JP7160261B2 - 新規乳酸菌株、その菌株を用いた食品組成物、及びその菌体を含む発酵組成物 - Google Patents

新規乳酸菌株、その菌株を用いた食品組成物、及びその菌体を含む発酵組成物 Download PDF

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Description

NPMD NITE P-03179 NPMD NITE P-03180 NPMD NITE P-03181 NPMD NITE P-03182 NPMD NITE P-03183
本発明は、新規乳酸菌株、菌株を用いた食品組成物、その菌株を含む発酵組成物に関する。より詳細には、ラクトバチルス属又はロイコノストック属に属する新規乳酸菌株、その菌株を用いた漬物食品等に関する。
乳酸菌は種々の材料を資化することができるため、古くから、食品の腐敗、食中毒の原因になる微生物の繁殖を抑え、食品の長期保存を行うために利用されてきた。そして、世界各地で様々な発酵食品の製造に用いられ、その土地及び風土に根付いた多様な発酵食品が作られている。例えば、乳を原料としたヨーグルト又は乳酸飲料、植物を原料とした、キムチ、ピクルス、ザワークラウト、テンペ等のなれずし等、多様な原料から発酵製品が製造されてきている。
日本は発酵食品の多い国であるが、調味料、保存食品等の製造に乳酸菌が利用されている。例えば、味噌、醤油その他の調味料、豆乳その他の発酵飲料、サワークラウト、すんきその他の漬物、鮒ずし、飯鮓その他のなれずしの製造等の際に種々の乳酸菌が利用されている。
こうした乳酸菌は、細菌の生物学的な分類上の特定の菌種を指すものではなく、一般的には、発酵によって糖類から多量の乳酸を産生し、かつ、悪臭の原因になるような腐敗物質を作らない細菌を「乳酸菌」という。具体的には、グラム陽性の桿菌又は球菌で、芽胞を作らず、運動性がなく、消費ブドウ糖に対して50%以上の乳酸を生成し、ナイアシン(ビタミンB3)必須要求性の菌が、乳酸菌と定義されている。
代表的な細菌としては、ヨーグルトの製造に使用されることが多いラクトバシラス属又はラクトコッカス属に属する種、サワークラウト等から単離されることが多いロイコノストック属に属する種等を挙げることができる。これらはいずれも、発酵によって多量の乳酸を産生するだけでなく、比較的低いpH条件下でよく増殖する。
こうした乳酸菌は、上記のような食品の味や風味の向上を図る過程において、自然に又は意図的に選択、改良されてきた。そして、現在では、上述した発酵食品、発酵飲料のみならず、発酵肉の製造、醸造等でも使用され、さらには、サイレージの調製でも使用され、家畜飼料の品質向上にも活用されている。
乳酸発酵で製造される組成物、特に、食品に関しては、需要者に好まれる香りを持っているか否かによって、販売高も変動する。こうした香りに関連する成分(化合物)としては、野菜の香りの成分として知られている、アセトアルデヒド、プロパナール、2,4-ヘプタジエナールその他の脂肪族アルデヒド、キュウリ香成分である2,6-ノナジエナールその他の脂肪族アルデヒド、アブラナ科植物の辛い風味の寄与成分として知られている、3-ブテニルイソチオシアネート,4-ペンテニルイソチオシアネートその他のイソチオシアネート類、野菜の香気寄与成分の1つであるメチルメルカプタン、沢庵香、漬物香として知られているジメチルトリスルフィド、ヨーグルトの風味に寄与する成分の1つであるジアセチル等を挙げることができる。
上記の脂肪族アルデヒドは、低濃度であればフルーティな香りで野菜の香りの構成要素となるが、高濃度では不快臭として感じることが知られている(特許文献1参照)。また、上記の脂肪族アルデヒドも、高濃度では青臭い、生臭いといった不快臭として感じられると報告されている(非特許文献1参照)。
また、上記のイソチオシアネート類が、酵素の作用を受けてジメチルサルファイトという揮発成分になると塩素臭に似た臭いとして感じられたり、分解されて揮発性成分であるジメチルジスルフィドやジメチルスルフィドが生成されたときに、濃度が高くなるにつれて、石油に似た異臭を出し始めたりすることが知られている(非特許文献2参照)。
さらに、メチルメルカプタンは、野菜フレーバーの原料としても使用し得るが、一方で、特有の硫黄臭があることから高濃度となると悪臭防止法の規制対象ともなっている。ジアセチルについても、高濃度になると、不快な発酵臭として感じられることが知られている(特許文献2参照)。
従来、乳酸発酵によって風味の良い野菜を原料とする発酵製品を製造する方法は、多数報告されている。例えば、発酵漬物の品質を安定させるとともに食味を改善することを目的として、ラクトバチルス・サケイを利用する方法が提案されている(特許文献3参照、以下、「従来技術1」という。)。また、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サイモフィルス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ビフィドバクテリウム・ビフィドム、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラクチスを適宜混合して、ヨーグルト風豆乳を製造する方法が提案されている(特許文献4参照、以下、「従来技術2」という。)。
特許第5466453号 特許第5680910号 特許第3091196号 特開昭63-7743号
日本家政学会誌 Vol.60 No.10 P877~855(2009) 日本農芸化学会誌 Vol.53,No8,P261~268(1979)
植物を原料として乳酸発酵を行った場合に生じる、豆乳飲料や大麦飲料で青くささ等の不快臭が生じる、野菜ジュースで発酵臭が生じるといった問題があった。こうした不快臭や発酵臭を低減させる方法として、ラクトバチルス・ガセリ属の菌、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・プランタラム L051株を使用するという技術が知られている。また、不快臭の原因成分として考えられているヘキサナールを、乳酸菌と接触させることによって不快臭を低減させることができるという技術や、ラクトバチルス・ブレビスを用いて発酵させることにより、加熱臭をなくし、かつジアセチル臭の発生しない野菜ジュースを製造するという技術も知られている。
