JP7151848B1 - クロム鉄鉱石の回収方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることを目的とする。【解決手段】複数の分離工程を段階的に行うことによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収するクロム鉄鉱石の回収方法であって、最上流側の分離工程として、ハイドロサイクロン1を用いて、鉱石スラリーに含有される粒子の粒度差によって鉱石スラリーを分級する分級工程S21が行われ、分級工程S21において、ハイドロサイクロン1への鉱石スラリーの投入圧力を0.17MPa以上0.22MPa以下とし、且つ、ハイドロサイクロン1のスピゴット径を30mm以上45mm以下とする、クロム鉄鉱石の回収方法とする。【選択図】図2

Description

本発明は、クロム鉄鉱石の回収方法に関する。本発明は、より詳しくは、高圧酸浸出法によりニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬方法において浸出処理に供する鉱石スラリーから、クロムを含有する鉄鉱石を分離回収する、クロム鉄鉱石の回収方法に関する。
近年、石炭、鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の鉱物資源において、採掘権の寡占化が進行し、原料コストが大幅に上昇している。そのため、金属製錬分野におけるコスト低減のための施策として、従来、コスト的に不利であるため対象にならなかった低品位原料を使用するための技術開発が行われている。
ニッケル製錬の現場においても、ニッケル酸化鉱石を硫酸で加圧下に酸浸出する高圧酸浸出(High Pressure Acid Leach)法に基づく湿式製錬方法のプラント内で、湿式プロセスで処理される鉱石スラリーからクロムを分離回収するための各種の方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1、2には、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーに対して、分級処理と、比重分離処理を段階的に施すことにより、鉱石スラリーからより効率的にクロムを分離除去する方法が開示されている。しかしながら、原料コストの高騰の問題は益々逼迫しており、鉱石スラリーからのクロムの分離回収率を更に安定的に向上させることが求められていた。
特開2012-107289号公報 特開2017-52992号公報
本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものであり、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることを目的とする。
本発明者らは、鉱石スラリーからクロムを分離する上記の工程を行う際に、最上流側の分級処理を行う工程に続いて行われる、沈降分離工程において、この工程を行うデンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重と、「ティーターウォーター(TW)」と称される注入水の流量の組合せを、特定範囲に限定することにより、複数段階の物理的な分離処理を経て最終的に回収されるクロム鉄鉱石におけるクロム品位を安定的に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
(1) 複数の分離工程を段階的に行うことによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収するクロム鉄鉱石の回収方法であって、前記ニッケル酸化鉱石スラリーに含有される粒子の粒度差によって該ニッケル酸化鉱石スラリーを分級する分級工程と、デンシティセパレーターを用いて、前記分級工程において分離回収されたオーバーサイズの鉱石スラリーを沈降濃縮して、クロム成分を濃縮させた混合物を回収する沈降分離工程と、比重分離処理によって、デンシティセパレーターによって回収された前記混合物のクロム分を更に濃縮させた混合物を回収する比重分離工程と、を含んでなり、前記沈降分離工程においては、前記デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重を1.2以上1.4以下とし、且つ、前記デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量を3.0[m・h-1/m]以上10.0[m・h-1/m]以下とする、クロム鉄鉱石の回収方法。
(1)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物であるニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。
(2) 前記デンシティセパレーターからアンダーフローとして回収される混合物は、粒度45μm未満の粒子の割合が30%未満である、(1)に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
