JP7156819B2 - リチウムイオン電池セパレータ用基材及びリチウムイオン電池セパレータ - Google Patents

リチウムイオン電池セパレータ用基材及びリチウムイオン電池セパレータ Download PDF

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本発明は、リチウムイオン電池セパレータ用基材(以下、「リチウムイオン電池セパレータ用基材」を「基材」と略記する場合がある)及びリチウムイオン電池セパレータ(以下、「リチウムイオン電池セパレータ」を「セパレータ」と略記する場合がある)に関する。
近年の携帯電子機器の普及及びその高性能化に伴い、高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。この種の電池として、有機電解液を使用するリチウムイオン電池が注目されてきた。このリチウムイオン電池は、平均電圧として、従来の二次電池であるアルカリ二次電池の約3倍である約3.7Vが得られることから、高エネルギー密度となるが、アルカリ二次電池のように水系の電解液を用いることができないため、十分な耐酸化還元性を有する有機電解液を用いている。有機電解液は可燃性であるため、発火等の危険性があり、その使用において安全性に細心の注意が払われている。発火等の危険に曝される原因は複数あるが、特に過充電が危険である。
過充電を防止するために、現状のリチウムイオン電池では定電圧・定電流充電が行われ、電池に精密なIC(保護回路)が装備されている。この保護回路に掛かるコストは大きく、リチウムイオン電池をコスト高にしている要因にもなっている。
また、保護回路で過充電を防止する場合、当然保護回路がうまく作動しないことも想定され、本質的に安全であるとは言い難い。現状のリチウムイオン電池には、過充電時に保護回路が壊れ、過充電されたときに安全に電池を破壊する目的で、安全弁やPTC素子の装備、熱ヒューズ機能を有するセパレータ等の手段が装備されている。しかし、上記のような手段を装備していても、過充電される条件によっては、確実に過充電時の安全性が確保されている訳ではなく、実際にはリチウムイオン電池の発火事故は現在でも起こっている。
リチウムイオン電池セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなる多孔性フィルムが多く使用されている。ポリオレフィンからなる多孔性フィルムには、電池内部の温度が130℃近傍になった場合、溶融して微多孔を塞ぐことで、リチウムイオンの移動を防ぎ、電流を遮断させる熱ヒューズ機能(シャットダウン機能)がある。しかし、何らかの状況により、温度がさらに上昇した場合、ポリオレフィン自体が溶融してショートし、熱暴走する可能性が示唆されている。
そこで、耐熱性を向上するために、水の接触角が125度以上の第1の層と、水の接触角が120℃以下である第2の層を備え、少なくとも一の面は最外層が第2の層である不織布基材と、原料繊維のうち少なくとも1種は、ポリオレフィン系樹脂からなる低融点成分と前記低融点成分よりも融点が20℃以上高い熱可塑性樹脂からなる高融点成分とで形成された複合繊維である不織布基材と、その基材に無機粒子を含む絶縁層とを有する電池セパレータ(例えば、特許文献1参照)が開示されている。これらのセパレータは、繊維原料に撥水処理や親水化処理を施す必要があり、作業工程が煩雑となり、コスト高となる問題があった。また、撥水処理や親水化処理に薬剤を用いた場合、電池内で分解して、電池特性を悪化させる問題があった。
また、コーティングされる支持体として用いられる不織布であり、伸度が40%以下のポリオレフィン系低伸度複合繊維を含む不織布の表面に、無機粒子層が形成されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ(例えば、特許文献2参照)が開示されている。これらのセパレータは、ポリオレフィン系繊維のみから構成されるため、繊維同士の熱融着が進み、フィルム化しやすく、内部抵抗が悪化しやすい問題があった。また、不織布と無機粒子層との接着性が悪く、水系塗液を使用した場合には、はじきが出やすいという問題があり、溶剤塗工の場合には、コスト高となる問題があった。
特開2017-45663号公報 特開2013-204154号公報
本発明の課題は、リチウムイオン電池セパレータ用基材と無機粒子を含む塗層との接着性が高く、水系塗液の塗工性に優れたリチウムイオン電池セパレータ用基材及び該リチウムイオン電池セパレータ用基材を使用したリチウムイオン電池セパレータを提供することにある。
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
(1)フィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなるリチウムイオン電池セパレータ用基材において、該基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が10質量%以上40質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、融点160℃以上の樹脂を芯成分とし、ポリエチレン樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維を含むことを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用基材。
(2)前記芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレン樹脂であり、平均繊維径が6μm以下である(1)記載のリチウムイオン電池セパレータ用基材。
(3)上記(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池セパレータ用基材と無機粒子を含む塗層とを有していることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材は、無機粒子を含む塗層との接着性が高く、水系塗液の塗工性に優れるという効果を達成できる。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材は、フィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなるリチウムイオン電池セパレータ用基材において、該基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2質量%以上40質量%以下であることを特徴とする。
