以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
図1は、本実施の形態に係る追尾装置を備えたセンサネットワークシステムの構成を説明するブロック図である。
図1を参照して、センサネットワークシステム10は、各々がセンサを搭載したn個(n:2以上の自然数)のプラットフォーム1000-1~1000-n、及び、通信ネットワーク2000を備える。複数のプラットフォーム1000-1~1000-nの間は、通信ネットワーク2000により通信接続されることで、データ及び情報を相互に送受信することが可能である。
尚、以下では、n個のプラットフォーム間を区別して説明する際には、符号に「-1」~「-n」を付する。一方で、共通の構成に関して説明する等、プラットフォーム間を区別しない場合には、「-1」~「-n」を付することなく各要素を表記する。
本実施の形態に係る追尾装置では、特許文献1と同様に、複数のセンサによる観測値を用いた三角測量によって追尾対象が検知される。従って、複数のセンサの出力を用いた追尾対象の位置等の計算結果としては、実際の追尾対象(以下、「目標」又は「真の目標」とも称する)と、虚像(ゴースト)とを含む、複数の「目標候補」が得られる。
図2には、本実施の形態に係る追尾装置で扱われる目標候補を説明するための概念図が示される。図2では、2個のセンサSN-1及びSN-2によって2個の目標TG1,TG2を観測した場合に取り扱われる目標候補が示される。
図2を参照して、センサSN-1は、目標TG1及びTG2を、θ11方向及びθ12方向にそれぞれ観測する。同様に、センサSN-2は、目標TG1及びTG2を、θ21方向及びθ22方向にそれぞれ観測する。
センサSN-1によるθ11方向及びθ12方向と、センサSN-2によるθ21方向及びθ22方向とを用いて目標の位置を計算すると、θ11及びθ21の組み合わせの目標TG1、及び、θ12及びθ22の組み合わせの目標TG2に加えて、θ12及びθ21の組み合わせによるゴーストGS1と、θ11及びθ22の組み合わせによるゴーストGS2とがさらに発生する。
従って、2個のセンサSN-1及びSN-2による目標TG1及びTG2の観測値による「目標候補」は4つとなる。追尾装置には、各目標候補について、真の目標及びゴーストのいずれであるかを判別することが必要とされる。
再び図1を参照して、プラットフォーム1000-1は、センサ部1100と、センサネットワーク装置1200とを含む。本実施の形態に係る追尾装置は、レーダ等の電磁波を放射している電波機器を搭載している物体を追尾対象(目標)とする。以下では、一例として、各プラットフォーム1000が同様に、センサ部1100及びセンサネットワーク装置1200を含む構成について説明する。
センサ部1100は、当該電波機器から放射される電磁波を監視する。センサ部1100は、センサ1101と、センサ追尾処理部1102と、センサ位置取得部1103とを含む。
センサ部1100は、センサ1101による電磁波の観測データをもとに、目標観測データを出力する。目標観測データは、センサ1101の位置からの目標の方向と、電磁波の特徴を表すパラメータ(以後、「電磁波諸元」とも称する)の観測値と、当該目標観測データ及び観測データを測定したときのセンサ1101の位置とを含む。
センサ1101は、目標が放射した電磁波を受信して、当該電磁波についてセンサ1101への到来方向、及び、電磁波諸元を測定する。具体的には、センサ1101は、時刻毎に受信した電磁波の周波数(F)及び信号強度(PA)を観測データとして測定する。センサ1101は、PAの時間ごとの変化から得られる観測値として、パルス到来時刻(TOA)、パルス間隔(PRI)、パルス幅(PW)、ビーム探知時刻(ST)、及び、走査周期(SP)等の観測値を取得することができる。各プラットフォーム1000上のセンサ1101の集合体によって、目標から放射された電磁波を観測する「複数のセンサ」が構成される。
センサ1101による観測値は、センサ追尾処理部1102に入力される。センサ位置取得部1103は、センサ1101が観測データを測定したときのセンサ1101の位置を取得して、センサ追尾処理部1102に出力する。これにより、センサ追尾処理部1102は、上述の目標観測データを生成することができる。
取得可能な観測値は、目標(電波機器)から放射される電磁波の種類によって異なる。目標がパルスレーダ等のパルス状の電磁波を放射する場合には、パルス到来時刻(TOA)、パルス間隔(PRI)、及び、パルス幅(PW)が観測値として取得される。パルス到来時刻(TOA)は、センサ1101がパルスを受信した時刻を示す。パルス間隔(PRI)は、センサ1101が続けて受信する2つのパルスのパルス到来時刻(TOA)の間の差で示される。パルス幅(PW)は、それぞれのパルス状の電磁波の時間的な幅を示す。
目標が、スキャンレーダ等の空間を走査するビーム状の電磁波を放射する場合には、ビーム探知時刻(ST)が観測値として取得される。ビーム探知時刻(ST)は、センサ1101がビーム状の電磁波を受信した時刻を示す。より具体的には、ビーム探知時刻(ST)は、センサ1101による信号強度(PA)の時間変化を観測した結果、信号強度がピークになったことが検出された時刻を示す。走査周期(SP)は、ビーム探知時刻(ST)が観測される時間間隔を示す。スキャンレーダは、時刻毎に異なる方向にビーム状の電磁波を指向させるので、センサ部1100は、センサ部1100の目標からの方向により異なるビーム探知時刻(ST)の値を観測することになる。
又、目標が電磁波を連続波として放射する場合には、電磁波の周波数(F)が、観測値として取得される。この際に、周波数(F)の観測値は、目標の移動速度によるドップラ効果の影響を受けて変化する。尚、電磁波の周波数(F)は、目標が電磁波を連続波として放射する場合もパルス状に放射する場合にも観測値として取得可能である。しかし、目標が電磁波を連続波として放射する場合には、パルス状に放射する場合に比べて精度の良い観測値を得ることが可能である。このため、電磁波を連続波として放射する目標については、電磁波の周波数の目標の移動速度によるドップラ効果の影響による変化も観測することが可能である。
同様に、目標が電磁波を一定間隔でパルス状に放射する場合には、観測値のうちのパルス間隔(PRI)が、目標の移動速度によるドップラ効果の影響を受けて変化する。このように、センサ部1100は、目標からの方向により、異なる周波数(F)、又は、異なるパルス間隔(PRI)の値を観測することができる。
