JP7184583B2 - 流体軸受装置、モータ及び軸受の中間製造体 - Google Patents

流体軸受装置、モータ及び軸受の中間製造体 Download PDF

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Description

本発明は、流体軸受装置、モータ及び軸受の中間製造体に関する。
焼結金属に潤滑油やグリースを含浸させた焼結軸受は、HDD等のディスク駆動装置、ファンモータ、あるいはLBPのポリゴンスキャナモータ等の小型モータにおける軸の支持に汎用されている。この種の用途では、回転精度の向上や高速回転化等の観点から、焼結軸受の軸受面に動圧発生溝を形成し、軸受隙間に満たした潤滑油の動圧作用で生じた圧力により軸を支持する場合がある。このように軸受隙間に動圧作用により圧力を発生させる焼結軸受は、流体動圧軸受と呼ばれる(例えば、特許文献1参照)。
特開2012-067895号公報
ところで、ハードディスクドライブやファンモータ等の使用環境は厳しさを増しており、振動特性に対する要求が高い。焼結軸受と、焼結軸受を収容するハウジングとを備え、焼結軸受とハウジングが接着固定された流体軸受装置においては、接着強度が低いと振動の発生原因となるため、焼結軸受とハウジングの接着強度は重要なパラメータとなる。
ところが、焼結金属の表面には無数の気孔があるため、接着時に接着剤が毛細管力によって気孔の内部に吸い込まれることで、接着強度の低下を引き起こす。更に、気孔に接着剤が吸い込まれることでエアがトラップされた空間が発生し、軸受内部にエアが混入することにより潤滑油の漏れや回転精度の低下を引き起こす。なお、このような問題は、焼結金属からなる焼結軸受のみならず、多孔質材料からなる軸受であれば起こりうる。
本発明は、上記事情に鑑み、多孔質材料からなる軸受とハウジングが接着固定された流体軸受装置において、軸受とハウジングの接着強度の低下を抑制することを目的とする。
前記課題を解決するために創案された本発明に係る流体軸受装置は、多孔質材料からなる軸受と、前記軸受との間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受を収容するハウジングとを備え、前記軸受と前記ハウジングが接着固定された流体軸受装置において、前記軸受に、潤滑油又はその基油を、前記軸受の開放気孔体積に対して10%~20%の割合で含浸した状態で、前記軸受と前記ハウジングが接着固定されたことを特徴とする。
ここで、潤滑油は、基油に各種添加剤(摩耗防止剤、酸化防止剤等)を混合したものである。また、「開放気孔体積」という用語は、JIS Z 2501に準拠する。開放気孔体積の測定方法は次のように行なう。脱脂した軸受(焼結金属)の質量を測定し、その後、比重が既知である油を含侵させて再度質量を測定する。前後の質量差、油の比重から開放気孔体積が計算できる。
上記の構成によれば、多孔質材料からなる軸受とハウジングを接着する際に、あらかじめ軸受に含浸された潤滑油又はその基油によって、軸受の気孔の内部への接着剤の吸い込みが抑制(阻止)される。詳述すると、軸受内部に一定量の潤滑油(基油)を含侵した状態で、軸受又はハウジングに接着剤を塗布して、軸受とハウジングを接着固定する。このように、あらかじめ軸受内部に潤滑油(基油)を含侵しておくと気孔は潤滑油(基油)で満たされているため、潤滑油(基油)が蓋となり、接着剤が気孔内部に吸い込まれ難くなる。そのため、軸受とハウジングの接着領域の間は接着剤で満たされ、全域に渡って接着固定され、軸受とハウジングの接着強度の低下を抑制できる。また、エアがトラップされた空間の発生を抑制して、潤滑油の漏れや回転精度の低下を抑制できる。
上記構成において、前記潤滑油が、完成した前記流体軸受装置で使用されるものであってもよい。
この構成であれば、接着剤の吸い込みを抑制するために軸受に含浸された潤滑油又はその基油が、完成した流体軸受装置で使用される潤滑油の潤滑特性に悪影響を与えることを抑制できる。
上記構成において、前記軸受と前記ハウジングの接着が隙間接着であってもよい。
この構成のように隙間接着を行う場合、いわゆる圧入接着等と比較して、接着剤の接着強度が、軸受とハウジングの固定強度において重要となる。そのため、本願発明による接着強度の低下抑制効果が、特に有効となる。
上記構成において、前記接着剤が熱硬化型接着剤であってもよい。
熱硬化性の接着剤は昇温時に粘度が低下し、毛細管現象により、更に気孔に接着剤が吸い込まれやすくなる。そのため、本願発明の接着剤の吸い込み抑制効果が、特に有効となる。
上記構成において、前記多孔質材料を焼結金属とすることができる。
以上に述べた流体軸受装置と、ロータマグネットと、ステータコイルとでモータを構成することができる。
