以下、本発明の一実施形態に係る窒素処理方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
本実施形態に係る窒素処理方法は、廃水(被処理水)に含まれる窒素成分を生物学的な処理により脱窒する方法に関する。この窒素処理方法は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を微生物汚泥によって酸化して亜硝酸性窒素を生成する亜硝酸型の硝化処理工程を少なくとも含んでいる。
本実施形態に係る窒素処理方法では、硝化処理工程における硝酸性窒素の生成量をオンラインで計測し、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御を行う。pH制御により被処理水のpHを高くすると、遊離アンモニアの濃度が増大するため、感受性が低いアンモニア酸化細菌と比較して、亜硝酸酸化細菌の活性が大きく阻害される。そのため、硝酸性窒素の蓄積を速やかに解消して、亜硝酸性窒素の濃度を安定させることができる。
なお、本明細書において、計測に関わる「オンライン」との用語は、処理槽や流路から被処理水又は処理水の一部を採取して計測機器に送り込み連続的に計測を行うことを意味する。「連続的な計測」や「オンラインの計測」は、被処理水の処理中に実質的に常時、連続的に行われることを意味するが、測定周期やサンプリング間隔は一般的な適宜の範囲で行うことが可能であり、計測機器上では時間間隔が空いていてもよい。
図1は、窒素処理に用いられる廃水処理装置の一例を示す模式図である。
本実施形態に係る窒素処理方法は、図1に示されるような廃水処理装置100で実施することができる。図1に示す廃水処理装置100は、アンモニア酸化槽1と、微生物汚泥2と、散気装置3と、pH調整装置4と、イオンセンサ5aと、pHセンサ5bと、溶存酸素(Dissolved Oxygen:DO)センサ5cと、アナモックス反応槽6と、微生物汚泥7と、制御装置8と、を備えている。
廃水処理装置100は、窒素成分を含む廃水(被処理水)を嫌気性アンモニア酸化法によって窒素処理する装置であり、亜硝酸型硝化と嫌気性アンモニア酸化とを個別の反応槽で行う二槽式とされている。廃水処理装置100では、亜硝酸酸化細菌による硝酸性窒素の生成を抑制するために、ワンパス式のアンモニア酸化槽1において、オンラインの計測に基づき被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。
被処理水としては、例えば、下水処理施設、半導体工場、金属精錬所、薬品製造施設、畜産業施設等の事業場から排出される廃水が挙げられる。廃水は、アンモニア性窒素の他に、リン、炭素、重金属類等の栄養塩を含んでいてもよい。また、廃水は、アンモニア酸化槽1で行う硝化処理の前に、活性汚泥処理、従属栄養性脱窒細菌による脱窒処理、脱リン処理等が行われてもよい。
アンモニア酸化槽1は、被処理水に含まれているアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に酸化する亜硝酸型の硝化処理を行う処理槽である。アンモニア酸化槽1には、被処理水を生物学的に処理するために微生物汚泥2が保持される。また、アンモニア酸化槽1には、被処理水を曝気するための散気装置3や、イオンセンサ5a、pHセンサ5b、溶存酸素センサ5cが備えられ、配管を介してpH調整装置4が接続される。
微生物汚泥2は、細菌や原生生物等を含む汚泥であり、硝化細菌群を含んでいる。通常、硝化細菌群は、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソロブス(Nitrosolobus)属等に分類されるアンモニア酸化細菌(AOB)と、ニトロバクター(Nitrobactor)属、ニトロスピナ(Nitrospina)属、ニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロスピラ(Nitrospira)属等に分類される亜硝酸酸化細菌(NOB)との混成である。
微生物汚泥2は、図1において、流動床担体に固定化されている。但し、アンモニア酸化槽1で用いる微生物汚泥は、担体の内部に包括固定化されている状態、担体の表面に包括固定化されている状態、担体に付着固定化されている状態、自己造粒によるグラニュールを形成している状態、及び、水中に浮遊した浮遊汚泥の状態のうち、いずれの状態であってもよい。また、固定化された微生物汚泥は、固定床、流動床及び移動床のいずれの形態で用いられてもよい。
担体の材料としては、モノ(メタ)アクリレート類、ジ(メタ)アクリレート類、トリ(メタ)アクリレート類、テトラ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類、エポキシ(メタ)アクリレート類、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、アラミドやナイロン等のポリアミド、ポリエステル、レーヨン、ガラス、活性炭等の適宜の材料を使用することができる。
担体の形状は、立方体状、直方体状、板状、球状、円盤状、円筒状、多孔質状、スポンジ状、繊維状、布状、コイン状、レンコン状、菊花状等の適宜の形状とすることができる。担体の大きさは、特に制限されるものではなく、例えば、3mm角等とすることができる。
散気装置3は、例えば、気泡を発生するディフューザや散気管、空気を供給する送風機、空気を圧縮するコンプレッサ、送風機からディフューザや散気管に空気を送る送気管等によって構成される。被処理水についての曝気量は、一定に制御してもよいし、アンモニア性窒素の濃度、亜硝酸性窒素の濃度等に応じて、目的の硝化率となるように可変制御してもよい。但し、本実施形態では、オンラインの計測に基づくpH制御で亜硝酸性窒素の濃度を安定させるため、曝気量について精密な制御を行う必要はない。
pH調整装置4は、硝化処理される被処理水のpHを調整するために備えられる。pH調整装置4は、例えば、pH調整剤を貯留するpH調整剤タンク、pH調整剤をアンモニア酸化槽1に供給する薬注ポンプ等によって構成される。pH調整剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性pH調整剤を用いることができる。
イオンセンサ5aは、被処理水のアンモニア性窒素の濃度、亜硝酸性窒素の濃度、及び、硝酸性窒素の濃度のうち、一以上を計測するために備えられている。イオンセンサ5aとしては、イオン電極式、吸光光度式、イオンクロマト式等の適宜の計測器を用いることができる。窒素成分の濃度は、硝化処理中に実質的に常時、連続的に計測されるが、計測器の測定周期やサンプリング間隔は特に制限されるものではない。
イオンセンサ5aとしては、オンラインの計測を簡便に行える点から、イオン電極式の計測器が好ましく用いられる。イオン電極式の計測器としては、例えば、隔膜式、液膜式、固体膜式、ガラス膜式等の計測器が挙げられる。イオンセンサ5aとしては、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素又は硝酸性窒素の濃度を個別に計測する複数のセンサを備えてもよいが、図1に示すように、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の濃度を一括して計測するマルチイオンセンサを備えることが好ましい。
