(実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る劣化度推定システム1000について説明する。劣化度推定システム1000は、劣化度推定装置100と、開閉装置500と、交流信号発生装置510と、を備える。劣化度推定システム1000は、ケーブル600の劣化度を推定するシステムである。ケーブル600は、劣化度の推定対象のケーブルであり、ケーブル610とケーブル620とケーブル630とが直列に接続されたケーブルである。なお、劣化度の推定対象のケーブルは、ケーブル600のように複数のケーブルが直列に接続されたケーブルであってもよいし、1本のケーブルであってもよい。
ケーブル610,620,630は、電力又は情報の伝送に用いられるケーブルである。本実施形態では、ケーブル610,620,630は、シールドが施されたツイストペアケーブル、つまり、STP(Shielded Twisted Pair)ケーブルであるものとする。ただし、ケーブル610,620,630は、シールドが施されていないツイストペアケーブル、つまり、UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルであってもよいし、平行ケーブルであってもよい。以下、図2を参照して、ケーブル610の構成について説明する。
ケーブル610は、芯線611と、芯線612と、絶縁部材613と、絶縁部材614と、シールド線615と、絶縁部材616とを備える。芯線611と芯線612とは、電力や電気信号を送信するための電線であり、例えば、銅やアルミニウムにより構成される。絶縁部材613は、芯線611を被覆する絶縁体である。絶縁部材614は、芯線612を被覆する絶縁体である。絶縁部材613,614は、例えば、塩化ビニル樹脂などにより構成される。
シールド線615は、芯線611と芯線612とを被覆して遮蔽する。つまり、シールド線615は、外部空間から放射されたノイズが芯線611,612に進入することを防止する。また、シールド線615は、芯線611,612から外部空間にノイズが放射されることを防止する。また、シールド線615は、設備機器のシャーシに接続され、接地される。シールド線615は、例えば、銅やアルミニウムにより構成される。絶縁部材616は、シールド線615を被覆する絶縁体である。
ケーブル620,630の構成は、長さを除き、基本的には、ケーブル610の構成と同様である。本実施形態では、ケーブル610の長さをL1とし、ケーブル620の長さをL2とし、ケーブル630の長さをL3とする。ケーブル620は、芯線621と、芯線622と、を備える。ケーブル630は、芯線631と、芯線632と、を備える。図3に示すように、ケーブル600は、一対の電線として、芯線611と芯線621と芯線631とが直列に接続された芯線601と、芯線612と芯線622と芯線632とが直列に接続された芯線602と、を備える。本実施形態では、ケーブル600が備える一対の電線の一端には、劣化度推定装置100が接続され、一対の電線の他端には、開閉装置500と交流信号発生装置510とが接続される。
劣化度推定システム1000は、ケーブル600に設備機器が接続されている状態であっても、ケーブル600の劣化度を推定することができる。ただし、ケーブル600に接続された設備機器が備えるトランシーバ(図示せず)の内部では、ケーブル600に含まれる一対の電線間が短絡されないものとする。図1には、ケーブル600に、室外機200と室内機300と室内機400とが接続されている様子を示している。室外機200と室内機300と室内機400とは、ケーブル600を介して電力又は情報を送受信する設備機器である。室外機200は、室外に設置される空調機である。室内機300,400は、室内に設置される空調機である。
室外機200と室内機300とはケーブル610により接続される。つまり、室外機200が備える端子201と室内機300が備える端子301とは芯線611により接続され、室外機200が備える端子202と室内機300が備える端子302とは芯線612により接続される。また、室内機300と室内機400とはケーブル620により接続される。つまり、室内機300が備える端子301と室内機400が備える端子401とは芯線621により接続され、室内機300が備える端子302と室内機400が備える端子402とは芯線622により接続される。また、室内機400と開閉装置500とはケーブル630により接続される。つまり、室内機400が備える端子401と開閉装置500が備える端子501とは芯線631により接続され、室内機400が備える端子402と開閉装置500が備える端子502とは芯線632により接続される。
劣化度推定装置100は、劣化度推定システム1000の中核をなす装置であり、TDR(Time Domain Reflectometry)計測によりケーブル600の劣化度を推定する。ケーブル600の劣化度は、基本的に、ケーブル600に含まれる絶縁部材の劣化の度合いである。ケーブル600に含まれる絶縁部材は、絶縁部材613、絶縁部材614,絶縁部材616などである。ここで、絶縁部材が劣化すると、絶縁部材の比誘電率が上昇し、ケーブル600の容量が増加する。そこで、劣化度推定装置100は、基本的に、TDR計測により、ケーブル600の容量の増加量を推定し、ケーブル600の劣化度を推定する。
ここで、ケーブル600が高周波用ケーブルである場合、ケーブル600の容量の増加量は、主に、後述するパルス往復時間の増加量として現れる。そこで、劣化度推定装置100は、ケーブル600が高周波用ケーブルである場合、パルス往復時間の増加量からケーブル600の劣化度を推定する。高周波用ケーブルは、高周波信号の伝送に適したケーブルであり、高周波領域での周波数特性が良いケーブルである。高周波用ケーブルは、例えば、CPEVSケーブルである。CPEVSケーブルは、例えば、数百kHz程度の信号の伝送に用いられるケーブルである。
一方、ケーブル600が低周波用ケーブルである場合、ケーブル600の容量の増加量は、主に、後述する反射波傾斜角の減少量として現れる。そこで、劣化度推定装置100は、ケーブル600が低周波用ケーブルである場合、反射波傾斜角の減少量からケーブル600の劣化度を推定する。低周波用ケーブルは、低周波信号の伝送に適したケーブルであり、低周波領域での周波数特性が良いケーブルである。低周波用ケーブルは、例えば、MVVSケーブルである。MVVSケーブルは、例えば、0.3Hz~3.4kHz程度の音声周波数帯域の信号の伝送に用いられるケーブルである。
