JP7125522B2 - イオントラップ質量分析器を用いてサンプルイオンの質量分析を実施するためのパラメータを判定するための方法 - Google Patents

イオントラップ質量分析器を用いてサンプルイオンの質量分析を実施するためのパラメータを判定するための方法 Download PDF

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Description

本発明は、イオントラップ質量分析器を用いてサンプルイオンの質量分析を実施するためのパラメータを判定する方法に関する。検査対象のサンプルイオンは、サンプルからイオン化されたイオンである。判定されたパラメータは、質量分析の開始時にイオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルイオンの量を制御するために使用することができる。
本発明はまた、イオントラップ質量分析器を用いてサンプルイオンの質量分析を実施する方法にも関する。ある量のサンプルイオンが、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されて質量分析を実施し、その質量分析は、前述した方法によって判定されたパラメータによって適合される。
本発明はまた、イオントラップ質量分析器によって検出されたサンプルイオンの質量スペクトルで観測されたm/zシフトを補正するための方法にも関する。
さらに、本発明は、パラメータを判定するための本発明の方法を実行している制御装置、および本発明の方法を実行することができる質量分析計に関する。
イオンをトラップしてイオンの質量対電荷比(m/z)を分析する、イオントラップ質量分析器と名付けられる、質量分析計の特定のタイプの質量分析器においては、イオンは、質量分析器に伝達され得、例えば、好ましくは、例えばイオン光学的手段を介して、ほとんどの場合、非常に短時間にイオン貯蔵装置から注入され得、その時間は典型的に、イオンパッケージとして、0.03~300ミリ秒の範囲である。
イオンの質量電荷比(m/zと呼ばれる)は、質量分析器によって検出されるが、この比は、本特許出願では、場合によっては、「質量」と呼ばれることがあり、例えば、質量スペクトルの用語では、当業者とって既知である。
フーリエ変換質量分析器は、そのようなイオントラップ質量分析器の例であり、画像電流によってトラップされたイオンを検出する。典型的に、この画像電流は、貯蔵されたイオンの振動によって、少なくとも1つの検出器電極に誘導される。多くの場合過渡事象と呼ばれる、検出される画像電流のフーリエ変換によって、イオンのm/z値に依存する、イオンの振動の周波数を取得することができる。したがって、このイオンのm/z値、また、したがってイオンの質量スペクトルは、フーリエ変換から推定され得る。イオンの質量スペクトルは、検査対象のイオンの少なくとも一部の、少なくともm/z値および相対的な量の情報を、典型的にはこれらのイオンの、多くの場合質量ピークと名付けられる、各々のピークによって提供する。
フーリエ変換質量分析器の例としては、特に、FTICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)質量分析器および静電トラップ質量分析器があり、例えば、Thermo Fisher Scientific Inc.のOrbitrap(登録商標)質量分析器がある。WO2013/171313に記載されたフィルタ対角化法(FDM)または線形予測(LP)手法もしくは方法などの、過渡事象の他の数学的変換を使用することができることに留意されたい。したがって、本明細書で使用される場合、フーリエ変換質量分析器という用語は、過渡信号を記録する任意の質量分析器を意味し、その過度信号は、フーリエ変換または他の変換を実際に使用して質量スペクトルを取得するかどうかにかかわらず、フーリエ変換して質量スペクトルを提供する能力がある。
典型的に使用されるイオン貯蔵装置は、イオントラップおよびトラップセルである。イオントラップは、真っ直ぐな線形電極を備える線形イオントラップ、例えば、四重極または八重極イオントラップであり得る。イオントラップはまた、湾曲した電極を備え、多くの場合C-トラップと呼ばれる、湾曲した線形イオントラップとすることもできる。イオン貯蔵装置は、イオンのイオンパッケージを貯蔵するためのものであり得、そのイオンパッケージは、典型的に、イオンパケージがイオントラップ質量分析器に注入される前に、サンプルからイオン化され、本特許出願では、サンプルイオンと名付けられる。
質量分析器に伝達されるイオンパッケージのイオンの量、特にそのイオンの総電荷は、質量分析の性能、特に質量分解能、質量精度、および再現性にとって非常に重要である。典型的に、質量分析は、貯蔵されたイオンの質量スペクトルを検出することによって実施される。
質量分析器の高品質性能を達成するために、多くの場合自動利得制御(AGC)システムと呼ばれている制御システムが、注入されるイオンの量、特に注入されるイオンパッケージのイオンの総電荷を制御することが、従来技術から知られている。それらの制御システムは、注入されたイオンパッケージ内のイオンの量を制御し、その結果、十分な量のイオンが質量分析器に注入されて、検査対象のイオンの統計を改善し、したがって、最高強度および/または高信号対雑音比の質量ピークまたは質量値を達成すると同時に、あまりに多くのイオンが質量分析器に注入されて、実施される質量分析の品質、特に検出された質量スペクトル、例えば、観測されたイオンのm/z値の精度、または観測されたイオン強度の正確さを低下させる場合に現れる悪影響を最小限に抑える。非常に重要な1つの効果は、以下に詳細に説明する空間電荷効果である。このため、AGCシステムは、注入されたイオンパッケージのイオンの総電荷Qrealを制御し、そこでは、そのイオンの最適化された総電荷Qopt、特に最適な電荷が達成されなければならない。最適化された総電荷Qoptの値は、意図された質量分析、例えば、質量分析によって検出され得る検査対象サンプルに依存する。最適化された総電荷Qoptは、予備実験、または以前実行された同様の質量分析からの経験によって判定することができる。
イオンパッケージの総電荷Qrealは、イオンパッケージ内のすべてのイオンの電荷の総和として定義される。
ほとんどの場合、サンプルは、質量分析計の質量分析器によって検査され得る。通常、中性のサンプルが、質量分析計に提供され、イオン源では、イオンが、イオン化プロセスによって、そのサンプルから生成される。場合によっては、そのようなイオンは、質量分析計の外部のサンプルからイオン化プロセスによって生成され、次いで、生成されたイオンは、質量分析計に提供される。これらのすべてのイオンは、本特許出願では、サンプルイオンと名付けられている。それらのサンプルイオンは、サンプルからイオンを生成する任意の種類のイオン化プロセスによって、検査対象とされ得るサンプルからイオン化される。次いで、質量分析器では、サンプルイオンの質量分析が実施される。本特許出願の発明は、イオントラップ質量分析器に関する。
そのようなイオン化プロセスを提供する、特に既知のイオン化方法は、電子イオン化(EI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、化学イオン化(CI)、特に大気圧化学イオン化(APCI)、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)、特に大気圧マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(AP-MALDI)および高圧マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(HP-MALDI)、光イオン化(PI)、特に大気圧光イオン化(APPI)、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)、フィールドイオン化、特にフィールド脱離(FD)、スパークイオン化、プラズマイオン化、特にグロー放電イオン化、誘導結合プラズマ(ICP)イオン化、マイクロ波結合プラズマ(MIP)イオン化、ならびに熱イオン化(TI)である。
時折、検査対象サンプルは、少なくとも1つの特定の標準成分-多くの場合ロック質量と名付けられる-を含み得、その標準成分は、例えば、サンプル内の特定の分子であり得、気体であってもよく、液体であり得るか、または固体状態を有し得る。サンプルに含まれる各特定の標準成分に対して、少なくとも1つの特定のサンプルイオンが、イオン化によって生成される。場合によっては、異なる種のサンプルイオンが、1つの標準成分からイオン化によって生成され得る。
これらの異なる種のサンプルイオンは、標準成分がイオン化プロセス中に異なる方法で帯電される場合があることから、イオン化プロセスによって1つの標準成分から生成される場合がある。
異なる種のサンプルイオンはまた、標準成分がイオン化プロセス中に、イオン源内にある試薬イオンと異なる方法で反応する場合があることから、イオン化プロセスによって1つの標準成分から生成される場合がある。
異なる種のサンプルイオンは、標準成分がイオン化プロセス中に、イオン源内にある異なる試薬イオンと反応する場合があることから、イオン化プロセスによって1つの標準成分から生成される場合がある。
異なる種のサンプルイオンは、標準成分がイオン化プロセス中に、フラグメント化される場合があることから、イオン化プロセスによって1つの標準成分から生成される場合がある。
同じ特定のサンプルイオンは、標準成分のイオン化によって、1つの標準成分からのすべてのイオン化方法を用いて、生成される場合がある。
ほとんどの場合、各イオン化方法を用いると、1つ以上の特定のサンプルイオンは、標準成分のイオン化によって生成され得、そのサンプルイオンは、イオン化方法、またはそのイオン化方法の特定のパラメータに対して特徴的であり、それを用いて、イオン化方法を実行してサンプルイオンを生成する。よって、例えば、特定のサンプルイオンが標準成分のフラグメント化によって生成されたとき、それらのサンプルイオンは、フラグメント化されたイオンの特徴的なパターンを有し、そのパターンは、実行されたイオン化方法、またはその実行されたイオン化方法の特定のパラメータと関係し得る。
例えば、エレクトロスプレーイオン化のイオン化方法の場合、標準成分の生成された特定のサンプルイオンの特徴的なパターンが左右され得る特定のパラメータは、イオン源のキャピラリーに提供されるサンプル流速、イオン源のキャピラリーの先端と、イオン源のより遠い方の電極との間の電界、キャピラリーの極性、およびより遠い方の電極の材料である。
よって、標準成分の任意のイオン化によって、任意の特定のイオン化プロセスが、1つまたはいくつかの特定の種のサンプルイオンを生成し、生成されたサンプルイオンの異なる種の比率はまた、適用されるイオン化プロセスによる方法に関連する許容差が提供される。したがって、任意の特定のイオン化プロセスが、標準成分からサンプルイオンの特定のパターンを生成し、その標準成分は、特定のm/z値、および特定の相対的な量を有する。検査対象サンプルに含まれる標準成分のサンプルイオンのこれらのパターンは、標準成分のサンプルイオンのピークパターンとして、検査対象サンプルのサンプルイオンの質量スペクトルによって質量分析器で検出することができる。このピークパターンは、検査対象サンプルのサンプルイオンの完全な質量スペクトルの一部である。
したがって、各特定の標準成分のサンプルイオンは、1つ以上のm/z比を有し、その比は、既知であり、使用されるイオン化プロセスと関係している。
標準成分のサンプルイオンのピークパターンは、例えば、純粋な標準成分のみを含んでいるサンプルの検出された質量スペクトルから、または標準成分を含む異なるサンプルの質量スペクトルと比較することによって、導出することができる。特定のイオン化プロセスから導出された標準成分のサンプルイオンのピークパターンは、標準ピークパターンとしてデータライブラリに記憶することができる。この標準ピークパターンは、質量スペクトルの検出中に観測された空間電荷効果-以下に詳細に説明される-に起因する検出されたサンプルイオンの任意のm/zシフトが標準成分のサンプルイオンの標準ピークパターンにおいて補正されることから、サンプルイオンの現実の物理的なm/z値を提供している。
少なくとも1つの標準成分は、サンプル調製段階中に、検査対象サンプルに混合される場合がある。頻繁に使用される標準成分としては、例えば、PFTBA(パーフルオロトリブチルアミン)があり、これは、他のサンプルイオンと比べて比較的小さい質量を有する、再現性のあるパターンを有する固有の質量のフラグメントに分解される。したがって、PFTBAのサンプルイオンのピークパターンは、サンプルイオンの質量スペクトルにおいて、容易に識別することができる。
他の標準成分は、サンプル調製からもたらされる汚染となる可能性があり、使用済みサンプル容器、サンプル供給システム(例えば、サンプル供給システムの配線および配管)、クロマトグラフィーカラムなどのクロマトグラフィー手段、汚染物質を放出するイオン化源に起因する汚染物質である可能性がある。これらのデバイスのうちの1つに設けられた管から放出される典型的な汚染物質は、ポリジメチルシクロシロキサンであり得、これは、あらゆる検査対象サンプルで検出可能な標準成分として使用することができる。
また、研究室周辺の排出物は、検査対象サンプルに汚染を添加する可能性があり、次いで、それらは、検査対象サンプル内の標準成分になる。これは、例えば、床の洗浄剤および接着剤の物質であり得、これらは、研究室内で使用され、検査対象サンプル内の標準成分として見出される。
これらの標準成分のサンプルイオンは、特定の多大な量、それらのピークパターンの特定のピーク構造、および/またはそれらのm/z値により、質量スペクトルにおいて識別することができる。
標準成分のサンプルイオンが、検出された質量スペクトルに非常に多くの量を有し、またそのような高強度ピークがサンプルイオンの予測されるm/z値に近い質量範囲で生じたことが分かっている場合、これらのピークは、サンプルイオンのピークとして識別する場合がある。
一般に、予想されたm/z値を有する標準成分のサンプルイオンの質量ピークは、サンプルイオンの予想されたm/z値に近い質量範囲の最高強度のピークとして、検出された質量スペクトルにおいて識別することができる。識別されたピークが、m/z値が不明な別のサンプルイオンからもたらされる可能性があり、また標準成分のサンプルイオンの予想されたm/z値に近い質量範囲内のm/z値も有するという理由から、この識別が正しいかどうかを規定するための追加の基準を適用する場合がある。
標準成分のサンプルイオンのピークが質量範囲内に予想される場合、ピーク、または該当する量を有するピークが、サンプルの他の分子のサンプルイオンから予想されない場合には、これらのピークは、標準成分のサンプルイオンのピークとして識別することができる。特に、場合によっては、標準成分のサンプルイオンは、標準成分の、小さいフラグメントへのフラグメント化によって生成され、その結果、これらのサンプルイオンは、そのサンプルの他の成分のサンプルイオンよりも低いm/z値を有し、せいぜい非常に小さい確率で同様の低いm/z値のフラグメントでフラグメントされるのみである。したがって、観測された低いm/z値の質量範囲内の、標準成分のサンプルイオンの観測されたピーク強度は、サンプルの他の成分のサンプルイオンの観測された最大ピーク強度よりも少なくとも3倍、好ましくは5倍、特に好ましくは10倍高い。このピーク強度の差異を使用して、標準成分のサンプルイオンのピークを識別することができる。
自動利得制御(AGC)の1つのアプローチが、米国特許出願第US2004/0217272A1号に記載されており、そこには、質量分析の開始時に、サンプルイオンが、予備実験において、イオン源からイオン経路に沿ってイオン貯蔵装置に供給され、最初のサンプリング期間内での蓄積器としての役割を果たす。次いで、この蓄積されたサンプルイオンは、イオン蓄積器から放出され、放出されたサンプルイオンの少なくとも一部が、イオン電流、したがって、検出されたすべてのサンプルイオンの総電荷Qreal、を検出する別個のイオン検出器において検出される。検出されたすべてのサンプルイオンの検出された総電荷Qrealから、予備実験のサンプリング時間間隔を注入時間間隔に変更しなければならない方法を導出することができ、その注入時間間隔内に、サンプルイオンは、メイン実験において、イオン源からイオン経路に沿ってイオン貯蔵装置に供給されて、最適化された総電荷Qoptを有するイオンパッケージを質量分析器で検査する。
自動利得制御(AGC)の別のアプローチが、国際特許出願第WO2012/160001A1号に記載されており、その出願は、これによって本明細書に組み込まれる。このアプローチでは、追加の検出器は、必要とされない。代わりに、質量分析の開始時での予備走査実験では、サンプルイオンが、イオン源からイオン経路に沿ってイオン貯蔵装置に提供され、最初のサンプリング時間間隔tpreにイオン蓄積器としての役割を果たす。次いで、蓄積されたサンプルイオンは、イオン蓄積器からフーリエ変換質量分析器に排出され、そのフーリエ変換質量分析器は、蓄積されたサンプルイオンの質量スペクトルを検出する。フーリエ変換質量分析器を用いた予備走査は、蓄積されたサンプルイオンの量を削減して実行され、検出された質量スペクトルから、可視総電荷Qvが導出される。可視総電荷Qvは、質量スペクトルにおいて視認できるサンプルイオンの電荷に関連する、質量スペクトルの特定の特徴によって、例えば、サンプルイオンの質量ピークによって、検出された質量スペクトルから導出することができる。通常、ピーク強度は、観測されたサンプルイオンの数に比例する。典型的には、可視総電荷Qvは、特定の信号対雑音(S/N)閾値を超える、質量スペクトルのすべての信号を総和し、変換係数(較正中に判定される)を使用して電荷に変換することによって、検出された質量スペクトルから導出することができる。
WO2012/160001A1に開示された、質量スペクトルから可視総電荷Qvを導出するためのすべての方法が、本説明の一部であり、本発明によって使用することができる。
判定された可視総電荷Qvから、イオン貯蔵装置にイオンを注入するための最適化された蓄積時間toptを導出することができ、その蓄積時間の間に、イオンの最適化された総電荷Qoptが蓄積される。
Figure 0007125522000001
そのようなデバイスにおける質量分解能、質量精度、および再現性を制限する主要な要因のうちの1つは、空間電荷効果であり、この効果により、貯蔵、トラップ条件、またはイオントラップ質量分析器の正確な質量分析を行うための能力を、各実験から変更することができ、その結果として、達成される結果が異なる。
空間電荷効果は、トラップされたイオンの電界が互いに影響を与えることから引き起こされる。イオンの最終的な母集団の組み合わされた電荷またはバルク電荷により、観測されたイオンの実際の物理的なm/z値と比較して、イオントラップ質量分析器によって検出された質量スペクトルにおけるm/z値でのシフト、すなわちm/zシフトを引き起こす。フーリエ変換質量分析器では、トラップされたイオンのm/z値のシフトは、トラップされたイオンの周波数のシフトであり、したがって、それらのm/z値は、例えば、フーリエ変換を使用した画像電流によって検出される。詳細は、例えば、US8,759,752B2に記載されている。本開示で主に言及されるm/z値の検出されたシフトは、特に相対的なシフトである。相対的なm/zシフトは、質量対電荷比m/zのイオンの場合、次式によって定義される。
Figure 0007125522000002
ここで、Δm/zは、質量スペクトルで観測されたm/zobが、イオンの実際の物理的な質量対電荷比m/zと比較してシフトした絶対値である。通常、相対的なm/zシフトの値は、イオントラップ質量分析器を用いて質量スペクトルで観測されたすべてのイオンに対して、同じである。これは、特に国際特許出願第WO96/30930号に開示されているような静電トラップ質量分析器の場合に特に当てはまり、そこでは、静電トラップ内の電界は、超対数形式を有しており、その内容は、これによって、本明細書に組み込まれ、例えば、Orbitrap(登録商標)質量分析器は、Thermo Fisher Scientific Inc.によって提供されている。
フーリエ変換質量分析器での非常に高いレベルの空間電荷において、取得可能な分解能は、劣化し得、周波数(m/z)に近いピークは、少なくとも部分的に合体する可能性がある。次いで、測定されたピーク位置は、イオンの強い相互作用がほぼ同じm/z値、したがってそれらの静電界による同じ周波数を有する結果として、さらにシフトする。これにより、数ppm~数十ppmの質量シフトが得られる可能性がある。
空間電荷が他に考慮されるかまたは調整されない限り、高質量精度、正確な質量、および強度測定は、確実には達成することができない。これを回避するために、イオントラップ質量分析器に注入されるイオンのイオンパッケージは、最適化された総電荷Qoptを有している。
空間電荷効果に起因したm/zシフトの場合、相対的なm/zシフトがイオンパッケージの総電荷Qrealと相関していることが、さらに知られている。この相関は、イオントラップ質量分析器の場合、線形であり、この相関を使用して、総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルから導出されたときに、質量スペクトルの測定されたm/z値を補正する。
空間電荷のかなりの大きさは、時間の経過とともにイオン貯蔵装置に提供されるイオンの数の変化によって引き起こされる、トラップされたイオン密度にゆらぎを引き起こす可能性がある。
最適化された蓄積時間toptを判定および使用するための自動利得制御(AGC)のこのアプローチは、予備走査実験の質量スペクトルから導出された可視総電荷Qvが、検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealであるという前提に基づいている。
しかし、特定の実験では、多くの場合、イオンパッケージ内のすべてのサンプルイオンの総電荷Qrealは、検出された質量スペクトルから導出することができない。特に、サンプルには、特定の少量の分子が含まれる可能性があり、そのサンプルイオンは、測定された質量スペクトルのノイズレベルに近いわずかなピーク強度を有する。したがって、これらの分子のサンプルイオンの信号対雑音比は、特定の信号対雑音比(S/N)閾値未満である可能性があり、その閾値は、測定された質量スペクトルから可視総電荷Qvを導出するために使用される。よって、少量の分子のサンプルイオンの電荷は、可視総電荷Qvに含まれず、したがって、質量スペクトルが評価された場合、「不可視」である。特に、クロマトグラフィー実験、特に液体クロマトグラフィー実験から溶出されるサンプルにおいて、少量の様々な組成物を有する巨大分子が溶出する場合、少量が、長い保持時間で引き起こされる。よって、特に、このような状況では、多くの異なる巨大分子のサンプルイオンの電荷は、サンプルのサンプルイオンからは正確に導出することができず、したがって、可視総電荷Qvは、検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealから大きく外れる可能性がある。
さらに、サンプル内には分子が存在し、その分子から、ほぼ同じm/z値を有するサンプルイオンが生成される可能性がある。次いで、フーリエ変換質量分析器の質量スペクトルでは、サンプルイオンは干渉し、質量スペクトルでのそれらのピークが重畳する可能性がある。次いで、それらの別々のピークは、例えば、逆重畳によっても完全には分離することができず、ピークの強度は、画像電流信号の相殺的干渉によって低下する可能性がある。したがって、干渉ピークのサンプルイオンの場合、それらの電荷は、過小評価され、それらの可視総電荷Qvは、減少する。
また、検査対象サンプルのサンプルイオンの高い電荷状態により、可視総電荷Qvは、高い電荷が考慮されていないため、特に微弱な発生、干渉、および/または非分解ピークによって低下し得る。例えば、微弱な強度ピークは、高い電荷状態を有するサンプルイオンに関係している可能性があり、高強度のピークと干渉する可能性がある。次いで、微弱強度のピークが解決されず、その電荷は、イオンパッケージの可視総電荷Qvを計算する際に、考慮されないことになる。
したがって、本発明の目的は、質量分析器に注入されたサンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルでは不可視であり、かつ/またはそこから導出可能である場合に、イオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御して、イオントラップ質量分析器による質量分析の性能を改善するための改善された方法を提供することである。
特に、本発明の目的は、サンプルイオンの完全な総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルで不可視であり、かつ/またはそこから導出可能である場合に、サンプルイオンの質量分析を実施するためのイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの制御を改善するパラメータを判定する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、イオン貯蔵装置、イオントラップ質量分析器、ならびに少なくとも1つの制御および/または評価装置の他に、サンプルイオンの検査対象のイオンパッケージの完全な総電荷Qrealを検出または導出するための追加機器なしで改善される方法を使用することである。
本発明の別の目的は、質量分析器に注入されたサンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルで不可視であり、かつ/またはそこから導出不可能である場合に、検出された質量スペクトルで観測される質量シフトを補正するための改善された方法を提供することである。
最初の3つの目的は、請求項1、2、および5に記載の方法によって解決される。
請求項1に記載の本発明の方法は、補償係数を判定し、その補償係数は、サンプルからイオン化されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータであり、そのサンプルイオンは、質量分析計のイオン貯蔵装置からそのイオントラップ質量分析器に注入され、次いで、そのイオントラップ質量分析器は、注入されたサンプルイオンの質量分析を実施する。
請求項1に記載の本発明の方法は、以下のステップを含む。
第1のステップにおいて、少なくとも1つの質量スペクトルが、イオントラップ質量分析器によって、少なくとも1つの量のサンプルイオンに対して検出される。その少なくとも1つの量のサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入される。
本発明の方法の好ましい実施形態において、少なくとも1つの質量スペクトルは、少なくとも1つの事前選択された量のサンプルイオンに対して検出される。第1のステップにおいて質量スペクトルが検出されるサンプルイオンの量は、質量スペクトルの検出が開始される前に選択される。特に、第1のステップにおいて質量スペクトルが検出される全量は、最初の質量スペクトルが検出される前に選択される。事前選択される量の選択は、例えば、制御装置によって、制御装置のインターフェースを介したユーザによって、またはイオントラップ質量分析器を用いて分析される質量分析もしくは特定のクラスのサンプルを選択するユーザによって、提供され得る。少なくとも1つの量のサンプルイオンの事前選択はまた、一定のサンプルイオン流がイオン貯蔵装置に提供される場合、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置への少なくとも1つの注入期間の事前選択によっても提供され得る。
一般に、任意の量のサンプルイオン、または任意の注入期間を使用して、第1のステップにおける少なくとも1つの質量スペクトルを検出することができる。これは、最適化された総電荷Qopt未満である現実の総電荷Qrealを有するサンプルイオンの量を使用することが好ましい。これはまた、最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージがイオン貯蔵装置に蓄積される場合、最適化された注入期間topt,real未満であるサンプルイオンの、イオン貯蔵装置への注入期間を使用することも好ましい。
請求項1に記載の方法の別の実施形態において、第1のステップで、少なくとも1つの質量スペクトルが判定される、少なくとも1つの量のサンプルイオンは、選択されない。代わりに、定義された期間である特定の期間に、サンプルイオンがイオン源からイオン経路に沿って供給され、イオン光学部品または別のイオン貯蔵装置を介して、イオン貯蔵装置まで供給され得る場合、少なくとも1つの特定の瞬間を選択することができ、そこでは、異なる量のサンプルイオンが、各特定の瞬間でイオン貯蔵装置に蓄積される。イオン貯蔵装置に提供されるサンプルイオンの流れに応じて、特定の量のサンプルイオンが、その特定の期間中の各特定の瞬間の間にイオン貯蔵装置に蓄積され得、次いでイオントラップ質量分析器に注入され得る。例えば、イオン源がゆらぎを有するイオン流を提供している場合、異なる量のサンプルイオンは、異なる瞬間でイオン貯蔵装置に蓄積されることになる。サンプルイオンの蓄積された量の可視総電荷Qv、および/またはそれらの検出された質量スペクトルから導出されたサンプルイオンの質量ピークのm/z値の観測されたシフトによって、少量または大量のサンプルイオンが蓄積されたかどうかを観測することができる。
次のステップにおいて、少なくとも1つの検出された質量スペクトルは、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの相対的なm/zシフトの線形相関のサンプル勾配を判定するために使用され、そのサンプル勾配は、サンプルからイオン化されるイオンが検査対象である場合に、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトル可視総電荷Qvとの相対的なm/zシフトの線形相関の勾配である。したがって、各サンプルは、その固有のサンプル勾配値を有する。サンプル勾配の値は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルから導出される検査対象サンプルイオンの可視総電荷Qvの、検査対象サンプルイオンの総電荷Qrealに対する比に依存する。
両方の相関パラメータである相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvは、イオントラップ質量分析器を用いて検出され、質量分析器でのサンプルイオンの量に依存する場合、サンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測される。
サンプル勾配は、質量分析が実施され得るサンプルに対して、サンプルイオンの質量スペクトルで観測された相対的なm/zシフトが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから判定され得る可視総電荷Qvとどのように相関するかを説明する。サンプル勾配を判定し、特に計算するための実施形態が、以下に説明されている。
相対的なm/zシフトの、サンプルの可視総電荷Qvとの相関は、線形関数のサンプル勾配による線形関数であるため、相対的なm/zシフトは、検査対象サンプルイオンの量の任意の観測された可視総電荷Qvに対して判定することができる。
請求項1に記載の本発明の方法の一実施形態では、以下に詳細に説明される空間電荷によって誘起される相対的なm/zシフトの観測可能な差異のみが、異なる量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルから観測される。2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、2つの量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルからの、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって、2つの検出された質量スペクトルから評価される。m/z値の相対的な差異が2つ以上の種のサンプルイオンに対して判定される場合、2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、その2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から、サンプルイオンのm/z値の相対的な差異の典型的な値を導出することによって、その2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から導出される。この典型的な値-2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異-は、好ましくは、m/z値の判定された相対的な差異を平均することによって、m/z値の判定された相対的な差異から、その2つ以上の種のサンプルイオンを導出される。