イオンセンサ5aは、アンモニア酸化槽1の下流に設置し、硝化処理された処理水のアンモニア性窒素の濃度、亜硝酸性窒素の濃度、及び、硝酸性窒素の濃度のうち、一以上を計測してもよい。また、アンモニア酸化槽1の上流には、原水の窒素成分の濃度を計測するために、同等の機能を有するイオンセンサを設置することができる。アンモニア酸化槽1や、その下流又は上流に設置するイオンセンサは、アンモニア酸化槽1で生じる硝酸性窒素の量を求め得る限り、任意のイオン種の組み合わせや種類数で窒素成分を検出してよい。
pHセンサ5bは、被処理水のpHを計測するために備えられている。pHセンサ5bとしては、ガラス電極式、金属電極式、半導体式、比色式等の適宜の計測器を用いることができる。被処理水のpHは、硝化処理中に実質的に常時、連続的に計測されるが、計測器の測定周期やサンプリング間隔は特に制限されるものではない。pHセンサ5bは、アンモニア酸化槽1の下流に設置し、処理水のpHを計測してもよい。
溶存酸素センサ5は、被処理水の溶存酸素濃度を計測するために備えられる。通常、硝化処理される被処理水の溶存酸素濃度は、0.5mg/L以上4.0mg/L以下の範囲に制御され、亜硝酸型硝化が目的の硝化率となるように調節される。
アナモックス反応槽6は、被処理水に含まれているアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを嫌気性アンモニア酸化反応によって共脱窒する処理槽である。アナモックス反応槽6には、被処理水を生物学的に処理するために嫌気性アンモニア酸化細菌を含む微生物汚泥7が保持される。また、アナモックス反応槽6には、被処理水を攪拌する攪拌装置や、被処理水にpH調整剤を供給するpH調整装置を備えることができる。
微生物汚泥7は、図1において、流動床担体に固定化されている。但し、微生物汚泥7は、担体の内部に包括固定化されている状態、担体の表面に包括固定化されている状態、担体に付着固定化されている状態、自己造粒によるグラニュールを形成している状態、及び、水中に浮遊した浮遊汚泥の状態のうち、いずれの状態で用いられてもよい。また、固定化された微生物汚泥は、固定床、流動床及び移動床のいずれの形態で用いられてもよい。
アナモックス反応槽6における担体の形状、材料、大きさは、アンモニア酸化槽1の担体と同様にすることができる。アナモックス反応槽6は、無酸素ガスにより被処理水を循環させるガスリフト型の反応槽や、被処理水の上向流でグラニュールを形成させる上向流汚泥床型の反応槽や、担体等の充填材を用いた固定床型リアクタ等としてもよい。
制御装置8は、pH調整装置4や散気装置3の制御を行う。制御装置8は、イオンセンサ5aやpHセンサ5bからの信号を受け、オンラインで計測された水質の計測値に基づいて、アンモニア酸化槽1へのpH調整剤の供給量を制御する。また、溶存酸素センサ5cからの信号を受け、オンラインで計測された溶存酸素濃度の計測値に基づいて、散気装置3による曝気量を制御することができる。
制御装置8は、pH調整剤の供給量や曝気量を、例えば、PID制御、時分割制御等の適宜の制御法で制御する。pH調整剤の供給量や曝気量は、イオンセンサ5aやpHセンサ5bに加え、アンモニア酸化槽1の下流にセンサを設置してフィードバック制御してもよいし、アンモニア酸化槽1の上流にセンサを設置してフィードフォワード制御を組み合わせてもよい。
次に、本実施形態に係る窒素処理方法の一例について、廃水処理装置100における窒素処理を例として具体的に説明する。
嫌気性アンモニア酸化法による窒素処理は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を微生物汚泥によって酸化して亜硝酸性窒素を生成する硝化処理工程と、硝化処理工程において処理された被処理水に含まれるアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを嫌気性アンモニア酸化反応によって分子状窒素に変換する嫌気性アンモニア酸化処理工程と、を含む方法によって行うことができる。
通常、嫌気性アンモニア酸化処理工程で処理される被処理水は、嫌気性アンモニア酸化細菌が基質とするアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率が、1:1.3付近まで予め亜硝酸化されている必要がある。アンモニア酸化槽1で亜硝酸酸化細菌が生成する硝酸性窒素は、嫌気性アンモニア酸化細菌の基質とならないため、アナモックス反応槽6に流入する被処理水は、硝酸性窒素の濃度が低いことが好ましい。
しかし、アンモニア酸化槽1で硝化処理に関与する硝化細菌群の活性は、水温、窒素成分濃度、溶存酸素濃度、pH等に影響され易いことが知られている。一般に、水温が低い場合、アンモニア性窒素や亜硝酸性窒素の濃度が低い場合、溶存酸素濃度が高い場合、pHが低い場合等に、アンモニア酸化細菌と比較して亜硝酸酸化細菌の活性が強く現れる傾向がある。
亜硝酸酸化細菌の活性が強くなると、アンモニア酸化細菌が変換した亜硝酸性窒素が速やかに硝酸性窒素にまで酸化されるため、アンモニア酸化槽1から流出する処理水は、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率が不安定になる。亜硝酸型硝化が不安定になり、硝化率が目標値から乖離すると、嫌気性アンモニア酸化反応も不安定化するため、最終的な窒素除去率が低下することになる。
そこで、本実施形態に係る窒素処理方法では、硝化処理工程において、硝化処理されている被処理水又は硝化処理された処理水の窒素成分の濃度をオンラインで連続的に計測し、被処理水や処理水の硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、硝化処理されている被処理水のpHを高くして、亜硝酸酸化細菌の活性が抑制された状態を維持する。
被処理水のアンモニア性窒素の濃度は、硝化活性の阻害を避ける観点等からは、1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。また、亜硝酸酸化細菌の活性の抑制による効果を極大化する観点からは、本来高い窒素除去率を達成するのが困難な低濃度の範囲がより好ましい。具体的には、被処理水のアンモニア性窒素の濃度は、10mg/L以上150mg/L以下であることがより好ましい。
被処理水は、全窒素の濃度やアンモニア性窒素の濃度が高い場合には、硝化処理工程の前に、嫌気性アンモニア酸化処理された処理水等で予め希釈することができる。また、微生物汚泥を馴養する必要がある立ち上げ時には、はじめに、希釈した被処理水を流入させてから、徐々に全窒素の濃度やアンモニア性窒素の濃度を高くして被処理水を通水することができる。
硝化処理工程は、硝化細菌群を保持するアンモニア酸化槽1において、好気条件下、必要に応じてアルカリの添加やpHの調整を実施しながら行う。被処理水の水温は、10℃以上40℃以下であることが好ましい。また、被処理水のpHは、少なくとも、pH6以上pH10以下であることが好ましい。被処理水のpHは、アンモニア酸化槽1への流入時には、通常、中性付近であるが、アンモニア性窒素の亜硝酸化が進むほど酸性側に低下していく。