厳密には、目標から放射されたパルス状の電磁波について、周波数(F)及びパルス幅(PW)もまた、目標の移動速度によるドップラ効果の影響を受けて変化する。しかしながら、一般的には、センサ部1100において、これらの電磁波諸元について、ドップラ効果の影響を区別する精度の良い測定を行うことは困難である。このため、目標がパルス状の電磁波を放射する場合、センサ部1100は、目標からの方向に関わらず、ほぼ同じ値で、周波数(F)及びパルス幅(PW)を観測することになる。
又、目標が放射する電波のパルス間隔(PRI)に揺らぎが生じている場合には、センサ部1100は、上述したドップラ効果の影響が反映されたパルス間隔(PRI)の値を精度よく観測することが困難である。このような場合は、センサ部1100は、目標からの方向に関わらず、ほぼ同じ値のパルス間隔(PRI)を観測することになる。
センサ追尾処理部1102は、センサ1101から出力された観測データを、追尾処理を用いて、目標毎に分離する。さらに、センサ追尾処理部1102は、センサ位置取得部1103が出力するセンサ1101の位置をもとに、目標毎に分離した観測データとその観測データを取得したときのセンサ1101の位置とを含む目標観測データを生成し、センサネットワーク装置1200に出力する。
センサネットワーク装置1200は、同じプラットフォーム1000上にあるセンサ部1100と接続されるとともに、通信ネットワーク2000を経由して、他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200と相互に通信接続される。
センサネットワーク装置1200は、同じプラットフォーム1000上のセンサ部1100及び他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200から、目標の方向、目標の特徴を表す電磁波諸元の観測値、及び、観測時のセンサ1101の位置を含む目標観測データを取得する。
又、センサネットワーク装置1200は、同一のプラットフォーム1000上のセンサ部1100から取得した目標観測データを、通信ネットワーク2000を経由して、他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200に送信する。センサネットワーク装置1200は、同じプラットフォーム1000上にあるセンサ部1100、及び、他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200から取得した目標観測データを用いて、目標の位置を算出することができる。
センサネットワーク装置1200は、融合処理部1210と、共有処理部1220と、相関処理部1230と、共通処理部1240とを含む。図1では、各プラットフォーム1000にセンサネットワーク装置1200が搭載された構成例を説明しているが、センサネットワーク装置1200は、各プラットフォーム1000上で基本的に同様の構成を有するものとする。
図3は、図1に示されたセンサネットワーク装置の構成を更に説明するブロック図である。
融合処理部1210は、センサ部1100から入力される目標観測データと、目標位置情報とを融合させる。目標位置情報は、後述の目標位置算出部1242によって算出された、当該プラットフォーム1000のセンサ1101から目標までの距離、及び、当該目標の速度を含む。融合処理部1210によって、当該目標までの距離及び当該目標の速度(目標位置情報)が、目標観測データに追加される。
融合処理部1210は、目標位置情報と対応付けられた目標観測データ、又は、目標位置情報と対応付けられてない目標観測データを出力する。融合処理部1210から出力された目標観測データは、共有処理部1220へ入力される。
共有処理部1220は、同じプラットフォーム1000上で取得された目標観測データを、通信ネットワーク2000を経由して、他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200と共有するための処理を実行する。更に、共有処理部1220は、他のプラットフォーム1000上のセンサ部1100による観測値から取得された目標観測データを、通信ネットワーク2000経由で、他のセンサネットワーク装置1200から取得することができる。
この結果、各プラットフォーム1000において融合処理部1210から出力された目標観測データは、同一のセンサネットワーク装置1200内の共有処理部1220、及び、通信ネットワーク2000を介して、他のセンサネットワーク装置1200との間で共有することができる。
相関処理部1230は、それぞれのプラットフォーム1000上のセンサ部1100から出力された目標観測データどうしが同じ目標からの電磁波を受信したものかどうかを判定するための評価値を算出する。
相関処理部1230は、目標候補生成部1235、目標位置情報処理部1250、目標識別情報処理部1260、目標観測値処理部1270、及び、電磁波諸元識別DB(Data Base)1280を含む。
目標候補生成部1235は、自らのプラットフォーム1000上のセンサ部1100が探知した目標観測データと、共有処理部1220から得られた、他のプラットフォーム1000上のセンサ部1100が探知した目標観測データとを組み合わせて、複数の目標候補を生成する。図3で説明したように、この段階での複数の目標候補は、真の目標とゴーストとを含んでいる。
目標位置情報処理部1250は、候補位置算出部1251、及び、目標位置照合部1252を有する。目標位置情報処理部1250は、複数の目標候補のそれぞれについて、位置情報を用いて、真目標及びゴーストのいずれであるかを判定するための指標を算出する。尚、目標位置情報処理部1250は、特許文献1に記載された追尾装置と同様の手法で、目標候補毎に真の目標及びゴーストのいずれであるかを判別するものである。
候補位置算出部1251は、目標候補生成部1235によって生成された目標候補毎に、組み合わされた複数のセンサ部1100がそれぞれ測定した複数の目標に関する目標観測データに含まれる目標方向を三角測量によって融合することにより、目標候補の位置rcを算出する。
