JP7144833B2 - マイクロ流路チップ製造方法 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 日経産業新聞、日本経済新聞社、平成30年4月17日 〔刊行物等〕
特許法第30条第2項適用 日刊工業新聞、日刊工業新聞社、平成30年4月20日 〔刊行物等〕
特許法第30条第2項適用 日刊工業新聞、日刊工業新聞社、平成30年4月23日 〔刊行物等〕
本発明は、タンパク質やDNA等を含む生体試料を主に対象とする分析を行うために用いられるマイクロ流路チップの製造方法に関する。
半導体製造技術を応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)技術を用いて製造されるマイクロ流路チップ(μTASやLab-on-Chipとも呼ばれる。)は、微少量の試料の分析を行う際等に広く用いられる。また、様々な形態の流路を形成することができることから、複雑な処理を含む分析にも対応することができる。
マイクロ流路チップの流路を流れる試料の分析には様々な手法が用いられるが、簡便であることから、光透過率や屈折率の相違・変化により試料の分析を行う光学的手法が多く用いられる。この場合、マイクロ流路チップ自体が高い透過率を有する等の良好な光学的特性を持つことが求められるが、それに適した材料として、飽和炭化水素系の非晶質プラスチックであるシクロオレフィンポリマー(COP)が知られている。COPは、可視光領域において透明で複屈折が小さいという優れた光学的特性を有する上、バックグラウンドの蛍光強度がガラスに匹敵するほど低いことから、蛍光検出系のマイクロ流路チップへの利用にも適している。さらには、水による膨張が少ない点も、マイクロ流路チップへの利用に適した特性として挙げることができる。なお、その共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)も、これらの点についてはほぼ同様の特性を持つことから、本明細書ではシクロオレフィンポリマー(COP)にはシクロオレフィンコポリマー(COC)が含まれるとして扱う。
ただ、COPは疎水性樹脂であり、濡れ性や接着性が低いことから、マイクロ流路チップとして使用する際には流路が狭くなるにつれて試料の流通抵抗が大きくなり、また、製造時には接着において困難を伴う。そこで、エキシマUV光を照射することにより表面を改質して濡れ性を持たせ、接着剤を使用することなくCOP同士を接合する技術が報告されている(非特許文献1)。
また、チャンバに被処理物を入れるステップと、チャンバを減圧にするステップと、チャンバに水蒸気を導入するステップと、チャンバに電磁線エネルギーを印加しプラズマを発生させるステップとを含む殺菌方法が提案されている。この滅菌方法ではチャンバ内部の温度は約25℃~100℃の範囲が好ましいとされている(特許文献2)。
さらに、真空滅菌チャンバ内に被処理物を入れ水蒸気から生成したプラズマの中性活動種に曝露する誘導ガスプラズマ滅菌法が提案されている。この滅菌方法では、滅菌チャンバの温度は、100℃以下、好適には、約35℃から約82℃の範囲に維持されることが開示されている(特許文献3)。
さらに、低気圧に維持した収納手段に水蒸気ガスを供給し、水蒸気ガスの酸素をラジカル生成手段によりラジカル化してヒドロキシ(OH)ラジカル及び酸素(O)ラジカルを生成することで医療器具を滅菌する方法が提案されている(特許文献4)。
特開2007-309868号公報 特表平11-501530号公報 特表平11-506677号公報 再表2007-013160号公報
「光表面活性化によるシクロオレフィンポリマーの接合:接合強度評価とマイクロ流路への応用」、谷口義尚他、表面技術 Vol. 65(2014), No. 5, p. 234-239
非特許文献1に記載の方法では、COPの表面にエキシマUV光を照射した後、更に加圧や加熱を施す必要がある。例えば、3N/cm2以上の接合強度を得るためには3.6MPa以上の加圧及び70℃以上の加熱を必要とするとされている。しかし、マイクロ流路チップを製造する場合には、このような加圧や加熱によって流路のパターンが変形したり、親水化された表面が疎水性になってしまう可能性がある。また、この方法で十分な接合強度を得るためには、エキシマUV光の照射時間を3分以上とすることが望ましい、ともされているが、エキシマUV光の照射時間が長くなるにつれてCOPの蛍光強度が高くなるため、蛍光検出系のマイクロ流路チップを対象とする場合、3分以上のエキシマUV光の照射は好ましくない。