可視総電荷Qvが、少なくとも1つの検出された質量スペクトルから評価され、かつ/または可視総電荷Qvの差異は、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルvから評価される。
異なる量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルから観測された相対的なm/zシフトの観測可能な差異の、2つの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、または2つの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvの差異との相関を使用して、相対的なm/zシフトの、サンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定することができる。この相関は、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルから導出することができ、そこでは、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、2つの検出された質量スペクトルのペアから観測されるまた、可視総電荷Qvの対応する差異は、2つの検出された質量スペクトルのこれらのペアから評価される。
請求項1に記載の本発明の方法の別の実施形態において、相対的なm/zシフトは、検出された質量スペクトルから直接評価することができ、その理由は、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知であり、この少なくとも1つのサンプルイオンの質量ピークが、少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおいて識別することができるからである。可視総電荷Qvはまた、この検出された質量スペクトルからも評価される。
相対的なm/zシフトの評価は、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定に基づいている。少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知である場合に、検出された質量スペクトルから相対的なm/zシフトを判定する方法のさらなる詳細については、以下に説明されており、この実施形態において適用することができる。
少なくとも1つの検出された質量スペクトルから観測された相対的なm/zシフトの、少なくとも1つの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvとの相関を使用して、相対的なm/zシフトの、サンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvに対する線形相関のサンプル勾配を判定することができる。この相関は、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトル、特に2つの異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルから導出することができる。
本発明の方法の一実施形態では、以前に例証したように、2つの量のサンプルイオンの質量スペクトルを使用して、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を計算する。この方法では、質量スペクトルが検出されることになる2つの量のサンプルイオンが選択されていることが好ましい。次いで、線形相関のサンプル勾配は、検出された2つの質量スペクトルを評価することによって、計算され得る。サンプルイオンの検査対象量は、例えば、2つの注入期間を定義することによって選択され得、その期間に、サンプルイオンが、イオン貯蔵装置に注入され、次いで、イオントラップ質量分析器に注入されて、それらのサンプルイオンの質量スペクトルを検出する。
また、サンプルイオンの3つ以上の異なる量の質量スペクトルを使用して、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定することができる。
よって、一実施形態において、サンプル勾配を判定する第1のステップにおいて、相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、可視総電荷Qvの差異との比は、異なる量のサンプルイオンのうちの2つの異なるペアの質量スペクトルに対して判定され、次いで、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、その異なる量のサンプルイオンのうちの2つの異なるペアに対して判定された比を平均することによって計算されることが可能である。
別の実施形態において、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知である場合、サンプル勾配を判定する第1のステップにおいて、検出された質量スペクトルから判定された相対的なm/zシフトと、この検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvとの比は、サンプルイオンの少なくとも2つの異なる量の質量スペクトルから判定され、次いで、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、サンプルイオンの少なくとも2つの異なる量の質量スペクトルに対して判定された比を平均することによって計算されることが可能である。
別の実施形態において、異なる量のサンプルイオンに対して検出された質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定し、そこでは、線形フィッティングが使用される。このフィッティングは、相対的なm/zシフトと、評価された可視総電荷Qvとの評価された観測可能な差異、および/または可視総電荷Qvの差異を考慮している。線形相関のサンプル勾配の判定の場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたそれらの質量スペクトルにおけるサンプルイオンの相対的なm/zシフトの値を知ることは重要ではない。相対的なm/zシフトの差異、および可視総電荷Qvの相関差異を知れば十分であり得、以下に説明するように、請求項1に記載の本発明の方法のこの実施形態において、また、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配の判定のために、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異、および検出された質量スペクトルの可視総電荷Qvの相関差異を知れば十分でもある。これらの値に基づいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvの相関値または可視総電荷Qvの相関差異(以下に説明するように、全可視電荷Qv,spに対する)の観測可能な差異の二次元データセットを作成することができ、その二次元データセットに対して、これらの質量スペクトルの可視総電荷Qvを用いて相対的なm/zシフトの線形相関のサンプル勾配を、フィッティングされた線形関数の勾配として判定している線形フィッティング法を適用することができる。このデータセットに必要とされないことは、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値が0を有する場合を定義することである。よって、質量分析器内のある量のサンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spに対して、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値が0を有し得るものと定義することができる。これは、総電荷Qvとは無関係に、相対的なm/zの観測可能な差異が、値0に設定されている。この定義により、相対的なm/zの観測可能な差異の値が0である場合、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値は、二次元データセットのすべての質量スペクトルに対して定義される。相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、その質量スペクトルに関連するすべてのスペクトルに対して定義され、サンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spが判定される。したがって、各質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、質量スペクトル、およびサンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spが観測される当該質量スペクトルにおける少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって評価することができる。
別の実施形態において、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知である場合、異なる量のサンプルイオンに対して検出された質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を、線形フィッティングによって判定する。この線形フィッティングは、検出された質量スペクトルの評価された相対的なm/zシフト、およびその対応する評価された可視総電荷Qvを考慮しており、サンプル勾配であるそれらの相関の勾配を判定している。
請求項1に記載の本発明の方法の次のステップにおいて、補償係数cが判定され、これは、質量分析を実施するためにイオン貯蔵装置に注入されるサンプルイオンのイオン注入期間topt,vを調整するために使用される。このイオン注入期間topt,vは、注入期間であり、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する。この基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optは、その可視総電荷Qvの量であり、基準サンプルからイオン化されたイオンである基準イオンの検査対象量の現実の総電荷Qrealが、最適化された総電荷Qoptの値を有する場合、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である。したがって、基準イオンの最適化された可視電荷Qref,optが、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である場合、質量スペクトルは、検査対象の基準イオンの最適化された総電荷Qoptを用いて検出される。このような量の検査対象の基準イオンの場合、基準サンプルの質量スペクトルは、高品質性能で検出される。質量分析を実施するために、サンプルイオンがイオン貯蔵装置に注入されるイオン注入期間topt,vは、そのイオン注入期間を定義しており、これにより、イオン貯蔵装置に注入されたサンプルイオンが、質量スペクトルを検出するためのイオントラップ質量分析器に排出された場合に、基準サンプルイオンの最適化された可視電荷Qref,optが、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして観測される。通常、現実の総電荷Qrealの別の比は、基準イオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視である現実の総電荷Qrealの比と比較すると、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視であるため、サンプルイオンの質量スペクトルは、それらがイオン注入期間topt,v中にイオン貯蔵装置に注入された場合、最適化された現実の総電荷Qoptを用いても検出されない。したがって、請求項1に記載の本発明の方法は、最適化された総電荷Qoptのある量のサンプルイオンがイオン貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析器を用いて分析されるというそのような方法でイオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定することである。イオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの、イオントラップ質量分析器を用いて検出された少なくとも1つの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvと、サンプルイオンの注入期間との間の線形相関は、基準イオンの最適化された可視総電荷Qref,optがサンプルイオンの質量スペクトルにおいて可視である場合、イオン注入期間topt,vを定義するために使用される。
基準サンプルの場合、最適化された可視総電荷Qref,optは既知であり、これは、基準サンプルのイオンパッケージが、最適化された総電荷Qoptを有する場合の、基準サンプルの可視総電荷Qvの値である。注入期間topt,vは、サンプルイオンの質量スペクトルから観測された可視総電荷Qvが基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optの値を有する場合の、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置への注入期間である。このサンプルおよびこの基準サンプルに対して、現実の総電荷Qrealの異なる部分が、それらの質量スペクトルの可視総電荷Qvとして観測される場合、判定された注入期間topt,vは、そのサンプルの注入されたイオンが、最適化された現実の総電荷Qoptを実際に含む場合には、サンプルイオンの最適な注入期間topt,realではない。
少なくとも1つの量のサンプルイオンが、イオントラップ質量分析器に注入されて、注入期間topt,vを判定し、この量は、サンプルイオンの注入期間と相関する。これらの量のサンプルイオンの各々に対して、イオントラップ質量分析器は、質量スペクトルを検出しており、次いでこれらの質量スペクトルから可視総電荷Qvが評価される。それらの量のサンプルイオンの観測された可視総電荷Qv、およびそれらの対応する注入期間から、それらの相関を使用して、イオン注入期間topt,vが判定される。
イオン注入期間topt,vは、第1のステップの少なくとも1つの量のサンプルイオンの、少なくとも1つの検出された質量スペクトルを使用して判定されることが好ましい。
請求項2に記載の本発明の方法に関して以下に詳細に説明される、イオン注入期間topt,vを判定するための他の実施形態もまた、使用することができるが、請求項1に記載の本発明の方法においても使用することができる。
特に、請求項1に記載の本発明の方法で使用される基準サンプルは、清浄なサンプルとすることができ、トラップされたイオンの現実の総電荷Qrealに対して、この清浄なサンプルイオンは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された清浄なサンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視であるか、または少なくとも実質的に可視である。この清浄なサンプルイオンは、清浄なサンプルから、イオン化プロセスによって生成される。
サンプルイオンの現実の総電荷Qrealが、検出されたスペクトルで可視である場合、イオン注入期間topt,vは、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係し、サンプルイオンの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから判定され、最適化された可視電荷Qclean,optもまた、最適化された総電荷Qoptであることから、最適化された全イオン電荷Qoptのための最適化された蓄積時間topt,realである。したがって、補償係数cは、1である。
しかし、補償係数cは、実験に対しても請求項1に記載の本発明の方法によって判定することができ、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な現実の総電荷Qrealは、検出されたスペクトルにおいて不可視であり、その結果、Qv<Qrealである。したがって、観測された相対的なm/zシフトは、可視総電荷値Qvがサンプルイオンの現実の総電荷Qrealである場合、サンプルイオンの質量スペクトルから評価される可視総電荷値Qvから予想される値よりも大きい。さらに、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係する最適化されたイオン注入期間topt,vは、topt,vを含む式(1)に基づいて可視総電荷Qvから判定され、これは、Qvが、topt,realを判定するために必要とされるような完全な総電荷Qrealを表していないため、あまりに大きな値である。これを補償するために、補償係数cが提供される。その補償係数は、イオントラップ質量分析器内でトラップされた清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である清浄な勾配を、以前に判定されたサンプル勾配によって除算することによって判定される。
清浄な勾配が判定された清浄なサンプルは、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたその質量スペクトルにおいて、可視総電荷Qvとして、可視であるか、または実質的に可視であるサンプルである。清浄なサンプルの場合、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも95%が、質量スペクトルにおいて可視総電荷Qvとして可視であることが好ましく、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも99%が可視であることがより好ましく、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも99.8%が可視であることが最も好ましい。したがって、最適化された蓄積時間topt,realは、以前説明したように、予備走査実験の質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから清浄なサンプルに対して直接判定することができる。
一般に、本発明の方法のこのステップにおいて、補償係数cはまた、清浄なサンプルだけでなく、任意の種類の基準サンプルからも判定される。そのような基準サンプルの場合、基準イオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealは、イオン化によって基準サンプルから生成されたイオンであり、その検出されたスペクトルにおいて不可視である場合がある。したがって、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係しているイオン注入期間topt,vは、式(1)によって定義され得、この式は、式中で清浄なサンプルの最適化された総電荷Qoptを置き換えている基準サンプルの質量スペクトルを検出するために、可視総電荷Qref,optの最適化された値を考慮している。よって、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するイオン注入期間topt,vは、サンプルイオンのイオンパッケージに対して基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optがそれらの検出された質量スペクトルにおいて可視である場合に、質量分析を実施するためのサンプルイオンの注入期間である。このイオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされた可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。よって、サンプルイオンが、判定されたイオン注入期間topt,vでイオン貯蔵装置に注入されると、基準サンプルの質量スペクトルを検出するための最適化された可視総電荷Qref,optはまた、分析されたサンプルの質量スペクトルにおいても可視総電荷Qvとして可視である。
しかし、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされたサンプルイオンの総電荷の、トラップされたサンプルイオンの現実の総電荷に対する比が、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされた基準イオンの総電荷の、トラップされた基準イオンの現実の総電荷に対する比から逸脱している場合、サンプルもまた、基準サンプルの場合である最適化されたイオン注入期間topt,realで分析されているという前提は、正しくない。特に、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされたサンプルイオンの総電荷の、トラップされたサンプルイオンの現実の総電荷に対する比が、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされた基準イオンの総電荷の、トラップされた基準イオンの現実の総電荷に対する比よりも小さい場合、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するサンプルイオンのイオン注入期間topt,vは、Qvが、topt,realを判定するために必要とされる、その質量スペクトルでの基準サンプルに可視である完全な総電荷Qv,refを表していないため、あまりに大きい値のtopt,vを有する。これを補償するために、補償係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である基準勾配を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配によって除算することによって判定される。次いで、サンプルイオンを分析するための、また特にサンプルイオンの質量スペクトルを検出するための最適化されたイオン注入期間topt,realは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するサンプルイオンのイオン注入期間topt,vの、判定された補償係数cとの乗算によって判定される。
基準サンプルからイオン化された基準イオンが検査対象である場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である。基準サンプルの基準勾配を判定する方法の詳細が、以下に提供される。この基準勾配の判定は、本発明のすべての方法で、同じ方法で実施することができる。
イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルの基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配が判定された基準サンプルは、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの特定の部分が、その質量スペクトル、すなわち可視総電荷Qvにおいて可視であるサンプルである。基準サンプルの場合、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも20%が可視であることが好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも65%が可視であることがより好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの90%が可視であることが最も好ましい。
請求項2に記載の本発明の方法は、補償係数を判定し、その補償係数は、サンプルからイオン化されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータであり、そのサンプルイオンは、質量分析計のイオン貯蔵装置からそのイオントラップ質量分析器に注入され、次いで、そのイオントラップ質量分析器は、注入されたサンプルイオンの質量分析を実施する。
請求項2に記載の本発明の方法は、以下のステップを含む。
第1のステップにおいて、イオントラップ質量分析器によって、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルが検出される。この異なる量のサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入される。
本発明の方法の好ましい実施形態において、質量スペクトルは、異なる事前選択された量のサンプルイオンに対して検出される。第1のステップにおいて質量スペクトルが検出されるサンプルイオンの量は、質量スペクトルの検出が開始される前に選択される。特に、第1のステップにおいて質量スペクトルが検出される全量は、最初の質量スペクトルが検出される前に選択される。事前選択される量の選択は、例えば、制御装置によって、制御装置のインターフェースを介したユーザによって、またはイオントラップ質量分析器を用いて分析される質量分析もしくは特定のクラスのサンプルを選択するユーザによって、提供され得る。異なる量のサンプルイオンの事前選択はまた、一定のサンプルイオン流がイオン貯蔵装置に提供されると場合、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置への異なる注入期間の事前選択によっても提供することができる。
一般に、任意の量のサンプルイオン、または任意の注入期間を使用して、第1のステップにおいて質量スペクトルを検出することができる。これは、最適化された総電荷Qopt未満である現実の総電荷Qrealを有するサンプルイオンの量を使用することが好ましい。これはまた、最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージがイオン貯蔵装置に蓄積される場合、最適化された注入期間topt,real未満であるサンプルイオンの、イオン貯蔵装置への注入期間を使用することも好ましい。
請求項2に記載の方法の別の実施形態において、第1のステップで質量スペクトルが判定される、異なる量のサンプルイオンは、選択されない。逆に、特定の瞬間が、定義された期間である特定の期間内に選択され得、サンプルイオンが、イオン源からイオン経路に沿って供給され、イオン光学系または別のイオン貯蔵装置を介してイオン貯蔵装置に達し得、そこでは、異なる量のサンプルイオンが、各特定の瞬間でイオン貯蔵装置に蓄積される。イオン貯蔵装置に提供されるサンプルイオンの流れに応じて、特定の量のサンプルイオンが、その特定の期間中の各特定の瞬間の間にイオン貯蔵装置に蓄積され得、次いでイオントラップ質量分析器に注入され得る。例えば、イオン源がゆらぎを有するイオン流を提供している場合、異なる量のサンプルイオンは、異なる瞬間でイオン貯蔵装置に蓄積されることになる。サンプルイオンの蓄積された量の可視総電荷Qv、および/またはそれらの検出された質量スペクトルから導出されたサンプルイオンの質量ピークのm/z値の観測されたシフトによって、少量または大量のサンプルイオンが蓄積されたかどうかを観測することができる。
次のステップにおいて、異なる量のサンプルイオンの、少なくとも2つの質量スペクトルが比較されて、質量スペクトルで観測された少なくとも1つの種のサンプルイオンから相対的なm/zシフト-以下に定義される-の観測可能な差異を評価する。サンプルイオンのm/zシフトは、質量スペクトルにおけるサンプルイオンのピークのm/z値のシフトであり、質量分析器で検出されたサンプルイオンの空間電荷によって誘起される。このステップにおいて、相対的なm/zシフトの、サンプルイオンの量に関する依存性が検査される。
この評価の場合、2つの比較される質量スペクトルで観測された少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異が判定され、サンプルイオンの観測されたm/z値は、質量スペクトルにおけるサンプルイオンのピークのm/z値である。この判定の開始時に、ピークまたはピーク構造が、2つの比較される質量スペクトルで識別され、それらのピークは、両方の質量スペクトルの同じサンプルイオンに割り当てられ、それらは、特に、サンプルイオンの同位体分布の同じ同位体分子種であり、それらは、同位体分布を有する。次いで、同じサンプルイオンのピークのm/z値の差異は、2つの質量スペクトルを比較することによって判定される。この差異はまた、2つの比較される検出された質量スペクトルにおいて観測される分析対象のサンプルイオンの量の空間電荷によって誘起されるピークのm/zシフトの差異でもある。次いで、サンプルイオンの識別されたピークのm/z値の差異から、2つの比較される質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、同じサンプルイオンのピークのm/z値の判定された差異からのピークのm/z値の相対的な差異の判定と、少なくとも1つの種のイオンのこれらの相対的な差異から、m/z値の典型的な相対的な差異を、好ましくは判定された相対的な差異を平均することにより導出する方法と、によって評価される。
2つの比較された質量スペクトルのm/z値のこの典型的な相対的な差異-本明細書では、2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異と名付けられる-は、2つの比較された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの差異にほぼ正確に対応し、その理由は、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフト値が、ppmの範囲であり、ほとんどの場合20ppm未満、好ましくは10ppm未満、特に6ppm未満であるためである。検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフト値は、イオンの物理的なm/z値に関して前に示された式(2)によって計算される。検査対象のサンプルイオンの量ごとに空間電荷効果が存在するため、物理的に正しいm/z値は、イオントラップ質量分析器によって検出された質量スペクトルにおいて測定することができない。ただし、同じサンプルイオンのピークのm/z値の差異は、2つの質量スペクトルを比較することによって判定することができる。
サンプルイオンのピークの2つの質量スペクトルのうちの第1の質量スペクトルMS1に対して、m/zシフトであるΔm/z(1)が、観測されたm/z値に起因するイオンの物理的に正しい質量対電荷値m/zに関して、観測される場合、
M/zobs(1)=m/z+Δm/z(1) (3)
であり、同じサンプルイオンのピークの2つの質量スペクトルのうちの第2の質量スペクトルMS2に対して、m/zシフトΔm/z(2)が、観測されたm/z値に起因するイオンの物理的に正しい質量対電荷値m/zに関して、観測される場合、
M/zobs(2)=m/z+Δm/z(2) (4)
であり、式(2)に従うサンプルイオンの相対的なm/zシフト値は、第1の質量スペクトルMS1に対しては、次式であり、
Figure 0007125522000003
第2の質量スペクトルMS2に対しては、次式である。
Figure 0007125522000004
したがって、2つの比較される質量スペクトルMS1およびMS2の相対的なm/zシフトの差異は、次式となる。
Figure 0007125522000005
サンプルイオンのピークのm/z値の差異は、2つの検出された質量スペクトルMS1およびMS2を比較することによって判定することができ、次式となる。
m/zobs(1)-m/zobs(2)=m/z+Δm/z(1)-(m/z+Δm/z(2))=Δm/z(1)-Δm/z(2) (8)
さらに、2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異を判定することができる。一般に、この相対的な差異は、通常、第1の質量スペクトルMS1のピークに関して、もしくは第2の質量スペクトルMS2のピークに関して、または第1の質量スペクトルMS1のピークと第2の質量スペクトルMS2のピークとの平均値に関して、判定される。
2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異が、第1の質量スペクトルMS1のイオンのピークに関して判定される場合、そのイオンのピークのm/z値の相対的な差異は、次式となる。
Figure 0007125522000006
2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異が、第2の質量スペクトルMS2のイオンのピークに関して判定される場合、そのイオンのピークのm/z値の相対的な差異は、次式となる。
Figure 0007125522000007
2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異が、第1の質量スペクトルMS1のピークと、第2の質量スペクトルMS2のピークとの平均値に関して判定される場合、そのイオンのピークのm/z値の相対的な差異は、次式となる。
