以下、図面を参照して本発明の実施形態による線路定数測定装置及び線路定数測定方法について詳細に説明する。以下では、まず、測定対象である送電線の布設例について説明する。次に、他回線からの電磁誘導の影響(循環電流)について説明する。次いで、本実施形態における線路定数(インピーダンス)の測定原理について説明する。その後、上記の測定原理を用いた線路定数測定装置及び線路定数測定方法の実施形態について詳細に説明する。
〈送電線の布設例〉
図1は、線路定数の測定対象である送電線の布設例を示す図である。図1に示す送電線PL1,PL2は、地中ケーブル送電線であり、例えば洞道TNの側壁に設けられた棚SH1~SH4のうちの棚SH1,SH2上にそれぞれ載置された状態で布設されている。送電線PL1,PL2は、三相交流の各相に対応する3本のケーブルCB1,CB2,CB3をそれぞれ備える。
具体的に、送電線PL1,PL2は、電圧階級が132kV、周波数が60Hzの電力系統の一部をなす地中ケーブル送電線である。これら送電線PL1,PL2は、送電用変電所間を2回線構成で結んでおり、その亘長は約10kmである。また、送電線PL1,PL2の導体断面積は2000mm2で、トリプレックスではなく相ごとに独立している。送電線PL1,PL2の布設形態は、洞道と管路が数百mから数km毎に混在したものである。これらの区間では、部分部分で、同じ洞道又は同一ルートの管路に別の地中ケーブル送電線(図示省略)が布設されている。
ここで、上述の通り、測定対象の送電線PL1,PL2は、途中の区間に併走する地中ケーブル送電線(図示省略)が布設されているため、これらに流れる電流が磁束を生じ、測定対象の送電線PL1,PL2に鎖交することで電磁誘導が生じる。送電線PL1,PL2の線路直列インピーダンス(以下、単に「インピーダンス」という)を測定するとき、電圧源により電圧を印加して流れる電流を測定する方式の場合には、電源のインピーダンスが小さくなるため、印加電圧により流れる電流に加えて、電磁誘導による誘導電流が重畳する。一方、電流源により電流を注入して発生する電圧を測定する場合には、電源インピーダンスが大きくなるため、注入電流により発生する電圧に加えて、電磁誘導による誘導電圧が重畳する。いずれにしても、誘導電流や誘導電圧が重畳することで、測定されるインピーダンスの誤差の原因となる。
尚、以下では、送電線PL1を「第1回線」といい、送電線PL2を「第2回線」という場合がある。また、送電線の線路定数を測定する場合には、回線ごとに測定を行うのが通例である。このため、以下では、上述した途中の区間に併走する地中ケーブル送電線(図示省略)の各回線や、測定対象の送電線PL1,PL2(第1回線、第2回線)のうち、測定が実施されない回線を、便宜上「並行他回線」という。
〈他回線からの電磁誘導の影響〉
まず、並行他回線からの電磁誘導の影響を調べるため、電磁誘導による循環電流を測定した。第1回線(送電線PL1)及び第2回線(送電線PL2)のそれぞれについて、図2に示す通り、測定端及び遠方端を三相短絡としたときに流れる循環電流を測定した。図2は、電磁誘導による循環電流の測定回路を示す図である。この循環電流(IR,IS,IT)が、並行他回線からの電磁誘導により生じる電流であり、インピーダンス測定時に測定値に重畳することになる。尚、遠方端とは、送電線PL1,PL2の両端のうち、短絡した状態にされる一端であり、測定端とは、測定時に電圧が印加される他端である。
図3は、図2における測定回路による測定結果を示す図である。図3において、横軸は時間[ms]であり、縦軸は電流[A]である。図3(A)は、第1回線の測定結果であり、図3(B)は、第2回線の測定結果である。また、実線はR相の電流IR波形であり、破線はS相の電流IS波形であり、一点鎖線はT相の電流IT波形である。図3(A)に示す通り、第1回線において、R,S,T相それぞれに電磁誘導による循環電流が発生している。同様に、図3(B)に示す通り、第2回線においても、R,S,T相それぞれに電磁誘導による循環電流が発生している。
図4は、電磁誘導によって各相に発生した循環電流の大きさを示す図である。図4において、各値は図3に示した波形の実効値である。ここで、電圧源により電圧を印加したときに流れる電流の大きさが、図4示した電流値よりも十分に大きくなければ、インピーダンスの測定値は、電磁誘導の影響を受けることになる。つまり、電圧源により電圧を印加して流れる電流を測定する場合において、電流の測定結果には、印加電圧により流れる電流に加えて、平行他回線からの電磁誘導による数Aオーダの循環電流成分が重畳することになる。
図5は、電磁誘導による循環電流の影響を評価するために用いた測定回路である。この測定回路は、送電線PL1が備えるR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間のインピーダンスを測定する回路である。つまり、送電線PL1の測定端において、電圧源VGによって、R相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に商用周波(60Hz)の正弦波の電圧を印加して流れる電流を測定する回路である。尚、R相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2とは、送電線PL1の遠方端において短絡されている。
図6は、図5の測定回路による測定結果を示す図である。図6(A)は、測定された電圧波形を示す図であって、横軸が時間[ms]であり、縦軸が電圧[V]である。図6(B)は、測定された電流波形を示す図であって、横軸が時間[ms]であり、縦軸が電流[A]である。一見すると、図6(A)に示す電圧波形g1及び図6(B)に示す電流波形g2ともノイズ分も少なく、正確に測定できている印象を受ける。しかしながら、電流波形g2には、上述した通り、商用周波(60Hz)の電圧を印加したときに流れる電流に、並行他回線からの電磁誘導による電流分が重畳されている。この場合において、印加した電圧の周波数が商用周波(60Hz)であり、並行他回線を流れる電流の周波数も商用周波(60Hz)であるため、合成された電流波形から電磁誘導の成分を分離することができない。
尚、印加した電力容量は300VA程度であり、可搬性のある電源装置であればこの何倍もの出力を期待することはできない。この電流波形g2には、図4に示したオーダの電磁誘導電流が重畳していることになる。このため、印加した周波数と同じ周波数の並行他回線からの電磁誘導による成分が重畳した場合は、精度の高いインピーダンスを求めることができない。
〈精度の高いインピーダンスの測定原理〉
並行他回線からの電磁誘導による電流の周波数は必ず商用周波であるため、測定のために印加する印加電圧による電流と電磁誘導による電流を分離するためには、印加電圧の周波数を商用周波以外に設定する必要がある。このようにすれば、理論上、重ね合わせの理を利用して印加電圧により流れた電流成分のみを取り出すことができる。特定の周波数成分のみを取り出す手法としては、例えばフーリエ級数展開とフーリエ変換がある。フーリエ級数展開は周期的な定常波に対して適用できる。また、フーリエ変換は過渡現象の波形に対して適用できる。このため、本実施形態では、並行他回線からの商用周波の重畳成分を分離するためにフーリエ級数展開を適用する。
ここで、効率的に印加電圧による電流と電磁誘導による電流を分離するためには、印加電圧の周波数を何Hzにすればよいのか検討する。測定される電流波形は、印加電圧による電流に電磁誘導による電流が重畳したものになるから、印加電圧の周波数faと電磁誘導の周波数feの最大公約数を周波数とする周期波形となることが分かる。関数GCD(a,b)が2つの整数a,bの最大公約数を与えるとすると、測定波形の周波数f0は、次式(1)の周期波形となる。
基本周波数をf0と考えて測定された電流波形をフーリエ級数展開すると、印加電圧による電流はp=fa/f0次調波成分として得られ、電磁誘導による電流はq=fe/f0次調波成分として得られることになる(尚、p,qは整数)。よって、印加電圧の周波数faは、周波数f0が小さくなって長周期の波形測定が必要とならないように、式(1)の最大公約数である周波数f0ができるだけ大きな数となるよう選べばよい。例えば、商用周波が60Hzのとき、電磁誘導の周波数feも60Hzとなるから、印加電圧の周波数faを、例えば100Hzとすれば、式(1)よりフーリエ級数展開の基本周波数は20Hzとなる。この場合は、周期50ms(=20Hz)に対応する時間だけ波形を測定すればよいことになる。
