JP7102828B2 - 印刷装置 - Google Patents
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Description
上記一態様に係る印刷装置では、残留振動を生じさせるための電位が、液体を吐出し印刷するために用いられる電位と比較して低い。このため、上記一態様に係る印刷装置によれば、残留振動を発生させたときに、配線抵抗や圧電素子の特性ばらつきなど各種吐出部のばらつき要因の影響が小さく抑えられるので、圧電素子の個体差を考慮せずに、すなわち、圧電素子に対してランク付けを行うことなしに、吐出部における液体の吐出状態を判定することができる。
なお、液体の吐出は、第1駆動波形における第1電位から第4電位への直接的または間接的な変化で発生する。このため、液体の吐出には、複数の電位が用いられる場合があるが、ここでいう第4電位とは、複数の電位のうちの最高電位をいう。また、残留振動は、第2駆動波形における第2電位から第3電位への変化で発生する。このため、第1駆動波形における第1電位よりも第2駆動波形における第3電位が低いとは、残留振動を生じさせるための電位が、液体を吐出し印刷するために用いられる電位と比較して低いことの必要条件となる。
この構成に係る印刷装置によれば、第2電位を、第1電位よりも低くすることにより、検査対象ではない吐出部の圧力室にかかる圧力を低下させ、検査対象の周辺の吐出部からの影響を小さくすることができ、吐出部の位置等によるばらつきを抑えて吐出部の個体差を考慮せずに残留振動を検出することができる。
この構成に係る印刷装置によれば、第2電位は、駆動および検査において最も低い電位となり、残留振動検出時の精度を高めることができる。
この構成に係る印刷装置によれば、第3電位から変化した後の第2電位となる第6期間で検出を行うことで、同じ第2電位である検査前の第1期間にスムーズに移行し、無駄な電位変化を生じさせず連続して検査することが可能となる。
この構成に係る印刷装置によれば、検査対象の吐出部が吐出部列のどの位置であるか等の条件を考慮せずに検査することができる。上記構成において、前記第1吐出部は、前記吐出部列の、端に位置する吐出部であって、前記第2吐出部は、前記吐出部列の、端に位置しない吐出部であることが好ましい。
この構成に係る印刷装置によれば、検査対象の吐出部が吐出部列のどの位置であるか等の条件を考慮せずに検査することができる。
この構成に係る印刷装置によれば、吐出部列毎のばらつき等を考慮せず検査することが可能となる。
この構成に係る印刷装置によれば、液体を吐出して印刷する場合および吐出部を検査する場合のいずれにおいても、圧電素子の各他端が所定電位に維持されるので、圧電素子において微小クラックの成長を抑えることができる。
実施形態としての印刷装置について、インク(「液体」の一例)を吐出して、用紙などの記録媒体Pに画像を形成するインクジェットプリンターを例にとって説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示す機能ブロック図であり、また、図2は、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
本実施形態では、図1に示されるように、ヘッドモジュールHMが、4個のヘッドユニットHUを備え、判定モジュールCMが、4個のヘッドユニットHUと1対1に対応する4個の吐出状態判定回路9を備える。
なお以下では、各記録ヘッドHDに設けられたM個の吐出部Dの各々を区別するために、順番に、1段、2段、…、M段と称する。また、m段の吐出部Dを、吐出部D[m]と称する。変数mは、1≦m≦Mを満たす自然数である。
インクジェットプリンター1の構成要素や信号等が、吐出部D[m]の段数mに対応する場合、当該構成要素や信号等を表わすための符号に、段数mに対応していることを示す添え字[m]を付して表現する。
検出回路20は、駆動信号Comにより駆動された吐出部D[m]から検出した検出信号Vout[m]に基づいて、吐出部D[m]が駆動された後に当該吐出部D[m]において残留している振動(以下、「残留振動」と称する)を示す残留振動信号RVS[m]を生成する。
なお、吐出状態判定回路9が実行する吐出状態判定と、吐出状態判定回路9が吐出状態判定を実行するために判定対象吐出部D-Hを駆動して判定対象吐出部D-Hに残留振動を生じさせたうえで当該残留振動を示す残留振動信号RVSを生成する処理である残留振動信号生成処理と、を含むインクジェットプリンター1において実行される一連の処理を、吐出状態判定処理と称する。
また、以下では、吐出状態判定処理が実行される場合において、判定対象吐出部D-H以外の吐出部Dを非対象吐出部D-Rと称する。
本実施形態において、図2に示されるように、+Y方向及び-Y方向(以下、+Y方向及び-Y方向を「Y軸方向」と総称する)が主走査方向であり、+X方向(以下、+X方向及びその反対の-X方向を「X軸方向」と総称する)が副走査方向であるとする。
搬送機構7は、図1に示されるように、キャリッジ100をY軸方向に往復動するための駆動源となる搬送モーター71と、搬送モーター71を駆動するためのモータードライバー72と、記録媒体Pを搬送するための駆動源となる給紙モーター73と、給紙モーター73を駆動するためのモータードライバー74と、を具備する。
また、搬送機構7は、図2に示されるように、Y軸方向に延在するキャリッジガイド軸76と、搬送モーター71により回転駆動されるプーリー711と回転自在なプーリー712との間に掛け渡されY軸方向に延在するタイミングベルト710と、を具備する。キャリッジ100は、キャリッジガイド軸76によりY軸方向に往復自在に支持されるとともに、固定具101を介してタイミングベルト710の所定箇所に固定されている。このため、搬送機構7は、搬送モーター71によりプーリー711を回転駆動させることで、キャリッジ100に搭載されたヘッドモジュールHMを、キャリッジガイド軸76に沿ってY軸方向に移動させることができる。
また、図2に示されるように、搬送機構7は、キャリッジ100の下側すなわち-Z方向(以下、-Z方向及びその反対の+Z方向を「Z軸方向」と総称する)に設けられたプラテン75と、給紙モーター73の駆動に応じて回転し記録媒体Pを1枚ずつプラテン75上に供給するための給紙ローラ(図示省略)と、給紙モーター73の駆動に応じて回転しプラテン75上の記録媒体Pを排紙口へと搬送する排紙ローラ730と、を備える。このため、搬送機構7は、プラテン75上において記録媒体Pを-X方向(上流側)から+X方向(下流側)へと搬送することができる。
また、本実施形態では、4個のヘッドユニットHUと、4個のインクカートリッジ31とが、1対1に対応して設けられる。そして、各吐出部Dは、当該吐出部Dが設けられたヘッドユニットHUに対応するインクカートリッジ31からインクの供給を受ける。これにより、各吐出部Dは、供給されたインクを内部に充填し、充填したインクをノズルNから吐出することができる。つまり、ヘッドモジュールHMが具備する合計4M個の吐出部Dは、全体として4色のインクを吐出することができる。
Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable
Read-Only Memory)、または、PROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーと、を含んで構成され、ホストコンピューターから供給される印刷データImg、及び、インクジェットプリンター1の制御プログラム等の各種情報を記憶する。
具体的には、制御部6は、ヘッドモジュールHMを制御するための印刷信号SIと、駆動信号生成回路2を制御するための波形指定信号dComと、搬送機構7を制御するための信号と、を生成する。
ここで、波形指定信号dComとは、駆動信号Comの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号Comとは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。駆動信号生成回路2(「駆動信号生成部」の一例)は、DA変換回路を含み、波形指定信号dComが規定する波形を有する駆動信号Comを生成する。なお、本実施形態では、駆動信号Comが、駆動信号Com-Aと駆動信号Com-Bとを含むマルチコムである場合を想定する。
印刷信号SIとは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号Comを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する。ここで、吐出部Dの動作の種類の指定とは、例えば、吐出部Dを駆動するか否かを指定したり、吐出部Dを駆動した際に当該吐出部Dからインクが吐出されるか否かを指定したり、また、吐出部Dを駆動した際に当該吐出部Dから吐出されるインク量を指定したりすることである。
ここで、吐出異常とは、駆動信号Comにより吐出部Dを駆動して吐出部Dからインクを吐出させようとしても、駆動信号Comが規定する態様によりインクを吐出できない状態をいう。ここで、駆動信号Comが規定するインクの吐出態様とは、吐出部Dが駆動信号Comの波形により規定される量のインクを吐出し、吐出部Dが駆動信号Comの波形により規定される吐出速度でインクを吐出することである。すなわち、駆動信号Comが規定するインクの吐出態様によりインクを吐出できない状態としては、吐出部Dからインクを吐出できない状態の他に、駆動信号Comにより規定されるインクの吐出量とは異なる量のインクが吐出部Dから吐出される状態、及び、駆動信号Comにより規定されるインクの吐出速度と異なる速度でインクが吐出されるために記録媒体P上の所望の着弾位置にインクを着弾させることができない状態等が含まれる。
次に、図3乃至図5を参照しつつ、記録ヘッドHDと、記録ヘッドHDに設けられる吐出部Dとについて説明する。
図3に示されるように、吐出部Dは、圧電素子PZと、内部にインクが充填されたキャビティ320と、キャビティ320に連通するノズルNと、振動板310と、を備える。
キャビティ320は、キャビティプレート340と、ノズルNが形成されたノズルプレート330と、振動板310と、により区画される空間である。キャビティ320は、インク供給口360を介してリザーバ350と連通している。リザーバ350は、インク取入口370を介して、当該吐出部Dに対応するインクカートリッジ31と連通している。
なお、以下では、キャビティプレート340のうち、一の吐出部Dのキャビティ320と他の吐出部Dのキャビティ320とを区画する部分、及び、記録ヘッドHDの端部に位置する吐出部Dのキャビティ320と記録ヘッドHDの外部とを区画する部分を、隔壁340Aと称する(後述する図22、図23、図25及び図26参照)。
なお、本実施形態では、圧電素子PZとして、図3に示されるようなユニモルフ(モノモルフ)型を採用する。ただし、圧電素子PZは、ユニモルフ型に限らず、バイモルフ型や積層型等を採用してもよい。
キャビティプレート340の上面開口部には、振動板310が設置される。振動板310には、下部電極Zdが接合されている。このため、圧電素子PZが駆動信号Comにより駆動されて振動すると、振動板310も振動する。そして、振動板310の振動によりキャビティ320の容積が変化し、キャビティ320内に充填されたインクがノズルNより吐出される。インクの吐出によりキャビティ320内のインクが減少した場合、リザーバ350からインクが供給される。
図4に示されるように、制御部6は、Phase-1の状態において、吐出部Dが備える圧電素子PZに対して供給される駆動信号Comの電位を変化させることで、当該圧電素子PZが+Z方向に変位するような歪を発生させ、当該吐出部Dの振動板310を+Z方向に撓ませる。これにより、図4に示すPhase-2の状態のように、Phase-1の状態と比較して、当該吐出部Dのキャビティ320の容積が拡大する。次に、制御部6は、駆動信号Comの示す電位を変化させることで、当該圧電素子PZが-Z方向に変位するような歪を発生させ、当該吐出部Dの振動板310を-Z方向に撓ませる。これにより、図4に示すPhase-3の状態のように、キャビティ320の容積が急激に収縮し、キャビティ320を満たすインクの一部が、このキャビティ320に連通しているノズルNからインク滴として吐出される。
圧電素子PZ及び振動板310が駆動信号Comにより駆動されてZ軸方向に変位した後、振動板310を含む吐出部Dには残留振動が生じる。
なお、図4や、後述する図20、図22、図23、図25、図26で示される圧電素子PZの変位方向及び変位量については、キャビティ320の容積の相対的な拡大/縮小を示すための一例に過ぎない。このため、必ずしも圧電素子PZが図示のように変位しているわけではない。
図5に示されるように、ヘッドモジュールHMに設けられた各記録ヘッドHDには、ノズル列Lnが設けられる。ここで、ノズル列Lnとは、所定方向に列状に延在するように設けられた複数のノズルNである。本実施形態では、各ノズル列Lnが、M個のノズルNをX軸方向に列状に延在するように配置して構成される。
以下においては、ヘッドモジュールHMに設けられる4列のノズル列Lnを、ノズル列Ln-BK、Ln-CY、Ln-MG、Ln-YLと称する。ここで、ノズル列Ln-BKは、ブラックのインクを吐出する吐出部DのノズルNを配列したノズル列Lnであり、ノズル列Ln-CYは、シアンのインクを吐出する吐出部DのノズルNを配列したノズル列Lnであり、ノズル列Ln-MGは、マゼンタのインクを吐出する吐出部DのノズルNを配列したノズル列Lnであり、ノズル列Ln-YLは、イエローのインクを吐出する吐出部DのノズルNを配列したノズル列Lnである。また、以下においては、図5に示されるように、各ノズル列Lnに属する複数のノズルNのうち、ノズル列Lnの端部に位置するノズルNを端部ノズルN-egと称する場合がある。
