JP7116473B2 - バナジウム酸化物のリボン状ナノ構造体及びその製造方法、バナジウム酸化物の薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法、並びにバナジウム酸化物ナノ粒子の製造方法 - Google Patents
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このように、季節等による気温の変化に応じて近赤外線の透過量を自動的に制御し、快適性と省エネルギー性とを両立できると考えられることから、二酸化バナジウム(VO2)は、窓部材等への適用が検討されている(特許文献1~4)。
本発明の第1の態様に係るリボン状ナノ構造体は、アンモニウム含有酸化バナジウム水和物で形成されており、該アンモニウム含有酸化バナジウム水和物が、5価のバナジウムイオンの周囲に配位した5個の酸素を頂点とする多面体が稜及び頂点を共有しながら2次元的に広がった層と、該層間に配置された水分子及びアンモニウムイオンと、を備える結晶構造を有する。ここで、「リボン状ナノ構造体」とは、その外形が、向かい合って一方向に延びる一対の面を有し、該各面の伸長方向の長さがμmオーダーで、該伸長方向に直交する前記各面の幅及び前記各面の間隔である厚さがいずれもnmオーダーであると共に、前記厚さに比べて前記幅が大きい構造体をいう。ただし、複数のリボン状ナノ構造体が厚さ方向に重なることで、見かけ上、幅と同等の厚さを有する構造体を形成する場合もある。前述のアンモニウム含有酸化バナジウム水和物で形成されるリボン状ナノ構造体では、前述のバナジウム-酸素多面体が2次元的に広がった層が、前記一対の面を構成する。前述の結晶構造を有するアンモニウム含有酸化バナジウム水和物の組成式の例としては、(NH 4 )0.5V2O5・H2Oが挙げられる。
なお、前述のバナジウム-酸素多面体により形成された層の間には、アンモニウムイオンの他に、カリウムイオン及びナトリウムイオン等の陽イオンが存在していてもよい。
本実施形態及び後述する各実施形態で採用される「水熱処理」とは、温度100℃以上、圧力1気圧以上の熱水存在下で行われる化学合成処理を意味する。前記熱水は、温度及び圧力が、水の臨界点(374℃、22MPa)よりもやや低い亜臨界水、又は温度及び圧力が水の臨界点を超える超臨界水であることが好ましい。また、「水熱反応」とは、前記「水熱処理」において起こる化学反応をいう。水熱合成は、例えば、オートクレーブ装置内で実施される。
本実施形態における水熱反応の条件は特に限定されず、使用する反応装置の仕様に応じてリボン状ナノ構造体が生成する条件を適宜選択すれば良い。一例として、温度120~200℃にて2~24時間反応させることが挙げられる。
本発明の第3ないし第4の態様に係る薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法は、前述した各実施形態に係るリボン状ナノ構造体を、還元剤、及び硫酸又はその水溶性塩と共に水に混合し、該リボン状ナノ構造体を薄片化することを含む。
前記リボン状ナノ構造体が薄片化するメカニズムは明らかとはいえないが、該リボン状ナノ構造体のバナジウム酸化物結晶の一部が水中で還元剤及び硫酸イオンと反応し、バナジウムの価数が4の酸化硫酸バナジウム(VOSO4)を生成し、次いで該酸化硫酸バナジウムが水に溶解してバナジルイオン(VO2+)と硫酸イオン(SO4 2-)とに電離することで、前記リボン状ナノ構造体が切断されるものと推測される。
還元剤の使用量についても特に限定されず、使用する還元剤の還元力等を考慮して適宜設定すればよい。一例として、還元剤としてヒドラジンを用いる場合には、リボン状ナノ構造体の薄片化を促進する点で、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対して、還元剤を0.1モル以上とすることが好ましく、0.2モル以上とすることがより好ましい。他方、バナジウムの還元が進みすぎて3価となることを避ける点で、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対する還元剤(ヒドラジン)の使用量は、1モル以下とすることが好ましく、0.8モル以下とすることがより好ましい。他の例として、還元剤としてシュウ酸を用いる場合は、前述の理由から、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対する還元剤使用量は、0.2モル以上とすることが好ましく、0.4モル以上とすることがより好ましく、また2モル以下とすることが好ましく、1.6モル以下とすることがより好ましい。
硫酸又はその水溶性塩の使用量についても特に限定されないが、リボン状ナノ構造体の薄片化を促進する点からは、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対して、硫酸イオン換算で0.3モル以上が好ましく、0.4モル以上がより好ましい。他方、経済性の点からは、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対して、硫酸イオン換算で1.5モル以下が好ましく、1モル以下がより好ましい。また、硫酸を使用する場合には、使用量が多すぎると、リボン状ナノ構造体が完全に溶解してしまい、薄片状ナノ構造体が得られなくなる虞があるため、その使用量は、リボン状ナノ構造体に含まれるバナジウム1モルに対して、硫酸イオン換算で1モル以下が好ましく、0.8モル以下がより好ましい。
