上述の通り、本発明者らは、タングステン酸リチウムなどのWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が一次粒子の表面に存在する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質の母材である、リチウムニッケル含有複合酸化物自体に着目し、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を一次粒子の表面に存在させるのに適した、リチウムニッケル含有複合酸化物の性状、並びに、そのような性状を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物を得るための製造条件について、検討を鋭意行った。その結果、リチウムニッケル含有複合酸化物を作製するための焼成段階において、特定の温度範囲において物温保持時間を適切に制御することにより、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に存在し、余剰Liに相当するリチウム化合物量を適切に制御することができ、これにより、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成する際に、結晶中からのLiの引き抜きが生じることを防止して、電池特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができる、および、母材となるリチウムニッケル含有複合酸化物の余剰Li量が適切であるか否かの判定を、該リチウムニッケル含有複合酸化物のBET比表面積が、0.20m2/g~0.50m2/gの範囲にあるかにより簡易に確認できる、との知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
以下、本発明についてその態様ごとに詳細に説明する。
1.リチウムニッケル含有複合酸化物
本発明の第1の態様は、タングステン酸リチウムなどのWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が一次粒子の表面に存在する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物の母材である、リチウムニッケル含有複合酸化物に関する。
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、一次粒子および該一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、0.20m2/g~0.50m2/gの範囲のBET比表面積を有することを特徴とする。
[BET比表面積]
通常、最終的に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、余剰Li量、すなわち、水に溶出するLi量については、たとえばリチウムニッケル含有複合酸化物全体に対して0.2質量%以下とするなど、その低減化が図られている。しかしながら、上述のように、発明者らは、リチウムイオン二次電池用正極活物質の母材としてのリチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成する際の、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとの反応に着目し、母材となるリチウムニッケル含有複合酸化物における余剰Li量を適切に制御することにより、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとの反応において、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の内部に存在するLiが引き抜かれることなく、適切なWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成することが可能となるとの知見を得た。
本発明においては、リチウムイオン二次電池用正極活物質の母材となるリチウムニッケル含有複合酸化物における余剰Li量について、リチウムニッケル含有複合酸化物のBET比表面積により評価することを特徴としている。
BET比表面積が0.20m2/g未満であると、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に存在する余剰Liが不足するため、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとの反応に際して、結晶中からLiが引き抜かれることになる。
BET比表面積を0.20m2/g以上とすることにより、最終的に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池で、十分な放電容量と充放電効率が達成される。
一方、BET比表面積が0.50m2/gを超えると、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に存在する余剰Li量が過剰となり、すなわち、リチウムニッケル含有複合酸化物の合成において、ニッケル化合物とリチウム化合物の反応が十分に進行しなかったことになる。このため、最終的に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、Li席占有率が低下して、その結晶性が悪くなって、電池特性が悪化することとなる。
リチウムニッケル含有複合酸化物のBET比表面積は、0.25m2/g~0.45m2/gの範囲にあることが好ましく、0.30m2/g~0.45m2/gの範囲にあることがより好ましい。
BET比表面積は、たとえば、試料を窒素ガス下で所定の温度(100℃~120℃)で、所定時間(30分間~45分間)乾燥した後、BET比表面積測定装置を用いて測定することができる。
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の母材、すなわち、その一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子、あるいは、WおよびLiを含む化合物からなる被膜を形成するための母材であり、一次粒子および/または一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなる、かかる粒子性状は、本発明の第1の態様に記載された製造方法により得ることができる。
[組成]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、
一般式:LiaNi1-x―yCoxMyO2・・・(1)
(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.98≦a≦1.11、0<x≦0.15、0<y≦0.07、および、x+y≦0.16である。)
からなる組成を有することが好ましい。
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、六方晶系の層状化合物であり、上記一般式において、Ni含有量を示す(1-x-y)が、0.84以上、1未満である。
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、Ni含有量が多いほど、最終的に得られる正極活物質を使用した際の高容量化が可能となるが、Ni含有量が多くなり過ぎると、熱安定性が十分得られなくなり、焼成時にカチオンミキシングが発生しやすくなる。一方、Ni含有量が少なくなると、容量が低下し、正極の充填性を高めても電池容積当たりの容量が十分に得られないなどの問題も生じる。
したがって、リチウムニッケル含有複合酸化物のNi含有量は、0.84以上0.98以下とすることが好ましく、0.845以上0.950以下がより好ましく、0.85以上0.95以下がさらに好ましい。
Co含有量を示すxは、0<x≦0.15であり、好ましくは0.02≦x≦0.15、より好ましくは0.03≦x≦0.13である。
Co含有量が上記範囲にあることにより、最終的に得られる正極活物質において、優れたサイクル特性、熱安定性が得られる。Co含有量が増えることによって、正極活物質のサイクル特性を改善することができるが、Co含有量が0.15を超えると、正極活物質の高容量化が困難となる。
Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素Mの含有量を示すyは、0<y≦0.07であり、好ましくは、0.01≦y≦0.05である。Mの含有量が上記範囲であることにより、優れたサイクル特性、熱安定性が得られる。
yが0.07を超えると、正極活物質の高容量化が困難となる。添加元素Mが添加されない場合、電池特性の改善する効果を得ることができないので、電池特性の改善効果を十分に得るためには、yを0.01以上とすることが好ましい。
なお、Mとしては、少なくともAlが含まれ、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物において、Alの含有量を示すyが0.03~0.07であることが好ましい。
Li含有量を示すaは、0.95≦a≦1.03である。aが0.95未満になると、層状化合物におけるLi層にNiなどの金属元素が混入してLiの挿抜性が低下するため、Li席占有率の低下に伴って電池容量が低下するとともに、出力特性が悪化する。一方、aが1.03を超えると、層状化合物におけるメタル層にLiが混入するため、電池容量が低下する。
したがって、リチウムニッケル含有複合酸化物におけるLi含有量は、電池容量および出力特性を良好なものとするためには、0.95≦a≦1.03であり、0.95≦a≦1.01であることがより好ましい。
[c軸方向への格子定数の長さ]
ここで、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物におけるNi含有量は、0.84以上、好ましくは0.98以下であり、非常に高いNi含有量を有している。Ni含有量が高くなると、熱安定性の低下などの問題が生じるため、通常、Ni含有量は0.84よりも低く、一般的には0.80~0.83程度になるように調整される。
しかしながら、本発明では、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶を、X線回折のリートベルト解析を行うことによって得られるc軸方向への格子定数の長さ(以下、「c軸の長さ」という)を適切に制御することによって、高いニッケルの含有量を可能としている。
