結果、弁部123が閉状態に維持されている。
そして、ピストン112が上死点に向けて移動を継続すると、図6に示すように、ピストン112の周状凸部112aが圧力維持機構130の環状部材131の係脱部131aに当接する。これにより、環状部材131はスプリング133の付勢力に抗してシール部材132及びフィードリング123aを押圧し、圧力維持機構130及びフィードリング123aはピストン112の上死点に向けた移動に追従して移動を開始する。
ピストン112が上死点に向けて移動すると、周状凸部112aが係脱部131aに当接し、環状部材131及びシール部材132が上死点に向けて移動する。この際、フィードリング123aは、大径部101aに接触しているため静止している。その結果、フィードリング123aとシール部材132とが離間即ち弁部123が開状態になり、吸入室121aと吐出室121bとが連通する。更にピストン112が上死点に向けて移動すると、支持部131bとフィードリング123aとが当接する。これにより、フィードリング123aは、図2に示すように、ピストン112に追従して移動することができる。
これにより、図2にて太い矢印により示すように、大気圧である第二ポンプ室121の吸入室121aから容積の増加に伴って圧力の低下した吐出室121bに向けて、ブレーキフルードが環状部材131の支持部131bの外周とフィードリング123aの内周、より詳しくは、内径拡大部123a1との間に形成されている隙間を通して流入する。従って、吐出室121bには、吸入室121aからブレーキフルードが吸入される。
そして、図2に示すように、ピストン112が上死点までの移動を完了する。このように、ピストン112が上死点まで移動すると、第二ポンプ室121の吐出室121bは吸入室121aから吸入されたブレーキフルードで満たされた状態になる。ポンプ100は、上述した吸入工程及び吐出工程を繰り返し行う。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態のポンプ100は、容積が可変の第一ポンプ室111と、第一ポンプ室111に連通する第一吸入口113及び第一吐出口114と、を備え、第一ポンプ室111の容積の増減に応じて第一吸入口113から流体としての非圧縮性のブレーキフルードを吸入し第一吐出口114からブレーキフルードを吐出する第一ポンプ機構110と、第二ポンプ室121と、第二ポンプ室121に連通する第二吸入口としての吸入ポート102と、第二ポンプ室121に連通すると共に第一吸入口113に連通する第二吐出口122と、第二ポンプ室121の内部に配されて吸入ポート102側に吸入室121aを形成すると共に第二吐出口122側に吐出室121bを形成し、且つ、第一ポンプ室111の容積の増加に連動して第二ポンプ室121の軸線に沿って相対移動可能であり、吐出室121b側へ相対移動することによって吐出室121bの容積が減少する際には吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断し、第一ポンプ室111の容積の減少に連動して吸入室121a側へ相対移動することによって吐出室121bの容積が増加する際には吸入室121aと吐出室121bとを連通させる弁機構としての弁部123(フィードリング123a)と、を備えた第二ポンプ機構120と、が、設けられ、第一ポンプ室111の容積が増加する吸入工程において、弁部123のフィードリング123aが吐出室121b側へ相対移動して吸入ポート102から吸入室121aへブレーキフルードを吸入し且つ吐出室121bから第二吐出口122及び第一吸入口113を介して第一ポンプ室111へブレーキフルードを充填し、第一ポンプ室111の容積が減少する吐出工程において、第一吐出口114からブレーキフルードを吐出すると共に弁部123のフィードリング123aが吸入室121a側へ相対移動して吸入室121aから吐出室121bへブレーキフルードを流入させるポンプである。
ポンプ100は、吸入工程において第一ポンプ室111及び吐出室121bが流体によって満たされた状態で、第一ポンプ室111の容積が増加する動きに連動して弁部123のフィードリング123aが吐出室121bの容積を減少させるときに、吐出室121bの容積を減少させるために発生する押力に対し、吐出室121bの圧力の上昇によって発生して弁部123に作用する抗力が押力よりも小さくなるように、吐出室121bにおける圧力を押力に対応する所定圧力よりも小さい状態で維持する圧力維持機構130を備える。
この場合、より具体的には、弁部123は、第一ポンプ室111の容積を増減するように移動するピストン112と、ピストン112の動きに連動し、且つ、ピストン112に対して軸線に沿って相対移動可能なフィードリング123aと、フィードリング123aと接離可能に設けられた圧力維持機構130のシール部材132と、シール部材132とフィードリング123aとを当接させるべく、シール部材132(環状部材131を含む)を軸線に沿って付勢する圧力維持機構130のスプリング133と、を有し、フィードリング123aとシール部材132、フィードリング123aと第二ポンプ室121を形成する大径部101aの周壁面、シール部材132とピストン112とがそれぞれ接触することで吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断し、フィードリング123aとシール部材132とが離れることで吸入室121aと吐出室121bとを連通させるものであって、吸入工程における吐出室121bの容積の減少に応じてフィードリング123aと圧力維持機構130のシール部材132(環状部材131を含む)とがピストン112の動きと独立することで、吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断した状態で、吐出室121bにおける圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持する。
