JP7166831B2 - 消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
消耗電極式ガスシールドアーク溶接のうち、MIG溶接は、Ar等の不活性ガスを専らシールドガスとして用いる。しかしながら、Ar100%のガスを用いて溶接した場合、母材表面に電子の放出点である陰極点が時々刻々広範囲にわたって移動し、安定したアークが維持できなくなり、溶接ビードが蛇行する現象が見られる。
そこで、通常は微量の酸素源(酸素ガスもしくは炭酸ガス)をシールドガス中に混合し、溶融池表面に安定的な陰極点となる酸化物を常時生成させることで、安定したアークを得ることがなされている。
この要求に対し、特許文献1では、酸素分を含む異種ガスを間欠的に添加することで、連続的な添加よりも溶接金属中の酸化成分濃度を低減させること、および、異種ガスの添加を、ワイヤ先端(消耗電極の先端)近傍に局所的に行うことで、酸素添加量を低減することが提案されている。
なお、特許文献1は、狭隘開先でのアークの安定化を図るものであり、そのために異種ガスの間欠的な添加とともに、ガス添加に同期してアーク電流を間欠的に変化させることにより、アークを開先内で上下に変位させている。
一方、特許文献2では、特殊なノズルを装着した溶接トーチを用い、不活性ガスで消耗電極をシールドしつつ、溶融池外縁に向けて酸素を含む活性ガスを局所的に吹き込むことで、アークを安定化させつつ、溶接金属中の酸素量を低減することが提案されている。
一方、特許文献1の溶接方法では、電極先端位置を上下に振ることで、狭隘開先でも安定したアークが得られる。しかし、特許文献1では、添加ガスを間欠的に吹込み、これに同期してアーク電流を間欠的に変動させるなど、複雑な構成が必要という問題があった。
アークの長さを溶接ワイヤ先端から開先内壁までの距離よりも短い状態に維持する手段としては、例えば、溶接ワイヤへの印加電圧の調整、印加電流の高周波パルス化、溶接ワイヤの導入速度の制御などが利用でき、これらを組み合わせ用いてもよい。
とくに、溶接中に、溶接ワイヤ先端から開先底部に至るアークを、溶接ワイヤ先端から開先内壁までの距離よりも短い状態に維持することで、狭隘開先であっても、溶接ワイヤ先端から開先内壁に向かうアークの這い上がりを防止し、安定したアークが得られる。
とりわけ、アーク長さを2mm以下とすることで、狭隘開先の形状などに拘わらず、あるいは、溶接条件などに拘わらず、安定したアークが得られる。
このように、本発明では、アーク長さの制御によりアークの安定化が実現でき、複雑な構成が必要ないため、溶接装置を簡単な構造とすることができる。
このような本発明では、アーク長さを2mm以下とすることで、溶接ワイヤ先端から開先内壁に向かうアークを効果的に防止することができ、溶接ワイヤ先端から開先底部に至るアークを安定させることができる。
このような本発明では、溶接ワイヤと開先(開先が形成される溶接対象物)との間の印加電圧の平均値を調整することで、溶接ワイヤ先端から開先底部に至るアークの長さを短くすることができ、操作および装置構成を簡素化できる。
このような本発明では、溶接ワイヤ先端から開先底部に至るアークが高周波パルスアークとなり、印加電圧の平均値を低くしても瞬間的な電流強度を確保して安定的なアークを得ることができ、溶接ワイヤ先端から開先底部に至るアークの長さを短くすることができ、操作および装置構成を簡素にできる。
このような本発明では、既存のガスシールドアーク溶接では容易でなかったベベル角10度以下の狭隘開先においても、安定したアークを生成しつつ溶接金属中の酸素量を低減することができる。
図1および図2において、本実施形態で用いる溶接トーチ1は、局所パルスガス添加が可能なノズル20を有する。
溶接トーチ1の中心には筒状のチップ11が設置され、このチップ11には消耗電極であるワイヤ2(溶接ワイヤ)が挿通されている。
ワイヤ2は、ワイヤ供給装置31から溶接部分へ所定の速度Vwで供給され、チップ11を通して溶接トーチ1の先端側(図1下方)へ送り出される。
チップ11には電源装置32が接続され、ワイヤ2と溶接対象物(後述する母材9)との間に所定の電圧Ewが印加される。
ノズル20には、リング状のキャビティ22が形成され、キャビティ22にはノズル20の内周面へと抜ける通路23が連通されている。
