JP7156207B2 - 糖ペプチド解析装置 - Google Patents

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Description

本発明は糖ペプチド解析装置に関し、さらに詳しくは、クロマトグラフ質量分析を利用して糖ペプチド又は糖タンパク質における糖鎖の構造を解析する装置に関する。
真核生物では、生体内に存在するタンパク質の多くが糖鎖修飾を受けて、糖タンパク質として発現する。この糖鎖修飾はタンパク質の構造や機能の調節に重要な役割を果たしている。また、近年の研究により、免疫疾患などの各種疾患と糖鎖構造異常や糖化異常との関連性も明らかになってきている。こうしたことから、糖タンパク質や糖ペプチドの構造解析は、生命科学や医療、医薬品開発など様々な分野において非常に重要である。
糖鎖の構造は非常に多様であり、糖タンパク質には一次構造が同じであって糖鎖構造や糖鎖修飾位置が異なる異性体(グリコフォーム)が多数存在する。糖鎖構造や糖鎖の付き方の差異が糖タンパク質の物理的及び化学的性質に変化をもたらし、糖タンパク質の生理機能に大きな影響を与える。そのため、糖鎖構造や修飾位置の相違の解析は糖タンパク質の機能解析を行う上で重要であり、グリコフォームを網羅的に解析する手法の確立が要望されている。
従来の一般的な糖タンパク質の糖鎖解析の手順は次の通りである。
(1)糖タンパク質を精製する。
(2)酵素消化により糖タンパク質を糖ペプチドへ分解してペプチド混合物を得る。
(3)ペプチド混合物から糖ペプチドを選択的に抽出し濃縮する。
(4)逆相カラムを用いた液体クロマトグラフ(LC)により、糖ペプチドをアミノ酸配列等が異なる糖ペプチド毎に分離する。
(5)LCにより分離された糖ペプチドをそれぞれ質量分析装置に供し、MS/MS分析を実行してMS/MSスペクトルを取得する。
(6)MS/MSスペクトルを解析することにより、糖鎖の組成や構造の解析を行う。
上記MS/MS分析の際には、まず通常の質量分析(MS分析)を実行し、それにより得られるマススペクトルから例えば信号強度の大きなピーク等の、所定の条件を満たすピークを抽出して自動的にそのピークをターゲットとしたMS/MS分析を行う、データ依存性解析(DDA=Data Dependent Acquisition)が有用である(特許文献1、非特許文献1等参照)。しかしながら、こうした従来の糖鎖解析方法では次のような問題がある。
特開2008-298427号公報 特開2016-194500号公報 国際公開第2017/145496号パンフレット
村瀬(Murase)、ほか6名、「データ-デペンデント・アクイジション・システム・フォー・エヌ-リンクド・グリコペプタイズ・ユージング・MALDI-DIT-TOF MS(Data-dependent acquisition system for N-linked glycopeptides using MALDI-DIT-TOF MS)」、インターナショナル・マス・スペクトロメトリー・コンファレンス(International Mass Spectrometry Conference)、 2012年、ポスターセッション PWe-058 ケンドリック(Kendrick E.)、「ア・マス・スケール・ベースド・オン・CH2=14.0000・フォー・ハイ・リゾリューション・マス・スペクトロメトリ・オブ・オーガニック・コンパウンズ(A mass scale based on CH2=14.0000 for high resolution mass spectrometry of organic compounds」、アナリティカル・ケミストリ(Ana. Chem.)、1963年、Vol.35 マアース(K. Maass)、ほか4名、「グリコ-ピークファインダ・デ・ノボ・コンポジション・アナリシス・オブ・グリココンジュゲイツ("Glyco-peakfinder" de novo composition analysis of glycoconjugates)」、プロテオミクス(Proteomics)、2007年、Vol.7、No.24、pp.4435-4444 「Byonic」、[online]、[2019年6月17日検索]、ProteinMetrics社、インターネット<URL: https://www.proteinmetrics.com/products/byonic/> アン(Hyun Joo An)、ほか4名、「ア・ニュー・コンピュータ・プログラム(グリコX)・トゥ・デターミン・シムルタナスリ・ザ・グリコサイレイション・サイツ・アンド・オリゴサッカライド・ヘテロジニーティ・オブ・グリコプロテインズ(A New Computer Program (GlycoX) To Determine Simultaneously the Glycosylation Sites and Oligosaccharide Heterogeneity of Glycoproteins)」、ジャーナル・オブ・プロテオーム・リサーチ(J. Proteome Res.)、2006年、Vol.5、No.10、pp.2800-2808
