JP7108281B2 - 50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する方法 - Google Patents

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Description

本発明は50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する方法に関する。
厚生労働省の調査では、うつ病の生涯有病率は3~16%と言われており、2008年の患者数は約70万人と言われている。また、WHOの調査では、障害調整生命年(病気やけがによって失われる寿命)を指標として、うつ病は2030年には、世界の疾患負担の第1位になると予測されている。そのため、うつ病の診断治療は現代社会にとって重要な問題である。
しかし、うつ病の診断は、国際疾病分類第10版(ICD-10)やアメリカ精神医学会が作成した「精神障害の分類と診断の手引きDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder the fifth edition(DSM-V)」のような症状の組み合わせから判断する操作的診断法しかない。客観的な臨床マーカーを用いる検査として臨床応用されているのは、近赤外線分光法(NIRS:光トポグラフィー)が唯一であるが、NIRSもうつ病と双極性障害の鑑別補助に使用されているにすぎないのが現状である。
近年、構造的画像解析、機能的画像解析、mRNAの発現解析、ゲノムのGWAS解析等から新規バイオマーカーの検索が行われているが、未だ実用には至っていない。この理由の一つには、臨床研究のデザインを行う際に、うつ病の異種性や原因などを考慮しないICD-10やDSM-Vなどの操作的診断法により症例を集め、ヘテロな集団で臨床マーカーを検索していることが挙げられる。
うつ病の罹患の有無を判断する方法として、たとえば、被験者から単離された末梢血中における、FASLG、CX3CR1、TBX21等の18遺伝子の発現量を測定し、前記測定結果に基づき当該被験者がうつ病に罹患しているか否かを検出する方法(特許文献1参照)や、被験者の末梢血由来のメッセンジャーRNAより、アポトーシス関連遺伝子、ATPase関連遺伝子等の遺伝子の発現量を解析し、前記解析結果を基に被験者の病状を評価することを特徴とする、うつ病の評価方法(特許文献2参照)や、被検動物より採取された試料中のIGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含み、当該マーカーの発現量を基準値と比較することにより被検動物のうつ病の発症の有無が判定される、該動物におけるうつ病の診断のための検査方法(特許文献3参照)が知られている。
特開2008-253258号公報 特開2004-020854号公報 特開2017-000063号公報
上記特許文献1に記載の方法では、18種類もの遺伝子の発現量を調べる必要があり、発現量を測定するために費用と時間がかかるという問題があった。また、上記特許文献2記載の方法では、メッセンジャーRNAは不安定なため、解析が困難であるという問題があった。さらに、上記特許文献3記載の方法では、うつ病の発症年齢が50歳以上の患者に基づく解析によって得られたものであり、50歳未満の若年発症うつ病の罹患との関係は明らかではないという問題があった。
若年発症うつ病は遺伝や発達の影響が大きいことが想定され、高齢発症うつ病は閉経や脳血管性病変などとの関連が想定される。また、うつ病の発症年齢は、うつ病の異種性を説明するかもしれない。そこで、本発明の課題は、うつ病の発症年齢が50歳未満を50歳未満発症うつ病(EOD)、うつ病の発症年齢が50歳以上を50歳以上発症うつ病(LOD)と定義し、50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する方法を提供することにある。
本発明者らは、環境的なストレス要因よりも遺伝的な要因が強いと考えられる50歳未満発症うつ病患者の遺伝子のメチル化程度を解析した。より診断の確からしいうつ病患者に対象を絞るために、第一コホートは50歳未満の若年発症でありながら、50歳以上になるまで躁病エピソードを有しない反復性のうつ病患者にターゲットを絞った。この結果、他の疾患の可能性が極力排除されたうつ病患者で発症年齢が50歳未満のうつ病の罹患の有無を予測できるマーカーを同定し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に示すとおりのものである。
(1)被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する方法であって、以下の工程(a)~(c)を順次備えたことを特徴とする方法。
(a)被検対象から採取された生体試料中のゲノムDNAを抽出する工程;
(b)工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定する工程;
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
(c)工程(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度に基づき、被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程;
(2)工程(c)が、(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が予め定めた閾値(cut off)未満の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が有ると予測し、該(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が予め定めた閾値以上の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が無いと予測する工程(c-1)であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(3)工程(b)が、工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i)及び(iii)の2か所のシトシンのメチル化程度を測定する工程(b-1)であり、工程(c)が、工程(b-1)で測定した2か所のシトシンのメチル化程度を特徴値とした機械学習の識別器による識別を行い、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程(c-2)であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
