JP7180039B1 - 錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法 - Google Patents

錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 分離の簡便性が高められた、錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法を提供すること。【解決手段】 錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法を開示する。本発明の分離方法は、(a)混合物を酸で溶解させて酸性溶液を調製する工程と、(b)電析槽中で酸性溶液を電析して陰極の表面に錫析出物を形成する工程と、(c)電析槽から錫析出物を取り出す工程とを含む。本発明によれば、錫およびニッケルを含む混合物から、高純度の錫を簡便に取り出すことができる。【選択図】 図1

Description

本発明は、錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法に関し、より詳細には、錫を高純度で分離できる、錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法に関する。
電子部品のような被めっき物の表面に導電性を付与する方法としてバレルめっき法が知られている。バレルめっき法では、めっきメディアまたはダミーメディアと呼ばれる予め錫めっき等が施された小型の鉄球を被めっき物とともにバレル内に投入して通電しながら撹拌することにより、被めっき物へのめっきが行われる(例えば特許文献1)。
同法においてめっきメディアは繰り返し使用される。この繰り返し使用によってめっきメディアは使用毎にその表面にめっき金属(すなわち、錫とニッケルとの混合物)が積層され、成長し続ける。そして、最終的に外径および比重が同法の最適化条件から外れると、使用済みのめっきメディアとなり、新たなメディアとの交換が必要となる。
一方、めっき金属は希少かつ高価である。このため、使用済みのめっきメディアからめっき金属を剥離し、錫とニッケルとの分離かつ回収する要請が高まっている。例えば、特許文献2は、使用済みのめっきメディアからめっき金属を酸で溶解した後、得られた酸溶液からイオン交換樹脂を通じて錫イオンを選択的に吸着させることにより、錫とニッケルとの分離を行う方法を開示している。
しかし、こうしたイオン交換樹脂の使用は上記酸溶液からの錫イオンの吸着効率が十分とは言えず、工業的利用が容易であるとは言い難い。また、吸着したイオン交換樹脂からの錫イオンの脱着には煩雑な作業が必要とされる。その上、これにより回収可能な錫成分は、水酸化物(Sn(OH))の形態を有しており、錫の純度が多くて約60質量%であることから、回収効率は低いと言わざるを得ない。
特開昭61-015999号公報 特開2019-026928号公報
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、分離の簡便性が高められた、錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法を提供することにある。
本発明は、錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法であって、
(a)該混合物を酸で溶解させて酸性溶液を調製する工程、
(b)電析槽中で該酸性溶液を電析して、陰極の表面に錫析出物を形成する工程、および
(c)該電析槽から該錫析出物を取り出す工程、
を含む、方法である。
1つの実施形態では、上記酸は塩酸である。
さらなる実施形態では、上記酸性溶液の調製は、上記混合物を1モル/L~5モル/Lの濃度を有する上記塩酸に85℃~98℃の温度下で溶解させることにより行われる。
1つの実施形態では、上記電析槽内に陽極として不溶解性電極が配置されている。
1つの実施形態では、上記不溶解性電極は二酸化イリジウム電極である。
1つの実施形態では、上記混合物は、使用済みのめっきメディアから得られた粉体である。
本発明によれば、煩雑な操作を必要とすることなく、錫およびニッケルを含む混合物から、高純度の錫を分離することができる。一方、錫を分離した後は、ニッケルを豊富に含む残留溶液を得ることができる。本発明により得られた錫析出物は必要に応じて精製され、金属錫のインゴットとして回収し、さらなる用途に応用することができる。残留溶液に含まれるニッケルもまた、例えば電析および精製が行われ、金属ニッケルのインゴットとして回収可能である。