逆相カラムを用いて糖ペプチドを分離する場合、ペプチド構造が同じである(つまりはアミノ酸配列が同じである)グリコフォームは比較的近接した時間に溶出することが多い。しかしながら、グリコフォームの溶出時間はペプチドのみに依存するわけではなく、糖鎖の化学的特性や構造に依存して変動する。また、特許文献2、3にも記載されているように、糖鎖解析の際に糖鎖に対して様々な化学修飾が導入される場合があるが、その化学修飾の種類に依存してグリコフォームの溶出時間が変動する場合もある。そのため、ペプチドが同じであるグリコフォームの溶出時間は或る程度の範囲に広がる。
通常、目的の糖タンパク質由来の糖ペプチド混合物にはアミノ酸配列が異なる複数の糖ペプチドが含まれるが、上述したようにグリコフォームの溶出時間範囲が広がると、アミノ酸配列が異なる複数の糖ペプチドの一部が重なって溶出する可能性がある。そうなると、LC/MS分析で得られるマススペクトルには、一つの糖ペプチドに対応するグリコフォームのイオンピークが観測されるだけでなく、アミノ酸配列が異なる複数の糖ペプチド由来のイオンピークが観測されることになり、グリコフォームの網羅的な解析が煩雑になる。特に、ペプチド部分のアミノ酸配列が既知であるような糖ペプチドであれば、解析が比較的行い易いが、ペプチド部分のアミノ酸配列が不明である糖ペプチド由来のピークがマススペクトルに混じると、グリコフォームの網羅的な解析は困難になる。
本発明はこうした課題に鑑みて成されたものであり、その主たる目的は、液体クロマトグラフにおいてアミノ酸配列が異なる糖ペプチドが完全に分離できず異種の糖ペプチド由来のイオンピークがマススペクトル上で混じって観測されるような場合であっても、目的の糖ペプチドのグリコフォームの構造などを網羅的に解析することができる糖ペプチド解析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明の一態様の糖ペプチド解析装置は、液体クロマトグラフとMS/MS分析が可能な質量分析装置とを組み合わせた分析装置を用い、糖タンパク質のグリコフォームについての構造解析を行う糖ペプチド解析装置であって、
目的の糖タンパク質由来の糖ペプチドを含む試料を前記分析装置で分析することで得られたデータに基づいて作成された、解析対象である溶出時間範囲内の複数のMS/MSスペクトルから、糖ペプチドに由来すると推定される糖ペプチド関連スペクトルを選定し、該糖ペプチド関連スペクトルに基づいて該糖ペプチドにおけるペプチドの質量を算出するペプチド質量算出部と、
前記データに基づいて作成された、前記溶出時間範囲内の複数のMSスペクトルにおいて検出される複数のイオンピークのそれぞれの質量電荷比と、前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量とに基づいて、各イオンピークに対応する糖ペプチドに含まれると想定される糖又は糖鎖の質量のケンドリックマスディフェクトを算出するケンドリックマスディフェクト算出部と、
前記ケンドリックマスディフェクトの値の分布に基づいて、前記イオンピークを選別するとともに選別されたイオンピークに対応する糖ペプチドのペプチドを推定するグリコフォーム関連ピーク選別部と、
前記選別されたイオンピークの中で前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量以上の質量電荷比に対応するイオンピークについて、該イオンピークに対して推定されているペプチドの情報を利用して糖鎖の組成を推定する糖鎖組成推定部と、
を備えるものである。
ここでいう「液体クロマトグラフとMS/MS分析が可能な質量分析装置とを組み合わせた分析装置」は、液体クロマトグラフのカラム出口から溶出する溶出液の少なくとも一部を質量分析装置のイオン化部に導入する液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)のほか、液体クロマトグラフのカラム出口からの溶出液を所定の時間毎に分取してサンプルを調製し、そのサンプルをマトリクス支援レーザ脱離イオン源等のイオン源を有する質量分析装置で質量分析する液体クロマトグラフ質量分析システムでもよい。
また、「MS/MS分析が可能な質量分析装置」とは、一般的には、イオントラップと飛行時間型質量分析器(TOFMS)との組み合わせを用いた装置、TOF/TOF型の質量分析装置、四重極-飛行時間型(Q-TOF型)質量分析装置、などが有用である。
ケンドリックマスディフェクト法(非特許文献2参照)は、単一成分で構成される高分子を他の成分で構成される高分子と分類するのに有効な組成分析手法である。糖鎖は異なる糖で構成されるが、生体中の糖鎖にみられる主要な構成糖の多くについて、分子量当たりのマスディフェクト(質量からノミナル質量(質量整数値)を差し引いた小数値)が近い値を有することから、異なる糖鎖を近似的に同一の構成要素を持つ高分子とみなしてケンドリックマスディフェクト法による解析を適用することができる。即ち、或る糖ペプチドについて、異なる糖鎖による修飾を受けていても、ペプチドの構造が同じであれば、糖ペプチド質量からペプチド質量を差し引いた糖鎖質量から求めたケンドリックマスディフェクトは近似的に一定になる筈である。
