以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
(第1構成例)
図1は、AD変換器1Aの構成を示す図である。この図に示される第1構成例のAD変換器1Aは、DA変換部10A、比較部20、制御部30Aおよび電荷注入部50を備える。AD変換器1Aは、入力アナログデータAinに応じたデジタルデータを制御部30Aから出力する。
DA変換部10Aは、N個の容量素子C0~CN-1、N個のスイッチSW0~SWN-1およびスイッチSWRSTを含む。N個のスイッチSW0~SWN-1は、制御部30Aから出力される制御信号に基づいて設定される。各容量素子Cnの第1端は、対応するスイッチSWnと接続されている。各容量素子Cnの第1端は、スイッチSWnの設定により、高電位の第1基準電位VREFHまたは低電位の第2基準電位VREFLとされる。各容量素子Cnの第2端は、共通に接続されて出力端を構成している。スイッチSWRSTは、この出力端と第2基準電位供給線との間に設けられている。DA変換部10Aは、この出力端から、N個のスイッチSW0~SWN-1それぞれの設定に応じたデータCTOPを比較部20へ出力する。
なお、Nは2以上の整数であり、nは0以上(N-1)以下の整数である。また、N個の容量素子C0~CN-1のうち何れかの容量素子の第1端は一定電位とされる場合があり、その場合には、その容量素子に対応するスイッチは不要である。
比較部20は、2つの入力端それぞれに入力されるデータを大小比較して、その比較結果を表す比較信号を制御部30Aへ出力する。第1構成例では、比較部20は、DA変換部10Aから出力されたデータCTOPを一方の入力端に入力し、入力アナログデータAinを他方の入力端に入力する。
制御部30Aは、比較部20から出力された比較信号に基づいて、逐次比較のステップ毎に、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとの差が小さくなるように制御信号を生成して、その制御信号をDA変換部10Aへ出力する。
電荷注入部50は、逐次比較の何れかステップにおいて、第1基準電位VREFHまたは第2基準電位VREFLをDA変換部10Aへ与える基準電位供給線に対し、逐次比較のステップ毎の比較部20による比較結果の履歴に依らず一定量の電荷を注入して、DA変換部10AのスイッチSW0~SWN-1の設定変更に伴う基準電位供給線の電位変動を抑制する。
図2は、AD変換器1Aの第1動作例を説明する表である。第1動作例では、N=4とし、容量素子C0の容量値をCとし、容量素子C1の容量値をCとし、容量素子C2の容量値を2Cとし、容量素子C3の容量値を4Cとする。各容量素子の容量値は、単位容量値Cの倍数で示されている。この表には、逐次比較の各ステップにおける制御信号Ccodeおよび各容量素子Cnの第1端の電位が示されている。「H」は、容量素子の第1端が高電位の第1基準電位VREFHに接続されることを示し、「L」は、容量素子の第1端が低電位の第2基準電位VREFLに接続されることを示す。Ccodeは、DA変換部10Aの各スイッチの設定を制御するために制御部30AからDA変換部10Aに与えられる3ビットの制御信号である。スイッチSW3の設定は、Ccode[c2,c1,c0]のMSBであるc2により制御される。スイッチSW2の設定は、Ccodeの第2ビットであるc1より制御される。スイッチSW1の設定は、CcodeのLSBであるc0により制御される。容量素子C0は常に低電位の第2基準電位VREFLに接続されるので、スイッチSW0は無くてもよい。
初期化ステップでは、4個のスイッチSW0~SW3およびスイッチSWRSTにより、4個の容量素子C0~C3それぞれの両端は、第2基準電位VREFLとされる。これにより、4個の容量素子C0~C3それぞれの電荷は初期化され、DA変換部10Aから比較部20へ出力されるデータCTOPが初期化される。初期化ステップが終了すると、スイッチSWRSTはオフ状態となる。
初期化ステップの後の逐次比較の最初のステップ1では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[1,0,0]が与えられることで、容量素子C3は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C2,C1,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は4Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は4Cとなる。このような各容量素子の接続状態のときにDA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+VREFL)/2となる。
ステップ1においてDA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが比較部20により大小比較され、その比較結果を表す比較信号が比較部20から制御部30Aへ出力される。そして、制御部30Aにより、ステップ1の比較結果に応じて、逐次比較の次のステップ2でDA変換部10Aに与えられるCcodeが決定される。ステップ2は、ステップ1の比較結果に応じてケース1とケース2とに分かれる。データCTOPが入力アナログデータAinより小さい場合にケース1に進み、データCTOPが入力アナログデータAinより大きい場合にケース2に進む。
逐次比較のステップ2のケース1では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[1,1,0]が与えられることで、容量素子C3,C2は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C1,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は6Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は2Cとなる。このような各容量素子の接続状態のときにDA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(3VREFH+VREFL)/4となる。