本発明の錫とニッケルとの分離方法の一例を説明するフローダイアグラムである。 (a)は実施例6の試料溶液(酸性溶液)の電析により陰極に形成された針状析出物を示す写真であり、(b)は実施例7の試料溶液(酸性溶液)の電析により陰極に形成された小さな塊が凝集した形態の析出物を示す写真である。
以下、本発明について詳述する。
図1は、本発明の錫とニッケルとの分離方法の一例を説明するフローダイアグラムである。
本発明の分離方法においては、まず所定の混合物が酸で溶解される(図1の符号12)。
この混合物は錫およびニッケルを含む、固体、液体またはそれらの組み合わせからなる物質である。このような混合物の例としては、例えば、バレルめっき法を用いて使用されためっきメディアの表層(金属層)を構成し、当該めっきメディアのコアの鉄球から除去された粉体が挙げられる。このようにして得られためっきメディアから回収した粉体には、錫およびニッケルが含有されている。
錫とニッケルとの混合物は、上記めっきメディア以外から得られた他の混合物であってもよい。
このような他の混合物としては、例えば、錫・ニッケル合金めっきの廃液;錫・ニッケル合金めっきの際に発生したスラッジ;錫めっきおよびニッケルめっきの各々で得られた廃液の混合物;これらのめっきに使用する治具やバレルめっきで使用される給電端子に付着した錫めっき、ニッケルめっき、およびこれらの合金めっきの構成成分;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。他の混合物は上記めっきメディアから得らえた混合物と組み合わせて使用されてもよい。
この混合物における錫とニッケルとの含有量は、特に限定されないが、例えば、めっきメディアの表層から得られたスラッジやスラリーを用いる場合、錫およびニッケルの合計を100質量%として、好ましくは錫が5質量%以上でありかつニッケルが90質量%以下である。混合物における錫の含有量が5質量%を下回ると、混合物全体における錫の含有量が少なすぎて後述する錫析出物が十分に形成されないことがある。なお、錫の含有量がこのような低い場合には、後述する電析の際に負荷する電解電位をより低下させ、多段階(例えば2段階~3段階)に分けた電析を行うことにより錫析出物の形成を促すことは可能である。
錫とニッケルとの混合物は、他の金属(例えばめっきメディアのコアを形成する鉄球等に由来する鉄(Fe)や不純物としての銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等)および/またはその他の夾雑物で構成される不純物が含まれていてもよい。混合物に含まれる不純物の濃度は特に限定されないが、錫とニッケルとの分離が予期しない理由によって妨げられることのないようにするために当該混合物の全体質量に対して1質量%以下に保持されていることが好ましい。
錫とニッケルとの混合物は、上記錫、ニッケル、不純物以外に水が添加されたものであってもよい。水の例としては、純水、イオン交換水、蒸留水、RO水、および水道水、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
例えば、この混合物を使用済みのめっきメディアから得たものであるような場合は、使用済みのめっきメディアを一旦所定の条件下で焼成し、コア材である鉄球と表層を形成する金属層成分との分離が行われる。その際に添加した水が、当該表層を形成する金属層成分とともにスラリーを形成し、これを上記混合物として使用することができる。
酸は、例えば、混合物中に含まれる錫およびニッケルの十分な溶解を促して、得られる酸性溶液中で錫(Sn)イオンおよびニッケル(Ni)イオンを形成させるために添加される。
本発明に用いられる酸の種類は特に限定されないが、例えば無機酸である。本発明において使用され得る無機酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、過酸化水素、およびリン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、分離かつ回収した錫やニッケルを再利用して新たなめっき液を調製するような用途が想定される場合、上記酸には塩酸または硫酸を用いることが好ましい。特に塩酸は、比較的溶解性に優れた塩化錫(II)または塩化ニッケル(II)を形成することができ、めっき液への再利用に好都合であるとの理由からより好ましい。