(4)工程(b)が、工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i),(ii)及び(iii)の3か所のシトシンのメチル化程度、(i),(ii)及び(iv)の3か所のシトシンのメチル化程度、又は、(i),(ii)及び(v)の3か所のシトシンのメチル化程度を測定する工程(b-2)であり、工程(c)が、(b-2)で測定した3か所のシトシンのメチル化程度を特徴値とした機械学習の識別器による識別を行い、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程(c-3)であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
(iv)ヒト第6染色体の塩基配列中の第150254442位のシトシン
(v)ヒト第17染色体の塩基配列中の第56297443位のシトシン
(5)被検対象から採取した生体試料が、被検対象から採取した血中白血球であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(6)以下の(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定するためのプライマー対若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたことを特徴とする、50歳未満発症うつ病の罹患の有無の予測キット。
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
本発明により、遺伝的要因が強い50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測することが可能となる。
健常者(HC)30名、うつ病期EOD患者10名、うつ病期LOD患者25名のデモグラフィックデータである。 マイクロアレイ解析を行った後、Fisher比による解析を行い、Fisher比が大きかったTop50のターゲットのシトシンを含むプローブのID(Probe ID)を示す表である。 パイロシークエンス解析で用いた第一コホートのデータを示す表である。 パイロシークエンス解析で用いた独立なテストサンプルのデータを示す表である。 パイロシークエンス解析で用いたプライマー配列及びプローブ配列を示す表である。 アンプリコンシークエンス解析で用いたプライマー配列及びPCR増幅した配列を示す表である。 ROC曲線による識別の結果を示す表である。 2か所のシトシンのメチル化程度の組み合わせ解析による識別率、感度、特異度を示す表である。 2か所のシトシンのメチル化程度の組み合わせ解析による識別結果の可視化を行った結果を示すグラフである。 3か所のシトシンのメチル化程度の組み合わせ解析による識別率、感度、特異度を示す表である。 3か所のシトシンのメチル化程度の組み合わせ解析による識別結果の可視化を行った結果を示すグラフである。 共分散行列の行列式による分布の広がり解析による結果を示すグラフである。
本発明の第一の実施態様は、
(a)被検対象から採取された生体試料中のゲノムDNAを抽出する工程;
(b)工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定する工程;
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
(c)工程(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのメチル化程度に基づき、被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程;
の工程(a)~(c)を順次備えたことを特徴とする、被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する方法である。
本発明において、「うつ病」とは、アメリカ精神医学会が作成した「精神障害の分類と診断の手引きDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder (DSM-IV-TR)」に基づいて、大うつ病性障害診断基準を満たした者を対象とし、臨床診断面接及び構造面接The Mini-International Neuropsychiatric Interview(M.I.N.I. Japanese version 5.0.0)により大うつ病エピソードと診断される疾患を意味する。
上記工程(a)における生体試料としては、組織、細胞、器官等の非液性試料や、血液、血清、血漿、尿、唾液等の液性試料を挙げることができ、これらの中でも血液が好ましく、血液から分離した血中白血球であることがより好ましい。
上記工程(a)においてゲノムDNAを抽出する方法としては、上記生体試料からゲノムDNAを抽出する方法である限り特に制限されず、例えば、QIAamp DNA Blood Midi kit(QIAGEN社製)や、全自動核酸抽出装置(MagNA PureLC ゲノムDNA Isolation Kit I(ロシュ・ダイアグノスティックス製)を用いる方法の他、フェノール・クロロホルム処理、及びエタノールあるいはイソプロパノール沈殿等を利用した常法(Molecular Cloning第3版Volume1のプロトコール参照)を挙げることができる。