ステップ2のケース1においてDA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが比較部20により大小比較され、その比較結果を表す比較信号が比較部20から制御部30Aへ出力される。そして、制御部30Aにより、ステップ2のケース1の比較結果に応じて、逐次比較の次のステップ3でDA変換部10Aに与えられるCcodeが決定される。ステップ2のケース1の後のステップ3は、ステップ2のケース1の比較結果に応じてケース1-1とケース1-2とに分かれる。データCTOPが入力アナログデータAinより小さい場合にケース1-1に進み、データCTOPが入力アナログデータAinより大きい場合にケース1-2に進む。
逐次比較のステップ2のケース2では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[0,1,0]が与えられることで、容量素子C2は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C3,C1,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は2Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は6Cとなる。このような各容量素子の接続状態のときにDA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+3VREFL)/4となる。
ステップ2のケース2においてDA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが比較部20により大小比較され、その比較結果を表す比較信号が比較部20から制御部30Aへ出力される。そして、制御部30Aにより、ステップ2のケース2の比較結果に応じて、逐次比較の次のステップ3でDA変換部10Aに与えられるCcodeが決定される。ステップ2のケース2の後のステップ3は、ステップ2のケース2の比較結果に応じてケース2-1とケース2-2とに分かれる。データCTOPが入力アナログデータAinより小さい場合にケース2-1に進み、データCTOPが入力アナログデータAinより大きい場合にケース2-2に進む。
ステップ3のケース1-1では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[1,1,1]が与えられることで、容量素子C3,C2,C1は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は7Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和はCとなる。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(7VREFH+VREFL)/8となる。
ステップ3のケース1-2では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[1,0,1]が与えられることで、容量素子C3,C1は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C2,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は5Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は3Cとなる。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(5VREFH+3VREFL)/8となる。
ステップ3のケース2-1では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[0,1,1]が与えられることで、容量素子C2,C1は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C3,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和は3Cとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は5Cとなる。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(3VREFH+5VREFL)/8となる。
ステップ3のケース2-2では、制御部30AからDA変換部10AにCcode[0,0,1]が与えられることで、容量素子C1は第1基準電位VREFHに接続され、容量素子C3,C2,C0は第2基準電位VREFLに接続される。すなわち、第1基準電位VREFHに接続される容量素子の容量値の総和はCとなり、第2基準電位VREFLに接続される容量素子の容量値の総和は7Cとなる。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+7VREFL)/8となる。
このように、逐次比較の最初のステップ1では、制御部30AからDA変換部10Aに与えられるCcodeが[1,0,0]に仮設定されて、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが大小比較され、その比較結果に基づいて、CcodeのMSBであるc2が決定される。次のステップ2では、制御部30AからDA変換部10Aに与えられるCcodeが[c2,1,0]に仮設定されて、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが大小比較され、その比較結果に基づいて、Ccodeの第2ビットであるc1が決定される。
最後のステップ3では、制御部30AからDA変換部10Aに与えられるCcodeが[c2,c1,1]に仮設定されて、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとが大小比較され、その比較結果に基づいて、CcodeのLSBであるc0が決定される。そして、ステップ3の後に最終的に得られたCcode(または、このCcodeに基づいて得られるデジタルデータ)が、入力アナログデータAinに応じたデジタルデータとして制御部30Aから出力される。
図3は、AD変換器1Aの第2動作例を説明する表である。第2動作例では、N=8とし、8個の容量素子C0~C7それぞれの容量値をCとする。容量素子C7,C6,C5,C4の容量値の総和は4Cであり、容量素子C3,C2の容量値の総和は2Cである。したがって、互いに並列に設けられている容量素子C7,C6,C5,C4がCcodeのc2に基づいて互いに同じ電位に設定されるとともに、互いに並列に設けられている容量素子C3,C2がCcodeのc1に基づいて互いに同じ電位に設定されることで、第2動作例は第1動作例と等価なものとなる。