換言すれば、ケンドリックマスディフェクトがほぼ揃っているイオンピークは、質量電荷比が相違していてもペプチド構造が同じ糖ペプチドである可能性が高いということができる。本発明の上記態様に係る糖ペプチド解析装置では、このことを利用して、様々な糖ペプチドやペプチド由来のイオンピークが混じっている可能性があるマススペクトルから、同じペプチド構造を有すると想定される糖ペプチド由来のイオンピークを抽出し、そのピークに対応するペプチドを特定する。そして、そのうえで、糖ペプチドの中のペプチド以外の部分、つまりは糖鎖の構造等を解析する。
本発明の上記態様に係る糖ペプチド解析装置によれば、ペプチドのアミノ酸配列が異なるような糖ペプチドが液体クロマトグラフにおいて完全に分離できず、異種の糖ペプチド由来のイオンピークがマススペクトル上で混じって観測されるような場合であっても、該イオンピークをペプチドが同じである糖ペプチドのグループに分けたうえで、それらの糖鎖の構造等を解析することができる。また、マススペクトルにおいて観測されるイオンピークに基づいて糖ペプチドの糖鎖の解析が行われるので、分析装置のスループットの制約等のためにMS/MSスペクトルを取得することができなかった糖ペプチドについても糖鎖の解析が可能である。これによって、目的とする糖ペプチドのグリコフォームの取りこぼしを軽減して網羅的に解析することができる。
本発明の一実施形態である糖ペプチド解析装置の要部のブロック構成図。 本実施形態の糖ペプチド解析装置における解析処理手順を示すフローチャート。 本実施形態の糖ペプチド解析装置におけるグリコフォーム溶出時間範囲推定の手順の説明図。 本実施形態の糖ペプチド解析装置におけるグリコフォーム関連ピーク選別の手順の説明図。 本実施形態の糖ペプチド解析装置における、ペプチド毎のケンドリックマスディフェクトの分布の実例を示す図。
以下、本発明の一実施形態である糖ペプチド解析装置について、添付図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の糖ペプチド解析装置の要部のブロック構成図である。
この糖ペプチド構造解析装置は、試料に対して所定の分析を実行してデータを収集する分析部1と、収集されたデータを解析処理するデータ解析部2と、入力部3と、表示部4と、を備える。分析部1は、逆相カラムを用いた液体クロマトグラフ部(LC部)11と、MS/MS分析が可能である質量分析部(MS/MS部)12と、を含む。
データ解析部2は、機能ブロックとして、スペクトルデータ格納部21と糖鎖構造解析部22とを含み、糖鎖構造解析部22は、ペプチド質量算出部220、スペクトル類似度算出部221、グリコフォーム関連スペクトル選別部222、グリコフォーム溶出時間範囲算出部223、溶出時間範囲内ペプチド質量算出部224、ケンドリックマスディフェクト算出部225、グリコフォーム関連ピーク選別部226、糖鎖組成推定部227、解析結果表示処理部228などを含む。
分析部1において質量分析部12は例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源を搭載したイオントラップ飛行時間型質量分析装置であり、液体クロマトグラフ部11のカラムから溶出した溶出液の全量又は一部の量をイオン源に直接導入し、繰り返し質量分析を行うものとすることができる。分析部1は、液体クロマトグラフ部11と質量分析部12とが直結された構成でなく、液体クロマトグラフ部11で成分分離された溶出液を分取・分画して複数のサンプルを調製し、その複数のサンプルをそれぞれ質量分析部12で質量分析する構成でもよい。その場合、質量分析部12はマトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源を用いたMALDI-IT-TOFMS等を用いることができる。
本装置において、データ解析部2の実体は汎用のパーソナルコンピュータ又はより性能の高いワークステーションであり、そうしたコンピュータにインストールされた専用のデータ処理用プログラムを該コンピュータにおいて動作させることで図1に示したような各機能ブロックの機能が実現されるものとすることができる。但し、後述するようなデータベース検索を実施する場合、そのデータベース自体はデータ解析部2に含まれていてもよいし、データ解析部2には含まれないデータベースにアクセスして必要なデータのみを該データベースから抽出する構成としてもよい。
次に、本実施形態の糖ペプチド解析装置を用いた解析動作の一例を、図1に加え、図2~図4を参照しつつ説明する。図2は、本実施形態の糖ペプチド解析装置における解析処理手順を示すフローチャートである。図3は、グリコフォーム溶出時間範囲推定の手順の説明図である。図4は、グリコフォーム関連ピーク選別の手順の説明図である。
分析部1による分析対象の試料は従来法と同様の手順で用意される。
即ち、まず目的とする糖タンパク質を精製したうえで、酵素消化によりその糖タンパク質を糖ペプチドへ分解してペプチド混合物を得る。そして、そのペプチド混合物から糖ペプチドを選択的に抽出し濃縮する。