(2)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、段階的な分離を引き続き行う更に下流側の工程における分離効率を確実に良好な水準に維持できるようになり、クロムの分離回収率を更に安定的に向上させることができる。
(3) 複数の前記分離工程として、ハイドロサイクロンを用いた前記分級工程、前記デンシティセパレーターを用いた前記沈降分離工程、スパイラルコンセントレーターを用いた前記比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を行う、(1)又は(2)に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
(3)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、分級工程に続いて、上流側で行われる比重分離工程で用いるデンシティセパレーターの運転条件等を最適化することによって、全体工程の処理効率も好ましい水準に維持することができ、これにより、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。
(4) 複数の前記分離工程を経て回収される、前記クロム鉄鉱石の酸化クロム品位が41%以上である、(1)から(3)の何れかに記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
(4)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。又、併せて、クロム成分を含有する鉱石スラリーによる配管、ポンプ等の設備の磨耗を抑制して耐久性を向上させ、最終的に系外に排出される残渣の量を低減し、環境リスクを抑えることもできる。
本発明によれば、分級処理と比重分離処理とを段階的に施すことにより、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。
ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬プロセスの流れを示す工程図である。 本発明のクロム鉄鉱石の回収方法の流れを示す工程図である。 本発明のクロム鉄鉱石の回収方法に用いることができるハイドロサイクロンの基本構成を示す模式図である。 本発明のクロム鉄鉱石の回収方法に用いることができるデンシティセパレーター基本構成を示す模式図である。
以下、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」について、具体的な実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
<ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、ニッケル酸化鉱石を原料とした湿式製錬プロセスの部分プロセスとして実行することができる。この「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」は、図1に示す通り、鉱石処理工程S1、鉱石スラリー処理工程S2、浸出工程S3、固液分離工程S4、中和工程S5、亜鉛除去工程S6、硫化工程S7、及び、最終中和工程S8を、含んでなる全体プロセスである。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、このような全体プロセスの流れの中では、鉱石スラリー処理工程S2として実施される部分プロセスでもある。以下、先ずは、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の概要について説明する。
[鉱石処理工程]
鉱石処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を水と混合し、ニッケル酸化鉱石スラリーとする工程である。尚、本明細書においては、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーのことを、「ニッケル酸化鉱石スラリー」と言う。又、「ニッケル酸化鉱石スラリー」には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、ニッケル酸化鉱石及び水以外の成分が含有されていてもよい。
[鉱石スラリー処理工程]
鉱石スラリー処理工程S2は、ニッケル酸化鉱石スラリーからの異物除去及び鉱石粒度調整を行う工程である。そして、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、図1に示す通り、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の全体プロセス内において、浸出処理S3に供する鉱石スラリーに対する前処理として行われる鉱石スラリー処理工程S2において、処理対象物である鉱石スラリーから、クロムを分離回収する処理(クロム鉄鉱石回収工程)として実行することができるプロセスである。クロム鉄鉱石回収工程S2としての本工程、即ち、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」の詳細については別途後述する。
