JP7147789B2 - 質量分析方法及び質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、炭化水素鎖を有する試料成分由来のイオンを解離させて生成したプロダクトイオンを検出することにより該炭化水素鎖の構造を推定するために用いられる質量分析方法及び質量分析装置に関する。
高分子化合物を同定したりその構造を解析したりするために、試料成分由来のイオンから特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別し、それを1又は複数回解離させてプロダクトイオン(フラグメントイオンとも呼ばれる。)を生成し、それらを質量電荷比に応じて分離しそれぞれ検出する質量分析法が広く利用されている。このような質量分析法を実行する装置として、例えばイオントラップ飛行時間型質量分析装置が用いられる。イオントラップ飛行時間型質量分析装置においてイオントラップに捕捉されている分子量の大きなプリカーサイオンを解離する手法としては、イオントラップ内で励振させたプリカーサイオンをアルゴンなどの不活性ガスに繰り返し衝突させることによりプリカーサイオンに少しずつエネルギーを蓄積して解離を誘起する低エネルギー衝突誘起解離(LE-CID: Low-Energy Collision Induced Dissociation)法が最も一般的である(例えば非特許文献1)。
代表的な高分子化合物の1つに脂肪酸がある。脂肪酸は炭化水素鎖を有するカルボン酸であり、炭化水素鎖に不飽和結合を含まない飽和脂肪酸と、炭化水素鎖に不飽和結合を含む不飽和脂肪酸に大別される。脂肪酸は炭化水素鎖の長さによって特性が異なり、特に不飽和脂肪酸の場合には炭化水素鎖に含まれている不飽和結合の位置によって生化学的な活性が変化する。従って、脂肪酸や、脂肪酸を含む物質(例えば脂肪酸にヘッドグループと呼ばれる既知の構造が結合してなるリン脂質)の解析には、炭化水素鎖の構造(不飽和結合の位置や炭化水素鎖の長さ)の推定に有用なプロダクトイオンを生成し検出することが有効である。しかし、LE-CID法のようなエネルギー蓄積型のイオン解離法では、プリカーサイオンに付与されたエネルギーが分子内全体に分散することからプリカーサイオンが解離する位置の選択性が低いため、脂肪酸等が有する炭化水素鎖の構造の推定に有用なプロダクトイオンを生成することが難しい。
非特許文献2には、脂肪酸が有する炭化水素鎖の構造を推定する方法が提案されている。この方法は、脂肪酸をピロリジドなどで誘導体化した後に電子イオン化すると、飽和結合と不飽和結合を問わず炭化水素鎖に含まれる炭素-炭素結合の位置で解離したプロダクトイオンが生成されることを利用するものである。この方法では、飽和結合の位置で解離し生成されたプロダクトイオンの質量と、それに隣接する炭素-炭素結合の位置で解離し生成されたプロダクトイオンの質量の差が14Daとなる一方、不飽和結合の位置で解離し生成されたプロダクトイオンの質量と、それに隣接する炭素-炭素結合の位置で解離し生成されたプロダクトイオンの質量の差が12Daになることに基づいて炭化水素鎖の構造(炭化水素鎖の長さと不飽和結合の位置)を推定する。
特許文献1には、不飽和脂肪酸が有する炭化水素鎖の構造を推定する別の方法が提案されている。この方法は、オゾンをイオントラップに導入して不飽和脂肪酸と反応させると不飽和脂肪酸由来のプリカーサイオンが不飽和結合の位置で選択的に解離することを用いるものであり、不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離して生成されたプロダクトイオンの質量から炭化水素鎖の構造を推定する。
特許文献2や非特許文献3には、不飽和脂肪酸由来のプリカーサイオンに高エネルギーの電子線を照射して解離させたり、プリカーサイオンをLE-CID法よりも大きく励振させて不活性ガスに衝突させる高エネルギー衝突誘起解離(HE-CID: High-Energy Collision Induced Dissociation)法により解離させたりしてプロダクトイオンを生成すると、不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離したプロダクトイオンが生成されにくく、不飽和結合以外の位置でプリカーサイオンが解離したプロダクトイオンに比べて検出強度が小さくなることを利用して不飽和結合の位置を推定する方法が記載されている。
非特許文献4には、イオントラップに捕捉した不飽和脂肪酸由来のプリカーサイオンに高速に加速したHeを照射することによってプリカーサイオンをラジカル種に変化させ、その後に衝突誘起解離させてプロダクトイオンを生成すると、不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離したプロダクトイオンが生成されにくく、不飽和結合以外の位置でプリカーサイオンが解離して生成されたプロダクトイオンに比べて検出強度が小さくなることを利用して不飽和結合の位置を推定する方法が記載されている。
オーストラリア特許出願公開第2007/211893号公報 カナダ特許出願公開第2951762号公報
McLuckey, Scott A. "Principles of collisional activation in analytical mass spectrometry." Journal of the American Society for Mass Spectrometry 3.6 (1992): 599-614. Andersson, Bengt A., and Ralph T. Holman. "Pyrrolidides for mass spectrometric determination of the position of the double bond in monounsaturated fatty acids." Lipids 9.3 (1974): 185-190. Shimma, Shuichi, et al. "Detailed structural analysis of lipids directly on tissue specimens using a MALDI-SpiralTOF-Reflectron TOF mass spectrometer." PloS one 7.5 (2012): e37107. Deimler, Robert E., Madlen Sander, and Glen P. Jackson. "Radical-induced fragmentation of phospholipid cations using metastable atom-activated dissociation mass spectrometry (MAD-MS)." International journal of mass spectrometry 390 (2015): 178-186. 島袋、粕谷、和田、「マイクロ波容量結合プラズマを用いた小型原子源の開発」、第77回応用物理学会学術講演会講演予稿集、2016年9月、社団法人応用物理学会
非特許文献2に記載の方法では、予め不飽和脂肪酸を誘導体化する必要があり前処理に手間がかかる。また、不飽和脂肪酸の中には誘導体化すること自体が不可能なものがある。
特許文献1に記載の方法では、反応性が高いオゾンを用いるため、オゾンが大気中に排出されることを防止するためのオゾンフィルター等の設備を導入する必要がある。また、オゾンが質量分析装置の内部に入り込むと、各部の電極や絶縁物が酸化されて質量分析装置の性能が低下する可能性もある。
特許文献2、非特許文献3、及び非特許文献4に記載の方法は、不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離して生成されたプロダクトイオンの検出強度が、不飽和結合以外の位置でプリカーサイオンが解離して生成されたプロダクトイオンの検出強度に比べて小さくなることを利用して不飽和結合の位置を推定するものであるが、不飽和脂肪酸の種類や測定条件によっては不飽和結合以外の位置で解離したプロダクトイオンのマスピークの強度も小さくなる場合があり、高い精度で不飽和結合の位置を推定することは難しい。
ここでは主として不飽和脂肪酸の構造の推定について説明したが、上述の方法のうち、特許文献2、非特許文献2-4に記載の方法は飽和脂肪酸の構造の推定にも用いることができる。しかし、非特許文献2に記載の方法には、上述のとおり前処理に手間がかかり、誘導体化することが不可能な試料成分の解析を行うことができないという問題がある。また、特許文献2、非特許文献3、及び非特許文献4に記載の方法では、強度が小さいマスピークを不飽和結合の位置で解離し生成したプロダクトイオンに対応するマスピークであると誤認し、飽和脂肪酸であるにもかかわらず不飽和脂肪酸であると誤って推定してしまう可能性がある。
