JP7141067B2 - ボイラ用腐食抑制剤の製造方法及びボイラとボイラの腐食抑制方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、強い酸洗処理を行い過ぎると、腐食抑制剤を合成するために必要な成分であるSi、Alの流出により、腐食抑制効果を有する腐食抑制剤を合成することができないため、特許文献1をそのまま適用することは難しい。
また、水洗処理、塩酸処理にてCaを十分に除去できていない場合、アルカリ水熱処理時に、炭酸カルシウムの生成割合が増え、腐食抑制効果が低下する。特許文献1には、アルカリ水熱処理に用いる原料のCa含有率の下限値に関する記載がない。
さらに、Si、Alの含有率が低い焼却飛灰を用いて腐食抑制剤を合成する場合、水洗処理、酸洗処理によりSi、Alの溶出を抑えながらPb、Zn、Cuの重金属、Ca、Na、K、Clを除去する必要がある。Si、Alの濃縮が不十分な場合、腐食抑制剤が生成されないか、あるいは、腐食抑制効果が低い腐食抑制剤が生成する。しかしながら、特許文献1には、アルカリ水熱処理に用いる焼却飛灰のSi、Alの含有率の下限値に関する記載がない。
(1)本発明のボイラ用腐食抑制剤の製造方法は、ごみ処理施設で発生した燃焼灰を取得する取得工程と、前記取得工程で取得された燃焼灰を水洗処理又は酸洗処理する洗浄処理工程と、前記洗浄処理工程にて水洗処理又は酸洗処理された燃焼灰からボイラ用腐食抑制剤を得る製造工程を備え、前記洗浄処理工程に、前記燃焼灰と水を含む第1のスラリーを撹拌、混合し、前記燃焼灰に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製する第1の工程と、前記第2のスラリーを液分と水洗処理後の燃焼灰に分離する第2の工程と、前記水洗処理後の燃焼灰と水とを含む第3のスラリーを撹拌、混合しながら、塩酸または硝酸を添加し、前記水洗処理後の燃焼灰に含まれるCa、Pb、ZnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸に可溶な化合物を溶出させて、第4のスラリーを調製する第3の工程と、前記第4のスラリーを、液分と前記酸洗処理後の燃焼灰に分離する第4の工程を含み、前記製造工程に、前記酸洗処理後の燃焼灰とアルカリ水溶液とを含む第5のスラリーを加熱しながら、撹拌、混合し、アルカリ水熱処理を行って腐食抑制剤を合成する第5の工程を含み、前記第5の工程において、アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるCaの含有量が16質量%以下、SiとAlの含有量の合計が8.7質量%超となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加することを特徴とする。(2)前記のボイラ用腐食抑制剤の製造方法では、前記第5の工程において、前記アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるSiとAlの含有量の合計が11質量%以上となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加することが好ましい。
(3)前記のボイラ用腐食抑制剤の製造方法では、前記第5の工程において、前記アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるAlに対するSiの比(Si/Al)が、質量比で1.2以上となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加することが好ましい。
BET比表面積が60m 2 /g以上の腐食抑制剤であるならば、表面の凹凸が大きく、表面に腐食物質を吸着することが可能であり、ボイラの内面(特に過熱器官)に腐食物質が到達することを抑制することが可能となる。
BET比表面積が90m2/g以上である腐食抑制剤であるならば、表面の凹凸が大きく、表面に腐食物質を吸着することができるので、ボイラの過熱器官に腐食物質が到達することを抑制できる。
以下、本発明に係る腐食抑制剤の製造方法の実施形態を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態における腐食抑制剤の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰と水とを含む第1のスラリーを撹拌、混合して、溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製する第1の工程(S1)を有する。この第1の工程は水洗処理と呼称することができる。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、前記第2のスラリーを、液分と水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰に分離する第2の工程(S2)を有する。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、前記第4のスラリーを、液分と酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰に分離する第4の工程(S4)を有する。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とアルカリ水溶液とを含む第5のスラリーを加熱しながら、撹拌、混合するアルカリ水熱処理を行い、腐食抑制剤を合成する腐食抑制剤を合成する第5の工程(S5)を有する。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、第5の工程(S5)における第5のスラリーを、液分(例えば、ろ液)と腐食抑制剤とに分離して腐食抑制剤を得る第6の工程(S6)を有する。
第1の工程(S1)は、溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰と水とを含む第1のスラリーを撹拌、混合して、溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させる工程である。すなわち、第1の工程(S1)は、溶融飛灰、焼却飛灰、または、溶融飛灰と焼却飛灰の混合物に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させる工程である。