尚、上述した例では、回線に流れる電流の周波数と印加する周波数との最大公約数ができるだけ大きな数となるよう選ぶ例を説明したが、これに限らない。印加する周波数に応じて、取得されるデータ数も増減するため、測定に要する時間も変化する。このため、測定に要する時間や、線路定数測定装置の記憶容量等に応じた値を選択するようにしてもよい。
次に、フーリエ級数展開を行って測定された波形から100Hzの成分を取り出す方法例を説明する。式(1)で与えられる基本周波数f0の逆数をTとすると、波形f(t)のk次のフーリエ級数ckは次式(2)で与えられる。
尚、式(2)において、ω0=2πf0である。また、ω0は角周波数である。ここで、上記の一周期が時間刻みΔtでM点サンプリングされているとして、m番目(mは1≦m≦Mを満たす整数)の時刻をtmとする。本実施形態のように電流波形の成分においては、台形積分で十分な精度を得ることができる。このため、式(2)を台形積分で近似すると、次式(3)のようにckを求めることができる。
式(3)を参照すると、添え字が「m-1」である項が含まれる。このため、式(3)を用いてckを求める場合には、0番目からM番目のサンプル(つまり、(M+1)点のサンプル)が参照されることになる。但し、測定される波形は、周期波形であるため、0番目のサンプルとM番目のサンプルとは同じものになることから、実質的に参照されているのは、M点のサンプルということができる。
尚、式(2)の計算において、台形積分以外の数値計算を行って近似してもよい。式(2)と式(3)において、ckは複素数であるので、ck=ak+jbkとすると、k次成分の振幅Akは次式(4)で表され、位相θkは次式(5)で表される。
基本周波数f0が20Hzである場合に、100Hzの成分は5次成分(k=5)になる。このため、測定された波形から100Hzの成分を取り出すには、k=5として式(2)に対して近似計算を行えばよい。このようにして、印加電圧に起因する電流を、並行他回線からの電磁誘導による電流から分離することができる。このような分離を行って印加電圧に起因する電流をのみを抽出した後、印加した電圧の周波数(例えば、100Hz)におけるインピーダンス(正相インピーダンス、零相インピーダンス)を求める。
商用周波におけるインピーダンスは、商用周波とは異なる複数の周波数(例えば、100Hzと200Hz)の電圧を個別に印加して求められる各々のインピーダンスを用いて近似によって推定する。例えば、インピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス分の周波数特性が、商用周波付近において、両対数グラフ上でほぼ直線になることを利用することを利用して直線近似により推定する。
〈線路定数測定装置及び線路定数測定方法の実施形態〉
次に、上述した測定原理を用いた線路定数測定装置及び線路定数測定方法の実施形態について説明する。以下では、正相インピーダンスを測定する線路定数測定装置と、零相インピーダンスを測定する線路定数測定装置とを説明する。ここで送電線の正相インピーダンスを、その定義通り測定しようとすると、三相電源を用いて三相電圧を印加した場合の三相電流を測定するか、三相電流を注入した場合の三相電圧を測定する必要がある。しかしながら、三相電源は一般に大型で重いため、線路定数測定時に測定点まで運搬することが容易ではない。
そこで、送電線のインピーダンスが三相平衡していると仮定する(みなす)ことにより、任意の2本のケーブル間のインピーダンスが正相インピーダンスの2倍に等しくなることに着目する。この事実を用いれば、単相電源で2本のケーブル間のインピーダンスを測定することで、正相インピーダンスを得ることができる。以下、単相電源で2本のケーブル間のインピーダンスを測定することにより正相インピーダンスを得る手法を「二相法」という。また、三相電源を用いて定義通りに正相インピーダンスを測定する手法を「三相法」という。
以下の第1実施形態では、二相法により正相インピーダンスを測定する線路定数測定装置を説明し、以下の第2実施形態では、三相法により正相インピーダンスを測定する線路定数測定装置を説明する。また、以下の第3実施形態では、零相インピーダンスを測定する線路定数測定装置を説明する。
《第1実施形態》
図7は、本発明の第1実施形態による線路定数測定装置の構成を示す図である。本実施形態の線路定数測定装置1は、二相法により正相インピーダンスを測定するものである。尚、ここでは、図5と同様に、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に電圧を印加して第1回線(送電線PL1)の正相インピーダンスを測定する例について説明する。このため、線路定数測定装置1は、送電線PL1の測定端において、R相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2とに接続される。尚、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2とは、送電線PL1の遠方端において短絡されている。
図7に示す通り、本実施形態の線路定数測定装置1は、電圧印加部11、電圧源制御部12、及び推定部13を備える。電圧印加部11は、単相電源であり、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に接続される。この電圧印加部11の両端には、電圧測定用プローブ14の一端14a及び他端14bがそれぞれ接続されている。送電線PL1の測定端において、R相のケーブルCB1には、電流プローブ15が接続されている。尚、電圧印加部11によって、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に印加される電圧をV[V]とする。また、送電線PL1のR相のケーブルCB1及びS相のケーブルCB2に流れる電流をI[A]とする。
電圧源制御部12は、電圧印加部11が送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に印加する電圧の振幅及び周波数を制御する。例えば、電圧源制御部12は、電圧印加部11が印加する電圧の周波数が第1周波数(例えば、100Hz)となるように制御する。或いは、電圧源制御部12は、電圧印加部11が印加する電圧の周波数が第2周波数(例えば、200Hz)となるように制御する。
推定部13は、電圧測定用プローブ14によって測定される電圧及び電流プローブ15によって測定される電流に基づいて、送電線PL1の商用周波における正相インピーダンスを推定する。ここで、推定部13は、送電線PL1のインピーダンスが三相平衡しているとみなし、送電線PL1の任意の2本のケーブル(例えば、R相のケーブルCB1及びS相のケーブルCB2)間のインピーダンスが送電線PL1の正相インピーダンスの2倍に等しくなることに相当することを利用して、送電線PL1の正相インピーダンスを推定する。
具体的に、推定部13は、電流プローブ15を介して取得した電流信号に含まれる特定周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、特定周波数における正相インピーダンス(抵抗、リアクタンス)を求める処理を、上記の特定周波数を変えながら複数回繰り返す。例えば、推定部13は、第1周波数(例えば、100Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第1周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第1周波数における第1インピーダンス(第1抵抗、第1リアクタンス)を求める。また、推定部13は、第2周波数(例えば、200Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第2周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第2周波数における第2インピーダンス(第2抵抗、第2リアクタンス)を求める。
尚、推定部13は、電圧印加部11が印加する電圧が既知である場合には、その既知の電圧を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めることができる。或いは、推定部13は、電圧印加部11が印加する電圧が既知である場合及び既知でない場合の何れの場合にも、電圧測定用プローブ14を介して取得した電圧(測定された電圧)を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めるようにしても良い。
