以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図1に示される積層造形装置(以下、「造形装置」という)1は、いわゆる3D(三次元)プリンタであり、層状に配置した金属粉末2に部分的にエネルギを付与して、金属粉末2を焼結又は溶融できる。造形装置1は、これを繰り返して三次元の造形物3を製造できる。
造形物3は、例えば機械部品などであり、その他の構造物であってもよい。金属粉末2としては例えばチタン系金属粉末、インコネル(登録商標)粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末等が挙げられる。造形物3の材料である粉末は、金属粉末に限定されない。粉末は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂を含む粉末でもよく、その他の粉末でもよい。粉末は、導電性を有する導電体粉末を含んでもよい。
造形装置1は、真空チャンバ4、作業テーブル(粉末保持部)5、昇降装置6、粉末供給装置(粉末供給部)7、電子線照射装置(エネルギ付与部)8及びコントローラ31を備える。真空チャンバ4は、内部を真空(低圧)状態とすることが可能な容器であり、図示しない真空ポンプが接続されている。作業テーブル5は、例えば板状を成し、造形物3の材料である金属粉末2が配置される粉末保持部である。作業テーブル5上の金属粉末2は例えば層状に複数回に分けて配置される。作業テーブル5は、平面視において、例えば矩形状を成している。作業テーブル5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。
作業テーブル5は、真空チャンバ4内において、造形タンク10内に配置されている。造形タンク10内において、作業テーブル5は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、金属粉末2の層数に応じて順次降下する。造形タンク10の側壁10aは、作業テーブル5の移動を案内する。側壁10aは、作業テーブル5の外形に対応するように角筒状(作業テーブルが円形の場合は円筒状)を成している。造形タンク10の側壁10a及び作業テーブル5は、金属粉末2及び造形された造形物3を収容する収容部を形成する。作業テーブル5は造形タンク10の底部を構成してもよい。
昇降装置6は、作業テーブル5上の金属粉末2及び製造途中の造形物3を昇降させることができる。昇降装置6は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、作業テーブル5をZ方向に移動させる。昇降装置6は、作業テーブル5の底面に連結されて下方に伸びる棒状の上下方向部材(ラック)6aと、この上下方向部材6aを駆動するための駆動源6bと、を含んでもよい。駆動源6bとしては、例えば電動モータを用いることができる。電動モータの出力軸にはピニオンが設けられ、上下方向部材6aの側面にはピニオンと噛み合う歯形が設けられていてもよい。電動モータが駆動され、ピニオンが回転して動力が伝達されて、上下方向部材6aが上下方向に移動できる。電動モータの回転を停止することで、上下方向部材6aが位置決めされて、作業テーブル5のZ方向の位置が決まり、その位置が保持される。昇降装置6は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
粉末供給装置7は、原料である金属粉末2を貯留する貯留部である原料タンク11を含んでもよい。原料タンク11は、真空チャンバ4内に配置されている。原料タンク11は、Z方向において作業テーブル5より上方に配置されている。原料タンク11は、例えば、Z方向と交差するX方向において、電子線照射装置8による電子ビーム(電子線)の照射領域(エネルギ付与領域)Dの両側に配置されている。図1では、電子ビームの照射領域Dを2点鎖線で示している。照射領域Dは、電子線照射装置8から出射された電子ビームが通過する領域を含んでもよい。
原料タンク11の底部には、吐出口(供給口)11aが設けられている。吐出口11aは、図2(a)及び図2(b)に示されるように例えばY方向に連続している。Y方向は、X方向及びZ方向に交差する方向である。吐出口11aのY方向の開口長さは、作業テーブル5のY方向の長さと一致していてもよい。換言すれば、吐出口11aのY方向の開口長さは、Y方向における側壁10a間の距離に一致していてもよい。吐出口11aのY方向の開口長さは、例えば作業テーブル5のY方向の長さよりも短くてもよい。
原料タンク11より下方には、造形タンク10の側壁10aの上端部から側方に延びる張出板12が設けられていてもよい。張出板12は、作業テーブル5の周囲において、Z方向に交差する平面を形成している。