すなわち、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶のc軸の長さを、14.183Å以上、好ましくは14.185Å以上とすることによって、高いニッケル比率を可能としている。
また、本発明の六方晶系のリチウムニッケル含有複合酸化物の場合、c軸の長さは、結晶からのLiの挿抜性に影響を与える。一般的には、c軸の長さが長くなることにより、リチウム層の層間距離が増加するため、結晶からのLiの挿抜性が向上し、そのようなリチウムニッケル含有複合酸化物を母材とすることにより、高容量かつ高出力の正極活物質が得られる。
一方、c軸長さが14.183Å未満となるまで短くなると、結晶からのLiの挿抜性が低下するため、最終的に得られる正極活物質において、容量が低下し、出力も低くなる。また、カチオンミキシングによる結晶性の低下が生じるので、サイクル特性や熱安定性も劣化する。
c軸の長さの上限は特に限定されないが、その上限は14.205Å程度であり、本発明では、c軸の長さが14.183Å~14.205Åの範囲にあることが好ましい。
[平均粒径]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子(一次粒子および/または二次粒子)の体積基準の平均粒径MVは5μm~30μmの範囲にあることが好ましく、5μm~25μmの範囲にあることがより好ましく、8μm~20μmの範囲にあることがより好ましく、8μm~17μmの範囲にあることがさらに好ましい。
体積基準の平均粒径MVが5μm未満になると、電池の正極活物質として用いた際の正極における充填性が低下して、体積当たりの電池容量が低下することがある。一方、体積基準の平均粒径MVが30μmを超えると、正極活物質と電池の電解液との接触面積が減少して、電池容量や出力特性の低下が生じることがある。
したがって、体積基準の平均粒径MVを上述の範囲に制御することにより、最終的に得られる正極活物質において、電池容量や出力特性を維持しつつ、正極における充填性をさらに高めることができる。また、最終的に得られる正極活物質は、一次粒子および/または二次粒子により構成され、このような粒子構造により、電解液との接触は、二次粒子の外面のみでなく、二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには不完全な粒界でも生じることとなる。このような電解液との接触を十分に生じさせる観点からも、体積基準の平均粒径MVを上記範囲とすることが好ましい。
[リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法]
本発明の第1の態様のリチウムニッケル含有複合酸化物は、次のような製造方法により得ることができる。具体的には、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得た後、該リチウム混合物を、酸化性雰囲気下において、室温から700℃以上の焼成温度まで昇温して、一次粒子および/または該一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル含有複合酸化物を調製する工程において、前記リチウム混合物の物温が600℃~650℃である温度領域における通過時間および/または保持時間を、45分以下、好ましくは10分~40分の範囲とすることを特徴とする。
(ニッケル化合物)
焼成工程に用いられるニッケル化合物は、NiおよびCoを含有し、かつ、添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物である。
ニッケル化合物として、たとえば、ニッケル複合水酸化物、該ニッケル複合水酸化物を酸化剤により酸化して得られるニッケルオキシ複合水酸化物、前記ニッケル複合水酸化物および/または前記ニッケルオキシ複合水酸化物を500℃~750℃の範囲の温度で酸化焙焼して得られるニッケル複合酸化物のいずれかを用いることが可能である。
ニッケル複合水酸化物としては、これらに限定されないが、共沈法、均一沈殿法などの晶析法で得られたニッケル複合水酸化物を用いることができる。
晶析法では、種々の条件でニッケル複合水酸化物が得られ、その晶析条件についても特に限定されないが、以下の条件で得られたものが好ましい。
具体的には、40℃~60℃の範囲の温度まで加温した反応槽中に、NiおよびCoを含有し、かつ、添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下することにより得られた、ニッケル複合水酸化物が好ましい。
なお、晶析時に、反応溶液をアルカリ性、好ましくは液温25℃基準のpH値で10~14の範囲に保持できるように、アルカリ金属水酸化物の水溶液を必要に応じて滴下することが好ましい。
また、添加元素MをNiおよびCoとともに共沈殿させることにより、あるいは、晶析によってニッケル複合水酸化物を得た後、添加元素Mを含む金属化合物によりニッケル複合水酸化物を被覆するか、あるいは、添加元素Mの金属化合物を含む水溶液にニッケル複合水酸化物を含浸することによって、NiおよびCoを含有し、かつ、添加元素Mを含むニッケル複合水酸化物を得ることもできる。
このような晶析法により得られたニッケル複合水酸化物は、高嵩密度の粉末により構成される。このような高嵩密度の複合水酸化物は、焼成工程後の水洗処理後において、比表面積の小さい、一次粒粒子および/または一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウムニッケル含有複合酸化物を得やすくなるため、リチウムイオン二次電池用正極活物質の原料として好適なニッケル複合水酸化物となる。
反応溶液の温度が60℃を超える、あるいは、pHが14を超える状態で、ニッケル水酸化物を晶析すると、液中で核生成の優先度が高まり結晶成長が進まずに微細な粒子しか得られないことがある。一方、反応溶液の温度が40℃未満、あるいは、pHが10未満の状態で、ニッケル複合水酸化物を晶析すると、液中で核の発生が少なく、粒子の結晶成長が優先的となり、得られるニッケル複合水酸化物に、粗大粒子が混入することがある。また、反応液中の金属イオンの残存量が多くなり、組成ずれを生じることもある。このような粗大粒子の混入や組成ずれを生じたニッケル複合水酸化物を原料として用いると、得られた正極活物質の電池特性が低下する。
したがって、ニッケル化合物として、晶析法により得られたニッケル複合水酸化物を用いる場合には、反応溶液が40℃~60℃の範囲の温度に維持し、かつ、反応溶液を液温25℃基準のpH値で10~14に維持した状態で、ニッケル複合水酸化物の晶析を行うことが好ましい。
ニッケル化合物として、ニッケルオキシ複合水酸化物を用いる場合に、その作製方法は、特に限定されることはない。ただし、ニッケル複合水酸化物を、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素水などの酸化剤により酸化して調製すると、高嵩密度の粒子が得られるため、この方法により得られたニッケルオキシ複合水酸化物を用いることが好ましい。
ニッケル化合物として、ニッケル複合酸化物を用いる場合に、その作製方法は、特に限定されることはない。ただし、ニッケル複合水酸化物および/またはニッケルオキシ複合水酸化物を、酸化性雰囲気において、500℃~750℃の範囲の温度で酸化焙焼して得ることが好ましく、この酸化焙焼温度は、550℃~700℃の範囲の温度とすることがより好ましい。
このようにして得られたニッケル複合酸化物を用いると、リチウム化合物と混合して得られたリチウム混合物を焼成することにより、リチウムニッケル含有複合酸化物を得た際に、リチウムニッケル含有複合酸化物中のLiとLi以外の金属との組成比を安定させることが可能となる。これにより、リチウムニッケル含有複合酸化物を母材とする正極活物質をリチウムイオン二次電池に使用した場合に、高容量化および高出力化が可能となるという利点が得られる。
なお、ニッケル複合水酸化物および/またはニッケルオキシ複合水酸化物を酸化焙焼する際に、酸化焙焼温度が500℃未満では、酸化物への転換が不完全となることがある。このような酸化物への転換が不完全なニッケル複合酸化物を使用すると、得られるリチウムニッケル含有複合酸化物において、その組成を安定させることが困難となり、焼成時に組成の不均一化が起こりやすい。また、酸化焙焼後のニッケル複合酸化物中にニッケル複合水酸化物および/またはニッケルオキシ複合水酸化物が残留して、焼成時に水蒸気が発生して、リチウム化合物とニッケル複合酸化物の反応が阻害され、結晶性が低下するという問題が生じることがある。
一方、酸化焙焼温度が750℃を超えると、得られるニッケル複合酸化物の結晶性が高くなり、後工程の焼成におけるリチウム化合物とニッケル複合酸化物の反応性が低下するため、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の結晶性が低下することがある。あるいは、ニッケル複合酸化物が急激に粒成長を起こし、粗大粒子からなるニッケル複合酸化物が形成されて、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の平均粒径が大きくなり過ぎる可能性がある。
酸化焙焼温度での保持時間は、1時間~10時間の範囲で設定することが好ましく、2時間~6時間の範囲で設定することがより好ましい。1時間未満では酸化物への転換が不完全となることがあり、10時間を超えるとニッケル複合酸化物の結晶性が高くなり過ぎることがある。
酸化焙焼の雰囲気は、酸化性雰囲気であればよいが、取扱い性やコストを考慮すると、大気雰囲気とすることが好ましい。
ニッケル化合物として用いられるニッケル複合水酸化物は、その硫酸根(SO4)の含有量が0.1質量%~0.4質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%~0.3質量%の範囲にあることがより好ましい。これにより、後工程の焼成において、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶性の制御が容易になる。
晶析法によりニッケル複合水酸化物を得る場合であって、原料として硫酸ニッケルなどの硫酸塩を用いた場合には、液温25°基準でpHを11~13に調整したアルカリ水溶液を用いて十分に洗浄を行うことで、その硫酸根の含有量を0.1質量%~0.4質量%の範囲に規制することが可能となる。
なお、前記ニッケル化合物として、Ni、Co、並びに、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種からなる添加元素を含有するニッケル化合物を用いることにより、第1の態様のリチウムニッケル含有複合酸化物、すなわち、