[浸出工程]
浸出工程S3は、オートクレーブ等を用いて、鉱石スラリーからニッケル、コバルト等の有価成分を硫酸で浸出して浸出スラリーを得る工程である。
[固液分離工程]
固液分離工程S4は、多段のシックナー等を用いて、上記の浸出スラリーを、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣スラリーとに分離する工程である。
[中和工程]
中和工程S5は、上記の浸出液を、3価の鉄水酸化物を主成分とするニッケルを含む母液と中和澱物スラリーとに分離する工程である。
[亜鉛除去工程]
亜鉛除去工程S6は、上記の母液に硫化剤を添加して、ニッケル回収用の母液と硫化亜鉛を含む硫化亜鉛澱物とに分離する工程である。
[硫化工程]
硫化工程S7は、ニッケル回収用の上記母液に硫化剤を添加して、ニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(Ni、Co混合硫化物)と貧液とに分離する工程である。尚、貧液は、固液分離工程S4における浸出残渣の洗浄水として使用される。
[最終中和工程]
最終中和工程S8は、固液分離工程S4で分離された上記の浸出残渣スラリーをpH8以上pH9以下程度に中和して最終中和残渣とする工程である。この最終中和残渣は、テーリングダムに貯留される。
<クロム鉄鉱石の回収方法>
本発明のクロム鉄鉱石の回収方法(以下、単に「クロム鉄鉱石の回収方法」とも言う)は、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する方法である。この方法は、上述した通り、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの中で、その部分工程である鉱石スラリー処理工程S2の実施時に、並行してクロム鉄鉱石を回収するクロム鉄鉱石回収工程S2としても併せて実施することができる工程である。
ここで、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の原料であるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。このラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8質量%以上2.5質量%以下であり、ニッケルは、水酸化物又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有されている。又、鉄の含有量は、10質量%以上50質量%以下であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。珪酸分は、石英、クリストバライト(無定形シリカ)等のシリカ鉱物及び含水ケイ苦土鉱物に含有されている。更に、クロム分の多くは、鉄又はマグネシウムを含むクロマイト鉱物として1質量%以上5質量%以下含有されている。
表1には、約2mm以下の粒度に破砕して得たニッケル酸化鉱石中の鉱石粒度分布(重量%)と各粒度区分での各成分の固形分割合(%)の一例が示されている。同表に示されている通り、粒度45μm以上の粗粒中には、クロム、珪素、マグネシウム等が満遍なく存在している。一方、粒度45μm以下の細粒部には、鉄が濃縮されている。このように、粒度45μm未満の細粒(以下「細粒」と言う)中には、ゲーサイトが主体でニッケルが多く含まれているので、主としてニッケル酸化鉱石中の細粒の部分がニッケル及びコバルト回収の工程の原料となる。そして、主として粒度45μm以上の粗粒(以下「粗粒」と言う)の部分が、クロム鉄鉱石回収の原料となる。尚、クロム鉄鉱石の回収においては、分離回収した後に資源化が容易となるように、通常、酸化クロム(Cr)品位を41質量%以上にまで高めることが好ましいものとされている。
Figure 0007151848000002
上述した通り、ニッケル酸化鉱石からのクロム鉄鉱石の回収は、ニッケル酸化鉱石スラリーから、可能な限りの分離効率で粒度45μm以上の粗粒を分離して、当該粗粒中のクロム成分を段階的に濃縮する処理によって行われている。より具体的には、図2に示す通り、このクロム鉄鉱石の回収は、ニッケル酸化鉱石スラリーを分級する分級工程S21、分級工程S21において分離回収されたオーバーサイズの鉱石スラリーを沈降濃縮する沈降分離工程S22、比重分離工程S23、磁力選鉱工程S24の4つの物理分離工程が段階的に行われる回収方法として広く行われている。
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、上記の各部分工程のうち、最上流側の分離工程である分級工程S21に続いて行われる、沈降分離工程S22を、デンシティセパレーター用いて行い、当該デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重と当該デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量の組合せを、独自に見出した特定範囲に限定した点を主たる特徴とする。