従来技術1は、ラクトバチルス・サケイHS1株をスターターとして使用することにより、食味が改善された、安定した発酵漬物を提供するという発明であり、こうした点では、優れた発明である。また、従来技術2は、豆乳飲料の製造の際に生じる青臭い大豆臭と渋みを低減させたヨーグルト風豆乳を製造するという発明であり、そうした点では優れた発明である。
これらの技術はいずれも、香りを構成する成分のうち、不快臭の原因成分となるものを特定し、その成分の香りの中における含有量を減少させることによって、臭気を個別に低減させるという技術である。言いかえれば、植物を原料として乳酸発酵を行った場合に生じる、上述したような特有の不快臭を低減させるために、複数の香りの成分を調節すること、そしてその調節を、乳酸菌を使って行うことについては、全く考慮されていない。
この背景には、野菜を原料とした発酵組成物では、発酵中に脂肪族アルデヒド、イソチオシアネート類、及びメチルメルカプタン等の原料とした野菜由来の臭い、ジアセチル等の発酵香、並びにジメチルトリスルフィド等の漬物香が発生することが知られている。しかし、発酵中に生じるこうした香りを構成する香気成分の分析はこれまでほとんど行われてきていないということがある。以下、こうした発酵中に生じる香りを「発酵臭」といい、上記発酵臭を構成する化合物を「香気成分」という。
また、乳酸発酵の最中に、乳酸菌が各香気成分をどのように増減させるかについてもほとんど分析されていない。このため、特定の香気成分の含有量を変化させることができたとしても、他の香気成分の含有量増減が予測できないため、意図しない香りを生じる化合物の含有量が増加して香りが強くなったり、意図した香りを生じる化合物の含有量が低下して香りが消えてしまったりするという問題があった。
このため、消費者によって嗜好性が大きく分かれる乳酸発酵によって得られる発酵組成物の風味や香りを調節できる乳酸菌に対する、強い社会的要請があった。
一方で、発酵組成物は、独特な風味や特徴的な香りを含むことがあるが、プロバイオティクスの観点からは健康によいと言われており、自然免疫を強化するという面からもこうした発酵組成物を食品や飲料として摂取することは、健康維持の点からも重要である。
さらに、漬物業界では、機能性乳酸菌を添加したキムチの製品化が進んでおり、全日本漬物協同組合連合会が令和元年8月1日より「発酵漬物認定制度」を開始するなど、乳酸菌発酵漬物が耳目を集めている。
このため、多様な嗜好性を持つ現在の消費者に対し、それぞれの嗜好に合致した香気を有する発酵製品を提供することについての強い社会的要請があった。
本願の発明者等は、以上のような状況の下で、記の香りがどのような香気成分となる化合物で構成されているかについての網羅的な評価、及び乳酸発酵に用いられる菌株によって、上記の香りを構成する化合物がどのように変化するかという点について鋭意研究を重ね、本願発明を完成したものである。
本発明のある態様は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03179として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)IBARAKI-TS1株であり、本発明の別の態様は、同受託番号NITE P-03180として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)IBARAKI-TS2株である。
本発明のまた別の態様は、同受託番号NITE P-03180として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)IBARAKI-TS3株であり、本発明のさらに別の態様は、同受託番号NITE P-03181として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)IBARAKI-TS3株である。
本発明のさらにまた別の態様は、同受託番号NITE P-03182として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)IBARAKI-TS4株であり、本発明の別の態様は、同受託番号NITE P-03183として寄託されている、新規乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)IBARAKI-TS5株である。
また、本発明の別の態様は、上述した菌株を少なくとも1つ利用して得られる発酵組成物である。また、本発明の別の態様は、上記の菌株を培養して得られた培養物を含む発酵組成物である。ここで、上記培養物は、上述した菌株を単独で、又は混合して培養したものであることが好ましい。また、前記発酵組成物は、上述したいずれかに記載の菌株を培養して得られた培養物から分離された発酵ろ液を含むものであることが好ましい。また、前記発酵組成物は、発酵食品であることが好ましい。


本発明の別の態様は、上述した新規菌株を、単独で又は混合して所定の条件で培養することにより、得られた培養物中の化合物の含有量を制御して、培養物の香りを変化させる培養物の香りの調節方法である。ここで、前記香気成分となる化合物は、炭素数2~9の脂肪族アルデヒド、イソチオシアネート、メチルメルカプタン、ジアセチル、及びジメチルトリスルフィドからなる群から選ばれるものであることが好ましい。
本発明は,上述した新規乳酸菌株を選択的に使用することで、発酵原料由来の香気成分を調節・制御し、顧客や消費者の好む香気を選択的に増強することができる。とりわけ、複数の香気成分を同時に変化させて目的の香りにすることができる。具体的には、上述した菌株を用いて発酵させることにより、原料由来のヨーグルト香や漬物香を増減させる、劣化臭の生成を抑制する等、上記の菌株を選択することでそれぞれの香りへの影響を選択的に変化させることができる。また、本発明の菌株をスターターとして利用すると、特徴的な香気成分の構成を安定して有する発酵製品を製造することができる。