一般式:LiaNi1-x―yCoxMyO2・・・(1)
(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.98≦a≦1.11、0<x≦0.15、0<y≦0.07、および、x+y≦0.16である。)
からなる組成を有するリチウムニッケル含有複合酸化物を得ることが好ましい。
(リチウム化合物との混合)
ニッケル化合物と混合されるリチウム化合物は、特に限定されないが、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、およびハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。これらを用いることにより、焼成後に不純物が残留しないという利点が得られる。これらのうち、ニッケル化合物との反応性が良好なリチウム水酸化物を用いることが、より好ましい。
ニッケル化合物とリチウム化合物の混合比は、特に限定されないが、焼成後のリチウムニッケル含有複合酸化物におけるLiとLi以外の金属元素の組成は、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して得られた混合物中の組成にほぼ維持される。したがって、ニッケル化合物中のNiとCoとその他の金属元素Mの合計量に対して、リチウム化合物中のLi量がモル比で0.98~1.11になるように調整することが好ましい。このモル比が0.98未満では、得られる焼成粉末の結晶性が非常に悪くなることがある。また、得られる焼成粉末中のリチウム含有量が0.98未満となることがある。一方、このモル比が1.11を超えると、焼成が進みやすくなって過焼成となりやすく、得られる焼成粉末のLi含有量も1.11を超える可能性がある。
ニッケル化合物とリチウム化合物を混合する装置や方法は、両者を均一に混合することができるものであればよく、特に限定されない。たとえば、Vブレンダなどの乾式混合機や混合造粒装置などを使用することができる。
(焼成)
ニッケル化合物とリチウム化合物を混合することにより得られたリチウム混合物は、酸化性雰囲気中において700℃以上の焼成温度で焼成されることになる。
500℃を超える温度で焼成すれば、リチウムニッケル含有複合酸化物が生成されるが、700℃未満ではその結晶が未発達で構造的に不安定となる。このようなリチウムニッケル含有複合酸化物を正極活物質の母材として使用すると、充放電による相転移などにより正極活物質の結晶構造が破壊される、あるいは、一次粒子の成長が不十分となる場合がある。
なお、本発明において、焼成温度は780℃以下に設定することが好ましい。焼成温度が780℃を超えると、カチオンミキシングが生じやすくなり、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶内の層状構造が崩れ、リチウムイオンの挿入および脱離が困難となる可能性がある。また、後述するように、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の結晶におけるc軸方向への格子定数の長さを14.183Å~14.205Åの範囲とすることが好ましいが、焼成温度が780℃を超えると、c軸方向への格子定数の長さが14.183Å以上とならなくなる。さらに、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶が分解してしまい、酸化ニッケルなどが生成されてしまう可能性がある。加えて、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子同士が焼結を起こして、粗大粒子が形成されてしまい、リチウムニッケル含有複合酸化物の平均粒径が大きくなり過ぎる場合もある。
焼成温度は、上記観点から、730℃~760℃の範囲に設定することが好ましい。
このような焼成温度における保持時間は、1時間~6時間の範囲に設定することが好ましく、2時間~4時間の範囲に設定することがより好ましい。保持時間が1時間未満では、結晶化が不十分になる場合があり、6時間を超えると焼成が進みすぎて、カチオンミキシングが生じる場合がある。
また、リチウム化合物中の結晶水などを取り除き、さらに、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶成長が進む温度領域において、リチウム化合物とニッケル化合物とを均一に反応させるため、400℃~600℃の温度領域における通過時間および/または保持時間を1時間~5時間とし、続いて700℃~780℃の温度での保持時間を3時間以上とする2段階焼成を行うことが好ましい。
本発明では、これらの条件のほか、リチウム混合物を、酸化性雰囲気下において、室温から700℃以上の焼成温度まで昇温する過程において、リチウム混合物の物温が600℃~650℃である温度領域における通過時間および/または保持時間を、45分以下、好ましくは10分~40分の範囲とすることを特徴とする。
上述のように、これまでリチウム混合物を焼成してリチウムニッケル含有複合酸化物を得る焼成工程において、リチウム混合物の焼成温度、すなわち、リチウム混合物が保持される最高温度およびその保持時間についての検討はなされている。また、リチウム化合物とニッケル化合物との均一な反応を生じさせる観点から、400℃~600℃の温度領域における通過時間および/または保持時間についても検討はなされている。
これに対して、本発明者らは、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成する際の、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとの反応に着目した。このような観点から、母材となるリチウムニッケル含有複合酸化物における余剰Li量と、このリチウムニッケル含有複合酸化物の焼成条件について鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、リチウム混合物を室温から700℃以上の焼成温度まで昇温する過程において、リチウムニッケル含有複合酸化物の生成が進む600℃~650℃の温度領域において、その通過時間および/または保持時間と、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に存在する余剰Liの量に相関関係が見られること、かつ、余剰Li量を適切に制御することにより、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとの反応において、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の内部に存在するLiが引き抜かれることなく、適切なWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成することが可能となるとの知見を得た。
従前、この温度領域では、得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の結晶性を向上させる観点から、昇温速度は約1℃/分以下に設定されており、リチウム混合物の600℃~650℃の温度領域における通過時間は、45分を超える、たとえば50分以上となっていた。しかしながら、600℃~650℃の温度領域における通過時間が45分を超えると、リチウムニッケル含有複合酸化物が生成する過程で、Liが一次粒子の結晶内部に十分に入り込み、結晶性は向上するものの、一次粒子の表面に存在する余剰Li量が不足することになる。このため、リチウムニッケル含有複合酸化物のLiとタングステン化合物のWとが反応する際に、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の内部に存在するLiが引き抜かれて、得られる正極活物質の一次粒子の内部におけるLi量が十分でなくなり、その電池特性が劣化する可能性がある。
600℃~650℃の温度領域におけるリチウム混合物の通過時間が短いほど、リチウムニッケル含有複合酸化物における、Wと反応可能な余剰Li量は増加する傾向にある。このため、600℃~650℃の温度領域における通過時間を40分以下とすることが好ましく、35分以下とすることがより好ましく、20分以下とすることがさらに好ましい。ただし、この温度領域についてリチウム化合物を通過させる時間をより短くすることにより、余剰Li量が過剰になること、および、この時間をより短い時間で通過させるために必要とされるエネルギーおよび設備コストの上昇の観点から、600℃~650℃の温度領域における通過時間を10分以上とすることが好ましい。
なお、本発明において、当該温度領域について、焼成炉の温度などで規制せずに、物温で規制するのは、当該温度がリチウムニッケル含有複合酸化物の生成が進む重要な温度領域であり、かつ、温度領域に範囲および通過時間が短いことから、リチウム混合物自体の温度で規制することが好ましいからである。物温の測定には、焼成炉内においてリチウム混合物自体の温度を測定可能な機器であれば、任意に採用可能であるが、熱電対や放射温度計のような非接触式温度計を用いることが可能である。
また、通常は、当該温度領域は、昇温過程にあるため、昇温速度を1.11℃/分以上の速度で昇温させることにより、600℃~650℃の温度領域における通過時間を45分以下とすることができる。ただし、この温度領域における保持時間が45分以下であれば、一次粒子の表面に存在する余剰Li量を適切に規制することができる。このため、一定の昇温速度で当該温度領域を通過させる場合だけでなく、段階的に温度を上昇させたり、当該温度領域の内の任意の温度で一定時間保持したりすることも、本発明の範囲内である。
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の第2の態様は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、すなわち、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が一次粒子の表面に存在する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法に関する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、
本発明の第1の態様のリチウムニッケル含有複合酸化物を用いて、該リチウムニッケル含有複合酸化物の量が、水1Lに対して700g~2000gとなるようにスラリーを形成し、該リチウムニッケル含有複合酸化物を水洗処理し、