キャビティ22には外部の添加ガス供給装置34から添加ガスGdが供給され、キャビティ22に供給された添加ガスGdは、通路23を通して導かれ、チップ11から送り出されたワイヤ2の外周面に向けて局所的に吹き付けられる。
本実施形態において、開先8は、ベベル角(母材9の底面の法線に対する内壁7の傾斜角度)が10度以下の狭隘開先とされている。
開先8の溶接にあたって、溶接トーチ1の先端部21からは十分な長さのワイヤ2が引き出されており、溶接トーチ1はノズル20が開先8の外にあり、ワイヤ2が開先8の内にある状態に配置される。
開先8の底部6には、アークAnの熱により溶融池5が形成される。アークAnからのプラズマ気流により、溶融池5の表面には凹部が形成されることがある。
ウィービング動作では、作業者またはロボットアーム等により、溶接トーチ1がワイヤ2の交差方向に往復移動され、ワイヤ2の先端3が開先8の底部6に沿って変位される。
ウィービング動作において、ノズル20を開先8の外に配置しておけば、ワイヤ2は開先8の内壁7の近傍まで接近でき、開先8の底部6の全幅にわたり変位可能である。
ウィービング動作により、ワイヤ2の先端3からのアークAnが開先8の底部6の全幅にわたり適用され、品質のよい溶接を行うことができる。
このようなアークAsの発生は、ワイヤ2の突き出し長さ、シールドガスGsや添加ガスGdの組成や吹き込み条件などに依存する。
さらに、同じ条件下でも、アークAnであったものが、時間経過によってアークAsに変化する(向きが底部6から内壁7へ変化する)こともある。すなわち、アークAsが生じる条件になったとしても、直ちにアークAsに変化するわけではなく、所定時間はアークAnが現れ続ける。従って、適切なアークAnを確保するためには、多様な条件に関して適切な設定を行ったうえで、効果を確認することが必要である。
ウィービング動作により、ワイヤ2が開先8の内壁7が最も接近した状態では、ワイヤ2の先端3と開先8の内壁7との距離Lsが最小となる。距離Lsが最小となることで、底部6に向かうアークAnは内壁7に向かう可能性もある。
しかし、アークAnの長さLnが距離Lsより短く維持されていれば、アークAnは最短距離に、つまり専らワイヤ2の先端3と開先8の底部6との間に形成される。
例えば、図3の状態よりワイヤ2が短い(底部6から遠い)場合など、ワイヤ2の先端3から開先8の内壁7に向かう最短距離にアークAsが形成される。
従って、アークAnの長さLnを距離Lsより短く維持することが、適切なアークAnを形成するために好適な条件となる。
ただし、ワイヤ2の先端3を開先8の底部6に近づけることで、アークAnの長さLnを短縮できるが、一般にアーク長さと印加電圧とは比例するため、アークAnを短縮する際には印加する電圧Ewを低くせざるを得ず、アークAnの安定性が低下する可能性がある。
そこで、本実施形態では、電源装置32から印加される電圧Ewおよび同電圧に基づく電流を高周波パルス化し、ワイヤ2の先端3から開先8の底部6に至るアークAnを高周波パルスアーク化することで、電圧Ewの平均値(平均印加電圧)を低く保ちつつ間欠的な通電時の電流値を高め、間欠的に形成されるアークAnの瞬間的な強度を高め、これによりアークAnを安定化させている。
このような電圧Ewのもとで、シールドガスGsを供給しつつ、添加ガスGdをワイヤ2に吹き付け、ワイヤ2をチップ11から所定の速度Vwで送り出し、アークAnの長さLnが2mm以下となるように、ワイヤ2の先端3の位置を制御する。
本実施形態では、添加ガスGdを局所的に添加するので、全体に添加される場合よりも添加量を低減でき、溶接金属中の酸素量を低減できる。また、添加ガスGdにより、電極であるワイヤ2の先端3から開先8の底部6に向かうアークAnを安定させることができる。
とくに、溶接の間に、ワイヤ2の先端3から開先8の底部6に至るアークAnの長さLnを、ワイヤ2の先端3から開先8の内壁7までの距離である長さLnよりも短い状態に維持することで、狭隘な開先8であっても、ワイヤ2の先端3から開先8の内壁7に向かう不適切なアークAsを防止し、安定したアークAnが得られる。
