JP7149778B2 - 超親水性コーティング及びその形成方法 - Google Patents
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非晶質炭素膜に撥水性を付与する手段としては、珪素が導入された非晶質炭素膜を形成し、該非晶質炭素膜の表面を、プラズマ化、イオン化、又はラジカル化した酸素ガスと反応させた後、該非晶質炭素膜の表面にフッ素系シランカップリング剤の層を固定すること(特許文献1)が知られている。
また、非晶質炭素膜に親水性を付与する手段としては、Siを含有する非晶質炭素膜に酸素プラズマを照射して微細な凹凸構造を形成すること(特許文献2)や、内部及び表面にシリコンを含有するダイヤモンド状炭素薄膜の表面を酸素イオンビーム処理してナノスケールの表面粗さを有するナノパーティクルを形成すること(特許文献3)が知られている。
<1>基材上に形成され、少なくとも基材と接触していない側の面に珪素及び酸素を含む非晶質炭素膜と、前記非晶質炭素膜上に形成されたシランカップリング剤膜と、を備える超親水性コーティング。
<2>前記非晶質炭素膜が、シロキサン結合を有する、前記<1>の超親水性コーティング。
<3>前記非晶質炭素膜が、少なくとも基材と接触していない側の面に水酸基を有し、前記シランカップリング剤膜が、前記水酸基との縮合反応により生成される結合によって前記非晶質炭素膜の表面に固定されている、前記<1>又は<2>の超親水性コーティング。
<4>基材上に、少なくとも該基材と接触していない側の面に珪素又は珪素及び酸素を含む非晶質炭素膜を形成すること、酸素を含むガスをプラズマ化、イオン化又はラジカル化して、前記非晶質炭素膜の表面と反応させること、及び該反応後の前記非晶質炭素膜の表面に、シランカップリング剤膜を形成すること、を含む超親水性コーティングの形成方法。
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)に係る超親水性コーティング1は、図1に示すように、基材2上に形成された非晶質炭素膜3と、該非晶質炭素膜3上に形成されたシランカップリング剤膜4とを含む。各部の詳細について以下に説明する。
非晶質炭素は、ダイヤモンド結合(sp3結合)とグラファイト結合(sp2結合)との双方を含む非晶質である。本実施形態における非晶質炭素膜3には、実質的に炭素からなる非晶質膜のみならず、sp3結合及びsp2結合を有しつつ、成膜時に取り込まれた水素(H)等、並びに/又は色調、光透過性、導電性若しくは反応性等の各種特性を調節するために添加された1種若しくは複数種の元素を含有する非晶質膜も含まれる。前記各種特性を調節するための元素としては、珪素(Si)、酸素(O)、ホウ素(B)、窒素(N)、硫黄(S)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びジルコニウム(Zr)等が例示される。
非晶質炭素膜3中の珪素の含有量は特に限定されるものではないが、前述の作用を高める点で、0.1~50原子%とすることが好ましく、10~40原子%とすることがより好ましい。
本実施形態におけるシランカップリング剤膜4としては、一般式YnSiX4-n(ただし、Yは親水性官能基であり、Xはヒドロキシ基又は加水分解によりヒドロキシ基を生じる基であり、nは1~3の整数である)で表される親水性シランカップリング剤を用いて形成されたものであればよい。使用可能な親水性シランカップリング剤としては、大阪有機化学工業株式会社製のLANBICシリーズ等が例示される。
本実施形態において使用される基材2としては、前述した超親水性コーティング1により超親水性並びに耐摩耗性及び摺動性等の機能を付与しようとするものであれば、寸法、形状及び材質等は限定されない。基材2の材質については、単一の材質であってもよく、複数の材料からなる複合材料ないし積層体であってもよい。使用可能な基材の材質の一例としては、鉄、銅、アルミニウム及びマグネシウム等の金属系材料、前記金属成分を主成分としたステンレス鋼(SUS)等の合金、ガラス、シリコン及びセラミックス等の無機系材料、並びにポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレン等の高分子材料等が挙げられる。
協和界面科学(株)製のポータブル接触角計PCA-1を用いて、試料に純水1.0μLを滴下した5秒後の接触角を測定する。
本実施形態に係る超親水性コーティング1は、基材2を準備し、該基材2の上に、少なくとも表面に珪素及び酸素を含む非晶質炭素膜3、及びシランカップリング剤膜4を順次形成することで製造される。各操作の詳細について以下に説明する。
基材2表面への非晶質炭素膜3の形成方法は、所期の組成及び膜厚を有する非晶質炭素膜3が得られるものであれば限定されないが、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が好適に使用できる。中でも、プラズマプロセスを利用したものが好ましく、特にプラズマCVD法は、反応ガスにより成膜するものであり、また、成膜装置の構造も比較的単純であって、安価であるため好ましい。
なお、成膜する際の基材温度、ガス濃度、圧力、時間などの条件は、作製する非晶質炭素膜3の組成、膜厚に応じて、適宜設定される。