前記水洗処理中または前記水洗処理後に、前記リチウムニッケル含有複合酸化物に、タングステン化合物を添加し、前記リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面にWを分散させ、および、
前記一次粒子の表面にWが分散したリチウムニッケル含有複合酸化物を、熱処理して、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を、前記リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に形成する、
ことを特徴とする。
[水洗工程]
水洗工程は、焼成工程で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の焼成粉末を水洗処理する工程である。具体的には、水1Lに対して焼成粉末が700g~2000gとなるようにスラリーを形成して、水洗処理した後、濾過、乾燥してリチウムニッケル含有複合酸化物粉末(水洗粉末)を得る。
水洗工程では、水洗処理中の水洗温度が、好ましくは10℃~40℃の範囲に、より好ましくは10℃~30℃の範囲にあるように調整される。これにより、リチウムニッケル含有複合酸化物の焼成粉末の表面に存在する不純物が除去される。水洗処理により、不純物とともに、表面に存在する炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの余剰Liも除去されるが、水洗後においても、BET比表面積は、0.20m2/g~0.50m2/gの範囲に維持される。
これにより、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成するに際に、タングステン化合物のWとの反応に十分なLiが一次粒子の表面に存在することとなり、Wとの反応でLiが内部から引き抜かれることがない。一方、余剰Li量の適切な規制により、最終的に得られる正極活物質の表面に余剰Liが存在することはないため、この正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極に用いた場合に、高温保持時のガス発生を抑制することができ、高容量および高出力と高い安全性も両立させることができる。
これに対して、水洗温度が10℃未満の場合、洗浄が不十分となり、焼成粉末の表面に付着している不純物が除去されずに残留することがある。かかる残留不純物の存在により、正極活物質の表面の抵抗が上がるため、二次電池の正極の抵抗値が上昇する。また、正極活物質の比表面積が小さくなり過ぎ、電解液との反応性が低下するため、二次電池の高容量化や高出力化が達成困難となる。
一方、水洗温度が40℃を超えると、焼成粉末からのLiの溶出量が多くなり、リチウムニッケル含有複合酸化物の表面層にLiが抜けた酸化ニッケル(NiO)やLiとHが置換されたオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)が生成されるおそれがある。酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルは、いずれも電気抵抗が高く、正極活物質の表面の抵抗を上昇させるとともに、正極活物質におけるLiが減少して、二次電池の容量を低下させる。
スラリー中に含まれる水1Lに対する焼成粉末の量は、700g~2000g、好ましくは700g~1500gとなるように調整される。
すなわち、スラリー濃度が2000g/Lを超えると、スラリーの粘度が高くなるため攪拌が困難となる。さらに、スラリー中の液体のアルカリ濃度が高くなるので、平衡の関係から、焼成粉末に付着している付着物の溶解速度が遅くなる、および、粉末からの付着物の剥離が起きても再付着することがあるという理由により、不純物を除去することが難しくなる。
一方、スラリー濃度が700g/L未満では、希薄過ぎるため、個々の粒子表面からスラリー中に溶出するLi量が多くなる。特に、ニッケル比率が高くなるほど、Li溶出量が多く、表面のLi量は少なくなりすぎる。このため、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶格子中からのLiの脱離も起きて、結晶が崩れやすくなる。このため、二次電池の容量を低下させてしまう。
焼成粉末を水洗する時間は特に限定されないが、5分~60分間程度とすることが好ましい。水洗時間が短いと、粉末表面の不純物が十分に除去されず、残留することがある。一方、水洗時間を長くしても洗浄効果の改善はなく、生産性が低下する。
スラリーを形成するために使用する水は、特に限定されないが、正極活物質への不純物の付着による電池性能の低下を防ぐ上では、電気伝導率測定で10μS/cm未満の水が好ましく、1μS/cm以下の水がより好ましい。
[乾燥工程]
水洗後のリチウムニッケル含有複合酸化物を乾燥する温度や方法については、特に限定されないが、乾燥温度は、80℃~500℃の範囲に設定することが好ましく、120℃~250℃の範囲に設定することがより好ましい。80℃以上とすることにより、水洗後の粉末を短時間で乾燥し、粒子の表面と内部との間でリチウム濃度の勾配が起こることを抑制して、正極活物質の特性をより向上させることができる。
一方、水洗後の焼成粉末の表面付近では、化学量論比にきわめて近いか、もしくは、Liが若干脱離して充電状態に近い状態になっていることが予想される。このため、500℃を超える温度では、充電状態に近い粉末の結晶構造が崩れる契機になり、電気特性の低下を招くおそれがある。
これらの観点から、乾燥温度は、80℃~500℃の範囲にあることが好ましく、生産性および熱エネルギーコストも考慮すると、120℃~250℃の範囲にあることがより好ましい。
乾燥方法に関しては、ろ過後の粉末を、炭素および硫黄を含む化合物成分を含有しないガス雰囲気下または真空雰囲気下に制御できる乾燥機を用いて、所定の温度で行なうことが好ましい。
[タングステン添加工程]
タングステン添加工程は、水洗処理中、もしくは水洗処理後の粉末に、タングステン化合物を添加し、一次粒子の表面にWを分散させる工程である。
すなわち、Wの添加は、水洗処理中のスラリーへの添加、水洗処理後の乾燥前の粉末への添加、水洗処理後に乾燥させた粉末への添加のいずれでも可能である。いずれの場合も、脱水後の粉末の水分率を制御することにより、Wの分散の均一性を高めるとともに、Liの溶出を抑制して、正極活物質の一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成させることができる。
焼成粉末の一次粒子の表面に分散させるW量は、その焼成粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.1原子%~3.0原子%の範囲とすることが好ましく、0.1原子%~1.0原子%の範囲とすることがより好ましい。これにより、正極活物質の一次粒子の表面にWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を、より均一に形成させ、二次電池の正極に用いられた際に、電解液との界面でLiの伝導パスを形成して、正極活物質の反応抵抗を低減して、出力特性をさらに向上させることが可能となる。
なお、一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子、WおよびLiを含む化合物の被膜とのいずれが形成されるか、あるいは、その両者が形成されるかについては、脱水後の粉末の水分率により決定される。水洗処理後の乾燥前の粉末への添加の場合、脱水後の粉末の水分率を、3.0質量%~11.5質量%の範囲となるように制御する。粉末の水分率が、3.0質量%以上6.5質量%未満の場合には、WおよびLiを含む化合物の微粒子が、一次粒子の表面に形成される。粉末の水分率を6.5質量%以上とすることにより、一次粒子の表面にWおよびLIを含む化合物の被膜が形成される傾向となり、被膜と微粒子が混在する。粉末の水分率を9.0質量%以上とすることにより、一次粒子の表面にWおよびLiを含む化合物の被膜のみを形成することができる。前記脱水後の水分率は、脱水後の含水粉末の質量と、それを180℃で3時間乾燥させた後の粉末の質量から式:「水分率=(乾燥前の含水粉末の質量-乾燥後の粉末の質量)/(乾燥前の含水粉末の質量)」により求められる。
Wの添加は、水洗処理中のスラリーへの添加、水洗処理後の乾燥前の焼成粉末への添加、あるいは、水洗処理および乾燥後の焼成粉末への添加のいずれでもよい。
Wは、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液(以下、「アルカリ溶液(W)」という。)の形態、あるいはタングステン化合物の形態のいずれで添加してもよい。
アルカリ溶液(W)として添加する場合、タングステン化合物は、アルカリ溶液に溶解可能なものであればよく、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムなど、アルカリに対して易溶性のタングステン化合物を用いることが好ましい。
アルカリ溶液(W)に用いるアルカリとしては、高い充放電容量を得るため、正極活物質にとって有害な不純物を含まない一般的なアルカリ溶液、たとえば、アンモニア、水酸化リチウムを用いることができる。WおよびLiを含む化合物を形成させるのに十分な量のLiを、余剰Liとアルカリ溶液(W)から供給することを可能にさせるため、および、Liのインターカレーションを阻害しない観点から、水酸化リチウムを用いることが好ましい。
一方、タングステン化合物の形態で添加する場合、タングステン化合物として、アルカリに対して可溶性のタングステン化合物を用いることが好ましく、リチウムを含むタングステン化合物を用いることがより好ましく、タングステン酸リチウムを用いることがさらに好ましい。タングステン酸リチウムとしては、Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
いずれの場合でも、Wの添加は、固液分離や熱処理後の解砕によって、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子の表面上に形成された、タングステン酸リチウムなどのWおよびLIを含む化合物の微粒子および/または被膜におけるW量が、本発明の範囲内となるように、その処理条件および添加手段を選択する必要がある。なお、これらの処理条件および添加手段については公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