一方、マイクロ流路チップをタンパク質やDNA等を含む生体試料を対象とした分析に用いる場合、試料の細菌による変性を防ぐために流路を滅菌する必要がある。滅菌には一般的に高温蒸気やガスを用いた方法が多く用いられるが、マイクロ流路チップの場合、その狭い流路の内部に十分な量の蒸気やガスを流通させることが難しく、滅菌時間が長くなる傾向がある。また、エチレンオキサイドガス(EOG)を用いた滅菌では、滅菌後にも、有害なEOGを除去するためのエアレーションと呼ばれる除去工程に長い時間を要する。更に、マイクロ流路チップの構成材料がガラス等の無機体ではなく、COPという樹脂材料である場合、高温の蒸気を使用すると、熱の影響によって微細な流路が変形するおそれがある。高いスループットで滅菌処理を行うことができる方法として電子線を照射する方法もあるが、COP等の樹脂材料を素材とするマイクロ流路チップの場合、電子線により樹脂材料の透明度が低下する傾向があり、流路内の試料を光学的に分析する際に、分析結果に影響が生じる恐れがある。
本発明はこれらの課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、紫外光を用いることなくCOP同士又はCOPとガラスから成るマイクロ流路チップを作製するとともに、同時に、マイクロ流路チップの特性に変化を与えることなく滅菌も行うことのできる方法を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明は、シクロオレフィンポリマー(COP)から成る第1板と、COP又はその他の材料から成る第2板を接合して成るマイクロ流路チップを製造する方法であって、
前記第1板及び前記第2板のいずれか一方の板の一方の面である流路形成面に流路を形成するステップと、
前記流路形成面、及び、前記第1板及び前記第2板の他方の板の、前記流路形成面に対向する面である閉鎖面を、温度が40~100℃のH2Oプラズマに曝すことにより滅菌するステップと、
前記流路形成面と閉鎖面を合わせ、前記第1板と前記第2板を接合するステップと
を含むことを特徴とする。
本発明は、COPである第1板と、COP又はその他の材料から成る第2板の接合によるマイクロ流路チップを製造する方法である。なお、前述のとおり、ここで言う「COP板」(シクロオレフィンポリマーの板)には「COC板」(シクロオレフィンコポリマーの板)を含む。
第2材料としては、COPの他、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリシロキサン、フエノール樹脂、ポリサルフアイド、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロライド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセタート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリキノキサリン、ポリイミダゾピロロン、エポキシ樹脂、並びに芳香族成分及びビニルやシクロブタン基から選択される成分を含む共重合体のような有機物であってもよく、あるいは、ガラス、サファイア、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)のような無機物であってもよい。
本発明に係るマイクロ流路チップ製造方法では、まず、マイクロ流路チップを構成する2枚の板の一方の板(以下、これを「流路板」と呼ぶ。)の一方の面(「流路形成面」)に流路を形成する。この流路の形成は、機械加工によってもよいし、射出成形や鋳造等の型成形によってもよい。なお、COP板とガラス板等の無機物の板を接合したマイクロ流路チップの場合、流路はCOP板に形成してもよいし、無機物板に形成してもよい。また、マイクロ流路チップでは通常、流路の他に、該流路に液を導入する導入口、又は、液或いは空気を排出する排出口が必要となる。導入口や排出口(以下、これらをまとめて「開口」と呼ぶ。)は通常、流路板ではない方の板(以下、これを「閉鎖板」と呼ぶ。)の方に設けるが、流路板の方に設けてもよい。いずれも、開口はその板を貫通して設けられる。更に、閉鎖面側に追加的に流路を設けてもよい。
次に、流路板の流路形成面及びそれに対向する閉鎖板の面(「閉鎖面」)の温度が40~100℃の状態で、それらをH2Oプラズマに曝す。もちろん、それ以外の面が該H2Oプラズマに曝されるような状態となっていてもよい。本発明では、流路形成面及び閉塞面の温度を40~100℃としたことにより、H2Oプラズマに曝された流路形成面及び閉鎖面(これらをそれぞれ「接合面」とも呼ぶ。)並びにそれらに形成された流路や導入口、排出口(開口)等の内部に存在する細菌は、芽胞菌も含めて死滅し、マイクロ流路チップの流路内が滅菌される。
さらに、このH2Oプラズマの中で形成されるOH-やO-により、流路形成面及び閉鎖面(両接合面)の表面に存在しているCOP以外の高分子の一部が酸化されて脱離する。また、それら高分子の主鎖が切断されて低分子量化する。これらにより両接合面が平滑化され(すなわち、表面粗さが小さくなり)、流路形成面と閉鎖面を合わせるステップにおいて、接合面の両側の分子を構成する原子間の距離が小さくなり、両接合面の状態が良い場合には、両板は接着剤を使用しなくとも接合される。また、流路の表面ではCOP等の樹脂やガラス等の無機物が親水化し、流路断面積が小さい場合でも水溶性試料が流れやすくなる。