本発明の第5の態様に係るバナジウム酸化物ナノ粒子の製造方法は、前述した薄片状ナノ構造体を含む水溶液を水熱処理することを含む。
前記水溶液からバナジウム酸化物ナノ粒子が生成するメカニズムは明らかとはいえないが、薄片状ナノ構造体を核生成の起点としつつ、水中に溶解した酸化硫酸バナジウム(VOSO4)がVO2ナノ粒子の成長に必要な成分の供給源となることで、粒径が50nm以下で粒子サイズが揃ったナノ粒子が生成すると推測される。
得られるバナジウム酸化物ナノ粒子は、個々の粒子の粒径が50nm以下であり、粒子サイズが揃っており、且つバナジウムの価数が4価となっている。ここで、「ナノ粒子」とは、サブミクロン、すなわち1μm未満の径を有する粒子をいう。また、ナノ粒子の「粒径」とは、走査型電子顕微鏡像において、個々のナノ粒子の輪郭を結ぶ線分のうち最長のものの長さをいう。
本実施形態に係るフッ素ドープ型酸化チタンバナジウムナノ粒子は、例えば、水又は有機溶媒を含む分散媒中に分散してサーモクロミック特性を有するインクとして使用したり、樹脂及び溶剤と混合してサーモクロミック特性を有する塗料として使用したり、透明樹脂成形体中に分散してサーモクロミック特性を有する樹脂部材(シート又はフィルムを含む)として使用したり、透明基材上にこれを含む層を形成してサーモクロミック特性を有する積層体として使用したりできる。この際に使用される分散媒、樹脂、溶剤、透明基材等は、前記各用途に使用できるものの中から、要求される特性やコスト等に応じて適宜選択すれば良い。
<リボン状ナノ構造体の作製>
10mLの蒸留水に、300mgの五酸化バナジウム(V2O5、和光純薬社製、特級)、600mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8、和光純薬社製、特級)をそれぞれ加えて撹拌することにより、反応溶液を調製した。
該反応溶液を、市販の水熱反応用オートクレーブ(三愛科学社製、高圧用反応分解容器25mLセット(耐圧ステンレス製外筒HUS-25、PTFE製内筒HUT-25))内に入れ、160℃で12時間、水熱反応させた。
水熱反応後、オートクレーブ外筒表面の温度が室温と同等になったのを確認してからオートクレーブを開封し、得られた反応生成物をろ過し、これを水及びエタノールで洗浄した。その後、この反応生成物を、定温乾燥機を用いて、60℃で12時間乾燥させ、さらにハンディミルで粉砕することにより粉末試料を得た。
X線回折測定の結果から、前記リボン状ナノ構造体は、図2に示すように、層状構造を有するバナジウム酸化物を含み、その層間距離は0.96nmであることが確認された。
また、前記リボン状ナノ構造体の熱重量測定及び示差熱分析を行うことにより、該リボン状ナノ構造体は水分子を含む水和物であることを確認した。
さらに、X線光電子分光(XPS)法を用いてバナジウムの2P 3/2 ピークの形状と位置を確認することにより、バナジウムの価数が5であることを確認すると共に、窒素の1Sピークの面積とバナジウムの2P3/2ピークの面積との比を算出することにより、アンモニウムイオンを含むことを確認し、該アンモニウムイオンの含有量を見積もった。
上述の結果から、前記リボン状ナノ構造体を形成するアンモニウム含有酸化バナジウム水和物の構造式は、(NH 4 )0.5V2O5・H2Oと考えられる。
10mLの蒸留水に、320mgのリボン状ナノ構造体、5%に希釈したヒドラジン一水和物(N2H4・H2O)溶液950mg(リボン状ナノ構造体中のバナジウム1モルに対してヒドラジンが0.25モルとなる量)、1規定(0.5mol/L)の硫酸水溶液1.7mL(リボン状ナノ構造体中のバナジウム1モルに対して硫酸イオンが0.5モルとなる量)を混合し、液温60℃で30分間、撹拌保持した(溶液A)。
沈殿物の一部を回収し、定温乾燥機を用いて、60℃で12時間乾燥させて粉末試料を得て、得られた粉末試料の走査電子顕微鏡(SEM)観察をすることにより、図3に示すような薄片状ナノ構造体が形成されていることを確認した。
一方、青透明色の上澄み液は、バナジルイオン(VO2+)の存在によって青透明色を呈していると考えられる。そうであれば、前述のリボン状ナノ構造体が薄片状ナノ構造体は、上述のリボン状ナノ構造体を構成するバナジウム酸化物の一部が硫酸と反応して、バナジウムの価数が4価の酸化硫酸バナジウム(VOSO4)を生成し、次いで該酸化硫酸バナジウムが水に溶解してバナジルイオン(VO2+)と硫酸イオン(SO4 2-)とに電離することで、前記リボン状ナノ構造体が切断されて生成したものと推測される。
上述の溶液Aを、沈殿物と上澄み液とを分離することなく、そのまま市販の水熱反応用オートクレーブ(三愛科学社製、高圧用反応分解容器25mLセット(耐圧ステンレス製外筒HUS-25、PTFE製内筒HUT-25))内に入れ、160℃で4時間、さらに270℃で24時間、水熱反応させた。