続いて、図6を参照しつつ、各ヘッドユニットHUの構成について説明する。
接続状態指定回路11は、制御部6から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、及び、期間指定信号Tsigの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[1]~SWa[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLa[1]~SLa[M]と、スイッチSWb[1]~SWb[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLb[1]~SLb[M]と、スイッチSWs[1]~SWs[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLs[1]~SLs[M]と、を生成する。
スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号SLb[m]に応じて、内部配線LHbと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]と、の間でオンまたはオフする。本実施形態において、スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号SLb[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号SLs[m]に応じて、内部配線LHsと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]と、の間でオンまたはオフする。本実施形態において、スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号SLs[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
以下、図7乃至図11を参照しつつ、各ヘッドユニットHUの動作について説明する。
詳細には、インクジェットプリンター1は、連続的または間欠的に設けられたM個の単位判定期間Tu-Hにおいて、M回の吐出状態判定処理を実行することで、M個の吐出部D[1]~D[M]を判定対象吐出部D-Hとした吐出状態判定処理を実行する。なお、各単位判定期間Tu-Hにおいて、各ヘッドユニットHUに設けられたM個の吐出部D[1]~D[M]の中から、1個の判定対象吐出部D-Hが選択される。
図7及び図8に示されるように、制御部6は、パルスPlsLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御部6は、パルスPlsLの立ち上がりから次のパルスPlsLの立ち上がりまでの期間として、単位期間Tuを規定する。
一方、個別指定信号Sd[m]は、吐出状態判定処理の各単位判定期間Tu-Hにおいて、吐出部D[m]を、判定対象吐出部D-Hとして駆動するか、または、非対象吐出部D-Rとして駆動するか、のいずれかを指定する。
本実施形態において、単位印刷期間Tu-Pでは、ドットを形成する吐出部D[m]に駆動信号Com-Aが供給され、ドットを形成しない吐出部D[m]に駆動信号Com-Bが供給される。一方、単位判定期間Tu-Hでは、判定対象吐出部D-Hに対し、制御期間TSS1及びTSS3において駆動信号Com-Aが供給され、制御期間TSS2において駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bのいずれも供給されない。単位印刷期間Tu-Pでは、非対象吐出部D-Rに対し、駆動信号Com-Bが供給される。
単位印刷期間Tu-Pの開始時及び終了時において、駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bは、いずれも第1電位となっている。
具体的には、駆動信号Com-Aは、制御期間TSS1において、第2電位から第3電位まで上昇し、暫時第3電位を維持し、この後、第2電位まで下降し、制御期間TSS2において該第2電位を維持し、制御期間TSS3において該第2電位から第3電位まで上昇し、暫時第3電位を維持し、この後、第2電位まで下降する。
単位判定期間Tu-Pにおける駆動信号Com-Bは、制御期間TSS1及び制御期間TSS2において第2電位で一定となり、制御期間TSS3では、駆動信号Com-Aと同様な微振動波形となる。
なお、制御期間TSS3における駆動信号Com-A及びCom-Bが第2微振動波形の一例である。また、単位印刷期間Tu-Pにおける制御期間TSS1、制御期間TSS2及び制御期間TSS3の開始時及び終了時において駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bは、いずれも第2電位となっている。
一方、印刷処理の実行時に、個別指定信号Sd[m]によってドットを形成しない旨が指定される場合、接続状態指定回路11は、単位印刷期間Tu-Pにおいて、接続状態指定信号SLb[m]をハイレベルに設定し、接続状態指定信号SLa[m]及びSLs[m]をローレベルに設定する。この場合、吐出部D[m]は、駆動信号Com-Bにより駆動されてインクを吐出しないので、記録媒体Pにはドットが形成されない。
逆に、吐出状態判定処理から印刷処理に移行する場合、駆動信号Com-A及びCom-Bは、図7及び図8において破線で示されるように、第2電位から第1電位へ徐々に上昇する。この移行時においては、すべての圧電素子PZに駆動信号Com-AまたはCom-Bのいずれかが供給される。
本実施形態では、吐出状態判定処理の実行時において、図10に示されるように、個別指定信号Sd[m]が判定対象吐出部D-Hとしての駆動を指定する場合と、非対象吐出部D-Rとしての駆動を指定する場合との2通りがある。
この場合、判定対象吐出部D-Hとして指定された吐出部D[m]は、制御期間TSS1において駆動信号Com-Aにより駆動される。その結果、判定対象吐出部D-Hとして指定された吐出部D[m]には、制御期間TSS1において振動が生じ、この振動は、制御期間TSS2においても収まらずに残留する。制御期間TSS2において、判定対象吐出部D-Hが有する圧電素子PZの上部電極Zuには、判定対象吐出部D-Hに生じている残留振動に応じた電気信号が現れる。この電気信号は、スイッチSWs[m]のオンにより、内部配線LHsを介して検出回路20に供給される。検出回路20は、制御期間TSS2において、判定対象吐出部D-Hとして指定された吐出部D[m]の有する上部電極Zuの電位を、検出信号Vout[m]として検出する。
なお、制御期間TSS3において、判定対象吐出部D-Hとして指定された吐出部D[m]は、駆動信号Com-Aにより微振動が生じるように駆動される。