なお、シアル酸(又はそのほかの酸性糖)を含む糖鎖修飾を受けた糖ペプチドを分析する場合には、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾による前処理を実施し、その処理済みの試料をLC/MS分析に供する。シアル酸を有する糖ペプチドでは、シアル酸の結合様式(典型的にはα2,3-結合型とα2,6-結合型)によってカラムの固定相との相互作用に差異があり、溶出時間が大きな差異が生じ易い。これに対し、例えば、特許文献2に記載されている、アミン及びカルボジイミドを含む脱水縮合剤の存在下で糖鎖試料に対する反応を実施することにより、シアル酸結合様式特異的化学修飾を行うと、α2,3-結合型であるシアル酸を含む糖ペプチド(修飾体としてラクトンが形成される)とα2,6-結合型であるシアル酸を含む糖ペプチドと糖ペプチド(修飾体としてアミドが形成される)との溶出時間の差異を縮小することができ、ペプチド構造が同じであり糖鎖構造が相違するグリコフォームの溶出時間範囲を狭めることができる。
分析部1は、上記のように用意された糖ペプチド試料に対しLC/MS分析を実行する。即ち、液体クロマトグラフ部11では試料中の各種の糖ペプチドを時間方向に分離し、質量分析部12は液体クロマトグラフ部11のカラムから溶出した溶出液に対し所定の質量分析を繰り返し実施する。質量分析部12はデータ依存性解析によるMS/MS分析を行う。具体的には、まず所定の質量電荷比範囲に亘る通常のMS分析を実行しマススペクトル(以下「MSスペクトル」と称す)を取得し、そのMSスペクトルにおいて所定の選択条件に適合する1又は複数のピークを選択して該ピークの質量電荷比をプリカーサイオンとするMS/MS分析をMS分析に引き続いて実行する。この1回のMS分析と1又は複数回のMS/MS分析とを1つのサイクルとしてこれを繰り返す。
時間経過とともに、こうしてMS分析及びMS/MS分析により得られたデータは分析部1からデータ解析部2へ送られ、スペクトルデータ格納部21に格納される。したがって、スペクトルデータ格納部21には、保持時間(溶出時間)毎に、MSスペクトルを構成するデータとそのMSスペクトルに関連するMS/MSスペクトルを構成するデータとが格納される。
通常、糖ペプチドの分子関連イオンピークの信号強度は高いから、上記選択条件を適切に設定することで、糖ペプチドの分子関連イオンピークを効率良く選択してMS/MS分析することができる。但し、MS分析に引き続いて同じサイクル中に実行可能なMS/MS分析の回数には時間的な制約があるから、同じペプチド構造を有し糖鎖構造等が相違するグリコフォーム由来のイオンが多数、MSスペクトル上で観測されると、一部のグリコフォームについてはMS/MS分析ができなくなる。そのため、MSスペクトルには或る糖ペプチドの分子関連イオンピークが観測されていたとしても、その糖ペプチドに対応するMS/MSスペクトルは存在しない、ということがしばしばある。
上述したように収集されたデータに基づいて、糖鎖構造解析部22は次のような解析処理を実行する。
ペプチド質量算出部220は、まず、全てのMS/MSスペクトルの中から、糖ペプチド由来のMS/MSスペクトルである可能性が高いもの、つまりは或る程度高い確度で以て糖ペプチド由来であると判断できるMS/MSスペクトルを、糖ペプチド関連スペクトルとして選出する(図3(a)参照)。そして、選出したMS/MSスペクトル(糖ペプチド関連スペクトル)毎にそれぞれ、そのMS/MSスペクトルにおいて観測されるインピークの情報からペプチド質量、つまり糖ペプチドのうちのペプチド部分のみの質量を推算する(ステップS1)。糖ペプチド関連スペクトルの選出は例えば次のような方法のいずれかで行うことができる。
<糖ペプチド関連スペクトルの第1の選出方法>
ペプチド質量算出部220は、対象のMS/MSスペクトルから、ノイズピーク等を除去した有意なピークの情報を収集してピークリストを作成する。そして、このピークリストと予め設定された検索条件とに基づくデータベース検索により、糖ペプチドの同定を試みる。そして、糖ペプチドの同定が可能であったMS/MSスペクトルを糖ペプチド関連スペクトルとする。
データベース検索条件には、例えば特定の糖による修飾又は糖の開裂断片による修飾が存在するといった事前情報に基づいて推定された糖鎖(翻訳後修飾)情報などを含むようにするとよい。また、データベース検索には既存のデータベース検索エンジンを用いることができる。糖ペプチドが同定されればペプチドのアミノ酸配列が分かるから、それからペプチド質量を推算することができる。
<糖ペプチド関連スペクトルの第2の選出方法>
対象の糖ペプチドがN結合型糖ペプチドである場合、衝突誘起解離(CID)を伴うMS/MS分析を行うと、ペプチド部分よりも糖鎖部分が優先的に開裂し、糖残基が順番に脱離したペプチドに由来するイオン、つまりは糖鎖の断片化により生じた糖鎖フラグメントイオン(オキソニウムイオン)が生じ易い。そこでペプチド質量算出部220は、対象のMS/MSスペクトルにおいてこうしたオキソニウムイオンが検出されるか否か判定し、オキソニウムイオンが検出されたMS/MSスペクトルを糖ペプチド関連スペクトルとする。そして、信号強度が最大であるピークを、ペプチドに1個のN-アセチルヘキソサミン(HexNAc)が結合したN結合型糖ペプチドフラグメントイオンであると仮定し、そのピークの質量電荷比からペプチド質量を推算する。