粉末供給装置7は、金属粉末2を均す粉末塗布機構(不図示)を含んでもよい。粉末塗布機構は、作業テーブル5の上方で、相対的に移動可能であり、作業テーブル5上の金属粉末2の積層物の最上層の表面(上面)2aを均す。以下、「金属粉末2の積層物」を粉末床Aという。粉末塗布機構の下端部は、粉末床Aの表面2aに当接して高さを均一にすることができる。粉末塗布機構は、例えば板状を成し、Y方向に所定の幅を有する。粉末塗布機構のY方向の長さは、例えば作業テーブル5のY方向の全長に対応している。造形装置1は、粉末塗布機構に替えて、ローラ、棒状部材、刷毛部などを備える構成でもよい。
電子線照射装置8は、エネルギービームとしての電子ビームを照射する電子銃(不図示)を含む。電子銃から出射された電子ビームは、真空チャンバ4内に照射されて、金属粉末2を加熱する。電子線照射装置8は、エネルギを付与して、金属粉末2を加熱して溶融又は焼結させることができる。電子線照射装置8は、粉末床Aにエネルギを付与するエネルギ付与部である。
電子線照射装置8は、電子ビームの照射を制御するコイル部を含んでもよい。コイル部は、例えば収差コイル、フォーカスコイル及び偏向コイルを備えることができる。収差コイルは、電子銃から出射される電子ビームの周囲に設置され、電子ビームを収束させる。フォーカスコイルは、電子銃から出射される電子ビームの周囲に設置され、電子ビームのフォーカス位置のずれを補正する。偏向コイルは、電子銃から出射される電子ビームの周囲に設置され、電子ビームの照射位置を調整する。偏向コイルは、電磁的なビーム偏向を行うため、機械的なビーム偏向と比べて、電子ビームの照射時における走査速度を高速なものとすることができる。電子銃及びコイル部は、真空チャンバ4の上部に配置されている。電子銃から出射された電子ビームは、コイル部によって、収束され、焦点位置が補正され、走査速度が制御され、金属粉末2の照射位置に到達する。
造形装置1は、造形タンク移動機構(保持部移動機構)14、第1予熱ヒータ15、第2予熱ヒータ16、及びコントローラ31を備えている。造形タンク移動機構14は、X方向に造形タンク10を移動させることができる。造形タンク移動機構14は、造形タンク10、作業テーブル5、及び昇降装置6を一体として移動させることができる。造形タンク10、作業テーブル5、及び昇降装置6は、例えばフレーム17によって連結されている。フレーム17は、第1支持部材17a及び第2支持部材17bを含んでもよい。
第1支持部材17aは、造形タンク10の周囲に配置されて、Z方向に延在していてもよい。第1支持部材17aの上端部は、例えば張出板12に連結されている。造形タンク10は、例えば張出板12を介して、第1支持部材17aによって支持されている。第2支持部材17bは、フレーム17の底部を形成していてもよい。第2支持部材17bは、第1支持部材17aの下端部同士を連結している。第2支持部材17bは、例えば昇降装置6を支持している。作業テーブル5は、例えば上下方向部材6aに支持され、昇降装置6を介して第2支持部材17bによって支持されている。
造形タンク移動機構14は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含んでもよい。造形タンク移動機構14は、一対のガイドレール14aを備えていてもよい。一対のガイドレール14aは、図2(a)及び図2(b)に示されるように、Y方向に離間して、X方向に延在している。一対のガイドレール14aは、例えば真空チャンバ4の底板上に配置されていてもよい。
造形タンク移動機構14は、駆動源14bを備えていてもよい。駆動源14bとしては、例えば電動モータを用いることができる。電動モータの出力軸には、ピニオンが設けられ、一方のガイドレール14aにはピニオンと噛み合う歯形(ラック)が設けられている。駆動源14bは、例えばフレーム17の底部に取り付けられている。また、フレーム17には、他方のガイドレール14aに沿って回転移動する従動ローラが取り付けられていてもよい。電動モータが駆動されてピニオンが回転して、フレーム17、昇降装置6、作業テーブル5及び造形タンク10が一体として、X方向に移動できる。造形タンク移動機構14による移動方向は、X方向に限定されず、Y方向でもよく、X方向及びY方向に対して傾斜する方向でもよい。造形タンク移動機構14は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構を含むものに限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、X方向において、電子線照射装置8の両側に配置されている。例えば、第2予熱ヒータ16が存在する側から、第1予熱ヒータ15が存在する側へ、造形タンク10が移動する場合には、第1予熱ヒータ15が存在する側が前側であり、第2予熱ヒータ16が存在する側が後側となる。電子線照射装置8の位置を中心とした場合に、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、X方向において、電子線照射装置8より外側に配置されている。第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、原料タンク11の吐出口11aより外側に配置されている。X方向において、図示右側から左側に向かって、第2予熱ヒータ16、吐出口11a、電子線照射装置8、吐出口11a、第1予熱ヒータ15の順で配置されている。