上記工程(b)におけるシトシンのメチル化とは、シトシンの5位がメチル化して5-メチルシトシンに変換されていることを意味する。また、(i)~(iii)のいずれかのシトシンや、後述する工程(b-2)における(iv)又は(v)のシトシンのメチル化程度とは、(i)~(iii)のいずれかのシトシンや、後述する工程(b-2)における(iv)又は(v)のシトシンを含む所定の範囲を増幅し、ターゲット(メチル化の測定対象)のシトシンの5位がメチル化して5-メチルシトシンに変換されている割合(すべてのシトシンの5位がメチル化して5-メチルシトシンに変換された場合を1とした場合の、測定対象のシトシンが5-メチルシトシンに変換されているものの相対比)を意味する。
上記工程(b)において、上記シトシンのメチル化程度を測定する方法としては、上記シトシンのメチル化を検出して定量し得る方法である限り特に制限されず、硫酸水素塩(バイサルファイト)処理によるメチル化DNAを検出して定量する方法や、上記シトシンを含む染色体の塩基配列中の、該シトシン及び該シトシンの上流及び/又は下流の塩基配列に特異的にハイブリダイズし得るポリヌクレオチド(プローブ)の標識物を用いたサザンハイブリダイゼーション法によりメチル化DNAを検出して定量する方法や、メチル化感受性制限酵素を用いてメチル化DNAを検出して定量する方法を挙げることができる。
上記硫酸水素塩(バイサルファイト)処理によるメチル化DNAを検出して定量する方法としては、例えばEZ DNA Methylation Kit (Zymo Research社)等の市販の硫酸水素塩(バイサルファイト)処理によるメチル化DNA検出キットを用いることができる。
上記ポリヌクレオチド(プローブ)のポリヌクレオチド数としては、上記(i)~(v)のいずれかのシトシンにハイブリダイズし得る限り特に制限されず、例えば7個以上を例示することができ、特異性の観点からは、15個以上、より好ましくは25個以上を例示することができる。また、上記ポリヌクレオチド(プローブ)の標識物における標識物質としては、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein;GFP)、シアン蛍光タンパク質(Cyan Fluorescence Protein;CFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescence Protein;BFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescence Protein;YFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescence Protein;RFP)、ルシフェラーゼ(luciferase)等の蛍光タンパク質、3H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質を挙げることができる。
工程(b)におけるヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシンは、UCSC Genome Browser(https://genome.ucsc.edu/)のHuman GRCh37/hg19に登録されているヒト第16染色体の第72058938位のシトシンであり、GenBankアクセッション番号NM_001361として登録されているDihydroorotateDehydrogenase(DHODH)をコードする領域内にある
工程(b)におけるヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシンは、UCSC Genome Browser(https://genome.ucsc.edu/)のHuman GRCh37/hg19に登録されているヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシンであり、GenBankアクセッション番号NM_024612として登録されている DEAH (Asp-Glu-Ala-His) box polypeptide 40(DHX40)の転写開始点上流にある。
工程(b)におけるヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシンは、UCSC Genome Browser(https://genome.ucsc.edu/)のHuman GRCh37/hg19に登録されているヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシンであり、GenBankアクセッション番号NM_021911として登録されているGamma-Aminobutyric Acid A Receptor Beta 2(GABRB2)の5'UTR領域にある。
工程(b-2)におけるヒト第6染色体の塩基配列中の第150254442位のシトシンは、UCSC Genome Browser(https://genome.ucsc.edu/)のHuman GRCh37/hg19に登録されているヒト第6染色体の塩基配列中の第150254442位のシトシンであり、かかるシトシンを含む領域の機能は知られていない。
工程(b-2)におけるヒト第17染色体の塩基配列中の第56297443位のシトシンは、UCSC Genome Browser(https://genome.ucsc.edu/)のHuman GRCh37/hg19に登録されているヒト第17染色体の塩基配列中の第56297443位のシトシンであり、GenBankアクセッション番号NM_017777として登録されているMeckel Syndrome, Type 1(MKS1)の転写開始点上流にある。
上記(c-1)工程における、(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が予め定めた閾値としては、50歳未満発症うつ病罹患者、及び健常者のそれぞれから採取された生体試料中のゲノムDNAを抽出し、抽出したそれぞれのゲノムDNAにおける上記(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定し、それぞれのシトシンのメチル化程度から定めることができる。上記閾値を定める方法としては、例えば、Receiver Operating Characteristic(ROC)分析、中央値分析、平均値±標準偏差分析等の方法が挙げられる。