「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの中で、上記特徴を備える本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」、即ち、「クロム鉄鉱石回収工程S2(鉱石スラリー処理工程S2)」を実施することによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離除去する工程において、クロムの分離回収率を安定的に良好な水準に維持することができる。又、併せて、鉱石処理工程S1から産出するクロマイトを含む鉱石スラリーによる配管、ポンプ等の設備の磨耗を抑制し、耐久性を向上させ、最終中和工程S8から産出する最終中和残渣量を低減し、廃棄される浸出残渣、中和澱物等を貯留するテーリングダムの容量の圧縮によりコスト及び環境リスクを抑えることもできる。
[分級工程]
分級工程S21は、鉱石スラリーに含有される粒子の粒度差によって当該ニッケル酸化鉱石スラリーを分級する工程である。この工程では、オーバーフロー(O/F)としてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフロー(U/F)としてクロム鉄鉱石(クロマイト)を含む混合物を分離する工程である。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、この工程は、ハイドロサイクロンを用いて行うことが好ましい。
ここで、「ハイドロサイクロン」とは、遠心力を利用してスラリー中に分散している固体粒子を、主に粒度の違いによって分級することができる公知の装置である(例えば、特開昭55-104666号公報参照)。図3に示すハイドロサイクロン1は、本発明において好ましく用いることができるハイドロサイクロンの一例である。一般に、クロマイトの比重はゲーサイト等の水酸化鉄のそれよりも大きいことが知られており、粗大で比重が大きいクロマイトと微細で比重が小さいゲーサイトとは、「ハイドロサイクロン」により効率良く分離することができる。
ハイドロサイクロン1を用いて分級工程S21を行う際には、供給配管12から所定の圧力でニッケル酸化鉱石スラリーを供給することで、テーパー筒部11内の壁面付近を旋回しながら下降する下降流と、中心部付近上昇する上昇流を発生させて、ニッケル酸化鉱石スラリーを粗粒と細粒に分離することができる。その結果、オーバーフロー排出口13からは、オーバーフロー(O/F)として、相対的に粒度の小さいゲーサイトを含む混合物が排出されて、ニッケル回収の原料として浸出工程S3に送液される。そして、スピゴット(アンダーフロー排出口)14からは、アンダーフロー(U/F)として、相対的に粒度の大きいクロム鉄鉱石を含む混合物が排出されて、次工程に送液される。
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、この分級工程S21を行うハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの投入圧力を0.17MPa以上0.22MPa以下とすることが好ましく、0.19MPa以上0.21MPa以下とすることがより好ましい。
又、この分級工程S21においては、鉱石スラリーの投入圧力を上記範囲に限定した上で、併せて、スピゴット(アンダーフロー排出口)14のスラリー排出口の開口部の直径である「スピゴット径」を30mm以上45mm以下とすることが好ましく、30mm以上40mm以下とすることがより好ましい。
尚、ハイドロサイクロン1に供する鉱石スラリーのスラリー濃度については特に限定されないが、分離処理に必要な水量を抑えながら、尚且つ、下流側の工程での沈降濃縮を容易にするために、10重量%以上30重量%以下とすることが好ましく、15重量%以上20重量%以下とすることがより好ましい。
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、同回収方法を構成する各工程のうち、最上流側の分離工程である分級工程S21において、「ハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの投入圧力とスピゴット径の組合せ」を、上記範囲に限定的に調整することにより、分級工程S21において回収されて下流側に送液されるスラリー中の細粒の割合を50%以下とすることができる。この程度にまで上流側工程で細粒の割合を下げておくことによって、下流側の工程での細粒分離がより安定的に進行するからである。
[沈降分離工程]
沈降分離工程S22は、分級工程S21にてアンダーフロー(U/F)として分離したオーバーサイズのクロム鉄鉱石を含む混合物を比重分離処理で更に分離して、クロム成分を更に濃縮させた混合物を得る工程である。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、この工程は、デンシティセパレーターを用いて行われる。