図4は、AD変換器1Aの第3動作例を説明する表である。前述の第2動作例の場合と同様に、この第3動作例でも、N=8とし、8個の容量素子C0~C7それぞれの容量値をCとする。ただし、前述の第2動作例では、バイナリコードで表されたCcode[c2,c1,c0]に基づいて各容量素子の接続が決められていたが、この第3動作例では、Ccode[c2,c1,c0]をデコードして得られるサーモメータコードに基づいて各容量素子の接続が決められる。
この第3動作例において、逐次比較の最初のステップ1では、4個の容量素子C0~C3は第1基準電位VREFHに接続され、4個の容量素子C4~C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+VREFL)/2となる。
ステップ2のケース1では、6個の容量素子C0~C5は第1基準電位VREFHに接続され、2個の容量素子C6,C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(3VREFH+VREFL)/4となる。
ステップ2のケース2では、2個の容量素子C0,C1は第1基準電位VREFHに接続され、6個の容量素子C2~C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+3VREFL)/4となる。
ステップ3のケース1-1では、7個の容量素子C0~C6は第1基準電位VREFHに接続され、1個の容量素子C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(7VREFH+VREFL)/8となる。
ステップ3のケース1-2では、5個の容量素子C0~C4は第1基準電位VREFHに接続され、3個の容量素子C5~C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(5VREFH+3VREFL)/8となる。
ステップ3のケース2-1では、3個の容量素子C0~C2は第1基準電位VREFHに接続され、5個の容量素子C3~C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(3VREFH+5VREFL)/8となる。
ステップ3のケース2-2では、1個の容量素子C0は第1基準電位VREFHに接続され、7個の容量素子C1~C7は第2基準電位VREFLに接続される。したがって、DA変換部10Aから出力されるデータCTOPは(VREFH+7VREFL)/8となる。
このように、各ステップ・各ケースにおいて第3動作例のDA変換部10Aから出力されるデータCTOPは、前述した第1および第2の各動作例の場合にDA変換部10Aから出力されるデータCTOPと同じ値となる。
上記の第1~第3の動作例の何れにおいても、初期化ステップから逐次比較の最初のステップ1に移行する際、および、逐次比較の或るステップから次のステップに移行する際に、基準電位供給線経由の電荷移動が生じる。V=VREFH-VREFLとすると、初期化ステップから逐次比較のステップ1に移行する際の電荷移動量は2CVである。ステップ1から次のステップ2のケース1に移行する際の電荷移動量はCV/2である。ステップ1から次のステップ2のケース2に移行する際の電荷移動量は3CV/2である。ステップ2のケース1から次のステップ3のケース1-1に移行する際、ステップ2のケース1から次のステップ3のケース1-2に移行する際、ステップ2のケース2から次のステップ3のケース2-2に移行する際、および、ステップ2のケース2から次のステップ3のケース2-1に移行する際にも、電荷移動が生じる。
逐次比較の各ステップにおけるDA変換部10Aの電荷移動量は、直前のステップの比較部20による比較結果のみでは決まらず、最初のステップから直前のステップまでの比較部20による比較結果の履歴に応じて異なる。一方、逐次比較の各ステップにおけるDA変換部10Aの電荷移動量は、基準電位供給線に基準電位(VREFH,VREFL)を出力するバッファの特性には依存しない。
そこで、前述したとおり、非特許文献4,5に記載された技術は、最初のステップから直前のステップまでの比較部による比較結果の履歴に基づいて、基準電位供給線に対して注入する電荷の量をステップ毎に設定する。しかし、電荷注入を行うステップの数が多くなると、電荷注入量を決める為の回路は、論理が複雑になり、また、処理に要する時間が長くなる。すなわち、各ステップの期間の短縮化の意図に反する結果となる場合がある。
また、基準電位供給線に対して注入する電荷の量をステップ毎に短時間で正確に設定することができたとしても、その電荷をDA変換部に正確に注入することは困難である。その理由は次のとおりである。基準電位供給線に基準電位(VREFH,VREFL)を出力するバッファの出力インピーダンスが比較的小さいことから、注入した電荷の全てがDA変換部のみに流れるとは限らない。キックバックによる電荷移動のタイミングと電荷注入のタイミングとが少しでも異なると、基準電位の変動が生じて、バッファからの電荷注入が発生してしまう。キックバックによる電荷移動は高速であるので、キックバックによる電荷移動に電荷注入のタイミングを合わせることは困難である。非特許文献4でも、電荷注入した場合の基準電位の時間波形においてリップルが残っている様子が見える。
このように、非特許文献4,5に記載された技術は、比較部による比較結果の履歴に基づいて電荷注入量をステップ毎に設定するものの、その為の論理が複雑で所要時間が長くなり、しかも、意図した量の電荷をDA変換部に注入することが困難である。
本実施形態では、電荷注入部50は、逐次比較の何れかステップにおいて、第1基準電位VREFHをDA変換部10Aへ与える基準電位供給線(VREFH供給線)、または、第2基準電位VREFLをDA変換部10Aへ与える基準電位供給線(VREFL供給線)に対し、逐次比較のステップ毎の比較部20による比較結果の履歴に依らず一定量の電荷を注入して、DA変換部10AのスイッチSW0~SWN-1の設定変更に伴う基準電位供給線の電位変動を抑制する。したがって、電荷注入部50は、論理が簡単であるので、逐次比較の多くのステップにおいて電荷注入を行うことができる。そして、本実施形態のAD変換器1Aは、キックバックを小さくして、逐次比較の各ステップの期間を短縮することができ、高速動作が容易となる。