廃水処理装置100では、アンモニア酸化槽1に流入する被処理水(原水)のアンモニア性窒素の濃度や、亜硝酸性窒素の濃度を、アンモニア酸化槽1の上流側で予め計測することができる。そして、アンモニア酸化槽1では、硝化処理されている被処理水のアンモニア性窒素の濃度、亜硝酸性窒素の濃度、及び、硝酸性窒素の濃度のうち、一以上が、イオンセンサ5aによってオンラインで計測される。
原水のアンモニア性窒素の濃度と、アンモニア酸化槽1で計測されるアンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度の和との差分や、原水の亜硝酸性窒素の濃度と、アンモニア酸化槽1で計測される亜硝酸性窒素の濃度との差分は、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量に相当すると見做すことができる。また、硝化処理された処理水の濃度をアンモニア酸化槽1の下流で計測する場合も、同様に見做すことができる。
一方、原水が硝酸性窒素を実質的に含有していない場合には、アンモニア酸化槽1で計測される被処理水の硝酸性窒素の濃度は、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量に相当すると見做すことができる。また、硝化処理された処理水の濃度をアンモニア酸化槽1の下流で計測する場合も、同様に見做すことができる。
したがって、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量をイオンセンサ5aによるオンラインの計測で常時監視し、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。但し、アンモニア酸化槽1における硝酸性窒素の濃度は、通常、定常時であっても僅かに変動しており、一時的な濃度上昇や濃度低下を不定期に繰り返すことがある。そのため、pH制御は、硝酸性窒素の濃度が有意に上昇し、一時的な変動ではなく半永続的な変化となるときに行うことが好ましい。
具体的には、被処理水のpHを高くするpH制御は、硝化処理されている被処理水又は硝化処理された処理水の硝酸性窒素の濃度が所定値以上の上昇を生じたとき、或いは、硝化処理されている被処理水や硝化処理された処理水の硝酸性窒素の濃度が所定時間にわたって上昇を続けたときに開始することが好ましい。濃度上昇の大きさを指標とする場合、急激な濃度上昇に適切に対応できるし、濃度上昇の持続時間を指標とする場合、緩慢な濃度上昇に適切に対応できる。これらの開始条件は、重畳的に用いてもよい。
pH制御を開始する具体的な条件としては、硝酸性窒素の濃度上昇の大きさを指標とする場合、窒素負荷等にもよるが、硝酸性窒素の濃度が2mg/L以上の上昇を生じたとき、3mg/L以上の上昇を生じたとき、4mg/L以上の上昇を生じたとき、5mg/L以上の上昇を生じたとき等が好ましい。このような大きさの上昇であれば、通常の一定した被処理水の水質の下で、一時的な変動として生じることが少ないため、pH制御を必要な時期に限定することができる。
また、pH制御を開始する具体的な条件としては、硝酸性窒素の濃度上昇の持続時間を指標とする場合、水理学的滞留時間等にもよるが、硝酸性窒素の濃度が2日間(48時間)にわたって上昇を続けたとき、4日間(96時間)にわたって上昇を続けたとき、6日間(144時間)にわたって上昇を続けたとき、8日間(192時間)にわたって上昇を続けたとき、10日間(240時間)にわたって上昇を続けたとき等が好ましい。このような長さの上昇であれば、一時的な変動として生じることが少ないため、pH制御を必要な時期に限定することができる。
被処理水のpHを高くするpH制御は、被処理水にアルカリ性pH調整剤を添加することによって行うことができる。炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性pH調整剤は、図1に示すように、アンモニア酸化槽1に滞留する被処理水に添加してもよいし、アンモニア酸化槽1の上流等で添加してもよい。
一般的な硝化処理では、中性付近の被処理水がpH調整されることなく処理されることが多い。これに対し、被処理水のpHをアルカリ性側に高くすると、アンモニウムイオンと水酸化物イオンとの再結合反応(平衡移動)で遊離アンモニアの濃度が高くなるため、硝化細菌群の活性が阻害される。このとき、亜硝酸酸化細菌の活性はアンモニア酸化細菌の活性よりも大きく低下するため、硝酸性窒素の生成を抑制しつつ、亜硝酸性窒素を生成させることができる。
被処理水のpHを高くするpH制御は、一回の制御当たりのアルカリ性pH調整剤の添加量や、一回の制御当たりのpHの上げ幅が、特に制限されるものではない。pH制御は、例えば、被処理水のpHをアルカリ性側の目標値に向けて徐々に高くする方法、所定の添加速度のアルカリ性pH調整剤を所定時間にわたって連続的又は間欠的に添加する方法、所定量のアルカリ性pH調整剤を一時又は時分割して添加する方法等、適宜の方法で行うことができる。
被処理水のpHを高くするpH制御は、制御を開始した後、2日(48時間)以上14日(336時間)以内の期間にわたって続けることが好ましい。このように制御を継続すると、通常の水理学的滞留時間の硝化処理において、分裂増殖している亜硝酸酸化細菌の活性を阻害し続けることができるため、硝酸性窒素の生成をより確実に抑制することができる。また、アンモニア酸化細菌を、pH制御されている被処理水中で馴化させることができるため、亜硝酸酸化活性を抑制しながらも、高いアンモニア酸化活性を保つことができる。
pH制御は、被処理水のpHを、一回の制御当たり、pH8以上pH10以下の目標値に調整する制御であることが好ましい。pH8以上pH10以下であれば、亜硝酸酸化細菌の活性が阻害される一方、アンモニア酸化細菌の活性が極端に阻害されないため、亜硝酸酸化活性を抑制しつつ、高いアンモニア酸化活性を保つことができる。硝化処理工程においては、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHをpH8以上pH10以下に調整するpH制御を行い、その他の時間は、pH7以上pH8.2以下かpH8.0未満に調整する、又は、調整を行わないものとすることができる。
被処理水のpHは、一回の制御当たり、pH8.5以上pH9.5以下の目標値に調整されることがより好ましく、pH8.7以上pH9.3以下の目標値に調整されることが更に好ましい。pHが高いほど、亜硝酸酸化細菌の活性がより確実に阻害されるため、硝酸性窒素の生成を微量に抑制することができる。また、pHが低いほど、アンモニア酸化細菌の活性がより低下し難くなるため、高いアンモニア酸化活性を保つことができる。
被処理水のpHを高くするpH制御は、pH制御を開始した後、硝化処理されている被処理水や硝化処理された処理水の硝酸性窒素の濃度が所定値以上の上昇を生じなかったとき、或いは、pH制御を開始した後、硝化処理されている被処理水や硝化処理された処理水の硝酸性窒素の濃度が所定時間にわたって下降を続けたときに強制的に停止することもできる。濃度変化の大きさを指標とする場合、急激な濃度変化に適切に対応できるし、濃度変化の持続時間を指標とする場合、緩慢な濃度変化に適切に対応できる。これらの停止条件は、重畳的に用いてもよい。