本発明において、リチウムイオン電池セパレータ用基材とは、無機粒子を含む塗層、多孔性フィルム、固体(ゲル状)電解質等と組み合わせることによってリチウムイオン電池セパレータになるものであり、リチウムイオン電池セパレータの前駆体シートである。本発明の基材は、単独ではリチウムイオン電池セパレータとならない。耐熱性の点において、基材と無機粒子を含む塗層とを有するセパレータが最も好ましい。
本発明において、塗層に含まれる無機粒子としては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ等のアルミナ;ベーマイト等のアルミナ水和物;酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物を用いることができる。これらの中でも、リチウムイオン電池に用いられる電解質に対する安定性が高い点で、α-アルミナ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
多孔性フィルムとしては、フィルムを形成できる樹脂であれば、特に制限はないが、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂と言ったポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂単独だけでなく、エチレン-プロピレン共重合体、ポリエチレン系樹脂と他のポリオレフィン系樹脂との混合物等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体又はブロック共重合体等が挙げられる。
本発明におけるリチウムイオン電池とは、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンポリマー二次電池を意味する。リチウムイオン電池の負極活物質としては、何ら限定されることはないが、リチウムイオンを吸蔵・放出する平衡電位が1V(vsLi/Li)以下である負極活物質が用いられることが好ましい。このような負極活物質を用いることによって、正負極間の電位差が大きく、すなわち、貯蔵できるエネルギー量が大きい電池を得ることができる。この条件を満たす負極活物質として、例えばグラファイト、ハードカーボン、低結晶性炭素、黒鉛に非晶質炭素をコートしたもの、カーボンナノチューブ又はこれらの混合物等の炭素材料を用いることができる。また、炭素材料のみならず、金属リチウム、アルミニウム、シリカ、スズ、ニッケル、鉛から選ばれる1種以上の金属とリチウムとの合金、SiO、SnO、Fe、WO、Nb、Li4/3Ti5/3等の金属酸化物、Li0.4CoNなどの窒化物が用いられる。
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば、特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、及び、一般式LiNiCoMn(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn又はFeを示す)等の複合金属酸化物が挙げられる。
リチウムイオン電池の電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、γ-ブチロラクトン(BL)、これらの混合溶媒などの有機溶媒にリチウム塩を溶解させた液が用いられる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)や四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)が挙げられる。固体電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのゲル状ポリマーにリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維としては、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂からなるフィブリル化繊維が用いられる。これらの中でも、フィブリル化し易く、電解液や水系塗液との親和性が高い、全芳香族ポリアミドが好ましい。
本発明におけるフィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度は0ml以上700ml未満であり、好ましくは0ml以上600ml未満であり、さらに好ましくは0ml以上450ml未満である。変法濾水度が700mlを超えた場合、フィブリル化があまり進んでいないことから、太い幹繊維が多く存在するため、水系塗液の塗工性や塗層の平滑性が低下する場合がある。また、太い幹繊維の存在により、イオンの透過性を阻害され、また、電解液の保持性が悪化するため、基材の内部抵抗が高くなる場合がある。一方、変法濾水度が0ml未満である場合、フィブリル化耐熱性繊維のフィブリル化が進み過ぎて、一定量のバインダー繊維で接合する細い繊維の本数が増えるため、引張強度が低下する場合がある。フィブリル化耐熱性繊維のフィブリル化が進むと、変法濾水度は下がり続ける。そして、変法濾水度が0mlに達した後も、さらにフィブリル化すると、繊維がメッシュを通りすぎるようになり、変法濾水度が逆に上昇し始める。本発明では、このように、変法濾水度が逆上昇し始めた状態を「変法濾水度が0ml未満」と称している。
本発明において、変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値のことである。