キックバックは、逐次比較の最初のステップでは大きく、ステップが進むに従って小さくなっていく傾向がある。したがって、電荷注入部50は、逐次比較の少なくとも最初のステップにおいて、VREFH供給線またはVREFL供給線に対し電荷を注入するのが好適である。また、電荷注入部50は、逐次比較のステップが進むに従って、VREFH供給線またはVREFL供給線に対し注入する電荷の量を適正化するのが好適である。
電荷注入部50は、VREFH供給線に対し一定量の電荷を注入するとともに、VREFL供給線に対し一定量の電荷を注入するのが好適である。電荷注入部50は、第2基準電位VREFLが接地電位と同じである場合には、VREFH供給線に対してのみ一定量の電荷を注入してもよい。なお、基準電位供給線に対して電荷を注入する場合の他、基準電位供給線から電荷を引き抜く場合もあるが、これらを総称して注入という。
電荷注入部50は、電荷を蓄積する容量部を含む構成を有し、その容量部に蓄積した電荷を逐次比較の所定のステップにおいてVREFH供給線またはVREFL供給線に対し注入する。電荷注入部50は、逐次比較の複数のステップにおいて電荷注入を行う場合には、それら複数のステップそれぞれに対応して容量部を含む構成を有する。この場合、容量部の容量値はステップ毎に異なる。
また、電荷注入部50は、VREFH供給線およびVREFL供給線の双方に対して電荷注入を行う場合には、VREFH供給線およびVREFL供給線それぞれに対応して容量部を含む構成を有する。この場合、VREFH供給線に対応する容量部の容量値と、VREFL供給線に対応する容量部の容量値とは、互いに同じであってもよい。
電荷注入部50は、容量部に電荷を蓄積する際に、第1電源電位または第2電源電位を用いてもよい。第1電源電位および第2電源電位のうち一方は高電位の電源電位(VDD電位)であり、他方は低電位の接地電位(VSS電位)である。以下では、VDD電位をDA変換部10Aへ与える電源電位供給線をVDD供給線といい、VSS電位をDA変換部10Aへ与える電源電位供給線をVSS供給線という。
第1基準電位VREFHはVDD電位と同じであってもよい。第2基準電位VREFLはVSS電位と同じであってもよい。一般に、第1基準電位VREFHおよび第2基準電位VREFLは、VDD電位およびVSS電位によって駆動されるバッファにより生成されて出力される。また、一般に、VSS≦VREFL であり、VREFH≦VDD である。
電荷注入部50の容量部は、電荷蓄積時と電荷注入時との間の遷移の際に、両端がオープン状態となるのが好適である。このようにすることで、意図しない電荷の移動を抑制することができる。
電荷注入部50の容量部は、電荷蓄積時に基準電位供給線から切り離されているのが好適である。このようにすることで、電荷蓄積に因る基準電位供給線の電位変動を抑制することができるので、電荷蓄積時と電荷注入時との間の遷移のタイミングの自由度が高くなる。また、電荷蓄積の期間を長くとることができるので、電荷蓄積時に容量部に流れる電流を小さくすることができる。
電荷注入部50の容量部の容量値は可変であるのが好適である。第1基準電位VREFHおよび第2基準電位VREFLを生成するバッファの応答特性、および、基準電位供給線に設けられるデカップリング容量部の容量値などに応じて、容量部の容量値が設定されるのが好適である。
次に、電荷注入部50の回路例として、電荷注入部51~53の各構成について説明する。以下に示す回路例は、逐次比較の1ステップ分の構成である。
図5は、電荷注入部50の第1回路例としての電荷注入部51の構成を示す図である。電荷注入部51は、容量部101,102およびスイッチ111,112,121,122を備える。容量部101,102それぞれの容量値は、互いに異なっていてもよいが、互いに等しいのが好適である。スイッチ111,112,121,122それぞれは、制御部30Aから与えられる信号NSWに基づいて設定される。
容量部101の第1端101aは、スイッチ111により、VDD供給線に接続された状態、VREFH供給線に接続された状態、および、オープン状態、の何れかとされる。容量部101の第2端101bは、スイッチ121により、VSS供給線に接続された状態、VDD供給線に接続された状態、および、オープン状態、の何れかとされる。
容量部102の第1端102aは、スイッチ112により、VSS供給線に接続された状態、VREFL供給線に接続された状態、および、オープン状態、の何れかとされる。容量部102の第2端102bは、スイッチ122により、VDD供給線に接続された状態、VSS供給線に接続された状態、および、オープン状態、の何れかとされる。
信号NSWがローレベルである期間、容量部101の第1端101aはスイッチ111によりVDD供給線に接続され、容量部101の第2端101bはスイッチ121によりVSS供給線に接続される。これにより、容量部101に電荷が蓄積される。また、信号NSWがローレベルである期間、容量部102の第1端102aはスイッチ112によりVSS供給線に接続され、容量部102の第2端102bはスイッチ122によりVDD供給線に接続される。これにより、容量部102に電荷が蓄積される。この電荷蓄積の所要時間は長くても構わないので、電荷蓄積時の各スイッチのオン抵抗値は大きくてもよい。また、電荷蓄積時の各スイッチのオン抵抗値を大きくすることで、電源ノイズを低減することができる。
信号NSWがハイレベルになると、容量部101の第1端101aはスイッチ111によりVREFH供給線に接続され、容量部101の第2端101bはスイッチ121によりVDD供給線に接続される。これにより、これまでに容量部101に蓄積されていた電荷はVREFH供給線に対し注入される。また、信号NSWがハイレベルになると、容量部102の第1端102aはスイッチ112によりVREFL供給線に接続され、容量部102の第2端102bはスイッチ122によりVSS供給線に接続される。これにより、これまでに容量部102に蓄積されていた電荷はVREFL供給線に対し注入される。この電荷注入は短時間で行われるのが好ましく、したがって、電荷注入時の各スイッチのオン抵抗値は小さいのが好ましい。
なお、意図しない電荷の移動を回避するために、上記の電荷蓄積期間と電荷注入期間との間の遷移時には、スイッチ111,121により容量部101の両端をオープン状態とし、スイッチ112,122により容量部102の両端をオープン状態とする。