図1に示されるように、吐出口11aは、X方向において、電子ビームの照射領域Dに隣接して配置されている。第1予熱ヒータ15は、X方向において吐出口11aに隣接して配置されていてもよい。第2予熱ヒータ16は、X方向において吐出口11aに隣接して配置されていてもよい。
図3(a)及び図3(b)に示されるように、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、粉末床Aを覆うように配置されていてもよい。第1予熱ヒータ15の大きさは平面視において、粉末床Aの大きさと一致していてもよく、粉末床Aよりも大きくてもよい。第1予熱ヒータ15は、平面視において、造形タンク10の側壁10aによって囲まれた領域に一致していてもよく、側壁10aによって囲まれた領域より大きくてもよい。第2予熱ヒータ16の大きさは、第1予熱ヒータ15の大きさと同様である。
第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、粉末床Aの表面2aのうち、所定の領域を除き、全面積を覆うように配置されていてもよい。第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、粉末床Aの表面2aのうち、X方向において、電子ビームの照射領域D及び吐出口11aの下方領域を除き、全面積を覆うように配置されていてもよい。
第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、例えば板状を成している。第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、例えば電気抵抗による発熱体を含んでもよい。第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、ランプヒータを含んでもよい。第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16は、金属粉末2を予熱することで、粉末床Aの表面2aを仮焼結することができる。
図4に示されるコントローラ31は、造形装置1の装置全体の制御を司る制御部である。コントローラ31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータである。コントローラ31は、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを含む。コントローラ31は、演算部32及びメモリ33を含む。コントローラ31は、電子線照射装置8、粉末供給装置7、昇降装置6、造形タンク移動機構14、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16と電気的に接続されている。コントローラ31は、各種指令信号を生成できる。メモリ33は、各種制御に必要なデータを保存できる。
演算部32は、電子線照射装置8に指令信号を送信して、電子ビームの照射時期、照射位置等の制御(照射制御)を行う。演算部32は、金属粉末2を溶融させる際の電子ビームの照射制御を行う。演算部32は、粉末供給装置7に指令信号を送信して、金属粉末2の供給時期、供給量を制御することができる。演算部32は、粉末塗布機構に指令信号を送信して、粉末塗布機構の動作時期等の制御を行ってもよい。
演算部32は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク移動機構14を制御できる。演算部32は、造形タンク10の移動開始時期を制御できる。演算部32は、造形タンク10の移動時間、移動速度を制御できる。演算部32は、造形タンク10の停止位置を制御してもよい。演算部32は、造形タンク10の停止時間を制御できる。停止時間は、第1予熱ヒータ15の位置で、造形タンク10を停止させた状態を継続している時間、及び第2予熱ヒータ16の位置で、造形タンク10を停止させた状態を継続している時間を含む。コントローラ31は、造形タンク10の停止時間を制御して、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16による予熱時間を調整できる。
演算部32は、第1予熱ヒータ15に指令信号を送信して、第1予熱ヒータ15の温度、運転開始、運転停止等を制御してもよい。演算部32は、第2予熱ヒータ16に指令信号を送信して、第2予熱ヒータ16の温度、運転開始、運転停止等を制御してもよい。
図5(a)では、造形タンク10は例えばスタート位置に配置されている。例えば、左側の側壁10aの内面側の位置が、電子線照射装置8の直下に存在している位置をスタート位置とすることができる。スタート位置では、例えば右側の側壁10aの内面側の位置が、電子線照射装置8の直下に存在していてもよい。その他の位置をスタート位置としてもよい。
