以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例1である撮像装置の構成を示している。撮像装置は、そのレンズ鏡筒(図示せず)内に撮像光学系を備えている。撮像光学系は、複数の光学素子により構成され、物体(被写体)の光学像を形成する。なお、本実施例の撮像装置は、撮像光学系(レンズ鏡筒)を一体に有するレンズ一体型撮像装置であるが、撮像光学系の交換が可能なレンズ交換型撮像装置であってもよい。このことは、後述する他の実施例でも同じである。
撮像光学系は、光軸方向に移動して焦点距離を変更する変倍レンズ1と、光軸方向に移動して焦点調節を行うフォーカスレンズ2と、光量を調整する絞りユニット3とを有する。撮像光学系を通過した光は、バンドパスフィルタ(以下、BPFという)4およびカラーフィルタ5を介して撮像素子6上に光学像としての被写体像を形成する。BPF4は撮像光学系の光路に対し進退可能である。被写体像は、撮像素子6により光電変換される。
撮像素子6から出力されたアナログ電気信号(撮像信号)は、AGC7によりゲイン調整され、A/D変換器8によりデジタル信号に変換された後、カメラ信号処理部9に入力される。カメラ信号処理部9では、デジタル撮像信号に対して各種画像処理を行って映像信号を生成する。映像信号は、通信部10を介して撮像装置に有線または無線通信が可能に接続された監視モニタ装置19に出力されるとともに、撮像装置内のズーム/フォーカス制御部16に出力される。ズーム/フォーカス制御部16は、ズーミング時に後述する電子カム曲線のデータを用いてズームトラッキング制御を行うとともに、映像信号から算出したその映像信号のコントラスト状態を示すコントラスト評価値を用いてオートフォーカス(AF)制御を行う。ズーム/フォーカス制御部16は、制御手段および算出手段を含むフォーカス制御装置に相当する。
図2を用いてズームトラッキング制御について説明する。図2は、テレ端(望遠端)からワイド端(広角端)までの間での変倍レンズ1の位置(横軸)と無限遠から至近までの各被写体距離に対して合焦するフォーカスレンズ2の位置(縦軸)との関係を示す。この関係を示す各曲線は、電子カム曲線やズームトラッキングカーブと称され、以下の説明では電子カム曲線という。ズームトラッキング制御では、ある被写体距離に合焦した状態で変倍レンズ1の移動によりズーミングが行われる際に該被写体距離に対応する電子カム曲線に沿った位置にフォーカスレンズ2を移動させる。言い換えれば、変倍レンズ1の移動に伴う像面(ピント面)の移動を低減(補正)するようにフォーカスレンズ2を移動させる。これにより、合焦状態が得られる被写体距離である合焦被写体距離を保持したまま、すなわちピント位置を固定したままズーミングを行うことができる。
被写体距離ごとの電子カム曲線を示すデータ(以下、電子カムデータという)は、テーブルデータ形式で記憶手段としてのカムデータ保持部11に保持される。なお、カムデータ保持部11に保持される電子カムデータは、図2に示すように複数の代表的な被写体距離(以下、特定被写体距離という)に対応するデータである。このため、特定被写体距離以外の他の被写体距離でのフォーカスレンズ2の位置は、該他の被写体距離に近い至近側と無限遠側の2つの特定被写体距離に対応する電子カムデータを用いた補間処理により算出される。
カムデータ保持部11は、ズーム/フォーカス制御部16から変倍レンズ1の位置(以下、ズーム位置という)とフォーカスレンズ2の位置(以下、フォーカス位置という)の情報を受け取る。そして、テーブルデータからズーム位置とフォーカス位置(つまりはそのズーム位置での合焦被写体距離)に対応した電子カムデータを選択または補間処理により算出する。
ピント固定データ保持部12は、合焦被写体距離であるピント位置を固定するモードであるピント位置固定モードのオン/オフおよびピント位置固定モードにおいて選択されたモードを示すモード情報を保持する。また、ピント固定データ保持部12は、固定するピント位置を示すピント位置情報も保持する。ピント位置固定モードには、ピント位置を無限遠に固定する無限遠ピント固定モードと、ピント位置を無限遠から至近までのユーザより任意に選択(登録)された登録ピント位置(被写体距離)に固定する登録位置ピント固定モードの2つがある。これらモード情報およびピント位置情報は、ユーザ(監視者)が操作する監視モニタ装置19からの通信によって通信部10およびズーム/フォーカス制御部16を介してピント固定データ保持部12に書き込まれる。
がたデータ保持部13は、レンズ鏡筒が有する「がた」の最大量、すなわちレンズ鏡筒の最大がた量を示す情報を保持する。図3は、レンズ鏡筒の内部構成の例を示している。変倍レンズ1やフォーカスレンズ2を保持するレンズ保持枠(レンズ保持部材)PにはスリーブP1が形成されている。スリーブP1の両端部に形成された穴部がガイド部材であるガイドバーP2に係合することで、レンズ保持枠PがガイドバーP2に沿って光軸方向に移動可能にガイドされる。スリーブP1の穴部の内径とガイドバーP2の外径との間には、レンズ保持枠がスムーズに移動できるように数μmの差(係合ギャップ量)が設けられている。この係合ギャップ量とスリーブP1の両端部間の距離とから、撮像装置の姿勢の変化やレンズ駆動等に伴ってレンズ保持枠Pにより保持されたレンズに発生する最大倒れ量(角度)を計算することができる。
そして、本実施例では、この最大倒れ量から、レンズ中心(光軸位置)でのレンズの最大位置ずれ量を算出し、この最大位置ずれ量を最大がた量とする。本実施例では、スリーブP1の穴部とガイドバーP2との間に必要なギャップを「がた」として扱い、これを変倍レンズ1やフォーカスレンズ2の停止位置誤差(以下、レンズ停止位置誤差という)の要因とする。ただし、各レンズを駆動するための部品の製造誤差や各レンズの駆動制御上の誤差を上記要因に含めることができる。本実施例における「レンズ鏡筒の最大がた量」は、変倍レンズ1およびフォーカスレンズ2のそれぞれの最大がた量の合計値であり、言い換えれば、変倍レンズ1およびフォーカスレンズ2の停止位置誤差量の最大値である。