pH制御を中止する具体的な条件としては、硝酸性窒素の濃度変化の大きさを指標とする場合、窒素負荷等にもよるが、硝酸性窒素の濃度が所定期間内に1mg/L以上の上昇を生じなかったとき、所定期間内に2mg/L以上の上昇を生じなかったとき、所定期間内に3mg/L以上の上昇を生じなかったとき等が好ましい。濃度上昇を判定する期間としては、2日、3日、4日、5日等とすることができる。このような上昇が生じていなければ、亜硝酸酸化細菌の活性が十分に抑制されていて、直ちに回復することが少ないため、pH制御を必要な時期に限定してpH調整剤のコストを抑制することができる。
また、pH制御を中止する具体的な条件としては、硝酸性窒素の濃度変化の持続時間を指標とする場合、水理学的滞留時間等にもよるが、硝酸性窒素の濃度が2日間(48時間)にわたって下降を続けたとき、3日間(72時間)にわたって下降を続けたとき、4日間(96時間)にわたって下降を続けたとき、5日間(120時間)にわたって下降を続けたとき等が好ましい。このような長さの下降であれば、亜硝酸酸化細菌の活性が十分に抑制されていて、直ちに回復することが少ないため、pH制御を必要な時期に限定してpH調整剤のコストを抑制することができる。
被処理水のpHを高くするpH制御は、硝化率が所定の範囲内となるように被処理水の溶存酸素濃度を調整しながら行うことが好ましい。被処理水の溶存酸素濃度は、イオンセンサ5aにより、被処理水のアンモニア性窒素の濃度、及び、亜硝酸性窒素の濃度のうち、一以上をオンラインで計測し、溶存酸素センサ5による計測下、曝気量を調節してフィードバック制御することができる。溶存酸素濃度を調整しながらpH制御を行うと、pH制御により硝酸性窒素の蓄積が防止される範囲で適宜の硝化率にすることができるため、曝気のコストを抑制したり、硝化速度を調節したりすることができる。
硝化処理工程において、アンモニア酸化槽1で硝化処理される被処理水は、アンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度との比が1:1~1:1.5となる溶存酸素濃度に調整されることが好ましい。通常、溶存酸素濃度を約0.5mg/L以上4.0mg/L以下の範囲で加減すると、亜硝酸型硝化の硝化率が適切な範囲になる。適切な濃度比に調整すると、ワンパス式の処理の場合に、嫌気性アンモニア酸化反応が効率的に進むため、高い窒素除去率を得ることができる。
嫌気性アンモニア酸化処理工程は、嫌気性アンモニア酸化細菌を保持するアナモックス反応槽6において、無酸素条件下、必要に応じて被処理水の攪拌やpHの調整を実施して行う。被処理水のpHは、好ましくはpH6.5以上pH9以下、より好ましくはpH7以上pH8.2以下である。また、被処理水の水温は、好ましくは10℃以上40℃以下、より好ましくは15℃以上37℃以下である。被処理水は、硝化処理工程の後、且つ、嫌気性アンモニア酸化処理工程の前に、pHの調整、有機物の分解処理、溶存酸素濃度を低減する脱気処理等が予め施されてもよい。
以上の窒素処理方法によると、硝化処理工程において、窒素成分の濃度がオンラインで連続的に計測され、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御が行われるので、硝化処理中に増大した亜硝酸酸化活性が、常時、迅速に抑制される。そのため、被処理水に偶発的ないし突発的に硝酸性窒素の濃度変動が生じたり、亜硝酸酸化細菌が新たに混入したりした場合にも、硝酸性窒素の蓄積を速やかに解消し、亜硝酸性窒素の濃度を安定させて窒素処理を続けることができる。
また、以上の窒素処理方法によると、亜硝酸型硝化における亜硝酸性窒素の濃度が安定するため、その後に行う嫌気性アンモニア酸化の処理効率も向上し、高い窒素除去率が安定して得られる。被処理水のpHを高くするpH制御は、硝化処理中、十分な阻害強度となるように繰り返すことができるため、溶存酸素濃度やアンモニア性窒素濃度のみを調整する手法と比較して、積極的に亜硝酸酸化活性を抑制できる点で有利である。
図2は、窒素処理に用いられる廃水処理装置の変形例を示す模式図である。
本実施形態に係る窒素処理方法は、図2に示されるような廃水処理装置200で実施することもできる。図2に示す廃水処理装置200は、アンモニア酸化槽1と、微生物汚泥2と、散気装置3と、pH調整装置4と、イオンセンサ5aと、pHセンサ5bと、溶存酸素センサ5cと、アナモックス反応槽6と、微生物汚泥7と、制御装置8と、バイパスラインL1と、を備えている。
廃水処理装置200は、窒素成分を含む廃水を嫌気性アンモニア酸化法によって窒素処理する装置であり、亜硝酸型硝化と嫌気性アンモニア酸化とを個別の反応槽で行う二槽式とされている。廃水処理装置200では、亜硝酸酸化細菌による硝酸性窒素の生成を抑制するために、バイパス式のアンモニア酸化槽1において、オンラインの計測に基づき被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。廃水処理装置200の構成は、バイパスラインL1を備えるバイパス式とされている点を除いて、ワンパス式の廃水処理装置100と略同様である。
バイパスラインL1は、アンモニア酸化槽1の上流の区間と、アンモニア酸化槽1の下流、且つ、アナモックス反応槽6の上流の区間との間を、アンモニア酸化槽1を迂回して接続している。アンモニア酸化槽1には、被処理水の一部が導入されて硝化処理される。一方、バイパスラインL1が形成する流路には、残りの被処理水が所定の分配比で流される。アンモニア酸化槽1を迂回した被処理水は、不図示の調整槽等において、硝化処理された処理水に合流した後、アナモックス反応槽6に導入される。
バイパス式の廃水処理装置200では、アンモニア酸化槽1において、被処理水に含まれるアンモニア性窒素の略全量が亜硝酸化される。嫌気性アンモニア酸化反応に必要なアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率は、アンモニア酸化槽1への被処理水の通水量とバイパスラインL1への被処理水の通水量との分配比によって調整することができる。
被処理水の分配比は、アンモニア酸化槽1を迂回した被処理水と硝化処理された処理水とが合流したとき、アンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度との比が1:1~1:1.5となるように調整されることが好ましい。被処理水の分配比は、被処理水のアンモニア性窒素の濃度、及び、亜硝酸性窒素の濃度のうち、一以上をイオンセンサ5aによりオンラインで計測し、アンモニア酸化槽1への通水量や、バイパスラインL1への通水量を調節することによって制御することができる。
廃水処理装置200では、廃水処理装置100と同様に、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量をイオンセンサ5aによるオンラインの計測で常時監視し、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。廃水処理装置200における硝化処理工程、嫌気性アンモニア酸化処理工程、及び、pH制御の他の条件は、廃水処理装置100における条件と同様にすることができる。