図6は、電荷注入部50の第2回路例としての電荷注入部52の構成を示す図である。電荷注入部52は、容量部201,202、PMOSトランジスタ211,212、NMOSトランジスタ221,222、NMOSトランジスタ231、PMOSトランジスタ232、抵抗器241,242、および、インバータ回路261,262を含む。容量部201,202それぞれの容量値は、互いに異なっていてもよいが、互いに等しいのが好適である。
容量部201の第1端201aは、VREFH供給線に接続されている。容量部201は、第2端201bのレベルに応じて電荷蓄積またはVREFH供給線への電荷注入を行う。PMOSトランジスタ211およびNMOSトランジスタ221は、インバータ回路を構成している。すなわち、PMOSトランジスタ211のソースはVDD供給線に接続されている。NMOSトランジスタ221のソースはVSS供給線に接続されている。PMOSトランジスタ211およびNMOSトランジスタ221それぞれのゲートは、互いに接続されて入力端となっている。PMOSトランジスタ211およびNMOSトランジスタ221それぞれのドレインは、互いに接続されて出力端となっている。この出力端は、容量部201の第2端201bに接続されている。
PMOSトランジスタ211およびNMOSトランジスタ221からなるインバータ回路において、入力端とNMOSトランジスタ221のゲートとの間に、NMOSトランジスタ231および抵抗器241が設けられている。NMOSトランジスタ231のドレインは、抵抗器241に接続され、また、NMOSトランジスタ221,231それぞれのゲートに接続されている。NMOSトランジスタ231のソースはVSS供給線に接続されている。NMOSトランジスタ221,231はカレントミラー回路を構成している。
NMOSトランジスタ231および抵抗器241は、容量部201において電荷注入の後に電荷蓄積を開始した際にインバータ回路の出力端と容量部201の第2端201bとの間に流れる電流の大きさを制限する電流制限回路251を構成している。すなわち、抵抗器241の抵抗値に応じた大きさの電流がNMOSトランジスタ231に流れるとともに、これに応じた大きさの電流がNMOSトランジスタ221に流れる。
容量部202の第1端202aは、VREFL供給線に接続されている。容量部202は、第2端202bのレベルに応じて電荷蓄積またはVREFL供給線への電荷注入を行う。PMOSトランジスタ212およびNMOSトランジスタ222は、インバータ回路を構成している。すなわち、PMOSトランジスタ212のソースはVDD供給線に接続されている。NMOSトランジスタ222のソースはVSS供給線に接続されている。PMOSトランジスタ212およびNMOSトランジスタ222それぞれのゲートは、互いに接続されて入力端となっている。PMOSトランジスタ212およびNMOSトランジスタ222それぞれのドレインは、互いに接続されて出力端となっている。この出力端は、容量部202の第2端202bに接続されている。
PMOSトランジスタ212およびNMOSトランジスタ222からなるインバータ回路において、入力端とPMOSトランジスタ212のゲートとの間に、PMOSトランジスタ232および抵抗器242が設けられている。PMOSトランジスタ232のドレインは、抵抗器242に接続され、また、PMOSトランジスタ212,232それぞれのゲートに接続されている。PMOSトランジスタ232のソースはVDD供給線に接続されている。PMOSトランジスタ212,232はカレントミラー回路を構成している。
PMOSトランジスタ232および抵抗器242は、容量部202において電荷注入の後に電荷蓄積を開始した際にインバータ回路の出力端と容量部202の第2端202bとの間に流れる電流の大きさを制限する電流制限回路252を構成している。すなわち、抵抗器242の抵抗値に応じた大きさの電流がPMOSトランジスタ232に流れるとともに、これに応じた大きさの電流がPMOSトランジスタ212に流れる。
インバータ回路261は、制御部30Aから出力された信号NSWを入力して、その入力信号に対して論理反転して信号を出力する。PMOSトランジスタ211およびNMOSトランジスタ221からなるインバータ回路は、このインバータ回路261から出力された信号を入力して、電荷蓄積または電荷注入を行う。
インバータ回路262は、インバータ回路261から出力された信号を入力して、その入力信号に対して論理反転した信号を出力する。PMOSトランジスタ212およびNMOSトランジスタ222からなるインバータ回路は、このインバータ回路262から出力された信号を入力して、電荷蓄積または電荷注入を行う。
この回路例では、信号NSWがローレベルである期間、容量部201,202に電荷が蓄積される。信号NSWがハイレベルになると、これまでに容量部201に蓄積されていた電荷はVREFH供給線に対し注入され、また、これまでに容量部202に蓄積されていた電荷はVREFL供給線に対し注入される。また、この回路例では、電流制限回路251,252が設けられていることにより、逐次比較の処理中に電荷蓄積動作に遷移しても、基準電位供給線の電位変動を抑制することができる。
図7は、電荷注入部50の第3回路例としての電荷注入部53の構成を示す図である。電荷注入部53は、容量部301,302、PMOSトランジスタ311、NMOSトランジスタ312、PMOSトランジスタ321、NMOSトランジスタ322、インバータ回路331~335,341,342,351,352、NANDゲート回路361,362、および、インバータ回路363を含む。容量部301,302それぞれの容量値は、互いに異なっていてもよいが、互いに等しいのが好適である。
容量部301の第1端301aは、PMOSトランジスタ311を介してVREFH供給線に接続され、PMOSトランジスタ321を介してVDD供給線に接続されている。容量部301の第2端301bは、インバータ回路351の出力端に接続されている。PMOSトランジスタ311は、容量部301の第1端301aとVREFH供給線との間に設けられた第1スイッチであり、インバータ回路341の出力端から出力される信号をゲートに入力して、その入力信号のレベルに応じてオン/オフが制御される。PMOSトランジスタ321は、容量部301の第1端301aとVDD供給線との間に設けられた第2スイッチであり、NANDゲート回路361の出力端から出力される信号をゲートに入力して、その入力信号のレベルに応じてオン/オフが制御される。