そして、推定部13は、求めた複数の正相インピーダンス(第1インピーダンス及び第2インピーダンス)を用いて近似によって、送電線PL1の商用周波における正相インピーダンスを推定する。例えば、推定部13は、周波数及び抵抗を軸とする両対数グラフにおいて、第1周波数と第1抵抗との関係を示す点と第2周波数と第2抵抗との関係を示す点とを通る第1直線を求め、第1直線上の商用周波における抵抗を商用周波における抵抗と推定する。また、推定部13は、周波数及びリアクタンスを軸とする両対数グラフにおいて、第1周波数と第1リアクタンスとの関係を示す点と第2周波数と第2リアクタンスとの関係を示す点とを通る第2直線を求め、第2直線上の商用周波におけるリアクタンスを商用周波におけるリアクタンスと推定する。このようにして、送電線PL1の商用周波における正相インピーダンスが推定される。
尚、図7では、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間を測定する例について図示しているが、S相のケーブルCB2とT相のケーブルCB3との間、T相のケーブルCB3とR相のケーブルCB1との間の測定を行うようにしてもよい。また、送電線PL2について、同様の測定を行っても良い。更に、送電線PL1又は送電線PL2において、ケーブルの組み合わせを変えて複数回測定を行った場合には、それぞれの測定で求めた商用周波における正相インピーダンスの平均を求めても良い。
図8は、本発明の第1実施形態による線路定数測定方法を示すフローチャートである。図8に示す通り、まず、線路定数測定装置1に対して、第1周波数(例えば、100Hz)と第2周波数(例えば、200Hz)とが設定される(ステップS1)。例えば、線路定数測定装置1に設けられた不図示の入力部から入力される指示に基づいて、第1周波数と第2周波数とが電圧源制御部12及び推定部13に設定される。
以上の設定が終了すると、電圧源制御部12によって電圧印加部11が制御され、電圧印加部11が印加する電圧の周波数が第1周波数(例えば、100Hz)に設定される。そして、電圧印加部11によって、R相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に第1周波数の電圧が印加される(ステップS2)。第1周波数の電圧が印加されている状態で、推定部13は、R相のケーブルCB1及びS相のケーブルCB2に流れる電流を示す電流信号を、電流プローブ15を介して取得する(ステップS3)。
電流信号を取得すると、推定部13は、取得した電流信号に含まれる第1周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求める(ステップS4)。そして、推定部13は、送電線PL1の第1周波数における正相インピーダンス(抵抗、リアクタンス)を求める(ステップS5)。
以上の処理が終了すると、電圧源制御部12によって電圧印加部11が制御され、電圧印加部11が印加する電圧の周波数が第2周波数(例えば、200Hz)に設定される。そして、電圧印加部11によって、R相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に第2周波数の電圧が印加される(ステップS6)。第2周波数の電圧が印加されている状態で、推定部13は、R相のケーブルCB1及びS相のケーブルCB2に流れる電流を示す電流信号を、電流プローブ15を介して取得する(ステップS7)。
電流信号を取得すると、推定部13は、取得した電流信号に含まれる第2周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求める(ステップS8)。そして、推定部13は、送電線PL1の第2周波数における正相インピーダンス(抵抗、リアクタンス)を求める(ステップS9)。
以上の処理が終了すると、推定部13は、ステップS5で求めた抵抗(第1抵抗)とステップS9で求めた抵抗(第2抵抗)とを用いて、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の商用周波における抵抗を推定する(ステップS10)。例えば、推定部13は、周波数及び抵抗を軸とする両対数グラフにおいて、第1周波数と第1抵抗との関係を示す点と第2周波数と第2抵抗との関係を示す点とを通る第1直線を求め、第1直線上の商用周波における抵抗を、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の商用周波における抵抗と推定する。
続いて、推定部13は、ステップS5で求めたリアクタンス(第1リアクタンス)とステップS9で求めたリアクタンス(第2リアクタンス)とを用いて、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の商用周波におけるリアクタンスを推定する(ステップS11)。例えば、推定部13は、周波数及びリアクタンスを軸とする両対数グラフにおいて、第1周波数と第1リアクタンスとの関係を示す点と第2周波数と第2リアクタンスとの関係を示す点とを通る第2直線を求め、第2直線上の商用周波におけるリアクタンスを、送電線PL1のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の商用周波におけるリアクタンスと推定する。
最後に、推定部13はステップS10で推定した抵抗とステップS11で推定したリアクタンスとを用いて、送電線PL1の商用周波における正相インピーダンスを求める(ステップS12)。以上によって、図8に示す一連の処理が終了する。
尚、処理順は、図8に示す順番に限られない。例えば、第1周波数の電圧を印加するよりも前に、第2周波数の電圧を印加しても良い。つまり、ステップS2~S5の処理よりも前に、ステップS6~S9の処理を行っても良い。また、電流の測定が全て終了した後に、正相インピーダンスを求める処理を行っても良い。つまり、ステップS2,S3,S6,S7の処理を行った後に、ステップS4,S5,S8~S12の処理を行っても良い。また、ステップS10,S11の処理は、順番が逆であっても良く、並行して行っても良い。
図9は、第1実施形態において、第1回線のR相及びS相のケーブル間に、二相法により100Hzの電圧を印加した場合に測定された電圧波形及び電流波形を示す図である。図9(A)は、測定された電圧波形g11を示す図であって、横軸が時間[ms]であり、縦軸が電圧[V]である。図9(B)は、測定された電流波形g12を示す図であって、横軸が時間[ms]であり、縦軸が電流[A]である。図9(B)を参照すると、100Hzの電圧を印加したにもかかわらず、商用周波(60Hz)の電磁誘導成分が電流波形g12に重畳していることが分かる。
図10は、図9に示す電流波形を、印加電圧による電流(100Hz)と電磁誘導電流(60Hz)とに分離した結果を示す図である。図10において、横軸は時間[ms]であり、縦軸は電流[A]である。図10に示す波形g21は、測定された電流波形である。また、図10に示す波形g22は、印加電圧による電流(100Hz)の電流波形であり、波形g23は、電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。図10を参照すると、電磁誘導電流(60Hz)が分離されて、印加電圧による電流(100Hz)が精度良く抽出されているのが分かる。
同様に、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間に印加する電圧の周波数を200Hzに変化させて測定を行い、電磁誘導成分を分離し、印加電圧の周波数成分を抽出した結果を図11に示す。図11は、第1実施形態において、第1回線のR相及びS相のケーブル間に、二相法により200Hzの電圧を印加した場合に測定された電流波形と、測定された電流波形を印加電圧による電流(200Hz)と電磁誘導電流(60Hz)とに分離した結果とを示す図である。図11に示す波形g31は、測定された電流波形である。また、図11に示す波形g32は、印加電圧による電流(200Hz)の電流波形であり、波形g23は、電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。
