以下に、本開示の実施の形態にかかるモータ制御装置、加工システム、モータ制御方法、および加工方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるモータ制御装置の機能ブロック図である。モータ制御装置10Aは、モータ4を有した加工装置3を制御するコンピュータである。モータ制御装置10Aは、CAM(Computer Aided Manufacturing)システム等によって生成された加工プログラム2に基づいて、駆動軸を駆動するモータ4への制御信号を生成して出力する。
加工装置3は、モータ4への制御信号に従ってモータ4を動作させることで被加工物である工作物(被削物)の加工を行う。加工装置3の例は、生産設備に配置される工作機械である。モータ制御装置10Aは、数値制御装置を含んでおり、加工装置3を数値制御する。モータ4が駆動する駆動軸の例は、主軸、送り軸、回転軸などである。なお、実施の形態1では、加工装置3が主軸および送り軸を有している場合について説明する。
主軸は、工具または工作物を回転させる軸である。送り軸には、工具を移動させる送り軸(後述する工具送り軸)と、工作物を移動させる送り軸(後述する工作物送り軸)とが含まれている。
モータ制御装置10Aは、加工装置3と近接した位置に配置されてもよいし、加工装置3と離れたサーバ上などに配置されてもよい。モータ制御装置10Aは、同期動作指令抽出部11と、1または複数の同期動作指令部と、モータ制御部15とを備えている。図1では、モータ制御装置10Aが、同期動作指令部として、同期動作指令部A1~An(nは自然数)を備えている場合を示している。以下では、モータ制御装置10Aが、同期動作指令部として、同期動作指令部A1,A2を備えている場合について説明する。
同期動作指令部A1,A2は、同期動作指令毎に最適パラメータを算出し、算出した最適パラメータをモータ制御部15に送る。同期動作指令の数が同期動作指令部の個数よりも多い場合、同期動作指令部は、同期動作指令に対する最適パラメータの算出処理を分担する。すなわち、最適パラメータの算出処理が完了した同期動作指令部は、未処理の同期動作指令に対して最適パラメータの算出処理を実行する。モータ制御装置10Aでは、このような処理が各同期動作指令部で繰り返される。
同期動作指令部A1,A2は、それぞれ、動作状態算出部12と、許容動作時間入力部13と、最適パラメータ算出部14とを有している。同期動作指令抽出部11は、同期動作指令部A1,A2の動作状態算出部12に接続されている。また、モータ制御部15は、同期動作指令部A1,A2の最適パラメータ算出部14に接続されている。
同期動作指令部A1,A2では、動作状態算出部12および許容動作時間入力部13が、最適パラメータ算出部14に接続されている。
同期動作指令抽出部11へは、CAMシステム等によって生成された加工プログラム2が入力される。同期動作指令抽出部11は、加工プログラム2を受け付ける。同期動作指令抽出部11は、入力された加工プログラム2を解析し、加工プログラム2に含まれるブロック(複数からなる一連の指令)のうち、同期する2つ以上の駆動軸に対して定値制御が連続して指令されるブロック(1組の同期動作指令群)を抽出する。さらに、同期動作指令抽出部11は、抽出したブロックに含まれている同期動作指令を抽出する。定値制御は、目標値へ制御量を近づけていく制御である。
同期動作指令抽出部11は、送り軸(実施の形態1では工具送り軸)の位置決め指令と、主軸の定速回転指令とを定値制御と判断して、同期動作指令を抽出する。すなわち、実施の形態1で同期動作指令として抽出される指令は、定値制御される工具送り軸の位置決め指令と、主軸の定速回転指令との組み合わせである。なお、加工装置3が回転軸を有している場合において、回転軸の位置決め指令が同期動作指令に含まれている場合、同期動作指令抽出部11は、同期動作指令として回転軸の位置決め指令も抽出する。
同期動作指令抽出部11は、Mコード指令に基づいて、加工プログラム2の中から工具交換を行う前の工具交換位置までの移動ブロック、および工具交換を行った後の次の加工位置までの移動ブロックを、同期動作指令として抽出する。すなわち、同期動作指令抽出部11は、工具交換を行う前の加工終了時の位置である加工終了位置から工具交換を行う位置である工具交換位置までの移動ブロック(第1の移動ブロック)を、同期動作指令として抽出する。また、同期動作指令抽出部11は、工具交換が終了した位置である工具交換終了位置から工具交換を行った後の次の加工位置である加工開始位置までの移動ブロック(第2の移動ブロック)を、同期動作指令として抽出する。同期動作指令抽出部11は、例えば、第1の移動ブロックおよび第2の移動ブロックの少なくとも一方を同期動作指令として抽出する。
ここで、モータ制御装置10Aの同期動作指令抽出部11が抽出する同期動作指令について説明する。図2は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が抽出する同期動作指令を説明するための図である。図2では、加工プログラム2の一例と、同期動作指令抽出部11による同期動作指令の抽出処理結果とを示している。
加工プログラム2は、複数行の英数字列を含んでおり、各行が加工装置3への指令を示している。図2の加工プログラム2における左端の英数字が加工プログラム2のシーケンス番号である。加工プログラム2は、例えば、N58~N64のシーケンス番号を有した指令を含んでいる。
N59の指令は、主軸停止の指令を表しており、N60の指令は、工具交換の指令を表している。具体的には、N59の指令およびN60の指令は、主軸を減速させつつ主軸を工具の交換位置まで移動させる同期動作指令(i-0)である。したがって、同期動作指令抽出部11は、同期動作指令(i-0)として加工プログラム2のN59の指令およびN60の指令を抽出する。
また、加工プログラム2のN61~N63の指令は、それぞれ主軸正回転、X軸およびY軸の位置決め、Z軸の位置決めを表している。具体的には、N61~N63の指令は、主軸を加速させつつ加工開始位置まで移動させる同期動作指令(i)である。したがって、同期動作指令抽出部11は、同期動作指令(i)として加工プログラム2のN61指令からN63指令までを抽出する。
動作状態算出部12は、駆動軸の動作状態を算出する。動作状態算出部12は、予め設定しておいた複数の加速時定数および複数の減速時定数に対する動作状態を算出する。加速時定数は、駆動軸の加速時間を定義するための時定数であり、減速時定数は、駆動軸の減速時間を定義するための時定数である。加速時定数は加速を開始してから目標である指令速度に達するまでの時間で示され、減速時定数は減速を開始してから速度が0に達するまでの時間で示される。予め設定しておく加速時定数と減速時定数とは、駆動軸の各々で統一されていてもよいし、異なっていてもよい。加速時定数および減速時定数は、ユーザによって外部から動作状態算出部12に予め設定される。
ここで、モータ制御装置10Aが用いる、駆動軸の指令パターンの一例について説明する。図3は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が用いる、駆動軸の指令パターンの一例を説明するための図である。図3に示すグラフは、横軸が時間であり、縦軸が速度である。
