以下、本発明に係る線維化抑制剤を、図面等を参照して詳細に説明する。
線維化抑制剤
本発明に係る線維化抑制剤は、Sema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片をコードするポリヌクレオチド;Sema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片;及び当該タンパク質又はその部分断片をリガンドとする受容体に対するアゴニストからなる群から選ばれる1つを有効成分として含んでいる。また、本発明に係る線維化抑制剤は、Sema6ファミリーに属するタンパク質が関与するシグナル伝達を亢進する物質を有効成分として含んでいる。この有効成分は、線維化の発生を予防することができ、又は線維化の進行を抑制することができ、又は線維化を改善することができる。セマフォリンは、神経軸索伸長などの細胞移動を制御するガイダンス因子として同定され、標的細胞のプレキシンと相互作用することによってシグナル伝達を行うことが知られている。セマフォリンは免疫応答・器官形成・血管新生に関与するとされている。
<ポリヌクレオチド、タンパク質、部分断片>
Sema6ファミリーとは、構造と配列の違いに基づいて分類されるクラス1~7のうち、膜貫通型セマフォリンであるクラス6の分類を意味する。セマフォリンのクラス6には、セマフォリン6A~6Dの4種類が含まれている。Sema6ファミリーに属するタンパク質とは、これらセマフォリン6A~6Dの4種類のタンパク質を意味する。なお、これらセマフォリン6A~6D及びその他のセマフォリンについては、Nature Reviews Neuroscience 13, 605-618 (September 2012)を参照することができる。
特に、本発明に係る線維化抑制剤の有効成分は、Sema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片をコードするポリヌクレオチドのなかでも、セマフォリン6A又はその部分断片、若しくはセマフォリン6D又はその部分断片をコードするポリヌクレオチドとすることが好ましい。同様に、本発明に係る線維化抑制剤の有効成分としては、Sema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片のなかでも、セマフォリン6A又はその部分断片、若しくはセマフォリン6D又はその部分断片とすることが好ましい。
更に、特に本発明に係る線維化抑制剤の有効成分としては、Sema6ファミリーに属するセマフォリン6A又はその部分断片をコードするポリヌクレオチド、或いはSema6ファミリーに属するセマフォリン6A又はその部分断片とすることがより好ましい。
これらセマフォリン6A及び6Dについては、後述する実施例に示すように、健常な肝臓、慢性肝炎を発症した肝臓及び肝臓癌を発症した肝臓の順で発現レベルが顕著に低下している。特にセマフォリン6Aについては、健常な肝臓、慢性肝炎を発症した肝臓及び肝臓癌を発症した肝臓の順で発現レベルがより顕著に低下している。
ここで、部分断片とは、特に限定されないが、プレキシン等の受容体を介したシグナル伝達に関与するというセマフォリンの機能を保持している断片であることが好ましい。例えば、部分断片としては、クラス6に分類されるセマフォリン分子における膜外ドメイン(Sema domain)を含む断片であることが好ましい。具体的に、部分断片とは、膜外ドメインのみからなる断片でも良いし、膜外ドメインと当該膜外ドメインのN末端側及び/又はC末端側とを含む断片であっても良い。当該膜外ドメインは、プレキシン等の受容体と相互作用するリガンドとして機能する。
一例として、セマフォリン6Aをコードする遺伝子のコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。なお、セマフォリン6A遺伝子以外のSema6ファミリーに属する遺伝子については、例えばGenBankデータベース等の遺伝子関連情報を格納した公知のデータベースより入手することができる。
すなわち、本発明に係る線維化抑制剤は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドでも良いし、当該タンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドであっても良い。セマフォリン6Aにおける膜外ドメインは、配列番号2のアミノ酸配列において48~513番目の領域に相当する。したがって、本発明に係る線維化抑制剤は、配列番号2のアミノ酸配列において48~513番目の領域を含む部分断片をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
同様に、本発明に係る線維化抑制剤は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質を主成分とするものでも良いし、当該タンパク質の部分断片を有効成分とするものであっても良い。特に、本発明に係る線維化抑制剤は、配列番号2のアミノ酸配列において48~513番目の領域を含む部分断片、すなわちセマフォリン6Aにおける膜外ドメインであることが好ましい。
なお、配列番号2のアミノ酸配列において1~18番目の領域はシグナルペプチドに相当し、514~550番目の領域はプレキシン/セマフォリン/インテグリンドメイン(PSI)に相当し、650~670番目の領域は膜貫通ドメインに相当し、671~1030番目の領域は細胞内ドメインに相当している。
本発明に係る線維化抑制剤としては、上記膜外ドメインと配列番号2のアミノ酸配列において1~48番目の領域とからなる部分断片(シグナルペプチドと膜外ドメインを含む断片)又は当該部分断片をコードするポリヌクレオチドを有効成分としても良いし、上記膜外ドメインと配列番号2のアミノ酸配列において1~47番目の領域と配列番号2のアミノ酸配列において514~550番目の領域とからなる部分断片(シグナルペプチドと膜外ドメインとPSIを含む断片)又は当該部分断片をコードするポリヌクレオチドを有効成分としても良いし、上記膜外ドメインと配列番号2のアミノ酸配列において1~47番目の領域と配列番号2のアミノ酸配列において515~670番目の領域とからなる部分断片(シグナルペプチドと膜外ドメインとPSIと膜貫通ドメインを含む断片)又は当該部分断片をコードするポリヌクレオチドを有効成分としても良い。
なお、セマフォリン6Aをコードする遺伝子のコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示したが、当該遺伝子としては、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、プレキシン等の受容体と相互作用する機能を有するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで複数個とは、2~100個のアミノ酸とすることができ、2~80個のアミノ酸とすることが好ましく、2~60個のアミノ酸とすることがより好ましく、2~40個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~30個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~20個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~10個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~5個のアミノ酸とすることが更に好ましい。
また、セマフォリン6Aをコードする遺伝子としては、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、更に好ましくは95%以上の配列同一性、或いは更に好ましくは97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、プレキシン等の受容体と相互作用する機能を有するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで配列同一性の値は、配列番号2のアミノ酸配列(1030個)とのペアワイズアライメントを行い、完全に一致するアミノ酸残基の割合として算出することができる。
さらに、セマフォリン6Aをコードする遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列をコーディング領域と有する遺伝子に限定されず、配列番号1に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなり、プレキシン等の受容体と相互作用する機能を有するタンパク質をコードするものであっても良い。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSの条件であり、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されるものではない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。ハイブリダイゼーションは、例えばMolecular Cloning: A laboratory Manual, 4th Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,などに記載されている方法に準じて行うことができる。
なお、配列番号2と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号1に示す塩基配列以外の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質が、プレキシン等の受容体と相互作用する機能を有するかについては、例えば、Nature Reviews Neuroscience 13, 605-618 (September 2012)に記載された方法に従って検討することができる。