開閉装置500は、劣化度推定装置100による制御に従って、ケーブル600が備える一対の電線の他端間の接続状態を切り替える。開閉装置500は、一対の電線の他端に接続された端子501及び端子502と、スイッチ503とを備える。スイッチ503は、端子501と端子502との間の状態を、短絡状態と開放状態との間で切り替える。開閉装置500は、劣化度推定装置100と無線で通信する通信インターフェース(図示せず)と、この通信インターフェースを介して劣化度推定装置100から受信した情報に従って、スイッチ503の状態を制御する制御回路(図示せず)と、を備える。
交流信号発生装置510は、劣化度推定装置100による制御に従って、指定された周波数と指定された振幅とを有する交流信号を、ケーブル600が備える一対の電線の他端間に印加する。交流信号は、例えば、正弦波である。本実施形態では、交流信号の周波数は可変であり、交流信号の振幅は不変であるものとする。交流信号の周波数と交流信号の振幅とは、劣化度推定装置100により指定される。交流信号発生装置510は、劣化度推定装置100と無線で通信する通信インターフェース(図示せず)と、この通信インターフェースを介して劣化度推定装置100から受信した情報に従って、電圧印加回路(図示せず)を制御する制御回路(図示せず)と、制御回路による制御に従って、ケーブル600が備える一対の電線の他端間に交流信号を印加する電圧印加回路と、を備える。交流信号発生装置510は、例えば、パルスジェネレータである。
次に、図3を参照して、劣化度推定装置100の機能について説明する。図3に示すように、劣化度推定装置100は、機能的には、操作受付部101と、パルス印加部102と、電圧測定部103と、差分波形生成部104と、周波数特定部105と、記憶部106と、劣化度推定部107と、劣化度表示部108と、通信部109と、を備える。パルス印加手段は、例えば、パルス印加部102に対応する。波形測定手段と振幅測定手段とは、例えば、電圧測定部103に対応する。差分波形生成手段は、例えば、差分波形生成部104に対応する。周波数特定手段は、例えば、周波数特定部105に対応する。劣化度推定手段は、例えば、劣化度推定部107に対応する。劣化度表示手段は、例えば、劣化度表示部108に対応する。
操作受付部101は、ユーザから各種の操作を受け付ける。操作受付部101は、例えば、劣化度推定処理の開始指示を受け付ける。操作受付部101の機能は、例えば、タッチスクリーン(図示せず)、ボタン(図示せず)、マウス(図示せず)、キーボード(図示せず)の機能により実現される。
パルス印加部102は、絶縁部材を含むケーブル600に含まれる一対の電線の一端間に電圧パルスを印加する。この電圧パルスは、TDR計測のための電圧パルスである。TDR計測は、立ち上がりの速い電圧パルスを2端子試料に印加して、試料に加わる電圧の時間的変化から、試料の内部構造を把握する手法である。本実施形態では、試料は、ケーブル600である。この電圧パルスの振幅は、例えば、5Vである。この電圧パルスのパルス幅は、電気信号がケーブル600を往復するのに要する時間(以下、適宜「パルス往復時間」という。)よりも十分に長い時間であり、例えば、数msec程度の時間である。
ここで、パルス印加部102は、一対の電線の他端間が開放されている開放時と一対の電線の他端間が短絡されている短絡時とのそれぞれにおいて、一対の電線の一端間に電圧パルスを印加する。パルス印加部102の機能は、例えば、スイッチング素子(図示せず)と直流電源(図示せず)とを備える電圧印加回路(図示せず)の機能により実現される。
電圧測定部103は、電圧パルスの印加が開始されてから予め定められた時間が経過するまでの期間における一対の電線の一端間の電圧の変化を示す電圧波形を測定する。この期間の長さは、上述したパルス往復時間よりも長い。また、電圧測定部103が電圧をサンプリングする周期は、上述したパルス往復時間よりも十分に短い(例えば、数nsec程度)。
また、電圧測定部103は、一対の電線の他端間に指定された周波数を有する交流信号が印加されたときに、一対の電線の一端間に印加された交流信号の振幅を測定する。電圧測定部103の機能は、例えば、A/D(Analog/Digital)変換器の機能により実現される。
差分波形生成部104は、短絡時波形と開放時波形とから差分波形を生成する。短絡時波形は、一対の電線の他端間の短絡時に電圧測定部103により測定された電圧波形である。開放時波形は、一対の電線の他端間の開放時に電圧測定部103により測定された電圧波形である。差分波形は、電圧パルスの先頭位置が重なるように時間軸を合わせて、短絡時波形に含まれる各電圧と開放時波形に含まれる各電圧との差分をとることにより得られる電圧波形である。差分波形生成部104の機能は、例えば、プロセッサ(図示せず)の機能により実現される。
周波数特定部105は、電圧測定部103により測定された振幅と上記指定された周波数との関係に基づいて、減衰最小周波数を特定する。減衰最小周波数は、ケーブル600による信号減衰量が最小の周波数である。つまり、減衰最小周波数は、電気信号がケーブル600を通過するときに、最も通過し易く、最も減衰量が少ない周波数成分である。減衰最小周波数は、ケーブル600を通過する信号のゲインがピークとなるピーク周波数とも言える。周波数特定部105は、例えば、電圧測定部103により測定された振幅が最大である交流信号の周波数を、減衰最小周波数として特定する。周波数特定部105の機能は、例えば、プロセッサ(図示せず)の機能により実現される。
記憶部106は、劣化度推定処理に必要な各種の情報を記憶する。記憶部106は、例えば、第1対応関係情報と第2対応関係情報とを記憶する。第1対応関係情報は、往復時間割合と第1推定劣化度との対応関係を示す情報である。往復時間割合は、パルス往復時間の初期値に対する、推定対象波形から求めたパルス往復時間の割合である。パルス往復時間は、推定対象波形上における電圧パルスの先頭位置から推定対象波形上における一対の電線の他端で発生した反射波の先頭位置までの長さに対応する時間である。パルス往復時間の初期値は、ケーブル600が新品であり、ケーブル600が劣化していないときに、推定対象波形から求めたパルス往復時間である。
なお、ケーブル600の長さ又は種類が異なれば、パルス往復時間も異なることは当然である。従って、本実施形態では、ケーブル600の長さ及び種類自体は不変であることが前提である。推定対象波形は、劣化度の推定に用いられる電圧波形であり、電圧測定部103により測定された少なくとも1つの電圧波形に基づく電圧波形である。推定対象波形は、典型的には、差分波形であるが、短絡時波形又は開放時波形であってもよい。第1推定劣化度は、パルス往復時間から推定されるケーブル600の劣化度である。