ROC分析によって閾値を定める方法としては、例えば、50歳未満発症うつ病罹患者、及び健常者のそれぞれから採取された生体試料中のゲノムDNAを抽出し、抽出したそれぞれのゲノムDNAにおける(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定し、それぞれのシトシンのメチル化程度に基づいてROC分析を行い、目的に応じた感度及び/又は特異度がより高くなる値を閾値と定める方法を挙げることができる。
工程(c)が、工程(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が上記方法で予め求めた閾値未満の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が有ると予測し、該(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が上記方法で予め求めた閾値以上の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が無いと予測する工程(c-1)とすることができる。
工程(b)において、ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシンのメチル化程度を測定した場合における工程(c)の予め定めた閾値としては、目的に応じた感度及び特異度となるように適宜設定できるが、0.87~0.9の範囲で設定することができ、0.88~0.89の範囲で設定することがより好ましい。
工程(b)において、ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシンのメチル化程度を測定した場合における工程(c)の予め定めた閾値としては、目的に応じた感度及び特異度となるように適宜設定できるが、0.29~0.32の範囲で設定することができ、0.3~0.31の範囲で設定することがより好ましい。
工程(b)において、ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシンのメチル化程度を測定した場合における工程(c)の予め定めた閾値としては、目的に応じた感度及び特異度となるように適宜設定できるが、0.01~0.025の範囲で設定することができ、0.015~0.02の範囲で設定することがより好ましい。
本発明において、機械学習の識別器による識別としては、工程(b-1)で測定した2か所のシトシンのメチル化程度又は工程(b-2)で測定した3か所のメチル化程度を特徴値として、被検対象が50歳未満発症うつ病の罹患有りと50歳未満発症うつ病の罹患無しのいずれかのクラスに分類できる解析であればよく、Bayse識別器、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ロジスティック等の識別器を挙げることができる。本実施例では、学習が容易で構造の簡単なBayes識別器を用いるが、サポートベクターマシンのような高性能の識別器を用いれば、より高精度の識別が期待できる。
本発明の第二の実施態様は、以下の(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定するためのプライマー若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたことを特徴とする、50歳未満発症うつ病の罹患の有無の予測キットである。
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
上記(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定するためのプライマーとしては、上記(i)~(iii)のいずれかのシトシンを含む染色体の塩基配列中の、該シトシンの上流及び下流の塩基配列にハイブリダイズしうるポリヌクレオチドからなるプライマー対を挙げることができる。プライマーの長さとしては15~40塩基を挙げることができ、増幅するDNAの長さとしては50~300塩基を挙げることができる。
上記(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定するためのプローブとしては、上記(i)~(iii)のいずれかのシトシンを含む染色体の塩基配列中の、該シトシン及び該シトシンの上流及び/又は下流の塩基配列にハイブリダイズしうるポリヌクレオチドからなるプローブを挙げることができる。プローブの長さとしては12~200塩基を挙げることができる。
プライマー対の標識物やプローブの標識物としては、標識物質が結合した上記プライマー対や標識物質が結合した上記プローブであればよく、かかる標識物質としては、例えばビオチン、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Horse
Radish Peroxidase;HRP)、32P等を具体的に挙げることができる。
なお、本発明の第二の別の実施態様として、(i),(ii)及び(iii)の3か所のシトシンのメチル化程度、(i),(ii)及び(iv)の3か所のシトシンのメチル化程度、又は、(i),(ii)及び(v)の3か所のシトシンのメチル化程度を測定するためのプライマー若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたことを特徴とする、50歳未満発症うつ病の罹患の有無の予測キットとしてもよい。
(i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
(ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
(iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
(iv)ヒト第6染色体の塩基配列中の第150254442位のシトシン
(v)ヒト第17染色体の塩基配列中の第56297443位のシトシン
