<第1実施形態>
以下、本発明に係るスイッチの駆動回路を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る駆動回路は、回転電機の制御システムを構成する。
図1に示すように、制御システムは、直流電源10、電力変換器としてのインバータ20、回転電機30及び制御装置40を備えている。回転電機30の巻線31は、インバータ20を介して直流電源10に接続されている。本実施形態では、直流電源10の出力電圧として、蓄電池の出力電圧を昇圧する昇圧コンバータの出力電圧を想定している。昇圧コンバータの出力電圧は、可変設定される。なお、直流電源10及びインバータ20の間には、平滑コンデンサ11が設けられている。また、回転電機30としては、例えば永久磁石界磁型の同期機が用いられればよい。
インバータ20は、3相分の上,下アームスイッチSWを備えている。各相の上,下アームスイッチSWの接続点には、回転電機30の巻線31の第1端が接続されている。各相の巻線31の第2端は、中性点で接続されている。本実施形態では、インバータ20のスイッチSWとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられ、より具体的にはIGBTが用いられている。各スイッチSWには、フリーホイールダイオードFWDが逆並列に接続されている。
制御装置40は、周知のマイクロコンピュータを主体として構成されている。制御装置40は、回転電機30の制御量をその指令値に制御すべく、各相において、上アームのスイッチSWと下アームのスイッチSWとを交互にオン状態とする。制御量は、例えばトルクである。制御装置40は、スイッチSWの駆動信号INとして、オン状態に切り替える指令であるオン指令、又はオフ状態に切り替える指令であるオフ指令をインバータ20の駆動回路Drに対して出力する。駆動回路Drは、各スイッチSWに対応して個別に設けられている。駆動回路Drは、制御装置40からの駆動信号INを取得し、取得した駆動信号INに基づいて、スイッチSWを駆動する。
続いて図2を用いて、スイッチSWの駆動回路Drについて説明する。
駆動回路Drは、ドライブIC50を備えている。ドライブIC50は、ゲート駆動部51と、ゲート電圧検出部52と、センス電圧検出部53及び異常判定部54を備えている。ゲート駆動部51には、ドライブIC50の第1端子T1を介して充放電用抵抗体60の第1端が接続されている。充放電用抵抗体60の第2端には、スイッチSWのゲートが接続されている。ゲート駆動部51により、スイッチSWのゲートにゲート電圧Vgatが印加される。スイッチSWのゲートには、検出用抵抗体61を介してドライブIC50の第2端子T2が接続されている。第2端子T2には、ゲート電圧検出部52が接続されている。ゲート電圧検出部52は、第2端子T2を介してゲート電圧Vgatを検出する。
スイッチSWは、自身に流れるコレクタ電流と相関を有する微小電流が流れるセンス端子Stを備えている。センス端子Stには、センス抵抗体62の第1端が接続され、センス抵抗体62の第2端には、スイッチSWのエミッタが接続されている。センス抵抗体62の第1端には、ドライブIC50の第3端子T3を介してセンス電圧検出部53が接続されている。センス端子Stに流れる微少電流により、センス抵抗体62に電圧降下が生じる。本実施形態では、スイッチSWのエミッタ電位に対するセンス抵抗体62の第1端側の電位を、センス電圧Vserと称すこととする。スイッチSWのエミッタには、ドライブIC50の第4端子T4が接続されている。センス電圧検出部53は、第4端子T4の電位を基準として、センス抵抗体62の両端の電位差としてのセンス電圧Vserを検出する。本実施形態では、スイッチSWのエミッタ電位をゼロとし、センス抵抗体62の第1端側の電位がエミッタ電位よりも高い場合のセンス電圧Vserが正と定義されている。