フィブリル化耐熱性繊維において、質量加重平均繊維長は、0.02mm以上1.50mm以下であることが好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.02mm以上1.00mm以下であることが好ましい。平均繊維長が好ましい範囲よりも短い場合、基材からフィブリル化耐熱性繊維が脱落する場合がある。平均繊維長が好ましい範囲よりも長い場合、水系塗液の塗工性や塗層の平滑性が低下する場合や、無機粒子を含む塗層との接着性が低下する場合がある。また、繊維の離解が悪くなり、分散不良が発生しやすくなる。
フィブリル化耐熱性繊維が、上記の質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長を持つ場合、基材に含まれるフィブリル化耐熱性繊維の含有率が2~5質量%という少ない場合でも、フィブリル化耐熱性繊維間やフィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維との間において、繊維による緻密なネットワーク構造が形成され、水系塗液のはじきを防止でき、塗工性に優れ、無機粒子との接着性が良好な基材が得られ易くなる。
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維の質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長は、KajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して、投影繊維長(Proj)モードにおいて測定した質量加重平均繊維長(L(w))と長さ加重平均繊維長(L(l))である。
フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、0.5μm以上30.0μm以下が好ましく、3.0μm以上25.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上20.0μm以下がさらに好ましい。平均繊維幅が30.0μmを超えた場合、水系塗液の塗工性や基材と塗層の接着性が悪化する場合があり、平均繊維幅が0.5μm未満の場合、基材から脱落する場合がある。
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、KajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して測定した繊維幅(Fiber Width)である。
フィブリル化耐熱性繊維は、耐熱性繊維をリファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転式ホモジナイザー、高速の回転する円筒の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより、繊維にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いて処理することによって得ることができる。
本発明の基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は、2質量%以上40質量%以下である。5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2質量%未満である場合、基材の機械強度は強くなるものの、水系塗液を塗工した場合、はじきが起き易く、塗工性が悪化する。また、基材表面がフィルム化しやすく、基材と塗層の接着性が悪化する。一方、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が40質量%を超えた場合、基材の坪量が低いと、機械強度が悪化する。また、塗液が浸透しやすくなるため、塗液が裏抜けして、水系塗液の塗工性の悪化や基材と塗層の接着性が悪化する。
本発明において、合成樹脂短繊維として、融点160℃以上の樹脂を芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を含むことを特徴としている。以下、特に断りのない限り、「融点160℃以上の樹脂を芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維」を「芯鞘型複合繊維」と略記する場合がある。
本発明において、該基材に含まれる全繊維成分に対して、芯鞘型複合繊維の割合は60~98質量%が好ましく、70~95質量%であることがより好ましく、80~90質量%であることがさらに好ましい。基材が芯鞘型複合繊維を含有していると、芯鞘型複合繊維の溶融により、繊維同士の接着点が強固になり、基材の機械強度が向上するという効果が得られる。また、シート状である基材において、シート表面に存在する芯鞘型複合繊維の溶融により、シート表面の接着も強固となり、表面の毛羽が抑えられるという効果が得られる。
芯鞘型複合繊維の割合が60質量%より少ない場合、繊維同士の接着点が増えないため、機械強度を向上させる効果が低下する場合がある。また、目が詰まりすぎることにより、基材の内部抵抗が悪化する場合がある。また、水系塗液との親和性が高くなり過ぎて、塗液が裏抜けしやすくなり、塗工性が悪化する場合や、基材と塗層の接着性が悪化する場合がある。一方、芯鞘型複合繊維の割合が98質量%より多い場合、芯鞘型複合繊維同士の接着点が増加し、機械強度は強くなるが、シート表面がフィルム化しやすく、水系塗液を塗工した場合、はじきが発生しやすくなり、塗工性が悪化する場合や、基材と塗層との接着性が悪化する場合がある。また、シート表面のフィルム化により、内部抵抗が悪化しやすく、ポア径の拡大により、内部短絡や自己放電特性が悪化しやすくなる場合がある。
本発明において、芯鞘型複合繊維の芯成分として用いられる融点160℃以上の樹脂には、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-ビニルアルコール共重合体などの樹脂を挙げることができる。
これらの芯鞘型複合繊維は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、芯成分として、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが好ましく、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレンがさらに好ましく、ポリプロピレンが、紡糸の点から特に好ましい。