図3では、駆動軸の指令パターンの概略図を示している。図3に示すように、指令パターンは、加工プログラム2で規定されている指令速度、設定された加速時定数c1、および設定された減速時定数d1によって決定される。駆動軸は、加速時定数c1に従って加速し、加工プログラム2で規定されている指令速度まで速度が上昇し、この指令速度で駆動する。その後、駆動軸は、減速時定数d1に従って減速し停止する。
動作状態算出部12は、指令パターンに基づいて、駆動軸の動作時間および消費エネルギーを動作状態として算出する。また、動作状態算出部12は、動作時間および消費エネルギーに加えて、駆動軸の電力波形を動作状態として算出してもよい。
図4は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出する、送り軸の動作状態を説明するための図である。図4では、動作状態算出部12によって算出される送り軸の動作状態の概略図を示している。図4の上段に示すグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸の速度(送り軸速度)である。図4の下段に示すグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸の電力(送り軸電力)である。
送り軸の動作時間である送り軸動作時間Ft1は、位置決め指令の出力を開始してから位置決めが完了するまでの時間である。送り軸は、送り軸の加速時定数である送り軸加速時定数Fc1に従って加速し、加工プログラム2で規定されている指令速度まで速度が上昇し、この指令速度で駆動する。その後、送り軸は、送り軸の減速時定数である送り軸減速時定数Fd1に従って減速し停止する。
送り軸の電力波形である送り軸電力波形Fw1は、送り軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。送り軸の消費エネルギーである送り軸消費エネルギーFe1は、送り軸が動作している時間中の電力サンプリングの積分値である。
図5は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出する、主軸の動作状態を説明するための図である。図5では、動作状態算出部12によって算出される主軸の動作状態の概略図を示している。図5の上段に示すグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸の回転数(主軸回転数)である。図5の下段に示すグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸の電力(主軸電力)である。
主軸の動作時間である主軸動作時間Mt1は、回転指令の出力を開始してから主軸の回転速度が指令回転速度に到達するまでの時間である。主軸は、主軸の加速時定数である主軸加速時定数Mc1に従って主軸回転数が上昇する。
主軸の電力波形である主軸電力波形Mw1は、主軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。主軸の消費エネルギーである主軸消費エネルギーMe1は、主軸が動作している時間中の電力サンプリングの積分値である。
動作状態算出部12は、各動作状態を、指令パターンと、モータ4および駆動軸を含んだシステムのシミュレーションモデルとからシミュレーションによって算出する。また、動作状態算出部12は、各動作状態を、過去に算出した動作状態の蓄積データから生成した機械学習モデルを用いて算出してもよい。また、動作状態算出部12は、タイマーで測定された動作時間と、電力計によって測定された電力波形および消費エネルギーとに基づいて各動作状態を算出してもよい。
動作状態算出部12は、算出した動作状態を、算出に用いた加速時定数および減速時定数とともに後述する動作状態テーブルに格納する。動作状態算出部12は、動作状態テーブルを記憶するメモリ(図示せず)などを備えている。動作状態テーブルを記憶するメモリは、動作状態算出部12の外部に配置されてもよい。
動作状態算出部12では、駆動軸の各々について加速時定数および減速時定数のそれぞれの最小値、最大値、および刻み幅が予め決められている。動作状態テーブルでは、加速時定数と減速時定数との組合せの総数がテーブル数となっている。また、動作状態算出部12は、加速時定数の刻み幅および減速時定数の刻み幅が一定でない動作状態テーブルを作成しておき、この動作状態テーブルに算出した動作状態を格納してもよい。
動作状態テーブルの加速時定数および減速時定数は、ユーザによって設定される。ユーザは、加速時定数および減速時定数の最小値、最大値、および刻み幅を動作状態算出部12に設定してもよいし、刻み幅が一定でない加速時定数および減速時定数を動作状態算出部12に設定してもよい。
図6は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が記憶する動作状態テーブルの構成例を示す図である。図6では、動作状態算出部12が動作状態を格納させた動作状態テーブル51の一例を示している。
動作状態テーブル51は、駆動軸毎に、加速時定数と、減速時定数と、動作時間と、消費エネルギーと、電力波形とが対応付けされたテーブルである。電力波形には、駆動軸が動作している時間中に特定周期でサンプリングされた電力サンプリング値が格納されている。
図6において、加速時定数および減速時定数の、最小値、最大値、刻み幅はそれぞれ100、2000、100であり、加速時定数と減速時定数との組合せの総数は400である。
動作状態算出部12は、動作状態テーブル51に格納されている加速時定数と減速時定数との組合せに対する動作状態として、動作時間、消費エネルギー、および電力波形を算出し、算出結果を動作状態テーブル51に格納する。動作状態算出部12は、1組の同期動作指令(1つのブロック)毎に、図6に示す動作状態テーブル51を生成する。
ここで、動作状態算出部12による動作状態テーブル51の生成処理手順について説明する。図7は、実施の形態1にかかるモータ制御装置の動作状態算出部が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。図7では、動作状態算出部12の動作シーケンスのフロー例を示している。動作状態算出部12は、1組の同期動作指令(1つのブロック)毎に、図7に示す処理を実行する。
動作状態算出部12は、動作状態テーブル51での行数を示すiiにii=1を設定する(ステップS1)。動作状態算出部12は、動作状態テーブル51のii行目の加速時定数および減速時定数を設定し(ステップS2)、設定した加速時定数および減速時定数を用いて動作状態を算出する(ステップS3)。
動作状態算出部12は、算出した動作状態を動作状態テーブル51のii行目に格納する(ステップS4)。動作状態算出部12は、動作状態テーブル51の最終行まで動作状態が格納されているか否かを判定する(ステップS5)。
動作状態算出部12は、動作状態テーブル51の最終行まで動作状態が格納されていないと判定した場合(ステップS5、No)、ii=ii+1を設定する(ステップS6)。そして、動作状態算出部12は、ステップS2~S5の処理を実行する。