両板が共にCOPである場合、この接合により両板が光学的にも一体化し、接合面が光学的に現れなくなる。すなわち、接合面において光の屈折や反射が生じず、光は接合面をそのまま直進するようになる。これにより、光学的検出法を用いる場合のノイズを抑えることができる。
なお、上記における「H2Oプラズマ」とは、H2Oの分圧が20%以上のプラズマのことをいい、プラズマガス中にH2O以外に酸素(O2)、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、等のその他のガスが少量含まれていてもよい。
上記の滅菌処理において、H2Oプラズマの圧力を1~200Paとすることが望ましく、50~150Paがより望ましい。この範囲の下限よりも低いと十分な滅菌が行えない。また、プラズマ圧力がこの範囲を超えると処理対象物である第1板又は第2板の温度が上昇し、特にCOP板の表面が疎水性に戻る可能性がある。
上記の滅菌処理において、H2Oプラズマに曝すステップがプラズマ発生用の電極に高周波電力を印加することにより行われるステップであって、高周波電力の電極面積当たりの値(パワー密度)が5~500mW/cm2の範囲内の値であることが好ましい。この範囲の下限よりも低いと十分な滅菌が行えない。また、この範囲を超えると、流路形成面や閉塞面が荒れたり疎水性に戻って接合強度が低下する傾向がある。
また、滅菌処理において、接合面を前記H2Oプラズマに曝す時間は、20~70分とするのが適当である。この範囲の下限よりも短いと十分な滅菌が行えない。また、処理時間がこの範囲の上限よりも長いと、上記同様、特にCOP板の表面が疎水性に戻る可能性がある。
本発明に係るマイクロ流路チップ製造方法において、流路形成面と閉鎖面を合わせるステップにおいて、両面間に30kPa程度以下の圧力を加えてもよい。また、両面の温度は5~50℃となるようにすることが望ましい。
本発明に係るマイクロ流路チップ製造方法では、COP板とCOP板、又はCOP板とガラス板から成るマイクロ流路チップを、紫外光を用いることなく作製することができ、同時に、マイクロ流路チップの特性に変化を与えることなく、流路や導入口、排出口等の滅菌も行うことができる。
本発明の好適な実施形態であるマイクロ流路チップ製造方法で用いるプラズマ処理装置の一例の概略構成図。 前記実施形態で用いたマイクロ流路チップの素材である第1板(a)及び第2板(b)の平面図、並びに、それらを重ねて構成されるマイクロ流路チップの断面図(c)。 前記実施形態であるマイクロ流路チップ製造方法のフローチャート。 前記実施形態におけるH2Oプラズマの処理条件をまとめた表。
以下、本発明の好適な実施形態であるマイクロ流路チップの製造方法の一例について、図面を参照しつつ説明する。
<1.装置構成>
まず、本発明を実施するために用いるプラズマ処理装置の一例について、その概略構成図である図1を参照しながら説明する。該プラズマ処理装置100は図1に示されるとおり平行平板型(容量結合型)プラズマ処理装置であり、処理すべき対象物が配置される処理空間Vを内部に形成するプラズマ処理室10、処理空間Vに水(具体的には、気体状の水である水蒸気)を導入する水導入部30、処理空間Vを排気する排気部40、処理空間Vに対向配置された一対の電極11,12、及びこれら各部を制御する制御部20を備える。
プラズマ処理室10には、処理空間V内にガスを導入するガス導入口13と、処理空間V内を排気するための排気口14とが設けられている。ガス導入口13には、後述する配管31が接続されている。また、排気口14には、後述する配管41が接続されている。
水導入部30は、一端がガス導入口13と接続され、他端が水供給源35と接続された配管31を備える。配管31の途中には、バルブ32と、配管31を流れるガスの流量を自動調整するマスフローコントローラ33と、導入される流体を気化する(ここでは、水を気化して水蒸気とする)ヴェーパライザ(気化装置)34が設けられている。これら各部32,33,34は制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって処理空間Vへの水蒸気の導入及び停止が制御される。
排気部40は、一端が排気口14と接続され、他端が排気ラインに接続された配管41を備える。配管41の途中にはバルブ42と真空ポンプ43とが設けられている。これら各部42,43は制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって、処理空間V内からのガスの排気が制御される。
プラズマ処理室10内に対向配置された一対の電極11,12のうち、一方の電極11には、コンデンサ51を介してRF電源52から電力が供給される(以下、この電極11を「パワード電極11」と呼ぶ)。また、他方の電極12は接地される(以下、この電極12を「接地電極12」と呼ぶ)。この構成において、パワード電極11にRF電力が供給されることによって、処理空間V内に導入されているガスがプラズマ化される。このパワード電極11へのRF電力の供給も制御部20により制御される。
