ところが、使用済み紙おむつを分解処理する場合、紙おむつを構成する防水材、表面材、吸収材等のパーツは接合剤(接着剤)によって接合されているため、これらの防水材、表面材、吸収材をパーツごとに物理的に分離することができない部分が発生してしまう。接合剤の接合力が強すぎると処理液と共に撹拌しても、防水材、表面材、吸収材を物理的に確実に分離することができず、防水材と表面材とが剥がれなかったり、表面材と吸収材とが剥がれなかったりすることがある。
このため、表面材との接合部分が剥がれて分離された防水材からはパルプを効率良く回収することができるが、表面材から剥がれることのない防水材は表面材や吸収材に接合したままとなり、処理液中にパルプが溶け出すことなく固形物として残り、処理液中から回収することができない。
また、前身頃と後身頃の両側部同士が接合剤(接着剤)で結合されたいわゆるパンツ型の紙おむつの場合、接合剤の結合力が強すぎると処理液によって接合剤が溶解せず、パンツ型の形状のまま処理液とともに撹拌されるため、防水材、表面材、吸収材を物理的に確実に分離することができない。
そこで、本発明は、使用済み紙おむつを処理し、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチック等を回収する際に、使用済み紙おむつを分解し易く、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチックの回収量を増やすことが可能な使用済み紙おむつの処理方法及び使用済み紙おむつの提供を目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の第1の態様は、使用済み紙おむつの処理方法であって、前記使用済み紙おむつを冷凍した状態で保管し、冷凍保管された使用済み紙おむつを素材ごとに分離する分離機内に投入し、該分離機内に処理液を供給し、前記分離機内で前記使用済み紙おむつと前記処理液とを所定時間撹拌し、前記使用済み紙おむつを、パルプ、プラスチック、その他の素材に分解処理することを特徴とする。
本発明の第2の態様は、前記使用済み紙おむつは、肌に接する表面材と、外側を覆うとともに防水する防水材と、前記表面材と前記防水材との間に設けられて尿を吸収する吸水材と、これらの表面材、防水材、吸水材を結合する接合剤とを備え、前記処理液を所定の温度に加熱した状態で前記分離機内に供給することで前記接合剤が溶解し、前記使用済み紙おむつが前記表面材、前記防水材、前記吸水材に物理的に分離されるとともに、前記表面材、前記防水材がパルプ、プラスチック、その他の素材に分解され、前記吸水材に吸収された水分を取り出すことを特徴とする。
本発明の第3の態様は、前記使用済み紙おむつ紙おむつは、-20℃~-60℃に冷凍保管されていることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、前記処理液は、30℃~80℃に加熱されていることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、前記処理液は、水と、石灰と、消毒液とを含むことを特徴とする。
本発明によれば、使用済み紙おむつを冷凍した状態で保管することで、接合剤で接着されている部分が冷凍乾燥され、分離機内で処理液とともに撹拌すると、接合剤によって接着されている使用済み紙おむつのパーツである表面材、防水材、吸水材が物理的に分離されて、表面材、防水材、吸水材を構成するパルプ、プラスチック、その他の素材に分解される。
これにより、使用済み紙おむつが、接合剤で接着されている表面材、防水材、吸水材等のパーツごとに物理的に分解され、各パーツに含まれるパルプ、プラスチックを分離することができ、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチック等を回収する際に、使用済み紙おむつを分解し易く、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチックの回収量を増やすことが可能となる。
以下、本発明の実施の形態に係る使用済み紙おむつの処理方法について説明する。本実施の形態に係る使用済み紙おむつの処理方法は、使用済み紙おむつを所定の温度で冷凍した状態で保管し、冷凍保管された使用済み紙おむつを素材ごとに分離する分離機内に投入し、この分離機内に処理液を供給し、分離機内で使用済み紙おむつと処理液とを所定時間撹拌し、使用済み紙おむつを、パルプ、プラスチック、その他の素材に分解処理する。
図1に示すように、冷凍車6等により冷凍された状態で、施設や病院等から回収された使用済み紙おむつは、使用済み紙おむつの処理施設1に搬送される。処理施設1には、冷凍保管庫2、処理装置3が設けられている。処理装置3は、分離機4と、選別機5とを備えている。そして、冷凍車6によって回収された使用済み紙おむつが、冷凍保管庫2に所定の温度T1で保管され冷凍された後に、処理装置3の分離機4内に投入される。所定の温度T1は、例えば-20℃~-60℃である。