また、前記課題を解決するために創案された本発明に係る軸受の中間製造体は、多孔質材料からなる軸受と、前記軸受との間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受を収容するハウジングとを備え、前記軸受と前記ハウジングが接着固定された流体軸受装置の前記軸受の、前記ハウジングと接着固定される直前の中間製造体において、開放気孔体積に対して10%~20%の割合で、潤滑油又はその基油を含浸したことを特徴とする。
この構成によれば、冒頭の流体軸受装置と実質的に同様の作用及び効果を享受できる。
本発明によれば、多孔質材料からなる軸受とハウジングが接着固定された流体軸受装置において、軸受とハウジングの接着強度の低下を抑制することができる。
スピンドルモータの縦断面図である。 本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置の縦断面図である。 軸受の縦断面図である。 軸受の下面図である。 接着強度の測定方法を示す図である。 接着強度の評価結果を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る流体動圧軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はケーシング6に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3に取付けられる。流体動圧軸受装置1のハウジング7の外周面は、ケーシング6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが所定枚数保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に作用する電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図2に示すように、流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7の内周に保持された軸受8と、ハウジング7の軸方向一端の開口部に設けられたシール部9と、ハウジング7の軸方向他端を閉塞する蓋部10とを有する。なお、以下の説明では、便宜上、軸方向でハウジング7の閉塞側を下側、ハウジング7の開口側を上側と言うが、これは流体動圧軸受装置1の使用態様を限定する趣旨ではない。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に設けられたフランジ部2bとを備える。軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、本実施形態では、軸部2aおよびフランジ部2bを含む軸部材2全体が一体に形成される。軸部2aとフランジ部2bを別体に形成することもできる。
軸部2aの外周面には、軸方向に離隔する2箇所に形成された円筒面2a1と、2箇所の円筒面2a1の間に設けられ、円筒面2a1よりも小径な環状凹部2a2とが設けられる。円筒面2a1は、軸受8の内周面8aの軸受面8a1と半径方向で対向する軸受対向面として機能する。
ハウジング7は軸受8を保持(収容)する部材であり、樹脂あるいは金属で円筒状に形成される。ハウジング7の内周面7aには、軸受8の外周面8dが接着によって固定される。接着としては、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aとを隙間嵌めの状態で接着した、いわゆる隙間接着が採用される。隙間接着は、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aを隙間嵌めで嵌合させた状態で、両面間の隙間に接着剤を注入し、毛細管力で隙間の奥に引き込むことにより行われる。この他、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aのどちらか一方に接着剤を塗布した上で、両者を隙間嵌めで嵌合させてもよい。接着剤としては、空気との遮断により硬化する嫌気性の接着剤、エポキシ系等のような熱硬化型の接着剤、紫外線の照射で硬化する紫外線硬化型の接着剤等が知られている。本実施形態では、公知の接着剤を任意に使用することができる。
隙間接着により、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aの間に、硬化した接着剤からなる接着剤層が形成される。接着剤層は、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aの間の隙間の全域にわたって形成する他、当該隙間の一部領域(軸方向の一部領域、あるいは円周方向の一部領域等)に限って形成してもよい。