図1は、におい嗅ぎ機能をつけたGC-0/MSを表す模式図である。 図2は、アブラナ科の植物である白菜を用いて白菜発酵漬物を製造したときの香り成分のうち、脂肪族アルデヒドの産生量の変化を示すグラフである。 図3は、上記白菜発酵漬物を製造したときの香り成分のうち、イソチオシアネート類の産生量の変化を示すグラフである。 図4は、白菜発酵漬物を製造したときの香り成分のうち、メチルメルカプタン等の変化を示すグラフである。
図5は、アブラナ科の植物ではない胡瓜を用いて発酵漬物を製造したときの香り成分のうち、脂肪族アルデヒドの産生量の変化を示すグラフである。 図6は、発酵豆乳を製造したときの香り成分のうち、脂肪族アルデヒドの産生量の変化を示すグラフである。 図7は、上記発酵豆乳を製造したときの香り成分のうち、ジメチルトリスルフィド等の変化を示すグラフである。
以下に本発明を、図面を参照しつつ、さらに詳細に説明する。上述した通り、本発明の一の態様は、5株の新規乳酸菌であり、これらはすべて、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターにNITE P-03179、NITE P-03180、NITE P-03181、NITE P-03182、NITE P-03183として寄託されている。具体的には、順に、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)IBARAKI-TS1株、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)IBARAKI-TS2株、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)BARAKI-TS3株、新規乳酸菌ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)IBARAKI-TS4株、及び新規乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)IBARAKI-TS5株である。
上記の新規乳酸菌は、それぞれの標準株とは、耐塩性、糖の資化性等が異なっており、これらを用いて発酵食品を製造する際に産生される香りの成分となる化合物、すなわち、上記の新規乳酸菌の二次代謝産物の種類又は産生量も異なっていると考えらえる。
本発明の別の態様は、上記の菌株を少なくとも1つ利用して得られる発酵組成物であり、上記「発酵組成物」は、乳酸菌を用いた発酵によって得られる発酵食品、発酵飲料、及び発酵食品を製造するためのスターターを含む。また、該発酵飲食品は、動物用の飼料やペットフードとしても好適である。
ここで、上記発酵食品は、乳酸発酵によって直接得られる発酵食品の他、上記乳酸菌又はその培養物を配合した野菜、果実、穀物等の加工品であって、固体又は半固体のものを含む。乳酸発酵によって直接得られる発酵食品としては、例えば、鮒寿司、漬物、サワークラウト、各種ジャム、ヨーグルト、チーズ、発酵バター、発酵畜肉製品等を挙げることができる。ここで、上記漬物には、塩漬け、ぬか漬け、麹漬け等のほか、ピクルス等も含まれる。
また、上記乳酸菌又はその培養物を配合又は適用した野菜、果実、穀物等の加工品であって、固体又は半固体のものとしては、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット、グミその他の菓子類、アイスクリーム、ラクトアイスその他の乳製品又は豆乳製品、パン類、麺類その他の穀物の加工品等を挙げることができる。また、飼料、飼料添加剤、ペットフード、ペット用サプリメント等にも適用することができる。
発明の乳酸菌は、生菌体、死菌体、菌体組成物、若しくは発酵組成物、発酵ろ液、処理物等、種々の形態で各種の食品に配合又は適用することができ、配合する食品は特に限定されない。
本発明の発酵組成物を上記のような食品に配合又は適用することによって、こうした食品を健康食品又は保健機能食品としてもよい。これらの健康食品又は保健機能食品の形状は特に限定されず、例えば、タブレット、顆粒状、カプセル、ペレット状、粉末等の固形のものの他、液状、シロップ状、ペースト状等にしてもよい。
また、上記発酵飲料は、乳酸発酵によって直接得られる飲料の他、上記乳酸菌又はその培養物を配合した野菜、果実、穀物等の加工品であって、液体状のもの、並びに飲料用の粉末又は顆粒を含む。例えば、穀物の加工品としてはきもと造りの清酒、マッコリ、発酵甘酒その他の醸造酒を、乳の加工品としては、発酵乳その他の乳酸飲料を挙げることができる。また、野菜の加工品としてはこれらを原料とする野菜ジュース又は発酵豆乳その他の清涼飲料を、果実の加工品としてはこれらを原料とする各種ジュース、発酵したココナッツミルクその他の清涼飲料等を挙げることができる。また、飲料用の粉末又は顆粒としては、上記乳酸菌又はその培養物を乾燥させたものの他、これらを配合した緑茶、紅茶、コーヒー等を挙げることができる。
また、上記発酵食品を製造するためのスターターは、乳酸発酵させて製造する各種の漬物製造用のスターターを含む。ここで、「スターター」とは「乳酸菌生産物質」その他の発酵組成物を製造するときに使用する種菌をいう。例えば、ヨーグルトの製造の際に使用するスターター、きもと造りの清酒を醸造する際のスターター、ワインのマクロラクティック発酵を行うときのスターター等を挙げることができる。こうしたスターターを用いることが好ましいのは、例えば、一定した時間で品質の揃ったヨーグルトの製造が可能になるほか、より香りのよいワイン、酸味が強く味のノリの良い様々な温度帯で飲酒できる清酒等を醸造することができるからである。
上記発酵組成物は、本発明の乳酸菌が産生した二次代謝産物を豊富に含むこと、さらに本発明の乳酸菌体自体を豊富に含むことから、上記のいずれかの菌株を培養して得られた培養物を含むことが好ましい。前記培養物は、上述したいずれかの菌株を単独で使用して製造してもよく、又は2以上の菌株を一緒に培養したものであってもよい。消費者の嗜好に合った発酵組成物を提供する上では、発酵の際に使用する材料との関係で、産生する香り成分に関わる化合物(二次代謝産物)の量がどのように変化するかがある程度分かっている、上記の新規乳酸菌の菌株を使用することが、香りの調整がより容易であることから好ましい。