[熱処理工程]
熱処理工程は、一次粒子の表面にWを分散させたリチウムニッケル含有複合酸化物を熱処理することにより、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面に形成する工程である。これにより、タングステン添加工程において供給されたWとLiから、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成し、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を有する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質が得られる。なお、水洗処理中のスラリーあるいは水洗処理後の乾燥前の焼成粉末に対してWを添加した場合には、乾燥工程を熱処理工程により代替することができる。
熱処理方法は、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池用正極活物質として用いたときの電気特性の劣化を防止するため、酸素雰囲気あるいは真空雰囲気中、かつ、100℃~600℃の範囲にある温度で、熱処理することが好ましい。
熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が十分に形成されない場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに、一部のWがリチウムニッケル含有複合酸化物の層状構造に固溶してしまうため、電池の充放電容量が低下することがある。このような観点から、熱処理温度を550℃以下とすることがより好ましく、500℃以下とすることがさらに好ましい。
熱処理時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避けるため、酸素雰囲気などのような酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
熱処理時間は、特に限定されないが、複合酸化物粒子中の水分を十分に蒸発させて被膜を形成するために5時間~15時間の範囲とすることが好ましい。
乾燥後の複合酸化物粒子の水分率については、特に限定されないが、0.2質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。粉末の水分率が0.2質量%を超えると、大気中の炭素および硫黄を含むガス成分を吸収して、表面にリチウム化合物を生成することがある。
熱処理後に粒子に凝集が生じた際には、二次粒子の形骸が破壊されない程度に解砕して、体積基準の平均粒径MVが5μm~30μmの範囲にある粒子からなる正極活物質を作製する。
3.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本発明の第3の態様は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、すなわち、タングステン酸リチウムなどのWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が表面に存在する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物に関する。
より具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、母材となるリチウムニッケル含有複合酸化物を構成する、一次粒子の表面、および/または、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を構成する一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子あるいはWおよびLiを含む化合物の被膜が形成されている。特に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、本発明の第1の態様のリチウムニッケル含有複合酸化物、すなわち、BET比表面積が0.20m2/g~0.50m2/gの範囲にあるリチウムニッケル含有複合酸化物を母材として形成されることで、適切な大きさのWおよびLiを含む化合物の微粒子、および/または、適切な厚さのWおよびLiを含む被膜を一次粒子の表面に有することを特徴とする。
母材の特性については、既述であるため、重複する説明を省略し、以下、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜、BET比表面積、およびLI席占有率について説明する。
[WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜]
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル含有複合酸化物の有する高容量という長所が消されてしまう。
これに対して、本発明ではリチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の表面にWおよびLiを含む化合物の微粒子を形成させる、あるいは、一次粒子の表面にWおよびLiを含み化合物からなり、厚さが1nm~200nmの範囲、好ましくは1nm~150nmの範囲、より好ましくは2nm~100nmの範囲にある被膜を形成させている。
WおよびLiを含む化合物の微粒子は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子を形成することにより、電解液との界面でLiの伝導パスが形成されるため、正極活物質の反応抵抗(「正極抵抗」ともいう)を低減して、その出力特性を向上させることが可能となる。WおよびLiを含む化合物の被膜についても、その厚さを1nm~200nmの範囲に規制することにより、WおよびLiを含む化合物の微粒子と同様の効果を奏する。
すなわち、正極抵抗が低減されることで、二次電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上する。さらに、正極抵抗の低減により、充放電時における正極活物質の負荷も低減することから、サイクル特性も向上させることができる。
ここで、正極活物質を構成する一次粒子の表面を、WおよびLiを含む化合物で過度に厚く被覆した場合には、比表面積の低下が起こるため、WおよびLiを含む化合物が高いリチウムイオン伝導性を有していたとしても、電解液との接触面積が小さくなり、これに伴って充放電容量の低下および反応抵抗の上昇を招きやすい。また、WおよびLiを含む化合物が存在することで、反応抵抗は低下するが、WおよびLiを含む化合物自体は、電子伝導性が低いため、電極の電子伝導性を低下させて、二次電池の出力特性の低下につながる。
本発明では、WおよびLiを含む化合物からなり、所定の粒子径を有する微粒子、あるいは、WおよびLiを含む化合物からなり、所定範囲の膜厚を有する被膜を、一次粒子の表面に存在させることで、電極表面を過度に小さくしたり、電極のバルク抵抗を顕著に上昇させたりすることなく、リチウムイオン伝導を効果的に向上させて、充放電容量の低下を抑制するとともに、反応抵抗を低減させることを可能としている。
WおよびLiを含む化合物の微粒子は、その粒子径が1nm~100nmの範囲にあることが好ましく、1nm~100nmの範囲にあることがより好ましい。粒子径が1nm未満では、微粒子が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、粒子径が100nmを超えると、微粒子による被覆の形成が不均一になり、反応抵抗の低減効果が十分に得られない場合がある。なお、微粒子のすべてが、1nm~100nmの範囲にある粒子径を有する必要はなく、好ましくは一次粒子の表面に形成された微粒子の全個数の50%以上が、1nm~100nmの範囲にある粒子径を有していれば、電池特性改善のより高い効果が得られる。この場合の、微粒子の最大粒子径は200nm程度である。
WおよびLiを含む化合物の被膜は、その厚さが1nm~200nmの範囲にあることが好ましい。厚さが1nm未満では、被膜が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、厚さが200nmを超えると、反応面積の低下や電極のバルク抵抗の上昇が起こり、反応抵抗の低減効果が十分に得られない場合がある。
電解液との接触は、一次粒子の表面で起こるため、一次粒子の表面にWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が形成されていることが重要である。ここで、本発明における一次粒子の表面とは、リチウムニッケル含有複合酸化物が一次粒子により構成されている場合には、その一次粒子の表面である。リチウムニッケル含有複合酸化物が二次粒子により構成されている場合には、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と、二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面とのいずれもが、一次粒子の表面に含まれる。さらに、一次粒子間の粒界であっても、一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば、そのような箇所も一次粒子の表面に含まれる。
したがって、一次粒子の表面全体に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を形成させることで、リチウムイオンの移動をさらに促し、正極活物質を構成する粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
なお、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜は、電解液と接触可能な一次粒子の全表面において形成されている必要はない。WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜は、点在している状態でもよく、点在している状態においても、正極活物質を構成する一次粒子、もしくは、正極活物質を構成する二次粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が形成されていれば、反応抵抗の低減効果が得られる。ただし、一次粒子の表面における、これらの存在割合が高いほど、より反応抵抗の低減効果が得られやすい。