また、図10,図11の測定結果に基づいて、推定部13が、100Hz(第1周波数)、200Hz(第2周波数)における正相インピーダンスを求めた結果を図12に示す。図12は、第1実施形態において、第1回線のR相及びS相のケーブル間の測定により求められた正相インピーダンスを示す図である。
図12に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間における抵抗R(第1抵抗)は0.235[Ω]であり、リアクタンスX(第1リアクタンス)は3.08[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間における抵抗R(第2抵抗)は0.377[Ω]であり、リアクタンスX(第2リアクタンス)は6.07[Ω]であった。
図13は、第1実施形態において、100Hz、200Hzにおける正相インピーダンスから、商用周波における正相インピーダンスを推定する方法を説明するための図である。図13(A)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸が抵抗[Ω/km]である両対数グラフである。図13(B)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸がリアクタンス[Ω/km]である両対数グラフである。
図13(A)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおける抵抗の実測値であり、黒丸は、これら抵抗の実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)における抵抗の推定値である。商用周波における抵抗の推定値は、図13(A)に示す白丸を通る直線(第1直線)を求め、この直線上の商用周波における抵抗を求めることによって得られるものである。図13(A)に示す商用周波における抵抗の推定値は、0.17[Ω/km]であった。
図13(B)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおけるリアクタンスの実測値であり、黒丸は、これらリアクタンスの実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)におけるリアクタンスの推定値である。商用周波におけるリアクタンスの推定値は、図13(B)に示す白丸を通る直線(第2直線)を求め、この直線上の商用周波におけるリアクタンスを求めることによって得られるものである。図13(B)に示す商用周波におけるリアクタンスの推定値は、1.9[Ω/km]であった。以上から、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の測定により求められる商用周波(60Hz)の正相インピーダンスは、0.17+j1.9[Ω]であると推定される。
次に、図7に示す線路定数測定装置1を用いて、第2回線(送電線PL2)の任意の2本のケーブル間に周波数100Hz、200Hzの電圧を印加して正相インピーダンスの測定を行った結果を説明する。
図14は、第1実施形態において、第2回線のR相及びS相のケーブル間の測定により求められた正相インピーダンスを示す図である。図14に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間における抵抗Rは0.229[Ω]であり、リアクタンスXは3.10[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間における抵抗Rは0.363[Ω]であり、リアクタンスXは6.13[Ω]であった。図14に示す抵抗及びリアクタンスを用いて両対数グラフにおいて直線近似して推定された商用周波(60Hz)のインピーダンスは、0.16+j1.9[Ω]である(図17(B)参照)。
図15は、第1実施形態において、第2回線のS相及びT相のケーブル間の測定により求められた正相インピーダンスを示す図である。図15に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のS相のケーブルCB2とT相のケーブルCB3との間における抵抗Rは0.219[Ω]であり、リアクタンスXは3.13[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のS相のケーブルCB2とT相のケーブルCB3との間における抵抗Rは0.350[Ω]であり、リアクタンスXは6.19[Ω]であった。図15に示す抵抗及びリアクタンスを用いて両対数グラフにおいて直線近似して推定された商用周波(60Hz)のインピーダンスは、0.15+j1.9[Ω]である(図17(B)参照)。
図16は、第1実施形態において、第2回線のT相及びR相のケーブル間の測定により求められた正相インピーダンスを示す図である。図16に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のT相のケーブルCB3とR相のケーブルCB1との間における抵抗Rは0.236[Ω]であり、リアクタンスXは3.41[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)のT相のケーブルCB3とR相のケーブルCB1との間における抵抗Rは0.378[Ω]であり、リアクタンスXは6.75[Ω]であった。図16に示す抵抗及びリアクタンスを用いて両対数グラフにおいて直線近似して推定された商用周波(60Hz)のインピーダンスは、0.17+j2.1[Ω]である(図17(B)参照)。
図17は、第1実施形態における測定結果をまとめた図である。図17(A)は、第1回線(送電線PL1)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の測定により求められた正相インピーダンスを示す図である。図17(B)は、第2回線(送電線PL2)のR相のケーブルCB1とS相のケーブルCB2との間の測定により求められた正相インピーダンス、S相のケーブルCB2とT相のケーブルCB3との間の測定により求められた正相インピーダンス、及びT相のケーブルCB3とR相のケーブルCB1との間の測定により求められた正相インピーダンス、並びにこれら正相インピーダンスの平均を示す図である。図17(B)に示す通り、正相インピーダンスの平均は、0.16+j1.9[Ω]であった。
以上説明した通り、本実施形態では、第1回線(送電線PL1)又は第2回線(送電線PL2)が備えるR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3のうちの2本のケーブルに、商用周波とは異なる第1周波数及び第2周波数の電圧を個別に印加して流れる電流を個別に測定する。そして、個別に測定した電流波形をフーリエ級数展開することで、印加電圧に起因する電流(第1周波数又は第2周波数の電流成分)と他回線からの電磁誘導による電流(商用周波の電流成分)とを分離するようにした。
また、本実施形態では、分離した印加電圧に起因する電流(第1周波数及び第2周波数の電流成分)を用いて、第1周波数における抵抗及びリアクタンスと、第2周波数における抵抗及びリアクタンスとを求める。本実施形態では、求めた第1周波数の抵抗と第2周波数の抵抗とを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)における抵抗を推定し、求めた第1周波数のリアクタンスと第2周波数のリアクタンスとを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)におけるリアクタンスを推定する。そして、本実施形態では、推定した抵抗とリアクタンスとを用いて商用周波における正相インピーダンスを求めている。これにより、本実施形態によれば、測定対象である送電線の周囲に存在する他回線からの電磁誘導の影響がある環境下においても、送電線の正相インピーダンスを精度良く測定することができる。
《第2実施形態》
図18は、本発明の第2実施形態による線路定数測定装置の構成を示す図である。本実施形態の線路定数測定装置2は、三相法により正相インピーダンスを測定するものである。図18に示す通り、線路定数測定装置2は、送電線PL1の測定端において、R相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3に接続される。尚、送電線PL1のS相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3は、送電線PL1の遠方端において互いに短絡されている。