Figure 0007125522000008
2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異が判定される詳細な方法に関係なく、この相対的な差異は、2つの比較された質量スペクトルMS1およびMS2の相対的なm/zシフトの差異から、Δm/z(1)、Δm/z(2)の各値、および分母の(Δm/z(1)+Δm/z(2))/2の各値だけのみ逸脱する。検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフト値は、ppmの範囲にあるため、したがって、分母内の各値のΔm/z(1)、Δm/z(2)、および(Δm/z(1)+Δm/z(2))/2は、分母のm/z値と比較してppmの範囲にすぎず、したがって、イオンの物理的に正しい質量対電荷値m/zよりも5~6桁小さい大きさであるためである。これにより、2つの比較された質量スペクトルM1およびM2のサンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異の値、したがって、2つの質量スペクトルMS1およびMS2の相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、ほぼ正確に、2つの比較された質量スペクトルMS1およびMS2の相対的なm/zシフトの差異である。
請求項2に記載の本発明の方法は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定するために、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異から導出される、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異を使用することである。サンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの差異ではなく、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異が使用される。この置換の影響は、非常に小さいので、請求項2に記載の本発明の方法は、異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから、貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析計によって分析されるサンプルイオンの量を最適化するためのパラメータを判定することができ、以下に詳細に説明される補償係数cは、そのイオンの完全な総電荷Qrealが質量分析によって不可視であるサンプルの、イオントラップ質量分析計を用いた質量分析の性能が、少なくとも、清浄なサンプルの質量分析の性能にほぼ等しいような精度を有する。これは、そのサンプルイオンの完全な総電荷Qrealが質量分析によって可視であるサンプルである。
別のステップにおいて、サンプルイオンの異なる量のうちの少なくとも2つの検出された質量スペクトルは、質量スペクトルの検出中にイオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvを判定するために評価される。次いで、可視総電荷Qvの差異は、サンプルイオンの異なる量のうちの少なくとも2つのうちの少なくとも一部に対して評価することができる。
次のステップにおいて、2つ直前のステップの結果を使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定し、そのサンプル勾配は、サンプルからイオン化されたイオンが検査対象である場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である。したがって、各サンプルは、その固有のサンプル勾配値を有する。このサンプル勾配の値は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルから導出された検査対象サンプルイオンの可視総電荷Qvの、検査対象サンプルイオンの総電荷Qrealに対する比に依存する。
両方の相関パラメータ、すなわち、相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvは、イオントラップ質量分析器を用いて検出され、質量分析器でのサンプルイオンの量に依存する場合、サンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測される。
このサンプル勾配は、請求項2に記載の本発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの空間電荷によって誘起された相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、イオントラップ質量分析器内で注入およびトラップされた2つの量のサンプルイオンの可視総電荷Qvの差異との比として計算され得、これらの差異は、イオントラップ質量分析器内で検出された2つの量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルから2つの直前のステップで評価される。2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、2つの量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルからの、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって、2つの検出された質量スペクトルから評価される。m/z値の相対的な差異が、2つ以上の種のサンプルイオンに対して判定されると、2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から、サンプルイオンのm/z値の相対的な差異の典型的な値を導出することによって、2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から、導出される。この典型的な値-2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの観測可能な差異-は、m/z値の判定された相対的な差異を平均することによって、2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から導出されることが好ましい。
サンプル勾配は、質量分析が実施され得るサンプルに対して、サンプルイオンの質量スペクトルで観測された相対的なm/zシフトが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから判定され得る可視総電荷Qvとどのように相関するかを説明する。サンプル勾配を判定し、特に計算するためのさらなる実施形態が、以下に説明される。
相対的なm/zシフトの、サンプルの可視総電荷Qvとの相関は、線形関数のサンプル勾配による線形関数であるため、相対的なm/zシフトは、検査対象サンプルイオンの量の任意の観測された可視総電荷Qvに対して判定することができる。
本発明の方法の一実施形態において、以前に例証したように、2つの量のサンプルイオンの質量スペクトルを使用して、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を計算する。この方法において、質量スペクトルが検出されることになる2つの量のサンプルイオンが選択されていることが好ましい。次いで、線形相関のサンプル勾配は、検出された2つの質量スペクトルを評価することによって、計算され得る。サンプルイオンの検査対象量は、例えば、2つの注入期間を定義することによって選択され得、その期間に、サンプルイオンが、イオン貯蔵装置に注入され、次いで、イオントラップ質量分析器に注入されて、それらのサンプルイオンの質量スペクトルを検出する。
本発明の方法において、質量スペクトルがイオントラップ質量分析器を用いて検出される異なる量のサンプルは、サンプルイオンの量、または注入期間が、典型的に、そのより小さい値に関して少なくとも10%の差異を有するように、好ましくはそのより小さい値に関して少なくとも30%の差異を有するように、より好ましくはそのより小さい値に関して少なくとも50%の差異を有するように、選択されることが好ましい。
また、サンプルイオンの3つ以上の異なる量の質量スペクトルを使用して、相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定することができる。
よって、別の実施形態において、サンプル勾配を判定する第1のステップにおいて、相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、可視総電荷Qvの差異との比は、2つの異なる量のサンプルイオンの異なるペアの質量スペクトルに対して判定され、次いで、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、異なる量のサンプルイオンのうちの2つの異なるペアに対して判定された比を平均することによって計算される。
別の実施形態において、異なる量のサンプルイオンに対して検出された質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定し、そこでは、線形フィッティングが使用される。このフィッティングは、評価された相対的なm/zシフトの観測可能な差異、ならびに評価された可視総電荷Qvおよび/または可視総電荷Qvの差異を考慮している。線形相関のサンプル勾配の判定の場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたそれらの質量スペクトルにおけるサンプルイオンの相対的なm/zシフトの値を知ることは重要ではない。相対的なm/zシフトの差異、および可視総電荷Qvの相関する差異を知れば十分であり、以前に説明したように、請求項2に記載の本発明の方法においても、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配の判定のための、検出された質量スペクトルの可視総電荷Qvの相関する差異とを知れば十分である。これらの値に基づいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの、相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、可視総電荷Qvの相関値、または可視総電荷Qvの相関差異(全可視電荷Qv,0)との二次元データセットを作成することができ、その二次元データセットに対して、これらの質量スペクトルの可視総電荷Qvを用いて相対的なm/zシフトの線形相関のサンプル勾配を判定している線形フィッティング法を適用することができ、そのサンプル勾配は、フィッティングされた線形関数の勾配である。このデータセットに必要とされないことは、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値が0を有する場合を定義することである。よって、質量分析器内のある量のサンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spに対して、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値が0を有し得るものと定義することができる。これは、総電荷Qvとは無関係に、相対的なm/zの観測可能な差異が、値0に設定されている。この定義により、相対的なm/zの観測可能な差異の値が0である場合、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の値は、二次元データセットのすべての質量スペクトルに対して定義される。相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、その質量スペクトルに関連するすべてのスペクトルに対して定義され、サンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spが判定される。したがって、各質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、質量スペクトル、およびサンプルイオンの特定の可視総電荷Qv,spが観測される当該質量スペクトルにおける少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって評価することができる。
請求項2に記載の本発明の方法の次のステップにおいて、補償係数cが判定され、これは、質量分析を実施するためにイオン貯蔵装置に注入されるサンプルイオンのイオン注入期間topt,vを調整するために使用される。このイオン注入期間topt,vは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する注入期間である。この基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optは、その可視総電荷Qvの量であり、基準サンプルからイオン化されたイオンである基準イオンの検査対象量の現実の総電荷Qrealが、最適化された総電荷Qoptの値を有する場合、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である。したがって、基準イオンの最適化された可視電荷Qref,optが、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である場合、質量スペクトルは、検査対象の基準イオンの最適化された総電荷Qoptを用いて検出されている。このような量の検査対象の基準イオンの場合、基準サンプルの質量スペクトルは、高品質性能で検出される。サンプルイオンが質量分析を実施するためにイオン貯蔵装置に注入されるイオン注入期間topt,vは、イオン貯蔵装置に注入されたサンプルイオンが、質量スペクトルの検出のためのイオントラップ質量分析器に排出された場合、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optが、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視電荷として観測されるそのイオン注入期間を定義している。通常、現実の総電荷Qrealの別の比が、基準イオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視である現実の総電荷Qrealの比と比較して、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視であるため、サンプルイオンの質量スペクトルは、それらがイオン注入期間topt,vの間にイオン貯蔵装置に注入された場合、最適化された総電荷Qoptを用いても検出されない。したがって、請求項2に記載の本発明の方法は、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンの量がイオン貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析器を用いて分析されるようにして、イオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定している。イオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの、イオントラップ質量分析器を用いて検出された少なくとも1つの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvと、サンプルイオンの注入期間との間の線形相関は、基準イオンの最適化された可視総電荷Qref,optがサンプルイオンの質量スペクトルにおいて可視である場合、イオン注入期間topt,vを定義するために使用される。
基準サンプルの場合、最適化された可視総電荷Qref,optは既知であり、これは、基準サンプルのイオンパッケージが、最適化された総電荷Qoptを有する場合の、基準サンプルの可視総電荷Qvの値である。最適化された注入期間topt,vは、質量スペクトルサンプルイオンから観測された可視総電荷Qvが基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optの値を有している場合、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンの注入期間である。サンプルおよび基準サンプルの場合、現実の総電荷Qrealの異なる部分が、それらの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして観測され、その判定された注入期間topt,vは、注入されたサンプルイオンが最適化された実際の総電荷Qoptを実際に含む場合、サンプルイオンの最適な注入期間topt,realではない。
少なくとも1つの量のサンプルイオンが、イオントラップ質量分析器に注入されて、注入期間topt,vを判定し、この量は、サンプルイオンの注入期間と相関する。これらの量のサンプルイオンの各々に対して、イオントラップ質量分析器は、質量スペクトルを検出しており、次いでこれらの質量スペクトルから可視総電荷Qvが評価される。それらの量のサンプルイオンの観測された可視総電荷Qv、およびそれらの対応する注入期間から、それらの相関を使用して、イオン注入期間topt,vが判定される。
イオン注入期間topt,vは、第1のステップの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルの少なくとも1つを使用して判定されることが好ましい。
さらに質量スペクトルは、可視総電荷Qvの追加の値を提供するサンプルイオンの少なくとも1つの量のうちの少なくとも一部に対して検出されるイオン注入期間topt,vもまた、判定することができる。これは、改善された統計によって、サンプルイオンの量の可視総電荷Qvの精度を改善するために行うことができる。サンプルイオンの量の可視総電荷Qvの値から、平均値を判定することが好ましい。この方法は、変動のあるイオン流がサンプルイオンをイオン貯蔵装置に提供しているときに、イオン注入期間topt,vを判定するために適用される必要がある。
好ましい実施形態において、イオン注入期間topt,vは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係しており、1つの量のサンプルイオンの質量スペクトルからのみ判定される。次いで、式(1)を使用して、イオン注入期間topt,vを判定することができる。
2つ以上の量のサンプルイオンが、イオン注入期間topt,vの判定のために使用される場合、1つの好ましい実施形態において、線形フィッティングを使用して、異なる量のサンプルイオンの可視総電荷Qvの、対応する注入期間との線形相関を判定することができ、次いでこの線形相関から、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optと相関するイオン注入期間topt,vを導出することができる。
特に、基準サンプルは、清浄なサンプルとすることができ、そこにトラップされた清浄なサンプルイオンの現実の総電荷Qrealは、その質量スペクトルにおいて、可視総電荷Qvとして可視であり、または少なくとも実質的に可視である。
サンプルイオンの実際の総電荷Qrealが、検出されたスペクトルにおいて可視である場合、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係するイオン注入期間topt,vは、サンプルイオンの質量スペクトルから評価される可視総電荷Qvから判定され、最適化された可視電荷Qclean,optもまた、最適化された総電荷Qoptでもあることから、最適化された総イオン電荷Qoptの最適化された蓄積時間topt,realである。したがって、そのとき、補償係数cは、1である。
しかし、補償係数cはまた、実験についても、請求項2に記載の本発明の方法によっても判定され得、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealは、検出されたスペクトルにおいては不可視であり、すなわち、Qv<Qrealである。したがって、観測された相対的なm/zシフトは、この値が現実の総電荷Qrealの値である場合、サンプルイオンの質量スペクトルから評価された可視総電荷値Qvから予想されたシフトよりも大きい。さらに、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係する、式(1)に基づく可視総電荷Qvから判定された、最適化されたイオン注入期間topt,vは、Qvが、Qoptに等しい場合にtoptを判定するために必要とされるサンプルイオンの完全な総電荷Qrealを表していないため、あまりにも大きいtopt,vの値を有する。これを補償するために、補償係数cが提供される。この補償係数は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の清浄な勾配、すなわち、イオントラップ質量分析器を用いて検出された清浄なサンプルの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配を、以前に判定されたサンプル勾配により除算することによって判定される。
清浄な勾配が判定された清浄なサンプルは、そのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたその質量スペクトルにおいて、可視であるか、または実質的に可視である、サンプルである。清浄なサンプルの場合、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも95%がその質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視であることが好ましく、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも99%が可視であることがより好ましく、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも99.8%が可視であることが最も好ましい。したがって、最適化された蓄積時間topt,realは、以前説明したように、予備走査実験の質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから清浄なサンプルに対して直接判定することができる。
一般に、本発明の方法のこのステップにおいて、補償係数cはまた、清浄なサンプルだけでなく、任意の種類の基準サンプルからも判定される。そのような基準サンプルの場合、基準イオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealは、その検出されたスペクトルにおいて不可視であり得る。したがって、イオン注入期間topt,vは、式中で清浄なサンプルの最適化された総電荷Qoptを置き換える、基準サンプルの質量スペクトルを検出するために可視総電荷Qref,optの最適化された値を考慮している式(1)に基づいて定義される。よって、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するイオン注入期間topt,vは、サンプルイオンのイオンパッケージに対して基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optがそれらの検出された質量スペクトルにおいて可視である場合に、質量分析を実施するためのサンプルイオンの注入期間である。このイオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされた可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。よって、サンプルイオンが、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、最適化されたイオン注入期間topt,vでイオン貯蔵装置に注入されると、基準サンプルの質量スペクトルを検出するための最適化された可視総電荷Qref,optもまた、分析対象サンプルの質量スペクトルにおいて可視である。
ただし、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされたサンプルイオンの総電荷の、分析対象サンプルのトラップされたサンプルイオンの現実の総電荷に対する比が、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされた基準イオンの総電荷の、基準対象サンプルのトラップされた基準イオンの現実の総電荷に対する比から逸脱する場合、そのサンプルが、基準サンプルに対しての場合である最適化されたイオン注入期間topt,realでも分析されるという前提は正しくない。特に、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされたサンプルイオンの総電荷の、トラップされたサンプルイオンの現実の総電荷に対する比が、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされた基準イオンの総電荷の、トラップされた基準イオンの現実の総電荷に対する比よりも小さい場合、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、サンプルイオンの判定されたイオン注入期間topt,vは、Qvが、topt,realを判定するために必要とされる、その質量スペクトルにおける基準サンプルに対して可視である完全な総電荷Qv,refを表していないため、あまりに大きい値のtopt,vを有する。これを補償するために、補償係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配により除算することによって判定される。サンプルイオンを分析し、特にサンプルイオンの質量スペクトルを検出するための最適化されたイオン注入期間topt,realは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、サンプルイオンのイオン注入期間topt,vの、判定された補償係数cとの乗算によって判定される。
基準サンプルからイオン化された基準イオンが検査対象である場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である。
イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルの基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配が判定された基準サンプルは、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの実際の総電荷Qrealの特定の部分が、その質量スペクトル、すなわち可視総電荷Qvにおいて可視であるサンプルである。基準サンプルの場合、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも20%が可視であることが好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも65%が可視であることがより好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの90%が可視であることが最も好ましい。
請求項5に記載の本発明の方法は、補償係数を判定し、その補償係数は、サンプルからイオン化されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータであり、そのサンプルイオンは、質量分析計のイオン貯蔵装置からそのイオントラップ質量分析器に注入され、次いで、そのイオントラップ質量分析器は、注入されたサンプルイオンの質量分析を実施する。この方法を用いた検査対象サンプルには、少なくとも1つの特定の標準成分-ロック質量とも名付けられる-が含まれる。
サンプルに含まれる各特定の標準成分に対して、少なくとも1つの特定のサンプルイオンが、イオン化によって生成される。場合によっては、異なる種のサンプルイオンが、1つの標準成分からイオン化によって生成され得る。
サンプル中に含まれる少なくとも1つの特定の標準成分の各特定のサンプルイオンは、m/z比を有し、この比は、既知であり得、使用されるイオン化プロセスに関係する。したがって、請求項5に記載の本発明の方法は、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知であるサンプルに使用される。
請求項5に記載の本発明の方法は、以下のステップを含む。
第1のステップにおいて、少なくとも1つの質量スペクトルが、イオントラップ質量分析器によって、少なくとも1つの量のサンプルイオンに対して検出される。その少なくとも1つの量のサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入される。
本発明の方法の好ましい実施形態において、少なくとも1つの質量スペクトルは、少なくとも1つの事前選択された量のサンプルイオンに対して検出される。質量スペクトルが第1のステップで検出されるサンプルイオンの各量は、質量スペクトルの検出が開始される前に選択される。特に、第1のステップにおいて質量スペクトルが検出される全量は、第1の質量スペクトルが検出される前に選択される。事前選択される量の選択は、例えば、制御装置によって、制御装置のインターフェースを介したユーザによって、またはイオントラップ質量分析器を用いて分析される質量分析もしくは特定のクラスのサンプルを選択するユーザによって、提供され得る。一定のサンプルイオン流がイオン貯蔵装置に提供される場合、少なくとも1つの量のサンプルイオンの事前選択はまた、サンプルイオンのイオン貯蔵装置への少なくとも1つの注入期間の事前選択によっても提供することができる。
一般に、任意の量のサンプルイオン、または任意の注入期間を使用して、第1のステップにおいて、少なくとも1つの質量スペクトルを検出することができる。これは、最適化された総電荷Qoptを下回る総電荷Qrealを有するサンプルイオンの量を使用することが好ましい。また、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンのイオンパッケージがイオン貯蔵装置に蓄積された場合、最適化された注入期間topt,realを下回る、サンプルイオンのイオン貯蔵装置への注入期間を使用することが好ましい。
請求項5に記載の方法の別の実施形態において、第1のステップで少なくとも1つの質量スペクトルが判定されるサンプルイオンの少なくとも1つの量は、選択されない。逆に、サンプルイオンがイオン源からイオン経路に沿って供給される場合、少なくとも1つの特定の瞬間が、定義された期間である特定の期間内に選択され得、イオン光学系または別のイオン貯蔵装置を介してイオン貯蔵装置に達し得、そこでは、異なる量のサンプルイオンが、各特定の瞬間にイオン貯蔵装置に蓄積される。イオン貯蔵装置に提供されるサンプルイオンの流れに応じて、特定の量のサンプルイオンが、特定の期間中の各特定の瞬間にイオン貯蔵装置に蓄積され、次いでイオントラップ質量分析器に注入される。例えば、イオン源がゆらぎを有するイオン流を提供している場合、異なる量のサンプルイオンが、異なる瞬間でイオン貯蔵装置に蓄積されることになる。サンプルイオンの蓄積された量の可視総電荷Qv、および/またはそれらの検出された質量スペクトルから導出された、サンプルイオンの質量ピークのm/z値の観測されたシフトによって、少量または多量のサンプルイオンが蓄積されたかどうか観測することができる。
次のステップにおいて、サンプルイオンの空間電荷によって誘起された相対的なm/zシフトは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの検出された質量スペクトルから評価される。この相対的なm/zシフトは、その既知のm/z比に対する少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおいて、その既知のm/z比の少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって評価される。
このステップにおいて、相対的なm/zシフトの、サンプルイオンの量に関する依存性が検査される。
検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、検出された質量スペクトルにけるサンプルイオンのピークを識別すること、検出された質量スペクトルからピークのm/z値を判定すること、およびピークのm/z値であるm/zobの、サンプルイオンの既知のm/z比であるm/zに対する相対的な差異drを計算することによって判定される。この計算された相対的な差異drは、検出された質量スペクトルにおけるサンプルイオンの相対的なm/zシフトの値、すなわち次式である。