本発明が解決しようとする課題は、炭化水素鎖を有する試料成分について、該炭化水素鎖の構造を簡便かつ高い精度で推定することができる質量分析技術を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明は、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンからプロダクトイオンを生成して質量分析する質量分析方法であって、
前記プリカーサイオンに対して、水素ラジカル以外の酸化能を有するラジカル、又は/及び還元能を有するラジカルを照射してプロダクトイオンを生成し、
前記プロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離して検出し、
前記検出されたプロダクトイオンの質量電荷比及び強度に基づいて前記炭化水素鎖の構造を推定する
ことを特徴とする。
炭化水素という文言は、炭素原子と水素原子のみからなる化合物だけを指す場合があるが、本願明細書に記載の炭化水素鎖は、必ずしも炭素原子と水素原子のみからなるものに限定されず、例えばその側鎖がヒドロキシル基、カルボキシル基等、炭素原子と水素原子以外の種類の原子を含むものにより修飾されたものであってもよい。また、炭化水素鎖の構造は、直鎖、分岐鎖のほか、環状部を含むものであってもよい。さらに、炭化水素鎖の炭素-炭素結合には飽和結合と不飽和結合の両方が含まれうる。その他、本発明において構造を推定する対象となる炭化水素鎖の長さは質量分析が可能な程度の長さであれば特に限定されず、例えば200個あるいは300個の炭素原子を含む炭化水素鎖を有する試料成分の構造を推定することが可能である。
前記炭化水素鎖を有する試料成分の1つの例は、前記炭化水素鎖に構造又は構造候補が既知である物質が結合してなる試料成分である。具体的には、例えば炭化水素鎖を有するカルボン酸である脂肪酸や、脂肪酸に数十種類の構造候補のうちの1つが結合してなるリン脂質である。炭化水素鎖を有する試料成分が、該炭化水素鎖に構造又は構造候補が既知である物質が結合してなるものである場合には、本発明に係る質量分析方法を用いることにより試料成分全体の構造を推定することができる。ただし、前記炭化水素鎖を有する試料成分は、必ずしも炭化水素鎖以外の構造あるいは構造候補が既知であるものに限定されない。上述した課題は炭化水素鎖の構造の推定に関するものであり、炭化水素鎖以外の構造が未知である試料成分についても、全体の構造のうちの、少なくとも炭化水素鎖の構造を推定することは可能である。また、そうした試料成分の、炭化水素鎖以外の部分の構造については、例えばLE-CID法によりプリカーサイオンを解離させて生成したプロダクトイオンの構造解析等から推定すればよく、従って、そうした推定と併用することにより試料成分全体の構造を推定することができる。
本発明に係る質量分析方法では、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに対して、水素ラジカル以外の酸化能を有するラジカル、又は/及び還元能を有するラジカルを照射してプロダクトイオンを生成し検出する。発明者が行った測定によれば、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに対して、酸化能を有するラジカルの代表的なものであるヒドロキシルラジカル又は/及び酸素ラジカルを照射すると、炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置でプリカーサイオンが選択的に解離し、その位置に酸素原子が付加したプロダクトイオンが生成される。従って、ノイズと有意に識別可能な強度で検出されたプロダクトイオンの質量電荷比に基づいて、少なくとも試料成分に含まれる炭化水素鎖の構造を推定することができる。
また、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに対して酸化能を有するラジカルを照射すると、上記のプロダクトイオンだけでなく、炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置に酸素原子が付加したプロダクトイオン(プリカーサイオンに酸素原子が付加したイオン。以下、「プリカーサアダクトイオン」と呼ぶ。)も生成される。発明者が行った測定から、プリカーサイオンがシス(cis)型である場合に比べ、トランス(trans)型である場合の方がプリカーサアダクトイオンの生成効率が高いことが分かった。従って、プリカーサアダクトイオンの強度に基づいて、試料成分に含まれる炭化水素鎖がシス型であるか、トランス型であるかを推定することができる。
なお、水素ラジカルも、炭化水素鎖から水素原子を引き抜くという意味では酸化能を有するラジカルの一種である。しかし、水素ラジカルは、プリカーサイオンの解離位置の選択性が低い。また、水素ラジカルを用いた場合、炭化水素鎖からの水素原子の引き抜きによるプリカーサイオンの解離だけでなく、水素原子を引き抜いた後の炭化水素鎖に別の水素ラジカルが付着するという反応がほぼ同時に生じる。そのため、水素ラジカルによって炭化水素鎖の水素原子が引き抜かれて生じたプロダクトイオンに別の水素ラジカルが付着して、多様な質量電荷比を持つプロダクトイオンが生じてしまい、プロダクトイオンスペクトルの解析が困難になる。従って、本発明に係る質量分析方法では、水素ラジカルを除外している。なお、ここでいう水素ラジカルの除外は、水素ラジカルのみをプリカーサイオンに照射することを除外するものであって、他のラジカルの生成時に同時に生成された水素ラジカルが結果的にプリカーサイオンに照射されることを排除するものではない。
さらに、発明者が行った別の測定によれば、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに対して、還元能を有するラジカルの代表的なものである窒素ラジカルを照射すると、飽和結合と不飽和結合を問わず、炭化水素鎖に含まれる炭素-炭素結合の位置でプリカーサイオンが解離してプロダクトイオンが生成される。飽和結合の位置で解離して生成されたプロダクトイオンの質量と、該飽和結合に隣接する炭素-炭素結合の位置で解離して生成されたプロダクトイオンの質量の差は14Daである。一方、不飽和結合の位置で解離して生成されたプロダクトイオンの質量と、該不飽和結合に隣接する炭素-炭素結合の位置で解離して生成されたプロダクトイオンの質量の差は12Daである。従って、この差を利用することによりプロダクトイオンの質量電荷比と、前記物質の既知の構造又は構造候補に関する情報(質量等)に基づいて、少なくとも試料成分に含まれる炭化水素鎖の構造を推定することができる。
本発明に係る質量分析方法では、誘導体化等の前処理を行う必要がなく、また、反応性の高いオゾンも使用しないため、多様な試料成分を簡便に分析することができる。また、本発明に係る質量分析方法は、プロダクトイオンの検出強度が特異的に小さくなることを用いるものではなく、十分な強度で検出可能なプロダクトイオンの質量電荷比等に基づいて構造を推定するため、高い精度で試料成分に含まれる炭化水素鎖の構造を推定することができる。
また、上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンからプロダクトイオンを生成して質量分析する質量分析装置であって、
前記プリカーサイオンが導入される反応室と、
水素ラジカル以外の酸化能を有するラジカル、又は/及び還元能を有するラジカルを生成するラジカル生成部と、
前記ラジカル生成部で生成されたラジカルを前記反応室の内部に照射するラジカル照射部と、
前記ラジカルとの反応により前記プリカーサイオンから生成されたプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する分離検出部と
を備えることを特徴とする。
また、本発明に係る質量分析装置は、さらに、
前記検出されたプロダクトイオンの質量電荷比及び強度に基づいて、前記炭化水素鎖の構造を推定する構造推定部
を備えたものとすることができる。