図5(b)では、造形タンク10は第1停止位置に配置されている。例えば、第1予熱ヒータ15の直下に造形タンク10が存在する位置を第1停止位置とすることができる。第1停止位置では、粉末床Aの表面2aは、第1予熱ヒータ15によって覆われている。このとき、粉末床Aの表面2aの全面積は、第1予熱ヒータ15によって覆われていてもよい。
コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10をスタート位置から第1停止位置まで移動させることができる。コントローラ31は、造形タンク10を移動させながら、電子線照射装置8に指令信号を送信して、粉末床Aに電子ビームを照射することができる。コントローラ31は造形タンク10を移動させながら、第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱させることができる。コントローラ31は、第1予熱ヒータ15に指令信号を送信して、第1予熱ヒータ15のON、OFFを制御してもよい。コントローラ31は、造形タンク10が第1停止位置で停止しているときに、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させることができる。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10の移動を再開させることができる。ここでの造形タンク10の移動の向きは、スタート位置から第1停止位置へ向かう向き(例えば左向き)とは反対側の向き(例えば右向き)とすることができる。
図5(c)では、X方向において、造形タンク10の中央部は、電子線照射装置8の直下近傍に配置されている。図5(d)では、造形タンク10は第2停止位置に配置されている。例えば、第2予熱ヒータ16の直下に造形タンク10が存在する位置を第2停止位置とすることができる。第2停止位置では、粉末床Aの表面2aは、第2予熱ヒータ16によって覆われている。このとき、粉末床Aの表面2aの全面積は、第2予熱ヒータ16によって覆われていてもよい。
コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10をスタート位置から第2停止位置まで移動させることができる。コントローラ31は、造形タンク10を移動させながら、電子線照射装置8に指令信号を送信して、粉末床Aに電子ビームを照射することができる。コントローラ31は造形タンク10を移動させながら、第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱させることができる。コントローラ31は、第2予熱ヒータ16に指令信号を送信して、第2予熱ヒータ16のON、OFFを制御してもよい。コントローラ31は、造形タンク10が第2停止位置で停止しているときに、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させることができる。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10の移動を再開させることができる。ここでの造形タンク10の移動の向きは、第1停止位置から第2停止位置へ向かう向き(例えば右向き)とは反対側の向き(例えば左向き)とすることができる。
コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10を第2停止位置から第1停止位置まで移動させることができる。コントローラ31は、造形タンク10を移動させながら、電子線照射装置8に指令信号を送信して、粉末床に電子ビームを照射することができる。
次に、積層造形物の製造方法について説明する。図6~図8は、積層造形物の製造方法の手順を示すフローチャートである。図6は、準備工程から造形タンクを第1停止位置で停止させる工程までを示している。図7は、第1予熱ヒータによって粉末床Aを予熱する工程から、造形タンクを第2停止位置で停止させる工程までを示している。図8は、第2予熱ヒータによって粉末床Aを予熱する工程から、造形タンクを第1停止位置で停止させる工程までを示している。
まず、準備工程を行う(ステップS1)。ここでは、作業テーブル5上に金属粉末2を供給して、作業テーブル5上に粉末床Aを形成する。コントローラ31は、造形タンク移動機構14及び粉末供給装置7に指令信号を送信して、造形タンク10を移動させながら、作業テーブル5上に金属粉末2を供給することができる(粉末供給工程)。例えば1層目の金属粉末2を形成することができる。