一方、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子間で、不均一に微粒子が形成されていると、粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定の粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。したがって、リチウムニッケル含有複合酸化を構成する粒子間においても、均一に微粒子が形成されていることが好ましい。
また、WおよびLiを含む化合物の微粒子と被膜とが混在して、一次粒子の表面に形成されている場合にも、電池特性に対する高い効果は得られる。この場合、電池特性改善のより高い効果を得るため、WおよびLiを含む化合物の微粒子は、1nm~200nmの範囲の粒子径を有することが好ましい。なお、微粒子のすべてが、1nm~200nmの範囲にある粒子径を有する必要はなく、好ましくは一次粒子の表面に形成された微粒子の全個数の50%以上が、1nm~200nmの範囲にある粒子径を有していれば、被膜との相互作用により、電池特性改善のより高い効果が得られる。
このような形態を採ることにより、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量を向上させるとともに、反応抵抗をより効果的に低減させることができる。
このような一次粒子の表面の性状は、たとえば、電界放射型走査電子顕微鏡の断面観察、走査透過型電子顕微鏡(STEM)のEDX分析による断面元素マッピング、透過型電離顕微鏡による断面観察などで判断できる。これらの手段により、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質については、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成する一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が形成されていることを確認することが可能である。
本発明における、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜を構成するWおよびLiを含む化合物は、タングステン酸リチウムであることが好ましい。タングステン酸リチウムは、Li2WO4、Li4WO5、Li6WO6、Li2W4O13、Li2W2O7、Li6W2O9、Li2W2O7、Li2W5O16、Li9W19O55、Li3W10O30、Li18W5O15、および、これらの水和物から選択される少なくとも1種の形態であることが好ましい。このようなタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導性がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。
WおよびLiを含む化合物に含まれるWの原子数は、正極活物質を構成する粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.1原子%~3.0原子%となる範囲にあることが好ましく、0.1原子%~1.0原子%となる範囲にあることがより好ましく、0.1原子%~0.6原子%となる範囲にあることがさらに好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
W量が0.1原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合がある。W量が3.0原子%を超えると、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜による一次粒子の表面の被覆が厚くなりすぎて、比表面積が低下し、電極のバルク抵抗が上がるため、十分な反応抵抗低減効果が得られないことがある。
また、WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜に含まれるLi量は、特に限定されることはなく、Liが含まれていればリチウムイオン伝導度の向上効果が得られる。ただし、このLi量は、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量であることが好ましい。
W量を0.1原子%~3.0原子%の範囲とした場合、正極活物質は、
一般式:LiaNi1―x―yCoxMyWzO2+α・・・(2)
(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zr、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素である。0.95≦a≦1.10、0<x≦0.15、0<y≦0.07、x+y≦0.16、0.001≦z≦0.03、0≦α≦0.2である。)
からなる組成を有するリチウムニッケル含有複合酸化物により構成されていることが好ましい。なお、Wは、添加元素Mとしてリチウムニッケル含有複合酸化物の内部に含有されることができるが、この場合、前記W量(組成式におけるz)には、添加元素Mとして含まれるWの量は含まれない。
Li含有量を示すaは、0.95≦a≦1.10である。aが1.10を超えると、リチウムニッケル含有複合酸化物中のLi含有量が多くなり過ぎて、層状化合物におけるメタル層にLiが混入することがある。一方、aが0.95以下になると、リチウム層にNiなどの金属元素が混入することがある。このため、電池容量および出力特性を向上させるためには、0.95<a≦1.08であることがより好ましい。Wの含有量を示すzは、0.001≦z≦0.01であることが好ましい。
[BET比表面積]
WおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が一次粒子の表面に形成された状態における、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質のBET法測定による比表面積は、0.4m2/g~1.2m2/gの範囲にあることが好ましく、0.4m2/g~1.0m2/gの範囲にあることがより好ましい。
このような比表面積を有することにより、電解液との接触が適正な範囲となり、電池容量や出力特性をより高いものとすることができる。比表面積が0.4m2/g未満になると、電解液との接触が少なくなり過ぎることがあり、1.2m2/gを超えると、電解液との接触が多くなり過ぎて、熱安定性が低下することがある。
[Li席占有率]
Li席占有率とは、正極活物質を構成し、層状岩塩構造を有するリチウムニッケル含有複合酸化物の結晶中のLi層におけるLiサイトをLi原子が占める割合のことをいう。Liを含む金属酸化物は、非化学量論組成を有することが多く、Li席占有率が低い場合は、Li席に存在するLi原子が少なく、Ni、Co、Mの金属原子がLi席に存在し、Liは多くの場合、結晶の系外に出て、炭酸リチウムなどになって存在している可能性が高い。このため、正極活物質を構成するリチウムニッケル含有複合酸化物結晶としては不完全であり、十分な容量を持ち、サイクル特性の良好な正極活物質とはならない。
また、Li席内に金属原子が欠陥として残留することに伴い、残留した金属原子がLi層内でのLiの拡散を妨害し、抵抗となるため、二次電池とした際に出力低下を招く。
本発明の正極活物質では、母材としてのリチウムニッケル含有複合酸化物のBET比表面積を適切に制御することで、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成する一次粒子の表面に、WおよびLiを含む化合物の微粒子、および/または、WおよびLiを含む被膜を形成した後に、得られた正極活物質においてLiの過不足が生じないようにしている。
このため、本発明の正極活物質においては、Li席占有率が98.0%以上となり、十分な初期放電容量および出力特性を得ることができる。Li席占有率の上限は、特に限定されず、Li席占有率が100%、すなわち、すべてのLi席にLiが存在する状態も本発明の範囲に含められる。
Li席占有率は、リートベルト解析を用いて算出する。リートベルト解析とは、結晶構造モデルを仮定し、その構造から導かれるX線回折パターンを、実測されたX線回折パターンに合うように、結晶構造の各種パラメータ(格子定数やLi席占有率など)を精密化する方法である。
4.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて得られるリチウムイオン二次電池は、一般のリチウムイオン電池と同様に、正極、負極、セパレータ、および非水電解質などから構成される。たとえば、図1に示す2032型コイン電池1(以下、「コイン型電池」という)は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されている。正極3aは、正極缶2aの内面に接触し、負極3bは、負極缶2bの内面に接触するように、それぞれケース2に収容されている。
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように、これらの相対的な移動が阻止される。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
なお、以下で説明する形態は例示に過ぎず、本発明のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定されることはない。
[正極]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物を、正極を構成する正極活物質として用い、たとえば、以下のようにして、リチウムイオン二次電池の正極を作製することができる。
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらにスラリー溶媒、必要に応じて、活性炭、粘度調整用添加剤などを添加し、これらを混練して、正極合材ペーストを作製する。
正極合材ペースト中のそれぞれの部材の混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部とし、導電材の含有量を1質量部~20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることが好ましい。
得られた正極合材ペーストを、たとえば、集電体の表面に塗布し、乾燥して、スラリー溶媒を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもできる。このようにして、シート状の正極が作製される。
シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などが施され、電池の作製に供される。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の手段も採りうる。
導電剤としては、電池内で化学的に安定な電子伝導性材料であればよく、とくに限定されない。たとえば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料、フッ化カーボンなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、正極合剤に導電材を添加する量は、特に限定されないが、正極合剤に含まれる正極活物質に対して、0.5質量%~50質量%の範囲であることが好ましく、0.5質量%~30質量%の範囲であることがより好ましく、0.5質量%~15質量%の範囲であることがさらに好ましい。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たす。結着剤としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
上記樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは、Na+イオンなどによる架橋体であってもよい。
ペースト溶媒としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
集電体としては、電池内で化学的に安定な電子伝導体であればよく、特に限定されない。たとえば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素、導電性樹脂などからなる箔またはシートを用いることができ、この中でアルミニウム箔、アルミニウム合金箔などがより好ましい。箔またはシートの表面には、カーボンまたチタンの層を付与したり、酸化物層を形成したりすることもできる。また、箔またはシートの表面に凹凸を付与することもでき、ネット、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体などを用いることもできる。集電体の厚さも、特に限定されないが、1μm~500μmの範囲にあることが好ましい。
(2)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを用いることが可能である。たとえば、負極としては、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて、電極密度を高めるべく圧縮して形成したシート状電極が使用される。
負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、PVDFなどの含フッ素樹脂などを用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(3)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータが挟み込んで配置される。セパレータは、正極と負極とを電気的に分離しつつ、電解質を保持し、正極と負極間のリチウムイオンの移動経路となる。一般的なセパレータとしてはポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。また、固体電解質を用いることも可能である。
セパレータを微多孔性薄膜により構成することもできる。この場合、セパレータに形成されている孔の孔径は特に限定されないが、たとえば、0.01μm~1μmの範囲にあることが好ましい。セパレータの空孔率も特に限定されないが、一般的には30%~80%程度である。また、セパレータの厚さも特に限定されないが、一般的には10μm~300μm程度である。
さらに、セパレータは、正極および負極と別体のものを使用してもよいが、非水系電解液およびこれを保持するポリマー材料からなるポリマー電解質を正極または負極と一体化させてセパレータとして使用することもできる。このポリマー材料としては、非水系電解液を保持することができるものであればよく、特に限定されないが、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることが好ましい。
(4)非水電解質
非水電解質には、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液のほか、不燃性でイオン電導性を有する固体電解質などが用いられる。
リチウムイオン二次電池の非水電解質として広く用いられている非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。使用する有機溶媒としては、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;
ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;
ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類;
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類;
1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル類;
テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;
エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物;
リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物;並びに、
ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンなど;
を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド塩などを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、少なくともLiPF6を用いることが好ましい。
非水溶媒中のリチウム塩濃度は特に限定されないが、0.2mol/L~2mol/Lの範囲にあることが好ましく、0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲にあることがより好ましい。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、および難燃剤などを含んでいてもよい。
一方、固体電解質としては、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3やLi2S-SiS2などを用いることができる。
[リチウムイオン二次電池の形状および構成]
以上、説明した正極、負極、セパレータ、および非水系電解質で構成される、本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、円筒型、積層型など種々の形状を有することができる。
いずれの形状を採る場合で、たとえば、非水電解質として非水電解液を用いる場合には、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
[リチウムイオン二次電池の特性]
本発明のWおよびLiを含む化合物の微粒子および/または被膜が一次粒子の表面に存在する、WおよびLiを含む化合物被覆リチウムニッケル含有複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、高容量で高出力となる。
特に、より好ましい形態で得られた本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、たとえば、図1に示すコイン型電池の正極に用いた場合、初期放電容量が200mAh/g以上、好ましくは205mAh/g以上と高く、また、初期充放電効率が88%以上と高く、高容量で高出力である。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本実施例では、前駆体であるニッケル化合物、コバルト化合物、添加元素Mの化合物、リチウム化合物、並びに、リチウムニッケル含有複合酸化物およびリチウムイオン二次電池の製造のそれぞれに用いられる材料には、和光純薬工業株式会社製の試薬特級の試料を使用した。
(実施例1)
[リチウムニッケル含有複合酸化物の製造および評価]
反応槽内の温度を49.5℃に設定し、20質量%水酸化ナトリウム溶液により反応槽内の反応溶液を液温25℃基準でpH13.0に保持しながら、反応溶液に硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、25質量%アンモニア水を添加し、オーバーフローにより回収した。さらに液温25℃基準のpHが12.5の45g/L水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、水洗し、乾燥させてニッケル複合水酸化物を得た(中和晶析法)。
このニッケル複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合して球状となった二次粒子からなり、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用いたICP発光分析法による分析で、Ni:Co:Alのモル比が90.5:4.8:4.7のニッケル複合水酸化物であることを確認した。
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した、このニッケル複合水酸化物の体積基準の平均粒径MVは12μmであった。
また、ICP発光分析法により硫黄を定量分析し、硫黄はすべて酸化して硫酸根(SO4)になるものとして係数を乗じることによって求めたところ、硫酸根含有量は0.28質量%であった。
次に、このニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気下で、600℃の温度で酸化焙焼してニッケル複合酸化物とした後、モル比でNi:Co:Al:Li=90.5:4.8:4.7:1.02となるように、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウム一水和物を秤量し、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて混合して、リチウム混合物を得た。
