JP7126642B1 - 抗菌コート剤、それを用いた印刷物 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、抗菌性および印刷適性が良好であり、基材に対する接着性、耐摩擦性、耐熱性、基材への耐ブロッキング性が良好であり、更にコート剤印刷後のコート層へ摩擦を加えた後であっても抗菌性を有したコート剤を提供することを課題とする。【解決手段】バインダー樹脂、有機溶剤および銀-リン酸ジルコニウム粒子を含有する抗菌コート剤であって、前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル系樹脂との組み合わせ、または、ポリアミド樹脂とニトロセルロース樹脂との組合せ、からなる一組の樹脂を含んでなり、前記銀-リン酸ジルコニウム粒子を、前記抗菌コート剤全質量中に0.05~0.9質量%含有する抗菌コート剤。【選択図】なし

Description

本発明は抗菌コート剤およびその印刷物に関するものである。
より詳しくは、抗菌性および印刷適性が良好であり、基材に対する接着性、耐摩擦性、耐熱性、耐ブロッキング性が良好であり、更にコート剤印刷後のコート層へ摩擦を加えた後であっても抗菌性を有したコート剤に関するものである。
近年、商品パッケージその他の包装物には装飾や表面保護のために印刷が施されているのが一般的である。また、印刷物の意匠性、美粧性、高級感などの印刷品質のでき如何によって、消費者の購入意欲を促進させるものであり、産業上での価値は大きい。
一方、包装物の多様化、包装技術の高度化に伴い、印刷インキに対して高度の品質、性能が要求されるようになってきている。印刷インキは例えばフレキソインキ、オフセットインキ、グラビア印刷インキその他が挙げられるが、中でも印刷速度が良好であるため、生産性の観点でグラビア印刷インキが多く使用されている。
グラビア印刷インキの性能としては、印刷性能の品質はもちろんのこと、基材に対する接着性、印刷して巻き取られた時にインキが基材の裏面に裏移り・接着しないための耐ブロッキング性、印刷層同士が接着しないための耐ブロッキング性、印刷面が傷つかないための耐摩擦性、製袋時の耐熱性、油脂に対する耐油性、などといった各種耐性が要求されている。
また、近年の衛生思想の高まりによって、食品や医薬品の工場、病院や養護施設等の建物、食品厨房器具、医療器具、医療機器等の装置において、または一般家庭用品においてまでも、細菌、かび等の拡大・感染防止を目的として、抗菌剤、抗ウイルス、抗カビ剤、消毒剤等が使用されている。しかし、最近では様々な感染症が出現しており、菌やウイルスからの感染を防止する志向が特に高まっている。そのため、公共施設のみならず一般家庭においても、様々な部材に抗菌性や抗ウイルス性を付与する技術が望まれている。
従来の技術では、これらの問題を解決するものとして、有機系又は無機系抗菌剤が提案されてきた。例えば、有機ヨード系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤、ベンゾイミダゾール系抗菌剤、イソフタロニトリル系抗菌剤、フェノール系抗菌剤、トリアジン系抗菌剤、臭素系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤、有機金属系抗菌剤や、金属イオンをゼオライトやシリカゲル等の物質に担持させた抗菌材料など多数開発され、それらを用いた抗菌コーティング剤が開発されている(特許文献1~3)。しかしながら、抗菌性を発現する化合物のバリエーションは限られており、新たな素材として抗菌性を発現する素材が求められている。
また、コーティングを施した塗工物において、生活している中で何度も触れて擦れた後、抗菌効果の持続性が劣るケース、印刷機による基材上への印刷において、印刷適性が劣るケースがあった。
特許第6801137号公報 特開2017-39905号公報 特開2017-137481号公報
本発明は、抗菌性および印刷適性が良好であり、基材に対する接着性、耐摩擦性、耐熱性、基材への耐ブロッキング性が良好であり、更にコート剤印刷後のコート層へ摩擦を加えた後であっても抗菌性を有したコート剤を提供することである。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下に記載の「抗菌抗ウイルスコート剤」を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明は、バインダー樹脂、有機溶剤および銀-リン酸ジルコニウム粒子を含有する抗菌コート剤であって、
前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル系樹脂との組み合わせ、または、ポリアミド樹脂とニトロセルロース樹脂との組合せ、からなる少なくとも一組の樹脂を含んでなり、
前記銀-リン酸ジルコニウム粒子を、前記抗菌コート剤全質量中に0.05~0.9質量%含有する抗菌コート剤に関する。
また、本発明は、抗菌コート剤が、更に塩素化ポリオレフィン樹脂を含有する、上記抗菌コート剤に関する。
また、本発明は、抗菌コート剤が、更に脂肪酸アミドおよび/または炭化水素ワックス粒子を含有する、上記抗菌コート剤に関する。
また、本発明は、抗菌コート剤が、更に体質顔料および/または樹脂微粒子を含有する、上記抗菌コート剤に関する。
また、本発明は、基材上に上記抗菌コート剤を含んでなる印刷層を有する印刷物に関する。
本発明により、抗菌性および印刷適性が良好であり、基材に対する接着性、耐摩擦性、耐熱性、基材への耐ブロッキング性が良好であり、更にコート剤印刷後のコート層へ摩擦を加えた後であっても抗菌性を有したコート剤を提供することが可能となった。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
なお、以下の説明において「抗菌コート剤」は、「抗菌コート剤組成物」、「コート剤組成物」、「コート剤」と表記する場合がある。また、抗菌コート剤を印刷して得られる層は「抗菌コート層」または「コート層」と表記する場合がある。また、「印刷物」を「コート剤印刷物」と表記する場合があるが同義である。
なお、積層体あるいは包装袋とした場合に最外面が抗菌コート層となる。表面保護層となる場合がある。「部」は特に断らない限り「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
<ポリウレタン樹脂>
本発明において使用するポリウレタン樹脂は、例えば特開2013-256551号公報や特開2016-043600号公報に記載の方法により合成することができ、好ましい形態として、脂肪族ジオールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネートとの反応で得られるウレタン結合を有するポリウレタン樹脂である。また、必要に応じて残存するイソシアネートとポリアミンにより生成されるウレア結合を介して鎖延長されていてもよい。