芯成分として用いられる樹脂の融点が160℃以上であることにより、芯部分が形状を保つことができる。樹脂の融点は160℃以上が好ましく、163℃以上がより好ましい。融点は、JIS K7121:2012に準拠して測定した値である。
本発明において、鞘部分にポリエチレン樹脂を用いた芯鞘型複合繊維を含有させることにより、他の合成繊維と比較して、フィブリル化耐熱性繊維と均一に絡み合ってネットワーク構造を形成しやすく、熱をかけることで溶融し、接着強度を高めることができ、表面の平滑性がより高く、緻密性や機械強度に優れ、基材と塗層の接着性と水系塗液の塗工性に優れたリチウムイオン電池セパレータ用基材を得ることができる。
鞘成分のポリエチレンの融点は115℃以上であることが、基材表面の過度のフィルム化を抑える効果の点から好ましく、140℃以下であることが、芯鞘型複合繊維の接着性を高める効果の点から好ましい。融点は、JIS K7121:2012に準拠して測定した値である。
芯鞘型複合繊維の平均繊維径は、6μm以下が好ましく、1.0~6.0μmがより好ましく、1.5~5.8μmがさらに好ましく、2.0~5.5μmが特に好ましい。平均繊維径が1.0μm未満の場合、繊維が細すぎて、基材がフィルム化しやすくなる。一方、平均繊維径が6μmを超えて大きくなるほど、質量あたりの繊維本数が減るため、繊維同士の接着部分が減少し、基材の機械強度が低下する場合がある。さらに、基材を20.0μm未満の低厚みにした場合、最大細孔径が拡大し、水系塗液が裏抜けしやすくなり、塗工性が悪化する場合や、基材と塗層との接着性が低下する場合がある。より好ましくは、平均繊維径を1.0~6.0μmにすることにより、基材を所望の薄さにすることができ、また、緻密性も十分とすることができ、基材と塗層との接着性や水系塗液の塗工性を良好にすることができる。
芯鞘型複合繊維の繊維径は、基材断面の走査型電子顕微鏡観察により、基材を形成する繊維から無作為に選んだ40本の各繊維の断面積を計測し、繊維の断面形状が真円であると見なして繊維径を算出した際の、40本の繊維径の平均値である。本発明においては、全ての芯鞘型複合繊維の繊維径が6.0μm以下であることが好ましい。
本発明において、基材は、フィブリル化耐熱性繊維と芯鞘型複合繊維だけでなく、芯鞘型複合繊維以外の合成樹脂短繊維を含有しても良い。芯鞘型複合繊維以外の合成樹脂短繊維としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ジエン、ポリウレタン、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、フッ素、シリコーン、これらの誘導体等の合成樹脂からなる、フィブリル化されていない短繊維が挙げられる。芯鞘型複合繊維以外の合成樹脂短繊維を含むことによって、基材の引張強度や突刺強度を強くすることができる。
芯鞘型複合繊維以外の合成樹脂短繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であっても良いし、2種以上の樹脂からなる複合繊維であっても良い。また、本発明の基材に含まれる合成樹脂短繊維は、1種でも良いし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。複合繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が挙げられる。
芯鞘型複合繊維以外の合成樹脂短繊維の繊度は、0.01dtex以上0.6dtex以下が好ましく、0.02dtex以上0.3dtex以下がより好ましい。繊度が0.6dtexを超えた場合、厚さ方向における繊維本数が少なくなるため、基材の細孔径分布が広くなり、その結果として、水系塗液が裏抜けしやすくなり、塗工性が悪化しやすく、基材と塗層との接着性も悪化する場合がある。一方、繊度が0.01dtex未満の場合、繊維が非常に高価になり、繊維の安定製造が困難になる場合や、湿式抄紙法により基材を製造する場合、脱水性が低下する場合がある。
合成樹脂短繊維の繊維長としては、1mm以上10mm以下が好ましく、1mm以上5mm以下がより好ましい。繊維長が10mmを超えた場合、地合不良となることがある。一方、繊維長が1mm未満の場合、基材の機械的強度が低くなって、塗層を形成する際に基材が破損する場合がある。なお、6.0μm以下の芯鞘型複合繊維における好ましい繊維長も上記と同様の範囲である。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材は、フィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維以外の繊維を含有しても良い。例えば、セルロース繊維、セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、合成樹脂からなるフィブリッド、合成樹脂からなるパルプ化物、無機繊維が挙げられる。無機繊維としては、ガラス、アルミナ、シリカ、セラミックス、ロックウールが挙げられる。セルロース繊維は、天然セルロース、再生セルロースのいずれでも良い。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材の厚みは、6μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、20μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。基材の厚みを上記の範囲とした場合においても、本発明の基材では、内部抵抗を低く抑えることができ、塗工工程や電極の積層工程で必要な引張強度を維持できるため、基材の抄造性も含め、各工程での作業性を損なうことがない。基材の厚みが20μmを超えると、基材の内部抵抗が高くなり過ぎる場合がある。また、電池を高容量にすることができなくなる場合がある。基材の厚みが6μm未満であると、基材の強度が弱くなり過ぎて、基材の取り扱い時や塗工時に破損する恐れがある。