溶融飛灰は、廃棄物をガス化溶融炉や灰溶融炉で溶融処理する際に発生する煤塵であり、鉛(Pb)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等の元素が含まれている。詳細には、溶融飛灰は、Pb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物や、酸に可溶な化合物を含む。水に可溶な化合物としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩化鉛(II)(PbCl2)等が挙げられる。酸に可溶な化合物としては、酸化銅(II)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、メタケイ酸鉛(PbSiO3)等が挙げられる。溶融飛灰のCa含有量が15質量%以上25質量%以下、Si含有量が2.5質量%以上6.0質量%以下、Al含有量が0.5質量%以上4質量%以下、Pb含有量が0.3質量%以上3質量%以下、Zn含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下、Cu含有量が0.0質量%以上0.5質量%以下、Cl含有量が10質量%以上25質量%以下の範囲である。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法では、溶融飛灰としては、特に、廃棄物を高温溶融により処理する、ごみ処理施設から発生するものを用いることが好ましい。
本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法では、焼却飛灰としては、特に、廃棄物を高温で完全に燃焼させる、ごみ処理施設から発生するものを用いることが好ましい。
なお、溶融飛灰と焼却飛灰の混合物においても、Ca含有量が15質量%以上25質量%以下、Si含有量が2.5質量%以上6.0質量%以下、Al含有量が0.5質量%以上4質量%以下、Pb含有量が0.3質量%以上3質量%以下、Zn含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下、Cu含有量が0.0質量%以上0.5質量%以下、Cl含有量が10質量%以上25質量%以下の範囲である。
第1のスラリーを撹拌、混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、傾斜バトル翼、タービン翼等の撹拌翼により撹拌する方法、反応容器にバッフルプレートを少なくとも2枚対向配置し撹拌翼により撹拌する方法等が挙げられる。
第1のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が400rpm以上であれば、溶融飛灰や焼却飛灰が反応容器の底に滞留することはないが、回転数の増加とともに撹拌するための所要動力が大きくなるため、極力回転数を抑えるほうが好ましい。一方、第1のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が200rpm以下であれば、反応容器の底に溶融飛灰や焼却飛灰が滞留し水に可溶な化合物の溶出が低下する。
第1のスラリーを撹拌、混合する時間が60分以上であっても水に可溶な化合物の溶出率は大差ない(収束している)。一方、第1のスラリーを撹拌、混合する時間が10分以下であれば、水に可溶な化合物の溶出が収束しない。
第2の工程(S2)は、第1の工程(S1)で得られた第2のスラリーを、液分(例えば、ろ液)と水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とに分離する工程である。
なお、水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とは、第1の工程(S1)で、第1のスラリーを撹拌、混合して、溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させる処理を施した溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方のことである。
第3の工程(S3)は、水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰と水とを含む第3のスラリーを撹拌、混合しながら、塩酸または硝酸を添加し、水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰に含まれるPb、ZnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸に可溶な化合物を溶出させる工程である。
第3のスラリーのpHが2.5未満であれば、ボイラ過熱器管の腐食因子であるPb、Zn、Cuといった重金属の溶出率および腐食抑制剤を合成する際の阻害物質であるCaの溶出率は大きくなるが、腐食抑制剤の成分となるSi、Alの溶出率も大きくなるので好ましくない。また、第3のスラリーの粘性が大きくなるため、第4の工程(S4)にて第4のスラリーを、液分と酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方とに分離することが難しくなる。一方、第3のスラリーのpHが2.5以上であれば、特に、第3のスラリーのpHが3.5~5.5であれば、Si、Alの溶出率が抑えられるので好ましい。なお、第3のスラリーpHが大きくなるほど、ボイラ過熱器管の腐食因子であるPb、Zn、Cuの溶出率は低下するが、腐食抑制効果が得られることは確認している。
塩酸または硝酸を含む第3のスラリーを撹拌、混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、傾斜バトル翼、タービン翼等の撹拌翼により撹拌する方法、反応容器にバッフルプレートを少なくとも2枚対向配置し撹拌翼により撹拌する方法等が挙げられる。
塩酸または硝酸を含む第3のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が400rpm以上であれば、溶融飛灰等が反応容器の底に滞留することはないが、回転数の増加とともに撹拌するための所要動力は大きくなるため、極力小さいほうが好ましい。一方、塩酸または硝酸を含む第3のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が200rpm以下であれば、反応容器の底に滞留し水に可溶な化合物の溶出が低下する。
塩酸または硝酸を含む第3のスラリーを撹拌、混合する時間が60分以上であっても酸に可溶な化合物の溶出はほぼ収束している。一方、塩酸または硝酸を含む第3のスラリーを撹拌、混合する時間が10分以下であれば、酸に可溶な化合物と酸との反応が十分に進まない可能性がある。