なお、一般に、糖ペプチド由来のオキソニウムイオンは、イオントラップを用いたCIDでは比較的発生しにくく(その発生量が少なく)、コリジョンセルを用いたCIDで発生し易い。そのため、糖ペプチド関連スペクトルの選出にオキソニウムイオンを利用する場合には、イオントラップでCIDを行う質量分析装置よりもコリジョンセルでCIDを行う質量分析装置、例えばQ-TOF型質量分析装置のほうが適している。
<糖ペプチド関連スペクトルの第3の選出方法>
対象の糖ペプチドがN結合型糖ペプチドであって、MALDIイオン源を搭載した質量分析装置を使用する場合、MS/MSスペクトルには特徴的なトリプレットピーク(質量電荷比間隔が低質量電荷比側から83Da及び120Daで並ぶ3本のピーク)が観測されることが知られている。そこでペプチド質量算出部220は、対象のMS/MSスペクトルにおいて上記のトリプレットピークが検出されるか否かを判定し、トリプレットピークが検出されたMS/MSスペクトルを糖ペプチド関連スペクトルとする。そして、そのトリプレットピークの中で質量電荷比が最小であるピークを糖鎖のみが脱離したペプチドイオンであると仮定して、そのピークの質量電荷比からペプチド質量を推算する。
上記ステップS1において糖ペプチド関連スペクトルが選出されたならば、スペクトル類似度算出部221は、1つの糖ペプチド関連スペクトルとそれ以外のMS/MSスペクトルとについてスペクトルパターンの類似性を示す指標値つまり類似度を、MS/MSスペクトル毎に計算する(ステップS2:図3(b)参照)。
なお、上述した糖鎖フラグメント(オキソニウムイオン)が生成される場合、それらは糖ペプチドに共通に現れるものであるため、それらイオンを含めて類似度を計算すると、同じペプチドに対応するグリコフォームでなくても類似度が見かけ上高くなってしまう。即ち、同じペプチド由来のMS/MSスペクトルであるか否かを判定するうえで、オキソニウムイオンはいわば妨害となる。そこで、類似度を計算する前に、糖ペプチド関連スペクトル及びこれと比較される全てのMS/MSスペクトルから既知であるオキソニウムイオン由来のピークを除去する処理を行うようにしてもよい。また、オキソニウムイオンは経験的に500Da又は530Da以下の低質量電荷比のイオンであり、糖鎖の特異的な組成等を反映したイオンの質量電荷比は概ねそれよりも大きい。そこで、糖ペプチド関連スペクトル及びこれと比較される全てのMS/MSスペクトルから、500Da又は530Da以下の低質量電荷比範囲に存在するピークを全て除去してもよい。
グリコフォーム関連スペクトル選別部222は、MS/MSスペクトル毎に求まった類似度の値を所定の閾値と比較し、類似度が閾値以上であるMS/MSスペクトルのみをグリコフォーム関連スペクトルとして選別する(ステップS3)。つまりは、糖ペプチド関連スペクトルとの類似性が高いと判定されるMS/MSスペクトルのみをグリコフォーム関連スペクトルとして選別する。ペプチドが同じで糖鎖構造が僅かに異なるグリコフォーム、或いは糖鎖は同じで結合様式や結合位置のみが相違するグリコフォームは、そのMS/MSスペクトルのパターンの類似性が高くなる筈である。したがって、ステップS3の選別処理により、同じペプチドの多様なグリコフォームのMS/MSスペクトルを収集することができる(図3(c)参照)。
グリコフォーム溶出時間範囲算出部223は、ステップS3で選別されたMS/MSスペクトルの数つまり出現頻度を、そのMS/MSスペクトルが得られた溶出時間毎に求める。ここでは、液体クロマトグラフ部11での測定時間全体を所定の時間幅毎に区切り、その区切られた時間幅毎に上記出現頻度を算出すればよい。そして、その算出結果に基づき、図3(d)に示すような溶出時間に対する出現頻度分布(ヒストグラム)を作成する。このヒストグラムは、ペプチドが同じであるグリコフォームが溶出する可能性の高さを示しているということができる。そこでグリコフォーム溶出時間範囲算出部223は、ヒストグラムに現れているピークの幅、又はそのピーク波形の分散度合い等に基づいて、一群とみなせるグリコフォームの溶出時間範囲を推定する(ステップS4)。
液体クロマトグラフ部11により、ペプチドの相違に応じて糖ペプチドを完全に分離することが可能であれば、上記ステップS4で求まった或る溶出時間範囲にはペプチドが同じである糖ペプチド(つまりはグリコフォーム)しか含まない筈である。しかしながら、実際には、液体クロマトグラフによる完全な分離は難しく、ペプチドが相違する糖ペプチドが時間的に重なって溶出することが避けられない。後述する例では、ペプチドが同じである目的の糖ペプチドが主として溶出する溶出時間範囲内に、それ以外の14種類の、ペプチドが異なる糖ペプチドが溶出している。したがって、目的の糖ペプチドに関連するグリコフォームを網羅的に解析するには、ペプチド毎に糖ペプチドを仕分ける必要がある。
そこで、ステップS4で解析対象の溶出時間範囲が決まったならば、溶出時間範囲内ペプチド質量算出部224は、測定時間範囲全体ではなく、溶出時間範囲内に得られるMS/MSスペクトルから選出された糖ペプチド関連スペクトルに基づくペプチド質量を算出する。実際には、ステップS1で得られたペプチド質量から、溶出時間範囲内の糖ペプチド関連スペクトルに基づくもののみを選出すればよい(ステップS5)。ここで得られるのは、解析対象の溶出時間範囲内に溶出する糖ペプチド(又はペプチド)のペプチド部分の質量である。