以上の窒素処理方法によると、硝化処理工程において、窒素成分の濃度が連続的に計測され、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御が行われるので、硝化処理中に増大した亜硝酸酸化活性が、常時、迅速に抑制される。バイパス式における亜硝酸型の硝化処理は、ワンパス式と比較して高い硝化率且つ少ない処理水量で運転されるが、被処理水に偶発的ないし突発的に硝酸性窒素の濃度変動が生じたり、亜硝酸酸化細菌が新たに混入したりした場合には、硝酸性窒素の蓄積を速やかに解消し、亜硝酸性窒素の濃度を安定させて窒素処理を続けることができる。
バイパス式においては、アンモニア酸化槽における溶存酸素濃度の低減と、アンモニア酸化槽を迂回させる水量の増加とによって、アナモックス反応槽への硝酸性窒素の流入を少なくすることができる。これに対し、アンモニア酸化槽における硝化処理でpH制御を行うと、溶存酸素濃度を大きく低減しなくとも亜硝酸酸化活性が抑制されるため、アンモニア酸化槽における溶存酸素濃度を高く保ちつつ、アナモックス反応槽への硝酸性窒素の流入を抑制できる。よって、亜硝酸化の速度を高く保ち、高い窒素除去率を得ることができる。
図3は、窒素処理に用いられる廃水処理装置の変形例を示す模式図である。
本実施形態に係る窒素処理方法は、図3に示されるような廃水処理装置300で実施することもできる。図3に示す廃水処理装置300は、アンモニア酸化槽1と、微生物汚泥2と、散気装置3と、pH調整装置4と、イオンセンサ5aと、pHセンサ5bと、溶存酸素センサ5cと、アナモックス反応槽6と、微生物汚泥7と、制御装置8と、返送ラインL2と、を備えている。
廃水処理装置300は、窒素成分を含む廃水を嫌気性アンモニア酸化法によって窒素処理する装置であり、亜硝酸型硝化と嫌気性アンモニア酸化とを個別の反応槽で行う二槽式とされている。廃水処理装置300では、亜硝酸酸化細菌による硝酸性窒素の生成を抑制するために、アンモニア酸化槽1において、オンラインの計測に基づき被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。廃水処理装置300の構成は、返送ラインL2を備える点を除いて、廃水処理装置100と略同様である。
返送ラインL2は、アナモックス反応槽6の下流の区間と、アンモニア酸化槽1の上流の区間との間を、アナモックス反応槽6とアンモニア酸化槽1とを迂回して接続している。返送ラインL2が形成する流路には、アナモックス反応槽6で嫌気性アンモニア酸化処理された処理水の一部が分配される。嫌気性アンモニア酸化処理された処理水の一部は、アンモニア酸化槽1に返送されて原水と合流し、残留しているアンモニア性窒素が亜硝酸化される。
窒素処理装置300では、返送ラインL2を通じた処理水の返送によって、アンモニア酸化槽1に流入する被処理水(原水)を希釈することができる。処理水の返送量は、被処理水のアンモニア性窒素の濃度、及び、亜硝酸性窒素の濃度のうち、一以上をイオンセンサ5aによりオンラインで計測し、アンモニア酸化槽1への通水量や返送ラインL2への通水量を調節することによって制御することができる。処理水の返送量は、アンモニア酸化槽1における亜硝酸性窒素の濃度が1000mg/L以下となるように制御することが好ましい。
亜硝酸性窒素の濃度が1000mg/Lを大幅に超える場合、亜硝酸性窒素による阻害が加わり続けるため、低下したアンモニア酸化細菌の活性が回復しなくなる可能性がある。このような場合、返送ラインL2を通じて処理水を返送すると、亜硝酸性窒素の濃度が希釈されるため、高いアンモニア酸化活性や高い窒素除去率が得られる。
廃水処理装置300では、廃水処理装置100と同様に、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量をイオンセンサ5aによるオンラインの計測で常時監視し、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。廃水処理装置300における硝化処理工程、嫌気性アンモニア酸化処理工程、及び、pH制御の他の条件は、廃水処理装置100における条件と同様にすることができる。
以上の窒素処理方法によると、硝化処理工程において、窒素成分の濃度が連続的に計測され、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御が行われるので、硝化処理中に増大した亜硝酸酸化活性が、常時、迅速に抑制される。そのため、被処理水に偶発的ないし突発的に硝酸性窒素の濃度変動が生じたり、亜硝酸酸化細菌が新たに混入したりしたとしても、硝酸性窒素の蓄積を速やかに解消し、亜硝酸性窒素の濃度を安定させて窒素処理を続けることができる。また、嫌気性アンモニア酸化処理された処理水が返送ラインL2を通じて返送されるため、アンモニア酸化細菌の活性を阻害する遊離アンモニアや亜硝酸性窒素の濃度が低減し、亜硝酸化の速度が高く保たれる。
図4は、窒素処理に用いられる廃水処理装置の変形例を示す模式図である。
本実施形態に係る窒素処理方法は、図4に示されるような廃水処理装置400で実施することもできる。図4に示す廃水処理装置400は、アンモニア酸化槽1と、微生物汚泥2と、散気装置3と、pH調整装置4と、イオンセンサ5aと、pHセンサ5bと、溶存酸素センサ5cと、アナモックス反応槽6と、微生物汚泥7と、制御装置8と、不活化装置9と、を備えている。
廃水処理装置400は、窒素成分を含む廃水を嫌気性アンモニア酸化法によって窒素処理する装置であり、亜硝酸型硝化と嫌気性アンモニア酸化とを個別の反応槽で行う二槽式とされている。廃水処理装置400では、亜硝酸酸化細菌による硝酸性窒素の生成を抑制するために、アンモニア酸化槽1において、オンラインの計測に基づき被処理水のpHを高くするpH制御と微生物汚泥に不活化操作を加える処理とを行うことができる。廃水処理装置400の構成は、不活化装置9を備える点を除いて、廃水処理装置100と略同様である。
不活化装置9は、アンモニア酸化槽1から移送された微生物汚泥2に不活化操作を加えるために備えられる。アンモニア酸化槽1に保持される微生物汚泥2の少なくとも一部は、硝化処理が行われている間に、アンモニア酸化槽1から不活化装置9に移送されて不活化操作が加えられる。或いは、アンモニア酸化槽1に保持される微生物汚泥2に、アンモニア酸化槽1において直接的に不活化操作を加えてもよい。
アンモニア酸化槽1における硝化処理中、アンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌の少なくとも一部は、不活化操作によって殺菌又は静菌されるが、アンモニア酸化細菌の増殖速度は亜硝酸酸化細菌と比較して速いため、不活化操作を加えた後、アンモニア酸化細菌が優占増殖することができる。そのため、微生物汚泥2の少なくとも一部に不活化操作を加えることにより、アンモニア酸化活性を高く保ちつつ、亜硝酸酸化活性を抑制することができる。
不活化操作は、微生物を殺菌、又は、微生物の増殖を阻害する操作であって、微生物汚泥に含まれる硝化細菌群の生物活性を少なくとも一時的に低下させる操作を意味する。不活化操作としては、例えば、酸、アルカリ、有機溶媒、殺菌剤、高塩濃度溶液、アンモニア溶液、亜硝酸溶液等に微生物汚泥を接触させる操作や、加熱殺菌、放射線殺菌、ガス殺菌、物理的殺菌等を微生物汚泥に施す操作が挙げられる。