第4の工程(S4)は、第3の工程(S3)で得られた第4のスラリーを、液分(例えば、ろ液)と酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とに分離する工程である。
なお、酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とは、第3の工程(S3)で、塩酸または硝酸を添加した第3のスラリーを撹拌、混合して、水洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰に含まれるPb、ZnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸に可溶な化合物を溶出させる処理を施した溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰のことである。
以上説明のように得られた酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰を腐食抑制剤として用いても良い。
第5の工程(S5)は、酸洗処理後の溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とアルカリ水溶液とを含む第5のスラリーを加熱しながら、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成する工程である。
アルカリ水溶液の濃度は、1N以上~4N以下であることが好ましい。
アルカリ水溶液の濃度が低すぎると溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰からの反応成分の溶出が遅くなり腐食抑制剤が生成しにくく、濃度が高すぎるとゲルネットワーク構造が強固すぎてゲル内における各イオンの移動が過度に制限され、腐食抑制剤を生成する反応が起こり難くなる可能性がある。
第5のスラリーを撹拌、混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、傾斜バトル翼、タービン翼等の撹拌翼により撹拌する方法、反応容器にバッフルプレートを少なくとも2枚対向配置し撹拌翼により撹拌する方法等が挙げられる。
第5のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が200rpm以上であれば、溶融飛灰が反応容器の底に滞留することはないが、回転数の増加とともに撹拌するための所要動力は大きくなるため、極力小さいほうが好ましい。一方、第5のスラリーを撹拌するときの撹拌翼等の回転数が200rpm以下であれば、反応容器の底に滞留することで第5のスラリーに含まれている溶融飛灰および焼却飛灰の少なくとも一方である燃焼灰とアルカリ水溶液との接触率が低下し、腐食抑制剤の生成が阻害される。
Al源としては、例えば、アルミン酸ナトリウムを用いるのが一般的であるが、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、Alを含むフライアッシュ、溶融スラグ、鉄鋼スラグ等が挙げられる。
第6の工程(S6)は、第5の工程(S5)における第5のスラリーを、液分(例えば、ろ液)と腐食抑制剤とに分離する工程である。
得られた腐食抑制剤は、C-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)、C-A-S-H(カルシウムアルミノシリケート水和物)の少なくとも一方を含むアモルファスあるいはこれらを含まないアモルファス、又は、これら双方のアモルファスをまとめた主要成分としてのアモルファスを40質量%以上含有し、更に、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミネート相、ヘルシナイト、ゼオライト、ゲーレナイト、マグネシオフェライト、マグネシウム亜鉛鉄イオンオキサイド、チタン酸カルシウム、酸化亜鉛、アケルマナイトからなる郡から選択された少なくとも1種又は2種以上が含有されている。
また、この腐食抑制剤は、例えば、平均粒径(d50メディアン径)が10μm以上25μm以下であり、BET比表面積が30~140m2/gと大きい。
このため、ボイラの排ガス通路などに供給した場合、排ガス通路内のHCl、SO2などの腐食性ガスを吸着し、さらに、腐食性ガスを吸着した腐食抑制剤および腐食性ガスを吸着していない腐食抑制剤が過熱器管の金属界面や外表面に形成される腐食層の表面に付着した時に、腐食により発生したCl2およびPbCl2、ZnCl2、CuCl2、NaCl、KClを含む低融点の溶融塩を捕捉することで、腐食抑制効果を発揮できる。
腐食抑制剤の平均粒径(d50メディアン径)が10μm以上25μm以下であり、比較的大きいものの、BET比表面積が30~140m2/gと大きい。このため、上述の腐食抑制剤は、腐食物質の吸着能に優れ、腐食物質が過熱器官に到達することを抑制する効果がある。上述の理由から、BET比表面積は大きい方が望ましく、例えば、60m2/g以上であることが好ましく、90m2/g以上であることがより好ましい。
いずれにしても、本実施形態の腐食抑制剤は、アモルファスを40質量%以上含有していることが好ましい。これら双方のアモルファスの存在は、粉末X線解析(XRD)による定量分析により、把握することができる。
また、アルカリ水熱処理の過程で、C-S-H、C-A-S-Hを含むアモルファスを主成分とする物質が燃焼灰の粒子の表面に生成されるため、本実施形態の製造方法により製造される腐食抑制剤の平均粒径は増大する。
アルカリ水熱処理の過程において、燃焼灰の粒子表面に生成されるアモルファスは小さい(数μm、例えば、ゼオライトよりも小さい)。この結果、腐食抑制剤の比表面積が大きくなり、腐食性ガスを効率よく吸収できる。
本実施形態の製造方法によれば、推定ではあるが、アルカリ水熱処理の過程で、燃焼灰の成分が溶け出し、シリカやアルミナの表面にアモルファスが析出すると考えられる。
また、本実施形態に係る腐食抑制剤の製造方法は、第4の工程(S4)で分離された液分(ろ液)にアルカリ水溶液を添加する第7の工程(S7)を有していてもよい。
この液分は、酸化銅(II)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、メタケイ酸鉛(PbSiO3)等の酸に可溶な化合物を含む水溶液である。
アルカリ水溶液の濃度は特に限定されない。