Figure 0007125522000009
m/z比が既知であるサンプルイオンのピークは、その特定の高い相対的な量により、検出された質量スペクトルにおいて識別することができ、サンプルイオンのピークパターンの特定のピーク構造が、その特定の標準成分のイオン化によって生成され、そこからサンプルイオンが、サンプルイオンのイオン化および/または既知のm/z比によって生成される。
サンプルイオンが標準成分からイオン化されているため、そのサンプルイオンが、検出された質量スペクトルにおいて非常に高い相対的な量を有し、そのような非常に高い相対的な量のピークが、サンプルイオンの予想されるm/z値に近い質量範囲内に生じることがわかると、このピークは、サンプルイオンのピークとして識別することができる。この非常に高い相対的な量は、その相対的な量の閾値によって定義することができ、その閾値は、例えば、質量スペクトル内のすべてのイオンの全相対量、もしくは質量スペクトルの一部の範囲、または、好ましくはサンプルの標準成分がイオン化によって生成されないサンプルイオンの別のピークの相対な量の最高値によって定義することができる。閾値を上回る相対的な量を有するピークのみが、非常に高い相対的な量を有するピークである。質量スペクトルにおける全イオンの全相対量に関係する相対量の閾値は、質量スペクトルにおける全イオンの全相対量の2%よりも高く、好ましくは質量スペクトルにおける全イオンの全相対量の5%よりも高く、より好ましくは質量スペクトルにおける全イオンの全相対量の10%よりも高く、最も好ましくは質量スペクトルにおける全イオンの全相対量の15%よりも高くすることができる。質量スペクトルの範囲における全イオンの全相対量に関係する相対量の閾値は、質量スペクトルのその範囲における全イオンの全相対量の2%よりも高く、好ましくは質量スペクトルのその範囲における全イオンの全相対量の10%よりも高く、より好ましくは質量スペクトルのその範囲における全イオンの全相対量の20%よりも高く、最も好ましくは質量スペクトルのその範囲における全イオンの全相対量の30%よりも高くすることができる。閾値が定義される質量範囲は、典型的には、50トムソン未満、好ましくは20トムソン未満、より好ましくは5トムソン未満、および最も好ましくは1トムソン未満である。サンプルイオンの既知のm/z比に関連して、閾値が定義されている質量範囲は、典型的に、既知のm/z比の10%未満、好ましくは既知のm/z比の1%未満、より好ましくは既知のm/z比の1,000ppm未満、および最も好ましくは既知のm/z比の50ppm未満である。サンプルイオンの別のピークの相対量の最高値に関係する相対量の閾値は、典型的に、サンプルイオンの別のピークの相対量の最高値よりも30%高く、好ましくはサンプルイオンの別のピークの相対量の最高値よりも70%高く、より好ましくはサンプルイオンの別のピークの相対量の最高値よりも100%高く、および最も好ましくはサンプルイオンの別のピークの相対量の最高値よりも200%高い。
非常に高い量のピークがサンプルイオンのピークとして識別される質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z比付近であることが好ましい。典型的に、この質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z比に対して対称形であり得、その結果、既知のm/z値は、質量範囲の中心にある。当然のことながら、既知のm/z値は、質量範囲の中央に正確に存在することはできないが、質量範囲の10%、好ましくは質量範囲の5%を包含する質量範囲の中央部分に存在し得る。典型的に、質量範囲の境界とその中心との間の最大距離は、サンプルイオンの既知のm/z値の20ppm未満、好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の15ppm未満、より好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の10ppm未満、および最も好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の6ppm未満である。イオントラップ質量分析器の場合、最大m/zシフト値が、可能であるか、または許容される閾値として定義される場合がある。次いで、質量範囲の境界とその中央との間の最大距離は、典型的に、最大m/zシフト値の100%未満、好ましくは最大m/zシフト値の80%未満、および特に好ましくは最大m/zシフト値の60%未満である。
ただし、質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z値から、サンプルイオンのピークのm/z値がm/zシフトに起因して、検出された質量スペクトルにおいて予想されるさらに高いm/z値まで拡張することができる。この場合、質量範囲の下界とその中央との間の距離は、典型的に、質量範囲の20%未満、好ましくは質量範囲の10%未満、より好ましくは質量範囲の5%未満、および最も好ましくは質量範囲の2%未満である。
一般に、既知のm/z値を有するサンプルイオンのピークは、検出された質量スペクトルにおいて、サンプルイオンの既知のm/z値に近い質量範囲内で最も高い相対量のピークとして識別することができる。識別されたピークが、標準成分のサンプルイオンの既知のm/z値に近い、質量範囲内のm/z値をも有する未知のm/z値の別のサンプルイオンから生じている可能性があるため、この識別が正しいかどうかを定義するための追加の基準が適用される場合がある。
サンプルイオンのピークが最も高い相対量のピークとして識別される質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z比付近のあることが好ましい。典型的に、この質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z比に対して対称形であり得、その結果、既知のm/z値は質量範囲の中央にある。当然のことながら、既知のm/z値は、質量範囲の中央に正確に存在することはできないが、質量範囲の10%、好ましくは質量範囲の5%を包含する質量範囲の中央部分に存在し得る。典型的に、質量範囲の境界とその中心との間の最大距離は、サンプルイオンの既知のm/z値の20ppm未満、好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の15ppm未満、より好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の10ppm未満、および最も好ましくはサンプルイオンの既知のm/z値の6ppm未満である。イオントラップ質量分析計の場合、最大m/zシフト値が可能であるか、または許容される閾値として定義される場合がある。次いで、質量範囲の境界とその中央との間の最大距離は、典型的に、最大m/zシフト値の100%未満、好ましくは最大m/zシフト値の80%未満、および特に好ましくは最大m/zシフト値の60%未満である。
ただし、質量範囲は、サンプルイオンの既知のm/z値から、サンプルイオンのピークのm/z値がm/zシフトに起因して、検出された質量スペクトルにおいて予想されるさらに高いm/z値まで拡張することができる。この場合、質量範囲の下界とその中央との間の距離は、典型的に、質量範囲の20%未満、好ましくは質量範囲の10%未満、より好ましくは質量範囲の5%未満、および最も好ましくは質量範囲の2%未満である。
標準成分のサンプルイオンのピークが質量範囲内に予想される場合、ピーク、または該当する量を有するピークが、サンプルの他の分子のサンプルイオンから予想されない場合には、これらのピークは、標準成分のサンプルイオンのピークとして識別することができる。特に、場合によっては、標準成分のサンプルイオンは、標準成分の、小さいフラグメントへのフラグメント化によって生成され、その結果、これらのサンプルイオンは、そのサンプルの他の成分のサンプルイオンよりも低いm/z値を有し、せいぜい非常に小さい確率で同様の低いm/z値のフラグメントでフラグメントされるのみである。したがって、観測された低いm/z値の質量範囲内の、標準成分のサンプルイオンの観測された最大ピーク強度は、サンプルの他の成分のサンプルイオンの観測された最大ピーク強度よりも少なくとも3倍、好ましくは5倍、特に好ましくは10倍高い。
サンプルイオンのピークとして識別されるピークのm/z値は、当業者にとって既知の方法によって、特にピークの重心または極大値を定義することによって判定される。極大値の重心のm/z値は、ピークのm/z値となる。
次いで、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する判定された相対的な差異から、検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトは、好ましくは少なくとも1つのサンプルイオンの判定された相対的な差異を平均することによって、検出された質量スペクトルにおける少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値のこれらの相対的な差異から、検出された質量スペクトルにおけるm/z値の典型的な相対的な差異を導出する方法によって評価される。
別のステップにおいて、少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの検出された質量スペクトルを評価して、質量スペクトルの検出中に、イオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvを判定する。
次のステップにおいて、2つ直前のステップの結果を使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定する。各サンプルは、その特定のサンプル勾配値を有する。サンプル勾配の値は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルから導出された検査対象サンプルイオンの可視総電荷Qvの、検査対象サンプルイオンの実際の総電荷Qrealに対する比に依存する。
両方の相関パラメータである相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvは、イオントラップ質量分析器を用いて検出され、質量分析器でのサンプルイオンの量に依存する場合、サンプルの質量スペクトルにおいて観測される。
本発明の方法の一実施形態において、このサンプル勾配は、サンプルイオンの空間電荷によって誘起された相対的なm/zシフトと、イオントラップ質量分析器内に注入およびトラップされた1つの量のサンプルイオンの可視総電荷Qvとの比として計算することができ、それらは、イオントラップ質量分析器で検出された1つの量のサンプルイオンの1つの質量スペクトルから、2つの直前のステップにおいて評価される。1つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトは、1つの検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定によって、1つの検出された質量スペクトルから評価される。m/z値の相対的な差異が2つ以上の種のサンプルイオンに対して判定されると、その1つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトは、2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から、サンプルイオンのm/z値の相対的な差異の典型的な値を導出することによって、2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から導出される。この典型的な値-1つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフト-は、m/z値の判定された相対的な差異を平均することによって、その2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異から導出されることが好ましい。
本発明の方法の別の実施形態において、このサンプル勾配は、サンプルイオンの空間電荷によって誘起された相対的なm/zシフトの差異と、イオントラップ質量分析器内に注入およびトラップされたサンプルイオンの2つの異なる量の可視総電荷Qvの差異との比として計算することができ、それらは、イオントラップ質量分析器内で検出された2つの量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルから、2つの直前のステップにおいて評価される。2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの差異は、2つの量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定によって、2つの検出された質量スペクトルから評価される。m/z値の相対的な差異が、2つ以上の種のサンプルイオンに対して判定されると、2つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの差異は、2つの量のサンプルイオンの各々の評価された相対的なm/zシフトから導出される。
1つの量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトが、m/z比が既知である2つ以上の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異からどのように導出され得るのかについては、既に説明した。
サンプル勾配は、質量分析が実施され得るサンプルの場合、サンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測された相対的なm/zシフトが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから判定され得る可視総電荷Qvとどのように相関しているかについて説明する。サンプル勾配を判定し、特に計算するためのさらなる実施形態が、以下に説明される。
相対的なm/zシフトの、サンプルの可視総電荷Qvとの相関は、線形関数のサンプル勾配による線形関数であるため、相対的なm/zシフトは、検査対象サンプルイオンの量の任意の観測された可視総電荷Qvに対して判定することができる。
請求項5に記載の本発明の方法の一実施形態において、以前に例証したように、1つの量のサンプルイオンの質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を計算する。この方法において、質量スペクトルが検出されることになる1つの量のサンプルイオンを選択することが好ましい。次いで、線形相関のサンプル勾配は、検出された質量スペクトルを評価することによって、計算することができる。検査対象のサンプルイオンの量は、例えば、サンプルイオンがイオン貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析器に注入されてそれらの質量スペクトルを検出する注入期間を定義することによって選択され得る。
請求項5に記載の本発明の方法の別の実施形態において、以前に例証したように、2つの量のサンプルイオンの質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を計算する。この方法において、質量スペクトルが検出されることになる2つの異なる量のサンプルイオンを選択することが好ましい。次いで、線形相関のサンプル勾配は、検出された2つの質量スペクトルを評価することによって、計算され得る。検査対象のサンプルイオンの量は、例えば、サンプルイオンがイオン貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析器に注入されてそれらの質量スペクトルを検出する2つの異なる注入期間を定義することによって選択され得る。
また、請求項5に記載の本発明の方法において、3つ以上の異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定することができる。
よって、別の実施形態において、サンプル勾配を判定する第1のステップにおいて、相対的なm/zシフトの差異と、可視総電荷Qvの差異との比は、2つの異なる量のサンプルイオンの異なるペアの質量スペクトルに対して判定され、次いで、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、2つの異なる量のサンプルイオンの異なるペアに対して判定された比を平均することによって計算されることが可能である。
別の実施形態において、異なる量のサンプルイオンに対して検出された質量スペクトルを使用して、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定し、そこでは、線形フィッティングが使用される。このフィッティングは、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルの、評価された相対的なm/zシフト、および評価された可視総電荷Qvを考慮に入れている。これらの値に基づいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvの相関値の二次元データセットを作成することができ、その二次元データセットに対して、これらの質量スペクトルの可視総電荷Qvを用いて相対的なm/zシフトの線形相関のサンプル勾配を判定している線形フィッティング法を適用することができ、そのサンプル勾配は、フィッティングされた線形関数の勾配である。
請求項5に記載の本発明の方法の次のステップにおいて、補償係数cが判定され、これは、質量分析を実施するためにイオン貯蔵装置に注入されるサンプルイオンのイオン注入期間topt,vを調整するために使用される。このイオン注入期間topt,vは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する注入期間である。基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optは、基準サンプルからイオン化されたイオンである基準イオンの検査対象の量の現実の総電荷Qrealが、最適化された現実の総電荷Qoptの値を有する場合、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である可視総電荷Qvのその量である。したがって、基準イオンの最適化された可視電荷Qref,optが基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である場合、質量スペクトルは、検査対象のイオンの最適化された現実の総電荷Qoptを用いて検出されている。このような量の検査対象の基準イオンの場合、基準サンプルの質量スペクトルは、高品質性能で検出される。サンプルイオンが質量分析を実施するためにイオン貯蔵装置に注入されるイオン注入期間topt,vは、イオン貯蔵装置に注入されたサンプルイオンが、質量スペクトルの検出のためのイオントラップ質量分析器に排出された場合、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optが、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視電荷として観測されるそのイオン注入期間を定義している。通常、現実の総電荷Qrealの別の比が、基準イオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視である現実の総電荷Qrealの比と比較して、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvとして可視であるため、サンプルイオンの質量スペクトルは、それらがイオン注入期間topt,vの間にイオン貯蔵装置に注入された場合、最適化された総電荷Qoptを用いても検出されない。したがって、請求項5に記載の本発明の方法は、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンの量がイオン貯蔵装置に注入され、次いでイオントラップ質量分析器を用いて分析されるようにして、イオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定している。イオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの、イオントラップ質量分析器を用いて検出された少なくとも1つの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvと、サンプルイオンの注入期間との間の線形相関は、基準イオンの最適化された可視電荷Qref,optがサンプルイオンの質量スペクトルにおいて可視である場合、イオン注入期間topt,vを定義するために使用される。
少なくとも1つの量のサンプルイオンが、イオントラップ質量分析器に注入されて、イオン注入期間topt,vを判定し、この量は、サンプルイオンの注入期間と相関する。これらの量のサンプルイオンの各々に対して、イオントラップ質量分析器は、質量スペクトルを検出しており、次いでこれらの質量スペクトルから可視総電荷Qvが評価される。それらの量のサンプルイオンの観測された可視総電荷Qv、およびそれらの対応する注入期間から、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optと関係するイオン注入期間topt,vが判定される。
イオン注入期間topt,vは、第1のステップの少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの検出された質量スペクトルを使用して判定されることが好ましい。
さらに質量スペクトルは、可視総電荷Qvの追加の値を提供するサンプルイオンの少なくとも1つの量のうちの少なくとも一部に対して検出されるイオン注入期間topt,vもまた、判定することができる。これは、改善された統計データによって、サンプルイオンの量の可視総電荷Qvの精度を改善するために行うことができる。サンプルイオンの量の可視総電荷Qvの値から、平均値を判定することが好ましい。この方法は、変動のあるイオン流がサンプルイオンをイオン貯蔵装置に提供しているときに、イオン注入期間topt,vを判定するために適用される必要がある。
イオン注入期間topt,vを判定するための他の好ましい実施形態は、すでに以前説明しており、請求項5に記載の本発明の方法にも使用することができる。
サンプルイオンの実際の総電荷Qrealが、検出されたスペクトルにおいて可視である場合、サンプルイオンの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから判定された清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係するイオン注入期間topt,vは、最適化された可視電荷Qclean,optもまた、最適化された総電荷Qoptであるため、最適化された総イオン電荷Qoptに対する最適化された蓄積時間topt,realである。したがって、補償係数は、1となる。
しかし、補償係数cは、実験に対しても請求項5に記載の本発明の方法によって判定することができ、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な現実の総電荷Qrealは、検出されたスペクトルにおいて不可視であり、その結果、Qv<Qrealである。したがって、観測された相対的なm/zシフトは、この値が現実の総電荷Qrealの値である場合、サンプルイオンの質量スペクトルから評価された可視総電荷値Qvから予想されたシフトよりも大きい。さらに、可視総電荷Qvから判定された、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qoptに関係する、最適化されたイオン注入期間topt,vは、Qvが、toptを判定するために必要とされるサンプルイオンの完全な総電荷Qrealを表していないため、あまりにも大きい値のtopt,vを有する。これを補償するために、補償係数cが提供される。この補償係数は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の清浄な勾配を、以前に判定されたサンプル勾配により除算することによって判定される。清浄な勾配に関するさらに多くの詳細については、請求項1および2に記載の本発明の方法に関して既に提供されている。同じ清浄な勾配はまた、請求項5に記載の本発明の方法においても使用される。
一般に、本発明の方法のこのステップにおいて、補償係数cはまた、清浄なサンプルだけでなく、任意の種類の基準サンプルからも判定される。このような基準サンプルに対して、イオンパッケージの完全な総電荷Qrealは、その基準サンプルの検出されたスペクトルにおいて不可視である場合がある。したがって、イオン注入期間topt,vは、式(1)に基づいて定義され、この式は、式中で清浄なサンプルの最適化された総電荷Qoptを置き換えている基準サンプルの質量スペクトルを検出するために、可視総電荷Qref,optの最適化された値を考慮している。よって、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するイオン注入期間topt,vは、サンプルイオンのイオンパッケージに対して基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optがそれらの検出された質量スペクトルにおいて可視である場合に、質量分析を実施するためのサンプルイオンの注入期間である。このイオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされた可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間のみから判定される。よって、サンプルイオンが、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、最適化されたイオン注入期間topt,vでイオン貯蔵装置に注入されると、基準サンプルの質量スペクトルを検出するための最適化された可視総電荷Qref,optもまた、分析対象サンプルの質量スペクトルにおいて可視である。
しかし、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされたサンプルイオンの現実の総電荷の、分析対象サンプルのトラップされたサンプルイオンの現実の総電荷に対する比が、質量スペクトルにおいて可視であるトラップされた基準イオンの総電荷の、分析対象サンプルのトラップされた基準イオンの現実の総電荷に対する比から逸脱している場合、サンプルもまた、基準サンプルの場合である最適化されたイオン注入期間topt,realでも分析されているという前提は正しくなく、これに対しては、以前にさらに詳細に説明されている。
これを補償するために、補償係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配により除算することによって判定され、これは、請求項5に記載の本発明の方法のステップにおいて、以前に判定されている。次いで、サンプルイオンを分析するための、また特にサンプルイオンの質量スペクトルを検出するための最適化されたイオン注入期間topt,realは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係するサンプルイオンのイオン注入期間topt,vの、判定された補償係数cとの乗算によって判定される。
基準サンプルからイオン化された基準イオンが検査対象である場合、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配は、イオントラップ質量分析器を用いて検出された質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配である。
イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準サンプルの基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配が判定された基準サンプルは、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの特定の部分が、その質量スペクトル、すなわち可視総電荷QVにおいて可視であるサンプルである。基準サンプルの場合、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも20%が可視であることが好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの少なくとも65%が可視であることがより好ましく、基準イオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qrealの90%が可視であることが最も好ましい。
請求項9において、イオントラップ質量分析器内のサンプルからイオン化されたサンプルイオンの質量分析を実施するための、判定された補償係数cを使用する方法が提供されている。サンプルイオンの質量分析を実施するための、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンの最適化されたイオン注入期間topt,realは、次のように定義される。
opt,real=c*topt,v。 (13)
質量シフト補正に関する第4の目的は、請求項10および11に記載の方法によって解決される。
相対的なm/zシフトの変化が、サンプルからイオン化されたサンプルイオンの質量スペクトルにおける可視総電荷Qvの変化とどのように相関しているかを説明し、また、上述した検査対象サンプルのイオンの、1つの検出された質量スペクトルまたは2つ以上の検出された質量スペクトルから判定することができる、サンプルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、イオントラップ質量分析器により検出されたサンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測された質量シフトを補正するための方法に使用され得る。この相関は、この場合には、判定されたサンプル勾配による線形関数であるため、相対的なm/zシフトは、検査対象のイオンの量の各観測された可視総電荷Qvに対して判定される。相対的なm/zシフトは、ある量の検査対象サンプルイオンの観測された可視総電荷Qvと、サンプル勾配との乗算によって判定され、これは、相対的なm/zシフトの変化が可視総電荷Qvとどのように相関しているかを説明する。次いで、判定された相対的なm/zシフトを使用して、サンプルイオンの検出された質量スペクトルのm/z値を補正する。
請求項1、2、および5に記載の方法に関して説明されたサンプルのサンプル勾配を判定する方法のすべての詳細な実施形態はまた、請求項10および11に記載の方法にも使用することができる。
本発明の方法の好ましい実施形態において、イオントラップ質量分析器は、フーリエ変換質量分析器である。特に、フーリエ変換質量分析器の質量スペクトルでは、サンプルイオンの注入されたイオンパッケージの完全な総電荷は、不可視であり得、その理由は、画像電流信号の強力な破壊的干渉効果、および質量分析器内のイオン相互作用に起因する合体効果が生じ得るからである。
検出器を用いてイオンを検出する、線形イオントラップ質量分析器および3Dイオントラップ質量分析器などの他のイオントラップ質量分析器では、例えば、サンプルイオンの注入されたイオンパッケージの完全な総電荷は、検出器の飽和効果に起因して不可視である場合がある。
発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの質量分析は、質量スペクトルを検出することによって実施される。
本発明の方法の一実施形態において、質量スペクトルは、2つの異なる量のサンプルイオンに対して検出される。
本発明の方法の別の実施形態において、質量スペクトルは、少なくとも3つの異なる量のサンプルイオンに対して検出される。
発明の方法の一実施形態において、異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおける、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトは、可視総電荷Qvに寄与しないサンプルイオンの少なくとも1つの検出される質量スペクトルにおける低ピーク強度、干渉および/または非分解イオンピークによって誘起される。干渉および/または非分解イオンピークのサンプルイオンは、高電荷状態を有するサンプルイオンであることが好ましい。多くのサンプルにおいて、サンプルイオンは、それらの電荷状態がそのサンプルイオンの80%を超える電荷状態である場合、高電荷状態を有する。多くのサンプルにおいて、サンプルイオンは、それらの電荷状態がそのサンプルイオンの90%を超える電荷状態である場合、高電荷状態のみを有する。多くのサンプルにおいて、サンプルイオンは、それらの電荷状態がそのサンプルイオンの95%を超える電荷状態である場合、高電荷状態のみを有する。どのサンプルイオンが高電荷状態を持っているかは、検査対象サンプル、特にサンプルイオンのサイズに依存する。サンプルが、例えば、完全なたんぱく質を含む場合、高電荷状態のサンプルイオンは、少なくとも20以上、好ましくは少なくとも15以上、および特に好ましくは10以上の電荷状態を有することができる。サンプルが、例えば、たんぱく質の構成要素であるペプチドを含む場合、高電荷状態のサンプルイオンは、少なくとも6以上、好ましくは少なくとも4以上、および特に好ましくは少なくとも3以上の電荷状態を有することができる。