この場合、非対象吐出部D-Rとして指定された吐出部D[m]は、吐出状態判定処理において駆動信号Com-Bにより駆動される。その結果、非対象吐出部D-Rとして指定された吐出部D[m]には、制御期間TSS1及びTSS2において第2電位に維持され、制御期間TSS3において、微振動が生じるように駆動される。
具体的には、接続状態指定回路11は、吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するように、転送回路SR[1]~SR[M]と、ラッチ回路LT[1]~LT[M]と、デコーダーDC[1]~DC[M]と、を有する。このうち、転送回路SR[m]には、個別指定信号Sd[m]が供給される。なお、この図では、個別指定信号Sd[1]~Sd[M]がシリアルで供給され、例えば、m段に対応する個別指定信号Sd[m]が、転送回路SR[1]から転送回路SR[m]へと、クロック信号CLに同期して順番に転送される。また、ラッチ回路LT[m]は、ラッチ信号LATのパルスPlsLがハイレベルに立ち上がるタイミングにおいて、転送回路SR[m]に供給された個別指定信号Sd[m]をラッチする。また、デコーダーDC[m]は、図10等を参照して説明したように、個別指定信号Sd[m]、ラッチ信号LAT、期間指定信号Tsigに基づいて、接続状態指定信号SLa[m]、SLb[m]、及び、SLs[m]を生成する。
検出回路20は、例えば、検出信号Voutを増幅させるための負帰還型のアンプと、検出信号Voutの高域周波数成分を減衰させるためのローパスフィルターと、インピーダンスを変換してローインピーダンスの残留振動信号RVSを出力するボルテージフォロアと、を含む構成等であってもよい。
次に、吐出状態判定回路9について説明する。
また、吐出状態判定回路9は、吐出状態を判定する際に、残留振動信号RVSが所定の振幅を有しているか否かを示す振幅情報Info-Sを生成する。具体的には、吐出状態判定回路9は、残留振動信号RVSの1周期の時間長NTcを測定している期間において、残留振動信号RVSの電位が、残留振動信号RVSの振幅中心レベルの電位Vth-Cよりも高電位の閾値電位Vth-O以上となり、かつ、電位Vth-Cよりも低電位の閾値電位Vth-U以下となるか否かを判定する。そして、当該判定の結果が肯定の場合には、振幅情報Info-Sに、残留振動信号RVSが所定の振幅を有していることを示す値、例えば「1」を設定し、当該判定の結果が否定の場合には、振幅情報Info-Sに、残留振動信号RVSが所定の振幅を有していないことを示す値、例えば「0」を設定する。
そして、吐出状態判定回路9は、周期情報Info-T及び振幅情報Info-Sに基づいて、判定対象吐出部D-Hにおけるインクの吐出状態の判定結果を示す判定情報Sttを生成する。
図12に示されるように、吐出状態判定回路9は、周期情報Info-Tの示す時間長NTcを、閾値Tth1、閾値Tth2、閾値Tth3の一部または全部と比較することで、判定対象吐出部D-Hにおける吐出状態を判定し、当該判定の結果を示す判定情報Sttを生成する。ここで、閾値Tth1は、判定対象吐出部D-Hのキャビティ320が所定の剛性を有する場合であって、当該判定対象吐出部D-Hの吐出状態が正常である場合における残留振動の1周期の時間長と、当該判定対象吐出部D-Hのキャビティ320に気泡が混入した場合における残留振動の1周期の時間長と、の境界を示すための値である。また、閾値Tth2は、判定対象吐出部D-Hのキャビティ320が所定の剛性を有する場合であって、当該判定対象吐出部D-Hの吐出状態が正常である場合における残留振動の1周期の時間長と、当該判定対象吐出部D-HのノズルN付近に異物が付着した場合における残留振動の1周期の時間長と、の境界を示すための値である。また、閾値Tth3は、判定対象吐出部D-Hのキャビティ320が所定の剛性を有する場合であって、当該判定対象吐出部D-HのノズルN付近に異物が付着した場合における残留振動の1周期の時間長と、当該判定対象吐出部D-Hのキャビティ320内のインクが増粘した場合における残留振動の1周期の時間長と、の境界を示すための値である。なお、閾値Tth1~閾値Tth3は、「Tth1<Tth2<Tth3」を満たす。
また、振幅情報Info-Sの値が「1」であり、かつ、周期情報Info-Tの示す時間長NTcが「NTc<Tth1」を満たす場合には、判定対象吐出部D-Hにおいて気泡による吐出異常が生じていると看做す。そして、この場合、吐出状態判定回路9は、判定情報Sttに、判定対象吐出部D-Hにおいて気泡による吐出異常が発生していることを示す値「2」を設定する。
また、振幅情報Info-Sの値が「1」であり、かつ、周期情報Info-Tの示す時間長NTcが「Tth2<NTc≦Tth3」を満たす場合には、判定対象吐出部D-Hにおいて異物付着による吐出異常が生じていると看做す。そして、この場合、吐出状態判定回路9は、判定情報Sttに、判定対象吐出部D-Hにおいて異物付着による吐出異常が発生していることを示す値「3」を設定する。
また、振幅情報Info-Sの値が「1」であり、かつ、周期情報Info-Tの示す時間長NTcが「Tth3<NTc」を満たす場合には、判定対象吐出部D-Hにおいて増粘による吐出異常が生じていると看做す。そして、この場合、吐出状態判定回路9は、判定情報Sttに、判定対象吐出部D-Hにおいて増粘による吐出異常が発生していることを示す値「4」を設定する。
また、振幅情報Info-Sの値が「0」の場合においても、判定対象吐出部D-Hにおいて吐出異常が生じていると看做す。そして、この場合、吐出状態判定回路9は、判定情報Sttに、判定対象吐出部D-Hにおいて吐出異常が発生していることを示す値「5」を設定する。
なお、本実施形態では、判定情報Sttが「1」から「5」までの5値の情報である場合を例示しているが、判定情報Sttは、時間長NTcが「Tth1≦NTc≦Tth2」を満たすか否かを示す2値の情報であってもよい。少なくとも、判定情報Sttは、判定対象吐出部D-Hにおけるインクの吐出状態が正常であるか否かを示す情報が含まれればよい。
図9において、第1駆動波形とは、印刷処理の単位印刷期間Tu-Pにおける駆動信号Com-Aのうち、吐出部Dを駆動させてインクを吐出させるための波形である。また、第2駆動波形とは、吐出状態判定処理の単位判定期間Tu-Hにおける駆動信号Com-Aのうち、吐出部Dを駆動させて残留振動を検出するための振動を与えるための波形である。
なお、図9は、第1駆動波形と第2駆動波形との電位関係を説明するための図に過ぎないので、第1駆動波形における時間軸のスケールと第2駆動波形における時間軸のスケールは、必ずしも一致してない。
第2期間は、単位印刷期間Tu-Pにおける第1期間と第3期間との間に位置する期間であり、吐出部Dの圧電素子PZを変位させて、インクを吐出させるための期間である。
なお、本実施形態では、第1駆動波形の電位は、上述したように第2期間において第1電位から第4電位(min)まで下降し、暫時第4電位(min)を維持し、この後、途中で電位一定区間を介在して第4電位(max)まで上昇し、暫時第4電位(max)を維持し、この後、第1電位まで下降する。