(ポリオール)
ポリオールは、一分子中に水酸基を平均で1.7~2.3個程度有することが好ましく、平均2個有することがより好ましい。ポリオールとしては、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体などのポリエーテルポリオール類、
エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタジオール、メチルペンタジオール、ヘキサジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、メチルノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコールと、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの二塩基酸もしくはこれらの無水物との脱水縮合物であるポリエステルポリオール類、
ポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエングリコール類、ビスフェノールAの酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られるポリオール類、
ダイマージオール類、ひまし油ポリオール類、水添ひまし油ポリオール類などの各種公知のポリオールが挙げることができる。
ポリオールは、単独で用いても、2種以上併用してもよい。ポリオールの数平均分子量は、ポリウレタン樹脂の溶解性と基材への耐ブロッキング性を保つことができるため300以上であり、500~6,000が好ましく、1,000~3,000がより好ましい。中でもポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールより選ばれる少なくとも一種のポリオールを使用することが好ましい。またポリオールはバイオマス由来の化合物ないし原料(バイオマス原料)を構成要素として有していても良い。
本発明においては、ポリオールの中でも、基材に対する接着性の観点からポリエステルポリオールが好ましい。また、2種以上のポリオールを併用する場合においては、基材に対する接着性と耐ブロッキング性の観点から、ポリエステルポリオールをポリオールの全質量に対して40質量%以上含むことがより好ましい。
(脂肪族ジオール)
ポリウレタン樹脂を構成するポリオールは、脂肪族ジオールを含むことが好ましい。当該脂肪族ジオールを用いた実施形態は、例えば、分子量が180以下の脂肪族ジオール由来の構造単位であって、下記一般式(1)で示される、2つの水酸基がイソシアネート化合物とウレタン結合を形成した形態などが挙げられ、この場合は、ポリエステルポリオール等のポリオールを構成している脂肪族ジオールを意味するものではない。また、別途、ポリエステルポリオール中には、上記脂肪族ジオールからなる構造単位を含んでいてもよく、そのようなポリエステルポリオールの利用を本発明から除外するものではない。
一般式(1)

-NHCOO-R-OCONH-

(式中、Rは置換または無置換のアルキレン基を表す。)
上記脂肪族ジオールは分子量130以下であればより好ましい。より詳しくは、アルキレン基の分子量は140以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。アルキレン基は置換基としてアルキル基を有していてもよい。
脂肪族ジオールは例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖状ジオール類、1,2-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、メチルノナンジオール等の分岐ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、などの脂環族ジオール類等が挙げられ、複数種併用しても良い。中でも、炭素数1から6のアルキル基を置換基として有する脂肪族ジオールは、基材への接着性に優れ、またウレタンの溶解性を高めるため印刷適性が向上するため好ましい。より具体的には3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましく使用される。
分子量が180以下の脂肪族ジオール由来の構造単位は、ウレタン結合密度を高めて結晶性と凝集力を付与し、ポリオール由来の構造単位は柔軟性と接着性に寄与する。そのため耐ブロッキング性と基材への接着性を両立することができ、また、耐油性が良好となる。ポリオール由来の構造単位の総量中の前記脂肪族ジオール由来の構造単位(ただしポリオール中に含まれる構造単位は除く)の含有量は10~60質量%であり、20~40質量%が好ましい。10質量%以上であるとイソシアネートと反応して得られるウレタン結合の凝集力が向上し、防曇フィルムへの耐ブロッキング性に優れる。60質量%以下であると、ポリウレタン樹脂の溶剤に対する溶解性を良好に維持可能である。
他のポリオール成分としては、芳香族ジオールや分子量が180を超える脂肪族ジオール等が挙げられ、これらを併用しても良い。
ポリイソシアネートとしてはジイソシアネートを使用することが好ましい。例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4、4’ -ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。中でもイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
本発明に使用するポリウレタン樹脂を得るためには、ポリイソシアネート由来のNCOとポリオールおよび脂肪族ジオールを含むOHの反応モル比(NCOモル当量/OHモル当量)が0.5以上2以下、好ましくは1.05以上3以下となるように反応させ、次いで、必要に応じて上述したポリアミンで鎖延長を行うこともでき、過剰反応を防止するため、更に反応停止剤も使用することもできる。
ウレタン化反応は、有機溶剤中で行ってもよいし、無溶剤で行ってもよい。有機溶剤を使用する場合は、反応時の温度および粘度、副反応の制御の面から適宜選択して用いるとよい。また無溶剤でウレタン化反応を行う場合は、均一なポリウレタン樹脂を得るために、攪拌が十分可能な粘度となるように温度を上げて行うことが望ましい。ウレタン化反応は10分~5時間行うのが望ましく、反応の終点は粘度測定、IR測定によるNCO由来ピーク、滴定によるNCO%測定等により判断される。