(a)テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシラン若しくはテトラメチルシクロテトラシロキサンなどに、酸素を含むガスを同時に混合する方法、
(b)メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素系のガスに、分子中にSi-O結合を有するガス、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、シロキサンなどのガスを同時に混合する方法、
(c)テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシラン若しくはテトラメチルシクロテトラシロキサンなどシリコンを含有する炭化水素系のプラズマ原料ガスで、珪素を含む非晶質炭素膜(a-C:H:Si膜)を成膜した後、その表面に酸素又は酸素を含むガスで形成するプラズマを照射する方法、
又は
(d)前記(a)若しくは(b)の方法で非晶質炭素膜3を成膜した後、その表面に酸素又は酸素を含むガスで形成するプラズマを照射する方法、
等が代表的な方法として挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
また、前記(c)の方法は、プラズマCVD法において酸素ガスを他の原料ガスと混合することなく、既に形成されたa-C:H:Si膜の表面に照射することで、爆発のおそれを回避しつつ、大量の酸素を非晶質炭素膜3の内部に注入することができる。また、トリメチルシラン等の有機シラン系原料ガスを用いた成膜工程と連続して、酸素ガスを導入したプラズマ照射工程を行うことで、真空ブレイクすることなく両工程を実施することが可能となり、生産性が向上する。
また、原料ガスを反応器内へと導くキャリアガスとして、アルゴンガス、水素ガスなどを用いることが好ましい。
シランカップリング剤膜4の形成方法としては、特に限定されず、シランカップリング剤の溶液を塗布するか、或いはシランカップリング剤の溶液中に浸漬した後、乾燥する方法や、シランカップリング剤を噴霧する方法等が採用できる。
なお、実験例及び実施例では、非晶質炭素膜の製造装置として、高圧DCパルスプラズマCVD装置を用い、基材として30×30×1mmのSUS304材(ステンレススチール)を使用した。
まず、装置に設けられた試料台上に、基材を配置し、次に、反応容器を密閉し、反応容器内の空気を1×10-3Paの真空度まで排気した。ついで、Arガスプラズマにて、Arガス流量30SCCM、ガス圧1Pa、印加電圧-3kVの条件で、15分間基材をクリーニングした。
このクリーニング処理の後、反応容器内に、トリメチルシランガスを流量30SCCMにて導入して、反応容器内圧力1Pa、印加電圧-5kV、成膜時間8分の条件で成膜を行った後、酸素ガスを流量30SCCM、ガス圧1Pa、印加電圧-3kVの条件で2分間プラズマ照射した。
その結果、膜厚約150nmのa-C:H:Si:O膜が得られた。
その後、前記基材のa-C:H:Si:O膜が形成された面に、シランカップリング剤であるLANBIC(大阪有機化学工業株式会社製)を塗布し、常温で24時間乾燥させて、シランカップリング剤膜を形成し、実施例1に係る超親水性コーティングを得た。
シランカップリング剤膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るコーティングを得た。
実施例1と比較例1との対比から、本発明においては、a-C:H:Si:O膜上にシランカップリング剤膜を形成することで、a-C:H:Si:O膜単独の場合よりも親水性を示す期間が格段に長くなり、親水性自体も向上するといえる。
基材上に、a-C:H:Si:O膜を形成することなく、シランカップリング剤膜を直接形成した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るコーティングを得た。
実施例1と比較例2との対比から、本発明においては、a-C:H:Si:O膜を介して基材上にシランカップリング剤膜を形成することで、基材上に直接形成する場合よりも親水性が向上するといえる。
2 基材
3 非晶質炭素膜
4 シランカップリング剤膜
Claims (4)
- 基材上に形成され、少なくとも基材と接触していない側の面に珪素及び酸素を含む非晶質炭素膜と、
前記非晶質炭素膜上に形成されたシランカップリング剤膜と、
を備える超親水性コーティング。 - 前記非晶質炭素膜が、シロキサン結合を有する、請求項1に記載の超親水性コーティング。
- 前記非晶質炭素膜が、少なくとも基材と接触していない側の面に水酸基を有し、
前記シランカップリング剤膜が、前記水酸基との縮合反応により生成される結合によって前記非晶質炭素膜の表面に固定されている、請求項1又は2に記載の超親水性コーティング。 - 基材上に、少なくとも該基材と接触していない側の面に珪素又は珪素及び酸素を含む非晶質炭素膜を形成すること、
酸素を含むガスをプラズマ化、イオン化又はラジカル化して、前記非晶質炭素膜の表面と反応させること、及び
該反応後の前記非晶質炭素膜の表面に、シランカップリング剤膜を形成すること、
を含む超親水性コーティングの形成方法。
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