図18に示す通り、本実施形態の線路定数測定装置2は、電圧印加部21、電圧源制御部22、及び推定部23を備える。電圧印加部21は、三相電源であり、電圧源21a~21cを備える。電圧源21aは、正側が送電線PL1のR相のケーブルCB1に接続され、電圧源21bは、正側が送電線PL1のS相のケーブルCB2に接続され、電圧源21cは、正側が送電線PL1のT相のケーブルCB3に接続される。尚、電圧源21a~21cの負側は、線路定数測定装置2の接地端子に接続される。線路定数測定装置2の接地端子は接地されている。
尚、電圧印加部21の電圧源21aによって送電線PL1のR相のケーブルCB1に印加される電圧をVRとし、電圧源21bによって送電線PL1のS相のケーブルCB2に印加される電圧をVSとし、電圧源21cによって送電線PL1のT相のケーブルCB3に印加される電圧をVTとする。また、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電流をIRとし、S相のケーブルCB2に流れる電流をISとし、T相のケーブルCB3に流れる電流をITとする。
電圧源制御部22は、電圧印加部21に設けられた電圧源21a,21b,21cが、送電線PL1のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3にそれぞれ印加する電圧の振幅及び周波数を制御する。例えば、電圧源制御部22は、電圧源21a~21cが印加する電圧の周波数が第1周波数(例えば、100Hz)となるように制御する。或いは、電圧源制御部22は、電圧源21a~21cが印加する電圧の周波数が第2周波数(例えば、200Hz)となるように制御する。
推定部23は、電圧源21aによって印加される電圧VR、電圧源21bによって印加される電圧VS、及び電圧源21cによって印加される電圧VTの電圧信号を取得する。推定部23は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電流IR、S相のケーブルCB2に流れる電流IS、及びT相のケーブルCB3に流れる電流ITの電流信号を取得する。推定部23は、取得した電流信号に基づいて、送電線PL1の正相インピーダンスを推定する。
具体的に、推定部23は、取得した電流信号(電流IR,IR,ITの電流信号)に含まれる特定周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、特定周波数における正相インピーダンス(抵抗、リアクタンス)を求める処理を、上記の特定周波数を変えながら複数回繰り返す。例えば、推定部23は、第1周波数(例えば、100Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第1周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第1周波数における第1インピーダンス(第1抵抗、第1リアクタンス)を求める。また、推定部23は、第2周波数(例えば、200Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第2周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第2周波数における第2インピーダンス(第2抵抗、第2リアクタンス)を求める。
尚、推定部23は、電圧印加部21が印加する電圧が既知である場合には、その既知の電圧を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めることができる。或いは、推定部23は、電圧印加部21が印加する電圧が既知である場合及び既知でない場合の何れの場合にも、取得した電圧(測定された電圧)を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めるようにしても良い。
そして、推定部23は、求めた複数の正相インピーダンスを用いて近似によって、送電線PL1の商用周波における正相インピーダンスを推定する。尚、商用周波における正相インピーダンスを推定する方法は、例えば第1実施形態と同様の方法を用いることができる。尚、図18では、送電線PL1を測定する例について図示しているが、送電線PL2について、同様の測定を行っても良い。
尚、電圧印加部21に設けられた電圧源21a~21cによって印加される電圧は、三相平衡電圧であるが、推定部23で取得される電圧信号には僅かな誤差が含まれる。このため、推定部23は、次式(6)により正相分電圧V1を求める。
また、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電流IR、S相のケーブルCB2に流れる電流IS、及びT相のケーブルCB3に流れる電流ITも、ケーブルインピーダンスの不平衡により多少不平衡になる。このため、推定部23は、次式(7)により正相分電流I1を求める。尚、式(6)及び式(7)において、aは、R,S,T相の位相差を示すものであり、exp(j2π/3)である。
尚、本実施形態の線路定数測定装置2が正相インピーダンスを測定する手順は、基本的に、図8に示す線路定数測定装置1が正相インピーダンスを測定する手順と同様である。つまり、本実施形態の線路定数測定装置2は、図8に示すフローチャートに示す処理と同様の処理を行って、送電線PL1の正相インピーダンスを測定する。
但し、本実施形態において、推定部23は、図8中のステップS3にて、送電線PL1のケーブルCB1~CB3に流れる電流(電流IR,IS,IT)をそれぞれ取得し、図8中のステップS4にて、取得した電流(電流IR,IS,IT)に含まれる第1周波数(例えば、100Hz)の電流成分をフーリエ級数展開によりそれぞれ求める。そして、推定部23は、求めた第1周波数の電流成分を式(7)に代入して、第1周波数を印加した場合の電流I1を求める。
同様に、推定部23は、図8中のステップS7にて、送電線PL1のケーブルCB1~CB3に流れる電流(電流IR,IS,IT)をそれぞれ取得し、図8中のステップS8にて、取得した電流(電流IR,IS,IT)に含まれる第2周波数(例えば、200Hz)の電流成分をフーリエ級数展開によりそれぞれ求める。そして、そして、推定部23は、求めた第2周波数の電流成分を式(7)に代入して、第1周波数を印加した場合の電流I1を求める。
図19は、第2実施形態において、第1回線に対して、三相法により100Hzの電圧を印加した場合に測定された電圧波形及び電流波形を示す図である。図19(A)に示す波形g111は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に印加した電圧の電圧波形であり、波形g112は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に印加した電圧の電圧波形であり、波形g113は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に印加した電圧の電圧波形である。尚、図19(A)において、横軸は時間[ms]、縦軸は電圧[V]である。
図19(B)に示す波形g121は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電流の電流波形であり、波形g122は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる電流の電流波形であり、波形g123は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる電流の電流波形である。尚、図19(B)において、横軸は時間[ms]、縦軸は電流[A]である。図19(B)を参照すると、100Hzの電圧を印加したにもかかわらず、商用周波(60Hz)の電磁誘導成分が電流波形g121~g123に重畳していることが分かる。
図20は、図19に示す電流波形を、印加電圧による電流(100Hz)と電磁誘導電流(60Hz)とに分離した結果を示す図である。図20において、横軸は時間[ms]であり、縦軸は電流[A]である。図20(A)に示す波形g211は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる印加電圧による電流(100Hz)の電流波形であり、波形g212は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる印加電圧による電流(100Hz)の電流波形であり、波形g213は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる印加電圧による電流(100Hz)の電流波形である。