<シグナル伝達経路>
上述のように、セマフォリン6A等のSema6ファミリーに属するタンパク質はプレキシンと相互作用することが知られている。すなわち、Sema6ファミリーに属するタンパク質が関与するシグナル伝達経路としては、Sema6ファミリーに属するタンパク質をリガンドとしプレキシンを受容体としたシグナル経路が知られている。ところが、後述の実施例に示したように、セマフォリン6A等のSema6ファミリーに属するタンパク質が関与するシグナル伝達経路において、Sema6ファミリーに属するタンパク質をリガンドとする受容体の一つにAKAP12が含まれることが新たな知見として明らかとなっている。
したがって、受容体としてAKAP12を含む当該シグナル伝達経路を亢進する(活性化する)ことによって線維化抑制効果が増大することとなる。すなわち、本発明に係る線維化抑制剤には、当該シグナル伝達経路を亢進する(活性化する)物質を有効成分として含有する形態も包含される。
[転写因子]
ここで当該シグナル伝達経路を亢進する物質としては、特に限定されないが、上述したセマフォリン6A等のSema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子が含まれる。
Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子としては、CREB及びCEBPαを挙げることができる。なお、CREB(cAMP response element binding protein)は、cAMP応答配列結合タンパクであり転写因子として知られている。CEBPα(C/EBPαとも呼称される。CCAAT/ enhancer binding protein)は、CCAATエンハンサー結合タンパク質であり転写因子として知られている。
CREBをコードする遺伝子及びCEBPαをコードする遺伝子に関する配列情報は、GenBankデータベース等の遺伝子関連情報を格納した公知のデータベースよりそれぞれ入手することができる。CREBをコードする遺伝子のコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号17及び18に示す。CEBPαをコードする遺伝子のコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号19及び20に示す。
Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子をコードする遺伝子としては、配列番号18又は20に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号18又は20に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子として機能するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで複数個とは、2~100個のアミノ酸とすることができ、2~80個のアミノ酸とすることが好ましく、2~60個のアミノ酸とすることがより好ましく、2~40個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~30個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~20個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~10個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~5個のアミノ酸とすることが更に好ましい。
また、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子をコードする遺伝子としては、配列番号18又は20に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号18又は20に示すアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、更に好ましくは95%以上の配列同一性、或いは更に好ましくは97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子として機能するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで配列同一性の値は、配列番号18又は20のアミノ酸配列とのペアワイズアライメントを行い、完全に一致するアミノ酸残基の割合として算出することができる。
さらに、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子をコードする遺伝子としては、配列番号17又は19に示す塩基配列をコーディング領域と有する遺伝子に限定されず、配列番号17又は19に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなり、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子をコードするものであっても良い。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSの条件であり、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されるものではない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。ハイブリダイゼーションは、例えばMolecular Cloning: A laboratory Manual, 4th Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,などに記載されている方法に準じて行うことができる。
なお、配列番号18又は20と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号17又は19に示す塩基配列以外の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質が、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子の発現を正に制御する転写因子として機能するかについては、例えば、Sema6ファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域及びレポーター遺伝子を用いたレポーターアッセイによって検討することができる。このレポーターアッセイには、例えば、セマフォリン6Aのプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を配置したベクターを使用する。当該ベクターを導入するとともに上記転写因子として機能するか判定する対象のタンパク質を発現する細胞においてルシフェラーゼ由来の蛍光を測定し、蛍光強度に基づいて当該タンパク質の転写因子としての機能を判定することができる。
[受容体]
ところで、Sema6ファミリーに属するタンパク質をリガンドとしAKAP12を受容体とするシグナル伝達経路を亢進する物質としては、受容体であるAKAP12自体を挙げることができる。なお、AKAP12(A-Kinase Anchor Protein 12)は、足場タンパク質として機能することが知られている。
AKAP12をコードする遺伝子に関する配列情報は、GenBankデータベース等の遺伝子関連情報を格納した公知のデータベースよりそれぞれ入手することができる。AKAP12をコードする遺伝子のコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号21及び22に示す。
AKAP12をコードする遺伝子としては、配列番号22に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号22に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、Sema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで複数個とは、2~100個のアミノ酸とすることができ、2~80個のアミノ酸とすることが好ましく、2~60個のアミノ酸とすることがより好ましく、2~40個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~30個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~20個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~10個のアミノ酸とすることが更に好ましく、2~5個のアミノ酸とすることが更に好ましい。
また、AKAP12をコードする遺伝子としては、配列番号22に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に限定されず、例えば、配列番号22に示すアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、更に好ましくは95%以上の配列同一性、或いは更に好ましくは97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Sema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能するタンパク質をコードするものであっても良い。ここで配列同一性の値は、配列番号22のアミノ酸配列とのペアワイズアライメントを行い、完全に一致するアミノ酸残基の割合として算出することができる。