軸受8は、多孔質の焼結金属で円筒状に形成された焼結軸受である。この焼結金属としては、銅系、銅鉄系、鉄系焼結金属等を使用することができる。しかし、軸受8の材料は、多孔質材料であればよく、焼結金属の他、多孔質樹脂、多孔質セラミック等であってもよい。
軸受8の気孔率は、例えば、5%以上、8%以上、10%以上である。軸受8の気孔率が、5%未満の場合、軸受8の内部で潤滑油を十分に循環させることができなくなり、軸受隙間でのせん断力等の常時作用による潤滑油の劣化を生じ、軸受8が短寿命化する可能性がある。また、軸受8の気孔率は、25%未満、23%未満、20%未満である。軸受8の気孔率が25%以上の場合には、気孔を介して軸受8の内部に逃げる潤滑油の量が増えるため、軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が低下する可能性がある。
軸受8の内周面8aには、図3に示すように、軸方向に離隔した2箇所にラジアル軸受面8a1が形成される。各ラジアル軸受面8a1には、動圧発生部としてヘリングボーン形状に配列された動圧発生溝G1,G2が設けられる。図中クロスハッチングで示す領域は、内径側に盛り上がった丘部を示している(図4においても同様)。上側の動圧発生溝G1は軸方向で非対称な形状を成し、下側の動圧発生溝G2は軸方向で対称な形状を成している。軸方向非対称形状の上側の動圧発生溝G1により、ラジアル軸受隙間の潤滑流体が軸方向下向きに押し込まれ、ハウジング7の内部で潤滑流体が強制的に循環される(後述する)。ラジアル軸受面8a1の軸方向間領域には、円筒面8a2が設けられる。円筒面8a2は、動圧発生溝G1、G2の溝底面と同一円筒面上に連続して設けられる。
なお、上下の動圧発生溝G1,G2の双方を軸方向対称形状としてもよい。また、上下の動圧発生溝G1,G2を軸方向で連続させたり、上下の動圧発生溝G1,G2の一方あるいは双方を省略したりしてもよい。また、軸受8の内周面8aを円筒面として、軸部2aの外周面(軸受対向面)に動圧発生部を設けてもよい。また、軸受8の軸受面8a1および軸部2aの軸受対向面の双方を円筒面とした、いわゆる真円軸受を使用することもできる。
軸受8の下側端面8bにはスラスト軸受面が形成される。スラスト軸受面には、動圧発生部として、図4に示すようなポンプインタイプのスパイラル形状の動圧発生溝8b1が形成される。尚、動圧発生溝の形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。また、軸受8の下側端面8bを平坦面として、軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1に動圧発生溝を形成してもよい。
シール部9は、ハウジング7の上端から内径側に突出している。本実施形態では、シール部9がハウジング7と一体に形成されているが、シール部9をハウジング7に対して別体にすることもできる。シール部9の内周面9aは、下方に向けて漸次縮径したテーパ状を成す。シール部9の内周面9aと軸部2aの外周面との間には、下方に向けて半径方向幅を徐々に狭めたシール空間Sが形成される。この他、シール部9の内周面を円筒面とする一方で、軸部2aの外周面に上方に向けて漸次縮径するテーパ面を設け、これらの間にシール空間Sを形成してもよい。シール部9の下側端面9bには、軸受8の上側端面8cが当接している。
蓋部10は、黄銅等の金属や樹脂で形成され、ハウジング7の内周面7aの下端部に、圧入、接着等の適宜の手段で固定される。これによりハウジング7の内部の空間がシール空間Sでのみ大気に開放された密閉空間となる。蓋部10は、ハウジング7と一体に形成することもできる。
蓋部10の端面10aにはスラスト軸受面が形成される。このスラスト軸受面には、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧発生溝が形成される(図示省略)。尚、動圧発生溝の形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。また、蓋部10の端面10aを平坦面として、軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2に動圧発生溝を形成してもよい。
ハウジング7の内部には、軸方向に延びる軸方向通油路11と、半径方向に延びる半径方向通油路12とが形成される。図2に示す実施形態において、軸方向通油路11は、軸受8の外周面とハウジング7の内周面7aとの間に形成され、半径方向通油路12は、軸受8の上側端面8cとシール部9の下側端面9bとの間に形成されている。軸方向通油路11の下端は、軸受8の下側端面8bよりも下方の空間に開口し、上端は半径方向通油路12の外径端と連通する。半径方向通油路12の内径端はシール空間Sに開口している。