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸等や、その水溶液を用いることができる。アルカリとしては、例えば、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等や、その水溶液を用いることができる。
有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、ジエチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム等のアルデヒド類、フェノール類、ベンゼン、トルエン等のベンゼン類、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサン等の炭化水素類、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル等を用いることができる。
殺菌剤としては、例えば、銀、銅、水銀等の金属、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、クロラミン、酸化チタン等を含む溶液を用いることができる。高塩濃度溶液としては、例えば、塩化ナトリウム等を含む高張液を用いればよい。また、アンモニア溶液や亜硝酸溶液としては、50%阻害濃度等を超える高濃度の溶液を用いればよい。
不活化操作は、酸、アルカリ、有機溶媒、殺菌剤、高塩濃度溶液、アンモニア溶液、亜硝酸溶液等に微生物汚泥を接触させる場合、不活化装置9に、これらの溶液を供給し、アンモニア酸化槽1から移送された微生物汚泥2を含む被処理水に溶液を添加する方法や、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げた微生物汚泥2を溶液に浸漬させる方法で行うことができる。
加熱殺菌としては、例えば、アンモニア酸化槽1から微生物汚泥2と共に移送された被処理水や、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げられた微生物汚泥2を加熱処理する操作が挙げられる。加熱殺菌を施す不活化操作は、不活化装置9に、熱交換式、ジャケット式等の加温装置や、蒸気加熱装置を設けることにより行うことができる。
放射線殺菌としては、例えば、アンモニア酸化槽1から微生物汚泥2と共に移送された被処理水や、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げた微生物汚泥2に、紫外線、ガンマ線、電子線等を照射する操作が挙げられる。放射線殺菌を施す不活化操作は、不活化装置9に、紫外線照射装置、ガンマ線照射装置、電子線照射装置等を設けることにより行うことができる。
ガス殺菌としては、例えば、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げた微生物汚泥2に、エチレンオキサイド、過酸化水素、ホルムアルデヒド等のガスを接触させる操作が挙げられる。ガス殺菌を施す不活化操作は、不活化装置9に、エチレンオキサイド、過酸化水素、ホルムアルデヒド等のガスを供給するガス供給装置を設けることにより行うことができる。
物理的殺菌としては、例えば、アンモニア酸化槽1から微生物汚泥2と共に移送された被処理水や、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げた微生物汚泥2に、微生物の細胞を破壊する程度の外力を作用させる操作が挙げられる。物理的殺菌を施す不活化操作は、不活化装置9に、蒸気加熱装置、乾熱装置、高圧を作用させる加圧装置、減圧装置、廃水に衝撃力を与える噴流発生装置、攪拌装置、マイクロバブルを発生する気泡発生装置、遠心分離装置、乾燥装置、超音波発生装置、微生物に高電圧を印加する高電圧発生装置等を設けることにより行うことができる。
但し、不活化操作は、これらの操作に制限されるものではなく、硝化細菌群を殺菌又は静菌することが可能な操作であれば、適宜の操作を用いることが可能である。例えば、硝化細菌群の生育環境を極端に変化させる操作や、濾過殺菌を施す操作や、その他の薬品、各種の阻害剤等に暴露させる操作等を、操作条件を調節して利用することもできる。また、不活化操作は、これらの操作の一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
不活化装置9は、例えば、アンモニア酸化槽1から被処理水と共に移送された微生物汚泥2に不活化操作を加える装置としてもよいし、アンモニア酸化槽1の被処理水から引き揚げられた微生物汚泥2に被処理水とは別に不活化操作を加える装置としてもよい。処理に関わるエネルギコストや薬品等を削減できる観点からは、微生物汚泥2を被処理水から引き揚げて処理する装置が好ましい。
窒素処理装置400は、図4に示すように、アンモニア酸化槽1と不活化装置9との間に、アンモニア酸化槽1から不活化装置9に微生物汚泥2を移送するための移送路L10と、不活化装置9からアンモニア酸化槽1に微生物汚泥2を返送するための返送路L20と、が備えられてもよい。
移送路L10及び返送路L20は、例えば、配管、ホース等によって形成し、固定化されている微生物汚泥2や、自己造粒によるグラニュールを形成している微生物汚泥2や、水中に浮遊した状態の微生物汚泥2を、被処理水ごとアンモニア酸化槽1から引き抜いて移送する構造にすることができる。移送用のポンプとしては、エアリフトポンプ、スクリューポンプ、ピストンポンプ、ホースポンプ等の形式を用いることができる。また、返送路L20は、移送用のポンプの他、重力落下等を利用して移送を行うこともできる。
或いは、移送路L10及び返送路L20は、微生物汚泥2が担体の内部に包括固定化されている状態や、担体の表面に包括固定化されている状態や、担体に付着固定化されている状態や、自己造粒によるグラニュールを形成している状態である場合には、ストレーナ型、コランダ型等のざる状容器によって被処理水から引き揚げて搬送する構造にすることもできる。ざる状容器は、アンモニア酸化槽1と不活化装置9との間を自動的に移動するように設置してもよい。
廃水処理装置400では、廃水処理装置100と同様に、アンモニア酸化槽1で生成した硝酸性窒素の量をイオンセンサ5aによるオンラインの計測で常時監視し、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御を行うことができる。また、被処理水のpHを高くするpH制御とは独立に、不活化装置9を用いてアンモニア酸化槽1の微生物汚泥2に不活化操作を加えることができる。廃水処理装置400における硝化処理工程、嫌気性アンモニア酸化処理工程、及び、pH制御の他の条件は、廃水処理装置100における条件と同様にすることができる。
一般に、硝化細菌群は、水温が低い場合、アンモニア性窒素や亜硝酸性窒素の濃度が低い場合、溶存酸素濃度が高い場合、pHが低い場合に、亜硝酸酸化細菌の活性が優位になり、アンモニア酸化細菌が生成した亜硝酸性窒素は、亜硝酸酸化細菌によって硝酸性窒素にまで速やかに酸化される。そのため、曝気量、窒素負荷、水温、滞留時間、遊離アンモニア濃度等の調節のみでは、亜硝酸性窒素が消費されて硝酸性窒素が生成され易く、硝酸性窒素の生成量を抑制しきれない場合がある。