容量部302の第1端302aは、NMOSトランジスタ312を介してVREFL供給線に接続され、NMOSトランジスタ322を介してVSS供給線に接続されている。容量部302の第2端302bは、インバータ回路351の出力端に接続されている。NMOSトランジスタ312は、容量部302の第1端302aとVREFL供給線との間に設けられた第1スイッチであり、インバータ回路342の出力端から出力される信号をゲートに入力して、その入力信号のレベルに応じてオン/オフが制御される。NMOSトランジスタ322は、容量部302の第1端302aとVSS供給線との間に設けられた第2スイッチであり、NANDゲート回路362の出力端から出力されインバータ回路363により論理反転された信号をゲートに入力して、その入力信号のレベルに応じてオン/オフが制御される。
インバータ回路331~335は、この順に直列的に接続されており、制御部30Aから出力された信号NSWを初段のインバータ回路331に入力して、その信号に対して各段のインバータ回路において順次に論理反転するとともに所定の遅延を与える。
インバータ回路341は、インバータ回路332から出力された信号を入力して、その入力信号を論理反転した信号をPMOSトランジスタ311のゲートへ出力する。インバータ回路342は、インバータ回路333から出力された信号を入力して、その入力信号を論理反転した信号をNMOSトランジスタ312のゲートへ出力する。インバータ回路351は、インバータ回路333から出力された信号を入力して、その入力信号を論理反転した信号を容量部301の第2端301bへ出力する。インバータ回路352は、インバータ回路334から出力された信号を入力して、その入力信号を論理反転した信号を容量部302の第2端302bへ出力する。
NANDゲート回路361は、インバータ回路331,335それぞれから出力された信号を入力して、これら2つの信号の否定論理積の信号をPMOSトランジスタ321のゲートへ出力する。NANDゲート回路362およびインバータ回路363は、インバータ回路331,335それぞれから出力された信号を入力して、これら2つの信号の論理積の信号をNMOSトランジスタ322のゲートへ出力する。
この回路例では、信号NSWがローレベルである期間、PMOSトランジスタ311およびNMOSトランジスタ312がオフ状態となるとともに、PMOSトランジスタ321およびNMOSトランジスタ322がオン状態となって、容量部301,302に電荷が蓄積される。信号NSWがハイレベルになると、PMOSトランジスタ311およびNMOSトランジスタ312がオン状態となるとともに、PMOSトランジスタ321およびNMOSトランジスタ322がオフ状態となって、これまでに容量部301に蓄積されていた電荷はVREFH供給線に対し注入され、また、これまでに容量部302に蓄積されていた電荷はVREFL供給線に対し注入される。
また、この回路例では、PMOSトランジスタ311およびPMOSトランジスタ321が同時にオン状態になることはなく、VREFH供給線とVDD供給線とが互いに接続されることはない。NMOSトランジスタ312およびNMOSトランジスタ322は同時にオン状態になることはなく、VREFL供給線とVSS供給線とが互いに接続されることはない。
(第2構成例)
図8は、AD変換器1Bの構成を示す図である。この図に示される第2構成例のAD変換器1Bは、DA変換部10B、比較部20、制御部30B、スイッチ40および電荷注入部50を備える。AD変換器1Bは、入力アナログデータAinに応じたデジタルデータを制御部30Bから出力する。
DA変換部10Bは、N個の容量素子C0~CN-1およびN個のスイッチSW0~SWN-1を含む。N個のスイッチSW0~SWN-1は、制御部30Bから出力される制御信号に基づいて設定される。各容量素子Cnの第1端は、対応するスイッチSWnと接続されている。各容量素子Cnの第1端は、スイッチSWnの設定により、高電位の第1基準電位VREFHまたは低電位の第2基準電位VREFLとされる。各容量素子Cnの第2端は、共通に接続されて出力端を構成している。DA変換部10Bは、入力アナログデータAinをN個の容量素子C0~CN-1によりホールドした後、N個のスイッチSW0~SWN-1それぞれの設定に応じたデータCTOPを比較部20へ出力する。
なお、Nは2以上の整数であり、nは0以上(N-1)以下の整数である。また、N個の容量素子C0~CN-1のうち何れかの容量素子の第1端は一定電位とされる場合があり、その場合には、その容量素子に対応するスイッチは不要である。
比較部20は、2つの入力端それぞれに入力されるデータを大小比較して、その比較結果を表す比較信号を制御部30Bへ出力する。第2構成例では、比較部20は、DA変換部10Bから出力されたデータCTOPを一方の入力端に入力し、基準レベルVCMを他方の入力端に入力する。基準レベルVCMは、例えば、第1基準電位VREFHと第2基準電位VREFLとの平均値である。または、基準レベルVCMは、比較部20が最も高性能(例えば、高感度、高SN比)に動作することができる値に設定される場合もある。スイッチ40は、比較部20の2つの入力端の間に設けられている。
制御部30Bは、比較部20から出力された比較信号に基づいて、逐次比較のステップ毎に、DA変換部10Bから出力されるデータCTOPと入力アナログデータAinとの差が小さくなるように制御信号を生成して、その制御信号をDA変換部10Bへ出力する。
電荷注入部50は、逐次比較の何れかステップにおいて、VREFH供給線またはVREFL供給線に対し、逐次比較のステップ毎の比較部20による比較結果の履歴に依らず一定量の電荷を注入して、DA変換部10BのスイッチSW0~SWN-1の設定変更に伴う基準電位供給線の電位変動を抑制する。この電荷注入部50については前述したとおりである。
このAD変換器1Bでは、初期化ステップにおいて、スイッチ40がオン状態となってCTOPがVCMに初期化されるとともに、各スイッチSWnの設定によって各容量素子Cnに入力アナログデータAinがホールドされる。AD変換器1Bは、この初期化ステップの後の逐次比較の各ステップでは、前述したAD変換器1Aの場合と同じ動作が可能である。
図9は、AD変換器1Bの各スイッチSWnの回路例を示す図である。各スイッチSWnは、スイッチSWA、スイッチSWHおよびスイッチSWLを含む。これらのスイッチは、ゲート電圧の大きさに応じてソースとドレインとの間の導通/非導通が設定されるMOSトランジスタにより構成され得る。
スイッチSWHは、VREFH供給線と容量素子Cnとの間に設けられている。スイッチSWHは、ゲート回路G1から出力される信号に基づいてオン/オフの設定が制御される。スイッチSWLは、VREFL供給線と容量素子Cnとの間に設けられている。スイッチSWLは、ゲート回路G2から出力される信号に基づいてオン/オフの設定が制御される。スイッチSWAは、入力アナログデータAinが入力される線と容量素子Cnとの間に設けられている。スイッチSWAは、信号ASWに基づいてオン/オフの設定が制御される。