水熱反応後、オートクレーブ外筒表面の温度が室温と同等になったのを確認してからオートクレーブを開封し、溶液を市販の遠心分離用遠心管に入れ、遠心分離を施し上澄水を除去した。次いで、遠心管底に沈殿した反応生成物に蒸留水を加えて振盪させて混合した後、再度遠心分離を施し、上澄み水を除去した。次いで、遠心管底に沈澱した反応生成物にエタノールを加えて振盪させて混合した後、再度遠心分離を施し、上澄みのエタノールを除去することで、反応生成物の洗浄を行った。洗浄後の反応生成物を70℃の定温乾燥機で一晩乾燥し、実施例1に係る微粒子状試料を得た。
得られた微粒子状試料を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。微粒子状試料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。該微粒子状試料は、粒径が30~50nmの範囲内にあり、サイズと形状が揃ったナノ粒子であることが確認された。
得られた微粒子状試料のX線回折測定を行ったところ、図5に示すように、単斜晶系の結晶構造(M相)を有することが確認された。
X線光電子分光(XPS)法により、得られた微粒子状試料中には窒素および硫酸が含まれていないことが確認された。
薄片状ナノ構造体を含む水溶液の作製時に、硫酸を混合せずに溶液Bを作製した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るナノ粒子を作製した。また、薄片状ナノ構造体を含む水溶液の作製時に、還元剤を混合せず、硫酸の混合量を3.4mL(リボン状ナノ構造体中のバナジウム1モルに対して硫酸イオンが1モルとなる量)として溶液Cを作製した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る試料を作製した。なお、後述するように、溶液B及び溶液Cはいずれも薄片状ナノ構造体を含む水溶液とはならず、かつ溶液Bを水熱処理した際にリボン状ナノ構造体が残存したことから、溶液Cについては、溶液Bと同様の結果が得られると考え、水熱処理以降の操作を行わなかった。
得られた溶液B及び溶液Cにおける沈殿物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ図6に示す。また、溶液Bを水熱処理した際に生成した微粒子状試料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図7に示す。
また、図7から判るように、溶液Bを水熱処理した場合、少量のナノ粒子が生成するものの、リボン状ナノ構造体が残存し、サイズと形状が揃ったナノ粒子は得られなかった。
Claims (7)
- 五酸化バナジウムとペルオキソ二硫酸アンモニウムとを水熱反応させることを含む、リボン状ナノ構造体の製造方法。
- 結晶構造が、5価のバナジウムイオンの周囲に配置された5個の酸素を頂点とする多面体が稜及び頂点を共有しながら2次元的に広がった層と、該層間に配置された水及びアンモニウムイオンと、を備えるアンモニウム含有酸化バナジウム水和物で形成されたリボン状ナノ構造体を、還元剤、及び硫酸又はその水溶性塩と共に水に混合し、該リボン状ナノ構造体を薄片化することを含む、薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法。
- 五酸化バナジウムとペルオキソ二硫酸アンモニウムとを水熱反応させてリボン状ナノ構造体を得ること、並びに、
前記リボン状ナノ構造体を、還元剤、及び硫酸又はその水溶性塩と共に水に混合し、該リボン状ナノ構造体を薄片化すること、
を含む、薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法。 - 前記還元剤が、ヒドラジン、シュウ酸、尿素及びギ酸から選択される一以上である、請求項2又は3に記載の薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法。
- 前記薄片状ナノ構造体の長軸方向の長さが、50~300nmである、請求項2~4のいずれかに記載の薄片状ナノ構造体を含む水溶液の製造方法。
- 請求項2~5のいずれかに記載の方法で薄片状ナノ構造体を含む水溶液を製造すること、及び、
該水溶液を水熱反応処理すること、
を含む、粒径が50nm以下であり、且つバナジウムの価数が4価であるバナジウム酸化物ナノ粒子の製造方法。 - 前記水熱反応処理が、80~160℃で5分~8時間の第1段階の処理を行った後、180℃以上に昇温して第2段階の処理を行うものである、請求項6に記載のバナジウム酸化物ナノ粒子の製造方法。
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WANG, H. et al.,(NH4)0.5V2O5 nanobelt with good cycling stability as cathode material for Li-ion battery,Journal of Power Sources,2011年,vol.196,pp.5645-5650 |
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