酸として塩酸が使用される場合、添加される塩酸の濃度は、好ましくは1モル/L~5モル/L、より好ましくは2モル/L~4モル/Lである。塩酸の濃度が1モル/Lを下回ると、上記混合物からの錫(Sn)イオンおよびニッケル(Ni)イオンの形成が不十分となる、後述の電析工程(図1の符号14)において錫析出物が効率良く形成され難いことがある。塩酸の濃度が5モル/Lを上回ると、本発明における一連の操作において塩化水素の白煙が発生することがあり、作業環境の悪化による作業者への健康を損うおそれがある、それを防止するための追加設備が必要になる、使用設備の腐食を進めるおそれがある等の支障を生じることがある。あるいは、混合物の溶解時間を短縮するために酸として濃塩酸が使用されてもよい。濃塩酸を使用する場合には、作業者の安全を保つために十分な塩化水素浄化装置が設置されていることが好ましい。
混合物中の錫およびニッケルの溶解効率を高めるために、上記酸の添加は所定の温度に設定して行われることが好ましい。このような温度は、好ましくは85℃~98℃、より好ましくは94℃~98℃である。混合物への酸の添加が行われる場合、必要に応じて当業者に周知の手段を用いて撹拌が行われてもよい。撹拌にはプロペラ式撹拌機が使用され得、撹拌槽を構成する材質は例えばタンタルやジルコニウムである。
これにより、上記混合物を酸で溶解させることにより酸性溶液が調製される。
調製された酸性溶液のpHは必ずしも限定されないが、好ましくは0~4、より好ましくは0.1~3である。酸性溶液のpHが4を上回ると、後述の電析工程を効率良く行うことが困難となるおそれがある。
次いで、電析槽中で酸性溶液が電析される(図1の符号14)。
電析槽は、通常の電着・電析等に使用されるものであり、容量は特に限定されない。上記にて調製された酸性溶液がこの電析槽に収容され、電析が行われる。電析槽の槽数は特に限定されず、使用する酸性溶液の量に応じて適宜選択され得る。
電析に使用される陰極(作用電極)としては、ステンレススチール(例えばsus304)、鉄などが挙げられる。上記酸に対してある程度の耐久性を有しているとの理由から、ステンレススチールが好ましい。陰極の表面は、必要に応じて当業者に公知の手段および方法により表面加工が行われたものであってもよい。陰極の大きさ等のその他の条件は、当業者によって適宜選択され得る。なお、電析による錫の析出を促すために、このような陰極には予め当業者に公知の方法を用いて錫めっきが施されていることが好ましい。
電析に使用される陽極(参照電極)は、白金や白金系材料で構成される電極が使用され得るが、例えば、電析中の腐食を防ぐために不溶解性電極を用いることが好ましい。不溶解性電極は、例えば、耐食性素材であるタンタルやチタン系材料に白金やイリジウムを熱分解して得られた電極である。不溶解性電極は、塩素発生条件下、高電流密度下などの種々の条件や用途に使用され得る電極である。本発明においては、比較的高濃度の上記酸性溶液において電極の腐食が著しく改善されるという理由から、二酸化イリジウム電極を使用することが好ましい。二酸化イリジウム電極は、例えば、当該分野において公知の
耐食性素材のチタンに対してイリジウムを含む皮膜を当業者に公知の方法でコーティングして得られる不溶解性電極である。陽極の大きさ等のその他の条件は、当業者によって適宜選択され得る。
このような電析槽に対して、電析は比較的低い電流密度で行われる。酸性溶液の電析に採用され得る電流密度は、好ましくは1A/dm~5A/dm、より好ましくは2A/dm~4A/dmである。電流蜜密度が1A/dmを下回ると、陰極への錫の析出により多くの時間を要するか、または析出効率が低下して生産性に劣るおそれがある。電流蜜密度が5A/dmを上回ると、陰極に形成される錫析出物中の不純物として含まれるニッケルの含有量が増加するおそれがある。本発明において、採用する電流密度が低いほど、ニッケルよりも錫が優先的に電析される割合が高くなる傾向にある。錫の優先的な電析を促すために、電流密度は上記範囲内で低く設定されることが好ましい。
電析に要する時間は、採用する電析槽の大きさ、酸性溶液中の錫(Sn)イオンおよびニッケル(Ni)イオンの各濃度、不純物の種類や濃度によって依存するため必ずしも限定されず、当業者によって任意の時間が設定され得る。電析のために付与される温度もまた特に限定されないが、陰極への錫析出物の形成を効率良く行うために、例えば20℃~30℃、好ましくは25℃~30℃に温度調節して行うことが好ましい。なお、電解熱により電析槽内の温度は上昇する傾向にある。陰極への錫析出物の形成を良好なものとするために、電析槽の温度は50℃以下となるように調節されていることが好ましい。