本発明の方法の一実施形態において、異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおいて、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトは、サンプルイオンがイオン化されたサンプル内に含まれる巨大分子によって誘起される。典型的に、巨大分子は、サンプルの分子の平均質量よりも少なくとも1.4倍、特に少なくとも1.6倍の質量を有する。
異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおける、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトは、それらのサンプルイオンが、イオントラップ質量分析器によっては分解されない1u(統一原子質量単位)の質量差異でのm/z値を有する場合、巨大分子に対して誘起される。次いで、それらの分子の単一の同位体のピークは、その分子の1個の原子が別の質量を有する原子の同位体によって置き換えられ、したがって、非分解同位体ピークが、検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvに寄与しない場合には、分解されない。
異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおける、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトは、それらの同位体分布のそれらの同位体分子種のピークがイオントラップ質量分析器によっては分解されない場合、巨大分子に対して誘起されることが好ましい。次いで、それらの分子のサンプルイオンの単一の同位体のピークは、分解されず、それらは、結果として、分子中に含まれる異なる原子の異なる質量欠陥となり(例えば、異なる原子が、より重い同位体によって置き換えられる同位体分子種となる)、したがって、非分解同位体のピークは、検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvに寄与しない。
サンプル内に含まれる巨大分子は、長い保持時間で、クロマトグラフィーカラム、特に液体クロマトグラフィーカラムから溶出されることが好ましい。この巨大分子は、典型的に、サンプルイオンがイオン化されるサンプル内に含まれるすべての溶出分子の80%の保持時間を超える保持時間で溶出される。この巨大分子は、すべての溶出分子の90%の保持時間を超える保持時間で溶出されることが好ましい。この巨大分子は、すべての溶出分子の95%の保持時間を超える保持時間で溶出されることがより好ましい。巨大分子は、溶出される時点で、使用されるクロマトグラフィープロセスの実験的な詳細によって定義することができる。重要なことは、異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおける、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトが、特に、クロマトグラフィープロセスの終了時にクロマトグラフィーカラムから溶出される分子に対して誘起されることである。
本発明の方法の一実施形態において、フーリエ変換質量分析器で注入されたサンプルイオンの少なくとも1つの量に対しての、可視総電荷Qvに対して増加して観測された相対的なm/zシフトは、ほぼ同じ質量を有する注入されたイオンの特定のサンプルイオンの質量スペクトルにおける合体ピークによって引き起こされる。そのような実施形態において、注入されたイオンのこれらの特定のサンプルイオンは、相対的なm/zシフトの観測可能な差異、または相対的なm/zシフトを評価するためには使用されないが、特定のサンプルイオンのm/z比は既知である。
本発明の方法の一実施形態において、質量スペクトルは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入された異なる量のサンプルイオンに対して検出され、イオン化されたイオンサンプルの異なる量の差異は、結果として、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置への供給変動からもたらされる。この場合、異なる量のサンプルイオン、同じ注入期間の異なる瞬間に、イオン貯蔵装置に注入されることが好ましい。供給されるサンプルイオンの変動は、LCプロセス、イオン化条件、ガスの流れ、サンプルの流れ、電圧変動、電流変動、およびAGC不具合によって引き起こされる可能性がある。
サンプルイオンの異なる量の差異はまた、イオンの、イオン貯蔵装置への注入期間、または他の実験パラメータを変更することによっても制御することができる。
本発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの異なる量の質量スペクトルの連続的な検出は、0.3~60秒、好ましくは1~30秒、および特に好ましくは3~10秒の時間遅延で実行される。
本発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの少なくとも1つの量の少なくとも1つの質量スペクトルの検出は、0.3~60秒、好ましくは1~30秒、および特に好ましくは3~10秒の、少なくとも1つの質量スペクトルの連続的な検出の時間遅延を有する所要時間にわたって繰り返される。
本発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの異なる量の質量スペクトルの連続的な検出は、0.3~60秒、好ましくは1~30秒、および特に好ましくは3~10秒の、少なくとも1つの質量スペクトルの連続的な検出の時間遅延を有する所要時間にわたって繰り返される。
本発明の方法の一実施形態において、サンプルイオンの少なくとも1つの量、好ましくはサンプルイオンの異なる量の、質量スペクトルの連続的な検出の時間遅延は、以前に判定された補償係数、特にサンプルイオンの異なる量の検出された質量スペクトルからの補償係数に依存する。
補償係数について、1に近い値が判定された場合、少なくとも1つの質量スペクトルの繰り返し検出の時間遅延は、延長することができる。典型的に、補償係数の判定値が0.7~1.3であり、好ましくは補償係数の判定値が0.8~1.2である場合、および特に好ましくは補償係数の判定値が0.9~1.1である場合、時間遅延は、延長されることになる。典型的に、時間遅延の値は、その値の約50%、好ましくはその値の約100%、および特に好ましくはその値の約300%延長されることになる。
補償係数について、1に近くない値が判定された場合、少なくとも質量スペクトルの繰り返し検出の時間遅延は、減少することができる。典型的に、補償係数の判定値が0.2未満または3超である場合、好ましくは補償係数の判定値が0.35未満または2超である場合、および特に好ましくは補償係数の判定値が0.5未満または1.5超である場合、時間遅延は減少することになる。典型的には、時間遅延の値は、その値の約50%、好ましくはその値の約65%、および特に好ましくはその値の約80%減少することになる。
補償係数の判定値が時間の経過とともに変化する場合、質量スペクトルの繰り返し検出の時間遅延は減少させることができる。典型的に、補償係数の値が、時間の経過とともに、約0.2、好ましくは約0.1、および特に好ましくは約0.05変化する場合、減少することになる。典型的には、時間遅延の値は、その値の約50%、好ましくはその値の約65%、および特に好ましくはその値の約80%減少することになる。
本発明の方法1または2の好ましい実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、少なくとも3種、好ましくは少なくとも100種、および特に好ましくは少なくとも1,000種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1または5の好ましい実施形態において、少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種、および特に好ましくは少なくとも20種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1または2の好ましい実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、そのピークが、5よりも高い、好ましくは10よりも高い、および特に好ましくは50よりも高い、検出された質量スペクトルにおける信号対雑音比を有する場合、複数の種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1または5の好ましい実施形態において、少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、そのピークが、5よりも高い、好ましくは10よりも高い、およおび特に好ましくは50よりも高い、検出された質量スペクトルにおける信号対雑音比を有する場合、複数の種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1および2の好ましい実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/zシフト値の、比較による相対的な差異は、ピーク幅が、予想ピーク形状のピーク幅から20%以下逸脱する、好ましくは予想ピーク形状のピーク幅から5%以下逸脱する、および特に好ましくは予想ピーク形状のピーク幅から2%以下逸脱する、検出された質量スペクトルにおけるピーク形状を有する複数の種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1または5の好ましい実施形態において、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、ピーク幅が、予想ピーク形状のピーク幅から20%以下逸脱する、好ましくは予想ピーク形状のピーク幅から5%以下逸脱する、および特に好ましくは予想ピーク形状のピーク幅から2%以下逸脱する、検出された質量スペクトルにおけるピーク形状を有する複数の種のサンプルイオンに対して判定される。
本発明の方法1または2の別の好ましい実施形態において、少なくとも2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、予想ピーク形状から20%以下の平均二乗誤差で逸脱する、好ましくは予想ピーク形状から5%以下の平均二乗誤差で逸脱する、および特に好ましくは予想ピーク形状から2%以下の平均二乗誤差で逸脱する、検出された質量スペクトルにおけるピーク形状を有する複数の種のサンプルイオンに対して評価される。
本発明の方法1または5の好ましい実施形態において、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、検出された質量スペクトルにおいてピーク形状を有する複数の種のサンプルイオンに対して判定され、その質量スペクトルのピーク幅は、予想ピーク形状から20%以下の平均二乗誤差で逸脱する、好ましくは予想ピーク形状から5%以下の平均二乗誤差で逸脱する、および特に好ましくは予想ピーク形状から2%以下の平均二乗誤差で逸脱する。
本発明の方法1または2の好ましい実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、いくつかの種のサンプルイオンに対して判定され、いくつかの種のサンプルイオンの、サンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異(「相対的なm/z値の集合的な、相対的な差異」)は、それらのピークのm/z値の、それらの評価された相対的な差異が、すべてのいくつかの種のイオンのピークのm/z値の平均の相対的な差異からの期待値以下で逸脱する場合に、いくつかの種のサンプルイオンのうちのそのような種のみから判定される。その期待値は、イオントラップ質量分析器に対して期待されるm/z値の相対的な差異の変動に関係し、典型的には、その変動の1.5倍、好ましくはその変動分、および特に好ましくはその変動の0.7倍である。
本発明の方法1または5の好ましい実施形態において、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、いくつかの種のサンプルイオンに対して判定され、それらのサンプルイオンに対しては、m/z比は、既知であり、いくつかの種のサンプルイオンの、サンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異(「m/z値の、既知のm/z比に対する集合的な、相対的な差異」)は、それらのピークのm/z値の、既知のm/z比に対するそれらの判定された相対的な差異が、すべてのいくつかの種のイオンのピークのm/z値の平均の相対的な差異からの期待値以下で逸脱する場合に、いくつかの種のサンプルイオンのうちのそのような種からのみ判定される。その期待値は、イオントラップ質量分析計に対して期待されるm/z値の相対的な差異の変動に関係し、典型的には、その変動の1.5倍、好ましくはその変動分、および特に好ましくはその変動の0.7倍である。
本発明の方法1または2の一実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、複数の種のサンプルイオンに対して判定され、それらの種は、検出された質量スペクトルにおけるイオン化された分子の同位体パターンの要素、すなわち、この同位体パターンの一部として、検出された質量スペクトルで観測されたイオン化された分子の同位体パターンの種である。
本発明の方法1および5の好ましい実施形態において、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、すべての種のサンプルイオンに対して判定され、それらの種は、標準成分のピークパターン、特に標準成分のサンプルイオンのピークパターン、すなわち、標準成分の同位体パターンの同位体分子種であるすべての種のサンプルイオンに対しての要素である。
請求項1または2に記載の本発明の方法の一実施形態において、少なくとも2つの異なる量のイオンの検出された質量スペクトルにおいて観測されたサンプルイオンのピークのm/z値の、比較による相対的な差異は、1つ以上の種のサンプルイオンに対してのみ判定され、それらの種のサンプルイオンは、質量スペクトルからは除外されず、または外れ値として分類される。
外れ値とは、観測された大部分のデータから逸脱した極端な強度値を有する質量スペクトルのピークである。
外れ値もまた、ピークであり、そのm/z値の相対的な差異が質量スペクトルから判定され、観測されたm/z値の相対的な差異の期待値から逸脱する。観測されたm/z値の相対的な差異のこの期待値は、各測定において、またはイオントラップ質量分析器での電極構成、イオントラップ質量分析器内に注入されるイオンの印加電界および分布を考慮した理論的考察によって、予め判定することができる。典型的に、期待値からの偏差は、80%以下である必要がある。好ましくは、その偏差異は、50%以下である必要がある。特に好ましくは、その偏差は、35%以下である必要がある。
サンプルイオンのピークのm/z値の相対的な差異のこの評価は、それらのピークのm/z値の相対的な差異があまりに大きくまたは小さく、かつ/または極端な強度値を有するピークである複数の種のサンプルイオンを除外する、当業者とって既知である統計学的外れ値除去アルゴリズムによって実施することができる。
本発明の方法1および5の一実施形態において、検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異は、1つ以上の種のサンプルイオンに対してのみ判定され、それらの種のサンプルイオンは、質量スペクトルからは除外されず、または外れ値として分類される。
外れ値はまた、検出された質量スペクトルにおけるそのm/z値の、既知のm/z比に対する相対的な差異が、相対的な差異の期待値から逸脱する、m/z比が既知である、サンプルイオンのピークでもある。サンプルイオンの観測されたm/z値の、既知のm/z比に対する相対的な差異のこの期待値は、各測定において、またはイオントラップ質量分析器での電極構成、イオントラップ質量分析器内に注入されるイオンの印加電界および分布を考慮した理論的考察によって、予め判定することができる。典型的に、期待値からの偏差は、80%以下である必要がある。好ましくは、その偏差異は、50%以下である必要がある。特に好ましくは、その偏差は、35%以下である必要がある。
本発明の方法の一実施形態において、イオントラップ質量分析器内でトラップされた清浄なサンプルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の清浄な勾配は、較正プロセスによって判定される。
本発明の方法の別の実施形態において、イオントラップ質量分析器内でトラップされた基準サンプルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配は、較正プロセスによって判定される。
これらの較正プロセスは、イオントラップ質量分析器に対して1回、または特定の較正時に実行することができる。このような較正プロセスにおいて、清浄なサンプルからイオン化されたサンプルイオン、すなわち清浄なサンプルイオンと、それぞれ、基準サンプル、すなわち基準イオンのある量の少なくとも1つの質量スペクトルが検出され、次いで、この少なくとも1つの質量スペクトルから、イオントラップ質量分析器を用いてそれぞれ検出された清浄なサンプル、基準サンプルの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のそれぞれの清浄な勾配、基準勾配は、本発明の方法における、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の判定されたサンプル勾配と同じ方法で判定され、その方法は、サンプルイオンの量の完全な総電荷が、検出された質量スペクトルに不可視である場合に、イオントラップ変換質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを提供する。このようなサンプルは、清浄なサンプルではなく、ほとんどの場合、そのサンプルの検出された質量スペクトルにおいて可視であるサンプルイオンの総電荷の一部は、基準サンプルの検出された質量スペクトルにおいて可視である基準イオンの総電荷の一部よりも小さい。
好ましい実施形態において、清浄なサンプルは、そのサンプルの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の、そのサンプルの清浄な勾配を判定するための較正サンプルとして使用される。清浄なサンプルについて、その清浄なサンプルの分析対象のイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、その質量スペクトルにおいて視認可能であるか、または実質的に視認可能であることは、周知である。
また、基準サンプルは、イオントラップ質量分析器で検出されたその質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のその基準勾配を判定するための較正サンプルとして使用することができる。このような較正サンプルの場合、較正サンプルの分析対象のイオンパッケージの完全な総電荷Qrealのどの部分が、その質量スペクトルにおいて可視であるかは、周知である。
本発明の方法の一実施形態において、イオントラップ質量分析器内でトラップされた清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の清浄な勾配は、理論的なアプローチによって提供される。このようなアプローチとしては、Ledford et al.,「Space Charge Effects in Fourier Transform Mass Spectrometry.Mass Calibration」Anal.Chem.1984,56,2744-2748によって提供されている。一般に、イオントラップ質量分析器のm/zシフトの挙動を提供している、イオントラップ質量分析器内のイオンの電磁界および電荷分布を考慮に入れて、数学的または数値的アプローチを使用することができる。
本発明の方法の一実施形態において、判定された補償係数は、補償係数を判定するために使用されたサンプルと同等な、具体的には、それに類似するサンプルイオンの質量分析のために保存される。サンプルは、例えば、それらが同じ源、例えば血液、特定の細胞などを有し、かつ/または同じ実験条件によって作製されている場合に、同等である。それらのサンプルは、実験条件がほぼ一定であり、特に時間の経過とともにわずかな勾配を伴って変化している場合、例えば、MALDIサンプルの同じスポットからイオン化されるか、または液体クロマトグラフィー実行の特定の時間範囲内で作製され得る。同等なサンプルの実験パラメータは、典型的に、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、および最も好ましくは2%以下で変化している。
本発明の方法の一実施形態において、相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の補償係数またはサンプル勾配は、少なくとも1つの検出された質量スペクトルから判定された補償係数値またはサンプル勾配値の判定を繰り返すことによって、特に異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルを比較し、その判定された補償係数値またはサンプル勾配値をその時間にわたって平均することによって、判定される。この平均によって、その判定は、良好な統計に基づいている。
例えば、補償係数cまたはサンプル勾配に関する、最終測定および相関判定のNサイクルの特定回数の丸め平均が、この判定のために使用することができる。
それは、補償係数値またはサンプル勾配値の平均による、相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の補償係数またはサンプル勾配の判定には不可欠であり、測定されたサンプルの特性が繰り返し判定の期間中に大幅に変化しないそれらの値は、経時的に判定されている。例えば、MSスペクトルがLC実行時に測定される場合、連続走査からの結果は、その連続走査の特性(可視/不可視電荷比に関して)が、すでに以前説明したように、ゆっくり変化するように、特定の時間フレーム内で平均することができる。
請求項14は、請求項1、2、および5、ならびに対応する副請求項に記載の本発明の方法を実行する、イオン貯蔵装置を備える、イオントラップ質量分析計の制御装置を請求している。
制御装置は、少なくとも1つのプロセッサまたは少なくとも1つの電気回路を備え、それらは、信号および/またはデータ、例えば、画像電流または質量スペクトルを受信し、データおよび/または信号、例えば、補償係数cもしくはイオン注入期間topt,real、またはこれらの値に関係する信号を提供する。
請求項15は、本発明の方法を実行することができる、好ましくは実行しているイオン貯蔵装置およびイオントラップ質量分析器を備える、質量分析計を請求している。
本発明を適用することができるフーリエ変換質量分析計の一実施形態を示す。 分析対象のサンプルおよび清浄なサンプルに対する、イオンパッケージの可視総電荷の、イオン貯蔵装置へのイオンの注入期間との相関を示す。 分析対象のサンプルおよび基準サンプルに対する、イオンパッケージの可視総電荷の、イオン貯蔵装置へのイオンの注入期間との相関を示す。 分析対象の標準成分、および基準サンプルを含むサンプルに対する、イオンパッケージの可視総電荷の、イオン貯蔵装置へのイオンの注入期間との相関を示す。 いくつかの質量ピークを持つ質量スペクトルの一例を示す。 いくつかの質量ピークを持つ質量スペクトルの別の例を示す。 分析対象のサンプル、および清浄なサンプルに対する、イオンパッケージの質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの、イオンパッケージの可視総電荷との相関を示す。 分析対象のサンプル、および基準サンプルに対する、イオンパッケージの質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの、イオンパッケージの可視総電荷との相関を示す。 分析対象の標準成分、および基準サンプルを含むサンプルに対する、イオンパッケージの質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの、イオンパッケージの可視総電荷との相関を示す。 イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項2に記載の本発明の方法のフローチャートを示す。 サンプルイオンの事前選択された異なる量の、サンプルイオンの質量スペクトルを示す。 イオントラップ変換質量分析器においてサンプルイオンの質量分析を実施するための、請求項9に記載の本発明の方法の一実施形態のフローチャートを示す。 イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項5に記載の本発明の方法のフローチャートを示し、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比は、既知である。 イオントラップ変換質量分析器においてサンプルイオンの質量分析を実施するための、請求項9に記載の本発明の方法の別の実施形態のフローチャートを示し、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比は、既知である。
図1は、サンプルイオンがイオン源(図示せず)内のサンプルから生成されるフーリエ変換質量分析計2の一実施形態を示し、このイオン源は、エレクトロスプレーイオン化イオン源などの従来のイオン源であってもよい。サンプルイオンは、エレクトロスプレーイオン化イオン源におけるようなイオン源の連続ストリームとして、またはMALDIソースにおけるようなパルス方式で、生成することができる。イオン源でイオン化されるサンプルは、液体クロマトグラフ(図示せず)などのインターフェース器具からのものである場合がある。イオンは、加熱されたキャピラリー4(典型的に、320℃に保持される)を通過し、RFのみのS-レンズ6(RF振幅0~350Vpp、質量に依存するように設定される)によって伝達され、S-レンズ出口レンズ8(典型的に、25Vで保持される)を通る。次に、イオンビーム内のイオンは、サンプルイオンを伝送するためのRF専用デバイスである注入フラタポール10および湾曲フラタポール12を通って伝送される。次いで、サンプルイオンは、一組のレンズ(典型的には、約4.5Vの内部レンズ14、および典型的には、約-100Vの外部レンズ16を有する)を通過し、質量分解四重極18に入る。
この四重極18DCオフセットは、典型的には4.5Vである。四重極18の差動RFおよびDC電圧は、広い質量範囲のサンプルイオンを伝送する(RFのみのモード)か、またはMathieuの安定性図に従ってRFおよびDCを印可することによって伝送に特有のm/zのサンプルイオンを選択するかのいずれかを行うように制御される。他の実施形態において、質量分解四重極18の代わりに、RF専用四重極または多重極がイオンガイドとして使用されてもよいが、分光計は、分析前の質量選択の能力が無いことが認識されるであろう。さらなる他の実施形態において、四重極18の代わりに、リニアイオントラップ型、磁場型、または飛行時間型の分析器などの代替となる質量分解デバイスを採用することができる。このような質量分解デバイスは、質量選択および/またはイオンフラグメント化のために使用することができる。示された実施形態に戻ると、四重極18を通って伝送されるイオンビームは、四重極出口レンズ20(典型的には、-35~0Vに保持され、電圧は、質量に依存するように設定される)を通って四重極から出て、スプリットレンズ22によってオンおよびオフに切り替えられる。次いで、イオンは、伝達用多重極24(RF専用であり、RF振幅は、質量に依存するように設定されている)を通って伝達され、イオン貯蔵装置、すなわち湾曲リニアイオントラップ(C-トラップ)26に収集される。このC-トラップは、サンプルイオンがトラップに入る軸方向(それによって、トラップ軸を定義している)に細長い。C-トラップ出口レンズ28上の電圧は、サンプルイオンが通過することができず、それによってC-トラップ26内部に貯蔵されるように設定することができる。同様に、C-トラップへのイオン蓄積時間(または、例えば、MALDIを用いたイオンパルスの数)でもある所望のイオン注入期間が達した後に、C-トラップ入口レンズ30上の電圧は、サンプルイオンがトラップから外に通過することができず、サンプルイオンがもはやC-トラップ中に注入されないように設定される。入ってくるイオンビームのより正確なゲート制御は、スプリットレンズ22によって提供される。サンプルイオンは、既知の方法で、トラップの湾曲したロッドにRF電圧を印可することによって、C-トラップに半径方向にトラップされる。
C-トラップ26内に貯蔵されているサンプルイオンは、C-トラップにDCをパルス出力することによって、トラップの軸に対して直交して排出され得(直交排出)、このため、サンプルイオンは、今の場合、Z-レンズ32、および偏向器33を経由して、フーリエ変換質量分析器34に注入され、そのフーリエ変換質量分析器は、今の場合、静電型軌道トラップ、より具体的には、Thermo Fisher Scientific社製のOrbitrap(登録商標)FT質量分析器である。この軌道トラップ34は、軌道トラップ軸に沿って細長い内部電極40と、内部電極40を取り囲み、イオンがトラップされ、かつトラップの軸に沿って前後に振動しながら、トラップ電圧が印加される内部電極40の周りを軌道を描いて回ることにより振動するトラップ体積の間の場所を定義する外部電極42、44の分割ペアと、を備える。外部電極42、44のペアは、トラップ体積内のイオンの振動により誘起された画像電流を検出し、それによって検出された信号を提供するための検出電極として機能する。したがって、外部電極42、44は、システムの第1の検出器を構成する。外部電極42、44は、典型的には、検出電極の差動ペアとして機能し、差動増幅器(図示せず)のそれぞれの入力に結合され、その差動増幅器は、さらには、検出された信号を受信するためのデジタルデータ収集システム(図示せず)の一部を形成する。検出された信号は、フーリエ変換を使用して処理され、質量スペクトルを取得することができる。デジタルデータ収集システムは、質量分析計2の制御装置の一部であるか、またはそれに接続することができる。
制御装置は、例えば、フーリエ変換を使用して検出された信号を処理し、かつ/または質量スペクトルを生成するための1つ以上のプロセッサを備えることができる。制御装置は、本発明の方法のうちの少なくとも1つを実行するように構成またはプログラムされている。制御装置は、質量分析器にコマンドを送信するか、またはその質量分析計を動作させるように適合されている機器インターフェースを備えることができる。制御装置は、データセットにデータを記憶するための記憶装置を備えることができる。制御装置と分光計との間の接続は、ワイヤもしくはガラスファイバによって、または無線でもしくは無線通信を介して、確立することができる。好ましくは、制御装置は、可視化手段、特にディスプレイおよび/またはプリンタ、ならびに対話手段、特にキーボードおよび/またはマウスをさらに備え、その結果、ユーザが、情報を閲覧および入力することができる。制御装置が可視化手段および対話手段を備える場合、分光計の動作は、好ましくは、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)を介して制御される。制御装置は、標準的なパーソナルコンピュータとして、または有線もしくは無線ネットワークにより相互接続されたいくつかの処理デバイスを備えた分散形態で実現することができる。