レンズ敏感度データ保持部14は、カムデータ保持部11と同様に、ズーム/フォーカス制御部16からズーム位置およびフォーカス位置の情報を受け取り、ズーム位置とフォーカス位置(被写体距離)に対応するレンズ敏感度を算出する。本実施例におけるレンズ敏感度とは、変倍レンズ1の単位移動量と撮像光学系の像面(ピント面)の移動量との関係(例えば比)を表し、ズーム位置とフォーカス位置に応じて変化する。
レンズ敏感度データ保持部14にて保持されたレンズ敏感度のデータも、上述した複数の特定被写体距離に対して合焦状態が得られるフォーカス位置(以下、特定フォーカス位置という)に対応するデータのみである。レンズ敏感度データ保持部14は、特定フォーカス位置以外の他のフォーカス位置に対するレンズ敏感度としては、該他のフォーカス位置に近い至近側と無限遠側の2つの特定フォーカス位置に対応するレンズ敏感度のうち大きい方を選択する。
図4は、ズーム倍率が20倍~30倍の撮像光学系のレンズ敏感度の例を示している。ズーム位置がXの位置を超えたあたりから急激にレンズ敏感度が高くなっている。レンズ敏感度を小さくするためには、図5に示すようにレンズ鏡筒を含む撮像装置の全長Q1を長くする必要がある。このため、撮像装置の小型化および高ズーム倍率化を実現するためには、レンズ敏感度が大きくなることを許容する必要がある。
ズーム/フォーカス制御部16は、がたデータ保持部13から最大がた量の情報(データ)を取得し、レンズ敏感度データ保持部14からズーム位置およびフォーカス位置に対応するレンズ敏感度の情報(データ)を取得する。そして、ピントずれ量を以下の式(1)を用いて求める。
ピントずれ量=レンズ敏感度(z+h,f)×(レンズ鏡筒の最大がた量) ・・・(1)
ここで、レンズ敏感度(z+h)は、ズーム駆動のヒステリシスを考慮して、レンズ敏感度が高くなる方向にヒステリシス分を加算したズーム位置を基準に算出する。なお、式(1)ではレンズ鏡筒の最大がた量を用いてピントずれ量を算出するが、必ずしも最大がた量を用いる必要はなく、最大がた量に基づいて適宜設定されたがた量を用いてもよい。
被写界深度データ保持部15は、基準となる被写界深度のデータとして、絞り開放かつ無限遠被写体距離におけるズーム位置ごとの被写界深度のデータを保持している。被写界深度は、フォーカス位置を中心として合焦状態が得られているように見える被写体距離の範囲である。被写界深度データ保持部15は、ズーム/フォーカス制御部16からズーム位置の情報と絞りユニット3の絞り値を示す情報を取得する。そして、取得したズーム位置での基準被写界深度と取得した絞り値とから、これらズーム位置および絞り値に対応する被写界深度のデータを以下の式(2)を用いて求める。
被写界深度(z,F)=基準被写界深度(z)×絞り値 ・・・(2)
なお、ここでは被写体距離を無限遠に固定した場合の被写界深度のデータを求めて保持するが、カムデータ保持部11と同様に、被写体距離ごとの被写界深度のデータをテーブルデータとして保持してもよい。
ズーム/フォーカス制御部16は、ユーザが監視モニタ装置19からの通信によってピント固定データ保持部12のモード情報を変更したタイミングで、式(1)により算出したピントずれ量と式(2)を用いて算出した被写界深度とを比較する。ピントずれ量が被写界深度よりも大きい場合は、±ピントずれ量の範囲、すなわちピントずれ量に基づいて制限した移動範囲内でフォーカス駆動部17を介してフォーカスレンズ2を駆動することで合焦状態を得るAF制御を行う。
図6は、ピント位置固定モードにおいてズーム/フォーカス制御部16が撮像光学系の合焦被写体距離を保持するために行うAF制御の例を示す。無限遠ピント固定モードおよび登録位置ピント固定モードではそれぞれ、4つのステップでAF制御を行う。ズーム/フォーカス制御部16は、ステップ1では、無限遠位置または登録ピント位置に対応するフォーカス位置(以下、登録フォーカス位置という)までフォーカスレンズ2を駆動する。次にステップ2では、無限遠位置または登録フォーカス位置から無限遠側に合焦位置をサーチするように最大がた量に相当する駆動量だけフォーカスレンズ2を駆動する。サーチされる合焦位置は、上述したコントラスト評価値が最大となる位置である。
続いてステップ3では、ステップ2で駆動したフォーカスレンズ2の位置から至近側に合焦位置をサーチするように最大がた量×2に相当する駆動量だけフォーカスレンズ2を駆動する。最後のステップ4では、サーチにより検出した合焦位置にフォーカスレンズ2を駆動する。
図7のフローチャートには、ズーム/フォーカス制御部16が登録位置ピント固定モードにおいて行う上記AF制御処理(フォーカス制御方法)の流れを示している。コンピュータであるズーム/フォーカス制御部16は、コンピュータプログラムとしてのフォーカス制御プログラムに従って本処理を実行する。また、ズーム/フォーカス制御部16は、監視モニタ装置19からの通信によりピント固定データ保持部12のモード情報が登録位置ピント固定モードに変更された又は撮像装置が登録位置ピント固定モードで起動もしくは再起動されたタイミングで本処理を開始する。
ステップS701では、ズーム/フォーカス制御部16は、ピント固定データ保持部12から登録フォーカス位置を取得し、該登録フォーカス位置までフォーカスレンズ2を移動させるようにフォーカス駆動部17に指示する。登録フォーカス位置までのフォーカスレンズ2の移動が完了すると、ズーム/フォーカス制御部16は、ステップS702においてレンズ敏感度データ保持部14から現在のズーム位置およびフォーカス位置に対応するレンズ敏感度の情報を取得する。上述したように、レンズ敏感度データ保持部14は、特定フォーカス位置以外の他のフォーカス位置については、該他のフォーカス位置に近い2つの特定フォーカス位置に対応するレンズ敏感度のうち大きい方をズーム/フォーカス制御部16に渡す。