また、上記の菌株は、一般的に使用されている乳酸菌株、例えば、標準株であるNBRC15891、同106467、同107147、同15893及び同100496その他の乳酸菌と併せて使用することもできる。また、前記培養物は、上記の菌を単独で培養した場合でも、2以上の菌株を一緒に培養した場合のいずれであっても、培養終了後に必要に応じて、常法に従って、熱処理又は酸処理等に供してもよい。
また、前記発酵組成物は、上述したいずれかの菌株を培養して得られた培養物から分離された発酵ろ液を含むものであることが好ましい。ここで、上記「発酵ろ液」とは、液体を多く含む原料を用いて発酵した後に、原料に含まれる固形分をろ過し、ろ液として得られる液体をいい、例えば、上記の発酵豆乳の製造時に濾別された発酵豆乳、上記ココナッツの固形胚乳の発酵後に濾別されるココナッツミルク等を挙げることができる。また、前記発酵組成物は、発酵食品であることが好ましい。
本発明の又別の態様は、上述したいずれかの菌株を、単独で又は混合して所定の条件で培養することにより、得られた培養物中の化合物の含有量を制御して、培養物の香りを変化させる培養物の香りの調節方法である。ここで、所定の条件としては、例えば、塩濃度が0%を超え約10%以下、培養温度が約0℃~約37℃にて、1~180日を例示することができる。培養に要する時間幅が大きいのは、例えば、青汁を原料とした場合には12時間程度で変化が見られるが、塩分の多い漬物の下漬けを原料とする場合には、長期に保存しつつ、緩やかに変化を促すといったように、使用する原料又は塩分濃度によって大きく異なるためである。したがって、使用する原料、塩分濃度及び培養温度等に応じて、培養時間は適宜調整すればよい。「単独で又は混合して」とは、上記と同様の意味である。
こうした条件で培養した培養物は、後述するような種々の香りの成分を含み、こうした香りの成分としては、例えば、炭素数2~9の脂肪族アルデヒド、イソチオシアネート、メチルメルカプタン、ジアセチル、及びジメチルトリスルフィドからなる群から選ばれるものであることが好ましい。こうした香りの成分は、官能試験によって幾つかの臭いと関連付けるとともに、後述するにおい嗅ぎ機能をつけたGC/MS(GC-O/MS)等の装置によって選抜した成分と対応付けて、下記表1に示すように区分することが好ましい。
Figure 0007160261000001
上記表中、*aは他1成分を、*bは他8成分を、*cは他4成分を、また、*dは他5成分をそれぞれ含有することを意味する。また、上記の化合物を、GC/MSでピークの質量数を検出してNISTライブラリと照合するか、又は標品の保持時間との照合すること等によって同定しておけば、官能試験における香りの成分と化合物とを対応付けることができる。
このような対応付けを行った後に、上記の乳酸菌を用いて発酵させた発酵組成物の香り成分の変化をGC/MS及び官能試験で確認し、使用する上記乳酸菌、又はそれらの組み合わせと配合量を検討する。こうした手順を経ることによって客観的な評価基準を確立することができ、これによって、製造した発酵組成物の香りについても客観的に評価することが可能となる。その結果、製造される発酵組成物の香りを、コントロールできているか否かについて、定量的な評価が可能となる。
そして、発酵中の香りをコントロールしたい組成物に由来する菌を常法に従ってスクリーニングを行い、得られた乳酸菌を所望の条件で増殖させて選抜を行う。この選抜によって得られた菌を用いて乳酸発酵を行い、特性試験等を行って目的とする菌株の候補を得ることができる。その後、これらの菌株の候補を用いて乳酸発酵を行い、その際に発生する香り成分の原因となる化合物を定量して、目的とする発酵組成部の製造に使用し得る、新規な乳酸菌株を得ることができる。所望の条件としては、例えば、発酵させることができる材料、生育温度、耐塩性等を挙げることができる。こうした発酵させることができる材料としては、種々の植物であることが好ましく、例えば、栄養価の高いアブラナ科の植物、その他の植物等を挙げることができる。
以上のようにして、乳酸発酵中に産生される香り成分の原因となる化合物の産生をコントロールできる乳酸菌を得ることができる。
本発明の新規乳酸菌が、発酵させることができる植物としては、アブラナ科の植物、それ以外の植物、及び加工された植物飲料などを使用することができる。ここで、アブラナ科の植物としては、白菜の他、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、カリフラワー、カラードグリーン、ケール、コールラビ、カラシナ、ルタバガ、カブ、パクチョイ、ルッコラ、セイヨウワサビ、ダイコン、ワサビ、及びクレソン等を挙げることができる。
また、アブラナ科以外の植物としては、胡瓜、茄子、米等を挙げることができる。
本発明の乳酸菌はまた、植物を原材料とする様々な加工食品の発酵に使用することができる。こうした加工食品としては、豆乳、青汁、甘酒等を挙げることができる。そのままでは原料由来の不快臭が残る場合には、こうした不快臭を低減させることができることから好ましい。これらの中でも、豆乳に使用すると香りの改善効果が明らかであることから好ましい。
以上のような植物等を原料として、上記の乳酸菌を用いて乳酸発酵を行うことにより、多様な嗜好性を持つ現在の消費者に対し、それぞれの嗜好に合致した香気を有する発酵製品を提供することができる。
(実施例1)乳酸菌の採取と同定
(1)乳酸菌の採取とサンプル調製
茨城県内で製造された漬物17点を入手し、これらをサンプルとして使用した。各サンプルの希釈系列を作成するために、滅菌食塩水(0.85%)を調製し、4.5mLずつ分注した。上記のサンプルを0.5gずつ採取し、4.5mLの滅菌食塩水(0.85%)を入れた試験管に入れて懸濁液とし、各サンプルの原液とした。各サンプルの原液から0.5mLをとって、滅菌食塩水を分注した新たな試験管に加え、この作業を順次繰り返して106希釈系列とした。