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
本実施例における「感度」は50歳未満発症うつ病患者を50歳未満発症うつ病患者であると正しく識別できた割合、「特異度」は健常者を健常者であると正しく識別できた割合、「識別率」は、健常者と50歳未満発症うつ病患者全体のデータの中で正確な識別結果を得た割合を意味する。「感度」と「特異度」とは相反する関係となり、両立させることが重要である。
メチル化程度により50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測できるシトシンを特定するため、以下のような方法で、患者及び健常者のリクルートを行った。
本実施例における研究は、国立大学法人山口大学の臨床研究センターに臨床研究申請を行い、承認を得た。国立大学法人山口大学及び国立大学法人群馬大学の患者及び健常者に対して説明書を用い、書面のほか十分な口頭説明も加えて、十分研究の趣旨を理解し同意した上で、書面にて同意を得た。
(診断)
患者は、アメリカ精神医学会が作成した「精神障害の分類と診断の手引きDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder(DSM-IV-TR)」に基づいて、第一コホートは大うつ病性障害診断基準を満たした50歳以上90歳未満の患者、第二コホートは20歳以上90歳未満の患者を対象とした。診断は臨床診断面接及び構造面接The Mini-International Neuropsychiatric Interview(M.I.N.I.)により診断した。うつ状態の重症度評価は構造化面接であるStructured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale(SIGH-D)を用いて行い、躁状態はYoung Mania Rating Scale
(YMRS)で評価した。うつ状態はSIGH-Dが18点以上、YMRSが8点以下と定義した。寛解期については、SIGH-D及びYMRSが8点以下かつDSMの「完全寛解」基準に基づき、「過去2か月間はっきりした兆候や症状が見られていない」者とした。脳器質性疾患(てんかん、脳性まひなど)がある者や、重篤な内科的疾患をもっている者等は除外した。
(健常者)
健常者は、第一コホートは50歳以上90歳未満、第二コホートは20歳以上90歳未満の者を対象とした。構造化面接(M.I.N.I.,SCID)で精神疾患を有すると診断された者、第一親等に精神疾患患者がいる者、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬といった精神科的薬物を内服した既往のある者、MMSEが23点以下の者、脳器質性疾患がある者、重篤な内科的疾患をもっている者などは除外した。国立大学法人群馬大学のサンプルは、第一コホートのリクルート基準に準じて集められた。
(白血球からのゲノムDNAの調整)
白血球mRNAから多くのうつ病バイオマーカー候補遺伝子を同定した本発明者らのこれまでの研究実績から、白血球からのゲノムDNAを用いた。各患者及び健常者から末梢血40 mlを採取した。身体合併症等の除外のため、血算、ALB、GOT、GPT、ALP、T-Bil、Na、K、Cl、BUN、Cr、T-CHO、HbA1c、TSH、fT3、fT4、コルチゾール、プロラクチン、HBs抗原、HCV、梅毒定性(RPR, TP抗体)を検査した。全血からの分離白血球よりゲノムDNAを調整した。ゲノムDNAはQuant-iT ds DNA BR Assay kit(Invitrogen社製)を用いて定量した。
(定義及び各コホートのデモグラフィックデータ)
第一コホートのうち、健常者(HC)30名、うつ病期うつ病患者延べ35名、寛解期うつ病患者延べ25名のゲノムDNAを用いた。発症年齢が50歳未満のうつ病を50歳未満発症うつ病(EOD)(うつ病期 10名、寛解期 16名)、50歳以上を50歳以上発症うつ病(LOD)(うつ病期25名、寛解期9名)と定義した。第二コホート(独立なテストサンプル)は国立大学法人山口大学の健常者5名、50歳未満発症うつ病患者5名と、国立大学法人群馬大学の健常者6名、50歳未満発症うつ病患者6名とした。第一コホートのうち、健常者(HC)30名、うつ病期EOD患者10名、うつ病期LOD患者25名のデモグラフィックデータを図1に示す。図1に示すとおり、EOD患者はHC患者と比べて、有意に若かった。
(マイクロアレイ解析)
健常者及び患者から採取した静脈血の末梢血細胞からQIAamp DNA Blood
Midi Kit(Qiagen社製)用いてゲノムDNAを精製した。次に、0.5μgのゲノムDNAをEZ DNA Methylation Kit (Zymo Research社)を用いてバイサルファイト処理した。バイサルファイト処理したゲノムDNAはアルカリ変性した後、酵素による全ゲノム増幅を行った。Infinium(登録商標)HumanMethylation450 BeadsChip(イルミナ社製)を用いて、網羅的なシトシンのメチル化解析を行った。解析にはGenomeStudio(version2011.1)/Methylation Module(version 1.9.0)(イルミナ社製)を用いた。それぞれのシトシンのメチル化は、β値で「0:完全に非メチル化」と「1:完全にメチル化」として示された。得られた各シトシンのメチル化データのうち、HC、うつ病期EOD、寛解期EOD、うつ病期LOD、寛解期LODの全5群で欠損データのない411383種類のプローブに含まれるCpG配列のシトシンをターゲットとした。
上記マイクロアレイ解析を行った後、Fisher比による解析を行い、シトシンのメチル化程度を用いた健常者(HC)とうつ病期EODの2群間の差異を評価した。Fisher比が大きかったTop50のターゲットのシトシンを含むプローブのID(Probe ID)を図2に示す。
(パイロシークエンス解析)