次にステップS703では、ズーム/フォーカス制御部16は、がたデータ保持部13から最大がた量の情報を取得し、先に説明した式(1)を用いてピントずれ量を算出する。また、ステップS704およびステップS705において、ズーム/フォーカス制御部16は、被写界深度データ保持部15から現在のズーム位置および絞り開放に対応する被写界深度を取得するとともに、絞りユニット3から現在の絞り値を取得する。
次にステップS706では、ズーム/フォーカス制御部16は、先に説明した式(2)を用いて、現在のズーム位置およびフォーカス位置での被写界深度を求める。そして、ステップS703で算出したピントずれ量が被写界深度を超えているか否かを判定する。ピントずれ量が被写界深度を超えている場合は、ズーム/フォーカス制御部16は、ステップS707に進み、登録フォーカス位置±ピントずれ量の範囲でフォーカスレンズ2を駆動するようAF制御を行う。そして、ステップS709に進む。一方、ピントずれ量が被写界深度を超えていない場合は、ズーム/フォーカス制御部16はステップS708に進み、AF制御を行わずに本処理を終了する。
ステップS709では、ズーム/フォーカス制御部16は、AF制御において合焦位置を検出したか否かを判定し、合焦位置を検出した場合はステップS710において、フォーカス駆動部17にフォーカスレンズ2を合焦位置に駆動させる。そしても本処理を終了する。一方、合焦位置を検出しなかった場合は、ズーム/フォーカス制御部16はステップS711に進み、フォーカス駆動部17にフォーカスレンズ2を元の位置である登録フォーカス位置に戻すように駆動させ、本処理を終了する。
本実施例によれば、レンズ停止位置誤差に起因してピントずれが発生する場合において、そのピントずれ量が一律ではなく、かつ撮像装置の姿勢を検出するセンサがなくても、被写体移りを抑制しつつ、ピントずれを良好に補正することができる。
なお、上述した撮像光学系の合焦被写体距離を保持するためのAF制御を、ズームトラッキング制御が行われた(完了した)際に行うようにしてもよい。また、該AF制御を、ズーム倍率(ズーム位置)および合焦被写体距離(フォーカス位置)をそれぞれユーザが任意に登録したズーム倍率および被写体距離に固定するズーム/フォーカス固定モードが設定された際に行うようにしてもよい。また、ここまで説明したピントずれ量は、レンズ鏡筒が交換レンズである場合には、接続されているレンズの種別によっても変化するものである。
なお、また、ここまで説明したピントずれ量は、レンズ鏡筒が交換レンズである場合には、接続されているレンズの種別によっても変化するものである。レンズ敏感度や最大がた量はレンズ種別によって変動するためである。
図8のフローチャートは、本発明の実施例2である撮像装置のズーム/フォーカス制御部16が行うAF制御処理の流れを示している。本実施例では、ピント位置固定モードにおいて撮像装置のレンズ鏡筒に動きが生じた場合のAF制御処理について説明する。レンズ鏡筒の動きとは、レンズ停止位置誤差に影響する動き、例えばパン動作、チルト動作およびズーム動作がある。本実施例の撮像装置の構成は、実施例1の撮像装置の構成と同様であり、実施例1と共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。
レンズ鏡筒の動きは、ユーザが監視モニタ装置19から通信部10を介してズーム/フォーカス制御部16に対してパン動作、チルト動作またはズーム動作の開始/停止指示を送信することで開始されたり停止されたりする。ズーム/フォーカス制御部16は、パン動作、チルト動作またはズーム動作が停止されたタイミングでAF制御を開始する。
図8のステップS801では、ズーム/フォーカス制御部16は、レンズ鏡筒の動きが停止中か否かを判定する。停止中でない場合、つまりはパン動作、チルト動作またはズーム動作中である場合は、ズーム/フォーカス制御部16は、次のタイミング(例えば垂直同期タイミング)で再度ステップS801の判定を行う。一方、レンズ鏡筒の動きが停止中である場合は、ズーム/フォーカス制御部16はステップS802に進み、ピント固定データ保持部12からピント位置固定モードのオン/オフ状態を取得する。ピント位置固定モードがオフであればステップS809に進み、AF制御を行わずに本処理を終了する。一方、ピント位置固定モードがオンであれば、ズーム/フォーカス制御部16はステップS803~ステップS812の処理を行う。ステップS803~ステップS812の処理は、図7に示したステップS702~ステップS711の処理と同じである。
本実施例によれば、レンズ鏡筒の動きによってピントずれが発生する場合において、ピントずれ量が一律でなくても、被写体移りを抑制しつつピントずれを良好に補正することができる。
図9は、本発明による実施例3である撮像装置の構成を示している。本実施例では、温度によるピントずれを補正するAF制御について説明する。本実施例の撮像装置において、実施例1の撮像装置と共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。
実施例1と同様に、撮像光学系は、光軸方向に移動して焦点距離を変更する変倍レンズ1と、光軸方向に移動して焦点調節を行うフォーカスレンズ2と、光量を調整する絞りユニット3とを有する。撮像光学系を通過した光は、バンドパスフィルタ(以下、BPFという)4およびカラーフィルタ5を介して撮像素子6上に光学像としての被写体像を形成する。BPF4は撮像光学系の光路に対し進退可能である。被写体像は、撮像素子6により光電変換される。撮像素子6から出力されたアナログ電気信号(撮像信号)は、AGC7によりゲイン調整され、A/D変換器8によりデジタル信号に変換された後、カメラ信号処理部9に入力される。カメラ信号処理部9では、デジタル撮像信号に対して各種画像処理を行って映像信号を生成する。映像信号は、通信部10を介して撮像装置に有線または無線通信により接続された監視モニタ装置19に出力されるとともに、撮像装置内のズーム/フォーカス制御部16に出力される。ズーム/フォーカス制御部16は、ズーミング時に後述する電子カム曲線のデータを用いてズームトラッキング制御を行うとともに、映像信号から算出したその映像信号のコントラスト状態を示すコントラスト評価値を用いてオートフォーカス(AF)制御を行う。ズーム/フォーカス制御部16は、制御手段を含むフォーカス制御装置に相当する。