なお、このプラズマ処理装置100では、処理するべき対象物(61,62)をパワード電極11上に載置するRIE(Reactive Ion Etching)モード、接地電極12上に載置するPE(Plasma Etching)モードの二つのモードから選択してプラズマ処理を行うことができるが、本発明を実施するにあたっては、どちらのモードを用いてもよい。図1ではPEモードでプラズマ処理する場合の配置が例示されている。
対象物(61,62)が載置される予定の電極(図1の例では接地電極12)には、対象物(61,62)を該電極に固定するための対象物固定機構と、対象物(61,62)のプラズマ処理中の温度を制御するための温度制御機構が設けられている。対象物固定機構としては例えば静電チャックを用いることができる。また、温度制御機構としては、プラズマ処理による処理対象物の温度上昇を制御(抑制)するための冷却機構の他、積極的に加熱するためのヒーターを用いることができる。これら対象物固定機構及び温度制御機構も制御部20により制御される。
制御部20は、上記の各要素を制御して、一連の処理を実行させる。制御部20は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより、該制御に必要な各種の機能ブロックが具現化される構成とすることができる。
<2.処理の流れ>
上記プラズマ処理装置100を用いた本発明に係るマイクロ流路チップ製造方法について、次に説明する。ここで用いたマイクロ流路チップの素材である2枚の板(第1板61及び第2板62)の平面図を図2(a)(b)に示す。図2の例では、第1板61及び第2板62はいずれもシクロオレフィンポリマー(COP)を素材とする、横70mm、縦30mm、厚さ0.5mmの薄板である。図2(a)に示すように、第1板61の一方の面(流路形成面)に流路溝63が形成されている。流路溝63の幅は100μm、深さは50μmである。図2(b)に示すように、該流路溝63の両端に対応する位置の第2板62に、導入口及び排出口(以下、これらをまとめて開口64と呼ぶ。)が形成されている。開口64は第2板62を貫通しており、その径は6mmである。従って、この例の場合、第1板61が流路板であり、第2板が閉鎖板となっている。後に説明するように、流路形成面を間にして両者を接合することによりマイクロ流路チップ60(図2(c))が製造される。このマイクロ流路チップ製造方法を、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1:まず、第1板61の流路形成面に流路溝63を、第2板62に開口64を形成する。これらの加工は、COPの平板にマイクロ機械加工により形成してもよいし、専用型を用いた射出成形により製造してもよい。第1板61及び第2板62の接合面(後述)の表面粗さは、共にRa10nm以下としておくことが望ましい。
ステップS2:次に、第1板61及び第2板62の接合面をH2Oプラズマで処理する。具体的には、まず、図示しない搬入口を介して第1板61及び第2板62をプラズマ処理室10に搬入し、接合面を上にして接地電極12上に載置する。第1板61では、流路が形成された面(流路形成面)が接合面となるので、流路形成面を上にする。第2板62はいずれの面を上にしても構わないが、上にした面が後に接合面となる。両板61、62を接地電極12上にセットした後、対象物固定機構で該電極上に固定する。なお、前述のとおり、処理モードによっては対象物である第1板61及び第2板62を載置するのはパワード電極11上となる。
続いて、処理空間VにH2Oプラズマを形成する。具体的には、前記搬入口を閉鎖してプラズマ処理室10を密閉した後、処理空間Vへの水蒸気(H2Oガス)の導入を行い、これと同時に、処理空間Vの排気を行って、処理空間V内の圧力が100Paとなるようにする。この圧力は、1~200Paの範囲内、さらには50~150Paの範囲内としておくことが望ましい。処理空間V内に導入される水蒸気(H2Oガス)の流量は200sccmである(本実施形態では、処理空間Vの容積は25,000~130,000cm3である)。H2Oガスの流量は1~400sccmとすることが望ましい。続いて、パワード電極11に200Wの高周波電力を投入する(本実施形態では、パワード電極11の面積は2975cm2であるため、電極面積当たりの投入電力(パワー密度)は67mW/cm2である)。パワー密度は、5~500mW/cm2の範囲内としておくことが望ましい。
これにより、処理空間V内に導入されている水蒸気がプラズマ化されてH2Oプラズマが形成され、該H2Oプラズマに曝されている両板61,62の接合面のプラズマ処理が進行する。このとき、制御部20は、処理対象物である第1板61及び第2板62が載置されている電極(図1の場合、接地電極12)の温度制御機構を制御することにより、プラズマ処理中の第1板61及び第2板62の温度がほぼ60℃に維持されるようにする。この温度は、40~100℃の範囲内としておくことが望ましい。