MRS寒天培地は、70gのDifco Lactbacilli MRS Agar、1.5gの炭酸カルシウム(1.5%)及び滅菌水100mLを加え、121℃で15分、オートクレーブ滅菌して調製した。このMRS寒天培地は、オートクレーブ後、約45℃に保温した。
上記サンプルの希釈系列を、滅菌シャーレに100μLずつ入れ、ここに約20mLのMRS寒天培地を注いでよく混合して静置した。寒天が固まった後に、上記シャーレを嫌気ジャーに移し、脱酸素剤ととともに封入して30℃で48時間培養した。
培養終了後、各シャーレ内のコロニーを観察したところ、酸を生成する菌が見られ、86株を得た。
(2)乳酸菌と異なる性質を持つ菌の除外
得られた86株から乳酸菌以外の菌を除くために、グラム染色、カタラーゼ試験を、以下の手順で行った。
(2-1)グラム染色試験
グラム染色は、常法に従って行い、赤く染色されたグラム陰性菌株を除外した。
(2-2)カタラーゼ試験
カタラーゼ試験は、上記で得られた菌株を、5mLのMRS培養液に加えて培養し、これを卓上遠心機で遠心し(10,160 x g 3分)、上清を捨てた。沈殿した菌体に3%過酸化水素水を1mL加え、発泡の有無を肉眼で観察した。発泡した菌(カタラーゼ陽性菌)は、乳酸菌ではないため除外した。
(3)16SリボソームDNA配列分析
(3-1)DNA抽出
菌株を一晩MRS培地中で培養し、滅菌水で6倍希釈後、遠心分離(10,160 x g 3分)にかけて採取した菌体から、InstaGene Matrix キット(Bio-Rad社)を使用しDNAを抽出した。
(3-2)PCR反応
16SrDNA 遺伝子増幅のための PCR 反応は、プライマーとして下記表3に示す12F(TTGATCCTGGCTCAGG)、及び1540R(AAGGAGGTGATCCAGCC)を使用した。PCR用酵素として、LATaq DNA polymerase(宝酒造)を使用し、下記表2に示す組成のPCR反応液中でPCRを行った。PCRプログラムは、95℃で3 分熱変性後、(ステップ1)95℃で1分、(ステップ2)52℃で30秒、(ステップ3)72℃で1分を1サイクルとして、(ステップ1)~(ステップ3)を35サイクル行い、その後、伸長反応を72℃で5分行った。
Figure 0007160261000002
Figure 0007160261000003
(3-3)精製及びシーケンス
得られたPCR産物をPCR purification キット(QIAGEN)を使用し附属の使用説明書に従って精製し、精製PCR産物を得た。
上記の精製PCR産物とテンプレートとして、シーケンス反応及びエタノール沈殿を行った。装置はGeneAmp 9700 thermal cyclerを使用した。シーケンス用試薬として、Genomlab Dyeterminator Cycle Sequencing with Quick Start kit(BECKMAN COULTER)を使用し、試薬附属の使用説明書に従って行った。プライマーは12F、1540Rを使用した。シーケンス反応は(ステップ1)96℃で20秒、(ステップ2)50℃で20秒、(ステップ3)60℃で4分を1サイクルとして、(ステップ1)~(ステップ3)を30サイクル行い、得られたシーケンス反応物を4℃で保存した。
(3-4)配列の決定及び解析
配列の決定はCEQ8000(BECKMAN COULTER)を使用して行った。得られた配列をDNA Data Bank of Japan(DDBJ)の BLAST プログラムにより相同性解析により同定し、68株の乳酸菌を得た。
(4)種特異的PCRによる同定(Lactbacillus plantarum/pentosus/paraplantarumの識別)
16SrDNA遺伝子配列の解析を行い、類似した菌種である「Lactbacillus属のplantarum、pentosus、paraplantarumのいずれかである」という結果が出た株について、Trrianiら及びBerthierらの方法(Trriani,S.,Felis,G.E.andDellaglio :Appl.Enviro; 及びBerthier,F .and Ehrlich,S.D.:Int.J.Sys. Bcteriol.,49,997(1999))に基づいて、下記の(i)~(iii)の手順で同定を行った。
(i)recA遺伝子増幅用PCR:下記表4に示す組成のPCR反応液を調製し、反応容量は20μLとした。上記(3-1)DNA抽出で抽出したDNAを鋳型とし、下記表5に示すプライマー(配列番号3~6)及びLATaq DNA polymeraseを使用して、GeneAmp 9700 thermal cyclerを用いて行った。
Figure 0007160261000004
Figure 0007160261000005
(ii)PCR条件:94℃で3 分熱変性後、(ステップ1)94℃で30秒、(ステップ2)54℃で10秒、(ステップ3)72℃で30秒を1サイクルとして、(ステップ1)~(ステップ3)を30サイクル行い、次いで伸長反応として72℃で5分反応させ,PCR産物を得た。
(iii)PCR産物の分析:上記のようにして得られたPCR産物を、2.0%アガロースゲル電気泳動(100V、20分)に供し、GRG500(バイオクラフト)を使用して、附属の使用説明書に従って染色後、FUSION SOLO 3S(Vilber-Lourmat)を用いてバンドを検出した。上記の候補株は、plantarumが300bpに、pentosusが200bpに、そしてparaplantarumが100bpにバンドが検出される。これに基づいていずれの株なのかを判定した。マーカーには、Gene Ladder 100(富士フィルム和光純薬(株))を使用した。
(5)種特異的PCRによる同定(Lactbacillus curvatus/sakeiの識別)
16SrDNA遺伝子配列の解析を行い、「Lactbacillus属のcurvatus又はsakeiのいずれか」という結果が出た株について、上述したBerthierらの方法に基づいて、下記の手順で同定を行った。