目標位置照合部1252は、過去の目標観測データにより求められた目標に関する位置情報と、目標の運動モデルとに基づき、目標に関する未来の位置情報rを予測位置情報として算出する。更に、目標位置照合部1252は、それぞれの目標候補の位置と目標の予測位置情報との残差(Δr=|r-rc|)に基づき、それぞれの目標候補が真の目標であるかを表す判定値F1を算出して出力する。判定値F1は、「1(真目標である)」又は「0(真目標でない)」等の2値で示されてもよく、目標候補が真目標である確率を表す、0~1.0の間のアナログ値であってもよい。
更に、目標位置照合部1252は、判定値F1の確からしさを表す評価値g1を併せて算出する。例えば、目標位置照合部1252は、残差の精度に影響する「目標および目標候補の位置精度」、誤判定が発生する可能性に関わる「目標どうしの距離」、及び、ゴースト判定結果の安定性に関わる「ゴースト判定結果に基づき目標を正しく判定した回数」等の情報のうちの1つ以上を定量化して、位置情報を用いた判定値F1の評価値g1を算出することができる。判定値F1は「第1の判定値」に対応し、評価値g1は「第1の評価値」に対応する。
目標識別情報処理部1260は、識別処理部1261、及び、観測値相関処理部1262を有する。目標識別情報処理部1260は、目標候補生成部1235によって生成された目標候補毎に、異なるプラットフォーム1000上の2個のセンサ部1100で観測したそれぞれの目標観測データどうしを照合して、真目標及びゴーストのいずれであるかを判定するための指標を算出する。
識別処理部1261は、各目標候補で組み合わされた複数の目標観測データそれぞれが含む電磁波諸元情報と、電磁波諸元識別DB1280に、目標の種類毎に予め記憶された諸元情報とを比較して、電磁波諸元識別結果を出力する。電磁波諸元識別DB1280は、目標の種類毎に、複数の電磁波諸元のそれぞれがとり得る値の範囲を予め記憶するものである。なお、ここで、目標の種類とは、目標を、放射する電波の性質により分類したものであり、例えば、備えている電波機器などによって目標を分類したものを表す。電磁波諸元識別DB1280は、「記憶部」の一実施例に対応する。
識別処理部1261は、電磁波諸元識別DB1280に予め記憶されている複数の目標の種類の中から、目標観測データのそれぞれの電磁波諸元の観測値が電磁波諸元識別DB1280に記載されている範囲内となる目標の種類を識別結果として選択して、電磁波諸元識別結果として出力する。
観測値相関処理部1262は、目標候補で組み合わされた複数の目標観測データについて、識別処理部1261での識別結果が同じ場合に、それぞれの目標観測データに含まれる電磁波諸元どうしを照合する。ここで照合される電磁波諸元は、センサ部1100の位置によらず同じ値が観測される、パルス状の電磁波の周波数(F)及びパルス幅(PW)、又は、目標がパルスを放射する時間間隔に揺らぎがある場合のパルス間隔(PRI)等である。
観測値相関処理部1262は、照合された電磁波諸元どうしの残差をもとに、それぞれの目標候補が真の目標であるかを表す判定値F2を算出する。判定値F2は、判定値F1と同様に、2値(「0」或いは「1」)、又は、0~1.0の間のアナログ値とすることができる。
更に、観測値相関処理部1262は、電磁波諸元相関評価による判定値F2の確からしさを示す、電磁波諸元相関の評価値g2を併せて算出する。例えば、各目標候補で組合されたそれぞれの目標観測データが含む電磁波諸元についての電磁波諸元識別DB(1280)との合致度、電磁波諸元識別DB1280により同じ識別結果となる目標数、及び、電磁波諸元相関結果に基づき目標を正しく判定した回数等の情報のうちの1つ以上を定量化して、電磁波諸元相関の評価値g2を算出することができる。判定値F2は「第2の判定値」に対応し、評価値g2は「第2の評価値」に対応する。
目標観測値処理部1270は、観測値予測部1271、及び、観測値照合部1272を有する。目標観測値処理部1270は、センサ部で観測される目標から到達する電磁波の1つ以上の観測値を用いて、それぞれの目標候補が真目標であるかゴーストであるかを判定するための指標を算出する。
目標観測値処理部1270は、例えば、目標識別情報処理部1260によって、組合されたそれぞれの目標観測データが同じ識別結果となる目標候補に対して適用することができる。尚、目標観測値処理部1270での判定に使用する電磁波諸元は、目標とセンサ部1100との位置関係に依存して観測値が異なる諸元、具体的には、ビーム探知時刻(ST)、目標が電磁波を連続波として放射する場合の周波数(F)、目標が電磁波を一定間隔でパルス状に放射する場合のパルス間隔(PRI)等のうちのいずれか1つ以上とすることができる。これらの諸元は、「第1のパラメータ」の一実施例に対応する。
観測値予測部1271は、目標候補生成部1235によって生成された目標候補毎に、異なるプラットフォーム1000上の2個のセンサ部1100で観測した目標観測データが含む到来方向と、当該2個のセンサ部うちの一方のセンサ部1100の目標観測データの電磁波諸元の観測値とを用いて、当該2個のセンサ部うちの他方のセンサ部1100の目標観測データの電磁波諸元の観測値の予測値を算出する。
観測値照合部1272は、複数の目標候補のそれぞれについて、上述した他方のセンサ部1100での観測値の予測値と、当該他方のセンサ部1100での目標観測データ(実際の観測値)とを照合する。例えば、他方のセンサ部1100についての上記予測値と実際の観測値との残差に基づき、当該目標候補が真の目標及びゴーストのいずれであるかを表す判定結果を、観測値相関による判定値F3として算出することができる。判定値F3は、判定値F1,F2と同様に、2値(「0」或いは「1」)、又は、0~1.0の間のアナログ値とすることができる。
更に、観測値照合部1272は、観測値相関による判定値F3の確からしさを示す、観測値相関の評価値g3を併せても算出する。例えば、観測値照合部1272は、残差の精度に影響する「観測値の測定精度および予測値の算出精度」、誤判定が発生する可能性に関わる「目標どうしの観測値の差」、及び、観測値相関結果の安定性に関わる「観測値相関結果により目標を正しく判定した回数」等の情報のうちの1つ以上を定量化して、観測値相関の評価値g3を算出することができる。判定値F3は「第3の判定値」に対応し、評価値g3は「第3の評価値」に対応する。
尚、一例として、判定値F1~F3については、確率分布に従って、下記の式(1)により算出することができる。
F(ζ,μ)=exp(f(ζ,μ))/{(2π)(n/2)・√|Σ|} …(1)
但し、f(ζ,μ)=-(1/2)・(ζ-μ)T・Σ-1(ζ-μ)