動作状態算出部12は、動作状態テーブル51の最終行まで動作状態が格納されていると判定するまで、ステップS6の処理と、ステップS2~S5の処理とを繰り返す。
動作状態算出部12は、動作状態テーブル51の最終行まで動作状態が格納されていると判定した場合(ステップS5、Yes)、動作状態テーブル51の生成処理を終了する。なお、動作状態算出部12は、動作状態テーブル51の各行に対して何れの順番で動作状態を算出して格納してもよい。
動作状態算出部12は、最終行まで動作状態が格納された動作状態テーブル51を記憶しておく。動作状態算出部12は、最終行まで動作状態が格納された動作状態テーブル51を最適パラメータ算出部14に送る。
許容動作時間入力部13は、動作時間のバッファ時間を記憶しておき、記憶しておいたバッファ時間を最適パラメータ算出部14に入力する。動作状態算出部12が算出した動作時間の最小値と、許容動作時間入力部13から入力されたバッファ時間との和が、許容動作時間である。この許容動作時間は、許容動作時間入力部13が算出して最適パラメータ算出部14に入力してもよいし、最適パラメータ算出部14が算出してもよい。
許容動作時間入力部13が許容動作時間を算出する場合、許容動作時間入力部13は、動作状態算出部12が算出した動作時間の最小値と、バッファ時間との和を許容動作時間として算出し、算出した許容動作時間を最適パラメータ算出部14に入力する。
最適パラメータ算出部14が許容動作時間を算出する場合、最適パラメータ算出部14は、動作状態算出部12が算出した動作時間の最小値と、許容動作時間入力部13から入力されたバッファ時間との和を許容動作時間として算出する。
なお、許容動作時間入力部13は、外部入力された許容動作時間を最適パラメータ算出部14に入力してもよい。外部入力される許容動作時間は、動作状態算出部12が算出した動作時間の最小値よりも長い時間とする。
最適パラメータ算出部14は、同期動作指令の各々について、動作状態算出部12が生成した動作状態テーブル51に基づいて、駆動軸の各々の最適な加速時定数(以下、最適加速時定数という)と最適な減速時定数(以下、最適減速時定数という)とを最適パラメータとして算出する。最適パラメータ算出部14は、動作時間が許容動作時間以下となる範囲内で、消費エネルギーが最小となる加速時定数と減速時定数との組み合わせを、最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせとして算出する。実施の形態1では、最適パラメータ算出部14が算出する最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせを最適パラメータと定義する。
図8は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が許容動作時間に基づいて加速時定数と減速時定数との組み合わせを抽出する処理を説明するための図である。図8では、最適パラメータ算出部14が取得する加速時定数と減速時定数との組み合わせに対する動作時間の概略図を示している。図8に示すグラフは、横軸が加速時定数であり、縦軸が減速時定数であり、深さ軸が動作時間である。図8中の平面は、許容動作時間At1である。また、加速時定数と減速時定数との組み合わせが白点c2および黒点c3である。
黒点c3は、動作時間が許容動作時間At1以下となる点であり、白点c2は、動作時間が許容動作時間At1を超過する点である。すなわち、許容動作時間At1内の、加速時定数と減速時定数との組み合わせが黒点c3であり、許容動作時間At1外の、加速時定数と減速時定数との組み合わせが白点c2である。
最適パラメータ算出部14は、動作状態テーブル51の動作時間が許容動作時間At1以下のデータを抽出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、許容動作時間At1に基づいて、動作状態テーブル51の中から黒点c3に対応する行のデータを抽出する。次に、最適パラメータ算出部14は、抽出したデータ、すなわち動作時間が許容動作時間以下となるデータの中から消費エネルギーが最小となるデータをさらに抽出する。
図9は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が消費エネルギーに基づいて加速時定数と減速時定数との組み合わせを抽出する処理を説明するための図である。図9では、最適パラメータ算出部14が取得する加速時定数と減速時定数との組み合わせに対する消費エネルギーの概略図を示している。図9に示すグラフは、横軸が加速時定数であり、縦軸が減速時定数であり、深さ軸が消費エネルギーである。図9では、加速時定数と減速時定数との組み合わせが白点c4および黒点c5である。
黒点c5は、動作時間が許容動作時間以下となる加速時定数と減速時定数との組み合わせに対する消費エネルギーである。白点c4は、動作時間が許容動作時間を超過する加速時定数と減速時定数との組み合わせに対する消費エネルギーである。また図9中のひし形で示されるひし形点c6は、動作時間が許容動作時間以下となる範囲内で最も消費エネルギーが小さくなる点である。最適パラメータ算出部14は、ひし形点c6における加速時定数と減速時定数の組み合わせを、最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせとして算出する。
最適パラメータ算出部14は、動作状態テーブル51から得られる加速時定数と減速時定数との組み合わせに対する、動作時間および消費エネルギーの離散分布に対して、曲面近似を施してもよい。すなわち、最適パラメータ算出部14は、2つ以上の駆動軸の各々の加速時定数と減速時定数とに対応する動作時間と消費エネルギーとを変数とする離散分布を生成し、離散分布に対して曲面近似を施してもよい。
最適パラメータ算出部14は、離散分布に対して曲面近似を施すことで、加速時定数と減速時定数とに対応する動作時間および消費エネルギーの何れか一方が他方の連続関数として表される関数である近似曲面を取得する。この場合、最適パラメータ算出部14は、近似曲面に基づいて、動作時間が許容動作時間以下となる範囲内で消費エネルギーが最小となる加速時定数と減速時定数との組み合わせを、最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせとして算出する。
図10は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が曲面近似した動作時間を示す図である。図11は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が曲面近似した消費エネルギーを示す図である。図10では、最適パラメータ算出部14が、加速時定数と減速時定数との組み合わせに対して曲面近似した動作時間、すなわち動作時間の曲面近似結果の例を示している。図11では、最適パラメータ算出部14が、加速時定数と減速時定数との組み合わせに対して曲面近似した消費エネルギー、すなわち消費エネルギーの曲面近似結果の例を示している。