ゲート駆動部51は、制御装置40から出力された駆動信号INを、ドライブIC50の第5端子T5を介して取得する。ゲート駆動部51は、取得した駆動信号INがオン指令であると判定した場合、充電処理により、スイッチSWをオン状態に切り替える。充電処理は、充放電用抵抗体60を介してスイッチSWのゲートに充電電流を供給する処理である。充電処理によれば、スイッチSWのゲート電圧Vgatが閾値電圧Vgth以上となる。その結果、スイッチSWがオフ状態からオン状態に切り替えられる。ゲート駆動部51は、駆動信号INがオフ指令であると判定した場合、放電処理により、スイッチSWをオフ状態に切り替える。放電処理は、充放電用抵抗体60を介してスイッチSWのゲートから放電電流を放出させる処理である。放電処理によれば、スイッチSWのゲート電圧Vgatが閾値電圧Vgth未満となる。その結果、スイッチSWがオン状態からオフ状態に切り替えられる。
異常判定部54は、ゲート電圧検出部52とセンス電圧検出部53とに接続されており、ゲート電圧検出部52から出力されたゲート比較結果信号Egatと、センス電圧検出部53から出力されたセンス比較結果信号Eserとが入力される。異常判定部54は、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとに基づいて、スイッチ短絡の発生を判定する異常判定処理を実施する。異常判定部54は、ゲート駆動部51に接続されており、スイッチSWの短絡異常を示す短絡異常信号Eswをゲート駆動部51に出力する。ゲート駆動部51は、短絡異常信号Eswを取得することで、スイッチSWがオン状態の場合には、スイッチSWをオフ状態に切り替えることができる。また、ゲート駆動部51は、スイッチSWがオフ状態の場合には、オン指令を取得した場合でも、スイッチSWをオン状態に切り替えないようにすることができる。
図3を用いて、ゲート電圧検出部52、センス電圧検出部53及び異常判定部54について説明する。
ゲート電圧検出部52は、ゲート判定用電源70、微分回路71及びオペアンプ72を備えている。ゲート判定用電源70は、ゼロよりも大きい所定のゲート判定用電圧Vjgを有する電圧源である。微分回路71は、微分用抵抗体73と、コンデンサ74とにより構成されるハイパスフィルタである。オペアンプ72の非反転入力端子72aは、ゲート判定用電源70に接続されている。また、オペアンプ72の反転入力端子72bは、微分回路71を介してスイッチSWのゲートに接続されている。なお、本実施形態において、ゲート判定用電圧Vjgが「ゲート判定値」に相当する。
そのため、オペアンプ72の反転入力端子72bには、スイッチSWのゲート電圧Vgatが微分回路71により微分されたゲート電圧Vgatの時間変化率(以下、単に時間変化率という)Dgatが入力される。オペアンプ72は、時間変化率Dgatがゲート判定用電圧Vjg以下の場合に論理Lとなり、ゲート判定用電圧Vjgよりも大きくなった場合に論理Hとなるゲート比較結果信号Egatを、出力端子72cから異常判定部54に出力する。
センス電圧検出部53は、センス判定用電源75、オペアンプ76及びフィルタ回路77を備えている。センス判定用電源75は、ゼロよりも大きい所定のセンス判定用電圧Vjsを有する電圧源である。オペアンプ76の非反転入力端子76aは、センス判定用電源75に接続されている。また、オペアンプ76の反転入力端子76bは、センス抵抗体62に接続されている。なお、本実施形態において、センス判定用電圧Vjsが「センス判定値」に相当する。
そのため、オペアンプ76の反転入力端子72bには、スイッチSWのセンス電圧Vserが入力される。オペアンプ76は、センス電圧Vserがセンス判定用電圧Vjs以下の場合に論理Lとなり、センス判定用電圧Vjsよりも大きくなった場合に論理Hとなる信号を、出力端子76cからフィルタ回路77に出力する。
フィルタ回路77は、制御装置40から駆動信号INが入力され、駆動信号INに基づいてオン指令がなされたタイミングを取得する。フィルタ回路77は、オン指令がなされてから所定の遅延期間Hsが経過するタイミングまでは、オペアンプ76から入力される信号に関わらず論理Lとなり、該タイミングの経過後においてオペアンプ76から入力される信号と同一論理となるセンス比較結果信号Eserを異常判定部54へ出力する。なお、本実施形態のフィルタ回路77は、遅延期間Hsを変更する機能を有する。本実施形態において、遅延期間Hsが「判定期間」に相当する。