鎖延長に用いるポリアミンとしては、エチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、イソホロンジアミン、アミノエチルエタノールアミン等の脂肪族ジアミン類であることが好ましい。また鎖延長剤として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類も使用することができる。
また反応停止剤としては、メタノール、エタノール等のモノアルコール類、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類が挙げられる。
ポリウレタン樹脂は、ウレア結合を有していても良いし、有していなくても良い。ウレア結合を有する場合の製造方法は、特に限定されるものではないが、脂肪族ジオールおよびポリオール並びにポリイソシアネートを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーの、イソシアネート基の数を1とした場合の鎖延長剤および反応停止剤中のアミノ基の合計数量が0.5~1.3の範囲内であることが好ましい。
ポリウレタン樹脂は、重量平均分子量が8,000~80,000のものが好ましく、10,000~60,000であることがなお好ましい。ガラス転移温度が0℃以下であることが好ましい。-40℃~-5℃であることがなお好ましく、-35~-10℃であることが更に好ましい。塩化ビニル系樹脂との親和性が良好となるためである。
また、ポリウレタン樹脂のアミン価および/または水酸基価を有するものが好ましく、アミン価は0.5~20mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1~15mgKOH/gである。また、水酸基価は0.5~30mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1~20mgKOH/gである。上記範囲であると、基材に対する接着性が向上し、また、銀-リン酸ジルコニウム粒子と作用して抗菌性が発現しやすくなる。
<塩化ビニル系樹脂>
本発明において使用する塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル由来の構造単位とその他モノマー由来の構造単位を含有するものであれば特に限定されない。中でも塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂が好ましい。
(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂)
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂は、塩化ビニルモノマーと酢酸ビニルモノマーを共重合して得られる。分子量としては重量平均分子量で5,000~100,000のものが好ましく、20,000~70,000が更に好ましい。塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂の固形分100質量%中の酢酸ビニルモノマー由来の構造は、1~30質量%が好ましく、塩化ビニルモノマー由来の構造は、70~95質量%であることが好ましい。この場合有機溶剤への溶解性が向上し、更に基材に対する接着性、コート層の物性等が良好となる。また、水酸基を有することが好ましく、共重合において更にビニルアルコールを用いる、または酢酸ビニルの一部をケン化することで得られる。塩化ビニル、酢酸ビニルおよびビニルアルコールのモノマー比率は、樹脂被膜の性質や樹脂溶解挙動に影響を与え、例えば、塩化ビニルは樹脂被膜の強靭さや硬さを付与し、酢酸ビニルは接着性や柔軟性を付与し、ビニルアルコールは極性溶剤への良好な溶解性を付与する。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の水酸基価は、50~180mgKOH/gが好ましく、70~160mgKOH/gがより好ましい。また、ガラス転移温度は50℃~90℃であることが好ましい。
上記ポリウレタン樹脂と上記塩化ビニル系樹脂との組み合わせにより、バインダー樹脂として機能する。バインダー樹脂総量中、ウレタン樹脂および塩化ビニル系樹脂を合計で60質量%含有することが好ましい。80質量%含有することがなお好ましい。基材に対する接着性が良好となるためである。
更に、上記ポリウレタン樹脂と上記塩化ビニル系樹脂の固形分質量比(ポリウレタン樹脂/塩化ビニル系樹脂)が95/5~50/50であることが好ましい。この配合比および組み合わせのとき、基材に対する接着性と耐ブロッキング性、抗菌性、更には印刷適性が良好となるためである。
<ポリアミド樹脂>
本発明において使用するポリアミド樹脂は以下に限定されるものではないが、好ましくは多塩基酸と多価アミンとを重縮合して得ることができる有機溶剤に可溶な熱可塑性ポリアミドである。特に、重合脂肪酸及び/又はダイマー酸を含有する酸成分と、脂肪族及び/又は芳香族ポリアミンの反応物を含むポリアミド樹脂であることが好ましく、更には一級および二級モノアミンを一部含有するものが好ましい。
ポリアミド樹脂の原料で使用される多塩基酸としては、以下に限定されるものではないが、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、スベリン酸、グルタル酸、フマル酸、ピメリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、テレフタル酸、1、4-シクロヘキシルジカルボン酸、トリメリット酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、重合脂肪酸などが挙げられ、その中でもダイマー酸あるいは重合脂肪酸に由来する構造を主成分(ポリアミド樹脂中に50質量%以上)含有するポリアミド樹脂が好ましい。ここで、重合脂肪酸とは、不飽和脂肪酸脂肪酸の環化反応等により得られるもので、一塩基性脂肪酸、二量化重合脂肪酸(ダイマー酸)、三量化重合脂肪酸等を含むものである。なお、ダイマー酸あるいは重合脂肪酸を構成する脂肪酸は大豆油由来、パーム油由来、米糠油由来など天然油に由来するものを好適に挙げることができ、オレイン酸およびリノール酸から得られるものが好ましい。
多塩基酸には、モノカルボン酸を併用することもできる。併用されるモノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