図20(B)に示す波形g221は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形であり、波形g222は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形であり、波形g223は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。図20(A)を参照すると、電磁誘導電流(60Hz)が分離されて、印加電圧による電流(100Hz)が精度良く抽出されているのが分かる。
同様に、第1回線(送電線PL1)に印加する電圧の周波数を200Hzに変化させて測定を行い、電磁誘導成分を分離し、印加電圧の周波数成分を抽出した結果を図21に示す。図21は、第2実施形態において、第1回線に、三相法により200Hzの電圧を印加した場合に測定された電流波形と、測定された電流波形を印加電圧による電流(200Hz)と電磁誘導電流(60Hz)とに分離した結果とを示す図である。図21において、横軸は時間[ms]であり、縦軸は電流[A]である。
図21(A)に示す波形g311は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電流の電流波形であり、波形g312は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる電流の電流波形であり、波形g313は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる電流の電流波形である。図21(B)に示す波形g321は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる印加電圧による電流(200Hz)の電流波形であり、波形g322は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる印加電圧による電流(200Hz)の電流波形であり、波形g323は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる印加電圧による電流(200Hz)の電流波形である。図21(C)に示す波形g331は、送電線PL1のR相のケーブルCB1に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形であり、波形g332は、送電線PL1のS相のケーブルCB2に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形であり、波形g333は、送電線PL1のT相のケーブルCB3に流れる電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。
図20,図21の測定結果に基づいて、推定部23が、100Hz(第1周波数)、200Hz(第2周波数)における正相インピーダンスを求めた結果を図22に示す。図22は、第2実施形態において求められた、第1回線の100Hz、200Hzにおける正相インピーダンスを示す図である。図22に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)の抵抗R(第1抵抗)は0.233[Ω]であり、リアクタンスX(第1リアクタンス)は3.18[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)の抵抗R(第2抵抗)は0.374[Ω]であり、リアクタンスX(第2リアクタンス)は6.29[Ω]であった。
図23は、第2実施形態において、100Hz、200Hzにおける正相インピーダンスから、商用周波における正相インピーダンスを推定する方法を説明するための図である。図23(A)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸が抵抗[Ω/km]である両対数グラフである。図23(B)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸がリアクタンス[Ω/km]である両対数グラフである。
図23(A)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおける抵抗の実測値であり、黒丸は、これら抵抗の実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)における抵抗の推定値である。商用周波における抵抗の推定値は、図23(A)に示す白丸を通る直線(第1直線)を求め、この直線上の商用周波における抵抗を求めることによって得られるものである。図23(A)に示す商用周波における抵抗の推定値は、0.16[Ω/km]であった。
図23(B)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおけるリアクタンスの実測値であり、黒丸は、これらリアクタンスの実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)におけるリアクタンスの推定値である。商用周波におけるリアクタンスの推定値は、図23(B)に示す白丸を通る直線(第2直線)を求め、この直線上の商用周波におけるリアクタンスを求めることによって得られるものである。図23(B)に示す商用周波におけるリアクタンスの推定値は、1.9[Ω/km]であった。以上から、第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)における正相インピーダンスは、0.16+j1.9[Ω]であると推定される(図25参照)。
次に、図18に示す線路定数測定装置2を用いて、第2回線(送電線PL2)に周波数100Hz、200Hzの電圧を印加して正相インピーダンスの測定を行った結果を説明する。図24は、第2実施形態において求められた、第2回線の100Hz、200Hzにおける正相インピーダンスを示す図である。図24に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)の抵抗Rは0.229[Ω]であり、リアクタンスXは3.20[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)の抵抗Rは0.367[Ω]であり、リアクタンスXは6.33[Ω]であった。図24に示す抵抗及びリアクタンスを用いて両対数グラフにおいて直線近似して推定された第2回線(送電線PL2)の商用周波(60Hz)におけるインピーダンスは、0.16+j1.9[Ω]である(図25参照)。図25は、第2実施形態における測定結果をまとめた図である。
以上説明した通り、本実施形態では、第1回線(送電線PL1)又は第2回線(送電線PL2)が備えるR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3の各々に、商用周波とは異なる第1周波数及び第2周波数の三相電圧を個別に印加して流れる電流を個別に測定する。そして、個別に測定した電流波形をフーリエ級数展開することで、印加電圧に起因する電流(第1周波数又は第2周波数の電流成分)と他回線からの電磁誘導による電流(商用周波の電流成分)とを分離するようにした。
また、本実施形態では、分離した印加電圧に起因する電流(第1周波数及び第2周波数の電流成分)を用いて、第1周波数における抵抗及びリアクタンスと、第2周波数における抵抗及びリアクタンスとを求める。本実施形態では、求めた第1周波数の抵抗と第2周波数の抵抗とを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)における抵抗を推定し、求めた第1周波数のリアクタンスと第2周波数のリアクタンスとを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)におけるリアクタンスを推定する。そして、本実施形態では、推定した抵抗とリアクタンスとを用いて商用周波における正相インピーダンスを求めている。これにより、本実施形態によれば、測定対象である送電線の周囲に存在する他回線からの電磁誘導の影響がある環境下においても、送電線の正相インピーダンスを精度良く測定することができる。