異常判定部54は、論理積回路78及び判定部79を備えている。論理積回路78の第1入力端子78aは、ゲート電圧検出部52に接続されており、ゲート比較結果信号Egatが入力されている。論理積回路78の第2入力端子78bは、センス電圧検出部53に接続されており、センス比較結果信号Eserが入力されている。論理積回路78は、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとが共に論理Hとなっている場合に論理Hとなり、それ以外の場合に論理Lとなる論理積信号Eandを、出力端子78cから判定部79に出力する。
判定部79は、論理積回路78から入力される論理積信号Eandに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する。上述したように、論理積信号Eandは、ゲート比較結果信号Egatに基づいて出力される。そのため、判定部79は、ゲート比較結果信号Egatに基づいて、つまり時間変化率Dgatに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する、ということができる。
また、論理積信号Eandは、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとに基づいて設定される。そのため、判定部79は、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとに基づいて、つまり、時間変化率Dgatとセンス電圧Vserとに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する、ということができる。
具体的には、論理積信号Eandは、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとの論理積信号である。そのため、判定部79は、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとが共に論理Hとなった場合、つまり、時間変化率Dgatがゲート判定用電圧Vjgよりも大きくなっているとともに、センス電圧Vserが、オン指令がなされてから遅延期間Hsが経過するタイミングにおいて、センス判定用電圧Vjsよりも大きくなっている場合に、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する。
判定部79は、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定した場合に、スイッチSWの短絡異常を示す短絡異常信号Eswをゲート駆動部51に出力する。また、判定部79は、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定した場合に、設定変更信号Cngをフィルタ回路77に出力する。フィルタ回路77は、判定部79から設定変更信号Cngを取得すると、設定変更信号Cngを取得する前に比べて、遅延期間Hsを短い側、例えば遅延期間Hsをゼロに変更する。なお、判定部79が提供する機能は、例えば、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実施するコンピュータ、ハードウェア、又はそれらの組み合わせによって提供することができる。
図4を用いて本実施形態の異常判定処理について説明する。ここで、図4(a)は、ゲート電圧Vgatの推移を示し、図4(b)は、異常判定信号Errの推移を示す。ここで、異常判定信号Errは、ゲート電圧Vgatに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する信号である。異常判定信号Errは、ゲート電圧Vgatが所定の判定電圧Vjr以下の場合に論理Lとなり、判定電圧Vjrよりも大きくなった場合に論理Hとなる。ここで、判定電圧Vjrは、ゲート電圧Vgatに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定するための閾値である。
また、図4(c)は、時間変化率Dgatの推移を示し、図4(d)は、ゲート比較結果信号Egatの推移を示し、図4(e)は、センス電圧Vserの推移を示し、図4(f)は、センス比較結果信号Eserの推移を示し、図4(h)は、短絡異常信号Eswの推移を示す。なお、図4において、破線で示すグラフは、スイッチSWが正常である場合の各値の推移を示す。また、実線で示すグラフは、スイッチSWが短絡異常である場合の各値の推移を示す。