前記反応室に照射されるラジカルが酸化能を有するラジカルである場合には、前記構造推定部は、炭化水素鎖の不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離することにより生成されたプロダクトイオンの質量電荷比から、該不飽和結合の位置を推定するものとすることができる。あるいは、前記構造推定部は、プリカーサイオンに酸素原子が付加したプリカーサアダクトイオンの強度に基づいて、該不飽和結合がシス型であるかトランス型であるかを推定するものとすることができる。
また、前記反応室に照射されるラジカルが還元能を有するラジカルである場合には、前記構造推定部は、炭化水素の炭素-炭素結合が開裂することにより生成されたプロダクトイオンの質量電荷比から、炭化水素鎖の構造を推定するものとすることができる。
前記ラジカル生成部には、大気圧雰囲気でラジカルを生成するもの、あるいは真空雰囲気でラジカルを生成するもののいずれを用いることもできる。大気圧雰囲気でラジカルを生成するものとしては、例えば、コロナ放電を利用するラジカル生成部を用いることができる。また、真空雰囲気でラジカルを生成するラジカル生成部は、例えば、
ラジカル生成室と、
前記ラジカル生成室を排気する真空排気部と、
前記ラジカル生成室に原料ガスを導入する原料ガス供給源と、
前記ラジカル生成室で真空放電を生じさせる真空放電部と
を備えたものとすることができる。
質量分析装置でプリカーサイオンを選別する質量分離部や、プリカーサイオンの解離により生じたプロダクトイオンを質量分離する質量分離部は、高真空空間に配置される。そのため、大気圧空間でラジカルを生成する場合にはラジカル生成部の前後に真空ポンプを配置しなければならず装置が大型化し、また高価になってしまう。さらに、大気圧雰囲気で生成されるラジカルは周辺のガスやラジカルと衝突して再結合等により消失しやすく、ラジカルの利用効率が低い。真空雰囲気でラジカルを生成するラジカル生成部を用いると、これらの問題を回避することができる。
前記真空放電部には、例えば高周波プラズマ源、ホローカソードプラズマ源、あるいは磁場閉じ込め型プラズマ源を用いることができる。高周波プラズマ源を用いる場合、誘導結合型の高周波プラズマ源よりも容量結合型の高周波プラズマ源を用いる方が生成されるラジカルの温度が高く、反応性が高くなる。そのため、容量結合型の高周波プラズマ源を用いることによりプロダクトイオンを高効率で生成し、検出強度を高めることができると考えられる。
また、本発明に係る質量分析装置は、さらに、
前記反応室に導入されたプリカーサイオンに熱を与える熱付与部
を備えることが好ましい。プリカーサイオンに熱を付与することにより、該プリカーサイオンの内部エネルギーを大きくしてラジカルとの反応性を高め、プロダクトイオンを高効率で生成することができる。
また、本発明に係る質量分析装置は、さらに、
前記原料ガス供給源、前記反応室、及び該原料ガス供給源から該反応室に至る流路のうちの少なくとも1つに設けられた、前記原料ガスを加熱する加熱部
を備えることが好ましい。この態様では原料ガスを加熱することにより、生成されるラジカルの温度を高くして反応性を高め、プロダクトイオンを高効率で生成することができる。
本発明に係る質量分析方法あるいは質量分析装置を用いることにより、炭化水素鎖を有する試料成分について、該炭化水素鎖の構造を簡便かつ高い精度で推定することができる。
本発明に係る質量分析装置の一実施例であるイオントラップ-飛行時間型質量分析装置の概略構成図。 本実施例のイオントラップ飛行時間型質量分析装置において用いられるラジカル照射部の概略構成図。 本実施例の質量分析装置において、真空下で高周波放電により水蒸気から生成したヒドロキシラジカル及び酸素ラジカルをリン脂質に照射し測定することにより取得したマススペクトル。 本実施例の質量分析装置において、真空下で高周波放電により酸素ガスから生成した酸素ラジカルを、シス型の不飽和結合を有するリン脂質由来のプリカーサイオンと、トランス型の不飽和結合を有するリン脂質由来のプリカーサイオンのそれぞれに照射することにより生成されたプロダクトイオンを測定して取得したマススペクトルの部分拡大図。 不飽和結合がトランス型であるリン脂質と、シス型であるリン脂質の分子構造。 トランス型の不飽和結合を有するリン脂質から生成されたプリカーサアダクトイオンの検出強度のプリカーサイオンの検出強度に対する比と、シス型の不飽和結合を有するリン脂質から生成されたプリカーサアダクトイオンの検出強度のプリカーサイオンの検出強度に対する比、の比と、反応時間の関係を示すグラフ。 プリカーサアダクトイオンの検出強度のプリカーサイオンの検出強度に対する比と、トランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸の混合比の関係を示すグラフ。 本実施例の質量分析装置において、真空下で高周波放電により窒素ガスから生成した窒素ラジカルをリン脂質に照射し測定することにより取得したマススペクトル。 変形例のイオントラップ-飛行時間型質量分析装置の概略構成図。
本発明に係るイオン分析装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例のイオン分析装置は、イオントラップ-飛行時間型(IT-TOF型)質量分析装置である。
図1に本実施例のイオントラップ-飛行時間型質量分析装置(以下、単に「質量分析装置」とも呼ぶ。)の概略構成を示す。本実施例の質量分析装置は、真空雰囲気に維持される図示しない真空チャンバの内部に、試料中の成分をイオン化するイオン源1と、イオン源1で生成されたイオンを高周波電場の作用により捕捉するイオントラップ2と、イオントラップ2から射出されたイオンを質量電荷比に応じて分離する飛行時間型質量分離部3と、分離されたイオンを検出するイオン検出器4とを備えている。本実施例の質量分析装置はさらに、イオントラップ2内に捕捉されているイオンを解離させるべく、イオントラップ2内に捕捉されたプリカーサイオンにラジカルを照射するためのラジカル生成・照射部5と、イオントラップ2内に所定の種類の不活性ガスを供給する不活性ガス供給部6と、トラップ電圧発生部7と、制御部8と、データ処理部10とを備えている。
データ処理部10の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、その記憶部11には化合物データベース12が保存されている。また、機能ブロックとしてスペクトル作成部13と構造推定部14を備えている。スペクトル作成部13と構造推定部14は、予めパーソナルコンピュータにインストールされた所定のプログラムを実行することにより具現化される。さらに、データ処理部10には入力部15と表示部16が接続されている。例えば本実施例の質量分析装置をリン脂質の分析に用いる場合、リン脂質に特徴的である、ヘッドグループと呼ばれる数十種類の構造に関する情報(ヘッドグループの名称、構造、質量等を関連付けたもの)、及び少なくとも1つの不飽和結合を含む炭化水素鎖を持つリン脂質から生成されるプリカーサイオンの強度に対する、プリカーサアダクトイオン(プリカーサイオンに酸素原子が付加したイオン)の強度の比に関する情報を収録した化合物データベース12が用いられる。化合物データベース12に収録される情報は、実際に標準試料等を測定することにより取得したデータに基づくものであってもよく、あるいは計算科学的にシミュレーションから取得したデータに基づくものであってもよい。
本実施例の質量分析装置のイオン源1はMALDIイオン源である。MALDIイオン源では、レーザ光を吸収しやすく、またイオン化しやすい物質(マトリックス物質)を試料の表面に塗布して、試料分子を取り込んだマトリックス物質を微結晶化させ、これにレーザ光を照射することによって試料分子をイオン化する。イオントラップ2は、円環状のリング電極21と、該リング電極21を挟んで対向配置された一対のエンドキャップ電極(入口側エンドキャップ電極22、出口側エンドキャップ電極24)とを含む三次元イオントラップである。リング電極21にはラジカル導入口26とラジカル排出口27が、入口側エンドキャップ電極22にはイオン導入孔23が、出口側エンドキャップ電極24にはイオン射出孔25が、それぞれ形成されている。トラップ電圧発生部7は、制御部8からの指示に応じて上記の各電極21、22、24のそれぞれに対して所定のタイミングで高周波電圧と直流電圧のいずれか一方又はそれらを合成した電圧を印加する。