多価アミンとしては、ポリアミン、一級または二級モノアミンなど挙げることができる。ポリアミド樹脂に使用されるポリアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチルアミノプロピルアミン等の脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミンを挙げることができ、脂環族ポリアミンとしては、シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン等を挙げることができる。また、芳香脂肪族ポリアミンとしてはキシリレンジアミン、芳香族ポリアミンとしてはフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等を挙げることができる。さらに、一級及び二級モノアミンとしては、n-ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどを挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、溶解性の観点から重量平均分子量は2,000~50,000の範囲であることが好ましく、2,000~30,000あるいは3,000~20,000であることがなお好ましく、4,000~15,000であることが更に好ましい。2,000以上の場合はコート剤のコート層強度が良好となり、耐摩擦性、耐熱性、印刷適性が向上する。分子量が50,000以下の場合はコート剤の粘度が低粘度化でき、保存安定性が良好となる。
また、ポリアミド樹脂は軟化点が80~140℃であることが好ましく、90~130℃であることがなお好ましい。軟化点が80℃以上の場合は印刷物のコート層の表面タック切れが良好となり、ブロッキングを防ぐ。軟化点が140℃以下の場合はコート層が柔軟となり基材に対する接着性が向上する。なお、軟化点はJISK2207(環球法)で測定された値を表す。
また、ポリアミド樹脂のアミン価および/または酸価を有するものが好ましく、アミン価は0.5~20mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1~15mgKOH/gである。また、酸価は0.5~17mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1~15mgKOH/gである。
更に、上記の構造、重量平均分子量、軟化点、アミン価および酸価の範囲であるポリアミド樹脂の場合は、銀-リン酸ジルコニウム粒子と作用して抗菌性が発現しやすくなる。
好ましいポリアミド樹脂としては、花王社製レオマイドシリーズなどが挙げられる。
<ニトロセルロース樹脂>
本発明において使用するニトロセルロース樹脂は、天然セルロースと硝酸とを反応させて、天然セルロース中の無水グルコピラノース基の6員環中の3個の水酸基を、硝酸基に置換した硝酸エステルとして得られるものが好ましく、平均重合度20~200、更には30~150の範囲のものが好ましい。平均重合度が20以上の場合、コート層の強度が向上し、耐摩擦性が向上するため好ましい。また、平均重合度が200以下の場合、溶剤への溶解性、コート剤の低温安定性、併用樹脂との相溶性が向上するため好ましい。分子量としては重量平均分子量で5,000~200,000のものが好ましく、10,000~50,000が更に好ましい。また、ガラス転移温度が120℃~180℃であるものが好ましく、窒素分は10.5~12.5質量%であることが好ましい。
好ましいニトロセルロース樹脂としては、Nobel Enterprises社製DLXシリーズ、TNC INDUSTRIAL社製TRシリーズなどが挙げられる。
上記ポリアミド樹脂と上記ニトロセルロース樹脂との組み合わせにより、バインダー樹脂として機能する。バインダー樹脂総量中、ポリアミド樹脂およびニトロセルロース樹脂を合計で60質量%含有することが好ましい。80質量%含有することがなお好ましい。
更に、上記ポリアミド樹脂と上記ニトロセルロース樹脂の固形分質量比(ポリアミド樹脂/ニトロセルロース樹脂)が95/5~50/50であることが好ましい。この配合比および組み合わせのとき、抗菌性、耐摩擦性、耐熱性、耐ブロッキング性など、コート層の各種耐性、更には印刷適性が良好となるためである。
<銀-リン酸ジルコニウム粒子>
本発明において使用する銀-リン酸ジルコニウム粒子は、抗菌性を発現させるために用いられる。無機イオン交換体である六方晶リン酸ジルコニウムに、イオン交換で銀イオンを担持させたものであり、ジルコニウムを中心とした酸素八面体とリンを中心とした酸素四面体が酸素共有で3次元的に連なり、その骨格中に銀イオンが存在する。コート層中に前記銀-リン酸ジルコニウム粒子と、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル系樹脂との組み合わせ、または、ポリアミド樹脂とニトロセルロース樹脂との組合せ、からなる一組の樹脂を有する場合には、抗菌性に加え、基材に対する密着性、耐摩擦性、耐熱性、耐ブロッキング性などの向上が図れるので好適である。
銀-リン酸ジルコニウム粒子は記抗菌コート剤全質量中に0.05~0.9質量%含有することが好ましく、0.05~0.6質量%含有することがより好ましい。0.05質量%以上の場合は抗菌性が発現し、0.9質量%以下の場合は印刷適性が向上する。また、銀-リン酸ジルコニウム粒子の平均粒子径は0.1~12μmが好ましく、更に1~5μmが好ましい。好ましい銀-リン酸ジルコニウム粒子としては、東亞合成社製ノバロンAGシリーズなどが挙げられる。
本発明において平均粒子径は、レーザー回析・散乱法によるD50測定値をいい、例えば、マイクロトラック・ベル社製の粒子径分布測定装置等を用いることができ、マイクロトラックMT3000IIシリーズなどを用いて測定できる。
<塩素化ポリオレフィン樹脂>
本発明のコート剤には塩素化オレフィン樹脂を用いることが好ましい。塩素化オレフィン樹脂は、易接着処理基材への接着性が向上するため、塩素含有率が25~45質量%であることが好ましく、26~40質量%であることがより好ましい。ここで、本発明における塩素含有率とは、塩素化オレフィン樹脂100質量%中の塩素原子の含有質量%をいう。また、エステル系溶剤/アルコール系溶剤などの混合溶剤への溶解性の観点から、本発明における塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000~30,000であることが好ましい。また、耐ブロッキング性とのバランスの観点から、塩素化オレフィン樹脂はコート剤組成物中に0.1~3質量%含有することが好ましい。より好ましくは0.2~2質量%である。
本発明において、塩素化ポリオレフィン樹脂とは、下記一般式(2)で示されるα-オレフィンの重合体の水素を塩素置換した構造を有するものである。