第5期間は、制御期間TSS1における第4期間と第6期間との間に位置する期間であり、制御期間TSS2において残留振動を検出する際の前提となる振動を、圧電素子PZに与えるための期間である。
なお、本実施形態では、第2駆動波形の電位は、上述したように第5期間においては第2電位から第3電位まで上昇し、暫時第3電位を維持し、この後、第2電位まで下降する。
第2電位<第3電位<第4電位(min)<第1電位<第4電位(max)
また、本実施形態において、単位印刷期間Tu-Pにおける第1微振動波形(図7参照)は下に凸となっているのに対し、単位判定期間Tu-Hにおける駆動信号Com-A及びCom-Bの第2微振動波形(図8参照)は上に凸となっている。
本実施形態において、このように電位が設定されている理由を説明するための対比例1について、図21乃至図23を参照しつつ説明する。
ただし、対比例1に係る駆動信号Com-Aのうち、制御期間TSS3における微振動波形として、印刷処理の実行時と揃えるため、及び、電位の下降方向に余裕があるため、下に凸の波形が用いられている。
また、対比例1に係る駆動信号Com-Bに、単位判定期間Tu-Hにおける開始時及び終了時の電位を、印刷処理の実行時における第1電位で共用した波形となっているが、駆動信号Com-Aと同様な理由により、制御期間TSS3における微振動波形として、下に凸の波形が用いられている。
なお、図22及び図23は、Mが「3」の場合を例示する。また、図22及び図23では、吐出部D[1]及びD[3]の各々のノズルNが、ノズル列Lnの端部に位置する端部ノズルN-egであり、吐出部D[2]のノズルNが、ノズル列Lnの中央部に位置する。
図22に示されるように、単位判定期間Tu-Hにおいて、端部ノズルN-egを有する吐出部D[1](第1吐出部の一例)が、判定対象吐出部D-Hとして選択され、対比例1に係る駆動信号Com-Aにより駆動される場合、制御期間TSS1において、吐出部D[1]が有する圧電素子PZ[1]の上部電極Zuが、第1電位から電位VHSとなると、吐出部D[1]が有する圧電素子PZ[1]は、-Z方向に変位する。このため、制御期間TSS1において、吐出部D[1]のキャビティ320の容積が小さくなり、吐出部D[1]のキャビティ320内部の圧力が高くなるため、吐出部D[1]の隔壁340Aは、キャビティ320から見て外側に変位する。具体的には、吐出部D[1]が有する隔壁340Aのうち、吐出部D[1]と記録ヘッドHDの外部空間との間の隔壁340A-1は、記録ヘッドHDの外部空間からの圧力が存在しないため、外側(図において右側)に大きく変位する。
一方、単位判定期間Tu-Hにおいて、吐出部D[2](第2吐出部の一例)が、非対象吐出部D-Rとして対比例1に係る駆動信号Com-Bにより駆動される場合、制御期間TSS1において、吐出部D[2]が有する圧電素子PZ[2]の上部電極Zuの電位は、第1電位となる。このため、制御期間TSS1において、吐出部D[2]が有する圧電素子PZ[2]の変位は、単位判定期間Tu-Hの開始時刻における圧電素子PZ[2]の変位と、略同じに維持される。よって、吐出部D[1]が有する隔壁340Aのうち、吐出部D[1]と吐出部D[2]との間の隔壁340A-2は、吐出部D[2]のキャビティ320からの圧力が存在するため、隔壁340A-1よりも小さく左側に変位する。
図23に示されるように、単位判定期間Tu-Hにおいて、吐出部D[2]が、判定対象吐出部D-Hとして選択され、対比例1に係る駆動信号Com-Aにより駆動される場合、制御期間TSS1において、吐出部D[2]が有する圧電素子PZ[2]は、-Z方向に変位し、吐出部D[2]のキャビティ320内部の圧力が高くなるため、吐出部D[2]の隔壁340Aは、キャビティ320から見て外側に変位する。
また、単位判定期間Tu-Hにおいて、吐出部D[1]及びD[3]が、非対象吐出部D-Rとして対比例1に係る駆動信号Com-Bにより駆動される場合、制御期間TSS1において、吐出部D[1]及びD[3]が有する圧電素子PZの上部電極Zuの電位は、第1電位となる。このため、制御期間TSS1において、吐出部D[1]及びD[3]が有する圧電素子PZの変位は、単位判定期間Tu-Hの開始時刻から略同じに維持される。
よって、吐出部D[2]が有する隔壁340Aのうち、吐出部D[2]と吐出部D[1]との間の隔壁340A-2は、吐出部D[1]のキャビティ320からの圧力を受けつつ、右側に小さく変位する。また、吐出部D[2]が有する隔壁340Aのうち、吐出部D[2]と吐出部D[3]との間の隔壁340A-3は、吐出部D[3]のキャビティ320からの圧力を受けつつ、左側に小さく変位する。
換言すれば、ノズル列Lnの端部付近に位置する吐出部Dが判定対象吐出部D-Hとなった場合、当該吐出部Dにおける隔壁340Aの剛性は、ノズル列Lnの中央付近に位置する吐出部Dが判定対象吐出部D-Hとなった場合の当該吐出部Dにおける隔壁340Aの剛性よりも低くなる傾向がある。
すなわち、対比例1では、制御期間TSS1において、記録ヘッドHDにおけるノズル列Lnの位置に応じて、判定対象吐出部D-Hの有するキャビティ320の剛性が変動する。この結果、記録ヘッドHDにおけるノズル列Lnの位置に応じて、判定対象吐出部D-Hから検出される残留振動の周波数にばらつきが生じる。
具体的には、判定対象吐出部D-Hが記録ヘッドHDにおけるノズル列Lnの端部に位置する場合に、当該判定対象吐出部D-Hから検出される残留振動の周波数は、判定対象吐出部D-Hが記録ヘッドHDの中央に位置する場合に、当該判定対象吐出部D-Hから検出される残留振動の周波数よりも、低くなる傾向がある。
このように、対比例1では、記録ヘッドHDにおける判定対象吐出部D-Hの位置に応じて、判定対象吐出部D-Hから検出される残留振動の周波数が変動しやすくなるので、吐出状態判定を精度良く行うためには、吐出状態判定処理において用いられる閾値Tth1~閾値Tth3を、判定対象吐出部D-Hの位置に応じて、例えば、吐出部D[m]毎に個別に定める必要がある。
対比例2に係る駆動信号Com-Aの波形は、対比例1に係る駆動信号Com-Aの波形と同様である。
対比例2に係る駆動信号Com-Bの波形については、対比例1に係る駆動信号Com-Bとは次のように異なっている。具体的には、対比例2における駆動信号Com-Bは、制御期間TSS1の途中で第1電位から電位VL2まで下降し、制御期間TSS2では電位VL2に維持され、制御期間TSS3の途中から第1電位まで上昇した後に、微振動波形となっている。
吐出状態判定処理の実行時において、非対象吐出部D-Rが対比例2に係る駆動信号Com-Bにより駆動されると、該非対象吐出部D-Rにおけるキャビティ320の容積は、単位判定期間Tu-Hの開始時刻におけるキャビティ320の容積よりも、大きくなる。
なお、対比例2に係る駆動信号Com-Bにより非対象吐出部D-Rを駆動する場合、該非対象吐出部D-Rに生じる振動が、判定対象吐出部D-Hに対してノイズとして伝播しない程度に十分に小さくなるように、電位VL2が定められる。