酸性溶液に含まれる錫およびニッケルは、一般にいずれも卑金属に分類されるが、本発明者は、上記のような比較的低い電流密度下では、卑金属のうちニッケルよりも錫が優先的に陰極側に析出可能であることを見出した。このため、本発明ではこの電析工程によって陰極側に錫を優先的に析出させ、ニッケルはそのまま残留物として水溶液中に残留させることにより、上記酸性溶液に含まれる錫とニッケルとの分離を行うことができる。
これにより、酸性溶液の電析により、陰極の表面に錫析出物を形成することができる。
その後、電析槽から錫析出物が取り出される(図1の符号16)。
具体的には、例えば電析槽から錫析出物が形成した陰極ごと取り出すことにより、錫析出物を、ニッケル(Ni)イオンが含まれる残留溶液から分離できる。取り出した錫析出物は、当業者に周知の手段および/または方法を用いて陰極と錫析出物とが分離される(図1の符号18)。当業者に公知の手段を用いて水洗が行われてもよい。
このようにして、錫析出物として構成される金属錫が回収され(図1の符号20)、上記錫およびニッケルを含む混合物から、錫とニッケルとを分離することができる。
回収された金属錫(錫析出物)は、好ましくは少なくとも70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上の純度で錫を含有する。これは、使用済のめっきメディアから、精錬なしで回収できる金属錫の純度(約65%)をはるかに上回る。また、上記のように電析工程を採用するため、煩雑な作業を伴うことなく簡便に錫とニッケルとの分離が可能である。
得られた金属錫は、その純度の高さにより精錬に要する時間も短縮でき、例えば新たなめっきメディアの製造に使用されるめっき液の調製のために再利用することができる。
一方、上記にて錫析出物が取り出された後の残留溶液には、錫(Sn)イオンはほとんど存在しておらず、むしろこれをはるかに上回るニッケル(Ni)イオンが残存する。
このため、本発明では、当該残留溶液をさらに電析することによって陰極の表面にニッケル析出物を形成することができる(図1の符号22)。
残留溶液の電析に使用する電析槽、陽極および陰極は、錫析出物の形成(図1の符号14)のために使用したものと同様である。錫析出物の取り出しのために取り出した陰極は、新たなものをセットする以外に、電析槽および陽極は、上記錫析出物の形成(図1の符号14)で使用したものをそのまま使用してもよい。
この残留溶液の電析に使用する電流密度および温度は、ニッケルの析出にあたり適切な条件が当業者によって選択され得る。ここで、残留溶液にはすでに錫(Sn)イオンはほとんど存在していないため、この電析によりニッケル(Ni)イオンが陰極側に引き寄せられ、陰極の表面にはニッケルの析出物が形成される。
その後、例えば電析槽からニッケル析出物を形成した陰極ごと取り出すことにより、電析槽からニッケル析出物が取り出される(図1の符号24)。取り出したニッケル析出物は、当業者に周知の手段または方法を用いて陰極とニッケル析出物とが分離される(図1の符号26)。当業者に公知の手段を用いて水洗が行われてもよい。これにより回収された金属ニッケル(ニッケル析出物)は、例えば高純度でニッケルを含有する。
あるいは、本発明では、電析槽から取り出した錫析出物(図1の符号16)について、それに錫の純度をさらに高めるために、得られた錫析出物を再び酸に再溶解してもよい(図1の符号28)。この再溶解に使用する酸の種類、濃度等の諸条件は、上記図1の符号12とともに説明した酸性溶液の調製工程と同様である。
そして、再溶解した溶液は、上記と同様にして、例えば別の電析槽中でのさらなる電析が行われる。さらなる電析に使用される電析槽、陽極、および陰極、ならびに電析条件(例えば、電流密度、温度、時間)は図1の符号14とともに説明した上記酸性溶液の電析工程と同様のものが選択されてもよい。最終的には、適時電流密度を変化させて、このさらなる電析が行われる。このさらなる電析に採用される直流電源の電圧は自動制御とするために自動定電圧に設定されることが好ましい。
その後、例えば電析槽から錫析出物が形成した陰極ごと取り出すことにより、電析槽から、より錫の純度が高められた錫析出物を取り出すことができる。得られた錫析出物は当業者に公知の手段を用いて水洗および乾燥が行われてもよい。