図2の実施形態では、軸受8の外周面8dに軸方向に延びる軸方向溝8d1を設け、軸方向溝8d1とハウジング7の内周面7aとで画成された隙間により、軸受8の外周面8dに沿う軸方向通油路11が形成されている。軸受8の上側端面8cには、環状溝8c1と環状溝8c1の内径側に位置する複数の半径方向溝8c2とが設けられ、環状溝8c1および半径方向溝8c2と、シール部9の下側端面9bとで形成される隙間により、軸受8の上側端面8cに沿う半径方向通油路12が形成されている。また、シール部9の下側端面の外径側領域は、軸受8の上側端面8cから離反した位置にあり、この外径側領域と軸受8の上側端面8cとの間に形成された環状隙間13に、軸方向通油路11の上端と半径方向通油路12の外径端とがそれぞれ開口している。環状隙間13は、軸方向通油路11もしくは半径方向通油路12の一部を構成する。かかる構成から、軸受8の下側端面8bよりも下方の空間が、軸方向通油路11および半径方向通油路12を介してシール空間S、さらにはラジアル軸受隙間と連通した状態となる。
なお、軸方向通油路11および半径方向通油路12は、軸受8の下側端面8bよりも下方の空間とシール空間Sとを連通させるものである限り任意の形態を採用することができ、図2および図3に示す形態には限定されない。例えば軸方向溝8d1をハウジング7の内周面7aに形成してもよい。また、環状溝8c1や半径方向溝8c2をシール部9の下側端面9bに形成してもよい。
流体動圧軸受装置1の内部には、潤滑流体としての潤滑油が真空含浸等の手段により供給され、ハウジング7の内部の全ての空間、例えば軸受8の内周面8aと軸部2aの外周面との間の隙間、軸受8の下側端面8bとフランジ部2bの上側端面2b1との間の隙間、フランジ部2bの下側端面2b2と蓋部10の端面10aとの間の隙間、軸方向通油路11、および半径方向通油路12が、軸受8の内部気孔を含めて全て潤滑油で満たされる。この時、油面は、シール空間S内に形成される。
軸部材2が回転すると、軸受8の内周面8aのラジアル軸受面8a1と軸部2aの円筒面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、動圧発生溝G1,G2によりラジアル軸受隙間に形成された油膜の圧力が高められ、これにより軸部材2をラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1及び第2ラジアル軸受部R2が構成される。これと同時に、軸受8の下側端面8b(スラスト軸受面)とフランジ部2bの上側端面2b1との間、及び、蓋部10の端面10a(スラスト軸受面)とフランジ部2bの下側端面2b2との間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、軸受8の下側端面8bの動圧発生溝8b1及び蓋部10の端面10aの動圧発生溝により、各スラスト軸受隙間に形成された油膜の圧力が高められ、これにより軸部材を両スラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2が構成される。
また、軸部材2の回転中は、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2の各動圧発生溝G1,G2の非対称性等に起因して、軸受8の内周面8aと軸部2aの外周面との間の隙間を満たす潤滑油に一定方向の流れ(例えば下向き)が生じる。そのため、第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受隙間から流出した潤滑油は、スラスト軸受隙間、軸方向通油路11、半径方向通油路12を経てシール空間Sに達し、さらには第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間を介して第2ラジアル軸受部のラジアル軸受隙間に還流する。
次に、本発明の特徴的構成を説明する。
流体動圧軸受装置1では、軸受8に、潤滑油又は潤滑油の基油を、軸受8の開放気孔体積に対して10%~20%の割合で含浸した状態で、軸受8とハウジング7が接着(剤)で固定されている。換言すれば、ハウジング7と接着固定される直前の軸受8(軸受の中間製造体)で、開放気孔体積に対して10%~20%の割合で、潤滑油又は潤滑油の基油を含浸している。
本実施形態では、軸受8に含浸された潤滑油(基油の場合は、その基油を使用する潤滑油)は、完成した流体動圧軸受装置1で使用されるものである。しかし、本発明は、これに限定されず、その他の種類の潤滑油や基油を使用することも可能である。