(i)recA遺伝子増幅の為のPCR反応:下記表6に示す組成のPCR反応液を調製し、反応容量は20μLとした。上記(3-1)DNA抽出で抽出したDNAを鋳型とし、上記表5に示すプライマー(配列番号3~6)及びLATaq DNA polymeraseを使用して、GeneAmp 9700 thermal cyclerを用いて行った。
Figure 0007160261000006
(ii)PCR反応:プライマーは、3’側に3’Lb.sakei(ATGAAACTATTAAATTGGTAC:配列番号7)を使用したものと、3’Lb.cur(TTGGTACTATTTAATTCTTAG:配列番号8)とを使用したものをそれぞれ使用し、5’側はいずれも5’Lb.cur-sakei (GCTGGATCACCTCCTTTC:配列番号9)を使用して、反応させた(表7参照)。
Figure 0007160261000007
(iii) PCR条件:94℃で3 分熱変性後、(ステップ1)94℃で15秒、(ステップ2)53℃で35秒、(ステップ3)68℃で2分を1サイクルとして、(ステップ1)~(ステップ3)を35サイクル行い、次いで伸長反応として72℃で5分反応させ,PCR産物を得た。
(iv)PCR産物の分析:上記のようにして得られたPCR産物を、1.5%アガロースゲル電気泳動(100V、20分)に供し、GRG500(バイオクラフト)を使用して試薬附属の使用説明書に従って染色後、FUSION SOLO 3S(Vilber-Lourmat)を用いてバンドを検出した。3’Lb.sakeiのプライマーを使用して得られたPCR産物で200bpの位置にバンドが現れた場合には、その菌をLactbacillus sakeiと推定した。
(2-5)新規菌株の特性の検討
上記実施例1で同定した菌株の中から下記の新規菌株5株を得て、下記の手順により、生育温度、耐塩性、及び糖資化性について標準株との特性の相違を検討した。
糖の資化性については、グリセロール、エリスリトール、D-アラビノース、L-アラビノース、D-リボース、D-キシロース、L-キシロース、D-アドニトール、メチル-βD-キシロピランシド、D-ガラクトース、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、L-ソルボース、L-ラムノース、ズルシトール、イノシトール、D-マンニトール、D-ソルビトール、メチル-αD-マンノピラノシド、メチル-αD-グルコピラノシド、N-アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスカリン、サリシン、D-セルビオース、D-マルトース、D-ラクトース、D-メリビオース、D-サッカロース、D-トレハロース、イヌリン、D-メレジトース、D-ラフィノース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D-ツラノース、D-リキソース、D-タガトース、D-フコース、L-フコース、D-アラビトール、L-アラビトール、グルコネート、2-ケトグルコネート、及び5-ケトグルコネートについて試験を行い、標準株と相違があるものについて下記表8に示した。
Figure 0007160261000008
上記表8中、*1の生育温度は、発酵食品に利用する際の利便性を考慮して5~37℃で評価した。*2の耐塩性も同様の理由から0~10%(v/v)で評価した。*3の-は資化性なし、*4の+は資化性ありをそれぞれ表す。
上記表8に示すように、得られた5株はいずれも、3~6種類の糖の資化性が標準株と異なっていた。さらに、これらはいずれも標準株より耐塩性が高くなっていた。また、これら5株のうち、D株については、標準株よりも生育温度の下限が低く、低温での発酵に使用できることが確認された。
(実施例2)白菜発酵漬の試作とにおいの分析による乳酸菌の選抜
(1)白菜発酵漬の試作
次に、上記のようにして採取した乳酸菌を添加して、白菜発酵漬を試作した。白菜2kgに、食塩600g、酢酸10 mL、及び水2 Lを加え、重石をして10℃で4時間下漬をした。この工程は塩と酢との相乗効果による殺菌工程も兼ねている。流水中で30分脱塩し、その後、白菜の重量に対して食塩1%、酢酸ナトリウム0.5%、酵母エキス0.1%、水10%、及び乳酸菌を105 CFU/gとなるよう添加し、15℃で72時間発酵した。
発酵終了後、乳酸菌数を調べ、106 CFU/g以上に増殖していた乳酸菌7菌種47株を同定した。これらの菌株を使用した白菜発酵漬と、対照として試作ごとに作成した乳酸菌なしの白菜漬9個とを、以後の分析に使用した。対照(乳酸菌なし)の白菜漬けの一般生菌数は、いずれも103 CFU/g未満で、原料野菜由来の菌の影響は少ないと判断した。
(2)試作した白菜発酵漬のにおいの分析
次いで、GC‐O/MSによる香気成分の選抜を行った。GC/MSで揮発成分の分析を行ったが、においのある成分とは限らない。このため、GC/MSに「におい嗅ぎ」機能を付けたGC‐O/MSを使用した。この装置の模式図を図1に示す。「におい嗅ぎ」機能とは、カラムで分離した個々の成分をヒトの鼻で嗅ぐことができる機能で、ヒトの嗅覚でにおいの有無、及び質を評価できる機能である。GC/MSの分析条件を下記表9に示す条件で行った。
Figure 0007160261000009
上記の条件で分析を行った結果、104個の揮発成分を検出し、そのうち36成分はにおいがあると評価されたため、選抜された成分とした。においの質、含まれる化学物質の構造により11区分(硫黄臭、沢庵臭、浅漬け臭、ヨーグルト臭、酸臭、納豆臭、アルコール臭、柑橘、青くさい、白菜臭、劣化臭)に分類した。上記のGC‐O/MSにより選抜した成分とにおいを下記表10に示す。
Figure 0007160261000010
*1:各ピークの質量数とNISTライブラリとの照合、及び標品との保持時間との照合
*2:各ピークの質量数とNISTライブラリとの照合のみ
a*:他1成分 *b:他8成分 *c:他4成分 *d:他5成分
(3)試作した白菜発酵漬のにおいとGC/MSで検出される香り成分との対応付け