一般式(2)

CH=CH-R3

(式中、R3は炭素数1以上のアルキル基である。)
塩素化ポリオレフィン樹脂は、柔軟性を持つアルキル基を分枝構造として有するため、低温下でも粘稠な液体であり、上記使用量にて基材接着性を向上させる。塩素化ポリオレフィン樹脂におけるポリオレフィン構造は、特に制限はない。例えば、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィン系不飽和炭化水素の単独重合体又は共重合体を含有する樹脂が好ましい。中でもポリプロピレン構造(すなわち塩素化ポリプロピレン構造)を含むものが特に好ましい。この場合、前述のアルキル置換基を有するジオールと二塩基酸からなるポリエステル構造単位を有するポリウレタン樹脂と併用した場合に優れた基材密着性が得られる。
また、上記塩素化ポリオレフィン樹脂は、他のモノマーとの共重合樹脂であっても良く、上記塩素含有率であれば、特段限定は無い。共重合可能なモノマーとしてはアクリルモノマー、酸性モノマー、酢酸ビニルモノマー、スチレンモノマーなどが好ましい。なお、アクリルモノマーとしては前述のアクリルモノマー等が挙げられ、酸性モノマーは、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
<脂肪酸アミド>
本発明のコート剤には脂肪酸アミドを用いることが好ましい。脂肪酸アミドとしては飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、変性脂肪酸アミド等が挙げられ、コート剤組成物中に0.1~3質量%含有することが好ましく、より好ましくは、0.3~2.5質量%である。本発明のバインダー樹脂と併用することで耐ブロッキング性がさらに向上する。
<炭化水素ワックス粒子>
本発明のコート剤には炭化水素ワックス粒子を用いることが好ましい。炭化水素ワックスとしてはポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどが挙げられ、コート剤組成物中に0.1~3質量%含有することが好ましく、より好ましくは、0.3~2.5質量%である。本発明のバインダー樹脂と併用することで耐摩擦性がさらに向上する。
<体質顔料>
本発明のコート剤には、耐ブロッキング性と艶消し効果を向上させるため体質顔料を用いることが好ましい。コート剤組成物中に1~20質量%含むことが好ましく、より好ましくは、5~15質量%である。体質顔料は、シリカ、硫酸バリウム、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
<樹脂微粒子>
本発明のコート剤において樹脂微粒子は固有の屈折率によって光拡散性の制御が可能であり、光沢、艶消し、透明性等によって求める意匠性を付与する事ができる。使用する樹脂微粒子の屈折率は1.40以上であることが好ましく、1.45以上であることがなお好ましい。また、1.75以下であることが好ましく、1.70以下であることがなお好ましく、1.60以下であることが更に好ましい。当該樹脂微粒子としては、ポリアクリル微粒子、ポリアミノ微粒子、ポリオレフィン微粒子、ポリスチレン微粒子などが挙げられ、上記微粒子から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。樹脂微粒子の平均粒子径は、0.5~10μmであることが好ましく、1~8μmであることがなお好ましい。耐摩擦性と艶消し効果が向上するためである。
また、樹脂微粒子の含有率は、求める耐摩擦性(滑り性)や艶消し効果の程度、添加する樹脂微粒子の粒径、種類等に応じて、コート剤組成物中に1~10質量%含むことが好ましく、より好ましくは、1~5質量%である。なお、樹脂微粒子は、炭化水素ワックス粒子を含まない。
当該樹脂微粒子としては、ポリアクリル微粒子は、根上工業社製アートパールGSシリーズ、アートパールJシリーズ、ポリアミノ微粒子は、日産化学社製オプトビーズシリーズ、ポリオレフィン微粒子は、住友精化社製フロービーズLEシリーズ、ポリスチレン樹脂微粒子は、松浦社製ファインパールシリーズ、綜研化学社製ファインパウダーMPシリーズ、積水化成社製テクポリマーSBXシリーズ、テクポリマーSSXシリーズなどが挙げられる。
<他のバインダー樹脂>
バインダー樹脂は、バインダー性能を有するものであれば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂以外の樹脂を併用しても良く、例えば、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、無水マレイン酸樹脂、マレイン酸樹脂、酢酸ビニル樹脂、ロジン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、シクロオレフィン樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの変性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができ、その含有量は、バインダー樹脂の固形分100質量%に対して、0~30質量%が好ましく、0~15質量%がより好ましい。なお、バインダー樹脂は、塩素化ポリオレフィン樹脂を含まない。
また、添加剤として顔料分散剤、レベリング剤、架橋剤、界面活性剤、可塑剤、接着補助剤等の各種コート剤用添加剤の添加は任意である。
<有機溶剤>
本発明のインキ組成物で利用する有機溶剤としては、主に、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、アセトン,メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶剤、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、および、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤が挙げることができ、バインダー樹脂の溶解性や乾燥性などを考慮して、混合して利用することが好ましい。これらの有機溶剤の使用量としては、インキ総量中に30質量%以上含有することが好ましい。なお、印刷時の臭気や環境対応のため、有機溶剤はエステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤の混合溶剤を主成分とすることが好ましく、その質量比(エステル系有機溶剤:アルコール系有機溶剤)が、50:50~90:10であることが好ましい。
<コート剤の製造>