図10に示すグラフは、横軸が加速時定数であり、縦軸が減速時定数であり、深さ軸が動作時間である。図11に示すグラフは、横軸が加速時定数であり、縦軸が減速時定数であり、深さ軸が消費エネルギーである。図10に示すグラフは、図8に示すグラフを曲面近似したグラフであり、図11に示すグラフは、図9に示すグラフを曲面近似したグラフである。
図10中の平面が、動作時間の近似曲面AC1であり、図11中の平面が、消費エネルギーの近似曲面AC2である。最適パラメータ算出部14は、近似曲面AC1,AC2に基づいて、動作時間が許容動作時間以下となる範囲内で消費エネルギーが最小となる加速時定数と減速時定数との組み合わせを、最適パラメータとして算出する。
最適パラメータ算出部14は、近似曲面AC1,AC2に基づいて最適パラメータを算出する場合、予め用意された加速時定数と減速時定数との組合せから最適パラメータを算出するのではなく、連続的な加速時定数と減速時定数の組合せから最適パラメータを算出することが可能となる。したがって、最適パラメータ算出部14は、正確な最適パラメータを算出することが可能となる。
最適パラメータ算出部14は、駆動軸の各々の最適パラメータにおける動作時間の中での最大時間(最大値)を評価期間として算出し、駆動軸の各々の評価期間における消費エネルギーが最小となるような動作開始タイミングを算出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、複数の駆動軸の各々の動作時間のうちの最大時間である評価期間での消費エネルギーが最小となるように、駆動軸の各々の動作開始タイミングを算出する。最適パラメータ算出部14は、最適パラメータを算出した後に、動作開始タイミングを算出する。動作開始タイミングは、駆動軸に動作を開始させるタイミングを遅延させる時間に対応している。
最適パラメータ算出部14は、駆動軸の各々の動作開始時の電力値と動作終了時の電力値とを比較し、動作開始時の電力の方が動作終了時の電力よりも小さい場合は動作開始タイミングとして評価期間と動作時間との差を算出する。一方、最適パラメータ算出部14は、動作開始時の電力の方が動作終了時の電力よりも等しいかもしくは大きい場合は、動作開始タイミングとして0を算出する。
ここで、最適パラメータ算出部14による動作開始タイミングの算出処理手順について説明する。図12は、実施の形態1にかかるモータ制御装置の最適パラメータ算出部が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。図12では、最適パラメータ算出部14の動作シーケンスのフロー図を例示している。最適パラメータ算出部14は、1組の同期動作指令(1つのブロック)毎に、図12に示す処理を実行する。
最適パラメータ算出部14は、駆動軸のii番目(iiは自然数)を示すiiにii=1を設定する(ステップS10)。最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸の最適パラメータを算出する(ステップS11)。最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸の最適パラメータに対応する動作時間を算出する(ステップS12)。
最適パラメータ算出部14は、ii=駆動軸数となっているか否かを判定する(ステップS13)。最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていないと判定した場合(ステップS13、No)、ii=ii+1を設定する(ステップS14)。そして、最適パラメータ算出部14は、ステップS11~S13の処理を実行する。
最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていると判定するまで、ステップS14の処理と、ステップS11~S13の処理とを繰り返す。
最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていると判定した場合(ステップS13、Yes)、1組の同期動作指令に含まれる全駆動軸の動作時間の最大時間を評価期間として算出する(ステップS15)。例えば、1組の同期動作指令に主軸の動作指令と、送り軸の動作指令とが含まれている場合において、送り軸の動作時間の方が主軸の動作時間よりも長い場合、最適パラメータ算出部14は、送り軸の動作時間を評価期間とする。
最適パラメータ算出部14は、駆動軸のii番目を示すiiにii=1を設定する(ステップS16)。最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸が、動作開始時電力<動作終了時電力を満たすか否かを判定する(ステップS17)。すなわち、最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸における動作開始時電力が、動作終了時電力よりも小さいか否かを判定する。
最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸が、動作開始時電力<動作終了時電力である場合(ステップS17、Yes)、ii番目の駆動軸の動作開始タイミングとして「評価期間-動作時間」を算出する(ステップS18)。
一方、最適パラメータ算出部14は、ii番目の駆動軸が、動作開始時電力≧動作終了時電力である場合(ステップS17、No)、ii番目の駆動軸の動作開始タイミングとして0を算出する(ステップS19)。
ステップS18またはステップS19の後、最適パラメータ算出部14は、ii=駆動軸数となっているか否かを判定する(ステップS20)。最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていないと判定した場合(ステップS20、No)、ステップS17の処理に戻り、ステップS17,S18の処理か、またはステップS17,S19の処理を実行する。
最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていると判定するまで、ステップS20の処理と、ステップS17~S19の処理とを繰り返す。最適パラメータ算出部14は、iiが駆動軸数となっていると判定した場合(ステップS20、Yes)、動作開始タイミングの算出処理を終了する。
このように、最適パラメータ算出部14は、駆動軸毎に最適パラメータおよび動作開始タイミングを算出する。最適パラメータ算出部14は、算出した駆動軸毎の最適パラメータと、動作開始タイミングとをモータ制御部15に送る。
モータ制御部15は、同期動作指令の各々について、最適パラメータ算出部14が算出した最適パラメータおよび動作開始タイミングに基づいて、駆動軸の各々が所望の動作を行うようにモータ4への制御信号を生成する。
モータ制御部15は、駆動軸の各々に対し、動作開始時間から動作開始タイミングの時間だけ待機してから指令の出力を開始する。すなわち、モータ制御部15は、駆動軸の各々に対する指令開始時間を、動作開始タイミングの時間だけ遅らせる。
モータ制御部15がモータ4を制御する際の制御方式は、PID(Proportinal Integral Differential)制御でもよいし、PWM(Pulse Width Modulation)制御でもよい。