質量分析計2は、C-トラップ26の下流に衝突または反応セル50をさらに備える。C-トラップ26に収集されたサンプルイオンは、衝突または反応セル50に入ることなく、質量分析器34にパルスとして直交して排出され得るか、またはサンプルイオンは、処理のために軸方向に沿って衝突または反応セルに伝送され得、その後、質量分析器への次の直交排出のために、処理されたサンプルイオンをC-トラップに戻すことができる。その場合のC-トラップ出口レンズ28は、サンプルイオンが衝突または反応セル50に入ることが可能となるように設定され、サンプルイオンは、C-トラップと、衝突または反応セルとの間の適切な電圧勾配によって、衝突または反応セルに注入することができる(例えば、衝突または反応セルを、正のサンプルイオンに対して負の電位にオフセットすることができる)。衝突エネルギーは、この電圧勾配によって制御することができる。衝突または反応セル50は、サンプルイオンを収容するための多重極52を備える。衝突または反応セル50は、例えば、その内部でサンプルイオンのフラグメント化(衝突が誘起される解離)を可能にするように、衝突ガスを使って加圧することができるか、またはサンプルイオンの電子伝達解離(ETD)のための反応性イオン源をその内部に収容することができる。適切な電圧を衝突セル出口レンズ54に設定することによって、イオンが衝突または反応セル50から軸方向に離れるのを防止する。衝突または反応セル50の他端におけるC-トラップ出口レンズ28はまた、衝突または反応セル50への入口レンズとしての役割も果たし、必要であれば、イオンが衝突または反応セル内での処理を受ける間に離れ去るのを防止するように、設定することができる。他の実施形態において、衝突または反応セル50は、それ自体の別個の入口レンズを有することができる。衝突または反応セル50で処理した後に、セル50の電位は、貯蔵のために、処理されたサンプルイオンをC-トラップ(イオンがC-トラップに戻ることができるように設定されているC-トラップ出口レンズ28)に排出するようにオフセットされ得、例えば、セル50の電圧オフセットを引き上げて、正に帯電処理されたサンプルイオンをC-トラップに排出して戻すことができる。次いで、このようにC-トラップに貯蔵された処理済みのサンプルイオンは、以前説明したように、質量分析器34に注入され得る。明確にするため、処理済みのサンプルイオンは、それらが検査対象のサンプルからイオン化された第1のステップにおけるものであるため、サンプルイオンである。
分光計を通る、かつ質量分析器内のサンプルイオンのイオンビームの経路は、当技術分野において既知である適切な真空条件下にあり、様々なレベルの真空が分光計の様々な部品にとって適切であることが理解されるであろう。
質量分析計2は、適切にプログラムされたコンピュータ(図示せず)などの制御装置の制御下にあり、その制御装置は、様々な構成要素の動作を制御し、例えば、様々な構成要素に印加される電圧を設定し、検出器を含む様々な構成要素からデータを受信および処理する。このコンピュータは、例えば、本発明に従って、コンピュータプログラムに含まれるアルゴリズムを使用するように構成され、そのアルゴリズムは、サンプルイオンを分析走査のためのC-トラップに注入するための設定値(例えば、イオンパルスの注入期間または数、イオンの量、補償係数c、質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配)を判定して、分析走査からの収集データの統計を最適化しながら、そのアルゴリズム内で、空間電荷効果を回避する所望のサンプルイオンの含有量(すなわち、サンプルイオンの数)を達成する。好ましくは、このコンピュータはまた、本発明に従ってアルゴリズムを使用して、質量スペクトルのm/zシフトを補正するようにも構成されている。
請求項1、2、および5に記載の本発明の方法は、サンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定しており、そのサンプルイオンの量は、イオントラップ質量分析器、特にフーリエ変換質量分析器、例えば、質量分析がフーリエ変換質量分析器内で実施することができる、図1に示すフーリエ変換質量分析計のOrbitrap(登録商標)FT質量分析器に注入される。これらのサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からフーリエ変換質量分析器に、典型的には、0.03ミリ秒~300ミリ秒の非常に短い期間に注入される。図1に示すフーリエ変換質量分析計では、C-トラップ26内に貯蔵されたサンプルイオンは、C-トラップにDCをパルス出力することによって、トラップの軸に直交して排出され(直交排出)、このため、サンプルイオンは、Z-レンズ32および偏向器33を介してOrbitrap(登録商標)FT質量分析器34に注入される。
図1の実施形態において、C-トラップであるイオン貯蔵装置に貯蔵されるサンプルイオンの量は、イオン蓄積または充填時間とも呼ばれる注入期間tinjによって定義され、そこでは、サンプルイオンは、イオン貯蔵装置に流れ、通常、一定またはほぼ一定の総イオン電流TIC(時間の経過とともに一定)を有する。一定の総イオン電流TICの代わりに、サンプルイオンはまた、イオン貯蔵装置への注入期間tinjの間に、多数のサンプルイオンパルスによっても供給され得る。
図2aには、イオン貯蔵装置に貯蔵されたイオンパッケージの可視総電荷Qvと、注入期間、すなわちイオンの蓄積時間tinj、すなわちイオン貯蔵装置にイオンを蓄積するのにかかる時間との間の相関が示されている。イオンの可視総電荷Qvは、以前説明したように、イオンパッケージがイオン貯蔵装置から注入されるイオントラップ質量分析器によって検出された質量スペクトルから導出することができる。同じ総イオン電流TICを伴ってイオン貯蔵装置に注入された2つの異なるサンプルのイオンパッケージに対する相関が示され、その総イオン電流は、イオンの現実の、すなわち実際の総電荷Qrealを考慮している。相関100は、清浄なサンプルのイオンパッケージの現実の(すなわち、実際の)総電荷Qrealが検出された質量スペクトルにおいて可視である、すなわち、Qv=Qrealである場合の相関を示す。イオン源からのイオンの一定の総イオン電流TICのイオンにより、相関は、線形関数、直線によって提供される。上述したように、予備走査130が、予備走査tpreの注入期間で実行され、可視電荷Qv,pre(=Qreal,pre)が、予備走査130の質量スペクトルから判定された場合、最適化された蓄積時間topt,realは、イオントラップ質量分析器の最適化された総電荷Qoptに対して、前述の式(1)によって判定することができる。
Figure 0007125522000010
第2の相関120は、分析対象であるサンプルのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて、完全には可視ではない、すなわち、Qv<Qrealの場合の、注入期間tinjと可視総電荷Qvとの相関を示す。ここで、注入期間が、前述の式に従って最適化された場合、可視総電荷Qvの減少量は、値Qv=Qoptと関係する最適化された注入期間topt,vの増加をもたらし、その理由は、その注入期間が、検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから判定されたからである。したがって、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、その検出された質量スペクトルにおいて不可視である場合の、最適化された蓄積時間topt,realを定義する別の方法が必要とされる。
図3および図4に示された質量スペクトルでは、場合によっては、なぜサンプルイオンの電荷がそれらの検出された質量スペクトルにおいて不可視の場合があるのかを概略的説明されている。
図3の質量スペクトルでは、異なるm/z値を有するサンプルイオンの4つの質量ピーク200、210、220、および230が示している。ピーク200および210は、互いに分離されており、したがって、それらの最大強度を使用して、分析対象のイオンパッケージの可視総電荷Qvを計算する。質量ピーク220および230は、干渉しており、したがって、それらの個別の強度は、そのピークが複雑に入り組んでいる場合、減少する。したがって、これらのピークのサンプルイオンの可視総電荷Qvは、それらの現実の電荷Qrealに比較して、低下寄りとなる。
図4の質量スペクトルでは、各ピークが質量スペクトルの可視総電荷Qvを判定するように考慮された閾値を超えるレベルの信号対雑音比を有するサンプルイオンの3つの大きな質量ピーク300、310、および320を示す。他のサンプルイオンの質量ピーク330および340は、より大きなピークによって重なり合っており、したがって、質量スペクトルから検査対象サンプルイオンの可視総電荷Qvを判定するためには、考慮されていない。また、非常に小さいピーク350および360は、イオンパッケージ内の低量の特定のサンプルイオンに関係しており、それらの信号対雑音比が低すぎるため、質量スペクトルからサンプルイオンの可視電荷Qvを判定するためには考慮されていない。よって、質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv(実線)は、破線によって示された不可視電荷が存在するため、サンプルイオンの検査対象のイオンパッケージの現実の総電荷Qreal未満となる。
すべての電荷が質量スペクトルにおいて必ずしも可視ではない場合に、この問題を解決して、最適化された注入期間topt,realを判定するために、本発明は、サンプルイオンのイオンパッケージの空間電荷によって誘起された、質量スペクトルにおける質量ピークの相対的なm/zシフトが、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealに関係し、その質量ピークの相対的なm/zシフトが、現実の総電荷Qrealに比例するという効果を使用する。
Figure 0007125522000011
図5aにおいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、その検出された質量スペクトルから導出されたイオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関が示されている。
第1の相関400は、清浄なサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが検出された質量スペクトルにおいて可視である場合、清浄なサンプルの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの相関を示している。この相関400は、線形関数、すなわち直線によって提供される。この関数の勾配、すなわち清浄なサンプル勾配は、標準的な値であり、特定のタイプの使用済みイオントラップ質量分析器に単に関係し、特定の質量分析器タイプの幾何学的形状および電磁界によって定義される。図5aにおいて、可視総電荷Qvを示している水平軸上に、イオントラップ質量分析器の最適化された総電荷Qoptも示されている。したがって、最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージがイオントラップ質量分析器で分析された場合、第1の相関400から、質量スペクトルの相対的なm/zシフトを推測することができ、最適化された総電荷Qoptでの相対的なm/zシフトは、次の値を有する。
Figure 0007125522000012
第2の相関420は、サンプルイオンのイオンパッケージの総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて、単に部分的に可視である場合、分析対象であるサンプルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの相関を示している。また、この相関420は、線形関数、すなわち直線によって仮定される。ただし、この関数は、質量スペクトルから導出することができるサンプルイオンの可視総電荷Qvが減少するため、より大きな勾配を有する。
特定の測定された質量スペクトルに対して観測された相対的なm/z値および可視総電荷Qvの値は、測定誤差および高次の物理的効果に起因して、この線形相関から逸脱する可能性があることを強調しておきたい。これは、サンプルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配が判定された場合に、考慮される必要がある。したがって、それらの質量スペクトルから、線形相関のサンプル勾配を判定するには、少なくとも3つの異なる量のサンプルイオンを使用すること、好ましくは5つ超の異なる量のサンプルイオンを使用すること、特に好ましくは10超の異なる量のサンプルイオンを使用することが、有利である。次いで、好ましい実施形態において、サンプル勾配は、以前詳細に説明したように、線形フィッティングまたは平均化法を使用することによって判定される。サンプル勾配は、例えば、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が、請求項5に記載の方法において既知である場合に、異なる量のサンプルイオンの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvに対する比を平均することによって判定され得るか、またはサンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が、請求項5に記載の方法において既知である場合に、異なる量のサンプルイオンの異なるペアの相対的なm/zシフトの差異と、可視総電荷Qvの差異との比を平均することによって判定され得る。サンプル勾配は、例えば、異なる量のサンプルイオンの異なるペアの検出された質量スペクトルから判定された、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の、可視総電荷Qvの差異に対する比を平均することによって、請求項2に記載の方法で判定され得る。
最適化された総電荷Qoptにおける相対的なm/zシフトに対して、
Figure 0007125522000013
可視総電荷Qv,optを判定することができる。この可視総電荷Qv,optが、相関420により説明された、サンプルイオンの質量スペクトルから導出された場合、サンプルイオンの検査対象のイオンパッケージは、最適化された現実の総電荷Qoptを実際に含んでいる。
したがって、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合に、最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージを検出するための蓄積時間topt,realは、したがって、清浄なサンプルの最適化された可視電荷Qclean,opt=Qoptに関係し、図2aの第2の相関120によって示した可視電荷TICvの総イオン電流から、次のように導出することができる。
Figure 0007125522000014
よって、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realであり、サンプルイオンのイオンパッケージのその現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、最適化されたイオン注入期間は、サンプルイオンの可視総電荷Qvが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルにおいて可視総電荷Qvから判定された最適化された現実の総電荷Qoptの値を有する場合、サンプルイオンの質量分析を実施するための、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置へのイオン注入期間topt,vと相関する。
Figure 0007125522000015
この比Qv,opt/Qoptは、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、清浄なサンプルの相関400の清浄な勾配s(clean)、およびサンプルの相関420のサンプル勾配s(sample)を考慮している、図5aの相関から導出することができる。
Figure 0007125522000016
本発明の方法は、ここで、この相関を使用しており、相関係数cを判定している。
Figure 0007125522000017
よって、相関係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された清浄なサンプルの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の清浄な勾配s(clean)を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配s(sample)で除算することによって、判定される。
次いで、イオンのそれらのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて、単に部分的に可視である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realは、上述したように、それらの可視総電荷Qvから判定された、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンのイオン注入期間topt,vと相関する。
opt,real=c*topt,v (22)
清浄なサンプルの相関400の清浄な勾配s(clean)は、標準的な値であり、単にその使用されたタイプのイオントラップ質量分析器に関係するだけである。清浄な勾配s(clean)は、清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qv,clに対する、その使用されたタイプのイオントラップ質量分析器の標準的な比であり、かつイオントラップ質量分析器でトラップされた清浄なサンプルの2つの量の2つの質量スペクトルの、相対的なm/zシフトの差異の、可視総電荷Qv,clに対する、その使用されたタイプのイオントラップ質量分析器の標準的な比であり、イオントラップ変換質量分析器の較正プロセスによって判定することができる。これらの値は、清浄なサンプルイオンのうちの少なくとも1つに対して、m/z比が既知である場合、較正プロセス中に検出された質量スペクトルから直接判定することができる。次いで、清浄な勾配は、請求項5に記載の方法におけるサンプル勾配と同じ方法で判定される。1つまたはいくつかの機器に対してのみ較正プロセスを実行することによって、そのタイプの使用済みイオントラップ質量分析器の勾配を、較正プロセスによって判定すれば十分であり得る。好ましくは、そのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器の勾配の標準的な値は、いくつかの機器に対して判定された清浄なサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qv,clとの線形相関の清浄な勾配s(clean)を平均することによって判定される。通常通り、清浄な勾配s(clean)は、相関400を定義する清浄なサンプルの試験測定(予備実験)から判定することができる。特に、清浄な勾配s(clean)は、試験測定(予備実験)によって定義される相関400に適用されている線形フィッティングを使用して判定することができる。イオントラップ質量分析器の清浄な勾配s(clean)はまた、イオントラップ質量分析器でのm/zシフトを説明する理論的なアプローチ、および清浄なサンプルイオンの検査対象のイオンパッケージの総電荷Qrealに関する総電荷の依存性によっても、提供することができる。
清浄なサンプルのサンプルイオンが既知のm/z値を有さない場合、サンプル勾配を判定するための、請求項2に記載の方法のアプローチに従って、清浄なサンプルの清浄な勾配を判定することも可能であり得る。次いで、清浄なサンプルイオンの異なる量の質量スペクトルは、検出される必要があり、これらの質量スペクトルから、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、これらの検出された質量スペクトルからの清浄なサンプルイオンの少なくとも1つの種のm/zシフトの相対的な差異の判定によって、清浄なサンプルイオンの少なくとも2つの異なる量の検出された質量スペクトルから評価される必要がある。追加の可視総電荷Qv、および/または可視総電荷Qvの差異は、清浄なサンプルイオンの少なくとも2つの異なる量の検出された質量スペクトルから評価される必要がある。次いで、清浄な勾配は、相対的なm/zシフトの評価された観測可能な差異、ならびにサンプル勾配の判定について以前詳細に説明したように、可視総電荷Qvの評価された値、および/または可視総電荷Qvの差異から判定することができる。多くの異なるサンプルが、清浄なサンプルとして既知であり、それに応じて、それらのサンプルイオンのうちの少なくとも1つに対して、そのm/z比が既知であるため、清浄な勾配を判定するためのこのアプローチのみが、場合によっては使用される。
サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合のサンプルの相関420のサンプル勾配s(sample)は、イオントラップ質量分析器でのイオントラップ質量分析器の異なる量の予備走査によって判定することができる。
図5aにおいて、サンプル勾配s(sample)は、2つの予備実験、すなわち予備走査1および予備走査2によって判定され、その場合、2つの異なる量のサンプルイオンに対して、質量スペクトルが、イオントラップ質量分析器で検出される。これらの予備走査のイオン貯蔵装置における検査対象サンプルイオンのイオン注入期間は、図2aに示されている。予備走査1は、イオン注入期間tpre1を有する円160により示され、予備走査2は、イオン注入期間tpre2を有する円170によって示されている。予備走査1のパラメータは、円430により図5aに示され、予備走査2のパラメータは、円440により図5aに示されている。
この実施形態において、サンプル勾配s(sample)は、以下のステップによって評価される。
-予備走査1および予備走査2の質量スペクトルからの、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定による、予備走査1および予備走査2の検出された質量スペクトルからの、相対的なm/zシフトの観測可能な差異の評価
-イオントラップ質量分析器でトラップされたサンプルイオンの、予備走査1および予備走査2の量の検出された質量スペクトルからの、可視総電荷Qvの差異の評価
-予備走査1および予備走査2の質量スペクトルの相対的なm/zシフトの評価された観測可能な差異と、予備走査1および予備走査2の質量スペクトルの可視総電荷Qvの評価された差異との比を計算することによる、サンプル勾配s(sample)の判定
サンプル勾配を判定するためのこのアプローチは、請求項2に記載の本発明の方法で使用され、サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための請求項1に記載の本発明の方法で使用することができ、このアプローチは、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて可視不可能、かつ/またはそこから導出不可能である場合に、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンのイオンパッケージを用いた質量分析を可能にする。この方法は、イオントラップ質量分析器を用いた質量スペクトルの測定、および検出された質量スペクトルから可視総電荷Qvを導出するためのAGCアプローチにのみに依存する。他の電荷検出は、イオントラップ質量分析計では、必要とされない。
図2bにおいて、イオン貯蔵装置に貯蔵されたイオンパッケージの可視総電荷Qvと、注入、すなわち蓄積、イオンの時間tinj、すなわちイオン貯蔵装置にイオンを蓄積するのにかかる時間との間の相関が示されている。可視総電荷Qvは、以前説明したように、イオンパッケージがイオン貯蔵装置から注入されるイオントラップ質量分析器によって検出された質量スペクトルから導出することができる。この相関は、イオンQrealの現実の総電荷を考慮している同じ総イオン電流TICでイオン貯蔵装置に注入された2つの異なるサンプルのイオンパッケージについて示されている。相関180は、基準サンプルの基準イオンのイオンパッケージの完全な現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qv,refとして、単に部分的に可視である、すなわち、Qv,ref<Qrealである場合の相関を示す。イオン源からの基準イオンの一定の総イオン電流TICに起因して、この相関は、線形関数、すなわち直線によって提供される。予備走査182が、予備走査の注入期間tpre、および予備走査182の質量スペクトルから判定された可視電荷Qv,preを用いて、上で説明したように実行されると、基準イオンの最適化された蓄積時間topt,refは、すでに前述した式により、イオントラップ質量分析器の基準イオンの最適化された総電荷Qref,optに対して判定することができる。
Figure 0007125522000018
第2の相関120は、分析対象のサンプルのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて必ずしも完全に可視ではない、すなわちQv<Qrealである場合の、注入期間tinjおよび可視総電荷Qvの相関を示す。さらに、分析対象のサンプルイオンの可視総電荷Qvは、基準イオンの可視総電荷Qv,refよりも小さい、すなわちQv<Qv,ref<Qrealである。ここで、注入期間が、前述した式に従って最適化されている場合、可視総電荷Qvの減少した量は、基準サンプルの最適化された可視電荷Qopt,refに関係する注入期間topt,vの増大をもたらし、その理由は、それが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから評価されたからである。したがって、基準サンプルのイオンパッケージの可視総電荷Qv,refが、検査対象のサンプルの検出された質量スペクトルにおいて必ずしも完全に可視ではない場合の最適化された蓄積時間topt,realを定義する別の方法が必要とされる。
サンプルイオンの可視総電荷Qvが基準イオンの可視総電荷Qv,refよりも大きい場合があることもまた、可能であることに留意されたい。
すべての電荷が質量スペクトルにおいて必ずしも可視ではない場合に、最適化された注入期間topt,realを判定するための問題を解決するため、本発明は、イオンパッケージの空間電荷により誘起された質量スペクトルにおける質量ピークの相対的なm/zシフトが、イオンパッケージの現実の電荷Qrealに関係し、質量ピークの相対的なm/zシフトが、現実の電荷Qrealに比例するという効果を使用する。
Figure 0007125522000019
図5bにおいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、その検出された質量スペクトルから導出されたイオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関が示されている。
第1の相関500は、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、可視総電荷Qv,refとして、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合の、質量ピークの相対的なm/zシフトの、基準サンプルの基準イオンの可視総電荷Qvとの相関を示す。この相関500は、線形関数、すなわち直線によって提供される。この関数の勾配、すなわち基準勾配は、標準的な値であり、基準サンプルに単に関係し、特定の質量分析器タイプの幾何学的形状および電磁界によって使用および定義されるそのタイプの特定のイオントラップ質量分析器に単に関係するのみである。図5bにおいて、可視総電荷Qvを示す、水平軸上のイオントラップ質量分析器の基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optもまた、示されている。したがって、基準イオンの最適化された可視総電荷Qref,optの基準イオンのイオンパッケージが、最適化された現実の総電荷Qoptを有するイオントラップ質量分析器で分析される場合、第1の相関500から、質量スペクトルの相対的なm/zシフトを推測することができ、その相対的なm/zシフトはまた、基準イオンのイオンパッケージの現実の最適化された総電荷Qoptの相対的なm/zシフトでもある必要がある。最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージの質量スペクトルのこの相対的なm/zシフトは、次式の値を有している。
Figure 0007125522000020
第2の相関420は、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合に、分析対象のサンプルのサンプルイオンの質量ピークの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの相関を示す。また、この相関420は、線形関数、すなわち直線によって提供される。ただし、この関数は、基準サンプルと比較してより大きな勾配を有しており、その理由は、質量スペクトルから導出することができるサンプルイオンの可視総電荷Qvが、基準サンプルと比較して減少しているからである。
特定の測定された質量スペクトルに対して観測された相対的なm/z値、および可視電荷の値は、測定誤差およびより高次の物理的影響に起因して、この線形相関から逸脱する可能性があることを再度強調しておきたい。これは、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配が、以前詳細に説明したように判定される場合に、考慮される必要がある。
最適化された総電荷Qoptにおける相対的なm/zシフトに対して、
Figure 0007125522000021
可視総電荷Qv,optが判定され得る。この可視総電荷Qv,optが、相関420によって説明された、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルから導出される場合、サンプルイオンの検査対象のイオンパッケージは、実際に、最適化された総電荷Qoptを含んでいる。
したがって、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合、最適化された総電荷Qopt,refのサンプルイオンのイオンパッケージを検出するための最適化された蓄積時間topt,realは、図2bの第2の相関120によって示された可視電荷TICvの総イオン電流から導出することができる。
Figure 0007125522000022
よって、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realは、イオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンのイオン注入期間topt,vと相関し、そのイオン注入期間は、サンプルイオンの検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvから判定された、基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optと関係する。
Figure 0007125522000023
比Qv,opt/Qref,optは、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、基準サンプルの相関500の基準勾配s(reference)、およびサンプルの相関420のサンプル勾配s(sample)を考慮している図5bの相関から導出することができる。
Figure 0007125522000024
請求項1、2、および5に記載の本発明の方法は、ここで、この相関を使用し、相関係数cを判定している。
Figure 0007125522000025
よって、相関係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配s(reference)を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配s(reference)で除算することによって、判定される。
次いで、サンプルイオンのイオンパッケージの総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realは、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンのイオン注入期間topt,vと相関し、その蓄積期間は、上述したように、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optと関係し、サンプルイオンの可視総電荷Qvから判定される。
opt,real=c*topt,v (31)