分離機4は、外胴分離槽と、この外胴分離槽内に回転可能に設けられた内胴分離槽と、内胴分離槽内に、処理液を供給する供給手段と、内胴分離槽を外胴分離槽内で回転駆動させる駆動手段とで概略構成されている。内胴分離槽内には、冷凍保管庫2内で保管されている冷凍された使用済み紙おむつと、所定の温度T2に加温された処理液が投入され、回転することで冷凍された使用済み紙おむつと処理液とを撹拌する。所定の温度T2は、例えば30℃~80℃である。
本実施の形態の紙おむつは、図2(a)に示すように、前身頃7と後身頃8とが両サイドが接合されたパンツ型の紙おむつ9、図2(b)に示すように、前身頃7と後身頃8とが接合されていないテープ型の紙おむつ10とが用いられている。このような紙おむつ9、10は、図3に示すように、防水材11と、表面材12と、漏れ防止の立体ギャザー13と、吸水材14とで構成されている。これらの防水材11、表面材12、吸水材14、立体ギャザー13は、接合剤15によってそれぞれ接合されている。接合剤15としては、例えば、モレスコメルト(株式会社MORESCO社製)等のホットメルト接着剤が用いられている。
吸水材14は、吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18とで構成されており、これらの吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18も、接合剤15によってそれぞれ接合されている。また、パンツ型の紙おむつ9は、前身頃7と後身頃8とが両サイドで接合剤15により接合されている。紙おむつを分解し、紙おむつを構成する素材に分解するには、分離機4内に処理液とともに使用済み紙おむつを投入して撹拌することで分解する。
この場合、接合剤によって接合されている防水材11、表面材12、吸水材14は、パーツごとに物理的に分解され、吸水材14は、吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18がパーツごとに分解されるとともに、防水材11、表面材12、吸水紙16、綿状パルプ17に含まれるパルプと、プラスチックと、その他の素材に分離される。なお、防水材11、表面材12、立体ギャザー13、吸水材14が物理的に分解される状態で、防水材11、表面材12、立体ギャザー13、吸水材14に含まれるパルプ、プラスチックが分離される。
ここで、用いられる処理液は、水と、石灰と、消毒液とで構成されている。また、処理液は、30℃~80℃に加温された状態で冷凍保存された使用済み紙おむつとともに分離機内に投入される。分離機の内胴分離槽内では、冷凍保存されて冷凍状態の使用済み紙おむつが加温された処理液とともに撹拌されて解凍される。
このとき、使用済み紙おむつは、冷凍保存されて冷凍状態となっているので、分離機により撹拌されると防水材11、表面材12、立体ギャザー13、吸水材14の各接合部分が分離され各パーツごとに分解される。また、撹拌により接合剤により接合されている吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18が各パーツごとに分解される。そして、内胴分離槽内での撹拌により、処理液が防水材11、表面材12、立体ギャザー13、吸水材14に染み渡り、処理液中にパルプが溶解する。この場合、プラスチック、その他の素材は処理液中には溶解しないので、固形物として内胴分離槽内に存在している。
分離機4によって使用済み紙おむつを分解した後に、処理液を内胴分離槽内から排出し、処理液中に溶解し、混入しているパルプをパルプ回収装置19によって回収する。パルプを回収した後の廃液は廃液回収装置20により回収され、液体部分で液体肥料が製造され、固形部分で固形肥料及びバイオマス燃料が製造される。
また、パルプ回収装置19により回収されたパルプと、廃液回収装置20により回収された廃液はメタン発酵装置25に供給され、メタンガスを生成する発酵原料となる。なお、分離機4で使用済み紙おむつを分解処理し、分離機4から排出される処理液(廃液)をそのままメタン発酵装置25に供給しても良い。
分離機4の内胴分離槽内に残った固形物であるプラスチックは、選別機5に送られて乾燥され、プラスチックに付着しているパルプと分離される。プラスチックから分離されたパルプはパルプ回収装置21により回収される。回収されたパルプは、回収されたプラスチック24とともに固形燃料22の原料や段ボールの原料となる。
選別機5は、外胴選別槽と、この外胴選別槽内に回転可能に設けられた内胴選別槽と、外胴選別槽内に乾燥風を供給する乾燥風供給装置とで構成されている。乾燥風が供給される外胴選別槽内で内胴選別槽が回転することで、プラスチックと、プラスチックに付着しているパルプとが乾燥されて、プラスチックとパルプとに選別される。