このように、本実施形態では、アークAnの長さLnの制御により、アークAnの安定化が実現でき、複雑な構成が必要ないため、溶接トーチ1を含む溶接装置を簡単な構造とすることができる。
さらに、ワイヤ2と母材9との間に印加する電圧Ewを高周波パルスとし、ワイヤ2の先端3から開先8の底部6に至るアークAnを間欠化することで、アークAnの長さLnを短縮させるために電圧Ewの平均値(平均印加電圧)を低くしても、通電時の電流値を高く、瞬間的な電流強度を確保でき、これによりアークAnの強度を高めることができ、アークAnの長さLnを短縮させても安定したアークAnが得られる。その結果、アークAnの長さLnを短くすることができ、操作および装置構成を簡素にできる。
装置構成および試験条件は表1の通り、試験結果は表2の通りである。なお、表1および表2中の実施例1,2が、前述した本発明の実施形態に該当し、比較例1~12は本発明には該当しない。
試験には、前述した実施形態の溶接トーチ1を用いた。ノズル20に関しては、表1の「ガス導入方法」欄に示す通り、基本的に局所添加ノズルを用い、一部でストレートノズルを用いた。開先8に関しては、基本的に溝開先を用い、一部で突合わせ開先とした。
溶接トーチ1には、ワイヤ供給装置31からワイヤ2を供給した。ワイヤ2の速度Vwは8.7m毎分、チップ11からワイヤ2の先端3までの距離15mmとした。
溶接トーチ1には、シールドガス供給装置33からシールドガスGsとしてArガス100%を供給し、添加ガス供給装置34から添加ガスGdとしてCO2ガス100%を供給した。シールドガスGsおよび添加ガスGdは、それぞれ流量を調節可能とした。表1の「狙い位置」欄は、添加ガスGdをワイヤ2に吹き付ける位置(母材9の表面からの距離)であり、一部で調整可能とした。
ワイヤ2と母材9との間には、電源装置32により電圧Ewを印加した。印加する電圧および電流は、連続した直流と、高周波パルスとを切り替えて用いた。印加する電圧Ewは、平均値(平均印加電圧)が20~25Vとなるように調整した。なお、電源装置32から電圧Ewを印加してアークAnを形成している状態の電流は160~280Aである。
前述した装置構成のもとで、表1に示す各条件で溶接を実施した。
溶接対象は母材9に開先8として溝開先を形成したものである。実施例2では開先8として突き合わせ開先を用いている。
比較例1~3では、それぞれ電圧Ewがパルス無しかつ平均値が25Vのもとで、添加ガス流量を0.75リットル毎分から1.25リットル毎分、2.00リットル毎分まで変化させている。
比較例4は、比較例3の条件のもとで、ストレートノズルを用いて添加ガスGdをシールドガスGsと混合して添加した例である。
比較例5~7は、それぞれ比較例3の条件のもとで、添加ガスGdの添加を間欠的に行った例である。
比較例8,9は、それぞれ比較例3の条件のもとで、添加ガスGdの狙い位置を増減させた例である。
比較例10~11は、それぞれ比較例3に対し、電圧Ewの平均値を25Vよりも低下させ、併せて添加ガスGdの流量を1.50リットル毎秒に減らした例である。
比較例12は、比較例3に対し、印加する電圧および電流を高周波パルス化しつつ、電圧Ewの平均値を25Vとし、併せて添加ガスGdの流量を1.50リットル毎秒に減らした例である。
実施例1,2は、それぞれ比較例3に対し、印加する電圧および電流を高周波パルス化しつつ電圧Ewの平均値を25Vよりも低下させ、併せて添加ガスGdの流量を1.50リットル毎秒に減らした例である。前述の通り、実施例1は開先8が溝開先、実施例2は開先8が突き合わせ開先である。
〔評価方法〕
溶接結果を目視確認し、外観が良好なものに関してブローホールの数(BH数)をカウントした。また、外観が良好なものに関して、溶接金属を採取して分析し、溶接金属中の酸素量および窒素量を評価した。
試験結果は表2に示す通りである。
比較例1,2は、それぞれ外観が不良であり、適切なアークAnが得られてない。
比較例3では外観が良好であるが、アーク長が4.4mmあり、BH数が14、酸素量185ppmとなっている。
比較例4~9では、それぞれ外観が良好であるが、BH数が比較例3と同じまたは増加しており、酸素量も100ppmを上回っている。
比較例10では、比較例3の条件のもとで、電圧Ewの平均値および添加ガスGdの流量を減少させることで、酸素量が161ppmと比較例3よりも低下した。しかし、酸素量が161ppmで100ppmを上回っている。