図示される例では、オン指令がなされる時刻t1において、異常判定処理が開始される。これにより、ゲート電圧Vgatが上昇し始める。その後、時刻t2において、ゲート電圧Vgatが閾値電圧Vgthに到達することで、センス電圧Vserが上昇し始める。ここで、閾値電圧Vgthとは、スイッチSWがオフ状態からオン状態に切り替わる電圧のことであり、詳細には、スイッチSWの一対の主端子間に基準電流(例えば1mA)が流れた場合のゲート電圧Vgatのことである。
スイッチSWが正常である場合、その後、時刻t5においてゲート電圧Vgatがミラー電圧Vmilに到達し、時刻t6においてミラー期間の終了タイミングとなる。つまり、スイッチSWが正常である場合、ミラー期間が存在し、このミラー期間において、ゲート電圧Vgatが一定のミラー電圧Vmilに維持される。判定電圧Vjrは、ミラー電圧Vmilよりも高い電圧に設定されている。そのため、時刻t1~時刻t6までの遅延期間Hs内において、ゲート電圧Vgatは判定電圧Vjrを超えることはない。
その後、時刻t7においてゲート電圧Vgatがゲート判定用電圧Vjgに到達し、その後、時刻t8においてゲート電圧Vgatが直流電源10の出力電圧Vomに到達する。上述したように、スイッチSWが正常である場合、ゲート電圧Vgatの上昇が、時刻t1~時刻t5までの期間と、時刻t6~時刻t8までの期間とに分割されている。そのため、スイッチSWが正常である場合、時間変化率Dgatの上昇が抑制され、時間変化率Dgatはゲート判定用電圧Vjgを超えることはなく、ゲート比較結果信号Egatは、論理Lに維持される。
一方、スイッチSWに短絡異常が発生している場合、ミラー期間が存在せず、ゲート電圧Vgatは、時刻t2後、すぐに上昇し、t3に判定電圧Vjrに到達し、その後、時刻t4に出力電圧Vomに到達する。そのため、異常判定信号Errは、時刻t3において論理Lから論理Hへと切り替わる。
また、スイッチSWに短絡異常が発生している場合、ゲート電圧Vgatの上昇が、時刻t1~時刻t4までの期間に集中する。そのため、スイッチSWに短絡異常が発生している場合、時間変化率Dgatは急峻に上昇し、時刻t2にゲート判定用電圧Vjgに到達する。そのため、ゲート比較結果信号Egatは、時刻t2において論理Lから論理Hへと切り替わる。
したがって、時間変化率Dgatを用いてスイッチSWの短絡異常を判定することで、ゲート電圧Vgatを用いてスイッチSWの短絡異常を判定する場合に比べて、スイッチSWに短絡異常が発生していることを早期に判定することができる。
本実施形態の異常判定処理では、時間変化率Dgatとともに、センス電圧Vserに基づいて、スイッチSWの短絡異常を判定する。センス電圧Vserは、ゲート電圧Vgatに比べてスイッチングノイズ等の影響を受けやすく、スイッチSWが正常である場合、センス電圧Vserは、遅延期間Hs内において、スイッチングノイズ等の影響により増減を繰り返す。そのため、センス電圧Vserに基づいてスイッチSWの短絡異常を判定すると、遅延期間Hs内においてセンス電圧Vserがセンス判定用電圧Vjsを超え、スイッチSWの短絡異常を誤判定することがある。本実施形態では、センス比較結果信号Eserは、遅延期間Hsにおいて論理Lに維持されており、スイッチングノイズ等の影響によりスイッチSWの短絡異常が誤判定されることが抑制されている。
その後、時刻t6においてゲート電圧Vgatがミラー電圧Vmilから上昇を開始すると、センス電圧Vserは安定するとともにわずかに減少し、一定の基準電圧Vkに到達する。センス判定用電圧Vjsは、基準電圧Vkよりも高く設定されている。そのため、遅延期間Hs経過後において、センス電圧Vserはセンス判定用電圧Vjsを超えることはなく、センス比較結果信号Eserは、論理Lに維持され、この結果、短絡異常信号Eswも、論理Lに維持される。
一方、スイッチSWに短絡異常が発生している場合、センス電圧Vserは、ゲート電圧Vgatの上昇とともに上昇し、センス電圧Vserはセンス判定用電圧Vjsを超え、最大電圧Vmaxに到達する。そのため、センス比較結果信号Eserは、遅延期間Hs経過後の時刻t6において、論理Lから論理Hへと切り替わり、この結果、短絡異常信号Eswも、時刻t6において、論理Lから論理Hへと切り替わる。