これらによれば、吸入工程において、吐出室121bの容積が減少する際に発生する押力(スプリング133の付勢力)に対する抗力が押力よりも小さくなるように、圧力維持機構130が吐出室121bにおける圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持することができる。これにより、吸入工程において、弁部123のフィードリング123aの相対移動に拘わらずピストン112が下死点まで移動して、第一ポンプ室111は容積が最大容積まで増加してブレーキフルードを吸入することができ、その結果、吐出工程におけるブレーキフルードの吐出量が減少することを抑制することができる。
又、吸入工程において、ピストン112を上死点から下死点まで停止することなく確実に移動させることができる。これにより、ピストン112の他端側を回転する偏心カム117に常に接触させることができる。従って、例えば、ピストン112が停止した場合にはピストン112の他端側が偏心カム117から離れてしまう状態が生じ、回転している偏心カム117に再び接触する際の異音が発生するが、ポンプ100においてはこの異音の発生を防止することができる。
更に、第二ポンプ室121(より詳しくは、ハウジング101の大径部101a)の内径d2を(d12+d32)1/2よりも大きく設定することができる。これにより、第二ポンプ室121の容積の減少速度を遅くすることができ、その結果、第二ポンプ室121から第一ポンプ室111に向けて必要十分なブレーキフルードを吐出(供給)することができる。これにより、ピストン112が下死点に移動して第一ポンプ室111の容積が最大容積なったときにも、第一ポンプ室111の内部をブレーキフルードによって確実に満たすことができる。従って、ポンプ100からブレーキフルードを、例えば、各ホイールシリンダ41~44に対して供給する場合、ポンプ100から吐出する吐出量を十分に確保することができる。
又、この場合、圧力維持機構130は、吸入工程における吐出室121bの圧力が所定圧力まで上昇した場合、吐出室121bの容積の減少速度を遅くするように、スプリング133の付勢力に抗して環状部材131及びシール部材132が移動する容積徐変機構を有しており、吐出室121bにおける圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持することができる。
これにより、吸入工程において、圧力維持機構130は、吐出室121bにおける圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持することができる。従って、吸入工程において、弁部123のフィードリング123aの相対移動に拘わらずピストン112が独立して下死点まで移動して、第一ポンプ室111は容積が最大容積まで増加してブレーキフルードを吸入することができる。その結果、吐出工程におけるブレーキフルードの吐出量が減少することを抑制することができる。
更に、これらの場合、圧力維持機構130は、吸入工程における吐出室121bの圧力が所定圧力まで上昇した場合、第一ポンプ室111の容積の増加に対して弁部123のフィードリング123aの動きを独立させることにより、吐出室121bにおける圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持することができる。
これによれば、吸入工程において、ピストン112が下死点まで確実に移動することができる。従って、第一ポンプ室111は容積が最大容積まで増加してブレーキフルードを吸入することができ、その結果、吐出工程におけるブレーキフルードの吐出量が減少することを抑制することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、圧力維持機構130における環状部材131とシール部材132とをそれぞれ別体として設けるようにした。これに代えて、図8に示すように、環状部材131とシール部材132とを一体に設けることも可能である。
又、上記実施形態においては、例示的に、ポンプ100の一つのピストン112について説明するようにした。しかしながら、ポンプ100は、一つのピストン112に限られるものではなく、複数のピストン112を有する多気筒のポンプであっても良いことは言うまでもない。このように、ポンプ100を多気筒化した場合には、上述したように、それぞれのピストン112と偏心カム117との当接に起因する異音の発生が防止されるため、より静粛化を図ることができる。
又、上記実施形態においては、圧力維持機構130を環状部材131、シール部材132及びスプリング133から構成し、環状部材131の支持部131bがフィードリング123aを支持するように構成した。そして、圧力維持機構130が第二ポンプ室121の吐出室121bの圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持するように、吸入工程において、ピストン112の下死点への移動とは独立して吐出室121bの容積の減少速度を小さくするようにした。
しかしながら、圧力維持機構130を環状部材131、シール部材132及びスプリング133から構成することに代えて、例えば、吐出室121bにおける圧力の増減に対応して、実質的に吐出室121bの容積を増減させて圧力を維持可能な他の装置を吐出室121bに対してハウジング101の外部から連通して構成することも可能である。この場合、他の装置としては、例えば、アキュムレータやパルセーションダンパ等を挙げることができる。
このように、吐出室121bの容積を増減させる他の装置を用いた場合にも、吐出室121bの内部の圧力を所定圧力よりも小さい状態で維持することができる。従って、例えば、上記従来のポンプのように、摺動リング(フィードリング)がピストンに設けられた環状溝に相対移動可能に組み付けられており、摺動リング(フィードリング)の相対移動範囲が限られる場合、即ち、ピストンから独立して相対移動不能の場合においても、ピストンを下死点まで確実に移動させることが可能となる。従って、この場合においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。