このようにして、錫析出物として構成される金属錫が回収される(図1の符号20)。回収された金属錫(錫析出物)は、好ましくは少なくとも95%以上、より好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99.9%以上の純度で錫を含有する。このように、本発明では、金属錫を簡便かつ高純度で直接回収することができる。得られた金属錫は、その後特に精錬を行うことなく、例えば新たなめっきメディアの製造に使用される錫めっき液の調製のために、および/または錫めっきにおける錫電極板として再利用することができる。
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収)
使用済のめっきメディアのコアの鉄球から除去して得られた残留粉体(錫・ニッケル混合物)10gを3モル/Lの塩酸5Lに溶解し、92±2℃にて6時間撹拌して酸性溶液を調製した。得られた酸性溶液のpHは0.24であった。さらに、この酸性溶液に含まれる金属成分の含有量を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光・質量装置(株式会社島津製作所製ICP-7510)により分析した。結果を表1に示す。
次いで、得られた酸性溶液を電析槽(5L)に仕込み、当該酸性溶液に陽極(二酸化イリジウム電極)および陰極(ステンレススチール電極)を挿入し、50℃にて4A/dmの電流密度で1時間電析した。陽極と陰極との面積比は2:1であった。この電析を通じて陰極には析出物が形成されたことを目視により確認した。
一方、陰極を取り出した後の残留溶液は、ニッケルが残存していることを示す緑色を呈していた。この残留溶液について上記と同様にしてICP発光分光・質量装置による分析を行った。結果を表1に示す。
(実施例2:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収)
電流密度および温度を変更することなく、酸性溶液の電析時間を3時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして電析を行い、陰極に形成した析出物を取り出した。陰極を取り出した後の緑色の残留溶液について実施例1と同様にしてICP発光分光・質量装置による分析を行った。結果を表1に示す。
(実施例3:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収)
電流密度および温度を変更することなく、酸性溶液の電析時間を6時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして電析を行い、陰極に形成した析出物を取り出した。陰極を取り出した後の緑色の残留溶液について実施例1と同様にしてICP発光分光・質量装置による分析を行った。結果を表1に示す。
Figure 0007180039000002
表1に示すように、実施例1~3で行われた電析を通じて、残留溶液に含まれる錫(Sn)の濃度は電析前の原液のものよりも低下し、かつ電析時間が長くなるほど、錫の濃度は低下していることがわかる。
(実施例4:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収)
使用済のめっきメディアのコアの鉄球から除去して得られた残留粉体(錫・ニッケル混合物;実施例1とは別に入手したもの)20gを3モル/Lの塩酸5Lに溶解し、92±2℃にて6時間撹拌して酸性溶液を調製した。得られた酸性溶液のpHは4.0であった。さらに、この酸性溶液に含まれる金属成分の含有量を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光・質量装置(株式会社島津製作所製ICP-7510)により分析した。結果を表2に示す。
次いで、得られた酸性溶液を電析槽(5L)に仕込み、当該酸性溶液に陽極(二酸化イリジウム電極)および陰極(ステンレススチール電極)を挿入し、50℃にて4A/dmの電流密度で7時間電析した。この電析を通じて陰極には析出物が形成されたことを目視により確認した。その後、陰極に形成した析出物を陰極と一緒に取り出した。得られた析出物は細かい針状の形態を有していたことを確認した。
一方、陰極を取り出した後の残留溶液は、ニッケルが残存していることを示す緑色を呈していた。この残留溶液について上記と同様にしてICP発光分光・質量装置による分析を行った。結果を表2に示す。
Figure 0007180039000003