第2対応関係情報は、傾斜角割合と第2推定劣化度との対応関係を示す情報である。傾斜角割合は、反射波傾斜角の初期値に対する、推定対象波形から求めた反射波傾斜角の割合である。反射波傾斜角は、推定対象波形上における反射波の先頭位置と推定対象波形上における反射波による電圧変化が収束する位置である収束位置とを通過する直線の傾きである。反射波傾斜角の初期値は、ケーブル600が新品であり、ケーブル600が劣化していないときに、推定対象波形から求めた反射波傾斜角である。なお、ケーブル600の種類が異なれば、反射波傾斜角も異なることは当然である。従って、本実施形態では、ケーブル600の種類自体は不変であることが前提である。第2推定劣化度は、反射波傾斜角から推定されるケーブル600の劣化度である。また、記憶部106は、パルス往復時間の初期値と反射波傾斜角の初期値とを記憶する。記憶部106の機能は、例えば、フラッシュメモリ(図示せず)の機能により実現される。
劣化度推定部107は、減衰最小周波数が基準周波数以上である場合、差分波形を推定対象波形としてパルス往復時間を求め、パルス往復時間から第1推定劣化度を推定する。また、劣化度推定部107は、減衰最小周波数が基準周波数未満である場合、差分波形を推定対象波形として反射波傾斜角を求め、反射波傾斜角から第2推定劣化度を推定する。
基準周波数は、減衰最小周波数を分類するための周波数の閾値である。つまり、基準周波数は、ケーブル600を、高周波用ケーブルと低周波用ケーブルとのいずれかに分類するための周波数の閾値である。減衰最小周波数が基準周波数以上である場合、ケーブル600は、高周波用ケーブルに分類される。一方、減衰最小周波数が基準周波数未満である場合、ケーブル600は、低周波用ケーブルに分類される。基準周波数は、例えば、100kHzである。劣化度推定部107の機能は、例えば、プロセッサ(図示せず)の機能により実現される。
ここで、劣化度推定部107は、往復時間割合と第1推定劣化度との対応関係を示す第1対応関係情報と、差分波形から求めたパルス往復時間と、パルス往復時間の初期値と、に基づいて、第1推定劣化度を推定する。また、劣化度推定部107は、傾斜角割合と第2推定劣化度との対応関係を示す第2対応関係情報と、差分波形から求めた反射波傾斜角と、反射波傾斜角の初期値と、に基づいて、第2推定劣化度を推定する。
劣化度表示部108は、劣化度推定部107により推定された劣化度を示す情報を表示する。劣化度表示部108は、減衰最小周波数が予め定められた基準周波数以上である場合、第1推定劣化度を示す情報を表示する。一方、劣化度表示部108は、減衰最小周波数が基準周波数未満である場合、第2推定劣化度を示す情報を表示する。劣化度表示部108の機能は、例えば、プロセッサ(図示せず)とタッチスクリーン(図示せず)とが協働することにより実現される。
通信部109は、開閉装置500と通信し、また、交流信号発生装置510と通信する。通信部109は、短絡時波形の取得時に、スイッチ503を短絡状態にすることを指示する短絡指示情報を開閉装置500に送信する。一方、開閉装置500は、通信部109から受信した短絡指示情報に従って、スイッチ503を短絡状態にする。通信部109は、開放時波形の取得時に、スイッチ503を開放状態にすることを指示する開放指示情報を開閉装置500に送信する。一方、開閉装置500は、通信部109から受信した開放指示情報に従って、スイッチ503を開放状態にする。
また、通信部109は、周波数特定処理において、交流信号の周波数を指定する周波数指定情報と、交流信号の振幅を指定する振幅指定情報と、交流信号の出力開始を指示する開始指示情報と、交流信号の出力停止を指示する停止指示情報とを、交流信号発生装置510に送信する。一方、交流信号発生装置510は、通信部109から受信した各種の情報に従って、交流信号の出力を制御する。通信部109の機能は、例えば、プロセッサ(図示せず)と通信インターフェース(図示せず)とが協働することにより実現される。
次に、図4及び図5を参照して、ケーブル600の経年劣化により、TDR計測により取得される電圧波形が変化する様子について説明する。前提として、TDR計測では、分布定数回路とみなされるケーブル600に電圧パルスが印加され、特性インピーダンスが整合していない位置で、反射が生じる。具体的には、特性インピーダンスが急激に増大する位置では正の反射が生じ、特性インピーダンスが急激に減少する位置では負の反射が生じる。
ここで、ケーブル600の他端が短絡されている場合、ケーブル600の他端において、特性インピーダンスが急激に減少し、負の反射が生じる。その結果、測定される電圧波形上では、基本的に、電圧パルスの印加が開始された後、パルス往復時間が経過後、ケーブル600の他端において発生した負の反射波の電圧パルスへの重畳が開始される。一方、ケーブル600の他端が開放されている場合、ケーブル600の他端において、特性インピーダンスが急激に増大し、正の反射が生じる。その結果、測定される電圧波形上では、基本的に、電圧パルスの印加が開始された後、パルス往復時間が経過後、ケーブル600の他端において発生した正の反射波の電圧パルスへの重畳が開始される。本実施形態では、基本的に、「ケーブル600の他端において発生した反射波」を単に「反射波」といい、「ケーブル600の中間部分において発生した反射波」を適宜「他の反射波」という。
以下、図4を参照して、ケーブル600が高周波用ケーブルであるときに取得される電圧波形について説明する。図4(A)は、ケーブル600が高周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される短絡時波形を示す図である。図4(B)は、ケーブル600が高周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される開放時波形を示す図である。図4(C)は、ケーブル600が高周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される差分波形を示す図である。図4(A)、図4(B)、図4(C)において、破線は、ケーブル600が劣化する前に取得される電圧波形を示し、実線は、ケーブル600が劣化した後に取得される電圧波形を示している。なお、破線と実線とが重複する場合、実線で示している。なお、「ケーブル600が劣化する前」は、基本的に、「ケーブル600が新品であるとき」を意味する。