次に、ケンドリックマスディフェクト算出部225は、スペクトルデータ格納部21から、解析対象の溶出時間範囲内に得られたMSスペクトルを全て読み出す(図4(a)参照)。そして、各MSスペクトルにおいて、モノアイソトピックイオンピークを検出するとともに価数を求め、該ピークの質量電荷比と価数とから該ピークに対応するペプチド又は糖ペプチド(厳密にはそれらであると推測される分子)の質量を算出する。価数は同位体ピークの間隔などから算出することができる。モノアイソトピックイオンが糖ペプチドの分子イオンであれば、ここで求まる質量は糖ペプチドの質量である。そのあとケンドリックマスディフェクト算出部225は、検出したモノアイソトピックイオンピークそれぞれについて、次のようにしてケンドリックマスディフェクト(以下「KMD」と称すことがある)の値を算出する。
即ち、上述したようにMSスペクトルにおけるイオンピークから求まる質量M1は糖ペプチド(厳密には糖ペプチドの可能性がある分子)の質量であり、上記ペプチド質量M2はペプチド部分のみの質量である。そこで、イオンピークから求まった質量M1からペプチド質量M2を差し引くことで、糖鎖(厳密には糖鎖の可能性がある部分構造)の質量を求める。そして、この糖鎖の質量についてKMD、つまりはその質量値の小数点以下の値を求める(ステップS6:図4(b)参照)。
但し、周知のように、KMDを求める際には質量スケールを適宜に変更することが可能である。そこで、12Cの質量を12uとするIUPAC質量スケールを用いる代わりに、分析対象として想定される特定の糖鎖又は糖の理論質量とノミナル質量の比をスケーリングファクタとした質量スケールを使用してもよい。例えば生体中の糖鎖について単一の原子組成を持った仮想的な構成糖であるアヴェラゴース(averagose)(非特許文献5など参照)を求め、その理論質量とノミナル質量の比をスケーリングファクタとして使用するとよい。また、分析対象として注目する糖鎖集合の平均的な糖鎖として、既知の特定の糖鎖をスケーリングファクタに使用してもよい。このように、着目しているグリコファームに応じてスケーリングファクタを適切に定めることで、そのグリコファームに関連した糖鎖のKMDを0又はその近傍にすることができ、KMDの評価が容易になる。
一つのペプチド質量に対し、溶出時間範囲内の全てのMSスペクトルから検出された多数のイオンピークそれぞれについてKMDが求まる。そこで、グリコフォーム関連ピーク選別部226は、まずその多数のKMDの分布を求める(図4(c)参照)。ペプチドが同じであれば、糖鎖の違いに拘わらずKMDは近似的に同じ(構成糖のマスディフェクトの差異がKMDのずれとして残る)となる。糖鎖が同一の糖の繰り返し構造で、その繰り返し数のみが異なるような糖ペプチドであれば、KMDはほぼ同じ(装置の質量精度に起因する質量誤差のみが残る)となる。したがって、KMDの分布において狭い値の範囲に集中しているイオンピークは、ペプチドが同じであるグリコファームに由来するピークである可能性が高い。また、上述したようにスケーリングファクタを適切に定めると、目的とする糖ペプチドに関連する(ペプチドが同じである)グリコフォームのKMDを0付近にすることができる。そこで、グリコフォーム関連ピーク選別部226は、KMD分布において狭い値の範囲、例えば0付近に集中しているイオンピークをグリコフォーム関連ピークとして選別する。そして、その選別したグリコフォーム関連ピークに対し、ペプチド質量を算出する際に同定されたペプチドをペプチド候補として割り当てる(ステップS7)。
そのあと、糖鎖組成推定部227は、ステップS7で選別されたグリコフォーム関連ピークの中でペプチド質量以上の質量に対応する質量電荷比を示すピークを抽出し、そのピークに基づく糖鎖組成の推定を行う(ステップS8)。この糖鎖組成の推定方法は従来一般に行われている方法でよく、糖鎖質量に一致する糖鎖を総当たり的に探索する方法が考えられる。こうした糖鎖の総当たり的な探索では、非特許文献3に記載の「Glyco-peakfinder」を利用することができる。
解析結果表示処理部228は、そうして推定された糖鎖組成や構造の解析結果とペプチドの構造解析結果(アミノ酸配列)等とを表示部4に表示する(ステップS9)。
以上のようにして本実施形態の糖ペプチド解析装置では、或る溶出時間範囲内にペプチドが異なるグリコフォームが重なって溶出していた場合であっても、ペプチドが異なるグリコフォーム同士を分離し、目的の一群のグリコフォームを網羅的に解析することができる。また、一つの溶出時間範囲内のMSスペクトルには、上述したような時間的な制約のためにMS/MS分析が行えなかったグリコフォームに対応するイオンピークが観測されている可能性が高い。本実施形態の糖ペプチド解析装置では、MS/MSスペクトルに基づく解析では見落としていたグリコフォームの糖鎖組成や構造も推定することができる。即ち、これまでは解析できなかったグリコフォームも含めたグリコフォームの網羅的な解析が可能である。
[実測例]
上記実施形態の糖ペプチド解析装置を用いた解析の一例として、α1-酸性糖タンパク質を解析した実例について説明する。