ラジカル生成・照射部5は、内部にラジカル生成室51が形成されたノズル54と、ラジカル生成室51に原料ガスを導入する原料ガス供給源(原料ガス供給部)52と、ラジカル生成室51を排気する真空ポンプ(真空排気部)57と、ラジカル生成室51内で真空放電を生じさせるためのマイクロ波を供給する誘導結合型の高周波プラズマ源53と、ノズル54からの噴出流の中心軸上に開口を有し、拡散する原料ガス分子等を分離して細径のラジカル流を取り出すスキマー55と、原料ガス供給源52からラジカル生成室51に至る流路に設けられたバルブ56とを含む。原料ガスとしては、例えば水蒸気(水)、窒素ガス、空気などを用いることができる。原料ガスとして水蒸気を用いた場合には、ヒドロキシルラジカル、酸素ラジカル、及び水素ラジカルが生成され、窒素ガスを用いた場合には窒素ラジカルが生成され、空気を用いた場合には、主として酸素ラジカルと窒素ラジカルが生成される。
ラジカル生成・照射部5には、例えば非特許文献5に記載のものを用いることができる。その概略構成を図2に示す。このラジカル生成・照射部5は、大別して、高周波プラズマ源53、ノズル54、及び原料ガス供給源52で構成される。高周波プラズマ源53は、マイクロ波供給源531とスリースタブチューナー532を備えている。ノズル54は、該ノズル54の外周部を構成する接地電極541と、その内側に位置するパイレックス(登録商標)ガラス製のトーチ542とを備えている。トーチ542の内部がラジカル生成室51となる。ラジカル生成室51の内部では、コネクタ544を介して高周波プラズマ源53と接続されたニードル電極543が、ラジカル生成室51の長手方向に貫通している。また、原料ガス供給源52からラジカル生成室51に原料ガスを供給する流路が設けられており、この流路上には原料ガスの流量を調整するためのバルブ56が設けられている。
不活性ガス供給部6は、バッファガスやクーリングガスなどとして使用されるヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを貯留したガス供給源61と、その流量を調整するためのバルブ62と、ガス導入管63とを含む。
次に、本実施例の質量分析装置を用いた分析動作を説明する。分析の開始前に、真空チャンバ及びラジカル生成室51の内部はそれぞれ真空ポンプにより所定の真空度まで排気される。続いて、バルブ56を開放することによりラジカル生成・照射部5のラジカル生成室51に原料ガス供給源52から原料ガスが供給され、マイクロ波供給源531からマイクロ波が供給されることにより、ラジカル生成室51の内部でラジカルが生成される。
イオン源1において試料中の成分から生成された各種イオン(主として1価のイオン)はパケット状にイオン源1から射出され、入口側エンドキャップ電極22に形成されているイオン導入孔23を経てイオントラップ2の内部に導入される。イオントラップ2内に導入された試料成分由来のイオンは、トラップ電圧発生部7からリング電極21に印加される高周波電圧(あるいは、高周波電圧に直流電圧を合成した電圧)によりイオントラップ2内に形成される高周波電場によって捕捉される。そのあと、トラップ電圧発生部7からリング電極21等に所定の周波数及び振幅を有する高周波電圧(あるいは、高周波電圧に直流電圧を合成した電圧)が印加され、それによって目的とする特定の質量電荷比を有するイオン以外の質量電荷比範囲に含まれるイオンは励振され、イオントラップ2から排除される。これにより、イオントラップ2内に、特定の質量電荷比を有するプリカーサイオンが選択的に捕捉される。多くの場合、この特定の質量電荷比には試料成分の分子イオン[M+H]+の質量電荷比が設定される。
それに続き、不活性ガス供給部6のバルブ62が開放され、イオントラップ2内にヘリウムガスなどの不活性ガスが導入されることで、プリカーサイオンがクーリングされる。これにより、プリカーサイオンはイオントラップ2の中心付近に収束される。その後、ラジカル生成・照射部5のラジカル生成室51内で生成されたラジカルを含むガスをノズル54から噴出させる。その噴出流の前方に位置するスキマー55により、ガス分子を除去しつつ、ラジカルを細径のビーム状に成形して、リング電極21に穿設されているラジカル導入口26を通過させる。こうしてラジカルはイオントラップ2内に導入され、イオントラップ2内に捕捉されているプリカーサイオンに照射される。
このときにイオンに照射されるラジカルの流量が所定の流量になるように、バルブ56の開度等は適宜に調整される。また、プリカーサイオンへのラジカルの照射時間も適宜に設定される。バルブ56の開度やラジカルの照射時間は、予備実験の結果等に基づき事前に決めておくことができる。ラジカルが照射されると、プリカーサイオンに不対電子誘導型の解離が生じてプロダクトイオンが生成される。あるいは後述するように、炭化水素鎖の構造が有する不飽和結合の型に応じて強度が異なるプロダクトイオンが生成される。生成された各種プロダクトイオンはイオントラップ2内に捕捉され、不活性ガス供給部61から供給される不活性ガス(ヘリウムガス等)によってクーリングされる。そのあと、所定のタイミングでトラップ電圧発生部7から入口側エンドキャップ電極22と出口側エンドキャップ電極24に直流の高電圧を印加し、これによりイオントラップ2内に捕捉されていたイオンに加速エネルギーを付与して、イオン射出孔25から一斉に射出させる。ここで生成されるプロダクトイオンには、プリカーサイオンの断片であるフラグメントイオンと、フラグメントイオン又はプリカーサイオンに原子や分子が付加したアダクトイオンの両方が含まれうる。
一定の加速エネルギーを持ったイオンは、飛行時間型質量分離部3の飛行空間に導入され、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離される。イオン検出器4は質量分離されたイオンを順次検出し、この検出信号を受けてスペクトル作成部13は、例えばイオントラップ2からのイオンの射出時点を時刻ゼロとする飛行時間スペクトルデータを取得する。そして、予め求めておいた質量校正情報を用いて飛行時間を質量電荷比に換算することにより、プロダクトイオンスペクトルを作成して表示部16に表示する。構造推定部14は、このプロダクトイオンスペクトルから得られる情報(質量情報及び強度)に基づく所定のデータ処理を行うことで、試料成分の構造を推定する。例えば、リン脂質の分析を行う場合には、スペクトル作成部13により作成されたプロダクトイオンスペクトルに現れるマスピーク(ノイズと有意に識別可能な強度を有するマスピーク)に対応するプロダクトイオンの質量と、化合物データベース12に収録されているヘッドグループの質量の差の情報に基づき、試料成分の構造を推定する。具体的な測定例は後述する。
このように、本実施例の質量分析装置では、試料成分由来のプリカーサイオンをイオントラップ2に導入するとともに、真空ポンプ57によって所定の真空度に排気されたラジカル生成室51内で、高周波放電により原料ガスからラジカルを生成してイオントラップ2内のプリカーサイオンに照射する。これにより、プリカーサイオンがラジカルと反応してプロダクトイオンが生成される。生成されたプロダクトイオンは飛行時間型質量分離部3で質量電荷比に応じて分離され検出される。
本実施例の質量分析装置では、高周波プラズマ源53を備えたラジカル生成・照射部5を用いて真空雰囲気でラジカルを生成する。そのため、質量分析装置の内部に大気圧空間を設ける必要がない。また、高周波プラズマ源53を用いて生成したプラズマを用いてラジカルを生成するため、取り扱いの容易な水蒸気、窒素ガス、空気など、様々な種類の原料ガスからラジカルを生成することができる。特に、水蒸気、窒素ガス、空気から生成可能なヒドロキシラジカル、酸素ラジカル、あるいは窒素ラジカルを、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに照射することにより、そのプリカーサイオンを炭化水素鎖に含まれる特異的な位置で解離させて、試料成分(特に炭化水素鎖)の構造の推定に有用なプロダクトイオンを生成することができる。本実施例では真空雰囲気でラジカルを生成する構成としたが、大気圧雰囲気においてコロナ放電等によりラジカルを生成するように構成することもできる。
以下、本実施例の質量分析装置を用いた実際の測定例を説明する。
1.不飽和結合の位置の推定
図3は、同図の上部に示す構造のリン脂質PC(16:0/20:4)をイオントラップ2にトラップし、真空雰囲気で水(水蒸気)を高周波放電させて生成したラジカルを、リン脂質の分子イオンであるプリカーサイオンに照射して得たプロダクトイオンスペクトルである。