図13は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出した最適パラメータを用いた場合の指令パターンの第一例を示す図である。図14は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出した最適パラメータを用いた場合の電力波形の第一例を示す図である。図14に示す電力波形は、図13に示す指令パターンに対応している。
図13および図14に示す指令パターンおよび電力波形は、主軸の動作時間の方が、送り軸の動作時間よりも短く、且つ主軸の動作開始時の電力値が動作終了時の電力値よりも小さい場合の例である。
図13に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸速度である。図13に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸の回転速度(主軸回転速度)である。図14に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸電力である。図14に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸電力である。
図13では、最適パラメータが設定された場合の送り軸の指令パターンおよび主軸の指令パターンの概略図を示している。図14では、最適パラメータが設定された場合の送り軸の電力波形および主軸の電力波形の概略図を示している。図13の場合の最適パラメータは、送り軸の最適加速時定数である送り軸最適加速時定数Fcr2、送り軸の最適減速時定数である送り軸最適減速時定数Fdr2、主軸の最適加速時定数である主軸最適加速時定数Mcr2である。
図13に示すように、最適パラメータが設定された場合の送り軸の指令パターンでは、送り軸は、送り軸最適加速時定数Fcr2に従って加速し、加工プログラム2で規定されている指令速度まで速度が上昇し、この指令速度で駆動する。その後、送り軸は、送り軸最適減速時定数Fdr2に従って減速し停止する。最適パラメータが設定された場合の主軸の指令パターンでは、主軸は、主軸最適加速時定数Mcr2に従って主軸回転数が上昇する。
図13に示す指令パターンおよび電力波形は、送り軸の動作時間が、駆動軸の動作時間の中で最大であるので、最適パラメータ算出部14は、送り軸の動作時間を、評価期間として算出する。
送り軸の場合、動作開始時電力<動作終了時電力となっている。このため、最適パラメータ算出部14は、送り軸に対しては、動作開始タイミングとして「評価期間-動作時間」=0を算出する。
また、主軸の場合、動作開始時電力<動作終了時電力となっている。このため、最適パラメータ算出部14は、主軸に対しては、「評価期間-動作時間」=動作開始タイミングT1を算出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、主軸に対しては、「評価期間である送り軸の動作時間-主軸の動作時間」=動作開始タイミングT1を算出する。この動作開始タイミングT1は、送り軸が動作を開始してから、主軸が動作を開始するまでの時間Wt1に対応している。
したがって、最適パラメータが設定された場合の主軸の指令パターンでは、モータ制御部15は、送り軸の動作開始時間から時間Wt1だけ待機してから主軸への指令の出力を開始する。これにより、主軸が指令速度に到達した時点で、送り軸が所望の位置に到達することとなる。すなわち、送り軸が所望の位置に到達するまで、主軸は指令速度に到達しない。
送り軸が所望の位置に到達する前に主軸が指令速度に到達してしまうと、送り軸が所望の位置に到達するまで、主軸が無駄に回転することとなり、主軸での消費エネルギーが増大してしまう。実施の形態1では、モータ制御装置10Aが、時間Wt1だけ待機してから主軸の動作を開始させるので、送り軸の所望位置への到達と、主軸の指令速度への到達を同時にすることができ、この結果、消費エネルギーの増大を抑制できる。
図14に示すように、最適パラメータが設定された場合の送り軸の電力波形である送り軸電力波形Fw2は、送り軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。送り軸の最適パラメータは、送り軸最適加速時定数Fcr2と送り軸最適減速時定数Fdr2との組み合わせであり、この場合の送り軸の消費エネルギーが、送り軸最小消費エネルギーEm1である。
また、最適パラメータが設定された場合の主軸の電力波形である主軸電力波形Mw2は、主軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。主軸の最適パラメータは、主軸最適加速時定数Mcr2であり、この場合の主軸の消費エネルギーが、主軸最小消費エネルギーEm2である。
図15は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出した最適パラメータを用いた場合の指令パターンの第二例を示す図である。図16は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が算出した最適パラメータを用いた場合の電力波形の第二例を示す図である。図16に示す電力波形は、図15に示す指令パターンに対応している。
図15および図16に示す指令パターンおよび電力波形は、主軸の動作時間の方が、送り軸の動作時間よりも短く、且つ主軸の動作開始時の電力値が動作終了時の電力値よりも大きい場合の例である。
図15に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸速度である。図15に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸の回転速度(主軸回転速度)である。図16に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸電力である。図16に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸電力である。
図15では、最適パラメータが設定された場合の送り軸の指令パターンおよび主軸の指令パターンの概略図を示している。図16では、最適パラメータが設定された場合の送り軸の電力波形および主軸の電力波形の概略図を示している。図15の場合の最適パラメータは、送り軸の最適加速時定数である送り軸最適加速時定数Fcr3、送り軸の最適減速時定数である送り軸最適減速時定数Fdr3、主軸の最適加速時定数である主軸最適加速時定数Mcr3である。
図15に示すように、最適パラメータが設定された場合の送り軸の指令パターンでは、送り軸は、送り軸最適加速時定数Fcr3に従って加速し、加工プログラム2で規定されている指令速度まで速度が上昇し、この指令速度で駆動する。その後、送り軸は、送り軸最適減速時定数Fdr3に従って減速し停止する。最適パラメータが設定された場合の主軸の指令パターンでは、主軸は、主軸最適加速時定数Mcr3に従って主軸回転数が上昇する。
図15に示す指令パターンおよび電力波形は、送り軸の動作時間が、駆動軸の動作時間の中で最大であるので、最適パラメータ算出部14は、送り軸の動作時間を、評価期間として算出する。