温度検出手段としての温度検出部22は、撮像装置のレンズ鏡筒(撮像光学系)の温度を検出する。ズーム/フォーカス制御部16は、所定時間ごとに温度検出部22を通じて温度の情報を取得し、温度の変化を監視する。温度検出部22としては、サーミスタ等の温度センサが用いられる。
補正基準データ保持部23は、レンズ鏡筒の設計値や実測値の統計データから算出した単位温度あたりのピント補正量である基準ピント補正量を格納している。この基準ピント補正量に基準温度(例えば、工場で組み立てたときの温度)からの温度変化量を乗算することで、実際の温度に対するピント補正量である温度ピント補正量を算出する。レンズ鏡筒の温度に応じたピント補正である温度ピント補正の方向や量は、レンズ鏡筒の個体ばらつきを含めても範囲を絞ることができる。このため、平均的なデータを使用した温度ピント補正を行うことで、温度変化によるピントずれ(以下、温度ピントずれという)を低減することができる。
補正基準データ保持部23は、基準ピント補正量のデータを、実施例1で説明した電子カムデータと同様に、複数の特定被写体距離のそれぞれについてズーム位置ごとに保持する。そして、特定被写体距離以外の他の被写体距離での基準ピント補正量は、該他の被写体距離に近い至近側と無限遠側の2つの特定被写体距離に対応する基準ピント補正量を用いた補間処理により算出する。
このように、個体ばらつきによる温度ピントずれが許容錯乱円の範囲に収まるレンズ鏡筒では、この基本的な温度ピント補正(第1の温度ピント補正:以下、基本温度ピント補正という)のみで温度ピントずれを十分に抑制することができる。一方、レンズ鏡筒の個体ばらつきによる温度ピントずれが許容錯乱円の範囲に収まらないレンズ鏡筒では、基本温度ピント補正に加えて個体ばらつきによる温度ピントずれの補正(第2の温度ピント補正:以下、個体温度ピント補正という)も行う。
図10には、ズーム/フォーカス駆動部17が基本温度ピント補正に加えて行う個体温度ピント補正の例を示している。個体温度ピント補正を行うためには、レンズ鏡筒の所定の温度変化を検出するごとに、フォーカスレンズ2の移動範囲であるサーチ範囲を制限したAF制御を行う。図10の横軸は温度変化量[℃]を示し、縦軸はフォーカス位置を示す。
T100は基本温度ピント補正におけるピント補正量である基本温度ピント補正量を示し、温度の変化とともに基本温度ピント補正量が増加し、基本温度ピント補正後のフォーカス位置も変化する。T1はユーザが固定したピント位置に相当するフォーカス位置を示し、ここではその時点の温度を基準温度とする。
T2は温度が所定温度変化量としての5℃だけ変化した時点での基本温度ピント補正後のフォーカス位置を示す。T2から上下に延びる矢印は、T2を中心として個体温度ピント補正を行うためのAF制御におけるサーチ範囲を示す。5℃等のように所定温度変化量を小さく設定することで、1回あたりのサーチ範囲を狭くすることができ、被写体移りを抑制することができる。なお、ここでは所定温度変化量を5℃に固定した場合について説明するが、温度変化の勾配(変化率)に応じて変更してもよい。
これは温度変化が緩やかな場合と、急な場合とではレンズの伸び縮みに差があるためであり、レンズ毎に傾向が異なる。天候が変わらない環境では1時間あたりの温度変化量が1℃前後の地域でも、天候が急に変わると温度変化量は急激に変化する。そこで、例えば30分当たりの温度変化量を記憶しておき、その間に3℃の変化があった場合は、個体温度ピント補正を行うためのAF制御を実施する事で、精度の良い補正を行うことができる。
また、所定温度変化量はレンズの種別、変倍率に応じて変更してもよい。具体的には、単位温度あたりのピントずれ量が少ないレンズの種別や変倍率では、所定温度変化量を大きくする。単位温度あたりのピントずれ量が大きいレンズの種別や変倍率では、所定温度変化量を小さくする。これにより、個体温度ピント補正の実行回数を過不足なく最適化できる。
また、サーチ範囲についても、電子カムデータの傾き、レンズ鏡筒のチルト角度(傾き角度)や積算レンズ駆動回数に応じて変更してもよい。電子カムデータはズームレンズとフォーカスレンズの位置関係を示すものであるため、レンズが伸び縮みした時の影響度合いを推定できる要素の1つである。
図2からわかるように、ズーム位置と被写体距離によってカーブの傾きが異なる。カーブの傾きが大きいほど、少しの位置変化で合焦位置が大きく変化するため、サーチ範囲を広げた方が補正残りのリスクを減らすことができる。カーブの傾きが小さい場合は、サーチ範囲を狭めても補正が可能となる。レンズ鏡筒のチルト角度に関しては、レンズと鏡筒の向きが変化するため、熱のこもり方の変化や重力による影響を受ける。レンズ鏡筒の設計に合わせて、チルト角度毎のサーチ範囲をデータテーブルとして保持する事で、最適な補正を行う事ができる。積算レンズ駆動回数はレンズを駆動させる度にカウントアップしていくもので、通算でどの程度レンズを駆動させたかがわかる。レンズ鏡筒の設計や素材によっては、負荷の蓄積や経年劣化によってレンズのズレ量が大きくなるケースがある。そのようなレンズ種別の場合、積算レンズ駆動回数が一定数を超える毎に、サーチ範囲を広げていく事で、精度の良い補正を行う事ができる。T3はT2を中心としたサーチ範囲でのAF制御により合焦状態が得られたときのフォーカス位置を示す。ここでは、基本温度ピント補正に加えて至近(NEAR)側に個体温度ピント補正されたフォーカス位置を示している。T4はT3にフォーカス位置が移動した後にさらに5℃だけ温度が変化した(基準温度から10℃変化した)ときの基本温度ピント補正後のフォーカス位置を示す。T4から上下に延びる矢印は、T4を中心として個体温度ピント補正を行うためのAF制御におけるサーチ範囲を示す。T5はT4を中心としたサーチ範囲でのAF制御により合焦状態が得られたときのフォーカス位置を示す。基準温度から10℃変化した時点でのサーチ範囲は、基準温度から5℃変化した時点でのサーチ範囲に比べてNEAR側に変化している。