ここで、「デンシティセパレーター」とは、装置上部よりスラリーが供給され、装置下部から注入される注入水(ティーターウォーター(TW))の上昇流によってスラリーの比重分離が行われる公知の装置である(例えば、特開2017-60930号公報参照)。図4に示すデンシティセパレーター2は、本発明において好ましく用いることができるデンシティセパレーターの一例である。
デンシティセパレーター2を用いて沈降分離工程S22を行う際には、先ず、分級工程S21においてハイドロサイクロン1からアンダーフロー(U/F)として排出されたクロム鉄鉱石を含む混合物が、タンクの上部側の部分である分離部21の上部に接続されている供給配管23から供給される。そして、ティーターウォーター(TW)を分離部21の下部に接続されている注入水供給管24から投入して懸濁状態を発生させることによって生じる上昇流で、上記混合物中の細粒がオーバーフロー(O/F)側へ排出されて、ニッケル回収の原料として浸出工程S3に送液される。そして、クロム成分を濃縮させた混合物である粗粒が、アンダーフロー(U/F)としてタンクの下部側の沈積部22に接続されている排出配管31から排出されて、次工程に送液される。
尚、「デンシティセパレーター」における分離制御は、注入水の添加ラインの上部の壁面に設置された圧力計25の示す圧力に応じて底抜きのバルブ32の開度を調整することによって行う方法が一般的であるが、排出配管31に、アンダーフローを定量的に排出させるための定量ポンプ33を更に設けて、アンダーフローを定量的に排出できるようにすることがより好ましい。
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、この沈降分離工程S22に用いるデンシティセパレーターのタンク内の分離対象混合物であるスラリーの比重を1.3以上1.5以下とし、より好ましくは、1.2以上1.4以下とする。
沈降分離工程S22に用いるデンシティセパレーターにおいて、タンク内のスラリーの比重を小さく設定すると、タンク内に留まる固形分が少なくなって、アンダーフロー(U/F)側への排出が増え、可能な限り、粗粒の割合が高いものであるべきアンダーフロー(U/F)からの排出物中における細粒の割合が増えてしまう。一方で、タンク内のスラリーの比重を大きく設定すると、タンク内固形分が多くなり、ティーターウォーター(TW)による懸濁状態が活性化されて、オーバーフロー(O/F)側からの排出物中における細粒の割合を増大させることができる。但し、タンク内のスラリーの比重が過大になると、クロマイトを含めた粗粒までオーバーフロー(O/F)側に排出される確率が高まる。デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重を1.2以上1.4以下とすることにより、上記態様によるアンダーフロー(U/F)側への細粒の排出及びオーバーフロー(O/F)側への粗粒の排出を抑えることができる。尚、デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重は差圧計で測定して、常時、適切なスラリーの比重が維持できるように適宜タンク内の水量を調整すればよい。
又、この沈降分離工程S22においては、スラリーの比重を上記範囲に限定した上で、併せて、デンシティセパレーター2内に上昇流を作り出す上述のティーターウォーター(TW)の流量を3.0[m・h-1/m]以上10.0[m・h-1/m]以下とし、より好ましくは、5.0[m・h-1/m]以上7.0[m・h-1/m]以下とする。
デンシティセパレーター2内に上昇流を作り出す上述のティーターウォーター(TW)の流量を3.0[m・h-1/m]以上とすることで、干渉落下の効果を十分に高めて、比重分離を効率良く行うことができる。又、ティーターウォーター(TW)の流量を10[m・h-1/m]に止めることによって、クロマイト粒子をオーバーフロー(O/F)側に上昇させて、アンダーフロー(U/F)側から回収すべきクロム鉄鉱石の損失を防ぐことができる。
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、同回収方法を構成する各工程のうち、最上流側の分離工程である分級工程S21に引続き行われる沈降分離工程S22において、「デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重と当該デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量の組合せ」を、上記範囲に限定的に調整することにより、沈降分離工程S22において回収されて下流側に送液されるスラリー中の細粒の割合を30%以下とすることができる。そして、確実にこの程度にまで細粒の割合を下げておくことによって、更に下流側の工程での細粒分離が高い精度で行われるようにして、「クロム鉄鉱石の回収方法」によって最終的に得ることができるクロム鉄鉱石の酸化クロム(Cr)品位を安定的に41%以上の高品位に維持することができる。