液分のpHが9.0以上であれば、第4の工程(S4)で分離された液分に含まれるPb、Zn、Cuがアルカリ水溶液と反応し沈殿物を生成する。一方、液分のpHが9.0以下、10.5以上であれば、沈殿物を生成するが、沈殿物中の重金属含有率が低下する。
また、本実施形態の腐食抑制剤の製造方法において、第5の工程において、腐食抑制剤におけるAlに対するSiの比(Si/Al)が、質量比で1.2以上、SiとAlの含有量の合計が11質量%以上となるように、第5のスラリーにSi源およびAl源を添加すれば、Caの含有量、Alの含有量およびSiの含有量が好適な範囲にある腐食抑制剤を得ることができる。
また、過熱器管の腐食を加速させている塩化反応を抑制することで、腐食抑制効果を有する酸化物主体の腐食生成物を形成できるため、過熱器管の腐食を抑制できる。
廃棄物を高温溶融により処理するごみ処理施設から発生する溶融飛灰2kgと水道水10kgとを含む第1のスラリーを、4枚傾斜パドル翼を用いて、10分間、撹拌、混合して、溶融飛灰に含まれるPb、Ca、Na、K、Clを含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製した。
ごみ処理施設から発生した未処理の溶融飛灰に含まれる成分およびその含有量(質量%)の一例を表1に示す。各成分は、蛍光X線分析法およびPb、Zn、Cuの重金属は湿式分解後ICP発光分光分析法により測定した。表1に示すように、溶融飛灰には、ボイラ過熱器管の腐食因子となるPb、Zn、Cuの重金属およびCl、腐食抑制剤合成時の阻害物質であるCa等が含まれている。また、腐食抑制剤の成分となりうるSi、Alも含まれているが、特許文献1で用いているごみ焼却灰、石炭燃焼灰等と比較するとSi、Al含有量が非常に少ないことが分かる。ここで、本実施形態では、Ca含有量が15質量%~25質量%、Si含有量が2.5質量%~6.0質量%、Al含有量が0.5質量%~4質量%、Pb含有量が0.3質量%~3質量%、Zn含有量が1.0質量%~6.0質量%、Cu含有量が0.01質量%~0.5質量%、Cl含有量が10質量%~25質量%の範囲である溶融飛灰および焼却飛灰を対象としている。
水可溶性成分の溶出率(質量%)=ろ液中に含まれる各成分(g)/未処理の溶融飛灰に含まれる各成分(g)×100…(1)式
塩酸の添加を中断した後も第3のスラリーの撹拌混合を続けると、溶融飛灰に含まれるアルカリ分が徐々に溶出して、第3のスラリーのpHが上昇する。すると、第3のスラリーのpHがそれぞれ、1.0超、2.0超、2.5超、3.0超、3.5超、4.0超、4.5超、5.5超となるため、再度、塩酸を添加しながら、第3のスラリーを撹拌、混合して、第3のスラリーのpHが一定になるまで2mol/L塩酸を供給した。第3のスラリーのpHが一定となったら、塩酸の添加を中断して、スラリーを10分間撹拌した。
第4のスラリーを固液分離して得られたろ液に溶出している酸可溶性成分の溶出率を図2~図7に示す。ろ液に含まれる各成分の溶出量はICP発光分光分析法により測定した。また、溶出率は下記(2)式を用いて算出した。
酸可溶性成分の溶出率(質量%)=ろ液中に含まれる各成分(g)/未処理の溶融飛灰に含まれる各成分(g)×100…(2)式
また、図2~図7の結果から、第4のスラリーpHがpH=2.5未満になると腐食抑制剤の成分となるSi、Alの溶出率が急増することが分かる。第4のスラリーpHがpH=2.5以上になるとSi、Alの溶出率が低下し、特に、スラリーpHがpH=3.5以上、さらに、pH=4.0~pH=5.5はSi、Alの溶出率が急激に低下していることが分かる。
次に、第5のスラリーを、120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1の第4のスラリーpHがpH=4.0のスラリーを固液分離して回収した酸処理後の溶融飛灰240g(乾燥重量)それぞれに、オルトケイ酸ナトリウムを60g添加し、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する酸洗処理後の溶融飛灰(オルトケイ酸ナトリウムも含む)の比(溶融飛灰(乾燥)+オルトケイ酸ナトリウム(乾燥)/水酸化ナトリウム水溶液)が、質量比で、1/4となるように添加し、これらを撹拌混合して、第5のスラリーを調製した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ80℃にて15時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
実施例1の第4のスラリーpHがpH=2.5のスラリーを固液分離して回収した酸処理後の溶融飛灰270g(乾燥重量)に、オルトケイ酸ナトリウムを30g添加し、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する酸洗処理後の溶融飛灰(オルトケイ酸ナトリウムも含む)の比((溶融飛灰(乾燥)+オルトケイ酸ナトリウム(乾燥))/水酸化ナトリウム水溶液)が、質量比で、1/4となるように添加し、これらを撹拌混合して、第5のスラリーを調製した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
実施例1で用いたものと同じ溶融飛灰2kgと水道水10kgとを含む第1のスラリーを、4枚傾斜パドル翼を用いて、10分間、撹拌、混合して、溶融飛灰に含まれるPb、Ca、Na、K、Clを含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製した。
硝酸の添加を中断した後も第3のスラリーの撹拌混合を続けると、溶融飛灰に含まれるアルカリ分が徐々に溶出して、第3のスラリーのpHが上昇する。すると、第3のスラリーのpHが2.5超となるため、再度、硝酸を添加しながら、第3のスラリーを撹拌、混合して、第3のスラリーのpHが一定になるまで1mol/Lの硝酸を供給した。第3のスラリーのpHが一定となったら、硝酸の添加を中断して、スラリーを10分間撹拌した。