さらに、AKAP12をコードする遺伝子としては、配列番号21に示す塩基配列をコーディング領域と有する遺伝子に限定されず、配列番号21に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなり、Sema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能するタンパク質をコードするものであっても良い。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSの条件であり、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されるものではない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。ハイブリダイゼーションは、例えばMolecular Cloning: A laboratory Manual, 4th Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,などに記載されている方法に準じて行うことができる。
なお、配列番号22と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号21に示す塩基配列以外の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質が、Sema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能するかについては、一般にリガンドと受容体との親和性を検証する実験に従って判定することができる。或いは、Sema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能するか判定する対象のタンパク質を発現させ、AKAP12を受容体とするシグナル伝達経路が活性化されるかを指標として判定することもできる。AKAP12を受容体とするシグナル伝達経路が活性化されると、線維化の指標となるコラーゲン1a2遺伝子の発現量が低下する。よって、コラーゲン1a2遺伝子の発現量に基づいて、判定対象のタンパク質が上記AKAP12を受容体とするシグナル伝達経路を活性化するかを調べることができる。判定対象のタンパク質が上記AKAP12を受容体とするシグナル伝達経路を活性化する場合には、当該タンパク質がSema6ファミリーに属するタンパク質の受容体として機能すると判断することができる。
[アゴニスト]
上述したように、Sema6ファミリーに属するセマフォリンは、リガンドとして受容体であるAKAP12或いはプレキシンを介してシグナル伝達に関与する。詳細を後述の実施例で示したように、セマフォリンの発現を強化することで、線維化の発生を予防することができ、又は線維化の進行を抑制することができ、又は線維化を改善することができることから、Sema6ファミリーに属するセマフォリンの受容体と相互作用するアゴニストもまた、線維化の発生を予防することができ、又は線維化の進行を抑制することができ、又は線維化を改善することができる。
ここでアゴニストとは、Sema6ファミリーに属するセマフォリンの受容体であるAKAP12或いはプレキシンに対して相互作用し、AKAP12或いはプレキシンを介したシグナル伝達を活性化する機能を有する物質を意味する。物質としては、何ら限定されないが、例えば、ポリペプチド、オリゴペプチド、核酸、低分子化合物等を挙げることができる。
また、アゴニストとしては、特に後述の実施例に示した受容体であるAKAP12に対するアゴニストであることが好ましい。或いは、アゴニストとしては、セマフォリン6Aの受容体であるプレキシンA2又はプレキシンA4に対して作用するアゴニストとすることもできる。
あるいは、このようなアゴニストは、様々な被験物質のなかからスクリーニングすることができる。具体的には、Sema6ファミリーに属するセマフォリンの受容体であるAKAP12或いはプレキシンを発現する細胞を作製し、当該細胞に被験物質を接触させ、当該細胞の応答性、例えば成長円錐の退縮、細胞の収縮を測定する。そして、当該細胞にSema6ファミリーに属するセマフォリンを接触させたときの当該細胞の応答性と比較し、同じ或いは類似の応答性が認められた場合、その被験物質が上記アゴニストであることが示される。なお、Sema6ファミリーに属するセマフォリンの受容体であるプレキシンに対するアゴニストのスクリーニング方法については特開2001-157583号公報を参照することができる。
<線維化抑制剤>
本発明に係る線維化抑制剤は、上述したSema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片をコードするポリヌクレオチド、上述した転写因子をコードするポリヌクレオチド、上述した受容体若しくはアゴニストをコードするポリヌクレオチドをベクターに組み入れ、当該ベクターを用いて目的とする組織(例えば肝臓)において発現させることができるように調製できる。ベクターとしては、特に限定されず、ヒトに使用することができる各種ベクターを用いることができる。ベクターとしては、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターのいずれを用いてもよい。
これらのうち、ウイルスベクターを用いることが好ましい。ウイルスベクターとしては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどが利用可能であるが、これらのうち、AAVベクターが好ましい。AAVベクターは安全性が高く、比較的長期の遺伝子発現を期待できることから特に好ましく用いられる。アデノ随伴ウイルスとしては、1型AAVウイルス(AAV1)、2型AAVウイルス(AAV2)、3型AAVウイルス(AAV3)、4型AAVウイルス(AAV4)、5型AAVウイルス(AAV5)、6型AAVウイルス(AAV6)、7型AAVウイルス(AAV7)及び8型AAVウイルス(AAV8)などが知られているが、AAVベクターの製造にはいずれを用いることも可能である。
特に、上述したポリヌクレオチドを発現させる目的の臓器や組織によって、AAVベクターの至適血清型が異なっている。したがって、上記ポリヌクレオチドを発現させる臓器や組織に応じて適宜血清型を選択することが望ましい。例えば、上記ポリヌクレオチドを発現させる臓器が肝臓である場合、AAV8ベクターを使用することが好ましい。
本発明に係る線維化抑制剤は特に限定されないが、AAVベクターを用いる場合には、以下の方法に従って組換えベクターを調製することができる。以下、本発明の好ましい態様としてAAVベクターを用いる場合について具体的に説明するが、本発明の範囲はAAVベクターを用いる場合に限定されることはない。上述したポリヌクレオチドをサイトロメガロウイルス(CMV)プロモーター領域とSV40のpolyA領域の間に挿入して8型AAV(AAV8)ウイルスゲノムの両端に存在するinverted terminal repeat (ITR)配列とともにプラスミドに組み込むことによりベクタープラスミドを調製する。上記のベクタープラスミド、パッケージングプラスミド(AAVの非構造蛋白質であるRepとカプシド蛋白であるVPを発現するためのプラスミド)、及びヘルパープラスミド(アデノウイルス由来の塩基配列でE2A、E4、及びVA領域を含む)の3種類のプラスミドをヒト腎由来のHEK293細胞にトランスフェクトすることにより、上述したポリヌクレオチドを含むAAVベクターを調製することができる。
また、本発明に係る線維化抑制剤は、有効成分が上述したSema6ファミリーに属するタンパク質又はその部分断片、上述した転写因子、上述した受容体若しくはアゴニスト(ペプチド又はポリペプチド)である場合、定法に従って調製することができる。すなわち、具体的なアミノ酸配列に基づいて、上記タンパク質又はその部分断片を得ることができる。かかるタンパク質又は部分断片は、そのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの発現によって、原核生物又は真核生物の宿主細胞内に生成することができる。あるいは、かかるタンパク質又は部分断片は化学的方法で合成することができる。
ここで、化学的方法で上記タンパク質又は部分断片を合成する場合、カルボキシ末端及び/又はアミノ末端を修飾することができる。修飾としては、例えばアセチル化及びアミド化を挙げることができる。さらに、修飾としては、アシル化又はアルキル化(例えばメチル化)などのアミノ末端修飾、アミド化などのカルボキシ末端修飾、環化などの他の末端修飾を挙げることができる。これら修飾を行うことで、合成するタンパク質又は部分断片の安定性を向上させたり、薬理作用を向上させたり、血清プロテアーゼに対する耐性を向上させたり、所望の薬物動態学的特性を獲得するといった有利な物理的、化学的、生化学的及び薬学的特性を得ることができる。
具体的に、上記タンパク質又はその部分断片を得るには、目的とするタンパク質又は部分断片をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに導入し、宿主細胞において発現させればよい。或いは、無細胞系(セルフリーシステム)を利用して上記タンパク質又はその部分断片を得ることもできる。
発現ベクターとしては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
ポリヌクレオチドのベクターへの導入は、公知の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、または単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位に上記ポリヌクレオチドを挿入することができる。上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞において上記タンパク質又は部分断片を発現、産生させることができる。
宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、真菌細胞、パン酵母、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション等の公知の方法で行うことができる。
得られたタンパク質又は部分断片は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合タンパク質として発現される場合は、目的タンパク質と融合しているタンパク質又は部分断片の性質を利用して精製することもできる。例えばGSTとの融合タンパク質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。また、ヒスチジンタグとの融合タンパク質として発現させた場合、ヒスチジンタグを有するタンパク質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる。
<線維化>
組織の線維化は、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックス等の結合組織が組織に過剰に産生・蓄積されることにより生じる。線維化は、肝、膵、肺、腎、骨髄、心臓などの各種臓器にみられ、線維芽細胞等のコラーゲン産生細胞が病態に関与していると考えられている。このような組織・器官の線維化は疾患の発症段階又は進行過程で見られ、これを引き起こさないことが、疾患の予防・治療においても重要である。
本発明に係る線維化抑制剤は、臓器の種類に限定されず、線維化全般に対する改善効果を有するものである。ここで、改善効果とは、線維化の発生予防、線維化の進行抑制及び線維化病変部位の退縮等を挙げることができる。
したがって、本発明に係る線維化抑制剤は、線維化を伴う疾患の予防又は治療に有効である。このような疾患としては、例えば肺線維症、肝硬変、肝癌、膵膿疱性線維症、動脈硬化症、強皮症、経皮経管冠動脈血管拡張術後の冠動脈再狭窄、間質性肺炎、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎症、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、熱傷後の皮膚瘢痕化などやそれらの合併症を挙げることができる。
特に本発明に係る線維化抑制剤は、星細胞が活性化して筋線維芽様細胞に形質転換する線維化シグナルを阻害することで、線維化を改善することが後述の実施例にて示されている。したがって、特に本発明に係る線維化抑制剤は、星細胞が活性化して筋線維芽様細胞となるメカニズムにより線維化する肝線維化及び/又は膵線維化を対象とすることが好ましい。すなわち、本発明に係る線維化抑制剤は、星細胞が活性化して線維化する肝臓及び/又は膵臓における線維化に起因する疾患の治療に非常に有効である。
ここで、肝の線維化は活性化した星細胞が筋線維芽様細胞に形質転換し細胞外基質を産生することによって進行する。肝線維化を改善させることにより、肝機能の改善のみならず、肝癌発生を抑制することが可能となる。すなわち、本発明に係る線維化抑制剤は、肝臓の線維化を有する患者、肝硬変を有する患者に対する肝癌の予防剤として使用することができる。
本発明に係る線維化抑制剤は、上述のように、ポリヌクレオチド、タンパク質又はその部分断片、若しくはアゴニストを有効成分として含有するが、これら有効成分に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
医薬上許容される担体としては、例えば、医薬的に許容し得る担体を含んでいてもよい。医薬的に許容し得る担体とは、液体または固体の賦形剤、希釈液、潤滑剤、または物質をカプセル化する溶媒のような、医薬的に許容し得る物質、組成物または媒体を意味する。各担体は、前記製剤の他の成分との適合性があり、また投与対象に対して傷害性でないという意味において「許容し得る」ものでなければならない。医薬的に許容し得る担体の具体的な例としては、例えば、ラクトース、グルコース、ショ糖などの糖;コーンスターチ、ジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロース酢酸塩などのセルロース;トラガカント;麦芽;ゼラチン;滑石;カカオバター、坐薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール類;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなどのポリオール類;オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの緩衝化剤;アルギン酸;生理食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコール;ポリエステル、ポリカーボネートなどのポリ無水物類、などが挙げられるが、特に限定されない。当業者であれば、適宜これらの担体を選択することが可能である。
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明に係る線維化抑制剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。本発明に係る線維化抑制剤がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターを含む場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、本発明に係る線維化抑制剤がプラスミドベクターを含む場合には、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることができる。
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
医薬組成物中、上記リペプチドを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
本発明に係る線維化抑制剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001~約500mg/kgである。
本発明に係る線維化抑制剤は、好ましくは、その有効成分である上記のポリヌクレオチド又はこれを発現し得る発現ベクターが、標的となる細胞(好ましくは肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等))に送達されるように、哺乳動物(例えば、ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)に対して安全に投与される。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
miR-214のターゲット遺伝子の同定
Okada et al., Cancer science. 2015; 106: 1143-52では、PDGF-C-Tgマウスの肝組織おいて高発現するmiRNAの一つとしてmiR-214(has-miR-214と呼称する場合もある)を同定している。本実施例では、このmiR-214が発現抑制するターゲット遺伝子の一つとしてSema6A遺伝子を同定した。なお、miR-214(has-miR-214)の塩基配列を配列番号3に示した。
[ターゲット遺伝子の検索]
miR-214の塩基配列(5’末端側より2~8塩基のシード配列)に基づいてターゲット遺伝子の検索を行った。具体的には、miR-214の標的因子はTarget scanから予測した。さらに、予測した標的因子をこれまでのマウス及びヒトのデータ情報から数種類までに絞った。その結果、3’非翻訳領域にmiR-214のシード配列と相補的な配列を有する遺伝子の一つとしてセマフォリン6AをコードするSema6A遺伝子を同定した(図1)。なお、miR-214のシード配列と相補的な配列は、Sema6A遺伝子の3’非翻訳領域における1851-1857番目の領域に存在していた。また、図1中、“ptr”はチンパンジー(Pan troglodytes)におけるSema6A遺伝子の3’非翻訳領域を示し、“Mmu”はマウス(Mus musculus)におけるSema6A遺伝子の3’非翻訳領域を示し、“Rno”はラット(Rattus norvegicus)におけるSema6A遺伝子の3’非翻訳領域を示している。
[レポーターアッセイ]
Sema6A遺伝子の3’非構造領域とルシフェラーゼレポーター遺伝子とを連結したコンストラクトを作製し、Sema6A遺伝子がmiR-214のターゲットであることを確認した。
コンストラクトは、以下のように作製した。ヒト末梢血単核細胞PBMCのgDNAからForward(1688-1707): AAAGAGCTCGGGACTAACGTCCCATTCCT(配列番号4)及びReverse(1851-1857): AAATCTAGACCCAGAAGATCGAACTGGAA(配列番号5)を一対のプライマーとし、PrimeSTAR MAX DNA polyxmerase(Takara)を用いたPCRにてSema6a-3’UTR領域を増幅した。得られたSema6a-3’UTR領域とpmirGLO vectorとをSac1及びXbaIでそれぞれ切断した。これら2種類の制限酵素処理断片をDNA ligation Kit <Mighty Mix>(Takara社製)によって連結することでコンストラクトを作製した。作製したコンストラクトをpmirGLO-Sema6A 3’UTRと命名した。
また、本アッセイでは、miR-214の発現を抑制するため、miR-214に対して相補的な配列を有するLNA-antimiR-214を発現するコンストラクトを使用した。LNA-antimiR-214とは、LNA(locked nucleic acid)修飾により、miR-214との相補的な結合が強くなるようにしたantimiRである。具体的には、LNA-antimiR-214を発現するコンストラクトとしてmiRCURY LNA microRNA power inhibitor hsa-miR-214(TGCCTGTCTGTGCCTGCTG(配列番号6))(Product Number: 426954-00)を使用した。なお、本配列のLNA修飾方法は、EXIQONによるものである。なお、コントロールとして、LNA-antimiR-contを使用した。