このプロダクトイオンスペクトルには、炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置でプリカーサイオンが解離して生成されたフラグメントに酸素原子が付加したプロダクトイオンのマスピークが現れている。原料ガスが水蒸気であること、及びプリカーサイオンやフラグメントに酸素が付加したイオンに対応するマスピークが現れていることから、水蒸気の高周波放電により生成されたヒドロキシラジカル及び酸素ラジカルによって、炭化水素鎖が不飽和結合の位置で選択的に解離していることが分かる。ヒドロキシラジカルや酸素ラジカルを、炭化水素鎖を含む試料成分由来のプリカーサイオンに照射してプロダクトイオンスペクトルを取得した場合には、マスピークの位置に対応する質量と、化合物データベース12に収録された情報に基づいて、試料成分に含まれる炭化水素鎖の不飽和結合の位置や炭化水素鎖の長さといった構造を推定することができる。構造推定部14は、上記の推定を行い、その結果を表示部15に表示する。この測定例では、酸素原子が付加したプロダクトイオンが生成されており、酸化能を有するラジカルが不飽和結合の位置に付着することで不飽和結合が選択的に開裂したと考えられる。従って、ヒドロキシラジカルや酸素ラジカルと同様に酸化能を有する、これら以外の種類のラジカルを用いることによっても、炭化水素鎖を不飽和結合の位置で選択的に解離することができると考えられる。
また、図3に示すプロダクトイオンスペクトルのピークのうち、sn-2位に結合した炭素鎖の脱離ピーク(478Da, 496Da)の強度が、sn-1位に結合した炭素鎖の脱離ピーク(544Da)の強度よりも強いことが分かる。特に、sn-2位の脱離ピーク(478Da)に対応する、sn-1位の脱離ピーク(528Da(=544Da-16Da))の脱離ピークはプロダクトイオン上に現れていないことが分かる。このような特性を用いると、リン脂質等において、炭化水素鎖がヘッドグループ等の既知の構造(あるいは構造候補)のどの位置に結合しているかを推定することができる。例えば、化合物データベース12に、炭化水素鎖の結合位置とプロダクトイオンスペクトルに現れるマスピークの相対的な強度の関係を表す情報を含めておくことにより、構造推定部14は、マススペクトルから炭化水素鎖の構造を推定するだけでなく、さらに炭化水素鎖の結合位置を特定して試料成分の全体の構造を推定することが可能となる。
上記のように、不飽和結合の位置における選択的な開裂は、不飽和結合している2つの炭素のうちの一方に酸化能を有するラジカルが付着することにより生じる。多くの場合、図3に示したプロダクトイオンスペクトルのように、不飽和結合の開裂後、酸素原子が付着した方の断片がプロダクトイオンとして多く検出されるが、測定条件によっては酸素原子が付着していない方の断片がプロダクトイオンとして多く検出される場合がある。同じ不飽和結合の解離によって2種類のプロダクトイオンが検出されると、プロダクトイオンスペクトルに現れるマスピークの解析が難しくなる。また、炭化水素鎖の構造によっては、酸素原子が付着した断片であるプロダクトイオンの質量電荷比と、別の構造を持つ、酸素原子が付着していない断片であるプロダクトイオンの質量電荷比がほぼ同じになる場合がある。本実施例の飛行時間型質量分離部のような高分解能の質量分析装置では、イオンを小数点以下の質量電荷比のレベルで分離することができるため両者を識別可能であるが、汎用的な質量分析装置ではこれらを分離できないことがある。
そこで、汎用的な質量分析装置を用いて測定を行う場合には、質量数18である酸素原子の安定同位体(18O)を含む原料ガスからヒドロキシラジカルや酸素ラジカルを生成するとよい。これにより、酸素原子が付着した断片であるプロダクトイオンについては、質量が2Da異なる2つのマスピークが現れるため、検出されたプロダクトイオンが、酸素原子が付着した断片であるか否かを容易に判別することができる。
2.不飽和結合の型の推定
上記の例では、不飽和結合の開裂により生じたプロダクトイオンに着目して不飽和結合の位置を特定したが、全てのプリカーサイオンの不飽和結合が開裂するわけではなく、不飽和結合の位置にラジカルが付着しつつも開裂を生じない場合がある。その場合には、不飽和結合している2つの炭素原子の両方と酸素原子が結合し、2つの炭素原子間の結合が飽和結合に変化したプロダクトイオンが生成される。つまり、プリカーサイオンに酸素原子が付着したアダクトイオン(プリカーサアダクトイオン)がプロダクトイオンとして生成される。
図4は、2種類の脂肪酸であるPC(18:1 trans)とPC(18:1 cis)に酸素ラジカルを1秒間、照射して得たプロダクトイオンスペクトルのうちの、プリカーサイオンの質量電荷比付近を拡大したものである。図5の上部にPC(18:1 trans)の分子構造を、図5の下部にPC(18:1 cis)の分子構造を、それぞれ示す。PC(18:1 trans)とPC(18:1 cis)は、不飽和結合の位置がトランス型であるかシス型であるかという点においてのみ異なり、それ以外の構造は同じである。
図4に示す結果から、トランス型の不飽和結合を有する脂肪酸から生成されるプリカーサアダクトイオンの強度が、シス型の不飽和結合を有する脂肪酸から生成されるプリカーサアダクトイオンの強度よりも大きいことが分かる。これらについて、プリカーサアダクトイオンの強度の、プリカーサイオンの強度に対する比を求めると、前者の脂肪酸の比が後者の脂肪酸の比の約1.7倍となった。
トランス型の不飽和結合では、不飽和結合している2つの炭素原子に結合している水素原子が、不飽和結合に対して反対側に位置している。つまり、水素原子が位置する2方向から酸素ラジカルが不飽和結合にアクセス可能である。一方、シス型の不飽和結合では、不飽和結合している2つの炭素原子に結合している水素原子が不飽和結合に対して同じ側に位置している。そのため、1方向からしか酸素ラジカルが不飽和結合にアクセスすることができない。そのため、トランス型の不飽和結合に対して酸素ラジカルが付着する反応の速度が、シス型の不飽和結合に対して酸素ラジカルが付着する反応の速度よりも速いと考えられる。そして、図4に示す結果はこの反応速度の違いを反映したものであると考えられる。酸素ラジカルとの反応時間を変更しつつ、上記同様の測定を行ったところ、図6に示すように、反応時間が長くなるにつれて、トランス型の不飽和結合を有するリン脂質から生成されたプリカーサアダクトイオンの検出強度のプリカーサイオンの検出強度に対する比(強度比)と、シス型の不飽和結合を有するリン脂質から生成されたプリカーサアダクトイオンの検出強度のプリカーサイオンの検出強度に対する比(強度比)、の比が小さくなっていくことが確認された。
このように、トランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸では、プリカーサアダクトイオンの強度の、プリカーサイオンの強度に対する比が異なることを利用すると、両者を識別することができる。例えば、トランス型であるかシス型であるかが不明な不飽和脂肪酸について、予め標準試料を用いた測定により得られた上記強度比をデータベースに保存しておき、不飽和結合の型が不明な不飽和脂肪酸の測定から得られた上記比をデータベースに保存された比と比較することにより、不飽和結合の型を推定することができる。
図7に、シス型の不飽和脂肪酸と、トランス型の不飽和脂肪酸を異なる比率で混合した複数の試料について、上記同様に、1秒間、酸素ラジカルを照射する測定を行って、プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比を求めた結果を示す。この結果からは、トランス型脂肪酸の割合が高くなるにつれて、上記強度比が線形に増加することが確認された。従って、化合物データベース12に、シス型の不飽和脂肪酸の強度比とトランス型の不飽和脂肪酸の強度比の情報を含めておくことにより、トランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸の両方が含まれうる未知試料の測定から得られた強度比から、該未知試料に含まれるシス型の不飽和脂肪酸とトランス型の不飽和脂肪酸の割合を推定することができる。なお、化合物データベース12に収録しておく情報は標準試料等を測定することにより取得したデータに基づくものであってもよく、あるいは計算科学的にシミュレーションから取得したデータに基づくものであってもよい。