このうち、図25は、単位判定期間Tu-Hにおいて、端部ノズルN-egを有する吐出部D[1]が判定対象吐出部D-Hとして選択され、吐出部D[2]及びD[3]が非対象吐出部D-Rとなる場合に、制御期間TSS2における吐出部D[1]~D[3]の動作を例示する。図26は、単位判定期間Tu-Hにおいて、端部ノズルN-egを有さない吐出部D[2]が判定対象吐出部D-Hとして選択され、吐出部D[1]及びD[3]が非対象吐出部D-Rとなる場合の、制御期間TSS1における吐出部D[1]~D[3]の動作を例示する。
このため、図25に示されるように、対比例2では、吐出部D[2]からの隔壁340A-1に対する圧力と、記録ヘッドHDの外部空間からの隔壁340A-1に対する圧力との差分が、対比例1における吐出部D[2]からの隔壁340A-2に対する圧力と、記録ヘッドHDの外部空間からの隔壁340A-1に対する圧力との差分(図22参照)よりも、小さくなる。
したがって、吐出部D[1]の隔壁340Aのうち、吐出部D[1]と吐出部D[2]との間の隔壁340A-2の変位の大きさと、吐出部D[1]と記録ヘッドHDの外部空間との間の隔壁340A-1の変位の大きさとを、例えば、略同じにすることが可能となる。
換言すれば、吐出部D[1]が判定対象吐出部D-Hとして選択される単位判定期間Tu-Hの制御期間TSS2において、吐出部D[1]が有する隔壁340Aのうち、吐出部D[1]と記録ヘッドHDの外部空間との間の隔壁340A-1が、図において右側に大きく変位するのと同様に、吐出部D[1]と吐出部D[2]との間の隔壁340A-2も、図において左側に大きく変位させることが可能となる。
換言すれば、ノズル列Lnの端部付近に位置する吐出部Dが判定対象吐出部D-Hとなった場合、当該吐出部Dにおける隔壁340Aの剛性と、ノズル列Lnの中央付近に位置する吐出部Dが判定対象吐出部D-Hとなった場合の当該吐出部Dにおける隔壁340Aの剛性との差を対比例1と比べて小さくすることができる。
特に、対比例2に係る駆動信号Com-Bでは、制御期間TSS1における第1電位から電位VL2までの下降については、比較的時間をかける必要がある。急激に変化させると、その電位変動に伴う振動によってインクを誤吐出させる可能があり、また、該振動が制御期間TSS2で減衰せず、ノイズとなって、判定対象吐出部D-Hにおける残留振動の検出に悪影響を及ぼすからである。
特に近年では、記録媒体Pに形成される画像の高精細化(例えば300dpi)の要求が強く、吐出部Dの個数(M)についても400乃至600個程度となり、非常に多いので、吐出状態判定処理に要する時間が非常に長くなる。このため、印刷装置からすれば、印刷物の生産に寄与しない時間が増えるので、印刷効率の低下という問題を引き起こすことになる。
このため、本実施形態では、対比例2のような、判定対象吐出部D-Hの位置や、記録ヘッドHDにおける圧電素子PZの変位特性等に応じて、判定対象吐出部D-Hから検出される残留振動の周波数が変動しやすくなる傾向を小さくして、吐出状態判定を精度良く行うことができる、という利点を確保した上で、対比例2と比較して、吐出状態判定処理に要する時間の短縮を図ることができる、という利点を有することになる。
以下、本実施形態において、第2電位が第3電位よりも低く設定されている理由について説明する。
Mechanical Systems)技術により製造されることが多い。MEMS技術により、上述したように高いノズル密度(1インチあたり300個以上)で、かつ、多数(600個以上)の吐出部Dを備えた記録ヘッドHDを製造することができる。
なお、図19A乃至図19Eでは、圧電体Zmを含む吐出部Dが記録ヘッドHDに設けられた場合に、+W方向と+Z方向とが一致する場合を想定する。また、以下の説明では、+W方向と、+W方向の反対の方向である-W方向とを、W軸方向と総称する場合がある。
製造時においては、個々の微結晶の自発分極の方向が自然発生的にばらばらな方向を向いているため、圧電体Zmの圧電特性は発現しない。例えば、図19Aに示されるように、時刻t1において、圧電体Zmの有する複数の微結晶Kのうち、微結晶K[1]の分極方向B[1]と、微結晶K[2]の分極方向B[2]とは、異なる方向となる。
以下、圧電体Zmに印加される電界として、分極処理時と同極性の電界を同極性電界と称し、分極処理時と逆極性の電界を逆極性電界と称する。
なお、圧電体Zmに分極処理を施す場合、圧電体ZmのW軸方向の厚みdWが変化する場合がある。例えば、図19A及び図19Bと比較すると判るように、圧電体Zmに分極処理を施した後の時刻t2における圧電体Zmの厚みdWは、圧電体Zmに分極処理を施す前の時刻t1における圧電体Zmの厚みdWよりも、厚くなる場合がある。換言すれば、圧電体Zmは、分極処理を施すことにより、W軸方向に引き伸ばされる場合がある。
このため、圧電体Zmには、当該圧電体Zmに対する分極処理が施された後に、圧電体Zmの有する複数の微結晶Kの間に存在する応力が不均一となる。よって、圧電体Zmには、当該圧電体Zmに対する分極処理が施された後に、圧電体Zm有する複数の微結晶Kの間において、応力が集中する応力集中領域Arが存在することになる。
なお、図19Cでは、微結晶K[1]の分極方向B[1]が、-W方向とは異なる方向に変化する場合を例示する。また、圧電体Zmに逆極性電界EF2が印加された場合であっても、圧電体Zmの有する複数の微結晶Kの中には、分極方向Bが、時刻t1における分極方向Bである-W方向から変化しない微結晶Kも存在する。例えば、図19Cでは、微結晶K[2]の分極方向B[2]が、-W方向と同一の方向を維持する場合が示されている。結果的に図19に示される場合においては、微結晶K[1]の分極方向B[1]と、微結晶K[2]の分極方向B[2]とは異なる方向を向き、分極方向Bの乱れが発生する。このような分極方向Bの乱れは、例えば、応力集中領域Arにおける応力の集中の程度を高める場合がある。また、このような分極方向Bの乱れは、圧電特性を低下させるため、圧電素子PZの動作不良を引き起こすおそれがある。
なお、図19Dでは、応力集中領域Ar1において微小クラックCr1が発生し、応力集中領域Ar2において微小クラックCr2が発生する場合が示されている。
また、駆動信号Comによる圧電体Zmの振動に起因して、圧電体Zmに生じた微小クラックCrが成長することがある。そして、微小クラックCrの成長は、圧電体Zmの破壊を引き起こすおそれがある。特に、薄膜の圧電体Zmにおいては、成長したクラックが厚さ方向に貫通しやすい。例えば、図19Eに示されるように、時刻t5において、微小クラックCr1及び微小クラックCr2が結合して成長した微小クラックCrが、圧電体ZmをW軸方向に貫通する場合が示されている。微小クラックCrが圧電体Zmを厚さ方向に貫通すると、上部電極Zuと下部電極Zdとの間の電気的な短絡が生じ、圧電素子PZの機能が損なわれる。
