以下、本発明の実施の形態を説明する。
疲労限度を超える繰返し荷重を加えると金属材料の温度は、図1に示すように荷重を付与した直後に上昇した後、概ね温度一定の定常状態となり破断に至る。このとき、定常状態での温度上昇量ΔT
stは、C. Doudard, S. Calloch, F. Hild, P. Cugy, A. Galtier, “Identification of the scatter in high cycle fatigue from temperature measurements”, C. R. Mecanique, Vol. 332 (2004), pp. 795-801. によれば、次式(1)で表される。式(1)の温度上昇量は、材料の温度上昇量を代表するものである。
ここで、S
0、mは材料依存の定数、fは繰返し荷重の周波数、τは時定数、hは硬化係数、ρは密度、cは比熱、σ
aは応力振幅である。
応力振幅以外の条件が同じ場合、式(1)を次式(2)のように簡略化できる。
ここで、k、aは定数である。
一方、高サイクル疲労域で一般に成立するとされるバスキン則は次式(3)で示される。
ここで、N
fは材料が破断するまでの荷重の繰返し回数である破断負荷繰返し数、b、Cは定数である。
式(2)、(3)からσ
aを消去すると、次式(4)が得られる。
ここで、C’は定数である。
式(4)は、繰返し荷重を加えたときの定常状態の温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fは所定の関係があることを示している。したがって、あらかじめ、ある機械部品について、温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fの関係を求めておけば、温度上昇量ΔT
stから破断負荷繰返し数N
fを算出することができる。そして、繰返し荷重によって対象物に荷重が付与された回数である負荷繰返し数nを計数すれば、そのとき、疲労によってどの程度損傷を受けているか、つまり疲労損傷度Dを次式(5)から算出できる。
疲労損傷度Dのとき、疲労破壊に至るまでの荷重の付与回数、つまり疲労余寿命rは、次式(6)で表される。
図2は、疲労破壊を生じる金属材料の試験片、例えば機械構造用炭素鋼S45Cに焼入れ、焼戻しの熱処理を施した試験片に、シェンク式疲労試験機を用いて、完全両振りの繰返しねじり荷重を、荷重周波数50Hzのねじり角制御で付与したときの、試験片の温度変化を示す図である。試験片の温度を代表する温度として試験片の表面温度を、白金測温抵抗体と、K型熱電対の双方で測定した。また、試験片の周辺の温度を代表する温度として、疲労試験機の試験片を把持する治具部分の温度も同様に測定した。この疲労試験機の治具の温度と試験片の温度の差分を繰返し荷重による温度変化として、図2の縦軸に表した。同一のせん断ひずみを2つの試験片に付与した。図中の同一の線種は、同一のせん断ひずみを与えたデータを示している。試験が開始されると、温度が上昇し、その後、温度の上昇は止まり、ほぼ一定値を示す定常状態となる。負荷繰返し数が、ある回数となると、温度が急上昇し、試験片が破断する。図2から、傾向として温度上昇量ΔTstが高いと、少ない負荷繰返し数で破断が生じることが分かる。
図3は、温度がほぼ一定となる定常状態の温度上昇量ΔTstと破断負荷繰返し数Nfとの関係を両対数グラフで示す図である。白丸(○)で表す測定点は熱電対を用いたデータを示し、黒丸(●)で示す測定点は測温抵抗体を用いたデータを示す。この関係を用いることで、温度上昇量ΔTstから破断負荷繰返し数Nfを求めることができる。
図4は、期間ごとに繰返し荷重の振幅が異なる荷重パターンを示す図である。図5は、図4に示す荷重パターンを付与した際の試験片の温度を示す図である。試験片、試験機等は、前述と同様である。第1の期間でせん断ひずみ振幅γ1=3516μstで、荷重を50000回(負荷繰返し数n1)試験片に付与し、その後第2の期間ではせん断ひずみ振幅γ2=3647μstで試験片が破断するまで荷重を付与した。破断したときの、第2の期間における負荷繰返し数n2は、67750回であった。また、第1の期間の試験片の温度上昇量ΔTst1は59℃、第2の期間の温度上昇量ΔTst2は83℃であった。