トランス型の不飽和脂肪酸の中には人体に悪影響を及ぼすものがあることが知られており、食品試料等にトランス型の不飽和脂肪酸が含まれているか否かを特定することは重要である。しかし、不飽和脂肪酸の型が違う以外は同一の構造を持つ2種類の成分を、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフのカラムで分離しても、両者のカラムからの溶出時間は非常に近い(保持時間がほぼ同じである)。そのため、クロマトグラフィーにより得たクロマトグラムからトランス型の不飽和脂肪酸のピークとシス型の不飽和脂肪酸のピークを分離することは非常に困難である。上記のようにシス型の不飽和脂肪酸とトランス型の不飽和脂肪酸で、プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比が異なることを利用すれば、未知試料にシス型の不飽和脂肪酸とトランス型の不飽和脂肪酸のいずれが含まれているのか、あるいは両者の混合物であるのか等を判定することが可能になる。
こうした判定は、クロマトグラフと質量分析装置を組み合わせてなるクロマトグラフ質量分析を用いると、より精確に行うことができる。例えば、図1におけるイオン源1として、電子イオン化(EI: Electron Ionization)源やエレクトロスプレー(ESI: ElectroSpray Ionization)源を用い、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフのカラムからの溶出液をイオン化する構成のクロマトグラフ質量分析装置を好適に用いることができる。そして、シス型の不飽和脂肪酸とトランス型の不飽和脂肪酸のいずれか一方のみを含むのか、あるいはそれらの両方を含むのかが不明である未知試料をクロマトグラフのカラムで成分分離した後、上記同様にプリカーサイオンとしてイオントラップ2に捕捉、続いて酸化能を有するラジカルを照射する。その後、イオントラップ2からイオンを排出して質量分離し検出する。こうした一連の測定を、クロマトグラフのカラムからシス型であるかトランス型であるかが不明な不飽和脂肪酸が溶出している時間(保持時間)中に繰り返し、実行し、1軸を時間(保持時間)、別の1軸を質量電荷比としてプロダクトイオンの強度をプロットした三次元データを得る。
こうして得られた三次元データから、プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比と、その時間変化を求める。トランス型の不飽和脂肪酸と、シス型の不飽和脂肪酸の保持時間は非常に近いものの、全く同じではない。未知試料にトランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸の両方が含まれている場合には、例えば保持時間の最初の時間帯にはトランス型の不飽和脂肪酸のみが溶出し、徐々にシス型の不飽和脂肪酸も同時に溶出し、最後にはシス型の不飽和脂肪酸のみが溶出する。従って、上記三次元データから得られた強度比が、時間的に徐々に低くなっていく場合には、クロマトグラフのカラムからの溶出物が上記のように時間的に変化しており、未知試料にはトランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸の両方が含まれていると推定できる。また、プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比に時間変化がない場合には、トランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸のいずれか一方のみが含まれていると判断することができる。また、その強度比を予めデータベースに保存された強度比と比較することにより、トランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸のいずれであるかも推定することができる。
上記のように不飽和結合にラジカルが付着する反応の速度は、ラジカルの温度やラジカルの量に依存する。そのため、データベースに登録されている、各種成分のプリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比を決定した時の測定条件と、未知試料の測定時の条件が異なると、データベースに収録されている成分と同じ成分を測定しても、プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比がデータベースに収録された強度比と異なる可能性がある。
そこで、実試料の測定前に、1乃至複数の標準試料を用いた測定を行うことが好ましい。実試料に含まれる成分と同じ成分を含む標準試料を使用することが可能な場合には、該標準試料の測定結果を実試料の測定結果と比較することにより、該実試料に含まれる不飽和脂肪酸がトランス型とシス型のいずれであるかを推定することが好ましい。実試料に含まれる成分と同じ成分を含む標準試料を使用することが難しい場合には、データベースに収録されている成分のいずれかを含む標準試料を用いる。そして、標準試料の測定から得られた強度比をデータベースに収録されている強度比と比較し、データベースに収録されている強度比の値を補正する。これにより、ラジカル照射条件の違いにより実試料に含まれる成分を誤って推定することを防ぐことができる。なお、上記標準試料の測定は、実試料とは別に測定する外部標準法で行ってもよく、実試料と同時に測定する内部標準法で行ってもよい。ただし、内部標準法により測定する場合には、実試料から生成されうるイオン(少なくともプリカーサイオンとプリカーサアダクトイオン)の質量電荷比と同一の質量電荷比を有するイオンを生成しない標準試料を使用する必要がある。
プリカーサアダクトイオンとプリカーサイオンの強度比を利用してトランス型の不飽和脂肪酸とシス型の不飽和脂肪酸を推定する上記の方法は、実試料の測定から得られた強度比を比較する対象となる強度比が予め分かっていること、即ち、不飽和結合の型以外の構造が予め分かっていることを前提としている。炭化水素鎖の化学式は、後述するように還元能を有するラジカルを照射する測定から決定してもよく、それ以外の方法で決定してもよい。また、不飽和結合の数及び位置は、酸化能を有するラジカルを照射する、上記測定から決定してもよく、それ以外の方法で決定してもよい。
3.炭化水素鎖の全体構造の推定
図8は、同図の上部に示す構造のリン脂質PC(18:0/18:1)をイオントラップ2にトラップし、真空下で窒素ガスの高周波放電により生成したラジカルを照射して得たプロダクトイオンスペクトルである。このプロダクトイオンスペクトルには、炭化水素鎖に含まれる炭素-炭素結合の位置で解離した一連のフラグメントイオンのマスピークが現れている。即ち、不飽和結合の位置で解離し生成されたフラグメントイオンについては、Cに対応する12Da分だけ離間するマスピーク(650Daのマスピークと662Daのマスピーク)が現れており、飽和結合の位置で解離し生成されたフラグメントイオンについてはCH2に対応する14Da分だけ離間するマスピーク(上記以外のマスピーク)が現れている。つまり、炭化水素鎖を含む試料成分由来のプリカーサイオンに窒素ラジカルを照射してプロダクトイオンスペクトルを取得した場合には、これらの情報から、構造推定部14は炭化水素鎖の構造(不飽和結合の位置の推定及び炭化水素鎖の長さ)をシーケンシャルに推定することが可能となる。
なお、図8の上部に示す分子構造に記載した質量は、本発明者が別途、この試料成分(リン脂質PC(18:0/18:1))由来のプリカーサイオンに水素ラジカルを照射した測定を行うことにより得たプロダクトイオンスペクトルのマスピークから求められた質量である。図8の下部に示すプロダクトイオンスペクトルは上記の通り窒素ラジカルを試料成分由来のプリカーサイオンに照射して取得したものであるが、このプロダクトイオンスペクトルに現れるマスピークの質量(質量電荷比)は、水素ラジカルの照射により得られるプロダクトイオンのマスピークの質量(質量電荷比)よりも1~2Da大きくなっている。即ち、このプロダクトイオンスペクトルに現れている、炭化水素鎖の炭素-炭素結合の解離により生じたマスピークは、水素ラジカルの照射により得られるプロダクトイオンスペクトルのマスピークから+2Daシフトしている。従って、この特性を利用して、例えば窒素ラジカル照射と水素ラジカル照射によりそれぞれプロダクトイオンスペクトルを取得して相互に比較し、マスピークの質量(質量電荷比)が2Da変化していることを確認することにより、そのマスピークが炭化水素鎖における解離により生成されたプロダクトイオンに由来するものであることを確認することができる。
原料ガスが窒素ガスであること、及びプリカーサイオンに窒素が付加したイオンに対応するマスピークが現れていることから、窒素ガスの高周波放電により生成された窒素ラジカルによって、不飽和結合であるか飽和結合であるかを問わず、炭化水素鎖を炭素-炭素結合の位置で選択的に解離することができる。また、このような選択的な解離は窒素ラジカルが有する還元能に依るものであると考えられることから、窒素ガスと同様に還元能を有するラジカル(アンモニアラジカル等)を用いることによっても上記同様に不飽和結合であるか飽和結合であるかを問わず、炭化水素鎖を炭素-炭素結合の位置で選択的に解離させることができると推測される。