さらに、本アッセイでは、miR-214のアゴニストとして機能するMimic-miR-214を発現するコンストラクトを使用した。Mimic-miR-214を発現するコンストラクトとしては、Pre-miR miRNA precursor hsa-miR-214-3p PM12124(ACAGCAGGCACAGACAGGCAGU(配列番号7))を使用した。なお、本配列の安定修飾方法は、Ambionによるものである。なお、コントロールとして、Mimic-miR-contを使用した。
以上のように作製したpmirGLO-Sema6A 3’UTRを細胞(ヒト胎児腎細胞由来293AD細胞)にトランスフェクトした。得られた細胞に対して更に、LNA-antimiR-214、LNA-antimiR-Cont、Mimic-miR-214或いはMimic-miR-Contをトランスフェクトした。得られた細胞についてルシフェラーゼ活性を測定した。
ルシフェラーゼ活性を測定した結果を図2に示した。図2の左側は、pmirGLO-Sema6A 3’UTRをトランスフェクトした細胞に対して、さらにLNA-antimiR-214或いはLNA-antimiR-Contをトランスフェクトした細胞について測定したルシフェラーゼ活性を示している。図2の右側は、pmirGLO-Sema6A 3’UTRをトランスフェクトした細胞に対して、さらにMimic-miR-214或いはMimic-miR-Contをトランスフェクトした細胞について測定したルシフェラーゼ活性を示している。
図2に示すように、LNA-antimiR-214によりmiR-214の発現を抑制すると、コントロールと比較してルシフェラーゼ活性が有意に上昇した。また、Mimic-miR-214によりmiR-214を過剰発現させると、コントロールと比較してルシフェラーゼ活性が有意に低下した。これらの結果より、miR-214は、Sema6A遺伝子をターゲットとし、Sema6A遺伝子の発現を抑制していることが明らかとなった。
〔実施例2〕
Sema6A遺伝子の肝臓における発現解析
実施例1にて、miR-214が発現抑制するターゲット遺伝子の一つとしてSema6A遺伝子が同定された。本実施例では、Sema6A遺伝子の肝臓組織における発現を解析した。
まず、PDGF-C-Tgマウスの肝組織におけるSema6A遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により測定した。なお、Sema6A遺伝子の発現量は、野生型のマウスにおけるSema6A遺伝子の発現量の相対値として算出した。
具体的に、PDGF-C-Tgマウスに対して生理食塩水を投与する群、LNA-antimiR-214を投与する群、LNA-antimiR-Contを投与する群にわけ、それぞれの群におけるSema6A遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法によって測定した。本実験において、生理食塩水、LNA-antimiR-214及びLNA-antimiR-Contの投与は、マウス20gあたり50μg/200μLになるようにトランスフェクション試薬invivofectamin2.0を用いて尾静注した。肝線維化抑制及び肝細胞癌抑制効果をみるために、32週齢雄性のPDGF-C Tgマウスに尾静注を行い、3週間おきに5回尾静注を行った。投与1週間後のマウスの肝組織を解析に用いた。この肝組織を用いて、リアルタイムPCR法にてSema6A遺伝子の発現量を測定した。TaqManプローブであるSema6a Mm00444441_m1をアプライドバイオシステムズで購入して使用した。
結果を図3に示した。図3に示すように、PDGF-C-Tgマウスの肝組織におけるSema6A遺伝子の発現量は、野生型のマウスと比較して有意に低下していた。一方、PDGF-C-Tgマウスに対してLNA-antimiR-214を投与した場合、Sema6A遺伝子の発現量が有意に上昇していることが明らかとなった。以上の結果から、miR-214がSema6A遺伝子をターゲットとしてSema6A遺伝子の発現を抑制していること、miR-214の発現を阻害することでSema6A遺伝子の発現量が回復することがin vivoで明らかとなった。
また、本実施例では、免疫染色により肝臓組織におけるSema6A遺伝子の発現を確認した。具体的には、以下のプロトコルに従った。先ず、マウスの肝組織を10%ホルマリンで固定した。免疫組織染色は、Envision kit (DAKO)によるプロトコルに従って行った。Sema6a抗体は、Novus Biological製品のSema6aアミノ酸247-534を認識するrabbit polyclonalのNBP1-31551を用いた。
さらに、本実施例では、PDGF-C-Tgマウスの肝臓における背景肝及び腫瘍部について、Sema6A遺伝子の発現量を測定した(内部標準としてGAPDH遺伝子を利用した)。具体的には、TaqManプローブであるSema6a Mm00444441_m1を用いたリアルタイムPCR法にて評価を行った。
PDGF-C-Tgマウスの肝臓における背景肝及び腫瘍部を免疫染色した結果、線維隔壁部を免疫染色した結果、Sema6A遺伝子の発現量を、野生型マウス、PDGF-C-Tgマウスの肝臓における背景肝及び腫瘍部について比較した結果を図4に示した。図4の免疫染色の結果から、Sema6A遺伝子は腫瘍部や線維隔壁において発現量が低下していることが明らかとなった。また、図4に示すように、野生型マウスと比較すると、PDGF-C-Tgマウスでは背景肝及び腫瘍部ともにSema6A遺伝子の発現量が低下していること、特にPDGF-C-Tgマウスの湯腰部ではSema6A遺伝子の発現量が著しく低下していることが明らかとなった。
一方、本実施例では、ヒトの肝組織(正常肝、慢性肝炎、肝細胞癌組織)におけるSema6A遺伝子及びSema6D遺伝子の発現量を確認した。具体的には、ヒト肝組織によるマイクロアレイの網羅的解析を行った。マイクロアレイ解析は、Affymetrix Human U133 Plus 2.0 microarray chip containing 54,675 probesを用いた。
正常肝、慢性肝炎、肝細胞癌組織におけるSema6A遺伝子及びSema6D遺伝子の発現量を比較した結果を図5に示した。図5に示すように、ヒトにおける慢性肝炎及び肝細胞癌組織においては、正常肝と比較してSema6A遺伝子及びSema6D遺伝子の発現量がともに低下していることが明らかとなった。
〔実施例3〕
肝星細胞におけるSema6A遺伝子の解析
本実施例では、ヒト肝星細胞由来細胞株Lx-2を用いて、Sema6Aの肝星細胞における役割を検討した。本実施例では、ヒト肝星細胞由来細胞株Lx-2に対して、Sema6A遺伝子を過剰発現する発現ベクターを導入した系と、Sema6A遺伝子の発現を抑制するsiRNAを導入した系で実験を行った。
具体的には、Sema6A遺伝子を過剰発現する発現ベクターを導入した系については、Halo-tagとヒトSema6aが組み込まれたpFN21-Sema6aをかずさDNAで購入して使用した。コントロールとしてHalo-Tagのみ組み込まれたpFN21を使用した。培養細胞にpFN21或いはpFN21-Sema6aをLipofectamin2000 (Invitrogen)と一緒に添加した。添加後48時間で細胞を回収し解析を行った。
また、Sema6A遺伝子の発現を抑制するsiRNAを導入した系については、Human Sema6aのStealth siRNA: HSS126445及びHSS183916をInvitrogenで購入して使用した。コントロールとして、Invitrogenで購入したLowGC negative controlを使用した。コントロール、HSS126445及びHSS183916のいずれかとLipofectaminRNAiMAX (Invitrogene)と一緒に添加し、48時間後に細胞を回収し解析を行った。なお、HSS126445を導入した細胞をsisema6a-1と称し、HSS1839161を導入した細胞をsisema6a-3と称する。
このように作製したSema6A過剰発現株及びSema6Aノックダウン株それぞれについて、線維化に関与する遺伝子の発現量を測定した。結果を図6に示す。図6に示すように、Sema6A過剰発現株においては、ACTA2遺伝子、Collagen 1A遺伝子及びCollagen 4A遺伝子の発現低下が見られた。一方、図6に示すように、Sema6Aノックダウン株(sisema6a-1及びsisema6a-3)においては、ACTA2遺伝子及びCollagen 1A遺伝子の発現が増加した。
また、本実施例では、pronaseとcollagenaseより分離したマウス初代肝星細胞を培養し、Sema6Aタンパク質を添加したときの効果を確認した。なお、Sema6Aタンパク質は、Human Sema6a (His-tag) (NP_065847.1)(Met1-Thr649) Cat; 11189-H28H-20の精製タンパク質をSino Biological, Incで購入したものを使用した。本実験では、マウス初代肝星細胞を、以下の培養条件で培養し、培養開始から3日後にSema6Aタンパク質を濃度250ngとなるように添加した。
Sema6Aタンパク質を添加した培養細胞と、Sema6Aタンパク質無添加の培養細胞とを撮像した結果、これら培養細胞におけるACTA2遺伝子、Collagen 1A遺伝子及びCollagen 4A遺伝子の発現量を解析した結果を図7に示した。