図4(A)に示すように、ケーブル600が劣化する前は、短絡時波形により示される電圧は、t10において0からV11に急激に増大し、t11からt13にかけてなだらかに減少し、t13以降はほぼV12に維持される。t10は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t11は、t10からT10により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t11は、ケーブル600の一端において、負の反射波の観測が開始される時刻である。t13は、ケーブル600の一端において、負の反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、短絡時波形により示される電圧は、t10において0からV11に急激に増大し、t12からt14にかけてなだらかに減少し、t14以降はほぼV12に維持される。t12は、t10からT11により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t12は、ケーブル600の一端において、負の反射波の観測が開始される時刻である。t14は、ケーブル600の一端において、負の反射波による電圧変化が収束する時刻である。このように、ケーブル600が劣化すると、パルス往復時間が長くなり、負の反射波の重畳される時刻が後方にシフトする。以下、この理由について説明する。
ケーブル600が高周波用ケーブルである場合、ケーブル600は、基本的に、分布定数回路としてモデル化される。ここで、伝搬速度をv、角周波数をω、虚部の係数をβとすると、v=ω/βである。また、伝播定数をγ、実部の係数をαとすると、γ=α+jβである。そして、ケーブル600の抵抗をR、ケーブル600のインダクタンスをL、ケーブル600のコンダクタンスをG、ケーブル600の容量をCとすると、γ=√((R+jωL)×(G+jωC))である。ここで、ケーブル600が劣化しても、Rは変化しないため、αは不変である。従って、ケーブル600が劣化し、コンデンサ成分であるCが大きくなると、伝搬速度が遅くなる。このため、高周波数帯において周波数特性の良いケーブル600は、劣化が進行するとパルス往復時間が長くなる。
図4(B)に示すように、ケーブル600が劣化する前は、開放時波形により示される電圧は、t20において0からV21に急激に増大し、t21からt23にかけてなだらかに減少し、t23以降はほぼV22に維持される。t20は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t21は、t20からT20により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t21は、ケーブル600の一端において、正の反射波の観測が開始される時刻である。t23は、ケーブル600の一端において、正の反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、開放時波形により示される電圧は、t20において0からV21に急激に増大し、t22からt24にかけてなだらかに増加し、t24以降はほぼV22に維持される。t22は、t20からT21により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t22は、ケーブル600の一端において、正の反射波の観測が開始される時刻である。t24は、ケーブル600の一端において、正の反射波による電圧変化が収束する時刻である。このように、ケーブル600が劣化すると、パルス往復時間が長くなり、正の反射波の重畳される時刻が後方にシフトする。
図4(C)に示すように、差分波形は、短絡時波形と開放時波形とを、電圧パルスの先頭位置であるt10とt20とが重なるように時間軸を合わせて、短絡時波形に含まれる各電圧と開放時波形に含まれる各電圧との差分をとることにより得られる電圧波形である。ここで、t10からt11までの時間であるT10と、t20からt21までの時間であるT20とは、同程度である。また、t10からt12までの時間であるT11と、t20からt22までの時間であるT21とは、同程度である。また、t12からt14までの時間と、t22からt24までの時間とは、同程度である。また、t11からt13までの時間と、t21からt23までの時間とは、同程度である。また、V11とV21とは、同程度である。
従って、ケーブル600が劣化する前は、差分波形により示される電圧は、t30からt31に至るまでほぼ0に維持され、t31からt33にかけてなだらかに減少し、t33以降はほぼV32に維持される。t30は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t31は、t30からT30により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t31は、ケーブル600の一端において、反射波の観測が開始される時刻である。t33は、ケーブル600の一端において、反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、差分波形により示される電圧は、t30からt32に至るまでほぼ0に維持され、t32からt34にかけてなだらかに減少し、t34以降はほぼV32に維持される。t32は、t30からT31により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t32は、ケーブル600の一端において、反射波の観測が開始される時刻である。t34は、ケーブル600の一端において、反射波による電圧変化が収束する時刻である。
このように、ケーブル600が劣化すると、パルス往復時間が長くなり、反射波の重畳される時刻が後方にシフトする。P10は、電圧パルスの先頭位置であり、t30に対応する位置である。P11は、劣化前の差分波形における反射波の先頭位置であり、t31に対応する位置である。P12は、劣化後の差分波形における反射波の先頭位置であり、t32に対応する位置である。
ここで、T10とT20とT30は、同程度であり、いずれも、劣化前のパルス往復時間を示す。また、T11とT21とT31は、同程度であり、いずれも、劣化後のパルス往復時間を示す。従って、短絡時波形と開放時波形と差分波形とのいずれを推定対象波形としても、劣化前のパルス往復時間と劣化後のパルス往復時間とを求めることは可能である。しかしながら、後述するように、T30は、T10とT20とに比べて、正確に求めることが可能であり、T31は、T11とT21とに比べて、正確に求めることが可能である。従って、本実施形態では、差分波形を推定対象波形として、劣化前のパルス往復時間と劣化後のパルス往復時間とを求める。以下、この理由について説明する。