上述の通り、炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンに水素ラジカルを照射することによっても上記同様に炭素-炭素結合の位置で解離し生成されたプロダクトイオンを検出してプロダクトイオンスペクトルを得ることができる。しかし、水素ラジカルを用いた場合、炭化水素鎖からの水素原子の引き抜きによるプリカーサイオンの解離だけでなく、水素原子が引き抜かれた炭化水素鎖に水素ラジカルが付着するという反応がほぼ同時に生じる。そのため、水素原子が引き抜かれて生じたプロダクトイオンに水素ラジカルが付着することで、多様な質量値を持つプロダクトイオンが生じてしまい、結果的にスペクトルの解析が困難になる。
次に、上記実施例の質量分析装置におけるプリカーサイオンの反応効率をより高くするための構成を備えた変形例について、図9に示す概略構成図を参照して説明する。なお、図1と共通の構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
上記実施例の質量分析装置では、イオントラップ2内に捕捉したイオンに対し、真空放電により原料ガスから生成したラジカルを照射することによりイオンを解離させてプロダクトイオンを生成する。これによって試料成分由来のプロダクトイオンを生成し分析することができる。しかし、原料ガスの種類によってはラジカルの反応性が低く、プロダクトイオンの生成効率が必ずしも高くない場合がある。そこで、変形例の質量分析装置は、イオンの解離効率を高めるとともにイオン解離のシーケンスカバレージを大きくする、つまりは結合部位特異性を小さくするための構成を備えている。
この質量分析装置では、イオントラップ2のリング電極21とエンドキャップ電極22、24との間の電気的絶縁性を確保しつつそれら電極21、22、24の相対的位置を保つための絶縁体(アルミナセラミック)からなる部材を、セラミックヒータ28に置き換えている。セラミックヒータ28はヒータ電源部9に接続されており、制御部8の制御の下でヒータ電源部9がセラミックヒータ28に電力を供給すると、セラミックヒータ28は発熱する。そして、セラミックヒータ28からの熱伝導により各電極21、22、24も加熱される。セラミックヒータ28には図示しない熱電対が埋め込まれている。熱電対によるセラミックヒータ28のモニタ温度に基づいて、供給される電力は調整され、セラミックヒータ28での発熱量はフィードバック制御される。これにより、セラミックヒータ28は目標温度に精度良く調整される。
セラミックヒータ28によりイオントラップ2の各電極21、22、24を加熱している状態で、上述したようにイオントラップ2内にラジカルを導入した時点からプロダクトイオンをイオントラップ2から排出する時点までの間に、不活性ガス供給部6からイオントラップ2内にバッファガスであるヘリウムガス(あるいは他の不活性ガス)を断続的に導入する。すると、バッファガスを介してイオントラップ2の各電極21、22、24の熱がプリカーサイオンに伝搬する。この熱によりイオンが活性化されて、つまり熱によるエネルギーが付与されてプリカーサイオンの解離効率が向上する。また、熱を加えない状態では切断されにくい結合(つまりは結合エネルギーが高い結合部位)も解離し易くなり、より多くの種類のプロダクトイオンが生成されシーケンスカバレージが向上する。
また、不活性ガス供給部6のガス供給源61からイオントラップ2内にガスを供給するガス導入管63の周囲にもガス導入管ヒータ64が設けられている。このガス導入管ヒータ64にヒータ電源部9から電力を供給してガス導入管63を予め加熱しておき、上記実施例においてバッファガスをイオントラップ2内に導入するのと同じタイミングで不活性ガス供給部6からイオントラップ2内にバッファガスであるヘリウムガス(あるいは他の不活性ガス)を導入する。このときヘリウムガスはヒータ64付近のガス導入管63で加熱され高温の状態でイオントラップ2に導入される。この高温のヘリウムガスがプリカーサイオンに衝突すると、該ヘリウムガスの熱がイオンに伝搬しラジカルの照射によるイオン解離が促進される。なお、セラミックヒータ28による各電極21、22、24の加熱と、ガス導入管ヒータ64によるバッファガスの加熱は必ずしも両方行う必要はなく、一方のみを行うように構成することもできる。この変形例ではガス導入管63を加熱する構成としたが、原料ガス供給源52自体を加熱するようにしても上記同様の効果が得られる。もちろん、それら両方を加熱してもよい。
上記実施例及び変形例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。例えば、上記実施例及び変形例では三次元イオントラップを備えたイオントラップ飛行時間型質量分析装置としたが、三次元イオントラップに代えてリニアイオントラップや衝突セルを使用し、それらにプリカーサイオンが導入されるタイミングでラジカルを照射するように構成することもできる。また、上記実施例及び変形例では飛行時間型質量分離部をリニア型としたが、リフレクトロン型やマルチターン型等の飛行時間型質量分離部を用いてもよい。あるいは、飛行時間型質量分離部以外に、例えばイオントラップ2自体のイオン分離機能を利用して質量分離を行うものやオービトラップなど、他の形態の質量分離部を用いることもできる。さらに、イオントラップに、一般的な正弦波の高周波電圧ではなく矩形波の高周波電圧を印加するように構成することもできる。矩形波の高周波電圧を用いると、プリカーサイオンを閉じ込めるイオントラップ内の位置エネルギーが時間的に2値的に変化するため、これを利用してプリカーサイオンのラジカル反応の効率を高めることができる。その他、上記実施例及び変形例では真空放電部として高周波プラズマ源を用いたが、これに代えてホローカソードプラズマ源や磁場閉じ込め型プラズマ源を用いることもできる。あるいは、コロナ放電によりラジカルを生成する構成を採ることもできる。
上記測定例では、原料ガスとして水蒸気を用いて酸素ラジカル及びヒドロキシルラジカルを生成し、窒素ガスを用いて窒素ラジカルを生成してプリカーサイオンを解離したが、使用可能な原料ガス及びラジカル種はこれらに限定されない。例えば、塩酸、塩化ナトリウム、硫酸、硫化ナトリウム、フッ酸、フッ化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、過酸化水素、二酸化炭素、炭水化物、炭化水素、アンモニウムに各々代表される塩化物、硫黄化合物、フッ化物、水酸化物、酸化物、炭化物、窒化物からラジカルを生成し、それらが有する酸化能や還元能を考慮して、適宜の解離反応に用いることもできる。なお、これらのガスを用いると、解離反応を生じさせるイオントラップ内に反応性粒子が付着してコンタミネーションが起こる可能性が高くなるため、図9の変形例の質量分析装置のようにイオントラップをヒータで加熱してガスを除去(デガス)する加熱部を備えた構成を採ることが好ましい。また、蒸気圧が低い化合物由来の原料ガスを用いる場合には、原料ガス供給源及び/又は該原料ガス供給源52からノズル54に至る流路に加熱部を備えた構成を採ることにより蒸気圧を高くすることが好ましい。
上記測定例ではいずれもプロダクトイオンスペクトルを取得したが、不飽和脂肪酸がシス型であるかトランス型であるかのみを判別する場合には、必ずしもスキャン測定を行う必要はなく、プリカーサイオンの質量電荷比とプリカーサアダクトイオンの質量電荷比のイオンのみを検出するようにしてもよい。
上記測定例ではリン脂質を測定した結果を説明したが、本発明に係る質量分析方法及び装置は、炭化水素鎖に構造又は構造候補が既知である物質が結合してなる試料成分だけでなく、炭化水素鎖に結合している物質の構造が未知である試料成分についても用いることができ、その場合であっても少なくとも炭化水素鎖の構造を推定することができる。また、そうした試料成分については、例えばLE-CID法によりプリカーサイオンを解離させて生成したプロダクトイオンの構造解析により炭化水素鎖以外の構造を推定し、これを本発明の質量分析技術により推定される炭化水素鎖の構造とともに用いて試料成分全体の構造を推定するように構成することもできる。