次に、粉末床Aを予熱する(ステップS2、予熱工程)。コントローラ31は、第2予熱ヒータ16に指令信号を送信して、第2予熱ヒータを作動させて、粉末床Aを予熱することができる。ここでは、コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信し、造形タンク10を移動させながら粉末床Aを予熱することができる。例えば、造形タンク10を第2予熱ヒータ16の直下に移動させながら、第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱することができる。コントローラ31は、造形タンク10を第2予熱ヒータ16の直下で停止させて、予熱時間を調節してもよい。コントローラ31は、造形タンク10が第2予熱ヒータ16の直下で停止しているときに、作業テーブル5を降下させてもよい。これにより、2層目の金属粉末2が配置されるスペースを確保することができる。コントローラ31は、例えばZ方向において、作業テーブル5と第2予熱ヒータ16との距離を変更して、粉末床Aに伝達される熱量を調整してもよい。
次に、造形タンク10をスタート位置に配置する(ステップS3)。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10を移動させて、図9(a)に示されるスタート位置に配置することができる。
次に、電子ビームの照射を開始する(ステップS4、エネルギ付与工程)。コントローラ31は、電子線照射装置8に指令信号を送信して、電子ビームを照射して、金属粉末2を溶融させることができる。電子ビームを照射する位置は、造形物3の形状に応じて予め設定されている。電子ビームを照射する位置に関するデータは、例えばメモリ33に記憶されている。コントローラ31は、造形タンク10を移動させながら、電子ビームを照射させることができる。
次に、造形タンク10を移動させながら金属粉末2を供給する(ステップS5)。ここでは、コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、図9(b)に示されるように、造形タンク10を第1停止位置に向けて(第1の向きに)移動させる。造形タンク10の移動中において、電子線照射装置8による電子ビームの照射は継続されている(第1エネルギ付与工程)。コントローラ31は、粉末供給装置7に指令信号を送信して、電子ビームが照射された粉末床Aの表面2aの上に新たな金属粉末2を供給して、新たな表面2aを形成する(第1粉末供給工程)。例えば、造形タンク10の進行方向において、電子線照射装置8より前方に配置された原料タンク11から金属粉末2を供給することができる。図9(b)において、造形タンク10の進行方向は、左向きであり、電子線照射装置8より前方に配置された左側の原料タンク11から金属粉末2を供給することができる。これにより、電子ビームが照射された粉末床Aの部分の上に新たな金属粉末2を供給できる。例えば、1層目の金属粉末2に対して電子ビームを照射している状態において、電子ビームが照射された1層目の金属粉末2の部分の上に、金属粉末2が供給されて2層目が形成される。
また、造形タンク10の移動中において、第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱する(ステップS6、第1予熱工程)。コントローラ31は、第1予熱ヒータ15に指令信号を送信して、第1予熱ヒータを作動させて、粉末床Aを予熱することができる。造形タンク10が移動して、第1予熱ヒータ15の直下に存在する粉末床Aは、第1予熱ヒータ15によって予熱される。
造形タンク10を移動させて、予定された位置での電子ビームの照射を行った後、電子ビームの照射を停止し、造形タンク10が所定の位置まで移動したら、金属粉末2の供給を停止する(ステップS7)。コントローラ31は、予定された位置での電子ビームの照射が終了したら、電子ビームの照射を停止させる。コントローラ31は、造形タンク10の全ての領域に金属粉末2を供給したら、金属粉末2の供給を停止させる。造形タンク10の移動、及び第1予熱ヒータ15による予熱は継続されている。
次に、造形タンク10を第1停止位置で停止させる(ステップS8)。造形タンク10の移動を継続し、図9(c)に示されるように、造形タンク10が第1停止位置に到達したら、造形タンク10の移動を停止させる。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10を停止させることができる。コントローラ31は、造形タンク移動機構14における電動モータの駆動を停止させることができる。
次に、図7に示されるステップS11に進む。ステップS11では、造形タンク10が第1停止位置で停止している状態において、第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱する(第1予熱工程)。コントローラ31は、造形タンク10が第1停止位置で停止している時間を調整することができる。これにより、第1予熱ヒータ15による予熱時間を調整することができる。第1予熱ヒータ15による予熱時間は、造形タンク10が第1停止位置まで移動している時間、造形タンク10が第1停止位置で停止している時間、造形タンク10が第1停止位置から移動して第2停止位置に向かって移動している時間を含み、粉末床が第1予熱ヒータ15の直下に存在しなくなるまでの時間を含んでもよい。造形タンク10は、造形タンク10の停止時間を制御して、予熱時間を調整できる。コントローラ31は、造形タンク10の第1停止位置での停止時間を延長することで、予熱時間を増加させてもよい。コントローラ31は、造形タンク10の第1停止位置での停止時間を短縮することで、予熱時間を減少させてもよい。