基準サンプルの相関500の基準勾配s(reference)は、標準的な値であり、この値は、単に基準サンプルと関係し、そのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器と関係するのみである。基準勾配s(reference)は、基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qv,clに対する、そのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器の標準的な比であり、かつイオントラップ質量分析器内でトラップされた2つの量の基準イオンの、相対的なm/zシフトの差異の、可視総電荷Qv,refの差異との同標準的な比であり、イオントラップ変換質量分析器の較正プロセスによって判定することができる。これらの値は、少なくとも基準イオンのうちの1つに対して、m/z比が既知である場合、較正プロセス中に検出された質量スペクトルから直接判定することができる。次いで、基準勾配は、請求項5に記載の方法におけるサンプル勾配と同じ方法で判定される。
1つまたはいくつかの機器のみに対して較正プロセスを実行することによる基準サンプルに関しては、較正プロセスによってそのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器の基準勾配を判定すれば、十分であり得る。好ましくは、そのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器の基準勾配の標準的な値は、いくつかの機器に対して判定された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配s(reference)を平均することによって、判定される。通常通り、基準勾配s(reference)は、相関500を定義する、基準サンプルの試験測定(予備実験)から判定することができる。特に、基準勾配s(reference)は、試験測定(予備実験)によって定義された相関500に適用される線形フィッティングを使用して判定することができる。
基準サンプルの基準イオンが既知のm/z値を有さない場合、サンプル勾配を判定するための、請求項2に記載の方法のアプローチによる、基準サンプルの基準勾配を判定することも可能であり得る。次いで、異なる量の基準イオンの質量スペクトルが、検出される必要があり、これらの質量スペクトルから、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、これらの検出された質量スペクトルからの少なくとも1つの種の基準イオンのm/z値の相対的な差異の判定によって、異なる量の基準イオンのうちの少なくとも2つの検出された質量スペクトルから評価される必要がある。追加の可視総電荷Qv、および/または可視総電荷Qvの差異は、基準イオンの異なる量のうちの少なくとも2つの検出された質量スペクトルから評価される必要がある。次いで、基準勾配は、サンプル勾配の判定について以前詳細に説明したように、相対的なm/zシフトの評価された観測可能な差異、ならびに可視総電荷Qv、および/または可視総電荷Qvの差異の評価された値から判定することができる。サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、サンプルの相関420のサンプル勾配s(sample)は、イオントラップ変換質量分析器での異なる量の検査対象サンプルイオンの予備走査によって判定することができる。
図5bにおいて、サンプル勾配s(sample)は、2つの予備実験である予備走査1および予備走査2によって判定され、そこでは、2つの異なる量のサンプルイオンに対して、質量スペクトルが、イオントラップ質量分析器内で検出される。これらの予備走査の、イオン貯蔵装置内の検査対象サンプルイオンのイオン注入期間は、図2bに示されている。予備走査1は、イオン注入期間tpre1を有する円160によって示され、予備走査2は、イオン注入期間tpre2を有する円170によって示されている。予備走査1のパラメータは、図5bに円430によって示され、予備走査2のパラメータは、図5bに円440によって示されている。
この実施形態において、サンプル勾配s(sample)は、以下のステップによって評価される。
-予備走査1および予備走査2の質量スペクトルからの少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定による、予備走査1および予備走査2の検出された質量スペクトルからの相対的なm/zシフトの観測可能な差異の評価
-イオントラップ質量分析器でトラップされたサンプルイオンの、予備走査1および予備走査2の量の検出された質量スペクトルからの、可視総電荷Qvの差異の評価
-予備走査1および予備走査2の質量スペクトルの相対的なm/zシフトの評価された観測可能な差異の、予備走査1および予備走査2の質量スペクトルの可視総電荷の評価された差異に対する比を計算することによる、サンプル勾配s(sample)の判定
このアプローチは、請求項2に記載の本発明の方法で使用され、サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項1に記載の本発明の方法で使用することができ、この方法は、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて不可視であり、かつ/またはその検出された質量スペクトルから導出不可能である場合に、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンのイオンパッケージを用いて質量分析を可能にする。この方法は、イオントラップ質量分析器を用いた質量スペクトルの測定、および検出された質量スペクトルから可視総電荷Qvを導出するためのAGCアプローチにのみに依存する。他の電荷検出は、イオントラップ質量分析計では、必要とされない。
サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項2に記載の本発明の方法のステップは、図6に示されている。これらのステップはまた、請求項1に記載の本発明の方法でも実行することができる。
第1のステップ600において、質量スペクトルが、異なる量のサンプルイオンに対して、イオントラップ質量分析器により検出される。この異なる量のサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入される。2つの異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルを検出するには、十分であり得る。ただし、また、様々な量のサンプルイオンの非常に多くの質量スペクトルも検出することができる。
次のステップ610では、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルは、質量スペクトルからの相対的なm/zシフトの観測可能な差異を評価するために比較される。
観測可能な差異が評価され得る2つの質量スペクトルでは、少なくとも1つの種のサンプルイオンに対して、その種のサンプルイオンに割り当てられるピークが識別され、次いで、識別されたピークのm/z値の相対的な差異が判定され、その差異は、その種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異である。少なくとも1つの種のイオンのm/z値の相対的な差異はまた、異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測された非常に多くの種のサンプルイオンを使用して、評価することができる。したがって、2つの質量スペクトルにおいて観測された質量ピークの一覧が、比較され得、同様のピーク構造が、例えば、同様のピーク距離(それらのm/z比の差異)および/または強度比を有することによって識別することができる。次いで、特定の種のサンプルイオンに割り当てられたピークの重心が比較されて、2つの質量スペクトルにおける特定の種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異を判定する。m/z値の相対的な差異は、2つの質量スペクトルのうちの一方のピークのm/z値に関して、または両方のm/z値の平均値に関して、判定することができる。
特定の種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異に基づいて、2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異が、評価される。
Figure 0007125522000026
2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、少なくとも1つの種のイオンのこれらの判定された相対的な差異から、m/z値の典型的な相対的な差異を導出する方法によって、少なくとも1つの種のイオンのm/z値の判定された相対的な差異から評価される。したがって、2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、m/z値の判定された典型的な相対的な差異である。
既に前に説明したように、2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、好ましくは、例えば、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異を平均することによって評価され得る。したがって、2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、この実施形態において、少なくとも1つの種のサンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異の判定された平均である。
好ましくは、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、2つの質量スペクトルに対して、すべての検査対象の種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の平均値として判定される。
2つの質量スペクトルにおける同じサンプルイオンのピークを識別するために、例えば、請求項1および2に記載の本発明の方法の一実施形態において、1つの質量スペクトルの質量ピークのリストにおけるピークの各々に対して、他の質量スペクトルの質量ピークのリストの中で、質量(m/z値)が特定の許容範囲(例えば、20ppm)内で適合するピークが存在するかどうかが検索される。
2つの質量スペクトルにおける同じサンプルイオンのピークを識別するために、請求項1および2に記載の本発明の方法の別の実施形態において、1つの質量スペクトルの質量ピークのリストにおけるピークの各々に対して、他の質量スペクトルの質量ピークのリストの中で、強度、相対量の値、(ピーク高さ)が、共通の質量範囲の特定の許容範囲内で適合するピークが存在するかどうかが検索される。2つの質量スペクトルの2つの質量ピークは、それらの強度の比が3以下、好ましくは1.7以下、および好ましくは1.3以下である(低強度に対する高強度の比)。
2つの質量スペクトルにおける同じサンプルイオンのピークを識別するために、請求項1および2に記載の本発明の方法の好ましい実施形態において、1つの質量スペクトルの質量ピークのリストにおけるピークの各々に対して、他の質量スペクトルの質量ピークのリストの中で、質量(m/z値)が特定の許容範囲(例えば、20ppm)内で一致し、かつ強度(ピーク高さ)が特定の許容範囲内に適合するピークが存在するかどうかが検索される。
異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルからの相対的なm/zシフトの観測可能な差異の評価は、特に質量スペクトルの質量ピークのリストを比較する自動化処理によって実行することができる。
好ましい実施形態において、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、異なる量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルに対して評価される。
これは、図7に示され、説明のために、サンプルイオンの質量スペクトルを概略的に示しており、そこでは、観測されたイオンパッケージのサンプルイオンは、2つの異なる注入期間tinj,1およびtinj,2にイオン貯蔵装置に注入される。
観測されたピーク700および710に対して、ピーク重心のm/z値として判定された、ピーク700および701のm/z値の差異δ(Δm/z)1およびδ(Δm/z)2による質量シフトが示されている。同じサンプルイオンのm/z値の差異は、質量スペクトルを比較することによって判定される。ピーク700および710のm/z値の差異δ(Δm/z)1およびδ(Δm/z)2から、例えば、注入期間tinj中に注入されたサンプルイオンの第1の質量スペクトルのそれらのm/z値に関するそれらの相対的な差異が推定され得、結果として、m/z値の相対的な差異、すなわち、ピーク700のδ(Δm/z)1/(m/z1)、およびピーク710のδ(Δm/z)2/(m/z2)、ならびに対応する種のサンプルイオンが得られる。次いで、サンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、ピーク700および710のm/z値の両方の相対的な差異の平均である。
3つ以上の異なる量のサンプルイオンの質量スペクトルが検出された場合、相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、異なる量のサンプルイオンのペアの検出された質量スペクトルに対して評価することができる。相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、同じ種のサンプルイオン、または異なる種のサンプルイオンのm/z値の相対的な差異の判定によって、異なるペアの検出された質量スペクトルから評価することができる。2つの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの観測可能な差異は、サンプルイオンの量のみに関係し、特定のサンプルイオンに関係しない値であるため、同じ種のサンプルイオンを使用することは、重要ではない。
次のステップとして図6に示す別のステップ620において、異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルは、イオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの異なる量の可視総電荷Qvを判定するために、またはイオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの異なる量のペアの可視総電荷荷Qvδ(Qv)の差異を判定するために、評価される。好ましくは、サンプルイオンの2つの異なる量の可視総電荷δ(Qv)の差異δ(Qv)は、サンプルイオンの各量に対して判定された可視総電荷Qvの減算によって判定される。
好ましい実施形態において、可視総電荷Qv、および/または可視総電荷Qvの差異δ(Qv)は、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルに対して評価される。
3つ以上の異なる量のイオンの質量スペクトルが検出された場合、可視総電荷Qvは、本発明の一実施形態において、各検出された質量スペクトル、またはいくつかの検出された質量スペクトルに対して評価される。
3つ以上の異なる量のイオンの質量スペクトルが検出された場合、可視総電荷Qvの差異δ(Qv)は、本発明の一実施形態において、異なる量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルのペアに対して、評価することができる。
次のステップ630において、2つの直前のステップの結果は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定するために使用される。サンプル勾配は、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの2つの量に対して、イオントラップ変換質量分析器を用いて検出されたそれらの相対的なm/zシフトの差異と、それらの可視総電荷Qv,preの差異との比を提供する。サンプル勾配は、サンプルイオンの質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの変化が、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから判定することができる可視総電荷Qvと、どのように相関しているかを説明する。
ステップ630における好ましい実施形態において、2つの直前のステップの結果は、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの2つの異なる量に対して、それらの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトのそれらの観測可能な差異の、それらの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器でトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvのそれらの差異に対する比を計算するために使用される。この計算された比は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配に対応する。
ステップ630における別の実施形態において、2つの直前のステップの結果は、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの2つの異なる量のペアに対して、それらの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトのそれらの観測可能な差異の、それらの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器でトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvのそれらの差異に対する比を計算するために使用される。
次いで、異なる量のサンプルイオンのペアの計算された比から、一般に、例えば、計算された比の値を平均することによって、2つの量のサンプルイオンに対する比が判定される。この判定された比は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配に対応する。
別の好ましい実施形態において、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配は、判定され、好ましくは、異なる量のサンプルイオンの2つの検出された質量スペクトルのペアから評価された、相対的なm/zシフトの観測可能な差異、ならびに可視総電荷Qv、および/またはその可視総電荷Qvの差異δ(Qv)を考慮している線形フィッティングによって計算される。この値および/または差異に基づいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンのイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、それらの検出された質量スペクトルから導出された、サンプルイオンのイオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関が提供され、その相関は、線形関数を伴う線形フィッティングによって、適合され得る。したがって、この線形関数の勾配は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配である。
イオントラップ質量分析器を用いて検出された検査対象サンプルイオンのイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、それらの検出された質量スペクトルから導出された、イオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関は、線形関数であるため、その関数の判定されたサンプル勾配によって、相対的なm/zシフトは、検査対象サンプルイオンの量の任意の可視総電荷Qvに対して判定することができる。この相関は、質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトを補正するために、請求項10に記載の本発明の方法で使用することができるが、しかしながら、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおいて不可視、かつ/または同質量スペクトルから推定不可である場合、サンプルイオンのイオンパッケージの可視総電荷Qvは、その検出された質量スペクトルから導出することができる。
本発明の方法の次のステップ640において、補償係数cが判定される。補償係数cは、サンプルイオンの質量分析を実施するために、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、サンプルイオンの、イオン貯蔵装置へのイオン注入期間topt,vを調整するために使用される。基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optは、可視総電荷Qvのその量であり、基準イオンの検査対象の量の現実の総電荷Qrealが、最適化された総電荷Qoptの値を有する場合、基準サンプルの質量スペクトルにおいて可視である。イオン注入期間topt,vは、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optが、サンプルイオンの質量スペクトルにおける可視電荷として観測されることに起因して、サンプルイオンのイオン貯蔵装置へのそのイオン注入期間を定義している。サンプルイオンのイオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの、イオントラップ質量分析器を用いて検出された少なくとも1つの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間から判定される。少なくとも1つの質量スペクトルの可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間の観測された線形相関に起因して、サンプルイオンのイオン注入期間topt,vは判定される。補償係数cは、好ましくは清浄なサンプルである基準サンプルの基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配を、ステップ630で判定されたサンプル勾配で除算することによって判定される。
好ましい実施形態において、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルからステップ630において判定されたサンプル勾配は、補償係数cを判定するために、ステップ640において使用される。そのサンプルのサンプル勾配は、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトの観測可能な差異と、イオントラップ質量分析器にトラップされた2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvとの比によって計算される。
別の好ましい実施形態において、2つの異なる量のサンプルイオンのペアの相対的なm/zシフトの観測可能な差異の、可視総電荷Qvの差異に対する計算された比は、前の段落で詳細に説明したように、2つの異なる量のサンプルイオンの各ペアに対して補償係数cを判定するためのサンプル勾配として、ステップ640で使用することができる。したがって、汎用的な補償係数cが、2つの異なる量のサンプルイオンの各ペアに対して判定された補償係数cを平均することによって、判定される。
サンプルのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出された、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realを判定するための、この上述のアプローチはまた、イオントラップ質量分析器でサンプルイオンの質量分析を実施するために、請求項9に記載の本発明の方法で使用される。
この方法のフローチャートが、図8に示されている。この方法はまた、図6に関して以前説明されたステップ600、610、620、630、640を使用している。追加的に、サンプルイオンの質量分析を実施するための、イオン貯蔵装置のサンプルイオンの最適化された現実の注入期間topt,realは、最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージを用いた質量分析を実施するために、ステップ800で判定される。判定された補償係数cを使用して、現実のイオン注入期間topt,realを判定し、次式によって定義される。
opt,real=c*topt,v。 (33)
次いで、ステップ810において、サンプルイオンの質量分析が、現実の最適化されたイオン注入期間topt,realを使用して、イオントラップ質量分析器内で実施され、サンプルイオンをイオントラップ質量分析計のイオン貯蔵装置に注入する。質量分析、特に質量スペクトルの検出は、それによって、現実の総電荷Qoptを有するサンプルに対するサンプルイオンの最適化された量を用いて実施され、この現実の総電荷は、検出された質量スペクトルにおいて、可視ではない。
本発明の方法のいくつかのプロセスは、スタンドアロン型もしくは接続型、またはクラウドシステム内のコンピュータおよびプロセッサによって、かつプロセスを実行するためのソフトウェアによって支援され得る。
本発明の方法は、質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトが、イオンのピークの位置を判定するための、イオントラップ質量分析計の精度の値の10%を越える、サンプルイオンの少なくとも1つの検出可能な質量範囲内に存在する場合に、各イオントラップ質量分析計に対して使用されてもよく、そのピークの位置は、イオンのピーク、典型的にはピークの重心または最大値のm/z値である。
よって、異なる量の分析対象サンプルイオンに起因するm/zシフトは、ピークの位置の精度が低いため、観測することができない。
本発明の方法は、好ましくは、質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトが、イオンのピークの位置を判定するための、イオントラップ質量分析器の精度の値の50%を越える、サンプルイオンの少なくとも1つの検出可能な質量範囲内に存在する場合に、各イオントラップ質量分析計に対して使用されてもよい。
本発明の方法は、より好ましくは、質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトが、イオンのピークの位置を判定するための、イオントラップ質量分析計の精度の値の100%を越える、サンプルイオンの少なくとも1つの検出可能な質量範囲内に存在する場合に、各イオントラップ質量分析計に対して使用されてもよい。
本発明の方法は、特に好ましくは、質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトが、イオンのピークの位置を判定するための、イオントラップ質量分析計の精度の値の200%を越える、サンプルイオンの少なくとも1つの検出可能な質量範囲内に存在する場合に、各イオントラップ質量分析計に対して使用されてもよい。
いくつかの検査対象サンプルは、少なくとも1つの標準成分を含む。サンプルに含まれる標準成分からのイオン化によって生成された少なくとも1つのサンプルイオンに対して、m/z比が既知である場合、請求項5に記載の本発明の方法は、サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するために使用され、そのパラメータは、補償係数cである。
図2cにおいて、イオン貯蔵装置に貯蔵されたイオンパッケージの可視総電荷Qvと、注入、すなわち蓄積、イオンの時間tinj、すなわちイオン貯蔵装置にイオンを蓄積するのにかかる時間との間の相関が示されている。可視総電荷Qvは、以前説明したように、イオンパッケージがイオン貯蔵装置から注入されるイオントラップ質量分析計によって検出された質量スペクトルから導出することができる。この相関は、イオンQrealの現実の総電荷を考慮している同じ総イオン電流TICでイオン貯蔵装置に注入された2つの異なるサンプルのイオンパッケージについて示されている。相関180は、基準サンプルの基準イオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qv,refとして、単に部分的に可視である、すなわちQv,ref<Qrealである場合の相関を示している。イオン源からの基準イオンの一定の総イオン電流TICに起因して、この相関は、線形関数、すなわち直線によって提供される。予備走査182が、上で説明したように、予備走査の注入期間tpreで実行され、かつ可視電荷Qv,preが、予備走査182の質量スペクトルから判定された場合、基準イオンの最適化された蓄積時間topt,refは、既に前に説明した式によって、イオントラップ質量分析器の基準イオンの最適化された総電荷Qref,optに対して判定することができる。
Figure 0007125522000027
第2の相関120は、分析対象のサンプルのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて必ずしも完全に可視ではない、すなわちQv<Qrealである場合の、注入期間tinjおよび可視総電荷Qvの相関を示す。
サンプルは、少なくとも1つの標準成分を含む。少なくとも1つの標準成分のイオン化によって生成された少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比は、既知である。
さらに、分析対象のサンプルイオンの可視総電荷Qvは、基準サンプルの可視総電荷Qv,refよりも小さい、すなわちQv<Qv,ref<Qrealである。ここで、注入期間が、前述した式に従って最適化された場合、可視総電荷Qvの減少量により、基準サンプルの最適化された可視電荷Qopt,refと関係する注入期間topt,vの増加がもたらされ、その理由は、それが、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvから判定されたからである。したがって、基準サンプルのイオンパッケージの可視総電荷Qv,refが、検査対象のサンプルの検出された質量スペクトルにおいて必ずしも完全には可視ではない場合に、最適化された蓄積時間topt,realを定義するための別の方法が必要とされる。
サンプルイオンの可視総電荷Qvは、基準サンプルの基準イオンの可視総電荷Qv,refよりも大きい場合があることが可能であることに留意されたい。
すべての電荷が質量スペクトルにおいて必ずしも可視ではない場合に、最適化された注入期間topt,realを判定するための問題を解決するため、本発明は、イオンパッケージの空間電荷により誘起された質量スペクトルにおける質量ピークの相対的なm/zシフトが、イオンパッケージの現実の電荷Qrealに関係し、質量ピークの相対的なm/zシフトが、現実の電荷Qrealに比例するという効果を使用する。
Figure 0007125522000028
図5cにおいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、検出された質量スペクトルから導出されたイオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関が示されている。
第1の相関500は、イオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、可視総電荷Qv,refとして、検出された質量スペクトルにおいて、単に部分的に可視である場合、基準サンプルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの相関を示している。この相関500は、線形関数、すなわち直線によって提供される。この関数の勾配、すなわち基準勾配は、標準的な値であり、基準サンプルに単に関係し、特定の質量分析器タイプの幾何学的形状および電磁界によって使用および定義されるそのタイプの特定のイオントラップ質量分析器に単に関係するのみである。図5cにおいて、可視総電荷Qvを示す、水平軸上のイオントラップ質量分析器の基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optもまた、示されている。したがって、基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optのイオンパッケージが、最適化された現実の総電荷Qoptを有するイオントラップ質量分析器で分析される場合、第1の相関500から、質量スペクトルの相対的なm/zシフトを推測することができ、その相対的なm/zシフトはまた、基準イオンのイオンパッケージの現実の最適化された総電荷Qoptの相対的なm/zシフトでもある必要がある。最適化された総電荷Qoptのイオンパッケージの質量スペクトルのこの相対的なm/zシフトは、次式の値を有している。
Figure 0007125522000029