本発明のコート剤は、例えば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、有機溶剤、および抗菌剤粒子を、必要に応じて体質顔料および/または樹脂微粒子を有機溶剤中に溶解および/または分散することにより製造することができる。具体的には、例えば、銀-リン酸ジルコニウム粒子、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、体質顔料および/または樹脂微粒子を混合し、有機溶剤に分散させた分散体を製造し、得られた分散体に更にポリウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、脂肪酸アミドおよび/または炭化水素ワックス粒子、あるいは必要に応じて他の樹脂や添加剤等を配合することによりコート剤を製造することができる。また分散体の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、分散体の吐出速度、分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。分散機としては一般的に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを好適に用いることができる。
<基材>
本発明のコート剤は、基材上に印刷されて印刷物となる。当該基材は特に限定されないが、フィルム基材であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系基材、ナイロン基材、ポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材などのフィルム基材、およびこれらの複合材料からなるフィルム基材が挙げられる。プラスチック基材は、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの金属あるいは金属酸化物が蒸着されていても良く、更に蒸着面をポリビニルアルコールなどの塗料でコーティング処理を施されていてもよい。一般的に、印刷される基材表面はコロナ処理などの表面処理が施されている場合が多い。さらに基材は、予め防曇剤の塗工、練り込み、マット剤の表面塗工、練り込みなどプラスチックフィルムを加工して得られるフィルムも使用する事が可能である。
また、基材は、単層でもよいし、2つ以上の基材が積層された積層体(基材層)であってもよい。基材層を構成する基材は、同じでも異なっていてもよい。
中でもポリオレフィン基材であることが好ましい。当該ポリオレフィン基材はコロナ放電処理その他の表面処理をされていてもよいし、されていなくてもよい。
防曇剤は界面活性剤が好ましく、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの多価アルコール脂肪酸エステルやエチレンオキサイド付加物などのイオン系界面活性剤を1種あるいは複数用いられる。
<印刷物>
本発明の印刷物は基材上に前記コート剤を印刷することで形成される。基材上に、本発明のコート剤を用いて印刷した後、有機溶剤などの揮発成分を除去することによってコート層を形成し、抗菌性の印刷物を得ることができる。印刷方法としてはグラビア印刷方式であり、例えば、グラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給され、印刷される。その後、オーブンによる乾燥によってコート層を定着することで得ることができる。
また、上記の層以外の他の層があってもよい。当該他の層としては、プライマー層、絵柄層と熱可塑性樹脂層、アンカーコート層、などが挙げられる。後述する通り、コート剤印刷物は基材とコート層の間に印刷インキから形成された絵柄層などを有する形態も好ましい。
<コート層>
コート剤は、上記バインダー樹脂と併用することで、コート層の軟調化による塗膜の自由度が増す。必然的に銀-リン酸ジルコニウム粒子が塗膜に埋もれて抗菌性の発現を阻害することや、コート層を擦った後などにコート層からの離脱を防ぐことが可能になり、抗菌性能が持続しやすくなる。コート層は、表面保護層として位置することが好ましい。
<絵柄層>
上記印刷物は、基材とコート層との間に絵柄層を有していてもよい。当該絵柄層は、印刷インキを、上記基材上に、グラビア印刷方式やフレキソ印刷方式などの輪転印刷方式で絵柄層を形成することで得ることができる。例えば、印刷インキをグラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで有機溶剤で希釈され、各印刷ユニットに供給され印刷される。印刷方式は特段限定されないが、スクリーン印刷方式、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、インクジェット印刷方式など好適に挙げられるが、なかでもグラビア印刷方式が好ましい。このようなインキとしては、特許第6376269号公報、特開2020-59806号公報などに記載の印刷インキなどが挙げられる。
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部および%は、特に注釈の無い場合、質量部および質量%を表す。
(アミン価)
アミン価の測定は、JISK0070(1992年)に準じて以下の方法により行った。
・アミン価の測定方法
試料を0.5~2g精秤する(試料量:Sg)。精秤した試料に中性エタノール(BDG中性)30mLを加え溶解させる。得られた溶液に対して0.2mol/Lエタノール性塩酸溶液(力価:f)を用いて滴定を行う。溶液の色が緑から黄に変化した点を終点とする。この時の滴定量(AmL)を用い、次の(式5)によりアミン価を求める。
(式5)アミン価=(A×f×0.2×56.108)/S
(重量平均分子量)
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求めた。昭和電工社製「ShodexGPCSystem-21」を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量を求めた。以下に測定条件を示す。
カラム:下記の複数のカラムを直列に連結して使用。
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW2500、
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW3000、
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW4000、
東ソー株式会社製、TSKgel guardcolumn SuperAWH
検出器:RI(示差屈折計)、
測定条件:カラム温度40℃、