T1からT2への基本温度ピント補正量、T2からT3への個体温度ピント補正の補正量(以下、個体温度ピント補正の補正量という)、T3からT4への基本温度ピント補正量およびT4からT5への個体温度ピント補正量は、補正値蓄積部24にて蓄積される。以下の説明において、これら基本および個体温度ピント補正量の蓄積値を蓄積補正量という。
駆動リミットデータ保持部25は、個体温度ピント補正量の上下限値を駆動リミット量(移動リミット位置)のデータとして保持する。駆動リミット量は、撮像範囲内で設定された合焦状態を得たい領域(AF領域)が本来の合焦対象となる被写体からずれたような場合であっても、被写体移りを防ぐために用いられる。図10では、T101が個体温度ピント補正量の上限値を、T102がその下限値を示す。
T6は温度が基準温度から20℃だけ変化した時点での個体温度ピント補正量の上限値T101の付近のフォーカス位置を示している。このT6からサーチ範囲を制限したAF制御を行う場合には、NEAR側のサーチ範囲はT101で制限される。つまり、基準温度から20℃変化した時点でのサーチ範囲は、基準温度から10℃変化した時点でのサーチ範囲に比べてNEAR側に変化している。さらに、基準温度から20℃変化した時点でのNEAR側のサーチ範囲は、基準温度から10℃変化した時点でのNEAR側のサーチ範囲に比べて狭くなっている。駆動リミット量はズーム位置および合焦被写体距離のうち少なくとも1つに応じて可変とすることができる。これは被写体移りが発生するリスクが、被写体までの距離が遠ければ遠いほど高くなるためである。例えば4m先の被写体を基準として、サーチ範囲のリミットを最大15cmになるような深度で制限した場合、同様の深度で100m先の被写体を基準にすると最大40mのリミットになってしまう。そのため、ズーム位置と被写体距離に応じたリミットをテーブルで保持する事で、より精度の高い補正を行う事ができる。
このように、本実施例では、基準温度からの温度変化量に応じて制限したサーチ範囲内でフォーカスレンズ2を移動させるAF制御を行う。これにより、被写体移りを抑制しつつ、温度変化によるピントずれを良好に補正することができる。
なお、補正値蓄積部24での蓄積補正量は、ユーザの操作に応じてAF制御が行われた場合とパン/チルト動作が行われた場合にリセットされる。これはピント位置が変更されたと判断できるためである。
また、ズーム/フォーカス制御部16がサーチ範囲を制限したAF制御を行わなくてもよい場合がある。第1に、絞り値が所定絞り値より小さく小絞り状態にあり、個体ばらつきによるピントずれが被写界深度内でしか生じない場合である。第2に、撮像素子のゲインが所定レベルより高くて撮像信号のノイズ量が多く、AF精度が低い場合である。第3に、低コントラストの被写体を撮像したり何らかの障害物が撮像装置の前を遮ったりして、AF制御に用いるコントラスト評価値が所定評価値より低い場合である。
また、動きのない被写体を長時間監視するような場合には、前回AF制御を行った時点での温度を記憶しておき、その温度からの所定の温度変化を検出したときに再度AF制御を行うようにしてもよい。
図11を用いて、上述した基本温度ピント補正および個体温度ピント補正と電子カム曲線(電子カムデータ)との関係について説明する。横軸はズーム位置を、縦軸はフォーカス位置を示す。R1は被写体距離ごとの設計値データとして保持されている複数の電子カムデータのうちある1つの被写体距離に対応する電子カムデータ(以下、基準カムデータという)を示す。R2は基準カムデータR1に基本温度ピント補正を加えることで生成された電子カムデータ(以下、基本温度補正カムデータという)を示す。基本温度ピント補正量は、ズーム位置や被写体距離で異なるが、一般にはテレ側で大きく、ワイド側ほど小さくなる。R3は基本温度補正カムデータR2に個体温度ピント補正を加えることで生成された電子カムデータ(以下、個体温度補正カムデータという)を示す。
補正値蓄積部24は、テレ端以外の各ズーム位置で被写体距離ごとにサーチ範囲を制限したAF制御により個体温度ピント補正を行ったときの個体温度ピント補正量を、テレ端での補正量に換算したテレ換算補正量のデータとして保持する。そして、その保持したテレ端換算補正量から実際のズーム位置に応じた個体温度ピント補正量を算出する。このズーム位置に応じた個体温度ピント補正量は、テレ端と実際のズーム位置とでの温度ピント補正量の比をテレ換算補正量に乗じることで算出することができる。
なお、図2に示した電子カムデータから分かるように、ワイド端付近では至近側以外の被写体距離でのフォーカス位置が1つの位置に密集している。このため、ワイド端付近で至近側以外の被写体距離に対してAF制御を行うと、被写体移りが発生しやすい。したがって、ズーム倍率がテレ端とワイド端の間の所定ズーム倍率Lより小さい場合は、個体温度ピント補正を行わずに、基本温度ピント補正のみを行うようにしてもよい。これにより、基本および個体温度ピント補正を行いながらも、精度良くズームトラッキング制御を行うことができる。
図12のフローチャートには、ズーム/フォーカス制御部16が実施例1で説明したピント位置固定モードにおいて行うAF制御処理(フォーカス制御方法)の流れを示している。コンピュータであるズーム/フォーカス制御部16は、コンピュータプログラムとしてのフォーカス制御プログラムに従って本処理を実行する。
ステップS1201では、ズーム/フォーカス制御部16は、ピント位置固定モードが設定されているか否かを判定する。ピント位置固定モードが設定されていれば、ズーム/フォーカス制御部16はステップS1204に進む。一方、ピント位置固定モードが設定されていなければ、ズーム/フォーカス制御部16はステップS1202に進み、監視モニタ装置19を通じてユーザからピント位置固定モードの設定が指示されるまでステップS1201に戻る。ステップS1202においてピント位置固定モードの設定が指示されると、ズーム/フォーカス制御部16は、ピント位置固定モードを設定し、ステップS1203にて温度検出部22から現在の温度t1を取得する。そして、ステップS1204に進む。なお、START時点でピントが固定モードの場合、t1は撮像装置が起動した時の温度で初期化される。