上記マイクロアレイ解析結果の妥当性検証のために、パイロシークエンス解析を用いた。一塩基のメチル化程度を測定するのに、パイロシークエンス解析は有効な方法であるが、パイロシークエンス解析の感度は5%程度と言われる(Mikeska T et.al Epigenomics. 2010, 2:561-73. doi: 10.2217/epi.10.32.)。そのため、図2に示すプローブの配列に含まれるシトシンのうち、まずHC vs EODでメチル化程度の平均値が5%以上違うシトシンうちFisher比の大きい上位4つのシトシンを、第一コホートの一部(HC10名、うつ病期EOD患者10名、うつ病期LOD患者10名:図3)のゲノムDNA、及び第二コホートの独立なテストサンプルであるHC11名、うつ病期EOD患者11名(図4)のゲノムDNAを用いてPyroMarkTM ID systemとPyroMarkTM Gold
reagents kit (Qiagen社製)によりパイロシークエンス解析を行った。プライマー設計はPyrosequencing Assay Design Software v2.0 (Qiagen社製)を用いた。用いたプライマー配列及びプローブ配列を図5に示す。図5中、ターゲットのシトシン及びそれに続くグアニンは、Probe seq欄中、「[CG]」と表す。その後、各ターゲットのシトシンのメチル化程度について、マイクロアレイ結果とパイロシークエンス結果の相関をPearsonの積率相関係数を用いて検定した。
その結果、プローブID cg15971980を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.684、95%信頼区間0.473-0.82、P値1.16x10-6であり、cg07584066を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.484、95%信頼区間0.204-0.692、P値0.00154であり、cg20903900を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.728、95%信頼区間0.539-0.848、P値9.91x10-6であり、cg10294474を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.795、95%信頼区間0.643-0.887、P値8.79x10-10であり、すべてマイクロアレイ結果とパイロシークエンス結果とで有意な相関が確認され、マイクロアレイ結果の妥当性が示された。
(次世代シークエンサーを用いたアンプリコンシークエンス解析)
マイクロアレイ解析における識別率の高いTOP50のターゲットのシトシンの多くは各群間のメチル化程度の平均差が5%未満の小さな差であった。そこで、上記マイクロアレイ解析によって抽出されたターゲットのシトシンのうち、8か所のシトシン(図2に示す点線枠のプローブID:cg15794987, cg07763047, cg21347377, cg17458347, cg14567489, cg16579770, cg23543123, cg15971980で解析可能なシトシン)及びその近隣の配列に対して、Methyl Primer Express v1.0(ライフテクノロジーズ社製)ソフトにてプライマー設計を行った。0.5μg のゲノムDNAをMethylEasyXceedキット(タカラバイオ社製)でバイサルファイト処理し、EpiTaqHSキット(タカラバイオ社製)の添付プロトコールに沿ってPCR増幅した。増幅されたゲノムDNAは、NucleoSpin(登録商標) Gel and PCR Clean-upキット(タカラバイオ社製)を用いて精製した。精製したゲノムDNAは両末端を平滑化リン酸化処理し、3’-dA処理を行い、Index付アダプターを連結し、これを鋳型としてPCR増幅を行った。シークエンス解析延期長250で、MiSeq(イルミナ社製)を用いて高速シークエンス解析を行った。用いたプライマー配列及びPCR増幅した配列を図6に示す。
その結果、プローブID:cg16579770を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.486、95%信頼区間0.184-0.681、P値0.00231であり、cg15971980を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.727、95%信頼区間0.537-0.847、P値1.07x10-7であり、cg07763047を用いてシトシンのメチル化程度を解析した場合の相関係数は0.363、95%信頼区間0.0581-0.606、P値0.0213であり、上記の3か所のシトシンのメチル化程度においてマイクロアレイ結果と有意な相関が確認され、マイクロアレイの妥当性が確認できた。
(ROC曲線による識別)
第一コホートの一部(HC10名、うつ病期EOD患者10名、うつ病期LOD患者10名:図3)のゲノムDNAにおける6か所のシトシン(プローブID:cg16579770, cg07584066, cg07763047, cg20903900, cg10294474, cg15971980を用いて解析したシトシン)のメチル化程度について、1st Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線解析を行い、感度+特異度が最大となるように閾値(cut off)を設定した。次に、独立なテストサンプルであるHC11名、うつ病期EOD患者11名のゲノムDNA(図4)を用いて、設定した閾値を用いて判別した際の感度及び特異度を求めた。
図7に示すように、プローブID:cg16579770, cg07584066, cg07763047を用いてターゲットシトシン(それぞれ第16染色体の72058938位、第17染色体の57642749位、又は第5染色体の160974837位のシトシン)のメチル化程度を測定した場合のけるメチル化程度が閾値(Cut off)に対して小さい場合に、識別率が68%以上と高い値であり、第16染色体の72058938位、第17染色体の57642749位、又は第5染色体の160974837位のシトシンのメチル化程度に基づき、被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測できることが明らかとなった。
(2か所のシトシンのメチル化程度の組合せによる識別)