ゲート回路G1は、信号Cntlおよび信号ACTを入力して、これら2つの入力信号の値の論理積の値を有する信号をスイッチSWHに与える。ゲート回路G2は、信号Cntlの論理反転信号および信号ACTを入力して、これら2つの入力信号の値の論理積の値を有する信号をスイッチSWLに与える。ゲート回路G1,G2は、DA変換部10Bに設けられるのが好適である。
Cntlは、バイナリコードであるCcodeの何れかのビット、または、Ccodeをデコードして得られるサーモメータコードの何れかのビットである。ASWがハイレベルであるとき、各容量素子Cnに入力アナログデータAinがホールドされる。ASW がローレベルであって、ACTがハイレベルであるとき、容量素子Cnは、Cntlの値に応じて第1基準電位VREFHまたは第2基準電位VREFLに接続される。
図10は、AD変換器1Bの各スイッチSWnの動作を説明するタイミングチャートである。この図において、RSTは、スイッチ40のオン/オフを設定する為の信号である。ACTがハイレベルからローレベルに転じた後に、ASWはローレベルからハイレベルに転じ、RSTもローレベルからハイレベルに転じる。RSTがハイレベルからローレベルに転じた後に、ASWはハイレベルからローレベルに転じ、更にその後にACTはローレベルからハイレベルに転じる。
ACTがハイレベルからローレベルに転じた後に、ASWはローレベルからハイレベルに転じ、RSTもローレベルからハイレベルに転じる。RSTがハイレベルからローレベルに転じた後に、ASWはハイレベルからローレベルに転じる。初期化ステップにおいて、RSTおよびASWがハイレベルである期間に、スイッチ40がオン状態となって、CTOPがVCMに初期化され、各容量素子Cnに入力アナログデータAinがホールドされる。
なお、このようなスイッチ動作により、入力アナログデータAinが入力される線と基準電位供給線との間に貫通電流が流れることを回避することができ、また、各容量素子Cnにホールドされた入力アナログデータAinがリークすることを回避することができる。
(第3構成例)
図11は、AD変換器1Cの構成を示す図である。この図に示される第3構成例のAD変換器1Cは、第1DA変換部11、第2DA変換部12、比較部20、制御部30C、スイッチ41、スイッチ42および電荷注入部50を備える。AD変換器1Cは、差動のアナログデータ(Ain1,Ain2)を入力し、第1入力アナログデータAin1と第2入力アナログデータAin2との差に応じたデジタルデータを制御部30Cから出力する。
この第3構成例における第1DA変換部11および第2DA変換部12は、前述した第2構成例におけるDA変換部10Bと同じ構成を有する。第1DA変換部11は、第1入力アナログデータAin1を入力する。第2DA変換部12は、第2入力アナログデータAin2を入力する。
第1DA変換部11のN個のスイッチSW0~SWN-1は、制御部30Cから出力される第1制御信号に基づいて設定される。第1DA変換部11は、第1入力アナログデータAin1をN個の容量素子C0~CN-1によりホールドした後、N個のスイッチSW0~SWN-1それぞれの設定に応じた第1データCTOP1を比較部20へ出力する。
第2DA変換部12のN個のスイッチSW0~SWN-1は、制御部30Cから出力される第2制御信号に基づいて設定される。第2DA変換部12は、第2入力アナログデータAin2をN個の容量素子C0~CN-1によりホールドした後、N個のスイッチSW0~SWN-1それぞれの設定に応じた第2データCTOP2を比較部20へ出力する。
なお、Nは2以上の整数であり、nは0以上(N-1)以下の整数である。また、第1DA変換部11および第2DA変換部12それぞれにおいて、N個の容量素子C0~CN-1のうち何れかの容量素子の第1端は一定電位とされる場合があり、その場合には、その容量素子に対応するスイッチは不要である。
比較部20は、2つの入力端それぞれに入力されるデータを大小比較して、その比較結果を表す比較信号を制御部30Cへ出力する。第3構成例では、比較部20は、第1DA変換部11から出力された第1データCTOP1を一方の入力端に入力し、第2DA変換部12から出力された第2データCTOP2を他方の入力端に入力する。スイッチ41は、比較部20の一方の入力端と基準レベルVCM供給線との間に設けられている。スイッチ42は、比較部20の他方の入力端と基準レベルVCM供給線との間に設けられている。基準レベルVCMは、例えば、第1基準電位VREFHと第2基準電位VREFLとの平均値である。または、基準レベルVCMは、比較部20が最も高性能(例えば、高感度、高SN比)に動作することができる値に設定される場合もある。
制御部30Cは、比較部20から出力された比較信号に基づいて、逐次比較のステップ毎に、第1データCTOP1と第2データCTOP2との差が小さくなるように第1制御信号および第2制御信号を生成して、第1制御信号を第1DA変換部11へ出力し、第2制御信号を第2DA変換部12へ出力する。
電荷注入部50は、逐次比較の何れかステップにおいて、VREFH供給線またはVREFL供給線に対し、逐次比較のステップ毎の比較部20による比較結果の履歴に依らず一定量の電荷を注入して、第1DA変換部11および第2DA変換部12のスイッチSW0~SWN-1の設定変更に伴う基準電位供給線の電位変動を抑制する。この電荷注入部50については前述したとおりである。
このAD変換器1Cでは、初期化ステップにおいて、スイッチ41,42の双方がオン状態となってCTOP1,CTOP2の双方がVCMに初期化されるとともに、第1DA変換部11において各スイッチSWnの設定によって各容量素子Cnに第1入力アナログデータAin1がホールドされ、第2DA変換部12において各スイッチSWnの設定によって各容量素子Cnに第2入力アナログデータAin2がホールドされる。AD変換器1Cは、この初期化ステップの後の逐次比較の各ステップでは、例えば次のような動作をする。
図12は、AD変換器1Cの動作例を説明する表である。図12(a)は、AD変換器1Cの第1DA変換部11の動作を示す。図12(b)は、AD変換器1Cの第2DA変換部12の動作を示す。この動作例では、N=8とし、8個の容量素子C0~C7それぞれの容量値をCとする。また、この動作例では、Ccode[c2,c1,c0]をデコードして得られるサーモメータコードに基づいて各容量素子の接続が決められる。制御部30Cから第2DA変換部12に与えられるCcode2は、制御部30Cから第1DA変換部11に与えられるCcode1の各ビットの極性を反転したものである。