次に、図9(d)に示されるように、第1停止位置において、作業テーブル5を降下させる(ステップS12)。コントローラ31は、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させることができる。これにより、3層目の金属粉末2が配置されるスペースを確保することができる。コントローラ31は、例えばZ方向において、作業テーブル5と第1予熱ヒータ15との距離を変更して、粉末床Aに伝達される熱量を調整してもよい。
次に、造形タンク10の移動を再開させる(ステップS13)。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10の移動を再開させる。コントローラ31は、第1停止位置での停止時間が経過したら、造形タンク10を逆向きに(第2の向きに)移動させる。造形タンク移動機構14は、第1停止位置から第2停止位置に向かって造形タンク10を移動させる。
次に、電子ビームの照射を再開する(ステップS14、エネルギ付与工程)。コントローラ31は、電子線照射装置8に指令信号を送信して、電子ビームを照射して、金属粉末2を溶融させる。コントローラ31は、図9(e)に示されるように、造形タンク10を第2停止位置に向けて移動させながら、予め設定されている位置に電子ビームを照射する(第2エネルギ付与工程)。電子線照射装置8は、電子線照射装置8の直下に存在する粉末床Aの位置に電子ビームを照射する。
次に、造形タンク10を第2停止位置に向けて移動させながら金属粉末2を供給する(ステップS15、第2粉末供給工程)。ここでは、コントローラ31は、粉末供給装置7に指令信号を送信して、粉末床Aの上に金属粉末2を供給して、新たな粉末床Aを形成する。例えば、造形タンク10の進行方向において、電子線照射装置8より前方に配置された原料タンク11から金属粉末2を供給することができる。図9(e)において、造形タンク10の進行方向は、右向きであり、電子線照射装置8より前方に配置された右側の原料タンク11から金属粉末2を供給することができる。これにより、電子ビームが照射された粉末床Aの部分の上に金属粉末2を供給できる。例えば、2層目の金属粉末2に対して電子ビームを照射している状態において、電子ビームが照射された2層目の金属粉末2の部分の上に、金属粉末2が供給されて3層目が形成される。
また、造形タンク10の移動中において、第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱する(ステップS16、第2予熱工程)。コントローラ31は、第2予熱ヒータ16に指令信号を送信して、第2予熱ヒータ16を作動させて、粉末床Aを予熱することができる。造形タンク10が移動して、第2予熱ヒータ16の直下に存在する粉末床Aは、第2予熱ヒータ16によって予熱される。
造形タンク10を移動させて、予定された位置での電子ビームの照射を行った後、電子ビームの照射を停止し、造形タンク10が所定の位置まで移動したら、金属粉末2の供給を停止する(ステップS17)。コントローラ31は、予定された位置での電子ビームの照射が終了したら、電子ビームの照射を停止させる。コントローラ31は、造形タンク10の全ての領域に金属粉末2を供給したら、金属粉末2の供給を停止させる。造形タンク10の移動、及び第2予熱ヒータ16による予熱は継続されている。
次に、造形タンク10を第2停止位置で停止させる(ステップS18)。造形タンク10の移動を継続し、図9(f)に示されるように、造形タンク10が第2停止位置に到達したら、造形タンク10の移動を停止させる。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10を停止させる。
次に、図8に示されるステップS21に進む。ステップS21では、造形タンク10が第2停止位置で停止している状態において、第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱する(第2予熱工程)。コントローラ31は、造形タンク10が第2停止位置で停止している時間を調整することができる。これにより、第2予熱ヒータ16による予熱時間を調整することができる。第2予熱ヒータ16による予熱時間は、造形タンク10が第2停止位置まで移動している時間、造形タンク10が第2停止位置で停止している時間、造形タンク10が第2停止位置から移動して第1停止位置に向かって移動している時間を含み、粉末床が第2予熱ヒータ16の直下に存在しなくなるまでの時間を含んでもよい。造形タンク10は、造形タンク10の停止時間を制御して、予熱時間を調整できる。コントローラ31は、造形タンク10の第2停止位置での停止時間を延長することで、予熱時間を増加させてもよい。コントローラ31は、造形タンク10の第1停止位置での停止時間を短縮することで、予熱時間を減少させてもよい。