得られたリチウム混合物は、電気炉を用いて酸素雰囲気下において、500℃の温度で3時間仮焼した後、600℃~650℃の温度領域における通過時間が20分となるように、2.5℃/分の昇温速度で、500℃から745℃まで昇温し、さらに745℃で3時間保持し、昇温開始から保持終了までを20時間として焼成した。その後、室温まで炉内で冷却し、解砕処理を行い、焼成粉末(以下、「母材」という)を得た。なお、焼成工程においては、リチウム混合物に熱電対を挿入して混合物自体の物温を実測した。
得られた母材をICP法による分析を行ったところ、Ni:Co:Al:Liのモル比が90.5:4.8:4.7:1.02であることを確認した。また、母材を1g分取して、この試料を、窒素雰囲気下、120℃で、30分間乾燥した後、BET比表面積測定装置を用いて、そのBET比表面積を測定した。その結果、この母材のBET比表面積は、0.25m2/gであった。
次に、得られた母材に20℃の純水を加えて、水1Lに対して母材が750g含まれるスラリーとし、このスラリーを20分間攪拌後、フィルタプレスに通液し、脱水を行い、母材ケーキを作製した。
この母材へのWの添加は、フィルタプレス中の脱水後の母材ケーキにタングステン化合物を含有したアルカリ溶液(W)を通液し、再度、脱水し、母材の一次粒子の表面にWを分散させる方法で行った。
ここで、タングステン化合物の添加量は、通液するアルカリ溶液(W)のタングステン濃度と脱水後の母材ケーキの水分率で決定される。すなわち、脱水後の水分中に含まれるタングステン量が添加量となる。
本実施例では、純水1Lに50.6gの水酸化リチウム(LiOH・H2O)を溶解した水溶液に131.8gの酸化タングステン(WO3)を添加したタングステン濃度0.58mol/Lのアルカリ溶液(W)を用いた。脱水後の母材ケーキ水分率は6.1%であった。
得られたアルカリ溶液(W)が浸潤したリチウムニッケル含有複合酸化物に、190℃に加温した真空乾燥機を用いて10時間、静置乾燥する処理を行った。
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にWおよびLiを含む化合物の微粒子および被膜を有する正極活物質を得た。
得られた正極活物質の組成をICP発光分析法により分析したところ、Ni:Co:Al:Liのモル比は90.5:4.8:4.7:0.98、W含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.35原子%の組成であることを確認した。また、一次粒子の表面にあるWおよびLiを含む化合物の微粒子および被膜は、タングステン酸リチウム(Li2WO4)からなることを確認した。
また、得られた正極活物質のBET法による比表面積は、0.93m2/gであった。
この正極活物質を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を5000倍としたSEMによる断面観察を行ったところ、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなることを確認した。この観察から求めた、二次粒子の空隙率は2.1%であった。また、この正極活物質を、走査透過型電子顕微鏡(STEM:株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S-4700)による断面観察が可能な状態とした後、一次粒子の表面付近をSTEMにより観察したところ、一次粒子表面に粒子径が10nm~200nmの範囲にある微粒子、および厚さが2nm~115nmの範囲にある被膜が形成されていることが確認された。
X線回折(XRD)装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)を用いた粉末XRD分析の結果から、これらの微粒子および被膜がタングステン酸リチウムからなることが確認された。さらに、得られたX線回折パターンを用いて、リートベルト解析をおこなった。リートベルト解析は、解析用ソフトウェア「RIETAN94」(フリーウェア)を用いた。その結果、本例の正極活物質のLi席占有率は、98.2%であった。
[リチウムイオン電池の製造および評価]
図1に示すコイン型電池1は、以下のようにして製作した。まず、リチウムイオン二次電池用正極活物質90質量部、アセチレンブラック5質量部、および、ポリ沸化ビニリデン5質量部を混合し、n-メチルピロリドンを加えてペースト化した。この作製したペーストを、厚み20μmのアルミニウム箔に塗布した。なお、ペーストは、乾燥後の正極活物質の質量が0.05g/cm2となるように塗布した。その後、ペーストが塗布されたアルミニウム箔について120℃で12時間の真空乾燥を行い、その後、直径1cmの円板状に打ち抜いて正極3aとした。
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび非水電解液とを用いて、図1に示すコイン型電池1を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極3bには、直径15mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム金属を用いた。
セパレータ3cには、膜厚20μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、初期充放電効率、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期充電容量および初期放電容量は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電したときの容量を初期充電容量とし、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。[(初期放電容量)/(初期充電容量)]×100を、初期充放電効率として計算した。
正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、図2に示すようなナイキストプロットが得られる。
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表れているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用して作製した正極を用いたコイン型電池1の初期放電容量は205mAh/g、初期充放電効率は89.0%、正極抵抗は4.8Ωであった。
リチウムニッケル含有複合酸化物の焼成条件、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の特性、および、リチウムイオン二次電池の電池特性について、表1に示す。なお、以下の実施例2、および比較例1および2についての結果も、同様に表1に示す。
(実施例2)
600℃~650℃の温度領域における通過時間が35分となるように、1.43℃/分の昇温速度で、500℃から745℃まで昇温したこと以外は、実施例1と同様にして、リチウムニッケル含有複合酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質、およびリチウムイオン二次電池を製造し、それぞれの評価を行った。なお、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の組成は、一般式:Li1.02Ni0.905Co0.048Al0.047O2であった。母材のBET比表面積は、0.45m2/gであった。また、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成は、一般式:Li0.99Ni0.905Co0.048Al0.047W0.0035O2であった。そのLi席占有率は、98.0%であった。得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用して作製した正極を用いたコイン型電池1の初期放電容量は208mAh/g、初期充放電効率は90.0%、正極抵抗は4.6Ωであった。
(比較例1)
600℃~650℃の温度領域における通過時間が55分となるように、0.91℃/分の昇温速度で、500℃から745℃まで昇温したこと以外は、実施例1と同様にして、リチウムニッケル含有複合酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質、およびリチウムイオン二次電池を製造し、それぞれの評価を行った。なお、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の組成は、一般式:Li1.02Ni0.905Co0.048Al0.047O2であった。母材のBET比表面積は、0.18m2/gであった。また、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成は、一般式:Li0.99Ni0.905Co0.048Al0.047W0.0035O2であった。そのLi席占有率は、98.5%であった。得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用して作製した正極を用いたコイン型電池1の初期放電容量は198mAh/g、初期充放電効率は85.0%、正極抵抗は5.7Ωであった。
(比較例2)
600℃~650℃の温度領域における通過時間が10分となるように、5.0℃/分の昇温速度で、500℃から745℃まで昇温したこと以外は、実施例1と同様にして、リチウムニッケル含有複合酸化物、リチウムイオン二次電池用正極活物質、およびリチウムイオン二次電池を製造し、それぞれの評価を行った。なお、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の組成は、一般式:Li1.02Ni0.905Co0.048Al0.047O2であった。母材のBET比表面積は0.55m2/gであった。また、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成は、一般式:Li0.99Ni0.905Co0.048Al0.047W0.0035O2であった。そのLi席占有率は、97.4%であった。得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用して作製した正極を用いたコイン型電池1の初期放電容量は197mAh/g、初期充放電効率は84.0%、正極抵抗は6.0Ωであった。