図7に示すように、Sema6Aタンパク質を添加した肝星細胞は星細胞のままを維持しているのに対して、Sema6Aタンパク質を添加せずに培養した肝星細胞は筋線維芽細胞様の形態を呈することが明らかとなった。また、図7に示すように、Sema6Aタンパク質を添加した肝星細胞では、ACTA2遺伝子、Collagen 1A遺伝子及びCollagen 4A遺伝子の発現量が有意に低下することが明らかとなった。
以上の結果より、Sema6Aタンパク質は、肝星細胞の活性化を抑制する作用を有し、その結果、肝線維化を抑制できることが明らかとなった。
〔実施例4〕
本実施例では、ヒト肝星細胞由来細胞Lx-2株を用いて、Sema6Aの部分断片を過剰発現する細胞株を樹立し、Sema6Aの肝星細胞における役割を更に詳細に検討した。
具体的に、本実施例では、図8に示すように、Sema6AにおけるN末端から細胞外ドメインまでの部分断片を発現する細胞株、Sema6AにおけるN末端からPSI(プレキシン・セマフォリン・インテグリンplexin-semaphorin-integrin)ドメインまでの部分断片を発現する細胞株、Sema6AにおけるN末端からTM(膜貫通)ドメインまでの部分断片を発現する細胞株、及び全長Sema6Aを発現する細胞株を樹立した。
ここで、Sema6Aの全長タンパク質は配列番号2のアミノ酸配列からなる。配列番号2のアミノ酸配列を基準として、N末端から18番目はシグナルペプチドに相当し、48~513番目は上記細胞外ドメインに相当し、514~550番目は上記PSIドメインに相当し、650~670番目は上記TMドメインに相当し、671~1030番目は細胞内ドメインに相当する。
これら部分断片を発現する細胞株は、詳細には、以下のように作製した。まず、pcDNA3.1-eEGFP(Invitrogen)を鋳型として制限酵素EcoRIサイト付加5’ primer(TGAGAATTCGCCACCATGGTGAGCAAGGGCGAG(配列番号8))及び制限酵素NotIサイト付加3’ primer(TGAGCGGCCGCTTACTTGTACAGCTCGTC(配列番号9))を使用し、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TAKARA BIO)によりPCRを行った。得られた断片及びレンチウイルスベクター(PLVSIN-puro vector)(TAKARA BIO)をそれぞれ制限酵素EcoRI及びNotI処理し、DNA Ligation kit (Mighty Mix)(TAKARA BIO)にてライゲーションし、pVLSIN-EGFP-puroを作製した。
次に、pCMV6-hSema6a(Origene)を鋳型としたPCRにより、Sema6a Domain(配列番号2のアミノ酸配列における1~513番目)、Sema6a PSI(配列番号2のアミノ酸配列における1~550番目)、Sema6a TM(配列番号2のアミノ酸配列における1~670番目)及びSema6a Full(配列番号2のアミノ酸配列における1~1030番目)の4種類の断片を増幅した。具体的に、これら4種類の断片を増幅するに際して、Sema6a 5’primer(GATCTATTTCCGGTGATGAGGTCAGAAGCCTTGCT(配列番号10))を共通して一方のプライマーとして使用し、Sema6a DomainについてはSema6a Domain 3’primer(GCTCACCATGAATTCGCCAAGGGGAACCTTTATCA(配列番号11))を他方のプライマーとして使用し、Sema6a PSI についてはSema6a PSI 3’primer(GCTCACCATGAATTCTCTGCTGTTGGGTGATAAAT(配列番号12))を他方のプライマーとして使用し、Sema6a TMについてはSema6a TM 3’primer(GCTCACCATGAATTCGACGGTGATGCCCGAGAAGA(配列番号13))を他方のプライマーとして使用し、Sema6a FullについてはSema6a Full 3’primer(GCTCACCATGAATTCTGTACACGCATCATTGGGCT(配列番号14))を他方のプライマーとして使用した。PCRにはPrimeSTAR GXL DNA Polymeraseを使用した。
5種類のプライマーに制限酵素EcoRIサイトを付加し、pLVSIN-EGFP-puro vectorを制限酵素EcoRI処理し、In-Fusion Cloning(Clontech)にてクローニングを行い、pLVSIN-Sema6a Domain-EGFP、pLVSIN-Sema6a PSI-EGFP、pLVSIN-Sema6a TM-EGFP及びpLVSIN-Sema6a Full-EGFPを作製した。Lenti-X HTX Packaging System(Clontech)を使用し、プロトコルに従い、各々のレンチウイルスを産生した。これをヒト肝星細胞由来細胞Lx-2株に感染させ、ピューロマイシンにてセレクションを行い、高発現安定株を作製した。
得られた細胞株において発現するSema6A部分断片及び完全長Sema6Aをウエスタンブロットによって確認した(図8)。ウエスタンブロットは、Anti-Sema6a antibody-C-terminal ab72369 の抗体を使用した。細胞溶解液(細胞タンパク質)は、RIPA Bufferにcomplete Mini EDTA-free Protease inhibitor Cocktail tablets (Roche)とPhosSTOP Phosphatase inhibitor Cocktail (Roche)を混合した液体を細胞に添加し回収した溶液を用いた。
本実施例で樹立した各細胞株について、細胞増殖能をMTTアッセイにて測定し、また、ACTA2遺伝子(a-SMA遺伝子)、PDGFB遺伝子、PDGFRA遺伝子及びPDGFRB遺伝子の発現量をそれぞれACTA2: Hs00909449_m1、PDGFB: Hs00234042_m1、PDGFRα: Hs00183486_m1、PDGFRβ: Hs01019589_m1 のTaqManプローブを用いてリアルタイムPCR法にて測定した。なお、これらACTA2遺伝子、PDGFB遺伝子、PDGFRA遺伝子及びPDGFRA遺伝子は、肝線維化の進行に伴って発現量が増加する線維化マーカーとして知られている。
MTTアッセイ及び遺伝子発現量測定の結果を図9に示した。図9に示すように、本実施例で作製したSema6A部分断片を発現する3種類の細胞株及び完全長Sema6Aを発現する細胞株の全てにおいて、細胞増殖能が低下することが明らかとなり、また、ACTA2遺伝子、PDGFB遺伝子、PDGFRA遺伝子及びPDGFRB遺伝子の発現量は、全て低下することが明らかとなった。特に、興味深いことに、Sema6AにおけるN末端から細胞外ドメインまでの部分断片を発現する細胞株では、線維化マーカーの発現量がもっと顕著に低下しており、線維化抑制について強い活性が認められた。
〔実施例5〕
本実施例では、アデノ随伴ウイルス(AAV)8型を利用して、PDGF-C Tg モデルマウスにSema6A遺伝子を導入し、肝線維化及び肝癌の発症について検証した。なおAAV8型は、肝臓特異的に感染し、目的遺伝子を肝臓において過剰発現させることが可能である。
本実施例では、コントロールとしてscAAV-EGFP を使用し、scAAV-Sema6A-EGFPを作製し、PDGF-C Tgに感染実験を行った。具体的には、scAAV-EGFP vectorをAddgene社(Cell.2009 June 12; 137(6):1005-1017で使用されたvector)で購入して使用した。まずpCMV6-mSema6a (Origene)を鋳型とし、制限酵素EcoRIサイト付加5’ primer(CTCAAGCTTCGAATTATGCGGCCAGCAGCCTTA(配列番号15))及び制限酵素BamHIサイト付加3’ primer(GGCGACCGGTGGATCTGTACATGCATCATTGGG(配列番号16))を使用し、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TAKARA BIO)を用いたPCRを行った。次に、得られた増幅断片及びscAAV-EGFPをそれぞれ制限酵素EcoRI及びBamHI処理し、In-Fusion Cloning(Clontech)にてクローニングを行い、scAAV-mSema6a-EGFPを作製した。
ウイルス産生は、293AAV(Cell Biolabs)にpDP8(PlasmidFactory)、pHELP(Applied Viromics)、scAAV-EGFP又はscAAV-mSema6a-EGFP各10μgをPolyethylenimine ''Max'', (Mw 40,000)(COSMO BIO)を使用してトランスフェクションした。3日間培養し、凍結融解法にてウイルス抽出した。これをBenzonase Nuclease, ultrapure(SIGMA-ALDRICH)にて核酸分解し、Amicon Ultra Centrifugal Filter(Merck Millipore)にて精製、濃縮を行った。精製したウイルスは、AAVpro Titration Kit(TAKARA BIO)を使用し、ウイルス力価測定を行った。1011 copies/100μlに調整したAAVを1匹のマウスに尾静注した。
scAAV-mSema6A-EGFPを感染させたPDGF-C Tg モデルマウス及びscAAV-EGFPを感染させたPDGF-C Tgモデルマウスから摘出した肝臓を撮像した写真、及び、両モデルマウスから作製した肝臓組織切片を撮像した写真、両モデルマウスから摘出した肝臓の重量、モデルマウスから摘出した肝臓に生じた腫瘍の数及びそのサイズ(mm)を計測した結果を図10に示した。また、scAAV-mSema6A-EGFPを感染させたPDGF-C Tg モデルマウス及びscAAV-EGFPを感染させたPDGF-C Tg モデルマウスの肝臓における線維化マーカー、炎症マーカー、腫瘍マーカーの各発現量を測定した結果を図11に示した。なお、本実施例では、線維化マーカーとしてACTA2遺伝子(a-SMA遺伝子)、Collagen1a2遺伝子、Collagen4a1遺伝子及びTGF-β遺伝子の発現量を測定した。また、本実施例では、腫瘍マーカーとしてCD34遺伝子、AFP遺伝子及びMyc遺伝子の発現量を測定した。さらに、本実施例では、炎症マーカーとしてIL1-β遺伝子の発現量を測定した。