ステップS1204では、ズーム/フォーカス制御部16は、温度検出部22から現在の温度t2を取得する。そして、ステップS1205では、ズーム/フォーカス制御部16は、S1203で取得した温度t1とS1204で取得した温度t2との差である温度変化量が所定温度以上か否かを判定する。所定温度は、例えば上述した5℃である。温度変化量が所定温度未満である場合は、ズーム/フォーカス制御部16はステップS1204に戻り、温度変化量が所定温度以上になるまで温度t2を取得し続ける。一方、温度変化量が所定温度以上である場合は、ズーム/フォーカス制御部16はステップS1206に進み、温度検出部22から現在の温度を再度取得してその温度で温度t1を更新する。そして、ステップS1207において、ズーム/フォーカス制御部16は、温度変化量に応じてサーチ範囲を制限する。このとき、ズーム/フォーカス制御部16は、補正値蓄積部24から蓄積補正量を取得するとともに、駆動リミットデータ保持部25から駆動リミット量を取得する。ズーム/フォーカス制御部16は、蓄積補正量にサーチ範囲の初期値を加算した駆動量が駆動リミット量を超える場合は、駆動量を駆動リミット量に制限するようにサーチ範囲を再設定する(狭める)。
次にステップS1208において、ズーム/フォーカス制御部16は、ステップS1207にて設定されたサーチ範囲で個体温度ピント補正のためのAF制御を実行する。そして、ステップS1209においてAF制御が完了したか否かを判定し、完了した場合はステップS1210に進む。
ステップS1210では、ズーム/フォーカス制御部16は、サーチ範囲を初期値に戻す。次に、ステップS1211において、ズーム/フォーカス制御部16は、AF制御によるフォーカス位置の補正量を補正値蓄積部24に伝える。補正値蓄積部24は、この補正量を蓄積補正値に加算することで蓄積補正量を更新する。そして、ズーム/フォーカス制御部16は、本処理を終了する。
本実施例によれば、レンズ鏡筒の温度変化によるピントずれが発生する場合において、ピントずれ量が一律でなくても、被写体移りを抑制しつつ良好にピントずれを補正することができる。
なお、本実施例では、ズームトラッキング制御とは別に温度ピント補正のためのAF制御を行う場合について説明した。しかし、図11を用いて説明したように電子カムデータを温度に応じて補正した個体温度補正カムデータを生成し、個体温度補正カムデータを用いて基本および個体温度ピント補正によるフォーカスレンズの移動を含むようにズームトラッキング制御を行ってもよい。
図13は、本発明による実施例4である撮像装置の構成を示している。本実施例の撮像装置は実施例3の撮像装置と同じ構成を有しており、実施例3の撮像装置と共通する構成要素には実施例3と同符号を付す。
本実施例の撮像装置には、温度補正設定装置30が有線または無線通信可能に接続されている。温度補正設定装置30はユーザが選択した温度ピント補正の方法(温度ピント補正モード)を通信部10を介してズーム/フォーカス制御部16に伝えて該選択された温度ピント補正モードをズーム/フォーカス制御部16(つまりは撮像装置)に対して設定する。温度補正設定装置30は、温度ピント補正モードの選択だけでなく、ズーム制御やAF制御等に関する設定をユーザに行わせるための装置である。なお、温度補正設定装置30が監視モニタ装置19に含まれてもよい。
図14は、温度補正設定装置30に表示される温度ピント補正モードの設定メニュー画面の例を示す。設定メニュー画面(選択手段)1401上では、複数の温度ピント補正モード(「温度変化時のフォーカス補正」)が選択できるようになっている。ここでは、複数の温度ピント補正モード(複数種類の温度ピント補正)として、「基準データによる補正」1402、「フォーカスサーチによる補正」1403、「基準データ+フォーカスサーチによる補正」1404および「補正しない」1405の4つが選択できる。
「基準データによる補正」が選択されると、ズーム/フォーカス制御部16は、実施例3で説明した基本温度ピント補正(第1の温度ピント補正)を行う。この補正モードは、個体ばらつきが少ない撮像装置を使用する場合や、絞りを常に小絞り状態にして撮像装置を使用する場合に選択される。
「フォーカスサーチによる補正」が選択されると、ズーム/フォーカス制御部16は、実施例3で説明した個体温度ピント補正(第2の温度ピント補正)を行う。この補正モードは、個体ばらつきが多い撮像装置を使用する場合や、絞りを常に開放状態にして撮像装置を使用する場合に選択される。
「基準データ+フォーカスサーチによる補正」が選択されると、ズーム/フォーカス制御部16は、基本温度ピント補正と個体温度ピント補正とを含む温度ピント補正(第3の温度ピント補正)を行う。
本補正モードでは基本温度ピント補正を行う分、「フォーカスサーチによる補正」と比べて個体温度ピント補正を実行する際の温度ピントずれが少ない。そのため、個体温度ピント補正のサーチ範囲を狭めてもよい。これにより、被写体移りを抑制しつつ温度ピントずれを良好に補正することができる。あるいは、個体温度ピント補正を実行する温度変化量を大きくしてもよい。これにより、個体温度ピント補正を実行する回数を削減でき、被写体移りの抑制、耐久向上が期待できる。
「補正しない」が選択されると、ズーム/フォーカス制御部16は、基本温度ピント補正も個体温度ピント補正も行わない。この補正モードは、絞りを常に開放側にする等して温度によるピントずれを無視できる条件で撮像装置を使用し、かつ撮像装置におけるフォーカス駆動の耐久性を考慮するような場合に選択される。