送り軸の場合、動作開始時電力<動作終了時電力となっている。このため、最適パラメータ算出部14は、送り軸に対しては、動作開始タイミングとして「評価期間-動作時間」=0を算出する。
また、主軸の場合、動作開始時電力≧動作終了時電力となっている。このため、最適パラメータ算出部14は、主軸に対しては、動作開始タイミング=0を算出する。
図16に示すように、最適パラメータが設定された場合の送り軸の電力波形である送り軸電力波形Fw3は、送り軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。送り軸の最適パラメータは、送り軸最適加速時定数Fcr3と送り軸最適減速時定数Fdr3との組み合わせであり、この場合の送り軸の消費エネルギーが、送り軸最小消費エネルギーEm3である。
また、最適パラメータが設定された場合の主軸の電力波形である主軸電力波形Mw3は、主軸が動作している時間中の電力サンプリング値の集合である。主軸の最適パラメータは、主軸最適加速時定数Mcr3であり、この場合の主軸の消費エネルギーが、主軸最小消費エネルギーEm4である。
図17は、実施の形態1にかかるモータ制御装置が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。モータ制御装置10Aでは、同期動作指令抽出部11が、加工プログラム2を受け付ける(ステップS21)。同期動作指令抽出部11は、加工プログラム2から同期動作指令を抽出する(ステップS22)。
動作状態算出部12は、同期動作指令に対応する動作状態を、同期動作指令内の駆動軸毎に算出する(ステップS23)。動作状態算出部12は、動作状態が格納された駆動軸毎の動作状態テーブル51を最適パラメータ算出部14に送る。また、許容動作時間入力部13は、動作時間のバッファ時間を最適パラメータ算出部14に入力する。
最適パラメータ算出部14は、動作状態算出部12が算出した動作時間の最小値と、バッファ時間との和を許容動作時間として算出する。最適パラメータ算出部14は、同期動作指令の各々について、動作状態テーブル51に基づいて、駆動軸毎の最適加速時定数と最適減速時定数とを最適パラメータとして算出する(ステップS24)。具体的には、最適パラメータ算出部14は、動作時間が許容動作時間以下となる範囲内で、消費エネルギーが最小となる加速時定数と減速時定数との組み合わせを、最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせとして駆動軸毎に算出する。モータ制御部15は、駆動軸毎の最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせである最適パラメータを用いてモータ4を制御する(ステップS25)。
ところで、加工プログラム2の全体に対して1つの最適パラメータが設定された場合、工具交換といった加工以外の処理を含んだ処理全体の消費エネルギーを抑制することはできない。
一方、実施の形態1のモータ制御装置10Aは、同期する2つ以上の駆動軸に対して定値制御が連続して指令されるブロックを1組の同期動作指令として抽出し、抽出した同期動作指令毎に最適パラメータを算出している。これにより、モータ制御装置10Aは、工具交換といった加工に直接寄与しない処理に対し、所要時間(サイクルタイム)が短くかつ消費エネルギーを抑制することができるパラメータを設定することが可能となる。
モータ制御装置10Aは、加工プログラム2から工具交換処理を抽出し、工具交換処理毎に最適パラメータを設定することで、加工プログラム2に含まれる工具交換処理全体の消費エネルギーを抑制することができる。また、モータ制御装置10Aは、加工プログラム2の中から工具交換処理を抽出して最適パラメータを設定するので、最適パラメータの算出に要する時間を削減することができる。
このように実施の形態1では、モータ制御装置10Aが、加工プログラム2の中から同期する複数の駆動軸に対して定値制御が連続して指令されるブロックを抽出し、ブロックに含まれている同期動作指令を抽出している。また、モータ制御装置10Aは、加速時定数および減速時定数に基づいて、加工プログラム2によって実行される加工の動作時間および消費エネルギーを算出している。モータ制御装置10Aは、同期動作指令の各々に対し、駆動軸の動作時間が、許容動作時間以下となり、且つ消費エネルギーが最小となる加速時定数および減速時定数を最適パラメータとして算出している。
これにより、モータ制御装置10Aは、加工以外の処理に対してサイクルタイムを短くしつつ消費エネルギーを抑制することが可能なパラメータを設定できる。したがって、モータ制御装置10Aは、工具交換といった加工以外の処理に対してサイクルタイムを短くしつつ消費エネルギーを抑制することが可能な加工プログラム2を生成してモータ4を制御することができる。
実施の形態2.
つぎに、図18から図20を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態2では、送り軸の電力値と主軸の電力値との合計値が許容範囲内に入るように最適パラメータが設定される。
図18は、実施の形態2にかかるモータ制御装置の機能ブロック図である。図18の各構成要素のうち図1に示す実施の形態1のモータ制御装置10Aと同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
実施の形態2のモータ制御装置10Bは、モータ制御装置10Aと比較して、同期動作指令部A1~Anの代わりに、同期動作指令部B1~Bnを備えている。同期動作指令部B1~Bnは、同期動作指令部A1~Anが有する構成要素に加えて、許容電力入力部16を有している。以下では、モータ制御装置10Bが、同期動作指令部として、同期動作指令部B1,B2を備えている場合について説明する。
許容電力入力部16は、最適パラメータ算出部14に接続されている。許容電力入力部16は、電力波形の許容範囲を表す許容最小電力および許容最大電力を記憶しておき、記憶しておいた許容最小電力および許容最大電力を最適パラメータ算出部14に入力する。
許容最小電力は、モータ4の制御に用いられるコンバータ(モータ制御部15が備えるコンバータ)の最大回生電力である。許容最大電力は、モータ4の制御に用いられるコンバータの最大力行電力である。力行電力は、モータ4に電力が供給されている状態の電力であり、回生電力は、モータ4の回転エネルギーが電力供給側に流れ込んでいる状態の電力である。コンバータの最大回生電力と最大力行電力とに対応する範囲が許容範囲である。許容電力入力部16は、許容最小電力および許容最大電力を最適パラメータ算出部14に入力する。
実施の形態2の動作状態算出部12は、駆動軸の加速時定数および減速時定数に基づいて、駆動軸が動作中の各時点における駆動軸の電力値(電力消費量)である瞬間電力値を、駆動軸毎に算出する。動作状態算出部12は、動作時間内の各時点に対し、送り軸の瞬間電力値と主軸の瞬間電力値との合計値、すなわち電力値の総和(以下、電力合計値という)を算出する。