表2に示すように、実施例4で行われた電析では、残留溶液に含まれる錫(Sn)の濃度は電析前の原液のものよりも著しく低下していた。これに対し、残留溶液に含まれるニッケルの濃度は電析の前後で大きく変化しておらず、ニッケルが析出物として陰極にほとんど移動していなかったことがわかる。
(実施例5:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収)
使用済のめっきメディアのコアの鉄球から除去して得られた残留粉体(錫・ニッケル混合物;実施例1とは別に入手したもの)100gを3モル/Lの塩酸5Lに溶解し、92±2℃にて6時間撹拌して酸性溶液を調製した。得られた酸性溶液のpHは略0.0であった。さらに、この酸性溶液に含まれる金属成分の含有量を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光・質量装置(株式会社島津製作所製ICP-7510)により分析した。結果を表3に示す。
次いで、得られた酸性溶液を電析槽(5L)に仕込み、当該酸性溶液に陽極(二酸化イリジウム電極)および陰極(ステンレススチール電極)を挿入し、50℃にて2A/dmの電流密度で7時間電析した。陽極と陰極との面積比は2:1であった。この電析を通じて陰極には析出物が形成されたことを目視により確認した。その後、陰極に形成した析出物を陰極と一緒に取り出した。得られた析出物は細かい針状の形態を有していたことを確認した。
一方、陰極を取り出した後の残留溶液は、ニッケルが残存していることを示す濃緑色を呈していた。この残留溶液について上記と同様にしてICP発光分光・質量装置による分析を行った。結果を表3に示す。
Figure 0007180039000004
表3に示すように、実施例5で行われた電析では、実施例4で採用した電流密度(4A/dm)よりも低い電流密度(2A/dm)であっても、残留溶液に含まれる錫(Sn)の濃度は電析前の原液のものよりも著しく低下していた。これに対し、残留溶液に含まれるニッケルの濃度は電析の前後で余り大きく変化しておらず、ニッケルが析出物として陰極にほとんど移動していなかったことがわかる。
なお、実施例5で採用した電流密度(2A/dm)が実施例4で採用した電流密度(4A/dm)よりも低いにも関わらず、上記のように錫(Sn)の濃度を著しく低下することができた理由の1つとしては、実施例5で採用した原液中の錫の濃度(6020mg/L)が、実施例4で採用した原液中の錫の濃度(3450mg/L)と比較して高いものであったことが考えられる。
(実施例6:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収(1))
使用済のめっきメディアのコアの鉄球から除去して得られた残留粉体(錫・ニッケル混合物)600gを3モル/Lの塩酸5Lに溶解し、92±2℃にて6時間撹拌して5Lの酸性溶液を調製した。得られた酸性溶液のpHは0.24であった。この操作を10回繰り返し、得られたものを合わせて50Lの酸性溶液(pH0.24)を調製した。
この酸性溶液から25Lを分取し、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpH3.0の試料溶液を調製した。
この試料溶液に含まれる金属成分の含有量を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光・質量装置(株式会社島津製作所製ICP-7510)により分析した。結果を表4に示す。
Figure 0007180039000005
次いで、この試料溶液を電析槽に仕込み、当該試料溶液に陽極(二酸化イリジウム電極)および陰極(ステンレススチール電極)を挿入し、35℃~45℃に液温を調節しながら4A/dmの電流密度で4時間電析した。陽極と陰極との面積比は2:1であった。この電析を通じて陰極には析出物が形成されたことを目視により確認した。その後、陰極に形成した析出物を陰極と一緒に取り出し、得られた析出物を写真撮影した(図2の(a))。図2の(a)に示すように得られた析出物は細かい針状の形態を有していたことを確認した。
また、陰極に形成した析出物30gを3モル/Lの塩酸に再溶解し、得られた溶液10mLに20%塩酸溶液20mLを添加し、ヨウ素規定液でデンプンを指示薬として滴定を行うことにより、析出物中に含まれる錫(Sn)の濃度を測定した。一方、陰極に形成した析出物30gを3モル/Lの塩酸に再溶解し、得られた溶液1mLに50%クエン酸溶液10mLを添加し、アンモニア水を加えてアルカリ性にし、50%ヨウ化カリウム1mLを加えて硝酸銀を含む標準シアン化カリウム溶液を用いてヨウ化銀の白濁が消失するまで滴定を行うことにより、析出物中に含まれるニッケル(Ni)の濃度を測定した。結果を表7に示す。