ユーザは温度ピント補正モードを選択した上で設定ボタン(「設定を保存」)1406を押す。これにより、温度ピント補正モードが確定し、確定した温度ピント補正モードの情報がズーム/フォーカス制御部16に送信される。ズーム/フォーカス制御部16は、受信した温度ピント補正モードに従って温度ピント補正を実行する。「基準データ+フォーカスサーチによる補正」が選択された場合は、図12で説明した全てのステップの処理を実行し、他の補正モードが選択された場合はそれぞれに必要のないステップの処理はスキップする。
図15のフローチャートには、温度補正設定装置30が撮像装置に対して温度ピント補正モードを設定する処理の流れを示している。コンピュータ(設定手段)を含む温度補正設定装置30は、コンピュータプログラムである温度補正設定プログラムに従って本処理を実行する。
ステップS1501において、撮像装置(以下、カメラという)との接続(通信)を確立する。そして、ステップS1502では、温度補正設定装置30は、カメラからレンズ情報を取得する。レンズ情報は、レンズ鏡筒が交換レンズである場合にこれがカメラに装着されているか否かを示す情報や、カメラまたは交換レンズに設けられた後述するフォーカスモード切替えスイッチにおけるMFモード/AFモードの設定を示す情報である。以下では、レンズ鏡筒が交換レンズである場合について説明する。
図16は、フォーカスモード切替えスイッチ1601を示している。1602はAFモードとMFモードを切り替えるための操作部である。操作部が「AF」1603にあればカメラはAFモードで動作し、「MF」1604にあればMFモードで動作する。
次に、ステップS1203において、温度補正設定装置30は、カメラから取得したレンズ情報に基づいて、交換レンズがカメラに装着されているか否かおよびフォーカス切替えスイッチがMFモードに設定されているか否かを確認する。交換レンズがカメラに装着されていない場合やフォーカスモード切替えスイッチがAFモードに設定されている場合は、温度補正設定装置30は、ステップS1506に進む。ステップS1506では、温度補正設定装置30は、温度ピント補正モード設定用のメニュー画面を非表示にして(つまりは温度ピント補正を行わない設定をして)、本処理を終了する。
AFモードが設定されている場合は、被写体の変化によってAF制御が再起動されるため、温度補正用のAF制御は基本的には不要になる。ただし、レンズの種類によってはAFモードでも温度ピント補正が必要な場合もあるため、温度ピント補正をMFモードでのみ実行するように制限する必要はない。また、MFモードをピント位置を固定するためのモードとして使用されるカメラまたは交換レンズでは、AFモードでのみ温度ピント補正を実行可能である場合もあるため、この場合はAFモードが設定されている場合にのみ温度ピント補正を行うようにしてもよい。
ステップS1503において交換レンズがカメラに装着され、かつフォーカスモード切替えスイッチがMFモードに設定されている場合は、温度補正設定装置30は、ステップS1504に進む。ステップS1504では、温度補正設定装置30は、その交換レンズが温度ピント補正モードの切替えに対応しているか否かを確認する。交換レンズが温度ピント補正モードの切替えに対応していない場合は、温度補正設定装置30はステップS1506を経て本処理を終了する。一方、交換レンズが温度ピント補正モードの切替えに対応している場合は、温度補正設定装置30はステップS1505に進み、温度ピント補正モード設定用のメニュー画面を表示する。
なお、交換レンズが上述した4つの温度ピント補正モードの一部(少なくとも1種類)にしか対応していない場合は、対応していない項目は非表示としたり選択不可を示すように表示したりする。
ステップS1507においてユーザが温度ピント補正モードを選択/確定すると、温度補正設定装置30は、確定した温度ピント補正モードをズーム/フォーカス制御部16に送信して確定した温度ピント補正モードをズーム/フォーカス制御部16に設定する。ズーム/フォーカス制御部16は、設定された温度ピント補正モードに従って温度ピント補正を実行する。これにより、交換レンズの温度変化によるピントずれが発生する場合に、設置環境やカメラの設定に合わせて最適な温度ピント補正を行うことができる。
本実施例は、実施例3同様、温度によるピントずれを補正するAF制御に関し、具体的には、個体温度ピント補正の精度向上や合焦時間短縮を行うものである。
実施例5における撮像装置の構成は実施例3と同様のため説明を省く。
実施例3の個体温度ピント補正において、AF駆動開始方向を既定の方向することもできるが、補正方向を推定できると、より好ましい方向からAF駆動を開始することができるため、短時間で高精度なAF制御が可能である。なお、本実施例で補正方向は、フォーカスレンズのAF制御開始位置を起点とした場合の合焦位置の方向である。
本実施例では、AF制御の方式として、フォーカスレンズをウォブリングさせながらコントラストが高くなる方向へ駆動させるウォブリング方式と、サーチ範囲の端から端まで駆動させ、コントラストが最大となる位置で停止させるスキャン方式とを例に考える。
図17は、補正方向と反対方向へフォーカスレンズを駆動した場合と補正方向へフォーカスレンズを駆動した場合のAF制御を、(a)(b)はウォブリング方式、(c)(d)はスキャン方式の場合について比較し示したものである。P1はAF制御開始位置を示し、P2は合焦位置を示す。
ウォブリング方式では、図17(a)に示すように補正方向と逆方向へAF駆動を開始した場合、反転動作が発生する。このため、合焦位置にフォーカスレンズを駆動しAF制御を終了までに時間がかかる。一方、図17(b)に示すように補正方向へAFの駆動を開始することができれば反転動作が発生することはないため、図17(a)の場合と比較してより短い合焦時間でAF制御を行うことができる。
スキャン方式では、図17(c)に示すように補正方向へAF駆動を開始した場合、スキャン終了後にスキャン終了位置(Near Limitに相当する位置)から合焦位置までフォーカスレンズを駆動する必要があるため、当該駆動に相当する時間の分AF制御終了までの時間がかかる。また合焦駆動の距離が長いほど、レンズの駆動特性によっては停止誤差が発生しやすくなる。一方、図17(d)に示すように補正方向と逆方向へAF駆動を開始するこができれば、スキャン終了位置から合焦位置までの距離をより短くすることができるため、合焦時間を短縮することができる。また、停止誤差が減少するため、より高精度にAF制御を行うことできる。また、総駆動量を抑えることができるため、耐久性向上にも寄与する。