H2Oプラズマによる処理が開始されてから所定時間が経過すると、制御部20はバルブ32を閉鎖して水蒸気の供給を停止するとともに高周波電力の供給を停止して、処理を終了する。この所定時間(すなわち、両板61,62の接合面をH2Oプラズマに曝す時間)は、60分程度とする。この時間は、20~70分の範囲内としておくことが望ましい。これにより、後述するように、第1板61の流路溝63及び開口64の内面及び両板61、62の接合面は十分な滅菌が達成される。また、両接合面及び流路の親水化も達成される。さらには第1板61の流路溝63及び開口64の内面及び両板61、62の接合面は十分な親水化も達成されるので微少量の試料を容易に流すことができる。本実施形態によるH2Oプラズマの処理条件を図4にまとめた。図4の上段が、様々な条件を勘案した場合に望ましい範囲であり、下段が本発明者らが一例として実施した際の数値である。
H2Oプラズマによる第1板61及び第2板62の表面処理が終了した後、処理空間Vが大気圧に戻され、前記搬入口を介して両板61,62がプラズマ処理室10から搬出される。ただし、プラズマ処理室10内に専用の機構を設けておくことにより、この時点で両板61,62をプラズマ処理室10から搬出するのではなく、プラズマ処理室10内で引き続き次のステップS3の接合処理を行ってもよい。
ステップS3:続いて、第1板61の接合面と第2板62の接合面を合わせる。すると、両接合面は、加熱や外部からの加圧をしなくとも、常温で自重のみにより接合される。ただし、このように常温で自重のみにより接合する場合は、H2Oプラズマによる処理が終了してから30分以内に行うことが好ましい。第1板61又は第2板62が十分大きな質量を持たない場合(すなわち、接合圧力が過小である場合)や、H2Oプラズマによる処理終了後、より長い時間が経過してしまった場合、両接合面が理想的な状態でなかった場合等には、両接合面の接合の際に加圧又は加熱を併用してもよい。
以上の処理によって第1板61と第2板62が接合され、流路溝63及び開口64内が十分に滅菌されたマイクロ流路チップが完成する(図2(c))。
本発明のマイクロ流路チップは、事後的に滅菌工程を経ることなく流路内部を十分に滅菌できる。つまり、高温の蒸気や熱を用いないので微細な流路が変形するおそれがない。また、電子線を照射する必要もないので電子線によりマイクロ流路チップの透明度が低下することがなく流路内の試料を光学的に分析する際に分析結果に影響が生じることがない。
上記実施形態では、第1板61、第2板62ともCOP板としたが、平板(閉鎖板)である第2板62についてはガラス板とすることもできる。また、流路溝63及び開口64の寸法の正確さや安定性が要求される場合には、流路板の方をガラス板としてもよい。これらの場合でも、本発明に係る製造方法を用いることにより滅菌処理の効果は同様に得られ、親水性の改善効果も得られる。
10…プラズマ処理室
100…プラズマ処理装置
11…パワード電極
12…接地電極
13…ガス導入口
14…排気口
20…制御部
30…水導入部
40…排気部
52…RF電源
60…マイクロ流路チップ
61…第1板
62…第2板
63…流路溝
64…開口(導入口・排出口)

Claims (3)

  1. シクロオレフィンポリマーである第1板と、シクロオレフィンポリマー又はその他の材料から成る第2板を接合して成るマイクロ流路チップを製造する方法であって、
    前記第1板及び前記第2板のいずれか一方の板の一方の面である流路形成面に流路を形成するステップと、
    前記流路形成面、及び、前記第1板及び前記第2板の他方の、前記流路形成面に対向する面である閉鎖面の温度が40~100℃の状態で前記流路形成面及び前記閉鎖面をH2Oプラズマに曝すことにより滅菌するステップと、
    前記流路形成面と前記閉鎖面を合わせ、前記第1板と前記第2板を接合するステップと
    を含み、
    前記H 2 Oプラズマに曝すステップがプラズマ発生用の電極に高周波電力を印加することにより行われるステップであって、前記高周波電力が5~500mW/cm 2 の範囲内の値であることを特徴とするマイクロ流路チップ製造方法。
  2. 前記H2Oプラズマに曝すステップにおけるH2Oプラズマの圧力が50~150Paの範囲内の値であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ製造方法。
  3. 前記H2Oプラズマに曝すステップにおける両接合面をH2Oプラズマに曝す時間が20~70分の範囲内の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ製造方法。
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