第4のスラリーを固液分離して得られたろ液に溶出している酸可溶性成分の溶出率を図8に示す。ろ液に含まれる各成分の溶出量はICP発光分光分析法により測定した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ80℃にて15時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1にて、第4のスラリーを固液分離して回収した酸処理後の溶融飛灰120g(乾燥重量)に、メタケイ酸ナトリウムを173g、アルミン酸ナトリウム7gを添加し、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する酸洗処理後の溶融飛灰(メタケイ酸ナトリウムおよびアルミン酸ナトリウムも含む)の比(溶融飛灰(乾燥)+メタケイ酸ナトリウム(乾燥)+アルミン酸ナトリウム(乾燥))/水酸化ナトリウム水溶液)が、質量比で、1/4となるように添加し、これらを撹拌混合して、第5のスラリーを調製した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
第3の工程にて、添加する塩酸の量を調整して、表3に示す酸処理後の溶融飛灰を得た。この溶融飛灰:300gに2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する水洗処理後の溶融飛灰の比(溶融飛灰(乾燥)/水酸化ナトリウム水溶液)が、溶融飛灰が乾燥状態にて質量比で、1/4となるように添加し、これらを撹拌混合して、スラリーを調製した。次に、このスラリーを、120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、スラリーを固液分離し、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
回収した腐食抑制剤に、水を、水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液をろ過しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1と異なる溶融飛灰2kgと水道水10kgとを含む第1のスラリーを、4枚傾斜パドル翼を用いて、10分間、撹拌、混合して、溶融飛灰に含まれるPb、Ca、Na、K、Clを含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製した。
塩酸の添加を中断した後も第3のスラリーの撹拌混合を続けると、溶融飛灰に含まれるアルカリ分が徐々に溶出して、第3のスラリーのpHが上昇する。すると、第3のスラリーのpHが4.0超となるため、再度、塩酸を添加しながら、第3のスラリーを撹拌、混合して、第3のスラリーのpHが一定になるまで2mol/Lの塩酸を供給した。第3のスラリーのpHが一定となったら、塩酸の添加を中断して、スラリーを10分間撹拌した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1で用いたものと同じ溶融飛灰300gに、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.2kgを添加し、これらを撹拌、混合して、スラリーを調製した。
次に、このスラリーを、120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。 次に、スラリーをろ過し、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
回収した腐食抑制剤に、水を、水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液をろ過しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1で用いたものと同じ溶融飛灰2kgに、水10kgを添加し、これらを10分間、撹拌、混合して、スラリーを調製した。
次に、スラリーを固液分離し、ろ液と水洗処理後の溶融飛灰とに分離した。
次に、回収した水洗処理後の溶融飛灰300gに、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.2kgを添加し、これらを撹拌、混合して、スラリーを調整した。
次に、このスラリーを、120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。 次に、スラリーを固液分離し、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
回収した腐食抑制剤に、水を、水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液をろ過しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1の第4のスラリーpHがpH=4.0のスラリーを固液分離して回収した酸処理後の溶融飛灰300g(乾燥重量)に、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する酸洗処理後の溶融飛灰の比(乾燥)/水酸化ナトリウム水溶液)が、質量比で、1/4となるように添加し、これらを撹拌混合して、第5のスラリーを調製した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
実施例1で用いたものと同じ溶融飛灰2kgと水道水10kgとを含む第1のスラリーを、4枚傾斜パドル翼を用いて、10分間、撹拌、混合して、溶融飛灰に含まれるPb、Ca、Na、K、Clを含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製した。
硝酸の添加を中断した後も第3のスラリーの撹拌混合を続けると、溶融飛灰に含まれるアルカリ分が徐々に溶出して、第3のスラリーのpHが上昇する。すると、第3のスラリーのpHが1.0超となるため、再度、硝酸を添加しながら、第3のスラリーを撹拌、混合して、第3のスラリーのpHが一定になるまで1mol/Lの硝酸を供給した。第3のスラリーのpHが一定となったら、硝酸の添加を中断して、スラリーを10分間撹拌した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、撹拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。
次に、第5のスラリーを固液分離して、ろ液と腐食抑制剤とに分離した。
次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で、1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
得られた腐食抑制剤を、105℃にて24時間乾燥させた。
実施例1の第3の工程にて、添加する塩酸の量を調整して、酸処理後の溶融飛灰中のCa含有率18wt%以上の溶融飛灰を得た。酸処理後の溶融飛灰300g(乾燥重量)に、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液に対する酸洗処理後の溶融飛灰が、質量比で、1/4となるように添加し、これらを攪拌混合して、第5のスラリーを調整した。