以上説明したように、ウォブリング方式とスキャン方式とでは、補正方向に対してフォーカスレンズの駆動を開始すべき方向が異なる。そこで、本実施例では、ズーム/フォーカス制御部16がフォーカスレンズの駆動を開始する方向をAF制御の方式に応じて制御する。
図18は、個体温度ピント補正における補正方向を推定する方法を説明する図である。横軸は温度変化量[℃]、縦軸はフォーカス位置、T180は基本温度ピント補正におけるピント補正量を示す。P1はユーザが固定したピント位置に相当するフォーカス位置を示し、ここではその時点の温度を基準温度とする。P2、P3は温度がそれぞれ基準温度から+5℃、-5℃だけ変化し、個体温度ピント補正を開始する時点でのフォーカス位置を示す。P4、P5は温度が+5℃だけ変化したときの実際の合焦位置例を示し、P6、P7は温度が-5℃だけ変化したときの実際の合焦位置例を示す。図18(a)は基本温度ピント補正を行う場合、図18(b)は基本温度ピント補正を行わない場合を示す図である。
図18(a)では基本温度ピント補正を行うため、P2、P3は、T180に沿ったフォーカス位置に変化している。このとき温度ピントずれは最小限に抑えられている一方、P2からP4、P5への方向、またP3からP5、P6への方向が同一でないため、個体温度ピント補正を行うときの補正方向を推定することができない。
図18(b)では基本温度ピント補正を行わないため、P2、P3は、P1から変化していない。このとき温度ピントずれが発生する一方、P2からP4、またはP5への方向は同一である。また、P3からP5またはP6への方向は同一である。つまり、実際のフォーカス位置に対する合焦位置の方向が同一である。この特徴に基づいて、個体温度ピント補正時の補正方向を推定することができる。
そこで、本実施例では、基本温度ピント補正を行わず、固体温度ピント補正のための補正方向の推定を行う。
図19のフローチャートを用いて、本実施例の処理を説明する。なお、実施例3の図12と同様部分は同符号を付し、説明を省略する。
S1205で温度変化量が所定以上と判断された場合、S1901にてズーム/フォーカス制御部16が補正方向を推定する。補正方向は、温度t1と温度t2との差の符号(温度変化方向)と補正基準データ保持部23で持っている基準ピント補正量と、から推定できる。
補正方向の推定方法の一例を説明する。図18(b)で説明したように、実際のフォーカス位置(P3)に対する合焦位置の方向が同一である。具体的には、温度変化方向が低下の方向である場合(温度t1と温度t2との差の符号が-の場合)には、現在のフォーカス位置からFAR側(無限側)が合焦位置の方向となるような温度ピントずれが生じている。一方、温度変化方向が上昇の方向である場合(温度t1と温度t2との差の符号が-の場合)には、現在のフォーカス位置からNEAR側(至近側)が合焦位置の方向となるように温度ピントずれが生じている。そこで、本実施例では、温度変化方向が低下の方向である場合には、補正方向は無限側であるとズーム/フォーカス制御部16が判断する。温度変化方向が上昇の方向である場合には、補正方向は至近側であるとズーム/フォーカス制御部16が判断する。
続くS1902にて、S1901で推定した補正方向に基づき、S1208で実施される温度ピント補正AFの駆動開始方向を決定する。駆動開始方向は、ここでは、図17で説明した通り、AF制御方式に合わせた駆動開始方向になるように決定する。すなわち、ウォブリング方式であると判断された場合には、補正方向へとフォーカスレンズを駆動するようズーム/フォーカス制御部16が制御する。スキャン方式であると判断された場合には、補正方向へと反対方向へフォーカスレンズを駆動するようズーム/フォーカス制御部16が制御する。S1901以降は、実施例3の図12と同ステップをたどり、本処理を終了する。ただし、S1207で設定されるサーチ範囲は、推定した補正方向に応じて、変化させてもよい。すなわち、補正方向が無限側であると判断した場合には、無限方向へのサーチ範囲を大きく設定し、至近方向のサーチ範囲を小さく設定する。補正方向が至近側であると判断した場合には、無限方向へのサーチ範囲を小さく設定し、至近方向のサーチ範囲を大きく設定する。
以上説明したように、本実施例によれば、基本温度ピント補正を行わずに個体温度ピント補正を行う場合において、補正方向を推定し、当該推定に基づいてAF駆動方向を決定しフォーカスレンズを駆動する。これにより、個体温度ピント補正の精度向上することができる。また、合焦時間を短縮することができる。実施例4に記載の温度補正設定が「フォーカスサーチによる補正」となっている場合には、本実施例は有用である。
なお、温度補正設定によって本実施例を用いるか否かを決定してもよい。具体的には、「フォーカスサーチによる補正」が選択されている場合には本実施例を用い、「基準データ+フォーカスサーチによる補正」が選択されている場合には本実施例を用いない。
また、これまで基本温度ピント補正を行わない例について説明したが、基本温度ピント補正を弱めて実行しても良い。このように基本温度ピント補正と個体温度ピント補正を両立する場合、補正方向は温度t1と温度t2との差の符号(温度変化方向)と、補正基準データ保持部23が格納している基準ピント補正量から推定できる。基本温度ピント補正を弱めるほど、個体温度ピント補正時の補正方向の推定の確度は高くなる。このとき温度ピントずれと補正方向の確度はトレードオフの関係となるが、たとえば個体温度ピント補正を実行する温度変化量を小さくすることで、温度ピントずれを許容範囲としつつ、補正方向推定の確度を高めることができる。
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。