パイロシークエンス解析及びアンプリコンシークエンス解析で検証したプローブID:cg16579770、cg07763047、cg15971980、cg20903900、cg10294474及びcg07584066の6つのプローブを用いて解析したシトシンのメチル化程度を用いて、50歳未満発症うつ病の罹患の有無の予測に対する識別率、感度、特異度を解析した。
初めに6か所のシトシン(プローブID:cg16579770、cg07763047、cg15971980、cg20903900、cg10294474及びcg07584066を用いて解析したシトシン)の中から2か所のシトシンを選択し、シトシンの組を構成した。次に、その選択したシトシンの組のメチル化程度を用いて、第一コホートの一部(HC10名、うつ病期EOD患者10名、うつ病期LOD患者10名:図3)を訓練サンプルとしてBayes識別器(浜本義彦:統計的パターン認識入門 第2章 森北出版)を設計した。なお、共分散行列の推定誤差を削除するため、行列式の項を省いた。その後、設計した識別器により独立サンプルであるHC11名、うつ病期EOD患者11名のサンプル(図4)をテストサンプルとして識別した。以上の処理を選択される全ての組に対して行った。上記は、第一コホートを訓練サンプルとし、ブラインドされた第二コホートのサンプルをテストサンプルとする分割法となっている。
また、選択されたシトシンの組の中で識別率が最も良かった組に対して、テストサンプルに対する可視化を行った。横軸をテストサンプルと健常者クラスωとの距離d、縦軸をテストサンプルと50歳未満発症うつ病クラスωとの距離dとし、それぞれ以下の式(I)で表す。ここで、μiは平均ベクトル(メチル化程度の平均値)、Σi -1は共分散行列の逆行列である。
Figure 0007108281000001
上記Bayes識別器では、テストサンプルを距離diがより小さい方のクラスへ識別される。
1)d1<d2の場合 テストサンプルを健常者であると識別する。
2)d2<d1の場合 テストサンプルを50歳未満発症うつ病患者であると識別する。
その後、テストサンプルの識別結果とブラインドされていた正解ラベルを比較することで
テストサンプルの識別に対する正誤の判定を行った。この処理を全てのテストサンプルに対して行い、識別率、感度、特異度を計算した。テストサンプルに対する識別結果を図8に示す。図8中、「cg16579770」、「cg07763047」、「cg15971980」、「cg20903900」、「cg10294474」及び「cg07584066」を用いて解析したシトシンをそれぞれ「770」、「047」、「980」、「900」、「474」、及び「066」で表す。
図8に示すように、770及び047のシトシンのメチル化程度を特徴値として用いたBayes識別器により、識別率73%、感度64%、特異度82%であり、唯一、識別率、感度、特異度のいずれも50%を超えていた。
また、770と047の組による識別結果の可視化を行った結果を図9に示す。図9において、識別境界線は原点を通る45°の直線である。d1はパターンと健常者クラスの分布との距離、d2はパターンとうつ病患者クラスの分布との距離であり、距離が小さいほど、そのクラスの分布に近い、つまり似ていることを意味する。図9に示すように、50歳未満発症うつ病患者の多くは50歳未満発症うつ病クラスの領域に、健常者の多くは健常者クラスに位置していた。したがって、ヒト第16染色体の第72058938位のシトシンとヒト第5染色体の第160974837位のシトシンのメチル化程度を測定し、Bayse識別器により識別を行うことで、50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測できることが明らかとなった。
(3か所のシトシンのメチル化程度の組合せによる識別)
cg16579770、cg07763047、cg15971980、cg20903900、cg10294474及びcg07584066の6つのプローブを用いて解析したシトシンの中から3か所を選択するとした以外は、上述の2か所のシトシンの組み合わせ解析と同様の方法で行った。識別結果を図10に示す。図10中、「cg16579770」、「cg07763047」、「cg15971980」、「cg20903900」、「cg10294474」及び「cg07584066」を用いて解析したシトシンをそれぞれ「770」、「047」、「980」、「900」、「474」及び「066」で表す。また、770、047及び066の組による識別結果の可視化を行った結果を図11に示す。
図10に示すように、770、047及び066のシトシンのメチル化程度を特徴値として用いたBayes識別器により、識別率77%、感度64%、特異度91%といずれも60%以上かつ特異度が90%以上と高かった。また、770、980及び066を選択した場合で、識別率68%、感度64%、特異度73%であり、770、900及び066を選択した場合で、識別率64%、感度55%、特異度73%といずれも55%以上と高かった。また、図11に示すように、770、047及び066を選択した場合によるそれぞれのメチル化程度に基づく識別により、50歳未満発症うつ病患者の多くは50歳未満発症うつ病クラスの領域に、健常者の多くは健常者クラスに位置していた。したがって、ヒト第16染色体の第72058938位のシトシン、ヒト第17染色体の第57642749位のシトシン及びヒト第5染色体の第160974837位のシトシンや、ヒト第16染色体の第72058938位のシトシン、ヒト第17染色体の第57642749位のシトシン及びヒト第6染色体の第150254442位のシトシンや、ヒト第16染色体の第72058938位のシトシン、ヒト第17染色体の第57642749位のシトシン及びヒト第17染色体の第56297443位のシトシンのメチル化程度を測定し、それを特徴値とするBayse識別器により識別することで、50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測できることが明らかとなった。また、図10、12の比較により、2か所のシトシンより3か所のシトシンの解析によるそれぞれのメチル化程度に基づき識別した方が、原点を通る45°の直線からの距離が長く、3か所のシトシンの解析によるそれぞれのメチル化程度に基づき識別することによって、より精度よく50歳未満発症うつ病罹患の有無を予測することができることが明らかとなった。