まず、解析対象であるα1-酸性糖タンパク質を酵素消化して得られたペプチド混合物に対して逆相LC/MS分析を実施し、MSスペクトルデータ及びMS/MSスペクトルデータを収集した。次に、収集されたMS/MSスペクトルデータに基づいて、データベース検索エンジンを用いて糖ペプチド及びペプチドの同定を試みた。データベース検索エンジンとしては、糖ペプチド同定で広く利用されている「Byonic(登録商標)」(非特許文献4参照)を使用した。その結果、糖ペプチドの一つとして、アミノ酸配列が[NEEYNK]であるペプチドを含む糖ペプチドが同定された。
いま、上記ペプチドに着目すると、このペプチドを含む糖ペプチドが多く溶出していた 17~19.5分の溶出時間範囲には、そのほかに図5に示す14種類のアミノ酸配列を持つ糖ペプチド又はペプチドが同定されていることが判明した。そこで、上述した解析処理の手法により、アミノ酸配列が[NEEYNK]であるペプチドを含む糖ペプチド(つまりはグリコフォーム)を他のアミノ酸配列を含むペプチド又は糖ペプチドと分離して解析することが可能かどうか、を以下のように検証した。
まず、上記溶出時間範囲(17~19.5分)内に収集された全てのMSスペクトルに対してピーク検出を行い、検出されたモノアイソトピックイオンピークの質量電荷比及び価数に基づいて、それぞれケンドリックマスディフェクトを求めた。具体的には、アミノ酸配列が[NEEYNK]である糖ペプチドについて、そのアミノ酸配列部分の理論質量をモノアイソトピックイオンピークの質量電荷比から得られる質量から差し引くことにより、想定される糖鎖の質量を求めた。そして、この糖鎖質量に対して、特定の1種類の糖又は糖鎖(図5の例ではシアル酸を2個含有する2分岐N型糖鎖)を選び、その質量を基準として求めたスケーリングファクタ(選んだ分子の質量に乗ずるとノミナル質量に変換される係数)を乗じることにより得られた質量の小数点以下の値をKMDとして算出した。但し、0.5以上のKMDについては当該KMDから1を差し引いた値を用いた。したがって、KMDの値の範囲は-0.5~0.5である。
図5は、同定されたペプチド毎に求めたKMDに基づいて作成した箱ひげ図である。図5から分かるように、KMDの値が0である付近(図5中の右端に示す矢印(1)の範囲)には、注目していた アミノ酸配列が[NEEYNK]である糖ペプチド由来のイオンピークが他のアミノ酸配列を有するペプチド又は糖ペプチドに比べて、より多く分布していた。したがって、矢印(1)の範囲にKMDを有するイオンピークは、アミノ酸配列が[NEEYNK]である糖ペプチドであると仮定して糖鎖の解析を実施すればよい。
また、KMDの値が-0.05~0.025である付近(図5中の右端に示す矢印(2)の範囲)には、複数種類のアミノ酸配列を持つペプチド及び糖ペプチドが含まれており、これら複数種類のペプチド及び糖ペプチドであることを想定して糖鎖の解析を行えばよい。また、KMDの値が0.025以上である範囲(図5中の右端に示す矢印(3)の範囲)に存在するピークは、分析対象である糖ペプチドに属さないピークである可能性が高いと想定される。そこで、疑陽性を減らすために、こうしたピークはここでの糖鎖解析手法の適用対象外であるとすればよい。
なお、上記実施形態及び上述した変形例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)本発明の一態様の糖ペプチド解析装置は、液体クロマトグラフとMS/MS分析が可能な質量分析装置とを組み合わせた分析装置を用い、糖タンパク質のグリコフォームについての構造解析を行う糖ペプチド解析装置であって、
目的の糖タンパク質由来の糖ペプチドを含む試料を前記分析装置で分析することで得られたデータに基づいて作成された、解析対象である溶出時間範囲内の複数のMS/MSスペクトルから、糖ペプチドに由来すると推定される糖ペプチド関連スペクトルを選定し、該糖ペプチド関連スペクトルに基づいて該糖ペプチドにおけるペプチドの質量を算出するペプチド質量算出部と、
前記データに基づいて作成された、前記溶出時間範囲内の複数のMSスペクトルにおいて検出される複数のイオンピークのそれぞれの質量電荷比と、前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量とに基づいて、各イオンピークに対応する糖ペプチドに含まれると想定される糖又は糖鎖の質量のケンドリックマスディフェクトを算出するケンドリックマスディフェクト算出部と、
前記ケンドリックマスディフェクトの値の分布に基づいて、前記イオンピークを選別するとともに選別されたイオンピークに対応する糖ペプチドのペプチドを推定するグリコフォーム関連ピーク選別部と、
前記選別されたイオンピークの中で前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量以上の質量電荷比に対応するイオンピークについて、該イオンピークに対して推定されているペプチドの情報を利用して糖鎖の組成を推定する糖鎖組成推定部と、
を備えるものである。
第1項に記載の糖ペプチド解析装置によれば、ペプチドのアミノ酸配列が異なるような糖ペプチドが液体クロマトグラフにおいて完全に分離できず、異種の糖ペプチド由来のイオンピークがマススペクトル上で混じって観測されるような場合であっても、該イオンピークをペプチドが同じである糖ペプチドのグループに分けたうえで、それらの糖鎖の構造等を解析することができる。また、マススペクトルにおいて観測されるイオンピークに基づいて糖ペプチドの糖鎖の解析が行われるので、分析装置のスループットの制約等のためにMS/MSスペクトルを取得することができなかった糖ペプチドについても糖鎖の解析が可能である。これによって、目的とする糖ペプチドのグリコフォームの取りこぼしを軽減して網羅的に解析することができる。