《第3実施形態》
図26は、本発明の第3実施形態による線路定数測定装置の構成を示す図である。本実施形態の線路定数測定装置3は、零相インピーダンスを測定するものである。図26に示す通り、線路定数測定装置3は、送電線PL1の測定端において、R相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3に接続される。尚、送電線PL1のS相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3は、送電線PL1の遠方端において互いに短絡されて接地されている。尚、図26では、第2回線(送電線PL2)の図示を省略している。
図26に示す通り、本実施形態の線路定数測定装置3は、電圧印加部31、電圧源制御部32、及び推定部33を備える。電圧印加部31は、単相電源31aを備える。単相電源31aは、正側が、測定端において互いに短絡された送電線PL1のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3に接続される。尚、単相電源31aの負側は、線路定数測定装置3の接地端子に接続される。線路定数測定装置3の接地端子は接地されている。
電圧印加部31の単相電源31aによって送電線PL1に印加される電圧をV0とする。また、送電線PL1のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3の各々に流れる電流をI0とする。尚、上述の通り、送電線PL1のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3は、測定端において互いに短絡されており、遠方端において互いに短絡されて接地されているため、送電線PL1に流れる電流の合計は3I0である。
電圧源制御部32は、電圧印加部31に設けられた単相電源31aが、送電線PL1(のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3)に印加する電圧の振幅及び周波数を制御する。例えば、電圧源制御部32は、単相電源31aが印加する電圧の周波数が第1周波数(例えば、100Hz)となるように制御する。或いは、電圧源制御部32は、単相電源31aが印加する電圧の周波数が第2周波数(例えば、200Hz)となるように制御する。
推定部33は、単相電源31aによって印加される電圧V0及び送電線PL1のR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3の各々に流れる電流I0を取得する。尚、推定部33は、例えば、送電線PL1に流れる電流の合計(3I0)を取得し、送電線PL1に設けられるケーブルの数「3」で除することによって電流I0を取得する。推定部33は、取得した電流信号に基づいて、送電線PL1の零相インピーダンスを推定する。
具体的に、推定部33は、取得した電流信号に含まれる特定周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、特定周波数における零相インピーダンス(抵抗、リアクタンス)を求める処理を、上記の特定周波数を変えながら複数回繰り返す。例えば、推定部33は、第1周波数(例えば、100Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第1周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第1周波数における第1インピーダンス(第1抵抗、第1リアクタンス)を求める。また、推定部33は、第2周波数(例えば、200Hz)の電圧が印加された場合の電流信号を取得し、取得した電流信号に含まれる第2周波数の電流成分をフーリエ級数展開により求め、第2周波数における第2インピーダンス(第2抵抗、第2リアクタンス)を求める。
尚、推定部33は、電圧印加部31が印加する電圧が既知である場合には、その既知の電圧を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めることができる。或いは、推定部33は、電圧印加部31が印加する電圧が既知である場合及び既知でない場合の何れの場合にも、取得した電圧(測定された電圧)を用いて上記の第1インピーダンス及び第2インピーダンスを求めるようにしても良い。
そして、推定部33は、求めた複数の零相インピーダンス(第1インピーダンス及び第2インピーダンス)を用いて近似によって、送電線PL1の商用周波における零相インピーダンスを推定する。尚、商用周波における零相インピーダンスを推定する方法は、例えば第1,第2実施形態と同様の方法を用いることができる。尚、図26では、送電線PL1を測定する例について図示しているが、図示を省略している送電線PL2について、同様の測定を行っても良い。
尚、推定部33は、取得した電圧V0と取得した電流I0とを用いて、次式(8)により零相インピーダンスZ0を求める。
尚、本実施形態の線路定数測定装置3が零相インピーダンスを測定する手順は、基本的に、図8に示す線路定数測定装置1が正相インピーダンスを測定する手順と同様である。つまり、本実施形態の線路定数測定装置3は、図8に示すフローチャートに示す処理と同様の処理を行って、送電線PL1の零相インピーダンスを測定する。但し、本実施形態では、取得する電圧がV0であり、取得する電流がI0である点が、第1実施形態とは異なる。
図27は、第3実施形態において、第1回線の零相インピーダンス測定を行った場合に測定された電流波形と、測定された電流波形を印加電圧による電流と電磁誘導電流(60Hz)とに分離した結果とを示す図である。図27において、横軸は時間[ms]であり、縦軸は電流[A]である。尚、図27(A)は、印加電圧の周波数が100Hzである場合のものであり、図27(B)は、印加電圧の周波数が200Hzである場合のものである。
図27(A)に示す波形g411は、測定された電流波形である。また、図27(A)に示す波形g412は、印加電圧による電流(100Hz)の電流波形であり、波形g413は、電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。図27(B)に示す波形g421は、測定された電流波形である。また、図27(B)に示す波形g422は、印加電圧による電流(200Hz)の電流波形であり、波形g423は、電磁誘導電流(60Hz)の電流波形である。
図27の測定結果に基づいて、推定部33が、100Hz(第1周波数)、200Hz(第2周波数)における零相インピーダンスを求めた結果を図28に示す。図28は、第3実施形態において求められた、第1回線の100Hz、200Hzにおける零相インピーダンスを示す図である。図28に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)の抵抗R(第1抵抗)は1.10[Ω]であり、リアクタンスX(第1リアクタンス)は1.62[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第1回線(送電線PL1)の抵抗R(第2抵抗)は1.24[Ω]であり、リアクタンスX(第2リアクタンス)は3.07[Ω]であった。
図29は、第3実施形態において、100Hz、200Hzにおける零相インピーダンスから、商用周波における零相インピーダンスを推定する方法を説明するための図である。図29(A)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸が抵抗[Ω/km]である両対数グラフである。図29(B)に示すグラフは、横軸が周波数であり、縦軸がリアクタンス[Ω/km]である両対数グラフである。
図29(A)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおける抵抗の実測値であり、黒丸は、これら抵抗の実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)における抵抗の推定値である。商用周波における抵抗の推定値は、図29(A)に示す白丸を通る直線(第1直線)を求め、この直線上の商用周波における抵抗を求めることによって得られるものである。図29(A)に示す商用周波における抵抗の推定値は、1.10[Ω/km]であった。