また、アンモニア酸化槽1は、亜硝酸酸化活性が抑制されていない種汚泥を用いて立ち上げられることがある。アンモニア酸化槽1で用いられる微生物汚泥2が適切に馴養されていない状態では、亜硝酸酸化細菌の活性がアンモニア酸化細菌と比較して高いことが原因で、立ち上げ後に硝酸性窒素が蓄積され易くなる場合がある。
これに対して、廃水処理装置400では、アンモニア酸化槽1から引き抜いた微生物汚泥2に不活化操作を加えて、アンモニア酸化細菌がアンモニア性窒素を酸化して亜硝酸性窒素を生成する活性や、亜硝酸酸化細菌が亜硝酸性窒素を酸化して硝酸性窒素を生成する活性を、一旦低下させることができる。
アンモニア性窒素の負荷が高い環境やpHが高い環境では、アンモニア酸化細菌は、亜硝酸酸化細菌と比較して活性の回復が速くなる。一方、亜硝酸酸化細菌は、アンモニア性窒素の負荷が高くなるほど、また、pHが高くなるほど、活性の回復が遅くなる。しかし、亜硝酸酸化細菌は、アンモニア酸化細菌と比較して高い増殖速度を示すため、亜硝酸酸化細菌の活性は、不活化操作を加えた後、ある程度の時間が経過すると、アンモニア酸化細菌の活性よりも高くなる。
そのため、不活化操作を微生物汚泥に加える処理を行い、アンモニア酸化反応の活性が相対的に優位な状態を作り出すことによって、硝酸性窒素の生成を抑制することができる。特に、不活化操作を微生物汚泥に加える処理を、被処理水のpHを高くするpH制御と共に行うと、pH制御によってpHが高くなった環境下で不活化操作の効果が大きくなるため、より効果的に亜硝酸酸化活性を抑制することができる。
不活化操作を微生物汚泥に加える処理は、アンモニア酸化槽1から一部の微生物汚泥2を不活化装置9に引き抜いて行ってもよいし、全部の微生物汚泥2を不活化装置9に引き抜いて行ってもよい。不活化操作を加える微生物汚泥2の生物量を多くすると、微生物汚泥2の亜硝酸酸化活性が速やかに低下するため、硝酸性窒素の生成量を早期に低下させることができる。一方、生物量を少なくすると、アンモニア酸化槽1におけるアンモニア酸化活性は維持され易くなるが、微生物汚泥2の亜硝酸酸化活性が抑制され難くなり、不活化操作後には、亜硝酸酸化活性が回復し易くなる。
不活化操作を微生物汚泥に加える処理は、硝化処理中、連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。間欠的な処理は、例えば、硝化処理の時間が所定時間を経過する毎、亜硝酸性窒素の濃度が所定値以下になったとき、硝酸性窒素の濃度が所定値以上になったとき等に行うことができる。また、不活化操作を微生物汚泥に加える処理は、pH制御と同様の条件で、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、pH制御と同時期に行うこともできる。また、アンモニア酸化槽1の立ち上げ時、硝化処理の前の馴養の段階で行うこともできる。
不活化操作を微生物汚泥に加える処理は、アンモニア酸化槽1の窒素負荷、汚泥量、亜硝酸性窒素の生成量、硝酸性窒素の生成量等に応じて、アンモニア酸化槽1に保持される微生物汚泥のうち、適宜の生物量の汚泥に施すことができる。微生物汚泥に加える不活化操作は、微生物を殺菌又は静菌する作用の強度や、微生物汚泥に施す時間間隔が、特に制限されるものではない。
硝化処理工程における亜硝酸性窒素の生成量は、不活化操作を加える微生物汚泥の生物量の調節、不活化操作における殺菌作用又は静菌作用の強度の調節、及び、間欠的に施す不活化操作の時間間隔の調節のうち、一以上によって調整されることが好ましい。これらのうち一以上の調節によると、pH制御や溶存酸素濃度の制御のみでは対応しきれない変動等が生じても、微生物汚泥の亜硝酸酸化活性を適切に制御することができる。
不活化操作は、硝化細菌群が完全には滅菌されず十分に静菌される程度の操作とするが、操作の種類や条件、不活化処理を行う生物量や処理環境毎に、硝化細菌群の活性を低下させる強さが異なる。そのため、用いる不活化操作について、事前に予備試験を行い、硝化細菌群の活性を低下させる強さを予め把握しておくことが好ましい。
不活化操作を加える微生物汚泥2の生物量は、アンモニア酸化槽1に保持される全体の数十%以下の生物量であることが好ましく、全体の10%以下、数%程度の生物量であることがより好ましい。アンモニア酸化槽1から引き抜かれる微生物汚泥2が多くなるほど、アンモニア性窒素の酸化が進行し難くなるためである。アンモニア酸化槽1から微生物汚泥2を引き揚げず、アンモニア酸化槽1において不活化操作を加える場合は、この限りではない。なお、不活化操作を加える微生物汚泥2の生物量は、不活化操作毎に、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
不活化操作における殺菌作用又は静菌作用の強度の調節は、操作の種類にもよるが、例えば、殺菌又は静菌される微生物数と相関がある各種の物理量や工業量を変更することによって行うことができる。例えば、各種の溶液に微生物汚泥を接触させる場合は、時間、濃度、pH、温度等、加熱殺菌の場合は、熱量等、放射線殺菌の場合は、線量等、ガス殺菌の場合は、時間、濃度等、物理的殺菌の場合は、時間、圧力、気圧、流速、遠心力、衝撃力、電圧、音波周波数等や、操作を加える距離、面積、密度等の変更によって強度の調節を行うことができる。
不活化操作の時間間隔の調節は、不活化操作を加える処理を間欠的に行う場合に、不活化操作同士の間の休止時間を変更することによって行うことができる。微生物汚泥に不活化操作が加えられたとき、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌は殺菌又は静菌されるが、被処理水のpHが高いほど、また、アンモニア性窒素の負荷が高いほど、亜硝酸酸化細菌と比較してアンモニア酸化細菌の増殖速度が速くなる。そのため、間欠的に繰り返す不活化操作の時間間隔を変えることによって、アンモニア酸化細菌を優占増殖させることができる。
例えば、不活化操作を加える微生物汚泥2の生物量が一定の条件下、不活化操作の時間間隔を短くし、不活化操作の頻度を多くすると、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌の活性の低下が早められる。アンモニア酸化槽1で、被処理水のpHが高い場合や、アンモニア性窒素の負荷が高い場合には、亜硝酸酸化細菌と比較してアンモニア酸化細菌の増殖速度が速くなるため、アンモニア酸化細菌の活性が相対的に回復し易くなり、亜硝酸性窒素の比率が高くなる。
一方、不活化操作を加える微生物汚泥2の生物量が一定の条件下、不活化操作の時間間隔を長くし、不活化操作の頻度を少なくすると、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌の活性の低下が遅くなる。このとき、アンモニア酸化槽1では、アンモニア酸化細菌の活性と亜硝酸酸化細菌の活性とに差が生じ難くなるため、亜硝酸性窒素が消費されて硝酸性窒素の比率が高くなる。
不活化操作の時間間隔は、特に制限されるものではないが、微生物汚泥2を移送するコストの観点や、活性を回復する時間を確保する観点からは、1日当たり1回から数回や、数日に1回等とすることが好ましい。但し、アンモニア酸化槽1から微生物汚泥2を引き揚げずに、アンモニア酸化槽1の中で不活化操作を加える場合は、この限りではない。なお、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率は、不活化操作を加える微生物汚泥の生物量の調節と、不活化操作における殺菌作用又は静菌作用の強度の調節、又は、間欠的に施す不活化操作の時間間隔の調節との組み合わせにより調整されることがより好ましい。