したがって、異常判定部54は、ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとが共に論理Hとなった時刻t6において、スイッチSWの短絡異常を判定する。ゲート比較結果信号Egatとセンス比較結果信号Eserとを用いて、スイッチSWの短絡異常を判定することで、ゲート比較結果信号Egatのみを用いてスイッチSWの短絡異常を判定する場合に比べて、短絡異常を精度よく判定することができる。
スイッチSWの短絡異常が発生していると判定された場合、ゲート駆動部51により、スイッチSWがオン状態に切り替えないように制御される。また、遅延期間Hsが短い側に変更される。そのため、スイッチSWの短絡異常が判定された後に、誤ってスイッチSWがオン状態に切り替えられた場合でも、時刻t6よりも前にスイッチSWの短絡異常を判定することができる。そのため、時刻t6においてスイッチSWの短絡異常が判定される場合に比べて、スイッチSWに流れる短絡電流を抑制することができる。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
・本実施形態では、ゲート電圧Vgatの時間変化率Dgatに基づいてスイッチSWの短絡異常を判定する。スイッチSWの短絡異常の発生時には、スイッチSWのゲート-コレクタ間容量の充電が行われないため、ミラー期間が存在しない。そのため、時間変化率Dgatは、ゲート電圧Vgatよりも急峻に上昇する。したがって、時間変化率Dgatを用いることで、短絡異常と判定されるまでの期間を短縮することができ、スイッチSWの短絡異常を早期に判定することができる。
・本実施形態では、時間変化率Dgatがゲート判定用電圧Vjgよりも大きくなった場合に、ゲート比較結果信号Egatが論理Lから論理Hへと切り替わる。そのため、時間変化率Dgatのみに基づいてスイッチSWの短絡異常を判定すると、ノイズ等により時間変化率Dgatが瞬間的にゲート判定用電圧Vjgを超えた場合に、スイッチSWの短絡異常を誤判定するおそれがある。本実施形態では、時間変化率Dgatとセンス電圧Vserとに基づいて、スイッチSWの短絡異常を判定するので、スイッチSWの短絡異常の誤判定を抑制することができる。
・一方、センス電圧Vserは、ゲート電圧Vgatに比べてスイッチングノイズ等の影響を受けやすく、遅延期間Hs内においてセンス判定用電圧Vjsを超えることがある。そのため、センス電圧Vserに基づいてスイッチSWの短絡異常を判定すると、スイッチSWの短絡異常を誤判定するおそれがある。本実施形態では、遅延期間Hs内においてセンス比較結果信号Eserが論理Lに維持されおり、遅延期間Hsが経過する時刻t6において、センス電圧Vserに基づいてスイッチSWの短絡異常を判定する。したがって、スイッチングノイズ等の影響によるスイッチSWの短絡異常の誤判定を抑制することができる。
・本実施形態では、スイッチSWの短絡異常が発生していると判定された場合、遅延期間Hsが短い側に変更される。そのため、スイッチSWの短絡異常が判定された後に、誤ってスイッチSWがオン状態に切り替えられた場合でも、スイッチSWに流れる短絡電流を抑制することができる。
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、ドライブIC50が、ゲート電圧検出部とセンス電圧検出部とを2つずつ備えている。以下では、第1実施形態で説明したゲート電圧検出部52及びセンス電圧検出部53を、第1ゲート電圧検出部52及び第1センス電圧検出部53と呼び、本実施形態で追加されたゲート電圧検出部55及びセンス電圧検出部56を、第2ゲート電圧検出部55及び第2センス電圧検出部56と呼ぶ。
図5に示すように、スイッチSWのゲートには、検出用抵抗体63を介してドライブIC50の第6端子T6が接続されている。第6端子T6には、第2ゲート電圧検出部55が接続されている。第2ゲート電圧検出部55は、第6端子T6を介してゲート電圧Vgatを検出する。