この動作例では、逐次比較の各ステップにおいて、8個の容量素子C0~C7の何れも、第1基準電位VREFHまたは第2基準電位VREFLに接続される。第1DA変換部11の動作は、前述の図4で説明したAD変換器1Aの動作例と同様である。第2DA変換部12から出力される第2データCTOP2は、第1DA変換部11から出力される第2データCTOP1に対し2の補数となる。
図13は、AD変換器1Cの動作例を説明するタイミングチャートである。この動作例では、出力すべきデジタルデータを5ビットデータとし、逐次比較のステップ1~5のうちステップ3とステップ4との間に冗長ステップが挿入されている。逐次比較の各ステップにおいて、電荷注入部50によりVREFH供給線およびVREFL供給線それぞれに対して所定量の電荷が注入される。
NSW1は、ステップ1において電荷注入部50により電荷を注入する為に制御部30Cから与えられる信号である。ACTがハイレベルに転じると、NSW1もハイレベルに転じる。ステップ1の期間、NSW1はハイレベルである。NSW2は、ステップ2において電荷注入部50により電荷を注入する為に制御部30Cから与えられる信号である。ステップ2の期間、NSW2はハイレベルである。ただし、NSW1,NSW2のタイミングの正確性は要求されない。何故なら、第1基準電位VREFHおよび第2基準電位VREFLを生成するバッファの応答が遅いからである。
この図には、実施例(電荷注入部50を動作させる場合)および比較例(電荷注入部50を動作させない場合)それぞれについて、第1基準電位VREFHと第2基準電位VREFLとの差(VREFH-VREFL)の時間変化が模式的に示されている。実際には逐次比較のステップ毎の比較部20による比較結果の履歴等によって基準電位差の時間波形は異なるが、概ね、この図に示されるような基準電位差の時間波形となる。また、各ステップにおいて、比較部20による比較のタイミングが矢印で示され、また、電荷注入部50による電荷注入のタイミングも矢印で示されている。
各ステップにおける比較部20による比較のタイミング(例えば、各ステップの期間の中央付近)までに基準電位の変動は整定していることが要求される。しかし、電荷注入部を用いない比較例では、AD変換器の高速化・高精度化が進むに従って、比較タイミングまでに基準電位の変動を整定させることは、より困難となってきている。電荷注入部50は、このような問題に対処するために設けられる。
この図に示される実施例では、電荷注入部50による電荷注入を過補償気味とし、各ステップにおける比較部20による比較のタイミングにおいて基準電位の変動幅をできるかぎり小さくして、後段のステップにおける基準電位の変動幅を小さくしている。
この図に示される実施例では、ステップ1の期間においてのみNSW1をハイレベルとして、ステップ1終了時にNSW1をローレベルに転じさせている。同様に、ステップ2の期間においてのみNSW2をハイレベルとして、ステップ2終了時にNSW2をローレベルに転じさせている。このようにすることで、電荷注入部50の電荷蓄積用の容量部は、基準電位供給線から早期に切り離されて、電荷蓄積に使える時間を長くとることができる。これにより、電荷注入部50の電荷蓄積用の容量部へ流れる電流を小さくすることができ、電源ノイズの低減に寄与することができる。もし、1つのステップで電荷注入を終わらせることが難しい場合は、NSWのパルス幅を長くしてよい。その場合、NSW1とNSW2との間にオーバーラップ期間が生じても問題ない。
また、この図に示される例では、逐次比較のステップ1~5のうちステップ3とステップ4との間に冗長ステップが挿入されている。この冗長ステップまでに基準電位の変動は十分に整定していることが好ましい。このようにするには、電荷注入量だけでなく他の制約条件を含めて、AD変換器の全体を適切に設計することが重要である。
図14は、AD変換器1Cの動作のシミュレーション結果を示す図である。このシミュレーションでは、出力すべきデジタルデータを12ビットデータとし、逐次比較のステップ1~12に2つの冗長ステップを加え、また、入力アナログデータのサンプリング・ホールドに2ステップ分の時間を要するとして、1つの入力アナログデータに対するAD変換処理を合計16ステップ分の期間で行う。DA変換部の各容量素子の接続は、12ビットのCcodeをデコードして得られるサーモメータコードおよび冗長制御信号に基づいて設定される。DA変換部の各容量素子の第2端が比較部の入力端に接続されて、DA変換部の各容量素子の第1端に入力アナログデータAinが入力されるボトムプレートサンプリングの構成である。
逐次比較のステップ1,2,3,5,7,8それぞれにおいて、電荷注入部50によりVREFH供給線およびVREFL供給線それぞれに対して所定量の電荷が注入される。電荷注入量は、揺れ幅ができるだけセンター付近に留まるように調整される。冗長補正能力は上下対称に作られているので、各ステップの変動範囲のセンターが全て揃っていることが望ましいからである。
この図には、実施例(電荷注入部50を動作させる場合)および比較例(電荷注入部50を動作させない場合)それぞれについて、様々な値の入力アナログデータについてAD変換処理を行ったときの第1基準電位VREFHと第2基準電位VREFLとの差(VREFH-VREFL)の時間変化が重ねて示されている。各ステップにおける比較部20による比較のタイミング(各ステップの期間の中央付近)における基準電位の変動幅は、比較例に比べて実施例では小さくなっている。電荷注入により得られる効果は、逐次比較の最初のステップ1およびステップ2で顕著である。
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明の考え方は逐次比較型AD変換器全般に適用できる。例えば、逐次比較のステップの途中または最後に冗長ステップを挿入してもよい。
上述した第2および第3の構成例のAD変換器は、DA変換部の各容量素子の第2端が比較部の入力端に接続されて、DA変換部の各容量素子の第1端に入力アナログデータAinが入力されるボトムプレートサンプリングの構成であった。AD変換器は、比較部の入力端に接続されるDA変換部の各容量素子の第2端に入力アナログデータが入力されるトッププレートサンプリングの構成であってもよい。