(第2項)第1項に記載の糖ペプチド解析装置において、前記ケンドリックマスディフェクト算出部は、イオンピークの質量電荷比に基づく質量からペプチド質量を差し引くことで得られる質量値に対し、分析対象として想定される特定の糖鎖若しくは糖の理論質量とノミナル質量の比、又は、分析対象として想定される糖鎖若しくは糖の平均的な組成を持つ糖の理論質量とノミナル質量の比、をスケーリングファクタとしてケンドリックマスディフェクトを算出するものとすることができる。
第2項に記載の糖ペプチド解析装置によれば、目的とする糖ペプチドとペプチドが同じであるグリコファームに対応するイオンピークのケンドリックマスディフェクトを0又はその近傍にすることができ、ケンドリックマスディフェクトの分布に基づくグリコフォーム関連ピークの選別が容易になる。
(第3項)第1項又は第2項に記載の糖ペプチド解析装置では、前記質量分析装置において通常のMS分析を実行してMSスペクトルを取得し、該MSスペクトルにおいて検出されるピークの中で所定の条件を満たすピークの質量電荷比をプリカーサイオンに設定したMS/MS分析を前記MS分析に引き続いて実行するように、前記質量分析装置の動作を制御する分析制御部、をさらに備えるものとすることができる。
第3項に記載の糖ペプチド解析装置によれば、液体クロマトグラフからの溶出液中に糖ペプチド等の成分が含まれている場合に、該成分についてのMS/MSスペクトルを自動的に取得することができる。また、プリカーサイオンを選択するための所定の条件を適切に設定することにより、溶出液中に含まれる、夾雑物等の不要な成分に対するMS/MS分析の実行を回避することができ、その分だけ、有意な成分に対するMS/MS分析の実行の機会を増やすことができる。
1…分析部
11…液体クロマトグラフ部
12…質量分析部
2…データ解析部
21…スペクトルデータ格納部
22…糖鎖構造解析部
220…ペプチド質量算出部
221…スペクトル類似度算出部
222…グリコフォーム関連スペクトル選別部
223…グリコフォーム溶出時間範囲算出部
224…溶出時間範囲内ペプチド質量算出部
225…ケンドリックマスディフェクト算出部
226…グリコフォーム関連ピーク選別部
227…糖鎖組成推定部
228…解析結果表示処理部
3…入力部

Claims (3)

  1. 液体クロマトグラフとMS/MS分析が可能な質量分析装置とを組み合わせた分析装置を用い、糖タンパク質のグリコフォームについての構造解析を行う糖ペプチド解析装置であって、
    目的の糖タンパク質由来の糖ペプチドを含む試料を前記分析装置で分析することで得られたデータに基づいて作成された、解析対象である溶出時間範囲内の複数のMS/MSスペクトルから、糖ペプチドに由来すると推定される糖ペプチド関連スペクトルを選定し、該糖ペプチド関連スペクトルに基づいて該糖ペプチドにおけるペプチドの質量を算出するペプチド質量算出部と、
    前記データに基づいて作成された、前記溶出時間範囲内の複数のMSスペクトルにおいて検出される複数のイオンピークのそれぞれの質量電荷比と、前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量とに基づいて、各イオンピークに対応する糖ペプチドに含まれると想定される糖又は糖鎖の質量のケンドリックマスディフェクトを算出するケンドリックマスディフェクト算出部と、
    前記ケンドリックマスディフェクトの値の分布に基づいて、前記イオンピークを選別するとともに選別されたイオンピークに対応する糖ペプチドのペプチドを推定するグリコフォーム関連ピーク選別部と、
    前記選別されたイオンピークの中で前記ペプチド質量算出部で算出されたペプチド質量以上の質量電荷比に対応するイオンピークについて、該イオンピークに対して推定されているペプチドの情報を利用して糖鎖の組成を推定する糖鎖組成推定部と、
    を備える糖ペプチド解析装置。
  2. 前記ケンドリックマスディフェクト算出部は、イオンピークの質量電荷比に基づく質量からペプチド質量を差し引くことで得られる質量値に対し、分析対象として想定される特定の糖鎖若しくは糖の理論質量とノミナル質量の比、又は、分析対象として想定される糖鎖若しくは糖の平均的な組成を持つ糖の理論質量とノミナル質量の比、をスケーリングファクタとしてケンドリックマスディフェクトを算出する、請求項1に記載の糖ペプチド解析装置。
  3. 前記質量分析装置において通常のMS分析を実行してMSスペクトルを取得し、該MSスペクトルにおいて検出されるピークの中で所定の条件を満たすピークの質量電荷比をプリカーサイオンに設定したMS/MS分析を前記MS分析に引き続いて実行するように、前記質量分析装置の動作を制御する分析制御部、をさらに備える、請求項1又は2に記載の糖ペプチド解析装置。
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