式(1)中において、ζ及びμは、F1、F2、及び、F3のそれぞれを算出するために、目標位置照合部1252、観測値相関処理部1262、及び、観測値照合部1272のそれぞれで照合されるデータである。ζ及びμは、照合されるデータの次元によりスカラーまたはベクトルとなる。ζ及びμがそれぞれ一次元データの場合は、ζ及びμはスカラーであり、Σは、(ζ-μ)の分散である。ζ及びμそれぞれ2次元以上の次元のデータである場合は、ζ及びμはベクトルであり、Σは、ベクトル(ζ-μ)の分散共分散行列である。ζ及びμは、目標位置情報処理部1250(目標位置照合部1252)、目標識別情報処理部1260(観測値相関処理部1262)、及び、目標観測値処理部1270(観測値照合部1272)のそれぞれにおいて、下記のように定義できる。
目標位置照合部1252では、目標候補毎の位置rcの三次元座標(x,y,z)と上述した目標の予測位置情報(位置情報r)の三次元座標(x,y,z)とを照合して判定値F1を算出する。このため、ζを、目標候補毎の位置rcの三次元座標(x,y,z)に対応するベクトルとする一方で、μについては、上述した目標の予測位置情報(位置情報r)の三次元座標(x,y,z)に対応するベクトルとすることができる。
同様に、観測値相関処理部1262では、目標観測データ1の電磁波諸元(F,PRI,PW,…)と目標観測データ2の電磁波諸元(F,PRI,PW,…)とを照合して判定値F2を算出する。このため、ζについては、目標観測データ1の電磁波諸元(F,PRI,PW,…)に対応するベクトルとし、μについては、目標観測データ2の電磁波諸元(F,PRI,PW,…)に対応するベクトルとすることができる。なお、ここで、目標観測データ1及び目標観測データ2は、各目標候補を構成する2つの目標観測データを表す。
更に、判定値F3を算出する観測値照合部1272では、ζは、電磁波の観測値の予測値(ST等)に対応するスカラーとし、μは、予測値に対する実際の観測値(ST,PRI,…)に対応するスカラーとすることができる。更に、観測値照合部1272では、電磁波の観測値の予測値(ST等)と予測値に対する実際の観測値(ST等)とを照合して判定値F3を算出する。このため、ζは、電磁波の観測値の予測値(ST等)に対応するスカラーとし、μは、予測値に対する実際の観測値(ST等)に対応するスカラーとすることができる。
共通処理部1240は、同一判定処理部1241、目標位置算出部1242、及び、表示処理部1243を有する。同一判定処理部1241は、目標位置情報処理部1250、目標識別情報処理部1260、及び、目標観測値処理部1270での判定結果を融合する。例えば、共通処理部1240は、複数の目標候補のそれぞれについて、上述の判定値F1~F3を、それぞれの評価値g1~g3で重み付けした判定パラメータ値Ftを下記の式(2)に従って算出することができる。
Ft=g1・F1+g2・F2+g3・F3 …(2)
更に、同一判定処理部1241は、算出された判定パラメータ値Ftに基づき、複数の目標候補のそれぞれについて、真の目標及びゴーストにいずれであるかを判定する。例えば、各目標候補について、算出された判定パラメータ値Ftが予め定められた閾値よりも高いときには「目標」と判定される一方で、判定パラメータ値が閾値以下のときは「ゴースト」と判定することができる。即ち、同一判定処理部1241は、「目標判定部」の一実施例に対応する。
目標位置算出部1242は、目標候補生成部1235によって生成された複数の目標候補のうち、同一判定処理部1241が真の目標(即ち、追尾対象)と判定した目標候補について、複数のセンサ部1100がそれぞれ測定した当該目標候補の方位測定結果と、当該方位を測定したときのセンサ部1100の位置とを用いて、当該目標候補(追尾対象)の位置情報(目標までの距離、及び、目標の速度)を算出する。
表示処理部1243は、同一判定処理部1241によって真の目標と判定した目標候補、即ち、追尾対象の位置情報、及び、電磁波諸元情報を表示する。例えば、これらの情報は、オペレータが視認可能な情報として、文字及び図形等により表示することができる。又、上述のように、目標位置算出部1242によって算出された追尾対象の位置情報は、融合処理部1210で用いられる。
図4は、センサネットワーク装置1200の動作を説明するフローチャートである。
図4を参照して、センサネットワーク装置1200は、ステップ(以下、単に「ST」と表記する)110により、同一のプラットフォーム1000上のセンサ部1100からの目標観測データと、通信ネットワーク2000を介して共有された、他のプラットフォーム1000上のセンサ部1100からの目標観測データとを取得する。これにより、全て(n個)のプラットフォーム1000上のセンサ部1100で観測された目標観測データを取得することができる。上述のように、目標観測データは、目標の方向、目標の特徴を表す電磁波諸元の観測値、及び、観測時のセンサ1101の位置を含む。
更に、ST115により、ST110で取得された目標観測データを用いて、複数の目標候補が生成される。ST110及びST115による処理は、図3の目標候補生成部1235の動作に相当する。
センサネットワーク装置1200は、ST121により、目標候補毎に、組み合わされた複数のセンサ部1100がそれぞれ測定した方位データから目標候補の位置を算出するとともに、当該目標候補の予測位置を算出する。更に、ST122により、目標候補毎に、目標位置及び予測位置の照合に基づいて、位置情報を用いた上述の判定値F1及び評価値g1を算出する。即ち、ST120及びST121による処理は、図3の目標位置情報処理部1250の動作に相当する。
センサネットワーク装置1200は、ST121及びST122と並行して、ST131~ST132により、電磁波諸元情報を用いて、複数の目標候補のそれぞれについて、真目標及びゴーストのいずれであるかを示す、上述の判定値F2及び評価値g2を算出する。ST131及びST132による処理は、図3の目標識別情報処理部1260の動作に相当する。
更に、センサネットワーク装置1200は、ST133により、ST131~ST132での処理において、目標とセンサとの位置関係に依存して観測値が変わる諸元があるが否かを判定する。目標とセンサとの位置関係に依存して観測値が変わる諸元がある場合には(ST133のYES判定時)には、ST141及びST142により、図3の目標観測値処理部1270が、複数の目標候補のそれぞれについて、2個のセンサでの観測値を用いた、2個のセンサのいずれかでの観測値の予測値と、実際の観測値との照合によって、上述の判定値F3及び評価値g3を算出する。