[比重分離工程]
比重分離工程S23は、スラリーを渦巻状の傾斜滑り台に投入して自重落下と遠心力を利用した「スパイラルコンセントレーター」等の比重選鉱装置で行われる。「スパイラルコンセントレーター」の内側には、粗くて重いクロム鉄鉱石(Conc)、中央部にはクロム鉄鉱石の他にシリカ鉱物やケイ苦土鉱石からなる軽くて粗い脈石(Mids)、外側にはゲーサイトや脈石、多くの水(Tail)が分離される。「Conc」は高品位Crスラリーであるので次工程へ送液される。「Tail」は浸出工程へ、「Mids」は浸出工程に送液されるか、或いは、スパイラルコンセントレーターによる分離処理を繰返し行ってもよい。
尚、スパイラルコンセントレーターの分離性能をより確実に良好な水準に維持するためには、供給するスラリーのパルプコンテントは15重量%を超えて45重量%未満とすることが好ましく、30重量%を超えて40重量%未満とすることがより好ましい。
[磁力選鉱工程]
磁力選鉱工程S24は、スパイラルコンセントレーターでクロム成分が濃縮されたクロム鉄鉱石中の磁鉄鉱石を、磁気分離処理により除去して鉄分を下げる工程である。磁鉄鉱石(Mag)が取り除かれるので、非着磁物(Non-Mag)が製品となる。この工程によりスパイラルコンセントレーターで回収された「Conc」のCr品位が更に向上する。
上記の磁気分離処理には、低磁界磁力選鉱機を好ましく用いることができる。又、磁気分離処理を行う際の磁界強度は特に限定されないが、一例として、200[Oe]以上2000[Oe]以下の範囲であることが好ましい。
以下に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の試験例及び実施例では、ハイドロサイクロン(ソルターサイクロン社製、SC1030-P)とデンシティセパレーター(CLASSIFICATION&FLOTATION SYSTEM,INC社製)を用いて、ニッケル酸化鉱石スラリーの分級処理(分級工程)及び沈降分離処理(沈降分離工程)を行った。尚、金属の分析には蛍光X線分析法、又は、ICP発光分析法を用いて分析を行っている。
(試験例)
試験例として、ハイドロサイクロンによる分級処理(分級工程)及びデンシティセパレーターによる沈降分離処理(沈降分離工程)からなる試験操業を行った。ハイドロサイクロンへのニッケル酸化鉱石スラリーの投入圧力(表2中、及び、以下の記載において、「運転圧力」と記す)を0.21MPa、ハイドロサイクロンのアンダーフロー(U/F)の排出口の開口径(スピゴット径)は30mmとして細粒割合が45%のスラリーを得た後、デンシティセパレーターで沈降分離処理を複数回実施した。
各回の沈降分離処理の実施毎に、下記表2に記す通りにデンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重((表2中、及び、以下の記載において、「スラリー比重」と記す))のみを変動させて複数回実施した。何れの回の実施においても、デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量は5[m・h-1/m]とした。又、何れの回の実施においても、スラリー濃度は15質量%、スラリーの温度は常温とした。表2に「スラリー比重」を変動させて行った各回の沈降分離処理の実施後のアンダーフロー(U/F)から回収されたスラリー中の細粒(粒度45μm未満の粒子)の存在割合(%)と、鉄(Fe)品位の変化の比率を記す。又、併せて、同じく、オーバーーフロー(O/F)から回収されたスラリー中の粗粒(粒度45μm以上の粒子)の存在割合(%)を記す。
Figure 0007151848000003
表2から、デンシティセパレーターのUFに排出されるスラリーの細粒割合はスラリー比重が増加するほど小さくなり、同時にゲーサイト除去の効果によってFe品位も減少していることが分かる。
物理分離工程の一つであるスパイラルは物理分離効果が大きいがゲーサイト等を含む粘度の高いスラリーに対しては十分な効果が発揮できない。スパイラルを用いる場合にはハイドロサイクロンやデンシティセパレーターを用いて細粒割合を30%以下に抑える必要がある。デンシティセパレーターの物理分離ではそのスラリー比重が1.2以上であるときに、スパイラルが十分に効果を発揮できる細粒割合が30%以下のスラリーが得られる。その一方で、スラリー比重の増加とともにO/F中の粗粒が多くなり、スラリー比重が1.4以上であるときに、ほぼ同じ割合となる。クロマイトのロスを極少に抑えるためにはスラリー比重は1.4以下であることが好ましいことが分かる。
(実施例)