これらの温度上昇量ΔTst1(59℃)、ΔTst2(83℃)を、図3に示す温度上昇量ΔTstと破断負荷繰返し数Nfの関係に適用すれば、第1の期間の荷重振幅では破断負荷繰返し数Nf1が149409回、第2の期間の荷重振幅では破断負荷繰返し数Nf2が92473回と求められる。第1の期間の終了時点での疲労損傷度D1は、式(5)から約0.33となる。また、第2の期間の開始時点での疲労余寿命rは、式(6)から約62000回となり、これは、前述の破断したときの負荷繰返し数n2(=67750回)に概ね一致している。
第2の期間のある時点で、余寿命を特定することもできる。第2の期間での負荷繰返し数が、例えば20000回となったときの余寿命は第1の期間の疲労損傷度D1と第2の期間の繰返し数nTまでの疲労損傷度D2から特定することができる。図4において、第1の期間の疲労損傷度D1は、前述のように約0.33である。また、第2の期間の破断負荷繰返し数Nf2は前述のように92473回であるから、第2の期間の負荷繰返し数が20000回時点での疲労損傷度D2は、約0.22となる。第1および第2の期間の積算した疲労損傷度D(=D1+D2)は、約0.55となり、余寿命rは、式(6)より41613回となる。図4に示す試験結果からは、破断まで47750回であり、概ね一致している。
図6は、第1の装置10から第2の装置12に回動動作を伝えるための伝達軸14の疲労余寿命を測定する装置の概略構成を示す図である。伝達軸14には、荷重源である第1および第2の装置10、12により繰返しねじり荷重が加えられる。伝達軸14には、伝達軸14の温度を検出するための伝達軸温度センサ16が取り付けられている。また、第1および第2の装置10、12の一方または両方には、伝達軸14の周辺の温度を検出するための周辺温度センサ18が取り付けられている。例えば、周辺温度センサ18は、第2の装置12の、伝達軸14が結合される部材に取り付けられている。伝達軸温度センサ16と周辺温度センサ18の出力は、情報処理装置20に送られる。情報処理装置20は、演算装置22、演算装置22に所定の動作を実行させるためのプログラムおよび所定の数値などを記憶するための記憶装置24を含む。情報処理装置20は、伝達軸温度センサ16の出力に基づき負荷繰返し数を算出する。つまり、荷重の変動に応じて変化する温度の変動に基づき、負荷繰返し数を算出する。また、伝達軸14にひずみゲージを取り付け、ひずみゲージの出力の変動に基づき負荷繰返し数を算出してもよい。
記憶装置24には、温度上昇量ΔTstと破断負荷繰返し数Nfの関係が記憶されている。したがって、温度上昇量ΔTstが分かれば、この関係に基づき対応する破断負荷繰返し数Nfを求めることができる。情報処理装置20は、伝達軸温度センサ16と周辺温度センサ18の出力に基づき、これらの温度の差分が略一定となっているときの温度上昇量ΔTstiを算出する。この温度上昇量ΔTstiをあらかじめ記憶された温度上昇量ΔTstと破断負荷繰返し数Nfの関係に適用して、この繰返し荷重が今後も続く場合の、つまり温度上昇量ΔTstiが一定の場合の破断負荷繰返し数Nfiを取得する。また、情報処理装置20は、この繰返し荷重が加えられ始めてからの負荷繰返し数niを伝達軸温度センサ16の出力に基づき計数する。この、一定振幅の繰返し荷重が加えられている期間の疲労損傷度Diを、負荷繰返し数niを破断負荷繰返し数Nfiで除して算出する(Di=ni/Nfi)。繰返し荷重の振幅が変化した場合、その変化した振幅が一定の期間において、疲労損傷度Diを算出し、期間ごとの疲労損傷度Diを積算し積算疲労損傷度を算出する(ΣDi)。そして、このときの温度上昇量ΔTstpに基づき破断負荷繰返し数Nfpを求める。式(6)の破断負荷繰返し数NfをNfpに、疲労損傷度Dを積算疲労損傷度ΣDiに置き換えることにより、このときの振幅の繰返し荷重が継続する場合の疲労余寿命を算出する。