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材の密度は、0.25g/cm以上0.65g/cm以下が好ましく、0.30g/cm以上0.50g/cm以下がより好ましい。密度が0.25g/cm未満である場合、基材の強度が弱くなり過ぎて、基材の取り扱い時や塗工時に破損する恐れがあり、0.65g/cmを超えた場合、基材のフィルム化が進み、基材と塗層の接着性が悪化する場合や、水系塗液の塗工性が悪化する場合、また、基材の内部抵抗が高くなり過ぎる場合がある。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材は、湿式抄造法によって製造される湿式不織布であることが好ましい。湿式抄造法は繊維を水に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを抄紙機で漉きあげて湿式不織布を製作する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合機が挙げられる。湿式不織布を製造する工程において、必要に応じて水流交絡処理を施しても良い。湿式不織布の加工処理として、熱処理、カレンダー処理、熱カレンダー処理などを施しても良い。
本発明において、無機粒子の平均粒子径は、0.02μm以上2.00μm以下が好ましく、0.10μm以上1.00μm以下がより好ましい。平均粒子径が大き過ぎると、塗層を適切な厚みで形成することが困難となる場合や、表面の凹凸が大きくなる場合がある。一方、平均粒子径が小さ過ぎると、無機粒子がセパレータ用基材から脱落し易くなることや、脱落を防ぐためにバインダーを増量する必要がある。なお、本発明で言う平均粒子径とは、レーザー回折散乱法によって測定される体積平均粒子径を表す。
本発明において、塗層はバインダーを含むことができる。バインダーとしては、各種の有機ポリマーを用いることができる。その例としては、スチレン-ブタジエン共重合エラストマー(スチレンブタジエンゴム)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合エラストマー、(メタ)アクリル酸エステル重合体エラストマー、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル重合体エラストマー、ポリフッ化ビニリデン重合体等の各種有機ポリマーが使用可能である。
本発明において、塗層に含まれるバインダーの含有率は、無機粒子の総量に対して、2質量%以上200質量%以下が好ましい。特に5質量%以上50質量%以下が好ましい。バインダーの量が少な過ぎると、無機粒子が基材から脱落し易くなる場合がある。また、バインダーの量が多過ぎると、塗層が緻密になり過ぎて、イオン透過性が低下する場合がある。
基材と無機粒子を含む塗層を有するセパレータは、基材の少なくとも一方の面に塗層を形成することによって製造することができる。塗層を基材の少なくとも一方の面に形成する方法としては、塗層を構成する各成分を水や有機溶剤等の媒体中に分散又は溶解させた塗層形成用のスラリー(塗液)を調製し、これを基材上に塗工する方法が挙げられる。
塗層形成用のスラリーを調製するための媒体としては、バインダーや無機粒子を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を必要に応じて用いることができる。また、使用する媒体は、基材を膨張させない媒体又は基材を溶解しない媒体が好ましい。
塗層を形成するために、塗液を基材に塗工する装置としては、各種の塗工装置を用いることができる。例えば、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ロールコーター、キスタッチコーター、ディップコーター等の各種コーターを用いることができる。
塗層の塗工量は、基材にもよるが、基材の片面当たりの乾燥塗工量として、1g/m以上30g/m以下が好ましく、2g/m以上20g/m以下がより好ましく、3g/m以上15g/m以下がさらに好ましい。塗層の塗工量が少な過ぎる場合には、塗層を形成した際に、塗液が基材の中に浸透してしまい、基材の表面に塗層を形成できないことがある。また、塗工量が多過ぎる場合には、基材の細孔を埋め過ぎてしまうことにより、イオン透過性を阻害して、電池特性が悪くなることがある。
本発明の塗層には、前記無機粒子及びバインダーの他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じて添加することもできる。一般に、媒体として有機溶剤を使用した非水系塗液は表面張力が低く、媒体として水を用いた水系塗液の表面張力は高い。本発明の基材は、塗液の受理性が高いため、非水系塗液も水系塗液も、両方共に問題無く塗工することができるが、本発明において、媒体として水のみを用いた水系塗液を使用することが好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において百分率(%)及び部は、断りのない限り全て質量基準である。また、塗工量は乾燥塗工量である。実施例1は参考例である。
実施例1
<基材の作製>
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維98質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度50mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維2質量部とを、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5質量%の均一な抄紙スラリーを調製し、円網型抄紙機を用いて湿紙ウェブを得て、表面温度135℃のシリンダードライヤーによって乾燥し、シートを得た。片方のロールがクロムメッキされた鋼製ロールであり、他方のロールが硬度ショアーD92の樹脂ロールであり、鋼製ロールの表面温度が128℃の熱カレンダー装置により、表1に記載した線圧で、得られたシートを熱カレンダー処理し、坪量が6g/m、厚さ15μmの基材を作製した。