(実施例7:錫・ニッケル混合原液からの錫金属の回収(2))
実施例6で作製した50Lの酸性溶液(pH0.24)の残りの試料溶液(25L)について、水酸化ナトリウムによるpHの調整を行うことなく、この試料溶液に含まれる金属成分の含有量を、実施例6と同様にしてICP発光分光・質量装置により分析した。結果を表5に示す。
Figure 0007180039000006
表5に示すように、本実施例で用いた試料溶液(pH0.24)は、pHが相違していること除き、当該試料溶液に含まれる金属成分の含有量は、実施例6で調整した試料溶液(pH3.0)と同様であることを確認した。
次いで、この試料溶液を電析槽に仕込み、実施例6と同様にして電析した。この電析を通じて陰極には析出物が形成されたことを目視により確認した。その後、陰極に形成した析出物を陰極と一緒に取り出し、得られた析出物を写真撮影した(図2の(b))。図2の(b)に示すように得られた析出物は小さな塊が凝集した形態を有していたことを確認した。
また、陰極に形成した析出物に含まれる錫(Sn)およびニッケル(Ni)の濃度を実施例6と同様にして測定した。結果を表6に示す。
Figure 0007180039000007
表6に示すように、実施例6および7のいずれの試料溶液を用いても陰極に形成した析出物には高純度の錫が含まれていたことがわかる。特に、水酸化ナトリウムによるpH調整を行った実施例6の試料溶液は、当該調整を行わなかった実施例7の試料溶液と比較して、析出物中の錫濃度をさらに高めることができたことがわかる。一方、水酸化ナトリウムによるpH調整を行わなかった場合(実施例7)でも、錫とニッケルとを含む試料溶液から約93%もの錫を含有する析出物を容易に取り出すことができることもわかる。
本発明によれば、高価なイオン交換樹脂など用いることなく、錫およびニッケルを含む混合物から、錫およびニッケルと簡便に分離できる。本発明の方法は、例えば、使用済みのめっきメディアの表面層を構成する錫とニッケルとの分離のために使用することができ、それぞれを回収できる。回収後は、必要に応じて当業者に公知の精錬等が行われることにより、再びめっきメディアの構成材料として使用することができる。
12 酸性溶液の調製工程
14 酸性溶液の電析工程
16 錫析出物の取り出し工程
18 陰極と錫析出物との分離
20 金属錫の回収
22 残留溶液の電析
24 ニッケル析出物の取り出し
26 金属ニッケルの回収
28 錫析出物の酸への再溶解

Claims (6)

  1. 錫およびニッケルを含む混合物からの錫とニッケルとの分離方法であって、
    (a)該混合物を酸で溶解させて酸性溶液を調製する工程、
    (b)電析槽中で該酸性溶液を電析して、陰極の表面に錫析出物を形成する工程、および
    (c)該電析槽から該錫析出物を取り出す工程、
    を含み、
    該電析槽内に陽極として二酸化イリジウム電極が配置されている、方法。
  2. 前記酸が塩酸である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記酸性溶液の調製が、前記混合物を1モル/L~5モル/Lの濃度を有する前記塩酸に85℃~98℃の温度下で溶解させることにより行われる、請求項2に記載の方法。
  4. 前記混合物が、使用済みのめっきメディアから得られた粉体である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. 錫およびニッケルを含む混合物からのニッケルを含む残留溶液の回収方法であって、
    (a)該混合物を酸で溶解させて酸性溶液を調製する工程、
    (b)電析槽中で該酸性溶液を電析して、陰極の表面に錫析出物を形成する工程、および
    (c)該電析槽から該錫析出物を取り出す工程、
    を含み、
    該電析槽内に陽極として二酸化イリジウム電極が配置されている、方法。
  6. 錫およびニッケルを含む混合物からの金属ニッケルの回収方法であって、
    請求項1に記載の錫析出物を取り出す工程により得られた残留溶液をさらに電析して、陰極の表面にニッケル析出物を形成して取り出す工程を含む、方法。
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