また、センス抵抗体62の第1端には、ドライブIC50の第7端子T7を介して第2センス電圧検出部56が接続されている。第2センス電圧検出部56は、第4端子T4の電位を基準として、センス電圧Vserを検出する。
図6を用いて、第1ゲート電圧検出部52、第1センス電圧検出部53、異常判定部54、第2ゲート電圧検出部55及び第2センス電圧検出部56について説明する。
第1ゲート電圧検出部52では、オペアンプ72の反転入力端子72bに、スイッチSWのゲート電圧Vgatが微分回路81により微分されたゲート電圧Vgatの第1時間変化率Dgat1が入力される。オペアンプ72は、第1時間変化率Dgat1がゲート判定用電源70の第1ゲート判定用電圧Vjg1以下の場合に論理Lとなり、第1ゲート判定用電圧Vjg1よりも大きくなった場合に論理Hとなる第1ゲート比較結果信号Egat1を、出力端子72cから異常判定部54に出力する。
第1センス電圧検出部53では、オペアンプ76は、センス電圧Vserがセンス判定用電源75の第1センス判定用電圧Vjs1以下の場合に論理Lとなり、第1センス判定用電圧Vjs1よりも大きくなった場合に論理Hとなる信号を、出力端子76cから第1フィルタ回路77に出力する。第1フィルタ回路77は、オン指令がなされてから第1遅延期間Hs1が経過するタイミングまでは、オペアンプ76から入力される信号に関わらず論理Lとなり、該タイミングの経過後においてオペアンプ76から入力される信号と同一論理となる第1センス比較結果信号Eser1を異常判定部54へ出力する。なお、本実施形態において、第1遅延期間Hs1が「第1判定期間」に相当し、第1センス判定用電圧Vjs1が「第1センス判定値」に相当する。
第2ゲート電圧検出部55は、ゲート判定用電源80、微分回路81及びオペアンプ82を備えている。ゲート判定用電源80は、ゼロよりも大きい所定の第2ゲート判定用電圧Vjg2を有する電圧源である。微分回路81は、微分用抵抗体83と、コンデンサ84とにより構成されるハイパスフィルタである。オペアンプ82の非反転入力端子82aは、ゲート判定用電源80に接続されている。また、オペアンプ82の反転入力端子82bは、微分回路81を介してスイッチSWのゲートに接続されている。なお、本実施形態において、第2ゲート判定用電圧Vjg2は「ゲート判定値」に相当する。
そのため、オペアンプ82の反転入力端子82bには、スイッチSWのゲート電圧Vgatが微分回路81により微分されたゲート電圧Vgatの第2時間変化率Dgat2が入力される。オペアンプ82は、第2時間変化率Dgat2が第2ゲート判定用電圧Vjg2以下の場合に論理Lとなり、第2ゲート判定用電圧Vjg2よりも大きくなった場合に論理Hとなる第2ゲート比較結果信号Egat2を、出力端子82cから異常判定部54に出力する。
第2センス電圧検出部56は、センス判定用電源85、オペアンプ86及び第2フィルタ回路87を備えている。センス判定用電源85は、ゼロよりも大きい所定の第2センス判定用電圧Vjs2を有する電圧源である。オペアンプ86の非反転入力端子86aは、センス判定用電源85に接続されている。また、オペアンプ86の反転入力端子86bは、センス抵抗体62に接続されている。なお、本実施形態において、第2センス判定用電圧Vjs2は「第2センス判定値」に相当する。
そのため、オペアンプ86の反転入力端子82bには、スイッチSWのセンス電圧Vserが入力される。オペアンプ86は、センス電圧Vserが第2センス判定用電圧Vjs2以下の場合に論理Lとなり、第2センス判定用電圧Vjs2よりも大きくなった場合に論理Hとなる信号を、出力端子86cから第2フィルタ回路87に出力する。
第2フィルタ回路87は、制御装置40から駆動信号INが入力され、駆動信号INに基づいてオン指令がなされたタイミングを取得する。第2フィルタ回路87は、オン指令がなされてから所定の第2遅延期間Hs2が経過するタイミングまでは、オペアンプ86から入力される信号に関わらず論理Lとなり、該タイミングの経過後においてオペアンプ86から入力される信号と同一論理となる第2センス比較結果信号Eser2を異常判定部54へ出力する。なお、本実施形態の第2フィルタ回路87は、第2遅延期間Hs2を変更する機能を有する。本実施形態において、第2遅延期間Hs2は「第2判定期間」に相当する。
