以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示すように、ターゲット装置10は、前面フランジ20、フォイル30、ターゲット容器40、冷却機構50を備えている。放射性同位元素製造装置は、ターゲット装置10と、図示しないサイクロトロンとを備える。サイクロトロンは、荷電粒子ビーム(以下、「ビーム」という。)を生成し、生成されたビームは、照射軸Xに沿ってターゲット装置10に照射される。ターゲット装置10に照射されるビームとしては、例えば、陽子線や重陽子線などの粒子線が挙げられる。ターゲット装置10は、サイクロトロンとの間に配置されたマニホールド(不図示)を介して、サイクロトロンのビームが導出される導出口に装着される。ターゲット装置10は、例えば、円柱状の外形を有している。
前面フランジ20は、ターゲット装置10の正面側(ビームの照射側)に配置されている。前面フランジ20は、例えばアルミ合金によって形成することができる。前面フランジ20には、ビームを通過させる貫通孔20aが形成されている。サイクロトロンから導出されたビームは、前面フランジ20の貫通孔20aを通り、ターゲット容器40に到達する。
前面フランジ20の背面側には、ターゲット容器40が配置されている。前面フランジ20およびターゲット容器40は、複数のボルトによって締結されて連結されている。前面フランジ20とターゲット容器40との間には、フォイル30が挟まれている。フォイル30は、前面フランジ20によって、ターゲット容器40に押し付けられて固定されている。フォイル30は、ビームの通過を許容する一方、ターゲット液体LやHeガスといった流体の通過を遮断する。例えばHeガスは、フォイル30の正面に吹き付けられて、フォイル30の冷却用ガスとして用いられる。フォイル30は、例えばTi等の金属又は合金から形成された円形状の薄い箔であり、その厚さが10μm~50μm程度となっている。
ターゲット容器40は、図1及び図2に示すように、ターゲット液体Lを収容可能なターゲット収容部41と、このターゲット収容部41に連通する蒸気収容部42とを備えている。ターゲット容器40は、例えばNbによって形成することができる。正面視(X方向から見た場合)におけるターゲット容器40の外形は、例えば円形状を成している。そして、ターゲット容器40の中央には、ターゲット収容部41が形成され、ターゲット収容部41の上部には蒸気収容部42が形成されている。
ターゲット収容部41は、正面側から背面側へ窪む凹部であり、この凹部がターゲット液体Lを収容する領域を形成する。正面視におけるターゲット収容部41の外形は、例えば円形状を成している。ターゲット容器40の正面に形成されたターゲット収容部41の開口は、フォイル30によって覆われている。これにより、ターゲット収容部41内が密閉状態され、ターゲット液体が封入される空間が形成される。ターゲット収容部41内には、ターゲット液体Lとして、18O(ターゲット水)が封入される。そして、ターゲット液体Lを収容する凹部を構成するターゲット容器40の背面壁は、第1伝熱部41aとして機能する。第1伝熱部41aは、ターゲット収容部41のターゲット液体Lと接触し、ターゲット液体Lの熱が伝達される部分である。なお、図2では、ターゲット液体Lの液面L1を1点鎖線で示している。
蒸気収容部42は、ターゲット液体Lから蒸発した蒸気Vを収容する領域である。蒸気収容部42は、ターゲット収容部41の上部に連通し、上方へ窪む凹部である。蒸気収容部42は、照射軸Xに沿ったビーム照射方向において、ターゲット収容部41に近い下部側よりもターゲット収容部41から遠い上部側が背面側へ傾斜して形成されている。そして、ターゲット液体Lからの蒸気Vを収容する凹部を構成するターゲット容器40の背面壁は、第2伝熱部42aとして機能する。第2伝熱部42aは、蒸気収容部42の蒸気Vと接触し、蒸気Vの熱が伝達される。このとき、第2伝熱部42aである蒸気収容部42の背面壁によって蒸気Vが冷却され凝縮する(凝縮熱伝達)。
図2に示すように、正面視における蒸気収容部42の外形は、例えば扇形を成している。蒸気収容部42は、ターゲット収容部41の上部において周方向に沿って形成され、蒸気収容部42の上端部42bの外形は、円弧状に形成されている。蒸気収容部42の側部42cは直線状を成し、ターゲット収容部41よりも遠い側が近い側よりも幅方向Wの外側へ傾斜する斜辺を成している。また、蒸気収容部42は、ターゲット収容部41に近い第1の幅部W1よりもターゲット収容部41から遠い第2の幅部W2の方が大きくなっている。扇形の蒸気収容部42は、例えば、ドリル加工によって形成される。