次に、冷凍保存されて冷凍された使用済み紙おむつの分解実験結果について説明する。本実験は、使用済み紙おむつ(冷凍紙おむつ)を冷凍・解凍後に、処理液によって分解処理した場合と、冷凍しない使用済み紙おむつ(通常紙おむつ)を処理液によって分解処理した場合との比較である。
以下の条件にて、使用済み紙おむつを冷凍した場合の冷凍紙おむつと、冷凍しない通常の場合の通常紙おむつを同条件で消毒・分解・洗浄処理を行い、分解開始から分解状態を確認し、分解完了までの時間を計測した。
上記の表1のように、分離機への使用済み紙おむつの投入重量は280Kg、分解剤(処理液)の投入量は12Kg、内胴分離槽内への処理液の給水方法は、上部から噴射する。また、内胴分離槽を回転することによる撹拌は、本洗、すすぎ1、すすぎ2とした。本洗は、温度85℃、処理時間は35分とし、濯ぎ1、2は何れも常温で、処理時間は4分とした。また、選別機において乾燥させるプラパルプ乾燥は、76℃、パルプの乾燥は82℃とした。
分解が開始する分解時間と、分解が完了する本洗処理時間の結果
上記の表2に記載したように、本洗を開始すると、通常の紙おむつの分解が開始するのは15分であり、冷凍の紙おむつの分解が開始するのは12分であった。また、通常の紙おむつは、本洗処理を行って35分で分解が完了し、冷凍の紙おむつは25分で分解が完了した。したがって、冷凍の紙おむつは、冷凍しない通常紙おむつに比較して10分早く分解を完了することができる。
なお、ここでの分解の状態は目視で判定し、分解とは、接合剤で接着されている表面材、防水材、吸水材等のパーツごとに物理的に分解されることであり、吸水材14が、吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18に物理的に分解されることである。
次に、冷凍紙おむつを上記の条件で分解処理し、回収したパルプの細菌分析結果を以下に示す。
以上説明したように、本実施の形態によれば、使用済み紙おむつを冷凍した状態で保管することで、接合剤15で接着されている部分が冷凍乾燥され、分離機4内で所定の温度に加温された処理液とともに撹拌すると、接合剤15によって接着されている使用済み紙おむつの表面材12、防水材11、吸水材14、立体ギャザー13がパーツごとに物理的に分解されて、表面材、防水材、吸水材を構成するパルプ、プラスチック、その他の素材に分離される。
これにより、使用済み紙おむつが、接合剤15で接着されている表面材12、防水材11、吸水材14等のパーツごとに物理的に分解され、各パーツに含まれるパルプ、プラスチックを分離することができ、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチック等を回収する際に、使用済み紙おむつを分解し易く、リサイクル資源としてのパルプ、プラスチックの回収量を増やすことが可能となる。
また、本実施の形態によれば、裁断機等により使用済み紙おむつを破砕・破砕することなく、各パーツ(防水材11、表面材12、立体ギャザー13、吸水材14、吸水紙16、綿状パルプ17、高分子吸水材18)を物理的に分解し、処理液により各パーツを溶解し、各パーツに含まれるパルプ、プラスチック、その他の素材を回収するので、マイクロプラスチックの発生が抑制され、廃液中にもマイクロプラスチックが含まれることがない。
さらに、本実施の形態によれば、両サイドが接合剤15により接合されたパンツ型の使用済み紙おむつを冷凍乾燥することで、両サイドの接合状態を分離し、展開状態の使用済み紙おむつとすることができるので、使用済み紙おむつを各パーツごとに確実に分解処理することができ、パルプを効率良く回収することができる。
また、本実施の形態によれば、冷凍乾燥した際に接合力が弱くなる接合剤を用いることにより、各パーツごとに分解する分解時間を短縮することができるので、使用済み紙おむつの分解処理時間を短縮することができ、使用済み紙おむつの処理コストを低減することが可能となる。
また、本実施の形態によれば、冷凍乾燥した際に接合力が弱くなる接合剤を用いることで、リサイクルし易い紙おむつを提供することが可能となり、使用済み紙おむつから回収したパルプ、プラスチックをリサイクル資源として活用することで、循環型社会を構築することが可能となる。
また、本実施の形態によれば、使用済み紙おむつを冷凍保管庫2により保管することで、臭気の発生や、菌の増殖を抑制することができ、使用済み紙おむつの処理施設の周囲の環境を害することがない。
上述の通り、本発明の実施の形態を開示したが、当業者によって本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が請求項に含まれることが意図されている。