異常判定部54は、第1論理積回路78、第2論理積回路88及び判定部79を備えている。第1論理積回路78の第1入力端子78aは、第1ゲート電圧検出部52に接続されており、第1ゲート比較結果信号Egat1が入力されている。第1論理積回路78の第2入力端子78bは、第1センス電圧検出部53に接続されており、第1センス比較結果信号Eser1が入力されている。第1論理積回路78は、第1ゲート比較結果信号Egat1と第1センス比較結果信号Eser1とが共に論理Hとなっている場合に論理Hとなり、それ以外の場合に論理Lとなる第1論理積信号Eand1を、出力端子78cから判定部79に出力する。
第2論理積回路88の第1入力端子88aは、第2ゲート電圧検出部55に接続されており、第2ゲート比較結果信号Egat2が入力されている。第2論理積回路88の第2入力端子88bは、第2センス電圧検出部56に接続されており、第2センス比較結果信号Eser2が入力されている。第2論理積回路88は、第2ゲート比較結果信号Egat2と第2センス比較結果信号Eser2とが共に論理Hとなっている場合に論理Hとなり、それ以外の場合に論理Lとなる第2論理積信号Eand2を、出力端子78cから判定部79に出力する。
判定部79は、第1論理積回路78から入力される第1論理積信号Eand1、及び第2論理積回路88から入力される第2論理積信号Eand2に基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する。具体的には、判定部79は、第1時間変化率Dgat1が第1ゲート判定用電圧Vjg1よりも大きくなっているとともに、センス電圧Vserが、オン指令がなされてから第1遅延期間Hs1が経過するタイミングにおいて、第1センス判定用電圧Vjs1よりも大きくなっているか、または、第2時間変化率Dgat2が第2ゲート判定用電圧Vjg2よりも大きくなっているとともに、センス電圧Vserが、オン指令がなされてから第2遅延期間Hs2が経過するタイミングにおいて、第2センス判定用電圧Vjs2よりも大きくなっている場合に、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する。
図4、7を用いて本実施形態の異常判定処理について説明する。図4(e)に示すように、スイッチSWがオフ状態からオン状態に切り替わる時刻t2において、センス電圧Vserが上昇し始める。上述したように、スイッチSWが正常である場合、センス電圧Vserは、スイッチングノイズ等の影響により増減を繰り返す。
そのため、第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2を、増減するセンス電圧Vserの上限値に設定することで、センス電圧Vserに基づいてスイッチSWの短絡異常を早期に判定することができる。具体的には、第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2を、増減するセンス電圧Vserの上限値に設定することで、スイッチSWが正常である場合に、センス電圧Vserが第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2を超えることが抑制されるとともに、第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2に対応する第1遅延期間Hs1及び第2遅延期間Hs2を短く設定することができる。
図7のグラフF2に示すように、センス電圧Vserの上限値は、スイッチSWがオフ状態からオン状態に切り替わる時刻t2において最大となり、その後ゆるやかに減少する。
そこで、本実施形態では、このグラフF2に基づいて、第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2を設定する。具体的には、第1遅延期間Hs1を時刻t1から時刻t6までの期間に設定するとともに、第1センス判定用電圧Vjs1を、グラフF2において時刻t6に対応する電圧に設定する。また、時刻t10を、時刻t1と時刻t6との略中央の時刻に設定し、第2遅延期間Hs2を時刻t1から時刻t10までの期間に設定する。そして、第2センス判定用電圧Vjs2を、グラフF2において時刻t10に対応する電圧に設定する。つまり、第2遅延期間Hs2を、第1遅延期間Hs1よりも短い期間に設定するとともに、第2センス判定用電圧Vjs2を、第1センス判定用電圧Vjs1よりも大きい電圧に設定する。なお、第1センス判定用電圧Vjs1及び第2センス判定用電圧Vjs2は、センス電圧Vserの最大電圧Vmaxよりも小さい電圧に設定される。