次に、第1停止位置において、作業テーブル5を降下させる(ステップS22)。コントローラ31は、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させることができる。これにより、4層目の金属粉末2が配置されるスペースを確保することができる。
次に、造形タンク10の移動を再開させる(ステップS23)。コントローラ31は、造形タンク移動機構14に指令信号を送信して、造形タンク10の移動を再開させる。コントローラ31は、第2停止位置での停止時間が経過したら、造形タンク10を第2停止位置から第1停止位置に向かって移動させる。
次に、電子ビームの照射を再開する(ステップS24、エネルギ付与工程)。コントローラ31は、電子線照射装置8に指令信号を送信して、電子ビームを照射して、金属粉末2を溶融させる。コントローラ31は、図9(b)に示されるように、造形タンク10を第1停止位置に向けて移動させながら、予め設定されている位置に電子ビームを照射させる(第1エネルギ付与工程)。電子線照射装置8は、電子線照射装置8の直下に存在する粉末床Aの位置に電子ビームを照射する。
次に、造形タンク10を第1停止位置に向けて移動させながら金属粉末2を供給する(ステップS25、第1粉末供給工程)。ここでは、ステップS5と同様の手順で行う。例えば、3層目の金属粉末2に対して電子ビームを照射している状態において、電子ビームが照射された3層目の金属粉末2の部分の上に、金属粉末2が供給されて4層目が形成される。
また、造形タンク10の移動中において、第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱する(ステップS26、第1予熱工程)。ここでは、ステップS6と同様の手順で行う。
造形タンク10を移動させて、予定された位置での電子ビームの照射を行った後、電子ビームの照射を停止し、造形タンク10が所定の位置まで移動したら、金属粉末2の供給を停止する(ステップS27)。ここでは、ステップS7と同様の手順で行う。
次に、造形タンク10を第1停止位置で停止させる(ステップS28)。ここでは、ステップS8と同様の手順で行う。
そして、図7に示されるステップS11からステップS18までの工程と、図8に示されるステップS21からステップS28までの工程と、を交互に実行する。造形物3の全層について造形を行い、造形物3の造形を完了する。
造形装置1によれば、X方向に造形タンク10を移動させながら、粉末にエネルギを付与して粉末を溶融できる。造形装置1によれば、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16の位置に造形タンク10を移動させて、粉末床を予熱できる。コントローラ31は、造形タンク10の移動を制御して、予熱時間を調整できる。
造形装置1によれば、造形タンク10の停止時間を制御して、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16による予熱時間を調整できる。コントローラ31は、造形タンク10の停止時間を延長して、予熱時間を増大させることができ、造形タンク10の停止時間を短縮して、予熱時間を減少させることができる。
造形装置1では、造形タンク10の移動方向において、電子線照射装置8、原料タンク11、第1予熱ヒータ15の順に隣接して配置されているので、造形タンク10を移動させながら、電子ビームを照射し、電子ビームが照射された部分に、金属粉末2を供給できる。これにより、電子ビームによって加熱された部分の金属粉末2の熱を、その上に供給された金属粉末2に伝達することができる。電子ビームによって加熱された部分の上に新たな金属粉末2が供給されるので、電子ビームによって加熱された部分からの輻射熱による熱損失を抑制できる。また、造形装置1では、新たに金属粉末2が供給された直後に、第1予熱ヒータ15によって金属粉末2を予熱できる。このとき、造形装置1では、造形タンク10の移動方向において、電子ビームの照射位置の前方に配置された第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱すると共に、電子ビームの照射位置の後方に配置された第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱し、保温することができる。