潤滑油を軸受8に含浸する場合は、軸受8に含浸する潤滑油の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、10%以上、より好ましくは、15%以上である。潤滑油の量が開放気孔体積に対して10%未満の場合、接着強度が十分に得られない可能性がある。また、軸受8に含浸する潤滑油の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、20%以下である。潤滑油の量が開放気孔体積に対して20%を超えた場合は、潤滑油が接着する面に滲み出ることにより、接着強度が十分に得られない可能性がある。
潤滑油の基油を軸受8に含浸する場合には、軸受8に含浸させる基油の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、10%以上、より好ましくは、15%以上である。基油の量が開放気孔体積に対して10%未満の場合、接着強度が十分に得られない可能性がある。また、軸受8に含浸させる基油の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、20%以下である。基油の量が開放気孔体積に対して20%を超えた場合、流体動圧軸受装置1が完成した際の潤滑油が薄まる可能性がある。
なお、完成した流体動圧軸受装置1用の潤滑油とは異なる潤滑油を、又は完成した流体動圧軸受装置1用の潤滑油の基油とは異なる基油を、軸受8に含浸する場合については、次のようになる。軸受8に含浸させる潤滑油(基油)の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、10%以上、より好ましくは、15%以上である。潤滑油(基油)の量が開放気孔体積に対して10%未満の場合、接着強度が十分に得られない可能性がある。また、軸受8に含浸させる潤滑油(基油)の量(容積)は、軸受8の開放気孔体積に対して、例えば、20%以下である。これは、この場合の潤滑油(基油)が残ると、流体動圧軸受装置1用の潤滑油にとっては、不純物となるので、潤滑特性に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
軸受8に潤滑油又はその基油を含侵する方法としては、例えば、次の2つの方法が挙げられる。
第1の方法は、軸受8を製造する工程で含浸するものである。この場合の軸受8の製造工程は、「圧粉体成形」→「焼結」→「潤滑油(基油)の含浸」→「サイジング」→「洗浄」となる。その後、軸受8とハウジング7を接着固定する。
こうした場合、含侵した潤滑油(基油)は、サイジング時に金型との潤滑剤として寄与する。サイジング(圧縮)の際、焼結金属の内部に含浸された潤滑油(基油)は、表面から滲み出てこようとするため、潤滑油(基油)は、表層付近に多く蓄えられる。その後、洗浄を行うことにより、表面に付着した余分な潤滑油(基油)は、洗い流される。従って、含浸する潤滑油(基油)の量は、軸受8とハウジング7を接着剤で固定する際に必要な量よりも若干多めに設定することが好ましい。例えば、含浸する潤滑油(基油)の量(容積)は、完成した軸受8(焼結金属)の開放気孔体積の20%~30%である。
第2の方法は、軸受8の洗浄後であって、軸受8とハウジング7を接着剤で固定する前に、潤滑油(基油)を含侵するものである。すなわち、第1の方法は、サイジング前に軸受8に潤滑油(基油)を含侵するのに対し、第2の方法では、サイジング後(洗浄後)に軸受8に潤滑油(基油)を含侵する。第2の方法の場合、第1の方法に比較して潤滑油(基油)の量は、シビアにコントロールすることが出来る。しかし、軸受8の接着予定の領域(外周面8d)に潤滑油(基油)が残っていると接着不足を招く恐れがあるため、表面の潤滑油(基油)は確実に拭き取る必要がある。
なお、第1と第2の何れの方法を用いた場合でも、既に述べたように、隙間接着により、軸受8の外周面8dとハウジング7の内周面7aが接着固定される。その後、ハウジング7内に軸部材2を収容し、さらにハウジング7の底部開口を蓋部10で封孔した後、真空含浸等の手法により、ハウジング7の内部の空間を軸受8の内部気孔も含めて潤滑油で満たすことにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。
以上のように構成された流体動圧軸受装置1では、以下の効果を享受できる。
多孔質材料からなる軸受8とハウジング7を接着剤で固定する際に、あらかじめ軸受8に含浸された潤滑油(基油)によって、軸受8の気孔の内部への接着剤の吸い込みが抑制(阻止)される。詳述すると、軸受8内部に一定量の潤滑油(基油)を含侵した状態で、軸受8又はハウジング7に接着剤を塗布して、軸受8とハウジング7を接着固定する。このように、あらかじめ軸受8内部に潤滑油(基油)を含侵しておくと気孔は潤滑油(基油)で満たされているため、潤滑油(基油)が蓋となり、接着剤が気孔内部に吸い込まれ難くなる。そのため、軸受8とハウジング7の接着領域の間は接着剤で満たされ、全域に渡って均一に接着固定され、軸受8とハウジング7の接着強度の低下を抑制できる。また、エアがトラップされた空間の発生を抑制して、潤滑油の漏れや回転精度の低下を抑制できる。