モータ制御装置10Bの最適パラメータ算出部14は、モータ制御装置10Aの最適パラメータ算出部14が実行する処理に加えて、以下の処理を実行する。すなわち、モータ制御装置10Bの最適パラメータ算出部14は、同期動作指令に対し、動作時間が許容動作時間以下となり、且つ電力合計値の最小値が許容最小電力以上となり、且つ電力合計値の最大値が許容最大電力以下となる範囲内で、駆動軸の各々の消費エネルギーの総和が最小となるような、加速時定数、減速時定数、および動作開始タイミングを算出する。
最適パラメータ算出部14は、電力合計値の最小値が許容最小電力未満となる、または電力合計値の最大値が許容最大電力よりも大きくなるような時点がある場合、駆動軸の各々の動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。これにより、最適パラメータ算出部14は、動作時間が許容動作時間以下となり、且つ電力合計値の最小値が許容最小電力以上となり、且つ電力合計値の最大値が許容最大電力以下となる範囲内で、駆動軸の各々の消費エネルギーの総和が最小となるような加速時定数、減速時定数、および動作開始タイミングを算出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、動作時間が許容動作時間以下となり、且つ電力合計値が許容範囲内となるような加速時定数、減速時定数、および動作開始タイミングを算出する。
このように、最適パラメータ算出部14は、許容動作時間、許容最小電力、および許容最大電力を満たすように、動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。最適パラメータ算出部14は、最適パラメータおよび動作開始タイミングを算出した後に、動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。
ここで、最適パラメータ算出部14が、電力合計値の範囲を考慮して算出した最適パラメータを用いた場合の指令パターンおよび電力波形について説明する。
図19は、実施の形態2にかかるモータ制御装置が電力合計値の範囲を考慮して算出した最適パラメータを用いた場合の電力波形の第一例を示す図である。図19に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸電力である。図19に示す中段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸電力である。図19に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、許容最大電力である。図19では、主軸が加速する場合の電力波形を示している。図19に示す電力波形は、図13に示す指令パターンに対応している。
最適パラメータ算出部14は、実施の形態1と同様の方法によって最適パラメータを算出する。最適パラメータ算出部14が算出する最適パラメータの一例は、図13に示した指令パターンである。
また、最適パラメータ算出部14は、実施の形態1と同様の方法によって、動作時間中の、送り軸の電力波形および主軸の電力波形を算出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、駆動軸の加速時定数および減速時定数に基づいて、各時点における駆動軸の電力値(電力消費量)である瞬間電力値を算出し、送り軸の電力波形および主軸の電力波形を算出する。最適パラメータ算出部14が算出する送り軸の電力波形および主軸の電力波形の一例は、図14に示した電力波形である。
最適パラメータ算出部14は、動作時間内の各時間に対し、送り軸の電力値と主軸の電力値の合計値である総和である電力合計値を算出し、この電力合計値に対応する電力波形を算出する。図19に示す総電力波形Tw1が、主軸電力波形Mw1の電力値と送り軸電力波形Fw1の電力値とを合計した場合の電力波形である。
図20は、実施の形態2にかかるモータ制御装置が電力合計値の範囲を考慮して算出した最適パラメータを用いた場合の電力波形の第二例を示す図である。図20に示す上段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が送り軸電力である。図20に示す中段のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が主軸電力である。図20に示す下段のグラフは、横軸が時間であり、許容最大電力である。図20では、主軸が減速する場合の電力波形を示している。図20に示す電力波形は、図15に示す指令パターンに対応している。
最適パラメータ算出部14は、実施の形態1と同様の方法によって最適パラメータを算出する。最適パラメータ算出部14が算出する最適パラメータの一例は、図15に示した指令パターンである。
また、最適パラメータ算出部14は、実施の形態1と同様の方法によって、動作時間中の、送り軸の電力波形および主軸の電力波形を算出する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、駆動軸の加速時定数および減速時定数に基づいて、各時点における駆動軸の電力値(電力消費量)である瞬間電力値を算出し、送り軸の電力波形および主軸の電力波形を算出する。最適パラメータ算出部14が算出する送り軸の電力波形および主軸の電力波形の一例は、図16に示した電力波形である。
最適パラメータ算出部14は、動作時間内の各時間に対し、送り軸の電力値と主軸の電力値の合計値である総和である電力合計値を算出し、この電力合計値に対応する電力波形を算出する。図20に示す総電力波形Tw2が、主軸電力波形Mw2の電力値と送り軸電力波形Fw2の電力値とを合計した場合の電力波形である。
最適パラメータ算出部14は、動作時間内における電力合計値のうちの最小値が許容最小電力未満となるか否かを判定する。また、最適パラメータ算出部14は、動作時間内における電力合計値のうちの最大値が許容最大電力よりも大きくなるか否かを判定する。すなわち、最適パラメータ算出部14は、総電力波形Tw1,Tw2の電力値が、許容最小電力以上で且つ許容最大電力以内となっているかを判定する。
動作時間内における電力合計値のうちの最小値が許容最小電力未満となる場合、最適パラメータ算出部14は、送り軸および主軸の各々の動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。この場合において、最適パラメータ算出部14は、動作時間内における電力合計値が許容範囲内となるように、動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。
また、動作時間内における電力合計値のうちの最大値が許容最大電力よりも大きくなる場合、最適パラメータ算出部14は、送り軸および主軸の各々の動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。この場合において、最適パラメータ算出部14は、動作時間内における電力合計値が許容範囲内となるように、動作開始タイミング、最適加速時定数、および最適減速時定数の少なくとも1つを変更する。
このように実施の形態2によれば、モータ制御装置10Bは、送り軸の電力値と主軸の電力値との電力合計値が許容範囲内に入るように最適パラメータを設定するので、コンバータの最大回生電力および最大力行電力を超過しない範囲内の最適パラメータを算出することが可能となる。
実施の形態3.