各マーカーの発現量の測定は、TaqMan プローブを用いたリアルタイムPCR法にて行った。TaqMan プローブとしては、各マーカーについて、Acta2: Mm01546133_m1、Col1a2: Mm00483888_1、Col4a1: Mm00802372_m1、Tgfb1:Mm00441726_m1、Cd34: Mm00519283_m1、Afp: Mm00431715_m1、Myc: Mm00487804_m1及びIl1b: Mm01336189_m1をアプライドバイオシステムズで購入したものを使用した。
図10及び11に示すように、scAAV-mSema6A-EGFP群では、肝線維化の改善、肝癌発生の有意な減少を認め、Sema6Aが肝癌の発生を、肝線維化を改善することにより抑制することが明らかになった。また、scAAV-mSema6A-EGFP群では、各種線維化マーカー、炎症マーカー及び腫瘍マーカーの減少が認められた。以上より、Sema6Aは線維化を改善し、肝発癌を抑制することが明らかとなった。
〔実施例6〕
本実施例では、91症例のC型慢性肝炎組織における遺伝子発現データを取得し、当該遺伝子発現データを用いてSema6Aの発現と相関する遺伝子を同定した。具体的に解析ソフト:BRB-ArrayTools(National Cancer Institute)を使用してSema6Aの発現と正相関する遺伝子及びSema6Aの発現と負相関する遺伝子を同定した。
その結果、Sema6Aの発現と正相関する遺伝子として、ERG(Ets)遺伝子、AKAP12遺伝子、FLT1(VEGFR1)遺伝子、Meis1/2遺伝子、CREB1遺伝子、Sp1遺伝子及びSema6D遺伝子を同定することができた。また、Sema6Aの発現と負相関する遺伝子として、Sall1遺伝子、NF-Y遺伝子、Src遺伝子、MDM2遺伝子、Smad4遺伝子、Tcf3遺伝子、CEBPα/δ遺伝子及びTEAD1遺伝子を同定することができた。
〔実施例7〕
本実施例では、実施例6で同定したSema6Aの発現と相関する遺伝子のなかで転写因子をコードするものを選択し、Sema6A遺伝子の転写を正に制御する転写因子を探索した。具体的に転写因子としては、Sema6Aの発現と負相関するCEBPα遺伝子及びSema6Aの発現と正相関するCREB1遺伝子を解析対象として選択した。
CEBPα遺伝子については、Origene社よりpCMV6-CEBPαORF(製品番号:SC303472)購入したものを使用した。また、CREB1遺伝子(CREB1 ORF +Flag)については、ヒト肝細胞癌株Huh7のcDNAを鋳型として一対のプライマー(フォワード: TAAGAATTCGCCGCCATGACCATGGAATCTGGAGC(配列番号23)、リバース:AATGGATCCTTACTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCATCTGATTTGTGGCAGTAAAG(配列番号24))及びPrimeSTAR MAX DNA polyxmerase(Takara)を用いたPCRにて増幅した。得られたCREB1 ORFとpcDNA3.1(-)(Invitrogen)とをEcoR1及びBamH1でそれぞれ切断した。これら2種類の制限酵素処理断片をDNA ligation Kit <Mighty Mix>(Takara)によって連結することでコンストラクトを作製した。
解析の手順は以下の通りである。先ず、1×105個/Wellヒト肝星細胞株Lx-2を6well plateに培養した。次の日、培養したヒト肝星細胞株Lx-2に対して、上述のように購入或いは作製したプラスミド1μgをLipofectamin2000 (invitogen)を用いて導入した。導入2日後に細胞を回収した。
次に、これらの細胞をSema6A遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により測定した。リアルタイムPCR法においてはTaqManプローブであるSEMA6A Hs00221174_m1をアプライドバイオシステムズで購入して使用した。また、リアルタイムPCR法では4310884E GAPD(GAPDH)を内因性コントロールとした。
更に、Sema6aのタンパク質発現解析をウエスタンブロット法により測定した。Anti Sema6a 抗体(ab34828)をabcamで、Anti-GAPDH抗体(FL-335)をSantacruzで購入して1次抗体として使用した。Anti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody (#7074)を二次抗体として使用した。
リアルタイムPCR法によるSema6A遺伝子の発現を測定した結果を図12に示し、ウエスタンブロット法によりSema6aのタンパク質発現を解析した結果を図13に示した。なお、図12及び13には、CEBPα遺伝子及びCREB1遺伝子以外で実施例6にて同定したSema6Aの発現と相関する遺伝子についても同様に検討した結果を併せて示している。
図12及び13に示したように、CEBPα遺伝子を高発現するヒト肝星細胞株Lx-2、CREB1遺伝子を高発現するヒト肝星細胞株Lx-2ともにSema6A遺伝子の発現が亢進していることが明らかとなった。これらの結果から、CEBPα遺伝子及びCREB1遺伝子は、それぞれSema6A遺伝子の発現を正に制御する転写因子であることが分かった。なお、実施例6において、CEBPα遺伝子の発現はSema6A遺伝子の発現と負に相関することが示されていたが、CEBPα遺伝子によりコードされる転写因子がSema6A遺伝子の発現を正に制御するという非常に興味深い結果が示された。
〔実施例8〕
本実施例では、実施例7で同定したSema6A遺伝子の転写を正に制御する転写因子:CREB及びCEBPαについて、様々な長さのSema6A遺伝子プロモーターを用いてレポーターアッセイを行った。
図14に示すように、本実施例では、Sema6A遺伝子プロモーターを特定するため、Sema6A遺伝子の上流、約500bp領域、約1000bp領域又は約2000bp領域とレポーター遺伝子とを連結したコンストラクトをそれぞれ作製した。具体的には、先ず、ヒト肝がん細胞株Huh7のgDNAを鋳型とし、下記のように設計した一対のプライマー及びPrimeSTAR MAX DNA polyxmerase(Takara)を用いたPCRを行った。このPCRにより、長さの異なる3種類のSema6a-プロモーター領域(約500bp領域(配列番号25)、約1000bp領域(配列番号26)又は約2000bp領域(配列番号27))を増幅した。得られた3種類のSema6a-プロモーター領域とpGL4.10 vector(Promega)とをNhe1及びXhoIでそれぞれ切断した。これら2種類の制限酵素処理断片をDNA ligation Kit <Mighty Mix>(Takara社製)によって連結することで、3種類のコンストラクトを作製した。
先ず、レポーターアッセイの前日に5×104個のヒト肝星細胞株Lx-2を12well plateで培養した。そして、12well plateに培養したヒト肝星細胞株Lx-2に対して、pGL4.10(500ng)とpRL-SV40(2ng)とpCMV6-CEBPα又はpcDNA3.1(-)-CREB1(500ng)の3種類を同時にLipofectamin2000により導入した。導入48時間後のサンプルをDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)に従って評価を行った。
なお、以下に本実施例で使用したプライマーを列挙する。約500bp領域はフォワードプライマー:-500 Fとリバースプライマー:+50 Rを使用して増幅し、約1000bp領域はフォワードプライマー:-1000 Fとリバースプライマー:+50 Rを使用して増幅し、約2000bp領域はフォワードプライマー:-2000 Fとリバースプライマー:+50 Rを使用して増幅した。
-2000 F: TAAGCTAGCGCATTTCCAATATATCCATAAAG(配列番号28)
-1000 F: TAAGCTAGCGCCCCCTTGGGGAGCAAGAGCCG(配列番号29)
-500 F: TAAGCTAGCATCTACCTCTTGATAACAGTAATC(配列番号30)
+50 R: AATCTCGAGGCCGCTCACTACTCCTCTGTC(配列番号31)
レポーターアッセイの結果を図15に示した。図15に示すように、Sema6A遺伝子の上流、約500bp領域、約1000bp領域及び約2000bp領域の全てのプロモーター活性が認められた。
〔実施例9〕
本実施例では、実施例8においてSema6aの発現を調節する領域があることが確認できた約500bp領域(-500bp~+50bpの領域:配列番号25)について、更に調節領域を絞るため詳細に検討した。すなわち図16に示したように、この約500bp領域を均等に3等分した領域についてレポーターアッセイを行った。
先ず、実施例8で作製した約500bp領域を含むコンストラクトを鋳型とし、下記のように設計した一対のプライマーを用いて3つの領域(それぞれ-500bp~-334bp領域、-345bp~-165bp領域及び-178bp~-1bp領域)をPCRにて増幅した。得られた3つの領域とpGL4.23 vector(Promega)とをNhe1及びXhoIでそれぞれ切断した。これら2種類の制限酵素処理断片をDNA ligation Kit <Mighty Mix>(Takara社製)によって連結することで3つの領域それぞれについてコンストラクトを作製した。