センサネットワーク装置1200は、ST150により、ST122で算出された判定値F1及び評価値g1、ST132で算出された判定値F2及び評価値g2、並びに、ST142で算出された判定値F3及び評価値g3をもとに、複数の目標候補のそれぞれについて、真の目標及びゴーストのいずれであるかを判定する。例えば、上述の式(2)による判定パラメータ値Ftと閾値との比較に基づき、ST150による判定を実行することができる。ST150の処理は、図3の共通処理部1240の動作に対応する。これにより、複数の目標候補(ST115)から真の目標(追尾対象)となる目標候補が確定される。
更に、センサネットワーク装置1200は、ST160により、追尾対象と判定された目標候補について、複数のセンサ部1100がそれぞれ測定した当該目標候補の方位データを用いて、位置情報(目標までの距離、及び、目標の速度)を算出する。ST150の処理は、図3の目標位置算出部1242の動作に対応する。又、上述のように、算出された目標位置は、図3の融合処理部1210に入力されることにより、センサ部1100からの目標観測データに反映される。
図5は、センサネットワーク装置1200のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5を参照して、センサネットワーク装置1200は、制御部101、主記憶部102、補助記憶部103、操作部104、表示部105、入出力部106、及び、送受信部107を備える。主記憶部102、補助記憶部103、操作部104、表示部105、入出力部106、及び、送受信部107の各々は、内部バス100を介して制御部101に接続される。
制御部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって構成することができる。制御部101は、補助記憶部103に記憶されている制御プログラムに従って、融合処理部1210、共有処理部1220、相関処理部1230、および共通処理部1240の各処理を実行する。
主記憶部102は、例えば、RAM(Random Access Memory)から構成される。補助記憶部103に記憶されている制御プログラムは、制御部101が実行する際に、主記憶部102にロードされる。また、主記憶部102は、制御部101の作業領域として用いられる。
補助記憶部103は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD-RAM(Digital Versatile Disc Random Access Memory)、DVD-RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリによって構成することができる。補助記憶部103は、センサネットワーク装置1200の処理を制御部101に行わせるためのプログラムをあらかじめ記憶する。又、補助記憶部103は、制御部101の指示に従って、このプログラムが記憶するデータを制御部101に供給する。更に、補助記憶部103は、制御部101から供給されたデータ、及び、制御部101が使用するデータを記憶する。電磁波諸元識別DB1280は、補助記憶部103によって構成することができる。
操作部104は、キーボード、及び、マウス等のポインティングデバイスによって構成することができる。制御プログラムの実行に関するオペレータからの開始、強制停止、又は、再起動等の指示は、操作部104から入力されて、内部バス100を介して制御部101に伝達される。
表示部105は、CRT(Cathode Ray Tube)またはLCD(Liquid Crystal Display)等から構成される。プログラムの実行状況の表示、異常の表示等は、表示部105に表示される。例えば、表示処理部1243(図3)による情報の表示は、表示部105を用いて実行される。
入出力部106は、センサ部1100と接続される。入出力部106により、センサ部1100からの目標観測データの受信、及び、センサ部1100への制御指示の出力等を実行することができる。送受信部107は、通信ネットワーク2000(図1)に接続する、網終端装置又は無線通信装置、及び、それらと接続するシリアルインタフェース又はLAN(Local Area Network)インタフェースから構成される。送受信部107により、他のセンサネットワーク装置1200(他のプラットフォーム1000上)との間でのデータの送受信が可能となる。
このように、本実施の形態によれば、図5のハードウェア構成を用いて、図3及び図4で説明したようにセンサネットワーク装置1200を動作させることにより、複数のセンサの出力を用いて生成された複数の目標候補について、真の目標及びゴーストのいずれであるかを判定することができる。
特に、図3の構成例によれば、位置情報を用いた判定値F1(目標位置情報処理部1250)と、電磁波諸元の観測値とDBとの照合による判定値F2(目標識別情報処理部1260)と、判定値F3(目標観測値処理部1270)とを用いて、目標候補毎に、精密に真の目標及びゴーストのいずれであるかを判定することができる。特に、目標の移動を反映した観測値の予測値と実際の観測値とを照合する目標観測値処理部1270によって、ゴースト除去成功率の向上が図られる。
本実施の形態に係る追尾装置の特徴点である目標観測値処理部1270での目標観測データ間の相関処理による目標及びゴーストの判別処理について、図6~10を用いてさらに詳細に説明する。
図6には、追尾対象(目標)が時刻毎に異なる方向にビーム状の電磁波を指向させる場合での複数の目標候補の配置例が示される。
図6及び図7を用いて、目標観測値処理部1270が、ビーム探知時刻(ST)を用いて目標候補が真目標及びゴーストのいずれであるかを判定する原理を説明する。
図6を参照して、追尾対象(目標)は、捜索レーダ等の、一定の角度範囲を一定の角速度ωで走査するビーム状の電磁波を放射する電波機器を搭載している。各センサ1101では、当該センサに照射された電磁波のビームが検知された時刻を示す、ビーム受信時刻が「第1のパラメータ」として測定される。尚、一定の角度範囲及び一定の角速度における「一定」とは、予測に用いる観測値の観測時点と、予測値と照合される実際の観測値の観測時点との間で、上記角度範囲及び角速度が変化していないことを仮定するものであって、目標がビーム状の電磁波を照射する際の角度範囲及び走査の角速度が、常時一定(不変)であることに、追尾対象を限定するものではない。