上述したように、TDR計測では、特性インピーダンスが変化する箇所で、反射波が生じる。このため、図1に示すように、ケーブル600の中間部分に、室内機300と室内機400とが接続されている場合、この中間部分において、他の反射波が発生する。例えば、中間部分において、負の反射が発生する場合、短絡時波形において、t11とt12とを精度良く特定することが困難であり、T10とT11とを精度良く特定することが困難である。同様に、中間部分において、正の反射が発生する場合、開放時波形において、t21とt22とを精度良く特定することが困難であり、T20とT21とを精度良く特定することが困難である。
一方、ケーブル600の中間部分における特性インピーダンスの仕方は、短絡時と開放時とで大きな差異はない。このため、差分波形では、ケーブル600の中間部分で発生する他の反射波の影響が相殺される。従って、中間部分において、他の反射波が発生する場合においても、差分波形において、t31とt32とを精度良く特定することが容易であり、T30とT31とを精度良く特定することが容易である。
次に、図5を参照して、ケーブル600が低周波用ケーブルであるときに取得される電圧波形について説明する。図5(A)は、ケーブル600が低周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される短絡時波形を示す図である。図5(B)は、ケーブル600が低周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される開放時波形を示す図である。図5(C)は、ケーブル600が低周波用ケーブルであるときにTDR計測により取得される差分波形を示す図である。図5(A)、図5(B)、図5(C)において、破線は、ケーブル600が劣化する前に取得される電圧波形を示し、実線は、ケーブル600が劣化した後に取得される電圧波形を示している。なお、破線と実線とが重複する場合、実線で示している。
図5(A)に示すように、ケーブル600が劣化する前は、短絡時波形により示される電圧は、t10において0からV11に急激に増大し、t11からt13にかけてなだらかに減少し、t13以降はほぼV12に維持される。t10は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t11は、t10からT10により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t11は、ケーブル600の一端において、負の反射波の観測が開始される時刻である。t13は、ケーブル600の一端において、負の反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、短絡時波形により示される電圧は、t10において0からV11に急激に増大し、t11からt15にかけてなだらかに減少し、t15以降はほぼV12に維持される。t15は、ケーブル600の一端において、負の反射波による電圧変化が収束する時刻である。このように、ケーブル600が劣化すると、反射波傾斜角が小さくなり、負の反射波による電圧変化が収束するのに要する時間が長くなる。反射波傾斜角は、反射波の先頭位置と収束位置とを通過する直線の傾きである。ケーブル600の劣化前の反射波傾斜角は、L10により示される直線の傾きであるD10である。ケーブル600の劣化後の反射波傾斜角は、L11により示される直線の傾きであるD11である。D11は、D10よりも小さい。以下、この理由について説明する。
ケーブル600が低周波用ケーブルである場合、ケーブル600は、基本的に、積分回路としてモデル化される。つまり、この場合、ケーブル600は、電圧パルスに対して、分布定数回路というより積分回路として機能する。このため、電圧パルスは、印加された段階で積分波形となり、測定されるときも積分波形として測定される。ここで、積分波形では、コンデンサの成分が大きくなると、時定数が大きくなり、波形の傾きが鈍る。このため、低周波数帯において周波数特性の良いケーブル600は、劣化が進行すると反射波傾斜角が小さくなる。
図5(B)に示すように、ケーブル600が劣化する前は、開放時波形により示される電圧は、t20において0からV21に急激に増大し、t21からt23にかけてなだらかに減少し、t23以降はほぼV22に維持される。t20は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t21は、t20からT20により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t21は、ケーブル600の一端において、正の反射波の観測が開始される時刻である。t23は、ケーブル600の一端において、正の反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、開放時波形により示される電圧は、t20において0からV21に急激に増大し、t21からt25にかけてなだらかに増加し、t25以降はほぼV22に維持される。t25は、ケーブル600の一端において、正の反射波による電圧変化が収束する時刻である。このように、ケーブル600が劣化すると、反射波傾斜角が小さくなり、正の反射波による電圧変化が収束するのに要する時間が長くなる。ケーブル600の劣化前の反射波傾斜角は、L20により示される直線の傾きであるD20である。ケーブル600の劣化後の反射波傾斜角は、L21により示される直線の傾きであるD21である。D21は、D20よりも小さい。
図5(C)に示すように、差分波形は、短絡時波形と開放時波形とを、電圧パルスの先頭位置であるt10とt20とが重なるように時間軸を合わせて、短絡時波形に含まれる各電圧と開放時波形に含まれる各電圧との差分をとることにより得られる電圧波形である。ここで、t10からt11までの時間であるT10と、t20からt21までの時間であるT20とは、同程度である。また、t11からt13までの時間と、t21からt23までの時間とは、同程度である。また、t11からt15までの時間と、t21からt25までの時間とは、同程度である。また、V11とV21とは、同程度である。
従って、ケーブル600が劣化する前は、差分波形により示される電圧は、t30からt31に至るまでほぼ0に維持され、t31からt33にかけてなだらかに減少し、t33以降はほぼV32に維持される。t30は、電圧パルスの立ち上がり時刻である。t31は、t30からT30により示されるパルス往復時間が経過した時刻である。t31は、ケーブル600の一端において、反射波の観測が開始される時刻である。t33は、ケーブル600の一端において、反射波による電圧変化が収束する時刻である。
一方、ケーブル600が劣化した後は、差分波形により示される電圧は、t30からt31に至るまでほぼ0に維持され、t31からt35にかけてなだらかに減少し、t35以降はほぼV32に維持される。t35は、ケーブル600の一端において、反射波による電圧変化が収束する時刻である。