図1に示すように、ターゲット容器40には、蒸気収容部42内に不活性ガス(例えばHeガス)を導入するためのガス導入孔40aが形成されている。このガス導入孔40aは、蒸気収容部42に連通し、ターゲット容器40の背面に設けられた開口部まで延在している。このターゲット容器40の背面の開口部には、さらに後方へ延びる配管経路45が接続されている。不活性ガスは、配管経路45及びガス導入孔40aを通過して蒸気収容部42内に導入される。このように蒸気収容部42内に高圧(例えば3MPa)の不活性ガスを導入することで、ターゲット液体Lの沸騰温度を上げることができる。
ターゲット容器40には、ターゲット収容部41内にターゲット液体Lを充填する際に利用されると共に、ターゲット収容部41内のターゲット液体Lを排出する際に利用される流通孔40bが形成されている。この流通孔40bは、ターゲット収容部41に連通し、ターゲット容器40の背面に設けられた開口部まで延在している。このターゲット容器40の背面の開口部には、さらに後方へ延びる配管経路46が接続されている。そして、ターゲット液体Lは、配管経路46及び流通孔40bを通過してターゲット収容部41内に導入される。また、ターゲット収容部41内のターゲット液体Lは、流通孔40b及び配管経路46を通過して排出される。
また、ターゲット容器40の背面の中央部には、図2に示すように、正面側へ窪む背面凹部40cが形成されている。この背面凹部40cは、その底部(正面側)に向かうにつれて縮径されている。このターゲット容器40の背面凹部40c内に、冷却機構50の先端部分が挿入される(図1参照)。
冷却機構50は、ターゲット容器40を冷却するものである。具体的には、冷却機構50は、ビーム照射方向とは反対側であるターゲット容器40の背面側(第1伝熱部41a、第2伝熱部42a)に対して冷却水を放水することで、ターゲット容器40の背面壁を冷却し、ターゲット収容部41及び蒸気収容部42を冷却する。冷却機構50は、図示しないポンプに接続されて冷却水を供給する冷却水供給配管51、この冷却水供給配管51の先端に設けられ冷却水を噴出させるノズル52、ターゲット容器40に固定されノズル52を支持する支持部材53を備えている。なお、冷却水に代えてその他の冷媒を用いた冷却機構でもよい。
支持部材53は、ターゲット容器40の背面凹部40cに挿入されて、ターゲット容器40に装着されている。支持部材53の中央には、照射軸Xの延在方向に沿って延在する貫通孔53aが設けられている。この貫通孔53a内には冷却水供給配管51が挿通されている。そして、ノズル52は、支持部材53の正面側において、貫通孔53aに嵌められて、冷却水供給配管51に接続されている。
ノズル52は、配管部61と散水部62とを含む。散水部62の先端部の外形は、ターゲット容器40の背面凹部に対応する形状となっている。ターゲット容器40の背面壁(41a,42a)とノズル52の先端部との間の隙間には、冷却水が流通する経路が形成されている。ノズル52から放出された冷却水は、ターゲット容器40の背面壁(41a,42a)の外面に沿って流れる。また、支持部材53には、冷却水を回収するための排出経路53bが設けられている。
ノズル52の形状の詳細について、図3~図5を参照しながら説明する。図3は、ノズル52の斜視図であり、図4は、ノズル52の正面図である。また、図5は、ノズル52付近のターゲット装置10の拡大断面図である。
ノズル52は、冷却水供給配管51に対して接続される配管部61(図5も参照)と、配管部61よりもターゲット収容部41側に設けられた略円板状の散水部62とを含む。配管部61は、内部に冷却水供給配管51から流れる冷却水を流すための貫通孔63が設けられている。また、貫通孔63は照射軸Xに沿って長手方向に延びると共に散水部62も貫通している。すなわち、貫通孔63は、照射軸Xに沿ってノズル52を貫通している。
散水部62の先端側(貫通孔63の開口が設けられる側)の表面62aは、貫通孔63の開口が設けられる中央付近の平坦な平坦領域621と、その周囲から端縁に向かって背面側へ傾斜している傾斜領域622と、を有している。この先端側の表面62aの形状は、ターゲット容器40の背面壁、すなわち、第1伝熱部41a及び第2伝熱部42aの形状に対応している。