次に、第5のスラリーを、それぞれ120℃にて3時間、攪拌、混合し、腐食抑制剤を合成した。次に、回収した腐食抑制剤に、水道水を、水道水に対する腐食抑制剤の比(腐食抑制剤(乾燥)/水)が、質量比で1/5となるように添加し、腐食抑制剤を含む水分散液を固液分離しながら、腐食抑制剤を水洗処理した。
(1)腐食抑制剤の結晶の同定
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8並びに比較例1、比較例2、比較例3、比較例4および比較例5で得られた腐食抑制剤について、粉末X線回折(XRD)法により、結晶の同定と結晶粒径の測定を行った。結晶粒径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて求めた粒度分布から求めたメディアン径(d50メディアン径:頻度の累計が50%となる粒子径)を用いている。以上の結果を以下の表4に示す。
また、実施例1~8と比較例5については、より詳細な分析を行い、各実施例に含まれている成分の割合(質量%)を特定した。その結果を以下の表5に示す。各実施例の詳細成分の分析は、X線回折測定結果をリートベルト法により解析して行った。内標準物質は、コランダム(α-Al2O3)を用いた。なお、表5の実施例8において、アモルファス以外の成分は硫酸カルシウムを9.1質量%含有していた。
試験方法は、模擬溶融飛灰と腐食抑制剤とを混合したものを、材質がSUS310の模擬過熱器管の表面に塗布した試験片を作成し、この試験片を所定の試験温度雰囲気の試験室内に設置し、試験室内に所定組成の試験ガス(燃焼排ガス)を所定流量にて所定時間供給する、というものである。試験時間は、100時間(25時間毎に模擬溶融飛灰と腐食抑制剤を混合したものを塗布)、試験温度は550℃、500℃である。燃焼排ガス条件は、HCl:500ppm、SO2:50ppm、O2:5.0体積%、H2O:20体積%、N2:72体積%である。
模擬溶融飛灰と比較材A(天然ゼオライト)、B(けい砂)、C(水酸化カルシウム)、D(試薬を用いて合成したC-S-H)、腐食抑制剤E(実施例1)、F(実施例2)、G(実施例3)、H(実施例4)、I(実施例5)、J(実施例6)、K(比較例1)、L(比較例2)、M(比較例3)、N(比較例4)との混合条件は、模擬過熱器管の表面積に対し、模擬溶融飛灰が20mg/cm2、比較材および腐食抑制剤(実施例1~実施例6、比較例1~比較例4)がそれぞれ6.6mg/cm2となるように混合した。 模擬排ガスを100時間流した後、下記の(3)式を用いて、ボイラ過熱器管の減量割合(%)を算出した。550℃の腐食試験結果(模擬過熱器官の材質はSUS310S)を図9に、500℃の腐食試験結果(模擬過熱器官の材質はSUS310S)を図10にそれぞれ示す。
図9および図10に示す腐食抑制剤「なし」は、腐食抑制剤を溶融飛灰に混合していない条件である。腐食抑制剤「なし」における模擬過熱器管の減量割合を100%とする。減量割合が小さいほどボイラ過熱器管の腐食減量が少なく、腐食抑制効果が高いことを示す。
減量割合(%)=(腐食抑制剤による腐食抑制処理を施したボイラ過熱器管の腐食減量(mg/cm2)/(模擬溶融飛灰のみのボイラ過熱器管の腐食減量(mg/cm2)×100…(3)式
また、特許文献2では、腐食抑制粒子の粒子径は0.1μm以上~10μm未満と限定されている。しかしながら、図9および図10に示す試験結果と表4に示す粒径から、本発明で使用する腐食抑制剤の粒子径が10μm以上~25μm以下であっても、模擬過熱器管に対する腐食抑制効果があることが確認できる。
さらに、腐食抑制剤にZnが残存していても、腐食抑制効果に影響を及ぼさないことが分かる。
なお、本発明に係る腐食抑制剤において、粒子径が大きくとも腐食抑制効果を発揮する理由については、後の試験例において説明する比表面積の測定結果と併せて説明する。
比較例3は、工程5で使用する出発原料中のSiとAlの含有量の合計が11質量%以上(13.3質量%)であるが、Caの含有量が16質量%以上(16.7質量%)であるため、CaCO3の生成が増加する。工程5の後に回収された溶融飛灰に含まれるCaCO3、Ca(OH)2は、腐食抑制効果が低いことが分かる。
比較例4は、工程5で使用する出発原料中のCaの含有量は16質量%以下(9.6質量%)であるが、SiとAlの含有量の合計が11質量%未満(8.7質量%)であり、C-S-H、またはC-A-S-Hの形成に必要なSiとAlが不足し、CaCO3の生成割合が増えるため、腐食抑制効果が低いことが分かる。工程5の後に回収された溶融飛灰に含まれるCaCO3、CaSO4は腐食抑制効果が低いことが分かる。
天然ゼオライトの減量割合55.5%、実施例1(炭酸カルシウム含有量:5質量%)の減量割合42.3%、実施例3(炭酸カルシウム含有量:10.5質量%)の減量割合41%、比較例5(炭酸カルシウム含有量13.6質量%)の減量割合58.4%。
以上の対比から、炭酸カルシウムの含有量は13質量%以下が望ましいと考えられる。
各成分のカラーマッピングは濃度分布を示している。各図の右側に表示した濃淡を示すバーの一番上の色が濃度が高く、一番下の色(黒色)が濃度が低いが、各成分で尺度が異なるため成分間で成分割合の比較はできない。なお、Si、Caは腐食抑制剤の構成元素であり、模擬溶融飛灰には含まれていない成分である。Kは腐食抑制剤に含まれていないが模擬溶融飛灰に含まれている成分である。Clは腐食抑制剤に含まれていない模擬溶融飛灰および燃焼排ガスに含まれている成分である。Pbは模擬溶融飛灰に含まれている成分である。
また、図18~図23より、腐食抑制剤は腐食性成分であるPbCl2も吸着していることが分かった。
図24に、模擬過熱器管(Alloy625)に模擬溶融飛灰および模擬溶融飛灰に腐食抑制剤(実施例1)を混ぜたものをそれぞれ塗布し、腐食試験を550℃、100時間実施した場合の腐食生成物層内部の腐食生成物成分分析結果を示す。
図25に、模擬過熱器管(Alloy625)に模擬溶融飛灰および模擬溶融飛灰に腐食抑制剤(実施例1)を混ぜたものをそれぞれ塗布し、腐食試験を550℃、100時間実施した場合の母材(模擬過熱器官)および腐食生成物との界面近傍の腐食生成物成分分析結果を示す。また、表6にCr、Niの状態解析結果を示す。