このように、ケーブル600が劣化すると、反射波傾斜角が小さくなり、反射波による電圧変化が収束するのに要する時間が長くなる。ケーブル600の劣化前の反射波傾斜角は、L30により示される直線の傾きであるD30である。ケーブル600の劣化後の反射波傾斜角は、L31により示される直線の傾きであるD31である。D31は、D30よりも小さい。P10は、電圧パルスの先頭位置であり、t30に対応する位置である。P11は、反射波の先頭位置であり、t31に対応する位置である。P13は、劣化前の差分波形における収束位置であり、t33に対応する位置である。P15は、劣化後の差分波形における収束位置であり、t35に対応する位置である。
ここで、D10とD20とD30は、いずれも、劣化前の反射波傾斜角を示す。また、D11とD21とD31は、いずれも、劣化後の反射波傾斜角を示す。なお、D10は、(V11-V12)/(t13-t11)により表してもよい。また、D20は、(V22-V21)/(t23-t21)により表してもよい。また、D30は、V32/(t33-t31)により表してもよい。また、D11は、(V11-V12)/(t15-t11)により表してもよい。また、D21は、(V22-V21)/(t25-t21)により表してもよい。また、D31は、V32/(t35-t31)により表してもよい。
短絡時波形と開放時波形と差分波形とのいずれを推定対象波形としても、劣化前の反射波傾斜角と劣化後の反射波傾斜角とを求めることは可能である。しかしながら、上述したように、差分波形は、短絡時波形と開放時波形とは異なり、ケーブル600の中間部分で発生した他の反射波の影響が相殺された電圧波形である。このため、D30は、D10とD20とに比べて、精度良く求めることが可能であり、D31は、D11とD21とに比べて、精度良く求めることが可能である。従って、本実施形態では、差分波形を推定対象波形として、劣化前の反射波傾斜角と劣化後の反射波傾斜角とを求める。
ケーブル600の中間部分に設備機器が接続されている場合、他の反射波の影響により、TDR計測により実際に取得される短絡時波形及び開放時波形は、図4(A)、図4(B)、図5(A)及び図5(B)に示すようにきれいな電圧波形とはならない。従って、この場合、短絡時波形及び開放時波形から、反射波の先頭位置と収束位置とを精度良く特定することが困難であり、パルス往復時間と反射波傾斜角とを精度良く特定することが困難である。このため、この場合、推定対象波形として、差分波形を用いることが、強く望まれる。以下、図6を参照して、TDR計測により実際に取得される電圧波形について説明する。
図6において、破線で示されるL51は、短絡時波形を示し、細線で示されるL52は、開放時波形を示し、太線で示されるL53は、差分波形を示している。なお、理解を容易にするため、開放時波形は、100mV分負の方向にオフセットし、差分波形は、100mV分正の方向にオフセットしている。また、短絡時波形、開放時波形及び差分波形のいずれにおいても、電圧パルスの先頭位置を縦軸に合わせている。
理想的な短絡時波形では、ケーブル600の他端で発生した負の反射波の先頭位置に対応するt1から収束位置に対応するt2までの期間においては、なだらかに電圧が低下し、他の期間においては、電圧が変動しない。しかしながら、実際に取得される短絡時波形では、ケーブル600の中間部分で発生した反射波(以下、適宜、「他の反射波」という。)の影響により、他の期間においても、電圧が変動する。このため、実際に取得される短絡時波形から、t1とt2とを正確に特定することは困難である。
また、理想的な開放時波形では、ケーブル600の他端で発生した正の反射波の先頭位置に対応するt1から収束位置に対応するt2までの期間において、なだらかに電圧が上昇し、他の期間においては、電圧が変動しない。しかしながら、実際に取得される開放時波形では、他の反射波の影響により、他の期間においても、電圧が変動する。このため、実際に取得される開放時波形から、t1とt2とを正確に特定することは困難である。
そこで、短絡時波形と開放時波形とから求められる差分波形から、t1とt2とを特定することが好適である。差分波形では、他の反射波による影響が相殺されるため、基本的に、反射波の先頭位置に対応するt1から収束位置に対応するt2までの期間において、なだらかに電圧が上昇し、他の期間においては、電圧があまり変動しない。図6には、電圧パルスの先頭位置から反射波の先頭位置までの長さに対応するパルス往復時間を示すT41を示している。また、図6には、反射波の先頭位置と収束位置とを通過する直線を示すL41と、L41の傾きである反射波傾斜角を示すD41とを示している。
次に、図7を参照して、ケーブル600を高周波用ケーブルと低周波用ケーブルとのいずれかに分類する方法について説明する。図7には、ケーブル600を通過させる交流信号の周波数とケーブル600を通過した交流信号の振幅との関係、つまり、ケーブル600の周波数特性を示している。高い周波数で振幅が大きくなるほど、より高周波の伝送に適したケーブルであると言える。本実施形態では、減衰最小周波数が基準周波数以上である場合、ケーブル600が高周波用ケーブルに分類され、減衰最小周波数が基準周波数未満である場合、ケーブル600が低周波用ケーブルに分類される。図7には、減衰最小周波数をFmaxで示し、基準周波数をFthで示している。
次に、図8を参照して、ケーブル600が高周波用ケーブルである場合における、往復時間割合と使用期間(年)との対応関係について説明する。往復時間割合は、パルス往復時間の初期値に対する、パルス往復時間の測定値の割合である。パルス往復時間の初期値は、劣化前のケーブル600において測定されたパルス往復時間である。パルス往復時間の測定値は、劣化後のケーブル600において測定されたパルス往復時間である。使用期間は、ケーブル600の使用期間である。
図8は、使用期間が長くなる程、往復時間割合が大きくなることを示している。つまり、求められた往復時間割合が大きい程、使用期間が長いと推定され、劣化度が高いと推定される。ここで、使用期間の推定値は、劣化度の推定値を示す指標とすることができる。従って、第1対応関係情報は、図8に示す情報であってもよい。なお、往復時間割合をX、使用期間をYとすると、Y=436.87X2-862.37X+425.47と近似することができる。なお、ケーブル600が低周波用ケーブルである場合、往復時間割合と使用期間(年)との対応関係は、図8に示すように明確な対応関係とはならない可能性が高い。
次に、図9を参照して、ケーブル600が低周波用ケーブルである場合における、傾斜角割合と使用期間(年)との対応関係について説明する。傾斜角割合は、反射波傾斜角の初期値に対する、反射波傾斜角の測定値の割合である。反射波傾斜角の初期値は、劣化前のケーブル600において測定された反射波傾斜角である。反射波傾斜角の測定値は、劣化後のケーブル600において測定された反射波傾斜角である。