図6には、一例として、2個のセンサSN-1及びSN-2による1個の真の目標(TG)を追尾する際の目標候補TGC1及びTGC2の配置例が示される。尚、センサSN-1及びSN-2は、図1中の異なるプラットフォーム1000に配置されたセンサ1101にそれぞれ相当する。図6において、センサSN-1は「第1のセンサ」の一実施例に対応し、センサSN-2は「第2のセンサ」の一実施例に対応する。
図6に示される例では、目標候補TGC1が真の目標であり、目標候補TGC2はゴーストである。目標候補TGC1及びTGC2は、図3と同様に2個の真目標を2個のセンサで観測した際に得られる、2個の真目標及び2個のゴーストを含む4個の目標候補のうちの、1個の真目標及び1個のゴーストを抽出したものに対応する。
図6は、センサSN-1でφ1T方向に観測した目標が、センサSN-2で、φ2T及びφ2F方向にそれぞれ観測された目標候補のどちらと同じ目標であるかを判定する例である。
目標候補TGC1から見たセンサSN-1とセンサSN-2との間の角度はθT(θT=|φ2T-φ1T|)であり、目標候補TGC2から見た、センサSN-1及びセンサSN-2の間の角度は、θF(θF=|φ2F-φ1T|))である。角度θF及びθTは、センサSN-1で測定された角度θ1Tを用いて、センサSN-2側で測定される角度φ2T及びφ2Fから、センサSN-2側で算出することができる。
従って、目標候補TGC1が真目標の場合には、センサSN-2でのビーム受信時刻は、センサSN-1でのビーム受信時刻T1Tを用いて、下記の式(3)で示される。
T2T=T1T+θT/ω=T1T+ΔTT(θT) …(3)
同様に、目標候補TGC2が真目標の場合には、センサSN-2でのビーム受信時刻は、センサSN-1でのビーム受信時刻T1Tを用いて、下記の式(4)で示される。
T2F=T1T+θF/ω=T1T+ΔTF(θF) …(4)
従って、図3の観測値予測部1271は、目標候補TGC1について、式(3)に従ってセンサSN-2でのビーム受信時刻の予測値(T2T)を算出するとともに、目標候補TGC2については、式(4)に従ってセンサSN-2でのビーム受信時刻の予測値(T2F)を算出することができる。
観測値照合部1272は、センサSN-2で観測した実際のビーム受信時刻と、式(3)及び式(4)に従うビーム受信時刻の予測値T2T,T2Fとを比較する。
図7には、センサSN-1及びSN-2でのビーム受信時刻の測定例が示される。
図7を参照して、センサSN-1でのビーム受信時刻(T1T)から、式(3)に従う予測値T2T=T1T+ΔTT(θT)と、式(4)に従う予測値T2F=T1T+ΔTF(θF)とが算出される。図7の例では、センサSN-2でのビーム受信時刻は、ほぼ予測値T1Fと一致する。従って、目標候補TGC1が真目標である一方で、目標候補TGC2がゴーストであると判定することができる。
又、図7とは異なり、センサSN-2でのビーム受信時刻が、予測値T2Fの近傍である場合には、目標候補TGC2が真目標であり、目標候補TGC1がゴーストであると判定できる。
図8には、追尾対象(目標)が連続的に電磁波を照射する、又は、パルス状の電磁波を照射する場合での複数の目標候補の配置例が示される。
まず、図8及び図9を用いて、追尾対象(目標)が連続的に一定の周波数(F)の電磁波を照射する場合に、目標観測値処理部1270が周波数(F)を用いて目標候補が真目標及びゴーストのいずれであるかを判定する原理について説明する。即ち、図9では、周波数(F)が「第1のパラメータ」の一実施例に対応する。尚、上記一定の周波数とは、予測に用いる観測値の観測時点と、予測値と照合される実際の観測値の観測時点との間で、照射される電磁波の周波数が変化していないことを仮定するものであって、目標が照射する電磁波の周波数が常時一定(不変)であることに、追尾対象を限定するものではない。
図8においても、目標候補TGC1及びTGC2は、図3と同様に2個の真目標を2個のセンサで観測した際に得られる、2個の真目標及び2個のゴーストを含む4個の目標候補のうちの、1個の真目標及び1個のゴーストを抽出したものに対応する。ここでは、センサSN-1よって観測された、φT1方向に速度VTで進行する目標が、センサSN-2で観測される、φT2方向に速度Vfで進行する目標候補TGC1、及び、φF2方向に速度Vfで進行する目標候補TGC2のどちらと同じ目標であるかを判定する例が示される。図8においても、センサSN-1は「第1のセンサ」の一実施例に対応し、センサSN-2は「第2のセンサ」の一実施例に対応する。
図8のように、目標候補TGC1の速度VTに対して、目標候補TGC1がセンサSN-1に向かう速度成分はVT・cos(θT1)で示される。同様に、目標候補TGC1がセンサSN-2に向かう速度成分はVT・cos(θT2)で示される。従って、目標候補TGC1から周波数F0の電磁波が放射される場合、目標候補TGC1からθT1方向にあるセンサSN-1で観測される周波数FT1、及び、目標候補TGC1からθT2方向にあるセンサSN-2で観測される周波数FT2は、目標候補の運動によるドップラ効果を考慮すると、電磁波の速度cを用いて、下記の式(5)及び式(6)により求められる。
FT1=F0・(c/(c-VT・cos(θT1))) …(5)
FT2=F0・(c/(c-VT・cos(θT2))) …(6)
式(5),(6)からセンサSN-2で観測される電磁波の周波数FT2は、センサSN-1で観測される電磁波の周波数FT1を用いて、下記の式(7)によって示される。
FT2≒F0・VT・(cos(θT2)-cos(θT1)/c+FT1 …(7)
=FT1+ΔFT(θT1,θT2)
同様に、目標候補TGC2から周波数F0の電磁波が放射される場合、目標候補TGC2からθF1方向にあるセンサSN-1で観測される周波数をFF1、目標からθF2方向にあるセンサSN-2で観測される周波数をFF2とすると、センサSN-2で観測される電磁波の周波数は、下記の式(8)によって示される。
FF2≒F0・VT・(cos(θF2)-cos(θF1))/c+FF1
=FT1+ΔFF(θF1,θF2) …(8)
なお、式(8)では、FF1=FT1の関係を用いて式を変形した。TGC1とTGC2とは、センサSN-1によって観測された同じ目標から生成された目標候補である。このため、FF1とFT1とは、それぞれ、同じ目標から放射される同じ電磁波の周波数をセンサSN-1によって観測した同じ値である。