一方、散水部62の背面側(配管部61が接続される側)の裏面62bは、配管部61の延在方向、すなわち、照射軸Xに対して直交するように延びている。したがって、散水部62は貫通孔63が設けられる中央から端縁に向かって徐々に厚さが小さくなっている(図1も参照)。
上記のノズル52では、散水部62の表面62aに凹凸部65が設けられていることを特徴とする。図3、図4等に示すように、ノズル52の上方、すなわち、組み立てたときに照射軸Xよりも上方となる領域に、凹凸部65が設けられている。この領域は、蒸気収容部42と対向する領域に相当する。凹凸部65は、蒸気収容部42側へ突出する凸部66と、凸部66と比べて蒸気収容部42から離間した凹部67と、を含む。ノズル52の場合には、6つの凸部66が設けられている。凸部66及び凹部67は、照射軸Xの延在方向で見たときにそれぞれ貫通孔63が設けられる散水部62の表面62aの中央から外縁へ向けて放射状に延びている。
凸部66の上面の高さは、ノズル52の下方の散水部62の表面62aと同じ高さとされている。すなわち、ノズル52の下方における散水部62の表面62aと同様の形状が、ノズル52の上方では凸部66によって実現されている。
このように、凹凸部65は、ノズル52の上方に溝状の凹部67を設けることで、凸部66と凹部67とを有する形状とされている。なお、凹凸部65の周方向の両端には凹部67よりも幅広であって凹部67と同様に放射状に延びる溝部68が形成されているが、溝部68は設けられていなくてもよい。溝部68が設けられていると、上方への冷却水の移動が促進され得る。
上記のターゲット装置10では、ターゲット収容部41にビームが照射されて、ターゲット収容部41内のターゲット液体が核反応し、放射性同位元素が製造される。そして、ターゲット収容部41のターゲット液体が加熱され、その一部が蒸発し、ターゲット液体から蒸発した蒸気Vは、蒸気収容部42内に存在することになる。冷却機構50は、ノズル52の貫通孔63から冷却水をターゲット容器40の背面側に供給している。
ビームが照射されたターゲット液体Lは、ビームからの入熱を受けて加熱される。ターゲット液体Lの熱は、ターゲット収容部41において、第1伝熱部41aを介して、冷却水に伝達される一方、ターゲット液体Lから蒸発した蒸気Vの熱は、蒸気収容部42において、第2伝熱部42aを介して、冷却水に伝達される。蒸気収容部42の蒸気Vは、背面壁に接して熱が奪われて凝縮する(凝縮熱伝達)。第2伝熱部42aによって冷却されて凝縮したターゲット液体は、下方へ移動しターゲット収容部41に戻る。冷却水は、貫通孔63を経てノズル52の散水部62の表面62aに排出された後、散水部62の背面に設けられた排出経路53b(図1参照)から装置外へ排出される。
ターゲット装置10では、ターゲット収容部41の熱を伝熱する第1伝熱部41aと、蒸気収容部42の熱を伝熱する第2伝熱部42aとを備え、第2伝熱部42aの伝熱面積は、第1伝熱部41aの伝熱面積よりも大きくされる。これにより、蒸気収容部42における凝縮熱伝達を有効活用することができ、ターゲットにおける冷却能力の向上が図られている。
ここで、本実施形態に係るターゲット装置10は、上記のノズル52を用いることで、冷却効率の低下を防ぐことができる。この点について、図5を参照しながら説明する。
ターゲット装置10では、上記のように冷却機構50によってターゲット収容部41及び蒸気収容部42の冷却を行っている。ここで、ターゲット液体に対して照射する放射線の強度を高くした場合、ターゲット液体からの蒸気が増加する可能性がある。発生する蒸気の量が増加すると、蒸気を収容する蒸気収容部42の内圧が上昇して変形する可能性がある。この場合、蒸気収容部42を形作る各部材のうち、第2伝熱部42aが他の面よりも薄い部材によって構成されるため、蒸気収容部42の内圧の上昇に伴って変形する可能性が考えられる。図5では、第2伝熱部42aが変形した状態を示している。蒸気収容部42の内圧の上昇に伴う変形の場合、第2伝熱部42aはノズル52側に突出するように変形することが考えられる。