溶離液:ジメチルホルムアミド
流速:0.5mL/分
<合成例1>(ポリウレタン樹脂PU1の合成)
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコに数平均分子量(以下Mnという)2,000の3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の縮合物であるポリエステルポリオール(「MPD/AdA」と略記する)100.0部、ポリプロピレングリコール100.0部、シクロヘキサンジメタノール1.6部、N-メチルジエタノールアミン1.3部、イソホロンジイソシアネート61.5部、2-エチルヘキシル酸第一錫0.06部、2-ジエチルアミノエタノール2.6部および酢酸エチル40.0部を仕込み、窒素気流下に90℃で2時間反応させ、酢酸エチル50.0部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液357.1部を得た。次いでイソホロンジアミン23.6部、エタノールアミン1.5部、ジ-n-ブチルアミン0.08部、酢酸エチル278.9部、イソプロピルアルコール246.0部の混合物に、得られた末端イソシアネートプレポリマー357.1部を室温で徐々に添加、次に50℃で1時間反応させた。その後、イソホロンジイソシアネート3.2部を加えて粘度調整した後、酢酸エチル/イソプロピルアルコールを質量比で2/1の割合で混合した溶剤で固形分を30%に調整し、アミン価14.0mgKOH/g、質量平均分子量40,000のポリウレタン樹脂(PU1)を得た。
<合成例2>(ポリウレタン樹脂PU2の合成)
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコに数平均分子量(以下Mnという)2,000の3-メチル-1,5-ペンタンジオールとセバシン酸の縮合物であるポリエステルポリオール(「MPD/SeA」と略記する)103.2部、ネオペンチルグリコール35.2部、イソホロンジイソシアネート121.4部、2-エチルヘキシル酸第一錫0.03部および酢酸エチル65.1部を仕込み、窒素気流下に90℃で2時間反応させ、酢酸エチル165.3部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液490.2部を得た。次いでイソホロンジアミン33.6部、ジ-n-ブチルアミン1.2部、酢酸エチル237.5部、イソプロピルアルコール200.6部の混合物に、得られた末端イソシアネートプレポリマー490.2部を室温で徐々に添加、次に50℃で1時間反応させた。その後、イソホロンジイソシアネート5.3部を加えて粘度調整した後、酢酸エチル/イソプロピルアルコールを質量比で3/2の割合で混合した溶剤で固形分を30%に調整し、アミン価8.2mgKOH/g、質量平均分子量40,000のポリウレタン樹脂(PU2)を得た。
なお、表1中の略称は以下を示す。
MPD:3-メチル-1,5-ペンタンジオール
AdA:アジピン酸
SeA:セバシン酸
PPG:ポリプロピレングリコール
CHDM:シクロヘキサンジメタノール
MDA:N-メチルジエタノールアミン
NPG:ネオペンチルグリコール
IPA:イソプロピルアルコール
<塩化ビニル-酢酸ビニル共重樹脂溶液の調製>
塩化ビニル-酢酸ビニル共重樹脂(日信化学社製 製品名ソルバインTA5R)30部を、酢酸エチル70部に混合溶解させて、固形分30%の塩化ビニル-酢酸ビニル共重樹脂溶液(塩酢ビワニスと略記する場合がある)を得た。なお、ソルバインTA5Rの水酸基価は140mgKOH/gである。
<ポリアミド樹脂溶液の調整>
ポリアミド樹脂(花王社製 レオマイドS-8200(重量平均分子量10,000、軟化点115℃、アミン価3.5mgKOH/g、酸価5.0mgKOH/g、ダイマー酸由来の構成単位を有する)に、イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサンを質量比で5/5の割合で混合した溶剤で固形分を30%に調整してポリアミド樹脂溶液を得た。
<ニトロセルロース樹脂溶液の調整>
ニトロセルロース樹脂(Nobel社製 DLX5-8)に、酢酸エチル/エチルアルコールを質量比で5/5の割合で混合した溶剤で固形分を30%に調整してニトロセルロース樹脂溶液(硝化綿ワニス略記する場合がある)を得た。
<抗菌剤>
銀-リン酸ジルコニウム(ノバロンAG300 東亞合成社製)
<塩素化ポリオレフィン樹脂>
塩素化ポリオレフィンワニス(スーパークロン370M 日本製紙社製)
<脂肪酸アミド>
パルミチン酸アミド
エチレンビス脂肪酸アミド
<炭化水素ワックス>
ポリエチレンワックス(三井化学社製 製品名ハイワックス320MP)
パラフィンワックス(Micro Powders社製 製品名MP-22XF)
<体質顔料>
炭酸カルシウム(白石カルシウム社製 製品名炭酸カルシウムPC)
<樹脂微粒子>
ポリスチレン微粒子(平均粒子径6.1μm、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)
<実施例1>
ポリウレタン樹脂溶液(PU1)33部、塩酢ビ系樹脂溶液16部、銀-リン酸ジルコニウム0.2部、塩素化ポリオレフィンワニス0.5部、パルミチン酸アミド0.4部、ポリエチレンワックス1.2部、炭酸カルシウム10部、ポリスチレン微粒子3.5部、酢酸n-プロピル:イソプロピルアルコール:プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMと略記する)=70:20:10(重量比)からなる混合溶剤35.2部をサンドミル(アイガーミル)で混練し、抗菌コート剤(コート剤S1)を調製した。
<実施例2~14>
表2に記載した原料および配合比を使用した以外は実施例1と同様の方法で抗菌コート剤組成物(コート剤S2~S14)を得た。
<実施例15>
ポリアミド樹脂溶液34.0部、ニトロセルロース樹脂溶液22.0部、銀-リン酸ジルコニウム0.2部、塩素化ポリオレフィンワニス1.0部、パルミチン酸アミド0.8部、エチレンビス脂肪酸アミド0.8部、ポリエチレンワックス0.8部、パラフィンワックス0.8部、ポリスチレン微粒子2.0部、酢酸n-プロピル:酢酸エチル:イソプロピルアルコール:メチルシクロヘキサン(MCHと略記する)=20:20:20:40(重量比)からなる混合溶剤37.6部を攪拌機で混合し、抗菌コート剤(コート剤S15)を調製した。
<実施例16~26>
表3に記載した原料および配合比を使用した以外は実施例15と同様の方法で抗菌コート剤組成物(コート剤S16~S26)を得た。
<比較例1~4>