沈降分離工程を行うデンシティセパレーターのタンク内のスラリー比重を1.2、デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量を5[m・h-1/m]として、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」を試験的に実施した。先行して分級工程を行うハイドロサイクロンへのニッケル酸化鉱石スラリーの投入圧力(運転圧力)を0.21MPa、アンダーフロー(U/F)の排出口の開口径(スピゴット径)を30mmとし、密度1.12t/mの鉱石スラリーを投入して細粒割合が48%のサイクロンのU/Fスラリーを得た。そして、このU/Fスラリーを、上述のデンシティセパレーターに投入して沈降分離工程を行った。デンシティセパレーターから回収されたのU/Fスラリーの細粒の割合は27%であった。そして、引続き、スパイラルコンセントレーターを用いた比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を順次施したところ、Cr品位が44重量%であるクロム鉄鉱石を得ることができた。尚、スパイラルコンセントレーターを用いた比重分離工程のConcの細粒割合は7.9%であった。
(比較例)
比較例として、沈降分離工程を行うデンシティセパレーターの、のタンク内のスラリー比重を1.1、とし、且つ、」デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量を2.5[m・h-1/m]とした他は実施例と同一条件で、分級工程、沈降分離工程、比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を順次施したところ、デンシティセパレーターから回収されたのU/Fスラリーの細粒の割合はハイドロサイクロンによる分級処理後の鉱石スラリー(U/F)中の細粒の割合は50%となり、得られたクロム鉄鉱石のCr品位は38重量%まで低下した。尚、スパイラルコンセントレーターを用いた比重分離工程のConcの細粒割合も17%となっていて、実施例の場合よりも高くなっていた。
以上の結果より、本発明によれば、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができることが分かる。
1 ハイドロサイクロン
11 テーパー筒部
12 供給配管
13 オーバーフロー排出口
14 スピゴット(アンダーフロー排出口)
2 デンシティセパレーター
21 分離部
22 沈積部
23 供給配管
24 注入水供給管
25 圧力計
31 排出配管
32 バルブ
33 定量ポンプ
S1 鉱石処理工程
S2 鉱石スラリー処理工程(クロム鉄鉱石回収工程)
S3 浸出工程
S4 固液分離工程
S5 中和工程
S6 亜鉛除去工程
S7 硫化工程
S8 最終中和工程
S21 分級工程
S22 沈降分離工程
S23 比重分離工程
S24 磁力選鉱工程

Claims (4)

  1. 複数の分離工程を段階的に行うことによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収するクロム鉄鉱石の回収方法であって、
    前記ニッケル酸化鉱石スラリーに含有される粒子の粒度差によって該ニッケル酸化鉱石スラリーを分級する分級工程と、
    前記分級工程において分離回収されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、デンシティセパレーターを用いて粗粒の割合が相対的に多いスラリーと細粒の割合が相対的に多いスラリーとに比重分離処理し、粗粒の割合が相対的に多いスラリーを、クロム成分を濃縮させた混合物として回収する沈降分離工程と、
    前記沈降分離工程において、デンシティセパレーターによって回収された前記混合物のクロム分を更に濃縮させた混合物を回収する比重分離工程と、
    を含んでなり、
    前記沈降分離工程においては、前記デンシティセパレーターのタンク内のスラリーの比重を1.2以上1.4以下とし、且つ、前記デンシティセパレーター内に上昇流を作り出すティーターウォーター(TW)の流量を3.0[m・h-1/m]以上10.0[m・h-1/m]以下とする、
    クロム鉄鉱石の回収方法。
  2. 前記デンシティセパレーターからアンダーフローとして回収される混合物は、粒度45μm未満の粒子の割合が30%未満である、
    請求項1に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
  3. 複数の前記分離工程として、ハイドロサイクロンを用いた前記分級工程、前記デンシティセパレーターを用いた前記沈降分離工程、スパイラルコンセントレーターを用いた前記比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を行う、
    請求項1又は2に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
  4. 複数の前記分離工程を経て回収される、前記クロム鉄鉱石の酸化クロム品位が41%以上である、
    請求項1から3の何れかに記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
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