不活化操作が加熱殺菌を微生物汚泥に施す操作である場合、加熱の温度は、30℃以上90℃以下であることが好ましく、完全な滅菌を避けつつ十分な不活化を行う観点からは、40℃以上70℃以下であることがより好ましい。また、微生物汚泥が担体に包括固定化されている状態である場合には、50℃以上70℃以下であることが好ましい。また、加熱の時間は、十分な不活化を行う観点から、1時間以上とすることが好ましく、無駄なエネルギを削減する観点からは、2週間以内とすることが好ましい。
以上の窒素処理方法によると、硝化処理工程において、窒素成分の濃度が連続的に計測され、硝酸性窒素の濃度が上昇したとき、被処理水のpHを高くするpH制御が行われるので、硝化処理中に増大した亜硝酸酸化活性が、常時、迅速に抑制される。そのため、被処理水に偶発的ないし突発的に硝酸性窒素の濃度変動が生じたり、亜硝酸酸化細菌が新たに混入したりした場合にも、硝酸性窒素の蓄積を速やかに解消し、亜硝酸性窒素の濃度を安定させて窒素処理を続けることができる。また、不活化操作を加えることができるため、亜硝酸酸化活性を抑制するにあたり、ランニングコストが高くなる虞があるpH制御の頻度を低下させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、実施形態の構成の一部を省略したりすることも可能である。
例えば、前記の廃水処理装置200は、返送ラインL2や不活化装置9を備えてもよいし、前記の廃水処理装置300は、不活化装置9を備えてもよい。或いは、前記の廃水処理装置100,200,300,400を、亜硝酸型硝化と嫌気性アンモニア酸化とを一槽で行う単槽式としてもよい。
また、前記の廃水処理装置100,200,300,400において、アンモニア酸化槽1の前段側には、廃水の水質や水量を調整する調整槽や、廃水に含まれている有機物を生物学的に分解する生物反応槽や、廃水に含まれている硝酸性窒素を予め脱窒する前脱窒槽等が設けられてもよい。また、後段側には、嫌気性アンモニア酸化反応で生成した硝酸性窒素を脱窒する後脱窒槽等が設けられてもよい。生物反応槽としては、例えば、活性汚泥法、散水濾床法、好気性濾床法、回転生物接触法、膜分離活性汚泥法、嫌気性濾床法、嫌気性グラニュール汚泥床法等の方式で分解を行う処理槽が挙げられる。
また、前記の廃水処理装置400は、移送路L10及び返送路L20を備えず、手作業によって微生物汚泥2の移送が行われてもよい。また、前記の廃水処理装置100,200,300,400は、pH調整装置4をアンモニア酸化槽1に備えているが、pH調整装置4は、硝化処理される被処理水のpHを調整し得る限り、嫌気性アンモニア酸化槽1の上流等に設置してもよい。
以下、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
はじめに、アンモニア酸化細菌(AOB)と亜硝酸酸化細菌(NOB)との混成である微生物汚泥が固定化された包括固定化担体を用意し、不活化操作として加熱処理(加熱殺菌)を施した。この包括固定化担体を、容積1Lのリアクタに容積0.1Lとなるように投入し、リアクタを20℃の恒温槽内に設置した。そして、アンモニア性窒素の濃度が約40mg-N/Lである原水を水理学的滞留時間が1時間となるようにリアクタに通水して窒素処理を開始した。窒素処理の開始時に被処理水のpHは調整せず、窒素処理中には、リアクタ内の被処理水を曝気した。
窒素処理は、微生物汚泥に適宜の時間間隔で不活化操作を加え、硝酸性窒素の濃度が3日間にわたって連続して上昇したときに、被処理水のpHをpH8.8に連続的に調整しながら継続した。窒素処理の間、被処理水の溶存酸素濃度は2~3mg/L程度に調整し、アンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度との比が1:1~1:1.5となるように制御した。pH制御は、pH8.8に7日間にわたって調整し続けた後に中止した。
図5は、窒素処理における窒素成分の濃度変化の結果を示す図である。
図5の縦軸は、アンモニア性窒素(◆)、亜硝酸性窒素(□)、及び、硝酸性窒素(△)の濃度(mg/L)を示し、横軸は、窒素処理の時間(日)を示す。また、網掛けの領域は、pH制御の実施期間を示す。
図5に示すように、硝化処理が進行して亜硝酸性窒素の濃度が上昇するのに伴い、硝酸性窒素の濃度も次第に上昇した。130日前後で硝化が急激に進行し、亜硝酸性窒素の濃度と硝酸性窒素の濃度が極端に上昇したが、pH制御を行うと、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、及び、硝酸性窒素の濃度は、上昇前と同等の濃度に戻った。その後、240日前後で再び硝酸性窒素の濃度が極端に上昇したが、pH制御を行うと、元と同等の濃度に戻った。
硝化処理における硝酸性窒素の濃度は、予備試験の結果から、4週間から10週間の周期で極端な上昇を示すと推測された。このような周期の下で、pH制御に水酸化ナトリウムの25%溶液を用いる場合、溶液の必要量は、約0.72L/年になると試算された。
[比較例1]
はじめに、アンモニア酸化細菌(AOB)と亜硝酸酸化細菌(NOB)との混成である微生物汚泥が固定化された包括固定化担体を用意し、不活化操作として加熱処理(加熱殺菌)を施した。この包括固定化担体を、容積1Lのリアクタに容積0.1Lとなるように投入し、リアクタを20℃の恒温槽内に設置した。そして、アンモニア性窒素の濃度が約40mg-N/Lである原水を水理学的滞留時間が1時間となるようにリアクタに通水して窒素処理を開始した。窒素処理の開始時に被処理水のpHはアルカリ性pH調整剤を添加してpH8.8に調整し、窒素処理中には、リアクタ内の被処理水を曝気した。
窒素処理は、微生物汚泥に適宜の時間間隔で不活化操作を加え、硝酸性窒素の濃度とは無関係に、被処理水のpHをpH8.8に連続的に調整しながら継続した。窒素処理の間、被処理水の溶存酸素濃度は2~3mg/L程度に調整し、アンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度との比が1:1~1:1.5となるように制御した。
窒素処理が定常に達したとき、アンモニア性窒素の濃度は17~21mg/L、亜硝酸性窒素の濃度は16~22mg/L、硝酸性窒素の濃度は1~3mg/Lであった。pH制御に水酸化ナトリウムの25%溶液を用いる場合、溶液の必要量は、約2.76L/年になると試算された。
実施例1の結果が示すように、通水を継続すると、ある時期に亜硝酸酸化活性が高くなり、硝酸性窒素が蓄積し始める。しかし、pH制御を行うと、硝酸性窒素の生成が抑制され、亜硝酸型硝化が回復することが分かる。実施例1の結果と比較例1の結果とを比較すると、亜硝酸酸化活性を抑制するにあたっては、比較例1のように連続的にpHを調整する必要はなく、硝酸性窒素の濃度をオンラインで計測し、硝酸性窒素の濃度が上昇したときにpH制御を行えば、亜硝酸型硝化を十分に安定させることができるといえる。実施例1におけるアルカリ性pH調整剤の消費量は、比較例1の約1/4に削減されているため、コストの観点からも有効であるといえる。