表6より、模擬溶融飛灰のみの模擬過熱器管の場合、母材界面側のCrは酸化物主体であり、最表層および腐食生成物層内のCrは酸化物のピーク強度も検出されたが塩化物(CrO2Cl2)主体であることが分かる。母材界面側のNiは酸化物のピーク強度も検出されたが塩化物(NiCl2)主体であり、腐食生成物層内および最表層は酸化物・水酸化物が主体であることが分かる。一方、実施例1の腐食抑制剤を用いた場合、Crは最表面および腐食生成物層内で塩化物(CrO2Cl2)の弱いピークが確認されるが、最表面、腐食生成物層内および母材界面の何れもCr酸化物主体であった。Niは母材界面で酸化物主体であることが分かる。
第4のスラリーを固液分離して得られたろ液を、それぞれ300mL分取し、スターラーを用いて撹拌しながら、ろ液のpHがpH=9.5およびpH=10.0に安定するまで5mol/LのNaOHを添加した。
得られた沈殿物の成分について、蛍光X線分析分光法により測定した。結果を以下の表7に示す。
また、ろ液中に残存するPb、Zn、Cuの含有量をICP発光分光分析法により分析した。結果を以下の表8に示す。
実施例1~7の腐食抑制剤に加え、酸洗後の飛灰を実施例8の腐食抑制剤としてBET比表面積を求め、比較例1のBET比表面積も求めた。更に、島根県産の天然ゼオライトAと福島県産の天然ゼオライトBと福島県産の天然ゼオライトCを比較対象物としてBET比表面積を測定した。これらの測定結果に基づくBET比表面積と、先に表4に示したメディアン径との関連を以下の表11に対比して示す。
先に説明したように、特許文献2に記載の技術では、腐食抑制粒子の粒子径は0.1μm以上~10μm未満と規定されている。しかしながら、実施例1~8がメディアン径10μm以上25μm以下の範囲であり、粒径が大きいにも拘わらず、優れた腐食抑制効果を示すことは、本発明に係る腐食抑制剤が特許文献2に記載されている腐食抑制剤とは全く異なる腐食抑制剤であることを示している。本発明者は、本発明に係る腐食抑制剤が粒径が大きいにも拘わらず、優れた腐食抑制効果を発現する理由について、以下に説明することが関連していると考えている。
これに対し、実施例1~8の腐食抑制剤は、粒径は大きいが、比表面積が大きいので、表面に腐食原因物質を効率良く吸着することができ、その結果として腐食原因物質が過熱器官に到達することを抑制できる結果、腐食抑制効果に優れると考えられる。
また、実施例1~8の腐食抑制剤は、複数の成分が相互付着して表面凹凸の大きな腐食抑制剤粒子を構成していると考えられるが、表面凹凸が大きいため、腐食物質の吸着性能に優れていると考えられる。
また、表12にZn含有率(%)/Zn含有物中の割合から、Zn回収量を求めた結果を示す。
表12には、これらに対比し、「非特許文献 村山ら:石炭灰および焼却灰のゼオライト原料としての評価, 資源と素材, 117(2001) No.6」に記載されている従来技術における溶融飛灰回収率と、pHを制御しない場合の溶融飛灰回収率を併記した。
粗酸化亜鉛の原料としての価値は、Zn含有物中のZn含有率が高いほうが価値がある。
表12に示すようにZn回収率はpH=2.5の場合の方が大きいが、粗酸化亜鉛原料としての価値は、pH=4.0、pH=5.0の場合のほうが高くなる。
表12に示すようにpH=4.0、pH=5.0の場合、1000gの溶融飛灰から500g前後の酸洗後腐食抑制剤を得られることがわかる。
HClガス吸着率の測定を行うために、管状炉内のセラミックス容器内に実施例1、3、5、7の腐食抑制剤と表11に示す天然ゼオライトをそれぞれ15g充填し、HCl:500ppm、SO2:50ppm、O2:5.0体積%、H2O:20体積%、N2:72体積%の模擬排ガスを所定流量にて流した。温度条件は実機で腐食抑制剤を供給するガス温度領域を想定し、450℃、650℃で試験を実施した。ガス流通時間は設定温度に到達してから1時間とし、塩化水素の入口濃度と腐食抑制剤を通過した後の出口濃度の比からHClガス吸着率を算出した。その結果を以下の表13に示す。
Claims (19)
- ごみ処理施設で発生した燃焼灰を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得された燃焼灰を水洗処理又は酸洗処理する洗浄処理工程と、
前記洗浄処理工程にて水洗処理又は酸洗処理された燃焼灰からボイラ用腐食抑制剤を得る製造工程と、
を備え、
前記洗浄処理工程に、
前記燃焼灰と水を含む第1のスラリーを撹拌、混合し、前記燃焼灰に含まれるPb、Ca、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を含む水に可溶な化合物を溶出させて、第2のスラリーを調製する第1の工程と、
前記第2のスラリーを液分と水洗処理後の燃焼灰に分離する第2の工程と、
前記水洗処理後の燃焼灰と水とを含む第3のスラリーを撹拌、混合しながら、塩酸または硝酸を添加し、前記水洗処理後の燃焼灰に含まれるCa、Pb、ZnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸に可溶な化合物を溶出させて、第4のスラリーを調製する第3の工程と、
前記第4のスラリーを、液分と前記酸洗処理後の燃焼灰に分離する第4の工程を含み、
前記製造工程に、
前記酸洗処理後の燃焼灰とアルカリ水溶液とを含む第5のスラリーを加熱しながら、撹拌、混合し、アルカリ水熱処理を行って腐食抑制剤を合成する第5の工程を含み、
前記第5の工程において、アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるCaの含有量が16質量%以下、SiとAlの含有量の合計が8.7質量%超となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加する