図9は、使用期間が長くなる程、傾斜角割合が小さくなることを示している。つまり、求められた傾斜角割合が小さい程、使用期間が長いと見做され、劣化度が高いと見做される。ここで、使用期間の推定値は、劣化度の推定値を示す指標とすることができる。従って、第2対応関係情報は、図9に示す情報であってもよい。傾斜角割合をX、使用期間をYとすると、Y=-8.8164X2-23.437X+32.417と近似することができる。なお、ケーブル600が高周波用ケーブルである場合、傾斜角割合と使用期間(年)との対応関係は、図9に示すように明確な対応関係とはならない可能性が高い。
次に、図10に示すフローチャートを参照して、劣化度推定装置100が実行する劣化度推定処理について説明する。この劣化度推定処理は、劣化度推定方法を実現するための処理である。劣化度推定処理は、劣化度推定装置100の電源が投入されると開始される。
まず、劣化度推定装置100は、劣化度推定処理の開始指示があるか否かを判別する(ステップS101)。例えば、劣化度推定装置100は、操作受付部101に対して、劣化度推定処理の開始を指示する操作がユーザによりなされたか否かを判別する。劣化度推定装置100は、劣化度推定処理の開始指示がないと判別すると(ステップS101:NO)、ステップS101に処理を戻す。
劣化度推定装置100は、劣化度推定処理の開始指示があると判別すると(ステップS101:YES)、周波数特定処理を実行する(ステップS102)。周波数特定処理については、図11に示すフローチャートを参照して、詳細に説明する。周波数特定処理は、減衰最小周波数を特定する処理であり、ケーブル600を高周波用ケーブルと低周波用ケーブルとのいずれかに分類する処理である。
まず、劣化度推定装置100は、スイッチ503を開状態に設定する(ステップS201)。具体的には、通信部109が、スイッチ503を開放状態にすることを指示する開放指示情報を開閉装置500に送信する。一方、開閉装置500は、通信部109から受信した開放指示情報に従って、スイッチ503を開放状態にする。
劣化度推定装置100は、ステップS201の処理を完了すると、交流信号の振幅を設定する(ステップS202)。具体的には、通信部109は、交流信号の振幅を指定する振幅指定情報を、交流信号発生装置510に送信する。なお、交流信号の振幅は、例えば、5Vである。一方、交流信号発生装置510は、通信部109から受信した振幅指定情報に従って、交流信号の振幅を設定する。
劣化度推定装置100は、ステップS202の処理を完了すると、交流信号の周波数を初期値に設定する(ステップS203)。具体的には、通信部109は、交流信号の周波数として初期値を指定する周波数指定情報を、交流信号発生装置510に送信する。初期値は、例えば、1kHzである。一方、交流信号発生装置510は、通信部109から受信した周波数指定情報に従って、交流信号の周波数を初期値に設定する。
劣化度推定装置100は、ステップS203の処理を完了すると、交流信号の出力開始を指示する(ステップS204)。具体的には、通信部109は、交流信号の出力開始を指示する開始指示情報を、交流信号発生装置510に送信する。一方、交流信号発生装置510は、通信部109から受信した開始指示情報に従って、交流信号の出力を開始する。
劣化度推定装置100は、ステップS204の処理を完了すると、交流信号の振幅を測定する(ステップS205)。具体的には、電圧測定部103は、ケーブル600の一端間に印加された電圧を測定し、交流信号の振幅を測定する。なお、測定される振幅は、ケーブル600により減衰した振幅である。
劣化度推定装置100は、ステップS205の処理を完了すると、交流信号の周波数が上限値であるか否かを判別する(ステップS206)。上限値は、例えば、1MHzである。劣化度推定装置100は、交流信号の周波数が上限値でないと判別すると(ステップS206:NO)、交流信号の周波数を上げる(ステップS207)。具体的には、通信部109は、交流信号の周波数として現在の周波数よりも1段階上の周波数を指定する周波数指定情報を、交流信号発生装置510に送信する。なお、周波数は、例えば、1kHzずつ上げられるものとする。一方、交流信号発生装置510は、通信部109から受信した周波数指定情報に従って、交流信号の周波数を変更する。劣化度推定装置100は、ステップS207の処理を完了すると、ステップS204に処理を戻す。
劣化度推定装置100は、交流信号の周波数が上限値であると判別すると(ステップS206:YES)、減衰最小周波数を特定する(ステップS208)。つまり、周波数特定部105は、振幅が最大である周波数を、減衰最小周波数として特定する。劣化度推定装置100は、ステップS208の処理を完了すると、ケーブル600を分類する(ステップS209)。
例えば、劣化度推定装置100は、減衰最小周波数が基準周波数以上である場合、ケーブル600を高周波用ケーブルに分類し、減衰最小周波数が基準周波数未満である場合、ケーブル600を低周波用ケーブルに分類する。劣化度推定装置100は、ステップS209の処理を完了すると、周波数特定処理を完了する。
劣化度推定装置100は、ステップS102の処理を完了すると、短絡時波形を取得する(ステップS103)。具体的には、通信部109は、スイッチ503を短絡状態にすることを指示する短絡指示情報を開閉装置500に送信する。一方、開閉装置500は、通信部109から受信した短絡指示情報に従って、スイッチ503を短絡状態にする。また、パルス印加部102は、ケーブル600の一端間に電圧パルスを印加する。そして、電圧測定部103は、ケーブル600の一端間の電圧を測定し、短絡時波形を測定する。
劣化度推定装置100は、ステップS103の処理を完了すると、開放時波形を取得する(ステップS104)。具体的には、通信部109は、スイッチ503を開放状態にすることを指示する開放指示情報を開閉装置500に送信する。一方、開閉装置500は、通信部109から受信した開放指示情報に従って、スイッチ503を開放状態にする。また、パルス印加部102は、ケーブル600の一端間に電圧パルスを印加する。そして、電圧測定部103は、ケーブル600の一端間の電圧を測定し、開放時波形を測定する。
劣化度推定装置100は、ステップS104の処理を完了すると、差分波形を生成する(ステップS105)。具体的には、差分波形生成部104は、短絡時波形と開放時波形とから差分波形を生成する。劣化度推定装置100は、ステップS105の処理を完了すると、ケーブル600が高周波用ケーブルであるか否かを判別する(ステップS106)。