ターゲット装置10では、第1伝熱部41a及び第2伝熱部42aを含むターゲット容器40の背面壁とノズル52との間の空間が、冷却水の移動する冷却水路とされているが、第2伝熱部42aがノズル52側に突出するように変形すると、図5に示すようにノズル52の上方の冷却水路の一部が塞がってしまう可能性がある。この場合、塞がった部分には冷却水が流れなくなるため、冷却水による冷却ができなくなる。すなわち、第2伝熱部42aを介した蒸気収容部42の冷却ができなくなり、冷却機構50による冷却効率が低下する。また、蒸気収容部42に収容された蒸気Vの冷却ができなくなると、蒸気Vの凝縮も促進されず、蒸気収容部42のさらなる変形等が発生する可能性もある。
これに対して、本実施形態に係るターゲット装置10では、ノズル52の散水部62の表面62aのうち、蒸気収容部42の背面壁を形成する第2伝熱部42aと対向する上方の領域に凹凸部65が形成されている。したがって、仮に蒸気収容部42の内圧の上昇によって蒸気収容部42(第2伝熱部42a)が変形した場合、変形後の第2伝熱部42aは、凸部66と当接する可能性があるが、凹部67とは当接しないため、凹部67と第2伝熱部42aとの間には空間が確保される。すなわち、凸部66と凹部67とを有する凹凸部65が設けられていることで、凸部66が第2伝熱部42aのさらなる変形(散水部62側への突出)を防ぐため、凹部67と第2伝熱部42aとが当接することが防がれる。その結果、第2伝熱部42aとノズル52の散水部62との間を冷却水が移動することが可能となるため、冷却機構50による冷却効率の低下を防ぐことができる。
なお、凹凸部65は、ノズル52のうち蒸気収容部42と対向する位置にのみ設けられていてもよい。上述したように、冷却効率が低下する可能性としては、蒸気収容部42が変形することが考えられる。そのため、蒸気収容部42と対向する位置にのみ凹凸部65を設ける構成とすることで、凹凸部65を設けることによるノズル52の剛性の低下等を防ぐことができる。ただし、ノズル52の下方にも凹凸部65を設けてもよい。
また、凹部67は、照射軸X方向から見て放射状に広がっている態様とすることができる。凹部67が放射状に広がっている態様とすることで、放射状に延びる凹部67に沿った冷媒の流路を形成することが可能となる。したがって、蒸気収容部42が変形した場合でも蒸気収容部42全体を冷却しやすい構成とすることができる。
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、蒸気収容部42が扇形に形成されているが、蒸気収容部42の形状は、例えば三角形、台形などその他の形状でもよい。また、例えば、蒸気収容部にフィンを設けることで、伝熱面積を増加させてもよい。
また、蒸気収容部42は、その側部42cに斜辺が形成されていない構成であってもよい。例えば、上下方向に直線状に形成された部分を有する側部や、曲線状に形成された側部を備える蒸気収容部42でもよい。
また、ノズル52に形成される凹凸部65の形状、すなわち、凸部66及び凹部67の数及び形状等は適宜変更することができる。上述したように、ターゲット装置10では、蒸気収容部42が変形した際に第2伝熱部42aがノズル52側に突出した場合でも凸部66によって第2伝熱部42aのさらなる突出を規制すると共に凹部67によって第2伝熱部42aと凹部67との間に冷媒流路を確保することができる。換言すると、蒸気のように、凸部66によって第2伝熱部42aのさらなる突出を規制すると共に凹部67によって第2伝熱部42aと凹部67との間に冷媒流路を確保することが可能であれば、凸部66及び凹部67の形状は特に限定されない。例えば、凹部67となる面に複数の柱状部材を配置して凸部66とすることで凹凸部65を形成してもよい。
また、上記の実施形態では、ノズル52の散水部62の表面62aと凸部66とが同じ高さとなる場合について説明したが、凸部66を表面62aよりも突出させてもよい。この場合、蒸気収容部42が変形しない状態でも、凸部66と第2伝熱部42aとの距離が短くなるが、冷却効率に影響を与えない程度であれば特に問題ない。また、通常時から、凸部66が第2伝熱部42aと当接した状態としてもよい。この場合も、蒸気収容部42の冷却が十分可能な程度に凹部67(冷媒の流路に相当する領域)を確保することで、冷却機構50による冷却を適切に行いつつ、仮に蒸気収容部42の内圧が上昇した場合でも蒸気収容部42の変形を抑制することができる。