造形装置1では、造形タンク10の移動方向において、電子線照射装置8、原料タンク11、第2予熱ヒータ16の順に隣接して配置されているので、造形タンク10を移動させながら、電子ビームを照射し、電子ビームが照射された部分に、金属粉末2を供給できる。これにより、電子ビームによって加熱された部分の金属粉末2の熱を、その上に供給された金属粉末2に伝達することができる。電子ビームによって加熱された部分の上に新たな金属粉末2が供給されるので、電子ビームによって加熱された部分からの輻射熱による熱損失を抑制できる。また、造形装置1では、新たに金属粉末2が供給された直後に、第1予熱ヒータ15によって金属粉末2を予熱できる。このとき、造形装置1では、造形タンク10の移動方向において、電子ビームの照射位置の前方に配置された第2予熱ヒータ16によって粉末床Aを予熱すると共に、電子ビームの照射位置の後方に配置された第1予熱ヒータ15によって粉末床Aを予熱し、保温することができる。
造形装置1では、X方向において、電子ビームの照射領域Dに隣接して、吐出口11aが配置されている。造形装置1では、X方向において、吐出口11aに隣接して、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16が配置されている。これにより、造形タンク10の移動方向において、電子線照射装置8,原料タンク11、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16をコンパクトに配置して、真空チャンバ4の大型化を抑制できる。
造形装置1によれば、造形タンク10を往復させて、電子ビームの照射、金属粉末2の供給、金属粉末2の予熱を繰り返し実施できる。
造形装置1では、造形タンク10の移動方向において、電子ビームの照射領域Dの両側に第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16が配置されている。粉末床Aの表面2aは、造形タンク10の移動範囲において、略全ての領域において、第1予熱ヒータ15又は第2予熱ヒータ16によって覆われている。これにより、造形タンク10の移動範囲において、造形タンク10がどの位置に存在しても、常に粉末床Aが予熱されるようにすることができる。
造形装置1では、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16を用いて、粉末床Aの表面2aを予熱し、所定の温度まで昇温された粉末床Aを保温することができる。造形装置1では、造形面の温度を高温で維持できるので、造形物3の熱変形を緩和することができる。なお、「造形面」は、粉末床Aの表面2aにおいて、エネルギが付与されて溶融又は焼結されて、造形物3になる面を含む。造形装置1では、造形面の温度を高温で維持できるので、粉末床Aからのスモークの発生を抑制できる。造形装置1では、造形物3の熱変形を緩和すると共に、粉末床Aからのスモークの発生を抑制することで、造形物3の品質の向上を図ることができる。
造形装置1では、造形タンク10を移動させながら、粉末床Aに対して、電子ビームの照射、金属粉末2の供給及び予熱を並行して行うことができる。造形装置1では、全体として、造形物3の製造時間の短縮が可能となる。
本開示は、前述した実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。
上記の造形装置では、造形タンク10をX方向に移動させているが、例えばX方向及びY方向に造形タンク10を移動させる造形タンク移動機構を備える造形装置でもよい。例えば1つの電子銃を備える造形装置において、電子ビームを照射可能な領域を拡大できる。また、造形装置は、複数の電子銃を備えるものでもよい。例えば、造形タンク10の移動方向と交差する方向に複数の電子銃を配置してもよい。
上記の造形装置では、複数の原料タンク11を備える構成としているが、造形タンク10の移動方向において片側のみ原料タンク11が配置されている構成でもよい。
造形装置1は、例えば造形タンク10の側方または下方から加熱する他の加熱部を備えていてもよい。例えば、造形タンク10の側壁外側または作業テーブル5に、誘導加熱式又は抵抗加熱式のヒータを設け、そのヒータを用いて粉末を予熱、保温してもよい。
上記の実施形態では、電子ビームを照射して、粉末を溶融しているが、粉末に照射されるビームは、電子ビームに限定されず、その他のエネルギービーム(例えばレーザ)でもよい。造形装置1は、例えば、レーザ発信器(熱源照射装置)を備え、レーザビームを照射して、粉末を溶融するものでもよい。レーザビームを照射する造形装置は、真空チャンバ4に代えて、不活性ガス雰囲気を保持するためのチャンバを備えてもよい。また、レーザビームを照射する熱源照射装置は、粉末を溶融させる際の溶融用加熱部として機能する。この場合の熱源照射装置は、例えば、レーザビームを偏光させるミラー及びミラーを動かすための駆動部や集光レンズ等の光学部品を含む構成としてもよい。
上記の実施形態では、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16を用いて粉末床Aを予熱しているが、第1予熱ヒータ15及び第2予熱ヒータ16による予熱の他に、電子ビームを照射して粉末床Aを予熱してもよく、レーザビームを照射して粉末床Aを予熱してもよく、その他の方法を用いて予熱してもよい。