本実施形態において、圧電素子PZの下部電極Zdの電位は、上述したように電位VBSとなっている。下部電極Zdを電位VBSとしているのは、圧電素子PZの動電変換特性において動電変換関係がリニアに近い領域である最適変位領域において動作させるためである。
第2電位を第1電位よりも低くする場合、第2電位は、必然的に電位VBSに接近する。第2電位が電位VBSに接近した状態において、制御期間TSS1において残留振動を発生させるために下に凸の波形を採用した場合、すなわち、第2電位から電位をさらに下降させた場合、圧電素子PZを十分に振動させるため電位が、電位VBSよりも低くなってしまう可能性がある。圧電素子PZの上部電極Zuに印加される電位が、電位VBSを下回ってしまうと、圧電素子PZに印加される電界が逆極性電界になるので、圧電体Zmの分極方向を乱れ、微小クラックの成長を招くことになる。
そこで、本実施形態では、吐出状態判定処理を実行する場合に、残留振動を励起させるための第2駆動波形(制御期間TSS1における駆動信号Com-Aの波形)を上に凸の波形として、圧電素子PZに逆極性電界が印加されないようにしている。吐出状態判定処理を実行する場合に、インクの増粘を防止するために圧電素子PZを微振動させる第2微振動波形(制御期間TSS1における駆動信号Com-A及びCom-Bの波形)を、上に凸の波形としているのも同様な理由である。
このように、本実施形態では、吐出状態判定処理を実行する場合における第3電位を第2電位よりも高くしているので、圧電素子PZに逆極性電界が印加されるのが防止される結果、圧電体Zmの分極方向を乱れ、微小クラックの成長、促進ひいては破壊を抑えることができる。
ここで、記録ヘッドHDの製造行程を考慮すると、各部のばらつき、特に圧電体Zmの膜厚のばらつき、不均一性などにより、複数の記録ヘッドHD同士を比較してみたときに動電変換特性が異なる場合が多い。
図20では、記録ヘッドHDに対するランクを、-2、-1、±0、+1、+2の5段階に分類するとともに、各ランクに分類された記録ヘッドHDの圧電素子PZに電圧を印加した場合に、どのように(どの程度)変位するのかが示されている。
圧電素子PZに同じ電圧を印加した場合に、該圧電素子PZの変位量が小さい程、動電変換の効率が悪い、といえるので、5段階の分類では、変位量が最も小さいものが、最もランクが低い-2に分類される。逆に、圧電素子PZに同じ電圧を印加した場合に、該圧電素子PZの変位量が大きい程、動電変換の効率が良い、といえるので、5段階の分類では、変位量が最も大きいものが、最もランクが高い+2に分類される。なお、ランクの±0がその平均(標準)である。
ランクは、例えば記録ヘッドHDにおけるM個の圧電素子PZのうち、一部または全部の圧電素子PZに所定の電圧を印加したときの変位量をそれぞれ測定して、その平均値を求め、該平均値がランク毎の決められた範囲のうち、どの範囲に属するかという判断によって分類することができる。
また、圧電素子PZに印加される電圧とは、下部電極Zdの電位を基準としてみた、上部電極Zuの電位の差としている。
圧電素子PZに印加される電圧が例えば+20Vのように高ければ、圧電素子PZの変位量では、ランク毎のバラツキが認められ、その差は大きい。
一方、圧電素子PZに印加される電圧が例えば+5Vのように低ければ、圧電素子PZの変位量は、ランク毎のバラツキは多少認められるが、その差は小さい。
なお、ばらつきによる影響を小さくするために、ランクに応じて駆動信号の電圧が補正されることもある。
したがって、本実施形態では、ランクによるばらつきの影響をほとんど受けずに、吐出状態を高精度に判定することが可能となる。
上記実施形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲内で適宜に併合され得る。なお、以下に例示する変形例において作用や機能が実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図13は、別形態1に係る第1駆動波形における電位と、第2駆動波形における電位との関係を説明するための図である。
図13が、図9に示された実施形態と相違する点は、第2駆動波形が下に凸の波形となっている点である。
詳細には、図13における第1駆動波形は、図9における第1駆動波形と同様であるが、図13における第2駆動波形の電位は、第4期間においては第2電位でほぼ一定であり、第5期間において第3電位まで下降し、暫時第3電位を維持し、この後、第2電位まで上昇し、第6期間において第2電位でほぼ一定となっている。
第3電位<第4電位(min)<第2電位<第1電位<第4電位(max)
詳細には、上述したように印刷処理から吐出状態判定処理に移行する場合、駆動信号Com-A及びCom-Bを第1電位から第2電位へと時間をかけて徐々に下降させる必要がある。別形態1では、実施形態と比較して第1電位と第2電位との差が小さいので、第1電位から第2電位へと徐々に下降させるのに要する時間を短縮することができる。
同様に、吐出状態判定処理から印刷処理に移行する場合、駆動信号Com-A及びCom-Bを第2電位から第1電位へと時間をかけて徐々に上昇させる必要があるが、別形態1では、この上昇に要する時間を短縮することができる。
図14は、別形態2に係る第1駆動波形における電位と、第2駆動波形における電位との関係を説明するための図である。
図14が、図13に示された別形態1と相違する点は、第2駆動波形の第2電位が第1駆動波形の第3電位よりも低い点である。
すなわち、別形態2において、第1駆動波形の第1電位、第4電位(min)、第4電位(max)と、第2駆動波形の第2電位、第3電位とは、次のような関係となっている。
第3電位<第2電位<第4電位(min)<第1電位<第4電位(max)
上述したように、圧電素子PZに印加される電圧が低いほど、圧電素子PZの変位量は、ランク毎のばらつきが小さくなる。このため、別形態2では、吐出部Dの状態を検査するにあたって、振動を励起するための圧電素子PZへの変位を、より正確に与えることができる。
この構成では、1ドットについて大ドット、中ドット、小ドット、非記録(ドット形成しない)の4階調が表現可能となる。
また例えば、中ドットを形成する場合には、単位印刷期間Tu-Pの前半期間において駆動信号Com-Aを選択し、後半期間において駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bのいずれも選択しなければよい。これにより、前半期間においてのみインクが吐出されるので、記録媒体Pには吐出されたインクによって中ドットが形成される。
また、小ドットを形成する場合には、単位印刷期間Tu-Pを前半期間において駆動信号Com-Bを選択し、後半期間において駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bのいずれも選択しなければよい。これにより、前半期間においてのみインクが吐出されるので、記録媒体Pには吐出されたインクにより小ドットが形成される。