事前検討で変化を感じることの多かった4種類の臭い(ヨーグルト香、浅漬け香、硫黄臭、白菜香)の香りを、上記のように作製した56個の漬物について、官能試験の経験者2名で評価した。次に、食味試験結果とGC/MSの結果とを比較し、香り有でピーク面積値が大きくなる成分を探索した。結果を下記の表11及び表12に示す。
Figure 0007160261000011
Figure 0007160261000012
ヨーグルト香、硫黄臭、白菜香の有無と相関のあった成分は、漬物として感じた香りとGC‐O/MSにより単体成分として嗅いだにおいの表現が一致していたため、成分単体としての香りが漬物の香りに直接影響を与えていると判断した。一方、浅漬け香の有無と相関のあった成分は、漬物としての香りと成分単体でのにおいが異なっていた。なお、文献によれば、食べ頃の白菜浅漬ではアセトアルデヒドが多くなるという報告があったが、混ざり合うことで違った香りとなったと考えた。
(4)乳酸菌の選抜
以上のようにして、白菜漬けの香り成分と、GC/MSで検出された化合物との対応付けを行った。菌株ごとにGC/MSの分析結果の比較を行い、特徴的な香気成分変化が見られた5株を選抜した(表13参照)。
Figure 0007160261000013
(実施例3)白菜発酵漬物で検出された香り成分
(1)白菜発酵漬物の製造
次に、上記のようにして採取した乳酸菌を添加して、下記の方法を用いて、上記の乳酸菌株ごとに2回ずつ白菜づけを作製した。対照として、試作ごとに同一の製造条件で乳酸菌添加なしの漬物も作成した。まず、白菜を4つ割りにした後、葉の隙間まで十分に水で洗った。その後、塩と酢との相乗効果による殺菌工程も兼ねて、白菜10kgに対し、食塩3kg、酢酸50mL、水10Lを加えて4時間下漬けした。下漬け終了後、流水で30分間脱塩した。上記のように脱塩処理した下漬け白菜に、食塩1%(w/w)、酢酸ナトリウム0.5%(w/w)、酵母エキス0.1%(w/w)、及び上記実施例1で得た乳酸菌を、それぞれ105 CFUになるよう添加して15℃で72時間発酵させた。発酵終了後の各試料中の乳酸菌数、及びpHは下記表14に示す通りであった。
Figure 0007160261000014
(2)試作した白菜発酵漬のにおいの分析
上記5株からそれぞれ1gを試料として取り、香気成分の分析を上記表8に示す条件で行い、上記実施例2の結果を元に炭素数2~9の脂肪族アルデヒド、イソチオシアネート類、メチルメルカプタン、ジアセチル、及びジメチルトリスルフィドのGC/MSの検出値の比較を行った。結果を図2~図4に示す(n=2)。図中、縦軸は対照(乳酸菌非添加)のGC/MSの検出値を100としたときの各菌株から産生された各化合物の面積比を示す。
脂肪族アルデヒド(アセトアルデヒド、プロパナール及び2,4-ヘプタジエナール)の産生量を見ると、TS3株及びTS5株を用いた発酵では、対照と比べて検出値が2分の1未満まで減少しており、大幅に減少するという点で共通していた。特にアセトアルデヒドの減少幅が大きくなっていた(図2(A)参照)。これに対し、アセトアルデヒドとそれ以外の2つの脂肪族アルデヒドの産生量とを対比すると、明らかな相違が見られた。具体的には、T1株、TS2株及びTS4株を使用した発酵では、プロパナール及び2,4-ヘプタジエナールの産生量に大幅な増加が見られた(図2(B)及び(C)参照)。
イソチオシアネート類(3-ブテニルイソチオシアネート及び4-ペンテニルイソチオシアネート)の産生量は、TS1株~TS5株を用いた場合に同様の傾向が見られた。すなわち、TS2株を用いた発酵では有意な変化は見られなかったが、TS1株、TS4株及びTS5株を用いた発酵では有意な減少が見られた。とりわけ、TS5株を使用した発酵により、対照と比べて検出値が2分の1未満に減少していた。TS3株を使用した発酵では、3-ブテニルイソチオシアネートの産生量の有意な減少は見られたが、4-ペンテニルイソチオシアネートの産生量では有意な減少は見られなかった(図3(A)及び(B)参照)。
メチルメルカプタンの産生量は、TS1株、TS3株及びTS4株を使用した発酵により、対照と比べて2分の1未満に有意に減少していた(図4(A)参照)。ジメチルトリスルフィドはTS5株以外の株を使用した発酵では、有意な増減は見られなかったが、TS5株を用いた発酵では、対照と比べて検出値が2倍以上という有意な増加が見られた(図4(B)参照)。ジアセチルの産生量は、対照と比べて、TS1株、TS2株及びTS5株を使用した発酵により検出値が2倍以上と有意増加しており、とりわけ、TS5株を用いた場合の産生量の増加が顕著であった。一方でTS3株を使用した発酵では2分の1未満と有意な減少が見られた(図4(C)参照)。
(実施例4)選抜した乳酸菌の性質の検討2-胡瓜発酵漬物
(1)胡瓜発酵漬物の製造
次に、上記のようにして採取した乳酸菌を添加して、下記の方法を用いて、上記の乳酸菌株ごとに2回ずつ胡瓜の漬物を作製した。対照として、試作ごとに同一の製造条件で乳酸菌添加なしの漬物も作成した。まず、500gの胡瓜を水洗いし、85℃で10秒間茹でてブランチングした。次いで、胡瓜500gに対し、食塩13g、水150mL、及び上記実施例1で得た乳酸菌を、それぞれ105 CFUになるよう添加して15℃で72時間発酵させた。発酵終了後の各試料中の乳酸菌数、及びpHは下記表15に示す通りであった。
Figure 0007160261000015
(2)試作した胡瓜発酵漬物のにおいの分析
上記5株の香気成分の分析を、試料1gを用いて上記表8に示す条件で行い、上記実施例3と同様の基準で選抜した。結果を図5に示す(n=2)。図中、縦軸は対照(乳酸菌非添加)のGC/MSの検出値を100としたときの各菌株から産生された各化合物の面積比を示す。
脂肪族アルデヒド(アセトアルデヒド及び2,6-ノナジエナール)の産生量は、TS3株及びTS5株を使用した発酵では、対照と比べていずれの化合物の検出値も2分の1未満に減少していた。これに対し、TS1株及びTS2株を用いた発酵では、アセトアルデヒドの産生量に減少が見られたが、TS4株ではやや低下していた。2,6-ノナジエナールの産生量も同様の傾向を示した(図5(A)及び(B)参照)。