表4に記載した原料および配合比を使用した以外は実施例1と同様の方法で抗菌コート剤組成物(コート剤T1~T4)を得た。
<比較例5~8>
表5に記載した原料および配合比を使用した以外は実施例15と同様の方法で抗菌コート剤組成物(コート剤T5~T8)を得た。
<抗菌コート印刷物の印刷>
実施例1で得られた抗菌コート剤を希釈溶剤(酢酸n-プロピル:酢酸エチル:イソプロピルアルコール:メチルシクロヘキサン=35:30:20:15(重量比))で希釈し、ザーンカップNo.3で15秒に調整し、印刷用の希釈抗菌コート剤とした。
次にコロナ放電処理したポリプロピレンフィルム(D-SHNY01、28μm、DIC(株)社製)にグラビア校正印刷機を利用して版深30ミクロンの腐蝕版で印刷(乾燥温度50℃、印刷速度50m/分)を行い、印刷物を得た。
実施例2~26で得られた抗菌コート剤を使用した以外は、上記と同様の方法でポリプロピレンフィルム印刷物を得た。
比較例1~8で得られた抗菌コート剤を使用した以外は、上記と同様の方法でポリプロピレンフィルム印刷物をそれぞれ得た。
実施例1~26および比較例1~8で得られた抗菌コート剤およびその印刷物を用いて以下に記載の評価を行った。結果を表2~5に示す。
<接着性>
実施例1~26、比較例1~8のポリプロピレンフィルムに印刷した印刷物のコート層面に粘着テープ(製品名セロハンテープ)を貼り付け、これを急速に剥がしたときのコート層がフィルムから剥離する度合いから、接着性を評価した。なお、評価は印刷後に25℃で24時間静置後に行った。
A.コート層がフィルムから剥離した面積が5%未満であるもの
B.コート層がフィルムから剥離した面積が5%以上15%未満であるもの
C.コート層がフィルムから剥離した面積が15%以上25%未満であるもの
D.コート層がフィルムから剥離した面積が25%以上であるもの
なお、A、BおよびCは実用上問題がない範囲である。
<耐摩擦性>
実施例1~26、比較例1~8のポリプロピレンフィルムに印刷した印刷物のコート層面に上質紙を当て、学振型摩擦堅牢試験機を用いて評価した。評価条件は荷重500g×往復100回の摩擦で、摩擦後にコート層がフィルムから剥離する度合いから、耐摩擦性を評価した。
A.コート層がフィルムから剥離した面積が5%未満であるもの
B.コート層がフィルムから剥離した面積が5%以上15%未満であるもの
C.コート層がフィルムから剥離した面積が15%以上25%未満であるもの
D.コート層がフィルムから剥離した面積が25%以上であるもの
なお、A、BおよびCは実用上問題がない範囲である。
<耐ブロッキング性>
実施例1~26、比較例1~8のポリプロピレンフィルムに印刷したコート剤印刷物を4cm角に切り、各印刷面と非印刷面を合わせて、20kg/cmの荷重をかけ、60℃の雰囲気で24時間放置後、印刷面を引き剥がし、コート層の剥離の程度から耐ブロッキング性を評価した。
A.コート層がフィルムから剥離した面積が5%未満のもの
B.コート層がフィルムから剥離した面積が5%以上15%未満であるもの
C.コート層がフィルムから剥離した面積が15%以上25%未満であるもの
D.コート層がフィルムから剥離した面積が25%以上であるもの
なお、A、BおよびCは実用上問題がない範囲である。
<印刷適性>
実施例1~26および比較例1~8で得られたコート剤について希釈溶剤(酢酸n-プロピル:酢酸エチル:イソプロピルアルコール:メチルシクロヘキサン=35:30:20:15(重量比)にて、粘度をザーンカップNo.3で15秒(25℃)に調整し、印刷機における版の空転90分後の、版かぶり部分の面積を目視判定し、評価を行った。
A.版かぶり面積が目視で確認できない
B.版かぶり面積が0%を超え5%未満であるもの
C.版かぶり面積が5%以上10%未満であるもの
D.版かぶり面積が10%以上であるもの
なお、A、BおよびCは実用上問題がない範囲である。
<抗菌性>
実施例1~26、比較例1~8のポリプロピレンフィルムに印刷したコート剤印刷物について、日本工業規格JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」5.2プラスチック製品などの試験方法に準拠して、大腸菌または黄色ぶどう球菌に対する抗菌力試験を行った。抗菌活性値にて2以上を効果ありと判定した。
また、得られたコート剤印刷物に対して、上記耐摩擦性試験を実施した後の抗菌性も確認した。
Figure 0007126642000001
Figure 0007126642000002
Figure 0007126642000003
Figure 0007126642000004
Figure 0007126642000005
特に、本発明の抗菌コート剤は、コート剤印刷物に荷重500g、100回擦った厳しい条件でも抗菌性が良好であるという特有な効果を奏した。
本発明により、抗菌性および印刷適性が良好であり、基材に対する接着性、耐摩擦性、耐熱性、基材への耐ブロッキング性が良好であり、更にコート剤印刷後のコート層へ摩擦を加えた後であっても抗菌性を有したコート剤を提供することができた。
特に、本願の抗菌性試験(コート剤印刷物の抗菌性および耐摩擦性試験後印刷物の抗菌性)において、銀-リン酸ジルコニウム粒子を含有しない比較例1および5、ポリウレタン樹脂を含有しない比較例3、塩化ビニル系樹脂を含有しない比較例4、ポリアミド樹脂を含有しない比較例7、ニトロセルロースを含有しない比較例8では基準に満たさない評価であった。また、銀-リン酸ジルコニウム粒子の含有量が0.9質量%を超える比較例2および6では印刷適性において劣る結果であった。

Claims (5)

  1. バインダー樹脂、有機溶剤および銀-リン酸ジルコニウム粒子を含有する抗菌コート剤であって、
    前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル系樹脂との組み合わせ、または、ポリアミド樹脂とニトロセルロース樹脂との組合せ、からなる少なくとも一組の樹脂を含んでなり、
    前記銀-リン酸ジルコニウム粒子を、前記抗菌コート剤全質量中に0.05~0.9質量%含有する抗菌コート剤。
  2. 抗菌コート剤が、更に塩素化ポリオレフィン樹脂を含有する、請求項1に記載の抗菌コート剤。
  3. 抗菌コート剤が、更に脂肪酸アミドおよび/または炭化水素ワックス粒子を含有する、請求項1または2に記載の抗菌コート剤。
  4. 抗菌コート剤が、更に体質顔料および/または樹脂微粒子を含有する、請求項1~3いずれかに記載の抗菌コート剤。
  5. 基材上に請求項1~4いずれかに記載の抗菌コート剤を含んでなる印刷層を有する印刷物。
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