観測値予測部1271は、目標候補TGC1について式(7)により周波数FT2の予測値を算出するとともに、目標候補TGC2について式(8)により周波数FF2の予測値を算出する。
観測値照合部1272は、センサSN-2で観測した実際の周波数と、式(7)及び式(8)による予測値FT2,FF2とを比較する。図9の例のように、センサSN-2で実際に観測された周波数が、予測値FT2である場合には、目標候補TGC1が真目標である一方で、目標候補TGC2がゴーストであると判定することができる。図9とは異なり、センサSN-2で実際に観測された周波数が予測値FF2の近傍である場合には、目標候補TGC2が真目標である一方で、目標候補TGC1がゴーストであると判定することができる。
次に、図8、図10,及び、図11を用いて、追尾対象(目標)が一定のパルス間隔でパルス状の電磁波を連続的に照射する場合に、目標観測値処理部1270がパルス間隔(PRI)を用いて目標候補が真目標及びゴーストのいずれであるかを判定する原理について説明する。具体的には、上記と同様に、図8において、センサSN-1によって観測された、φT1方向に速度VTで進行する目標が、センサSN-2で観測される、φT2方向に速度Vfで進行する目標候補TGC1、及び、φF2方向に速度Vfで進行する目標候補TGC2のどちらと同じ目標であるかを判定する例が示される。図10及び図11では、パルス間隔(PRI)が「第1のパラメータ」の一実施例に対応する。尚。上記一定のパルス間隔とは、予測に用いる観測値の観測時点と、予測値と照合される実際の観測値の観測時点との間で、照射される電磁波のパルス間隔が変化していないことを仮定するものであって、目標が照射する電磁波のパルス間隔が常時一定(不変)であることに、追尾対象を限定するものではない。
上述のように、図8において、目標候補TGC1の速度VTに対して、目標候補TGC1がセンサSN-1に向かう速度成分はVT・cos(θT1)で示されるとともに、目標候補TGC1がセンサSN-2に向かう速度成分はVT・cos(θT2)で示される。このため、パルス間隔PRI0で連続的に放射される2個の電磁波パルスについて、後に放射されたパルスがセンサSN-1に到達するまでに移動する距離は、先に放射されたパルスがセンサSN-1に到達するまでに移動する距離と比較して、PRI0・VT・cos(θT1)だけ短くなる。このため、センサSN-1で観測されるパルス間隔PRIは、PRI0と比較して、PRI0・VTcos(θT1)/cだけ短くなる。
図10は、それぞれのセンサ部で観測されるパルス間隔の例を示す概念図である。図10には、センサSN-1,SN-2に対して、目標からのパルス状の電磁波が入力される状況が示される。
図10を参照して、目標(即ち、目標候補TGC1の位置)からθT1方向で観測されるパルス間隔PRIT1、及び、目標からθT2方向で観測されるパルス間隔PRIT2は、下記の式(9)及び式(10)で示される。
PRIT1=PRI0・((c-VTcos(θT1))/c)
=PRI0+ΔPRI1(θT1) …(9)
PRIT2=PRI0・((c-VTcos(θT2))/c)
=PRI0+ΔPRI2(θT2)
=PRIT1+ΔPRI2(θT2)-ΔPRI1(θT1) …(10)
式(9)及び式(10)から、目標候補TGC1が真の目標であり、かつ、パルス間隔PRI0の電磁波を放射している場合、センサSN-2で観測される電磁波のパルス間隔は、下記の式(11)によって求められる。
PRIT2=PRI0・VT(cos(θT2)-cos(θT1)/c)+PRIT1
=PRIT1+ΔPRIT(θT1,θT2) (11)
同様に、目標候補TGC2が真の目標であり、かつ、パルス間隔PRI0の電磁波を放射する場合、センサSN-2で観測される電磁波のパルス間隔は、下記の式(12)によって求められる。
PRIF2≒PRI0・VT(cos(θF2)-cos(θF1))+PRIT1
=PRIT1+ΔPRIF(θF1,θF2) …(12)
なお、式(11)では、PRIF1=PRIT1の関係を用いて式を変形した。TGC1とTGC2とは、センサSN-1によって観測された同じ目標から生成された目標候補である。このため、PRIF1とPRIT1とは、それぞれ、同じ目標から放射される同じ電磁波のパルス間隔をセンサSN-1によって観測した同じ値である。
図11は、目標観測値処理部1270によるパルス間隔を用いた目標相関の原理を説明する概念図である。
目標候補TGC1が真目標である場合には、センサSN-2で観測されるパルス間隔の予測値は、式(11)のPRIT2で与えられる。一方で、目標候補TGC2が真目標である場合には、センサSN-2で観測されるパルス間隔の予測値は、式(12)のPRIF2で与えられる。
観測値照合部1272は、センサSN-2で観測されたパルス状の電磁波のパルス間隔の観測値と、上記予測値PRIT2及びPRIF2を比較する。図11に示されるように、センサSN-2で観測されたパルス間隔が、予測値PRIT2の近傍に分布する場合には、目標候補TGC1が真目標である一方で、目標候補TGC2がゴーストであると判定することができる。一方で、図11とは反対に、センサSN-2で観測されたパルス間隔が、予測値PRIF2の近傍に分布する場合には、目標候補TGC2が真目標である一方で、目標候補TGC1がゴーストであると判定することができる。
尚、図6及び図8では、2個の真目標及び2個のゴーストを含む目標候補間での判別処理を説明したが、さらに多数の真目標及びゴーストが存在する場合においても、同様の原理に従う観測値相関処理によって、各目標候補が真の目標及びゴーストのいずれであるかを判定することができる。
このように、目標観測値処理部1270では、ビーム探知時刻(ST)、周波数(F)、又は、パルス間隔(PRI)といった、電磁波を放射する追尾目標とセンサ部1100との位置関係に依存して観測値が異なる諸元の観測値の少なくとも1つを使用して、当該観測値の予測値と実際の観測値との比較照合によって、目標候補が真目標及びゴーストのいずれであるかを判定することができる。尚、追尾目標とセンサ部1100との位置関係に依存して観測値が異なる諸元であれば、例示した、ビーム探知時刻(ST)、周波数(F)、又は、パルス間隔(PRI)以外の観測値を用いて、同様の判定を実行することも可能である。
このように、本実施の形態によれば、目標観測値処理部1270を含むセンサネットワーク装置1200を用いて、複数のセンサの出力を用いる追尾装置におけるゴースト除去成功率を向上することができる。
変形例の説明.