本願の発明者は、本発明に関連して、軸受の内部への潤滑油の基油の含侵の有無による接着強度の差を評価した。
接着強度は、次のように測定した。試験片は、図5に示すように、実際のハウジング形状を模した筒状のハウジングHに軸受8(焼結金属)を接着固定したものであった。測定方法は、図5のように、ハウジングHの外径面と底面を受け冶具J1にセットして、白矢印で示すように、軸受8(焼結金属)の上部から押し冶具J2を介して下向きに荷重をかける。荷重を加えた際のピーク荷重を接着強度とした。荷重測定には、島津試験機サービス(株)オートグラフを使用し、押し冶具の下降速度は10mm/min、ロードセルは
5kNとした。
その他の条件は以下の通りである。
(1)軸受8の材質は銅鉄系焼結金属、ハウジングHの材質は真鍮とした。軸受8の外周面とハウジングHの内周面の接着方法は、隙間接着とした。
(2)含油率(焼結金属内部の開放気孔体積に対する含浸した油の容積の比率)を8%~23%に振って、完成した流体動圧軸受装置で使用される潤滑油「エステル系オイル」についての基油「DOS(セバシン酸ジオクチル)」を、軸受に含侵した。
(3)接着剤は熱硬化型エポキシ接着剤を使用し、塗布量は接着隙間と同じ容積になるように調整した。
評価結果を図6に示す。図6から、潤滑油の基油の含油率を増加させると接着強度も向上することが理解できる。また、流体動圧軸受装置の使用環境から考えると、接着強度は最低500N必要であり、含油率は10%以上が好ましいことが図6から判断できる。なお、最低の接着強度500Nを、単位接着面積当りの接着強度に換算すると2N/mm2である。更に、マージンを考慮して接着強度は1000N以上確保することがより好ましく、その場合は、含油率は15%以上が好ましいことが図6から判断できる。
本発明は上記の説明に限定されることなく、その技術的思想の範囲内であれば、様々な変形が可能である。例えば、上記説明では、ハウジングと軸受の接着手法として隙間接着を採用した場合を例示したが、この他にも、例えば軸受を接着剤の介在の下でハウジングの内周に圧入する、いわゆる圧入接着を採用する場合にも、上記の構成をそのまま適用することにより、同様の効果を得ることができる。
また、流体動圧軸受装置は、HDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータに限らず、ファンモータやレーザビームプリンタ用のポリゴンスキャナモータなどの小型モータに組み込んで使用することもできる。
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受

Claims (7)

  1. 多孔質材料からなる軸受と、前記軸受との間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受を収容するハウジングとを備え、前記軸受と前記ハウジングが接着固定された流体軸受装置において、
    前記軸受に、潤滑油又はその基油を、前記軸受の開放気孔体積に対して10%~20%の割合で含浸した状態で、前記軸受と前記ハウジングが接着固定されたことを特徴とする流体軸受装置。
  2. 前記潤滑油が、完成した前記流体軸受装置で使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載の流体軸受装置。
  3. 前記軸受と前記ハウジングの接着が隙間接着であることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体軸受装置。
  4. 前記接着剤が熱硬化型接着剤であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の流体軸受装置。
  5. 前記多孔質材料が焼結金属であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の流体軸受装置。
  6. 請求項1~5の何れか1項に記載の流体軸受装置と、ロータマグネットと、ステータコイルとを有することを特徴とするモータ。
  7. 多孔質材料からなる軸受と、前記軸受との間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受を収容するハウジングとを備え、前記軸受と前記ハウジングが接着固定された流体軸受装置の前記軸受の、前記ハウジングと接着固定される直前の中間製造体において、
    開放気孔体積に対して10%~20%の割合で、潤滑油又はその基油を含浸したことを特徴とする軸受の中間製造体。
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