・以上説明した本実施形態によれば、第2遅延期間Hs2は、第1遅延期間Hs1よりも短い期間に設定される。そのため、第2センス電圧検出部56を用いることで、オン指令がなされる時刻t1以前に、またはオン指令がなされる時刻t1においてスイッチSWに短絡異常が発生した場合において、スイッチSWの短絡異常を早期に判定することができる。これにより、時刻t1後において、スイッチSWに流れる短絡電流を抑制することができる。
・また、本実施形態によれば、第1センス判定用電圧Vjs1は、第2センス判定用電圧Vjs2よりも小さい電圧に設定される。そのため、第1センス電圧検出部53を用いることで、センス電圧Vserが基準電圧Vkに到達した後にスイッチSWに短絡異常が発生した場合において、スイッチSWの短絡異常を早期に判定することができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第1実施形態では、ドライブIC50が、ゲート電圧検出部52とセンス電圧検出部53とを備える例を示したが、センス電圧検出部53を必ずしも備えなくてもよい。
・この場合、異常判定部54は、ゲート電圧検出部52から入力されるゲート比較結果信号Egatに基づいて、つまり、ゲート電圧Vgatの時間変化率Dgatに基づいて、スイッチSWに短絡異常が発生したことを判定する。時間変化率Dgatを用いることで、ゲート電圧Vgatを用いる場合に比べて、スイッチSWの短絡異常を早期に判定することができる。これにより、スイッチSWに流れる短絡電流を抑制することができる。
・上記第1実施形態では、スイッチSWに短絡異常が発生していると判定した場合に、遅延期間Hsをゼロに変更する例を示したが、これに限られない。遅延期間Hsを短い側に変更できれば、必ずしもゼロに変更する必要はない。
・上記第2実施形態では、ドライブIC50が、第1ゲート電圧検出部52と第2ゲート電圧検出部55とを備える例を示したが、1つのゲート電圧検出部52のみを備えていてもよい。この場合、第1論理積回路78の第1入力端子78aと第2論理積回路88の第1入力端子88aとには、同一のゲート比較結果信号Egatが入力される。
・上記第2実施形態では、ドライブIC50が、第1センス電圧検出部53と第2センス電圧検出部56とを備える例を示したが、3つ以上のセンス電圧検出部を備えていてもよい。この場合、各センス電圧検出部の遅延期間Hsは、異なる期間に設定され、それに伴い、各センス電圧検出部のセンス判定用電圧Vjsは、図6のグラフF2に基づいて、異なる電圧に設定される。
・この場合、3つ以上のセンス電圧検出部の中から、スイッチSWの短絡異常の判定に用いる1つ又は2つのセンス電圧検出部を選択するようにしてもよい。これにより、スイッチSWに用いられる素子の種類等に応じて、遅延期間Hs及びセンス判定用電圧Vjsを適宜選択することができる。
・インバータ20が備えるスイッチSWとしては、IGBTに限らず、例えばNチャネルMOSFETIGBTであってもよい。ドライブIC50では、スイッチSWに用いられる素子に応じて、ゲート電圧検出部の微分回路における定数、並びにセンス電圧検出部の遅延期間Hs及びセンス判定用電圧Vjsが適宜調整される。
・インバータ20としては、3相のものに限らず、相数分の上,下アームスイッチSWH,SWLの直列接続体を備える2相のインバータ、又は4相以上のインバータであってもよい。例えば、2相の場合、互いに直列接続された1組目の上,下アームスイッチSWH,SWLの接続点と、互いに直列接続された2組目の上,下アームスイッチSWH,SWLの接続点とが、誘導性負荷(例えば巻線)を介して接続されることとなる。
・インバータ20として、直流電力を交流電力に変換するインバータに限らない。上,下アームスイッチSWの直列接続体を備え、直列接続体が直流電源に並列接続される構成であれば、他の電力変換器であってもよい。