このため、上記の乳酸菌を使用して、アブラナ科植物の代表例として白菜で漬物を作製した場合と、アブラナ科植物ではない胡瓜で漬物を作製した場合とで、同様の傾向が見られた。以上より、本発明の乳酸菌を使用することによって、アブラナ科植物以外を原料として漬物を作製した場合でも、香りのコントロールが可能であることが示された。
(実施例5)選抜した乳酸菌の性質の検討3-発酵豆乳飲料
(1)発酵豆乳飲料の製造
次に、本願発明の乳酸菌が、漬物以外にも適応可能か否かを示すために、発酵豆乳飲料を製造した。
市販されている豆乳(商品名:豆腐もできます有機豆乳、有機丸大豆100%、(株)東京めいらく千葉工場、1L)を購入し、1試料あたり10mLを13mL容の滅菌チューブに入れた。この滅菌チューブ中に、上記実施例1で得られた各乳酸菌株を、106 CFUになるようそれぞれ添加して、30℃にて12時間静置にて発酵した。対照として、同一の製造条件で乳酸菌を添加しないサンプルも作製した(表16参照)。
Figure 0007160261000016
(2)試作した発酵豆乳飲料中のにおいの分析
上記5株の香気成分の分析を、試料1gを用いて上記表8に示す条件で行い、上記実施例3と同様の基準で分析する成分を選抜した。
結果を図6に示す(n=2)。図中、縦軸は対照(乳酸菌非添加)のGC/MSの検出値を100としたときの各菌株から産生された各化合物の面積比を示す。
脂肪族アルデヒド(アセトアルデヒド、プロパナール、2,4-ヘプタジエナール)の産生量は、いずれも、TS3株又はTS5株を使用した発酵では、対照と比べて検出値が2分の1未満に大きく減少していた。これに対し、TS1株を使用した発酵では増加が見られ、TS2株を使用した発酵ではやや減少が見られた。TS4を使用した発酵ではほぼ変化は見られなかった(図6(A)~(C)参照)。
これに対し、ジメチルトリスルフィドの産生量は、TS5株を使用した発酵では、対照と比べて検出値が2倍以上に増加していた。TS5株以外の株を使用した発酵では、大きな変化は見られなかった(図7(A)参照)。ジアセチルの産生量は特徴的な変化を示した。対照と比べて、TS1株及びTS2株を使用した発酵で顕著な増加が見られ、TS5株を使用した発酵でも検出値が2倍以上に増加していた。一方で、TS3株を使用した発酵では、2分の1未満まで大幅に減少していた。TS4株を使用した発酵でも、増加が見られた(図7(B)参照)。
このため、本発明の新規乳酸菌は、上記表13に示したように香気成分の生成量に相違があり、ある菌種を選択するか、又は複数の菌種を組み合わせることで、白菜香、浅漬け香、ヨーグルト香、硫黄臭に寄与する香気成分の生成量を変化させることができること、すなわち、香りをコントロールできると考えられた。また、漬物以外にも適用できることが示された。
以上から、本発明の乳酸菌株は、いずれも、漬物以外でも香りの変化をさせることが示され、本発明の菌株を適宜選択し、使用することによって、使用する原料や対象とする消費者に合わせた香りを選ぶことができることが示された。例えば、脂肪族アルデヒド濃度が高すぎて、消費者の嗜好に合致しない場合には、前記脂肪族アルデヒド濃度を低減させる菌株(TS3株又はTS4株)を選択すればよい。生野菜に近いに近いフレッシュな香りを好む消費者に対しては、原料香が残りヨーグルト香の少ない菌株(TS4株)を選択すればよく、発酵香を好む消費者に対しては原料香を低減しヨーグルト香や漬物香の多い菌株(TS5株)を選択すればよい。このように、適宜、本発明の菌株を選択することによって、消費者の嗜好に合致する発酵組成物を提供することができる。
本発明は、微生物を用いた発酵製品の製造において有用である。
配列番号1:プライマー12Fのヌクレオチド配列
配列番号2:プライマー1540Rのヌクレオチド酸配列
配列番号3:プライマーpREVのヌクレオチド配列
配列番号4:プライマーplanFのヌクレオチド配列
配列番号5:プライマーpentoFのヌクレオチド配列
配列番号6:プライマーparaFのヌクレオチド配列
配列番号7:Lb.sakeiの3’側の配列
配列番号8:Lb.curの3’側の配列
配列番号9:Lb.cur-sakeiの5’側の配列

Claims (8)

  1. 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03179として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)IBARAKI-TS1株。
  2. 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03180として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)IBARAKI-TS2株。
  3. 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03181として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)IBARAKI-TS3株。
  4. 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03182として寄託されている、新規乳酸菌ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)IBARAKI-TS4株。
  5. 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 受託番号NITE P-03183として寄託されている、新規乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)IBARAKI-TS5株。
  6. 請求項1~5のいずれかに記載の菌株を少なくとも1つ利用して得られることを特徴とする、発酵組成物。
  7. 前記菌株を培養して得られた培養物を含むことを特徴とする、請求項6に記載の発酵組成物。
  8. 前記培養物は、前記菌株を単独で又は混合して培養したものである、請求項7に記載の発酵組成物。
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