比較例11では、比較例10よりもさらに電圧Ewの平均値を減少させた結果、アーク長3.1mmとさらに短くなった。しかし、BH数が32と比較例3よりも増加し、外観も不良となっている。
比較例12では、比較例3の条件のもとで、電圧Ewの平均値を25Vのまま、高周波パルス化し、添加ガスGdの流量を減少させたが、外観が不良となっている。
実施例2では、突き合わせ開先についても、電圧Ewを高周波パルス化し、電流強度を確保しつつ電圧Ewの平均値を低下させ、添加ガスGdの流量を減少させることで、電圧Ewの平均値20.0Vが得られ、BH数が4、酸素量が96ppmと100ppmを下回ることができた。なお、実施例2ではアーク長が測定できなかったが、電圧値20.0Vから実施例1の1.9mmより小さいと推定される。
前記実施形態では、アークAnの長さLnを電極であるワイヤ2の先端3から開先8の内壁7までの距離よりも短い状態に維持する手段として、ワイヤ2と母材9との間に電圧Ewの平均値を15V以上かつ21V以下の範囲とすること(一般的な25Vよりも下げること)と、印加される電圧Ewを高周波パルス化すること、の2つを採用した。
しかし、溶接条件などによって電圧Ewの平均値が15V以上かつ21V以下の範囲としてもアークAnが安定化できれば、電圧Ewを高周波パルス化することは省略してもよい。
さらに、電極(ワイヤ2)を供給する速度Vwの制御により、電圧Ewの平均値が15V以上かつ21V以下の範囲とした際のアークAnの安定化を図ってもよい。
前記実施形態では、平坦な底部6を有する開先8に本発明を適用したが、本発明は底部6がない開先つまり一対の内壁7が向かい合うV溝状の突合せ開先にも適用できる。
前記実施形態では、添加ガスGdとして活性成分であるCO2ガス100%を用いたが、Arガスなどの不活性成分を一部含むものであってもよい。ワイヤ2に局所的に添加されるものであるため、添加ガスGdでの活性成分の抑制は溶接金属中の酸素量低減にさほど効果はない。一方、アークAnの安定化に関しては、ワイヤ2に吹き付けられる酸素分の絶対量が確保できていればよく、添加ガスGdにおける活性成分は適宜変更してよい。
Claims (4)
- 溶接対象物の開先内に溶接ワイヤを導入しつつ前記溶接ワイヤの周囲に不活性シールドガスを供給する消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤの先端から前記開先の底部に向けて高周波パルスアークを発生させ、前記高周波パルスアークに向けて活性ガスを局所的に添加しつつ溶接するとともに、
前記溶接ワイヤの先端から前記開先の底部に至る高周波パルスアークの長さを、前記溶接ワイヤの先端と前記開先の内壁との距離よりも短く維持することを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法。 - 請求項1に記載した消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法において、
前記溶接ワイヤの先端から前記開先の底部に至る前記アークの長さを2mm以下に維持することを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法。 - 請求項1または請求項2に記載した消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法において、
前記溶接ワイヤと前記開先との間の印加電圧の平均値を15V以上かつ21V以下とすることで、前記溶接ワイヤの先端から前記開先の底部に至る前記アークの長さを制御することを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載した消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法において、
前記開先がベベル角10度以下であることを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法。
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