第2の相関460は、イオンパッケージの総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視であり、かつサンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知である場合に、分析対象のサンプルのサンプルイオンの質量ピークの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの相関を示す。また、この相関460は、線形関数、すなわち直線によって提供される。しかし、この関数は、基準サンプルと比較してより大きな勾配を有しており、その理由は、質量スペクトルから導出することができる可視総電荷Qvが、基準サンプルと比較して減少しているからである。
特定の測定された質量スペクトルに対して観測された相対的なm/z値、および可視電荷の値は、測定誤差およびより高次の物理的影響に起因して、この線形相関から逸脱する可能性があることを再度強調しておきたい。これは、サンプルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配が、以前詳細に説明したように判定される場合に、考慮される必要がある。
最適化された総電荷Qoptにおける相対的なm/zシフトに対して、
Figure 0007125522000030
可視総電荷Qv,optを判定することができる。この可視総電荷Qv,optが、相関460によって説明された、サンプルイオンの質量スペクトルから導出される場合、サンプルイオンの検査対象のイオンパッケージは、実際に、最適化された総電荷Qoptを含んでいる。
したがって、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である場合、最適化された総電荷Qopt,refのイオンパッケージを検出するための最適化された蓄積時間topt,realは、図2cの第2の相関120によって示された可視電荷TICvの総イオン電流から導出することができる。
Figure 0007125522000031
よって、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視であり、かつサンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realは、イオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンのイオン注入期間topt,vと相関し、そのイオン注入期間は、サンプルイオンの検出された質量スペクトルにおける可視総電荷Qvから判定された、基準サンプルの最適化された可視総電荷Qref,optと関係する。
Figure 0007125522000032
比Qv,opt/Qref,optは、サンプルからイオン化されたイオンのイオンパッケージの総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視であり、かつサンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知である、基準サンプルの相関500の基準勾配s(reference)、およびサンプルの相関460のサンプル勾配s(sample)を考慮している図5cの相関から導出することができる。
Figure 0007125522000033
請求項1、2、および5に記載の本発明の方法は、ここで、この相関を使用し、相関係数cを判定している。
Figure 0007125522000034
よって、相関係数cは、イオントラップ質量分析器を用いて検出された基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配s(reference)を、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配s(reference)で除算することによって、判定される。
次いで、サンプルイオンのイオンパッケージの総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視であり、かつサンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realは、イオン貯蔵装置内のサンプルイオンのイオン注入期間topt,vと相関し、その蓄積期間は、上述したように、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optと関係し、可視総電荷Qvから判定される。
opt,real=c*topt,v (42)
基準サンプルの相関500の基準勾配s(reference)は、標準的な値であり、この値は、以前説明したように、単に基準サンプルと関係し、そのタイプの使用されたイオントラップ質量分析器と関係するのみである。
図5cにおいて、サンプル勾配s(sample)は、質量スペクトルのサンプルイオンの1つの量がイオントラップ質量分析器で検出される、予備走査-sと名付けられた1つの予備実験によって、判定される。予備実験予備走査-sのイオン貯蔵装置での検査対象サンプルイオンのイオン注入期間は、図2cに示されている。予備実験予備走査-sは、イオン注入期間tpreを有する円190によって示されている。予備実験予備走査-sのパラメータは、図5cに、円47によって示されている。
この実施形態において、サンプル勾配s(sample)は、以下のステップによって評価される。
-検出された質量スペクトルにおける、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定による、予備実験予備走査-sの検出された質量スペクトルからの相対的なm/zシフトの評価
-イオントラップ質量分析器でトラップされたサンプルイオンの量の、予備実験予備走査-sの検出された質量スペクトルからの可視総電荷Qvの評価
-予備実験予備走査-sの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、予備実験予備走査-sの質量スペクトルの評価された可視総電荷に対する比を計算することによるサンプル勾配s(sample)の判定
このアプローチは、請求項5に記載の本発明の方法で使用され、サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項1に記載の本発明の方法で使用することができ、この方法は、サンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、検出された質量スペクトルにおいて不可視であり、かつ/またはその検出された質量スペクトルから導出不可能であり、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知である場合に、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンのイオンパッケージを用いて質量分析を可能にする。この方法は、イオントラップ質量分析器を用いた質量スペクトルの測定、および検出された質量スペクトルから可視総電荷Qvを導出するためのAGCアプローチにのみに依存する。他の電荷検出は、イオントラップ質量分析計では、必要とされない。
サンプルイオンの質量分析を実施するために、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための、請求項5に記載の本発明の方法のステップは、図9に示されている。これらのステップはまた、請求項1に記載の本発明の方法でも実行することができる。
第1のステップ900において、少なくとも1つの質量スペクトルが、少なくとも1つの量のサンプルイオンに対して、イオントラップ質量分析器によって検出される。その少なくとも1つの量のサンプルイオンは、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入される。1つの量のサンプルイオンの質量スペクトルを検出することで、十分であり得る。ただし、また、様々な量のサンプルイオンの非常に多くの質量スペクトルも検出することができる。
次のステップ910において、相対的なm/zシフトは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの質量スペクトルから評価される。
Figure 0007125522000035
相対的なm/zシフトは、少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおいて、m/z比が既知である、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定によって、少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの質量スペクトルから評価される。
少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおけるm/z値の、既知のm/z比に対する相対的な差異は、m/z比が既知である、非常に多くの種のサンプルイオンに対して、判定することができる。
好ましくは、次いで、相対的なm/zシフトは、m/z比が既知である、すべての検査対象サンプルイオンのm/z値の判定された相対的な差異の平均値として、サンプルイオンの少なくとも1つの量の少なくとも1つの質量スペクトルに対して判定される。
m/z比が既知である、サンプルイオンのピークは、その特定の標準成分のイオン化により生成され、サンプルイオンが、サンプルイオンのイオン化および/または既知のm/z比によって生成される、サンプルイオンの特定の高相対量、ピークパターンの特定のピーク構造によって、検出された質量スペクトルにおいて識別することができる。m/z比が既知である、サンプルイオンのピークの識別に関するより多くの詳細については、以前説明されている。
少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの質量スペクトルにおいて観測された相対的なm/zシフトの評価は、自動化処理によって実行することができる。
次のステップとして図9に示す別のステップ920において、少なくとも1つの量のサンプルイオンの少なくとも1つの質量スペクトルは、サンプルイオンの少なくとも1つの量の可視総電荷Qvを判定するために評価される。
好ましい実施形態において、可視総電荷Qvは、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価される。
次のステップ930において、2つの直前のステップの結果は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を判定するために使用される。サンプル勾配は、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されたサンプルイオンの2つの量に対して、イオントラップ変換質量分析器を用いて検出されたそれらの相対的なm/zシフトの差異と、それらの可視総電荷Qv,preの差異との比を提供する。サンプル勾配は、サンプルイオンの質量スペクトルにおける相対的なm/zシフトの変化が、サンプルイオンの検出された質量スペクトルから判定することができる可視総電荷Qvと、どのように相関しているかを説明する。
ステップ930での好ましい実施形態において、2つの直前のステップの結果を使用して、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入された1つの量のサンプルイオンに対して、1つの量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトの、1つの量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされた1つの量のサンプルイオンの可視総電荷Qvに対する比を計算する。この計算された比は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配に対応する。
ステップ930での別の実施形態において、2つの直前のステップの結果を使用して、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入された2つの異なる量のサンプルイオンに対して、それらの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトのそれらの差異の、それらの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvのそれらの差異に対する比を計算する。この計算された比は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配に対応する。
ステップ930での別の実施形態において、2つの直前のステップの結果を使用して、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入された2つの異なる量のサンプルイオンのペアに対して、それらの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトのそれらの差異と、それらの検出された質量スペクトルから評価された、イオントラップ質量分析器にトラップされたサンプルイオンの可視総電荷Qvのそれらの差異との比を計算する。
次いで、異なる量のサンプルイオンのペアの計算された比から、一般に、例えば、計算された比の値を平均することによって、2つの量のサンプルイオンに対する比が判定される。この判定された比は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配に対応する。
別の好ましい実施形態において、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の勾配は、判定され、好ましくは、異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された、相対的なm/zシフト、および可視総電荷Qvを考慮している線形フィッティングによって、計算される。この値に基づいて、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンのイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、その検出された質量スペクトルから導出された、サンプルイオンのイオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関が提供され、その相関は、線形関数を用いた線形フィッティングによって適合され得る。したがって、この線形関数の勾配は、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配である。
イオントラップ質量分析器を用いて検出された検査対象サンプルイオンのイオンパッケージの質量スペクトルの質量ピークの相対的なm/zシフトの、それらの検出された質量スペクトルから導出された、イオンパッケージの可視総電荷Qvとの相関は、線形関数であるため、その関数の判定されたサンプル勾配によって、相対的なm/zシフトは、検査対象サンプルイオンの量の任意の可視総電荷Qvに対して判定することができる。この相関は、サンプルイオンの質量スペクトルにおいて観測されたm/zシフトを補正するために、請求項11に記載の本発明の方法で使用することができるが、しかしながら、サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知であり、サンプルイオンのイオンパッケージの完全な総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの検出された質量スペクトルにおいて不可視、かつ/または同質量スペクトルから推定不可である場合、サンプルイオンのイオンパッケージの可視総電荷Qvは、m/zシフトが観測され、かつこのm/zシフトが補正され得る、その検出された質量スペクトルから導出することができる。
本発明の方法の次のステップ940において、補償係数cが判定される。補償係数cは、サンプルイオンの質量分析を実施するために、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、以前説明したサンプルイオンの、イオン貯蔵装置へのイオン注入期間topt,vを調整するために使用される。サンプルイオンのイオン注入期間topt,vは、少なくとも1つの量のサンプルイオンの、イオントラップ質量分析器を用いて検出された少なくとも1つの質量スペクトルから評価された可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間から判定される。少なくとも1つの質量スペクトルの可視総電荷Qv、およびサンプルイオンの対応する注入期間の観測された線形相関に起因して、サンプルイオンのイオン注入期間topt,vは、判定される。補償係数cは、好ましくは清浄なサンプルである基準サンプルの基準イオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関の基準勾配を、ステップ930で判定されたサンプル勾配で除算することによって、判定される。
好ましい実施形態において、サンプル勾配は、ステップ930では、1つの量のサンプルイオンの1つの検出された質量スペクトルから判定され、または2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルは、ステップ940では、補償係数cを判定するために使用される。
1つの量のサンプルイオンの1つの検出された質量スペクトルが、サンプル勾配の判定のために使用される場合、サンプルのサンプル勾配は、1つの量のサンプルイオンの1つの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトの、イオントラップ質量分析器にトラップされた、1つの量のサンプルイオンの1つの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvに対する比によって、計算される。
2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルが、サンプル勾配の判定に使用される場合、サンプルのサンプル勾配は、2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された相対的なm/zシフトの差異と、イオントラップ質量分析器にトラップされた2つの異なる量のサンプルイオンの検出された質量スペクトルから評価された可視総電荷Qvの差異との比によって計算することができる。
別の実施形態において、2つの異なる量のサンプルイオンのペアの相対的なm/zシフトの差異と、可視総電荷Qvの差異との計算された比は、前の段落で詳細に説明したように、2つの異なる量のサンプルイオンの各ペアに対して、補償係数cを判定するためのサンプル勾配として、ステップ940で使用することができる。したがって、汎用的な補償係数cが、2つの異なる量のサンプルイオンの各ペアに対して判定された補償係数cを平均することによって、判定される。
好ましい実施形態において、1つの量のサンプルイオンに対して計算された相対的なm/zシフトと可視総電荷Qvとの比は、前に詳述したように、異なる量のサンプルイオンの各々に対する補償係数cを判定するためのサンプル勾配として、ステップ940で使用することができる。次に、一般的な補償係数cが、異なる量のサンプルイオンの各々に対して判定された補償係数cを平均することによって、判定される。
サンプルのサンプルイオンのイオンパッケージの現実の総電荷Qrealが、イオントラップ質量分析器を用いて検出された、検出された質量スペクトルにおいて単に部分的に可視である、サンプルイオンの最適化された蓄積時間topt,realを判定するための、その上述のアプローチはまた、少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知である場合に、イオントラップ質量分析器でサンプルイオンの質量分析を実施するために、請求項9に記載の本発明の方法で使用することができる。
少なくとも1つのサンプルイオンのm/z比が既知である場合に適応可能であるこの方法のフローチャートが、図10に示されている。この方法はまた、図9に関して以前説明されたステップ900、910、920、930、940も使用している。追加的に、サンプルイオンの質量分析を実施するための、イオン貯蔵装置のサンプルイオンの最適化された現実の注入期間topt,realは、最適化された総電荷Qoptのサンプルイオンのイオンパッケージを用いた質量分析を実施するために、ステップ950で判定される。判定された補償係数cを使用して、現実のイオン注入期間topt,realを判定し、次式によって定義される。
opt,real=c*topt,v。 (33)
次いで、ステップ960では、サンプルイオンの質量分析が、現実の最適化されたイオン注入期間topt,realを使用して、イオントラップ質量分析器内で実施され、サンプルイオンをイオントラップ質量分析計のイオン貯蔵装置に注入する。質量分析、特に質量スペクトルの検出は、それによって、現実の総電荷Qoptのサンプルイオンの最適化された量を用いて実施され、サンプルイオンのこの現実の総電荷は、検出された質量スペクトルにおいてサンプルイオンの可視ではなく、少なくとも1つのm/z比は既知である。
本出願に記載された実施形態は、イオントラップ質量分析計および質量分析計の本発明の方法、制御装置の例を与えている。本発明は、いかなる限定もせず、各実施形態単独によって、または記載された実施形態のいくつかもしくはすべての特徴の組み合わせによって、実現することができる。

Claims (18)

  1. サンプルイオンの質量分析を実施するように、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルから、イオン化された前記サンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための方法であって、
    ●前記イオントラップ質量分析器を用いて、前記イオン貯蔵装置から注入された前記サンプルイオンの少なくとも1つの量に対する少なくとも1つの質量スペクトルを検出するステップと、
    ●前記少なくとも1つの検出された質量スペクトルから、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの相対的なm/zシフトの、可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を決定するステップと、
    ●サンプルイオンの質量分析を実施するように、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、前記イオン貯蔵装置へのサンプルイオンのイオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定するステップであって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された、前記基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの前記相対的なm/zシフトの、前記可視総電荷Qvとの線形相関の前記基準勾配を、前記決定されたサンプル勾配で除算することによって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された前記サンプルイオンの少なくとも1つの量の少なくとも1つの質量スペクトルから評価された前記可視総電荷Qv、および前記サンプルイオンの対応する注入期間から、前記イオン注入期間topt,vが判定される、前記補償係数cを判定するステップと、を含む、方法。
  2. サンプルイオンの質量分析を実施するように、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルから、イオン化された前記サンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための方法であって、
    ●前記イオントラップ質量分析器を用いて前記イオン貯蔵装置から注入された前記サンプルイオンの異なる量に対する質量スペクトルを検出するステップと、
    ●これらの検出された質量スペクトルからの、サンプルイオンの少なくとも1つの種のm/z値の相対的な差異の判定によって、前記サンプルイオンの空間電荷により誘起された前記サンプルイオンの前記異なる量のうちの少なくとも2つの前記検出された質量スペクトルから、相対的なm/zシフトの観測可能な差異を評価するステップと、
    ●前記サンプルイオンの前記異なる量のうちの前記少なくとも2つの前記検出された質量スペクトルから、可視総電荷Qv、および/または可視総電荷Qvの差異を評価するステップと、
    ●前記相対的なm/zシフトの前記評価された観測可能な差異、ならびに前記評価された可視総電荷Qv、および/または前記可視総電荷Qvの前記差異から、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの前記相対的なm/zシフトの、前記可視総電荷Qvとの線形相関の前記サンプル勾配を決定するステップと、
    ●サンプルイオンの質量分析を実施するように、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、サンプルイオンの前記イオン貯蔵装置へのイオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定するステップであって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された前記基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの前記相対的なm/zシフトの、前記可視総電荷Qvとの線形相関の前記基準勾配を前記決定されたサンプル勾配により除算することによって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された前記サンプルイオンの少なくとも1つの量の少なくとも1つの質量スペクトルから評価された前記可視総電荷Qv、および前記サンプルイオンの対応する注入期間から、前記イオン注入期間topt,vが判定される、前記補償係数cを判定するステップと、を含む、方法。
  3. 前記相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの少なくとも3種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価される、請求項2に記載の方法。
  4. 前記相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの少なくとも100種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価される、請求項2に記載の方法。
  5. 前記相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの少なくとも1,000種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価される、請求項2に記載の方法。
  6. 相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価され、これらの種のサンプルイオンが、前記検出された質量スペクトルにおいて5より高い信号対雑音比を有する、請求項2~5のうちのいずれか一項に記載の方法。
  7. 相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価され、これらの種のサンプルイオンが、前記検出された質量スペクトルにおいて10より高い信号対雑音比を有する、請求項2~5のうちのいずれか一項に記載の方法。
  8. 相対的なm/zシフトの前記観測可能な差異が、前記検出された質量スペクトルから、これらの検出された質量スペクトルからのサンプルイオンの種のm/z値の前記相対的な差異の判定によって評価され、これらの種のサンプルイオンが、前記検出された質量スペクトルにおいて50より高い信号対雑音比を有する、請求項2~5のうちのいずれか一項に記載の方法。
  9. サンプルイオンの質量分析を実施するように、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入されるサンプルから、イオン化されたサンプルイオンの量を制御するためのパラメータを判定するための方法であって、前記サンプルイオンのうちの少なくとも1つのm/z比が既知であり、
    ●前記イオントラップ質量分析器を用いて、前記イオン貯蔵装置から注入された前記サンプルイオンの少なくとも1つの量に対する少なくとも1つの質量スペクトルを検出するステップと、
    ●前記m/z比が既知であり、前記少なくとも1つの検出された質量スペクトルにおける少なくとも1つのサンプルイオンのm/z値の、その既知のm/z比に対する相対的な差異の判定によって、前記サンプルイオンの空間電荷により誘起された前記サンプルイオンの前記少なくとも1つの量の前記少なくとも1つの検出された質量スペクトルから相対的なm/zシフトを評価するステップと、
    ●前記サンプルイオンの前記少なくとも1つの量の前記少なくとも1つの検出された質量スペクトルから可視総電荷Qvを評価するステップと、
    ●前記評価された相対的なm/zシフト値(複数可)、および前記評価された可視総電荷(複数可)Qvから、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出されたサンプルイオンの質量スペクトルの前記相対的なm/zシフトの、前記可視総電荷Qvとの線形相関のサンプル勾配を決定するステップと、
    サンプルイオンの質量分析を実施するように、基準サンプルの最適化された可視電荷Qref,optに関係する、前記イオン貯蔵装置へのサンプルイオンのイオン注入期間topt,vを調整するための補償係数cを判定するステップであって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された前記基準サンプルからイオン化された基準イオンの質量スペクトルの前記相対m/zシフトの、前記可視総電荷Qvとの線形相関の前記基準勾配を前記決定されたサンプル勾配により除算することによって、前記イオントラップ質量分析器を用いて検出された、前記サンプルイオンの少なくとも1つの量の少なくとも1つの質量スペクトルから評価された前記可視総電荷Qv、および前記サンプルイオンの対応する注入期間から、前記イオン注入期間topt,vが判定される、前記補償係数cを判定するステップと、を含む、方法。
  10. 前記基準サンプルが、清浄なサンプルである、請求項1~のうちの少なくとも一項に記載の方法。
  11. 前記イオントラップ質量分析器が、フーリエ変換質量分析器である、請求項1~10のうちの少なくとも一項に記載の方法。
  12. 前記補償係数cが、補償係数値の繰り返される判定、および前記期間にわたる平均によって判定される、請求項1~11のうちの少なくとも一項に記載の方法。
  13. サンプルからイオン化されたサンプルイオンの質量分析を実施するための方法であって、前記サンプルイオンの量が、前記質量分析を実施するように、イオン貯蔵装置からイオントラップ質量分析器に注入され、前記サンプルイオンの前記注入された量が、請求項1~12のうちの少なくとも一項に記載の方法によって判定された補償係数cによって適合されており、最適化されたイオン注入期間topt,realが、サンプルイオンの質量分析を実施するように、サンプルイオンを前記イオン貯蔵装置に注入するために使用され、「topt,real=c*topt,v」によって定義される、方法。
  14. 前記サンプル勾配が、前記サンプルイオンのうちの2つの事前選択された量に対して検出された前記質量スペクトルから決定される、請求項1~13のうちの少なくとも一項に記載の方法。
  15. 前記サンプル勾配が、線形フィッティングを使用することによって、前記サンプルイオンの前記異なる量に対して検出された前記質量スペクトルから決定される、請求項1~13のうちの少なくとも一項に記載の方法。
  16. イオン貯蔵装置と、請求項1~12、請求項1~12のうちの少なくとも一項に従属する請求項14、および請求項1~12のうちの少なくとも一項に従属する請求項15、のうちの少なくとも一項に記載の方法を実行するイオントラップ質量分析器と、を備える、イオントラップ質量分析計の制御装置。
  17. 制御装置と、イオン貯蔵装置と、イオントラップ質量分析器と、を備える、質量分析計であって、請求項1~15に記載の方法のうちの少なくとも1つを実行することができ、質量分析計。
  18. 制御装置と、イオン貯蔵装置と、イオントラップ質量分析器と、を備える、質量分析計であって、請求項1~15に記載の方法のうちの少なくとも1つを実行する、質量分析計。
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