先ず、レポーターアッセイの前日に5×104個のヒト肝星細胞株Lx-2を12well plateで培養した。そして12well plateに培養したヒト肝星細胞株Lx-2に対して、作製したpGL4.23(500ng)とpRL-SV40(2ng)とpCMV6-CEBPα又はpcDNA3.1(-)-CREB1(500ng)の3種類を同時にLipofectamin2000により導入した。導入48時間後のサンプルをDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)に従って評価を行った。
なお、以下に本実施例で使用したプライマーを列挙する。-500bp~-334bp領域はフォワードプライマー:-500 Fとリバースプライマー:-334 Rを使用して増幅し、-345bp~-165bp領域はフォワードプライマー:-345 Fとリバースプライマー:-165 Rを使用して増幅し、-178bp~-1bp領域はフォワードプライマー:-178 Fとリバースプライマー:-1 Rを使用して増幅した。
-500 F: TAAGCTAGCATCTACCTCTTGATAACAG(配列番号32)
-334 R: AATCTCGAGGCTGAGTCCTGCCAAATCAG(配列番号33)
-345 F: TAAGCTAGCGCAGGACTCAGCAATGCTG(配列番号34)
-165 R: AATCTCGAGACCAACTGGCCAGCGCCGCT(配列番号35)
-178 F: TAAGCTAGCGCTGGCCAGTTGGTCCAAGG(配列番号36)
-1 R: AATCTCGAGCCAAGTCCCGGACTGGATTG(配列番号37)
レポーターアッセイの結果を図17に示した。なお、図17においてPromoter 1は-500bp~-334bp領域を示し、Promoter 2は-345bp~-165bp領域を示し、Promoter 3は-178bp~-1bp領域を示している。図17に示すように、Sema6A遺伝子の上流の約500bp領域のうち、CEBPα遺伝子によりコードされる転写因子は上記-500bp~-334bp領域に主として作用し、CREB1遺伝子によりコードされる転写因子は上記-178bp~-1bp領域に主として作用していることが明らかとなった。本実施例で示したように、実施例7で同定した転写因子:CREB及びCEBPαはそれぞれ異なる作用機序によりSema6A遺伝子の転写を正に制御することが示唆された。
〔実施例10〕
本実施例では、実施例7で同定したSema6A遺伝子の転写を正に制御する転写因子:CREB及びCEBPαを過剰発現させたときのSema6A遺伝子の発現量を経時的に測定した。本実施例では、実施例7に記載した方法と同様にしてリアルタイムPCR法及びウエスタンブロット法にて時間依存的にSema6Aの発現誘導を確認する検討を行った。なお、本実施例では、各コンストラクトをヒト肝星細胞株Lx-2に導入した後、24、48、72及び96時間後に細胞を回収し、リアルタイムPCR法とウエスタンブロット法で解析した。
リアルタイムPCR法による解析結果を図18に示し、ウエスタンブロット法による解析結果を図19に示した。図18及び図19に示したように、CREB遺伝子又はCEBPα遺伝子を導入後、24時間以内にSema6A遺伝子を発現誘導できること、更にこれらのCREB遺伝子又はCEBPα遺伝子の導入から経時的にSema6A遺伝子の発現量が増えることが分かった。また、CREB遺伝子とCEBPα遺伝子とを比較すると、CEBPα遺伝子の方がSema6A遺伝子をより強く発現誘導できることが明らかとなった。なお、図18に示したように、CREB遺伝子を導入してから96時間、CEBPα遺伝子を導入したから72時間でSema6A遺伝子に対する発現誘導が低下しているが、これは、CREB遺伝子又はCEBPα遺伝子の発現が一過的であったことによると考えられる。
〔実施例11〕
本実施例では、実施例6で同定したSema6Aの発現と相関する遺伝子のなかで受容体候補としてAKAP12を選択し、AKAP12遺伝子を過剰発現させたときの線維化マーカー遺伝子(ACTA2遺伝子(a-SMA遺伝子)及びCollagen1a2遺伝子)の発現量を測定した。すなわち、本実施例では、Sema6Aの発現と正相関したAKAP12遺伝子(AKAP12/Gravin/SSeCKsとも称される)の過剰発現による線維化抑制効果を検討した。
本実施例では、AKAP12遺伝子を発現するベクターとしてHuman pcDNA3.1(+)-AKAP12 ORF (OHu18749)をGenScriptで購入した。先ず、培養したヒト肝星細胞株Lx-2にpcDNA3.1(+)-AKAP12を導入し、48時間後にサンプルを回収した。abcamより購入したAnti-AKAP12抗体[JP74](ab49849)と、DAKOより購入したSmooth Muscle Actin抗体(1A4)(M0851)と、Santacruzより購入したGAPDH(FL-335)とをウエスタンブロット法に使用した。
また、本実施例では、肝線維化マーカー遺伝子であるCollagen1a2遺伝子(Hs00164099_m1 Coll1a2)及びACTA2遺伝子(Hs00909449_m1 Acta2)の発現量をTaq manプローブを用いたリアルタイムPCR法にて解析した。なお、リアルタイムPCR法における内因性コントロールをGAPDH遺伝子(4310884E GAPD)とした。
本実施例で行ったウエスタンブロット法の結果及びリアルタイムPCR法の結果を図20に示した。図20に示したウエスタンブロット法の結果より、ヒト肝星細胞株Lx-2にpcDNA3.1(+)-AKAP12を導入することでAKAP12タンパク質が高発現し、ACTA2タンパク質(α-SMA)の発現量が低下していることが分かる。また、図20に示したリアルタイムPCR法の結果より、AKAP12タンパク質が高発現したヒト肝星細胞株Lx-2では、Collagen1a2遺伝子及びACTA2遺伝子ともに大幅に発現量が低下していることが分かる。この結果より、Sema6Aの発現と正相関するAKAP12遺伝子を高発現することによって、ヒト肝星細胞株における線維化を抑制できることが示唆された。
〔実施例12〕
本実施例では、AKAP12に対するsiRNAを用いてAKAP12遺伝子の発現を抑制し、このときの線維化マーカー遺伝子(Collagen1a2遺伝子及びACTA2遺伝子)の発現量を測定した。すなわち、本実施例では、Sema6aによる線維化抑制効果に対して、AKAP12がどのように影響するかの検討を行った。
本実施例では、AKAP12に対するsiRNAとして2種類及び陰性コントロールのsiRNAをThermo Fisherで購入した。AKAP12に対するsiRNAは、AKAP12 Silencer Select siRNA:s18435及びs18436(それぞれsiAKAP12#1及びsiAKAP12#2と称する)である。また、陰性コントロールのsiRNAはSilencer Select Negative Control siRNA:4390843である。
本実施例では、Sema6a遺伝子を恒常的に過剰発現するようにコンストラクトを導入したヒト肝星細胞株Lx-2に各siRNA 50μMをLipofectamin RNAiMAXにて導入した。導入48時間後にサンプルを回収した。そして、本実施例では、肝線維化マーカー遺伝子であるCollagen1a2遺伝子(Hs00164099_m1 Coll1a2)の発現量をTaq manプローブを用いたリアルタイムPCR法にて解析した。また、本実施例では、肝線維化マーカー遺伝子であるACTA2遺伝子(Hs00909449_m1 Acta2)の発現量をウエスタンブロット法にて解析した。なお、ウエスタンブロット法において実施例11と同じ抗体を使用した。
本実施例で行ったウエスタンブロット法の結果及びリアルタイムPCR法の結果を図21に示した。図21に示したリアルタイムPCR法の結果より、肝線維化マーカー遺伝子であるCollagen1a2遺伝子は、Sema6a遺伝子を恒常的に過剰発現するヒト肝星細胞株Lx-2において発現抑制されていたが、siRNAによりAKAP12遺伝子の発現を抑制することでCollagen1a2遺伝子の発現量が増加することが分かった。また、図21に示したウエスタンブロット法の結果より、ACTA2タンパク質(α-SMA)の発現量も同様に、siRNAを用いてAKAP12遺伝子の発現を抑制することで増加することが分かった。
〔実施例13〕
本実施例では、ヒト肝星細胞株Lx-2におけるSema6Aタンパク質とAKAP12タンパク質の細胞膜局在を検討した。具体的には、これらSema6Aタンパク質に対する抗体及びAKAP12タンパク質に対する抗体を用いたFlow cytometryで細胞膜局在を評価した。本実施例において、AKAP12タンパク質に対する抗体はmouse monoclonal(1:500)であり、Sema6Aに対する抗体はrabbit polyclonal(1:500)である。また、二次抗体は、Mouse Alexa488抗体(1:500)及びRabbit Alexa647抗体(1:500)をThermo Fisherで購入したものを使用した。コントロールは、1次抗体無しで二次抗体のみとして評価した。細胞懸濁液に抗体カクテルを加え4℃で15分処理した。処理後、Flow cytometry法にて評価した。
Flow cytometry法の解析結果を図22に示した。図22に示したように、ヒト肝星細胞株Lx-2におけるSema6Aタンパク質とAKAP12タンパク質の細胞膜局在はほぼ一致していることが明らかとなった。本実施例及び実施例11~12に示した結果より、線維化を改善し、肝発癌を抑制することが明らかとなったSema6Aは、AKAP12タンパク質に対して直接的又は間接的に作用して線維化抑制のシグナルを細胞に伝えること、特にAKAP12はSema6Aの受容体として機能する蓋然性が高いことが示唆された。