ことを特徴とするボイラ用腐食抑制剤の製造方法。 - 前記第5の工程において、前記アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるSiとAlの含有量の合計が11質量%以上となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加することを特徴とする請求項1に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記第5の工程において、前記アルカリ水熱処理に用いる燃焼灰におけるAlに対するSiの比(Si/Al)が、質量比で1.2以上となるように、前記第5のスラリーにSi源およびAl源を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られたボイラ用腐食抑制剤の平均粒子径(d50)が10μm以上25μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られたボイラ用腐食抑制剤にアモルファスが40質量%以上含有されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られたボイラ用腐食抑制剤に、前記アモルファスに加え、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミネート相、ヘルシナイト、ゼオライト、ゲーレナイト、マグネシオフェライト、マグネシウム亜鉛鉄イオンオキサイド、チタン酸カルシウム、酸化亜鉛、アケルマナイトからなる群から選択された少なくとも1種又は2種以上が含有されていることを特徴とする請求項5に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程では、前記アルカリ水溶液が用いられ、当該アルカリ水溶液を洗い流すことでボイラ用腐食抑制剤を得ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られるボイラ用腐食抑制剤のBET比表面積が60m2/g以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られるボイラ用腐食抑制剤のBET比表面積が90m2/g以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記ごみ処理施設は、溶融炉であり、
前記燃焼灰は、重金属を含む溶融飛灰であり、
前記洗浄処理工程では、前記取得工程で取得された燃焼灰を酸洗処理することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。 - 前記洗浄処理工程で酸洗処理された燃焼灰は、スラリー状であり、当該燃焼灰のpHは2.5以上5.5以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記洗浄処理工程で酸洗処理された燃焼灰に含まれるZnを、酸洗処理によって溶出させることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記ごみ処理施設は、ストーカー炉であり、
前記燃焼灰は、焼却飛灰であり、
前記洗浄処理工程では、前記取得工程で取得された燃焼灰を水洗処理することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。 - 前記洗浄処理工程は、1回行われることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記製造工程で得られるボイラ用腐食抑制剤に含まれる炭酸カルシウムの含有率は、13質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 燃焼炉と、
前記燃焼炉からの燃焼排ガスが通る排ガス通路と、
前記排ガス通路内に設けられた過熱器官と、
ボイラ用腐食抑制剤と、
前記ボイラ用腐食抑制剤を前記排ガス通路内に供給する腐食抑制剤供給装置を備えたボイラであり、
前記ボイラ用腐食抑制剤が、ごみ処理施設で発生した燃焼灰の粒子の表面に、 C-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)、C-A-S-H(カルシウムアルミノシリケート水和物)の少なくとも一方を含むアモルファスあるいはこれらを含まないアモルファス、又は、これら双方のアモルファスをまとめた主要成分としてのアモルファスを40質量%以上含有する物質を析出させた粒子を含み、更に、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミネート相、ヘルシナイト、ゼオライト、ゲーレナイト、マグネシオフェライト、マグネシウム亜鉛鉄イオンオキサイド、チタン酸カルシウム、酸化亜鉛、アケルマナイトからなる群から選択された少なくとも1種又は2種以上の粒子を含有する粒子状のボイラ用腐食抑制剤または該粒子状のボイラ用腐食抑制剤を含むスラリー状のボイラ用腐食抑制剤であり、
前記粒子状のボイラ用腐食抑制剤がメディアン径10μm以上25μm以下、BET比表面積30~140m2/gである、
ボイラ。 - ボイラの燃焼排ガスが通る排ガス通路内に設けられた過熱器官の腐食を抑制するためのボイラの腐食抑制方法であって、
C-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)、C-A-S-H(カルシウムアルミノシリケート水和物)の少なくとも一方を含むアモルファスあるいはこれらを含まないアモルファス、又は、これら双方のアモルファスをまとめた主要成分としてのアモルファスを40質量%以上含有する物質をごみ処理施設で発生した燃焼灰の粒子の表面に具備し、更に、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミネート相、ヘルシナイト、ゼオライト、ゲーレナイト、マグネシオフェライト、マグネシウム亜鉛鉄イオンオキサイド、チタン酸カルシウム、酸化亜鉛、アケルマナイトからなる群から選択された少なくとも1種又は2種以上の粒子を含有するメディアン径10μm以上25μm以下、BET比表面積30~140m 2 /gの粒子状のボイラ用腐食抑制剤、あるいは、該粒子状のボイラ用腐食抑制剤を含むスラリー状のボイラ用腐食抑制剤を前記排ガス通路内に供給する、
ボイラの腐食抑制方法。 - 前記燃焼灰のCa含有量が15質量%以上25質量%以下、Si含有量が2.5質量%以上6.0質量%以下、Al含有量が0.5質量%以上4質量%以下、Pb含有量が0.3質量%以上3質量%以下、Zn含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下、Cu含有量が0.0質量%以上0.5質量%以下、Cl含有量が10質量%以上25質量%以下の範囲である請求項1乃至15のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
- 前記第4の工程にて回収される液分を撹拌しながらアルカリ水溶液を添加し、前記液分のpHを9.0以上10.5以下に調整し、pH調整後の溶液を液分と沈殿物に分離し、前記燃焼灰に含まれるPb、Zn、Cuを回収することを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載のボイラ用腐食抑制剤の製造方法。
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