本発明に係る質量分析法方法及び装置は、側鎖がヒドロキシル基、カルボキシル基、メチル基等により修飾された炭化水素鎖を有するものや、直鎖や分岐鎖のほかに、環状部を含む炭化水素鎖を有するものなど、様々な構造の炭化水素鎖を有する試料成分の構造の推定に用いることができる。例えば、トリアシルグリセロールなどの中性脂質や脂肪酸に対しても、上記実施例により説明した質量分析方法及び装置を用いることができる。また、炭化水素鎖の長さは質量分析が可能な程度の長さであれば特に限定されず、例えば200個あるいは300個の炭素原子を含む炭化水素鎖を有する試料成分の構造を推定することが可能である。
1…イオン源
2…イオントラップ
21…リング電極
22…入口側エンドキャップ電極
23…イオン導入孔
24…出口側エンドキャップ電極
25…イオン射出孔
26…ラジカル導入口
27…ラジカル排出口
28…セラミックヒータ
3…飛行時間型質量分離部
4…イオン検出器
5…ラジカル生成・照射部
51…ラジカル生成室
52…原料ガス供給源
53…高周波プラズマ源
531…マイクロ波供給源
532…スリースタブチューナー
54…ノズル
541…接地電極
542…トーチ
543…ニードル電極
544…コネクタ
55…スキマー
56…バルブ
57…真空ポンプ
6…不活性ガス供給部
61…不活性ガス供給部
62…バルブ
63…ガス導入管
64…ガス導入管ヒータ
7…トラップ電圧発生部
8…制御部
9…ヒータ電源部
10…データ処理部
11…記憶部
12…化合物データベース
13…スペクトル生成部
14…構造推定部
15…入力部
16…表示部

Claims (15)

  1. 炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンからプロダクトイオンを生成して質量分析する質量分析方法であって、
    ヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルの少なくとも一方、又は/及び窒素ラジカルを生成し、
    前記プリカーサイオンに対して、前記生成したヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルの少なくとも一方、又は/及び窒素ラジカルを照射してプロダクトイオンを生成し、
    前記プロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離して検出し、
    前記検出されたプロダクトイオンの質量電荷比及び強度に基づいて前記炭化水素鎖の構造を推定する
    ことを特徴とする質量分析方法。
  2. 炭化水素鎖を有する試料成分由来のプリカーサイオンからプロダクトイオンを生成して質量分析する質量分析装置であって、
    前記プリカーサイオンが導入される反応室と、
    ヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルの少なくとも一方、又は/及び窒素ラジカルを生成するラジカル生成部と、
    前記ラジカル生成部で生成されたラジカルを前記反応室の内部に照射するラジカル照射部と、
    前記ラジカルとの反応により前記プリカーサイオンから生成されたプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する分離検出部と、
    を備えることを特徴とする質量分析装置。
  3. 前記検出されたプロダクトイオンの質量電荷比及び強度に基づいて、前記炭化水素鎖の構造を推定する構造推定部
    を備えることを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
  4. 前記ラジカル生成部がヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルの少なくとも一方を生成し、
    前記構造推定部が、前記炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置で前記プリカーサイオンが解離することにより生成されたプロダクトイオンを探索することにより、該不飽和結合の位置を推定することを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
  5. 前記ラジカル生成部がヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルの少なくとも一方を生成し、
    前記構造推定部が、前記プリカーサイオンの強度に対する、該プリカーサイオンに酸素が付着したアダクトイオンであるプロダクトイオンの強度の比に基づいて、前記試料成分が有する炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の型を推定する
    ことを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
  6. さらに、
    前記試料成分に含まれる炭化水素鎖の候補である複数の成分に関する前記比の情報を集録した第1化合物データベース
    を備え、
    前記構造推定部が、前記試料成分の測定により得られた前記比を前記第1化合物データベースに収録された比と比較することにより前記試料成分が有する炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の型を推定する
    ことを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置。
  7. 前記第1化合物データベースに、前記不飽和結合の型以外が共通であるシス型とトランス型の成分の両方に関する前記比の情報が保存されており、
    前記構造推定部が、前記試料成分の測定により得られた前記比を前記第1化合物データベースに収録された比と比較することにより、前記試料成分に含まれる、シス型の不飽和結合を有する成分とトランス型の不飽和結合を有する成分の割合を推定する
    ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
  8. 前記ラジカル生成部が窒素ラジカルを生成し、
    前記構造推定部が、前記炭化水素鎖に含まれる炭素-炭素結合の位置で前記プリカーサイオンが解離することにより生成されたプロダクトイオンを探索することにより、前記試料成分における該炭化水素鎖の結合位置を推定することを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
  9. 前記構造推定部が、質量差が12Da又は14Daであるプロダクトイオンの組を抽出することにより、前記炭化水素鎖の構造を推定することを特徴とする請求項に記載の質量分析装置。
  10. 前記試料成分が、炭化水素鎖に構造又は構造候補が既知である物質が結合してなるものであり、さらに、
    前記構造又は構造候補に関する情報が収録された第2化合物データベース
    を備え、
    前記構造推定部が、前記検出されたプロダクトイオンの質量電荷比と、前記第2化合物データベースに収録された前記構造又は構造候補に関する情報に基づいて前記試料成分の構造を推定する
    ことを特徴とする請求項3からのいずれかに記載の質量分析装置。
  11. 前記ラジカル生成部が、水蒸気、窒素ガス、及び空気のうちの少なくとも1種類を含む原料ガスからラジカルを生成することを特徴とする請求項2から10のいずれかに記載の質量分析装置。
  12. 前記ラジカル生成部が、
    ラジカル生成室と、
    前記ラジカル生成室を排気する真空排気部と、
    前記ラジカル生成室に原料ガスを導入する原料ガス供給源と、
    前記ラジカル生成室で真空放電を生じさせる真空放電部と
    を備えることを特徴とする請求項2から11のいずれかに記載の質量分析装置。
  13. 前記真空放電部が、高周波プラズマ源、ホローカソードプラズマ源、又は磁場閉じ込め型プラズマ源であることを特徴とする請求項12に記載の質量分析装置。
  14. さらに、
    前記反応室に導入されたプリカーサイオンに熱を与える熱付与部
    を備えることを特徴とする請求項2から13のいずれかに記載の質量分析装置。
  15. さらに、
    前記原料ガス供給源、前記反応室、及び該原料ガス供給源から該反応室に至る流路のうちの少なくとも1つに設けられた、前記原料ガスを加熱する加熱部
    を備えることを特徴とする請求項2から14のいずれかに記載の質量分析装置。
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