図3では、相関処理部1230が、位置情報を用いて判定値F1を出力する目標位置情報処理部1250と、電磁波諸元の観測値とDBとの照合により判定値F2を出力する目標識別情報処理部1260と、判定値F3を出力する目標観測値処理部1270との全てを具備するセンサネットワーク装置1200の構成を説明したが、目標位置情報処理部1250、目標識別情報処理部1260、及び、目標観測値処理部1270の一部を省略して、相関処理部1230を構成することも可能である。
例えば、図12には、目標観測値処理部1270のみによる相関処理を実行する変形例が示される。
図12を参照して、本実施の形態の変形例に係るセンサネットワーク装置1200xは、図3と同様の融合処理部1210、共有処理部1220、及び、共通処理部1240と、相関処理部1230xとを含む。相関処理部1230xは、図3と同様の目標候補生成部1235及び目標観測値処理部1270を有する。相関処理部1230xには、目標位置情報処理部1250及び目標識別情報処理部1260は、配置されない。従って、同一判定処理部1241では、目標観測値処理部1270からの判定値F3及び評価値g3のみを用いて判定パラメータ値Ftが算出されることによって、目標及びゴーストの最終的な判定が実行される。
図13は、センサネットワーク装置1200xの動作を説明するフローチャートである。
図13を参照して、センサネットワーク装置1200xは、図4と同様のST110,ST115により、n個のセンサ部1100からの目標観測データを用いて、複数の目標候補を生成する。更に、センサネットワーク装置1200xは、図4と同様のST141,ST142により、目標観測値処理部1270による判定値F3及び評価値g3の算出処理を実行する。
センサネットワーク装置1200xは、図4と同様のST150,ST160により、判定値F3及び評価値g3に基づいて、複数の目標候補から真の目標(追尾対象)となる目標候補を確定するとともに、追尾対象と判定された目標候補の位置情報を算出する。
これにより、本実施の形態の変形例に係るセンサネットワーク装置1200xでは、目標観測値処理部1270による相関処理のみとする最小限の構成としても、複数のセンサの出力を用いて生成された複数の目標候補について、真の目標及びゴーストのいずれであるかを判定することができる。
尚、上述のように、目標観測値処理部1270では、電磁波を放射する追尾目標とセンサ部1100との位置関係に依存して観測値が異なる諸元の観測値を用いて、複数の目標候補が真目標及びゴーストのいずれであるかの判定値F3を出力する。従って、センサネットワーク装置1200xの追尾対象は、上記のような諸元の電磁波を放射する電波機器(例えば、レーダ)を搭載した物体に限定されることになるが、当該物体について、ゴースト除去成功率を向上することができる。
尚、更なる変形例として、相関処理部1230を、目標位置情報処理部1250及び目標観測値処理部1270、又は、目標識別情報処理部1260及び目標観測値処理部1270によって構成することも可能である。これらの変形例においても、同一判定処理部1241では、判定値F1~F3及び評価値g1~g3の一部を適宜用いて判定パラメータ値Ftを算出することが可能である。
以上説明したように、本実施の形態に係る追尾装置は、センサネットワーク装置1200,1200xのうちの相関処理部1230(1230x)及び共通処理部1240の機能によって実現される。尚、図1では、各プラットフォーム1000において、即ち、センサ1101と1:1に、相関処理部1230(1230x)及び共通処理部1240(即ち、「追尾装置」)を具備するセンサネットワーク装置1200が配置される構成例を説明したが、その他の構成を採用することも可能である。
具体的には、相関処理部1230(1230x)及び共通処理部1240については、一部のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200のみに搭載し、他のプラットフォーム1000上のセンサネットワーク装置1200には、融合処理部1210及び共有処理部1220のみを配置する構成とすることも可能である。このような構成としても、各プラットフォーム1000に共有処理部1220が配置されることにより、複数(n個)のセンサによる目標観測データをセンサネットワークシステム10内で共有することができる。又、共通処理部1240が配置されていないセンサネットワーク装置1200においても、共有処理部1220を経由して、他のセンサネットワーク装置1200の目標位置算出部1242で算出された当該目標候補(追尾対象)の位置情報を取得することができる。
或いは、図14の変形例に示すように、相関処理部1230(1230x)及び共通処理部1240、即ち、追尾装置については、通信ネットワーク2000を経由して通信接続されていれば、センサ部1100及びセンサネットワーク装置1200が搭載されたプラットフォーム1000とは切り離して、共有処理部1220、相関処理部1230(1230x)及び共通処理部1240を有するセンサネットワーク装置1200yとして、配置することも可能である。図14には、センサ部1100が搭載されたプラットフォーム1000A-1,1000A-2が、通信ネットワーク2000を経由して、センサ部1100を搭載しないセンサネットワーク装置1200y-1,1200y-2と通信接続される構成が一例として示される。図14の構成例では、プラットフォーム1000A-1,1000A-2に搭載されたセンサ部1100による目標観測データを用いて、センサネットワーク装置1200y-1,1200y-2において、目標候補(追尾対象)の位置情報を取得することができる。
又、図1に示されたセンサネットワークシステムにおけるセンサ1101の配置個数(n)についても任意であり、n個のセンサから抽出された2個のセンサの組み合わせ毎での観測データの組み合わせ(三角測量)によって、複数の目標候補を作成することができる。この際には、観測された時間が近い観測データを有する2個のセンサの組み合わせのみが抽出されることになる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。