劣化度推定装置100は、ケーブル600が高周波用ケーブルであると判別すると(ステップS106:YES)、パルス往復時間を特定する(ステップS107)。つまり、劣化度推定部107は、差分波形から、電圧パルスの先頭位置と反射波の先頭位置とを特定し、電圧パルスの先頭位置から反射波の先頭位置までの長さに対応するパルス往復時間を算出する。
劣化度推定装置100は、ステップS107の処理を完了すると、第1対応関係情報に基づいて第1推定劣化度を推定する(ステップS108)。具体的には、劣化度推定部107は、往復時間割合と第1推定劣化度との対応関係を示す第1対応関係情報と、算出されたパルス往復時間と、パルス往復時間の初期値と、に基づいて、第1推定劣化度を推定する。往復時間割合は、パルス往復時間の初期値に対する算出されたパルス往復時間の割合である。
劣化度推定装置100は、ステップS108の処理を完了すると、第1推定劣化度を示す情報を表示する(ステップS109)。具体的には、劣化度表示部108は、第1推定劣化度を示す画面を表示する。図12に、第1推定劣化度を示す画面900を示す。画面900には、ケーブル600の使用期間の推定値が、第1推定劣化度の指標値として表示されている。つまり、画面900には、第1推定劣化度が、15年使用したケーブル600の劣化度と同程度であることが示されている。また、画面900には、ケーブル600の余命が5年程度であり、ケーブル600を5年以内に交換することを推奨することとが示されている。劣化度推定装置100は、ステップS109の処理を完了すると、ステップS101に処理を戻す。
劣化度推定装置100は、ケーブル600が高周波用ケーブルでないと判別すると(ステップS106:NO)、反射波傾斜角を特定する(ステップS110)。つまり、劣化度推定部107は、差分波形から、反射波の先頭位置と収束位置とを特定し、反射波の先頭位置と収束位置とを通過する直線の傾きを、反射波傾斜角として算出する。
劣化度推定装置100は、ステップS110の処理を完了すると、第2対応関係情報に基づいて第2推定劣化度を推定する(ステップS111)。具体的には、劣化度推定部107は、傾斜角割合と第2推定劣化度との対応関係を示す第2対応関係情報と、算出された反射波傾斜角と、反射波傾斜角の初期値と、に基づいて、第2推定劣化度を推定する。傾斜角割合は、反射波傾斜角の初期値に対する算出された反射波傾斜角の割合である。
劣化度推定装置100は、ステップS111の処理を完了すると、第2推定劣化度を示す情報を表示する(ステップS112)。具体的には、劣化度表示部108は、第2推定劣化度を示す画面を表示する。なお、第2推定劣化度は、例えば、第1推定劣化度と同様に、ケーブル600の使用期間の推定値を指標値として表示される。劣化度推定装置100は、ステップS112の処理を完了すると、ステップS101に処理を戻す。
本実施形態では、ケーブル600の周波数特性に応じて、第1推定劣化度と第2推定劣化度とのうちのいずれかが推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル600の周波数特性に応じた精度のよい劣化度の推定が可能となる。
また、本実施形態では、推定対象波形として、短絡時波形と開放時波形とから求められた差分波形が用いられる。従って、本実施形態によれば、ケーブル600の中間部分で発生した他の反射波の影響が相殺され、精度のよい劣化度の推定が可能となる。
(変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明を実施するにあたっては、種々の形態による変形及び応用が可能である。
本発明において、上記実施形態において説明した構成、機能、動作のどの部分を採用するのかは任意である。また、本発明において、上述した構成、機能、動作のほか、更なる構成、機能、動作が採用されてもよい。
実施形態では、推定対象波形が、短絡時波形の各電圧から開放時波形の各電圧を減じた差分波形である例について説明した。推定対象波形が、開放時波形の各電圧から短絡時波形の各電圧を減じた差分波形であってもよい。或いは、推定対象波形は、短絡時波形であってもよいし、開放時波形であってもよい。
実施形態では、ケーブル600の劣化度を示す指標値が、ケーブル600の使用期間の推定値である例について説明した。ケーブル600の劣化度を示す指標値が、ケーブル600の使用期間の推定値ではなく、他の指標値であってもよい。例えば、ケーブル600の劣化度を示す指標値が、ケーブル600の比誘電率の増加率であってもよい。
実施形態では、劣化度推定装置100が開閉装置500を制御し、開閉装置500が一対の電線の他端間の状態を自動で制御する例について説明した。一対の電線の他端間の状態は、手動により開放状態と短絡状態との間で切り替えられてもよい。
実施形態では、交流信号発生装置510を用いて、ケーブル600の減衰最小周波数を特定する例について説明した。ケーブル600の種類又は型番により減衰最小周波数が特定可能である場合、交流信号発生装置510を設けなくてもよい。また、ケーブル600が高周波用ケーブルと低周波用ケーブルとのいずれに分類されるかを指定する操作が操作受付部101により受け付けられる場合、交流信号発生装置510を設けなくてもよい。
実施形態では、空調システムが備えるケーブル600の劣化度を推定する例について説明した。劣化度を推定するケーブルは、空調システムが備えるケーブルに限定されないことは勿論である。例えば、劣化度を推定するケーブルは、照明機器と照明制御装置とを備える照明システムが備えるケーブルであってもよい。
実施形態では、ケーブル610,620,630が2本の芯線を含む例について説明した。ケーブル610,620,630に含まれる芯線の本数は3本以上であってもよい。この場合、3本以上の芯線から選択される2本の芯線を上述した一対の電線を構成する芯線とみなして、上述した劣化度推定処理を実行することができる。
本発明に係る劣化度推定装置の動作を規定する動作プログラムを既存のパーソナルコンピュータ又は情報端末装置に適用することで、当該パーソナルコンピュータ又は情報端末装置を本発明に係る劣化度推定装置として機能させることも可能である。また、このようなプログラムの配布方法は任意であり、例えば、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、メモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよいし、インターネットなどの通信ネットワークを介して配布してもよい。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。