<塗液の作製>
体積平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3%水溶液120部に混合し十分撹拌し、ついで、その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.5%水溶液300部、リチウムイオン電池用スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー(JSR株式会社製、商品名:TRD2001)(固形分濃度48%)10部を混合、撹拌して塗液を調製した。
<セパレータの作製>
前記基材の片面上に、キスリバース方式のグラビアコーターにて塗工量が10g/mとなるように塗液を塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例2
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維90質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度50mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維10質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量6g/m、厚さ15μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例3
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維80質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度350mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維20質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量7g/m、厚さ18μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例4
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維70質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度350mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維30質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量8g/m、厚さ20μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例5
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維60質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度350mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維40質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量8g/m、厚さ20μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例6
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.5dtex(平均繊維径8.1μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維90質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度50mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維10質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量8g/m、厚さ18μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例7
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維70質量部と、0.3dtex(平均繊維径6.7μm)、繊維長3mmのポリプロピレン短繊維10質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度50mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維20質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量7g/m、厚さ15μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
比較例1
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維100質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量8g/m、厚さ20μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
比較例2
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維98.6質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度50mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維1.4質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量6g/m、厚さ15μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
比較例3
芯成分がポリプロピレン樹脂で、鞘成分がポリエチレン樹脂である繊度0.2dtex(平均繊維径5.6μm)、繊維長3mmの芯鞘型複合繊維59.5質量部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて、変法濾水度350mlにまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維40.5質量部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量8g/m、厚さ20μmの基材を作製した。ついで、実施例1で用いた塗液を、実施例1と同様の方法で、塗工量10g/mとなるように塗工・乾燥し、セパレータを作製した。
実施例及び比較例のリチウムイオン電池セパレータ用基材及びリチウムイオン電池セパレータについて、下記物性の測定と評価を行い、結果を表1及び表2に示した。
<基材の坪量及び塗層の塗工量>
JIS P8124に準拠して、基材及びセパレータの坪量を測定した。塗層の塗工量はセパレータの坪量から基材の坪量を差し引いて算出した。
<基材及びセパレータの厚さ>
JIS B7502に規定された外側マイクロメーターを用いて、5N荷重時の厚さを測定した。
<基材と塗層の接着性>
各セパレータから幅方向100mm×流れ方向100mmサイズの試験片を5枚切り出し、幅10mm×長さ50mmのセロハンテープを、流れ方向と幅方向に、セパレータの塗層の上から軽く貼り付けて、1kgのステンレス製の円柱を2往復させた。その後、セロハンテープを塗層から剥がし、セパレータを目視にて観察し、次の評価基準で評価した。
○:塗層が半分よりも多く残っている。
△:塗層の約半分が基材から剥がれている。
×:塗層の殆ど全部分が基材から剥がれている。
<塗液の塗工性>
各セパレータの塗層表面を目視にて観察し、次の評価基準で評価した。
○:塗層表面が均一で、はじきがない。
△:塗層表面にはじきはないが、凹凸やピンホールがわずかに見られる。
×:塗層表面にはじきが見られる。
Figure 0007156819000001
Figure 0007156819000002
表1に示した通り、実施例1~7で作製した基材は、フィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維とを含有し、該基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2質量%以上40質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、ポリプロピレン樹脂を芯成分とし、ポリエチレン樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維を含んでいる。実施例1~7の基材と無機粒子を含む塗層とを有しているセパレータは、基材と塗層の接着性が高く、水系塗液の塗工性に優れていた。
実施例6の基材は、ポリプロピレン樹脂を芯成分とし、ポリエチレン樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維の繊維径が6μmを超え、8μmの場合である。基材と塗層の接着性には問題がなく、水系塗液のはじきは見られなかったが、基材に水系塗液が入り込み、凹凸やピンホールがかすかに見られた。
比較例1の基材はフィブリル化耐熱性繊維を含まないため、水系塗液が基材に浸透しにくく、基材と塗層の接着性が悪く、塗層が基材から簡単に剥がれた。また、基材上で部分的に水系塗工液をはじく現象が見られ、塗工できない部分が残った。
比較例2の基材は、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2質量%未満の場合である。そのため、水系塗液が基材に浸透しにくく、塗層が基材から剥がれ易かった。また、水系塗液のはじきは見られなかったが、塗層表面に凹凸が見られた。
比較例3の基材は、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が40質量%を超えた場合である。水系塗液が基材に染み込みやすくなり、水系塗液がやや裏抜けするようになる。そのため、基材と塗層の接着性が悪化し、水系塗液のはじきは見られないものの、塗層表面に凹凸やピンホールが見られた。
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用基材及びリチウムイオン電池セパレータは、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等、リチウムイオン二次電池に好適に使用できる。

Claims (3)

  1. フィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなるリチウムイオン電池セパレータ用基材において、該基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が10質量%以上40質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、融点160℃以上の樹脂を芯成分とし、ポリエチレン樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維を含むことを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用基材。
  2. 前記芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレン樹脂であり、平均繊維径が6μm以下である請求項1記載のリチウムイオン電池セパレータ用基材。
  3. 請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池セパレータ用基材と無機粒子を含む塗層とを有していることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ。
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