図29(B)において、白丸は、第1回線(送電線PL1)の100Hz及び200Hzにおけるリアクタンスの実測値であり、黒丸は、これらリアクタンスの実測値から推定された第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)におけるリアクタンスの推定値である。商用周波におけるリアクタンスの推定値は、図29(B)に示す白丸を通る直線(第2直線)を求め、この直線上の商用周波におけるリアクタンスを求めることによって得られるものである。図29(B)に示す商用周波におけるリアクタンスの推定値は、1.09[Ω/km]であった。以上から、第1回線(送電線PL1)の商用周波(60Hz)における零相インピーダンスは、1.0+j1.0[Ω]であると推定される(図31参照)。
次に、図26に示す線路定数測定装置3を用いて、第2回線(送電線PL2)に周波数100Hz、200Hzの電圧を印加して零相インピーダンスの測定を行った結果を説明する。図30は、第3実施形態において求められた、第2回線の100Hz、200Hzにおける零相インピーダンスを示す図である。図30に示す通り、印加電圧の周波数が100Hz(第1周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)の抵抗Rは1.10[Ω]であり、リアクタンスXは1.64[Ω]であった。また、印加電圧の周波数が200Hz(第2周波数)の場合に、第2回線(送電線PL2)の抵抗Rは1.24[Ω]であり、リアクタンスXは3.10[Ω]であった。図30に示す抵抗及びリアクタンスを用いて両対数グラフにおいて直線近似して推定された第2回線(送電線PL2)の商用周波(60Hz)における零相インピーダンスは、1.0+j1.0[Ω]であった(図31参照)。図31は、第3実施形態における測定結果をまとめた図である。
以上説明した通り、本実施形態では、第1回線(送電線PL1)又は第2回線(送電線PL2)が備える互いに短絡されたR相のケーブルCB1、S相のケーブルCB2、及びT相のケーブルCB3に、商用周波とは異なる第1周波数及び第2周波数の電圧を個別に印加して流れる電流を個別に測定する。そして、個別に測定した電流波形をフーリエ級数展開することで、印加電圧に起因する電流(第1周波数又は第2周波数の電流成分)と他回線からの電磁誘導による電流(商用周波の電流成分)とを分離するようにした。
また、本実施形態では、分離した印加電圧に起因する電流(第1周波数及び第2周波数の電流成分)を用いて、第1周波数における抵抗及びリアクタンスと、第2周波数における抵抗及びリアクタンスとを求める。本実施形態では、求めた第1周波数の抵抗と第2周波数の抵抗とを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)における抵抗を推定し、求めた第1周波数のリアクタンスと第2周波数のリアクタンスとを用いて両対数グラフにおいて直線近似して商用周波(60Hz)におけるリアクタンスを推定する。そして、本実施形態では、推定した抵抗とリアクタンスとを用いて商用周波における零相インピーダンスを求めている。これにより、本実施形態によれば、測定対象である送電線の周囲に存在する他回線からの電磁誘導の影響がある環境下においても、送電線の零相インピーダンスを精度良く測定することができる。
尚、以上説明した各実施形態における線路定数測定装置1~3の機能の全て又は一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより線路定数測定装置1~3が行う処理の全て又は一部を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(或いは、表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、或いは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
以上、本発明の実施形態による線路定数測定装置及び線路定数測定方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した各実施形態では、第1周波数が100Hzであり、第2周波数が200Hzである例について説明した。つまり、第1周波数及び第2周波数が共に、商用周波よりも高い周波数に設定されている例について説明した。しかしながら、第1周波数及び第2周波数の何れか一方が商用周波よりも低い周波数であり、第1周波数及び第2周波数の何れか他方が商用周波よりも高い周波数であっても良い。或いは、第1周波数及び第2周波数が共に、商用周波よりも低い周波数に設定されていても良い。
また、測定対象である送電線のキャパシタンスの影響が極力小さくなるように、第1周波数及び第2周波数を設定しても良い。第1周波数及び第2周波数を、100Hz及び200Hzに設定した場合には、商用周波が50Hzであっても60Hzであっても、最大公約数が50又は20と大きくなるので、50Hzと60Hzに共通して使用できるという利点がある。
尚、第1周波数及び第2周波数について、商用周波との最大公約数ができるだけ大きくなる周波数を選択することで、フーリエ級数展開の1周期(即ち、波形の観測時間)を短くすることができる。例えば、第1周波数又は第2周波数を、例えば61Hzにした場合は、フーリエ級数展開の1周期が1Hz(即ち、1秒)となり、測定に要する時間が長くなってデータ量も増大してしまう。これに対し、第1周波数又は第2周波数を、例えば100Hzに設定した場合には、例えば、図9に示した通り、フーリエ級数展開の1周期が50[ms]になり、測定に要する時間を短縮することができる。
また、上述した各実施形態では、2つの異なる周波数(第1周波数及び第2周波数)を送電線に印加する例を説明したが、3つ以上の異なる周波数を送電線に印加しても良い。例えば、3つの異なる周波数(第1周波数、第2周波数、第3周波数)の電圧を送電線に個別に印加した場合には、第1周波数における第1抵抗及び第1リアクタンス、第2周波数における第2抵抗及び第2リアクタンス、並びに第3周波数における第3抵抗及び第3リアクタンスが得られる。推定部(推定部13,23,33)は、上記第1~第3抵抗を用いて近似(例えば、二次近似等)を行って商用周波の抵抗を求め、上記第1~第3リアクタンスを用いて近似(例えば、二次近似等)を行って商用周波のリアクタンスをもとめるようにしても良い。
また、上述した各実施形態では、推定部(推定部13,23,33)が、横軸が周波数であって縦軸が抵抗である両対数グラフと、横軸が周波数であって縦軸がリアクタンスである両対数グラフとを用い、直線近似によって商用周波における抵抗とリアクタンスとを推定する例について説明した。しかしながら、推定部(推定部13,23,33)は、横軸及び縦軸の少なくとも一方が、線形軸であるグラフを用いて抵抗及びリアクタンスを推定するようにしても良い。
例えば、推定部(推定部13,23,33)は、以下のグラフを用いて抵抗やリアクタンスを推定することが可能である。以下のグラフの何れを用いるかは、例えば、測定値の物理性等を考慮して決定される。
・横軸が周波数の線形軸であって縦軸が抵抗の対数軸である片対数グラフ
・横軸が周波数の線形軸であって縦軸がリアクタンスの対数軸である片対数グラフ
・横軸が周波数の対数軸であって縦軸が抵抗の線形軸である片対数グラフ
・横軸が周波数の対数軸であって縦軸がリアクタンスの線形軸である片対数グラフ
・横軸が周波数の線形軸であって縦軸が抵抗の線形軸であるグラフ
・横軸が周波数の線形軸であって縦軸がリアクタンスの線形軸であるグラフ
更に、上述した各実施形態で説明した線路定数測定装置及び線路定数測定方法は、送電線(例えば、送電線PL1)の遠方端を短絡した状態で、送電線の測定端から電圧を印加して送電線の線路定数を測定するものであった。しかしながら、送電線の遠方端を短絡した状態で、送電線の測定端から電流を注入して送電線の線路定数を測定するようにしても良い。このような測定を可能にする線路定数測定装置は、例えば、図7,図18,図26に示す電圧印加部11,21,31を電流注入部に変更し、電圧源制御部12,22,32を電流源制御部に変更し、推定部13,23,33を、取得した電圧に基づいてインピーダンスを推定するものに変更すれば良い。尚、このような線路定数測定装置及び線路定数測定方法は、上述した各実施形態で説明した線路定数測定装置及び線路定数測定方法における電圧と電流とを入れ替えれば良いだけであるため、ここでの詳細な説明は省略する。