(共分散行列の行列式による分布の広がり解析)
識別率の最も高かった770と047のシトシンのメチル化程度について、HC群、うつ病期EOD群、うつ病期LOD群(図1)、それぞれの共分散行列の行列式を求めた。行列式の値は分布の広がりを意味する。このとき、うつ病期EOD 10例は固定し、HC30例及びうつ病期LOD25例については、非復元抽出で10例をランダム抽出し行列式の値を求める処理を独立に100回行い、HC群の分布の広がりを基準として有意差を検定した。
その結果、うつ病期EODはHCよりも分布の広がりが小さく、うつ病期LODはHCよりも分布の広がりが大きいことが分かった(図12)。なお図中の縦軸はHC群の分布の広がりを1と基準化したEOD群、LOD群の分布の広がりを示す。この結果から、ヒト第16染色体の第72058938位のシトシンとヒト第5染色体の第160974837位のシトシンはEODの識別により有用であることが示された。
50歳未満発症うつ病患者のメチル化程度プロファイルは、50歳以上発症うつ病患者のメチル化程度プロファイルと比べて、より均一でバラつきの少ない集団であることが確認され、50歳未満発症うつ病患者と高齢発症うつ病患者の異種性が示唆された。これにより、特定の領域のシトシンのメチル化程度を測定することが50歳未満発症うつ病患者の識別に妥当な方法であることが示唆された。
これまでの研究においては、発症年齢や反復性を考慮しておらず、本発明がより抗うつ薬での治療が必要な50歳未満発症うつ病の診断に優れていることが示唆された。
プライマリーケア等でうつ状態で来院された方に対して、血液検査でうつ病の羅漢の有無を予測する際に利用可能である。これにより、50歳未満発症うつ病診断が容易かつ客観的に行えるようになる。うつ病は啓蒙活動が進んできたとはいえ、まだまだ偏見や誤解が多い疾患である。客観的な数値で説明することによって、患者も納得しやすかったり、他科の医者が精神科に紹介しやすくなったりという二次的な効果も期待できる。

Claims (4)

  1. 被検対象における50歳未満発症うつ病の罹患の有無予測を補助する方法であって、以下の工程(a)~(c-1)を順次備えたことを特徴とする方法。
    (a)被検対象から採取された生体試料中のゲノムDNAを抽出する工程;
    (b)工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度を測定する工程;
    (i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
    (ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
    (iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
    (c-1)工程(b)で測定した(i)~(iii)のいずれかのメチル化程度が予め定めた閾値未満の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が有るとの予測を補助し、該(i)~(iii)のいずれかのシトシンのメチル化程度が予め定めた閾値以上の場合に、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患が無いとの予測を補助する工程;
    を備え、前記予め定めた閾値が、前記(i)に記載のシトシンのメチル化程度の場合は0.87~0.9の範囲の値、前記(ii)に記載のシトシンのメチル化程度の場合は0.29~0.32の範囲の値、前記(iii)に記載のシトシンのメチル化程度の場合は0.01~0.025の範囲の値であることを特徴とする方法。
  2. 工程(b)が、工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i)及び(iii)の2か所のシトシンのメチル化程度を測定する工程(b-1)であり、工程(c-1)が、工程(b-1)で測定した2か所のシトシンのメチル化程度を特徴値とした機械学習の識別器による識別を行い、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程(c-2)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
    (i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
    (iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
  3. 工程(b)が、工程(a)により得られたゲノムDNAにおける以下の(i),(ii)及び(iii)の3か所のシトシンのメチル化程度、(i),(ii)及び(iv)の3か所のシトシンのメチル化程度、又は、(i),(ii)及び(v)の3か所のシトシンのメチル化程度を測定する工程(b-2)であり、工程(c-1)が、(b-2)で測定した3か所のシトシンのメチル化程度を特徴値とした機械学習の識別器による識別を行い、被検対象において50歳未満発症うつ病の罹患の有無を予測する工程(c-3)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
    (i)ヒト第16染色体の塩基配列中の第72058938位のシトシン
    (ii)ヒト第17染色体の塩基配列中の第57642749位のシトシン
    (iii)ヒト第5染色体の塩基配列中の第160974837位のシトシン
    (iv)ヒト第6染色体の塩基配列中の第150254442位のシトシン
    (v)ヒト第17染色体の塩基配列中の第56297443位のシトシン
  4. 被検対象から採取した生体試料が、被検対象から採取した血中白血球であることを特徴とする請求項1~のいずれか記載の方法。
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