非記録とする場合には、単位印刷期間Tu-Pの前半期間において駆動信号Com-A及び駆動信号Com-Bのいずれも選択せず、後半期間において駆動信号Com-Bを選択すればよい。
これにより、前半期間及び後半期間のいずれにおいてもインクが吐出されず、また、後半期間における第1微振動波形によってインクの増粘が防止される。
図15は、別形態3に係る駆動波形のうち、印刷処理に用いられる駆動波形を示す図である。
図15に示されるように、単位印刷期間Tu-Pが、期間T1と期間T2とに分割される。また、駆動信号Comは、期間T1では実施形態と同様な第1駆動波形であり、期間T2において実施形態と同様な第1微振動波形となっている。
この別形態3に係る駆動波形Comにおいて、ドットを形成する場合には、単位印刷期間Tu-Pの期間T1において駆動信号Comを選択し、期間T2において駆動信号Comを選択しなければよい。これにより、期間T1においてインクが吐出されて、ドットが形成される。
別形態3に係る駆動波形Comにおいて、ドットを形成しない場合には、単位印刷期間Tu-Pの期間T1において駆動信号Comを選択せず、期間T2において駆動信号Comを選択すればよい。これにより、期間T1においてインクが吐出されず、期間T2において微振動が発生して、インクの増粘が防止される。
したがって、別形態3についても、上記実施形態と同様な効果を奏することができる。
図17は、別形態4に係る駆動波形のうち、吐出状態判定処理に用いられる駆動信号を示す図である。図17に示される駆動信号Comは、別形態1の第2駆動波形を、制御期間TSS1及び制御期間TSS3にそれぞれ配置したものとなっている。
なお、別形態4において印刷処理に用いられる駆動信号は、別形態3と同様な駆動信号(図15参照)が用いられる。
したがって、別形態4についても、上記別形態1と同様な効果を奏することができる。
図18は、別形態5に係る駆動波形のうち、吐出状態判定処理に用いられる駆動信号を示す図である。図18に示される駆動信号Comは、別形態2の第2駆動波形を、制御期間TSS1及び制御期間TSS3にそれぞれ配置したものとなっている。
なお、別形態5において印刷処理に用いられる駆動信号は、別形態3と同様な駆動信号(図15参照)が用いられる。
したがって、別形態5についても、上記別形態2と同様な効果を奏することができる。
上述した実施形態、別形態1乃至5(以下「実施形態等」という)において、インクジェットプリンター1は、4個のヘッドユニットHUと、4個のインクカートリッジ31と、が1対1に対応するように設けられるが、このような態様に限定されるものではなく、インクジェットプリンター1が、1個以上のヘッドユニットHUと、1個以上のインクカートリッジ31と、を備えていればよい。
また、上述した実施形態等において、インクジェットプリンター1には、4個のヘッドユニットHUに1対1に対応して4個の吐出状態判定回路9が設けられるが、このような態様に限定されるものではなく、インクジェットプリンター1に、複数のヘッドユニットHUに対して1個の吐出状態判定回路9が設けられてもよく、また、1個のヘッドユニットHUに対して複数の吐出状態判定回路9が設けられてもよい。
一方、上述した実施形態等において、制御部6は、各単位判定期間Tu-Hにおいて、各ヘッドユニットHUに設けられるM個の吐出部Dの中から、1個の吐出部Dを判定対象吐出部D-Hとして選択するが、このような態様に限定されるものではなく、制御部6は、各単位判定期間Tu-Hにおいて、各ヘッドユニットHUに設けられるM個の吐出部Dの中から、2個以上の吐出部Dを判定対象吐出部D-Hとして選択してもよい。
上述した実施形態等において、吐出状態判定回路9は、制御部6とは別個の回路として設けられるが、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、吐出状態判定回路9のうちの一部または全部は、制御部6のCPU等が制御プログラムに従って動作することにより実現される機能ブロックとして実装されてもよい。
上述した実施形態等では、印刷装置としてのインクジェットプリンター1について、シリアルプリンターを例にとって説明したが、このような態様に限定されるものではない。例えばインクジェットプリンター1は、ヘッドモジュールHMにおいて、複数のノズルNが記録媒体Pの幅よりも広く延在するように設けられた、いわゆるラインプリンターであってもよい。
Claims (6)
- 第1圧電素子の駆動に伴い液体を吐出する第1吐出部と、
前記第1圧電素子を駆動させ、前記液体を吐出し印刷するための第1駆動波形と、
前記第1圧電素子を駆動させ、前記第1吐出部を検査するための第2駆動波形と、
を含む駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記第2駆動波形の供給に伴い前記第1吐出部内に生じる残留振動に応じた電気信号を検出する残留振動検出部と、
を備え、
前記第1駆動波形は、
印刷するための印刷単位期間の開始からの第1期間中に第1電位となり、その後に続く第2期間中に第1電位を中心として正又は負に変動して第4電位となり、その後に続く印刷単位期間の終了までの第3期間中に前記第1電位となり、
前記第2駆動波形は、
前記第1吐出部を検査するために前記第1圧電素子を駆動させる制御期間の開始からの第4期間中に第2電位となり、その後に続く第5期間中に前記第2電位より高い第3電位となり、その後に続く前記制御期間の終了時を含む第6期間中に前記第2電位となり、
前記第3電位は、前記第4電位および前記第1電位よりも低い
ことを特徴とする印刷装置。 - 前記残留振動検出部は、前記第6期間内において、前記第1吐出部に生じる残留振動に応じた電気信号を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。 - 第2圧電素子の駆動に伴い液体を吐出する第2吐出部を有し、
前記第1吐出部は、
複数の吐出部から成る吐出部列に含まれ、
前記第1圧電素子と、前記第2圧電素子とは、同じ駆動条件で駆動されることにより、同じ検査が行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。 - 前記第1吐出部は、前記吐出部列の、端に位置する吐出部であって、
前記第2吐出部は、前記吐出部列の、端に位置しない吐出部である
ことを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。 - 前記吐出部列を複数有し、
複数の吐出部列は同じ駆動条件で駆動され、同じ駆動条件で駆動されることにより、同じ検査が行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。 - 前記圧電素子の各下部電極は、所定電位に維持される
請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷装置。
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