つぎに、図21および図22を用いて実施の形態3について説明する。実施の形態3では、加工プログラム2を用いて工作物を加工する加工システムに、モータ制御装置10A,10Bを適用する。
図21は、実施の形態3にかかる加工システムの機能ブロック図である。加工システム1は、CAD(Computer Aided Design)モデル31が入力されているCAMシステム30と、加工プログラム2と、モータ制御装置10Aまたはモータ制御装置10Bと、加工装置3とを備えている。ここでは、加工システム1にモータ制御装置10Aが適用された場合について説明する。
CAMシステム30は、加工装置3を制御するための加工プログラム2を、CADモデル31を用いて生成し、生成した加工プログラム2をモータ制御装置10Aに入力する。
加工装置3は、主軸モータ21と、主軸22と、工具23と、送り軸モータ24と、工作物25と、ステージ26と、工作物送り軸27と、送り軸モータ28と、工具送り軸29とを有している。主軸モータ21および送り軸モータ24,28は、モータ制御装置10Aに接続されており、モータ制御装置10Aから送られてくる制御信号に従って回転する。
主軸モータ21には、主軸22が取り付けられており、主軸22には、工具23が取り付けられている。主軸モータ21は、主軸22を回転軸として工具23を回転させる。
送り軸モータ28には、棒状の工具送り軸29が取り付けられており、工具送り軸29には、主軸22が取り付けられている。送り軸モータ28は、工具送り軸29を回転させることで主軸22を工具送り軸29の軸方向に移動させる。
加工装置3は、例えば、3つの送り軸モータ28と、3つの工具送り軸29とを有している。この場合、送り軸モータ28は、X軸方向に主軸22を移動させるX軸モータと、Y軸方向に主軸22を移動させるY軸モータと、Z軸方向に主軸22を移動させるZ軸モータとで構成される。また、工具送り軸29は、X軸モータに接続されてX軸方向に延設された送り軸と、Y軸モータに接続されてY軸方向に延設された送り軸と、Z軸モータに接続されてZ軸方向に延設された送り軸とで構成される。これにより、主軸22は、3つの送り軸モータ28と、3つの工具送り軸29とによって、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動させられる。
送り軸モータ24には、棒状の工作物送り軸27が取り付けられており、工作物送り軸27には、ステージ26が取り付けられている。送り軸モータ24は、工作物送り軸27を回転させることでステージ26を工作物送り軸27の軸方向に移動させる。工作物送り軸27は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、A軸方向、B軸方向、C軸方向の少なくとも1つの方向に延設された、1または複数の軸で構成されている。送り軸モータ24は、工作物送り軸27と同数の送り軸モータで構成されている。被加工物である工作物25は、ステージ26上に載置される。
送り軸モータ28は、工具送り軸29および主軸22を介して工具23を加工位置に移動させ、送り軸モータ24は、工作物送り軸27およびステージ26を介して工作物25を加工位置に移動させる。主軸モータ21は、主軸22を介して工具23を加工位置で回転させる。これにより、工作物25が工具23によって加工される。
工作物25の加工後に工具交換が行われる場合、主軸モータ21が工具23の回転を停止させながら、送り軸モータ28が工具交換位置まで工具23を移動させる。この場合の主軸モータ21および送り軸モータ28への指令が同期動作指令である。
また、工具23の交換後に工作物25の加工が行われる場合、主軸モータ21が工具23の回転を開始させながら、送り軸モータ28が加工位置まで工具23を移動させる。この場合の主軸モータ21および送り軸モータ28への指令が同期動作指令である。
数値制御装置を含むモータ制御装置10Aは、CAMシステム30から加工プログラム2を受け付ける。モータ制御装置10Aは、工作物25を加工するために、工作物25に対して工具23を相対的に移動させる1組の制御信号を生成する。モータ制御装置10Aは、実施の形態1で説明した方法によって1組の制御信号を生成する。1組の制御信号には、主軸モータ21への制御信号と、送り軸モータ24への制御信号とが含まれている。
図22は、実施の形態3にかかる加工システムが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。加工システム1のCAMシステム30が、CADモデル31を受け付ける(ステップS31)。CAMシステム30が、CADモデル31を用いて加工プログラム2を生成する(ステップS32)。
モータ制御装置10Aが、加工プログラム2および許容動作時間に基づいて、定値制御が行われる同期動作指令に対して最適パラメータを算出する(ステップS33)。モータ制御装置10Aは、許容動作時間内で消費エネルギーが最小となる最適加速時定数と最適減速時定数との組み合わせを算出する。
モータ制御装置10Aが、最適パラメータを用いて制御信号を生成し、制御信号を用いてモータ4を制御する(ステップS34)。
このように実施の形態3によれば、加工システム1にモータ制御装置10Aが適用されるので、加工システム1は、実施の形態1と同様に、サイクルタイムを短くしつつ、加工以外の処理の消費エネルギーを抑制することが可能なパラメータを設定できる。
ここで、モータ制御装置10A,10Bのハードウェア構成について説明する。モータ制御装置10A,10Bは、処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用回路などの専用のハードウェアであってもよい。処理回路は制御回路とも呼ばれる。
図23は、実施の形態1~3に係るモータ制御装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図である。なお、モータ制御装置10A,10Bは同様のハードウェア構成を有しているので、ここではモータ制御装置10Aのハードウェア構成について説明する。
図23に示す処理回路90は制御回路であり、プロセッサ91およびメモリ92を備えている。処理回路90がプロセッサ91およびメモリ92で構成される場合、処理回路90の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、メモリ92に記憶されたプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路90は、モータ制御装置10Aの処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を備えている。このプログラムは、処理回路90により実現される各機能をモータ制御装置10Aに実行させるためのプログラムであるともいえる。このプログラムは、プログラムが記憶された記憶媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。上記プログラムは、モータ制御処理をモータ制御装置10Aに実行させるプログラムであるとも言える。
ここで、プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。プロセッサ91は、PC(Personal Computer)、またはPLC(Programmable Logic Controller、プログラマブルロジックコントローラ)に含まれている。PLCは、シーケンサとも呼ばれる。
また、メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
図24は、実施の形態1~3に係るモータ制御装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図である。図24に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路93については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路93は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。